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タイにおけるソフトウェア産業と コンテンツビジネス

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タイにおけるソフトウェア産業と コンテンツビジネス
No.161
タイにおけるソフトウェア産業と
コンテンツビジネス
バンコク事務所
川越 信一郎
タイでは、地上デジタル放送の開始やスマートフォンの普及によるコンテンツ市場の拡大等を背景として、ソフト
ウェア開発やコンテンツ制作を行う県内企業による市場調査、進出相談が増えてきた。本稿では、政府機関や現地企業
等から得た情報やアドバイスを参考に、優れた技術やアイデアを持つ県内企業がどうすればタイ国内でアクションを起
こしやすくなるかについて考えてみたい。
1
はじめに
昨年、タイで地上デジタル放送が始まった。開始当初の受
信エリアは、首都バンコクなどに限られていたが、タイ政府
は今年中に全国へ広げ、2020年迄にアナログからの完全移
行を目指している。この地上デジタル放送の開始にあわせ、
チャンネル数は6チャンネルから24チャンネルへと4倍に
拡大した。そのため、多くの番組やCMが必要となり、タイ
国内におけるコンテンツ制作にも一層の力が入ることとなっ
た。この動きは国内にとどまらず、日系企業も現地企業と共
同で制作プロダクションを立ち上げるなど、タイのコンテン
ツ市場への参入を図り、流れに乗り遅れまいとしている。
この春、福岡も撮影の舞台となった、地上デジタル放送開
始を記念した大型ドラマ「きもの秘伝」がタイ・チャンネル
3で放映された。訪日ブームに沸くタイでは、各局が競う
ように日本をテーマとした映像コンテンツを制作しており、
TV放送だけではなく、PCやモバイル端末でも視聴できる。
アニメーション
2%
表1 ソフトウェア産業市場構成比
ゲーム
モバイルアプリケーション
2%
3%
組み込みソフトウェア
11%
映画
11%
SaaS
30%
企業アプリケーション
57%
ゲーム
3%
ルアプリケーション
2%
ソフトウェア
1%
モバイル
パッケージソフト
18%
アニメーション
2%
映画
11%
SaaS
30%
企業アプリケーション
57%
モバイル
パッケージソフト
18%
メディア
66%
表2 コンテンツ市場構成比
データ提供:ソフトウェアパーク・タイランド
22
BUSINESS SUPPORT FUKUOKA 2015.10
タイでは、年間を通じてコンテンツビジネスのマッチング
が活発に行われており、新しい技術やアイデアがソフトウェ
ア産業をはじめ関連産業の発展にも大きく寄与している。
また、タイ政府が今年改正した新投資奨励制度の中で、デ
ジタルコンテンツの制作を含む「ソフトウェア事業」を、特
に重要で国益をもたらす業種として指定したため、上限なし
で法人所得税が免除されることとなった。
2
市場概要と国家機関による取組み
タイ市場の概要を掴むため、タイ国政府科学技術省所管の
ソフトウェアパークを訪問した。同パークは、2001年に産業
育成を目的としてバンコク郊外に建てられ、高機能PCを備
えた研修室、ホール、貸オフィス等を備えている。今回は、責
任者のチャラームポル・トゥチンダ氏に、
タイの現状と同パー
クの取組みについてお話を伺った。
タイのソフトウェア産業の市場構成比(表1)について、
数字が発表されている2012年のデータを見てみると、企業
アプリケーションが半数以上を占め、
以下、SaaS(サース)1、
組込みソフトウェア、モバイルアプリケーションの順になっ
ている。また、コンテンツ市場構成比(表2)では、テレビ、
新聞、雑誌などのメディア関連が60%以上と高い比率を占め
ている。
ソフトウェア産業のうち、企業アプリケーションは政府や
金融機関向けが、
組込みソフトウェアは自動車分野が半数以
メディア
66%
上を占めているが、
今後は、成長市場として見込まれる食品、
農業、教育、観光、物流、ヘルスケア分野においても事業開発
支援等に力を入れていきたいとのことであった。また、昨年
は携帯電話の3Gから4Gへの移行や、デジタル放送の開始
という大きな要因もあり、スマートフォンを活用したコンテ
ンツビジネスが活発になったが、引き続き同様の傾向が続く
と予測していると
の意見であった。
同 パ ー ク で は、
事業開発支援のプ
ロ グ ラ ム を 設 け、
プロトタイプの作
成からビジネスモ
デルおよびプラン
の形成、事業創出、
市場参入といった
各段階に応じて必
貸しオフィスの様子
要なメニューを提供している。昨年は約6,000人の利用があ
り、施設内の貸しオフィスには62社(2015年6月現在)が入
居している。さらに、ASEAN諸国、韓国、台湾のソフトウェ
アパークとも連携しており、
海外での支援体制も整えている。
また、パーク内の施設を使って、セミナー、講演会、タイ企業
とのマッチング事業等も企画できるため、有効に活用してほ
しいとのことであった。
3
タイ企業の取組みと現状
次に、タイで約20年に渡ってソフトウェア開発を行ってい
る「インステップ・グループ」を訪問した。同グループは、シ
ステム開発、ハードウェア設計、ゲーム・モバイルコンテン
ツ制作など7つの会社で構成され、日系企業からの受託開発
を行うなど日本とのつながりも深い。今回、グループ代表の
ウィワット・ウォンワラウィパット氏に話を伺った。
同グループの特長は、開発設計から技術サポートまで幅広
い分野に対応できる力を持ちながら、案件ごとに対象となる
マーケットを定め、専門の会社を設立して事業展開している
ことである。一つの会社の中に複数の事業部門を抱えるので
はなく、それぞれ独立した会社として役割を明確にすること
で、顧客の要望やスピードにも柔軟に対応できるようになっ
ている。現在、グループ全体で200名ほどの社員を抱えてお
り、人材登用や育成について尋ねたところ、以前は自社内で
育成するしかなかったが、ここ2~3年はヒューマングルー
プやデジタルハリウッドなどの日系専門学校もタイへ進出
し、選択の幅は広がっているとのことであった。一方、課題
としては、ソフトウェア分野は小規模な会社が多いため銀行
から融資を受けづらく、資金調達が容易ではないこと、経済
の発展とともにグローバル連携も問われてくると思われるこ
とを挙げられていた。
続いて、今年、映像コンテンツ事業に本格的に乗り出した
「サーモンハウス社」のプロデューサー、ピランダ・パッタナ
モーンラート氏に話を伺った。
同社は、
出版やアニメーション制作会社を抱える
「バンルー
グループ」傘下で、マンガ出版などを手がけている。同社出
版のバスケットボール漫画「SUPER DUNKER」は、日本
の外務省主催の国際漫画賞でタイ初の最優秀賞に輝いた。ま
た、最近は、若者対象のフリーペーパー「giraffe」が人気を
博し、ファッションや音楽が好きなタイの若者からの支持を
大きく伸ばしている。同氏によると、映像コンテンツ事業を
始めたきっかけは、デジタル放送開始によるチャンネル数の
拡大とモバイル端末普及の影響が大きいとのことであった。
タイの若者の多くはモバイル端末で映像を楽しんでおり、情
報はLINEやFacebookを使って拡散されるが、今一番注目
しているのは、日
本をテーマにした
旅と若者文化を発
信するコンテンツ
であると話してく
れた。訪日ブーム
の今、タイのTVや
インターネットに
は日本情報を発信
する旅番組が溢れ
ている。だからこ
そ差別化が必要で
H U B B A は一軒家を改造し、
あり、単なる旅番
庭も備えられている。 お問い合わせ
組とならないよう、得意の若者文化と組み合わせた面白い企
画をつくりたいと意気込んでいる。
4
タイのスタートアップ環境
首都バンコクには、事務所スペース、会議室などを共有し
ながら独立した仕事を行うことができるコワーキングスペー
スと呼ばれる施設がいくつかある。今春、県内企業とともに、
コワーキングスペースの代表的施設「LAUNCHPAD(ロー
ンチパッド)
」と「HUBBA(ハッバ)2」を訪問した際スタッ
フに尋ねたところ、
日本人の利用もしばしばあるとのことで、
訪問した日も何人かの姿が見られた。
次に、タイで成功しているスタートアップ企業の一つで、
アセアンの電子書籍市場において650万人のユーザーを抱え
るOokbee(ウークビー)社の日本人取締役の松尾俊哉氏に
伺った話をご紹介したい。同社は、もともとシステム開発会
社の電子書籍販売部門として2010年に立ち上がり、その後、
事業の将来性に目をつけたタイ携帯キャリア大手AIS(エー
アイエス)社の主要株主であるInTouch(インタッチ)社か
ら2012年に資本提供を受けて独立会社となった。2014年に
は日本のトランスコスモス社と資本・業務提携を行い、事業
の急成長を支えている。
松尾氏によると、この他にもいくつかの日本企業がタイの
スタートアップ企業に関心を持ち、実際に投資家側として参
画している例があるとのこと。ここバンコクでは、
「ピッチ
イベント」と呼ばれる投資家等に向けた短時間のプレゼンコ
ンテストも行われており、
投資家側としてだけでなく、
プレー
ヤーとしての日本のスタートアップ企業や日本人起業家の参
加が多くなるよう待ち望みたいと、期待を込めて述べられて
いた。
5 タイで成功するために、県内企業の進出を考える
タイでサービス業を営む場合、タイ人が過半数の資本を持
たなければならないと外国人事業法に定められている。その
ため、インターネットやモバイルを活用したサービスを提供
しようと考えているのであれば、まずはタイ企業やタイ人と
パートナーを組む必要がある。
また、長年タイと日本のソフトウェア業界を見てこられた
前述のウィワット氏からは、
「タイには、中国、インド、韓国
の企業も数多く進出している。日本で厳しいからといって成
功できるほど甘くない。
日本は日本の環境で守られているが、
ここでは世界とも競争しなければならない。
特徴はあるのか、
勝てるものはあるのか、覚悟を決めて出てきてほしい。
」と気
を引き締められる助言をいただいた。
一方で、成功するためには、
「日タイが互いに知り合い、勉
強する場をつくり、優れた技術やアイデアを持つ日本の地方
からアクションを起こしていくことも必要だ。
」との助言も
あった。
当事務所でも、優れた技術やアイデアを持つ県内企業や事
業家の皆様とアクションを起こすべく、各種情報提供や市場
調査、進出相談等のサポートを行っているので、是非ご活用
いただきたい。
1
2
Software as a Service。従来の“製品としてユーザーへライセンスを販
売する”のではなく、“提供者側のソフトウェアをネットワーク経由で
使用し、使用した分だけ料金を支払う”サービス形態。
両社とも、1日単位で利用できるタイで代表的なコワーキングスペース。
定期的にミートアップと呼ばれる交流イベントや情報交換等の場を開い
ている。
情報取引推進課 TEL:092-622-6680
BUSINESS SUPPORT FUKUOKA 2015.10
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