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倉庫各社の15/3期決算の注目点 - 日本格付研究所
15-D-0246 2015 年 7 月 3 日 倉庫各社の 15/3 期決算の注目点 倉庫各社(三菱倉庫、三井倉庫ホールディングス(三井倉庫 HD)、住友倉庫、澁澤倉庫、東陽倉庫、中 央倉庫、安田倉庫の 7 社)の 15/3 期決算および 16/3 期業績予想を踏まえ、株式会社日本格付研究所 (JCR)の現況に関する認識と格付上の注目点を整理した。 1. 業界動向 鉱工業出荷指数や日通総研が発表している荷動き指数などのマクロ指標を見ると足元の荷動きは緩慢な状 況となっている。景気回復に伴い 13 年後半からは出荷数量などに改善の兆しが見られたが、14 年 4 月以降 は消費税増税や夏場の天候不順などの影響で再び減速している。倉庫会社の荷動きについては、取り扱って いる貨物の種類、カバーしているエリア、取引先の状況など個別要因の影響を受けるため各社で状況が異な るが、期初に計画していたほどの荷動き改善には至らなかった模様である。今後は各社とも倉庫、陸上運送、 港湾運送などで取り扱い増加を見込んでいるが、事業環境の改善にはまだ不透明感が残っており、その動向 には注意が必要である。 倉庫 7 社のうち中央倉庫を除く 6 社については不動産賃貸事業を営んでいる。三鬼商事が公表している 「最新オフィスビル市況」によれば、東京ビジネス地区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)のオ フィス平均空室率は 15 年 5 月末時点で 5.17%と、緩やかながらも一貫して改善している。また、東京ビジ ネス地区の平均賃料は同時点で 17,320 円/坪と、13 年 12 月を底に回復傾向が続いている。しかし、倉庫会 社の賃貸物件は倉庫跡地を再開発して建設されたものが大部分を占め、オフィスや商業地域の一等地から外 れたエリアにある物件も多い。そのため倉庫会社の賃貸事業を取り巻く事業環境は依然として厳しく、賃料 収入は以前の水準に比べると低位にとどまっている。 2. 決算動向 倉庫 7 社合計の 15/3 期営業利益は 340 億円(前期比 0.5%減)と 3 期連続で減益となった。物流事業は医 薬品や文書保管などを中心に保管需要が堅調だったことに加え、既存顧客への取引深耕や新規顧客の獲得な どが進み、7 社全てが増益となった。倉庫の入出庫高、陸上運送、港湾運送などの取り扱いは全体的に伸び 悩んだが、近年の保管需要増加に伴い倉庫を新増設したことも倉庫収入に寄与した。一方、不動産事業は、 厳しい事業環境を背景に、賃料低下や空室率の上昇がみられた。また、三菱倉庫は日本橋ダイヤビルディン グの新規稼働に伴う初期費用の発生や減価償却費の増加があったほか、住友倉庫、三井倉庫 HD については 主力物件で大規模なリニューアル工事を行ったこともあり、不動産事業全体では減益となった。 財務面については、これまで景気の先行き不透明感を背景に大型の設備投資を抑制してきたこともあり、 15/3 期末時点の 7 社合計の自己資本比率は 50.9%とさらに改善した。ただ、保管需要が堅調な文書および医 薬品向け倉庫の建設、不動産市況の改善に伴う不動産施設の再開発およびリニューアルなど、設備投資を積 極化する動きもみられる。個社別では、三井倉庫 HD が物流事業の事業領域拡大と競争力の強化を目指して 国内外で積極的な設備投資や M&A を進めており、有利子負債は増加している。三菱倉庫についても神戸ハ ーバーランドや日本橋ダイヤビルディングの建設など大規模な投資が続いたために有利子負債が増加したが、 資本蓄積が進んだことで財務構成の悪化にはつながっていない。他の倉庫会社については、投資金額がキャ ッシュフローの範囲内におおむね収まっており、財務構成が改善している。 1/5 http://www.jcr.co.jp 3. 決算における格付上の注目点 16/3 期は 7 社合計の営業利益 364 億円と 7.3%の増益を見込む。物流事業は、配送センター業務の拡大、 荷動き回復に伴う取扱量の増加などが寄与する見通しである。不動産事業は、セグメント別に業績計画を公 表している 3 社(三菱倉庫、三井倉庫 HD、住友倉庫)のうち、三菱倉庫は日本橋ダイヤビルディングの一 時費用解消、住友倉庫はリニューアル工事の完了に伴う稼働率向上などで増益を見込んでいる。一方、三井 倉庫 HD はリニューアル工事の継続で減益見通しとなっている。 今後は物流事業の強化がさらに重要になると考えている。不動産事業の営業利益は 15/3 期の 7 社合計で 全体の 4 割強を占めるなど安定収益源として各社の業績を下支えしているが、再開発余地は限られてきてお り、中長期的に収益を伸ばしていくことは見込みにくいためである。しかし、顧客の物流コスト削減意識は 高く、貨物の保管そのものに対する単価は低下傾向にある。また、人件費、作業委託費、建設費用などのコ スト負担も上昇しており、収益力強化のためには付加価値の高いサービスの提供が求められる。倉庫各社は 医薬品や文書など高度な保管技術が求められる貨物の取り扱いの拡大、流通加工や配送業務を組み合わせた 付帯サービスの強化、国内外で顧客ニーズに応じた立地での倉庫新増設など顧客ニーズへの対応を強化して おり、こうした取り組みを収益に結び付けていくことができるか注目している。 財務内容は良好で 16/3 期も大きな悪化は見込まれない。倉庫の新設および増設、不動産施設の維持、設 備更新などを中心に設備投資が実施される予定だが、おおむね営業キャッシュフローの範囲内に収まる見通 しである。一方、倉庫会社の格付においては、将来的に安定したキャッシュフローを生み出すための投資を 計画的に実行しているかという視点も重要となる。必要な投資を行わなければキャッシュフロー創出力が漸 減していく可能性があるためだ。倉庫や不動産施設の新増設、M&A などは短期的には収益や財務の悪化を招 くケースもあるが、会社の投資方針や中長期的な収益、財務諸指標の変化などにも注意を払いながら格付に 織り込んでいく。 (担当)水川 雅義・山口 2/5 http://www.jcr.co.jp 孝彦 (図表 1)倉庫 7 社の連結業績の推移 (単位:百万円) 連結 営業収益 三菱倉庫 (9301) 三井倉庫 HD (9302) 住友倉庫 (9303) 澁澤倉庫 (9304) 東陽倉庫 (9306) 中央倉庫 (9319) 安田倉庫 (9324) 7 社合計 物流 営業利益 営業収益 不動産 営業利益 営業収益 営業利益 14/3 期 198,161 12,148 162,481 6,816 37,484 9,702 15/3 期 204,362 11,449 170,402 7,204 35,941 9,166 16/3 期予 218,000 12,700 180,400 7,600 39,500 10,000 14/3 期 161,535 5,494 153,373 6,649 11,050 6,397 15/3 期 170,486 6,112 165,107 7,530 10,477 5,872 16/3 期予 210,000 6,000 212,500 8,200 9,500 4,500 14/3 期 164,917 9,693 156,951 8,965 8,977 4,647 15/3 期 174,738 9,368 166,698 9,721 8,992 3,662 16/3 期予 177,000 10,500 168,100 10,600 9,900 4,200 14/3 期 54,689 2,575 48,729 1,425 6,073 2,755 15/3 期 55,061 2,680 49,409 1,546 5,756 2,727 16/3 期予 57,500 3,000 51,180 14/3 期 22,421 731 22,013 1,195 448 107 15/3 期 23,122 766 22,747 1,215 395 33 16/3 期予 24,000 780 14/3 期 23,125 1,161 23,125 1,161 15/3 期 23,554 1,339 23,554 1,339 16/3 期予 24,500 1,500 24,500 1,500 14/3 期 35,237 2,382 29,881 2,126 5,853 1,954 15/3 期 38,445 2,298 32,859 2,177 6,074 1,819 16/3 期予 5,690 40,000 2,000 14/3 期 660,085 34,184 596,553 28,337 69,845 25,562 15/3 期 689,768 34,012 630,776 30,732 67,614 23,279 16/3 期予 751,000 36,480 ※三井倉庫 HD は 16/3 期より新セグメントを適用するため、14/3 期および 15/3 期の分類とは異なる ※住友倉庫の物流事業には海運事業を含む (出所:各社決算資料より JCR 作成) 3/5 http://www.jcr.co.jp (図表 2)倉庫 7 社の財務指標の推移 10/3 期 11/3 期 12/3 期 13/3 期 14/3 期 15/3 期 204,616 203,862 209,605 225,817 234,400 260,556 49,604 51,919 54,182 58,892 72,992 76,307 自己資本比率 59.9 58.2 59.3 60.2 59.2 60.2 有利子負債/EBITDA 2.08 1.89 1.92 2.22 2.72 2.79 デットエクイティレシオ 0.24 0.25 0.26 0.26 0.31 0.29 自己資本 有利子負債 三菱倉庫 (9301) 三井倉庫 HD (9302) 自己資本 48,978 49,256 50,136 54,767 62,618 68,245 有利子負債 96,545 109,199 120,609 134,004 111,564 125,080 自己資本比率 28.9 26.8 25.4 23.5 28.4 27.8 有利子負債/EBITDA 7.54 7.97 8.69 10.64 8.44 8.13 デットエクイティレシオ 1.97 2.22 2.41 2.45 1.78 1.83 109,989 108,351 114,182 133,744 147,066 164,122 70,322 68,979 77,208 68,492 79,855 72,786 自己資本比率 46.6 47.4 46.6 50.7 50.9 54.2 有利子負債/EBITDA 4.54 4.03 4.49 3.69 4.39 3.85 デットエクイティレシオ 0.64 0.64 0.68 0.51 0.54 0.44 自己資本 31,871 31,621 31,903 33,488 35,109 38,673 有利子負債 自己資本 有利子負債 住友倉庫 (9303) 澁澤倉庫 (9304) 東陽倉庫 (9306) 37,270 34,849 37,470 37,945 37,549 38,384 自己資本比率 35.3 36.0 37.6 38.4 38.6 39.5 有利子負債/EBITDA 8.35 5.85 6.65 6.83 7.11 6.88 デットエクイティレシオ 1.17 1.10 1.17 1.13 1.07 0.99 自己資本 15,097 15,293 15,600 16,074 16,169 16,951 有利子負債 10,878 9,723 11,590 14,661 13,900 11,656 自己資本比率 47.9 49.1 46.5 43.4 42.3 44.1 有利子負債/EBITDA 5.35 4.47 5.82 7.87 6.61 5.51 デットエクイティレシオ 自己資本 7 社合計 0.64 0.74 0.91 0.86 0.69 30,018 30,535 32,558 33,093 34,515 4,962 4,597 4,234 3,716 4,027 3,592 79.3 80.1 81.8 81.6 81.7 81.3 有利子負債/EBITDA 1.94 1.78 1.62 1.42 1.63 1.35 0.16 0.15 0.14 0.11 0.12 0.10 自己資本 33,669 35,065 38,468 48,848 62,422 65,163 有利子負債 27,390 27,415 24,774 24,924 25,617 22,795 自己資本比率 45.4 46.0 49.2 52.2 54.5 56.9 有利子負債/EBITDA 4.85 5.24 4.68 4.88 5.22 4.51 デットエクイティレシオ 0.81 0.78 0.64 0.51 0.41 0.35 自己資本 474,499 473,466 490,429 545,296 590,877 648,225 有利子負債 296,971 306,681 330,067 342,634 345,504 350,600 自己資本比率 48.3 47.6 47.6 48.3 49.6 50.9 有利子負債/EBITDA 4.44 4.13 4.41 4.71 4.73 4.55 デットエクイティレシオ 0.63 0.65 0.67 0.63 0.58 0.54 デットエクイティレシオ 安田倉庫 (9324) 0.72 30,279 自己資本比率 有利子負債 中央倉庫 (9319) (単位:百万円、%、倍) (出所:各社決算資料より JCR 作成) 4/5 http://www.jcr.co.jp 【参考】 発行体:三菱倉庫株式会社 長期発行体格付:AA 見通し:安定的 発行体:三井倉庫ホールディングス株式会社 長期発行体格付:A 見通し:安定的 発行体:株式会社住友倉庫 長期発行体格付:A+ 見通し:ポジティブ 発行体:澁澤倉庫株式会社 長期発行体格付:BBB+ 見通し:安定的 発行体:東陽倉庫株式会社 長期発行体格付:BBB 見通し:安定的 発行体:株式会社中央倉庫 長期発行体格付:BBB+ 見通し:安定的 発行体:安田倉庫株式会社 長期発行体格付:BBB+ 見通し:安定的 ■留意事項 本文書に記載された情報は、JCR が、発行体および正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、また はその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、 的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、また は当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCR は、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、 金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因 のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。また、JCR の格付は意見の表明であ って、事実の表明ではなく、信用リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするも のでもありません。JCR の格付は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。格付は原則として 発行体より手数料をいただいて行っております。JCR の格付データを含め、本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。JCR の格付データ を含め、本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。 ■NRSRO 登録状況 JCR は、米国証券取引委員会の定める NRSRO(Nationally Recognized Statistical Rating Organization)の 5 つの信用格付クラスのうち、以下の 4 クラ 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