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名目短期金利ゼロの下限と金融政策

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名目短期金利ゼロの下限と金融政策
ESRI Discussion Paper Series No.29
名目短期金利ゼロの下限と金融政策
− 金融緩和消極論への批判的検討 −
by
松岡 幹裕
ドイツ証券会社 東京支店
March 2003
Economic and Social Research Institute
Cabinet Office
Tokyo, Japan
ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研
究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究
機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し
て発表しております。
論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見
解を示すものではありません。
名目短期金利ゼロの下限と金融政策
−金融緩和消極論への批判的検討−
by
松岡 幹裕∗
ドイツ証券会社 東京支店
∗
松岡 幹裕 ドイツ証券会社東京支店株式調査部 シニアエコノミスト(e-mail: [email protected])
100-6171 東京都千代田区永田町 2-11-1 山王パークタワー TEL: 03-5156-6768 FAX: 03-5156-6700
内閣府経済社会総合研究所におけるセミナーでは、塩路 悦朗氏(横浜国立大学)との討論および氏からの貴重なコメン
トをいただく機会を得たこと、多数の出席者の方と討論の機会を得たことを感謝いたします。本稿の草稿の段階では、
岡崎 良介(ドイチェ信託銀行)、浜田 宏一(Yale University )、原田 泰(内閣府経済社会総合研究所)の諸氏から多くの
示唆をいただきました。また、安達 協さん(ドイツ証券株式調査部)にはデータの収集、統計処理について多大な協力
をいただきました。本稿は、松岡 幹裕「新しい日銀理論: 金融緩和無効論の批判的検討」(ドイツ証券、2001 年 10 月
17 日)を基に、大幅に加筆修正したものです。本稿は、経済社会総合研究所+浜田宏一編として出版予定の金融政策に
ついての論文集の一部として用意されたものです。本稿で示されている意見は、筆者の個人的見解であり、その誤りは
すべて筆者個人に帰するものです。
目次
要約
1. はじめに
2. 金融緩和消極論への批判的検討
(1) ゼロ金利の下で貨幣と短期国債との代替性は完全である
(2) 不良債権によって銀行貸出チャンネルが疲弊している
(3) ゼロ金利の下で日本経済は「流動性のわな」に陥っており、貨幣需要は無限大に増加する
(4) フィッシャー効果によって実質金利は一定に維持される
(5) インフレは一旦発生すると手におえない(インフレの慣性)
(6) 構造問題による物価低下圧力が存在する
(7) 非正統的な金融政策手段の効果は不確実である
(8) 金利生活者の金利所得の減少を考えると、これ以上低金利を続けるべきではない
(9) ゾンビ企業を駆逐し構造改革を推進するために金利を引き上げるべきだ
(10) 超低金利になったために、銀行の債券保有増大によって金利上昇が銀行収益に与える影響が大き
くなっている
(11) 非伝統的な金融緩和を続けていくと、日銀のバランスシートの劣化が起こり、中央銀行の信認を
毀損する
(12) さらなる金融緩和は中央銀行による国債の直接引受につながり極めてインフレ的である
(13) 物価に影響を与えるのは金融政策ではなく財政政策である
3. 金融政策の望ましい将来の方向について
(1) 第一の思考実験: 国債買切りオペの増額
(2) 第二の思考実験: ヘリコプターマネー
(3) マネタリーベース「伸び率」目標の導入
(4) 購入資産の多様化: デフレの下での資産選択への歪みの是正
(5) インフレターゲットの意義
(6) デフレ終了に伴う混乱とコスト
4. おわりに
参考文献
1
名目短期金利ゼロの下限と金融政策: 金融緩和消極論への批判的検討(要約)
1. 趣旨および背景
名目短期金利がゼロに達した中で、中央銀行や金融市場関係者を中心に、追加的な金融緩和の効果に
対する疑問、副作用に対する懸念(いわゆる金融緩和消極論)が提示される場合が見られる。そこで
本研究では、金融緩和消極論の根拠の頑健さについて、さまざまな側面から批判的に検討してみた。
2. 目的および手法
金融緩和消極論の各側面に対して、実証的な反証を提示することで、批判を試みた。なお、実証分析
のツールとして、多変量自己回帰分析(VAR)、主要先進国におけるパネルデータ分析、共和分分析、
及び歴史的な叙述を用いた。金融政策の役割と物価、経済活動への影響を普遍的、歴史的、長期的な
観点から見る意味で、パネルデータ、共和分、大恐慌時代の分析も適宜採用することとした。
3. 分析結果の主なポイント
名目短期金利がゼロの下でも、金融政策はさまざまな波及経路を維持している。銀行貸出を経由しな
くても金融政策は、実体経済に影響を及ぼすことが可能である。デフレの下で流動性のわなに陥って
いるという議論だけでは、現下の消費の底堅い推移を説明することはできない。デフレ(及びデフレ
期待)は消費を先送りさせるが、一方で、名目金利ゼロの下では、実物資産による価値の保存と金融
資産による価値の保存との境界線が曖昧になり、特定の耐久財や高額品の消費が刺激されている。流
動性金融資産から消費への資産効果が消費を支えていると考えられる。貨幣の保有そのものから効用
は生じず、貨幣需要には臨界点(飽和点)があって、そこまで金融緩和を実施すれば、徐々に実物資
産を含めたポートフォリオ・リバランスが実現するであろう。金融政策が無効であるという議論と、
金融緩和を続けていけば中央銀行の信認の毀損を通じてハイパーインフレになるという議論を、同時
に展開することは自己矛盾である。中央銀行による国債の直接引受と、現行の国債買切りオペに、本
質的な相違は見出されず、
「直接引受け=ハイパーインフレ」というのは矮小化された議論である。
4. おわりに
金融政策が、前人未到の領域に入っていく中では、手探りながらも何らかの新たなガイドラインの下
で金融政策を運営することが必要となる。目安ながら、マネタリーベースの「伸び率」目標の導入に
よって、インフレ期待にも影響を与えつつ、名目 GDP 成長率の回復を目指すことが必要であろう。
一定の前提の下で、
(GDP デフレーターで測った)インフレ率を年率 1∼2%に維持するために必要な
マネーサプライ(M2+CD)の伸びは、年率 5∼6%となる。それに必要なマネタリーベースの伸びは年
率 12∼22%であり、必要な買切りオペの額は月間 1.3∼2.1 兆円である。デフレの下で民間部門の資産
選択への歪みを排除するために、民間部門が保有する各種証券の残高にほぼ比例する形で買切りオペ
を実施することが望ましい。国債 2:外債 1:株式(ETF 含む)1 という配分が、資産選択に対して中
立的であろう。年間の買切りオペ額は 15∼25 兆円となるが、一般政府構造的プライマリー財政赤字
(約 30 兆円)以下に収まっており、急激なインフレを生じさせるリスクは低いであろう。
2
Monetary policy under zero bound on short-term nominal interest rates
- Critical appraisal on the ineffectiveness viewpoints (Abstract)
1. Background
There have been oppositions to and doubts on additional quantitative monetary easing after nominal short-term rates hit
zero, mainly led by the central bankers and financial market participants. This paper critically examines the robustness of
their views from various aspects.
2. Tools
We present the empirical counter-arguments to the proponents of the above views. We utilize several tools including vector
autoregressions (VARs), panel data analysis from major advanced countries, and long-run cointegration analysis, as well
as historical and narrative approaches of the US Great Depression. We had to rely on this type of ad-hoc approaches since
the opposition views use different approaches. This, however, enable us to view the current deadlock in Japan’s monetary
policy and its impact on economic activity and prices from historical and long-run perspectives.
3. Main results
Monetary policy maintains various transmission channels even for the economy facing the zero bound on nominal rates. It
affects real economic activity without heavily relying on the bank lending channel. The liquidity trap argument does not
explain the resilient private consumption. While deflation and its expectation postpone consumption, nominal zero interest
rates make the distinction ambiguous between the storage of value through financial assets and that through real assets,
thereby stimulating consumption of certain durables and big-ticket items. We take this as an indication that the wealth effect
from increases in liquid financial assets supports consumption. We believe that additional monetary easing will generate
sufficient portfolio substitution among financial and real assets, when we reach an unobservable bliss point for the demand
for money since we do not obtain utility from holding financial assets. It is contradiction to argue both that monetary policy is
ineffective and that additional monetary easing will entail the risk of hyperinflation through damaging the credibility of the
central bank. The direct underwriting of the government securities by the central bank, which is highly notorious, and the
current scheme of the central bank’s outright purchase of government securities do not differ in substantive ways. The
argument linking the direct underwriting and hyperinflation does not always hold.
4. Concluding remarks
We require a new type of monetary policy guideline (no matter how primitive and experimental) as we enter unexplored
areas. We propose, as a rough guideline, an introduction of the “growth rate” targeting of monetary base, thereby
influencing inflationary expectation, in order to recover positive nominal GDP growth. Under certain assumptions, the
annual growth rate of 5 to 6% of M2+CD is required to achieve positive rates of inflation by 1 to 2% a year (measured by
GDP deflator). It will require annualized monetary base growth of 12 to 22% with the outright purchases of securities by 1.3
to 2.1 trillion yen per month. To avoid a possible distortion the central bank’s purchase of securities might cause under
deflation, we propose the outright purchases to be proportional to the weights of securities held by the private financial and
nonfinancial sectors. This comes roughly to the weights of 2 for government securities, 1 for foreign-currency denominated
securities, and 1 for domestic equities (including Exchange-Traded Funds). The total annual purchases of these securities
will be 15 to 25 trillion yen, still below the cyclically adjusted primary deficit of the general government (around 30 trillion
yen), thus expected to limit the risk of rapid inflation.
3
1. はじめに
名目短期金利がゼロの下限に到達しているために、金融政策は無効である、あるいは追加的な金融
緩和は望ましくない、という見解(以下では一括して「金融緩和消極論」と呼ぶことにする)が、中
央銀行や金融市場関係者を中心に存在する。本稿では、これら金融緩和消極論の根拠の頑健さについ
て、さまざまな側面から批判的に検討することを第一の目的とする( 2 節)
。本稿の第二の目的は、名
目短期金利ゼロの下での今後の金融政策について、望ましいフレームワークについて簡単に展望する
ことである(3 節)。
経済分析の手順として、過去の理論・実証研究を概観し、用いる理論的枠組みを提示し、実証分析
を行うという順序が通例である。しかし、金融緩和消極論は、多様な見地から多様な分析方法を使っ
て提示されており、その一つ一つに対して、上記の手順で分析を行うとすれば、それだけで著作数冊
に相当する分量に達してしまうであろう。それは、筆者の能力を優に超えるものとなる。したがって、
消極論のそれぞれを十分に明示的に定義しないままに分析を行っている場合があることを前もって
断っておきたい。ここでは、各種の消極論に対して、ad-hoc な形で実証的な反証を提示することで、
批判を試みた。なお、実証分析のツールとして、多変量自己回帰分析(VAR)
、主要先進国におけるパ
ネルデータ分析、共和分分析、及び歴史的な叙述を用いた。金融政策の役割と物価、経済活動への影
響を普遍的、歴史的、長期的な観点から見る意味で、パネルデータ、共和分、大恐慌時代の分析も適
宜採用することとした。
2. 金融緩和消極論への批判的検討
金融緩和消極論は以下のような論点によって特徴づけられる。
a) ゼロ金利の下で貨幣と短期国債との代替性は完全である
b) 不良債権によって銀行貸出チャンネルが疲弊している
c) ゼロ金利の下で日本経済は流動性のわなに陥っており、貨幣需要は無限大に増加する
d) フィッシャー効果によって実質金利は一定に維持される
e) インフレは一旦発生すると手におえない(インフレの慣性)
f) 構造問題による物価低下圧力が存在する
g) 非正統的な金融政策手段の効果は不確実である
h) 金利生活者の金利所得の減少を考えるとこれ以上低金利を続けるべきではない
i) ゾンビ企業を駆逐し構造改革を推進するために金利を引き上げるべきだ
j) 超低金利になったために、銀行の債券保有増大によって金利上昇が銀行収益に与える影響が大きく
なっている
k) 非伝統的な金融緩和を続けていくと、日銀のバランスシートの劣化が起こり、これは中央銀行の
信認を毀損する
l) さらなる金融緩和は中央銀行による国債の直接引受につながり極めてインフレ的である
4
m) 物価に影響を与えるのは金融政策ではなく財政政策である
筆者は、名目短期金利がゼロの下でも、金融政策はいくつかの波及経路を維持しており、景気を刺
激する上で、そして、デフレ(一般物価の継続的下落)から脱却する上で、重要な役割を果たすべき
だと考えている。筆者が最も重要だと考えるポイントは以下の 4 点である。
(1) マネーサプライは名目経済活動のアンカーである
(2) 物価の継続的上昇も下落も貨幣的現象である
(3) 貨幣の中立性は短期的には成立しない
(4) 財政政策ではマネタリーベースは増えない
以下では、上記 4 点を考慮しながら、金融緩和消極論を批判的に検討してみたい。
(1) ゼロ金利の下で貨幣と短期国債との代替性は完全である
貨幣は返済義務のない政府債務
貨幣は無利子、無期限の政府債務であるのに対して、国債は有利子、有期限の政府債務である。国
債は将来のいずれかの時点で返済(あるいは借換え)しないといけないが、貨幣には返済の義務がな
い(Bernanke, 2000)。ゼロ金利の下では、貨幣(現金)と短期国債は、一見、完全代替資産のように
みえるので、日銀が短期国債を買って貨幣(マネタリーベース)を供給しても、同じ金融資産が出入
りするだけで、金融政策の効果はないと議論される。しかし、短期国債は償還されるが貨幣は償還さ
れない。さらに、長期国債と貨幣の代替性が完全でないことは明らかであろう。両者を交換すること
で金融市場には追加的な準備が供給され、ポートフォリオのリバランスが発生する。この過程で、金
利は低下し、一部の資金は実物資産投資にも向かう。
量的緩和に超過準備は不可欠
銀行は、増加した準備(日銀当座預金)で再び国債を購入するので、資金が短期金融市場に超過準
備として滞留し、金融緩和の効果が発揮されないと、よく指摘される。しかしこれは、次の 2 点から
一面的と考えられる。第一に、日銀当座預金残高を操作変数とする金融政策が実施され、金融緩和姿
勢を維持する場合に、超過準備の発生は必然である。現在の国内銀行の預金は約 500 兆円だが、それ
に対する必要準備(法定準備預金)はせいぜい 4 兆 2,600 億円にすぎない(図表 1)。日銀当座預金を
15∼20 兆円に維持する金融政策を実施したからといって、超過準備が必要準備に変わり、国内銀行の
預金が 500 兆円から 2,000 兆円に増加するということは起こらない。第二に、日銀当座預金残高は目
標値に固定されるわけだから、これが資金需要を反映して変動することは起こらない。仮に、家計が
消費を増加させ、その結果、現金需要が増大したとしよう。これは日銀当座預金の減少要因(短期金
融市場からの資金の流出要因)となる。これに対して、日銀は当座預金目標を維持するために、追加
的な買いオペ(あるいは買切りオペ)によって金融市場に資金を供給する。これは追加的な金融緩和
を実施したことになるが、日銀当座預金の水準は変わらない。家計が消費を増加させなかったら、現
5
金需要は増大せず、追加的な買いオペは実施されないが、日銀当座預金の水準はやはり不変である。
このように、資金需要が増えても増えなくても、日銀当座預金の水準は目標額に固定される。この状
況は、短期金利(コールレート)を操作変数とする金融政策が実施されている時に、短期金利をみて
いても、金融政策の効果を直接的に把握できないのと同じである。
マネタリーベース「伸び率」目標の必要性
3 節で検討するマネタリーベースの「伸び率」目標が必要だと考える理由は、第一に、量的指標の
「水準」を目標にすることは、その緩和が一過性のものにすぎず、インフレ期待に何ら影響を与える
ことができないこと、第二に、現在必要とされるのは、counter-cyclical な金融緩和(景気が良くなると
緩和を止めてしまう)ではなく、景気循環とは独立したデフレ脱却のための持続的な金融緩和である
こと、による。2000 年 8 月のゼロ金利政策解除の後、金融緩和は 2001 年 2 月に再開されたが、銀行
に積極的に超過準備を保有させようとする本格的な量的緩和策は、2001 年 12 月(当座預金残高を 10
∼15 兆円に誘導)まで待たねばならなかったし、景気が回復すると 2002 年 2 月以降、さらなる量的
緩和策が実施されなかったことは残念である(景気に対する不安が出始めると、2002 年 10 月に当座
預金残高を 15∼20 兆円に誘導する緩和策が採用されたが、ここからも分かるように、counter-cyclical
な金融緩和策に止まっている)。
図表1
日銀当座預金の推移
(
平均残高、1兆円)
22
(
広義の)
超過準備
法定準備預金額
20
注:日銀当座預金=準備預金+準備預金以外の日銀当座預金
準備預金=法定準備+(狭義の)超過準備
(広義の)超過準備=(狭義の)超過準備+準備預金以外の日銀当座預金
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
95
96
97
98
99
00
出所:日本銀行
(2) 不良債権によって銀行貸出チャンネルが疲弊している
金融政策の波及経路
6
01
02
銀行貸出が増加しないので、マネーサプライが増えず、金融緩和の効果が実現していない、という
こともよく指摘される。しかし、変動相場制の下、金融資産の蓄積の進んだ国で、金融政策は銀行貸
出を経由しなくても、他の経路を通じて民間非金融部門により直接的に働きかけることができる(図
表 2)1。以下で、民間消費への資産効果と為替レートを通じた経済活動への影響、大恐慌時のマネー
サプライと銀行貸出の関係について簡単に説明したい。
図表2
金融政策の波及経路
資産代替効果/
流動性効果
実質金利、インフレ期待
(
外債オペ、実物
消費、投資の先送り歯止め
資産オペなら顕著)
金利低下による利払減少、
キャッシュフロー増大、リストラ原資確保
中央銀行
民間銀行
貸出
家計
企業
資産代替効果/
流動性効果
(外債オペ、実物
資産オペなら顕著)
インフレ期待
企業収益改善
(
輸出企業)
円安
海外部門
(2)-1 民間消費を通じた影響
2000 年 12 月から 2002 年 2 月までの 7 度の金融緩和によって、個人の保有する流動性金融資産は急
速に増加してきた(図表 3: 2000 年 11 月から 2002 年 10 月までに個人保有の M1(現金+要求払預金)
は 57.3 兆円も増加した)。筆者の試算では、100 円の流動性金融資産増加から生じる消費への資産効果
は約 5∼7 円と比較的高い2(図表 4: 標準的なライフサイクル仮説に基づくと、2∼3 円となる)。貨
幣の保有コストの低下による流動性金融資産の増加が、消費を刺激する。2002 年 7-9 月期までの 4 四
半期で名目雇用者所得は 2.8%低下したが、名目消費は 0.9%上昇している(図表 5)。貯蓄率は 4%ポイ
ント近く低下したことになるが、このような大幅な低下は、通常は考えにくい。それを可能にしたの
は、度重なる金融緩和だと考えられる3。標準的なライフサイクル仮説に基づくと、消費の決定要因
は、将来の所得見通し、主観的割引率+死亡確率(あるいは実質金利: 現在と将来のどちらに消費
1
金融緩和消極論者の多くは、短期金融市場における中央銀行の民間銀行への影響力の低下に焦点を当て
ている一方で、非民間金融部門への働きかけについては、ほとんど考慮されていないように見える。その
ような例として白川(2002)があげられる。
2
実質家計可処分所得、実質民間消費、実質短期金利、実質個人保有 M1 の 4 変数からなる多変量自己回
帰(VAR)モデルの結果による。推計期間は 1990Q2∼2001Q1。出所は松岡(2002D)。
3
詳細は松岡(2002J)を参照。
7
するかという異時点間の消費の配分に影響を与える)
、金融資産、の 3 つである4。最初の 2 要因は短
期的にはほとんど不変だし、家計の金融資産総額も過去 3 年間ほとんど不変だが、その構成要素に流
動性資産が増大することが、他の要因不変の下でも消費に影響を与える。当然、ペイオフ解禁の不安
から、家計が定期性預金から流動性預金に資金を預け替えしていることも、流動性金融資産の増大に
寄与している。しかしその場合には、将来不安の増大から消費を抑制する要因となるはずだが、実際
の消費は増大している。ペイオフの要因を除くと、流動性金融資産からの資産効果は、0.05∼0.07 よ
りも大きいかもしれない。消費に最も近くに位置している現金や要求払預金の増加が消費を刺激する
という経路は、銀行システムが疲弊していても、機能する。
図表3
350
急増する流動性金融資産
(2000年価格、兆円)
300
250
実質M1
個人保有実質M1
200
150
100
50
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
注: 個人保有実質M1は(現金通貨平残+個人保有預金通貨末残)/消費者物価、季節調整済計数
影の部分は景気後退局面 出所: 日本銀行、総務省
4
効用関数を対数線形 U(C) = ln(C)と仮定すると、消費関数は次のような形で求められる。
C = ( p + θ ) × [(1 − λ ) × E ( H ) + A] + λ × YD ..... (1A)
ここで、C は毎期の消費額、p はある年まで生存した人が次の 1 年間に死亡する確率、θは主観的割引率(せ
っかち度:今年の 98 万円と来年の 100 万円に同等の価値を見出す人にとって、せっかち度は 0.02 である)、
E(H)は家計の人的資本 H(年金等の移転所得も含めた生涯可処分所得)の期待値、A は期初の金融資産、YD
は当期可処分所得である。通常、p=0.01∼0.015、θ=0.01∼0.03 の値をとると考えられる。λは流動性制約下
の家計(貯蓄率ゼロの家計)の所得が全家計所得に占める比率である。λ=0.3∼0.4 の値をとると考えられ
る。なお、消費に対する資産効果は( p+θ)で表される(金融資産(A)が 1 円増加した時に消費に回る金額
は(p+θ)円である)。
8
図表4
実質民間消費への影響
実質可処分所得 実質金利1%上 実質M1の1%増
昇
加
1%増加
(単位:%)
1年目
0.488
-0.617
0.046
2年目
0.337
-0.446
0.091
3年目
0.246
-0.371
0.108
注:可処分所得、民間消費、短期金利、個人保有M1の4変数
からなる多変量自己回帰モデルによる。
推計期間は1990年4-6月期から2001年1-3月期(
44期間)、ラグ次数は1
いずれの変数も実質値、実質短期金利(
1年物定期預金金利)は消費税の影響を調整済み
所得・消費・M1は季節調整値
出所:内閣府、日本銀行、総務省データより筆者試算
図表5
300
雇用者所得と民間消費の推移
(季調済年率、兆円)
名目民間消費
295
290
285
280
名目雇用者所得
275
270
265
260
95
96
97
98
99
00
01
02
注:影の部分は景気後退局面 出所:内閣府
(2)-2 為替レートを通じた影響
また、変動相場制の下では、他国に対して自国の金融緩和が進めば、円安になりやすいであろう。
為替レートを目標にした金融政策は、諸外国からの反発を招きかねないが、基本的に変動相場制の下
で金融政策が為替レートに影響を与えることは必然的な帰結である。円安による製造業利益の改善の
程度は、時間と共に弱まっているが、引き続いてプラスの影響を与えている(図表 6 は、営業利益/
売上高比率の円安に対する弾性値の時間的な軌跡をカルマン・フィルターを使って計測したもの: 1%
9
の円安が何%ポイントの利益率の変化をもたらすか)5。ただし、非製造業にはマイナスの影響を与え
ているので、必ずしも円安が望ましいとは限らない。ここでは、金融緩和がほぼ必然的に円安をもた
らす点を指摘するに止めておく6。
図表6
1.0
為替レートの変動に対する企業利益の限界弾性値
(限界営業利益/売上比率, %ポイント)
(
円/ドル)
0.8
280
260
限界弾性値 (製造業、左)
0.6
240
0.4
220
0.2
200
円/ドル (
右)
0.0
180
-0.2
160
-0.4
140
-0.6
120
限界弾性値 (
非製造業、左)
-0.8
100
-1.0
80
80
82
84
86
88
90
92
94
96
98
00
02
注: 限界弾性値はカルマンフィルターを用いて推計 出所:財務省、日本銀行データより筆者試算
図表 6 は、営業利益/売上高比率を為替レート(自然対数)で説明する式をカルマン・フィルターを用
いて求めたもの。出所は松岡(2002C)。ただし、定式化は以下のように異なるものを用いた。
5
β t +1 = β t + ε ..... (2A)
OP / Sales = β t ln (FX ) + ν ..... (3A)
ここで、OP は営業利益、FX は円の名目実効レートの逆数(数字が大きくなると円安になる)、Sales は売上
高である。βはパラメータ、 ε , ν は誤差項である。パラメータβt に時間を表す subscript の t がついている
のは、時間と共にパラメータβt が変化していく(time-varying parameters)ことを示している(通常の最小二
乗法の推定では、パラメータは推定期間を通じて一定と想定されている)。
筆者は、対外依存度が低く閉鎖経済に近い特徴のある日本(財輸入の GDP 比は 7.4% にすぎない)におい
て、円レートを金融政策の操作変数とすることに対しては、慎重であるべきと考える(円安は金融緩和の
結果であり、政策の最終目標とすべきではない)。また、円安だけでインフレになるという考え方に対して
も懐疑的である。多くの製造業にとって、円安は交易条件の悪化を伴う。10% の円安で国内卸売物価は 0.5%
程度上昇するにすぎない。さらに物価上昇を継続させるためには、一回きりの円安ではなく、相当規模の
円安が毎年新たに発生しなければならない。しかし、その過程で日本の経常黒字は未曾有の水準に達し、
経済に内包された自動調整メカニズムを通じて、円高圧力が累積されていくはずである。経常黒字国では
自己実現的な円安は起こりにくい(松岡 2002B)。大規模な円安が実現するためには、足元で起こり始めた
円安が一時的なものではなく持続的なものであるという期待の変化が必要である。その契機となる一つが、
積極的かつ持続的な金融緩和政策である、という議論は成立しよう。
6
10
(2)-3 マネーサプライと銀行貸出
原田・岡本(2002)によると、銀行貸出への依存度が高いとみられる中小企業の設備投資に対する
説明力は、銀行貸出よりも企業間信用のほうが高いとされている7。また、経済活動(GDP)や設備投
資に対する説明力は、銀行貸出とマネーサプライでほぼ同等であるという。これらは、銀行貸出を特
別視することに対する懐疑的な見解を提示しているといえよう。日本では、1990 年代初頭までは、銀
行貸出とマネーサプライ(M2+CD)はほぼ同様な変動を示してきたが、その後、両者の変動には乖離
が生じている(図表 7)。過去にさかのぼって、1930 年代の米国の大恐慌におけるマネーサプライ、
銀行貸出、物価の推移をみると、連銀が積極的な金融緩和に転じた 1933 年に M1 は増加し始め、消費
者物価は 1933 年末から上昇に転じたが、銀行貸出が増加に転じたのは、1936 年になってからであっ
た(図表 8、9)。図表 7∼9 が示唆するのは、景気の回復(そしてそれに付随するインフレ圧力の発生)
にとって必要なのは、銀行貸出ではなくマネーサプライの増加である。
「不良債権によって銀行貸出が増えないので、貨幣乗数が低下している。早期に不良債権を処理し
て銀行貸出が増えるようにすべきだ。」と声高に議論されるのだが、不良債権処理に伴って、預金も
減少する。この結果、貨幣乗数は下方にジャンプし、その後、限界貨幣乗数(ΔM2CD/ΔMB)が回
図表7
M2+CDと銀行貸出の推移
(前年比%)
30
25
20
M2+CD
銀行貸出(マネタリーサーベイ)
15
10
5
0
-5
72
74
76
出所:日本銀行
78
80
82
84
86
88
90
92
94
96
98
00
02
金融政策と経済活動との関係を、民間非金融部門の総債務の側面から最初に分析したのは Benjamin
Friedman(1982)である。いわゆる銀行貸出チャネル(bank lending channel)の重要性の是非については論争
が続いており、ここでその全てを網羅するスペースはない。主要な文献としては、Bernanke (1993), Bernanke and
Gertler (1995), Christiano, Eichembaum and Evans (1995), Gertler and Gilchrist (1993), Kashyap and Stein (1994), Kashyap,
Stein and Wilcox (1993), Oliner and Rudebusch (1995, 1996), 原田(2002)などがある。このうち、銀行貸出チャネルに
積極的な意義を見出すものとして Kashyap and Stein (1994)、懐疑的な見方として Oliner and Rudebusch (1995)が挙
げられよう。
7
11
復する。マネーサプライの減少は(5)節でも説明するように、急激な物価下落圧力となるであろう。そ
れを防ぐためにも、(不良債権処理を加速すればするほど)追加的な金融緩和で物価下落圧力を緩和
させることが必要となろう。
大恐慌における米国の銀行貸出の推移
図表8
11
(
10億ドル)
10
9
8
7
6
銀行貸出は 1933年に下げ止まったものの、
回復し始めたのは1936年であった
5
4
1920
1922
出所:NBER
1924
図表9
80
1926
1928
1930
1932
1934
1936
1938
大恐慌における米国のマネーサプライの推移
(
10億ドル)
(CY67=100)
M1(左)
M2(左)
70
90
80
WPI(右)
60
70
50
60
40
50
30
40
20
30
10
マネーサプライは銀行貸出とほぼ同時タイミングで1933年に下げ
止まり、すぐに回復に転じた。卸売物価も同時に上昇に転じた。
0
1915
1917
出所:NBER
20
1919
1921
1923
1925
1927
1929
12
1931
1933
1935
1937
1939
(3) ゼロ金利の下で日本経済は「流動性のわな」に陥っており、貨幣需要は無限大に増加する
「流動性のわな」vs 貨幣需要の飽和点
金融政策が消費に与える影響を 3 つの視点から考えてみたい。ゼロ金利の下で日本経済は「流動性
のわな」に陥っているから、貨幣需要は無限大に増加し、景気を刺激することはできない、と議論さ
れる。縦軸に名目金利、横軸に貨幣をとると、右下がりの漸近線が描かれるが、これが貨幣需要曲線
である(図表 10)
。デフレの下で流動性のわなに陥ると、貨幣の絶対的な収益率(ゼロ%)が、他の
資産の期待収益率を上回ってしまうので、自己実現的な景気停滞が実現するとされる。しかし、Tobin
(1958)によると、すべての金融資産を同一種類の資産で保有するというコーナー解は生じない。し
たがって、図表 10 の右下がりの漸近線は、無限に横軸に向かって伸びているのではなく、どこかの
時点で切断されているはずである。また、家計の純資産(金融資産+実物資産−金融負債)の可処分
所得比が継続的に上昇することも考えにくい(事実、バブル崩壊の直後から日本では 750%前後で安
定している)。つまり、純資産の保有額に観察不可能な上限があり、かつ、資産を貨幣で保有しても
効用(満足度)が上昇しないような貨幣需要の臨界点(飽和点: bliss point)が存在するのではないか。
そこに達すれば、家計は自らのポートフォリオをリバランスさせ、そのうちの一部は実物資産(耐久
財消費や住宅投資)にも波及していくであろう(第一のポイント)。
図表10
貨幣需要の飽和点
名目金利
貨幣需要曲線は無
限には続かない
マネー
0
貨幣需要の飽和点
ゼロ金利の下での金融資産の価値保存機能の相対的低下
別の視点から考えてみる。デフレ期待がある限り、家計には消費を将来に先送りする誘因が存在す
る(消費の異時点間の代替: 第二のポイント)。しかし同時に、名目金利ゼロの下では、消費と貯蓄
の代替が弾力的になる可能性(家計にとって貯蓄と消費が無差別になる可能性)がある8。というの
は、一般的には、家計は金融資産の保有そのものから満足(効用)を得ているわけではなく(消費を
通じて効用を得ている)、一方で、実物資産の購入からは満足を得ている。さらに、ゼロ金利の下で
は耐久消費財の購入という形での実物資産による価値保存機能と金融資産による価値保存機能の差
が小さくなるため、金融資産保有に比較して実物資産保有への誘因が相対的に高まるのである。この
議論は、所得雇用環境の悪化が著しい中で、自動車や身の回り品のような特定の耐久財、高額品(消
費によって効用を高めながら、ある程度の価値の保存ができそうな財)の消費が予想外に底堅い(図
表 11)ことと整合的だと考えられる。つまり非常に小さなショックによって、消費と貯蓄の代替が起
こりやすくなっている(同一時点における消費と貯蓄の代替: 第三のポイント)。
図表11
340
底堅い高額品消費
(1000台)
(1995年=100)
108
107
320
106
身の回り品(
右)
300
105
104
280
103
260
102
101
240
100
新車登録台数(左)
220
99
200
98
95
96
97
98
99
00
01
02
注:新車登録台数は、軽自動車を0.33台、小型自動車を0.75台、普通自動車を1台と
数えている; 身の回り品は百貨店販売額の12ヵ月移動平均
出所:自販連、経済産業省
上記 3 つのポイントのうち、第一・第三のポイントと、第二のポイントは相反する消費への効果を説
明している。ここから推察されるのは、ある種のショックを与えることによって、消費にプラスの影
響を与えることが可能である点である。つまり、第一・第三のポイントを維持しながら、第二のポイ
ントを逆方向に動かすようなショックである。それは、金利引上げではなく、中央銀行による十分な
流動性金融資産の供給である。その一部が徐々に消費に回り景気を刺激するにつれて、貨幣の流通速
8
松岡(2002J)。
14
度も下げ止まり、追加的な金融緩和の効果がようやく発現していくであろう9。一方で、金利引上げ
では、デフレ期待をさらに増幅し、実質金利の上昇による消費の先送りがさらに発生する。
(4) フィッシャー効果によって実質金利は一定に維持される
ゼロ金利の中で実質金利を下げようとすれば、期待インフレ率を上げるしかない。しかし、期待イ
ンフレ率の上昇と同時に名目金利も上昇するので、実質金利は下がらず、金融政策は無効であると議
論される場合がある。しかし、フィッシャー効果が常に完全であれば、名目金利がプラス、ゼロにか
かわらず、実質金利は常に不変となる。金融政策はいつでも無効となり、貨幣の中立性が短期的にも
成立していることになる。岩田(2001)でも指摘されているように、実際には、デフレギャップのあ
る不完全雇用下で、フィッシャー効果が完全に機能するとは考えにくい10。
大恐慌時の実質金利
1930 年代のデフレを経験した後の米国経済の回復過程をみてみよう。卸売物価は 1933 年 2 月から
1937 年 4 月までに年率 9.8%で、消費者物価は 1933 年 6 月から 1937 年 12 月までに年率 1.8%でそれぞ
れ上昇している(図表 12)
。一方で、長期金利をみると、1932 年前半にピークをつけた後、1940 年ま
で持続的な下降トレンドを維持していた(図表 13)
。この結果、1933 年のピークから 1937 年末にかけ
て、実質金利は累積で 12∼14%ポイントも低下したのである(図表 14)
。デフレにさらされ続けた経
済において、インフレ期待の蓄積が名目長期金利に反映されるまでには、相当長期間かかると考えら
れる。そのプロセスは、金融緩和→長期金利低下→景気回復→需給ギャップの縮小→インフレ圧力上
昇→潜在成長率の下げ止まり→長期金利上昇という長いプロセスを経るであろう。経済が持続的な回
復軌道に乗ることが、長期金利上昇(イールドカーブのスティープ化)の必要条件となろう。いわゆ
る「悪い金利上昇」論の根拠は薄弱である。
9
金融政策の効果は徐々に発現すると一般に考えられている。最大のインパクトが表われるのは、政策変
更から 12∼18 ヶ月後と考えられる。したがって、ある日突然、景気の全体像が一転するということはまず
起こらない。財政政策は、比較的短時間のタイムラグで消費や公共投資に現れる<あるいは現れない>こ
とで、その影響をチェックできるのとは対照的である。このような実施から効果が出るまでのタイムラグ
やさまざまな経路を通じて「何となくぼんやりと」効いてくることも、金融政策消極論が出てくる遠因で
ある。波及経路を示せというのが典型的な消極論に含まれる批判だが、そもそも波及経路を限定すること
が困難だと思われる。
10
フィッシャー方程式とは、名目金利(i)の変動が実質金利(r)の変動と予想インフレ率(E[π])の変動
に等しくなるという考え方である。これは、 i = r + β × E (π ) と表すことができる。βがフィッシャー効果の
係数であり、長期的には 1 に収斂すると考えられる。通常は r とβが一定と仮定されるが、G7 各国で 20 四
半期の rollng horizon 推計をすると、いずれも時間と共に変動していることが確認される。日本の特徴は r と
βがプラスの相関を持って変動することである(他国ではマイナスの相関関係)。現在の日本では、r が急速
に低下し、βがマイナスの領域にまで低下している。r とβの間の正の相関を考えると、イールドカーブの急
速なフラット化の持続性については疑問が残る。詳細は松岡(2003)。
15
大恐慌時代の米国の物価
図表12
(1957-59 年=100)
70
卸売物価
消費者物価、食料品を除く
65
60
55
50
45
40
35
30
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
出所: NBER Macro History Database (M04048c, M04052)
図表13
大恐慌時代の米国の名目金利
(%)
7
公定歩合(ニューヨーク連銀)
3-6ヵ月物TB利回り
長期国債利回り
6
社債利回り、最上位格付け
5
4
3
2
1
0
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
出所: NBER Macro History Database (M13009, M13029a, M13029b, M13033a, M13035)
16
38
39
40
大恐慌時代の米国の実質金利
図表14
(%)
14
3-6ヵ月物TB 利回り
12
長期国債利回り
社債利回り、最上位格付け
10
8
6
4
2
0
-2
実質金利=名目金利−消費者物価前年比
-4
-6
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
出所: NBER Macro History Database (M13029a, M13029b, M13033a, M13035, M04052)
(5) インフレは一旦発生すると手におえない(インフレの慣性)
デフレにも慣性がある
インフレが一旦発生すると、そ の収束に時間がかかることは事実である。これは、インフレの「慣
性(inertia)」と呼ばれる。しかし同時に、この議論は、デフレも一旦発生すると手に負えないことを
意味する。事実、消費税の影響を除くと、GDP デフレーターは 1993 年 10-12 月期をピークにほぼ 9 年
間にわたって低下している。デフレの下では、過去に締結された債務の実質価値は上昇し返済負担を
圧迫する。また、名目値の売上や利益、キャッシュフローの減少、企業価値の毀損を通じて、設備投
資に対する金融乗数効果(financial accelerator)が働き、デフレがデフレスパイラルに進展するリスク
が高まる。このような時期に、「金融緩和をするとインフレになるから、さらなる緩和には慎重であ
るべきだ」との議論には、どのような意義が見出せるのだろうか。まるで、零下 20 度の中にシャツ
一枚で震えながら、服をたくさん着れば汗が出るから困るといっているようなものである。
金融政策が効かないという議論と、ハイパーインフレになるから金融緩和をすべきではないという
議論を、同時に展開すれば、自己矛盾が露呈する。金融政策が効くから最終的にインフレになるので
ある。また、金融政策はサプライショックではないので、「金融緩和を続けるとスタグフレーション
になる」という議論も疑わしいように思われる。
17
マネーサプライ、インフレ率、GDP ギャップの関係
インフレに慣性があるということは、インフレ率の高まっていくプロセスが瞬時に発生するのでは
なく、時間をかけて徐々に発生することを意味する。-1%のインフレ率が翌年に+5%になることは、ま
ず考えにくい。日銀の独立性が不十分だからハイパーインフレが心配だというのであれば、インフレ
ターゲットの設定によって、物価上昇の加速に対してより確実に歯止めをかけることが可能となろう。
インフレやデフレに慣性があることは、次のような関係から確認できる。フィッシャーの貨幣数量方
程式(MV=PQ)について、自然対数前年差を小文字で表すと、近似的に p=m+v−q となる(M はマネ
ーサプライ(M2+CD)、V は貨幣の流通速度、P は物価、Q は実質 GDP)
。景気が回復してインフレギ
ャップが発生してくるほど、M の上昇の多くは P の上昇に吸収されていくと考えられる。そこで、
p i ,t − mi ,t = α i , t + β i ,t × GAPi ,t + εi , t ..... (1)
β >0
のような式を OECD 加盟国のうち 22 ヶ国の半期パネルデータ(1971H1∼2001H2)を用いて推計してみ
た(GAP は GDP ギャップ、2 期前の値を用いた; デフレギャップはマイナスの値で表される)。イン
フレ率(p)、マネーサプライ(m)、GDP ギャップ(GDP)はいずれも%表示である。結果は図表 15 の
通りだが、fixed effect モデルでは、β=0.122(日本の定数項は-5.26)
、random effectモデルでは、β=0.228
(共通の定数項が-3.85、日本固有の定数項が-1.10)となった。βが予想通りプラスの係数となってい
るため、景気が過熱するほどインフレ率とマネーサプライの伸び率の格差は縮小していくことが分か
る(つまり、m のより多くの部分が p に反映される)。
図表 15
OECD諸国におけるインフレ率、マネーサプライとGDPギャップの関係
被説明変数:
インフレ率(
前年比)−マネーサプライ変化率(前年比)
推計期間:
1971H1 - 2001H2(60期間)
対象国:
22ヶ国(OECD加盟国)
Fixed effectsモデル
Random effectsモデル
説明変数
GAP(-2)
0.122 (2.853)
0.228
(3.432)
定数項
-3.848
(-9.712)
日本の定数項
-5.264
-1.098
Adj. R-squared
0.087
0.063
S.E. of regression
6.078
6.061
注:パネルデータによる推計;Fixed effectsモデルの誤差は、不均一性調整後の計数
出所:OECD, Economic Outlook, No.71, June 2002より筆者試算
ちなみに、この簡単なモデルは、現実をどの程度説明できるだろうか。Fixed effectモデルでは、
p−m の値は、5%のデフレギャップの場合に-5.87%ポイント、GDP ギャップがゼロの場合に-5.26%ポイ
ント、5%のインフレギャップの場合には-4.66%となる。現在は 5.6%のデフレギャップ(2002 年 7-9 月
期、筆者試算値)が存在する中で、マネーサプライの伸びは 3.5%程度である。この場合、p を逆算す
ると、fixed effect モデルでは-2.4%、random effectモデルでは-2.7%となる。実際の GDP デフレーターの前
年比(2002 年 7-9 月期)は-1.6%だから、過去の先進国における関係から求められるインフレ率と現実
のインフレ率はかなり近いといわざるをえない。マネーサプライの伸びが低ければ、当たり前のよう
18
にデフレになってしまうのである。
マネーサプライは物価に影響を与える(P-star モデル)
ここで、マネーサプライは、景気循環(GDP ギャップの変動)とは独立して、物価に影響を与えて
いることを確認しておきたい。前述の貨幣数量方程式において、潜在 GDP を Q*、貨幣の流通速度の
トレンドを V*とすると、所与のマネーサプライの下での物価の長期的な均衡値 P*が得られる(P* =
MV*/Q*)。P=MV/Q を P*=MV*/Q*で除して、両辺の自然対数をとると、
p − p * = ( q * − q) + ( v − v*) ..... (2)
となる。左辺(p−p*)は物価ギャップ(物価の長期的な均衡値からの乖離)であり、右辺第 1 項(q*
−q)は GDP ギャップ(財市場における需給ギャップ)である。右辺第 2 項(v−v*)は流通速度のト
レンドからの乖離である11。仮に、物価が財市場における需給ギャップのみで変動しているなら、流
通速度のギャップは常にゼロとなるが、現実にはそのようなことは起こらない。右辺第 2 項は金融市
場における需給の繁閑を表したものと考えられ、これも物価の変動に影響を与えている。GDP デフレ
ーターで計ったインフレ率の変動を説明するために、物価ギャップを用いた式は、GDP ギャップを用
いた式よりも説明力が高いことが、G7 のうち日本、米国、イギリス、カナダの 4 ヶ国において確認
できる12。1990 年代以降、物価ギャップは GDP ギャップよりもインフレ率に対する先行性が目立って
いること、説明力が高いことが図表 16 から確認できる。図表 17 は物価ギャップと GDP ギャップのイ
ンフレ率(国内需要デフレーター前年比)に対する時差相関係数をみたものだが、ここでも物価ギャ
ップのインフレ率に対する先行期間が、GDP ギャップのそれよりも長いことが分かる。これらは、マ
ネーサプライの低迷が、景気循環とは独立してデフレの原因となっていることを示唆している。
ここでの v*は Hodrick-Prescott フィルターによって求めた流通速度のトレンドである。よく指摘されるよ
うに、Hodrick-Prescott フィルターは最後の数個の観測値に影響されやすい。ここではその影響を弱めるため
に、現実の流通速度の前期差を 80 期分ランダムに発生させ、それを実績値の最後の期以降に延長して合成
した流通速度の系列に対して Hodrick-Prescott フィルターを当てはめた。貨幣数量説で想定する均衡流通速度
は一定であるのに対して、日本では流通速度が継続的な下降トレンド( 1967 年以降年率 2% の下降トレンド)
を持つために、貨幣数量説が妥当しないという批判がある。しかし、家計貯蓄率が高く資本蓄積が速いス
ピードで進む国については、流通速度に低下トレンドがあることは極めて自然である。
12
松岡(2002F)。
11
19
図表16
物価ギャップ、GDPギャップとインフレ率
(前年比%; %)
25
20
インフレ率(国内需要デフレーター、前年比)
物価ギャップ(%)
GDP ギャップ(%)
15
10
5
0
-5
-10
70
72
74
76
78
80
82
84
86
88
90
92
94
96
98
00
注: 物価ギャップ=(P*-P)/P* x 100. GDPギャップ=(Q-Q*)/Q* x 100 貨幣の流通速度のトレンド(V*)
は Hodrick-Prescott フィルターから算出
インフレ率は国内需要デフレーター(前年比、消費税の影響を除く) 出所:日本銀行、内閣府、厚生労働省、総務省
インフレ率と先行指標の時差相関係数
図表17
0.7
0.6
0.5
0.4
GDPギャップとの時差相関
物価ギャップとの時差相関
0.3
0.2
時差相関係数は、t期のインフレ率と
(t+k)期の先行指標との相関係数
0.1
0
-0.1
先行指標がインフレ率に先行
先行指標がインフレ率に遅行
-0.2
-12
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
注: 物価ギャップ=?Pstar - P)/Pstar, GDPギャップ=(Y-Ystar)/Ystar、
推計期間は1971年1-3月期から2002年4-6月期(
126期間)
、
インフレ率は国内需要デフレーター前年比 出所: ドイツ証券試算
20
4
6
8
10
12
(k, 四半期)
02
(6) 構造問題による物価低下圧力が存在する
金融政策では現在のデフレを解消できないという理由の一つとして、安価な輸入品増大による物価
下落圧力、技術革新による物価下落圧力が上げられる場合がある。しかし、これらはミスリーディン
グである13。
「安価な輸入の増大=デフレ圧力」説の問題点
中国からの輸入が増大していることは確かである。しかし、これは何も今に始まったことではない。
通関輸入を GDP で割って求めた輸入浸透度は、1980 年代半ば以降、継続的に上昇している(図表 18)
。
上昇が加速した時期は、円 高の進展した時期と一致する。また、所得水準の上昇と共に、製造業のウ
ェイトが低下していくのは、日本だけではなく先進国で共通に見られる事象である。より重要なこと
は、a)中国からの輸入が GDP に占めるウェイトは、日本、米国、EU で 1.0∼1.4%とほぼ等しく、b)過
去 10 年間のウェイトの上昇幅も 0.7∼1.0%ポイントとほぼ等しいことだ(図表 19)。すなわち、中国
の輸出は日本に的を絞ったものではなく、世界に向けて行われているという当たり前のことが分かる。
中国からの輸入の増大では、日本と欧米のインフレ率格差(日本のインフレ率:-1%、米国・EU のイ
ンフレ率:+2%)を説明できない。さらに、どの先進国でも、安価になった輸入品を用いることによ
って、購買力が増大し、他の財サービスの購入に振り向けることができるという、貿易の便益を享受
しているはずだ(比較優位の法則)
。また、中国は輸出だけを増やしているのではない。輸出のため
に必要な原材料、中間財、機械設備等の輸入も同時に拡大しているはずだ。これは、世界景気を刺激
している。したがって、中国はデフレを世界に輸出しているというのは一面的な見方である。国際貿
易の拡大と日本のデフレに因果関係があるとは到底考えられない。日本のデフレは、すぐれて日本の
要因(すなわち金融政策の失敗)で発生している。
技術革新は需要の増加も伴う
技術革新が広汎に普及していく過程では通常、需要の増大も伴うはずである。したがって、技術革
新によって物価が下がるとは限らない。1990 年代(特に後半)の米国経済は、情報技術革新のスピー
ドが先進国中で最も早かったように思われるが、米国ではデフレにならず、逆に IT 革命の恩恵に最も
与からなかった日本でデフレが続いていることを、「良い物価下落」論は説明できない。
13
大西(2002)、松岡(2001)。
21
図表18
9
輸入浸透度の推移
(円/ドル)
(%)
80
120
8
円ドルレート(右)
160
7
200
6
240
5
通関統計、GDPベース(
左)
280
4
320
通関統計、GDPベースの輸入浸透度=(
通関輸入/輸入物価)/実質GDP
3
360
70
72
74
76
78
80
82
84
86
88
90
92
94
96
98
00
出所: 経済産業省、財務省、内閣府、日本銀行
図表19
1.6
中国からの輸入のGDPに占める比率
(%)
1.4
1.2
日本
1.0
米国
EU
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
80
85
90
出所:IMF, OECD統計
22
95
00
02
(7) 非正統的な金融政策手段の効果は不確実である
たしかに、日本経済が未体験ゾーンに入っていくにつれて、名目短期金利ゼロの下での長期国債購
入額の増加、その他のこれまでに実施したことのない金融緩和策(マネタリーベースの伸び率目標の
導入、外債や株式の購入、インフレターゲット、等)の効果を事前に予測することは難しいであろう。
しかし、どのような政策変更にも不確実性は伴うものである。何もしなければデフレが継続し、深化
していくことはかなり確実である。追加的な緩和策は即効性がないかもしれないが、実施したからデ
フレが深刻化するというものではない点で、追加的緩和によるリスクは限られているのではないか。
(8) 金利生活者の金利所得の減少を考えると、これ以上低金利を続けるべきではない
(9) ゾンビ企業を駆逐し構造改革を推進するために金利を引き上げるべきだ
上記(8)∼(9)の議論は、金利引上げを主張するものである。しかし、筆者はこのような議論に懐疑的
である。というのは、金融政策の比較優位は景気や物価変動の安定化にあるからだ。福祉政策や(定
義があいまいだが)構造改革推進のために金融政策を用いるという議論が出てくるのは日本ぐらいで
あろう。
1990 年代に上昇した労働分配率
金利引上げは将来の消費を高めるが、当期の消費を高めるかどうかは代替効果と所得効果の大小に
依存する。図表 4 の結果を見る限り、実質金利の上昇は当期の消費を抑制する(しかもかなり大幅な
抑制となる)
。家計部門の財産所得は 1991 年の 56.0 兆円から 2000 年には 29.6 兆円に減少したが、1990
年代に労働分配率は急上昇している(図表 20)。これは、労働生産性の上昇率を上回る時間当たり実
質賃金の上昇(図表 21)を、家計部門が享受してきたことを表しており、企業部門の犠牲の上に家計
部門が便益を得てきた部分があることを示唆している14。財産所得の減少のみを強調するのは一面的
であろう。どうしても金利生活者を補助したいのであれば、金融政策に頼らなくても、彼らに商品券
を配れば済むことである。ただし、高額資産家である金利生活者を補助する政策は、通常の所得再分
配政策とは逆行する。金利生活者のための金利引上げは、極めてバランス感覚を欠いた議論といわざ
るを得ない。
14
松岡(2002G)。図表21 において、適正な時間当たり実質賃金は、1975-1987 年に成立した労働生産性(Z)
と時間当たり実質賃金(W)の間に長期的、安定的な関係があると想定して、誤差修正型モデルを求め、
現実の労働生産性を 1988-2002 年に代入して求めた。推計式は以下の通りである(w と z はいずれも自然対
数)。
∆w = β 0 + β1 ∆z − β 2 w−1 + β3 z −1 + ε ..... (4 A)
β0 , β1, β 2 , β3 > 0
パラメーター β2 は調整スピードを表すが、推計期間を直近に限るほど、 β2 が小さくなることが確認され
る。デフレ下での実質賃金の下方硬直性によって、これまでの日本経済の特徴であった(雇用調整はあま
りせずに)迅速な賃金調整によって景気後退を終了させるという特徴が失われつつあることが確認される。
23
図表20
80
労働分配率と総資産経常利益率の推移
(%)
(%)
労働分配率(左)
7
6
75
5
70
4
3
65
2
総資産経常利益率(右)
60
1
労働分配率=人件費/(経常利益+減価償却費+人件費)
55
0
70 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96
注:法人事業税の会計処理変更の影響を調整済み 資料: 財務省
図表21
110
98
00
時間当たり実質賃金の推移
(CY95=100)
100
90
80
70
適正な時間当たり実質賃金
60
時間当たり実質賃金
50
適正賃金は、1975-87年の生産性と賃金の関係から求めたもの
直近の両者の乖離は1.9%にまで縮小してきた
40
70
72
74
76
78
80
82
84
86
88
90
92
94
96
98
注:時間当たり実質賃金=(雇用者所得/(
雇用者数x総実労働時間)
)
/消費者物価
出所:内閣府、総務省、厚生労働省データより筆者試算
24
00
02
02
供給側の調整で物価は上がらない
建設、卸小売、ノンバンクを中心としたいわゆる過剰債務企業が倒産しないことがデフレの原因だ
という議論がある。彼らが倒産しないがゆえに、残りの企業のマージンが圧迫されるという。しかし、
これは木を見て森を見ない議論である。倒産によって供給力(設備)が削減されても、同時に、それ
は雇用の減少を通じて需要も抑制する。業界内の残存企業のパイ(あるいは市場占有率)は増大して
も、マクロ的な総需要は減少する。事実、過去 10 年間で起こったことは、簿価ベースで 82 兆円の不
良債権の処理(負の供給ショック)とそれに伴う総需要の低迷である。筆者の試算では、製造業 13
業種の中で需要の増加に対して物価の上昇が確認できるのは 9 業種あるが、供給の減少(例: 過剰
設備や不良債権の処理、ゾンビ企業の整理淘汰など)に対して物価の上昇が確認できるのは 2 業種に
止まる。図表 22、23 は、鉱工業出荷(需要側要因)と生産能力指数(供給側要因)がそれぞれ 10%
増加した時の、国内卸売物価への影響をみたものである(中央の実線が平均的な反応、上下の点線が
95%の信頼区間)。図表 22 では、需要の増加によって卸売物価が統計的に有意に上昇していることが
確認できる。しかし、図表 23 からは、供給の増加(減少)は卸売物価に統計的に有意な影響を与え
ていないことが分かる15。供給側を整理淘汰してデフレを止めることはできない。デフレの下では不
良債権処理に終わりは訪れない。不良債権はデフレの結果であって、原因ではない。
図表22
1.6
出荷(需要)が 10%増加した時の国内卸売物価の反応: 全製造業
(%)
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
中央の実線は平均的反応、上下の点線は95%の信頼区間
0.2
(経過月数)
0.0
-0.2
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
注: 輸入物価、鉱工業出荷、生産能力指数、国内卸売物価の4変数の多変量
自己回帰モデルの結果、ラグ次数は4、いずれも自然対数、推計期間は1995年5月∼2002年9月
出所: 日本銀行、経済産業省データより筆者試算
`
松岡(2002I)。輸入物価、鉱工業出荷、生産能力指数、国内卸売物価(いずれも自然対数)の 4 変数か
らなる多変量自己回帰モデルから、国内卸売物価の鉱工業出荷(需要側要因)と生産能力指数(供給側要
因)に対するインパルス応答関数を計測した。推計期間は 1995 年 5 月∼2002 年 9 月。また、国内卸売物価
の変動に対する分散分解の結果、鉱工業出荷の影響力が生産能力指数のそれを上回ったのは 7 業種であっ
た。
15
25
図表23
5
生産能力(供給)が 10%増加した時の国内卸売物価の反応: 全製造業
(%)
4
3
2
1
0
-1
中央の実線は平均的反応、上下の点線は95%の信頼区間
-2
-3
-4
(経過月数)
-5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
注: 輸入物価、鉱工業出荷、生産能力指数、国内卸売物価の4変数の多変量
自己回帰モデルの結果、ラグ次数は4、いずれも自然対数、推計期間は1995年5月∼2002年9月
出所: 日本銀行、経済産業省データより筆者試算
`
金融政策の比較優位は構造改革にあらず
縦軸に物価、横軸に生産量をとると、需要曲線は右下がり、供給曲線は右上がりとなるが、不良債
権処理や企業の退出によって供給を絞ると、供給曲線は左上にシフトする(図表 24)
。需要曲線が不
変であれば物価は上昇するが、同時に需要も減少するのだから、需要曲線が左下にシフトする。結局
のところ、物価はマイルドに低下し、生産量が大幅に減少する(大幅なデフレギャップの発生)。こ
のまま、供給力を削減し続ければ、やがて生産量はゼロに達するであろう。ゾンビ企業の整理淘汰で
日本経済の足腰を強くしようというメッセージは、投資家の心理にアピールしやすいのだが、現実に
は、合成の誤謬を無視している。創造的(creative)破壊の議論は、そのままに実践されれば、想像的
(imaginary)破壊に終わってしまう可能性が高い。金融政策は、低金利によって企業のキャッシュフ
ローを潤沢にしてリストラ資金を確保し、リストラを早期に終了させる機能を有している。金融政策
の比較優位は構造改革の推進にあるのではない。構造改革の推進は、税制の改革(課税最低限や限界
税率の引き下げ、租税特別措置の撤廃、外形標準課税、連結納税制度の導入等を通じて、企業や個人
が利益・所得を求めるインセンティブを高める税制に変えていく)
、規制緩和、労働市場の流動化、商
法の改正、倒産法制度の整備、を通じて実施していくべきである16。金融政策が構造改革にコミット
してしまうと、構造改革実施期間中の景気回復局面で金融を引締めることができなくなる。政治的な
圧力に屈しないためにも、構造改革と金融政策は切り離すことが重要である。
16
供給側の調整が不要だと論じているわけではない。供給側の調整に金融政策は比較優位を有していない
ということである。供給側の調整のより望ましい方法については、小林・加藤(2000)に詳細に議論されて
いる。
26
図表24
不良債権の処理は負の供給ショック
物価 (P)
S1
[2]
供給曲線のS1への
シフトによる負のフィード
バック(需要の減少)
S0
[1]
限界的企業の退出、
設備廃棄
P 0=P1
D0
D1
生産量、所得 (Q)
Q1
Q0
注:[1]は負の供給ショック、[2]は負の需要ショック
(10) 超低金利になったために、銀行の債券保有増大によって金利上昇が銀行収益に与える影響が大き
くなっている
(11) さらなる非伝統的な金融緩和を続けていくと、日銀のバランスシートの劣化が起こり、これは中
央銀行の信認を毀損する
デフレがインフレになれば、当然、固定金利債券の価格は低下する。しかし、金融機関や家計(中
央銀行も)は、それをヘッジする手段をもっている。彼らの資産運用スタンスが不変だと考える必要
はない。インフレが起こるほどに景気が拡大している中では、貸出の期待収益率は上昇しているはず
で、貸出金利の上昇を通じた利鞘の拡大が、債券保有による評価損を相殺するのが通常である。そも
そも、金融機関は市場金利の変動を通じて経済的な付加価値をもたらしているはずだから、金利が上
昇して債務超過になってしまうような金融機関は、おそらく限界的な金融機関だと考えざるを得ない。
日銀が、長期金利の上昇にあまりにも敏感になっていることは、限界金融機関の存続を通じて、護送
船団方式を間接的に支持していることを意味するのだろうか。そのようには考えたくない。金融シス
テムに対する影響が大きいという場合には、公的資金の投入によってそのリスクを遮蔽するというオ
プションも残されている。
日銀が、国債よりも価格変動リスクの高い外債や株式を購入することに慎重であることは理解でき
27
る。ただし、デフレは通貨価値が高すぎることも意味する。日銀のバランスシートそのものに、民間
金融機関と同じ意義を見出すのは困難である。1990 年末から 2001 年末にかけて、日本の国富(正味
資産=金融資産+非金融資産−負債)は 3,552 兆円から 2,907 兆円に減少(646 兆円の減少)したこと
がより重要であろう。最終的に景気を回復させて、ある程度のインフレを発生させるのであれば、中
央銀行のバランスシートにおいてもリスクヘッジをする必要性が出てくるかもしれない。わずかなが
ら円安圧力が発生しやすくなろう。その際には、外債や株式がバランスシート上に含まれていること
が、リスクヘッジとして有効である。
(12) さらなる金融緩和は中央銀行による国債の直接引受につながり極めてインフレ的である
買切りオペと直接引受の差
中央銀行による国債引受と現在の長期国債買切りオペに、実は大きな差異は見出せない。次の 2 つ
の例を比較していただきたい。第一は、(プライマリー収支でみた)財政赤字が 30 兆円あって、その
うち 10 兆円を日銀が新発債として直接に発行市場から(市場金利で)購入する。これは 10 兆円相当
の財サービスの新規需要を日銀がファイナンスしたことになる。マネタリーベースは 10 兆円増加す
る。第二は、30 兆円の財政赤字全額が銀行、非金融民間部門の新発債購入によって消化され(この時
点でマネタリーベースは増えない)、同一年度内の数ヶ月後に日銀が国債買切りオペで 10 兆円を(流
通市場で)購入する。この時点でマネタリーベースが 10 兆円増加する。第一と第二の例で、日銀は
結局のところ 10 兆円相当の財サービスの新規需要をファイナンスしたことになる。
成長通貨の供給は買切りオペによって実施するとされており、これを国債引受と呼ぶのであれば、
すでにそれは過去から実施されている。図表 25 によると、日銀が保有する国債の保有残高の前年差
(GDP 比)は、多くの期間でプラスの値となっている。その時期にハイパーインフレが起こったとい
うことはない(1970 年代前半にインフレ率が 30%に達したが、それはマネーサプライの急増によるも
のであって、必ずしも日銀の国債購入が巨額になったためではない)。いいかえれば、マネタリーベ
ースの増加は(定義上)、日銀貸出、国債購入、あるいは現金の増加によって起こるのであり、この
伸びが余りにも急速になる場合には、究極的にインフレが加速するのである。国債買切りオペは、マ
ネタリーベースの増加する経路の一つにすぎず、これだけを取り出して、国債の直接引受はハイパー
インフレにつながる、というのは、矮小化された議論であろう。より重要なことは、インフレが加速
する兆候が出た時に、政治的な圧力を排して金融引締めに向かう環境を今のうちから整備しておくこ
とであり、インフレターゲットは、その意味で日銀に対して保険を提供するものだと考えるべきであ
る。
そもそも筆者にとって不可解なのは、ゼロ金利の下で金融政策が無効だとする論者が、同時に、さ
らなる金融緩和をすればハイパーインフレになるといって心配している場合があることだ。金融政策
が無効なら物価にも何ら影響が出ないはずではないか。
28
日銀の国債購入額と経済活動
図表25
8
(GDP比、% )
(前年比%)
20
15
6
10
4
5
2
0
-5
0
-10
-2
日銀B/S上の国債残高増加額、前年差(左)
マネタリーベース増加額、前年差(左)
-15
鉱工業生産(右)
-4
-20
71
73
75
77
79
81
83
85
87
89
91
93
95
97
99
01
出所: 日本銀行、内閣府、経済産業省
(13) 物価に影響を与えるのは金融政策ではなく財政政策である
これは、「財政政策による物価決定理論(Fiscal Theory of the Price Level: FTPL)」と呼ばれる考え方に基
づくものである。FTPL の議論の出発点は、政府の長期的な予算制約式(政府債務は将来の財政黒字で
返済される)であり、D/P=PVPB と表される17。ここで、左辺は実質公債残高(D は名目政府債務、P
は物価)、右辺は将来のプライマリー財政黒字の現在割引価値である。これは、P=D/PVPB と書き直す
ことができる。積極財政によって将来のプライマリー財政黒字が減少すれば、右辺分母の低下を通じ
て物価が上昇する。しかし、現在の積極財政が将来の増税期待を抱かせない、あるいは、将来の増税
が必要でないほど高い財政乗数を前提としている、という 2 点において、筆者は FTPL の成立につい
て懐疑的である。
次のような例を考えてみる。P=D/PVPB の各項目の伸び率を小文字で表すと、近似的に p=d−pvpb と
なる。ここで、p はインフレ率、d はデットダイナミクス、pvpb は将来のプライマリー財政黒字の現
在割引価値の変化率である。インフレ率とデットダイナミクスの 2 変数は観察可能なので、pvpb を求
めることができる(現在の日本では、GDP デフレーターでみた現在のインフレ率は年率約-0.015、デ
(13)節は、松岡(2002I)から抜粋した。D/P=PVPB の考え方は、岩田(2002)に示されている。FTPL の詳
細については、Carlstrom and Fuerst (2000)、Christiano and Fitzgerald (2000)、Kocherlakota and Phelan (1999)、Woodford
(2001)、木村(2002)を参照。
17
29
ットダイナミクスは約+0.07(政府債務/GDP 比が年率 7%ずつ増大している)であるから、pvpb は約
+0.085 となる)。FTPL の前提は、積極財政が多大な景気刺激効果(非リカーディアン効果、あるいは
単にケインズ効果)を有するということであり、積極財政が実施された時に、PVPB は減少(pvpb は
マイナスの値)、緊縮財政では PVPB は増加(pvpb はプラスの値)するはずである。そこで、財政政策
のスタンスを構造的なプライマリー財政収支/潜在 GDP 比の前年差で代用し、これと pvpb の相関係
数を主要 7 ヶ国について求めてみた(図表 26)
。FTPL が成立すれば、相関係数は統計的に有意にプラ
スの値をとるはずだ。しかし、日本の-0.27 をはじめとして、イタリアと米国で-0.22、イギリスで-0.20
と、4 ヶ国で統計的に有意にマイナスとなった。残り 3 ヶ国もゼロ近辺の値に止まり、統計的に有意
にプラスの値を示した国はなかった。
日本では 1990 年から 2000 年にかけて、構造的なプライマリー財政収支/GDP 比が 7.9%ポイントも
悪化(積極財政の実施)したが、そのほとんどの期間について、将来のプライマリー財政黒字の現在
..
..
割引価値は増大し(図表 27)、GDP ギャップは 6.1%ポイントも悪化した。財政政策は一時的な景気刺
激効果を有するにすぎず、財政政策そのものでマネタリーベースは増大しない。度重なる財政出動が
景気を持続的に刺激できなかったにもかかわらず、財政出動によってデフレ(物価の継続的な下落)
を阻止しようという考え方は、失敗する可能性が高い。
図表26
構造的プライマリー財政収支/潜在GDP比(前年差)と
将来のプライマリー財政黒字の現在割引価値(前年比)の相関係数
国名
対象期間
相関係数
カナダ
1972-2001
-0.085
フランス 1978-2001
0.057
ドイツ
1967-1989
0.011
イタリア 1965-2001
-0.222
日本
1971-2001
-0.268
イギリス 1987-2001
-0.199
米国
1965-2001
-0.217
出所:OECD, Economic Outlook, No. 71, June 2002 Databaseより
筆者試算
30
図表27
15
構造的プライマリー財政収支と将来のプライマリー財政黒字の現在割引価値(日本)
(%)
(%)
1.5
10
1.0
5
0.5
0
0.0
-5
-0.5
-10
-1.0
相関係数は-0.268
-15
-1.5
-20
-2.0
構造的プライマリー財政収支/潜在GDP比前年差(右)
将来のプライマリー財政黒字の現在割引価値前年比(左)
-25
-2.5
-30
-3.0
71
73
75
77
79
81
83
85
87
89
91
93
95
97
99
01
出所:OECD, Economic Outlook, Vol. 71, June 2002 より筆者試算
3. 金融政策の望ましい将来の方向について
デフレ解消のために金融政策が担う役割は重要である。今後、さらなる金融緩和を実施する場合、
デフレ脱却に向けてより強い信認を得るためには、どのような選択肢が残されているだろうか。金融
政策が、前人未到の領域に入っていく中では、手探りながらも何らかの新たなガイドラインの下で金
融政策を運営することが必要となる。目安ではあるが、マネタリーベースの「伸び率」目標の導入に
よって、インフレ期待にも影響を与えつつ、名目 GDP 成長率の回復を目指すことが必要であろう18。
また、デフレの下で民間部門の資産選択への歪みを排除するために、民間部門が保有する各種証券の
残高にほぼ比例する形で買切りオペを実施することが望ましい。
(1) 第一の思考実験: 国債買切りオペの増額
第一の思考実験として、480 兆円の市場性国債をすべて買切った場合を考えてみる。同額の日銀当
座預金の増加(480 兆円の現金の増加)が起こる。これは銀行からだけではなく、国債を保有する家
計、企業から国債を買い上げて現金を渡す政策である。購買力が増大したと錯覚した家計、企業は消
費や投資を増大させるが、一方で、すぐには供給(生産能力)が増えないために、需給ギャップは縮
小しよう。金融政策は長いラグをもって景気に影響を及ぼす(12~18 ヶ月後に効果がピークとなる)
名目所得を金融政策の最終目標にする考え方については、例えば、Feldstein and Stock (1994)、Hall and Mankiw
(1994)等が挙げられる。
18
31
というのが、これまでの実証研究の結論である。景気への刺激とインフレ圧力は確実に発生する。イ
ンフレ期待に働きかけるためには、日銀当座預金残高の「水準」を目標とするのではなく、マネタリ
ーベースの「伸び率」を目標とすること、日銀の購入した国債が満期を迎えた時に、再びロールオー
バーして資金供給を続けると宣言することが必要かもしれない。インフレによる歳入の増大(通貨特
権に伴うもの)も実現する19。長期金利はいずれは上昇するであろうが、日銀が国債購入を継続して
いる限り、金利の上昇圧力は減殺されよう。単純化のために 480 兆円全額を買切ると仮定したが、こ
こまで極端なことを実施する前に、景気は回復し始めているはずである。要するに、国 債買切りオペ
の実施額をさらに増大させていくことで、ポートフォリオのリバランスを通じて、より景気刺激的な
金融政策を実施することが可能となる20。
(2) 第二の思考実験: ヘリコプターマネー
第二の思考実験として、ヘリコプターマネーを考えてみる。ここでは、財政再建路線を維持しなが
ら、支出の中身を公的支出から民間消費にシフトさせるための手段としてヘリコプターマネーを考え
ている。具体的には、次のようなプロセスを考えてみたい: 日銀当座預金を決済口座とするデビッ
トカードを個人に配布し、年間利用額の一定額(例えば一人 40,000 円: 日本全体で約 5 兆円)まで
は、日銀当座預金から引き落とされる(各個人の銀行口座からではなく)。1 年間での利用額が上限に
達した人だけ、翌年も同額を利用することができることとし、デビットカードは M2+CD の伸びが年
率 A% に達するまで有効とする(例: A=5∼6%とする)。日銀はデビットカード利用額に相当する金額
だけ、新発国債を市場金利で購入し、マネタリーベースを増大させる。
家計には、流動性制約下の家計とライフサイクル家計が存在する(家計数のウェイトでは単純化の
ために 50%ずつと仮定しておく)が、通常の減税では前者は恩恵をほとんど得られない。流動性制約
下の家計の限界消費性向は 1 であるから、彼らはデビットカードを上限額まで利用するであろう。ラ
イフサイクル家計は、将来のことも考慮するので、上限額まで利用したとしても、自らの所得による
消費をある程度抑制することになろう。リカーディアン家計が存在したとすれば、40,000 円だけ自ら
の所得による消費を削減しよう。ここでは単純化のため、流動性制約下の家計以外の全員がリカーデ
ィアンだと想定しておく。その結果、ヘリコプターマネーによる限界消費性向は 0.5 となろう。政府
は一方で、財政再建に対する信認を高めるために、毎年 2.5 兆円の歳出削減(主に公共投資)を実施
しかし、通貨特権だけで現在の財政赤字を解消することはできないであろう。Romer (1996)によると、通
貨特権の最大値は多くの国で GDP の 10% 程度と考えられる。しかし GDP 比 2% 分の通貨特権を手にするた
めに必要なマネタリーベースの伸びは 24% 、5% 分では 70% の伸びが必要となる(定常状態においてマネタ
リーベースの伸び=インフレ率と想定した場合)。インフレは既存債務の実質価値を減少させるが、プライ
マリー財政収支が赤字である限り、新たな政府債務が発生する。政府債務/GDP 比の安定化のためには、
プライマリー財政収支の黒字化が必要であり、財政再建努力の継続が不可欠である。
19
20
単純化のため、ここでは買切りオペの対象を国債に絞って考えている。しかし、国債に限らず、貨幣と
の代替性が完全ではない資産(例: 外債、ETF、株式等)と貨幣との交換によっても同様の効果が得られ
る。銀行からの購入に限らず、市場から幅広く購入することで、民間非金融部門に直接的にポートフォリ
オ代替効果を与えることが可能であろう。
32
する21。これをヘリコプターマネーの実施期間中、継続する。この結果、総需要は不変となる。変わ
ったのは、需要の中身が、政府の裁量で決定される公共投資から個人の裁量で決定される個人消費に
シフトしたことである。往々にして、政府の裁量(見える手による資源配分)は非効率を招きやすい。
政府の関与を減らすことは構造改革路線とも合致しよう。財政再建に対する信認が高まれば、リカー
ディアン家計も自らの所得からの消費の削減幅を小さくすることが可能となる。
(3) マネタリーベース「伸び率」目標の導入
名目 GDP、物価、マネーサプライの関係
第二の思考実験の結果、少なくとも総需要は減少しない。ここに第一の思考実験を追加することで、
確実にネットの効果はプラスとなろう。
問題は、第一の思考実験どおり 480 兆円を 1 年間で買切れば、
確実にインフレが加速することである。そこで、インフレの加速を阻止するための、インフレターゲ
ットの導入が必要となるかもしれない。どの程度の国債買切りを実施すべきかは、まず、年間のマネ
タリーベースの伸びを設定し、それに達するための必要な国債買切り額を逆算することになる。前出
(1)式のような transition dynamics は捨象するとして、長期的な貨幣の中立性を基に考えると、次の 2 つ
の関係から、インフレ率を適度なプラスの値に戻すために必要なマネーサプライ(M2+CD)の伸び率
について、おおよその見当をつけることができよう。それは、図表 28、29 に基づく。これらの図表
は、OECD 主要 19 ヶ国の 1970-1998 年における年平均の GDP デフレーター上昇率(p)、名目 GDP 増加
率(y)、マネーサプライ増加率(m)の関係を表したものである(括弧内は t 値)。
y = 1.007 × m – 1.345 ..... (3)
(15.0)
(- 1.507)
Adj. R-squared = 0.926, S.E. = 1.519
p = 0.916 × m – 3.366 ..... (4)
(15.2)
(- 4.196)
Adj. R-squared = 0.927, S.E. = 1.366
図表 28 および(3)式について、因果性の方向は名目 GDP からマネーサプライにではないかとの指摘
があろう。しかし、名目 GDP、物価、マネーサプライといったマクロ経済変数間の因果性は、双方向
に成立すると考えるのが穏当である。因果性の方向がマネーサプライから名目 GDP だけだとまで議論
するつもりはない。双方向の因果性が成立していれば、マネーサプライを増やす努力はいずれ名目
GDP に反映される。コールレートが 0.5%に低下した 1995 年以降、マネーサプライと他のマクロ経済
変数との関係が不安定化したと議論される場合がある。図表 28、29 には 1995Q1∼2002Q3 の期間の日
本の年率変化率の組み合わせを■印で記入したが、1970∼1998 年に OECD 諸国で観察された関係にほ
緊縮的財政政策が景気に対して刺激効果を与える可能性については、例えば、Alesina and Perotti (1997)、
Bertola and Drazen (1993)、Kormendi and Meguire (1995)、Seater (1993)などを参照。
21
33
ぼ一致している。今ここでマネーサプライを増やす努力を怠れば、日本経済は、図表 28、29 におい
て、さらに左下の象限(第 3 象限: 名目 GDP 成長率とインフレ率のマイナス幅の拡大)に沈んでい
くであろう。
図表28
名目GDP増加率
(y; 年率、%)
30
名目成長率とマネーサプライの関係
(1970-1998年)
45度線
25
20
15
95Q1-02Q3 の日本
(y=0.2, m=3.2)
y = 1.007 * m - 1.345
(15.0)
(-1.507)
Adj. R-sq. = 0.926
s.e. = 1.519
10
5
マネーサプライ増加率(m ; 年率、%)
0
0
5
10
15
20
25
30
出所: OECD, Economic Outlook, No. 69 ( June 2001)における先進国19ヶ国のデータ
図表29
GDPデフレーター
上昇率(p; 年率、%)
30
インフレ率とマネーサプライの関係
(1970-1998年)
45度線
25
20
15
95Q1-02Q3の日本
(p=-1.0, m=3.2)
10
p = 0.916 * m - 3.366
(15.2)
(-4.196)
Adj. R-sq = 0.927
s.e. = 1.366
5
0
0
5
10
15
20
25
30
マネーサプライ増加率(m; 年率、%)
-5
出所: OECD, Economic Outlook, No. 69 (June 2001)における先進国19ヶ国のデータ
34
図表 30 は、より controversial である。貨幣の中立性が成立するはずの、ほぼ 30 年という長期間をみ
ても、マネーサプライの伸びと「実質」GDP 増加率に有意な関係が観測される(マネーサプライを 1%
ポイント増大させると、実質 GDP 増加率が 0.09%ポイント上昇する)
。両者の関係は(t 値は 2.6 と比
較的低いものの)統計的に有意である。ここでは長期的な貨幣の中立性については深く立ち入らない
22
。
図表30
実質GDP成長率
(r; 年率、%)
30
実質GDP成長率と名目マネーサプライ成長率の関係
(1970-1998年)
45 度線
25
20
15
r = 0.091 * m + 2.021
(2.6)
(4.4)
Adj. R-sq = 0.249
s.e. = 0.781
95Q1-02Q3の日本
(r=1.2, m=3.2)
10
5
マネーサプライ増加率(m; 年率、%)
0
0
5
10
15
20
25
30
出所:OECD, Economic Outlook, No. 69 (June 2001)における先進国19ヶ国のデータ
共和分関係の検討
さて、上記(3)、(4)式から、インフレ率(p)が 1∼2%になるようなマネーサプライ(M2+CD)の伸び
(m)を求めると、おおよそ年率 5∼6%の伸びが必要となることが分かる(図表 31)
。これらの関係に
基づいて、マネーサプライの必要な伸びを求めようとする場合、変数間に長期的な安定的な関係(共
和分関係)が存在することが望ましい。そうすれば、たとえ、金融緩和の当初に、実体経済や物価に
何ら効果が発現しない場合にでも、長期的には有効であることが担保される。日本において、1970 年
以降の名目 GDP、M2+CD、GDP デフレーターの間にそのような共和分関係が存在するかどうかをチェ
ックしてみると、3 変数の間に少なくとも 1 つの共和分が存在することが確認される(図表 32)。
金融乗数効果(Financial accelerator)や実質賃金の下方硬直性を考えると、名目マネーサプライ成長率と
実質 GDP 成長率の関係は 1 次ではなく 2 次関数によって表されるという議論が出てくるかもしれない。
22
35
図表31
5-6%のM2+CDの伸びを実現するために必要な国債買切りオペの規模(試算)
1970 −1998年のOECD19ヶ国における
名目 GDP 成長率(y)、マネーサプライ伸び率(m)、インフレ率(p) の関係
(単位:%)
p = 0.92*m - 3.37
y = 1.01*m - 1.35
ケース1,2: m=5.0 のとき、y=3.7 、p=1.2 、y-p=2.5
ケース3,4: m=6.0 のとき、y=4.7 、p=2.1 、y-p=2.6
目標とするM2+CDの伸び
前提条件
貨幣乗数
限界貨幣乗数
銀行券の伸び [A]
ケース1
5%
ケース2
5%
ケース3
6%
ケース4
6%
7.5
7.5
7.5
7.5
3
2
3
2
5%
5%
5%
5%
(3.6 兆円) (3.6兆円) (3.6兆円) (3.6 兆円)
日銀国債保有残高のうち年間償還額(2002年度)[B]
8.4 兆円
8.4兆円
8.4 兆円
8.4兆円
M2+CDの目標伸びを実現するために必要なマネタリーベースの伸び [C]
12%
18%
14%
22%
(11 兆円) (17 兆円) (13兆円) (20 兆円)
日銀当座預金残高の必要年間増額 [D=C-A]
7.4 兆円 13.4兆円
9.4 兆円 16.4兆円
グロスの必要買切り額 [B+D]
年間
15.8 兆円 21.8兆円 17.8 兆円 24.8兆円
毎月換算額
1.32 兆円 1.82兆円 1.48 兆円 2.07兆円
出所:OECD, Economic Outlook databaseより筆者試算
図表32
Johansenの共和分テストの結果
5%の有意水準で存在する共和分関係の数
モデル1
モデル2
データのトレンド
線形
線形
共和分の定式化 定数項
あり
あり
トレンド
なし
線形
テストの種類
Trace Max Eigen- Trace Max Eigenvalue
value
ラグ次数
1
1
1
1
1
2
1
1
1
1
3
1
2
1
1
4
1
1
1
1
標準化された共和分関係(
定数項やタイムトレンドの部分を除く)
ラグ次数
1
y - 0.58p = 0.41m
y + 0.65p = 1.32m
2
y - 0.67p = 0.29m
y + 0.46p = 1.15m
3
y - 0.75p = 0.03m
y + 1.39p = 1.67m
4
y - 0.65p = 0.37m
y - 0.05p = 0.82m
GDPデフレーターの式の調整スピードのパラメーター
ラグ次数
1
-0.020 *
-0.040 *
2
-0.002
-0.020 *
3
0.000
-0.009 *
4
0.006
-0.004
注:推計期間:1970Q1 - 2002Q3
変数は、名目GDP、M2+CD、GDPデフレーター(
いずれも自然対数)
*は5%水準で有意
出所:日本銀行、内閣府データより筆者試算
36
必要な買切りオペの額は 1.3∼2.1 兆円
貨幣乗数(M2CD/MB)が 7.5、限界貨幣乗数(ΔM2CD/ΔMB)が 3、M2+CD の目標伸び率を年率 5∼
6%とした場合、マネタリーベースは年率 12∼14%(11∼13 兆円)の伸びが必要となる(図表 31 のケ
ース 1 とケース 3)。マネタリーベースのうち銀行券の伸びが 5%(3.6 兆円)とすれば、残りの 7.4∼
9.4 兆円が、日銀の国債保有残高の年間純増額(購入額マイナス償還額)となる。償還額が 8.4 兆円(2002
年度)であるから、グロスの買切り額は年間 15.8∼17.8 兆円(月額 1.32∼1.48 兆円)となる。仮に、
限界貨幣乗数が 2 に低下しているとすれば、マネタリーベースは年率 18∼22%(17∼20 兆円)の伸び
が必要となり(図表 31 のケース 2 とケース 4)、国債保有残高の年間純増額は 13.4∼16.4 兆円が必要と
なる。グロスの買切り額は年間 21.8∼24.8 兆円(月額 1.82∼2.07 兆円)が必要である。ケース 1 から
ケース 4 までをみると、月間の長期国債買切りオペの必要額は 1.3∼2.1 兆円となる23。インフレ期待
を急激に醸成させない買切り額の上限の目安としては、一 般政府プライマリー財政赤字を上限とする
こと、同時に、プライマリー財政赤字は毎年削減する方針を堅持することが望ましい24。ちなみに、
現時点で、プライマリー財政赤字は GDP 比約 6%25(30 兆円)であるのに対して、GDP 比でみたマネ
タリーベースの増加額は 3.3%(16.7 兆円)に止まっている(図表 33)。
図表33
8
政府財政赤字とマネタリーベース増加額
(GDP比、% )
財政赤字
6
構造的プライマリー財政赤字
マネタリーベース増加額、前年差
4
2
0
-2
財政黒字
-4
71
73
75
77
79
81
83
85
87
89
91
93
95
97
99
01
注: プライマリー財政黒字はマイナスの値
出所: 内閣府、日本銀行、OECD
23
日銀当座預金の「水準」を目標とする金融政策で買切りオペ額を示すのは、本来整合的ではない。当
座預金水準を維持する一方で、買切り額を満たすためには、手形や政府短期証券の売りオペを増やさざる
を得ない。
24
財政赤字>買切りオペ額の場合、金融政策の効果はポートフォリオ・リバランス効果を通じて波及する。
財政赤字<買切りオペ額の場合、ポートフォリオ・リバランス効果に加えて直接的に財政需要の増大をファ
イナンスすることとなる。
OECD, Economic Outlook, No. 71, June 2002 によると、2002 年の一般政府の構造的プライマリー財政収支は
30 兆円(GDP 比 6.0% )である。
25
37
限界貨幣乗数が 2 あるいは 3 のいずれの場合も、一般政府の構造的プライマリー財政赤字(約 30
兆円)の範囲内のマネタリーベースの増加に止まるため、インフレ圧力が急速に高まり金融市場が混
乱する可能性は低いであろう。金融バブルの再来リスクが、今すぐに高まるとは考えにくいが、名目
長期金利と名目 GDP 成長率の差(図表 34: 通常は前者が後者を上回る)が逆転する時期が訪れれば、
金融政策の方向転換を検討し始めるべきであろう26。
図表34
12
長期金利が名目成長率を下回ると資産価格のバブルが持続する
(%)
10
8
6
名目GDP成長率(前年比)
10年物国債利回り
4
2
0
-2
-4
-6
80
82
84
86
88
90
92
94
96
98
00
02
出所: 東証、内閣府
(4) 購入資産の多様化: デフレの下での資産選択への歪みの是正
図表 31 では、マネタリーベースの増加のために必要となる資産の購入は、すべて長期国債と想定
した。しかし現実には、民間の資産選択に歪みを生じないように、各種の証券をバランス良く購入す
ることが望ましい。なぜなら、デフレであるがゆえに、リスク資産を購入する誘因が弱まっている上
に、安全資産である国債を毎月一定額中央銀行が購入するため、民間部門の資産選択に歪みが生じて
いるように考えられるためである。これは図表 35 のように例示できる。これは、金融資産投資の有
効フロンティアを描いたもので、複数の資産を組み合わせることで、期待収益率を高めリスクを抑制
することが可能であることを示している。○印は国債のみに単独投資をした場合の期待収益率とリス
クの組み合わせ、△印は株式のみに単独投資をした場合の期待収益率とリスクの組み合わせ、◎印は
国債と株式を組み合わせて投資をした場合の期待収益率とリスクの組み合わせである。実線は通常の
26
金融バブルの持続性の条件については、例えば Tirole (1985)を参照。
38
マイルドなインフレ下で、中央銀行による国債買切りオペが行われない場合である。国債は低リスク
低リターン、株式は高リスク高リターンとなり、両者を組み合わせることで、有効フロンティアのよ
り左上の位置(左上ほど効用水準が高い)に移動することができる。
しかし、デフレの下では、そもそも株式の期待収益率が低下しており、さらに国債買切りオペが実
施されることで、国債投資の短期的な期待収益率が上昇、リスクが低下してしまう。したがって、株
式を購入する必要がなくなる。長期的には国債と株式の裁定が働くものの、国債に資金集中が起こり、
意図したポートフォリオのリバランスが起こるためには、金融機関の手元から国債がなくなるほどの
規模の国債の累積購入が必要となろう。
図表35 デフレの下での国債買切りオペによる期間期待収益率への歪みの発生
期待収益率
有効フロンティア
リスク(期待収益率の変動)
注:○は国債投資単独の期待収益率とリスクの組み合わせ
△は株式投資単独の期待収益率とリスクの組み合わせ
◎は両者を組み合わせた場合の組み合わせ
実線は通常の場合、点線は現状
デフレの下での国債買切りオペによって、矢印のように期間損益ベースの期待収益率に
歪みが生じ、短期間ではポートフォリオリバランスが発生しにくい
(
長期的には、債券と株式の期待収益率とリスクのトレードオフは通常の
状態に戻ると考えられるが)
そこで、この歪みを除去し、スムースなポートフォリオリバランスを実現するために、民間部門が
保有する各種証券の残高にほぼ比例する形で買切りオペを実施することが望ましい。金融機関と国内
非金融部門の合計が保有する主要金融資産の残高は、国債(政府短期証券を除く)が 486 兆円、対外
証券投資(外国政府債券、外国株式や外貨建て社債・CP などを含む)が 222 兆円、国内株式が 228 兆
円となっている(2002 年 9 月末; 出所は資金循環勘定)
。そこで、おおよその配分として、国債 2:
39
外債 1:株式(ETF 含む)1 という比率で資産を購入しマネタリーベースを増大させることが、民間の
資産選択に対して中立的だと考えられる。
(5) インフレターゲットの意義
インフレもデフレも貨幣的現象であるというのは真実である一方、金融政策の変更が物価に至るま
での波及経路と経過時間は複雑でかつ長期に及ぶ。図表 17 で示したように、GDP ギャップで表した
景気循環から 4 四半期も遅れてインフレ率が変化するため、年率 1∼2%のインフレを達成するまで金
融緩和を継続すれば、それは景気拡大局面におけるアクセルの吹かしすぎ、後退局面におけるブレー
キのかけすぎ、というこれまでにも確認された景気循環を増幅させる金融政策の繰り返しになってし
まう。最終的な金融政策の目標は、マネーサプライの伸びをみながら名目成長率の回復を目指す、と
考えた方が良い。政治的圧力からインフレバイアスがかかりやすい局面が当分は予想されるため、こ
れを回避するための方策として、インフレターゲットを導入するのは一考に価するであろう。主張し
たいポイントは、関心がインフレ/デフレに向かいすぎれば、思考プロセスが backward-looking になる
リスクが高いという点である。インフレターゲットの導入にあえて固執する必要はない。
(6) デフレ終了に伴う混乱とコスト
これまで述べてきたことは、デフレの終焉に混乱が生じないということではない。景気回復の結果、
長期金利の上昇は避けられないであろう。デフレからインフレにレジームがシフトすることで(いず
れもマイルドな規模ではあるが)、所得分配の新たな歪みが生じることはやむを得ない(債務者利得
が発生する)
。しかし、1%のデフレに伴うコストと 1%のインフレに伴うコストを考えれば、通常は、
後者が前者よりも小さいであろう。デフレが続けば、賃金の下方硬直性を通じてデフレスパイラルが
発生しやすくなるし、企業リストラは単に一過性の利益改善効果を生じるにすぎない。正常債権は究
極的には不良債権に転化してしまう。少なくとも名目経済活動の安定に必要なマネーサプライを供給
することで、景気変動の下振れリスクを除去し、経済活動が円滑に進むような配慮が必要であろう。
4. おわりに
本稿では、デフレを克服するための金融政策の役割に焦点を絞って、金融緩和消極論に対する疑問
と、望ましい政策手段について検討した。筆者は、金融緩和で全てが解決すると議論しているわけで
はない。金融緩和と同時に実施すべき各種の政策を否定するつもりもない。ただ、(1) マネーサプラ
イは名目経済活動のアンカーである、(2) 物価の継続的上昇も下落も貨幣的現象である、(3) 貨幣の中
立性は短期的には成立しない、(4) 財政政策ではマネタリーベースは増えない、という点を考慮すれ
ば、金融政策がデフレ脱却に向けて果たす役割は、依然として大きいと考えるのである。
40
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