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3人以上の意思決定 ~皆をまとめるのは難しい~ 皆をまとめるのは難し
3人以上の決定: “意見をまとめる”,とは? 3人以上の意思決定 ~皆をまとめるのは難しい~ 皆をまとめるのは難し 中村 國則 • 1人ひとりの選好を元にした,社会全体の厚 生(welfare)とはいかなるものだろうか 3つ選択肢があると,選好の組み合わせは下の6つ,社 会の構成員は6つのどの選好の組み合わせを持っても 構わない 1位 2位 3位 x y z R2 x z y R3 y x z R4 y z x R5 z x y R6 z y x – 意見を1つに集約することは,特定の意見を採用して 他の意見を無視することと同義,何らかの基準で集 団にとってある意見が別の意見より優れていること を示さなければならない – 個人間の効用の比較:“僕らが寿司を食べることは, 君らが焼肉を食べることよりも皆にとっていいことな んだよ,だから焼肉に行こう” 民主主義と自由主義 社会厚生関数 R1 • どういう基準である意見を採用し,他の意見を退 けるか? • “私はあなたよりも優れています” R1 社会 • 社会厚生関数を考える上で重要な主義,20世紀 以降の近代社会の中で重要視 • 独裁者の否定 – ある特定の人物の意見のみに基づくのではなく,社 会を構成する民衆が自由に意見を述べ,その意見を 出来る限り反映させて社会的決定を導くのが理想 R2 R3 R? R4 ・・・・・・ 多数決(majority rule) • 多数派の意見を採用する, 民主主義的決定方式の代表 – 選挙といった形で現代社会の中で定着 – 原始社会や動物の世界でも多数決で社会的 決定を導くことが多いことが知られている • しかし,多数決には“投票のパラドクス”が つきもの 投票のパラドクス(voting paradox) • “多数派の意見”を一意に決められない – 例:下の状況で“最も好まれている候補者”は誰か? • X、Y、Zの3人の候補者がいる.60名によって投票を行 なった結果,Xが23票,Yが19票,Zが18票 だった. • 60名の意見をもう少し詳しく見てみると, 60名の意見をもう少し詳しく見てみると – Xに投票した23名は、全てZ>Y – Yに投票した19名は、全てZ>X – Zに投票した18名は、内16名がY>X、2名がX>Y • Xが一番といっていいでしょうか? 1 単純に2つの選択肢の比較を考えると • Zが一番いい選択肢になってしまう! – X>Yの数:Y>Xの数 ⇒25:35 ∴ Y>X – X>Zの数:Z>Xの数 ⇒23:37 ∴ Z>X – Y>Zの数:Z>Yの数 Y>Zの数 Z>Yの数 ⇒19:41 ⇒19 41 ∴ Y>Z – つまり,Xは下位に位置づけられることが一番多 い候補者でもあり,その意味で一番良いと言い切 ることも難しい 単記投票のパラドクス • 単記投票:各投票者が与 えられた選択肢の中から1 つを選び,その最大票数 の選択肢をもって社会的 決定とする 決定 する • しかし,決め方によって, 最高順位のものが最低順 位になってしまうことがしば しば生じる,非合理な決定 方式の見本でもある よい順 だとX • Xが23票、Yが19票、Zが18票,ただし 60名の意見をもう少し詳しくみると – Xに投票した23名は、全てZ<Y – Yに投票した19名は、内17名はZ>X、2名はZ<X Yに投票した19名は 内17名はZ>X 2名はZ<X – Zに投票した18名は、内10名がX>Y、8名がY>X • これは実はジャンケンの関係になっている – X>Yの数:Y>Xの数 ⇒33:27 – X>Zの数:Z>Xの数 ⇒25:35 – Y>Zの数:Z>Yの数 ⇒42:18 決選投票のパラドクス x y z x y z x y z y z x y z x z y x z y x • 単記投票で最上位者の得票数が過半数に達しな い場合,上位2名で再投票 – 候補者の数が増えるにつれ,単純多数決の決定と食 い違いが生じる可能性が高くなる上に どの対決から い違いが生じる可能性が高くなる上に,どの対決から 始めるかで当選者を操作することが可能な投票方式 – 恣意的に社会的決定を変えることが容易な決定方式 悪い順 でもX 順位評定法のパラドクス 皆が最下位にしている 1位 2位 3位 1位 2位 3位 x y z x z y x y z x z y x y z x z y y z x z y x y z x z y x z y x z y x z y x y x z z y x 決戦だとx 対zだが・・・・ もう少しこんがらがった例 • 各投票者が最下位を0点とし,各順位に対して (候補者数-順位)を点数とし,総点で決める • “勝者が降りたら順位逆転”が起きうる • “無関係選択肢からの独立”が満たされない上 “無関係選択肢から 独立”が満たされな 上 に,やはり戦略的な結果の操作を許してしまう この選好構造だと,よい順に決選投票を しても悪い順に決選投票をしてもxが選 ばれる 2 辞退による順位逆転 無関係選択肢からの独立 Zが抜けると・・・ 1位 2位 3位 4位 5位 1位 2位 3位 4位 1位 2位 3位 4位 5位 1位 2位 3位 4位 5位 x z y a b x y a b x y a b c x y a b c x z y a b x y a b x y a b c x y a b c y a b x z y a b x y x a b c y a b c x x:9 x:6 x:11 y:8 y:7 y:10 z:6 a:4 a:6 b:1 b:2 1844年大統領選 現実にありえるのか • 過去のアメリカ大統領選で,有力候補から票を奪う スポイラーが重要な役割を果たしたことが何度かあった と考えられている zが入るとxが勝ってしまう 1位 2位 1位 2位 x y x y z x y x y z x y x y z x y x y z y x y z x y x y z x y x y z x y x z y x y x z y x ここではzがス ポイラー y:10 xとy自体の関係ではなく,a,b,cとの関連でxとy との関係が変わってしまう!! xとyが逆転してしまう! xとyだけの選挙だとyが勝つのに・・・ x:8 xとyの関係を保ったまま, 順位を変えると 3位 • • • • 奴隷制廃止が争点の1つ 民主党(賛成):ジェイムズ・ポーク 49.5% ホィッグ党(反対):ヘンリー・クレイ 48.1% 自由党(反対):ジェイムズ・バーニー 自由党(反対):ジェイムズ バ ニ 2 3% 2.3% – バーニー支持者の殆どは,恐らくクレイを支持 – もしバーニーが出馬していなければクレイが当選,奴隷 制廃止もこの時点で可能 1848年大統領選 1860年大統領選挙 • • • • • 民主党:北部と南部に分かれる やはり奴隷制が焦点 ホィッグ党:ザカリー・テイラー 民主党:ルイス・カス 自由土地党:マーティン・ヴァン・ミューレン – 元は民主党だったが,自分が候補でないのをよし としなかったため,党を代えて出馬 • 一般投票のミューレンの得票数は,テイラーと カスの差の2倍以上 – 北部:スティーヴン・ダグラス – 南部:ジョン・ブレッキンリッジ • 共和党:エイブラハム・リンカーン 共和党 エイブラハム リンカ ン • 立憲連合党:ジョン・ベル • ベルとブレッキンリッジによってダグラスの票 が割られる 3 2000年大統領選挙 • 下馬評ではアル・ゴア,耐スポイラー効果の ある投票システムの下ではゴアが勝っただろ うといわれている • ラルフ・ネーダーがスポイラー,アル・ゴアか ラルフ ネ ダ がスポイラ アル ゴアか ら票を奪い,ジョージ・ブッシュの当選に貢献 こんなことが起きてしまった • 1995年の女子世界選手権 – 途中順位:1位 陳露 2位 ボベック 3位 ボナリー – その後,ミシェル・クワンが滑走→4位 – 何故か1位 陳露 2位 ボナリー 3位 ボベック • 1997年ヨーロッパ選手権男子シングル – 途中順位:1位 ウルマノフ 2位 ザゴロドニュク 3位 キャンデロロ – 最終滑走者のウラシェンコ→6位 – 結局:1位 ウルマノフ 2位 キャンデロロ 3位 ザゴロドニュク Arrowの不可能性定理 • 下の4つの公理を満たす決定方式は存在しない – 選好の無制約性 – 市民の主権・パレート最適性 – 無関係対象からの独立性 – 非独裁性 フィギアスケートの 旧採点システム(Wikiより) • 順位は、得点の合計を単純に比較するのではなく、それぞれのジャッジ がつけた点数をマトリクス化して(相対評価)決定される。具体的には次 のような手順である。 1. ジャッジはそれぞれ、自分がつけた「技術点とプレゼンテーションの合計 点」によって選手同士を1対1で比較し、 2. 高い合計点をつけたほうの選手の「支持するジャッジ=JIF(Judge 高 合計点を けたほう 選手 「支持するジ ジ ( in Favor)」となり、その選手に「PIF(Point in Favor) 2ポイント」を与える。 3. さらに、「PIFのポイント合計」によって選手同士は1対1で比較され、高い ほうの選手に「CP(Comparative Point) 2ポイント」が与えられる。もし PIFの合計が同じであれば、両者に1ポイントを与える。 4. CPの合計の高いものから上位の順位となる。 • そして、順位に応じて順位点(factored placement scores)を与え、各 種目の順位点の合計によって最終的な順位を決定する。 どうすればいいの? • よく知られている社会的決定方式はいずれも, – 矛盾が生じる – 戦略的に投票結果を変えることが容易である • じゃあ,そうじゃない投票方式は無いの? じゃあ そうじゃない投票方式は無いの? • 民主的な枠組みの中ではない – Arrow の不可能性定理 – Senのパラドクス – Gibbard-Sattethewaiteの定理 選好の無制約性 • 社会の構成員は全ての選択肢に対してどのよ うな選好を表明してもよい • 個人の主義・信条が完全に自由であってよい, 各個人は全く好きな自分の意見を持ってよい 4 市民の主権・パレート最適性 無関係対象からの独立 • 全員が「Xの方がYよりもよい」と考えているの であれば,社会的決定はこの選好に従わな ければならない • 皆がよいと思っていることが採用されなけれ ばならない • ある選択肢集合の中の,特定の選択肢に関 する選好が複数の集団間で同一であるなら, 残りの選択肢に対する選好がどのように異 なっていても それらの集団は特定の選択肢 なっていても,それらの集団は特定の選択肢 に対しては同じ決定を導く – 実はこれが一番悪さをしている? 非独裁性 • 社会の構成員の中で,ただ1人の人物の選 好順序が他の構成員の選好にかかわらず常 に社会的決定として採用されることがあって はならない Arrowの不可能性定理 • 選好の無制約,パレート最適性,無関係選択肢 からの独立を満たす決定方式は独裁性しかない • 民主主義的な社会的選択の決定方式は不可能 – 独裁者の否定 自由主義とSenのパラドクス Senのパラドクス • 社会的決定が,何らかの決定に関しては個 人の自由を許容しなければならない • 何でもかんでも全て,というわけではないが, 誰もが全く個人の自由意思で選んでよいこと があってもよい • これも近代社会の基本原理,しかし・・・・ • 個人選好の無制約性,および社会のパレート最適性と,下 の条件L*を満足させる決定関数はない • 条件L:社会の全ての構成員は,自己の選好順序に従って 選択することが社会的に承認されている,相異なる選択肢の 対を少なくとも つは持たなければならない 対を少なくとも一つは持たなければならない • 条件L*:いかなる社会でも,少なくとも2人の構成員はそれぞ れの自己の選好順序に従って選択することが社会的に承認 されている,相異なる選択肢の対を少なくとも一つ持たなけ ればならない 5 平たく言うと • 自由主義のパラドクス – 条件L:どんな人でも,自分の好きに決めることの 出来る選好を1つは持つことが出来る – 条件L*:“少なくとも2人”⇒“1人”にしてしまうと, 独裁者を認めてしまうことになってしまう 者 • 個人選好の無制約性,およびパレート最適と 両立しない⇒つまり,自由主義という原理を 突き詰めていくと独裁者を許容してしまう 投票のパラドクスのもう1つの含意 • 戦略的な投票の操作の影響を受けてしまう – 自分の選好の表明ではなく,望ましい結果を得る ためだけに投票を行なうこと – 社会的決定はあくまで個々人の誠実な意見表明 の要約の結果として下されるべき,望ましい結果を 得るために意見を偽る方が得になる状況が可能で あれば意見の集約という行為自体が成立しない Gibbard-Satterthwaiteの定理 • 戦略的な操作が不可能な決定方式は独裁性だけ – 3人以上の候補者がいる選挙の場合,以下の3つのうちのど れかが成り立つ • ある1人の有権者の投票だけで結果が決まる • どうやっても当選できない候補者がいる • 他の全ての有権者の投票にあわせて自らの投票を変え ることにより,自分の望みどおりの結果を手にすることの 出来る有権者が居る 6