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平成19年度修士学位論文 作業面背景色の持つ性質が作業者に

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平成19年度修士学位論文 作業面背景色の持つ性質が作業者に
平成19年度修士学位論文
作業面背景色の持つ性質が作業者におよぼす影響
̶ 自覚症状しらべとPOMSによる心身への影響調査̶
八戸工業大学大学院工学研究科
博士前期課程
建築工学専攻
村田 淳
平成19年度修士学位論文
作業面背景色の持つ性質が作業者におよぼす影響
̶ 自覚症状しらべとPOMSによる心身への影響調査̶
八戸工業大学大学院工学研究科
博士前期課程
M06412
建築工学専攻
村田
淳
主査
梅津
光男
副査
橋本
典久
副査
月舘
敏栄
1.1 はじめに
本研究は、作業空間における人間の疲労と色彩が人に与える心理的影響に着
目し、作業面背景色を対象とした実験を通して色彩の持つ性質が人間の身体・
精神にどのような影響を与えるのか明らかにすることを目的とする。
空間を研究対象に扱うことから建築の分野ということになり、調査手法にお
ける模型制作の技術、図面読解の知識なども建築に分類される。
‒1‒
1.2 研究の背景
本研究の背景として色彩、疲労、心理という3つの分野が考えられる。
1.2−1 疲労分野における本研究の背景
疲労とは、作業を消化する際に比例して与えられるもののため、作業者に
とって切り離せない恒久的な関係のものである。人に長時間負担がかかり続け
ると身体や精神に疲労感が蓄積されていき、作品の完成度や作業能率の低下、
ケアレスミスなどを引き起こす要因となる。このことから作業者が感じる疲労
を緩和するための工夫を考える必要がある。
1.2−2 色彩分野における本研究の背景
作業環境で疲労の要因となるものは睡眠時間の不足や半拘束時間の延長、休
日の過労や早朝出勤など様々に考えられ、作業そのものの内容によっても変化
するものである。そのため一つの作業に対して対応策を講じることができて
も、他の要員が重なった時など対応しきれない場合が容易に起こりうる。しか
し、いかなる作業の内容においても作業者の視野には作業の対象と背景が存在
することから、単一空間において様々な作業や疲労に対応できうるものとして
作業面背景色に着目した。
1.2−3 心理分野における本研究の背景
色彩の持つ心理的効果はゲーテ1−1)によって次のように提唱されている。
「すなわち色彩は、それが主として帰属している眼という感覚およびその仲介
により心情に対して、その最も普遍的かつ初源的なまま、われわれがその表面
に色彩を知覚する物質の性状あるいは形態との関係なしに、個々には一定の特
殊な作用、並置された場合には調和的あるいは特徴的、しばしばまた不調和な
作用、しかし常に明確な著しい作用を惹き起こし、この作用は精神的なものと
直接的につながっている」
このことから、室内空間の配色を行なう際に色彩が生みだす心理的効果を考
慮に入れることは重要であるといえる。そして色彩の持つ心理的効果を明らか
にすることは、作業を行なう際の快適な空間づくりに繋がると考えられる。
‒2‒
1.3 色彩分野・疲労分野の歴史
(1)色彩分野
色彩論のルーツはかなり古い所からきており、ここではこれをヨハネス・
イッテン1−2)の色彩論を参考として年代・人物ごとに示していく。
起源としては古代エジプト人やギリシャ人が記念碑などの彩色によって多彩
なデザインに喜びを感じたところから始まる。中国人は紀元前80年すでに絵画
の収集、画庫・美術館の作成などを行なう完成された画家であったとされてい
る。同じ頃、黄・青・赤・緑のうわ薬ができていた。紀元前1000年にはヨー
ロッパで多色のモザイクが取り入れられ、画家達は補色を用いて様々な色彩効
果の創造に成功している。1490年頃にはダ・ヴィンチの手記に色彩論が書かれ
ていたようで、このあたりから三原色説や色相環などの理論が提唱されはじめ
ている。ゲーテの色彩論が発刊されたのは1800年代である。1900年代に入ると
色相表で有名なマンセルが登場し、イッテンも色彩教育を始めて現在の色彩分
野が構築されたといえる。
現在では色彩の芸術家も生物学的、心理学的知識を必要としており、色の要
因とそれが人間に与える効果との間にはどのような関係があるのか明らかにす
ることが、芸術家や研究者の大きな関心事となってきている。
(2)疲労分野
疲労の概念づけは古くから試みられている課題である。大島1−3)によれば、こ
の「疲労」という言葉が通俗的な言葉であるため「疲労」というだけでお互い
に通じ合う言葉であること、またそれだけに学問的に追及してゆくのには混乱
が巻き起こる可能性があることなどの理由によって、疲労を概念づける欲求が
高まってきているという。現在では脈拍や心拍数の計測、またはアンケートな
どによる主観評価で疲労の数値化を試みる研究が数多く行なわれており、その
ほとんどが確立している。しかし、ごく自然に何の制約も受けないかにみえる
対象物(疲労)も測定によって取り扱われた段階でそのための影響を受けてお
り、自然の状態のまま観測することは不可能ではないかと大島はいう。そのた
め疲労計測を行なう際は、測定するということが被験者にはなんら影響も与え
ないという先入観で問題を処理していくことは誤りだとし、留意されている。
概念づけ以外に行なわれている疲労研究のほとんどは実測である。近代労働
において歴史を振り返ってみると、疲労研究はそれを追う形で研究を行なって
きているためおのずと研究の歴史を辿ることにつながる。オートメーション化
による「肉体労働から精神労働への変容」に始まり、世界傾向にある「労働時
間の短縮」、年々増加する傾向にあるという「24時間操業の増加」、統計会計
機導入による「事務作業の工場化」、と多岐に渡って研究が行なわれてきてい
る。その他にもスポーツによる疲労や精神疲労など様々な場面があげられる。
‒3‒
1.4 関連研究
本研究の関連する分野は、色彩、心理、疲労と多岐にわたっている。各分野
における本研究の位置付けを以下に述べる。
1.4−1 色彩研究における本研究の位置付け
色彩研究では室内空間における色彩選定を主として展開し、色彩が室内環境
やインテリアにおける家具選定などに与える影響を調査するものが数多く報告
されている。
小林ら 1−4) は、カフェテリアを対象とした内装色彩が異なる室内模型を用い
て、家具の色彩選定やレイアウトの仕方を実験的に検討している。これによ
り、内装色彩の与える影響が「同系色の家具で配色しようと働くもの」と「対
照な配色にしようと働くもの」の二つに大きく分かれることを定義し、その影
響が一通りでないことを配慮することは内装と家具を包括したインテリア計画
に寄与するものと考えている。
武田ら1−5)は、オフィス空間の快適性を考える上で色彩は重要な要素の一つで
あると考え、オフィス環境における椅子の色彩によって空間の印象がどのよう
に変わるか実験を行なった。結果、オフィスでは黄色や緑系の色が好まれるこ
と、男女間の評価構造に違いがあるため注意が必要なことなどが明らかになっ
ている。
これらの研究は色彩の持つ心理的効果を検証している点で本研究と関連して
いる。しかし本研究では、色彩の心理的効果を実作業と組み合わせて検討して
いくため扱いが異なる。
1.4−2 疲労研究における本研究の位置付け
色彩研究のほとんどは暖色や寒色などの視覚的な印象評価と、実際の室温に
よる生理評価を組み合わせるといったような体感温度の一要因として色彩を扱
う場合が多い。疲労の要因として温度は重要な要素の一つなため考慮に入れて
いく必要がある。
岩田1−6)は、室内の周囲色彩や照明の色温度が気温と複合的に変化することに
よる心理生理的現象について相互作用が存在するという仮説(hue−heat仮説)を
実験的に検証している。室温と周囲色彩の変化がつけられる人工気象室を用い
た被験者実験を行なったが、青色の申告気温がいずれも実測気温より低く申告
されたものの有意な差は認められなかったため、仮説に生理的効果を期待し過
ぎることは危険だと報告している。
また石船ら1−7)も、一般に用いられる照明光源を対象に光源の照度・色温度・
気温及び周囲色彩条件を被験者に提示し、心理反応を捉えるという手法から岩
田と同様の仮説を検討している。色彩条件の関係から仮説そのものを立証はで
‒4‒
きなかったものの、寒色・暖色それぞれの評定値に顕著な値が示されたことか
ら、色彩は温熱感覚に影響を与えても快適感や満足感には影響しないという知
見を得ている。
実験結果でなんらかの影響が観測されていることから、色彩には人の感覚に
関わる隠れた要素が存在すると考えられる。本研究では調査中の被験者による
印象評価も含めた検討を行ない、色彩に隠れた要素の核心に迫る。
1.4−3 心理研究における本研究の位置付け
色彩を題材とした研究において、色は可視性に関するもの以外人間の体に直
接的な効果をもたらさないため、ほとんどは心理面を視点にした展開を行なっ
ていくものである。
吉田ら 1−8) は、視覚刺激に対する心理的影響の研究として現場測定・模型実
験・画像シミュレーションなどの呈示方法に着目した。実物大模型、縮尺模
型、CGの3つの呈示方法をそれぞれ検討し、その妥当性を調べている。これに
よると、青色が人間にとって細かく識別できる色彩であることや黒色・緑色が
呈示方法によって好ましさなどが変化してしまうという興味深い知見を得てい
る。
また冨田ら1−9)は、実物大の模型空間を用いて色彩の配置などの違いによる影
響を生理反応と感情プロフィール検査(POMS)から検討した。これにより同じ呈
示面積、配置であっても色彩によって感情変化が異なることや、逆に同じ色で
も呈示面積や配置によっても感情変化に与える影響が異なることが示されてい
る。
さらに神農ら1−10)は、日常の視作業環境において視対象や背景に着色される
場合が増えていることから、これらの着色された視対象が人に与える心理的影
響について実験を行なっている。クレペリンテストとPOMSを組み合わせた被験
者実験により、赤が疲労をもたらすが活力を上げること、緑が活力を下げるこ
と、青・黄・紫が類似した評価であることを明らかにしている。
これらの研究は色彩の心理的影響や背景色に着目している点で本研究と共通
している。しかし本研究では実作業を伴った調査をし、作業性ではなく身体的
疲労にスポットを当てた実験を行なう。また、メインの作業対象ではなく背景
のほうに色彩の要素を持たせることで呈示方法を一定にし、安定したデータ検
出を目標とする。作業内容にとらわれずに調査を行なえるため、色彩に集中し
たデータが検出しやすいと考えている。
‒5‒
1.5 本研究の目的
1.4関連研究において、色彩・疲労・心理の各分野で模型実験による検証、
照明光源や呈示方法の変化による印象評価など直接的なアプローチによる研究
が数多く行なわれてきていたことが分かった。しかし周辺環境からの間接的な
アプローチによる検証はまだほとんど行なわれてきていない。
既往研究では調査対象を精神面・身体面のどちらか単体で扱っているのに対
し、本研究は心身両面を対象にしていることが明確な差異といえる。同様に、
作業対象そのものに着色している研究、あるいは被験者へ色を直接的に呈示し
ている研究が多いのに対し、背景色を対象とすることで実作業を伴いながらの
検証を作業内容にとらわれず行なえることが本研究のポイントである。
本研究の目的は、作業面の背景色を対象とした実験を通して色彩の持つ性質
が作業者におよぼす心身両面への影響を明らかにすることである。
以下に手順を示す。
(1)日本産業衛生協会産業疲労研究会作成「自覚症状しらべ」を用いた疲労
感測定によって得たデータから身体についての影響を探る。
(2)金子書房発行の「POMS(感情プロフィール検査)」を用いた疲労感測定
によって得たデータから精神についての影響を探る。
(3)検出したデータを各色ごと、被験者ごとにまとめて傾向をみる。
(4)各色における印象評価を整理する。
(5)(3)と(4)のデータを合わせ、考察を行なう。
これらによって、色彩が人間の身体・精神に与える影響を明らかにすることを
目的とする。
‒6‒
参考文献
1−1) ゲーテ(木村直司訳)『色彩論』(ちくま学芸文庫、2001)
1−2)ヨハネス・イッテン(大智浩訳)『ヨハネス・イッテン 色彩論』(美術
出版社、1971.9(2006.3))
1−3)大島正光『疲労の研究』(東京同文書院、1970.6)
1−4) 小林茂雄、萩原利衣子『インテリアの内装色彩が家具の色彩選定とレイ
アウトに与える影響』(日本建築学会環境系論文集、第571号、pp.
17−23、2003.9)
1−5)武田哲弥、山田由紀子『オフィス内の家具の色彩に関する研究』(日本
建築学会大会学術講演梗概集(九州)、1998.9)
1−6)岩田三千子『室温と周囲色彩が心理・生理評価に及ぼす影響』(日本建
築学会学術講演梗概集(関東)2005.9)
1−7)石船淳一、横家あさみ、堀越哲美『照度・色温度、気温、周囲色彩が人
間心理に及ぼす複合影響』(日本建築学会学術講演梗概集(関東)2001.9)
1−8)吉田兼敏、山田由紀子『室内の色彩が心理・生理へ及ぼす影響』(日本
建築学会大会学術講演梗概集(近畿)、2005.9)
1−9)冨田陽祐、山田由紀子『室内の色彩が心理・生理へ及ぼす影響(その2.
呈示面積・配置の違いが生理反応、POMSに与える影響)』(日本建築学会学術
講演梗概集(近畿)2005.9)
1−10)神農悠聖、大野治代、岩田三千子『視対象の背景の色が視作業に及ぼす
心理的影響』(日本建築学会学術講演梗概集(中国)1999.9)
‒7‒
2.1 本研究における色彩と疲労の定義
(1)色彩の定義
本研究において色彩とは、明確に言えば色相のことを示している。例えば本
研究で用いている「赤い作業台」は、一目で「赤」とは呼称し難い色をしてい
るが、これは原色のように顕著な赤を用いると一般的な作業環境とかけ離れた
環境となってしまうと考慮してのことである。本報ではあくまで色相を重視
し、俗称としての色彩と呼称して扱っていくため、明度や彩度による影響は対
象外としている。なお、作業面における背景色となる部分のみを対象とし、模
型の部材やカッター板、工作用ナイフなどの着色は考慮しないものとする。
(2)疲労の定義
本研究において調査するのは色彩の持つ性質であるが、全ての要素に対し共
通で作用すると考えられる疲労について着目し、その数値の変動から色彩の持
つ性質をみるものとして扱う。さらに精神面・身体面それぞれの疲労を明確に
区別して分析を行ない、心身両面の視点から色彩の性質について探っていく。
‒8‒
2.2 本研究の流れと各章の位置づけ
本研究の構成は次の通りである。
第1章 序論
本研究の背景を述べ、関連研究、本研究の目的、特徴を示す。
第2章 本研究の概要
本研究で扱う色彩と疲労感の定義を行なう。また、本研究の大枠を示す形で全
体的な論文構成についても述べる。
第3章 調査方法について
本研究の手法で用いる「自覚症状しらべ」「POMS(感情プロフィール検査)」
の概要説明、本研究における調査方法を述べ、照度計による調査の説明もここ
で行なう。
第4章 調査結果
色彩が持つ性質を調べるため、自覚症状しらべ、POMS、照度計測で検出された
データを示す。
第5章 考察
色彩が人間の身体・精神に与える影響を導き出すため、第4章でまとめたデー
タと印象評価を組み合わせた総合的な考察を行なう。
第6章 総括
これまでの研究での結論と今後の展望を示す。
‒9‒
3.1 はじめに
本研究では作業面背景色が作業者に与える心身両面への影響を明らかにする
ため調査を行なった。
本調査は主に2つの手法で進めていくことになり、一つは身体面への影響を
調べる手法として「自覚症状しらべ」、もう一つが精神面への影響を調べる手
法として「POMS(=ポムス/感情プロフィール検査)」である。
両手法とも質問紙形式であり、回答の所要時間は5 10分とした。
なお、回答時間も実験の実施時間でカウントすることとした。
‒10‒
3.2 自覚症状しらべ
自覚症状しらべは酒井ら3−1)が考案した労働科学・人間工学の分野で用いられ
る主観的な疲労評価法である。作業者自身の簡単なチェックによって、作業の
負荷に対応した症状診断ができること、時間を追っての自覚症変化の把握がで
きること、さらに作業負荷との対応や時間を追っての変化を疲労の3因子(眠
気と怠さ、注意集中の困難、身体違和感)の中で考察できることが、自覚症状
しらべの利点となっている。
元々が労働者の疲労を観測するために考案されたもので、実際の作業を妨害
しない工夫も凝らされている。難解な手順や高価な設備を必要とせず比較的短
時間で身体的な疲労を抽出できる質問紙法である。
以下に自覚症状しらべの概要を示す。
3.2−1 自覚症状しらべの症状項目・回答項目
自覚症状しらべの症状項目を表1に示す。自覚症状しらべは25項目で構成さ
れており、被験者は各症状において表2に示すように1 5段階の評価をす
る。
この症状項目は、酒井らが現場の協力のもと心拍数や筋活動、さらに眼球運
動などの連続測定法や様々な機能検査法の適用と噛み合わせ、実際に調査を行
なうことによって各質問項目の信頼性・妥当性を高めることに成功している。
具体的に全ての症状項目はⅠ群ねむけ感、Ⅱ群不安定感、Ⅲ群不快感、Ⅳ群だ
るさ感、Ⅴ群ぼやけ感の5つの項目群に仕分けされ、回答者は単純な設問に答
えていくだけで詳しい疲労傾向まで診断することが可能となっている。
表1.自覚症状しらべの症状項目
1.頭がおもい
11.手や指がいたい
21.横になりたい
2.いらいらする
12.めまいがする
22.目がつかれる
3.目がかわく
13.ねむい
23.腰がいたい
4.気分がわるい
14.やる気がとぼしい
24.目がしょぼつく
5.おちつかない気分だ
15.不安な感じがする
25.足がだるい
6.頭がいたい
16.ものがぼやける
7.目がいたい
17.全身がだるい
8.肩がこる
18.ゆううつな気分だ
9.頭がぼんやりする
10.あくびがでる
19.腕がだるい
20.考えがまとまりにくい
‒11‒
表2.自覚症状しらべの回答項目
1.、
まったくあてはまらない
2.わずかにあてはまる
3.すこしあてはまる
4.かなりあてはまる
5.非常によくあてはまる
3.2−2 疲労感の算出方法・変換数値
(1)算出方法
症状訴え率は西原ら3−2)の論文に記載された次式を参照し、それに基づいて算
出した。
症状訴え率(%)
=
対象集団の総訴え率
項目の数 対象集団ののべ人数
100
なお、本研究では25項目全体に対する訴え率を「症状訴え率」と呼称して取
り扱う。
(2)変換数値
(1)の算出式の場合5段階評価の2 4に回答した場合の数値が曖昧な位置
付けになってしまうため、本研究では算出の際の「総訴え数」の数値を表3に
示すように回答によって0 1の数値で変換することとした。
表3.変換数値と対応項目
回答
数値
1.、
まったくあてはまらない
2.わずかにあてはまる
3.すこしあてはまる
4.かなりあてはまる
5.非常によくあてはまる
‒12‒
0
0.
25
0.
5
0.
75
1
3.2−3 アンケートの実施間隔
酒井らは自覚症状しらべの使用にあたって理想的な実施間隔を1時間に一回
程度としており、最低限の段階を次のように提案している。
①作業開始前
②昼食休憩などの大休憩前
③大休憩後
④定時作業終了後
⑤超過勤務終了時
本研究ではこれに基づき、一回目のアンケートの実施から連続で4時間かけ
て実験を行なった。
‒13‒
3.3 POMS
POMS(=Profile of Mood States=感情プロフィール検査)は、McNair3−3)らに
よって米国で開発され、対象者がおかれた条件により変化する一時的な気分、
感情の状態を測定できるという質問紙法の一つである。
また、「緊張‒不安(Tention−Anxiety)」「抑うつ‒落込み(Depression
−Dejection)」「怒り‒敵意(Anger−Hostility)」「活気(Vigor)」「疲労
(Fatigue)」「混乱(Confusion)」の6つの尺度を同時に評価することが可能と
なっており、回答用紙にはそれぞれ略称でT−A、D、A−H、V、F、Cと表記されて
いる。
主に臨床、職場、学校などで用いられており、日本では精神障害の治療経
過、身体疾患をもつ人々の精神面の変化、職場でのスクーニング、運動やリラ
クゼーション効果などの評価測定といった幅広い分野で応用されている。
本調査においては、色以外の要素を全て一律に揃えることにより、何らかの
差異が生じた時点で色による影響が抽出できたものとして扱う。
以下にPOMSの概要を示す。
3.3−1 POMSの症状項目・回答項目
POMSの症状項目を表4に示す。今回本研究で使用したのは短縮版であり、正
規版は65項目で構成されている。短縮版は正規版と同様の測定結果を提供しな
がらも、項目を30に削減することにより対象者の負担感を軽減し、短時間で変
化する介入直後の気分、感情の変化を測定することが可能である。
各尺度への分布は表5に示す通り被験者が解答をした時点で自動的に振り分
けられるため、どの解答項目がどの尺度に当てはまるものか被験者には分から
ない仕様になっている。
表4.POMSの症状項目
!"#$%&'()* !11#QG&R)ST*UVB>?WXY* !21#$s;%tLhu?
!22#H*?
!12#Z[H
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!-#./0'1*
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!19#nWnWH
!30#•$%]?a^*
!10#MN%O>P* !20#oTpTqrH
‒14‒
表5.POMS症状項目各尺度分布
回答者は表6に示すような5段階評価をするが、仕様としてどの項目がどの
尺度に該当するものかは分からないようになっている。
表6.POMSの回答項目
!"#$%&'($%
)"*+,$%
-"#,#,,$%
."('/,$%
0"1234&,$%
3.3−2 疲労感の算出方法・変換数値
(1)算出方法
POMSの疲労感算出においてT得点という特殊な数値が定められており次式によ
り算出可能である。
標準化得点[T得点=50−10
(素得点−平均値)/標準偏差]
‒15‒
なおアンケート用紙には全年齢を対象としたT得点換算表が添付されており、
これを用いることで計算を行なわなくともT得点が割り出せる仕様になってい
る。
(2)変換数値
被験者は各項目ごとに、その項目が表す気分になることが「まったくなかっ
た(0点)」から「非常に多くあった(4点)」までの5段階(0 4点)の
いずれか一つを選択する。採点は、全部の項目が記入されたことを確認した
後、5項目ずつの各尺度ごとに合計点を算出する。
3.3−3 アンケートの実施間隔
McNairらによると、POMSの実施間隔にあたり、被験者のある生活場面におけ
る典型的かつ持続的な気分を表すのに十分長く、かつ短期間の治療効果を反映
するのにちょうどよい短さとして「過去1週間」について尋ねることとしてい
る。期間を限定して尋ねているので、どの時点での回答なのか不明瞭な他の質
問紙と比較して「状態」を「傾向」から区別することが可能とされている。さ
らに設問の状況によっては「現在」「今日」「この3分間」といったような短
時間の気分を評価することも可能である。
このことから本研究では、自覚症状しらべで5回の実施をしているのに対
し、POMSによる計測は一回分の作業の総括として捉えるために作業終了時の一
度のみ実施することとした。
‒16‒
3.4 調査方法
3.4−1 調査目的
本調査では、模型制作の実作業における作業面背景色に着目し、色彩が人体
にもたらす性質を探る。自覚症状しらべとPOMSにより心身両面への影響を明ら
かにする。
3.4−2 方法
マンセル色表系における白(N9.5)、青(2.3PB 7/10)、赤(5.6R 6/17.5)、緑
(2.5G 9.0/10.9)に色分けされた4種類の作業台を用意した(図1)。市販の
ローテーブルの脚を実験の仕様に合わせて付け替えたもので、寸法は縦
500mm 横700mm 高さ720mmである。次に実験を行なってもらう被験者8名を
選出した。被験者は色覚偏倚の無い建築工学科学生20代男性8人とした。
図1.4種類の作業台
3.3−3で述べたようにPOMSの実施間隔は実施者の任意で設定できるため、
実験は自覚症状しらべの実施間隔に準ずることとする。具体的には計4時間の
作業になるため、午前の実施の場合9時 13時、午後の実施の場合13時 17時
としている。また、被験者一人につき用意した4種類の作業台全てのデータを
検出するため、作業する机の色を日ごとに変えて、これを4日かけて行なっ
た。
‒17‒
調査対象とする作業は、読書のように被験者の視界を大きく遮るものを避
け、アンケートの実施時間に適したものと検討して模型制作(図2)とした。模
型に使う材料は太さ1 1mm、0.8 0.8mm、0.5 0.5mm、0.3 0.3mmのプラス
チック材としている。
図2.調査対象とした模型
なお、作業台にはスタンド照明を置き、一般的な作業状況を再現しており、
作業以外の疲労要因が発生するのを防ぐため室温も20℃前後を保つよう遵守し
た。実験の疲労感測定には前述の「自覚症状しらべ」とPOMSを用いて行ない、
被験者の印象評価もデータとして扱う。実験を実施した部屋の間取り図は図3
に示す通りである。
机
机
机
机
図3.実験室の間取
‒18‒
参考文献
3−1)酒井一博、城憲秀、井谷徹、山本理恵、瀬尾明彦『労働の科学(特別企
画:新版「自覚症しらべ」)』(労働科学研究所出版部、2002.5)
3−2)西原直枝、田中幸治、田辺新一『室内気流が作業効率に与える影響に関
する研究(その2:自覚症状しらべを用いた疲労感測定)』(日本建築学会大会
学術講演梗概集(北陸)、2002.8)
3−3)McNair DM,Heuchert JWP:Profile of Mood States Technical Update
2003.Tront,Multi−Health Systems Inc(2003)
‒19‒
4.1 自覚症状しらべによる調査結果 4.1−1 被験者ごとの結果
(1)被験者Aの事例
被験者Aから検出されたデータを図4に示す。白は1回目0.00%、2回目
0.56%、3回目1.33%、4回目1.67%、5回目2.44%となった。青は1回目
0.00%、2回目0.22%、3回目0.44%、4回目1.56%、5回目1.89%となっ
た。赤は1回目0.00%、2回目0.56%、3回目0.67%、4回目1.11%、5回目
1.67%となった。緑は1回目0.00%、2回目0.00%、3回目0.67%、4回目
0.89%、5回目0.89%という結果となった。
全体的に値が低めに出る傾向がある。その中でも白が若干大きめの値を示し
ており、逆に緑が4色中一番低く検出される結果となった。青と赤は白ほどで
はないものの症状訴え率が上昇傾向にある。
3.00
症状訴え率(%)
2.50
2.44
2.00
1.89
1.67
1.56
1.50
1.67
1.33
1.11
1.00
0.89
0.50
0.56
0.00
0.22
0.00
0.00
1
2
0.89
0.67
0.44
3
4
アンケートの実施段階(回)
図4.被験者A症状訴え率
‒20‒
5
白(A)
青(A)
赤(A)
緑(A)
(2)被験者Bの事例
被験者Bから検出された症状訴え率を図5に示す。白は1回目0.56%、2回目
1.56%、3回目3.67%、4回目5.78%、5回目7.11%となった。青は1回目
0.78%、2回目2.22%、3回目5.11%、4回目6.67%、5回目6.67%となっ
た。赤は1回目0.33%、2回目1.00%、3回目1.00%、4回目3.56%、5回目
4.67%となった。緑は1回目0.33%、2回目0.00%、3回目0.00%、4回目
0.33%、5回目0.67%という結果となった。
緑の作業台において顕著な値が検出されている。他3色については、全体的
にみて青が一番高い数値を示しており、実験終了時に白が若干突出する形と
なっている。赤は途中まで低い位置を保っているが後半急激に上昇する傾向に
あり、平均的な位置づけである。
10.00
症状訴え率(%)
8.00
7.11
6.67
6.67
6.00
5.78
5.11
4.00
4.67
3.67
2.22
1.56
1.00
2.00
0.78
0.56
0.33
0.00
1
1.00
0.00
2
3.56
0.00
3
4
アンケートの実施段階(回)
図5.被験者B症状訴え率
‒21‒
0.67
0.33
5
白(B)
青(B)
赤(B)
緑(B)
(3)被験者Cの事例
被験者Cから検出された症状訴え率を図6に示す。白は1回目2.33%、2回目
1.56%、3回目3.56%、4回目2.78%、5回目2.67%となった。青は1回目
2.89%、2回目2.78%、3回目3.44%、4回目4.11%、5回目4.00%となっ
た。赤は1回目1.89%、2回目1.56%、3回目1.11%、4回目2.22%、5回目
1.00%となった。緑は1回目2.67%、2回目3.78%、3回目4.78%、4回目
5.33%、5回目4.33%という結果となった。
こちらは一転して緑の値が最も大きく検出された。さらに4回目アンケート
実施から実験終了時にかけて全体的に値が下降していく傾向がみられる。値と
して最も低く検出されているのは赤で、白と青は中間の値を示している。
10.00
症状訴え率(%)
8.00
6.00
5.33
4.78
4.00
3.78
2.89
2.67
2.33
1.89
2.00
4.11
4.33
4.00
2.78
2.22
2.67
3.56
3.44
2.78
1.56
1.11
1.00
0.00
1
2
3
4
アンケートの実施段階(回)
図6.被験者C症状訴え率
‒22‒
5
白(C)
青(C)
赤(C)
緑(C)
(4)被験者Dの事例
被験者Dから検出された症状訴え率を図7に示す。白は1回目0.00%、2回目
0.89%、3回目0.78%、4回目1.00%、5回目2.22%となった。青は1回目
0.33%、2回目2.56%、3回目3.33%、4回目3.00%、5回目4.00%となっ
た。赤は1回目0.00%、2回目0.67%、3回目2.67%、4回目4.44%、5回目
5.44%となった。緑は1回目0.33%、2回目2.44%、3回目2.11%、4回目
2.22%、5回目3.22%という結果となった。
全体の傾向として症状訴え率が上昇しているが値は標準的である。白の値が
最も低く、一番値の大きい赤は常に値が上昇し続ける傾向にある。青と緑の結
果はほぼ同一で、値は異なるが検出状況が白に酷似している。
10.00
症状訴え率(%)
8.00
6.00
5.44
4.44
4.00
2.00
0.33
0.00
0.00
1
2
2.56
2.44
3.33
2.67
2.11
0.89
0.67
0.78
3
3.00
3.22
2.22
2.22
1.00
4
アンケートの実施段階(回)
図7.被験者D症状訴え率
‒23‒
4.00
5
白(D)
青(D)
赤(D)
緑(D)
(5)被験者Eの事例
被験者Eから検出された症状訴え率を図8に示す。白は1回目0.56%、2回目
0.78%、3回目0.56%、4回目1.67%、5回目3.44%となった。青は1回目
0.00%、2回目1.11%、3回目0.00%、4回目2.00%、5回目3.33%となっ
た。赤は1回目0.11%、2回目0.56%、3回目1.11%、4回目2.00%、5回目
2.44%となった。緑は1回目1.33%、2回目1.33%、3回目2.56%、4回目
2.56%、5回目3.11%という結果となった。
3回目のアンケート実施までは緑が最も大きな値を示しているが、その後は
4色全てほぼ同一の値で揃っている。白、青、赤はほぼ同一の検出状況であ
る。全体の値そのものは比較的低いほうである。
4.00
3.44
3.33
3.11
症状訴え率(%)
3.00
2.56
2.56
2.00
2.44
2.00
1.67
1.33
1.00
0.56
1.33
1.11
1.11
0.78
0.56
0.56
0.11
0.00
0.00
1
0.00
2
3
4
アンケートの実施段階(回)
図8.被験者E症状訴え率
‒24‒
5
白(E)
青(E)
赤(E)
緑(E)
(6)被験者Fの事例
被験者Fから検出された症状訴え率を図9に示す。白は1回目0.22%、2回目
1.00%、3回目1.44%、4回目2.89%、5回目3.56%となった。青は1回目
0.22%、2回目0.56%、3回目0.86%、4回目2.11%、5回目2.78%となっ
た。赤は1回目0.56%、2回目2.67%、3回目3.78%、4回目5.78%、5回目
2.11%となった。緑は1回目0.78%、2回目1.22%、3回目1.67%、4回目
2.44%、5回目3.00%という結果となった。
赤の検出状況が途中まで群を抜いた上昇傾向にあり、終了間際で急激に軽減
されるという特異な傾向を示している。他の3色はほぼ同一の検出状況で実験
開始から終了まで常に上昇し続けている。
症状訴え率(%)
6.00
5.78
4.00
3.78
3.56
2.00
0.00
1
2
2.11
1.67
1.44
1.22
1.00
0.56
0.78
0.56
0.22
3.00
2.78
2.89
2.44
2.11
2.67
0.89
3
4
アンケートの実施段階(回)
図9.被験者F症状訴え率
‒25‒
5
白(F)
青(F)
赤(F)
緑(F)
(7)被験者Gの事例
被験者Gから検出された症状訴え率を図10に示す。白は1回目0.67%、2回目
0.00%、3回目1.11%、4回目1.00%、5回目0.56%となった。青は1回目
0.78%、2回目0.78%、3回目0.78%、4回目0.89%、5回目0.56%となっ
た。赤は1回目1.33%、2回目1.78%、3回目1.00%、4回目1.00%、5回目
1.44%となった。緑は1回目2.56%、2回目1.89%、3回目3.33%、4回目
3.11%、5回目2.11%という結果となった。
総合的にみて白の症状訴え率が最も低く検出され、赤と青もほぼ同一の値を
示している。緑の値が最も高く検出されているが、実験が進むにつれ徐々に値
が低減していっている。
4.00
3.33
3.11
症状訴え率(%)
3.00
2.56
2.11
2.00
1.89
1.78
1.44
1.33
1.11
1.00
0.78
1.00
0.78
0.67
0.78
1.00
0.89
0.56
0.44
0.00
0.00
1
2
3
4
アンケートの実施段階(回)
図10.被験者G症状訴え率
‒26‒
5
白(G)
青(G)
赤(G)
緑(G)
(8)被験者Hの事例
被験者Hから検出された症状訴え率を図11に示す。白は1回目2.67%、2回目
4.89%、3回目4.00%、4回目3.89%、5回目3.78%となった。青は1回目
1.22%、2回目1.11%、3回目1.33%、4回目2.11%、5回目3.56%となっ
た。赤は1回目0.89%、2回目1.44%、3回目1.56%、4回目1.44%、5回目
1.89%となった。緑は1回目1.44%、2回目2.22%、3回目1.89%、4回目
3.22%、5回目2.67%という結果となった。
実験開始からすぐに白の値が大きく飛び出し、そのまま4色中での最高値に
なっているが若干値が減少している傾向がみられる。値の上昇傾向が最も大き
いのは青で、赤は4色中最小値、緑は赤に沿うような検出状況となっている。
6.00
症状訴え率(%)
4.89
4.00
4.00
3.89
3.78
3.56
3.22
2.67
2.67
2.22
2.00
1.44
1.22
0.89
2.11
1.89
1.56
1.33
1.44
1.11
1.89
1.44
0.00
1
2
3
4
アンケートの実施段階(回)
図11.被験者H症状訴え率
‒27‒
5
白(H)
青(H)
赤(H)
緑(H)
4.1−2 色ごとの結果
(1)白
白の作業台における被験者全員分の症状訴え率を図12に示す。被験者Bの値が
突出しているが、過半数は症状訴え率1.5%付近に値が集中している。各被験
者は時間経過とともに疲労を感じ続けており、実験終了時においてもなお疲労
増加を示す被験者が多い。
8.00
7.11
症状訴え率(%)
6.00
5.78
4.89
4.00
4.00
3.67
3.56
3.89
2.89
2.78
2.67
2.33
2.00
1.56
1.00
0.89
0.78
0.56
0.00
0.67
0.56
0.22
0.00
0.00
1
3.78
3.56
3.44
2
1.67
1.44
1.33
1.11
0.78
0.56
3
1.00
0.56
4
アンケートの実施段階(回)
図12.作業台(白)症状訴え率
‒28‒
2.67
2.44
2.22
5
白(A)
白(B)
白(C)
白(D)
白(E)
白(F)
白(G)
白(H)
(2)青
青の作業台における被験者全員分の症状訴え率を図13に示す。白同様に被験
者Bの値が突出しており、被験者G以外の全ての被験者はやはり時間経過ととも
に疲労が上昇する傾向にある。検出された数値は低めの値の比率が若干多い。
8.00
6.67
6.67
症状訴え率(%)
6.00
5.11
4.11
4.00
3.44
3.33
2.89
1.22
0.78
0.33
0.22
0.00
0.00
1
3.00
2.78
2.56
2.22
2.00
2
2.11
2.00
1.56
1.33
0.89
0.78
0.44
0.00
1.11
0.78
0.56
0.22
3
1.89
0.89
0.44
4
アンケートの実施段階(回)
図13.作業台(青)症状訴え率
‒29‒
4.00
3.56
3.33
2.78
5
青(A)
青(B)
青(C)
青(D)
青(E)
青(F)
青(G)
青(H)
(3)赤
赤の作業台における被験者全員分の症状訴え率を図14に示す。実験後半にお
いて被験者C、Fの2名に急激な回復がみられる。逆に被験者B、Dは後半の値の
上昇率が高く、他の被験者達も微少ながら増加傾向をみせている。その一方で
検出された数値自体は低いものが多い。
8.00
症状訴え率(%)
6.00
5.78
5.44
4.67
4.44
4.00
3.78
2.67
2.00
1.89
1.33
0.89
0.56
0.33
0.11
0.00
0.00
1
2.67
1.78
1.56
1.44
1.00
0.67
0.56
2
3.56
1.56
1.11
1.00
0.67
3
4
アンケートの実施段階(回)
図14.作業台(赤)症状訴え率
‒30‒
2.44
2.11
1.89
1.67
1.44
1.00
2.22
2.00
1.44
1.11
1.00
5
赤(A)
赤(B)
赤(C)
赤(D)
赤(E)
赤(F)
赤(G)
赤(H)
(4)緑
緑の作業台における被験者全員分の症状訴え率を図15に示す。被験者Cの数値
が突出しているが、過半数の被験者の数値に疲労低減の兆候がみられる。検出
された数値も全体的に低く、被験者A、Bにいたっては0に限りなく近い結果が
出ている。
8.00
症状訴え率(%)
6.00
5.33
4.78
4.33
4.00
3.78
3.33
2.67
2.56
2.00
1.44
1.33
0.78
0.33
0.00
0.00
1
2.56
2.11
1.89
1.67
2.44
2.22
1.89
1.33
1.22
0.67
0.00
2
0.00
3
3.22
3.11
2.56
2.44
2.22
3.22
3.11
3.00
2.67
2.11
0.89
0.33
0.89
0.67
4
アンケートの実施段階(回)
図15.作業台(緑)症状訴え率
‒31‒
5
緑(A)
緑(B)
緑(C)
緑(D)
緑(E)
緑(F)
緑(G)
緑(H)
4.1−2 自覚症状しらべの検定結果
自覚症状しらべで得たデータにおける各色の差について検定を行なった。検
定結果を表7に示す。
調査結果の統計的な有意差を確認するために分散分析を行なったところ、
5%の有意水準においても各色の平均値に差はみられなかった。そのため今回
の調査で得たデータにより各色の持つ効果を示すのは難しいと考えられる。
従属変数: 数値
ソース
修正モデル
切片
被験者
色
誤差
総和
修正総和
表7.自覚症状しらべ検定結果
タイプ III 平方和
.002(a)
0.015
0.002
5.354E-05
0.003
0.020
0.005
a R2乗 = .379 (調整済みR2乗 = .083)
自由度
10
1
7
3
21
32
31
‒32‒
平均平方
0.000
0.015
0.000
1.785E-05
0.000
F値
1.279
有意確率
0.303
111.297
1.772
0.128
0.000
0.146
0.942
4.2 POMSによる調査結果
POMSのT得点値において「活気」の尺度のみ数値が高いほどプラスの要素とな
る。値の正常値は活気の尺度=40以上、その他5つの尺度=59以下である。
4.2−1 被験者ごとの結果
(1)被験者Aの事例
被験者Aより検出されたT得点を図16に示す。白は緊張不安33、抑うつ40、怒
り敵意37、活気27、疲労46、混乱45となった。青は緊張不安33、抑うつ40、怒
り敵意37、活気27、疲労36、混乱42となった。赤は緊張不安33、抑うつ40、怒
り敵意37、活気27、疲労51、混乱45となった。緑は緊張不安33、抑うつ40、怒
り敵意37、活気27、疲労40、混乱45という結果となった。
4色全ての作業台においてほぼ同一のデータが検出された。唯一疲労の尺度
にのみ差異があり、それによると赤の疲労が一番高く、最も低いのは青となっ
ている。
90
80
POMS(T得点)
70
60
51
46
40
36
50
40
30
40
33
37
45
42
27
20
10
0
緊張不安
抑うつ
怒り敵意
活気
尺度
図16.被験者AのT得点
‒33‒
疲労
混乱
白(A)
青(A)
赤(A)
緑(A)
(2)被験者Bの事例
被験者Bより検出されたT得点を図17に示す。白は緊張不安45、抑うつ50、怒
り敵意48、活気39、疲労66、混乱67となった。青は緊張不安45、抑うつ48、怒
り敵意40、活気35、疲労61、混乱61となった。赤は緊張不安53、抑うつ45、怒
り敵意58、活気44、疲労59、混乱61となった。緑は緊張不安38、抑うつ40、怒
り敵意37、活気32、疲労46、混乱51という結果となった。
白は疲労と混乱の値が高いがその他の尺度は標準的で、赤はマイナス面の尺
度の数値が高いものの活力も4色中一番高い。青と緑は検出状況が酷似してお
り、値にも大きな差はあまり無い。
90
80
POMS(T得点)
70
60
50
40
53
45
38
66
61
59
58
50
48
45
40
48
40
37
44
39
35
32
30
46
67
61
51
20
10
0
緊張不安
抑うつ
怒り敵意
活気
尺度
図17. 被験者BのT得点
‒34‒
疲労
混乱
白(B)
青(B)
赤(B)
緑(B)
(3)被験者Cの事例
被験者Cより検出されたT得点を図18に示す。白は緊張不安53、抑うつ40、怒
り敵意42、活気32、疲労42、混乱67となった。青は緊張不安45、抑うつ48、怒
り敵意37、活気27、疲労70、混乱74となった。赤は緊張不安43、抑うつ40、怒
り敵意37、活気56、疲労36、混乱32となった。緑は緊張不安40、抑うつ42、怒
り敵意37、活気27、疲労63、混乱64という結果となった。
赤の活気が飛び抜けて高く検出されており、他のマイナス尺度も低めの値で
検出されている。他の3色は活気が低く、疲労と混乱の数値がかなり高く表れ
ている。
90
80
POMS(T得点)
70
70
63
60
50
40
53
45
43
40
74
67
64
56
48
42
40
42
37
42
36
32
27
30
32
20
10
0
緊張不安
抑うつ
怒り敵意
活気
疲労
尺度
図18. 被験者CのT得点
‒35‒
混乱
白(C)
青(C)
赤(C)
緑(C)
(4)被験者Dの事例
被験者Dより検出されたT得点を図19に示す。白は緊張不安45、抑うつ40、怒
り敵意50、活気27、疲労44、混乱48となった。青は緊張不安55、抑うつ59、怒
り敵意80、活気27、疲労70、混乱80となった。赤は緊張不安48、抑うつ40、怒
り敵意45、活気27、疲労55、混乱55となった。緑は緊張不安55、抑うつ40、怒
り敵意64、活気27、疲労53、混乱71という結果となった。
全ての色において活気が乏しく、マイナス尺度において青の値が飛び抜けて
高い。逆に白が全体的に低い値で検出される傾向にある。赤と緑は白と青の
ちょうど中間程度の値となっている。
90
80
80
80
POMS(T得点)
70
60
50
40
55
48
45
59
40
70
71
55
53
55
48
64
50
45
44
30
27
20
10
0
緊張不安
抑うつ
怒り敵意
活気
尺度
図19.被験者DのT得点
‒36‒
疲労
混乱
白(D)
青(D)
赤(D)
緑(D)
(5)被験者Eの事例
被験者Eより検出されたT得点を図20に示す。白は緊張不安43、抑うつ48、怒
り敵意50、活気49、疲労61、混乱51となった。青は緊張不安43、抑うつ61、怒
り敵意37、活気32、疲労46、混乱51となった。赤は緊張不安43、抑うつ40、怒
り敵意45、活気58、疲労51、混乱39となった。緑は緊張不安35、抑うつ45、怒
り敵意37、活気35、疲労44、混乱42という結果となった。
白は活気も含めた全ての数値が高めに検出されており、赤は活気が高くマイ
ナス尺度は低いという理想的な値を示している。青と緑は酷似した検出状況
で、活気が低く他の尺度も標準的な値である。
90
80
POMS(T得点)
70
60
61
50
48
45
40
40
30
43
35
58
50
45
37
49
61
51
46
44
35
32
51
42
39
20
10
0
緊張不安
抑うつ
怒り敵意
活気
尺度
図20.被験者EのT得点
‒37‒
疲労
混乱
白(E)
青(E)
赤(E)
緑(E)
(6)被験者Fの事例
被験者Fより検出されたT得点を図21に示す。白は緊張不安35、抑うつ40、怒
り敵意37、活気27、疲労53、混乱45となった。青は緊張不安35、抑うつ42、怒
り敵意37、活気54、疲労51、混乱39となった。赤は緊張不安33、抑うつ40、怒
り敵意37、活気27、疲労57、混乱51となった。緑は緊張不安33、抑うつ40、怒
り敵意37、活気46、疲労48、混乱42という結果となった。
全体的に4色とも低い値で検出されており、活気においては青と緑が高く白
と赤が低いという特異な検出状況となっている。
90
80
POMS(T得点)
70
60
54
46
50
40
30
35
33
42
40
57
53
51
48
37
51
45
42
39
27
20
10
0
緊張不安
抑うつ
怒り敵意
活気
尺度
図21.被験者FのT得点
‒38‒
疲労
混乱
白(F)
青(F)
赤(F)
緑(F)
(7)被験者Gの事例
被験者Gより検出されたT得点を図22に示す。白は緊張不安35、抑うつ40、怒
り敵意37、活気27、疲労38、混乱51となった。青は緊張不安35、抑うつ40、怒
り敵意37、活気44、疲労42、混乱39となった。赤は緊張不安35、抑うつ40、怒
り敵意42、活気51、疲労53、混乱42となった。緑は緊張不安38、抑うつ40、怒
り敵意40、活気39、疲労57、混乱51という結果となった。
青が他3色の平均的な数値で検出されており、活気は赤が最も高く、疲労は
緑と赤が高い数値を示している。
90
80
POMS(T得点)
70
60
51
44
39
50
40
30
38
35
40
42
40
37
57
53
51
42
38
42
39
27
20
10
0
緊張不安
抑うつ
怒り敵意
活気
尺度
図22.被験者GのT得点
‒39‒
疲労
混乱
白(G)
青(G)
赤(G)
緑(G)
(8)被験者Hの事例
被験者Hより検出されたT得点を図23に示す。白は緊張不安35、抑うつ42、怒
り敵意37、活気27、疲労61、混乱48となった。青は緊張不安45、抑うつ40、怒
り敵意45、活気27、疲労53、混乱45となった。赤は緊張不安40、抑うつ53、怒
り敵意40、活気32、疲労61、混乱48となった。緑は緊張不安38、抑うつ40、怒
り敵意40、活気27、疲労51、混乱48という結果となった。
4色ともほぼ全ての尺度において検出状況が酷似しており、白と赤の疲労が
若干高い。
90
80
POMS(T得点)
70
61
53
51
60
50
40
30
53
45
40
38
35
42
40
45
40
37
48
45
32
27
20
10
0
緊張不安
抑うつ
怒り敵意
活気
尺度
図23.被験者HのT得点
‒40‒
疲労
混乱
白(H)
青(H)
赤(H)
緑(H)
4.2−2 色ごとの結果
(1)白
白の作業台における被験者全員分のT得点を図24に示す。比率的に疲労の値が
高めに出る傾向がある。一方活気の値は低めに出ている場合が多い。全体の検
出状況においてはほとんどの被験者が同様の流れを示している。
80
80
80
74
POMS(T得点)
70
70
61
59
60
55
50
40
30
45
43
42.0
54
48
47.3
42
40
35
33
45
43.8
40
37
44
61
61
53.6
53
51
53.9
51
46
42
45
42
39
36
35
34.1
32
27
20
緊張不安
抑うつ
怒り敵意
活気
疲労
尺度
図24.作業台(白)T得点
‒41‒
混乱
被験者A
被験者B
被験者C
被験者D
被験者E
被験者F
被験者G
被験者H
全体平均
(2)青
青の作業台における被験者全員分のT得点を図25に示す。白と同様にほとんど
の被験者の活気が低めに出る傾向にある。全体的に疲労・混乱の2つは値が高
めに振られるようである。
80
70
POMS(T得点)
66
61
60
50
40
30
67
53
45
43
40.5
50
48
50
48
42.5
42
40
42.3
42
35
33
53
51.4
49
46
44
42
38
39
37
52.8
51
48
45
32
31.9
27
20
緊張不安
抑うつ
怒り敵意
活気
疲労
尺度
図25.作業台(青)T得点
‒42‒
混乱
被験者A
被験者B
被験者C
被験者D
被験者E
被験者F
被験者G
被験者H
全体平均
(3)赤
赤の作業台における被験者全員分のT得点を図26に示す。半々の比率で活気が
上昇する傾向がうかがえる。また、総じて疲労の上昇傾向が高い。その他の尺
度は被験者ごとに値が散漫しており統一性はみられない。
80
POMS(T得点)
70
60
50
40
30
58
53
48
43
41.0
40
58
56
53
45
42.3
40
35
33
61
59
57
55
53
52.9
51
51
45
42.6
42
40
37
44
40.3
36
32
61
55
51
48
46.6
45
42
39
32
27
20
緊張不安
抑うつ
怒り敵意
活気
疲労
尺度
図26.作業台(赤)T得点
‒43‒
混乱
被験者A
被験者B
被験者C
被験者D
被験者E
被験者F
被験者G
被験者H
全体平均
(4)緑
緑の作業台における被験者全員分のT得点を図27に示す。各尺度においてほと
んどの被験者の検出状況が酷似している。さらに緊張・不安、怒り・敵意の値
が総じて低めに出ている。
80
71
70
POMS(T得点)
64
63
60
57
53
51
50.3
48
46
44
40
55
50
40
30
40
38.8
38
35
33
45
42
40.9
40
46
41.1
40
37
39
35
32.5
32
64
51.8
51
48
45
42
27
20
緊張不安
抑うつ
怒り敵意
活気
疲労
尺度
図27.作業台(緑)T得点
‒44‒
混乱
被験者A
被験者B
被験者C
被験者D
被験者E
被験者F
被験者G
被験者H
全体平均
4.3 各色における印象評価
各被験者の4色の作業台それぞれに対する印象を定時で質問し、回答を得
た。回答結果を表8に示す。重複した印象は件数にて表す。
共通項として白と赤が明るく、青と緑が眠気を発生させるという印象が出て
いる。白は特段プラスに働く印象が無い。赤は気分の高揚ということで、POMS
で得た活気の高いデータと通じるものがある。青はリラックスしている意見が
多く、緑は作業が捗るなどプラスの印象が多くみられた。
表8.各色の印象評価一覧
色彩
白
赤
青
緑
印象
目にくる 2、キツイ、明る過ぎて疲れる 2、材料と保護色に
なって見づらい、時間の経過が遅く感じる
落ち着かない 3、気分が高揚する 3、明る過ぎて疲れる 2
ラク 3、眠くなる 5
作業が捗る 2、気持ちがいい 5、眠くなる
‒45‒
5.1 自覚症状しらべにおける考察
症状訴え率の全体平均を図28に示す。白は実験開始から終了までの間常に疲
労が上昇しつづけ、実験終了時は4色中2番目の疲労症状が出ている。印象と
しては「明る過ぎて疲れる」「きつい」などの意見が出ており、全体的にあま
り好まれない傾向にあった。青は実験終了時の疲労は一番大きいが、4回まで
の疲労上昇率が一番緩やかであるところに疲労軽減の兆候がみられた。印象と
しては「楽に感じる」「眠くなる」という意見が出ており、最終的な検出値と
は対照的にリラックスしているようである。赤は実験中盤からの疲労上昇度が
著しいものの、実験終了時の疲労は4色中3番目となっている。印象として
「明るく過ぎて疲れる」「落ち着かない」など白に近い意見と、「気分が高揚
する」といったようなプラスとなる意見も出ており、疲労はするものの作業を
行なう際に若干能率を上げる効果の出る可能性が見受けられる。緑は序盤の検
出状況が高めに出る傾向があるが中盤から数値が安定し、4色中で値の減少効
果が表れているところに疲労軽減の可能性がみられる。印象としては「作業が
はかどる」「気分がいい」「眠くなる」といった意見が出ており、全体的にリ
ラックスしながら作業に取り組めるようだった。
総合的にみると、数値・印象ともに芳しくなかったのは白で、気分を落ち着
かせるのは青と緑、逆に高めるのは赤、といった傾向にある。単純に作業能率
を上げるのなら赤が適している可能性があるが、長時間の作業を行なう場合青
や緑のほうが向いていると考えられる。
4.00
3.64
3.22
3.06
症状訴え率(%)
3.00
2.75
2.58
2.51
2.13
2.06
2.00
1.61
1.40
1.28
1.01
1.18
1.00
0.88
0.78
0.64
2.50
1.92
1.61
1.42
0.00
1
2
3
4
アンケートの実施段階(回)
図28.症状訴え率の全体平均
‒46‒
5
全体平均(白)
全体平均(青)
全体平均(赤)
全体平均(緑)
5.2 POMSにおける考察
T得点の全体平均を図29に示す。白は活気が低い傾向にあり、全体として標準
的な検出状況である。印象として「時間の経過が遅く感じる」などの意見が出
ていることから、苦痛を感じている傾向が多くみられる。青は各尺度の数値が
比較的高めに出ており、特に抑うつの値が他の3色より著しく高い。活気は基
本的に低く、他の色と大きな差は無い。赤は4色の中でも活気が目立って高く
検出され、混乱の数値が軽減される傾向にも突出した数値を示している。緑は
ほとんどの尺度において4色中で検出状況が低い位置づけにある。しかし活気
の値についても非常に低く、このことは「眠くなる」といった印象に通じるも
のがある。
総合的にみると、赤が活気を上げる傾向にあり、他の尺度のバランスも芳し
い。しかし疲労の数値などは十分高く、印象で「落ち着かない」などの意見も
出ているため、長時間作業の場合にはやはり留意が必要である。そして青の活
気が低く全体的なT得点が高いという結果は、精神的にマイナスに働く可能性
を示唆している。
POMS(T得点)
60.0
53.6
52.9
51.4
50.3
50.0
47.3
40.0
42.0
41.0
40.5
38.8
42.5
42.3
40.9
53.9
52.8
51.8
46.6
43.8
42.6
42.3
41.1
40.3
34.1
32.5
31.9
30.0
緊張不安
抑うつ
怒り敵意
活気
疲労
尺度
図29.T得点の全体平均
‒47‒
混乱
白平均
青平均
赤平均
緑平均
5.3 自覚症状しらべとPOMSを合わせた考察
自覚症状しらべ、POMSそれぞれで得た知見を表9にまとめた。これを元に両
手法を合わせた考察を行なっていく。白は自覚症状しらべ、POMSともに疲労増
加を示唆する数値が検出されており、模型部材が保護色で見えづらくなるのも
相まって全体的にあまり好まれない傾向にあった。青は身体面には疲労を緩和
する傾向を示したり眠気を促したりするなど作業者をリラックスさせる効果が
みられたが、精神面において疲労を促したり活気を下げたりしていることを合
わせると被験者の意識していないところで精神的な疲労が蓄積される効果を持
つ可能性が考えられる。赤は全体的な流れをみると低い値が多く見受けられる
が、短時間で身体的疲労が高まる被験者が4色中で最も多くみられ、精神面で
も疲労の数値が高い。しかし活気の値が4色中で最も多いため、作業能率を高
めるのに適しているとも考えられる。緑は身体面において高い疲労感が検出さ
れているが、実験終了時に疲労軽減を示す被験者が4色中最も多かった。精神
面においても全ての尺度で低い値で検出されているが、同時に活気の値も下
がっているため作業能率低下の可能性は否めない。
表9.調査手法から得た知見一覧
色彩
白
自覚症状しらべ
POMS
・疲労を促す傾向
・疲労を促す傾向
・あまり好まれていない
・活気の値も全体的に低い
・苦痛を訴える意見が多い
青
・疲労を緩和する傾向
・マイナス尺度の値が高めに出る
・眠気を促す
傾向
・活気もそれほど高くはない
・瞬発的に感じる疲労感が高い
・疲労の値が他3色同様に高い
赤
・高い疲労は感じ続けている
緑
・活気の値が全体的に高い
・各尺度において全体的に低い値
・疲労を緩和する動きがみられ で検出された
る
・活気の値も低い
‒48‒
6.1 総括
本研究では作業面背景色が作業者の心身両面におよぼす影響を明らかにする
目的で調査を行なった。したがって、以下に各色において観測された身体面・
精神面への影響をまとめる。
白 眼球を中心として心身ともに疲労を促す傾向が強くみられ、被験者の意見
であまり良い印象評価も得られていない。精神的にも活気を際立って減少さ
せ、混乱まで促すためあまり良い面は露出されなかった。
青 身体的にはリラックスさせる傾向があり、「眠気を誘う」という被験者の
意見も多分に見受けられた。精神的には抑うつや疲労を促す傾向が強く、身体
面において疲労の上昇度が実験終了時にかけて増大することから、表面的に疲
労を緩和しつつ気付かないうちに精神的な疲労が蓄積されていくような性質を
持つことが考えられる。
赤 照度の高さから眼球疲労を促すが、気分が高揚するなどの意見が半数の被
験者から出ている。精神面でも混乱を抑えたり活気を上げるなどの傾向がみら
れるものの、精神疲労もそれなりに促すため白同様心身への疲労を促している
ことになる。短期的に作業能率を高めるのには適していると思われる。
緑 平均的に疲労軽減を示唆しており、被験者の印象評価からもリラックスし
ている様子がうかがえた。精神面でも他の3色に比べてT得点が低めに検出さ
れているが、活気の値は白に次いで芳しくない。長時間作業をするにあたって
若干の疲労軽減は期待できるが、作業能率がやや低下する要素も孕んでいると
いえる。
今回の調査で得た各色の持つ性質から、作業者のプラスに働く効果が強いの
は赤と緑であると考えられる。赤は疲労を促すが、活気の上昇率が著しいため
短時間の作業でなら作業能率を高める効果が期待できる。緑は疲労を軽減する
兆候が随所にみられることから、4色の中では最も長時間作業に向いていると
思われる。しかし、活力が下がることを考慮すると作業の意欲などが損なわれ
ると考えられるため、作業時ではなく休憩時のほうに適しているともいえる。
‒49‒
6.2 今後の展開
今回の調査では4種類に配色された作業台を用いて8名の被験者を対象に調
査を行なった。色彩研究のほとんどは基本的に20名以上の被験者を対象に調査
を行なっており、突き詰めていけば対象色彩の変更や性差なども考慮に入れて
いかなければならない。本調査の事例件数では結論を導き出す決定力に欠ける
ため、今後さらに被験者を増やして調査を重ねていく必要がある。また、白の
作業台の印象評価の中で「模型の部材と背景色が保護色となって見づらい」と
いう意見があり、これによって他の台と若干異なる疲労要因が発生している可
能性があるため、その辺りを留意した調査手法を再検討したい。
実験の積み重ねにより色彩の持つ性質を明らかにし、作業環境作りを行なう
際の一要素になりえることを期待している。
‒50‒
謝辞
本論文は著者が八戸工業大学大学院で梅津光男教授と宮腰直幸講師のご指導
のもと実施した2年間の研究成果をまとめたものです。
本論文執筆にあたり梅津教授、宮腰講師には思慮深いご教示や度重なる話し
合いの場を設けていただき、多大なご協力を賜りました。宮腰講師には研究の
構想から展開の指導、書籍の収集、研究手法で扱うあらゆるものの手配など
様々な支援をしていただきました。特に研究の構想、支部研究報告会への投稿
の際は深いご理解とご協力を賜りました。梅津教授には論文審査前後にもご教
示の時間を取っていただき、研究の助言を頂きました。また本論文の副査を引
き受けていただいた橋本典久教授、月舘敏栄教授にはデータ検定のご指導、色
彩研究における貴重なご意見を賜りました。心理学研究分野の佐藤手織准教授
からも貴重なご意見をいただきました。この場を借りて深くお礼申し上げま
す。
また、本論文執筆にあたり大久保早紀さん、目哲子さん、武部かおりさん、
林由佳さんには予備調査の際に被験者になっていただきました。さらに板倉貴
裕君、角津田英貴君、栗谷川朋弘君、佐藤貴明君、下向裕信君、田沢浩幸君、
田中秀樹君、林泰貴君には本調査の被験者になっていただきました。
この他、様々な形でご協力いただいた方々に記して謝意を表します。
‒51‒
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