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脈動変光星 みずがめ座 CY の観測

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脈動変光星 みずがめ座 CY の観測
脈動変光星
みずがめ座
08s1―018
CY の観測
08s1―021
澤口東洋次
澁谷駿介
要旨
本研究では大学構内にある40cmリッチークレチアン型反射望遠鏡にCCDカメラ
を用いSX
PHE型脈動変光星CY Aqrの観測を行った。それにより得られたデ
ータで目標星の脈動パターンを解析し、さらにはCCDのフィルターを変えての観測に
より色指数を調べ目標星の温度を測ることを目的とする。
本論文では変光星の説明から始め、冷却CCD、リッチークレチアン型反射望遠鏡など
の機材の説明を経て実際に用いた観測方法から結果、考察まとめをしていく。
はじめに
西暦 2000 年現在で 30000 個以上の変光星が知られており、一方ではほかにも
14000 個程の恒星が変光しているのではないかともいわれている。変光星とい
ってもピンとくる人は世の中にはあまりいないと思う。しかし、この変光星と
いうものを研究することによって、恒星の物理的特性や性質に関する根本的な
情報をもたらす上で重要な事柄を知ることができ、天体までの距離や質量、半
径、内的外的構造、化学組成温度、輝度が変光星のデータによって決定できる。
つまり変光星を調べていけば果てしなく広大な宇宙の謎の一端を知ることがで
き、人類にとって未知への一歩を踏み出す大きな足掛かりになる。
この論文ではほんの一部にすぎないがそのとてつもなく大きな未知にそっと触
れてみようと思う。
Ⅰ章
―変光星
・変光星とは明るさが時間とともに変わる恒星のことである。大抵は若い星や
年老いた星のことであり、変光する原因は恒星内部に原因がある場合と外的原
因によるものとがある。現在変光星総合カタログ(GCVS)第 4 版によると、
爆発星、脈動星、回転星、激変星、食変光星、変光X線源の 6 種に大別されて
いる。
本研究でテーマの変光星は脈動星に分類されるセファイド不安定帯にある SX
PHE 型の CY Aqr を目標星とした。
・脈動星(脈動変光星)とはその構造が力学的(自由落下)の時間尺度で周期
的に変化(脈動)する変光星である。変光は脈動による恒星の表面積の変化と、
表面温度の変化との両方の効果によって起こる。脈動には大きく分けて、球体
対称な脈動(動径脈動)と非球体対称の脈動(非動径脈動)とがある。動径脈
動では、恒星の半径が球体対称を保ちながら周期的に大きくなったり小さくな
ったりするのに対し、非動径脈動では表面のある部分で膨張しているときに、
他の部分では収縮しつつあるという状況となる。SX PHE 型の変光星では動径・
非動径の両方あると考えられているが今のところ動径脈動のものしか見つかっ
ていない。つまり本研究で目標天体に設定した CY Aqr は動径脈動の脈動変光星
ということになる。
・脈動の原理の1つとしてκ機構による脈動励起が挙げられる。κ機構では、
収縮膨張に際してガスの不透明度が変化することにより、収縮した状態で内部
からくる放射流をブロックして熱エネルギーを獲得し、膨張した状態で平均値
よりも多くの放射を流して熱エネルギーを失うことによって起こる。収縮した
状態でガスが熱エネルギーを得ると、次に起こる膨張は、断熱的に起こる場合
に比べて強く、また膨張した状態で熱エネルギーを失うと、次に起こる収縮は
断熱的に起こる場合に比べて強い。この繰り返しによって振動の振幅が徐々に
大きくなっていく。この励起機構は、ガスの不透明度がピークを持つ場所で働
き、太陽以外のほとんどの脈動変光星の脈動がκ機構によって励起されている
と考えられている。
・セファイド不安定帯とは HR 図上、有効温度が 7000K のあたりを急な傾斜で
走る細い帯状の領域である。この帯に存在する脈動変光星を特にセファイド変
光星と呼ぶ。この名はケフェウス座δ星(δ Cep)に由来する。
セファイド不安定帯に位置する星は、ヘリウムの第2電離領域での不透明度の
ピークで働くκ機構によって外層が不安定になり脈動を起こす。太陽質量の約
4倍~十数倍の質量を持つ恒星は、主系列進化を終えて巨星となり、中心でヘ
リウムから炭素と酸素が合成されるヘリウム燃焼段階で、HR 図上でセファイド
ループといわれるループ状の進化経路を描く。その際、セファイド不安定帯を
横切り、その不安定体内に位置している間がセファイド変光星となる。
図 1.1 セファイド不安定帯を記した HR 図
―冷却 CCD カメラ
・CCD(Charge Coupled Device)電荷結合素子。
現在、可視光の天体観測では最もよく使われている光検出器である。長年使用
されてきた写真乾板に比べ高い感度(量子効率)と出力信号が入射光量に対し
て高い線形を有するという特徴を持っているため、より効率的かつ定量的に観
測を行うことができる。
・受光部の材質は、可視光撮像用ではシリコン(Si)が最も多く使用されてい
る。半導体の上面には普通、酸化シリコン(SiO2)でできている絶縁層を介し
て、各画素ごとに電極(主にアルミニウムを使用する)が設けられ、それぞれ
に配線が埋め込まれている。半導体内には区分けはないが、非常に細かな多数
の電極が個々の画素に分割されている。
電極へかける電極や電気極性をコントロールすることによって、各画素の半
導体内部の電界の変化を利用して、受けた光の強度に比例した数の電子を蓄え
ることができる。半導体名部にはもともと自由電子はないのだが、受光部に光
が当たると、光子エネルギーにより光効果が引き起こされ、自由電子が発生す
る。露光を終了すると、半導体内に電極直下に蓄えられた電子が集められる。
図 1.2 のように、断面図を見るとあたかも電子が容器に入っているようなので、
この状態のことを電位の井戸(ポテンシャル・ウェル)と呼んでいる。図 1.2
は、CCD が発明された当初の電
荷転送の仕組みを3相パルス駆
動方式で説明した断面図である
が、3相の電極に位相がずれたパ
ルス電圧をかけることにより、隣
同士の電位の井戸の深さに差が
でき、各画素ごとに集められた電
子の集合を一塊の電荷として深
い井戸の方へ移動させることが
できる。これが繰り返されて、隣
同士の電荷と結合しながら順次
同一方向に転送されていく。
図 1.2 半導体内の電子状態(断面図)
・転送されてきた各電荷を電気信号として外部に出力する方法は CCD 構造や電
荷転送方式の違いによりいくつかの種類がある。その中でも天体観測に用いら
れる CCD では普通、フルフレーム転送方式のものが使われる。
先ずフレーム転送方式について説明する。
同じ 2 次元配列の CCD が画面の縦方向に 2
組並んでいて、1 組の CCD は受光面が金属版
でマスクされて光が当たらないようになって
おり、1 組が感光部として、もう 1 組が蓄積
部として使われる。露出を終えた画面垂直方
向の電荷 の配列は、マスクされた同じ配列の
CCD に一 気に高速転送され、同期を取りな
がら水平転送部で順次水平転送される。
この方式では受光部の面積が大きくなるの
で開口率が高く高感度が得られる。その反面、
ゲート電極(ほとんどのものがポリ・シリコ
図 1.3 フレーム転送方式
ンで作られている)を通して光が入射するの
で、短波長(青から紫)の感度が 悪い。
そこでフルフレーム転送方式が用いられる。フレーム転送方式から蓄積部を除
いた構造になっている。転送部がない分インターライン転送方式よりフォトダ
イオードを大きくでき暗い部位も明るい部位でも優れた階調表現ができる。欠
点としては電荷転送に時間がかかることと、動画としてのビデオ信号は得られ
ないことである。
画素
=受光素子
=垂直転送路
●
出力
水平転送路
図 1.4 フルフレーム転送方式
・長時間露出で撮像するにあたっては冷却 CCD を使う。CCD は光が全く当た
っていない状態でも、暗電流という熱的に発生する電流が生じ、画素ごとにレ
ベルが違う電荷信号が出力され、画像にはランダムノイズとして表れる。この
暗電流によるノイズを暗電流ノイズといい、露出時間が長いほど多く蓄積され
常温では数秒間以上の露出をかけるとかなりザラザラとした映像になってしま
う。しかし、CCD は冷却することにより暗電流が減る特性がある。-100℃以
下まで冷却すると暗電流によるノイズはほとんど0に近くなるが、他にも読み
込みノイズやバイアスといったノイズ要素がある。それらノイズ成分を全て含
めて光が当たらなくとも存在する輝度情報をダークノイズという。
ノイズを補正するには、天体を撮像した画像「ライトフレーム」から、ダー
クノイズだけの成分を撮像した画像「ダークフレーム」を引いてあげればよい。
ダークフレームを得るには、CCD に全く光が当たらないようにし、ライトフレ
ームを撮像したときと同じ露出時間で、また同じ冷却温度で撮像すればよい。
・CCD を冷却するにはペルチェ素子や液体窒素を使うなどといった方法がある。
本研究で使用した冷却 CCD ではペルチェ素子が使われた。ペルチェ素子とは電
流を流すことによって一方の面は温度が下がり、もう一方の面は温度が上がる
という特性を持つ半導体のことである。
図 1.4 ペルチェ素子
―リッチー・クレチアン式反射望遠鏡
・Ritchy-Chretien telescope 主鏡を方物面、副鏡を双曲面からわずかに変えた
高次元非球面とし、収差を高度に除去したカセグレン式の反射望遠鏡。1920 年
代にアメリカのリッチーとフランスのクレチアンによって考案された。普通の
カセグレン系に比べて明るく、球面収差もコマ収差もなく視野が広いが、像面
湾曲が大きく焦点面が強い凹面鏡となる。すばる望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡
もリッチー・クレチアン式を採用している。
本研究では大学構内にあるこの型の望遠鏡を使用し観測した。
図 1.5 大学構内 天文ドームにあるリッチークレチアン式反射望遠鏡
Ⅱ章
―観測方法
準備其 1
・先ず観測対象となる目標天体を決めることから始める。本研究期間から考え
るとできるだけ周期が短い星を選択することが前提となってくる。そこで超短
周期と呼ばれる、ほうおう座 SX 型(SX PHE)の中から、夏から冬の初めあたり
にかけてまで見えるみずがめ座 CY(CY Aqr)を目標星とすることにした。
目標天体が決まったら AAVSO(アメリカ変光星観測者協会)と呼ばれる、変光星
に興味あるアマチュアと専門天文家が組織している世界規模の非営利、科学的
及び教育的組織のウェブサイトにて目標天体の星図を手に入れる。
その星図の中から目標天体との光度の比較ができる比較星(標準星)を 2 つ以
上見つけ、決定する。その際比較星の光度が定まっているかどうかが重要であ
る。
―準備其 2
・本研究で実際に使用した機材を紹介する。
-CCD カメラ
SBIG STL-11000M
-リッチークレチアン型反射望遠鏡
西村製作所
制御ソフト:The Master of Telescope Version 2008.07J
-ステラナビゲータ Ver.9(天文シミュレーションソフトウェア)
-ステライメージ Ver.6(天体画像処理ソフトウェア)
図 2.1
CCD カメラ
SBIG STL-11000M
―準備其 3
・AAVSO で入手したみずがめ座 CY の星図。
中心にある白丸が目標の変光星で、その左隣あたりにあるのが比較星1(C1)。
目標星の右上あたりあるのが比較星2(C2)。
C2
C1
図 2.2 みずがめ座 CY の星図
この星図から得られる情報として
名称
CY Aqr(みずがめ座 CY)
赤経
22h37m47s.85
赤緯
+01°32′3.8″
Magn(変更範囲)
10.4-11.2V
Period(変更周期)
0.061038408(≒87.9 分)
Type SXPHE
Spec(スペクトル型)
A2-A8
というのが読み取れる。
ここで得た情報は本研究を進めるにあたって軸となるものである。
●CCD カメラの設定
先ず CCD カメラの配線を繋げパソコン上にある専用のソフトによって CCD
カメラを制御する。観測を始めるにあたって CCD の温度を下げる作業を一番初
めに行わなければならない。なぜなら温度は時間をかけてゆっくり下げていか
ないと急激な温度の変化によって受光面に霜がつき CCD カメラが破損しかね
ないからである。基本的に天体ドーム内は一定の温度に保たれてはいるがドー
ムを開けてしまえば外気と変わらなくなるので要注意である。
CCD カメラは外気から-20℃程度まで下げる。この作業を約 30 分から 1 時間
程度で完了させる。
温度を安定させたらここで望遠鏡と CCD カメラをドッキングさせる。この作
業はできれば二人以上で行った方がよい。前後左右水平にしっかりとセットし、
望遠鏡の制御ソフトにて先程の星図に記載されていた座標(赤経・赤緯)を入
力し望遠鏡を目標天体へと向ける。フィルターの種類もこの時に決定しておく。
●フォーカス
本番の撮像に入る前にピントを合わせる作業を行う。望遠鏡にピントを合わ
せたり本体を動かすためのリモコンがついているのでそれによってちょうどよ
く見える数値を探す。フォーカスの画像は CCD カメラの制御ソフトに送られ確
認できる。肉眼ではフォーカスの善し悪しは判別できないので明るさのピーク
値によって判断する。ピーク値は 3 万~5 万が好ましい。この作業は慣れていな
いと 1 時間以上かかる場合がある。
―観測
~撮像~
・これで全ての準備が整ったので実際に観測作業に入る。
先ず初めに撮像条件を整える。露出時間、撮像枚数、ダークフレーム処理、
フィルター、画像サイズを決めて撮像していく。本研究ではダークフレーム処
理に関しては一貫して 4 枚に 1 枚というペースで撮像してきた。
実際観測に当たって注意しなければならないことがある。長時間にわたって
観測していくとピントがずれてくる。そこで 1 時間に 1 回はもう一度ピント合
わせをした方がよいということ。そして寒さ対策は万全にすること。
ここで観測日、枚数、観測条件などを表にした。
観測日
撮像枚数
露出
フィルター
ダーク処理
2011 年 8 月 19 日 48 枚
2秒
なし
1/4
9 月 15 日
280 枚
2秒
なし
1/4
11 月 16 日
80 枚
2秒
V(黄緑)
1/4
11 月 17 日
158 枚
10 秒
V(黄緑)
1/4
11月 25 日
140 枚
4秒
V(黄緑)
1/4
12 月 12 日
100 枚
5秒
B(青)
1/4
12 月 15 日
260 枚
7秒
B(青)
1/4
12 月 19 日
215 枚
10 秒
B(青)
1/4
実際はこれらの他にも観測はしているが天候不順のため途中で断念している。
比較星 C2
比較星 C1
目標星
図 2.3 CCD カメラで撮像した実際の写真(フィルターなし)
Ⅲ章
―画像解析
・画像解析にはステライメージを使う。その補助にステラナビゲータも使用。
手順としては撮像し終えた画像データをステライメージの中で光度測定をし、
そこで得られたテキストデータを Excel に入力。最終的に Excel 内で光度曲線
を作っていく。ステラナビゲータはステライメージで光度測定する際、比較星
の光度を入手するために使用する。
図 3.1
ステライメージ 光度測定中のスクリーンショット
光度測定をする際 1 枚の画像で 5 回分測定をし、その平均値をとる。つまり 100
枚の画像があった場合、500 回の光度測定をすることになる。
Excel へ数値の入力が完了したらグラフを作成する。横軸にはユリウス日とり縦
軸には等級をとる。
・ユリウス日
紀元前 4713 年 1 月 1 日、グリニッジ正午から通して数えた通日のこと。時代
や地域による暦に関係なく出来事の日時を表現できるので、天文学や歴史学で
使用される。
・得られたデータのカウント値から等級に変換させるにはポグソンの式
を用いて、
mag:目標星の等級
Cc:基準星 C1,C2 の各カウント値
CYc:目標星のカウント値
Cmag:基準星の等級(ステラナビゲータより)
で表される。
2455019.5604
2455019.5549
2455019.5493
2455019.5437
2455019.5382
2455019.5326
2455019.5264
2455019.5208
2455019.5153
2455019.5097
2455019.5035
2455019.4986
2455019.4924
2455019.4868
2455019.4813
2455019.4757
2455019.4701
2455019.4646
2455019.459
2455819.4486
2455019.4535
Ⅳ章
―観測結果
・縦軸は等級、横軸はユリウス日で表した。
・9 月 15 日(フィルター無し)
9.8
10
10.2
10.4
10.6
10.8
11
CY1
11.2
CY2
11.4
11.6
途中途切れているところはデータとして不十分だったのでグラフにされていな
い。
CY1 は C1 を比較星としたもの、CY2 は C2 を比較星にしたものである。
・11 月 16 日(V バンド)
9.6
9.8
10
10.2
10.4
10.6
10.8
11
CY1
CY2
11.2
11.4
・11 月 17 日(V バンド)
9.8
10
10.2
10.4
10.6
10.8
11
11.2
11.4
CY1
CY2
・11 月 25 日(V バンド)
9.8
10
10.2
10.4
10.6
10.8
CY1
CY2
11
11.2
11.4
・12 月 12 日(B バンド)
10
10.5
11
11.5
12
12.5
13
13.5
14
CY1
CY2
・12 月 15 日(B バンド)
8.5
9
9.5
10
10.5
CY1
CY2
11
11.5
・12 月 19 日(B バンド)
8.5
9
9.5
10
10.5
11
11.5
CY1
CY2
Ⅴ章
―検証
・先ず、観測して得られたデータから擬似的な長周期の光度曲線を求める。
光度曲線の最大光度(データ上の山の部分)から 1 周期分のデータを切り取り、
経過時間に合わせて繋ぎそれを擬似的な長周期の光度曲線とした。使用するデ
ータは、11 月 25 日と 12 月 19 日のものとする。
8.5
9
9.5
11/25 CY1
10
11/25 CY2
12/19 CY1
12/19 CY2
10.5
11
11.5
※横軸に経過時間が入る
このグラフは部分的に切り取ってみたものだが、両日の経過時間を合わせ重ね
合わせると同じ時間で同様の変光パターンを示していることがわかる。つまり
尐なくともこの期間内では一定の変光周期をもった変光星ということが伺える。
さらに両日の間の日にちに観測したデータを同じように経過時間を合わせて重
ね合わせてみる。
8.5
9
9.5
11/25 CY1
10
11/25 CY2
12/15 CY1
12/15 CY2
10.5
11
11.5
※横軸は経過時間
11 月 25 日と 12 月 19 日の間の 12 月 15 日の光度曲線を 11 月 25 日の擬似的な
長周期光度曲線と経過時間を合わせ重ねて比較してみた。このグラフを見ても
やはり同様の変光パターンで変光していることがわかる。
この検証結果を見るに、CY Aqr の変光周期は 87.9 分であることが正しく、一
定の(尐なくともこの期間内では)変光パターンで変光しているということが
確かめられた。
・次に B-V 色指数を用いて目標天体の表面温度を求めてみる。
‐色指数とは
二つの波長領域で測られた天体の等級差。一般的には短波長側から長波長側
を引くので、温度の低い天体ほどプラスになる。以前は「写真等級―実視等級」
を色指数と呼んだ。現在では、可視光での UVB 測光系の B 等級と V 等級の差
B-V がこれに当たる。OB 型ではマイナス、AO 型ではゼロ、晩期型星ではプラ
スとなる。
今回得られた内の、11 月 25 日(V バンド)と 12 月 15 日(B バンド)のデー
タを用いて B バンドの数値から V バンドの数値を引いたグラフをとってみる。
横軸には経過時間を合わせた写真の枚数をとっている。1 つ目は CY1、2 つ目の
グラフは CY2 のグラフである。
0.3
0.1
-0.1
-0.3
-0.5
-0.7
B-V指数(CY1)
1
5
9
13
17
21
25
29
33
37
41
45
49
53
57
61
65
69
73
77
81
85
89
93
97
101
105
-0.9
0
1 5 9 13 17 21 25 29 33 37 41 45 49 53 57 61 65 69 73 77 81 85 89 93
-0.1
-0.2
-0.3
-0.4
-0.5
-0.6
-0.7
-0.8
-0.9
B-V色指数(CY2)
-1
ここで表面温度を求めるためグラフから数値を抜粋するが CY2 に関してはピン
トのずれが顕著であると思われるため今回は CY1 のみで検証をすることにした。
‐色指数と表面温度
色指数と表面温度の関係は以下の式で表わされる
この式に B バンド、V バンドでとった CY1 のグラフの最高値、最低値を B,V に
代入してみる。すると、
最高値:T=34001.43164[K]
最低値:T=8523.237036[K]
という値になった。
ここで表面温度とスペクトル型の確認をしておく。
・O 型:30,000~60,000[K]
・B 型:10,000~30,000[K]
・A 型:7,500~10,000[K]
青
青白
白
・F 型:6,000~7,500[K]
・G 型:5.000~6,000[K]
・K 型:3,500~5,000[K]
・M 型:2,000~3,500[K]
薄黄
黄
橙
赤
ほうおう座 SX 型の既存データではスペクトル型は A2-A8、つまり A 型の範囲
内で変光していることになるが、今回の観測データからは A 型から O 型の範囲
で変光しているという結果になった。
Ⅵ章
―考察
変光周期を求めることに関しては限定的期間内かつ、今一つ信憑性に欠ける
解析手段に頼ってしまったが概ね既存データに沿った結果になった。
問題は表面温度に関してである。これは既存のデータから大きく違えた結果に
なってしまった。
先ず B バンドフィルターを通しての光度曲線において、CY1 と CY2 に等級
のずれが生じてしまっている。本来なら V バンドフィルターでとった光度曲線
のように CY1 と CY2 がある程度重なっているはずである。そして B バンドの
数値から V バンドの数値を引いた値に関して、既存のデータ通りなら最大値も
最小値もプラスの範囲内で収まるはずである。しかしグラフからも見てわかる
ように、今回の観測データからはマイナスの範囲にまで亘ってまで数値の差が
ある。
光度曲線のずれに関しては、V バンドフィルターで撮った場合の CY Aqr, C1,
C2 のカウント値と、B バンドフィルターで撮った場合の CY Aqr, C1, C2 のカ
ウント値を比べてみると、C1 はある程度両バンドで似たような数値であったが、
B バンドの C2 のカウント値が明らかに下がっていることがわかった。これはピ
ントがすれている可能性、或いは C2 の星そのものの色が B バンドフィルター
を透過しにくい色ではないのかということも考えられる。
表面温度の誤差に関しては、B-V 色指数は等級に左右されるため今回の観測
結果では V バンドに関しては既存データの変更範囲とほぼ合っているため B バ
ンドの等級に問題があると考えられる。考えられる原因としては、B バンドフ
ィルターでの光度曲線が明るすぎることにある。明るくなった理由は先ず一つ
に C1 に対してのピントのずれ、そして C1 の星の色も B バンドフィルターを透
過しにくい色である可能性があることが考えられる。
何にせよこれからも観測を続けていきより多くのデータを撮っていけば今回
出た問題も解決できるだろう。
Ⅶ章
―まとめ
大学構内の望遠鏡でもそれなりに結果を出せたので、もっと回数を重ねて長期
間で観測をすればより正確なデータがとれるはずである。さらに言うと、フィ
ルターも様々な色にかえて観測をすれば尚良い。
画像解析においてはグラフを作成するならば専用のグラフ解析ソフト使用した
ほうがよい。Excel ではとにかく面倒だ。
本研究にあたっては、宇宙というとてつもないスケールの中のほんの一粒の砂
を調べることにおいて、それだけでも非常に奥の深い話に繋がることがわかり
改めて途方もない世界にいるのだと思い知らされた。
今回の研究が今後どのように影響していくかわからないが本研究で得た知識や
作業は尐なからず日々の生活に生かしていけたらと思う。
―謝辞
本研究を行うにあたりご助力下さいました祖父江先生、並びに望遠鏡や CCD に
関して多大な支援して下さった日比野さんにお詫び申し上げるとともに深く感
謝いたします。そして同研究室のみなさまも 1 年間付き合って下さりありがと
うございました。
参考文献
・地人書館―天文学大辞典:天文学大辞典編集委員会 編
・誠文堂新光社―天文アマチュアのための冷却 CCD 入門:福島英雄 著
・誠文堂新光社―天体観測の教科書変光星観測編:日本変光星研究会 編
・AAVSO 変光星眼視観測用マニュアル:日本語版翻訳者 辻誠滋
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