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中国輸出企業の特徴:日本の輸出企業との比較
ESRI Discussion Paper Series No.274 中国輸出企業の特徴:日本の輸出企業との比較 伊藤恵子、乾 友彦、権 赫旭、戸堂 康之 September 2011 内閣府経済社会総合研究所 Economic and Social Research Institute Cabinet Office Tokyo, Japan 論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見解を示すものでは ありません。 ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研 究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究 機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し て発表しております。 論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見 解を示すものではありません。 The views expressed in “ESRI Discussion Papers” are those of the authors and not those of the Economic and Social Research Institute, the Cabinet Office, or the Government of Japan. 中国輸出企業の特徴:日本の輸出企業との比較1 伊藤 恵子 専修大学経済学部准教授 乾 友彦 内閣府経済社会総合研究所上席主任研究官 権 赫旭 日本大学経済学部准教授 戸堂 要約 康之 東京大学新領域創成科学研究科教授 中国経済や企業のダイナミクスを理解する上で、企業の輸出行動を理解することは重要 であり、特に外資系企業の役割を分析することは重要である。本論文は、中国企業を中心に、日 本の企業のミクロデータを使用した研究と比較をしながら、輸出市場への企業の参入・退出、生 産性向上のダイナミクスの比較研究を行う。この比較を通じて、中国の輸出主導型といわれる経 済成長のメカニズムを解明することを目指す。この際、国内企業と外資系企業と分けてその特徴 を分析してみた。使用したミクロデータは、中国の工業統計の 2000 年~2007 年におけるパネル データで、全ての国有企業と年間売上高 500 万元以上の非国有企業を対象としたものである。ま た日本に関しては 1994 年~2007 年における経済産業省の「企業活動基本調査」を使用してデー タをパネル化した。 中国企業は生産性がそれほど高くないにもかかわらず、とりあえず輸出ブームに乗って参入し た国内企業は数多かったが、輸出額の小さな企業が市場から撤退することも多く、それによって 大企業への集中が高まっている。 キーワード:中国企業、日本企業、輸出、生産性、パネルデータ JEL Classification:F14、O14、O30 本研究は、日本経済センターおよび内閣府経済社会総合研究所、日本大学産業研究所の研究会で実施されたものであ る。Miaojie Yu・北京大学副教授には、データの利用や整理に関してご尽力いただいた。Eric Ramstetter・国際東 アジア研究センター主席研究員からは有益なコメントをいただいた。また、本研究の一部は、科学研究費(基盤研究 A) による助成を受けている。これらの諸氏および機関に深く感謝申し上げたい。なお、本論文の内容はすべて筆者達の 個人的な見解であり、筆者達の属する専修大学、内閣府経済社会総合研究所、日本大学、東京大学の見解を示すもの ではない。 1 Exporters in China: A Comparison with Japanese Exporters Keiko Ito Tomohiko Inui Hyeog Ug Kwon Yasuyuki Todo Senshu University Economic and Social Research Institute, Cabinet Office Nihon University The University of Tokyo Abstract To understand the dynamics of the Chinese economy and Chinese firms, it is important to examine firms' export behaviors, in particular the role of foreign-owned firms in export. This paper investigates entries to and exits from export markets of Chinese firms and the relation between such behaviors and productivity improvement, in comparison with the behaviors of Japanese firms. This comparison leads to several insights on the mechanism of economic growth of the Chinese economy which is most likely to be driven by export. Using firm-level panel data for China from 2000 to 2007 and for Japan from 1994 to 2007, we find that a large number of Chinese firms including unproductive ones entered export markets, probably stimulated by the export boom in 2000s. However, many small exporters exited from export markets soon after their entry. Accordingly, export markets of China are now going to be occupied by a small number of large firms, as in the case of Japan. Keywords: Chinese firms, Japanese firms, export, productivity, panel data JEL Classification:F14、O14、O30 2 1.はじめに 東アジア経済の発展の特徴は、輸出が重要な役割を果たしていることである。特に中国は、2001 年における WTO の加盟もありグローバル経済に本格的に参入し、その輸出額は図表1に見られるよ うに、1996 年における 1510 億ドルから、2007 年には1兆 2180 億ドルへと、この 10 年間において 8倍以上増加した。その中で、特に重要な役割を果たしたのが、外資系企業の輸出であり、2007 年 時点においては全輸出額の 60%を占める。このように中国企業のダイナミクスを理解する上で、企 業の輸出行動を理解することは重要であり、また特にその中で外資系企業の役割を分析することは重 要である。 そこで本研究では、中国企業について、日本企業のミクロデータを使用した研究と比較しながら、 輸出企業が経済全体に占める役割、企業の輸出市場への参入・退出、企業の生産性と輸出市場への参 入の関係等について検証し、東アジア諸国の輸出主導型といわれる経済成長のメカニズムを解明し、 今後 FTA や生産のフラグメンテーション等を通じて一層の進展が予想される東アジア経済のグロー バル化の経済的インパクトについて考察する。より具体的には、中国企業に関して次の2点について 議論する。 (1)グローバル化と企業ダイナミックス、マクロ経済の成長との関係 (2)輸出企業の特徴 本論文の構成は以下の通りである。次節では日本、中国、韓国企業のミクロデータを使用した研究 を中心に、輸出企業の特徴について先行の関連研究をサーベイする。3節では中国の工業統計の概要 と、本論文で使用するパネル化した中国の企業データの特徴を概観する。4節ではパネルデータを使 用し、中国輸出企業の特徴を明らかにする。さらに、日本企業のミクロデータを使用した同様の分析 結果と比較しながら、中国企業の特徴を論じる。最後の節は、本研究のまとめと今後の課題について 述べる。 図表1 中国の輸出額の推移 (億ドル) 14000 12000 10000 8000 その他の輸出 6000 外資系企業による輸出 4000 2000 0 (年) 1996 97 98 99 2000 01 02 03 04 出所)中国通関データ 3 05 06 07 2.輸出企業に関する先行研究の概観 2.1 輸出企業の特徴 企業が輸出市場に参加するには固定費が重要な役割を果たすことが知られている(Melitz (2003), Melitz and Ottaviano (2008), Bernard et al. (2007))。そこで輸出企業は非輸出企 業に比して生産性が高いなど、固定費の高さを克服できるだけの優位性を持っているものと予想 されるが、このことは、ヨーロッパ企業のデータを使用した Mayer and Ottaviano (2008)などで 実証的に確認されている。 日本、韓国、中国における輸出企業の特徴に関する既存研究を次の3つの論文を使用し比較し てみる。日本企業に関しては Wakasugi et al. (2008)、韓国企業に関しては Hahn (2004)、中国 企業に関しては、Upward, Wang and Zheng (2010)を基に議論する。 Wakasugi et al. (2008) は、Mayer and Ottaviano (2008) のヨーロッパ企業に関する分析と 同様な方法により日本の輸出企業の特徴を分析し、両者を比較している。日本の輸出企業につい ては、輸出額がトップ 10%の企業によって全企業の輸出の 90%以上が占められているが、これ はヨーロッパ企業に関する数値と類似している(第 4 節の図表 22 も参照)。また各産業における 輸出企業は図表2の通り、様々な指標でみて企業のパフォーマンスが高い。輸出企業の TFP は 2005 年時点において 40%弱高く、産業別にみると、食品産業が 1.45、アパレル産業が 1.53 と特 に高い値になっている。ただ、Wakasugi et al. (2008) は、欧州企業に比べて、日本の場合は、 輸出市場に参加できる企業と非輸出企業との間で、TFP レベルの差は小さい。 図表2 日本製造業の輸出プレミアム 雇用者数 付加価値 賃金 資本集約度 高スキル比率 TFP 1998 年 3.53 4.43 1.20 1.24 1.40 1.16 2005 年 2.69 4.69 1.25 1.31 1.65 1.38 出所)Wakasugi et al. (2008)。表の数値は非輸出企業に対する輸出企業の比として各変数のプレミアムを示す。 Hahn (2004)においても、韓国の製造業の輸出プレミアムを求めている。図表 2 の日本のケー スとは年が異なるが、1990 年と 1998 年について見ると図表3の通りである。 図表3 韓国製造業の輸出プレミアム 雇用者数 賃金 資本労働比率 非生産労働者比率 TFP 1990 年 2.23 1.12 1.32 1.16 1.05 1998 年 2.02 1.19 1.57 1.16 1.12 出所)Hahn (2004)に基づいて筆者が作成。表の数値は非輸出企業に対する輸出企業の比として各変数のプレミ アムを示す。 Hahn (2004)によれば、韓国の輸出事業所は、1998 年時点において全事業所の 14.8%である。 4 2 輸出依存型の韓国経済の特徴を反映して、出荷額に占める輸出額の単純平均は、1998 年時点で 45%と高い。1990~1998 年に韓国の輸出は急増するが、その輸出の大半は新規参入企業よりも既 存の輸出企業によるもの(Intensive Margin)と分析している。また、図表 3 のとおり、韓国の 事業所は、日本企業と同様、輸出していない事業所に比べて、雇用者数も多く、生産性が高いこ とがわかる。 Upward, Wang and Zheng (2010)は、中国の工業統計3と通関統計を企業レベルでマッチングし たデータを使用して、2000 年から 2007 年の中国の輸出の大幅増加の要因を分析している。中国 工業統計表のデータ・クリーニングをすると、2000 年時点においては 11 万 3500 社のうち、その 約 25%である2万 7864 社が輸出企業、2007 年時点においては 27 万 1705 社のうち、約 23%にあ たる6万 3648 社が輸出企業だとしている。この間、これらの企業の輸出額は実質(2000 年基準) で1兆 1185 億元から5兆 8259 億元へ5倍弱へと急増している。この輸出の増加を Intensive Margin(既存の輸出企業が輸出額を増加させた分)と Extensive Margin(新規に輸出を開始した 企業による輸出額増加分と輸出を停止した企業の輸出額減少分との合計)に分解したのが図表4 である。 図表4 中国製造業の輸出の Intensive Margin と Extensive Margin 全サンプル バランス・パネル 輸出額(2000 年、10 億元、実質) 1118.5 239.8 輸出額(2007 年、10 億元、実質) 5825.8 837.0 変化(2007 年/2000 年) 4.707 5.972 Intensive Margin 50% 95.6% Extensive Margin 50% 4.4% 出所)Upward, Wang and Zheng (2010) 図表 4 に見られるとおり、中国の貿易においては、Extensive Margin の占める割合が 50%と 高い。当該論文にも指摘されているように Bernard and Jensen (2004)で 1987 から 1992 年にお ける Extensive Margin は貿易増加の 13%であり、中国の 50%に比して小さい値になっている。 バランス・パネルデータでは、Extensive Margin は小さくなっているが、両者の差は、既存企業 が輸出に参加してくるよりも、新規企業が輸出に参加してくることを示唆している。4当該論文 では、このような Extensive Margin、Intensive Margin を企業のタイプ(民間企業、国有企業、 香港・澳門・台湾企業、外資系企業) 、地域(沿岸部、内陸部)、製造業産業別(27 産業) 、技術 レベル(教育、技術、コンピューター、R&D 集約度、雇用訓練、新製品の割合)でそれぞれ分析 している。分類の仕方により、Extensive Margin、Intensive Margin の大きさは異なるが、概し 韓国の事業所データは、従業者数 5 人以上の全ての鉱工業の工場が含まれている。Wakasugi et al. (2008) の日本 の分析は従業者数 50 人以上の企業レベルのデータであるため、特に、輸出企業(事業所)の割合について、日韓の単 純比較はできないことに注意を要する。 3 当該論文で使用しているデータは、本論文で使用するのと同じものである。 4 ただし、第 3 節で述べるように、ここで用いている中国の企業レベルデータの調査対象は、ある一定の売上高以上の 企業である。輸出開始によって売上規模を拡大し、調査対象に入ってくる企業などもここに含まれることに注意を要 する。 2 5 て Extensive Margin が大きい。民間企業と外資系企業との間で、Extensive Margin と Intensive Margin の割合はあまり大きな差はないが、内陸部よりも沿岸部の方が Extensive Margin が大き いといった差はみられる。 2.2 輸出企業と生産性 輸出と生産性との関係に関しては、企業が輸出すること自体、国内で販売している時に比べ て海外でのマーケティングや輸送費等がかかるため、国内のみでの販売活動に比べて費用負担等 が大きく、非輸出企業に比べて生産性が高いものと考えられる。そこで輸出企業の割合が増加す ることは、経済全体の生産性向上に寄与することが期待できる。また輸出することによって更に 生産性が高まる"Learning by Exporting"(輸出による学習効果)を期待することも出来る。こ の"Learning by Exporting"効果は、国際的な流通やライバル企業からの知識のスピルオーバー 効果に加えて、そもそも海外での厳しい市場競争を生き抜くためには、自分自身の生産性を高め ないと国際市場で生き残れないことから生じるものと考えられる。 輸出と生産性の関係について、企業レベルのデータを使用した研究の嚆矢となったのが、 Bernard and Jensen(1999, 2004)である。これらの研究では Exporter Premia (輸出企業プレミ アム)を次のような式で計測している。 ln LPit Export it Controlit i it (1) LPit は、i 企業のt期における労働生産性であり、Exportit は、 i 企業のt期における輸出企業 ダミー、Controlit は、i 企業のt期における産業ダミー、地域ダミー、従業員数で測られる企業 規模ダミー、年ダミーといったコントロール変数である。λi は企業の固定効果、εit は誤差項で ある。 このようにして測られた輸出企業プレミアムは、企業規模などをコントロールした上で輸出企 業の生産性が非輸出企業にくらべて何%高いかを表すものである。ただし、式(1)を単純に最 小 2 乗法によって推計することでは、生産性が高い企業が輸出する傾向にあることと、輸出企業 が learning by exporting によって生産性を向上させることの双方向の因果関係を分離すること ができないことには注意が必要である。 一方、輸出企業と非輸出企業の生産性成長率の差は次のような式で検証される。ここでは基準 の時点(0期)とt期の間の成長率の差を検証している。 ln LPit ln LPi 0 1 Start it 2 Bothit 3 Stop it Control i 0 it (2) ここで、Start は0期に輸出していなかったが、t期までに輸出を開始した企業、Both は0期も t期も輸出している企業、Stop は0期に輸出していたが、t期には輸出を停止している企業であ る。式で表現すると下記となる。 Startit 1 if ( Exporti 0 0) and ( Exportit 1) Bothit 1 if ( Exporti 0 1) and ( Exportit 1) Stopit 1 if ( Exporti 0 1) and ( Exportit 0) (3) (4) (5) (2)式では、全く輸出していない企業が基準となり、主にβ2が0より大きいかどうかが、輸出 企業の生産性の成長率のプレミアムを示すことになる。また、輸出企業は輸出する前から生産性 が高いかについては、例えば輸出する 3 期前のデータを使用して、次の様な推計式で検証するこ 6 とができる5。 ln LPit 3 Export it Control it 3 i it (6) 4 節では、上記の先行研究を踏まえて、中国企業の輸出プレミアムや経済成長に与えるインパ クトを日本企業と比較して議論する。 3.本論文で使用するデータ 本論文で使用するデータは、中国の工業統計の 2000 年~2007 年における個票データであり、 本節では中国の工業統計について概説する。 3.1.中国の工業統計6 中国の工業関連の統計は、業務統計を中心とする「定期報告制度」と標本調査を中心とする統 計 調 査 制 度 を 2 本 柱 と し て い る ( 併 せ て 「 工 業 統 計 調 査 」( Chinese statistical firm(industrial) surveys)と呼ぶ)7。ここでは、本研究で使用する定期報告制度(国有企業 および規模以上)について概説する。 調査単位は企業中心で、鉱工業以外に分類される一部企業において鉱工業生産が行われる場合 には、事業所(中国では「工業活動単位」と呼ぶ)を対象とする調査が行われる。調査対象とな る産業は、中国における「工業部門」、すなわち、物的生産部門(製品の生産に従事する産業部 門)をカバーするため、製造業だけでなく採掘業や修理業の一部も含まれる。全ての国有企業と 年間売上高 500 万元以上の(米ドルで約 70 万ドル以上、 「規模以上」と呼ぶ)非国有企業に、生 産 活 動 報 告 を 義 務 付 け て い る 。 産 業 分 類 は 、 2002 年 に 制 定 さ れ た 中 国 の 標 準 産 業 分 類 GB/T4754-2002 に準拠し、国際標準産業分類(ISIC)への変換が可能である。 調査票の種類は、「鉱工業企業の生産・販売総額」、「鉱工業企業財務状況」、「鉱工業企業エネ ルギーの購入・使用・在庫」、「主要な生産技術指標」、「主要な生産技術指標」など多数に上る。 この中で「鉱工業企業財務状況」の個票が最も詳細で、企業の資産・負債、減価償却額、利潤分 配、税金など 51 項目について調査を行っており、経営形態の別(国有企業、集団所有制企業、 外資系企業、香港・マカオ・台湾系企業、私営企業等の別)もわかる。 産出関連の指標(生産・販売(出荷)・在庫増減等)については、計画経済体制下における生 産計画の必要性を反映して、金額面と同時に数量面や品質面からも生産活動を詳細に把握する内 容となっている。また輸出に関しても把握しており、この輸出額には企業からの直接の輸出と商 社等を通じた間接の輸出の両方が含まれる。投入関連指標については、原材料投入、エネルギー 投入、固定資本減価償却費、賃金総額、従業員福祉関係費用、販売税金、その他税金といった項 目について調査されており、2005 年以降の調査では中間投入(原材料、エネルギー)調査がより 詳細になっている(北京市の場合)。これらの調査結果をもとに、工業企業収益総額(費用要素 であると同時に、各主体への収益分配でもある)、生産面からの工業付加価値、分配(収入)面 からの工業付加価値を把握できる。 5 6 7 変数名は、先の(1)式や(2)式と同じ。 ここでの説明は、乾・池本・田中(2011)に基づく。 以下の部分は、王・清水(2003)、王・胡(2005)、王・宮川・清水(2006)、Upward, Wang and Zheng (2010) に基づき整理した。 7 各企業には同一の企業番号が付けられており、この企業番号を使うことでパネルデータ化が可 能である。しかし一部の企業は所有構造の変化や買収合併などによって、企業番号だけで存続を 捕捉することが困難である。そのため、企業名、産業コード、また企業の住所などといった情報 を活用してパネルデータ化をする必要がある(Brandt, Van Biesebroeck, and Zhang 2009) 。 3.2 本研究で使用する工業統計の特徴 本研究では、上記の定期報告制度に基づく中国の工業統計をパネル化した年次データを使用す る。データの期間は、2000 年~2007 年の 8 年間で、各年の企業数は図表 5 の通りである。この 8 年間で 16 万 2885 社から 33 万 6768 社へと2倍強に社数が増加している8。 なお、この工業統計データを集計したマクロデータと中国国家統計局によるマクロデータ(National Bureau of Statistics of China, various)を比較してみると、製造業における企業数はほとんどの 年について工業統計データと統計局データで同じであった。したがって、統計局の集計データが工業 統計を基にしていることが分かる。 図表5 定期報告制度に基づく中国の工業統計の企業数 年 企業数 2000 162,885 2001 171,256 2002 181,557 2003 196,222 2004 276,474 2005 271,835 2006 301,961 2007 336,768 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 ただし、前節の解説どおり、国営企業が悉皆調査であるのに対してその他の民間企業が売上規模に よる裾切り調査であること、従業員規模の小さい企業のデータの信頼性に欠けること等を考慮して、 以下の企業は全ての年についてサンプルから削除した。 1. 売上高が負。 2. 売上高が輸出額よりも小さい。 3. 輸出額が負。 4. 固定資産簿価が負。 5. 従業員数が 10 人未満。 6. 売上高が 500 万元未満。 企業数の増加の一部は、規模の下限が売上高 500?万元以上と固定化されているため、インフレ等により調査対象 が拡大した要因も含む。 8 8 このように整理した結果、本論文で使用するデータの記述統計は図表 6 のようになる。 データを整理した結果、2007 年時点において企業数は図表6のオリジナルの企業数に比して 20% 弱減少している。輸出企業数は、2007 年時点において 5 万 6 千社と全企業数の約 20%を占める。全 ての年において、輸出企業の占める割合は、全企業の 20%前後と大きく変化していない。売上高の拡 大は目覚ましく、2000 年から 2007 年において 5.5 倍に拡張している。同期間における輸出額の伸長 はこの売上高の成長を越えており、6.4 倍に拡大した。これに比して従業員数の伸びは限定的であり、 同期間において 1.6 倍弱の拡大に留まる。 図表6 本論文で使用する中国の工業統計の記述統計 2000 102395 2001 112461 2002 125060 2003 142617 2004 216338 2005 216171 2006 241400 2007 273685 輸出 企業数 21860 23248 26597 31042 52873 50485 54750 56438 Total 1430127 317293 企業数 売上高 (兆元) 5.8 6.4 7.8 10.2 13.8 19.7 24.2 32.0 従業員 (百万人) 42.0 40.1 42.5 45.1 53.7 56.1 60.3 66.4 輸出額 (兆元) 0.8 0.9 1.1 1.6 2.6 3.1 4.1 5.1 119.9 406.1 19.3 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 4.グローバル化が中国企業に与えるインパクト 日本や韓国企業の既存の研究との比較を可能にするため、中国の産業分類を EUROSTAT の CPA 産業分類9の 23 産業に再分類したうえで、既存研究の多くで使用されており、また中国の工業統 計からも推計可能な Olley-Pakes(1996)の方法に基づいて TFP を計測する。このような指標を用 いて以下の点について検討する。 4.1 中国企業の売上増加、雇用増加に占める輸出企業の寄与度 ここでは(7)式に従って、中国企業の売上または雇用の増加を既存企業、退出企業、新規企 業に分解し、それぞれの項(既存、退出、新規)に関して、更に輸出企業、非輸出企業に分解 した。図表7は 2000 年から 2007 年の全期間、図表8はこれを 2000 年から 2003 年、2003 年か ら 2007 年に分解したものである。 x t x f N it xit 1 xit f E (7) f C ここで、Nは新規に参入した企業の集合、Eは退出した企業の集合、そして C は分析期間にお いて存続した企業の集合を示す。上の変数xは、売上高または雇用者数を表す。ただし、このデ ータは 3.1 節で述べたようにある一定の規模以上の企業のみを対象としているため、 「新規参入」 9 附表1参照。 9 とは新たに設立された企業に加えて、すでに存在していたがデータには含まれていなかった小企 業が閾値を超えたために初めてデータに含まれた場合も含まれる。同様に、「新規に輸出市場に 参入」とは、これまでデータに含まれていなかった小規模の輸出企業が初めてデータに含まれた 場合が含まれる。 図表 7 にみられる通り、中国企業の売上高や雇用の成長率に関して新規企業の貢献度が大きい。 新規企業のなかで売上や雇用の成長率に貢献しているのは、非輸出企業である。一方、既存企業 においては、輸出企業、新規輸出企業が売上高、雇用の成長率に対して重要な貢献をしている。 図表 8 で、2000 年から 2003 年と 2003 年から 2007 年を比較すると、後者の期間において売上、 雇用の成長率が加速している。後者の期間では売上の成長においては既存企業、特に輸出企業、 輸出開始企業の貢献度が大きい。 図表7 中国企業の売上、雇用成長率の分解(2000 年から 2007 年) 企業数 2000 2007 102395 273685 2000-2007 年の増加率 (年率換算%) 売上高 従業員数 2000-2007 全体 既存企業 期間中、輸出を継続 期間中に輸出に参入 期間中に輸出から退出 非輸出企業 新規参入企業 輸出企業 非輸出企業 退出企業 輸出企業 非輸出企業 39233 8099 3091 2410 19940 27.7 6.8 7.9 0.3 3.7 1.6 0.2 2.4 234452 44977 169903 63162 11328 41406 22.5 0.3 0.2 -0.1 -0.1 12.4 8.4 14.3 -2.7 5.4 8.1 -5.9 -1.2 -1.5 -2.4 -3.6 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 4.2 日本企業の売上増加、雇用増加に占める輸出企業の寄与度 日本企業の成長に関して、上記の 4.1 と同様な分解を行った。日本企業のデータとしては、 経済産業省の「企業活動基本調査」を使用した。10当該調査が利用できる 1994 年から 2007 年に ついて、1994 年から 2000 年、2000 年から 2007 年の期間に分割して売上高、雇用者数の伸び率 をみると前者の期間は日本経済の停滞期であるため、売上高の伸び率は停滞、雇用者数は大きく 減少している(図表 9) 。2000 年から 2007 年の期間の売上高は大きく改善しているのに対して、 雇用者数は微減を続けている。当該期間における売上高の成長率の上昇には、既存企業の輸出企 経済産業省企業活動基本調査は、企業を対象とする工業統計調査丙調査を改編する形で 1991 年に始まり、次の 1994 年調査以降毎年調査が行われている。調査は企業単位で、従業員 50 人以上で資本金 3000 万円以上の企業が対象であ る。 10 10 業、新規企業の輸出開始企業が大きく貢献しているものの、雇用の成長率にはかならずしも大き く貢献していないことが、全体の雇用成長率の伸び悩みの要因である。特に既存の輸出企業にお いて、その売り赤成長率への貢献の大きさに比べて、雇用成長率への貢献はかなり小さいといえ るだろう。図表 10 は、2000 年から 2007 年の期間を上記中国企業の分析と同様、2000 年から 2003 年、2003 年から 2007 年に期間を分割してみると、後者の期間において売上高の成長率が年率6% と高くなっており、この売上高の増加に既存の輸出企業が大きく寄与している。ただ、中国の輸 出企業とは異なり、雇用成長率への貢献は大きくない。 図表8 中国企業の売上、雇用成長率の分解(2000 年から 2003 年、2003 年から 2007 年) 企業数 期初 期末 102395 142617 期間内の増加率 (年率換算%) 売上高 従業員数 2000-2003 全体 既存企業 期間中、輸出を継続 期間中に輸出に参入 期間中に輸出から退出 非輸出企業 新規参入企業 輸出企業 非輸出企業 退出企業 輸出企業 非輸出企業 62570 11883 3061 2614 33427 20.9 2.4 9.7 -1.1 5.6 1.1 0.1 3.2 80047 15675 56882 39825 6931 26747 17.9 0 0.2 -0.3 -0.4 13.2 7.4 10.8 -6.6 5.4 9.2 -9.7 -2.7 -4.0 -3.7 -6.1 2003-2007 全体 既存企業 期間中、輸出を継続 期間中に輸出に参入 期間中に輸出から退出 非輸出企業 新規参入企業 輸出企業 非輸出企業 退出企業 輸出企業 非輸出企業 142617 273685 88835 17718 5586 4277 51231 10.1 17.0 2.0 7.4 1.6 0.7 6.9 184850 32635 135963 53782 9002 37356 33.1 20.1 14.4 6.7 13.5 -4.0 11 5.7 9.9 -6.3 -1.8 -2.3 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 1.0 0.4 -0.1 0.4 -2.4 -4.1 図表9 日本企業の売上、雇用成長率の分解(1994 年から 2000 年、2000 年から 2007 年) 企業数 期初 期末 11,656 11,478 期間内の増加率 (年率換算%) 売上高 従業員数 1994-2000 全体 既存企業 期間中、輸出を継続 期間中に輸出に参入 期間中に輸出から退出 非輸出企業 新規参入企業 輸出企業 非輸出企業 退出企業 輸出企業 非輸出企業 8,149 1,961 653 363 5,172 3,329 779 2,550 3,507 712 2,795 1.80 1.83 (1.20) (0.20) (0.10) (0.32) 2.19 (1.08) (1.12) -2.22 (-0.99) (-1.23) -1.70 -1.43 (-0.95) (-0.04) (-0.12) (-0.32) 2.34 (0.89) (1.44) -2.61 (-0.96) (-1.65) 2000-2007 全体 11,478 既存企業 期間中、輸出を継続 期間中に輸出に参入 期間中に輸出から退出 非輸出企業 新規参入企業 輸出企業 非輸出企業 退出企業 輸出企業 非輸出企業 11,661 8,224 2,231 668 414 4,911 3,437 1,023 2,414 3,254 748 2,506 4.31 3.52 (2.63) (0.23) (0.08) (0.57) 2.97 (1.65) (1.32) -2.17 (-1.11) (-1.07) -0.01 -0.21 (-0.23) (0.07) (-0.03) (-0.02) 2.74 (1.26) (1.48) -2.54 (-1.10) (-1.44) 出所)日本の企業活動基本調査に基づいて、筆者作成。 図表 10 日本企業の売上、雇用成長率の分解(2000 年から 2003 年、2003 年から 2007 年) 企業数 期初 期末 11,478 10,815 期間内の増加率 (年率換算%) 売上高 従業員数 2000-2003 全体 12 1.29 -2.56 既存企業 期間中、輸出を継続 期間中に輸出に参入 期間中に輸出から退出 非輸出企業 新規参入企業 輸出企業 非輸出企業 退出企業 輸出企業 非輸出企業 8,833 2,490 428 277 5,638 1,982 572 1,410 2,645 626 2,019 1.02 (0.58) (0.16) (-0.02) (0.30) 4.15 (2.69) (1.46) -3.88 (-1.78) (-2.10) -1.82 (-1.30) (0.03) (-0.08) (-0.46) 3.96 (2.06) (1.91) -4.70 (-1.91) (-2.79) 2003-2007 全体 10,815 既存企業 期間中、輸出を継続 期間中に輸出に参入 期間中に輸出から退出 非輸出企業 新規参入企業 輸出企業 非輸出企業 退出企業 輸出企業 非輸出企業 11,661 8,887 2,619 504 344 5,420 2,774 799 1,975 1,928 527 1,401 6.33 5.55 (4.43) (0.10) (0.10) (0.91) 3.53 (1.80) (1.73) -2.75 (-1.82) (-0.93) 2.06 1.02 (0.65) (0.08) (-0.01) (0.30) 4.03 (1.62) (2.40) -2.99 (-1.53) (-1.46) 出所)日本の企業活動基本調査に基づいて、筆者作成。 4.3 中国企業における輸出企業の位置づけ 中国の製造業企業全体に占める輸出企業数のシェア、売上全体に占める輸出企業のシェア、そ して輸出企業に関して輸出比率の推移をみたのが図表 11、これを産業別にみたのが図表 12 であ る。先にも議論したとおり、中国の製造業全企業に占める輸出企業数の比率は 20%程度で安定 している(図表 11)。ただ、売上の伸び率は輸出企業の方が高いものの、非輸出企業の売上も順 調に伸びているため、結果的に、製造業全企業の売上に占める輸出企業の売上の比率は 2000 年 の 54.5%から 46.7%に低下している。産業別にみると、事務用機械・コンピューター産業(30 番) 、情報通信機器産業(32 番)は産業全体の売上高に占める輸出企業の売上高の比率がそれぞ れ 86.9%、82.2%と著しく高くなっている(図表 12)。 一方、輸出企業の売上に占める輸出比率は、49~55%の範囲で安定している(図表 11)。産業 別に輸出比率をみるとアパレル産業(18 番) 、皮革産業(19 番)、家具製造業(37 番)の輸出比 率が 70%を超えて高いものとなっている(図表 12)。後述する日本の輸出比率(図表 15、16) と比べるとかなり高い数値であるが、Hahn (2004)による韓国製造業事業所の 1990 年代の数値 とは比較的近い数値である。日本の輸出企業に比べて、中国・韓国の輸出企業は輸出に依存す る度合いが格段に高いことを示唆している。 13 また、中国の輸出において外資企業が大きな役割を占めていることはすでに図表1で見た通り であるが、本論文のデータでもそれは裏づけられる(図表 13) 。外資企業(50%以上の外資比率) は企業数に占める割合では 2000 年で 5.1%、2007 年で 7.2%であるが、輸出額に占める割合では それぞれ 28.5%、43.2%となっている。しかも、外資企業の中でも外資比率が 90%以上の企業 の割合が多く、2007 年では 34.8%となっている。つまり、ほぼ完全に外資の企業が輸出の 3 分 の 1 を担っている。 図表 14 と図表 15 は、輸出比率の分布をみたものであるが、国内企業は輸出比率が 10%以下 の企業と 90%以上の企業の割合が高く二極化している。ただ、2007 年においては、90%以上の 企業の割合が高まっている。外資系企業においては、輸出比率が 90%以上の企業の割合が最も 高い。国内企業、外資系企業ともに輸出比率が 90%以上の企業の割合が最も高いのは、海外か らの生産委託を受注した企業(直接投資関連のものを含め)が多いためであろう。 図表 11 中国の輸出企業のシェア(全産業) 輸出企業の シェア (%) 売上高 (兆元) 売上高にお 輸出企業の 輸出企業における ける輸出企 輸出/売上比の 売上高 業のシェア 平均値 (%) (兆元) (%) 3.1 54.5 49.5 year 企業数 輸出 企業数 2000 102395 21860 21.3 5.8 2001 112461 23248 20.7 6.4 3.4 52.6 49.2 2002 125060 26597 21.3 7.8 4.1 52.5 48.8 2003 142617 31042 21.8 10.2 5.5 53.8 50.5 2004 216338 52873 24.4 13.8 7.7 55.9 54.9 2005 216171 50485 23.4 19.7 9.5 48.4 49.1 2006 241400 54750 22.7 24.2 11.7 48.5 49.0 2007 273685 56438 20.6 32.0 14.9 46.7 53.4 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 図表 12 中国の輸出企業のシェア(産業別) 輸出企業の 売上高における 輸出企業 売上高 輸出企業の 売上高 のシェア (兆元) シェア (%) (%) (兆元) 輸出企業における 輸出/売上比の 平均値 (%) 産業 コード 企業数 輸出 企業数 15 142,446 19,351 13.6 11.0 3.1 27.7 43.9 16 1,834 291 15.9 1.3 0.8 62.7 5.8 17 127,809 36,673 28.7 7.2 3.6 50.0 53.1 14 18 59,050 25,929 43.9 2.9 1.3 44.5 74.1 19 29,992 12,960 43.2 1.4 0.8 60.1 72.8 20 29,934 4,712 15.7 1.0 0.3 28.7 60.0 21 47,591 4,603 9.7 3.2 0.8 24.9 37.4 22 27,401 2,453 9.0 1.1 0.2 16.0 39.3 23 10,330 671 6.5 4.4 2.1 46.8 20.2 24 149,760 26,387 17.6 12.9 5.8 44.9 32.7 25 85,313 19,765 23.2 4.7 1.9 39.9 51.5 26 128,560 14,144 11.0 7.5 1.9 25.6 42.6 27 66,611 7,215 10.8 14.2 7.5 52.9 29.6 28 77,711 17,931 23.1 3.4 1.3 39.4 57.3 29 180,254 36,754 20.4 9.4 4.9 51.7 36.3 30 7,352 3,425 46.6 4.4 3.8 86.9 65.3 31 90,591 22,730 25.1 7.3 4.2 57.4 50.4 32 44,196 18,481 41.8 10.2 8.4 82.2 55.3 33 18,634 5,723 30.7 0.9 0.5 52.8 52.1 34 44,863 7,504 16.7 6.7 3.8 56.3 33.9 35 25,826 5,526 21.4 2.8 1.9 67.3 38.1 36 55,013 24,065 43.7 2.2 1.4 63.1 71.5 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 図表 13 外資企業のシェア(%) 企業数 売上高 輸出額 外資比率 50%以上 外資比率 90%以上 外資比率 50%以上 外資比率 90%以上 外資比率 50%以上 外資比率 90%以上 2000 5.1 2.8 12.4 5.7 28.5 17.9 2001 5.3 3.2 13.9 6.7 32.0 20.1 2002 5.6 3.7 14.5 8.0 36.8 25.8 2003 5.8 4.0 15.8 9.1 35.4 25.1 2004 6.2 4.7 15.7 10.1 37.0 27.6 2005 6.8 5.3 16.0 10.9 39.9 29.6 2006 7.0 5.5 17.3 11.7 43.0 33.7 2007 7.2 5.8 18.1 13.2 43.2 34.8 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 15 図表 14 輸出企業における輸出比率(%)の分布(2000 年) 2500 Foreign-owned 外資企業 0 企業数 Number of firms 5000 Domestic 地場企業 0 Graphs by FDI 50 100 0 50 100 Share of exports in sales (%) 売り上げに占める輸出の比率(%) 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 図表 15 輸出企業における輸出比率(%)の分布(2007 年) 5000 1.0e+04 Foreign-owned 外資企業 0 企業数 Number of firms 1.5e+04 Domestic 地場企業 0 Graphs by FDI 50 100 0 Share of exports in sales (%) 売り上げに占める輸出の比率(%) 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 16 50 100 4.4 日本企業における輸出企業の位置づけ 日本においては、全企業における輸出企業の数の割合は増加している。1994 年に 26%であっ たのが、2007 年に 34%とこの期間において 8%ポイントの増加幅となっている(図表 16)11。こ れに伴い、売上高に占めるシェアも実質ベースで 66%から 69%と増加している。輸出比率の平 均も 1994 年の 11%から 2007 年の 15%へと増加している。中国と異なり、1994 年から 2007 年の 期間、日本企業において輸出企業の果す役割は増大し、また輸出企業はその売上の輸出依存度を 高めた。ただ、日本企業の輸出比率は中国企業に比べて非常に低い。産業別に輸出比率をみると その他の輸送用機械器具(35 番)、事務用機械及びコンピューター(30 番)、情報通信機械器具 (32 番)の輸出比率が 20%を超えて高いものとなっている(図表 17)。 また、図表 18 に、輸出比率の分布を示したが、輸出比率が 10%以下の企業が過半数を占めて おり、中国企業の輸出比率の分布とは大きく異なる。1994 年から時系列でみると、全体的に少し ずつ輸出比率が高い方へ分布がシフトしているが、依然として日本の輸出企業のほとんどは売上 のごく一部を輸出しているにすぎない。 図表 16 日本の輸出企業のシェア(全産業) 企業数 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 All years 1994-2000 2000-2007 全企業 輸出企業 (%) 11,656 3,036 (26.0) 12,210 3,399 (27.8) 12,053 3,460 (28.7) 11,963 3,168 (26.5) 11,935 3,190 (26.7) 11,761 3,291 (28.0) 11,478 3,393 (29.6) 11,478 3,504 (30.5) 11,225 3,532 (31.5) 10,815 3,490 (32.3) 11,502 3,786 (32.9) 11,315 3,804 (33.6) 11,161 3,769 (33.8) 11,661 3,922 (33.6) 162,213 48,744 (30.0) 83,056 22,937 (27.6) 90,635 29,200 (32.2) 全企業 229,288 239,377 253,312 247,339 230,492 231,970 241,910 227,496 226,858 236,181 256,658 268,415 284,718 306,694 3,480,708 1,673,688 2,048,929 輸出企業における 売上高(10億円) 名目 実質(2000年価格) 輸出/売上比の 平均値 (%) 輸出企業 (%) 全企業 輸出企業 (%) 151,517 (66.1) 218,327 143,439 (65.7) 10.9 164,289 (68.6) 230,564 157,895 (68.5) 11.8 175,304 (69.2) 243,299 167,477 (68.8) 12.3 156,554 (63.3) 234,143 147,024 (62.8) 10.9 148,786 (64.6) 220,020 140,823 (64.0) 11.2 146,013 (62.9) 229,286 143,785 (62.7) 11.1 158,525 (65.5) 241,910 158,525 (65.5) 11.7 150,457 (66.1) 231,438 153,168 (66.2) 12.1 153,516 (67.7) 235,312 159,630 (67.8) 12.6 162,265 (68.7) 251,276 174,959 (69.6) 12.9 174,016 (67.8) 272,979 189,609 (69.5) 13.2 180,847 (67.4) 281,285 194,679 (69.2) 13.4 194,449 (68.3) 292,010 203,442 (69.7) 13.8 206,955 (67.5) 314,923 217,189 (69.0) 14.5 2,323,493 (66.8) 3,496,772 2,351,642 (67.3) 12.4 1,100,989 (65.8) 1,617,549 1,058,967 (65.5) 11.5 1,381,029 (67.4) 2,121,132 1,451,200 (68.4) 13.1 出所)日本の企業活動基本調査に基づいて、筆者作成。 日本の『企業活動基本調査』では、各企業の直接輸出のみを調査しているため、ここでの輸出企業とは直接輸出を 行っている企業のみが含まれる。一方、中国の工業統計では間接輸出も含む輸出額を調査しているため、中国の輸出 企業には直接輸出はしていないが、間接輸出のみを行っている企業も含まれる。日本と中国で、輸出企業の定義が異 なっているため、日中比較には注意を要する。また、先述のとおり、日本の『企業活動基本調査』は、従業者数が 50 人以上または資本金 3000 万円以上の企業を対象とした調査である。 11 17 図表 17 日本の輸出企業のシェア(産業別) 期間 1994-2007 15t16 17t19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 企業数 食料品・飲料・たばこ 繊維工業・繊維製品 木材・木製品 パルプ・紙・紙加工品 印刷・同関連業 コークス・石油精製・核燃料 化学工業・化学製品 ゴム製品・プラスチック製品 その他の非金属鉱物 一次金属 金属製品(機械器具を除く) 一般機械器具 事務用機器及びコンピューター 電気機械器具 情報通信機械器具 精密機械器具 自動車等 その他の輸送用機械器具 家具製造業(他に分類されない製造業) 全産業 計 全企業 輸出企業 19,388 1,798 7,801 1,131 1,850 119 5,174 595 7,308 477 688 335 12,203 5,958 10,306 2,921 6,730 1,360 9,195 2,584 12,126 2,944 19,761 9,617 2,463 1,094 9,748 3,648 12,133 4,860 4,449 2,646 11,724 3,598 2,921 1,058 6,245 2,001 162,213 48,744 (%) 全企業 (9.3) 361,656 (14.5) 41,612 (6.4) 15,791 (11.5) 73,639 (6.5) 67,439 (48.7) 173,146 (48.8) 357,095 (28.3) 114,947 (20.2) 69,153 (28.1) 253,906 (24.3) 104,148 (48.7) 309,480 (44.4) 165,948 (37.4) 168,435 (40.1) 396,287 (59.5) 44,822 (30.7) 635,925 (36.2) 51,711 (32.0) 75,570 (30.0) 3,480,708 名目 輸出企業 120,871 17,913 2,714 23,553 33,564 139,429 274,723 67,417 37,798 126,678 48,367 221,559 142,035 130,263 293,365 36,341 517,480 41,632 47,792 2,323,493 売上高 (10億円) 輸出企業における 輸出/売上比の 実質(2000年価格) 平均値 (%) (%) (%) 全企業 輸出企業 (33.4) 366,034 123,100 (33.6) 3.1 (43.0) 41,461 17,870 (43.1) 5.5 (17.2) 15,367 2,621 (17.1) 3.0 (32.0) 73,741 23,613 (32.0) 6.5 (49.8) 68,760 34,250 (49.8) 3.6 (80.5) 155,257 123,263 (79.4) 4.9 (76.9) 349,772 268,526 (76.8) 8.7 (58.7) 114,517 67,333 (58.8) 7.8 (54.7) 68,504 37,429 (54.6) 9.8 (49.9) 216,162 110,666 (51.2) 8.0 (46.4) 99,455 46,375 (46.6) 7.9 (71.6) 310,981 222,326 (71.5) 15.4 (85.6) 203,518 173,156 (85.1) 20.0 (77.3) 174,879 136,063 (77.8) 12.8 (74.0) 459,795 345,567 (75.2) 21.0 (81.1) 45,183 36,686 (81.2) 17.4 (81.4) 607,781 494,660 (81.4) 10.1 (80.5) 50,114 40,327 (80.5) 27.5 (63.2) 75,491 47,812 (63.3) 11.3 (66.8) 3,496,772 2,351,642 (67.3) 12.4 出所)日本の企業活動基本調査に基づいて、筆者作成。 日本の輸出企業における輸出比率(%)の分布(1994 年、2000 年、2007 年) 1994 0 2000 0 50 100 1000 2000 3000 2007 0 企業数 Number of firms 1000 2000 3000 図表 18 0 50 100 Share of exports in sales (%) Graphs by year 売り上げに占める輸出の比率(%) 出所)日本の企業活動基本調査に基づいて、筆者作成。 4.5 中国企業の輸出の Extensive Margin と Intensive Margin の分解 Upward, Wang and Zheng (2010)と同様、 (8)式を使用して、中国の輸出を Extensive Margin と Intensive Margin に分解してみたのが、図表 19、図表 20 である。図表 19 には、各期間にお ける総輸出額の変化を示し、さらに、その変化を新規輸出開始企業の輸出増加分と輸出停止企業 の輸出減少分(Extensive Margin) 、そして輸出継続企業の輸出増加分(Intensive Margin)に 分解している。さらに、各カテゴリーについて、国内企業と外資系企業に分けて、それぞれの増 加・減少分を示している。そして、図表 20 は、それぞれの貢献分を百分率で表したもの(寄与 18 率)である。ここで、輸出停止企業の輸出減少による寄与率は、マイナスの寄与であることに注 意を要する。これらの表から新規参入企業の役割が非常に大きいことがわかる。特に、2000-2003 年には国内企業の輸出への新規参入が外資系企業に比して、顕著であったが、同時期には国内企 業の輸出からの撤退による輸出の縮小の規模も大きかった。外資系企業では、国内企業にくらべ ると Extensive Margin と Intensive Margin の差が激しくはなく、国内企業にくらべると外資企業の 輸出への参入が活発でなかったことを示している。 x t xit xit 1 xit iN iE (8) iC 図表 19 中国の輸出企業のダイナミックス(兆元、実質 2000 年価格) 4.24 新規参入による 輸出額の増加 地場 外資 1.91 1.61 退出による 輸出額の減少 地場 外資 0.30 0.06 0.82 1.58 0.76 3.48 0.46 1.29 0.23 1.03 0.19 0.31 0.03 0.08 0.16 0.86 0.13 0.70 0.90 1.15 1.58 2.61 3.07 4.11 0.25 0.44 1.03 0.46 1.04 0.96 0.13 0.20 0.57 0.23 0.23 0.28 0.04 0.08 0.25 0.06 0.35 0.16 0.07 0.07 0.21 0.28 0.14 0.16 0.01 0.01 0.02 0.16 0.07 0.05 0.08 0.15 0.21 0.36 0.42 0.39 0.09 0.10 0.24 0.25 0.26 0.33 期間 期初年の 輸出額 輸出額の 変化分 2000-2007 0.82 2000-2003 2003-2007 2001-2002 2002-2003 2003-2004 2004-2005 2005-2006 2006-2007 既存輸出企業による 輸出額の増加 地場 外資 0.66 0.42 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 図表 20 期間 中国の輸出企業のダイナミックス(比率、%) 新規参入による 輸出額の増加 退出による 輸出額の減少 既存輸出企業による 輸出額の増加 2000-2007 地場 45.1 外資 37.9 地場 7.0 外資 1.5 地場 15.5 外資 10.0 2000-2003 2003-2007 60.2 36.9 29.9 29.6 25.3 8.8 4.0 2.4 21.6 24.6 17.7 20.2 2001-2002 2002-2003 2003-2004 2004-2005 2005-2006 2006-2007 50.8 45.1 55.7 49.9 22.2 29.4 16.2 17.6 23.8 12.5 33.5 17.1 30.0 16.9 20.7 61.0 13.8 16.4 5.2 3.4 2.4 36.0 7.1 5.4 33.0 35.0 20.2 79.0 40.3 40.6 35.2 22.5 23.3 55.6 24.9 34.7 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 19 図表 21 は、2006 年における輸出企業のタイプ別(輸出継続、輸出参入、輸出退出)の輸出額の 分布をみたものである。輸出存続企業の輸出額が最も大きい一方で、輸出退出企業の輸出額は小 さい。輸出退出企業は規模は小さいものの、輸出ブーム等で輸出市場に参入したが、必ずしも競 争力がなく退出したものと推察される。 図表 21 企業タイプ別の輸出額(2006 年)の分布 2005 年に輸出せず、2006 年に輸出した企業 2006 年に輸出したが、 2007 年には輸出しなか った企業 2005-2007 年の 3 年とも輸出した企業 0 .1 Density 確率密度 .2 .3 Incumbents Entrants Leavers 0 5 10 log of 輸出額(対数値)exports 15 20 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 4.6 日本企業の輸出の Extensive Margin と Intensive Margin の分解 図表 22 に、日本企業について、輸出増加を Extensive Margin と Intensive Margin に分解し た結果を示す。日本企業の場合は、中国企業と異なり輸出の拡大は既存企業による輸出の拡大に よってもたらされていることがわかる。輸出額は、各時期の世界経済状況により大きく影響を受 けるため、輸出額は各時期で変化が大きく、Extensive Margin と Intensive Margin も変動が大 きい。しかし、その期間をとっても、日本の輸出増加は Intensive Margin による部分が大きい ことが確認できる。 20 図表 22 日本の輸出企業のダイナミックス(100 万円、実質 2000 年価格) 輸出額の変化分 1994-2000 2000-2007 2000-2003 2003-2007 2006-2007 9,773,987 29,798,703 8,228,499 21,570,204 6,272,974 Extensive margin (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) (100.0) 3,228,643 6,973,413 1,076,793 6,143,599 2,417,601 (33.0) (23.4) (13.1) (28.5) (38.5) Intensive margin 6,545,344 22,825,290 7,151,706 15,426,605 3,855,373 (67.0) (76.6) (86.9) (71.5) (61.5) 出所)日本の企業活動基本調査に基づいて、筆者作成。 4.7 中国企業の規模と輸出のジニ係数 Wakasugi et al. (2008) の日本企業の分析と同様、中国企業の規模と輸出額の関係をみるた め、輸出の集中度や企業間の格差を分析した結果が図表 23~図表 26 である。図表 23 は、横軸 に中国の輸出企業を輸出額の大きい順番に並べ、縦軸には総輸出額に占める各企業のシェアの 累積を示したものである。この図表では、曲線が上に位置するほど、輸出額上位企業への集中 度が高いことを示しており、2000 年から 2007 年にかけて、輸出額上位企業への集中が進んでい ることが分かる。図表 24 は、輸出額の順位が上位 1%、5%、10%までに入る企業が、輸出総額 の何%を占めているかをまとめたものである。この図表からも、中国は日本に比べて輸出額上 位企業の集中度は低いものの、年々その集中度は上昇しており、輸出規模の大きい企業への寡 占的な状況が進行していることが確認できる。また、図表 25 は、輸出額がゼロの企業も含めて、 企業間における輸出額の不平等度を示すジニ係数の推移を表したものである。ジニ係数の値が 1 に近いほど各企業の輸出額の格差が大きいことを表すが、ジニ係数は 0.9 を超えており、輸出 額の格差は非常に大きい。さらに、2000 年から 2007 年までの期間にジニ係数は上昇しており、 ここからも輸出額上位企業への集中が進んでいることが分かる。 たとえば、日本のオートバイ産業においても需要拡大期において参入・退出が盛んで、その後 技術の向上等質的向上に伴い企業数の縮小がみられたことが報告されている(園部・大塚、2004) 。 中国においても技術レベルの低い初期は輸出市場への参入が盛んであるが、技術革新が進むに つれて、技術開発にかかる追加的な固定費用を払える企業は少なく、最終的には一部の企業に 輸出が収斂していくものと推察される。実際、主要産業別のジニ係数の推移をみると(図表 26) 繊維、アパレル産業といった技術レベルの低い産業では収斂が進行中であり、一定の技術が必 要とされる化学、一次金属、機械産業のジニ係数は既に高位安定している。 図表 23 中国の上位輸出企業による輸出額の占有率(対数変換) :2000 年と 2007 年の比較 21 輸出額の累積百分率 輸出企業数の累積百分率 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 図表 24 中国のトップ輸出企業のシェア 上位 1% 上位 5% 上位 10% 中国(2000 年) 31 53 65 中国(2007 年) 49 68 77 62 85 92 42 69 80 日本(2003 年) (Wakasugi et al. 2008) イギリス(2003 年) (Mayer and Ottaviano, 2007) 出所)中国の工業統計や Wakasugi et al. (2008)、Mayer and Ottaviano (2007)に基づいて、筆者作成。 図表 25 輸出額のジニ係数(各年) Gini 0.97 0.96 0.95 0.94 0.93 2000 2001 2002 2003 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 22 2004 2005 2006 2007 図表 26 産業別輸出企業のジニ係数(各年) 1 繊維 Textile (17) Apparel (18) アパレル 0.9 Chemical (24) 化学 Basic metals (27) 一次金属 0.8 事務用機器及び Office machinery and コンピューター computers 30 Communication 情報機器 equipment (32) 0.7 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 4.8 日本企業の規模と輸出のジニ係数 日本企業については、Wakasugi et al. (2008) が輸出企業間の格差や輸出の集中度を分析し ているが、時系列の変化をみるため、本稿でも彼らと同様の方法で分析してみる。まず、上の 図表 23、24 と同様に輸出の集中度をみてみよう。図表 27 より、輸出額上位数社への集中度は 高まってきていることが確認できるが、全体でみると、中国(図表 23)ほど明確な集中度の上 昇は見られない。図表 28 からも、輸出額上位企業への集中度は時系列的にほとんど変化してい ないことが分かる。図表 29 には、中国の図表 25 に対応する、輸出額のジニ係数の推移を示し たが、ジニ係数は若干低下傾向であるものの高位安定している。つまり、日本企業については、 中国企業と比べて、輸出額の不平等度が既に大きいが、不平等度がさらに拡大するような傾向 は見られない。ただし、図表 27 にみられるように、ほんの一握りの企業が輸出を牽引するよう な状況は強まりつつある。一方、中国企業についてはまだ日本企業ほどの不平等度に達してい ないものの、急速に輸出の集中度は高まっている。 図表 27 日本の上位輸出企業による輸出額の占有率(対数変換):1994 年、2000 年、2007 年の 比較 23 100 Cumulative percentage of exports 10 50 輸出額の累積百分率 5 1994 2007 .03 .05 .1 2000 .5 1 5 10 Cumulative percentage of exporters 50 輸出企業数の累積百分率 出所)日本の企業活動基本調査基づいて、筆者作成。 図表 28 日本のトップ輸出企業のシェア 上位1% 1994 2000 2007 60.3 60.7 60.5 上位5% 84.5 85.1 85.1 上位10% 91.5 91.9 92.1 出所)日本の企業活動基本調査に基づいて、筆者作成。 図表 29 日本企業の輸出額のジニ係数(各年) 1 日本 0.99 0.98 0.97 0.96 出所)日本の企業活動基本調査に基づいて、筆者作成。 24 100 4.9 中国の輸出企業の特徴 輸出企業のプレミアムを第 2.2 節の(1)式を最小 2 乗法によって推計することで計測した。 ここで、被説明変数は売上高、雇用、TFP、資本装備率(K/L)である。説明変数として輸出 ダミー、産業×年ダミー、外資系ダミー、香港・澳門・台湾系ダミー、国営企業ダミーを利用 した。第 2.2 節で述べたように、このようにして測られた輸出プレミアムは、生産性が高い企 業が輸出をする傾向にあることと、輸出によって企業が生産性を向上することの双方向の因果 関係を区別せずに、輸出企業が非輸出企業にくらべてどの程度の割合で生産性が高いかを見て いる。 この結果、中国の輸出企業は売上高、雇用者数でみて非輸出企業より大きく、また資本装備率 も高い(図表 30) 。またTFPでみても若干高いものとなっている。ただ、図表 31、32 の輸出 企業のTFP分布にあるように、輸出する外資系企業が特に TFP が高く、地場の輸出企業と非 輸出企業とでは TFP の差はかなり小さいことがわかる。なお、このような傾向は生産性指標と して TFP ではなく、労働生産性を利用しても同じように観察される。 図表 30 中国の輸出企業のプレミアム 売上高 (対数値) 雇用者数 (対数値) TFP (対数値) 資本労働 比率 輸出企業の プレミアム 0.550 0.623 0.026 0.083 (t stat.) (221.89)** (271.41)** (32.49)** (11.80)** No. of observations 1262284 1452981 1256878 1262284 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 図表 31 輸出企業のTFPの分布(2000 年) 25 2 Domestic exporters Foreign-owned exporters Non-exporters 1.5 地場系輸出企業 外資系輸出企業 0 .5 Density 1 確率密度 非輸出企業 0 1 2 3 log of TFP 輸出額(対数値) 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 輸出企業のTFPの分布(2007 年) 1.5 図表 32 Domestic exporters Foreign-owned exporters Non-exporters 1 Density 確率密度 地場系輸出企業 非輸出企業 0 .5 外資系輸出企業 0 1 2 3 log of TFP 輸出額(対数値) 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 次に輸出企業のプレミアムに関して、上記(2)式と同様な形で推計した(図表 33) 。12被説明 ただし、輸出開始企業ダミー、輸出継続企業ダミー、企業規模(雇用者数)は内生性を考慮して1期ラグを取って ある。 12 26 変数はTFPおよびTFP成長率であり、説明変数として輸出開始企業ダミー、輸出継続企業ダ ミー、企業規模(雇用者数)、外資系企業ダミー、香港・澳門・台湾企業ダミー、国有企業ダミ ーを考慮している。 図表 33 Dependent variable 輸出開始ダミー(t‐1) 輸出継続ダミー(t‐1) 雇用者数(対数値、t‐1) 外資系企業ダミー 香港・澳門・台湾企業ダミー 輸出の効果 (1) (2) (3) lnTFPt lnTFPt ‐ lnTFPt‐1 lnTFPt ‐ lnTFPt‐1 OLS OLS GMM 0.0181*** 0.00717*** (0.00114) 0.0448*** (0.00145) (0.00335) 0.0154*** ‐0.0196*** ‐0.00848*** (0.000974) (0.00126) (0.00123) 0.0149*** 0.00585*** (0.000315) (0.000415) 0.0825*** (0.00128) 0.0125*** 0.00252*** (0.000472) 0.00175 ‐0.00417** (0.00164) (0.00201) ‐0.00612*** ‐0.00613*** (0.00127) (0.00163) (0.00175) 国有企業ダミー ‐0.0253*** ‐0.00627*** ‐0.00822*** (0.00147) (0.00193) (0.00245) 1256878 864217 590707 0.279 0.017 0.005 標本数 R2 注: *、**、***は、それぞれ 10、5、1%の有意水準で統計的に有意であることを示す。産業ダミーと年ダミーは含 まれているが、その結果は報告していない。GMM 推計では、輸出開始・継続ダミーと雇用者数は、t-2 年の輸出開始・ 継続ダミー、売上高・TFP・雇用者数の対数値を操作変数とする。 出所)中国の工業統計に基づいて、筆者作成。 図表 33 の(1)によれば、初めて輸出を始めた企業も、もともと輸出していた企業も非輸出企 業にくらべると翌年の TFP が 1.5-1.8%程度高い。しかし、輸出の TFP 成長率に対する効果を 見た(2)および(3)では、輸出を始めた企業はその年から次の年にかけての TFP 成長率が 1-4%程度上昇するが、輸出を続ける企業の成長率は非輸出企業にくらべてむしろ TFP 成長率が 1-2%低い。 (2) (3)の推計では、被説明変数として TFP の対数値の差分を取ることで観察さ れない企業特性をコントロールしていると考えられるので、(1)の結果は観察されない企業特 性と輸出との相関により、輸出の効果を過大評価している可能性がある。したがって、ここでは (1)よりも(2)(3)の結果をより重んじるが、これらの結果は、輸出を始めた企業が当初 はおそらく外国技術を急激に取り込むことで生産性を向上させるが、その後は輸出を続けること では必ずしも生産性を向上させることができないことを示しているかもしれない。ただし、輸出 継続による生産性への効果を計測するには、初期時点のさまざまな企業属性をコントロールした 上で、内生性の問題にも対処しなければならない。(3)の結果は GMM 推計によるもので、内 生性の問題はある程度考慮されているものの、より断定的な結論を得るためには、結果の頑健性 のチェックが欠かせない。 27 4.10 日本の輸出企業の特徴 日本については、輸出企業のパフォーマンスは非輸出企業よりも良好であることが、Wakasugi et al. (2008)他の先行研究によって示されている。本節では、産業と年をダミー変数でコントロールし た上で、輸出企業のパフォーマンスが非輸出企業に比べてどの程度高いかを分析している。図表 34 のとおり、日本の輸出企業も中国の輸出企業同様、規模が大きく、資本装備率が非輸出企業に比して 高い。また TFP、中国企業のケースと同様に、輸出企業は非輸出企業より 3%前後と若干高くなって いる。日本の輸出企業は労働生産性、賃金、非生産労働者比率、研究開発費比率が非輸出企業に比べ て非常に高くなっている。1994~2000 年の期間と、2000 年~2007 年の期間とを比較すると、両期間 で顕著な違いは見られないものの、雇用者数における輸出企業のプレミアムが若干低下したのに対し、 売上高や付加価値における輸出企業のプレミアムは上昇しており、結果的に、生産性における輸出企 業プレミアムも若干高くなっている。このことは、上の図表 9、10 で考察したように、全体の売上高 の伸びに対しては輸出企業の貢献が大きかったものの、雇用者数の伸びに対する貢献は比較的小さか ったことと整合的であるといえるかもしれない。 図表 34 日本の輸出企業のプレミアム 1994-2000 2.76 *** 3.50 *** 3.53 *** 1.19 *** 1.26 *** 1.21 *** 1.17 *** 1.27 *** 1.04 *** 1.03 *** 5.51 *** 雇用者数 売上高 付加価値額 賃金総額 資本労働比率 労働生産性 非生産労働者比率(定義 1) 非生産労働者比率(定義2) TFP (インデックス) TFP (Olley-Pakes) 研究開発費/売上比率 標本数 83,056 2000-2007 2.52 *** 3.65 *** 5.37 *** 1.19 *** 1.20 *** 1.33 *** 1.21 *** 1.32 *** 1.05 *** 1.04 *** 4.69 *** 90,635 2004-2007+ 1.13 1.12 1.10 1.08 *** 1.00 1.10 1.12 *** 1.15 *** 1.03 *** 1.02 ** 2.32 *** 17,043 注) **、***はそれぞれ、 有意水準 5%、1%で有意であることを示す。非生産労働者比率(定義 1)は、本社機能部 門の従業者数の比率を表しており、本社機能部門には、調査・企画部門、情報処理部門、研究開発部門、国際事業部 門、その他の間接業務部門が含まれる。非生産労働者比率(定義 2)は、定義 1 に含まれる部門に加えて、本社以外 の情報処理センターと研究所に属する従業者数の比率を表している。輸出企業のプレミアムは、非輸出企業の値に対 する、輸出企業の値の比として示している。 2004~2007 年の数値は、一度も輸出を経験したことがない企業の値に対する、初めて輸出を開始した企業の値の比 ✝ として示している。 出所)日本の企業活動基本調査に基づいて、筆者作成。 5.おわりに 本研究は、近年の企業レベルの研究の進展を反映して、中国経済のグローバル化の影響を、中 28 国の企業レベルの詳細な統計である工業統計表を使用して 2000 年から 2007 年の期間について検 討した。その際、輸出主導型の経済である韓国、日本の企業に関する既存研究との比較を意識し、 特に輸出企業の特徴という観点を主軸にして分析を行った。その結果、次のような特徴が明らか になった。 1. 外資系企業の役割が大きく、かつその役割は年々増大している(外資系企業の売上高に占め る割合は 2000 年約 3 割、2007 年 4 割超)。 2. 国内企業でも外資系企業でも、輸出比率が 100%に近い企業が多く、これらは加工貿易的な 生産を行っていると考えられる。一方、日本ではほとんどの企業の輸出比率は 10%以下であ り、平均的な輸出比率も 13%程度である。中国では平均的な輸出比率が 50%程度で、日本 のケースと比較して非常に高いが、Hahn (2004)による韓国の 1990 年代の平均輸出比率とは 比較的近い数値である。このことから、日本の輸出企業に比べて、中国・韓国の輸出企業は 輸出に依存する度合いが格段に高いといえる。ただし、Bernard and Jensen (2004)による 米国企業の輸出比率の結果と日本企業のケースとはかなり似通っており、輸出比率に関して は自国経済の規模や経済の発展段階などが重要な決定要因となると考えられる。 3. 輸出への新規参入による輸出の増加(Extensive Margin)が非常に大きい。特に、2000 年から 2003 年において輸出市場における国内企業の活発な参入と退出が見られ、Extensive Margin の比率が 60%に対して、Intensive Margin が比率 22%である。それにくらべると同期間にお いて、外資系企業は Extensive Margin と Intensive Margin の役割の大きさにそれほど差は見ら れない(それぞれの比率が 30%と 22%) 。全体の輸出額増加に対して、Extensive Margin が非 常に大きいことは、Upward, Wang and Zheng (2010)の結果と同様であるが、日本のケース (図表 21)や Bernard and Jensen (2004)の米国についての結果とは大きく異なる。また、 Hahn (2004)の韓国の 1990 年代に関する分析でも、Extensive Margin よりも Intensive Margin の方が重要であったことが示唆されている。中国において、非常に Extensive Margin が高 いことは、中国の輸出企業の技術レベルがまだ成熟していないため、輸出市場への参入を通 じた企業成長と輸出市場からの淘汰のプロセスが活発に行われている、と解釈できるかもし れない。今後、日本や韓国が高度成長を遂げた時期と比較するなどして、中国輸出企業のダ イナミズムと技術レベルの向上や経済成長との関係を解明できるとよいであろう。 4. 新規に輸出を開始する企業が多い一方で、年々、輸出における少数企業への集中度が高まっ ている。日本については、1990 年代半ばから、輸出額上位企業への集中度はほとんど変化が ないが、中国では急速に集中度が上昇している。輸出額についての企業間の格差、不平等度 を示す指標であるジニ係数を比較すると、中国の数値は 2000 年から 2007 年の間に 0.94 未満 から 0.96 を超えるまでに上昇し、日本の約 0.98 という値に近づいてきている。ただし、中 国においても、輸出額に関する企業間格差は既に非常に大きい数値を示しており、輸出がご く少数の企業(The Happy Few)によって担われていることが確認できる。 5. 輸出企業の生産性プレミアムは約 3%で統計的に有意であるが、このプレミアムの多くは外 資企業によるもので、国内企業の輸出企業と非輸出企業との TFP の差はそれほど大きくはな い。また、輸出開始によって一時的に生産性を向上させる傾向は見られるものの、輸出を継 続することによって継続的に生産性を向上させるような学習効果は今のところ認められな い。特に国内企業について、輸出と生産性の関係をより詳細に分析・研究していく必要があ 29 ろう。 6. 3-5 を総合すると、生産性がそれほど高くないにもかかわらず、とりあえず輸出ブームに乗 って参入した国内企業は数多かったが、輸出額の小さな企業が市場から撤退することも多く、 それによって大企業への集中が高まったものと考えられる。 以上、本論文の分析を通じて、中国の輸出企業の特徴が明らかになったが、この分析を踏まえ て、中国経済の今後の成長を考えていく上で、今後とも輸出企業の貢献は重要であると考えられ ることから、①外資系企業から国内企業のスピルオーバー効果の検証、②国内企業の Learning by Exporting 効果の検証、③非生産的な企業の輸出への参入と撤退のメカニズムの解明、特に金融 の果たす役割などについて、さらに研究を進めてく必要がある。 30 参考文献 Ahn, Sanghoon, Kyoji Fukao, and Hyeog Ug Kwon (2004) “The internationalization and performance of Korean and Japanese firms: An empirical analysis based on micro-data,” Seoul Journal of Economics, 17 (4): 439-482. 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OFFICE MACHINERY AND COMPUTERS ELECTRICAL MACHINERY AND APPARATUS N.E.C. RADIO, TELEVISION AND COMMUNICATION EQUIPMENT AND APPARATUS MEDICAL, PRECISION AND OPTICAL INSTRUMENTS; WATCHES AND CLOCKS MOTOR VEHICLES, TRAILERS AND SEMI-TRAILERS OTHER TRANSPORT EQUIPMENT FURNITURE; OTHER MANUFACTURED GOODS N.E.C. SECONDARY RAW MATERIALS 32