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2015・2016年度 日本経済の見通し(改訂)

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2015・2016年度 日本経済の見通し(改訂)
平成27年11月19日
2015・2016年度
~
日本経済の見通し(改訂)
10~12月期以降は、民間需要の増加により、プラス成長を辿る ~
富国生命保険相互会社(社長 米山 好映)は、2015・2016年度の経済見通しを改訂しました。
【実質GDP成長率予測】
2015年度
+0.9%(前回+1.1%)、2016年度
+1.3%(前回+1.3%)
○ 7~9月期は2四半期連続のマイナス成長
2015年7~9月期の実質GDP成長率は、前期比▲0.2%、年率▲0.8%と2四半期連続のマイナ
4~6月期の実質GDP成長率は、前期比年率▲1.3%と3四半期連続でマイナス成長となった。
ス成長となった。在庫調整が進捗したことで在庫投資が成長率を▲0.5ポイント押し下げ
日本経済は、震災後の落ち込みから急速に立ち直っていることで、想定されたよりもマイ
たほか、設備投資は、中国経済に対する先行き懸念の強まりを背景に企業は投資を手控え
ナス幅は小幅となった。サプライチェーンの修復につれて、自動車を中心に生産活動は上
たとみられ、2四半期連続の減少となった。一方、食料品などの値上げによる家計の節約
向き、それに伴い、輸出も前月比で増加に転じている。また、自粛ムードが和らぐにつれ
志向が続いたものの、猛暑効果などがみられたことで個人消費は増加に転じ、住宅投資は、
て、薄型テレビなどの耐久消費財にも動きがみられ、個人消費についても上向いている。
相続税対策としての貸家需要の高まりを映して3四半期連続の増加となった。また、4~6
月期に大幅減となった輸出は2四半期ぶりに増加に転じた。
○ リバウンド局面となる7~9月期は、大幅なプラス成長が見込まれ、その後も、日本経済は
10~12月期以降は、民間需要の増加により、プラス成長を辿る
上向きの動きが続くだろう。想定を上回る早さで生産活動は正常化に向かい、懸念してい
10~12月期以降は、民間需要の増加により、プラス成長を辿ると見込んでいる。雇用者報
た雇用環境の悪化は回避できると考えている。その中、復旧・復興に係る需要も引き続き
酬の増加が続くとみられるなか、原油安が光熱費などの負担を和らげることで消費者マイ
顕在化することで、内需は堅調に推移すると見込んでいる。一方、金融資本市場の混乱に
ンドは持ち直し、個人消費は安定するだろう。また、住宅投資は、政府の住宅購入支援策
より、欧米を中心に海外経済は減速感が強まるとみられ、海外需要は減退すると見込まれ
を下支えに底堅く推移するだろう。設備投資は、当初の企業の計画値を下回るものの、中
る。それにより、輸出は供給制約がほぼ解消するものの、年度下期に停滞するだろう。こ
国経済は最悪期を脱する兆しがみられるなか、企業マインドが幾分回復することで既往の
のように足元の内需が急回復する一方、外需の先行きには陰りがみられるため、2011年度
受注増が顕在化すると見込んでいる。一方、海外需要については、欧米先進国が緩やかな
の実質GDP成長率の予測を+0.3%と5月時点の前回予測を据え置いた。
回復基調を維持するものの、新興国は弱い動きが続き、輸出の伸び悩みが続くだろう。な
お、上半期実績の下振れを受けて、2015年度の実質GDP成長率は+0.9%と前回予測から下
方修正している。2016年度については、新興国経済の減速に歯止めがかかるなか、緩やか
な持ち直しが継続し、年度末にかけて2017年4月の消費増税を睨んだ駆け込み需要が加わ
ることで成長率を高めるとの見方を変えておらず、前回予測を据え置いている。
○お問い合せ
富国生命保険相互会社
もりざね
担当:財務企画部 森実 潤也、大野 俊明
〒100-0011東京都千代田区内幸町2-2-2
TEL (03)3593-6813
(090)6493-3334
http://www.fukoku-life.co.jp
[email protected]
図表1.2015・2016年度 経済見通し
(前年比、%)
2014
2015年度予測
年度
実績
前回
上期
下期
(前期比)
名目国内総生産(兆円)
実質国内総生産(兆円)
間
需
490.8
501.9
1.6
2.3
上期
2015年8月
時点
下期
(前期比)
501.9
504.3
513.7
1.2
0.3
2.8
2.4
2.1
0.2
531.9
539.6
500.5
512.3
513.4
525.9
530.6
529.2
531.8
537.3
534.9
▲ 0.9
0.9
0.3
0.5
1.1
1.3
0.6
0.9
需
▲ 1.5
0.9
0.4
0.2
1.2
1.3
0.5
0.9
要
▲ 1.7
0.7
0.2
0.3
1.0
1.2
0.6
0.7
▲ 0.1
0.7
0.6
1.6
0.5
1.5
内
民
2016年度予測
民
間
最
終
消
費
▲ 3.1
0.6
民
間
住
宅
投
資
▲11.6
4.4
4.4
3.1
6.8
1.1
▲ 0.5
0.3
民
間
設
備
投
資
0.5
1.5
▲ 0.7
3.0
3.9
3.6
1.7
1.1
要
0.2
0.2
0.2
▲ 0.1
0.1
0.0
▲ 0.0
0.1
費
0.4
1.3
0.9
0.2
0.9
0.8
0.4
0.5
公 的 固 定 資 本 形 成
2.0
▲ 0.5
1.2
▲ 3.1
▲ 0.7
▲ 3.5
▲ 2.5
0.4
財貨・サー ビス の純 輸出
0.6
0.0
▲ 0.2
0.0
▲ 0.1
0.1
0.0
0.0
財貨・サービ スの 輸出
7.9
1.3
▲ 2.1
2.5
0.6
4.6
1.3
4.0
財貨・サービ スの 輸入
3.6
1.4
▲ 1.1
2.7
1.2
4.9
1.3
4.2
公
政
的
府
需
最
終
消
注1.実質値は2005暦年連鎖価格
注2.内需、民間需要、公的需要、財貨・サービスの純輸出はGDPに対する寄与度
(主な経済指標と前提条件)
鉱 工 業 生 産 指 数
▲ 0.4
0.6
▲ 1.3
2.8
1.5
4.4
1.5
3.0
国 内 企 業 物 価 指 数
※
2.8
▲ 2.7
▲ 2.9
▲ 2.5
▲ 2.0
0.6
0.1
1.2
消 費 者 物 価 指 数
※
2.9
0.4
0.3
0.5
0.4
1.2
1.1
1.3
消費者物価(除く 生鮮 ) ※
2.8
0.2
0.0
0.4
0.2
1.2
1.1
1.3
貿 易 収 支 ( 兆 円)
▲ 6.6
▲ 1.9
▲ 0.4
▲ 1.5
▲ 2.4
▲ 2.8
▲ 0.8
▲ 2.0
経 常 収 支 ( 兆 円)
7.9
16.0
8.7
7.3
16.2
16.2
8.9
7.3
名 目 賃 金 指 数
※
0.5
0.4
▲ 0.1
0.9
0.7
1.0
0.9
1.0
完 全 失 業 率 ( % )
3.5
3.4
3.4
3.4
3.3
3.1
3.2
3.1
住宅 着工 戸数 ( 万戸)
88.0
93.8
93.4
94.1
96.0
91.3
91.7
90.9
為替レート(¥/$)
109.9
122.6
121.8
123.3
123.8
124.0
124.0
124.0
($/b)
90.7
57.0
58.9
55.0
58.4
61.4
59.8
63.0
米国実質成長率(年率)
2.4
2.4
1.8
2.4
2.4
2.5
2.5
2.5
中 国 実 質 成 長 率
7.4
6.9
7.0
6.8
6.9
6.6
6.7
6.5
原油価格
※
注1.原油価格は円ベースの入着価格を為替レート(月中平均、インターバンク中心相場)でドル換算
注2.米国・中国GDPは暦年ベースの成長率
注3.※印がついた指標の半期は原系列(前年比伸び率)、それ以外は季節調整値(前期比伸び率)
-1-
◇日 本 経 済 の現 状 と見 通 し
○7~9月 期 の実 質 GDP
11 月 16 日 に 発 表 さ れ た 2015 年 7
~ 9 月 期 の 一 次 QE に よ る と 、 実 質
GDP 成 長 率 は 前 期 比 ▲ 0.2% ( 年 率 換
算 ▲ 0.8% )と 2 四 半 期 連 続 の マ イ ナ ス
成 長 と な っ た( 図 表 2)。個 人 消 費 は 増
図表2.実質GDP成長率の寄与度分解
(前期比、%)
4.0
3.0
1.0
0.3
-0.3 -0.2 -0.2
-2.0
たことで在庫投資がマイナスに寄与し
-4.0
となった。一方、輸出が増加に転じた
1.1
-0.4
-1.0
-3.0
国 内 需 要 の 寄 与 度 は 同 ▲ 0.3 ポ イ ン ト
1.2
0.6
0.6
0.0
加に転じたものの、在庫調整が進捗し
たほか、設備投資の減少などにより、
1.3
2.0
民間最終消費
民間在庫投資
公的需要
実質成長率
-5.0
民間設備投資
純輸出
民間住宅投資
-2.0
-6.0
08
09
10
11
12
(暦年四半期)
13
14
15
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」
こ と で 、 外 需 は 同 + 0.1 ポ イ ン ト と な っ た 。 名 目 GDP 成 長 率 は 同 + 0.0% ( 年 率 換 算
+ 0.1% )と 、原 油 安 に よ る 輸 入 品 価 格 の 下 落 に よ り 成 長 率 が 押 し 上 げ ら れ た こ と で プ
ラ ス を 維 持 し た 。実 質 GDP を 需 要 項 目 別 に み る と 、民 間 最 終 消 費 は 同 0.5% 増 と 一 部
に 猛 暑 効 果 が み ら れ た こ と も あ り 、2 四 半 期 ぶ り の 増 加 と な っ た 。住 宅 投 資 は 同 1.9%
増 と 相 続 税 対 策 と し て の 貸 家 需 要 が 堅 調 に 推 移 し 3 四 半 期 連 続 で 増 加 し た も の の 、設
備 投 資 は 同 1.3% 減 と 2 四 半 期 連 続 の 減 少 と な っ た 。 公 的 需 要 に つ い て は 、 公 的 固 定
資 本 形 成 が 同 0.3% 減 と 2 四 半 期 ぶ り の 減 少 と な っ た 一 方 、政 府 消 費 は 同 0.3% の 増 加
と な っ た 。外 需 に つ い て は 、輸 出 が 同 2.6% 増 加 し た も の の 、輸 入 が 同 1.7% の 増 加 に
とどまったことで、外需はプラス寄与となった。
7~ 9 月 期 が マ イ ナ ス 成 長 と な っ た 要 因 は 、在 庫 投 資 の 押 下 げ が 大 き か っ た が 、金 融
資本市場の混乱も影響している。前回予測から足元までの金融資本市場の動向をみる
と 、中 国 経 済 の 先 行 き 不 透 明 感 な ど か ら 日 経 平 均 株 価 が 急 落 し 一 時 1 万 7 千 円 を 割 る
な ど 不 安 定 化 し た 。 海 外 商 品 市 況 に つ い て は 、 WTI 原 油 価 格 は 40 ド ル 台 の 低 位 で の
推 移 が 続 い て い る 。 そ の な か 、7~ 9 月 期 の 個 人 消 費 は 増 加 に 転 じ た も の の 、8 月 の 猛
暑 効 果 と い う 追 い 風 が あ っ た に も か か わ ら ず 、 4~ 6 月 期 に 同 0.6% 減 と な っ た 後 と し
ては、力強さを欠く動きとなった。食料品などの値上げによる家計の節約志向が続く
なか、株安などが消費者マインドの低下につながった。また、設備投資については、
堅調な企業収益を背景に設備投資計画は高い数値が示されていたものの、中国経済の
先行き不透明感などから実際の設備投資を先送りする動きが広がったとみられる。今
後 の 日 本 経 済 に つ い て は 、民 間 需 要 の 増 加 に よ り 、プ ラ ス 成 長 を 辿 る と 見 込 ん で い る 。
雇用者報酬の増加が続くとみられるなか、原油安が光熱費などの負担を和らげること
で消費者マインドは持ち直し、個人消費は安定するだろう。また、住宅投資は、政府
の住宅購入支援策を下支えに底堅く推移するだろう。設備投資は、当初の企業の計画
値を下回るものの、中国経済は最悪期を脱する兆しがみられるなか、企業マインドが
幾分回復することで既往の受注増が顕在化すると見込んでいる。一方、海外需要につ
いては、欧米先進国が緩やかな回復基調を維持するものの、新興国は弱い動き続き、
輸出の伸び悩みが続くだろう。
なお、主要な需要項目については以下の通り。
-2-
○個 人 消 費 は、安 定 すると見 込 む
雇 用 環 境 は 改 善 傾 向 と な っ て い る 。 9 月 の 有 効 求 人 倍 率 は 前 月 比 + 0.01 ポ イ ン ト の
1.24 倍 と 求 人 数 が 求 職 者 数 を 大 き く 上 回 り 、約 24 年 ぶ り の 高 水 準 ま で 上 昇 す る な ど 、
労働需給は引き締まった状況が続いている。就業者数(季節調整値)は、4 月に一時
的に減少したものの、その後は増加
図表3. 就業者数と失業理由別失業者
基 調 に 復 し て お り 、 9 月 も 6,399 万
(万人)
(万人)
6,400
120
人 と 前 月 差 24 万 人 増 加 し て い る( 図
自発的な離職
表 3)。完 全 失 業 率 に つ い て は 、良 好
100
な求人環境を映してより良い職を求
80
6,380
6,360
6,340
非自発的な離職
め自発的に離職する者が増加してい
6,320
60
6,300
ることもあって、このところ横ばい
40
圏の推移が続いているものの、9 月
6,280
6,260
が 3.4% と 依 然 低 水 準 を 維 持 し て い
20
る。このように雇用環境は景気の持
就業者数(右目盛)
6,240
0
6,220
13/1
ち直しが足踏みするなかでも改善傾
13/4
13/7
13/10
14/1
14/4 14/7
(月次)
14/10
15/1
15/4
15/7
(資料)総務省「労働力調査」
(備考)失業理由別失業者は富国生命による季節調整値
向となっている。今後も雇用環境は
緩 や か に 改 善 す る だ ろ う 。 日 銀 短 観 の 雇 用 人 員 判 断 DI を み る と 、 製 造 業 、 非 製 造 業
ともに人手不足感は強く、将来を見据えて企業は正社員を確保する動きを続けるとみ
られる。また、高齢者の定年後の継続雇用や女性の労働参入により非正規社員につい
ても増加基調が続くだろう。生産年齢人口が減少するなか、今後も労働需給は一層引
き締まっていくだろう。このような労働需給の引き締まりを映して、所得は増加基調
と な っ て い る 。 9 月 の 一 人 当 た り 現 金 給 与 総 額 に つ い て は 前 年 比 0.6% 増 と 3 ヵ 月 続
け て プ ラ ス と な っ た 。ま た 、基 本 給 に 当 た る 所 定 内 給 与 は 、同 0.4% 増 と 2015 年 春 闘
の ベ ー ス ア ッ プ を 反 映 し 7 ヵ 月 連 続 の プ ラ ス と な る な ど 増 加 傾 向 と な っ て い る 。一 方
で、各種調査をもとに増加が期待された夏季賞与については、毎月勤労統計調査の特
別 集 計 結 果 で み る と 同 2.8% 減 と 2 年 ぶ り に 減 少 に 転 じ 、予 想 外 に 弱 い 結 果 と な っ た 。
要因としては、賞与支給対象外の非正規労働者が増加したことに加え、サンプル事業
所の入替も少なからず影響していると考えられ、数字が示すほど夏季賞与の実態が悪
かったわけではないだろう。今後に
ついては、現金給与総額は前年比プ
図表4.実質総賃金の推移
(%)
6.0
ラスでの推移が続くと想定している。
ベアの効果が年度を通じて現れるこ
4.0
とから、給与は安定した伸びが続く
2.0
ことが見込まれる。また、冬季賞与
0.0
については、経団連による大手企業
-2.0
の年末賞与・一時金の妥結結果の第
1 回 集 計 で は 同 3.13% 増 と な っ た こ
とも踏まえ、前年並みの伸びとなる
ことを想定している。ただし、毎月
勤労統計上は前述した夏季賞与と同
様に賞与支給対象外の非正規労働者
見通し
実質総賃金
-4.0
名目総賃金
消費者物価指数
-6.0
-8.0
07
08
09
10
11
12
(暦年四半期)
(資料)総務省、厚生労働省などにより富国生命作成
(備考)総賃金は、現金給与総額×雇用者数で算出している
13
14
15
16
の増加などによる押下げが想定され、その伸びは抑えられる可能性があろう。なお、
-3-
実 質 賃 金 に つ い て は 、 7~ 9 月 期 に 前 年 比 0.3% 増 と プ ラ ス に 転 じ て お り 、 先 行 き に つ
いても消費者物価は当面弱い動きが見込まれることから、実質賃金は前年を上回って
推 移 す る だ ろ う 。ま た 、雇 用 者 数 の 増 加 も 加 わ り 、実 質 総 賃 金( 実 質 賃 金 ×雇 用 者 数 )
は 着 実 に 増 加 し て い く だ ろ う ( 図 表 4)。
個 人 消 費 は 、一 部 に 猛 暑 効 果 も み ら れ 、緩 や か な 持 ち 直 し に 転 じ て い る 。7~ 9 月 期
の 民 間 最 終 消 費 支 出 は 前 期 比 0.5% 増 と 2 四 半 期 ぶ り の 増 加 と な っ た 。 家 計 最 終 消 費
支出の内訳をみると、衣服などの半耐久財、耐久財の伸びが高くなったほか、食料品
などの非耐久財、サービスも増加した。食料品などの値上げによる家計の節約志向が
続 く な か 、8 月 の 猛 暑 に よ り エ ア コ ン や 夏 物 衣 料 な ど の 消 費 が 喚 起 さ れ た こ と に 加 え 、
シ ル バ ー ウ ィ ー ク の 日 並 び の 良 さ な ど も 押 上 げ 要 因 と な っ た 。も っ と も 、4~ 6 月 期 の
減少の後としては、金融資本市場の不安定化などによる消費者マインドの悪化が重石
となり、個人消費の戻りは力強さを欠いている。今後の個人消費については、安定す
ると見込んでいる。前述の通り、雇用・所得環境が良好さを維持するなか、原油安に
よる電気代、ガス代の値下げに加え、冬場に消費が増える灯油代の値下げなどを受け
て、家計は実質購買力の回復を実感していくだろう。所得環境の改善の恩恵を直接受
けない年金受給者においても、こうした光熱費の負担軽減が消費者マインドの改善に
寄与するだろう。このような状況のもと、株価回復も加わって消費者マインドが上向
くことで、個人消費は安定すると見込んでいる。代表的な耐久財である乗用車の販売
台数は、4 月の軽自動車税増税の影響もあり低迷したが、夏場以降は増加傾向となる
な ど 底 打 ち の 兆 し が み ら れ る 。先 行 き に つ い て は 人 気 車 種 の 新 車 投 入 効 果 も 期 待 で き 、
持 ち 直 し が 続 く だ ろ う 。 な お 、 2016 年 度 末 に か け て は 、 2017 年 4 月 の 消 費 税 率 引 上
げにともなう駆け込み需要が消費を押し上げることが想定される。
○新 設 住 宅 着 工 戸 数 は一 旦 緩 やかに水 準 を落 とす動 きに
住宅投資は緩やかな増加基調となっている。駆け込み需要の反動減の影響が薄れる
な か 、 7~ 9 月 期 の 住 宅 投 資 は 前 期 比 1.9% 増 と 3 四 半 期 連 続 の 増 加 と な っ た 。 住 宅 取
得 等 資 金 に 係 る 贈 与 税 の 非 課 税 措 置 の 拡 充 や 、フ ラ ッ ト 35S の 金 利 引 下 げ 幅 の 拡 大 の
ほか、省エネ住宅に関するポイント
図表5.新設住宅着工戸数の推移
制度などの効果が押上げ要因となっ
た。住宅投資に先行して動く新設住
(年率、万戸)
(年率、万戸)
50
110
100
宅 着 工 戸 数 は 、7~ 9 月 期 は 年 率 91.5
45
万戸と 4 四半期ぶりに減少に転じた
40
80
( 図 表 5)。利 用 関 係 別 に み る と 、分
35
70
譲 住 宅 は 7~ 9 月 期 が 前 期 比 17.3%
30
減 と 、4~ 6 月 期 に マ ン シ ョ ン を 中 心
25
に大幅増となった反動もあり減少に
転 じ 、 持 家 も 同 2.9% 減 と な っ た 。
一 方 、貸 家 に つ い て は 同 3.3% 増 と 4
四半期連続で増加し、相続税改正を
90
60
50
40
30
20
15
持家
貸家
分譲住宅
住宅着工(右目盛)
20
10
10
0
10
11
12
13
14
15
(暦年四半期)
(資料)国土交通省「住宅着工統計」
受けた富裕層による相続税対策としての貸家建設需要を背景に堅調に推移している。
今 後 の 新 設 住 宅 着 工 戸 数 は 政 策 効 果 の 後 押 し に よ り 、10~ 12 月 期 は 増 加 に 転 じ 、そ の
後は緩やかに水準を落としていくと見込んでいる。貸家については、引き続き富裕層
-4-
による相続税対策としての需要を背景に、堅調に推移するだろう。また、持家と分譲
住 宅 は 、雇 用 ・ 所 得 環 境 が 良 好 さ を 維 持 す る な か 、フ ラ ッ ト 35S の 金 利 引 下 げ や 贈 与
税の非課税措置などが引き続き下支えとなるだろう。ただし、省エネ住宅エコポイン
ト は 10 月 21 日 を も っ て 終 了 し て お り 、締 め 切 り 間 際 に 増 加 し た 申 込 み 分 が 今 後 着 工
さ れ る こ と で 10~ 12 月 期 の 新 設 住 宅 着 工 は 増 加 に 転 じ る と 見 込 む も の の 、 そ の 後 は
一旦水準を落としていくと想定している。当面の懸念材料としては今般発覚した杭打
ち デ ー タ 偽 装 問 題 が 挙 げ ら れ る 。2005 年 の 耐 震 偽 装 問 題 で は 、そ の 後 2007 年 に 建 築
基準法が一部改正され、建築確認が厳格化されたことで審査が大幅に遅延し住宅着工
の急減につながった。今回も耐震性・安全性に対する不安心理から、マンション購入
を手控える動きが生じ、不動産会社がマンション供給に慎重になる可能性がある点に
は 留 意 が 必 要 だ ろ う 。 な お 、 2016 年 度 は 、 2017 年 4 月 の 消 費 税 率 再 引 上 げ に 向 け た
駆け込み需要が想定されるものの、これまでの需要先食いの影響もあり、その規模は
前回ほど大きなものにはならないと見込んでいる。
○設 備 投 資 は増 加 するものの、伸 びは限 定 的
設 備 投 資 は 、弱 含 ん で い る 。7~ 9 月 期 の 実 質 設 備 投 資 は 前 期 比 1.3% 減 と 、1~ 3 月
期に大幅増となった後、2 四半期連続の減少となった。企業収益が引き続き堅調に推
移 す る な か 、日 銀 短 観 9 月 調 査 に よ
図表6.設備投資計画(大企業全産業)
る 2015 年 度 の 大 企 業 の 設 備 投 資 計
画 は 前 年 比 10.9% 増 と 前 回 6 月 調 査
から上方修正されるなど、企業の投
資 意 欲 に は 強 さ が み ら れ た( 図 表 6)。
12
10
8
6
し か し 、先 行 指 標 で あ る 機 械 受 注( 船
4
舶・電力を除く民需)の動きをみる
2
と 、4~ 6 月 期 ま で 4 四 半 期 連 続 の 増
0
加 と な っ た 後 、 7~ 9 月 期 は 前 期 比
-2
-4
10.0% 減 と な っ た 。 中 国 を は じ め と
-6
した新興国経済の先行き不透明感や
-8
国内景気の停滞感を背景に、計画の
執行を先送りするなど企業の様子見
(前年比、%)
2007
2008
2010
2011
2012
2013
2014
2015
3月
6月
9月
12月
実績見込
実績
(調査時期)
(資料)日本銀行「日銀短観」
(備考)2009年度は大幅マイナスのため除いている
姿勢が続いたとみられる。今後の設備投資は増加に転じるものの、その伸びは限定的
となるだろう。円安、原油安を背景に企業収益は堅調さを維持しており、手元資金は
潤沢にあるほか、貸出金利も極めて低水準の状況が続いており、資金調達面では良好
な環境が続いている。そうしたなか、先行きの設備投資は企業の投資マインドに左右
さ れ る が 、中 国 経 済 に つ い て は PMI の 動 向 な ど を み て も 最 悪 期 を 脱 す る 兆 し が み ら れ 、
先行きの不透明感が薄れていくことで企業マインドも改善し、設備投資は持ち直しに
転じるだろう。先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)の月次推移をみる
と 、8 月 に か け て 3 ヵ 月 連 続 で 減 少 し た 後 、9 月 は 前 月 比 7.5% 増 と 大 き く 増 加 し 、10
~ 12 月 期 に つ い て も 前 期 比 2.9% 増 と 持 ち 直 す 見 通 し が 示 さ れ て お り 、 企 業 の 過 度 な
慎重姿勢も幾分和らいでいるとみている。製造業では、生産設備の老朽化に対応した
維持・補修などの更新投資が引き続き中心になるとみられるものの、将来的な人手不
足を睨んだ合理化・省力化投資や、次世代自動車などの新製品開発に対応した投資な
-5-
ども増加するだろう。非製造業では、消費の多様化や訪日外国人の増加などを背景に
物流施設や商業施設関連の投資が増加するだろう。また、マイナンバー制度の導入に
伴う中小企業のソフトウエア関連投資も増加が期待される。上半期実績の下振れを踏
ま え 、 2015 年 度 の 設 備 投 資 の 予 測 値 は 前 回 予 測 時 か ら 下 方 修 正 し て い る 。
○公 的 固 定 資 本 形 成 は緩 やかな減 少 傾 向 に
公 的 固 定 資 本 形 成 は 減 少 に 転 じ た 。 7~ 9 月 期 の 公 的 固 定 資 本 形 成 は 前 期 比 0.3% 減
と 2014 年 度 補 正 予 算 の 効 果 が 薄 れ た こ と な ど か ら 、2 四 半 期 ぶ り の 減 少 と な っ た 。公
共工事の進捗を映す公共工事出来高の
推 移 を み る と 、 2015 年 度 に 入 っ て
2014 年 度 補 正 予 算 の 効 果 が 顕 在 化 し
図表7.公共工事請負金額・出来高の推移
1.6
は横ばい圏の動きとなっている(図表
1.4
1.2
1.0
成は緩やかに水準を落としていくと見
0.8
込んでいる。先行指標である公共工事
0.6
請 負 金 額 に つ い て み る と 、4~ 6 月 期 は
一旦増加したものの、高水準ながら緩
や か な 減 少 傾 向 と な っ て い る 。 2014
年度補正予算における緊急経済対策は
公共工事出来高
1.8
たことで一旦増加したものの、その後
7)。 今 後 に つ い て は 、 公 的 固 定 資 本 形
(兆円)
2.0
0.4
公共工事請負金額
0.2
0.0
11
12
13
14
15
(月次)
(資料)国土交通省、各保証会社資料により富国生命作成
(備考)公共工事出来高、公共工事請負金額は富国生命による季節調整値
前 年 度 に 比 べ て 歳 出 規 模 が 小 さ く 、2015 年 度 予 算 の 公 共 事 業 関 連 費 は 前 年 比 ほ ぼ 横 ば
い に と ど ま る こ と か ら 、2015 年 度 の 公 的 固 定 資 本 形 成 は 前 年 割 れ が 避 け ら れ ず 、4 年
ぶ り に 前 年 を 下 回 る と 見 込 ん で い る 。 ま た 、 2015 年 度 補 正 予 算 に つ い て は TPP( 環
太平洋経済連携協定)への対策や「一億総活躍社会」の実現に向けた緊急対応策など
を 柱 に 3 兆 円 台 の 規 模 と す る 方 向 で 編 成 作 業 が 進 め ら れ て お り 、公 共 事 業 関 連 費 に つ
い て は 小 規 模 に と ど ま る と み て い る こ と か ら 、2016 年 度 も 緩 や か な 減 少 を 想 定 し て い
る。
○輸 出 は伸 び悩 みが続 く
輸 出 は 海 外 需 要 の 低 迷 を 背 景 に 伸 び 悩 ん で い る 。 7~ 9 月 期 の 実 質 輸 出 は 前 期 比
2.6% 増 と 、4~ 6 月 期 の 同 4.3% 減 か ら
図表8.輸出数量指数の推移
増加に転じたものの、緩やかな伸びに
とどまった。地域別では中国を中心に
120
アジア向けが伸び悩む一方、欧米向け
115
が増加したとみられる。ただし、数量
ベースでは弱い動きが続いており、仕
向地別に輸出数量指数についてみると、
7~ 9 月 期 は 米 国 、 EU、 ア ジ ア の 各 地
域 が と も に 減 少 し て い る( 図 表 8)。米
国向け輸出については、堅調な家計部
門を映して輸送用機械などは持ち直し
つつあるものの、同国のエネルギー関
(2010年=100)
110
105
米国
100
95
90
輸出計
85
80
アジア
EU
75
中国
70
10
11
12
13
(月次)
(資料)財務省資料より富国生命作成
(備考)データは後方3ヵ月移動平均、各地域の季節調整は富国生命
-6-
14
15
連投資減少の影響などから一般機械などが弱含んでいる。また、アジア向けは中国を
は じ め NIEs 向 け や ASEAN 向 け も 減 少 し た 。 ス マ ー ト フ ォ ン 関 連 の 電 子 部 品 が 伸 び
悩んでいることに加え、中国などアジア全体の景気が減速傾向にあることを背景に需
要が鈍化している。今後についても、輸出は伸び悩むだろう。為替が円安水準で推移
するなか、米国や欧州など先進国向けについては需要が回復傾向となることで輸出は
持 ち 直 す だ ろ う 。 ス マ ー ト フ ォ ン の 新 製 品 発 売 に 伴 う IT 関 連 需 要 の 緩 や か な 回 復 や
自動車の国内生産回帰の動きも輸出を下支えするとみている。ただし、中国をはじめ
としたアジア新興国の需要鈍化は引き続き重石となり、輸出の伸びは抑えられるだろ
う。なお、新興国経済の減速にもかかわらず、アジアを中心に訪日外国人は大幅な増
加を続けており、サービス輸出に分類される旅行収支の受取は改善傾向をたどってい
る。先行きも円安に加え観光客誘致政策などもあって訪日外国人の増加傾向は続き、
旅行収支の受取増加を通じて輸出の下支えとなるだろう。
【米 国 経 済 】
米 国 経 済 は 、 一 部 に 弱 さ が み ら れ る も の の 、 回 復 が 続 い て い る 。 7~ 9 月 期 の 実 質
GDP 成 長 率 ( 速 報 ) は 、 前 期 比 年 率 + 1.5% と な っ た ( 図 表 9)。 在 庫 投 資 の 寄 与 度 が
同 ▲ 1.44 ポ イ ン ト と な っ た こ と で 、 4
~ 6 月 期 の 同 + 3.9 % か ら 大 き く 減 速
する結果となった。新興国経済の減速
やドル高による収益鈍化を背景に輸出
や設備投資は引き続き伸び悩み、企業
の慎重姿勢の強まりが在庫積上げペー
図表9.米国実質GDP成長率の推移
(年率換算前期比、%)
8.0
6.0
3.9
3.8 4.6 4.3
3.0
1.5
2.1
1.9
0.6
1.1
4.0
2.0
0.0
スの鈍化につながったとみられる。一
-2.0
方で、個人消費や住宅投資は堅調さを
-4.0
維持するなど家計部門を中心に回復基
-6.0
個人消費
設備投資
住宅投資
調 は 続 い て い る 。需 要 項 目 別 に み る と 、
-8.0
在庫投資
政府支出
純輸出
個 人 消 費 は 同 3.2% 増 と 自 動 車 な ど の
耐久財を中心に堅調に推移している。
-0.9
-10.0
08
09
(資料)米商務省
10
11
12
13
14
15
(暦年四半期)
住 宅 投 資 に つ い て は 、 同 6.1% 増 と 前 期 か ら 伸 び は や や 鈍 化 し た も の の 、 低 位 で の 推
移が続くモーゲージローン金利や銀行の融資基準緩和などを背景に 6 四半期連続で増
加 し て い る 。 一 方 、 設 備 投 資 は 同 2.1% 増 と 低 い 伸 び に と ど ま っ た 。 機 械 設 備 投 資 が
加速したものの、シェール関連投資の低迷を背景に構築物投資が減少に転じたほか、
知 的 財 産 投 資 の 伸 び が 大 幅 に 鈍 化 し た 。 輸 出 に つ い て は 、 同 1.9% 増 と ド ル 高 に よ る
価格競争力の相対的な低下や新興国の需要鈍化の影響などを背景に低い伸びにとどま
っ た 。 一 方 で 、 輸 入 は 同 1.8% 増 と な り 、 純 輸 出 は ▲ 0.03 ポ イ ン ト と 小 幅 な が ら マ イ
ナス寄与に転じた。
今 後 に つ い て も 、 緩 や か な 回 復 が 続 く と 想 定 し て い る 。 FRB( 米 連 邦 準 備 制 度 理 事
会 ) は 12 月 に 利 上 げ に 踏 み 切 る と 想 定 し て お り 、 こ れ に 伴 う 金 利 上 昇 が 一 時 的 な 景
気抑制要因となる可能性はある。もっともその後の利上げペースが緩慢なものにとど
まることでその影響は限られ、家計部門を中心とした景気の回復基調は途切れないと
み て い る 。個 人 消 費 に つ い て は 、10 月 の 新 車 販 売 が 2 ヵ 月 続 け て 年 率 1 千 8 百 万 台 と
大型車を中心に好調さを維持しているほか、全米小売業協会による年末商戦の見通し
-7-
は 前 年 比 3.7% 増 と 前 年 の 伸 び は 下 回 る も の の 良 好 な 予 想 が 示 さ れ て い る 。 ま た 、 10
月 の 失 業 率 が 5.0% ま で 低 下 す る な ど 労 働 需 給 が 引 き 締 ま る な か で 賃 金 の 伸 び が 次 第
に 高 ま る と み ら れ る こ と や 、低 水 準 で 推 移 す る ガ ソ リ ン 価 格 も 追 い 風 に な る こ と か ら 、
個人消費は増加基調を維持するだろう。また、住宅投資についても低金利環境などを
背景に堅調に推移すると見込んでいる。一方で企業部門については力強さを欠く動き
が続くだろう。シェール関連投資の低迷やドル高による収益鈍化を背景に、設備投資
は引き続き低い伸びにとどまるだろう。また、輸出についても新興国の減速傾向を映
して伸び悩みが続くとみている。このように、企業部門は力強さを欠くものの、家計
部 門 を 中 心 に 回 復 基 調 が 続 く だ ろ う 。 2015 年 の 米 国 の 実 質 GDP 成 長 率 の 予 測 値 は 、
前 年 比 + 2.4% と 前 回 予 測 を 維 持 し て い る 。
【欧 州 経 済 】
欧 州 経 済 は 、 緩 や か な 持 ち 直 し が 続 い て い る 。 7~ 9 月 期 の ユ ー ロ 圏 の 実 質 GDP 成
長 率 は 前 期 比 + 0.3% と 1~ 3 月 期( 前 期 )か ら 伸 び 率 は 縮 小 し た も の の 、10 四 半 期 連
続 で プ ラ ス 成 長 と な っ た ( 図 表 10)。 原 油 価 格 の 下 落 に よ る 実 質 購 買 力 の 高 ま り を 背
景に内需主導で緩やかな成長が続いた
図 表 10.ユ ー ロ 圏 実 質 G D P 成 長 率 の 推 移
とみられる。国別にみると、けん引役
が 期 待 さ れ る ド イ ツ は 同 + 0.3% と 、前
期 の 同 + 0.4% か ら 減 速 し た が 、緩 や か
2
(前期比、%)
1
0.40.50.4
0.4 0.2
0.2 0.3
0.3
0.2
0.1
-0.2
な成長が続いている。個人消費が堅調
に推移した一方、外需については輸出
の伸びが輸入の伸びを下回りマイナス
0
-1
寄与となった。フランスは前期のゼロ
成 長 か ら 持 ち 直 し 同 + 0.3% 、イ タ リ ア
は 同 + 0.2% と 緩 や か な 成 長 が 続 い た 。
ま た 、ス ペ イ ン は 同 + 0.8% と 引 き 続 き
堅調に推移し、ユーロ圏全体としては
-2
-3
08
09
10
11
12
13
14
15
(暦年四半期)
(資料)Eurostat
緩やかな持ち直しの動きが続いている。個人消費については、原油価格の下落を受け
た 実 質 的 な 購 買 力 の 高 ま り な ど に よ り 消 費 者 マ イ ン ド は 良 好 さ を 維 持 し て お り 、7~ 9
月 期 の ユ ー ロ 圏 小 売 売 上 数 量 は 同 + 0.6% と 4~ 6 月 期 の 同 + 0.4% か ら 伸 び を 高 め る
など堅調に推移している。一方、輸出については、ユーロ安による恩恵を新興国の減
速が相殺する形で伸び悩んでおり、中国向けの減少基調が続いたほか、これまでけん
引役であった米英向けなども伸び悩んだ。
今後についても、緩やかな持ち直しの動きが続くと見込んでいる。雇用環境が緩や
かながらも改善傾向となるなか、原油安による実質購買力の高まりなどを背景に消費
者 マ イ ン ド が 上 向 く こ と で 、 個 人 消 費 は 緩 や か な 増 加 基 調 が 続 く だ ろ う 。 ま た 、 ECB
( 欧 州 中 央 銀 行 ) は 物 価 の 弱 含 み な ど を 背 景 に 12 月 に 追 加 金 融 緩 和 に 踏 み 切 る と 想
定 し て お り 、緩 和 的 な 金 融 政 策 が 続 く な か 為 替 が ユ ー ロ 安 水 準 で 推 移 す る こ と に よ り 、
増加の動きが一服していた輸出は、緩やかな増加基調に復するとみている。ただし、
海外需要は米英など先進国は緩やかな回復基調となる一方で、中国など新興国向けは
低 迷 が 続 く と み ら れ る こ と か ら 、輸 出 の 伸 び は 緩 や か な も の に と ど ま る だ ろ う 。ま た 、
銀行貸出調査による企業の資金需要についても回復傾向を辿っており、シリアなどか
-8-
らの難民問題や自動車メーカーの不正問題など懸念材料が多いなかでも、企業マイン
ド は 良 好 さ を 維 持 し て い る こ と か ら 、徐 々 に 投 資 も 上 向 く だ ろ う 。た だ し 、11 月 に 発
生したフランスでの同時多発テロの影響が、同国の個人消費や観光業のみならず欧州
全体に広がり、経済活動を抑える可能性がある点は留意する必要がある。インフレ動
向については、原油安の影響が薄れていくなかで上向いていくものの、景気の持ち直
し が 緩 や か に と ど ま る な か で イ ン フ レ 圧 力 は 高 ま ら ず 、ECB の 目 標 を 下 回 る 伸 び が 続
くだろう。
【中 国 経 済 】
中 国 経 済 は 、 減 速 し て い る 。 7~ 9 月 期 の 実 質 GDP 成 長 率 は 前 年 比 + 6.9% と 4~ 6
月 期 よ り 伸 び 率 が 縮 小 し 6 年 半 ぶ り に 7% を 割 り 込 ん だ ( 図 表 11)。 第 1 次 、 第 3 次
産業の伸び率が高まる一方で、第 2 次産業が鈍化したことが要因である。月次の経 済
指標をみると、固定資産投資につい
図 表 11. 中 国 実 質 G D P 成 長 率 の 推 移
て は 一 段 と 伸 び 率 が 鈍 化 し 、1~ 7 月
累 計 の 前 年 比 11.2% 増 か ら 1~ 10 月
累 計 で は 同 10.2 % 増 と プ ラ ス 幅 が
縮小している。インフラ投資が下支
えしているものの、不動産投資など
の伸びが鈍化していることが背景に
ある。また、輸出は、6 月以降前年
16
(前年比、%)
14
実質GDP成長率
12
10
8
割 れ が 続 く な か 、10 月 に は ア ジ ア 諸
国向けに加えて、米国向けも減少に
転じたことで、マイナス幅が拡大し
ている。これらの動向を映して、生
6.9
6
成長率目標
4
07
08
(資料)中国国家統計局
09
10
11
12
13
14
15
(暦年四半期)
産活動も減速傾向となっている。一方、有効求人倍率の低下に歯止めがかかるなか、
個人消費は底堅く推移している。消費小売総額は、株価の低迷により一部の高額消費
に弱さがみられるものの、食料品を中心に前年比伸び率が高まっている。そのなか、
10 月 の 自 動 車 販 売 は 、 小 型 車 の 自 動 車 取 得 税 が 軽 減 さ れ た こ と に よ り 、 11 ヵ 月 ぶ り
に 前 年 比 二 桁 増 と な っ て い る 。 ま た 、 製 造 業 の 景 況 感 が 10 月 に 持 ち 直 す な ど 改 善 の
兆しがみられる。
今 後 に つ い て は 、 6% 台 後 半 の 成 長 が 続 く と 想 定 し て い る 。「 新 常 態 」 へ の 構 造 転 換
を目指すなかで、中長期的なトレンドとしては成長テンポの鈍化は避けられないと考
えている。製造設備や不動産などの過剰を抱えるなかで、旺盛な固定資産投資によっ
て成長率を高めることは出来なくなっている。インフラ投資などの公共投資が下支え
するものの、固定資産投資の伸び鈍化は続くだろう。一方、輸出は新興国の減速を映
して水準回復には時間がかかるだろうが、欧米の需要回復を映して次第に増加基調に
なると見込んでいる。また、個人消費は底堅く推移すると見込んでいる。反汚職キャ
ンペーンの影響で弱含んでいた外食などが回復していることに加え、減税効果により
小型車の販売好調は続くとみられる。金融政策の面では、段階的に預金準備率や政策
金 利 を 引 下 げ て お り 、10 月 下 旬 に は 今 年 5 回 目 と な る 金 利 引 下 げ を 実 施 し て い る 。そ
う し た 状 況 を 映 し て 、マ ネ ー サ プ ラ イ の 伸 び 率 は 政 府 目 標 を 上 回 る 推 移 と な っ て い る 。
ま た 、70 都 市 の 新 築 住 宅 価 格 は 、上 昇 に 転 じ る 都 市 数 が 増 加 し つ つ あ り 、不 動 産 市 場
-9-
の悪化に歯止めが掛かりつつあるとみられる。中国経済は、過剰債務が重石となる状
況が続くものの、このように底打ちの兆しを示す指標もみられ、循環面では最悪期を
抜 け 出 す と 見 込 ん で い る 。2015 年 の 実 質 GDP 成 長 率 は + 6.9% と 前 回 予 測 を 据 え 置 い
ている。
○今 後 の伸 び率 などについて
2015 年 度 の 実 質 GDP 成 長 率 は + 0.9% と 前 回 予 測 か ら 0.2 ポ イ ン ト 下 方 修 正 し た 。
設備投資を中心に上半期実績が下振れたことがその主な要因である。ただし、先行き
に つ い て は 民 間 需 要 の 増 加 に よ り プ ラ ス 成 長 を 辿 る と み て い る 。設 備 投 資 に つ い て は 、
中国経済は最悪期を脱したとみられ過度な悲観論は後退しており、企業マインドが幾
分回復することで、増加に転じると見込む。ただし、上半期の減少を受けて年度の伸
び は 下 方 修 正 し た 。 ま た 住 宅 投 資 に つ い て も 7~ 9 月 期 の 新 設 住 宅 着 工 戸 数 の 減 少 を
反映し、年度予測をやや引き下げた。その他需要項目については概ね前回予測を維持
しており、輸出は伸び悩むものの、個人消費は緩やかな増加が続くとみている。こう
した内需の底堅さを背景に企業と家計の前向きの好循環は途切れないとみており、四
半 期 毎 の 成 長 率 に つ い て は 前 期 比 年 率 1% 台 半 ば の プ ラ ス 成 長 が 続 く と 見 込 ん で い る 。
2016 年 度 の 実 質 GDP 成 長 率 は + 1.3% と 前 回 予 測 を 据 え 置 い た 。 2016 年 度 も 同 様
の好循環が続くことで緩やかな成長が続くだろう。新興国経済の減速に歯止めがかか
る な か 、年 度 末 に か け て は 消 費 税 率 の 再 引 上 げ を 睨 ん だ 駆 け 込 み 需 要 が 加 わ る こ と で 、
民間需要をけん引役に成長率を高めていくと見込んでいる。
○消 費 者 物 価 と金 融 政 策 の見 通 し
2015 年 9 月 の コ ア CPI( 生 鮮 食 品
を除く消費者物価総合)は前年比▲
0.1% と 原 油 安 が 物 価 を 押 し 下 げ 、 2
ヵ月続けてマイナスとなっている。
( 図 表 12)。 も っ と も 、 食 料 ( 酒 類
を除く)及びエネルギーを除く総合
図 表 12. コ ア C P I の 推 移
(前年比、%)
消費税増税分
制度改正(高速代・高校授業料)
その他
3.0
損害保険(自動車・傷害)
生鮮食品を除く食料
耐久消費財
2.0
ガソリン
光熱・水道
生鮮食品除く総合
4.0
指 数 つ い て は 9 月 に 同 + 0.9% ま で
1.0
上昇幅が拡大しており、エネルギー
0.0
以外の物価には上昇圧力の強さがみ
-1.0
られる。また、品目数でみても上昇
品目数が下落品目数を大きく上回っ
ており、物価上昇の裾野は広がって
-2.0
13/1
13/4
13/7
13/10
14/1
14/4
14/7
14/10
15/1
15/4
15/7
(月次)
(資料)総務省「消費者物価指数」より富国生命作成
いる。4 月以降、円安を背景とした
原材料価格上昇によるコスト増分を価格へ転嫁する動きが広がったことで、生鮮食品
を除く食料はプラス幅が拡大傾向にあるほか、耐久消費財はテレビや白物家電の値上
げもあって 6 月以降プラス幅が拡大している。その他についても、トイレットペー パ
ーなどの日用品や、宿泊料、テーマパーク入場料などのサービスで上昇がみられる。
一方、ガソリンの前年比マイナスが続き、電気代については、一部電力会社の料金値
上げや 5 月の再生可能エネルギー発電促進賦課金の上乗せなどが押上げ要因となった
が 、原 油 価 格 の 下 落 が 燃 料 費 調 整 額 に 反 映 さ れ て き た こ と で 6 月 に 前 年 割 れ に 転 じ マ
- 10 -
イ ナ ス 幅 を 拡 大 し て い る 。今 後 に つ い て も 、コ ア CPI 上 昇 率 は 、当 面 は 前 年 比 ゼ ロ %
近傍の推移が続き、前年比でみた原油安の影響が薄れていくことで年度末にかけてプ
ラス幅が拡大していくと想定している。これまでの原材料価格の上昇を受けて、加工
食品などの値上げが相次いでいる生鮮食品を除く食料は前年比プラスで推移し、引き
続き物価の押上げ要因になるだろう。また、個人消費が安定していくことで、企業は
人件費上昇や円安などのコスト増分を価格転嫁する動きが続くと想定している。そう
したなか、原油価格を起因とする物価変動については、原油価格は緩やかに上昇する
と 想 定 し て い る こ と か ら 、年 度 末 に か け て は 反 対 に 押 上 げ 要 因 に な る と 見 込 ん で い る 。
2015 年 度 の コ ア CPI は 前 年 比 + 0.2% 、 2016 年 度 も 同 + 1.2% に と ど ま る と 想 定 し て
いる。
な お 、 日 銀 が 10 月 に 発 表 し た 展 望 レ ポ ー ト で は 、 物 価 の 基 調 は 着 実 に 改 善 し て い
る と の 見 方 は 維 持 し た も の の 、政 策 委 員 の コ ア CPI の 大 勢 見 通 し の 中 央 値 は 、原 油 価
格 の 想 定 の 引 下 げ を 主 因 に 、2015 年 度 が 0.1% 、2016 年 度 が 1.4% へ と 下 方 修 正 さ れ
た 。ま た 、物 価 目 標 の 達 成 時 期 を「 2016 年 度 後 半 頃 」へ 後 ろ 倒 し し 、当 面 、出 口 は 見
通せないことから、当年度内は現行の異次元緩和を継続すると想定している。
○リスク要 因
日本経済は、内需を中心に企業・家計の前向きな好循環を維持するという見方が当
社のメインシナリオであるが、海外経済動向や金融資本市場を発端とするリスク要因
が顕在化すると、その循環が途切れてしまう可能性があることには留意する必要があ
る。最大のリスク要因は政府の舵取りが困難になっている中国経済の動向である。不
動産バブル崩壊や地方政府の過剰債務などの火種があり、想定以上に景気が落ち込む
可能性がある。米国では、ドル高による悪影響が大きかった場合や、利上げに対する
思惑などにより想定以上に大幅な金利上昇、株価調整が生じた場合は、堅調な内需の
回復を冷やす可能性がある。また、同時テロがドイツを含めた欧州の広範囲に広がる
と、企業や消費者のマインドを悪化させ、経済活動が停滞する可能性がある。このよ
うな海外要因の不安材料が顕在化すると、外需が先導する形で好循環が途切れる可能
性もあろう。
以
- 11 -
上
図表13.デフレーターの伸び率(2005暦年連鎖価格)
(前年比、%)
2011年度
国内総支出
2012年度
1.7
▲
0.9
▲
0.7
▲
0.5
2015年度
2016年度
2.5
1.4
1.1
1.0
0.2
2.1
0.0
1.1
▲
0.6
2.9
3.6
0.3
0.5
0.9
▲
0.2
0.9
1.3
1.0
0.8
政府最終消費
0.0
▲
0.7
0.2
2.3
0.7
1.8
公的固定資本形成
0.7
▲
0.2
1.8
3.0
1.0
1.3
2.4
0.6
8.5
2.3
1.6
0.3
5.5
0.9
11.3
0.3
3.5
0.3
民間住宅投資
民間設備投資
財貨・サービスの輸出
▲
▲
財貨・サービスの輸入
▲
2014年度
0.3
民間最終消費
▲
2013年度
▲
▲
予測
図表14.需要項目別の寄与度
(%)
2011年度
2012年度
2013年度
2014年度
2015年度
2016年度
実質国内総支出
0.4
1.0
2.1
▲
0.9
0.9
1.3
民間需要
1.3
1.4
1.8
▲
1.7
0.7
1.2
民間最終消費
0.8
1.1
1.5
▲
1.9
0.3
0.9
民間住宅投資
0.1
0.2
0.3
▲
0.4
0.1
0.0
民間設備投資
0.6
0.2
0.5
0.1
0.2
0.5
0.1
0.3
0.8
0.2
0.2
0.0
0.2
0.3
0.3
0.1
0.3
0.2
▲
0.1
0.0
0.5
0.1
▲
1.0
▲
0.8
0.5
0.6
0.0
0.1
財貨・サービスの輸出
▲
0.2
▲
0.2
0.7
1.3
0.2
0.8
財貨・サービスの輸入
▲
0.8
▲
0.6
公的需要
政府最終消費
公的固定資本形成
財貨・サービスの純輸出
▲
▲
注1.四捨五入の関係上、内数の合計は必ずしも合計項目に一致しない
- 12 -
1.2
▲
0.7
▲
▲
0.0
0.2
▲
▲
予測
0.2
0.7
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