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Kobe University Repository : Thesis
Kobe University Repository : Thesis 学位論文題目 Title 船舶の錨泊監視支援に関する研究 氏名 Author 矢野, 吉治 専攻分野 Degree 博士(海事科学) 学位授与の日付 Date of Degree 2008-09-12 資源タイプ Resource Type Thesis or Dissertation / 学位論文 報告番号 Report Number 乙3013 URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/D2003013 ※当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。 著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。 Create Date: 2017-03-30 神戸大学博士論文 船舶の錨泊監視支援に関する研究 平 成 20 年 7 月 矢野 吉治 目次 第1章 緒論 1 1.1 研 究 の 背 景 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 1.2 研 究 目 的 ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 5 2.1 船 と 錨 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 2.2 荒 天 避 泊 ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 2.3 海 図 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 2.4 錨 地 の 選 定 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 2.5 錨 泊 に 影 響 す る 外 力 ・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 2.6 2.5. 1 風 圧 力 の 推 算 ・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 2.5. 2 風 圧 係 数 ・ ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 1 2.5. 3 受 風 面 積 ・ ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 1 2.5. 4 風 圧 力 ( 風 圧 合 力 ) ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 1 2.5. 5 潮 流 に よ る 流 圧 ・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 3 錨 と 錨 鎖 に よ る 係 駐 力 の 推 算 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 3 2.6. 1 風 圧 合 力 と 係 駐 力 の 仮 定 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 4 2.6. 2 錨 の 把 駐 力 と 錨 鎖 の 摩 擦 抵 抗 力 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 4 2.6. 3 錨 鎖 の 海 底 係 駐 部 の 長 さ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 5 2.6. 4 錨 鎖 の カ テ ナ リ ー ( 懸 垂 部 ) の 長 さ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 2.6. 5 錨 と 錨 鎖 の 推 算 係 駐 力 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 6 2.6. 6 仮 定 に 基 づ く 推 算 風 圧 力 の 算 入 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 6 2.6. 7 仮 定 に 基 づ く 錨 と 錨 鎖 の 係 駐 力 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 7 2.7 深 江 丸 の K S - 8 型 錨 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 7 2.8 風 圧 合 力 と 係 駐 力 推 算 の た め の 定 数 と 変 数 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 2.9 錨 泊 法 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 0 2.9. 1 単 錨 泊 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 0 2.9. 2 単 錨 泊 と 振 れ 止 め 錨 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 0 2.9. 3 2 錨 泊 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 1 2.9. 4 双 錨 泊 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 1 Ⅰ 2.10 投 錨 操 船 法 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 2 2.10 . 1 前 進 投 錨 法 ・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 2 2.10 . 2 後 進 投 錨 法 ・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 2 2.11 錨 泊 に 関 連 す る 海 上 衝 突 予 防 法 の 規 則 と 海 難 審 判 法 の 総 則 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 3 2.11 . 1 海 上 衝 突 予 防 法 の 規 則 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 3 2.11 . 2 海 難 審 判 法 の 総 則 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 7 2.12 本 章 の ま と め ・・・ ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 8 第3章 統 合 化 航 海 情 報 処 理 シ ス テ ム の 構 築 と 運 航 支 援 情 報 の 提 供 29 3.1 研 究 の 背 景 と 概 要 ・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 9 3.2 船 内 LANを 用 い た 運 航 デ ー タ の 収 集 と 転 送 ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 0 3.3 統 合 化 航 海 情 報 処 理 シ ス テ ム ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 1 3.4 統 合 化 航 海 情 報 処 理 シ ス テ ム の 情 報 表 示 の 概 念 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 32 3.5 統 合 化 航 海 情 報 処 理 シ ス テ ム の 基 本 画 面 ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 3 3.5. 1 E N C : 電 子 海 図 画 面 ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 3 3.5. 2 M a i n: メ イ ン 画 面 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 7 3.5. 3 M e t e r : M et e r 画 面 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 8 3.5. 4 L o g / W x: 速 力 ・ 気 象 / ベ ル ブ ッ ク 記 録 画 面 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 8 3.5. 5 C h a r t i m ag e Se l e ct i o n M e nu : 紙 海 図 表 示 画 面 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 0 3.5.6 C o u r s l i ne S el e c ti o n M e n u: コ ー ス ラ イ ン 選 択 ・ 設 定 画 面 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 1 3.5. 7 3.6 O p t i o n / S et t i ng M en u : 各 種 表 示 設 定 画 面 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 2 情 報 表 示 M 2 画 面 ・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 3 3.6. 1 A I S / A R P : A I S /A R P A情 報 表 示 画 面 ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 3 3.6. 2 O r d e r R e co r d : エ ン ジ ン モ ー シ ョ ン ・ 操 舵 指 示 記 録 画 面 ・ ・ 4 4 3.6. 3 E n g i n e M /E : 主 機 関 運 転 監 視 画 面 ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 5 3.6. 4 E n g i n e D /G : 発 電 機 運 転 監 視 画 面 ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 5 3.6. 5 E n g i n e M on i t or : メ イ ン エ ン ジ ン ・ ロ ガ ー , ロ ー ド ・ モ ニ タ ー 画 面 ・ ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 6 3.6. 6 F . O . T a n k /L . O .S u m p. T a nk : 燃 料 , 潤 滑 油 タ ン ク ・ コ ン デ ィ シ ョ ン 画 面 ・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 6 3.7 離 着 さ ん の 低 速 時 及 び 錨 泊 中 の 船 体 移 動 予 測 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47 3.8 錨 泊 監 視 機 能 ・・・ ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 1 3.8. 1 錨 泊 監 視 項 目 ・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 1 Ⅱ 3.8.2 錨 泊 監 視 機 能 の 特 徴 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 2 3.8.3 風 圧 力 の 推 算 表 示 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 4 3.8.4 錨 と 錨 鎖 に よ る 係 駐 力 の 推 算 表 示 ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 4 3.8.5 錨 泊 中 の 船 体 移 動 予 測 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 5 3.8.6 警 報 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 5 3.8.7 錨 泊 監 視 デ ー タ の 保 存 と 再 現 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 5 3.8.8 錨 の 投 下 位 置 と 揚 錨 時 の 立 錨 の 位 置 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56 3.9 本 章 の ま と め ・・・ ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 7 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 59 4.1 研 究 の 背 景 と 概 要 ・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 5 9 4.2 神 戸 大 学 大 学 院 海 事 科 学 研 究 科 附 属 練 習 船 深 江 丸 (ふ か え ま る )・・・ 60 4.3 深 江 丸 の 錨 泊 状 態 の 分 析 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 2 4.4 4.3. 1 収 集 デ ー タ の 処 理 と 分 析 方 法 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 2 4.3. 2 分 析 結 果 ・ ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 4 4.3. 3 錨 泊 地 と 振 れ 回 り の 関 係 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 7 4.3. 4 要 約 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 8 4.3. 5 錨 泊 状 態 分 析 の ま と め ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 9 実 船 に お け る 強 風 下 の 船 体 振 れ 回 り 抑 止 実 験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70 4.4.1 実 船 実 験 の 概 要 ・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 0 4.4.2 船 体 に 作 用 す る 風 圧 力 ( 風 圧 合 力 ) の 推 算 ・・・・・・・・・・・・・・ 70 4.4.3 実 験 時 の 気 象 と 海 象 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 2 4.4.4 実 験 条 件 ・ ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 3 4.4.5 実 験 設 定 ・ ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 3 4.4.6 分 析 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 4 4.4.7 風 圧 力 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 7 4.4.8 船 首 の 振 れ 回 り 角 度 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 7 4.4.9 船 体 の 振 れ 回 り 幅 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 8 4.4.1 0 相 対 風 向 角 の 時 間 的 割 合 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 9 4.4.1 1 前 進 推 力 を 用 い た と き の 船 体 挙 動 ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 9 4.4.1 2 振 れ 回 り 抑 止 実 験 の 考 察 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 1 4.4.1 3 本 実 験 の ま と め ・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 2 4.5 台 風 1 6 号 ( 2 0 0 4 16 C HA B A ) に よ る 暴 風 下 の 走 錨 と 走 錨 直 後 に お け る 船 体 の 挙 動 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 3 Ⅲ 4.5.1 分 析 に 至 る 経 緯 ・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 3 4.5.2 台 風 の 暴 風 と 深 江 丸 の 走 錨 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 4 4.5.3 気 圧 と 風 速 変 化 に よ る 台 風 接 近 の 状 況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86 4.5. 4 走 錨 の 分 析 ・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 8 4.5. 5 走 錨 の 発 生 ・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 9 4.5. 6 走 錨 前 後 に お け る 船 体 の 移 動 軌 跡 ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 9 4.5. 7 走 錨 前 後 に お け る 船 体 の 振 れ 回 り 状 況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 91 4.5. 8 風 向 と 風 速 及 び 最 大 瞬 間 風 速 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 2 4.5. 9 船 体 の 振 れ 回 り 周 期 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 2 4.5. 1 0 船 体 の 振 れ 回 り 幅 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 2 4.5. 1 1 船 首 方 位 ・ ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 2 4.5. 1 2 風 の 最 大 迎 え 角 ・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 3 4.5. 1 3 D - G P S コ ー ス ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 3 4.5. 1 4 D - G P S ス ピ ー ド ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 3 4.5. 1 5 走 錨 直 後 に お け る 船 体 挙 動 の 考 察 ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 3 4.5. 1 6 走 錨 の ま と め ・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 4 4.6 本 章 の ま と め ・・・ ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 6 第5章 統合化航海情報処理システムの活用 99 5.1 研 究 の 概 要 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 9 5.2 深 江 丸 K S - 8 型 錨 の 把 駐 係 数 の 推 算 実 験 ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 0 5.3 実 船 に お け る 船 底 汚 損 の 推 定 実 験 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 1 5.4 低速域においてプロペラ推力と回頭方向が船の旋回に及ぼす 影 響 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 4 5.5 海 中 転 落 者 へ の 接 近 操 船 法 W il l i am s o n t u rn の 検 証 実 験 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 6 5.6 本 章 の ま と め ・・・ ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 8 第6章 結論 109 謝辞 113 参考文献 115 Ⅳ 図目次 2.1 周 期 的 な 振 れ 回 り ( 横 8 の 字 運 動 ) の 例 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 2.2 走 錨 前 後 に お け る 船 体 の 挙 動 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 2.3 相 対 風 向 と 風 圧 合 力 の 関 係 ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 2 2.4 相 対 風 向 と 相 対 風 速 ( 15~ 40m /秒 の 5 m 間 隔 ) に よ り 深 江 丸 に 作 用 す る 風 圧 合 力 の 推 算 値 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 2 2.5 単 錨 泊 中 の 錨 と 錨 鎖 及 び 外 力 の 関 係 ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 3 2.6(a) K S -8 型 錨 ( 側 面 ) ・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 8 2.6(b) K S -8 型 錨 ( 上 面 ) ・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 8 2.6(c) 船 首 部 の 錨 ・・ ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 8 2.7 一 般 的 な 錨 泊 方 法 ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 0 3.1 統 合 化 航 海 情 報 処 理 シ ス テ ム の 構 成 ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 2 3.2 阪 神 港 神 戸 区 を 航 行 中 の F Na v i -X 画 面 ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 6 3.3 明 石 海 峡 通 過 後 の F Navi - X 画 面 ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 6 3.4 M a i n画 面 の 表 示 例 ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 7 3.5 M e t e r画 面 の 表 示 例 ・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 8 3.6(a) L o g / W x 画 面 の 表 示 例 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 9 3.6(b) B e l l B o o k画 面 の 記 録 表 示 例 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 9 3.7(a) C h a r t i m a g e S e l ec t i on M en u 画 面 の 表 示 例 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 0 3.7(b) 紙 海 図 画 面 の 表 示 例 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 0 3.8(a) C o u r s l i n e Se l e ct i o n M e nu 画 面 の 表 示 例 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 1 3.8(b) 選 択 し た C o u rs l in e 画 面 の 表 示 例 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 1 3.9(a) O p t i o n / S e t t in g Me n u 画 面 の 表 示 例 1 ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 2 3.9(b) O p t i o n / S e t t in g Me n u 画 面 の 表 示 例 2 ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 2 3.9(c) O p t i o n / S e t t in g Me n u 画 面 の 表 示 例 3 ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 2 3.9(d) O p t i o n / S e t t in g Me n u 画 面 の 表 示 例 4 ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 2 3.10 A I S画 面 の 表 示 例 ・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 3 3.11 O r d e r R e c o r d画 面 の 表 示 例 ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 4 3.12 E n g i n e M / E 画 面 の 表 示 例 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 5 3.13 E n g i n e D / G 画 面 の 表 示 例 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 5 Ⅴ 3.14 E n g i n e M o n i to r 画 面 の 表 示 例 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 6 3.15 F . O . T a n k / L . O. S u mp . T an k 画 面 の 表 示 例 ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 6 3.16 予 測 に 用 い る デ ー タ と 予 測 誤 差 ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 8 3.17 海 事 科 学 研 究 科 深 江 丸 専 用 岸 壁 に 着 さ ん 時 の FNavi-X画 面 ・・・・ 49 3.18 錨 の 投 下 位 置 と 自 船 の 位 置 関 係 を 示 す 錨 泊 監 視 画 面 の 一 例 ・・・ 53 4.1(a) 練 習 船 深 江 丸 ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 0 4.1(b) 深 江 丸 の 正 面 ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 1 4.1(c) 深 江 丸 の 側 面 ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 1 4.1(d) 操 作 ・ 表 示 用 P C ・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 1 4.1(e) 船 橋 前 面 の PC設 置 状 況 ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 1 4.2 船 体 形 状 の 軌 跡 と 船 体 及 び 船 首 の 移 動 軌 跡 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63 4.3(a) 定 常 的 な 振 れ 回 り ( 1 時 間 毎 ) ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 4 4.3(b) 定 常 的 な 振 れ 回 り ( 10分 毎 ) ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 4 4.4(a) 潮 流 下 の 移 動 例 ( 1 時 間 毎 ) ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 5 4.4(b) 潮 流 下 の 移 動 例 ( 1 0分 毎 ) ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 5 4.5(a) 円 運 動 の 代 表 例 ( 1 時 間 毎 ) ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 6 4.5(b) 円 運 動 の 代 表 例 ( 1 0分 毎 ) ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 6 4.6(a) 滞 留 状 態 の 例 ( 1 時 間 毎 ) ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 7 4.6(b) 滞 留 状 態 の 例 ( 10分 毎 ) ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 7 4.7 相 対 風 向 ・ 風 速 と 風 圧 合 力 の 関 係 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 1 4.8 相 対 風 向 と 相 対 風 速 ( 15~ 40m /秒 の 5 m 間 隔 ) に よ り 深 江 丸 に 作 用 す る 風 圧 合 力 の 推 算 値 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 1 4.9 台 風 16号 ( 200 416 CHAB A ) の 進 路 と 深 江 丸 の 位 置 関 係 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 2 4.10 8 月 3 0 日 の 真 風 向 ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 2 4.11 8 月 3 0 日 の 真 風 速 ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 3 4.12(a) 実 験 A : 単 錨 泊 ( 自 由 振 れ 回 り ) ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 5 4.12(b) 実 験 B : 単 錨 泊 + 振 れ 止 め 錨 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 5 4.13(a) 実 験 C - 1 : 単 錨 泊 + C P P 後 進 ピ ッ チ 3 度 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 5 4.13(b) 実 験 C - 2 : 単 錨 泊 + 振 れ 止 め 錨 + C P P 後 進 ピ ッ チ 3 度 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 5 4.14(a) 実 験 D - 1 : 単 錨 泊 + C P P 後 進 ピ ッ チ 5 度 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 6 4.14(b) 実 験 D - 2 : 単 錨 泊 + 振 れ 止 め 錨 + C P P 後 進 ピ ッ チ 5 度 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 6 4.15(a) 実 験 E - 1 : 単 錨 泊 + C P P 後 進 ピ ッ チ 7 度 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 6 4.15(b) 実 験 E - 2 : 単 錨 泊 + 振 れ 止 め 錨 + C P P 後 進 ピ ッ チ 7 度 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 6 4.16 船 首 振 れ 回 り 角 の 減 少 傾 向 ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 8 Ⅵ 4.17 船 体 の 振 れ 回 り 幅 の 減 少 傾 向 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 8 4.18 実 験 に 伴 っ て 変 化 し た 相 対 風 向 角 の 時 間 的 割 合 ・・・・・・・・・・・・・ 79 4.19 単 錨 泊 + CPP前 進 ピ ッ チ 3 度 の 船 体 移 動 軌 跡 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 0 4.20 単 錨 泊 + CPP前 進 ピ ッ チ 5 度 の 船 体 移 動 軌 跡 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 1 4.21 実 験 中 の 船 首 に お け る 警 戒 ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 2 4.22 実 験 中 の 両 舷 錨 鎖 ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 2 4.23 相 対 風 速 43m / 秒 の 風 速 計 の 示 度 ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 5 4.24 船 首 に お け る 錨 作 業 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 5 4.25 暴 風 下 の 海 象 ・・・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 5 4.26 台 風 1 6 号 ( 2 00 4 1 6 C H AB A ) の 進 路 と 深 江 丸 の 位 置 関 係 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 6 4.27 自 記 気 圧 計 の 気 圧 変 化 ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 7 4.28 8 月 3 0 日 午 後 の 風 向 変 化 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 7 4.29 8 月 3 0 日 午 後 の 風 速 変 化 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 7 4.30 走 錨 を 始 め る 瞬 間 の 錨 泊 監 視 画 面 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8 9 4.31(a) 走 錨 直 前 の 定 常 振 れ 回 り ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 0 4.31(b) 走 錨 直 前 の 定 常 振 れ 回 り ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 0 4.32(a) 走 錨 直 後 の 船 体 挙 動 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 0 4.32(b) 走 錨 直 後 の 船 体 挙 動 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 0 4.33(a) 走 錨 前 後 の 船 体 挙 動 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 1 4.33(b) 走 錨 前 後 の 船 体 挙 動 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 9 1 5.1 阪 神 港 神 戸 区 第 3 区 に お け る 停 止 実 験 終 了 時 の FNavi-X画 面 ・・ 101 5.2 平 均 汚 損 係 数 の 推 移 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 3 5.3 深 江 丸 の 月 別 運 航 日 数 と 航 走 距 離 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 3 5.4(a) 右 旋 回 分 析 図 1 ・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 4 5.4(b) 左 旋 回 分 析 図 1 ・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 4 5.4(c) 右 旋 回 分 析 図 2 ・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 5 5.4(d) 左 旋 回 分 析 図 2 ・・ ・・・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 5 5.5 W i l l i a m s o n tu r n 左 一 杯 転 舵 の 例 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 6 Ⅶ 表目次 4.1 1 時 間 毎 の 平 均 値 と 振 れ 回 り 幅 計 算 結 果 の 一 例 ・・・・・・・・・・・・・ 63 4.2 錨 泊 の 各 状 態 の 割 合 に 対 す る 風 潮 流 の 影 響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68 4.3 錨 泊 の 各 状 態 に 影 響 を 及 ぼ す 要 素 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6 8 4.4 推算風圧力と船体の振れ回り状況及び実験により変化した 相 対 風 向 角 の 時 間 的 割 合 ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 7 7 4.5 走 錨 前 後 に お け る 船 体 の 振 れ 回 り 状 況 の 分 析 値 ・・・・・・・・・・・・・ 91 5.1 実 験 に よ り 求 め た 平 均 汚 損 係 数 ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 2 5.2 低 速 域 旋 回 試 験 の 分 析 結 果 ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 5 5.3 原針路からの回頭角と第1回目の転舵方向の違いによる原針路 と 反 転 針 路 と の 横 距 離 ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 0 7 Ⅷ 第1章 緒論 1 .1 研究の背景 船舶が錨泊する際,通常は両舷に搭載した錨のうち片方の錨を投じて単錨泊を 行う.強風や暴風に対する走錨防止対策として,反対舷の錨を海底まで垂らす振 れ止め錨の併用や,最初から2錨泊,あるいは双錨泊の態勢をとることもある. さらに,錨泊に際して船長は,錨泊地の広狭,水深と底質,他の錨泊船の有無, 錨泊期間中に予想される最大風速や潮流などの気象・海象条件を勘案して使用す る錨及びこれに接続する錨鎖の伸出長さを決定する. 安全な錨泊態勢を維持するための錨位及び自船の振れ回り状況の確認方法とし て,陸上物標を用いた交差方位法やレーダーにより探知した陸岸の方位・距離情 報 , GPSに よ る 位 置 情 報 な ど か ら 海 図 上 に 自 船 の 位 置 を 求 め た り , ま た , 周 期 的 な船体の振れ回り運動を経過観察することなどが一般的である.しかしながら紙 海図上で自船の錨泊位置とその状態を正確に把握することは,使用している海図 の 種 類 と 縮 尺 の 限 界 ( 海 図 W 1 0 1 A : 阪 神 港 神 戸 区 で 縮 尺 1 万 5 千 分 の 1 , W 1 1 0 3: 大阪湾東部で4万5千分の1)や位置確認の精度などの理由から,船体によほど 大きな移動がない限り難しい. 経験が伴わない,あるいは乗船して間もない船舶の乗組員には,自船の錨泊状 態の把握や走錨のおそれ,走錨初期の判断が困難と感じる場面が実船現場ではよ くある.錨泊のために海底に投下した錨と,繰り出して水中にある錨鎖部分は船 上から直接視認することはできないが,風位と潮流の流向,船首ベルマウスから 海中に長く伸出した錨鎖の方向と俯角,張り具合などから錨の投下位置をある程 度推定することは可能である.しかし,通常,船上ではこれらをあまり意識する ことはなく,時々刻々と変化する風潮流などの外力の作用が結果として現れる船 体の振れ回り運動や船体の移動状況などから錨泊の現状を把握する実情にある. このようなことから,投下した錨と自船との位置関係を間接的にでも,ある程 1 第1章 緒論 度具体的な方向と距離により把握することができれば錨泊監視情報のひとつとし て有効に活用できると考えた.そこで,錨の投下と同時に細索で錨に接続したア ンカー・ブイの投下を検討した.しかしながら,この方法では本来の揚投錨作業 に支障をきたすとともに甲板作業上の危険を伴うこと,潮の干満と風浪やうねり に対する細索の調節が難しいこと,船体の振れ回り運動による細索の切断や標識 ブイの流失がありうること,他船の通航や漁業活動の妨げになることなどの理由 から実施に至ることはなかった. 神 戸 大 学 大 学 院 海 事 科 学 研 究 科 附 属 練 習 船 深 江 丸 (以 下 「 深 江 丸 」 と 表 記 す る ) で は 1987年 10月 の 就 航 時 に 光 フ ァ イ バ ー を 用 い た 船 内 LANを 装 備 し , 航 海 や 機 関 関 連 情 報 の 他 ,船 の 運 航 に 関 連 す る 各 種 の デ ー タ を 取 得 で き る 環 境 が 整 っ て い た . そ こ で , 2001年 の 後 半 か ら 深 江 丸 の 既 存 の LANシ ス テ ム を 活 用 し て "IPネ ッ ト ワ ー ク を 利 用 し た 航 海 デ ー タ 収 集 ・ 転 送 シ ス テ ム " を 深 江 丸 で 独 自 に 構 築 し ,「 統 合化航海情報処理システム」として改良を重ねながら試験運用を始めた. このような中,安全な錨泊態勢の確立に向け,本システムの機能のひとつとし て錨泊監視機能を考案した.この機能は,機器メーカーの技術者では発想が及ば ない,船現場からの着想を基にした数々の錨泊監視情報を提供できるまでに発展 した.錨泊監視に有効な情報を電子海図情報とともに文字と数値及びグラフィッ クスを用いてリアルタイムに具体的に提供することで,錨泊の実場面において錨 泊監視を技術的に支援できるに至った. 1 .2 研究目的 安全な錨泊態勢を維持するために,錨泊監視に係る監視項目や情報表示のあり 方,警告の表現と表示方法,操作性などについて,錨泊を繰り返す都度,機会あ るごとに検証を重ね,統合化航海情報処理システムのさらなる活用法を検討しな がら様々な機能を構築した.それらの詳細については第3章で述べる. レ ー ダ ー ( R a d i o D e t e c t i o n A n d R a n g i n g : R a d a r ) や E C D I S ( El e c tr o n ic C hart Display and Information System: 電 子 海 図 表 示 装 置 ) な ど の 既 存 の 船 舶 搭 載機器は,国際規格を含み,機器メーカーが種々の機能を付加し利便性の向上を 図っている.船の現場ではこれらの能力を最大限に発揮すべくその操作を行い活 用する.しかしながら操作性や機能性に関しての問題点もあり,使いづらい場面 2 第1章 緒論 もある.このようなことから,逆に船の現場そのものからの発想を重視し,実船 での運用に即した,船上という環境において船長や航海士,さらには経験に基づ く判断力が十分とはいえない学生を適時,適切に支援するために錨泊監視機能を 考案した. この機能は,最大約4百分の1の大縮尺まで選択・拡大して表示できるパーソ ナ ル ・ コ ン ピ ュ ー タ ( 以 下 「 PC」 と 表 記 す る ) の 電 子 海 図 画 面 上 に , 投 下 し た 錨 の 位 置 と 現 在 の 船 位 ,過 去 の 船 体 移 動 軌 跡 と 近 い 将 来 の 船 体 移 動 予 測 を 高 精 度 に , かつ,リアルタイムに表示できることから,錨泊現場においてその実態を具体的 に把握することができ,安全な錨泊の維持を切望する船長や航海士に有効な錨泊 監視情報を提供する.システムの運用と同時に,サーバには海事科学研究科出港 から帰港までの全航泊データを収録することから,必要なデータの出力と状況の 再 現 が 可 能 で あ る . ま た , 船 内 に 設 置 し た 複 数 の PCは 独 立 し て 操 作 す る こ と が で き , 錨 の 投 下 位 置 と 自 船 の 位 置 な ど を 簡 易 図 形 や 文 字 情 報 を 用 い て PC画 面 上 に 表 示する.たとえ操作の専門知識がなくても自船の錨泊情報を視覚により簡単に把 握できることから,運航実務に係る学生の実習用教材としての価値も高まった. 考案した機能を活用して風潮流下における単錨泊中の船体振れ回りの実態調査 や機関の後進推力を用いた船体の振れ回り抑止実験を試みた.実用化に向けて評 価 試 験 を 続 け て い た 平 成 16年 度 夏 季 研 究 航 海 の 途 次 , 小 豆 島 の 池 田 湾 に お い て 台 風 1 6号 ( 2 00 4 1 6 C H A B A ) の 暴 風 に 遭 遇 し , 二 度 の 走 錨 と と も に , こ の と き に 最 大 瞬 間 風 速 61m /秒 を 観 測 し た . 暴 風 下 , 47m /秒 の 風 を 受 け た 直 後 に 一 度 目 の 走 錨 の危機に直面し,このときに,錨泊監視機能が直ちに走錨警報を発すると同時に 走錨直後における船体挙動を克明に捉えた.事後,収録した錨泊監視データから このときの状況を再現し分析した結果,走錨初期において,これまで経験的に語 り継がれてきた走錨時の船体運動現象とは明らかに一致しない動きをしていたこ とが判明した. そこで,統合化航海情報処理システムの錨泊監視機能を活用した実験と事例分 析により構築した各種機能の有効性を検証するとともに,分析により得られた知 見を走錨海難事故の防止に役立てることを本研究の目的とした. また,船舶の運用に係る参考として,このシステムの活用事例をその分析結果 とともに示した. 3 第1章 4 緒論 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 船舶が錨泊する際,船長は錨泊地の広狭,水深と底質,他の錨泊船の有無,錨 泊期間中に予想される最大風速や潮流,風浪やうねりなどの気象・海象条件等を 勘案して使用する錨及びこれに接続する錨鎖の伸出長さを決定する. 錨と錨鎖により船をその場に止める係駐力は錨地の底質に対する錨の把駐力と 海底に横たわる錨鎖の摩擦抵抗の和で示される.船を押し流そうとする風潮等の 外力が係駐力を下まわっていれば,船は海底に投下した錨及び錨鎖の海底係駐部 により錨鎖の懸垂部を通じて錨泊地の海底に係止され,錨泊が維持される. 図 2.1は , 次 章 で 述 べ る 錨 泊 監 視 機 能 に よ り 得 ら れ た 監 視 デ ー タ か ら 船 体 の 周 期 的 な 振 れ 回 り で あ る "横 8 の 字 運 動 "を 再 現 し た 一 例 で あ る . 通 常 の 単 錨 泊 に お い て,船体は投下した錨の風下側で振れ回り運動を繰り返し,その場に止まる.逆 に,外力が係駐力を上回る場合には,接続する錨鎖共々,錨が引きずられて海底 を移動し,船体は風下側あるいは潮流の方向に押し流される.この現象を走錨と いい,船舶が錨泊するにあたり最も警戒すべき事象である. 深 江 丸 は 台 風 の 暴 風 下 , 47m /秒 の 突 風 の 直 後 , 実 際 に 走 錨 の 危 機 に 陥 っ た . このとき,深江丸で独自に構築し運用中の統合化航海情報処理システムの錨泊監 視機能が走錨前後における船体の移動と圧流の様子を克明に捉えると同時に詳細 な 錨 泊 監 視 情 報 を 記 録 し た .図 2.2 は こ の と き に 取 得 し た 錨 泊 監 視 デ ー タ を 基 に , この機能を活用して走錨前後における船体の挙動を再現したものである.なお, 船 体 の 移 動 軌 跡 は 深 江 丸 の ほ ぼ 転 心 ( P i v ot i n g P o in t ) 位 置 で 示 す . 船 が ひ と た び 走 錨 を 始 め る と ,そ の ま ま で の 錨 泊 状 態 の 立 て 直 し は 困 難 と さ れ , 全 伸 出 錨 鎖 を 巻 き 上 げ て 錨 を 揚 収 し た 後 ,機 関 を 用 い て 新 た な 態 勢 下 で 錨 を 投 じ , 錨かきを確保する.このようなことから,船長や当直航海士は荒天強風下の錨泊 を維持するために,船ごとに定められた守錨基準に則り係駐力を確保するための さらなる錨鎖の伸出や,もう一方の錨を振れ止め錨として海底に降下し,これに 接 続 す る 錨 鎖 を 水 深 の 1.5倍 程 度 伸 出 し て 船 体 の 過 大 な 振 れ 回 り を 抑 え , 風 圧 力 5 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 を軽減するための対策をとる.台風や発達した低気圧の接近に伴い暴風や強風が 予想される場合は,不測の事態に備えて主機関と舵を早めにスタンバイし,航海 当直に準じた当直員を配して走錨防止あるいは振れ回り異常の早期発見に努め, Anchor Wat c h ( 守 錨 当 直 ) を 維 持 す る . 図 2.1 周 期 的 な 振 れ 回 り ( 横 8 の 字 運 動 ) の 例 図 2.2 走 錨 前 後 に お け る 船 体 の 挙 動 6 第2章 2 .1 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 船と錨 船が入港時刻の調整や港外での荷役,荒天避難などで湾内や内海あるいは港外 の安全な水域に錨を降ろして停泊することを錨泊という.通常は船首の両舷に搭 載 し て い る 2 基 の 主 錨 の う ち , 片 方 の 錨 を , 中 小 型 船 で は 10~ 20m 程 度 の , 大 型 船 で は 20~ 30m 内 外 の 適 当 な 水 深 で , 泥 ・ 砂 ・ 砂 ま じ り の 泥 な ど の 底 質 の 海 底 に 投下し,錨泊中に予想される最大風速や潮流などの外力に対して錨に接続する十 分な長さの錨鎖を繰り出して錨泊を維持する. 錨 は ア ン カ ー ( anchor) と 呼 ば れ , 船 に と っ て は 重 要 な 属 具 の ひ と つ で あ る . 古来,ひどい暴風雨の海上において,錨と錨綱がしっかりと海底をつかんでいれ ば 船 は 漂 流 す る こ と な く 嵐 を 凌 ぐ こ と が で き た こ と か ら , "anchor"は 希 望 ・ 信 頼 の象徴とされた.陸上競技のリレーなどで最後の役を引き受ける選手をアンカー あるいはアンカー・マンと呼ぶことからもその重要性を窺い知ることができる. 船舶に搭載すべき係船設備のうち,錨の種類,重量と数,錨に接続する錨鎖の 径 と 搭 載 長 さ な ど は 船 舶 設 備 規 程 や NK鋼 船 規 則 の 艤 装 数 に よ り 決 定 さ れ る . 船 の 長さ,幅,深さ,船型,排水量などが算定の要素になり,これらの数値を基に仕 様が決まる.言い換えれば,船が台風などの暴風に耐えるための指標といえる. 2 .2 荒天避泊 台風襲来時において,海事科学研究科ポンドに専用岸壁を有する深江丸は,出 港 中 の 場 合 を 除 き , 同 岸 壁 の 南 方 50m 及 び 南 東 方 80m 沖 の 海 底 に 埋 設 し た "片 つ め 錨 "か ら そ れ ぞ れ に 接 続 し た 錨 鎖 を 船 尾 の 両 舷 に つ な ぎ 止 め , さ ら に , "増 し も や い "に よ る 船 固 め を 行 っ て 暴 風 を 凌 ぐ . 大 洋 を 航 行 中 の 一 般 商 船 で は , 外 洋 波 浪図や各種の天気図を参考にあらかじめ高波高域や暴風域を避ける針路をとる. 台風との遭遇を避けられない場合は,台風の可航半円(左半円)に向けて風浪を 右斜め船尾から受ける「順走法」により離脱針路をとる.また,海況により前進 が困難な場合は,風を船首斜め前方から受ける「ちちゅう法」や,風に船を任せ る「漂ちゅう法」により荒天に堪える.沿岸域を航行中の場合は内海や湾内の安 全な水域に避難し,錨泊して暴風に備える.これを避泊という.また,港内にお いて暴風が予想され,港湾を統括する港長から港内停泊中の一般商船に避難勧告 7 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 が発動された場合,船舶は速やかに岸壁を離れ,港外の適切な泊地に移動し錨泊 して暴風に備える. 台 風 避 泊 の た め の 錨 地 の 確 保 は ま さ に "早 い 者 勝 ち "で あ り , 安 全 で 有 利 な 水 域 から次々と占有される.従って,あとになればなるほど不利な状況になり,先に 錨を投じた錨泊船,港湾構造物や浅瀬などの存在で自船の錨泊に必要な水域が確 保できず,また,水深や底質などの条件が悪く,ときとして新たな別の泊地に移 動せざるをえないこともある.さらに,自船が最適な錨地を確保して万全の態勢 をとっていても,他の船舶が走錨して自船に接近してくる,あるいは衝突するお それもある.そこで,荒天強風下の錨泊では,自船のみならず周囲至近,特に風 上 至 近 の 錨 泊 船 の 振 れ 回 り や 不 穏 な 動 き に 対 す る 警 戒 を 要 し , レ ー ダ ー や AIS ( Automatic Identification System: 自 動 船 舶 識 別 装 置 ) な ど を 活 用 し て , 投 下した錨の風下側で振れ回りを繰り返す錨泊船との互いの船間距離を適時確認す る必要がある.あまり船間距離を開けすぎると,後から錨を投じようとする船に 割り込まれ,かえって窮屈な状況に陥ることもある.このような場合は相手船の 船 名 を 読 み 取 り , 国 際 無 線 ( VHF) 電 話 や 船 舶 電 話 に よ り 転 錨 ( 錨 地 の 移 動 ) を 勧告したり,自船に対して十分な警戒をとるように警告する.夜間においては探 照灯や昼間信号灯により警告信号を発することがある. 万一,自船が走錨した場合,特に自船の風下側至近に他の錨泊船がいる場合に は,早急に風下側への圧流を阻止する必要があることから,主機関のスタンバイ と同時に速やかに錨を巻き上げて安全な錨泊態勢を可及的速やかに確立する必要 がある.暴風下においては強大な風圧に対して主機関と舵による自船の姿勢制御 もままならず操船不能に陥ることがあり,最悪の場合,錨鎖の切断や他船との衝 突,座礁や転覆といった海難に至ることがある. 2.3 海図 船が航海する上で必要な書籍類の総称を水路図誌という.この中で航海用海図 は船が海上を安全に航行する上で最も重要な書誌である.海図は航行する海域や 航海の場面ごとに適切に使い分け,海図上に船位を求めることで航行した経路と 航程,さらなる目的地への針路と航程などを知ることができ,また、航海予定ル ートや危険海域,地勢や港勢,港や錨地への接近方法などを海図から詳しく読み 8 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 取ることができる.海図は次のように分類される. ① 航泊図(縮尺5万分の1以上の大縮尺) 港 湾 に 出 入 す る と き に 使 用 し ,比 較 的 狭 い 範 囲 の 港 湾 地 形 や 海 面 下 の 性 状 , 顕著な物標などを正確に記載したもので,分図を用いて港湾の一部をさら に詳しく表記する. ② 海 岸 図 ( 縮 尺 5 万 分 の 1 ~ 30 万 分 の 1 ) 沿岸を航海するときに使用し,沿岸部の地形や浅瀬,灯台や山頂などの目 標物を正確に記す. ③ 航 海 図 ( 縮 尺 30万 分 の 1 ~ 10 0 万 分 の 1 ) 陸岸を離れて近海を航海するときに使用し,航海計画を立案するときなど において,通過予定地点や航程等の航海の概要を把握できる. ④ 航 洋 図 ( 縮 尺 100万 分 の 1 ~ 400万 分 の 1 ) 遠洋を航海するときに使用し,長距離航海の概要を一覧できる. ⑤ 総 図 ( 縮 尺 400万 分 の 1 以 下 の 小 縮 尺 ) 大洋の広い区域を示し,大洋航海の全体を一覧できる. 2 .4 錨地の選定 航泊図は重要港湾等の港の詳細を,さらに,港域内あるいは近傍の港域外に危 険物積載船等を対象に指定錨地や錨泊区域を表記する.錨地は,船の運航にさほ ど支障がなく,船に働く外力の影響が少ない自然条件と地形条件が整っており, かつ,錨泊に適した水深と錨かきの良い底質が望ましい. 錨地の選定要件として, ① 錨地周辺の地形が気象・海象の防壁となり,錨泊中に予想される風潮流等 の外力に対してある程度平穏な海面を確保でき,かつ,波浪やうねりがさ ほど進入しない水域であること. ② 水域が広く,一般船の航路筋でないこと.自船の振れ回りの水域,他船と の離隔距離,海岸との離岸距離などを考慮して,強風下,万一,走錨の事 態が発生しても措置のとれる余裕水域が確保されていること. ③ 錨泊に適した水深であること.一般に,中・小型船では深海投錨法によら な い 10~ 20m 程 度 の 水 深 が 望 ま し く , 大 型 船 で は 干 潮 時 に お い て も 船 底 下 9 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 に 余 裕 水 深 が 十 分 に 確 保 で き る 20 ~ 30 m 内 外 の 水 深 で あ る こ と . ④ 錨かきの良好な底質であること.海図には水深とともに海底の性状を示す 底 質 が 所 々 に 記 載 さ れ て い る . 底 質 は 泥 ( M) や 砂 ( S) あ る い は こ れ ら の 混成物が望ましい. なお,底質により錨の把駐力がやや異なることに注意を要する. ⑤ 錨地付近の船舶交通量が少なく,魚礁や沈船,海底送電線や海底パイプラ イン,浅瀬等の水中障害物がないこと. ⑥ 船を効率的に運航でき,投抜錨のしやすい水域であること. などが挙げられる. 2 .5 錨泊に影響する外力 船は安全な錨泊態勢を維持するために,錨泊中に予想される最大風速や潮流な どの外力に対して錨に接続する錨鎖を十分な長さ繰り出して錨と錨鎖による係駐 力を確保する.潮流による流圧は流速とともに時々刻々と変化する.潮の満ち引 き は ,平 均 す る と 12時 間 25分 ご と に 満 潮 - 満 潮 あ る い は 干 潮 - 干 潮 が 繰 り 返 さ れ , この潮の干満に伴って潮流が発生する.なお,流向と流速は月齢や地形の影響な どにより一様ではなく,局地的に複雑な流れを呈することがある.このことから 潮流に対して地形的に平穏な水域を選定することで潮流による流圧をある程度緩 和できる.潮流下の船体は風が弱いときには潮上に向首するが,そのときの風の 状態により複雑な動きと姿勢を呈することがあり,ときとして風軸や流軸から大 きく偏位することがある. 2.5.1 風圧力の推算 図 2.1に 示 す よ う に , 錨 泊 中 の 船 体 は 風 軸 線 を ほ ぼ 中 央 と し て 左 右 に 周 期 的 な 振れ回り運動を繰り返す.これに伴い船首尾線に対する相対風向角と相対風速は 時々刻々と変化する.風が船体に及ぼす力を風圧力といい,この力の大きさは推 算が可能である.次に風圧力の推算方法について深江丸を例に述べる. 10 第2章 2.5.2 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 風圧係数 風圧力の推算にあたり風圧係数を求める.係数の算出にあたり,本論では岩井 聡 著 「 新 訂 操 船 論 」( 四 訂 版 ) (32) の 計 算 式 を 採 用 し た . こ こ で , 風 圧 係 数 の 決 定 にあたり,客船及び一般貨物船の式が与えられるが,深江丸は練習船であり,貨 物の積み下ろしによる喫水の変化がないこと,及び,練習船特有の水線上側面の 船型であることなどを考慮して客船の式を採用した. 風 圧 係 数 Ca 客船 Ca = 1.142 - 0.142cos2θ - 0.367cos4θ - 0.133cos6θ ・・・・・ (2.1) θ: 船 首 か ら の 相 対 風 向 角 ( 船 首 を 0° , 船 尾 を 180° と す る ) <参考> 一般貨物船 Ca = 1.325 - 0.050cos2θ - 0.350cos4θ - 0.175cos6θ ・・・・・ (2.2) 2.5.3 受風面積 風 に よ る 風 圧 力 を 推 算 す る た め に , 深 江 丸 完 成 図 書 の 船 体 部 HF.28- HF.41か ら 水線上船体部の正面及び側面の受風面積を求めた. A: 深 江 丸 の 正 面 受 風 面 積 88 m 2 B : 深 江 丸 の 側 面 受 風 面 積 2 76m 2 2.5.4 風圧力(風圧合力) 錨泊中,振れ回り運動を繰り返す船体の水線上に作用する風圧力は風軸線(風 向)とは必ずしも一致しない.水線上の船体に働く風圧力は受風面積に関係し, 船体の正面に作用する正面風圧力と側面に作用する側面風圧力の合力であるとし た "ヒ ュ ー ス の 式 "が 一 般 に 用 い ら れ る . こ の 場 合 , 風 圧 合 力 は 正 面 風 圧 力 と 側 面 風圧力の合力と考えられることから風圧合力が船体に作用する角度は相対風向角 11 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 よ り も 大 き い . 図 2.3に 相 対 風 向 と 風 圧 合 力 の 関 係 を 示 す . 風 圧 合 力 Ra を 求 め る た め に 本 田 啓 之 輔 著 「 操 船 通 論 」 ( 増 補 五 訂 版 ) (27) の風 圧合力算出式を用いた. 風 圧 合 力 : Ra = 1/2 ρa ・ Ca ( Acos2θ + Bsin2θ ) va2 ・ ・ ・ ・ ・ ( 2 .3) ρa : 空 気 密 度 ( 0 . 1 2 5 kg sec2/m4 ) Ca : 風 圧 係 数 va : 相 対 風 速 ( m / 秒 ) θ: 船 首 方 向 を 基 準 に し た 風 向 角 (度 ) A : 水 線 上 の 正 面 受 風 面 積 ( m 2) B : 水 線 上 の 側 面 受 風 面 積 ( m 2) 図 2.3 相 対 風 向 と 風 圧 合 力 の 関 係 図 2.4の グ ラ フ は 相 対 風 向 と 相 対 風 速 ( 15~ 40m /秒 の 5 m 間 隔 ) に よ り 深 江 丸 に 作 用 す る 風 圧 合 力 の 推 算 値 を tonfで 示 す . こ の 力 は 相 対 風 向 角 が 0 度 , す な わ ち 船 の 最 小 受 風 面 積 で あ る 正 船 首 ( 真 正 面 ) ま た は 180度 の 正 船 尾 ( 真 後 ろ ) で 最 小 と な り , 受 風 面 積 が ほ ぼ 最 大 に 達 す る 相 対 風 向 角 が 50~ 130度 の 正 横 付 近 に おいて大きくなる. 35 風 圧 合 30 力 (tonf)25 20 15 10 5 0 0 10 正船首 20 30 40 15m/sの時 50 60 20m/sの時 70 80 90 100 相対風向角(度) 25m/sの時 110 30m/sの時 120 130 140 35m/sの時 150 160 40m/sの時 170 180 正船尾 図 2.4 相 対 風 向 と 相 対 風 速 ( 1 5 ~ 4 0 m / 秒 の 5 m 間 隔 ) に よ り 深江丸に作用する風圧合力の推算値 12 第2章 2.5.5 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 潮流による流圧 潮流による流圧はその方向性が強く,風のみによる錨泊時の定常振れ回りと微 妙にバランスし,少々の風速下においては船首が潮上に向く傾向が強くなる.一 般に,風は風向の変化と強弱を伴うことから,船体に作用する風圧力は短時間の うちに変化を繰り返す.一方,潮の干満に伴って生じる潮流は流向・流速ともに 長い周期で緩やかに変化することから短時間においては静的な圧力と見なすこと ができる.瀬戸内海やその周辺海域では潮の干満に伴い潮流の流向及び流速の変 化が大きく激しい.超音波潮流計により任意の深度における正確な流向と流速を 知ることができる.錨泊に際して,遭遇する潮流の速さを潮汐表によりある程度 予測して,余裕を持った十分な長さの錨鎖を繰り出すことでこれに対処する. 2 .6 錨と錨鎖による係駐力の推算 風圧や流圧に対して錨を投じた海底に船を止める力は,投下した錨が海底をし っかりとつかむ力と船首から伸出した錨鎖のうち,海底に横たわる錨鎖部分の摩 擦抵抗力の和で示され,これを係駐力という.錨の能力を表す用語として標準把 駐係数があり,これを基に錨の把駐力が示される.把駐力は投下した錨そのもの が 海 底 を つ か む 力 で あ り ,通 常 ,錨 の 水 中 重 量 に 標 準 把 駐 係 数 を か け て 表 さ れ る . また,錨鎖の摩擦抵抗力は,船首から伸出した錨鎖の内,海底に横たわる部分の 錨 鎖 長 ( m ) × 錨 鎖 1 m あ た り の 空 中 重 量 × 0.87( 水 中 重 量 比 ) × 1.0( 摩 擦 抵 抗係数)で示される.錨の把駐力と錨鎖の摩擦抵抗力をたし合わせたものが船を そ の 場 に 止 め る 係 駐 力 と な る . 図 2.5に 単 錨 泊 中 の 錨 と 錨 鎖 及 び 外 力 の 関 係 を 略 図で示す. 図 2.5 単 錨 泊 中 の 錨 と 錨 鎖 及 び 外 力 の 関 係 (27) 13 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 風などの外力が錨と錨鎖による係駐力を上回ると,ついには錨が海底から抜け て走錨の事態に陥り,船は錨・錨鎖共々風潮流下に押し流される.走錨は安全な 錨泊を期待する船にとっては最も好ましくない事象のひとつであり,これを防ぐ ために錨泊期間中に予想される最大外力に対して自船の持ちうる十分な長さの錨 鎖 を 伸 出 す る と と も に , 船 の 振 れ 回 り を 抑 え る た め に 反 対 舷 の 錨 を "振 れ 止 め 錨 " と し て 海 底 に 降 下 し , こ の 錨 に 接 続 す る 錨 鎖 を 水 深 の 1.5倍 程 度 伸 出 す る こ と で 錨泊を維持する.台風の接近に伴い暴風が予想されるときは最初から両舷の錨を ほぼ同時に投下して十分な長さの錨鎖を伸出し係駐力の増強を図る. 2.6.1 風圧合力と係駐力の仮定 既述のとおり,錨泊中の船体は投下した錨の風下側で風軸を振れ回りのほぼ中 央として左右に大きく横8の字を描きながら周期的な運動を繰り返す.この船体 運動に伴って船首方位が変化し,投下した錨に接続する錨鎖の伸出方向と俯角, 錨鎖の張り具合も時々刻々と変化する.従って,風圧合力の作用方向と錨鎖の伸 出方向は必ずしも同一作用線上でそれぞれ反方位にあるとは限らない.むしろこ のような状況はあっても振れ回りを繰り返すうちの一瞬と考えられる.相対風向 角が0度(真正面の風)で錨鎖が正船首(真正面)に伸びているときがほぼこれ に該当する.そこで,係駐力の推算にあたっては,錨と錨鎖による係注力と風圧 合力とは船首のベルマウス付近において同一作用線上で互いに反対方向に作用し バランスするものと仮定した. 2.6.2 錨の把駐力と錨鎖の摩擦抵抗力 錨 と 錨 鎖 に よ る 係 駐 力 を 求 め る た め に , 本 田 啓 之 輔 著 「 操 船 通 論 」( 増 補 五 訂 版 ) (27) の 推 算 式 を 用 い た . 単 錨 泊 に お い て , 錨 と 錨 鎖 に よ り 船 を 海 底 に 係 止 する係駐力は錨の把駐力と海底に横たわる錨鎖の摩擦抵抗力の和で示されること から, Wa : 錨 の 空 中 重 量 ( kg ) Wa’ : 錨 の 水 中 自 重 ( 0. 87 Wa ( kg ) ) 14 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 λa : 錨 の 標 準 把 駐 係 数 Wc : 錨 鎖 1 m あ た り の 空 中 重 量 ( kg ) Wc’ : 錨 鎖 1 m あ た り の 水 中 重 量 ( 0 . 8 7 Wc (kg) ) λc : 錨 鎖 の 摩 擦 抵 抗 係 数 ( 泥 ・ 砂 : 1 ) l: 海 底 に 横 た わ る 錨 鎖 の 長 さ ( m ) Hp(a) : 錨 の 把 駐 力 ( kgf ) Hp(c) : 錨 鎖 の 摩 擦 抵 抗 力 ( kgf ) とすると, 錨の把駐力 : Hp(a) = λa ・ Wa’ 海 底 に 横 た わ る 錨 鎖 の 摩 擦 抵 抗 力 : Hp(c) = λc ・ Wc’ ・ l ・ ・ ・ ・ ・ ( 2 . 4) ・ ・ ・ ・ ・ ( 2 . 5) で示される. 2.6.3 錨鎖の海底係駐部の長さ 次に錨鎖の海底係駐部の長さ l を求める. こ こ で , Lc : 船 首 の ベ ル マ ウ ス か ら 投 下 し た 錨 ま で の 伸 出 錨 鎖 の 長 さ ( m ) S: 錨 鎖 の カ テ ナ リ ー ( 懸 垂 部 ) の 長 さ ( m ) とすると, 海 底 に 横 た わ る 錨 鎖 の 長 さ l ( m ) は , l = Lc - S で 示 さ れ る . 2.6.4 錨鎖のカテナリー(懸垂部)の長さ 錨 鎖 の カ テ ナ リ ー 部 の 長 さ S は 次 の 近 似 式 (27) を 用 い て 算 出 す る . こ こ で S を 求めるために水平外力の大きさが必要になる.なお,S の大部分は水没している こ と か ら , カ テ ナ リ ー 部 に は 錨 鎖 の 水 中 重 量 W c’ を 適 用 す る . S = { y2 + 2 ( Tx/Wc’ ) y } 1/2 ・ ・ ・ ・ ・ ( 2 .6) こ こ で , Tx : 船 に 働 く 水 平 外 力 y: 水 面 上 の ベ ル マ ウ ス か ら 海 底 ま で の 鉛 直 距 離 ( m ) 15 第2章 2.6.5 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 錨と錨鎖の推算係駐力 船 を 海 底 に 係 止 す る 係 駐 力 P は , 錨 の 把 駐 力 : Hp(a) と 錨 鎖 の 摩 擦 抵 抗 力 : Hp(c) の 和 で 示 さ れ る . すなわち,係駐力 P は以下の式で求まる. 係駐力 P P = Hp(a) + H p(c) = λa ・ Wa’ + λc ・ Wc’ ・ l = λa ・ Wa’ + λc ・ Wc’ ( Lc - S ) = λa ・ Wa’ + λc ・ Wc’ 〔 Lc - { y2 + 2 ( Tx/Wc’ ) y } 1/2 〕 ・・・・・ (2.7) 2.6.6 仮定に基づく推算風圧力の算入 船 体 に 作 用 す る 水 平 外 力 Tx を 前 述 の 仮 定 に 基 づ い て 風 圧 合 力 Ra と す る と , 水 平 外 力 : Tx = Ra = 1/2 ρa ・ Ca ( Acos2θ + Bsin2θ ) va2 ・ ・ ・ ・ ・ ( 2 .8) 風 圧 係 数 : Ca = 1.142 - 0.142cos2θ - 0.367cos4θ - 0.133cos6θ ・・・・・ 客 船 の 風 圧 係 数 (2.9) 風 圧 合 力 : Ra = 1/2 ρa ( 1.142 - 0.142cos2θ - 0.367cos4θ - 0.133cos6θ ) × ( Acos2θ + Bsin2θ ) va2 ・ ・ ・ ・ ・ ( 2 . 1 0) 上 記 の 式 は " kgf " 単 位 で あ る こ と か ら , こ れ を " tonf " に 換 算 す る た め , 上 記 の 式 で 与 え ら れ た 値 を 1 / 1 0 0 0倍 す る . す な わ ち , Ra = 1/1000 ・ 1/2 ρa ( 1.142 - 0.142cos2θ - 0.367cos4θ - 0.133cos6θ ) × ( Acos2θ + Bsin2θ ) va2 ・ ・ ・ ・ ・ ( 2 . 11) S = { y2 + 2 ( Tx/Wc’ ) y } 1/2 = { y2 + 2 ( Ra/Wc’ ) y } 1/2 2 = 〔 y + 2 { 1/2000 ρa ( 1.142 - 0.142cos2θ - 0.367cos4θ - 0.133cos6θ ) × ( Acos2θ + Bsin2θ ) va2/Wc’ } y 〕 1/2 16 ・ ・ ・ ・ ・ ( 2 . 12) 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 錨鎖の海底係駐部の長さ l は以下の式で示される. l = Lc - S = Lc - 〔 y2 + 2 { 1/2000 ρa ( 1.142 - 0.142cos2θ - 0.367cos4θ - 0.133cos6θ ) × ( Acos2θ + Bsin2θ ) va2/Wc’ } y 〕 1/2 2.6.7 ・ ・・ ・ ・ ( 2 . 13 ) 仮定に基づく錨と錨鎖の係駐力 既述の仮定に基づき,風圧合力と錨と錨鎖による係注力は船首のベルマウス付 近において同一作用線上で互いに反対方向に作用するものとした. 錨と錨鎖による係駐力 P は, P = λa ・ Wa’ + λc ・ Wc’ ・ l = λa ・ Wa’ + λc ・ Wc ( Lc - S ) ・ ・ ・ ・ ・ ( 2 . 1 4) ただし, S = 〔 y2 + 2 { 1/2000 ρa ( 1.142 - 0.142cos2θ - 0.367cos4θ - 0.133cos6θ ) × ( Acos θ + Bsin θ ) va /Wc’ } y 〕 1/2 2 2 2 ・ ・ ・ ・ ・ ( 2 . 1 5) 本式に定数と変数の各値を代入すると係駐力 P の推算値が求まる. 2 .7 深 江 丸 の K S -8 型 錨 深 江 丸 の 錨 は KS-8 型 と 称 さ れ る , 旧 , 神 戸 商 船 大 学 で 独 自 に 開 発 し た 高 把 駐 力 錨 で あ り , 標 準 把 駐 係 数 は 砂 で 6.5, 泥 で 7.2を 有 す る . 今 , 仮 に 空 中 重 量 1 ト ン の KS-8 型 錨 を 泥 の 海 底 に 投 下 し た と す る と , 錨 の み に よ る 把 駐 力 は , 1 ( ト ン ) × 0.87( 水 中 重 量 比 ) × 7.2( 標 準 把 駐 係 数 ) = 6.26ト ン に な る . JIS型 錨 の 標 準 把 駐 係 数 は 3.0~ 3.5と さ れ , KS-8 型 錨 は , JIS型 に 比 べ て 把 駐 力 が 大 き い こ と か ら 高 把 駐 力 錨 と 呼 ば れ る . ち な み に , KS-8 型 錨 の 空 中 重 量 は 965㎏ , 錨 鎖 1 節 ( 長 さ 25m ) の 空 中 重 量 は 577㎏ で あ る . 深 江 丸 は 高 把 駐 力 錨 を 搭 載 す る こ と か ら , 本 来 , 右 舷 と 左 舷 の そ れ ぞ れ に 錨 鎖 を 10節 ( 250m ) 装 備 す る と こ ろ , 各 舷 7 節 ( 175m ) の 搭 載 に 緩 和 さ れ て い る . 図 2.6(a)及 び 図 2.6(b)に KS-8 型 錨 の 17 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 側 面 と 上 面 を , 図 2 . 6 ( c )に 船 首 部 の 錨 を 写 真 で 示 す . 図 2.6 ( a ) K S -8 型 錨 ( 側 面 ) 図 2 .6 ( b ) K S -8 型 錨 ( 上 面 ) 図 2. 6 ( c) 船 首 部 の 錨 2 .8 風圧合力と係駐力推算のための定数と変数 風圧合力と係駐力を推算するために深江丸の定数と変数を次に示す.これらの 値は統合化航海情報処理システムに自動転送あるいは手動により選択入力する. 〔定数〕 λa : 錨 の 標 準 把 駐 係 数 ・・・・・ 泥 : 7.2, 砂 : 6.5 <選 択 入 力 > Wa : 錨 の 空 中 重 量 ・・・・・ 0.965( ton) <固 定 値 > Wa’ : 錨 の 水 中 自 重 ( 0 . 8 7 Wa ) ・・・・・ 0.840( ton) <固 定 値 > λc : 錨 鎖 の 摩 擦 抵 抗 係 数 ・・・・・ 泥 ・ 砂 : 1 <固 定 値 > 18 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 Wc : 錨 鎖 1 m あ た り の 空 中 重 量 ・・・・・ 0.023( ton) <固 定 値 > Wc’ : 錨 鎖 1 m あ た り の 水 中 重 量 ( 0 . 8 7 Wc ) ・ ・ ・ ・ ・ 0 . 0 2 0 ( t o n ) <固 定 値 > A: 深 江 丸 の 水 線 上 正 面 受 風 面 積 ・・・・・ 88( m 2 ) <固 定 値 > B: 深 江 丸 の 水 線 上 側 面 受 風 面 積 ・・・・・ 276( m 2 ) <固 定 値 > 〔変数〕 θ: 船 首 か ら の 相 対 風 向 角 Tx : 水 平 外 力 = Ra ( tonf ) ・・・・・( 度 ) <自 動 入 力 > ・・・・・ 風 圧 力 推 算 値 Lc : 船 首 ベ ル マ ウ ス か ら の 伸 出 錨 鎖 の 長 さ <自 動 入 力 > ・・・・・( 0.5節 単 位 ) <選 択 入 力 > y: 超 音 波 潮 流 計 の 測 深 機 能 に よ る 水 面 か ら 海 底 ま で 鉛 直 距 離 + 水 面 か ら ベ ル マ ウ ス ま で の 鉛 直 距 離 ( 1.75m ) ・・・・・ <自 動 入 力 > ただし,錨の標準把駐係数と錨鎖の摩擦抵抗係数はあくまで当該錨と錨鎖の能 力 を 表 す 公 称 値 で あ り ,実 際 の 錨 泊 場 面 に お い て は 底 質 や 粘 度 な ど の 海 底 の 性 状 , 錨の把駐姿勢や埋没深さなどの錨かきの状態,海底に横たわる錨鎖の状態,海底 形 状 な ど に よ り 変 動 す る .さ ら に ,荒 天 下 の 錨 泊 に お け る 船 体 の 振 れ 回 り 運 動 は , 風 圧 に よ る 船 体 傾 斜 ,錨 鎖 の 緊 張 に 伴 う 制 約 ,う ね り や 風 浪 に よ る ピ ッ チ ン グ( 縦 揺 れ ), ロ ー リ ン グ ( 横 揺 れ ), ヒ ー ビ ン グ ( 上 下 動 ), ヨ ー イ ン グ ( 左 右 旋 回 動 ) やスウェイング(左右動)といった船体運動が複合され複雑な動きを呈する.こ れに伴って,錨の方向に伸びる錨鎖の方向と俯角も時々刻々と変化し,ときとし て錨鎖に急激な緊張とたるみが発生する.錨と大部分の錨鎖は目視できない水中 に存在することから確たる数値を具体的に推定することは困難である.そこで, 錨については標準把駐係数を,錨鎖については一般的な摩擦抵抗係数を採用し, また,船体は錨の風下側で伸出錨鎖の長さ程度の距離において,風軸に対して直 角方向に振れ回ることを想定した.なお,錨と錨鎖による係駐力と風圧合力の推 算に必要な風と水深の情報は,風向・風速計及び超音波潮流計の測深結果により 深 江 丸 の 船 内 LANを 経 由 し て , 次 章 で 述 べ る 統 合 化 航 海 情 報 処 理 シ ス テ ム に 自 動 転送され,同時に錨泊監視機能に反映される.錨泊中は錨泊監視画面に係駐力と 風圧力の大きさがリアルタイムに表示される. 19 第2章 2 .9 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 錨泊法 船 の 一 般 的 な 錨 泊 方 法 を 図 2.7に 示 す . 錨 泊 期 間 を 通 じ て 安 全 な 錨 泊 を 維 持 す るため事前に投錨計画を立て,この計画を基に錨を投じる.錨鎖の伸出長さの目 安 と し て , 通 常 の 単 錨 泊 で は 3 D + 9 0 ( m ), 強 風 下 の 錨 泊 で は 4 D + 1 4 5 ( m ) の算式が一般に用いられる.なお,Dは錨地の水深(m)を示す. 図 2.7 一 般 的 な 錨 泊 方 法 (33) 2.9.1 単錨泊 船首のいずれか一方の錨のみを投じる錨泊法で,風潮の作用方向に錨泊姿勢を とる.これらの転向とともに伸出錨鎖長に応じて船体が円軌道を描いて移動し広 い水域を必要とする.投錨時及び揚錨時の操船が容易であり,船体の過大な振れ 回り運動を抑えるための振れ止め錨の降下や,状況により他の錨泊法に移行する ことができる. 2.9.2 単錨泊と振れ止め錨 強風下の単錨泊において,船体の過大な振れ回りを抑えるとともに風圧力を軽 減 す る た め に 反 対 舷 の 錨 を 海 底 ま で 降 下 し , 錨 に 接 続 す る 錨 鎖 を 水 深 の 1.5倍 程 度伸出する方法である.錨泊のために最初に投じた錨と錨鎖で係駐力を確保し, 20 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 海底に降下した反対舷の錨は船体の振れ回り運動とともに海底を引きずり,振れ 回りに対する抵抗物として利用する.通常の単錨泊の応用方法であり,状況によ り次に示す2錨泊に移行することができる. 2.9.3 2錨泊 荒天時,あるいは河川港などで強潮流がある場合などにおいて,船体動揺の緩 和と係駐力の増大を図るために船首の両舷錨を用いる錨泊法である.両舷錨の投 下間隔(横距離)にもよるが,間隔をある程度狭めることで係駐力は単錨泊に比 べてほぼ倍増する.風向が逆転した場合,錨と錨鎖の絡(から)みを誘発するこ とがある.このため,台風避泊などでは,予想される最強風速と台風の接近や通 過に伴う風向の順点あるいは逆転などを考慮して,錨の同時投下ではなく,片舷 ず つ わ ず か に 投 下 の タ イ ミ ン グ を 調 整 す る こ と で , 抜 錨 時 の "絡 み 錨 "を あ る 程 度 防止できる. 2.9.4 双錨泊 両舷錨を投下するが,船は自船の前方と後方に投下した錨のほぼ中間位置にあ り,風潮の変化に応じて,いずれか一方の錨で錨泊する方法である.風潮の変向 に対する移動水域は小さいが,各錨を投下するとき及び揚錨時の操船が煩雑とな り,周到な投錨計画と揚錨計画を要する.風潮の転向に際して両舷の錨と錨鎖が 絡むおそれがあり,また,台風襲来時等においては,船体の振れ回りはある程度 抑えることができるが,係駐力は単錨泊と同じであることから不利となる場合が ある. 21 第2章 2 .1 0 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 投錨操船法 投錨操船法には次に述べる方法があり,錨泊時や離着岸操船の補助として錨を 用いる場合など,錨の使用目的に応じて他の操船法と組み合わせる. 2.10.1 前進投錨法 船が前進惰力を持って投錨し,その惰力で前進しながら所要の錨鎖を繰り出す 操船法である.保針と操船が容易で,予定した位置に正確に投錨でき,錨泊に係 る時間を短縮できる.錨鎖と船体に過度の応力が働くおそれがあり,惰力が大き い場合はその調節が難しい.投錨直後において錨が海底を引きずる距離が長くな り,錨の爪が反転するなど,かえって錨かきを悪くする場合がある. 2.10.2 後進投錨法 予定した錨地で停止した後,後進惰力をつけて錨を投じ,その惰力で所要錨鎖 を 繰 り 出 す 操 船 法 で あ る .錨 鎖 と 船 体 に む り を 与 え ず ,惰 力 の 調 節 が 容 易 で あ る . 投錨直後に錨を引きずる距離が短く,錨かきの確保が容易とされる.機関の後進 を用いるために保針と操船が難しく,また,後進時における船体の向風性のため に船尾が風にきり上がり,これに伴い伸出錨鎖の方向が直線状になりにくい.予 定位置に正確に投錨することが困難であり,錨泊に要する時間は比較的長い. 22 第2章 2 .1 1 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 錨泊に関連する海上衝突予防法の規則と海難 審判法の総則 海 上 交 通 の 国 際 ル ー ル で あ る 海 上 衝 突 予 防 法 の 諸 規 則 (38) の 内 , 錨 泊 に 関 連 す る規則を挙げるとともに,海難の原因を究明し,その原因を明らかにすることで 海 難 の 発 生 を 防 止 す る こ と を 目 的 と し た 海 難 審 判 法 の 総 則 (39) を 述 べ る . 2.11.1 第1章 海上衝突予防法の規則 総則 第 1 条 ( 目 的 ) こ の 法 律 は , 1972年 の 海 上 に お け る 衝 突 の 予 防 の た め の 国 際 規 則 に 関 す る 条 約 に 添 付 さ れ て い る 1972年 の 海 上 に お け る 衝 突 の 予 防 の た めの国際規則の規定に準拠して,船舶の遵守すべき航法,表示すべき燈 火及び形象物並びに行うべき信号に関し必要な事項を定めることにより 海上における船舶の衝突を予防し,もって船舶交通の安全を図ることを 目的とする. 第2条(適用船舶)この法律は,海洋及びこれに接続する航洋船が航行するこ とができる水域の水上にある次条第1項に規定する船舶について適用す る.次条省略 第2章 第1節 航法 あらゆる視界の状態における船舶の航法 第5条(見張り)船舶は,周囲の状況及び他の船舶との衝突のおそれについて 十分に判断することができるように,視覚,聴覚及びその時の状況に適 し た 他 の す べ て の 手 段 に よ り ,常 時 適 切 な 見 張 り を し な け れ ば な ら な い . 第7条(衝突のおそれ)船舶は,他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを 判断するため,その時の状況に適したすべての手段を用いなければなら ない. 2 レーダーを使用している船舶は,他の船舶と衝突するおそれがあること を早期に知るための長距離レーダーレンジによる走査,探知した物件の レーダープロッティングその他の系統的な観察等を行うことにより,当 該レーダーを適切に用いなければならない. 23 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 3 船舶は,不十分なレーダー情報その他の不十分な情報に基づいて他の船 舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断してはならない. 4 船舶は,接近してくる他の船舶のコンパス方位に明確な変化が認められ ない場合は,これと衝突するおそれがあると判断しなければならず,ま た,接近してくる他の船舶のコンパス方位に明確な変化が認められる場 合においても,大型船舶若しくはえい航作業に従事している船舶に接近 し,又は近距離で他の船舶に接近するときは,これと衝突するおそれが あり得ることを考慮しなければならない. 5 船舶は,他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを確かめることがで き な い 場 合 は ,こ れ と 衝 突 す る お そ れ が あ る と 判 断 し な け れ ば な ら な い . 第3章 燈火及び形象物 第 30 条 ( び ょ う 泊 中 の 船 舶 及 び 乗 り 掲 げ て い る 船 舶 ) び ょ う 泊 中 の 船 舶 ( 第 2 6 条 第 1 項 若 し く は 第 2 項 , 第 27条 第 2 項 , 第 4 項 若 し く は 第 6 項 又 は 前 条 の 規 定 の 適 用 が あ る も の を 除 く . 次 項 及 び 第 4 項 に お い て 同 じ .) は , 次に定めるところにより,最も見えやすい場所に灯火又は形象物を表示 しなければならない. (1) 前 部 に 白 色 の 全 周 灯 1 個 を 掲 げ , か つ , で き る 限 り 船 尾 近 く に そ の 全周灯よりも低い位置に白色の全周灯1個を掲げること.ただし, 長 さ 50メ ー ト ル 未 満 の 船 舶 は , こ れ ら の 灯 火 に 代 え て , 白 色 の 全 周 灯1個を掲げることができる. (2) 前 部 に 球 形 の 形 象 物 1 個 を 掲 げ る こ と . 2 びょう泊中の船舶は,作業灯又はこれに類似した灯火を使用してその甲 板 を 照 明 し な け れ ば な ら な い .た だ し ,長 さ 1 0 0 メ ー ト ル 未 満 の 船 舶 は , その甲板を照明することを要しない. 3 乗り揚げている船舶は,次に定めるところにより,最も見えやすい場所 に灯火又は形象物を表示しなければならない. (1) 前 部 に 白 色 の 全 周 灯 1 個 を 掲 げ , か つ , で き る 限 り 船 尾 近 く に そ の 全周灯よりも低い位置に白色の全周灯1個を掲げること.ただし, 長 さ 50メ ー ト ル 未 満 の 船 舶 は , こ れ ら の 灯 火 に 代 え て , 白 色 の 全 周 灯1個を掲げることができる. (2) 紅 色 の 全 周 灯 2 個 を 垂 直 線 上 に 掲 げ る こ と . (3) 球 形 の 形 象 物 3 個 を 垂 直 線 上 に 掲 げ る こ と . 24 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 4 長さ7メートル未満のびょう泊中の船舶は,そのびょう泊をしている水 域が,狭い水道等,びょう地若しくはこれらの付近又は他の船舶が通常 航行する水域である場合を除き,第1項の規定による灯火又は形象物を 表示することを要しない. 5 長 さ 12メ ー ト ル 未 満 の 乗 り 掲 げ て い る 船 舶 は , 第 3 項 第 2 号 又 は 第 3 号 の規定による灯火又は形象物を表示することを要しない. 第4章 音響信号及び発光信号 第 32条 ( 定 義 ) こ の 法 律 に お い て 「 汽 笛 」 と は , こ の 法 律 に 規 定 す る 短 音 及 び 長音を発することができる装置をいう. 2 この法律において「短音」とは約1秒間継続する吹鳴をいう. 3 この法律において「長音」とは4秒以上6秒以下の時間継続する吹鳴を いう. 第 33条 ( 音 響 信 号 設 備 ) 船 舶 は , 汽 笛 及 び 号 鐘 ( 長 さ 100メ ー ト ル 以 上 の 船 舶 にあつては,汽笛並びに号鐘及びこれと混同しない音調を有するどら) を備えなければならない.ただし,号鐘又はどらは,それぞれこれと同 一の音響特性を有し,かつ,この法律の規定による信号を手動により行 うことができる他の設備をもって代えることができる. 2 長 さ 20メ ー ト ル 未 満 の 船 舶 は , 前 項 の 号 鐘 ( 長 さ 12メ ー ト ル 未 満 の 船 舶 にあっては同項の汽笛及び号鐘)を備えることを要しない.ただし,こ れらを備えない場合は,有効な音響による信号を行うことができる他の 手段を講じなければならない. 3 この法律に定めるもののほか,汽笛,号鐘及びどらの技術上の基準並び に汽笛の位置については,国土交通省令で定める. 第 34条 ( 操 船 信 号 及 び 警 告 信 号 ) 5 互いに他の船舶の視野の内にある船舶が互いに接近する場合において, 船舶は,他の船舶の意図若しくは動作を理解することができないとき, 又は他の船舶が衝突を避けるために十分な動作をとっていることについ て疑いがあるときは,直ちに急速に短音を5回以上鳴らすことにより汽 笛信号を行わなければならない.この場合において,その汽笛信号を行 う船舶は,急速にせん光を5回以上発することにより発光信号を行うこ とができる. 第 35条 ( 視 界 制 限 状 態 に お け る 音 響 信 号 ) 視 界 制 限 状 態 に あ る 水 域 又 は そ の 付 近 に お け る 船 舶 の 信 号 に つ い て は , 次 項 か ら 第 13項 ま で に 定 め る と こ ろ 25 第2章 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 による. 6 び ょ う 泊 中 の 長 さ 100メ ー ト ル 以 上 の 船 舶 ( 第 8 項 の 規 定 の 適 用 が あ る も の を 除 く .) は , そ の 前 部 に お い て , 1 分 を 超 え な い 間 隔 で 急 速 に 号 鐘を約5秒間鳴らし,かつ,その後部において,その直後に急速にどら を約5秒間鳴らさなければならない.この場合において,その船舶は, 接近してくる他の船舶に対し自船の位置及び自船との衝突の可能性を警 告する必要があるときは,順次に短音1回,長音1回及び短音1回を鳴 らすことにより汽笛信号を行うことができる. 7 び ょ う 泊 中 の 長 さ 100メ ー ト ル 未 満 の 船 舶 ( 次 項 の 規 定 の 適 用 が あ る も の を 除 く .) は , 1 分 を 超 え な い 間 隔 で 急 速 に 号 鐘 を 約 5 秒 間 鳴 ら さ な ければならない.この場合において,前項後段の規定を準用する. 第 36条 ( 注 意 喚 起 信 号 ) 船 舶 は , 他 の 船 舶 の 注 意 を 喚 起 す る た め に 必 要 が あ る と認める場合は,この法律に規定する信号と誤認されることのない発光 信号又は音響による信号を行い,又は他の船舶を眩惑させない方法によ り危険が存する方向に探照灯を照射することができる. 2 前項の規定による発光信号又は探照灯による照射は,船舶の航行を援助 するための施設の灯火と誤認されるものであってはならず,また,スト ロボ等による点滅し,又は回転する強力な灯火を使用して行ってはなら ない. 第5章 補則 第 38条 ( 切 迫 し た 危 険 の あ る 特 殊 な 状 況 ) 船 舶 は , こ の 法 律 の 規 定 を 履 行 す る に当たっては,運航上の危険及び他の船舶との衝突の危険に十分に注意 し,かつ,切迫した危険のある特殊な状況(船舶の性能に基づくものを 含 む .) に 十 分 に 注 意 し な け れ ば な ら な い . 2 船舶は,前項の切迫した危険のある特殊な状況にある場合においては, 切迫した危険を避けるためにこの法律の規定によらないことができる. 第 39条 ( 注 意 等 を 怠 る こ と に つ い て の 責 任 ) こ の 法 律 の 規 定 は , 適 切 な 航 法 で 運航し,灯火若しくは形象物を表示し,若しくは信号を行うこと又は船 員の常務として若しくはその時の特殊な状況により必要とされる注意を することを怠ることによって生じた結果について,船舶,船舶所有者, 船長又は海員の責任を免除するものではない. 26 第2章 2.11.2 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 海難審判法の総則 第1章 総則 第1条 この法律は,海難審判庁の審判によつて海難の原因を明らかにし,以 てその発生の防止に寄与することを目的とする. 第2条 左の各号の一に該当する場合には,この法律による海難が発生したも のとする. 1 船舶に損傷を生じたとき,又は船舶の運用に関連して船舶以外の施設に 損傷を生じたとき. 2 船舶の構造,設備又は運用に関連して人に死傷を生じたとき. 3 船舶の安全又は運航が阻害されたとき. 第3条 海難審判庁の審判においては,左の事項にわたつて,海難の原因が探 究されなければならない. 1 人の故意又は過失に因って発生したものであるかどうか. 2 船舶の乗組員の員数,資格,技能,労働条件又は服務に係る事由に因っ て発生したものであるかどうか. 3 船体若しくは機関の構造,材質若しくは工作又は船舶のぎ装若しくは性 能に係る事由に因って発生したものであるかどうか. 4 水路図誌,航路標識,船舶通信,気象通報又は救難施設等の航海補助施 設に係る事由に因って発生したものであるかどうか. 5 港湾又は水路の状況に係る事由に因って発生したものであるかどうか. 第4条 海難審判庁は,海難の原因について取調を行い,裁決を以てその結論 を明らかにしなければならない. 27 第2章 2 .1 2 錨泊の要素と錨泊態勢の確立 本章のまとめ 本章では船舶の錨泊と錨泊に関連する様々な要素について述べた.錨泊するに あたり,大縮尺の海図上に航進目標と横目標,レーダー目標,錨地への進入針路 と速力逓減計画を設定するなど,事前に周到な投錨計画を立てた後,予定した錨 地に接近する.しかし,予定錨地付近に先船が錨を投じていることもあることか ら,予備の錨地も計画する必要がある.さらに錨を投じた後は,錨泊期間中に予 想される気象・海象などを勘案して安全に錨泊を維持するための措置を臨機に講 じるとともに,自船のみならず周囲の他船の動静監視も怠ることはできない. 近 年 , GP S( G l o b a l P o s i t i o n i n g S y s t e m : 全 地 球 測 位 シ ス テ ム ) の 登 場 に よ り , レ ー ダ ー 画 面 や E C D I S ( El ec tr on i c C h a r t D i s p l a y a n d I n f o r m a t i o n S y s t e m : 電 子 海 図 表 示 装 置 ) 上 で 自 船 の 位 置 と そ の 動 き を 知 る こ と が で き , ま た , AIS( Automatic Identification System: 自 動 船 舶 識 別 装 置 ) を 搭 載 す る 船 舶 間 で , そ の動静と位置情報,目的地と到着予定日時,国籍などについての情報をレーダー 画面上で具体的に捉えることができるようになった.電子機器の発達と機能の充 実は船舶の安全運航に大きく寄与するところではあるが,荒天強風下の錨泊にお いては,船体の振れ回り状況,船体動揺や振動の異常,受風向の異変などから走 錨あるいは走錨のおそれを経験的に判断することが多く,長年の海上経験と鋭い 勘に基づく注意力と判断力を瞬時に必要とする場面も多々ある.海上では,気象 海象,さらには他の錨泊船の動静変化などに即応して,さらなる監視姿勢と安全 な錨泊態勢の確立,状況により主機関の緊急暖機や錨地の変更など,ありとあら ゆる事象に対して適切に措置することで自船の安全を確保してきた.自己完結性 が強く求められる船の現場では,船員の長年の経験則が変わらず重要視され,船 舶運用の書籍等に記載された参考事項や過去の苦い経験などが船員には思考と行 動及び応用のベースになることが非常に多いのも事実である. 海 難 審 判 法 で は ,同 法 第 2 条 に 該 当 す る 場 合 に 海 難 が 発 生 し た も の と 見 な さ れ , 発生に至る過程を含み,その原因が詳しく調査される.また,海難審判裁決録に おいて公開される.しかしながら,最善の努力により幸運にも海難に至らなかっ た事例は多々あるとことが予想され,錨泊中の事例も同様と考える.これらは一 般に船外・社外に公表されないことから,安全運航のための実務資料として広く 公開される機会もない実情にある. 28 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航 支援情報の提供 3 .1 研究の背景と概要 深 江 丸 は 19 8 7 年 1 0 月 の 就 航 以 来 , 2 0 0 7 年 1 0 月 で 船 齢 2 0 年 を 迎 え た . 当 時 の 文 部 省が所有する神戸商船大学の練習船として学術と研究に貢献することも大きな柱 で あ り , 建 造 当 時 と し て は 画 期 的 と も い え る 光 フ ァ イ バ ー を 用 い た 船 内 LANを 搭 載 し ,航 海 ,気 象 及 び 機 関 関 連 の デ ー タ を 収 集 で き る 環 境 が 整 っ て い た .そ こ で , この既存のシステムを活用して,深江丸の運航に関連した各種の情報を具体的に リアルタイムに提供できる新たなシステムの構築を目指した.また,深江丸の船 橋 前 面 の オ ー バ ー ヘ ッ ド ・ コ ン ソ ー ル に は 操 船 に 必 要 な 舵 角 , C P P ( C o n t r o l a ble Pitch Propeller: 可 変 ピ ッ チ ・ プ ロ ペ ラ ) 翼 角 , 前 後 の ス ラ ス タ 翼 角 , 船 速 , 相対風向・風速,プロペラ回転数などの表示器が設置されているが,離着さん時 において,船長の操船指揮の舞台となる船橋両舷のウイングにはスペースの関係 でこれらが何も装備されていない.そこで船橋甲板や船首尾甲板及び船内の各所 で航海情報や操船支援情報をグラフィックスや文字と数値情報を用いて具体的に 見ることのできる表示方法を模索した.なお,コストの問題から,構築にあたっ て は 専 用 の 特 殊 な 装 置 を 用 い る こ と な く 市 販 の ノ ー ト 型 PCそ の 他 の 関 係 機 器 を 積 極 的 に 採 用 し ,各 種 の 情 報 収 集 と 転 送 に お い て は 船 内 L A N 及 び 無 線 L A N を 活 用 し た . 試行にあたり,まず船橋甲板における情報転送と表示手段を確立し,その後, 無 線 LANの 有 効 範 囲 内 で あ れ ば 船 内 の い か な る 場 所 に お い て も 個 々 の PCか ら 独 立 して操作できるものに随時発展させた.同時に,乗組員や学生の様々なアイデア を反映し,逐一実験に基づく評価と改良を重ね,利用者に有益な運航情報を提供 す る た め に 機 能 の 拡 充 を 図 っ た . な お , 本 シ ス テ ム を 「 FNavi-X」 と 命 名 し た . 29 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 錨泊中の錨と自船との位置関係については,錨を投じたときに海図上にプロッ トした自船の船橋位置,あるいは,船橋-船首間の距離を補正した海図上の船首 位置によりある程度把握することができる.しかしながら,紙海図の縮尺に基づ く位置確認の精度などには自ずと限界があり,具体的に高精度に自船の錨泊の現 状を知る手段はない.統合化航海情報処理システムの運用と評価に基づく改良を 重 ね る う ち , 本 シ ス テ ム で は 大 縮 尺 の ECDIS( Electronic Chart Display and I n f or m at i o n S y s t e m : 電 子 海 図 表 示 装 置 ) の 画 面 上 に 現 在 の 自 船 の 位 置 や 航 海 関 連の情報を統合して表示できることから,錨泊中の自船の船体移動軌跡や投下し た錨と自船の位置関係の他,有効な錨泊監視情報をグラフィックスなどの視覚情 報を用いて具体的に,かつ,リアルタイムに表示できるものとした.さらに,揚 投錨操船や離着さん操船などにおいて,近い過去の船体移動軌跡とともに近い将 来の船体移動を予測して表示する機能を考案し,あわせてこれらの実用化に取り 組んだ.自船と投下した錨との位置関係や自船の錨泊状態を具体的な数値や簡易 船 形 な ど に よ り 統 合 し て 表 示 で き る FNavi-Xは 画 期 的 な 発 想 で あ り , 現 状 で は 深 江丸以外,他にない. 3 .2 船 内 LA N を 用 い た 運 航 デ ー タ の 収 集 と 転 送 深 江 丸 に は 建 造 時 に 100Mbps FDDIの 基 幹 LANが 設 置 さ れ て い た . こ れ に 接 続 し た船内数カ所のハブとコンピュータをツイスト・ペアケーブルにより接続するこ とで,イーサネット・インターフェイスを介して,ジャイロコンパスの示度,船 速 , 風 向 ・ 風 速 , 舵 角 , レ ー ダ ー ARPA情 報 , AIS情 報 な ど の 航 海 ・ 気 象 情 報 , さ らに機関運転監視情報などの送受信を可能にした.そこで,データ収集のための 既 設 の ハ ー ド ウ エ ア と 船 内 LANを 活 用 し て , 船 舶 の 運 航 に 関 連 し た 各 種 の デ ー タ を 転 送 し , LANに 接 続 し た 複 数 の P C で 同 時 に デ ー タ の 送 受 信 と 処 理 を 行 い , か つ , 個 々 の PCに お い て 独 立 し た 操 作 と 表 示 が 可 能 な シ ス テ ム を 構 築 し た . ま た , LAN に 直 接 接 続 で き な い PCに つ い て は 無 線 LANに よ り 接 続 し た . こ れ に よ り 船 舶 の 構 造設備に係る特殊な配線を必要とせず,各種センサーから取得した多数のデータ は サ ー バ ー を 経 由 し て LANに 配 信 , 船 内 の 任 意 の 場 所 に 設 置 し た PCに お い て デ ー タ処理の後,画面上に表示できるようになった.また,サーバーには処理のため のデータを逐一収録することで,各種の実験や研究,操船評価等の目的で別の機 30 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 会 に 再 現 , あ る い は デ ー タ の 抽 出 が で き る も の と し た . 無 線 LANの 活 用 に よ り ネ ットワークに接続するだけで多くの種類の機器類を増設したのと同様の効果が生 じ , さ ほ ど 大 き な ス ペ ー ス を 必 要 と せ ず , 船 内 の 全 域 で 複 数 の PCに よ る デ ー タ 転 送 と 個 々 の PCに よ る 独 立 し た 操 作 と 表 示 が 可 能 に な っ た . 3 .3 統合化航海情報処理システム 近年,電子技術のめざましい発展により船舶に搭載される各種の航海関連機器 はその性能の向上とともに小型省電力化,多機能化し,各種データの取得が容易 に な っ た . ま た , 日 本 周 辺 海 域 に お け る 測 位 精 度 は , D - G P S ( D i f f e r e n t i al G lo b a l P o si t i o n i n g S y s t em ) を 用 い た 場 合 , ほ ぼ 1 m 内 外 と 格 段 に 向 上 し た . さ ら に,その応用機能もソフト面で拡充可能なことから,比較的低コストで船舶に追 加 装 備 が 可 能 な D-GPSに 着 目 し , 有 効 な 航 海 情 報 を 提 供 す る た め の シ ス テ ム 構 築 を進めながら実船現場に即した各種機器類の活用を目指した.大がかりな機器の 換装を要することなく,最小限度の追加装備と極力簡易な配線により情報を転送 するために,散在する様々なセンサーからのデータをサーバー及び深江丸の船内 L A N と 無 線 LA N を 経 由 し て 船 内 各 所 に 設 置 し た P C に 取 り 込 み , 船 の 運 航 に 関 連 す る 様 々 な 情 報 を 一 括 し て 表 示 で き る シ ス テ ム 構 成 と し た . 無 線 LANの 有 効 範 囲 内 で あ れ ば , PCは 操 舵 室 内 や 船 橋 ウ イ ン グ の 他 , 各 甲 板 の 任 意 の 場 所 に 設 置 で き , 航 行海域の電子海図情報とともに自船の状況や離着桟時の船の動き,さらには錨泊 中 に お け る 錨 泊 監 視 情 報 を PC画 面 上 に リ ア ル タ イ ム に 表 示 す る . 図 3.1に 統 合 化 航海情報処理システムの構成を示す. 31 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 図 3.1 統 合 化 航 海 情 報 処 理 シ ス テ ム の 構 成 (14)(15)(16)(18) 3.4 統合化航海情報処理システムの情報表示の概念 既述のとおり,深江丸で構築し運用中の統合化航海情報処理システムは一般の 船舶に搭載されている機器メーカの開発によるものではなく,実船現場に必要と される様々な機能について,実際の運用を通じてそのアイデアを集結したもので あり,船の運航現場の実情に即した利便性と操作性を限りなく追求したものであ る.さらに,深江丸は練習船ゆえに特殊な運航形態を有し,乗船系及び非乗船系 の学部学生の学内船舶実習と実験,社会貢献活動の一環として小中学生や高校生 の海事体験・環境教育,海事関連企業の船舶研修や一般を対象にした海事体験な ど,様々な目的の運航を展開する.そこで,本システムでは特殊な専門知識がな くても操作が可能であり,視覚情報と音声情報により一般者でも容易に理解でき るように工夫した. 32 第3章 3 .5 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 統合化航海情報処理システムの基本画面 統 合 化 航 海 情 報 処 理 シ ス テ ム で は 次 に 示 す 5 つ の 基 本 画 面 を 用 意 し , 個 々 の PC の操作画面において各機能ボタンをマウス・クリックすることで情報表示項目の 選択,機能選択や各種の設定が可能である. <基本画面> ① 電子海図画面 ② Main画 面 ③ Meter 画 面 ④ 機関運転監視画面 ⑤ 航海計画画面 次に操作と情報表示機能についてその概要を述べる. 3.5.1 ENC: 電 子 海 図 画 面 運航の場面ごとに必要な任意縮尺の電子海図情報を基本画面として,以下に示 す 情 報 を 表 示 す る .ま た ,表 示 機 能 選 択 に よ り 情 報 の 表 示 ・ 非 表 示 を 可 能 と す る . 細かく設定された電子海図画面の縮尺を段階的に拡大することで後述する船体移 動予測表示画面や錨泊監視画面に連動する. <表示項目> 1.電子海図上の自船の位置(船型グラフィックスまたはポイント) 2.自船を中心に配置した方位盤,移動ベクトルの方向と大きさ 3 . 航 海 計 画 に よ る コ ー ス ラ イ ン と W P ( W a y P o i nt : 通 過 予 定 地 点 ) 4.船体移動軌跡(深江丸の転心位置の移動軌跡) 5 . 船 体 移 動 予 測 ( 大 縮 尺 画 面 ; 1 ・ 3 ・ 6 ・ 1 0・ 1 5 ・ 2 0 秒 間 隔 × 6 船 形 ) < 最 小 6 秒 か ら 最 大 120 秒 将 来 ま で > 6 . 船 体 移 動 軌 跡 ( 大 縮 尺 画 面 ; 1 ・ 3 ・ 6 ・ 1 0・ 1 5 ・ 2 0 秒 間 隔 × 6 船 形 ) < 最 小 6 秒 か ら 最 大 120 秒 過 去 ま で > 33 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 7 . CPP翼 角 , エ ン ジ ン ・ モ ー シ ョ ン , バ ウ 及 び ス タ ン ・ ス ラ ス タ 翼 角 8 . 任 意 の 深 度 に お け る 潮 流 の 流 向 と 流 速 ( 最 大 3 層 ), 水 深 9.相対風向・相対風速,真風向・真風速,風力 10. 大 気 圧 , 乾 球 温 度 , 海 水 温 度 11. 電 子 海 図 の サ ブ 画 面 ( 小 縮 尺 の 電 子 海 図 を 画 面 の 一 部 に 分 図 と し て 表 示 ) 12. 舵 角 ( M i d s h i pか ら 左 右 両 舷 3 5 度 ま で ) 13. 回 頭 角 速 度 14. UT( 世 界 時 間 ) と J ST( 日 本 時 間 ) 15. 自 船 の 位 置 ( 緯 度 ・ 経 度 ) 16. ベ ク ト ル ・ タ イ ム ( 移 動 ベ ク ト ル の 大 き さ : 分 単 位 ) 17. D-GPS 針 路 18. D-GPS 速 力 19. ジ ャ イ ロ ・ コ ー ス 20. ド ッ プ ラ ・ ロ グ 速 力 21. サ テ ラ イ ト ・ コ ン パ ス 情 報 22. 電 子 海 図 上 の 距 離 ス ケ ー ル 23. 自 船 か ら 任 意 地 点 ま で の 方 位 ・ 距 離 ( 1. 0 8海 里 : 2 , 0 00 m 以 内 で は メ ー ト ル 表 示 ) 24. 推 算 風 圧 力 ( 錨 泊 中 ) 25. 錨 と 錨 鎖 の 推 算 係 駐 力 ( 錨 泊 中 ) 26. レ ー ダ ー A R P A 情 報 ( A RP A 捕 捉 時 ) AR P A ( A u t o m a t ic R ad a r P l o tt i n g A i ds : 自 動 衝 突 予 防 援 助 装 置 ) 27. AIS情 報 AIS ( A u t o m a t i c I d en t i fi c a ti o n S y s te m: 自 動 船 舶 識 別 装 置 ) 28. WP( 通 過 予 定 地 点 ) 情 報 29. WP予 定 時 刻 , WPま で の 航 程 と 所 要 時 間 , 過 去 の W P 通 過 時 刻 30. コ ー ス ラ イ ン か ら の 横 変 位 量 と 次 の W P へ の 修 正 針 路 31. 任 意 の WPま で の 方 位 ・ 距 離 ( 1.08海 里 : 2,000m 以 内 で は メ ー ト ル 表 示 ) 32. 測 深 情 報 1 ( 音 響 測 深 儀 の 測 深 開 始 か ら 時 系 列 に よ り 連 続 表 示 ) 33. 測 深 情 報 2 ( 超 音 波 潮 流 計 の 測 深 情 報 : 常 時 ) 34. 各 航 海 及 び 任 意 の 期 間 の 航 程 ・ 総 航 程 ( 海 里 ) 35. 英 語 音 声 に よ る 現 針 路 と 速 力 , 次 の WPの 方 位 ・ 距 離 , 次 の WPへ の 修 正 針 路 36. 文 字 と 英 語 音 声 に よ る 走 錨 警 報 , 振 れ 回 り の 異 常 警 報 ( 錨 泊 時 ) 34 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 <表示機能・設定変更ボタン> 1 . 航 海 計 画 の 立 案 画 面 ボ タ ン : WP( 予 定 通 過 地 点 ) 変 更 に よ る コ ー ス ラ イ ン 設定 2.船体移動予測の時間間隔設定ボタン ( 1 ・ 2 ・ 5 ・ 10・ 15・ 20秒 間 隔 × 6 船 形 ) 3.各種情報表示群の選択ボタン 4 . タ イ ム ・ プ ロ ッ ト 選 択 ボ タ ン ( 毎 正 時 及 び 5 ・ 6 ・ 10・ 15・ 30・ 60分 ) 5.電子海図上の自船中心またはオフ・センター表示の選択ボタン 6.電子海図の縮尺変更ボタン ( 日 本 沿 岸 全 域 か ら 最 大 約 1 / 4 00 ま で 段 階 的 に 細 か く 連 動 ) 7.電子海図サブ画面の表示・非表示選択ボタン 8 . Main 画 面 選 択 ボ タ ン 9.自船からの任意地点までの方位・距離測定ボタン 10. 任 意 地 点 間 の 方 位 ・ 距 離 測 定 ボ タ ン 11. 錨 の 投 下 と 錨 投 下 位 置 の 記 憶 ボ タ ン 12. 錨 ク リ ア ( 揚 錨 ) ボ タ ン 13. 走 錨 警 報 の 距 離 設 定 ボ タ ン ( 錨 の 投 下 位 置 か ら 船 首 ま で の 半 径 を 設 定 ) 14. レ ー ダ ー A R P A 情 報 の 表 示 ・ 非 表 示 ボ タ ン 15. AIS情 報 の 表 示 ・ 非 表 示 ボ タ ン 16. Xバ ン ド ・ Sバ ン ド レ ー ダ ー に よ る 情 報 表 示 の 切 り 換 え ボ タ ン 17. 相 対 運 動 ・ 真 運 動 表 示 の 切 り 換 え ボ タ ン 18. WP( 通 過 予 定 地 点 ) 情 報 の 表 示 ・ 非 表 示 ボ タ ン 19. WPの 選 択 ボ タ ン 20. 次 の WPま で の 方 位 ・ 距 離 情 報 の 表 示 ・ 非 表 示 ボ タ ン 21. 測 深 情 報 の 表 示 ・ 非 表 示 ボ タ ン 22. 航 程 及 び 総 航 程 の 表 示 ・ 非 表 示 ボ タ ン 35 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 図 3.2は 阪 神 港 神 戸 区 を 航 行 中 の , ま た , 図 3.3は 明 石 海 峡 通 過 後 の FNavi-X画 面を示す. 図 3.2 阪 神 港 神 戸 区 を 航 行 中 の FN a v i- X 画 面 図 3.3 明 石 海 峡 通 過 後 の F N a v i - X 画 面 36 第3章 3.5.2 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 Main: メ イ ン 画 面 D-GPSに よ る 船 位 と 船 体 移 動 の 状 況 , 針 路 , 各 速 力 機 器 の 速 力 , 回 頭 角 速 度 , 舵角,風向と風速,気圧,気温と海水温度,推進器回転数,プロペラ・ピッチな ど,電子海図以外の各種の情報をデジタル及びアナログで統合表示する. 図 3.4に Mai n 画 面 の 表 示 例 を 示 す . 各 ボ タ ン の 機 能 は 次 の 通 り . ① Meterボ タ ン : Meter画 面 に 移 動 し , 各 種 の 航 海 情 報 を ア ナ ロ グ ・ メ ー タ ー で統合表示する. ② ENCボ タ ン :電子海図画面に戻る. ③ Chartボ タ ン : ス キ ャ ン し て 保 存 し て い る 紙 海 図 を 表 示 す る . ④ C our s ボ タ ン : 航 海 計 画 の 作 成 と 設 定 や 変 更 , 航 海 目 的 の 名 称 変 更 な ど を 行う. ⑤ Optionボ タ ン : デ ィ ス プ レ イ の 昼 夜 別 の 表 示 変 更 , ベ ク ト ル ・ タ イ ム の 設 定 ,船 首 ベ ル マ ウ ス か ら の 錨 鎖 伸 出 長 さ の 設 定( 0. 5 節 単 位 ) 海底の底質(泥・砂)など,各種の情報表示に係る基本設 定を行う. ⑥ Quitボ タ ン : Main 画 面 の 表 示 を 終 了 す る . 図 3 . 4 M a i n画 面 の 表 示 例 37 第3章 3.5.3 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 Meter: Meter画 面 メ ー タ 画 面 は , ジ ャ イ ロ の レ ピ ー タ ・ コ ン パ ス , CPP翼 角 , ス ラ ス タ 翼 角 , 舵 角,相対風向と相対風速など,深江丸船橋のオーバーヘッド・コンソールにメー ターでアナログ表示される各機器による示度を同一画面に一括して表示する. 図 3.5に Met e r 画 面 の 表 示 例 を 示 す . 図 3 . 5 M e t e r画 面 の 表 示 例 3.5.4 Log/Wx: 速 力 ・ 気 象 /ベ ル ブ ッ ク 記 録 画 面 各 航 海 の 航 海 計 画 で 設 定 し た WP( Way Point: 通 過 予 定 地 点 ) の 緯 度 と 経 度 , WP間 の 針 路 と 航 程 , 毎 正 時 及 び WP通 過 時 の 風 向 と 風 速 , 大 気 圧 , 気 温 と 海 水 温 度 な ど , 航 海 日 誌 ( Log Boo k) 記 載 の た め の 各 デ ー タ を 記 録 し 表 示 す る . Bellボ タ ン を 選 択 す る と 主 機 関 の 運 転 状 況 と 操 作 し た 時 間 を , そ の と き の 緯 度 経度とあわせて表示する. 図 3.6(a)に Log/Wx画 面 の 表 示 例 を , 3.6(b)に Bell Book画 面 の 記 録 表 示 例 を 示 す. 38 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 図 3.6 (a) L og / W x画 面 の 表 示 例 図 3 . 6 ( b ) B e l l B o o k画 面 の 記 録 表 示 例 39 第3章 3.5.5 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 C h a r t i m a g e S e l e c t i o n M e n u: 紙 海 図 表 示 画 面 スキャンして保存する紙海図を表示する.この選択画面は本システムの構築初 期 に お け る ECDISの デ ー タ を 導 入 す る 前 の 紙 海 図 選 択 画 面 で あ り , 予 備 の 機 能 と し て 待 機 す る . 図 3.7(a)に Chart image Selection Menu画 面 の 表 示 例 を , 図 3.7 (b)に 紙 海 図 画 面 の 表 示 例 を 示 す . 図 3 . 7 ( a ) C h a rt i ma g e S e l ec t i on M en u画 面 の 表 示 例 図 3.7 (b) 紙 海 図 画 面 の 表 示 例 40 第3章 3.5.6 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 Cours line Selection Menu: コ ー ス ラ イ ン 選 択 設定画面 各航海の実施前に電子海図上に立案した航海計画の選択と表示,過去の計画の コ ピ ー や 名 称 変 更 な ど を 行 う .N a v i S c h eキ ー に よ り 航 海 計 画 の 作 成 画 面 に 連 動 し , WP区 間 ご と の 計 画 速 力 を 入 力 す る こ と で , WP通 過 予 定 時 刻 や 目 的 地 到 着 予 定 時 刻 を 瞬 時 に 計 算 し て 表 示 す る . 図 3.8(a)に Cours line Selection Menu画 面 の 表 示 例 を , 3.8( b ) に 選 択 し た C ours line 画 面 の 表 示 例 を 示 す . 図 3 . 8 ( a ) C o u r s l i n e S e l e c t i o n M e n u画 面 の 表 示 例 図 3 . 8 ( b ) 選 択 し た C o u rs l in e 画 面 の 表 示 例 41 第3章 3.5.7 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 O p t i o n / S e t t i n g M e n u: 各 種 表 示 設 定 画 面 ディスプレイの昼夜別の色調と表示輝度の変更,警報音,音声,伸出錨鎖長 ( 0 . 5 節 単 位 ), 海 底 の 底 質 ( 泥 ・ 砂 ), ベ ク ト ル ・ タ イ ム や 航 跡 表 示 時 間 の 設 定 など,各種の情報表示に係る基本設定を行う.ここで設定した内容は各種の表示 に 自 動 的 に 反 映 さ れ る . 図 3.9(a)~ 3.9(d)に Option/Setting Menu画 面 の 表 示 例 を示す. 図 3.9(a) O p t i o n / S e t t in g Me n u 画 面 図 3 .9 ( b ) O p t i o n / S e t t i n g M e n u 画 面 の表示例1 の表示例2 図 3.9(c) O p t i o n / S e t t in g Me n u 画 面 図 3 .9 ( d ) O p t i o n / S e t t i n g M e n u 画 面 の表示例3 の表示例4 42 第3章 3 .6 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 情報表示M2画面 情報表示M2には次の6画面が用意されている.すべての画面上において,各 機能ボタンをマウス・クリックすることにより情報表示項目の選択,機能選択と 設定が可能である. 3.6.1 AIS/ARP: AIS/ARPA情 報 表 示 画 面 現 在 捕 捉 し て い る 船 舶 の AIS情 報 と レ ー ダ ー で 捕 捉 中 の ARPA情 報 を 一 括 し て 表 示 す る . 図 3 . 1 0 に A I S画 面 の 表 示 例 を 示 す . 図 3 . 1 0 A I S画 面 の 表 示 例 《 リ ス ト 番 号 1 の AISタ ー ゲ ッ ト の 表 示 内 容 》 上段左から, 1) タ ー ゲ ッ ト 番 号 : E16( Und er w a y u s i ng e ng i n e) 2 ) M M S I : M a r i t i m e M o b i l e S e r v i c e I d e n t i t y ( 海 上 移 動 業 務 識 別 ): 6 3 6 0 9 1 2 1 5 3) デ ー タ 受 信 時 刻 : 世 界 時 間 06時 0 8 分 4 3 秒 4) タ ー ゲ ッ ト 情 報 : 方 位 219度 , 距 離 1.5海 里 , 真 針 路 230.0度 , 速 力 17.7ノ ッ ト 航 海 状 態 0 ( U n de r wa y us i n g e n g i n e ), 船 首 方 位 2 30 度 回 頭 角 速 度 0. 0 ( 正 ; 右 回 頭 , 負 : 左 回 頭 ) 43 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 緯 度 3 4度 3 0. 8 3 00 分 , 経 度 1 35 度 1 1 . 9 0 0 0 分 下段左から, I MO 番 号 9 3 484 9 3 , 船 名 T S H O N G K O N G , 全 長 1 68 m , 船 幅 3 5 m 喫 水 8.5m , 船 種 O t h er T yp e ( そ の 他 ) 航海状態表示の意味は下記のとおり. 0 : Und e r w a y u s i ng e ng i n e( 機 走 ) E 1 : At a n c h o r( 錨 泊 ) A 2 : Not u n d e r c o m ma n d ( 運 転 不 自 由 ) C 3 : Res t r i c t e d m a no e u vr a b il i t y( 操 縦 性 能 制 限 ) R 4 : Con s t r a i n e d b y h e r d r au g h t( 喫 水 制 限 ) D 5 : Moo r e d( 係 留 ) M 6 : Agr o u n d( 乗 り 上 げ ) G 7 : Eng a g e d i n F i sh i n g( 漁 労 ) F 8 : Und e w a y s a i l in g ( 帆 走 ) S 15 : Not D e f i n e d( 未 定 義 ) 3.6.2 - Order Record: エ ン ジ ン モ ー シ ョ ン ・ 操 舵 指 示 記録画面 実験や実習の他,運航の実場面において,発令した操舵号令とエンジン・モー シ ョ ン を 記 録 す る . 図 3.1 1に O rder R ec o r d画 面 の 表 示 例 を 示 す . 図 3 . 1 1 O rd e r R e c or d 画 面 の 表 示 例 44 第3章 3.6.3 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 Engine M/E: 主 機 関 運 転 監 視 画 面 主機関の運転監視に関連する各部の温度や圧力,回転数と出力,トルクとスラ ス ト な ど を 一 括 し て 表 示 す る . 図 3 . 1 2に E ng i n e M / E画 面 の 表 示 例 を 示 す . 図 3 .1 2 En g i ne M /E 画 面 の 表 示 例 3.6.4 Engine D/G: 発 電 機 運 転 監 視 画 面 発電機の運転監視に関連する各部の温度や圧力,回転数と出力などを一括して 表 示 す る . 図 3 . 1 3 に E n g in e D/ G 画 面 の 表 示 例 を 示 す . 図 3 .1 3 En g i ne D /G 画 面 の 表 示 例 45 第3章 3.6.5 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 Engine Monitor: メ イ ン エ ン ジ ン ・ ロ ガ ー , ロード・モニター画面 主機関の回転数,プロペラ・ピッチなどを表示し,航行環境により変動する主 機 関 の 負 荷 の 状 況 を ロ ー ド ・ カ ー ブ 上 に 表 示 す る . 図 3.14に Engine Monitor画 面 の表示例を示す. 図 3 . 1 4 E n gi n e M o n i t o r画 面 の 表 示 例 3.6.6 F.O.Tank/L.O.Sump.Tank: 燃 料 , 潤 滑 油 タ ン ク コンディション画面 燃料と潤滑油の搭載量を表示する.なお,サウンディングの値は船体トリムの 状況により変動するため,各トリムの状態ごとに搭載量を補正して表示する. 図 3.15に F. O . T a n k / L . O . Su m p .T a n k画 面 の 表 示 例 を 示 す . 図 3 . 1 5 F . O. T a n k / L . O . S u m p . T a n k画 面 の 表 示 例 46 第3章 3 .7 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 離着さんの低速時及び錨泊中の船体移動予測 出入港離着さんのための港内操船や揚投錨操船において,船長は自船の船首方 位や回頭の状況,船の移動方向,増減速の状況,風向と風速の他,自船に関係す る 様 々 な 情 報 を 即 座 に 必 要 と す る .ま た ,岸 壁 な ど の 港 湾 施 設 や 他 船 の 動 静 な ど , 自船の動きに影響するであろうあらゆる事象を意識し,これらを総括して瞬時に 見定め,的確な判断と操船に係る発令を行う.特に離着さん時において船長は臨 機に所要の操船オーダーを次々と発令するが,オーダーの復唱から操作に至る過 程において時間遅れが伴い,さらに船体運動への応答遅れが伴う.この傾向は船 が 大 型 化 ・ 専 用 船 化 す る ほ ど ,ま た ,風 な ど の 気 象 条 件 が 厳 し い ほ ど 顕 著 に な る . 船体移動予測表示は,操船者が必要とするであろう自船の各種の情報を任意縮 尺の電子海図上にリアルタイムに表示させることで操船の支援を行う.離着さん や揚投錨操船時の低速域では,強弱を伴う風の変化と潮流が船体運動に大きく影 響することから,主機関の推力と舵効きなどの自船の運動性能を最大限に発揮し て操船する必要がある.船体の動きについては後述する錨泊監視システムと同様 に,極めて近い過去から現在に至る動きをその移動軌跡とともに表示し,さらに 極めて近い将来の船体移動を予測して表示する. 船体の移動を予測する場合,一般的な計算方法を運動性能の異なる個々の船舶 に一様に適用して定式化することは難しい.また,毎1秒更新のリアルタイムな 表 示 を 可 能 に す る た め に は 汎 用 PCに は 自 ず と 限 界 が あ る . そ こ で , 移 動 す る 船 体 が,そのままの状態で放置されれば近い将来どのように動いていくかを予測する こ と と し , し ば ら く 前 か ら 現 在 ま で の D-GPS船 位 と ジ ャ イ ロ 方 位 の 変 化 を 基 に そ のデータを平均化し,極く短時間はその運動が続くものと仮定した.この手法で は,風潮流を含む船体に作用するすべての環境要素が過去のデータ変化にすでに 含 ま れ る こ と に な る . こ れ に よ り , 基 本 的 な 入 力 デ ー タ は D-GPSと ジ ャ イ ロ コ ン パスの2つのセンサーからのみとなり,風向と風速,流向と流速,操舵,エンジ ン・モーションやスラスタ操作等に係るデータ入力と計算処理の必要がなくなっ た.このことは各種センサーの整っていない小型船等への適用を含み応用範囲が 格段に広がることを意味する.さらに,個々の船に依存するような性能に関する 変数を含まないので計算に関しては一切調整する必要がなく,すべての船舶に適 用できる. 過去のデータを平均化して未来を予測するということは,横軸に時間,縦軸に 47 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 緯度と経度及び船首方位とした離散的な計測点からデータの外挿補間を行うこと と解釈できる.離散的なデータの補間には直線または曲線へのあてはめがしばし ば利用される.線形のデータ補間には一般に最小自乗法が用いられ,非線形の補 間にはスプライン補間や最小自乗近似が利用される.そこで深江丸による実船実 験からどのような補間方法が適切かを検討した.その結果,船位については,船 が変針している状況において一次の補間による予測は直線的に進んでしまい実際 の動きからのずれが大きくなることがわかった.このことから船位については二 次の補間方法を用いることにした.また,スプライン補間では必ず計測データ点 を通過するように曲線にあてはめるので外挿には適さないことから二次の最小自 乗 近 似 を 採 用 し た . 一 方 , 船 首 方 位 に つ い て は 予 測 す る 時 間 の 範 囲 (数 秒 か ら 数 十 秒 )で は ほ ぼ 線 形 で 変 化 す る こ と が 実 船 実 験 に よ り 確 か め ら れ た の で 一 次 の 最 小自乗近似を用いることにした. 次に,何秒前からのデータを近い将来の予測に用いるかを決定する必要があっ た.そのため,予測に用いる過去のデータの秒数と予測誤差(予測値と実際の値 との差)の関係を実船実験により求めた.分析では本システムの予測の原理に合 わ せ て 舵 等 を 変 化 さ せ て い な い 場 面 の み を 抽 出 し た . 図 3.16は 予 測 に 用 い る デ ー タと予測誤差を示す. 図 3.1 6 予 測 に 用 い る デ ー タ と 予 測 誤 差 深 江 丸 で は , 予 測 に 用 い る 過 去 の デ ー タ が 10秒 過 去 よ り 近 い 場 合 は 誤 差 が 大 き く な る が , 10秒 を 越 え る と , そ れ よ り 以 前 か ら の デ ー タ を 用 い て も 誤 差 が ほ と ん ど 変 わ ら な い こ と が 判 明 し た . こ の こ と か ら , 船 体 移 動 の 予 測 に は 過 去 10秒 間 の デ ー タ を 用 い る こ と に し た . 予 測 は 常 に 10秒 過 去 の デ ー タ を 用 い て 計 算 す る が , 表 示 に つ い て は , 1秒 ・ 2秒 ・ 5秒 ・ 10秒 ・ 15秒 ・ 20秒 毎 の 中 か ら 間 隔 を 任 意 に 選 48 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 択することができ,その間隔で船体形状を模した6つのフレームで表示する.操 船 者 は 船 の 移 動 の 速 さ と 水 域 に 合 わ せ て 最 小 6 秒 か ら 最 大 120秒 先 ま で を 予 測 し た 船 体 図 形 に よ り ,自 船 の 真 上 に 位 置 す る か た ち で 船 体 移 動 の 状 況 を 把 握 で き る . 同時に,同じ間隔で過去の位置と姿勢の変化を色違いの同様の図形で表示する. さらに,電子海図の海岸線データを画面上に任意の大縮尺により表示できること から,船体が岸壁などに対してどのように動いているかというイメージを移動ベ ク ト ル の 方 向 や 大 き さ と と も に 画 面 か ら 簡 単 に 捉 え る こ と が で き る . 図 3.17は 海 事 科 学 研 究 科 深 江 丸 専 用 岸 壁 に 着 さ ん す る と き の F Na v i - X画 面 を 示 す . 図 3.1 7 海 事 科 学 研 究 科 深 江 丸 専 用 岸 壁 に 着 さ ん 時 の F N a v i - X 画 面 こ の 画 面 で は , 30秒 後 の 予 測 に お い て 左 舷 船 首 が 防 波 堤 の 突 端 に か な り 接 近 す こ と を 示 し て い る が , 実 際 に は こ の 後 , CPP, 舵 及 び 前 後 の ス ラ ス タ 操 作 に よ り 接触することなく着さんする.このように,現状において操舵や機関の使用状態 を変更せずにこのまま放置すると近い将来どのように船体が移動してゆくかを操 船者にイメージさせることを目的とした. 今回,近い将来の船体移動の予測方法として,風等の外乱の影響をすべて含ん だ過去のデータを外挿する方法を採用したが,計算の手続きは従来に比べて簡潔 なものになった.また,必要なセンサーは基本的には今日あらゆる規模の船舶で 一 般 的 に 利 用 可 能 な GPSと ジ ャ イ ロ ・ コ ン パ ス の み で あ る . そ の 簡 単 さ に も か か わらず,予測は操船者の運動感覚に近いものであり,直感的にもほぼ妥当な結果 49 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 を得ている.この発案による移動予測は,離着さん操船や揚投錨操船において有 効であり,運航の実場面において十分機能していると考える.また,予測計算に 要する時間はほぼ無視可能なほど短いので,1秒毎に予測を再計算して表示を更 新しても何ら不具合はなく,円滑な表示が見事になされている. 船体移動予測は離着さん時以外においても深江丸の様々な運航場面で有効に機 能している.その例として,学内船舶実習において実習海域に設置した操船実習 用ブイへの離達着操船や揚投錨操船実習を行う機会がある.この際,学生はこの システムを使って船の動きを客観的に捉えることができ,船橋内からの視点から ではなく,上空から鳥瞰したような2次元的な船の動きをリアルタイムに認識す ることができる.また,錨泊時においては,船体の振れ回り運動の状況を把握し 移動を予測する上で有効であり,強風下において振れ止め錨を降下するタイミン グや抜錨時の絡み錨の予防対策にもこの予測機能は有効と考える.その他に期待 できる応用例として次のことが考えられる. ① 定期船などの専用岸壁への接岸と離岸に係る操船支援情報の提供 ② 狭い港内での回頭操船や後進での出港操船における操船支援情報と岸壁情 報の提供 ③ 狭水道や潮流の速い水道などにおける船体の動きに関する情報提供 ④ Wireless LAN の 活 用 に よ る 可 搬 性 と 視 認 性 を 考 慮 し た 情 報 表 示 装 置 へ の 発 展 ⑤ 小 型 GPS受 信 機 の 併 用 に よ る 水 先 人 の 離 着 さ ん 操 船 の 支 援 さらに,深江丸では統合化航海情報処理システムのサーバに航泊の全データを 収録していることから,航海や錨泊の状況,出入港離着さんの状況などの再現が 可能である.また,必要時は別途,デジタルミニテープに電子海図を含む運航の 状 況 と レ ー ダ ー 映 像 ( X・ Sの 両 バ ン ド ) の 収 録 が 可 能 で あ る こ と か ら , 次 回 の 入 出港や狭水道通航時の参考として,あるいは出入港のための操船資料として保管 できる.同様の理由から学生実習等において,事前学習用あるいは事後の評価用 教材として活用するなど,教育へのさらなる応用が期待できる. 50 第3章 3 .8 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 錨泊監視機能 船舶の錨泊の要素と錨泊態勢の確立については第2章で述べたとおりである が,強風下の錨泊において守錨当直者が必要とする情報には,錨泊を安全に維持 するための自船関連情報のみならず,風上あるいは周囲至近に錨泊している他船 の情報が含まれる.周囲至近の錨泊船については,自船及び他船の双方が個々の 振れ回り周期でそれぞれ独自の振れ回り運動をしていることから,単発的なレー ダー方位と距離の測定では判断を見誤るおそれがあり,両者が接近しているか否 かを継続して慎重に監視する必要がある.自船関連では,投下した錨の位置と, その風下側で振れ回り運動を繰り返す自船の振れ回りの状態をできるだけ正確に 把握できることが望ましいが,紙海図上でこれを捉えることは船体によほど大き な移動がない限り困難である.そこで,統合化航海情報処理システムに連動した 錨 泊 監 視 機 能 を 考 案 し ,最 大 縮 尺 約 1 /4 0 0 ま で 拡 大 し て 表 示 で き る 電 子 海 図 上 に , 投下した錨の位置と自船との位置関係及び自船の移動状況等をリアルタイムに正 確に表示できるものとした.この機能により錨泊中の自船の動きを具体的に捉え ることができるようになり,また,警報の設定と作動により,実務経験の浅い学 生や若年船員から熟練者に至るまで,視覚と音声情報により錨泊監視を技術的に 支援できるものになった. 3.8.1 錨泊監視項目 錨地において,船舶が安全な錨泊を維持するためには,自船のみならず周囲至 近の他船の動静や気象・海象の他,錨地周辺の海底の性状を含み,様々な事象に 対して警戒し,状況に応じて適切な処置を講じる必要がある.次に,錨泊中の一 般的な監視項目を挙げる. 《自船関連》 ① 相対風向と相対風速,真風向と真風速 ② 自船の位置と船体運動 ③ 船首方位と船首の振れ回り角度 ④ 振れ回り周期と振れ回り速力 ⑤ 船首のベルマウスから伸びる片舷あるいは両舷錨鎖の伸出方向と俯角及び 51 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 錨鎖緊張の度合い ⑥ 投下した錨の方向と距離,船体動揺の異常,衝撃や振動の有無 《至近に錨泊する他船関連》 ① 船の大きさと船型 ② 積み荷の状況(満載・半載・軽貨) ③ 錨の使用状況 ④ 振れ回り運動の状況 ⑤ 船間距離 《地勢》 ① 錨地の広狭 ② 水深と等深線による海底形状 ③ 底質 ④ 浅瀬,暗岩,沈船,魚礁,海底送電線や海底パイプライン等の水中障害物 の有無 ⑤ 陸岸との距離 《気象・海象》 ① 錨泊期間中に予想される最大風速,風向と風速の変化 ② 風浪とうねりの進入 ③ 潮流の流向と流速 ④ 低気圧や高気圧の動静と気圧変化,前線の種類と活動状況 3.8.2 錨泊監視機能の特徴 F Na vi -X の 電 子 海 図 画 面 は , 縮 尺 を 段 階 的 に 大 き く す る こ と で 最 大 縮 尺 約 1 / 40 0 の錨泊監視画面あるいは入出港時に使用する港内操船画面に連動する.錨泊監視 画 面 で は , 錨 の 投 下 に あ わ せ て 電 子 海 図 画 面 の 錨 投 下 ボ タ ン ( LGAnc) を ク リ ッ クすることで,錨泊のために投下した錨の位置を記憶する.同時に電子海図上に 投下した錨の方位と船首からの直線距離を矢印と数値により表示することから, 錨 と 自 船 と の 位 置 関 係 を 電 子 海 図 上 で 視 覚 に よ り 具 体 的 に 把 握 で き る . 図 3.18に 錨の投下位置と自船の位置関係を示す錨泊監視画面の一例を示す. 52 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 図 3.1 8 錨 の 投 下 位 置 と 自 船 の 位 置 関 係 を 示 す 錨 泊 監 視 画 面 の 一 例 次に錨泊監視機能の特徴を述べる.なお,各種の表示機能については電子海図 画面と同様である. 1 . 船 位 は D-GPSに よ り 高 精 度 に 測 定 し , 風 下 側 へ 1 m の 移 動 も 見 逃 さ な い . 2 . 最 大 縮 尺 約 1/400の 任 意 縮 尺 の 電 子 海 図 上 に , 投 下 し た 錨 の 位 置 と 簡 易 船 体図形による自船の振れ回りの状態を正確に表示し,かつ,近い将来の船 体移動予測を過去の移動軌跡とともに表示する. 3.電子海図上に自船の錨泊位置と錨泊姿勢を表示する. 4.自船を中心にしたコンパス・ローズや固定距離目盛の他,風向と風速,潮 流,水深データ,船体移動状況の他,錨泊監視に係る諸データを一括して 表示する. 5.過去1時間における船体の振れ回り運動の中心点を予測し,伸出した錨鎖 の海底係駐部の立ち上がり部(懸垂部)を電子海図上に「×」印で表示す る. 6.船位,船体の移動軌跡及び船体移動予測は1秒ごとにリアルタイムに更新 する. 7.船体移動ベクトルの表示により,船体の移動方向と移動の大きさ及びこれ らの変化の様子を正確に表示する. 53 第3章 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 8.錨の投下位置と船首位置までの距離を正確に計算し,あらかじめ走錨警報 として設定した距離(錨の投下地点を中心とした船首までの半径)を超え ると作動する走錨警報機能を有し,船体振れ回りの異常,走錨や走錨のお それについて警告を発する. 9.錨と錨鎖による係駐力と風圧力を推算して表示し,これらの大小を比較す ることで走錨警報機能が作動し,文字と音声により警報を発する. 10. 緯 度 線 と 経 度 線 を 細 か く 表 示 す る と と も に , マ ウ ス 操 作 に よ る 電 子 海 図 画 面上のカーソル位置を緯度と経度,あるいは方位と距離で表示する. 11. 方 位 距 離 計 算 機 能 を 有 し , 電 子 海 図 上 で の チ ャ ー ト ワ ー ク が 可 能 で あ る . 12. Xま た は Sバ ン ド レ ー ダ ー に よ り 捕 捉 中 の 至 近 錨 泊 船 と の 位 置 関 係 を 大 縮 尺 の電子海図上に表示する. 13. AIS情 報 に よ り , 電 子 海 図 上 に AIS搭 載 船 と 自 船 と の 位 置 関 係 を 表 示 す る . 14. 縮 尺 を 段 階 的 に 小 さ く す る こ と で 航 海 用 電 子 海 図 画 面 に 連 動 し , 航 海 の 場 面ごとに必要な任意縮尺の海図画面として使用でき,海図縮尺には多段階 の自在性がある. 15. 錨 泊 監 視 に 関 連 す る デ ー タ を サ ー バ ー に 保 存 し て い る こ と か ら , 任 意 時 刻 あるいは任意時間帯における状況の再現やデータの抽出が可能である. 16. 必 要 に 応 じ て 専 用 レ コ ー ダ の デ ジ タ ル ミ ニ テ ー プ に 航 海 , 錨 泊 や 停 泊 の 状 況 , X及 び Sバ ン ド レ ー ダ ー 画 像 等 を 収 録 で き , 再 生 が 可 能 で あ る . 3.8.3 風圧力の推算表示 錨 の 投 下 ボ タ ン ( LGAnc) を ク リ ッ ク す る こ と で , 相 対 風 速 角 と 相 対 風 速 に よ る自船への風圧力(風圧合力)をリアルタイムに推算して表示する. 3.8.4 錨と錨鎖による係駐力の推算表示 風圧力と水深の自動入力及び錨鎖の伸出長さ(節数)と底質(砂・泥)の選択 入力により,錨と錨鎖による係駐力の推算値をリアルタイムに表示する. 54 第3章 3.8.5 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 錨泊中の船体移動予測 最 大 縮 尺 約 1/400の 電 子 海 図 画 面 上 に , 極 め て 近 い 過 去 の 船 体 移 動 軌 跡 と 極 め て近い将来の移動予測を船体形状を模した6つのフレームで表示する.また,深 江 丸 の 転 心 ( P i v o t i n g p o i nt ) 位 置 で 船 体 の 移 動 ベ ク ト ル の 方 向 と 大 き さ を そ の 軌跡とともに表示する.なお,通常の航海における操船支援を考慮して,軌跡は 船の重心位置ではなく船橋前面中央部のレピータ・コンパスの位置,すなわち深 江丸の転心位置で表示する.錨泊中は船体の振れ回り軌跡が重なることが多く, その識別を容易にするために経過時間に応じて軌跡を色分けして表示する. 3.8.6 警報 船体の振れ回りに関連して,錨鎖の海底立ち上がり部である振れ回り運動の中 心点を予測して電子海図上に「×」印で表示する.この位置が大きく移動して振 れ 回 り の 状 態 が 変 化 , あ る い は 異 常 を 示 し た と き に は 「 W a r n i n g p o s s i b l e a n ch or draggin g ! 」を 文 字 と 音 声 で 知 ら せ る .ま た ,投 下 し た 錨 の 位 置 を 中 心 と し て , 伸 出 し た 錨 鎖 の 長 さ に 合 わ せ て 警 報 作 動 円 を 10m 単 位 で 設 定 で き る . 船 首 が こ の 警 報 円 上 , あ る い は こ の 外 側 に 出 る と ,「 O u t o f c i r c l e ! 」 や 「 W a r n i n g a n c h or dragging! 」 を 文 字 と 音 声 で 知 ら せ る . さ ら に , 自 船 に 作 用 す る 風 圧 力 , 錨 と錨鎖の係駐力の両者をリアルタイムに比較し,風圧力が係駐力を上回るような 状 況 が 発 生 す る と 「 Warning anchor dragging! 」 の 警 告 を 文 字 と 音 声 に よ り 発 する. 3.8.7 錨泊監視データの保存と再現 統 合 化 航 海 情 報 処 理 シ ス テ ム で は , 船 内 LANを 経 由 し て 取 得 で き る 900項 目 を 上 回る運航関連データを1秒ごとにサーバーに保存することから,電子海図とグラ フィックスを用いて任意時刻あるいは任意時間帯における状況の再現が可能であ る.航泊データの分析,次回の通航や出入港あるいは錨泊するときの参考資料と して活用できる. 55 第3章 3.8.8 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 錨の投下位置と揚錨時の立錨の位置 錨泊監視機能の運用にあたり留意すべき点として,一般的な後進投錨法による 錨かきは,錨の投下から船の後進により所要の長さの錨鎖を繰り出した後に船首 により確認・報告されるものである.これを見極めるタイミングは,投下した錨 の係止力により伸出した錨鎖が極度に緊張し,後進していた船体が停止,その後 錨 鎖 が ゆ っ く り と 弛 ん だ と き で あ り , こ の 瞬 間 を "Brought up anchor"と 表 現 す る. 投錨時の自船の後進惰力や風潮流等の外乱にもよるが,確実な錨かきを得るた めには投下した錨を後進惰力である程度引きずって海底に深く食い込ませる必要 がある.従って,錨の投下地点と実際の錨かきの地点はほとんどの場合一致しな い . こ の こ と は 揚 錨 時 に お い て , 錨 の 投 下 地 点 と 立 錨 ( Up and down anchor: た ち い か り ) の タ イ ミ ン グ に , 錨 泊 の 都 度 10~ 30メ ー ト ル 程 度 の 開 き が あ る こ と か ら確認できる.錨の投下ボタンのクリックと走錨警報範囲の設定にあたってはこ のことに留意する必要がある. 56 第3章 3 .9 統合化航海情報処理システムの構築と運航支援情報の提供 本章のまとめ 本 章 で は , 既 存 の LANシ ス テ ム を 活 用 し て 新 た に 構 築 し た 統 合 化 航 海 情 報 処 理 システムの概要と,考案した様々な機能を挙げるとともに,本研究の核となる錨 泊監視について,従来の錨泊監視を支援するための新たな着想による機能を述べ た. 深江丸では荒天強風下の錨泊に度々遭遇し,その都度,錨泊監視機能を有効に 活用してきた.潮流が複雑に変化する瀬戸内海では,錨泊のために投じた錨が必 ずしも自船の風上あるいは潮上に位置するとは限らず,船尾方向や横方向,とき には真下に位置することがある.このような状況が特異な現象ではないこともこ の機能の活用により判明した.また,荒天時の走錨防止対策として錨鎖のさらな る伸出や振れ止め錨の降下を行う際,さらには揚錨にあたって絡み錨の予防対策 として,あるいは離着さん時における操船の支援として,運航の場面ごとにこれ ら の 機 能 を 積 極 的 に 活 用 し て い る . 船 内 の 主 要 箇 所 に 設 置 し た PCで , 風 の 状 態 や 錨の投下位置に対する自船のふれ回り状況の他,錨泊監視に必要な情報を具体的 にリアルタイムに捉えることができるようになり,安全な錨泊を維持するための 錨泊監視がさらに確実なものになった. 表 示 用 の PCは 操 作 に 係 る 専 門 知 識 が な く て も 簡 単 に 操 作 で き る こ と か ら , 実 習 中の学生が座学で得た知識を実船において検証できる有効な教育用機材として活 用できる.また,深江丸では海事体験や海事関連企業・団体の船舶研修などで小 中学生や高校生の他に一般者が乗船する機会が多い.統合化航海情報処理システ ムは深江丸の安全運航に大きく貢献するとともに,教育・研究用として,さらに は海事に係る広報用として,その応用が期待できる. 57 第4章 58 第4章 統合化航海情報処理システムによる 取得データの分析 4 .1 研究の背景と概要 前章で述べたとおり,深江丸では独自に構築した統合化航海情報処理システム を船舶運航の実場面で活用し,様々な角度から安全運航のために支援を行ってい る.船舶の錨泊に関連した実験では実験室でのシミュレーションによる報告例が 論文等で公開されているものの,実際の船を用いた実験や実験結果の報告例は少 ない実情にある.そこで,本章ではこのシステムの錨泊監視機能を活用して取得 した錨泊関連の貴重な実船データの内,報告がほとんどなされていない実験や事 例について分析を試みた.なお,以下に述べる研究は,統合化航海情報処理シス テムと各種機能の活用により初めて可能になったものであり,錨泊の実態やその 推移の状況を視覚情報によりリアルタイムに正確に捉えながら,同時に各種のデ ータを取得することができるようになった. 4.3で は , 錨 泊 監 視 機 能 の 性 能 評 価 と 今 後 の 新 た な 活 用 法 を 検 討 す る た め に , 単錨泊中における小型船の船体運動の実態を分析した.その結果,通常の錨泊に おいてあまり意識することのなかった船体の動きを具体的に捉えることができ, 錨泊中の船体挙動についての認識を新たにした. 4.4で は , 台 風 接 近 中 の 強 風 下 , こ の 好 条 件 を 利 用 し て , 風 圧 力 に 比 べ て わ ず かな後進推力を船体に付加することで船体の振れ回り運動を抑止し,風圧力を軽 減する実験を試みた.台風接近という危機感と焦燥感はあったものの,実験の展 開にはまたとない機会であり,乗組員他,全乗船者の協力の下,あえて実験に踏 み 切 っ た .分 析 の 結 果 ,船 体 の 振 れ 回 り 運 動 の 抑 止 効 果 は 予 想 以 上 の も の で あ り , 受 風 面 積 の 大 き な PCC( Pure Car Carrier:自 動 車 運 搬 船 ) や フ ェ リ ー ・ ボ ー ト か ら 一 般 商 船 に 至 る ま で ,強 風 下 の 走 錨 防 止 対 策 の 一 助 に な り 得 る 実 験 例 と な っ た . 59 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 4.5で は , 台 風 の 暴 風 下 , 厳 重 な 錨 泊 監 視 を 維 持 し て い た が , 予 想 を は る か に 上回る暴風により,錨泊中の船舶としては最も回避すべき走錨の危機に二度も陥 った.暴風と圧流により自船の姿勢制御もままならない状況下,2回目の投錨で 事なきを得た.事後,走錨前後において船体に作用した外力の状況と船体運動を 分析したところ,一般に言われている走錨時の船体運動現象とは異なる挙動を呈 していたことがわかり,走錨の初期において,これまで経験的に行われてきた錨 泊監視の手法が通用しないケースもあり得ることが判明した.そこで,深江丸の 走錨事例について,このときの船体運動現象を精査し,走錨を検知するための一 助とした. 既述のとおり,実験室等での実験に比べて実船によるデータ収集と分析は希少 であり,この章の分析例は船舶の安全な錨泊態勢の確立に向けた実務教材に匹敵 する. 4 .2 神戸大学大学院海事科学研究科附属練習船 深江丸(ふかえまる) 図 4.1(a)に 本 研 究 の 舞 台 で あ る 深 江 丸 を , 図 4.1(b)に 海 事 科 学 研 究 科 ポ ン ド に 係 留 中 の 深 江 丸 の 正 面 を 、 図 4.1(c)に 同 側 面 の 写 真 を 示 す . ま た , 図 4.1(d)は 統 合 化 航 海 情 報 処 理 シ ス テ ム の 操 作 ・ 表 示 用 PCを , 図 4.1(e)は 船 橋 前 面 の PC設 置 状 況を示す. 図 4.1 ( a ) 練 習 船 深 江 丸 60 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 図 4.1 ( b ) 深 江 丸 の 正 面 図 4. 1 ( c ) 深 江 丸 の 側 面 図 4.1 ( d ) 操 作 ・ 表 示 用 PC 図 4 . 1 (e ) 船 橋 前 面 の P C 設 置 状 況 深江丸の主要目は次のとおり. 《深江丸主要目》 1 . 総 ト ン 数 : 449ト ン (国 際 67 4 ト ン ) 3 . 幅 : 10.0m 2 . 全 長 : 49.95m 4 . 深 さ : 6 . 1 0m / 3. 7 5 m 6 . 航 海 速 力 : 1 2 . 5 k no t s 5 . 喫 水 : 3.20m 7 . 航 行 区 域 : 近 海 区 域 ( GMDSS A2水 域 ) 8 . 主 機 関 : デ ィ ー ゼ ル 1, 100k W ( 1 , 5 00 馬 力 ) 1 基 9.船級:JG 10. 推 進 器 : 左 回 り 4 翼 CPP (可 変 ピ ッ チ ・ プ ロ ペ ラ ) 1 1. 航 続 距 離 : 3 , 0 0 0 海 里 ( 5 , 5 0 0 ㎞ ) 12. 最 大 搭 載 人 員 : 64名 13. 横 移 動 装 置 : バ ウ 及 び ス タ ン ・ ス ラ ス タ 14. 錨 : KS-8 型 高 把 駐 力 錨 ( 空 中 重 量 96 5 ㎏ ), 標 準 把 駐 係 数 : 泥 7. 2 / 砂 6 . 5 15. 深 江 丸 の 正 面 受 風 面 積 : 88m 2 16 . 深 江 丸 の 側 面 受 風 面 積 : 2 7 6 m 2 61 第4章 4 .3 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 深江丸の錨泊状態の分析 荒天下の錨泊において最も警戒すべきことは走錨である.船がひとたび走錨す ると,それを抑止しそのままの錨泊状態から立て直しを図るのは困難であること がこれまでの研究や実船での経験で明らかになっている.このため,走錨による 錨泊中の重大海難事故を防止することを目的に守錨に関する研究も多くなされて きた. 単錨泊中の船体移動軌跡は,水中に垂れた錨鎖のカテナリー部がばねの働きを し,海底の錨鎖の立ち上がり点付近を中心として風軸に対して左右に振れ回る. 風 速 が 10m /秒 を 超 え る あ た り か ら 横 8 の 字 形 の 軌 跡 を 描 く 振 れ 回 り 運 動 が 顕 著 になることもよく知られている.このことを踏まえて錨泊監視画面を観察してい ると,定常的な振れ回り軌跡以外にも不規則な軌跡を描いている場合が少なくな い こ と が 判 明 し た . 定 常 的 な 軌 跡 が 顕 著 に 描 か れ る の が 風 速 10m /秒 を 超 え る あ た り と す る な ら ば ,そ れ 以 下 で は ど の よ う な 軌 跡 を 描 い て い る の か 疑 問 を も っ た . そこで,定常的な軌跡若しくは不規則な軌跡を描く要因を調査し,錨泊中の船 体の振る舞いを詳しく把握することができれば,錨泊中の船体運動についてある 程度予測を立てることが可能になり,また,錨泊する際の適切な錨の使用法と甲 板当直者の錨泊監視の一助になれば安全な錨泊につながると考えた.このような 理 由 か ら , 2 0 0 2 年 度 及 び 2 0 0 3年 度 に お け る 全 4 7 回 の 深 江 丸 の 単 錨 泊 に つ い て , 統 合化航海情報処理システムの錨泊監視機能を活用して取得した錨泊監視データの 分析を試みた. 4.3.1 収集データの処理と分析方法 深 江 丸 の 錨 泊 日 時 及 び 錨 泊 時 間 , 錨 泊 地 , 使 用 錨 ( 左 舷 ま た は 右 舷 ), 伸 出 錨 鎖の長さを調べ,これらを基に統合化航海情報処理システムからは1秒毎に記録 し て い る D-GPS船 位 , 船 首 方 位 , 潮 流 (キ ー ル 下 2 m 及 び 7 m )の 流 向 と 流 速 , 真 風 向 と 真 風 速 を 抽 出 し た . 表 4.1は , 1 時 間 ご と の 平 均 値 と 振 れ 回 り 幅 の 計 算 結 果 を 集 計 し た 一 例 で あ る . 図 4.2に , 表 4.1の デ ー タ と 対 比 し な が ら , 船 体 振 れ 回 りの状態を視覚的に判断できるように船体形状の軌跡と船体及び船首の移動軌跡 を描いた.この表と図を照合することで船体の振れ回りに影響を与えていると考 62 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 えられる要素を検討した. 船 体 の 移 動 軌 跡 は D-GPS船 位 を 用 い て 5 秒 毎 に , さ ら に , 1 時 間 毎 ま た は 10分 毎の船体形状の枠を重ねて描くことで概略の船体移動の傾向を判別できるように した.あまり短い時間間隔で船体を描くと見ずらくなる場合がある一方,あまり 長 い 間 隔 で は 振 れ 回 り の 傾 向 を つ か み に く い . そ こ で 1 時 間 毎 及 び 10分 毎 の 2 種 類 の 分 析 図 を 作 成 し 試 料 と し た .1 回 の 錨 泊 に 対 し て 1 枚 の 分 析 シ ー ト を 用 意 し , シートには船体移動軌跡と1時間毎の各種の平均データの表を並べた.このよう に各錨泊における船体の移動軌跡を数種類のパターンに分類し,これらの特徴を 探った.なお,錨泊地が同一ではなく複数あることから錨地別の特徴についても 検討した. 表 4.1 1 時 間 毎 の 平 均 値 と 振 れ 回 り 幅 計 算 結 果 の 一 例 図 4.2 船 体 形 状 の 軌 跡 と 船 体 及 び 船 首 の 移 動 軌 跡 63 第4章 4.3.2 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 分析結果 まず最初に錨泊地を考慮せずに分析を行ったところ,船体の移動軌跡を以下の 3つのパターンに分類できた. ① 定常的な振れ回り ② 船首を中心に船体移動軌跡が円を描く運動 ③ 滞留状態(船体の移動軌跡がほぼ一点に留まる状態) この3パターンの分析結果を次に示す. ① 定常的な振れ回り 定 常 的 な 振 れ 回 り の 例 を 図 4 .3(a ) と 図 4 .3 ( b )に 示 す . 以 後 , ( a ) は 1 時 間 毎 の , (b)は 10分 毎 の 船 体 移 動 軌 跡 で 示 す . 定 常 的 な 振 れ 回 り を し て い た の は 47回 中 に 20回 あ り , そ の 内 , 風 速 が 10m /秒 を 常 時 超 え て い た の が 4 回 , 平 均 で 10m /秒 を 超えているのは3回あった.ここでいう「常時」とは,1時間毎の平均値がその 錨 泊 の 全 期 間 を 通 し て 常 時 風 速 1 0 m / 秒 以 上 の と き で あ り ,「 平 均 で 」 と は , 1 時 間 毎 の 平 均 値 を そ の 錨 泊 の 全 期 間 に わ た っ て 平 均 し た 値 が 風 速 10m /秒 以 上 の と き と し た . そ こ で , 一 般 的 に 振 れ 回 り 運 動 が 顕 著 に な る と さ れ る 風 速 10m /秒 以 上 の 場 合 の 7 回 と , 1 0m /秒 以 下 の 場 合 の 1 3 回 の 2 つ に 大 別 し た . ま ず , 1 0 m / 秒以上の場合,潮流の影響はほとんど見られず,船首の振れ回り角度の幅はおよ そ 80度 以 上 に な る の が 大 半 で あ っ た . 次 に 風 速 が 10m /秒 以 下 の 場 合 , 6 ~ 7 m /秒 か ら 振 れ 回 り 運 動 が 始 ま る こ と が わ か っ た .ま た ,船 首 の 振 れ 回 り 角 度 の 幅 は 平 均 6 0 度 以 上 に な る こ と が 多 か っ た . 図 4.3(a) 定 常 的 な 振 れ 回 り (1 時 間 毎 ) 図 4 . 3( b ) 定 常 的 な 振 れ 回 り ( 1 0 分 毎 ) 64 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 潮 流 が 0. 6ノ ッ ト 以 上 の 場 合 は 潮 流 に よ る 流 圧 の 影 響 が 大 き く な る こ と が あ る . そ の 顕 著 な 移 動 例 を 図 4.4 (a)及 び 図 4 .4 ( b )に 示 す .こ の 例 で は 約 1 6 時 間 の 錨 泊 中 , 初 め の 8 時 間 は 風 速 7 m /秒 以 下 で 風 の 影 響 を 受 け な が ら ゆ っ く り と 移 動 し い て い た が , そ の 後 , 風 速 が 10m /秒 を 超 え る こ ろ か ら 振 れ 回 り 運 動 が 始 ま っ て い る . こ の 錨 泊 期 間 中 に は 風 速 が 10m /秒 を 超 え た 時 間 帯 も 数 回 あ っ た が , 船 首 の 振 れ 回 り 角 度 の 幅 は 約 50度 と 通 常 よ り も 小 さ く な っ た . こ の と き の 潮 流 が 0.8~ 1.5ノ ットと,ある程度強く流れていたことから,潮流が船体の振れ回り運動に大きく 影響したものと考えられる.また,時折,船体が大きく移動しているが,この場 合の多くは風に起因するものであり,風が徐々に強くなることで,錨鎖の海底係 駐部の長さが変化するとともに,それまで水中に垂れていた錨鎖のカテナリー部 が緊張しはじめたためと考えられる. 図 4.4(a) 潮 流 下 の 移 動 例 (1 時 間 毎 ) 図 4. 4 ( b) 潮 流 下 の 移 動 例 ( 1 0 分 毎 ) ② 船首を中心に船体移動軌跡が円を描く運動 船 首 を 中 心 に 船 体 移 動 軌 跡 が 円 を 描 く 運 動 (以 下 「 円 運 動 」 と 表 記 す る )の 代 表 例 を 図 4.5(a)及 び 図 4.5(b)に 示 す . 円 運 動 を し て い た の は 47回 中 に 17回 あ っ た . 風 速 は 7 m /秒 以 下 で , 船 体 の 移 動 状 況 は 扇 形 ま た は 円 の 2 つ に 分 け ら れ た . こ のパターンにおいても船体が風の影響を受けながら移動しているが,移動軌跡が 横8の字形を描くような振れ回り運動には至っていない.この図のような扇形の 場合は錨鎖のカテナリー部がばねの働きをしていると考えられることから,錨泊 開始地点から大きく扇形の円弧を描くように流されていき,錨鎖が張った地点で 元に戻るような動きをすることがほとんどであった.中には元の地点に戻らない ケ ー ス も 見 受 け ら れ た が , こ れ は 風 速 が 平 均 3 m /秒 以 下 の と き に 起 こ り や す い ことがわかった. 65 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 図 4.5(a) 円 運 動 の 代 表 例 (1 時 間 毎 ) 図 4. 5 ( b) 円 運 動 の 代 表 例 ( 1 0 分 毎 ) この図のように移動軌跡がきれいな円を描くことは希であるが,船首を中心に 一 周 す る ケ ー ス の 場 合 , 風 速 が 平 均 4 m /秒 以 上 で , 一 時 間 毎 の 平 均 流 速 (キ ー ル 下 2 m )の 多 く が 0.5ノ ッ ト 以 上 の 時 に 起 こ り や す い . ま た , 風 速 が 3 m /秒 以 上 の と き は 潮 流 の 影 響 が ほ と ん ど な い の に 対 し て , 風 速 が 3 m /秒 以 下 の と き に そ の 影 響 が 見 受 け ら れ る . こ の 場 合 の 多 く が , キ ー ル 下 水 深 2 m 地 点 の 流 速 は 0.4 ~ 0.5ノ ッ ト 以 上 の 場 合 で あ っ た . 円 ま た は 円 弧 様 の 軌 跡 を 描 い て い る と き に 潮 流を受けると,1時間毎の船体の位置に大きな変化がなくなり,滞留状態になる ケ ー ス が 見 ら れ た . 深 江 丸 の 錨 泊 は 夕 方 か ら 翌 朝 に か け て の 12~ 15時 間 の 場 合 が 多く,ほとんどの場合において,1回の錨泊期間中に潮流が強くなる時間帯が2 回あることから,強い潮流下においては円または円弧様の軌跡を描いていた状態 から動きを止めて,滞留状態に移行し,逆に潮流が弱まると,滞留していた地点 から再び円または円弧様の軌跡を描くといった傾向をつかむことができた. ③ 滞留状態(船体の移動軌跡がほぼ一点に留まる状態) 滞 留 状 態 の 例 を 図 4.6(a)及 び 図 4.6(b)に 示 す . 滞 留 状 態 と は , 一 定 の 時 間 が 経 過しても船体位置に大きな変化が見られず,その移動軌跡がほぼ一点に留まるも のと定義した.この場合,船首方位もほぼ一定であった.滞留状態になったのは 47回 中 に 4 回 あ っ た . こ の 状 態 に な る の は , 風 速 が 4 ~ 5 m /秒 以 上 の 場 合 で あ っても,定常的な振れ回り軌跡を描かず,また,円運動をすることもなく,船体 の位置がある一定の時間間隔をおいてもほとんど変わらないときであり,定常的 な軌跡を描くものが何らかの要因によって振れ回ることができかったものと考え られる.要因の1つとして潮流の影響が挙げられる.この状態では,その多くの 66 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 図 4.6(a) 滞 留 状 態 の 例 (1 時 間 毎 ) 図 4 . 6 (b ) 滞 留 状 態 の 例 ( 1 0 分 毎 ) 場 合 が 流 速 (キ ー ル 下 2 m )0.7ノ ッ ト 以 上 で 1.0ノ ッ ト を 超 え る と き で あ っ た . 他 の要因としては風が急に弱まったときが考えられる.錨泊当初は定常的な軌跡を 描いていても,風が弱まり船体の振れ回り運動とのバランスが変化すると,その 後,滞留状態を呈することがあった. 4.3.3 錨泊地と振れ回りの関係 分 析 期 間 中 , 深 江 丸 が 最 も 多 く 錨 泊 し た の は 香 川 県 坂 出 沖 の 12回 で あ っ た . こ の泊地は東西と南側が陸地に囲まれているため風の影響を比較的受けにくい.北 寄 り の 風 が 7 m /秒 以 上 の と き に 定 常 的 な 振 れ 回 り が 見 ら れ る が , ほ と ん ど の 場 合 が 円 運 動 に な っ た . こ の 海 域 は 潮 流 の 流 速 が 0.6~ 0.7ノ ッ ト 以 上 に な る こ と が 多く,また,流向も不規則に変化し,円運動の軌跡がきれいな円弧を描くことは 少なかった.2番目に多い錨泊地は徳島県小松島沖の8回で,この泊地は南及び 西 側 に 陸 地 を 臨 み , 錨 泊 時 の 季 節 柄 , 風 速 は 7 m /秒 以 上 に な る こ と が 多 く , 風 の影響を受けやすい.紀伊水道や鳴門海峡の潮流の影響はあまりみられず,ほと んどが定常的な振れ回りとなった.この他,備讃瀬戸東航路に面した小豆島の池 田 湾 で は , 泊 地 の 南 方 以 外 を 山 に 囲 ま れ て お り , 7 m /秒 以 上 の 南 か ら 西 寄 り の 風が多く,ここでも定常振れ回りが多くなった.愛媛県松山沖では風速の平均が 4 m /秒 程 度 で あ り , 水 深 19m に 対 し て 左 舷 錨 鎖 4 節 を 使 用 し た . 荒 天 時 の よ う に 錨 鎖 を 長 く 伸 出 し て 係 駐 力 を 高 め た わ け で は な い が , 前 出 の 図 4.6(a)と (b)に 67 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 示 す よ う に 船 体 の 移 動 軌 跡 は 滞 留 状 態 を 呈 し た . こ の と き の 潮 流 は ほ ぼ 0.5ノ ッ ト 以 上 , 最 大 で 1.2ノ ッ ト で あ っ た こ と か ら , 安 芸 灘 あ る い は 伊 予 灘 か ら 高 浜 瀬 戸に流入する潮流の複雑な影響によるものと考える. 4.3.4 要約 こ れ ま で に 述 べ た 錨 泊 の 各 状 態 の 割 合 に 対 す る 風 潮 流 の 影 響 を 表 4.2に ま と め た . こ の 表 に お い て , 各 パ タ ー ン に 分 類 で き た の は 47回 中 の 41回 で あ り , 残 り 6 回については錨泊が短時間であったことから分析の対象としていない.常識的で はあるが,風が弱い時は潮流の影響を受けていたことが分かる.また,錨泊の各 状 態 に 影 響 を 及 ぼ す 要 素 を 表 4.3に ま と め た . 表 中 に , よ り 影 響 を 及 ぼ す と 考 え られる要素を○印で示した. 表 4.2 錨 泊 の 各 状 態 の 割 合 に 対 す る 風 潮 流 の 影 響 表 4.3 錨 泊 の 各 状 態 に 影 響 を 及 ぼ す 要 素 68 第4章 4.3.5 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 錨泊状態分析のまとめ 深 江 丸 が 定 常 的 に 振 れ 回 り を 始 め る の は 風 速 が 約 7 m /秒 か ら で あ り , ま た , 定常的に振れ回らない場合の軌跡は円運動と滞留状態の2つのパターンがあるこ とが分かった.この中で,定常的に振れ回らないときは潮流の影響を受けている ときが多く,使用錨や伸出錨鎖長の違いによる船体移動に大きな特徴が見られな いことから外力の影響が大きいことがうかがえる. これまで一般論として考えられてきた単錨泊中の船体の振れ回り運動を再認識 するとともに,潮流下においてはそれほど振れ回らないと考えられていたが,本 研究の分析結果からは少なからず潮流の影響をうけながらも船体が移動すること が分かった.その理由として,深江丸の錨泊地の多くが潮流の影響を受けやすい 瀬 戸 内 海 で あ り , ま た , 深 江 丸 自 体 が 長 さ 50m の 小 型 船 型 で あ り , 船 体 が 流 速 の 異なる水域をまたぐことがあまりないためと考えられる. 錨泊地別の分析については,坂出沖,小松島沖,小豆島池田湾及び松山沖の4 ヶ所について考察した.他の泊地にも錨泊したが,ほとんどが単発で回数が少な いことから分析の対象外とした.錨泊中の船体の動きを風や潮流などの環境から ある程度予測することができれば,錨泊監視のための判断材料が増え,より適切 な錨の使用と錨鎖の伸出により,走錨防止対策を含み,安全な錨泊を維持するこ とできる.この分析により深江丸の錨泊の実態を具体的に捉えることができた. なお,本研究の成果は「練習船深江丸における錨泊状態の分析」と題して,日 本 航 海 学 会 論 文 集 , N o . 11 2 , p p . 32 3 - 32 9 ( 2 0 0 5年 3 月 ) に て 公 刊 し た . 69 第4章 4 .4 4.4.1 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 実船における強風下の船体振れ回り抑止実験 実船実験の概要 荒天強風下の錨泊では,安全な錨泊態勢を確立するために単錨泊と振れ止め錨 の使用,あるいは2錨泊などの措置を講じ,船がもちうる錨鎖を最大限度まで伸 出して荒天に備える.錨と錨鎖により係駐力を増強する,あるいは船体の振れ回 りを抑えることで風圧力を軽減できれば安全な錨泊を維持することができる. 深 江 丸 は 推 進 シ ス テ ム に CPP( 可 変 ピ ッ チ ・ プ ロ ペ ラ ) を 採 用 し 前 後 進 推 力 の 調整が自在であることから,この推力を錨泊中に積極的に利用すれば船体の振れ 回り抑止に効果があるのではないかと考えた.そこで,風圧力軽減の効果を確認 するために,台風避泊中の小豆島池田湾において,この強風条件を利用して錨泊 中の船体の振れ回り抑止に係る実船実験を試みた.実験では,振れ回りの大きさ や船首方位の変化をリアルタイムで詳細に調べるために深江丸の統合化航海情報 処理システムの錨泊監視機能を活用して高精度のデータを収集した.本研究では CPP船 の 自 在 な 後 進 推 力 が 船 体 の 振 れ 回 り 抑 止 に 与 え る 効 果 と , 抑 止 に 伴 う 風 圧 力軽減の効果を精査し,強風下において,あえて後進推力を用いることの是非に ついて検討した. 分析の結果,従来から強風時の走錨防止対策として単錨泊時に用いられる振れ 止め錨の効果が大きいことが確認できたことに加え,風圧力の大きさに比べてわ ずかな後進推力をさらに用いることで船体の振れ回りを相当程度抑えることがで き,風圧力の軽減効果により安全な錨泊態勢の確立を裏付ける結果が得られた. 4.4.2 船体に作用する風圧力(風圧合力)の推算 船体に作用する風圧力は,船の正面受風面積と側面受風面積にそれぞれ作用す る 風 圧 力 の 和 で 示 さ れ る . こ れ を 風 圧 合 力 と い う . 図 4.7に 相 対 風 向 ・ 風 速 と 風 圧合力の関係を示す.既述のとおり,この力は船体正面及び側面の各受風面積, 相 対 風 向 ・ 風 速 ,風 圧 係 数 ,空 気 密 度 や 船 型 な ど の パ ラ メ ー タ を 用 い て 推 算 す る . 深江丸では統合化航海情報処理システムの錨泊監視機能へ推算に必要な各種のデ 70 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 ータが自動転送され,推算風圧力が推算係駐力とともに錨泊監視情報のひとつと し て リ ア ル タ イ ム に 表 示 さ れ る . 図 4.8の グ ラ フ は 相 対 風 向 と 相 対 風 速 ( 15~ 40 m /秒 の 5 m 間 隔 ) に よ り 深 江 丸 に 作 用 す る 風 圧 合 力 の 推 算 値 を tonfで 示 す . こ の力は相対風向角が0度,すなわち深江丸の最小受風面積である正船首(真正 面 ), ま た は 1 8 0 度 の 正 船 尾 ( 真 後 ろ ) に お い て 最 小 と な り , 受 風 面 積 が 大 き い 相 対 風 向 角 が 50~ 130度 の 正 横 付 近 で ほ ぼ 最 大 に 達 す る . 図 4.7 相 対 風 向 ・ 風 速 と 風 圧 合 力 の 関 係 35 風 圧 合 30 力 (tonf)25 20 15 10 5 0 0 10 正船首 20 30 40 15m/sの時 50 60 70 20m/sの時 80 90 100 相対風向角(度) 25m/sの時 110 120 30m/sの時 130 140 35m/sの時 150 160 40m/sの時 170 180 正船尾 図 4.8 相 対 風 向 と 相 対 風 速 ( 1 5 ~ 4 0 m / 秒 の 5 m 間 隔 ) に よ り 深江丸に作用する風圧合力の推算値 71 第4章 4.4.3 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 実験時の気象と海象 実 験 は 台 風 接 近 中 の 平 成 16年 8 月 3 0日 の 午 前 ,小 豆 島 池 田 湾 避 泊 中 に 実 施 し た . 図 4.9は 台 風 16号 ( 200416 CHABA) の 進 路 と 深 江 丸 の 位 置 関 係 を 示 す . 実 験 時 は 台 風 が 九 州 南 岸 に 上 陸 し た 直 後 で あ り , 風 の 状 態 は ほ ぼ 一 様 で , 風 向 は 119度 ~ 12 5度 , 平 均 風 速 は 2 3~ 25 m /秒 , 各 実 験 中 の 最 大 瞬 間 風 速 は 平 均 風 速 の 1 .2 ~ 1. 5 倍 程 度 で あ っ た . ま た , う ね り は 南 東 方 向 か ら 1 ~ 1.5m , 風 浪 は 0.5m か ら 時 折 1mに達した.なお,錨地の水深は6m,底質はやや固い粘土質の泥であった. 図 4.10 に 同 日 の 真 風 向 を , 図 4 .11に 真 風 速 を 示 す . 図 4 . 9 台 風 1 6 号 ( 2 0 0 4 1 6 C H A B A) の 進 路 と 深 江 丸 の 位 置 関 係 図 4 . 10 8 月 3 0日 の 真 風 向 72 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 図 4 . 11 4.4.4 8 月 3 0日 の 真 風 速 実験条件 左 舷 錨 鎖 7 節 全 節 ( 約 170m ) 伸 出 の 単 錨 泊 中 及 び 単 錨 泊 と 右 舷 振 れ 止 め 錨 の 併 用 時 ( 振 れ 止 め 錨 の 錨 鎖 伸 出 長 さ : 水 深 の 1 .5 倍 = 1 0 m ) に お い て , CPP後 進 ピ ッ チ : 1 度 ( St op E ngin e = ス ラ ス ト ほ ぼ 0 t o n f ) 3 度 ( 後 進 ス ラ ス ト 約 0 . 45 t o nf ) 5 度 ( 後 進 ス ラ ス ト 約 0 . 77 t o nf ) 7 度 ( De ad S low A s te r n E n g in e = 後 進 ス ラ ス ト 約 1 . 1 0 t o n f ) の 連 続 使 用 と し た . な お , 舵 は 中 央 ( M i d sh i p ) と し て 不 測 の 事 態 に 備 え た . 4.4.5 実験設定 以下に示す8項目の実験を実施し,船体の振れ回りに係る各種のデータを取得 した. ① 実験A 0 8 : 1 7: 0 0 ~ 0 8 :3 5 : 00 単錨泊 ② 実験B 0 7 : 5 0: 0 0 ~ 0 8 :1 5 : 00 単錨泊 + 振れ止め錨 ③ 実験C-1 0 9 : 4 1: 5 7 ~ 0 9 :5 1 : 03 単 錨 泊 + C P P後 進 ピ ッ チ 3 度 ④ 実験C-2 1 0 : 1 5: 0 0 ~ 1 0 :2 4 : 04 単錨泊 + 振れ止め錨 + CPP後 進 ピ ッ チ 3 度 ⑤ 実験D-1 0 9 : 5 1: 0 3 ~ 1 0 :0 1 : 38 単 錨 泊 + C P P後 進 ピ ッ チ 5 度 73 第4章 ⑥ 実験D-2 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 1 0 : 2 4: 0 4 ~ 1 0 :3 3 : 12 単錨泊 + 振れ止め錨 + CPP後 進 ピ ッ チ 5 度 ⑦ 実験E-1 1 0 : 0 1: 3 8 ~ 1 0 :1 2 : 00 単 錨 泊 + C P P後 進 ピ ッ チ 7 度 ⑧ 実験E-2 1 0 : 3 3: 1 2 ~ 1 0 :4 0 : 40 単錨泊 + 振れ止め錨 + CPP後 進 ピ ッ チ 7 度 4.4.6 分析 各実験における, 1 . D-GPS 船 位 ( 測 位 精 度 : 1 m 以 内 ) 2.船首方位 ( 0 ~ 3 60度 ) 3.真風向 ( 0 ~ 3 60度 ) 4.真風速 (m/秒) 5.相対風向 ( 0 ~ 左 右 両 舷 180度 ) 6.相対風速 (m/秒) 7 . 推 算 風 圧 力 ( t o n f) な ど の 錨 泊 監 視 デ ー タ を 抽 出 し て , 振 れ 止 め 錨 の 効 果 と CPPに よ る 後 進 推 力 の あ る・なし,及び,後進推力が船体の振れ回り抑止に与える効果について,船体移 動軌跡と船首の振れ回り角度,船体に受ける相対風向角の時間的な割合(左右両 舷 45度 ・ 4 0度 ・ 30度 ・ 20度 ・ 1 0度 以 内 ) を 対 象 に 分 析 し た . 各 実 験 に お け る 船 体 移 動 軌 跡 に つ い て , 実 験 A を 図 4 . 1 2 ( a ) に , B を 図 4 . 1 2 (b ) に , C - 1 を 図 4.13(a)に , C - 2 を 図 4.13(b)に , D - 1 を 図 4.14(a)に , D - 2 を 図 4.14(b)に , E - 1 を 図 4.15(a)に , E - 2 を 図 4.15(b)に そ れ ぞ れ 示 す . こ こ で は 単 錨 泊 自 由 振 れ 回 り に お け る 後 進 推 力 の 使 用 も 図 4 . 1 3 ( a ) , 図 4 . 1 4 ( a )及 び 図 4.15(a)に 参 考 と し て 示 す が , 分 析 は 単 錨 泊 自 由 振 れ 回 り 及 び 単 錨 泊 と 振 れ 止め錨の使用時並びに振れ止め錨の使用時における後進推力の段階的な使用を対 象にした.なお,錨泊監視機能は統合化航海情報処理システムの一機能であるた め,操船上の観点から船体の移動軌跡は船橋前面中央部のレピータ・コンパスの 位 置 , す な わ ち , 深 江 丸 の 転 心 ( P i v ot i n g p o in t ) 位 置 の 移 動 軌 跡 で 示 し た . 74 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 図 4.1 2 ( a ) 実 験 A : 単 錨 泊 図 4. 1 2 ( b ) 実 験 B : 単 錨 泊 (自由振れ回り) +振れ止め錨 図 4.13( a ) 実 験 C - 1 : 単 錨 泊 図 4 . 13 ( b ) 実 験 C - 2 : 単 錨 泊 + CPP後 進 ピ ッ チ 3 度 +振れ止め錨 + CPP後 進 ピ ッ チ 3 度 75 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 図 4.14( a ) 実 験 D - 1 : 単 錨 泊 図 4 . 14 ( b ) 実 験 D - 2 : 単 錨 泊 + CPP後 進 ピ ッ チ 5 度 +振れ止め錨 + CPP後 進 ピ ッ チ 5 度 図 4.15( a ) 実 験 E - 1 : 単 錨 泊 図 4 . 1 5( b ) 実 験 E - 2 : 単 錨 泊 + CPP後 進 ピ ッ チ 7 度 +振れ止め錨 + CPP後 進 ピ ッ チ 7 度 表 4.4は , 設 定 し た 実 験 に お い て 深 江 丸 に 作 用 し た 推 算 風 圧 力 と 船 体 の 振 れ 回 り状況及び実験により変化した相対風向角の時間的な割合を示す. ま た , 全 実 験 を 通 じ て 平 均 風 速 が 24m /秒 前 後 で あ っ た こ と か ら , 参 考 と し て 同 表 下 段 の 右 側 に , 相 対 風 速 が 25m /秒 に お い て , 相 対 風 向 角 が 0 度 ( 真 正 面 か ら の 風 ), 左 右 両 舷 か ら 1 0 度 , 2 0 度 , 3 0 度 , 4 0 度 及 び 5 0 度 の 風 に よ る 推 算 風 圧 力 を示す. 76 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 表 4.4 推 算 風 圧 力 と 船 体 の 振 れ 回 り 状 況 及 び 実 験 に よ り 変 化 し た 相対風向角の時間的割合 4.4.7 風圧力 風圧力はそのときの相対風向と相対風速により大きく変化する.各実験におけ る最大風圧力は実験E-2を除き,振れ止め錨の使用及び後進推力の増大により 減 少 し て い る .実 験 E - 2 の 最 大 風 圧 力 1 4 . 2 t o n f は ,深 江 丸 の 船 体 運 動 に 伴 い , 突 風 を 伴 い な が ら 相 対 風 向 と 風 速 が 変 化 す る 中 , 同 風 向 が 左 舷 前 方 37度 か ら 風 速 31m /秒 の 時 に こ の 値 を 示 し た . ま た , 平 均 風 圧 力 は 振 れ 止 め 錨 の 使 用 及 び 後 進 推力の増大により着実に減少している.最小風圧力は船首が風に立った時,すな わ ち 真 正 面 の 風 で あ り , 0 .9~ 1.4 t o nf と 大 き な 変 化 は な い . 4.4.8 船首の振れ回り角度 各実験において船首が振れ回る角度の範囲は,振れ止め錨と後進推力の併用に より抑止効果が顕著に表れた.平均値に着目すると,単錨泊自由振れ回りに比べ て 振 れ 止 め 錨 を 併 用 し た と き に は 自 由 振 れ 回 り の 73% ま で 減 少 し た . さ ら に , 振 77 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 れ止め錨の使用とともに後進推力を段階的に用いることで,後進推力を用いない と き に 比 べ て 40~ 67% ま で 振 れ 回 り 角 度 が 減 少 し た . 図 4.16に 表 4.4上 段 に 示 し た船首振れ回り角について,その減少傾向を最大値及び最小値並びに平均値で示 す. 図 4.16 船 首 振 れ 回 り 角 の 減 少 傾 向 4.4.9 船体の振れ回り幅 船体の振れ回り幅を風軸に対して直角方向の横移動距離により求めた.各実験 における振れ回り幅の最大値は単錨泊自由振れ回りに比べて,振れ止め錨の使用 時及び後進推力の段階的な増大とともに顕著に減少した.自由振れ回りに比べて 振 れ 止 め 錨 の 使 用 時 で は 最 大 値 で 5 2 % ,最 小 値 で 5 0 % と ,半 分 程 度 ま で 減 少 し た . さ ら に , 後 進 推 力 を 段 階 的 に 用 い た と き は , 用 い な い と き に 比 べ て 最 大 値 で 34~ 69% ま で 減 少 し た . 図 4.17に 表 4.4上 段 の 風 軸 と 直 角 方 向 の 横 移 動 距 離 , す な わ ち,船体の振れ回り幅について,その減少傾向を最大値と最小値で示す. 図 4.1 7 船 体 の 振 れ 回 り 幅 の 減 少 傾 向 78 第4章 4.4.10 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 相対風向角の時間的割合 表 4.4下 段 の 左 側 は 船 首 方 位 を 基 準 に 真 正 面 か ら の 風 を 相 対 風 向 角 0 度 と し て , 相 対 風 向 角 が そ れ ぞ れ 左 右 両 舷 45度 ・ 40度 ・ 30度 ・ 20度 及 び 10度 以 内 と な る 時 間 的な割合をパーセントで示す.自由振れ回りに比べて振れ止め錨の使用時は相対 風 向 角 が 20 度 以 内 と な る 割 合 が 42 % か ら 5 6 % に , ま た , 1 0 度 以 内 で は 1 9 % か ら 2 5 % に 増 加 し た . さ ら に 後 進 推 力 の 段 階 的 な 使 用 に よ り , 20度 以 内 と な る 割 合 が 61 ~ 68% に , 10度 以 内 で は 30~ 38% に ま で 増 加 し た . 図 4.18に 実 験 に 伴 っ て 変 化 し た相対風向角の時間的割合を示す. 図 4.18 実 験 に 伴 っ て 変 化 し た 相 対 風 向 角 の 時 間 的 割 合 4.4.11 前進推力を用いたときの船体挙動 船 体 の 振 れ 回 り 運 動 を 抑 制 し 風 圧 力 を 軽 減 す る た め に CPPに よ る 適 度 な 後 進 推 力が有効であることはこれまでの分析で示したとおりである.逆に,強大な風圧 力により錨鎖に加わる極度の緊張を緩和するために前進推力を用いた場合の船体 挙動については,これまで実船による実験例がないことから副次的に実験を試み た.なお,実験中は舵中央とした. ① CPP前 進 ピ ッ チ 3 度 の 船 体 移 動 軌 跡 図 4.19は 同 日 の 09時 15分 00秒 か ら 09時 28分 00秒 の 13分 間 , 単 錨 泊 自 由 振 れ 回 り < 実 験 A : 図 4 . 1 2 ( a ) > の 状 態 か ら プ ロ ペ ラ ・ ピ ッ チ を 前 進 3 度 ( 推 力 約 0 . 9 t o n f) として船体に前進推力を加えたときの船体移動軌跡を示す.風圧力に比べてわず 79 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 かな推力ではあるが,単錨泊自由振れ回りに比べて船体の振れ回り運動が助長さ れ , 振 れ 回 り 幅 は 風 軸 に 対 し て 左 右 に そ れ ぞ れ 15m 程 度 増 加 し た . こ の こ と は , やや過大な振れ回り運動に伴い船体に作用する風圧力は減少していないことを意 味する.錨鎖緊張の度合いについては判断ができないが,振れ回りの抑止効果は 現れていない. 図 4 . 1 9 単 錨 泊 + CP P 前 進 ピ ッ チ 3 度 の 船 体 移 動 軌 跡 ② CPP前 進 ピ ッ チ 5 度 の 船 体 移 動 軌 跡 図 4.20に 09時 28分 00秒 か ら 09時 38分 00秒 の 10分 間 , 単 錨 泊 自 由 振 れ 回 り <実 験 A : 図 4.12(a)>の 状 態 か ら , プ ロ ペ ラ ・ ピ ッ チ を 前 進 5 度 ( 推 力 約 1.7tonf) と して船体に前進推力を加えたときの船体移動軌跡を示す.船体運動が格段に助長 され,同時に風位に対する縦及び横方向の移動距離が前進ピッチ3度のときより も 大 幅 に 増 大 し ,単 錨 泊 自 由 振 れ 回 り の 移 動 軌 跡 と は 大 き く 異 な る 様 相 を 呈 し た . また,過大な船体運動に伴い,風位に対して風圧抵抗が最も大きい船体の側面部 を 見 せ る 状 況 が 発 生 し て い る . な お , 風 速 が 25m /秒 を 超 え る 状 況 下 , こ れ 以 上 の前進推力による実験は危険と判断し,ほぼ1回帰の振れ回りデータを収集した 直後に実験を中断,次に予定した前進ピッチ7度の実験は取り止めた. 80 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 図 4 . 2 0 単 錨 泊 + CP P 前 進 ピ ッ チ 5 度 の 船 体 移 動 軌 跡 4.4.12 振れ回り抑止実験の考察 単錨泊時,機関を用いずとも振れ止め錨を降下するだけで船首の振れ回り角が 自 由 振 れ 回 り に 比 べ て 平 均 で 73% ま で 減 少 し , こ れ に よ り 平 均 風 圧 力 が 24% 減 少 し た . ま た , 最 大 振 れ 回 り 幅 は 52% ま で 減 少 し ほ ぼ 半 減 し た . 単 錨 泊 時 の 走 錨 防 止対策として振れ止め錨を入れることの効用を本実験で高精度に具体的に示すこ とができた. さらに,振れ回り抑止のために必要な後進推力の大きさを最大風圧力及び平均 風 圧 力 と 比 較 し た と こ ろ , 振 れ 止 め 錨 の 降 下 時 に お い て 平 均 風 圧 力 の 10~ 30% 程 度 , あ る い は 最 大 風 圧 力 の 3~ 8% 程 度 の 適 度 な 後 進 推 力 を 可 変 ピ ッ チ ・ プ ロ ペ ラ により連続して発生させることで,船首の平均振れ回り角を格段に減じることが でき,これにより平均風圧力が減少し,最大振れ回り幅も相当程度抑えることが で き た . 同 時 に , 相 対 風 向 角 が 左 右 両 舷 20度 以 内 , あ る い は 10度 以 内 と な る 時 間 的な割合を増加させることができた.このことは,船体が振れ回りをしながらも 船首がほぼ風に立つ時間的割合が増加し,最小受風面積である船体正面の他に, 船体の側面に風を受ける割合が減少することで風圧抵抗が小さくなったことを意 味する.振れ回りの状況を見ながら適度な後進推力を用いることは風圧力軽減の 効果があるとともに船体の振れ回り抑止に相当程度の効果があることを本実験の 分析結果が示した. 81 第4章 4.4.13 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 本実験のまとめ 図 4.21は 本 実 験 を 実 施 中 の 船 首 に お け る 警 戒 の 様 子 を , 図 4.22に 実 験 中 の 両 舷 錨鎖を示す.この実験では,単錨泊時における強風下の走錨防止対策として,従 来から行われてきた振れ止め錨の併用が船体の振れ回りを相当程度抑えること, 及び,振れ回りの抑止により錨と錨鎖に加わる衝撃力を緩和できることからその 効果が大きいことを実船実験により検証することができた.また,強風下,あえ て可変ピッチ・プロペラによる適度な後進推力を連続して発生させることが船体 の 振 れ 回 り 抑 止 に 大 き な 効 果 が あ る こ と も デ ー タ 分 析 に よ り 検 証 で き た .た だ し , 強 風 下 に お け る 船 体 の 振 れ 回 り 抑 止 の た め の CPP後 進 推 力 の 度 合 い は , 錨 と 錨 鎖 の伸出長さによる係駐力の大きさ,風の状態や抑止効果の状況を見ながら臨機に 適切に判断する必要がある. な お ,本 研 究 の 成 果 は「 単 錨 泊 中 の CPP船 の 振 れ 回 り 抑 止 に つ い て 」と 題 し て , 日 本 航 海 学 会 論 文 集 , No. 116, pp. 1 4 5- 1 5 1( 2 00 7 年 3 月 ) に て 公 刊 し た . 図 4.21 実 験 中 の 船 首 に お け る 警 戒 図 4. 2 2 実 験 中 の 両 舷 錨 鎖 82 第4章 4.5 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 台 風 16号 ( 200416 CHABA) に よ る 暴 風 下 の 走 錨 と走錨直後における船体の挙動 4.5.1 分析に至る経緯 平 成 16年 の 夏 か ら 秋 に か け て は 記 録 的 な 猛 暑 を と と も に 本 邦 に 上 陸 し た 台 風 の 数が過去最多となり,しかもそれぞれが大型で勢力が強く,日本各地で猛威をふ るった.陸上や沿岸部では大雨・洪水と暴風,さらに高波や高潮による凄まじい ばかりの災害をもたらし,さらに海上では暴風による大時化で海難が多発した. 深 江 丸 は , 同 年 8 月 27日 か ら 9 月 1 日 の 5 泊 6 日 の 日 程 で , 11の 研 究 チ ー ム 及 び 乗 組 員 の 総 員 48名 に よ る 夏 季 研 究 航 海 を 計 画 し た . 当 初 , 神 戸 港 深 江 の 海 事 科 学研究科ポンド専用岸壁を離岸後,地球温暖化ガスの大気海洋観測のため,大阪 湾から紀伊水道を南下して,四国南岸の黒潮流域を西航した後,豊後水道を北上 して愛媛県宇和島港に寄港,その後,伊予灘から瀬戸内海を東航して香川県高松 港に寄港した後,神戸帰着を予定した.しかながら,本邦の南方洋上には大型で 強 い 勢 力 を 保 っ た ま ま の 台 風 16号 (200416 CHABA)が ゆ っ く り と し た 速 度 で 西 北 西 に 進 行 中 で あ り , 四 国 の 南 岸 か ら 日 向 灘 及 び 豊 後 水 道 に か け て 6 ~ 10m の 強 大 な うねりと,台風の進路によっては暴風が予想されたため,その動静を危惧しなが ら,大阪湾から播磨灘及び備讃瀬戸東部の台風避泊が可能な海域において各種の 調査研究活動を展開することにした. こ の よ う な 中 , 航 海 第 4 日 目 , 台 風 避 泊 中 の 8 月 30日 の 夕 刻 , 深 江 丸 は 小 豆 島 池田湾において二度,走錨の危機に遭遇し,暴風下,安全な錨泊態勢を確立する までに2時間を要した.走錨の事態に直面して,深江丸の統合化航海情報処理シ ス テ ム の 錨 泊 監 視 機 能 が 最 大 縮 尺 約 1/400の 電 子 海 図 画 面 上 に 自 船 の 振 れ 回 り の 状況と走錨後の圧流の状況を克明にとらえ,同時に走錨の前後における種々のデ ータを取得した.事後,走錨直後における船体の挙動について分析を試みたとこ ろ,走錨の直後においても周期性を帯びた船体の振れ回り運動が繰り返されてお り,従来,走錨時の現象として語られてきた「船体の周期的な振れ回り運動が止 まり,風を片舷から受けるようになったとき」といった現象が走錨初期において 必ずしも当てはまらない事例があることがわかった.そこで,取得した実船デー タを基に走錨直後における船体の挙動について精査した. 83 第4章 4.5.2 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 台風の暴風と深江丸の走錨 8 月 27日 の 午 後 に 深 江 丸 は 神 戸 を 出 港 , 各 種 の 実 験 を 行 い な が ら 夕 刻 に は 小 豆 島の内海湾に錨泊した.すでにこの頃には東よりの風が顕著になりはじめていた が台風の接近を意識するほどの強さではなかった.同湾は四方を陸地に囲まれ, 小型船の錨泊に適した水域であるが複数の船舶には狭隘であり,すでに数隻の台 風避泊船と台船(バージ)で混雑していた.避泊のための適切な錨地を確保でき ず , さ ら に , 強 風 時 は 自 他 共 に 危 険 で あ る と 判 断 し , 28日 早 朝 に 抜 錨 , 実 験 準 備 を整え,備讃瀬戸の小豊島南方で風と潮流による横流れ量計測のための航走実験 の後,夕刻には小豆島池田湾の北西部最奥(水深:6m,底質:泥)に左舷錨鎖 7 節 全 節 ( 170m ) と 右 舷 錨 鎖 振 れ 止 め 半 節 ( 約 1 0 m ) を 用 い て 単 錨 泊 し た . 台風は奄美諸島に接近中で,転向後に西日本直撃の可能性が次第に高まりつつ あった.神戸に一時帰港して台風の通過を待つことも考えられたが,多くの実験 と研究が未完了であること,年に2回しかない研究のための航海の中断により各 研究の進展に支障を来すおそれがあることなどを勘案して,中・小型船の錨泊に 適 し た 池 田 湾 に お い て こ の 台 風 を 凌 ぐ こ と に し た . 29日 は 終 日 台 風 待 機 と し て 警 戒態勢をとるとともに不測の事態に備えた.この頃から同湾では台風避泊のため に 錨 を 入 れ る 船 舶 が 相 次 ぎ , 29日 昼 頃 か ら 備 讃 瀬 戸 東 航 路 北 方 の 湾 全 域 に わ た り 60数 隻 の 台 風 避 泊 船 で 船 混 み し た . 3 0 日 未 明 か ら 南 東 の 風 が 強 ま り 2 5 m / 秒 に 達 し た . 午 前 中 , 時 折 風 速 が 3 0 m /秒 を超えはじめたことから,この強風条件を利用して,主機関によるプロペラ前後 進推力と船首尾のスラスタ推力を用いた船体の振れ回り抑止実験を試みた.風向 は南東と変化がなく,風速は徐々に強まりつつあり,かつ,気圧が一定下降して いることなどから当泊地が台風進路の右前方に位置していることがうかがえた. 午 後 に な っ て 瞬 間 的 に 風 速 が 40m /秒 に 達 す る よ う に な り , 暴 風 雨 と 海 面 か ら 旋 風状に舞い上がる水しぶきによる狭視界,暴風音と激しい船体動揺から船内に緊 迫 し た 空 気 が 漂 っ た . こ の よ う な 中 , 16時 40分 過 ぎ に 瞬 間 風 速 47m /秒 を 観 測 , この直後に最初の走錨が発生し,船橋の前面に設置した統合化航海情報処理シス テムの錨泊監視機能が直ちに走錨警報を発した.同時にこの状況は錨泊監視画面 の船体移動軌跡と移動ベクトルから視覚により確認できた.猛烈な風と波しぶき を受けながら直ちに船首甲板において揚錨作業にとりかかった.錨鎖の揚収にあ たり,強大な風圧と時折3mを超える風浪のために揚錨機が期待通り動作せず, 84 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 激しい船体動揺の中,主機関と舵及びスラスタの使用によりかろうじて両舷の錨 を 揚 収 で き た . 直 ち に 両 舷 錨 を 投 下 し て 持 ち う る 全 錨 鎖 各 170m を 伸 出 し た が , このとき,風下への圧流が2~3ノットに達し,投下したそれぞれの錨が海底を つ か む 前 に 再 び 走 錨 す る と い う 事 態 に 陥 っ た . 二 度 目 の 揚 錨 中 の 17時 59分 に は 南 東 の 風 , 瞬 間 風 速 61m /秒 ( 相 対 風 速 67m /秒 ) を 観 測 し た . 深 江 丸 の 船 橋 前 面 に 配 置 し た 風 速 計 の 最 大 目 盛 り は 60m で あ り , こ の と き 風 速 を 示 す 針 が 度 々 振 り き れ た . 図 4.2 3に 相 対 風 速 4 3m / 秒 の 風 速 計 の 示 度 を 示 す . 暴風による風圧が自船の運動能力をはるかに超えるこのような状況下では船体 の姿勢制御もままならず,度々,大舵角と前進全速のプロペラ推力により船首を 風に立てようと回頭を試みた.このことにより主機関への急激な負荷変動が発生 し て 異 常 を 報 せ る 警 報 が 頻 発 し , 機 関 部 で は そ の 対 処 に 追 わ れ た . 図 4.24は 船 首 に お け る 錨 作 業 の 光 景 を , 図 4 .25は 暴 風 下 の 海 象 を 示 す . 図 4.23 相 対 風 速 43m /秒 の 風 速 計 の 示 度 図 4.2 4 船 首 に お け る 錨 作 業 図 4.25 暴 風 下 の 海 象 85 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 台 風 16号 は 5 日 前 の 8 月 25日 に 最 低 中 心 気 圧 : 910hPaに 達 し た 後 , 勢 力 を 維 持 し た ま ま 北 西 に 進 み , 30日 の 早 朝 に 鹿 児 島 県 串 木 野 町 付 近 に 上 陸 ( 中 心 気 圧 950 h P a ), 九 州 を 北 北 東 に 縦 断 後 , 周 防 灘 を 経 て 同 日 の 1 8 時 頃 に は 山 口 県 に 再 上 陸 し た ( 同 9 6 5 h P a ). そ の 後 , 山 陽 ・ 山 陰 地 方 を 北 東 に 縦 断 し て 2 2 時 頃 に 鳥 取 県 中 部 を 日 本 海 に 抜 け た ( 同 9 7 0 h P a ). こ の と き 深 江 丸 で は 最 低 気 圧 9 8 4 h P a を 観 測 し て い る . 図 4 . 2 6 に 台 風 1 6 号 ( 2 0 04 1 6 C H A B A ) の 進 路 と 深 江 丸 の 位 置 関 係 を 示 す . 図 4 . 2 6 台 風 1 6号 ( 2 0 0 41 6 CH A B A) の 進 路 と 深 江 丸 の 位 置 関 係 4.5.3 気圧と風速変化による台風接近の状況 図 4.27に 8月 30日 か ら 31日 に か け て 深 江 丸 の 船 橋 で 記 録 し た 自 記 気 圧 計 の 気 圧 変化を示す.深江丸は台風進路の右半円(危険半円)にあり,風向は南東と変化 が な く , 当 日 の 午 前 中 か ら 気 圧 が 急 下 降 し は じ め , 19時 か ら 20時 過 ぎ に か け て 最 低気圧を記録している.この頃に台風の中心が最接近していたことがわかる.図 4.28に 30 日 午 後 の 風 向 変 化 の 様 子 を , 図 4 .2 9 に 風 速 変 化 の 様 子 を 示 す . 86 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 図 4.2 7 自 記 気 圧 計 の 気 圧 変 化 図 4.28 8 月 3 0日 午 後 の 風 向 変 化 図 4.29 8 月 3 0日 午 後 の 風 速 変 化 87 第4章 4.5.4 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 走錨の分析 荒天強風下の錨泊監視において,一般に陸上物標による交差方位法やレーダー に よ り 探 知 し た 陸 岸 の 情 報 , あ る い は GPS船 位 な ど か ら 海 図 上 に 自 船 の 位 置 を 求 め ,錨 の 投 下 時 に 海 図 上 に プ ロ ッ ト し た 自 船 の 船 首 位 置 ま た は 船 橋 位 置 を 参 考 に , 船体の振れ回る位置が風下に落とされていないかを適時確認する.また,船の船 首方向を記録するコースレコーダにより船首方位の振れ回り幅を繰り返しチェッ クするなど,風圧や流圧に対して投下した錨と伸出した錨鎖がしっかりと海底を つかみ,定常の振れ回り状態にあるか否かを過去数回の振れ回り状況と比較しな がら錨泊の現状を経験的に見定める. そこで,錨泊監視の実態に基づいて錨泊監視データを抽出し,これらのデータ を 基 に 走 錨 直 後 に お け る 船 体 の 挙 動 を 再 現 し た と こ ろ , 同 日 16時 40分 37秒 に 観 測 し た 瞬 間 風 速 47m /秒 の 暴 風 の 直 後 に 最 初 の 走 錨 が 起 き て い た こ と が 判 明 し た . こ の こ と か ら , 16時 24分 54秒 か ら 17時 07分 18秒 の 42分 24秒 間 に お け る , 走 錨 前 4 回及び走錨時,並びに走錨後4回と引き続く5~7回の振れ回りについて, 1.時刻 2 . D-GPS船 位 3.平均風向 4.風速(平均・最大・最小) 5.振れ回り周期(平均・最大・最小) 6.振れ回り幅 (平均・最大・最小) 及び,風軸に対して船体が最大側面を見せたときの, 7.船首方位 (平均・最大・最小) 8.風の最大迎え角(平均・最大・最小) 9 . D-GP S コ ー ス (平均・最大・最小) 10. D-GP S ス ピ ー ド ( 平 均 ・ 最 大 ・ 最 小 ) の分析を試みた.なお,定常振れ回り周期については,1回の振れ回りにおいて 船 体 が 風 に 立 ち , D-GPS船 位 に 移 動 が な く な っ た と き か ら 反 対 側 に 振 れ 回 り , そ の後回帰してほぼ同位置に戻り船位に移動がなくなったときまでを1周期とし た.振れ回り幅についても同様に,投下した錨の位置を基準とした風軸線に対し て D-GPS移 動 軌 跡 が 左 右 に 最 大 に 振 れ た 点 の 横 移 動 距 離 を 正 確 に 求 め た . こ れ ら の 分 析 値 か ら 走 錨 直 後 に お け る 船 体 の 挙 動 に つ い て ,そ の 特 徴 的 な 変 化 を 探 っ た . 88 第4章 4.5.5 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 走錨の発生 D-GPSの 移 動 軌 跡 及 び 移 動 ベ ク ト ル の 方 向 変 化 か ら 走 錨 の 発 生 時 刻 は 16時 40分 37秒 に 観 測 し た 風 速 47m /秒 の 暴 風 の 直 後 と 判 定 で き た . 図 4.30に 走 錨 を 始 め る 瞬間の錨泊監視画面を示す.船首から右斜め下に伸びる黒色の点線は錨の方向を 示し,錨の位置が画面内であれば実線の矢印でその位置を示す.画面下には風圧 力 を 25.86t o n f と 推 算 し , "Ove r Wi n d P o w er " の 警 報 が 表 示 さ れ て い る . 図 4.3 0 走 錨 を 始 め る 瞬 間 の 錨 泊 監 視 画 面 4.5.6 走錨前後における船体の移動軌跡 前 項 で 述 べ た と お り , 走 錨 は 16時 40分 37秒 に 観 測 し た 瞬 間 風 速 47m /秒 の 暴 風 の 直 後 に 発 生 し た こ と か ら , 走 錨 前 後 の 16時 20分 00秒 か ら 17時 10分 00秒 の 間 の 船 体 移 動 状 況 に つ い て 分 析 を 試 み た . 図 4.31(a)及 び 図 4.31(b)は 16時 20分 00秒 か ら 16時 45分 00秒 の 間 の 走 錨 直 後 を 含 む 走 錨 直 前 の 定 常 振 れ 回 り の 様 子 を D-GPSの 移 動 軌 跡 で 示 す . 以 後 , 本 項 で は (a)を 錨 泊 監 視 画 面 で , (b)を 分 析 画 面 で 示 す . な お , 移 動 軌 跡 は 深 江 丸 の 転 心 ( Pivoting point) 位 置 で 示 し た . 強 大 な 風 圧 に よ り , 移 動 軌 跡 は 横 8 の 字 形 か ら か な り 扁 平 な も の に な っ て い る . 図 4.32(a)及 び 図 4.32(b)は 走 錨 直 前 を 含 む 16時 40分 00秒 か ら 17時 10分 00秒 の 間 の 走 錨 直 後 に お け る 船 体 挙 動 を 示 す .走 錨 し な が ら も 振 れ 回 り 運 動 を 繰 り 返 し て い る が ,そ の 後 , 89 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 図 4.31(a) 走 錨 直 前 の 定 常 振 れ 回 り 図 4 .3 1 ( b) 走 錨 直 前 の 定 常 振 れ 回 り 図 4.32( a ) 走 錨 直 後 の 船 体 挙 動 図 4 . 3 2( b ) 走 錨 直 後 の 船 体 挙 動 振れ回る範囲に偏りが現れ,振れ回り幅も大きく変化しはじめている.移動軌跡 からは走錨直後も走錨前同様にあたかも周期性を帯びた振れ回り運動を繰り返し ながら,しかし着々と風下側に移動している様子がわかる. 図 4. 33( a )と 4 .3 3( b) に , 図 4 .31 と 図 4 . 3 2 を そ れ ぞ れ 重 ね 合 わ せ た , 分 析 期 間 1 6 時 20分 00秒 か ら 17時 10分 0 0秒 の 間 の 走 錨 前 後 に お け る 船 体 挙 動 を 示 す . 90 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 図 4.33( a ) 走 錨 前 後 の 船 体 挙 動 4.5.7 図 4 . 3 3( b ) 走 錨 前 後 の 船 体 挙 動 走錨前後における船体の振れ回り状況 表 4.5に 走 錨 前 後 に お け る 船 体 の 振 れ 回 り 状 況 の 分 析 値 を 示 す . 繰 り 返 さ れ る 船体の振れ回り異常のパターンが,走錨後1~4回と同5~7回では異なること から,走錨前1~4回,走錨時,走錨後1~4回及び引き続く5~7回の4段階 に分けて各項目ごとに分析した. 表 4.5 走 錨 前 後 に お け る 船 体 の 振 れ 回 り 状 況 の 分 析 値 91 第4章 4.5.8 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 風向と風速及び最大瞬間風速 分 析 期 間 に お け る 平 均 風 向 は 130~ 135度 ( 南 東 の 風 ) で あ り , 暴 風 下 , 突 風 の 発 生 に よ り 風 速 に か な り の 変 動 が あ っ た が , 平 均 風 速 は 31m /秒 , こ の 間 の 最 大 瞬 間 風 速 は 48m /秒 , ま た , 最 大 瞬 間 風 速 は 平 均 風 速 の 1 . 4 ~ 1 . 6倍 で あ っ た . 4.5.9 船体の振れ回り周期 走錨前に比べて走錨後1~4回の平均値・最大値・最小値ともに小さくなって いるが,同5~7回では走錨前の定常振れ回り状態と大きな変化はない. 4.5.10 船体の振れ回り幅 錨位に対する自船の振れ回り運動は,突風を伴いながら強弱を繰り返す風,風 浪とうねりなどの影響を相当受ける.振れ回り幅は走錨直後に大きくなり,平均 値ではわずかに増大傾向を示しているほか,走錨後は最大値の顕著な増大と最小 値 の 減 少 が 見 ら れ , 走 錨 前 に 比 べ て , 最 大 値 で は 走 錨 後 1 ~ 4 回 が 1.3倍 , 同 5 ~ 7 回 が 1. 7倍 に 増 大 し , 最 小 値 で は 逆 に 0 . 8 ~ 0 . 9 倍 程 度 に ま で 減 少 し た . ま た , 走 錨 前 に 比 べ て 最 大 値 と 最 小 値 の 差 が 走 錨 後 1 ~ 4 回 で は 3.2倍 , 同 5 ~ 7 回 で は 4.9倍 と い ず れ も 拡 大 し た . 図 4.33(a)及 び (b)に 示 す と お り , 走 錨 前 の 定 常 振 れ回りに比べて,走錨後は振れ回る範囲が拡大する一方で,振れ幅を異にする不 安定な動きをする傾向がみられた. 4.5.11 船首方位 風軸に対して船体が最大側面を見せたときの船首方位の平均値・最大値・最小 値については走錨前と後ではわずかに変動するが特徴的な変化はみられない.走 錨初期において,振れ回りを繰り返しながら徐々に風下に落とされていたことが わかった. 92 第4章 4.5.12 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 風の最大迎え角 風軸に対して船体が最大側面を見せたときの風の最大迎え角は,走錨後1~4 回では平均値・最大値ともに大きな変化は見られず,5~7回で平均値・最小値 がともにやや大きくなる傾向を示した.これらはわずかな変動であり,走錨初期 において風の最大迎え角,すなわち相対風向角の異常はほとんど見られない. 4.5.13 D-GPSコ ー ス 風軸に対して船体が最大側面を見せたときの船体の移動方向であり,通常の定 常振れ回り中には最大船速を伴うことが多い.走錨後において最大値にわずかな がら風下への移動傾向が現れているが,平均値では走錨前後ともに大きな変化が 見 ら れ な い . 平 均 値 を 見 る 限 り で は 初 期 の 走 錨 を 判 断 で き な い が , D-GPSの 移 動 ベクトルの方向とその大きさを継続して観察することにより風下への圧流を確実 に検知できる. 4.5.14 D-GPSス ピ ー ド 風軸に対して船体が最大側面を見せたときの移動速力であり,平均値・最大値 最小値ともに特徴的な変化は見られない.振れ回り中の最大船速からは初期の走 錨 を 検 知 し に く い こ と が わ か る . D-GPSの 移 動 ベ ク ト ル の 方 向 と そ の 大 き さ を 継 続して観察することが走錨の検知に有効である. 4.5.15 走錨直後における船体挙動の考察 走 錨 の 初 期 に お い て , 大 縮 尺 の 電 子 海 図 画 面 の D-GPS船 体 移 動 軌 跡 は 走 錨 前 の それに比べて振れ回り幅と振れ回りの範囲に特徴的な変化が見られ,振れ回り幅 の増大とともに風軸に対して偏った振れ回りをしながら風下側に着々と落とされ て い た . し か し な が ら , 表 4.5の 分 析 値 が 示 す と お り , 各 平 均 値 で は あ た か も 定 常振れ回りの様相を呈していたことがわかる.荒天強風下の錨泊監視では,走錨 あるいは走錨のおそれを判断する根拠として,海図やレーダ画面上に自船の位置 をプロットしたり,近い過去の船体運動諸元と現状のそれを比較する方法がとら 93 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 れる.後者の方法において,この分析では走錨直後においても定常振れ回りの様 相を呈していたことから,船体の振れ回り及び船首方位並びに相対風向角の異変 を待って走錨の判断とする従来の定説では走錨に対する適切な判断が遅れ,安全 な錨泊態勢に移行するための転錨や風下側至近錨泊船との異常接近の回避などの 処置が遅れる状況もあり得ることがわかった. 4.5.16 走錨のまとめ 一般に,紙海図上で自船の振れ回りの状態を正確に把握し走錨を検知すること は,使用している海図の種類や縮尺の限界,位置確認の精度などの理由から,船 位に顕著な移動がない限り難しい.このため,強風下において守錨当直者は近い 過去の船体振れ回り状況を把握し,現状のそれと比較しながら自船の錨泊状態を 確認するとともに,船体動揺や船体振動の異常,受風向の異変などから走錨を経 験的に判断してきた. 走 錨 時 の 現 象 と し て ,「 船 体 の 周 期 的 な 振 れ 回 り 運 動 が 止 ま り , 風 を 片 舷 か ら うけるようになったとき」や「異常な振動や衝撃を感じたとき」などが経験的に 挙げられるが,走錨後の深江丸において,風を片舷から受けるようになったのは 揚錨のために主機関と舵を大胆に用いながら錨鎖を3節程度まで巻き込んだとき であり,これも走錨初期の状況を判断する決定的根拠になり得ないことがわかっ た.また,喫水の浅い小型船では暴風による船体傾斜や風浪とうねりによる衝撃 を伴いながら,大時化の航海さながらに船体が激しく動揺し振動する.さらに錨 鎖の緊張とたるみがこれらを助長する.このような状況下において異常な振動や 衝撃の感知は困難であった. 今回の深江丸の走錨事例から,自船の錨泊状態を把握する有効な手段のひとつ と し て , GPSの 移 動 軌 跡 と 移 動 ベ ク ト ル の 継 続 監 視 が 挙 げ ら れ る . GPSや D-GPSの 登場により従来に比べて船位測定の精度が格段に向上したことから,大縮尺の電 子海図画面上の移動軌跡により自船の振れ回りの状況や風下側への圧流の様子を 正 確 に 捉 え る こ と が で き る よ う に な っ た . ち な み に 測 位 精 度 ( 誤 差 ) は GPSで 10 m 程 度 , D-GPSで 1 m 程 度 と さ れ る . 強 風 下 の 定 常 振 れ 回 り で は , 風 軸 に 対 し て 船体が最大側面を見せているときの移動ベクトルの方向は錨位(投下した錨の位 置)を中心にした円のほぼ接線方向であり,このベクトルの方向が明らかに風下 94 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 側,あるいは頻繁に風下側を指し示すようなときは自船が風下側に圧流されてい ることを意味し,走錨のおそれ,あるいは走錨と判断できる.移動軌跡のみなら ず 風 下 へ の わ ず か な 圧 流 の 状 況 を も 見 逃 さ な い D-GPSの 移 動 ベ ク ト ル ( D-GPSコ ー ス ・ D-GPS ス ピ ー ド ) の 活 用 は 錨 泊 監 視 に 極 め て 有 効 と 考 え る . 二 度 目 の 走 錨 後 の 転 錨 に 際 し て は , 時 折 風 速 が 40~ 50m /秒 に 達 し , 船 体 が い ったん風に横倒しになると風下への圧流に対する姿勢の修復が極めて困難で,主 機関と舵を大胆に使用しても船体の姿勢制御がままならないことがあった.特に 錨を揚収した後の投錨態勢の立て直しにあたり,強大な風圧に対して一時的では あるが自船のコントロールが不能に陥るといった状況が度々あり,暴風の強弱を 見ながらの大胆な操船になった.その都度,船体は風に横倒しの状態で風下側へ 2~3ノットの速さで圧流され,台風避泊のために最初に錨を投じた位置から西 方 へ 724m も 圧 流 さ れ た . 風 下 側 至 近 に 他 の 錨 泊 船 が い な か っ た こ と は 幸 い で あ っ た が , さ ら に 西 南 西 方 6 00m に 水 深 4 m の 浅 瀬 が 存 在 し た . 近年,大型で勢力の強い台風の襲来が相次ぐ中,台風避泊においては万全の態 勢で暴風に備えることは当然であるが,錨と錨鎖による係駐力の増強と揚錨時の 絡み錨を防ぐために,台風通過後における風向の順転・逆転を考慮しながら右舷 錨と左舷錨の投下のタイミングをわずかにずらした2錨泊が有効と考える.特に 錨地が台風避泊船で混み合う状況下での走錨は,自船のみならず周囲の他の錨泊 船が関係することから,自船・他船ともに互いに厳重な警戒を要し,万一,走錨 という事態に陥ってもいち早くこれを検知して対処する必要がある. 台風の暴風下,実際に走錨の事態に陥り,このときに取得した錨泊監視データ に基づいて走錨時の船体挙動を分析した結果,走錨直後における船体の挙動や走 錨判断の経験則がこれまでの定説とは必ずしも一致しない場合があることがはじ めてわかった.分析と検証にあたり,内航海運の現場で活躍する船長に意見を求 めたところ,データ分析や事例の公開等は商船においては余裕もなく,できる状 況にないが,このような現象もあり得るとのことであった. 台風との遭遇で偶発的に得られた小型船の走錨の一事例ではあるが,従来観察 し得なかった走錨直後の様子を克明に捉えていた. なお,本研究の成果は「実船における走錨時の挙動と走錨検知」と題して,日 本 航 海 学 会 論 文 集 , N o . 11 4 , p p . 11 9 - 12 5 ( 2 0 0 6年 3 月 ) に て 公 刊 し た . 95 第4章 4 .6 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 本章のまとめ 本章では,深江丸で独自に構築し運用している統合化航海情報処理システムの 錨泊監視機能について,その機能の評価とさらなる活用法を検討するために,錨 泊中における船体の移動や船体運動の分析を試みた.この分析では,風と潮流の 影響により船体が複雑な運動を呈する中,その特徴と傾向について分類すること ができ,小型船における錨泊の実態を詳しく知ることができた. 船体の振れ回り抑止実験では,台風接近中ではあったが比較的安定した気象条 件の中,振れ止め錨の効用を検証するとともに,強風下,あえて機関の後進推力 を用いることで船首を風に立てて風圧力を軽減するといった大胆な実験を試み た . 実 船 に よ る 実 験 事 例 は 1983年 9 月 の 蒸 気 タ ー ビ ン 船 に よ る 1 例 の み で あ り , このときに比べて各種測定機器の精度が格段に向上し,また,大量のデータ取得 が可能になったことから最新の機器を駆使した実験となった.近年,船が大型化 専用船化し,錨泊中の走錨海難事故により甚大な被害と災害を伴う事例が頻発し て い る こ と か ら , 本 実 験 の 分 析 結 果 は 推 力 調 節 が 自 在 な CPP(可 変 ピ ッ チ ・ プ ロ ペ ラ )船 に お い て 走 錨 防 止 の た め の 有 効 な 一 手 段 に な り う る と 考 え る . 暴風下における走錨の分析では,走錨直後の船体挙動を克明に捉え,走錨時の 船体運動現象として従前から語り継がれてきた事柄が走錨初期においては必ずし もあてはまらない事例があることがわかった.さらに,この分析結果が示すよう に,走錨のおそれ,あるいは走錨を判断するためにこれまで船橋で行われてきた 数々の経験的な監視手法が走錨初期において通用しない場合があることも判明し た. 海難審判庁裁決録には走錨海難の事例と原因の究明が数多くなされているが, 走錨時の船体挙動についての言及は少ない.また,実船現場における走錨は多数 あっても,走錨事例として公開されることはほとんど無いことから,水槽におけ る走錨実験やシミュレーションの結果などが有効な指標となっている.走錨時の 船体挙動をこれほどまでに克明に捉えた実船事例は過去他にない. 96 第4章 統合化航海情報処理システムによる取得データの分析 なお,錨の把駐力と把駐姿勢は錨の性能や海底の性状によるところが大きく, 定量化は難しい.振れ回り走錨下の後進推力の使用は走錨を助長するおそれがあ り 得 る こ と か ら ,あ ら ゆ る 状 況 を 適 切 に 判 断 し な が ら 慎 重 に 対 処 す る 必 要 が あ る . 近年,内航,外航海運共に日本人船員が不足し,また,世代交代が顕著になる 中,若年船員の知識と経験不足,技量や勘を補う意味合いからも,この研究成果 が荒天強風下における走錨防止の一助になることを切に望むところである. 97 第4章 98 第5章 統合化航海情報処理システムの活用 5 .1 研究の概要 深江丸では様々な実験の支援や操船に係る検証を行い,同時に実船データを統 合化航海情報処理システムのサーバーに保存している.この章では本システムを 活用した実験と分析事例を挙げ,運用上の参考とした. そ の 内 容 は , 5.2に お い て 深 江 丸 に 搭 載 す る KS-8 型 錨 に 係 る 把 駐 係 数 の 推 算 実 験の概要と結果を述べる.アンカー水槽における条件の整った実験とは異なり, 実際には様々な要因が複雑に影響しあうことを,実験を通じて認識することがで きた. 5.3で は , 深 江 丸 で 実 施 し て い る 船 底 防 汚 塗 料 の 評 価 実 験 に つ い て , 独 自 に 考 案した実験手法を提案するとともに,船底汚損の進行状況を数値指標で表すため の方策と実験の中間結果について述べる. 5.4で は , 港 内 操 船 等 の 低 速 域 に お い て , プ ロ ペ ラ 推 力 と 回 頭 方 向 が 船 の 旋 回 に及ぼす影響についてその分析結果を述べる. 5.5で は , 海 中 転 落 者 へ の 接 近 操 船 法 で あ る "Williamson turn"に お い て , 操 船 要素を種々変更した場合の原針路と反転針路の横距離について,深江丸で実施し た検証実験の結果を述べる. 99 第5章 5.2 統合化航海情報処理システムの活用 深 江 丸 KS-8 型 錨 の 把 駐 係 数 の 推 算 実 験 深 江 丸 に 搭 載 す る KS-8 型 錨 の 把 駐 係 数 を 検 証 す る た め の 実 船 実 験 を 試 み た . 実験にあたり,風と潮流による外力の影響,錨鎖の伸出長さと錨鎖の海底係駐部 の摩擦抵抗,牽引時の錨のシャンクの姿勢と錨至近の錨鎖の状態及び海底の形状 と 性 状 な ど を 考 慮 す る 必 要 が あ る .本 実 験 で は ,伸 出 錨 鎖 4 ,3 ,2 及 び 1 節( 1 節 = 25m ) の 長 さ に お い て , プ ロ ペ ラ に よ る 後 進 ス ラ ス ト と 船 首 尾 方 向 成 分 の 風 圧 を 合 成 牽 引 力 と し , Slow, Halfに 続 き Full Astern Engineと , 段 階 的 に 後 進 推 力 を 増 し て , 錨 泊 監 視 画 面 の 目 視 と デ ー タ 分 析 か ら D-GPSス ピ ー ド ( D-GPS移 動 ベ クトル)が発生した瞬間を走錨と判断し,錨泊監視データを基に分析した. 《実験海域と航海目的》 《実験条件》 香川県詫間港内,夏季研究航海 水 深 : 12m , 底 質 : 砂 混 じ り の 泥 , 風 向 : N o r t h 風 速 : 5 ~ 6 m /秒 風 浪 ・ う ね り : 0 m , 潮 流 の 流 向 : 090度 , 流 速 : 0.5ノ ッ ト ※ 標準把駐係数の参考値 KS - 8 型 錨 : 泥 7 . 2 , 砂 6. 8 AC - 1 4型 錨 : 7 ~ 9 JI S 型 錨 :3~5 海 底 係 駐 部 の 錨 鎖 の 摩 擦 抵 抗 係 数 :1 《実験結果》 錨 鎖 1 節 に お い て , F u l l A s t e r n E n g i n e ( 後 進 推 力 : 3 . 3 t o n f ), 推 算 風 圧 力 0.45tonfで D-GPS船 位 に 移 動 ベ ク ト ル が 発 生 し 走 錨 を 検 知 し た . 走 錨 の 瞬 間 に お け る 錨 の 投 下 位 置 ま で の 水 平 距 離 は 1 8m で あ っ た . こ の 実 験 か ら K S - 8 型 錨 の 把 駐 係 数 は 4 . 7 5と 求 ま っ た . 《実験実施上の問題点》 こ の 実 験 で は 水 深 が 12m と ,錨 を 水 平 に 牽 引 す る た め に は 水 深 が 深 す ぎ た こ と , 及び風潮流の影響があったために,機関の後進スラストを純粋な牽引力とするこ とができなかったことが問題点として挙げられる.風潮流の影響のない,水深4 ~6m程度の浅所における実験を検討する必要がある. 100 第5章 5 .3 統合化航海情報処理システムの活用 実船における船底汚損の推定実験 水 の 粘 性 に 基 づ く 船 体 の 摩 擦 抵 抗 は 低 速 域 で は 水 に よ る 全 抵 抗 の 70~ 80% を 占 め , 船 の 速 力 が 増 す に つ れ て 他 の 抵 抗 が 増 加 し , 全 抵 抗 の 40~ 50% 程 度 に な る と い わ れ る (28) . そ こ で , 出 渠 後 の 船 底 汚 損 の 進 行 に 伴 う 摩 擦 抵 抗 の 増 加 を 評 価 す ることを目的に停止実験を考案し,深江丸で実船実験を継続している.実験は停 止惰力試験に準じた方法を採用し,出渠後の経過日数に伴う船底汚損の進行,あ るいは船底防汚塗料の性能変化が,一定の速力減少範囲における速力減衰の度合 いにどのように反映されるかを探るものである. 実験ではプロペラ翼及びプロペラ・ボス汚損の影響を排除するために, S/B Full A h e a d E n g i n e ( C P P前 進 翼 角 2 0 度 ; 速 力 1 0ノ ッ ト ) に お い て , 真風向が ① 真正面(正船首) ② 真後ろ(正船尾) ③ 右舷正横 ④ 左舷正横 の 各 助 走 針 路 ( 順 不 同 ) で , 実 験 開 始 と 同 時 に プ ロ ペ ラ ・ ピ ッ チ を 一 気 に Stop Engine (CPP後 進 翼 角 1 度 ) と し , 各 機 器 に よ る 残 速 が 2 ノ ッ ト で 実 験 を 終 了 す る.1回の実験では真風向に対して前記の4通りの助走に続く停止実験を行い, 各航走における速力減衰の度合いを汚損係数としてそれぞれ求める.次に,風圧 や風浪の影響をできるだけ排除するために,4航走で求めた各汚損係数を平均し て 1 実 験 4 航 走 を 代 表 す る 平 均 汚 損 係 数 と し た . 図 5.1に 阪 神 港 神 戸 区 第 3 区 に お け る 停 止 実 験 終 了 時 の F Navi -X画 面 を 示 す . 図 5.1 阪 神 港 神 戸 区 第 3 区 に お け る 停 止 実 験 終 了 時 の F N a v i - X 画 面 101 第5章 統合化航海情報処理システムの活用 ① 平均汚損係数 表 5.1は , 全 16回 の 実 験 に お い て 求 め た 8 ノ ッ ト → 6 ノ ッ ト , 及 び , 参 考 と し て5ノット→4ノットにおける平均汚損係数を示す.なお,比較を容易にするた め に , 算 出 し た 係 数 は 1,000倍 し て 示 す . ま た , 各 実 験 時 の 風 の 状 態 が 異 な り , 斜航に伴う抵抗の変動は避けられないことから,8ノット→6ノットにおける船 体の平均斜航角を最右欄に示す. 表 5.1 実 験 に よ り 求 め た 平 均 汚 損 係 数 ② 平均汚損係数の推移 図 5.2に , 表 5.1の 平 均 汚 損 係 数 の 推 移 を グ ラ フ で 示 す . ま た , 平 均 汚 損 係 数 の 推 移 を 運 航 実 態 と 比 較 す る た め に , 図 5.3に 深 江 丸 の 月 別 運 航 日 数 と 航 走 距 離 を 示す. 102 第5章 統合化航海情報処理システムの活用 図 5.2 平 均 汚 損 係 数 の 推 移 図 5.3 深 江 丸 の 月 別 運 航 日 数 と 航 走 距 離 ③ 船底汚損推定実験のまとめ 船底汚損の進行状況は,速力の低下や速力維持のための機関出力の増強と,こ れに伴う燃料消費の増大といった間接的な観点から判断する以外に方法がない実 情にある.提案した実験手法により船底汚損の進行状況や種類を違えた防汚塗料 の効果を汚損係数という数値指標のかたちで推定することが可能になった.この 係数が大きいほど停止実験における速力の減衰が大きいことを意味し,船底汚損 が進行し,摩擦抵抗が大きいことを示す.逆に,この係数が小さい場合は速力の 減衰が小さく,船底汚損が抑えられていることを示す.各実験の風速条件が不揃 いではあるが,船底塗料の性能を客観的に評価するための新たな手法を提案する ことができた.出渠後からの船底汚損の状況をあらかじめ具体的な指標を用いて 把握することができれば,入渠時の船底整備において事前にある程度の有効な対 策 が と れ る だ け で な く ,船 底 防 汚 の た め の 効 果 的 な 入 渠 時 期 の 選 定 が 可 能 に な る . なお,本研究の成果は「実船における船底汚損の推定」と題して,日本航海学 会 論 文 集 , N o . 1 1 8 , p p . 13 5 - 14 3 ( 2 0 0 8年 3 月 ) に て 公 刊 し た . 103 第5章 5 .4 統合化航海情報処理システムの活用 低速域においてプロペラ推力と回頭方向が 船の旋回に及ぼす影響 港内操船や揚投錨操船時に,最大舵角とプロペラによる小推力を併用して右小 回り,あるいは左小回りの操船を行うことがある.深江丸の低速域における旋回 試験の分析結果を,別の機会に同条件で実施した高速域の結果とともに述べる. 《実験海域と航海目的》 阪神港神戸区第3区,災害時医療支援船構想緊急搬送 訓練航海 《実験条件》 風 向 : S W , 風 速 : 6 ~ 7 m /秒 , 風 浪 ・ う ね り : 0 m 《実験設定》 助 走 針 路 : 090 度 及 び 18 0 度 助 走 速 力 : Dea d Sl o w A h e ad E ng i n e( 4 ノ ッ ト ) Slo w Ah e a d E n gi n e (6ノット) 低 速 域 旋 回 試 験 の 分 析 図 を 図 5.4 ( a )~ ( d) に 示 す . 図 5.4(a) : 右 旋 回 分 析 図 1 ; Dea d Sl o w A h e ad E ng i n e, 原 針 路 0 9 0 度 → H a rd a S t a rb o a rd 図 5.4(b) : 左 旋 回 分 析 図 1 ; Dea d Sl o w A h e ad E ng i n e, 原 針 路 1 8 0 度 → H a rd a P o r t 図 5.4(c) : 右 旋 回 分 析 図 2 ; Slo w Ah e a d E n gi n e , 原 針 路 090度 → H a rd a S t a rb o a rd 図 5.4(d) : 左 旋 回 分 析 図 2 ; Slo w Ah e a d E n gi n e , 原 針 路 180度 → H a rd a P o r t 図 5.4(a) 右 旋 回 分 析 図 1 図 5. 4 ( b ) 左 旋 回 分 析 図 1 104 第5章 統合化航海情報処理システムの活用 図 5.4(c) 右 旋 回 分 析 図 2 図 5. 4 ( d ) 左 旋 回 分 析 図 2 表 5.2に 低 速 域 旋 回 試 験 の 分 析 結 果 を , 別 の 機 会 に 同 じ 条 件 下 で 実 施 し た S/B Full Ahead Engineの 分 析 値 と と も に 示 す . な お , 比 較 を 容 易 に す る た め に , 各 計 測 値 を 深 江 丸 の 長 さ ( L = 50m ) の 倍 数 で 示 し た . 深 江 丸 の 推 進 器 は 一 軸 左 回 り 4 翼 CPPの た め , プ ロ ペ ラ 回 転 は 船 尾 を 常 に 左 方 に 変 位 さ せ よ う と 作 用 し , 右 回 頭 ( 右 旋 回 ) に お い て や や 有 利 に 働 く . 助 走 後 の 転 舵 開 始 地 点 か ら 90度 回 頭 し た地点までの原針路延長線上の進出距離である最大縦距は,何れのエンジン・モ ーションでも右旋回が左旋回に比べてやや小さくなっている.また,転舵開始地 点 か ら 180度 回 頭 し た 地 点 ま で の 原 針 路 上 か ら の 横 距 離 で あ る 最 大 横 距 , 及 び , 風 位 と 直 角 方 向 の 旋 回 直 径 は ,推 力 が 大 き い と わ ず か に 大 き く な る 傾 向 を 示 し た . いずれの要素も右旋回においてこの値がやや小さい.これらを深江丸の大きさを 含み総合的に見た場合,プロペラ回転の方向が旋回圏の大きさに多少は影響する ものの,推力の大きさの違いは、旋回圏の要素にはさほど影響しないといえる. ただし,旋回に要する時間は推力が大きいほど短縮された. 表 5.2 低 速 域 旋 回 試 験 の 分 析 結 果 105 第5章 5.5 統合化航海情報処理システムの活用 海 中 転 落 者 へ の 接 近 操 船 法 Williamson turn の検証実験 海 中 転 落 者 へ の 接 近 操 船 法 の ひ と つ で あ る "Williamson turn"に お い て , 操 船 要素を種々変更した場合の原針路と反転針路の横距離について,深江丸で実施し た検証実験の結果を述べる. こ の 操 船 法 は ,船 か ら 海 中 転 落 者 が あ っ た( 海 中 転 落 す る の を 発 見 し た )場 合 , 転 落 し た 舷 に 舵 を 一 杯 に と り , 原 針 路 か ら 60~ 90度 回 頭 し た と こ ろ で 舵 を 反 対 舷 に 一 杯 転 舵 , 180度 回 頭 ( 反 転 ) し て , こ れ ま で 進 ん で き た 針 路 上 を 逆 に た ど る 操船法である.原針路と反対方向の針路上に復することで,たとえ転落者を見失 っ て も , 転 落 地 点 付 近 に 戻 る 公 算 の 高 い 操 船 法 と さ れ る . 図 5.5に 左 転 舵 一 杯 で 開 始 し た Wi l l i a m s o n t u rn の 例 を 略 図 で 示 す . 図 5 . 5 W i l l i am s o n t u r n 左 一 杯 転 舵 の 例 《実験海域と航海目的》 《実験条件》 伊 予 灘 ( 松 山 西 方 海 域 ), 春 季 研 究 航 海 風 向 N E , 風 速 4 ~ 5 m /秒 , 風 浪 ・ う ね り 0 m , 水 深 40m 潮 流 < 0 6 9> 方 向 へ 1 ノ ッ ト 原 針 路 <23 0度 > の 追 い 風 , 機 関 : S / B F u l l A h e a d E n g i n e ( 10ノ ッ ト ) で 助 走 106 第5章 統合化航海情報処理システムの活用 《実験要領》 1.実験針路(原針路)は,北東の風に対して,船体の向風性の現れにくい "追 い 風 "( 230度 ) に 設 定 す る . 2 . 深 江 丸 の 旋 回 特 性 を 考 慮 し て , 原 針 路 か ら の 回 頭 角 を 左 右 舷 そ れ ぞ れ 60, 50, 40及 び 30度 に 設 定 し , 原 針 路 上 で 舵 を 「 H a r d a S t a r b o a r d」 ま た は 「 Har d a P o r t」 と 片 舷 一 杯 に 転 舵 す る . 3.設定角度だけ回頭したところで舵を一気に反対舷一杯にとる. 4 . 原 針 路 か ら 1 8 0 度 回 頭 す る 直 前 の , 反 転 針 路 の 2 5 度 手 前 で 舵 中 央 ( M i d s h ip) とし,原針路の反方位を航進する. 5.原針路上に反転できたかどうかについて,原針路と反転針路の横距離を求 める. 表 5.3に 原 針 路 か ら の 回 頭 角 と 第 1 回 目 の 転 舵 方 向 の 違 い に よ る 原 針 路 と 反 転 針 路 と の 横 距 離 を 示 す . な お ,「 + 」 は , 原 針 路 に 対 し て 第 1 回 目 の 転 舵 側 を 反 航 し た こ と を ,「 - 」 は , 原 針 路 に 対 し て 第 1 回 目 の 転 舵 側 と 反 対 側 を 逆 の 針 路 で航走したことを示す。 表 5.3 原 針 路 か ら の 回 頭 角 と 第 1 回 目 の 転 舵 方 向 の 違 い に よ る 原針路と反転針路との横距離 深 江 丸 の 推 進 器 は 一 軸 左 回 り 4 翼 CPPで あ る た め , プ ロ ペ ラ の 回 転 影 響 に よ り 左旋回よりも右旋回にやや優れる.高速域の第1回目の転舵と,回頭がはじまっ た低速域の第2回目の反転舵ではそれぞれ回頭特性が異なる.原針路からの回頭 角 が 右 舷 側 40度 で + 12m , 同 じ く 右 舷 側 30度 で - 2 m と , ほ ぼ 原 針 路 上 を 反 対 に 航 走 し た . 深 江 丸 で Williamson turnを 行 う 場 合 , 右 回 頭 で 回 頭 角 が 30~ 40度 の ときに反転舵一杯とするのが有効であるとの分析結果を得た. 107 第5章 5 .6 統合化航海情報処理システムの活用 本章のまとめ 本章では,深江丸で実施している様々な実験や運航に関連した操船法の中から 統合化航海情報処理システムを活用したいくつかの実験と分析例を挙げた. 錨の把駐係数については,専用のアンカー水槽において実物大あるいは実物の 1 / 1 0程 度 の 模 型 に よ り 実 験 を 重 ね , そ の 結 果 か ら 当 該 錨 に 係 る 標 準 把 駐 係 数 を 求 める.従って,単発の実験では評価できないことから,実船実験においても条件 を整えて実験回数を重ねる必要がある. 船底汚損の推定実験については,新開発の低摩擦型船底防汚塗料の摩擦抵抗の 変化を評価するために独自の実験方法を考案して分析を試みた.この研究を通じ て,船底防汚塗料の劣化と衰耗,あるいは海洋付着生物による摩擦抵抗の変化を 数値指標のかたちで表すことが可能になった.この研究は年1回の入渠工事をは さんで年単位の経過観察を要し,また,海水温度等の環境要素の影響を多分に受 けることなどから中長期的な研究計画に基づいて実験と分析を重ねる必要があ る. 旋回操船は,港内での離着さん時や揚投錨操船時,あるいは狭い水域で他船を 避 航 す る と き な ど に 状 況 に 応 じ て 適 時 行 う 操 船 法 で あ る .特 に 低 速 時 の 操 船 で は , そのときの風と潮流が船体運動に大きく作用することから,船の操縦性能を最大 限度活用した操船が臨機に要求される.このため,船長は自己の指揮する船舶の 運動特性を熟知しておく必要がある. 海 中 転 落 者 へ の 接 近 操 船 法 で あ る Williamson turnは , 一 旦 は 転 落 者 を 見 失 っ ても,これまで航進してきた針路の逆の針路上に復するための有効な操船法のひ とつであり,原針路からの回頭角度,操舵のタイミング及び速力が大きな要素に なる.これらは個々の船により千差万別であることから深江丸の例を挙げた. 今後,統合化航海情報処理システムの様々な機能を活用して,さらなる事例の 検証や新たな実験に挑戦し,これらを操船・実務資料として,あるいは学生の実 習用教材として,さらには海事関連分野における実船資料として蓄積したい. 108 第6章 結論 こ こ 数 年 ,大 型 の 台 風 が そ の 勢 力 の 衰 え な い ま ま 本 邦 に 接 近 ,あ る い は 上 陸 し , 日本社会と国民生活に大きな打撃を与えている.陸上では暴風と降水による自然 災害と,これに伴う事故や交通網の寸断が頻発し,海上においても船舶の海難は あとを絶たない.また,台風避泊中の走錨に起因する人的・物的な損害とその後 遺症は甚大なものになりつつある. 30年 前 , 筆 者 が 新 前 の 三 等 航 海 士 と し て 当 時 の 運 輸 省 航 海 訓 練 所 練 習 船 銀 河 丸 ( 5,032GT) に 初 乗 船 し た 頃 , 錨 泊 中 の 停 泊 当 直 で は 昼 夜 を 問 わ ず 風 が 強 く な る たびに船橋で守錨当直を行い,ときには船首甲板に赴き,錨鎖の伸びる方向や張 り具合などを何度も飽きることなく確認した経験がある.このころは実務知識や 技量も未熟であり,錨泊のために投下した錨は常に船の前方の風上あるいは潮上 にあるものと認識し,前方ばかりを注視していた記憶がある.錨泊中に頼りとす る錨と錨鎖は,その大半が水中に存在するために船橋や船首の甲板からは直に視 認することができない.このため,強風・暴風下の錨泊においては,風潮流等の 外力が船体に作用した結果として現れる船体運動の諸元に着目することで,自船 の錨泊が安全に維持されているか否かを経験的に判断する.幾多の修羅場をくぐ り抜けてきた船長や航海士の専門知識と経験,さらには鋭い勘が発揮される一場 面でもある. そこで,本研究では「船舶の錨泊監視支援に関する研究」と題して,昨今,研 究事例が少なくなった船舶の錨泊に関連する様々な要素をまとめ,強風下の錨泊 監視に要求される実務知識と監視技術を抽出し,これらの要素について新たな提 案の可能性を模索し検討した.その結果,船舶運用の現場において錨泊監視を支 援するための新たな手法を提案するに至り,深江丸での実船運用を通じてその有 効性を検証した. 本研究の結論を以下に述べる. 109 第6章 結論 1.統合化航海情報処理システムの構築 船 舶 の 安 全 運 航 を 支 援 す る た め に , 最 新 の 機 器 と IT技 術 を 駆 使 し た 実 船 現 場 からの発想による情報提供の一手段として統合化航海情報処理システムを構築 し,実船による評価試験を経て実用化に至った.本システムは高品位の電子海 図情報とともに自船の航海情報や機関情報など,船舶の運航に必要とされる各 種 の 情 報 を AISや ARPAな ど の 他 船 情 報 と と も に 統 合 表 示 す る も の で , 専 門 知 識 に頼ることのない操作性と利便性を追求し,表示方法や表示内容について運用 の場面ごとに工夫した. 2.錨泊監視機能の考案 システムの運用を通じて新たな機能を模索するうち,錨泊監視を支援するた めに錨泊監視機能を考案し,評価試験を経て実用化に至った.この機能は,従 前,船上において行われてきた錨泊監視のための様々な経験的・技術的手法に 加えて場面ごとに錨泊監視を支援するもので,その大きな特徴は次のとおり. ① PC の 電 子 海 図 画 面 上 に 錨 泊 の た め に 投 じ た 錨 の 位 置 と 自 船 の 位 置 を 表 示 す る. ② 船体移動予測と移動軌跡,移動ベクトルなど,船体運動の状況をリアルタ イムに正確に表示する. ③ 錨泊監視に必要とされる各種の情報を文字と数値やグラフィックスなどの 視覚情報を用いて統合表示する. ④ 推算風圧力と推算係駐力を表示し両者をリアルタイムに比較する. ⑤ 文字と音声による警報機能を有する. 3.錨泊実態の把握 錨泊中,深江丸の振れ回り運動を錨泊監視画面上で観察していると,投下し た錨が必ずしも風上あるいは潮上にあるとは限らず,ときとして船尾方向や横 方向あるいは真下に位置することが判明した.そこで,システムのサーバーに 収録している錨泊監視データから,投下した錨と自船の位置関係及び船体運動 に風潮流が及ぼす影響について分析を試みたところ,これまで経験的に認識は していたが具体的に把握することができなかった錨泊の実態を詳細に捉えるこ とができた. 110 第6章 結論 4.船体の振れ回り抑止実験 振れ止め錨の効用を実証するとともに,台風接近中の強風下,可変ピッチ・ プロペラによる適度な後進推力を船体に連続して付加する船体の振れ回り抑止 実験を試みた.用いた後進推力は風圧力に比べてわずかなものであり,これに より船体の振れ回り範囲と振れ回り角度が相当程度抑えられ,同時に船首が風 に立つ時間的割合を増加させることができた.振れ回りの抑止効果により,船 体の受風面積を最小化することで風圧力を軽減し,安定した錨泊姿勢を維持で きるという分析結果を得た. 5.深江丸の走錨事例 走錨は錨泊中の船舶にとって最も避けるべき事態である.暴風下における実 船の走錨事例はこれまでに学術的な報告例がない.深江丸は台風の暴風下,二 度の走錨の危機に陥り,事態の収拾に2時間を要した.このとき,考案した錨 泊監視機能が直ちに走錨警報を発するとともに,走錨直後における船体の挙動 を克明に捉え,同時に錨泊監視データを詳細に記録した. 分析の結果,これまで経験的に,あるいは実験で示された走錨時の船体挙動 とは明らかに異なる現象を捉えていた.また,従来の錨泊監視手法では初期の 走錨を早期に検知できない事例があることも判明した. 6.実船実験と事例検証 深江丸では機会あるごとに船舶の運用に関連した様々な実船実験を行い分析 を試みている.統合化航海情報処理システムを活用した事例を分析結果ととも に示すことで船舶の運用に係る参考とした. 7.統合化航海情報処理システムの活用と将来展望 海上では船そのものが大きい点,さらに広い水域が存在する点などの理由か ら,船舶の運用に関連した実験に際してこと細かな分析に駆られる必要性の有 無が問題になる.さらに一般商船では学術的な船体の運動解析は新造時にのみ 海上公試として性能試験が執り行われる程度であり,これらのデータは能動的 に公開されることはない.今後,船舶運航の実場面で本システムを活用した様 々な事例検証や新たな実験を展開し,単に研究としてのみならず,練習船とし ての使命に鑑み,学生実験や実習用教材としてのさらなる充実を図りたい. 111 第6章 結論 こ の 研 究 を 通 じ て 得 ら れ た 様 々 な 知 見 を 基 に , 運 航 実 務 と IT技 術 の さ ら な る 融合を図り,練習船を舞台とした海事研究や海事教育に役立てるとともに,新 たな活用法を模索し検討することで海事社会にその成果を鋭意反映したい. 112 謝辞 本論文は,神戸大学大学院海事科学研究科石田憲治教授の御指導の下に,筆者 が本研究科及び練習船深江丸において展開した研究をまとめたものである. 最初に,本論文をまとめるにあたり,海事危機管理の立場から懇切なる御指導 と御鞭撻を賜りました神戸大学大学院海事科学研究科石田憲治教授に深甚なる感 謝の意を表します. 本研究の遂行にあたり,熱烈なる御鞭撻を賜りました神戸大学名誉教授で前, 神戸大学副学長の西田修身先生,大島商船高等専門学校長で前,神戸大学大学院 海事科学研究科長の久保雅義先生,神戸大学大学院海事科学研究科長・学部長の 石田廣史教授に衷心より厚く御礼申し上げます. 東京海洋大学海洋工学部教授で,元,航海訓練所船長の矢吹英雄先生には運輸 省航海訓練所時代から現在に至るまで,機会あるごとにあたたかい御指導と御教 示を賜りました.心から厚く御礼申し上げます. 本論文を完成させるにあたり,度重なる叱咤激励と御指導,御教示を賜りまし た神戸大学大学院海事科学研究科古莊雅生教授の御厚情に深謝します. 神戸大学大学院海事科学研究科若林伸和准教授には,本研究の当初から全行程 を通じて終始熱心に,また懇切丁寧なる御指導と御鞭撻を賜りました.心より感 謝の意を表します.若林先生の御指導と熱意なくして本論文はここに至ることは なかったものと思量します.ここに重ねて深謝します. 神戸商船大学名誉教授の本田啓之輔先生には,本研究の分析にあたり,ご専門 の立場から数々の御教示を賜りました.学生時代からの恩師である先生の御厚情 に心より感謝します. 113 東京商船大学名誉教授で,元,航海訓練所船長の橋本 進先生には運輸省航海 訓練所時代から機会あるごとに数々のあたたかい御教示を賜りました.心から厚 く御礼申し上げます. 深江丸船長を拝命した当時,深江丸の機関長であられた中井 昇教授には,深 江丸を活用した教育と研究につきまして数々の御指南と御鞭撻を賜りました.こ れまでの御厚情に心から感謝します. 本研究に係る様々な実験活動に際して,陰日向なく,常に熱意を持って御協力 を賜りました神戸大学大学院海事科学研究科附属練習船深江丸の乗組員の皆様, 海技実習センター教員の皆様に厚く謝意を表します. 筆者の研究活動全般にわたり,たいへん多くの方々から激励と御助言を賜りま した.筆者の研究活動に関係するすべての皆様に衷心より感謝申し上げます. 最後になりましたが,私を商船大学に送り出し,爾来,常に温かく見守り続け てくれた母 長女 ス ミ 子 ,亡 き 父 歩実,次女 典 喜 ,事 あ る ご と に 一 心 で 支 え て く れ た 妻 唯花,三女 瑶咲に深く感謝します. 114 真弓, 参考文献 (1 ) 矢 野 吉 治 ・ 有 田 俊 晃 ・ 若 林 伸 和 : 荒 天 錨 泊 中 に お け る 船 体 の 振 れ 回 り 抑 止 実 験 , 神 戸 大 学 大 学 院 海 事 科 学 研 究 科 紀 要 , 第 5 号 ( 2008) (2 ) 矢 野 吉 治 ・ 若 林 伸 和 : 実 船 に お け る 船 底 汚 損 の 推 定 ,日 本 航 海 学 会 論 文 集 , No.118 , p p . 1 3 5 - 1 43 ( 20 0 8 ) (3 ) 矢 野 吉 治 ・ 若 林 伸 和 : 単 錨 泊 中 の CPP船 の 振 れ 回 り 抑 止 に つ い て , 日 本 航 海 学 会 論 文 集 , N o . 1 16 , pp . 1 45 - 1 51 ( 20 0 7 ) (4 ) 矢 野 吉 治 ・有 田 俊 晃 : 練 習 船 深 江 丸 20年 の 航 跡 , 神 戸 大 学 大 学 院 海 事 科 学 研 究 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