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御所西の町屋
WEB 版「建築討論」レポーター報告書 レポーター 氏 所 名 属 建築諸元 名 称 設 計 者 所 在 地 用 途 階 数 構造種別 建 築 主 構造設計者 山本麻子 株式会社アルファヴィル わかる範囲でご記入ください 御所西の町屋 森田一弥 京都市上京区 専用住宅 地 上 2 階 木造 個人 地 下 階 竣工年月 屋 上 2014 年 階 月 施工会社 設備設計者 建築概要、特徴、評価する点など(800~1,600 字程度) 今回、京都から報告するのは、森田一弥氏設計の「御所西の町屋」。中心市街の路地の奥にたつ、古い伝統 的な町屋の改装作品である。通常改装では古いものと新しいものとのバランスに注目をする。古いもの がどのくらい、どんな風に残されているか、またそれに対して新しいものをどのくらい、どんな風に 導入するか。そのバランスのとり方が工夫されることが多いが、今回この作品が興味深いと思ったの は、古いのでも新しいのでもない第三の要素が持ち込まれている点にあった。 まず、伝統的な町屋の骨組み、柱や梁はかなりの部分が古いまま残され、さらに通り庭側の漆喰壁は 少しやつれた風情もそのままにあえて古い仕上げのまま残してある。その一方、まだ瑞々しさも残る ような杉皮仕上げの塀で囲われた庭は、新しくしかし奇をてらわずにしつらえられ、この庭に対して 主室を大きく開くべく、左右の壁に引き込める木製建具と、その上の大きな梁は新しく制作されたも のであり新しい木の肌の美しさを素直に見せている。このように古いものは古いままで、そして新し いものも非常に正統的なデザインをシンプルに継承しているところに、第 3 の要素として導入されて いるのが、「土」である。すなわち、庭へそのまま続いていく主室の床ほとんどが「土間」それもコン クリートあるいは土に混ぜ物をした一般的な土間ではなく、もともと殆どの部分に張ってあった床を 剥がして地面を掘り、仕上げとなる土を運びこみ、突き固めただけのまったく 100%の「土」仕上げな のだ。また通り庭の反対側の、主室のもう一方の壁は、いちど古いかべを外壁まで壊して断熱材をい れたうえに竹小舞を組んで、通常であれば様々な塗り壁の下地として用いられる、藁の含まれた土を 塗ったまま仕上げる、表面の大きなひびわれがダイナミックな荒壁の「土」仕上げになっている。 この土の壁と床が、庭からの低い光を受けた様が、なんといっても美しい。そしてその美しさの要因 についてあれこれ考えたときに、新しいもののもつ、角のたった、隅々までが明るい、シャープな光、 それに対して古いもののもつ、角の取れた、表面のざらついた、ぼんやりとした光、この中々相容れ ることの難しいふたつの光を、新しくプレーンな、それでいて奥行きのある、「土」仕上げが、両者を つなぎあわせるような光を発しているところに、今回の改装の妙味があるように感じた。 建築家の森田一弥氏は、大学で建築を勉強した後、一流の左官職人に弟子入りし、自身左官の技術を 身につけた後に建築家として独立したという一風変わった経歴の持ち主だが、彼によると、他の土や 漆喰で仕上げをせずに下地の土そのままを仕上げとして用いる今回のような工法は、一般的ではない し、伝統的でもなく、むしろ原始的といったほうがよいのではないかということだ。それを聞いて確 かに、ある素材とその素材の一番シンプルな工法の探求と発見が、この床と壁に奥行きと説得力を与 え、古すぎも新しすぎもしない落ち着きを、空間に与えているのではないかと感じた。最後に、今回 のこのチャレンジは、主に古い骨組みをもつ町屋において試みられているわけだが、このような考え 方が、完全に新築でなくとも、新しい骨組みあるいは近代的な構造の空間に採用された場合、どのよ うな効果があがるだろうか?個人的にではあるが非常に興味のある問題だと思った。