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医学科・生命科学科 1 年生ウォーミングアッププログラム開催通知 記入
医学科・生命科学科 1 年生ウォーミングアッププログラム開催通知 記入様式 分野等名 担当者名 基盤幹細胞学分野/統合 電話番号 的組織修復医学分野 今村拓也 メールアドレス 092-642-6196 [email protected] 【タイトル】 分子細胞生物学とバイオインフォマティクス的手法によるマウス神経幹細胞制御の新展開 【概要・趣旨】 脳・神経系を構成する主要な細胞種であるニューロンやグリア細胞は共通の神経幹細胞から産生されま す。また、長らく再生しないと考えられていた成体の脳にも神経幹細胞は存在し、その神経幹細胞から新 しく産生されたニューロンの学習・記憶など脳高次機能における関与が示唆されています。神経幹細胞 の分化は、細胞外因子によるシグナルだけでなく、DNA メチル化を含むエピジェネティクス等の細胞内 在性プログラムにより時空間的に巧妙に制御されています。今回は、当該研究分野で行われている研究 内容・研究手法・ライフスタイルについて紹介し、将来の研究室配属を見据えた文献収集について講義し ます。 (担当教員 中島欽一・今村拓也・堅田明子) 【開催日時】 平成 28 年 5 月 16 日(月) 18:00−20:00 (更に深く学ぶ機会は応相談にて提供いたします。) 【開催場所】 病院地区 総合研究棟6階621室 【対象】 医学科および生命科学科 1 年生 【受入可能人数】 10人 【問合せ・参加申込先】 今村拓也 [email protected] 【備考・関係ホームページ】http://www.scb.med.kyushu-u.ac.jp 【添付 PDF】基盤幹細胞学分野資料.pdf PRESS RELEASE(2015/02/05) 九州大学広報室 〒819-0395 福岡市西区元岡 744 TEL:092-802-2130 FAX:092-802-2139 MAIL:[email protected] URL:http://www.kyushu-u.ac.jp 特定遺伝子のスイッチ ON/OFF を制御する ノンコーディング RNA の新種「pancRNA」を発見! 概 要 九州大学大学院医学研究院の今村拓也助教、京都大学大学院理学研究科大学院生(九州大学で研 究指導中)の濵崎伸彦らの研究グループは、京都大学大学院理学研究科の阿形清和教授、九州大学 大学院医学研究院の中島欽一教授らとの共同研究により、1,000 を超える遺伝子にプロモーターノン コーティング RNA(注1)がペアとなって存在していることを発見しました。 今回発見した研究グループが 1,000 個以上のノンコーディング RNA の新分類を「pancRNA」と 名付けました。 本研究成果は、2015 年 1 月 29 日(木)午前 10 時(英国時間)に、英国科学雑誌「Development」 のオンライン版に掲載されました。今後、3月にプリント版(142 巻 5 号)に掲載される予定です。 ■背 景 生物の設計図とも言われるゲノム DNA には、タンパク質を作る命令を出す遺伝子の他にも、タンパ ク質にはならずに RNA として機能を発揮する分子群を生み出す情報がコードされています。このよう な RNA はノン(タンパク質)コーディング RNA と呼ばれており、2006 年には、米国の Craig Mello 博士と Andrew Fire 博士が、短い二本鎖 RNA(<40 塩基)による遺伝子の抑制機構である「RNAi」の 発見によりノーベル医学・生理学賞を受賞しています。2001 年にヒトゲノム DNA の配列解読がなされ て以来、ビッグデータ解析を基礎とした大規模 RNA 解読が進行しており、その過程において、短い二 本鎖 RNA 以外にも多種多様なノンコーディング RNA が見つかってきています。 ■内 容 pancRNA のそれぞれは、特定の遺伝子とペアで機能しうると考えられます。これまで、遺伝子機能 を OFF にするノンコーディング RNA はよく知られていました。しかし、pancRNA は、遺伝子機能を ON にするメカニズムに関与することで、ほ乳類個体発生のごく初期から機能していることが明らかに なりました。 pancRNA は、プロモーターと呼ばれる、遺伝子の発現制御に重要な働きを担うゲノム領域から生み 出されます。 例えば、 マウスのインターロイキン 17d(Il17d) 遺伝子 (注2) のプロモーターには pancRNA である pancIl17d が存在し、pancIl17d は DNA 配列特異的に DNA メチル化(注3)の消去に関与す ることにより、Il17d 遺伝子そのものの発現上昇に寄与する機能があることが明らかとなりました(図) 。 (図の説明) ゲノムには遺伝子(黒ボックス)がコードされており、その上流はプロモーターと呼ばれ、DNA メチ ル化などによる遺伝子発現調節が可能となっている。遺伝子の一部はこのプロモーター部分から pancRNA が生み出されることにより、遺伝子発現を正に調節していることが分かった。pancRNA の機 能阻害により遺伝子発現は OFF になり、胚にさまざまな異常が確認され、ES 細胞を含むいわゆる幹細 胞が正常に機能しなくなる。このような異常は、pancRNA によって制御される遺伝子がコードするタ ンパク質を培養液中に添加することにより、回復させることができる。 ■効 果 今回、マウス初期胚は、pancRNA の機能を阻害すると、着床に至る前の段階で細胞が自滅する分子 機構が駆動してしまうことにより生存できなくなりました。大多数の遺伝子セットは動物種を超えて共 通に利用されていますが、遺伝子のスイッチ ON/OFF の様式には動物種差が多数認められます。様々 な動物種から得られてきた細胞リソースを医療・農畜産応用に結びつける上で、動物種差を理解し、安 全性を考慮しながら活用することが必須です。機能性ノンコーディング RNA が、遺伝子機能抑制だけ でなく発生の最初期から遺伝子活性化に働くことを発見した本研究成果により、動物種を超えて遺伝子 のスイッチ ON/OFF を制御する研究展開が見込まれます。 ■今後の展開 今後、動物組織や細胞の多様性を生み出す基本メカニズムを解明する研究が促進されることが期待で きます。また、再生医療に役立つ細胞における遺伝子スイッチを ON/OFF の両面から制御する応用展 開が期待できます。 【論文】 著 者: Nobuhiko Hamazaki, Masahiro Uesaka, Kinichi Nakashima, Kiyokazu Agata, Takuya Imamura 論文名: Gene activation-associated long noncoding RNAs function in mouse preimplantation development. 掲載誌: Development 142 巻 5 号 doi: 10.1242/dev.1169962015(2015 年 3 月予定) 下記の URL よりオンライン版にアクセスできます: http://dev.biologists.org/content/early/2015/01/29/dev.116996.abstract 【用語解説】 (注1)pancRNA プロモーターノンコーディング RNA(promoter-associated noncoding RNA)の略称。プロモーターと 呼ばれる、ゲノム上の遺伝子発現制御領域から作り出される。RNA の多くはタンパク質にデコードさ れることによりさまざまな生物機能に関わるが、pancRNA は RNA のまま遺伝子発現制御に関わる。 (注2)インターロイキン 17d 遺伝子 インターロイキンとは、発見当初、白血球から分泌され、細胞間コミュニケーションに機能する液性因 子の総称として名付けられた。免疫系の賦活化に関係するものが多く、ヒト・マウスでは 40 種類以上 の遺伝子が存在する。免疫系以外の細胞からの分泌も多数報告されており、多岐に渡る生理活性が認め られている。このうち Il17d の機能に関する研究は少ないが、他のインターロイキン類の産生を促す可 能性が指摘されている。 (注3)DNA メチル化 ゲノムを構成する塩基であるアデニン・グアニン・シトシン・チミンのうち、主にシトシンに起こる化 学修飾の一つ。一般に、遺伝子発現制御領域において DNA メチル化が起こると、その遺伝子は発現が 抑制される。DNA メチル化パターンは個々の細胞に固有のものであり、例えば iPS 細胞ではその元と なる体細胞の DNA メチル化パターンを一部持ち越すことも知られていることから、DNA メチル化パタ ーンを自在に制御することは極めて重要な課題である。 【本研究について】 本共同研究は、科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究・新学術領域研究「性差構築の分子基盤」公募研 究:研究代表者 今村拓也、グローバル COE プログラム「生物の多様性と進化研究のための拠点形成」 : 京都大学)からの研究費を受け、新学術領域研究「ゲノム支援」の支援課題の一部として行われました。 【お問い合わせ】 大学院医学研究院 助教 今村 拓也 電話:092-642-6196 FAX:092-642-6561 Mail:[email protected] PRESS RELEASE(2015/03/09) 九州大学広報室 〒819-0395 福岡市西区元岡 744 TEL:092-802-2130 FAX:092-802-2139 MAIL:[email protected] URL:http://www.kyushu-u.ac.jp 海馬の免疫担当細胞ミクログリアは てんかん発作後の症状を緩和することを発見 〜神経系と免疫系細胞の新たな相互作用を解明〜 概 要 九州大学大学院医学研究院の中島欽一教授と、大学院医学系学府博士課程4年の松田泰斗らの研究 グループは、大阪大学の審良静男教授、奈良先端科学技術大学院大学の河合太郎准教授らとの共同 研究により、海馬に存在する免疫担当細胞であるミクログリア(※1)がてんかん発作後に起こる異 常ニューロン(神経細胞)新生を抑制することで、てんかん症状を緩和することを世界に先駆けて 発見しました。本研究成果は、通常悪者と考えられている体内の炎症反応が、実は脳の正常機能維 持に重要であることを示しており、てんかん発作発症やそれによって生じる脳機能障害の新たな改 善法開発につながることが期待されます。 本研究成果は、2015年3月9日(月)に、国際学術雑誌『Nature Communications』に掲載されま した。 ■背 景 てんかんは、ニューロンが過剰な興奮を示すことで誘発される痙攣や意識障害(てんかん発作)を伴う 慢性神経疾患です。世界での患者数は 5,000 万人以上にのぼり、約 30%のてんかん患者は、既存の薬剤 治療では十分な効果が得られず、発作を繰り返す難治性てんかんを患っています。そのため、これまで とは異なる因子を標的とした治療薬の開発が求められています。 脳の主な細胞を生み出す元となる神経幹細胞(※2)は大人の脳にも存在し、特に海馬における神経 幹細胞からの新たなニューロン産生は、学習・記憶に重要であることが示されています。これまでの研 究から、側頭葉てんかんの患者及びその動物モデルの海馬では、神経幹細胞から新生されたニューロン は形態的に異常なだけでなく、通常とは異なり不適切な場所へと(異所性の)配置されることが報告さ れていました。また、この異常ニューロンが、異所性の興奮性神経回路を形成することで、てんかん原 生及び病態の慢性化並びに海馬依存的な学習・記憶の障害につながることがわかってきています。 ところで、私たちの体は、免疫システムに代表されるように、異常なもの/不要なものを感知し、そ れを除去しようとする本質的な仕組みを備えています。しかし、私たちの脳がてんかん発作後の異常ニ ューロン新生を感知し、それを制御しようとする仕組みを備えているのかどうかはわかっていませんで した。 ■内 容 研究グループは、本来、病原体由来 DNA を認識するはずの Toll 様受容体(TLR)9(※3)遺 伝 子 を欠損したマウスでは、野生型マウスと比較して、てんかん発作依存的な異常ニューロン新生がより増 大していることを発見しました。そこで、TLR9 遺伝子欠損マウスを用いてこの現象を詳細に調べてみ ると、TLR9 は、てんかん発作後に変性を起こしたニューロンから放出される自己 DNA を認識して活 性化されることがわかりました。さらに、活性化された TLR9 はミクログリアからの炎症性サイトカイ ンの一種(TNF-)の産生を促すことで、てんかん発作依存的な異常ニューロン新生を積極的に抑制し ようとしていることを突き止めました。また、薬剤投与によって TLR9 遺伝子欠損マウスのてんかん再 発作を誘発したところ、野生型マウスと比較して、発作の程度および海馬依存的な学習・記憶障害が重 篤化していることがわかりました。 これらのことから脳内の免疫担当細胞ミクログリアは、異常興奮によって変性したニューロンから放 出される DNA を TLR9 により認識し、炎症性サイトカインを産生することでてんかん発作依存的な神 経幹細胞からの異常ニューロン新生を抑制することにより、てんかん再発作の程度および学習・記憶障 害を軽減するために重要な役割を果たしていることが明らかになりました。 図1 図2 図 1: 海馬に存在するミクログリア(紫)は神経幹細胞(緑)と隣接して存在している。 図 2: てんかん発作後、ミクログリアは、てんかん発作によって変性したニューロンから放出される自己 DNA を認識する。この自己 DNA は TLR9 によって認識されることで、TNF-の転写が促進される。その結 果、ミクログリアは TNF-を細胞外へ放出し、神経幹細胞へと働きかけることで、異常ニューロン新生 を抑制する。 ■効果・今後の展開 本研究成果で、これまで抑えることが大事だと考えられていた炎症反応が、実は、正常な脳機能維持 に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。今後は、難治性てんかん患者の脳で TLR9 シ グナルが働いているかどうかをさらに詳しく調べることも大切であり、これまで考慮されていなかった 自然免疫分子に着目し、炎症反応のバランスを考えた上で、新たなてんかん治療法を開発することが肝 要であると考えられます。 【用語解説】 (※1)ミクログリア 中枢神経系に存在する免疫担当細胞。中枢神経系の組織損傷や細菌感染が起こると、TLR シグナルを 介して炎症性サイトカインを産生する。 (※2)神経幹細胞 自己増殖能とともに、ニューロンへの分化能を持った幹細胞。成人でも海馬にその存在が認められ、 1 日約 700 個のニューロンを新たに作り出している。 (※3)Toll 様受容体(Toll-like receptor:TLR) 病原体の構成成分を認識し、炎症性サイトカインを産生する自然免疫(※4)受容体。TLR はその一 種。 (※4)自然免疫 病原体の感染後、速やかに病原体由来の分子を認識して病原体を攻撃する仕組み。 【お問い合わせ】 大学院医学研究院 教授 中島 欽一(なかしま きんいち) 電話:092-642-6195 FAX:092-642-6561 Mail:[email protected] PRESS RELEASE(2015/09/04) 九州大学広報室 〒819-0395 福岡市西区元岡 744 TEL:092-802-2130 FAX:092-802-2139 MAIL:[email protected] URL:http://www.kyushu-u.ac.jp 神経発達障害の原因となる遺伝子の新たな機能を発見 〜様々な精神疾患・発達障害の発症メカニズムの解明と新規治療法開発への糸口〜 概 要 九州大学大学院医学研究院の中島欽一教授、辻村啓太特任助教らの研究グループは、同志社大学 の高森茂雄教授、国立精神神経医療センターの伊藤雅之室長、立命館大学の深尾陽一郎准教授らと の共同研究により、自閉症やてんかん、失調性歩行、特有の常同運動(手もみ動作)を主徴とする進 行性の神経発達障害レット症候群(※1)の原因遺伝子であり、様々な精神疾患との関連が指摘さ れているMeCP2遺伝子(※2)が、細胞内の遺伝子発現制御において重要な役割を持つマイクロ RNA(miRNA)(※3)の生成過程を促進することを世界に先駆けて発見しました。研究グループ は、MeCP2標的miRNAとしてmiR-199aを同定することに成功し、このmiR-199aが種々の精神疾 患に深く関わるmTOR(※4)シグナルを正に制御すること、遺伝学的にmiR-199aの発現を減少さ せたマウスではMeCP2欠損マウスに類似した表現型を示すことを明らかにしました。本研究成果 は、正常な脳の発達および機能には、MeCP2によるmiR-199aを介したmTORシグナルの制御が重 要であることを示しており、幅広い精神疾患・発達障害の発症原因の解明や新たな治療薬開発につ ながることが期待されます。 本研究成果は、2015年9月3日(木)午後12時(米国東部時間)に国際学術雑誌『Cell Reports』 のオンライン版で公開されました。 ■背 景 発達障害・精神神経疾患は様々な社会問題の一因となることが多く、近年社会的関心が急速に高ま っています。しかしながら、これらの精神疾患の発症メカニズムはいまだにほとんど解明されていま せん。 X 染色体上に存在する MeCP2 遺伝子の変異は、レット症候群の原因となるだけでなく、自閉症、 双極性障害、認知障害、統合失調症患者にも認められることなどから、種々の発達障害・精神疾患に 関与することが指摘されています。レット症候群は自閉症スペクトラム障害の一つであり、獲得され た運動・言語能力の喪失、精神遅滞などによって特徴づけられる神経発達障害です。MeCP2 遺伝子を 欠損したマウスではレット症候群患者と同様の表現型を示すことから、レット症候群モデルとしてこ のマウスを用いた組織・細胞レベルでの多くの研究が展開されています。例えば、レット症候群患者・ モデルマウスの脳組織では、特にニューロンの細胞体サイズの減少及び興奮性シナプス伝達の異常な どがみられます。しかし、レット症候群は MeCP2 遺伝子の変異が原因で発症することは分かってい るものの、発症機序の詳細はわかっていませんでした。 一方で近年の研究により、発達障害を含めた種々の精神疾患の発症には、mTOR シグナルの制御不 全が深く関与することが示唆されています。最近、レット症候群およびモデルマウスにおいても、こ の mTOR シグナルの減弱がみられることが相次いで報告されました。しかし、MeCP2 がどのように mTOR シグナルを制御しているのかは明らかにされていませんでした。 そこで、本研究グループは生化学、分子生物学、遺伝学を用いた実験により、精神・発達障害発症 に深く関与する MeCP2 の分子作用機序、 および mTOR シグナルとの分子相関を明らかにすることで、 この MeCP2 遺伝子の機能異常が原因で引き起こされる発達障害の発症メカニズムに迫ろうと考えま した。 ■内 容 先行研究では、MeCP2 はメチル化された DNA に結合し、標的遺伝子の発現を抑制すると報告され ていました。そのため、世界中の多くの研究者により長い間、レット症候群は「メチル化された MeCP2 標的遺伝子の発現異常により発症する」と考えられていました。しかしこれまでにレット症候群の表 現型と直結する標的遺伝子発現異常が見出されておらず、MeCP2 の変異により重篤な神経機能障害が 引き起こされる分子メカニズムを説明することができませんでした。 そこで本研究グループは、これまで知られていない MeCP2 の機能が存在する可能性を考慮し、プ ロテオミクス技術(※5)や次世代シークエンス技術(※6)を用いた網羅的な解析から、MeCP2 が miRNA マイクロプロセッサーである Drosha 複合体(※7)と会合して、特定の miRNA の生合成(プ ロセシング)を促進することを見いだしました。さらに研究グループは、MeCP2 の下流標的 miRNA として miR-199a を同定し、 この miR-199a が異常な興奮性シナプス伝達および興奮性シナプス密度、 細胞体サイズの減少などの MeCP2 欠損ニューロンの代表的な各種表現型を改善できることを明らか にしました(図 1) 。さらに詳細な解析により、miR-199a は mTOR シグナルを負に制御する因子の発 現を抑制することで、最終的に mTOR シグナルの活性化を亢進することをつきとめました。また、こ の miR-199a の発現を遺伝学的に減少させたマウスを作製したところ、このマウスは MeCP2 欠損マ ウスに見られる多くの表現型を示すこと、脳において mTOR シグナルの減弱がみられることが明らか になりました。加えて、研究グループは、レット症候群患者の脳組織においても、miR-199a の発現 が実際に低下していることを突き止めました。 これらのことから、MeCP2 が特定の miRNA プロセシングを介して、mTOR シグナルを負に制御 する因子群の発現を抑制することで mTOR シグナルを正に制御すること(図 2)、これらの分子メカ ニズムの破綻(図 3)によりレット症候群の病態が引き起こされることが示されました。 MeCP2 miR-199a 図 1:miR-199a により MeCP2 欠損ニューロンの表現型が改善される。 PDK1 mTORC2 Rheb PDK1 SIRT1 mTORC2 PDE4D SIRT1 REDD1 Akt HIF1a PIP2 IRS PI3K SIRT1 RISC Rheb -! miR-199a-5p RISC HIF1a miR-199a-5p Dicer SIRT1 AktPDE4D Drosha DGCR8 TSC1/2 DDX5 REDD1 DDX17 BNIP3 mTORC1 HIF1a RISC HIF1a MeCP2 PDE4D -! Rheb PDE4D hnRNPs Drosha DGCR8 DDX5 DDX17 -! DGCR8 miR-199a DDX17 DDX5 DNA MeCP2 -! 図 2:正常ニューロンにおける MeCP2 による mTOR miR-199a Dicer Drosha -! DGCR8 miR-199a DDX5 DDX17 MeCP2 DNA -!-! シグナル制御 。 miR-199a miR-199a DNA hnRNPs Drosha hnRNPs mTORC1 -! miR-199a-5p -! MeCP2 miR-199a miR-199a mTORC1 Dicer PTEN PIP3 REDD1 PDK1 BNIP3 -! TSC1/2 mTORC2 BNIP3 Rheb Dicer hnRNPs TSC1/2 PIP2 REDD1 PTEN BNIP3 -! miR-199a-5p RISC PDK1 hnRNPs Akt mTORC1 PTEN PIP3 Akt IRS PI3K TSC1/2 PIP3 PIP2 IRS PI3K hnRNPs mTORC2 PTEN hnRNPs PIP3 PIP2 hnRNPs IRS PI3K -! miR-199a DNA MeCP2 MeCP2 Cytoplasm PTEN IRS PI3K PIP2 PDK1 mTORC2 SIRT1 PDK1 mTORC2 PIP2 IRS PI3K REDD1 TSC1/2 AktHIF1a BNIP3 PTEN PIP3 Akt Rheb PDK1 Rheb RISC PTEN REDD1 Nucleus TSC1/2 PDE4D PDK1 HIF1a mTORC2 -! BNIP3 Dicer miR-199a-5p RISC Akt SIRT1 Rheb DroshaSIRT1 PDE4D DGCR8 REDD1 DDX17 DDX5 REDD1 TSC1/2 HIF1a mTORC1 MeCP2 BNIP3 BNIP3 -!Rheb PDE4D Nucleus PDE4D miR-199a -! miR-199a-5p Nucleus RISC HIF1a Drosha DGCR8 DDX5 DDX17 -! Dicer Nucleus hnRNPs -! 図 3:MeCP2 欠損による miR-199a 発現減少を介した mTOR -! Drosha hnRNPs hnRNPs Drosha DGCR8 miR-199a DNA DDX5 DDX17 DGCR8 miR-199a DDX5 DDX17 -! MeCP2 MeCP2 miR-199a Cytoplas miR-199a MeCP2 mTORC1 mTORC1 Dicer Cytoplasm hnRNPs TSC1/2 -! miR-199a-5p PIP2 IRS PI3K SIRT1 PIP3 MeCP2 Dicer MeCP2 hnRNPs Akt mTORC1 PTEN miR-199a-5p RISC hnRNPs mTORC2 Cytoplasm -! PIP3 hnRNPs PIP3 PIP2 hnRNPs IRS PI3K DNA 機能低下。 -!-! miR-199a miR-199a -! miR-199a DNA DNA ■効果・今後の展開 発達障害を含めた様々な精神疾患の発症に関与する MeCP2 と mTOR シグナルを結ぶ分子機序が明 らかになったことから、本研究成果は、幅広い精神疾患の病態解明や新規治療法の開発へと波及され ることが考えられます。さらに今後、本研究グループが同定した MeCP2 の標的 miRNA を用いた核 酸医薬の開発や各種精神疾患の早期診断を補助するバイオマーカーへの応用も期待されます。 【用語解説】 (※1)レット症候群 自閉症やてんかん、失調性歩行、特有の常同運動(手もみ動作)を主徴とする進行性の神経発達障害であ る。X 連鎖優性遺伝病であり、男性は胎生致死で女性のみが罹患する。レット症候群の 80-90%に MeCP2 遺伝子の変異がみられる。 (※2)MeCP2 遺伝子 X 染色体上に存在し、MeCP2 タンパク質をコードする。MeCP2 はメチル化された遺伝子のプロモー ター領域に結合し、標的遺伝子の発現を抑制する転写抑制因子として同定された。MeCP2 遺伝子の変 異は、レット症候群の原因となるだけでなく、自閉症、双極性障害、認知障害、統合失調症患者にも 認められる。 (※3)マイクロ RNA(miRNA) 細胞内に存在する長さ 18 から 24 塩基程度の 1 本鎖 RNA。数百から数千塩基の一次前駆体 (Primary-RNA)として転写され、核内で Drosha 複合体にプロセシングされる。 (※4)mTOR mTOR は成長因子、グルコースやアミノ酸によって活性化される細胞内シグナル因子であり、タンパ ク質合成、脂質合成、エネルギー代謝など様々な生物学的プロセスを制御する。 (※5)プロテオミクス技 術 広 義 に は、 細 胞 や 組 織 に おけ る 、タ ン パ ク 質 の 構 造 や 機 能 を 総 合 的 に 研 究 する た めの 技 術 で あ るが 、 ここ で は 、 M e CP 2 と 結 合 す る タン パ ク 質 を 網 羅 的 に 解 析 す る 技 術 ( 液 相 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー と マ ス ス ペ ク ト ルメ トリ ー の 併 用 ) を 使 用 し た 。 (※6)次 世 代 シークエンス技 術 これまでのサンガー法 によるものとは全 く異 なる方 法 を用 いて、 DNA 配 列 を決 定 する技 術 。開 発 企 業 によりその方 法 は異 なるが、いづれも並 行 して大 量 の配 列 を同 時 に決 定 できる。今 回 はこの 技 術 を野 生 型 と MeCP2 欠 損 細 胞 において発 現 が異 なる miRNA を網 羅 的 に同 定 するために使 用 した。 (※7)Drosha 複合体 一次前駆体として転写された miRNA を二次前駆体へとプロセシングするタンパク質の複合体。miRNA はその後 核外へ移行し、別の酵素によってさらに、18 から 24 塩基程度の成熟 miRNA へとプロセシングをうける。 【お問い合わせ】 大学院医学研究院 教授 中島 欽一(なかしま きんいち) 電話:092-642-6195 FAX:092-642-6561 Mail:[email protected] PRESS RELEASE(2015/11/20) 九州大学広報室 〒819-0395 福岡市西区元岡 744 TEL:092-802-2130 FAX:092-802-2139 MAIL:[email protected] URL:http://www.kyushu-u.ac.jp 妊娠中の抗てんかん薬投与は子どもの学習・記憶障害を引き起こす 〜胎生期の薬剤曝露が海馬に及ぼす長期的な影響とその改善法を解明〜 概 要 九州大学大学院医学研究院の中島欽一教授と、Berry Juliandi 学術研究員らの研究グループは、 東北大学、星薬科大学、国立医薬品食品衛生研究所との共同研究により、抗てんかん薬の一つであ るバルプロ酸(Valproic acid:VPA) (※1)を妊娠マウスに投与した場合、出生・成長した子ども の脳では神経細胞(ニューロン)産生能が低下してしまうため、学習・記憶に悪影響があることを 見出しました。また、この学習・記憶能の低下は、自発的運動(※2)によって改善されることも明 らかにしており、本研究成果は胎生期薬剤曝露による出生児の脳機能障害に対する治療法開発の一 助となることが期待されます。 本研究成果は、2015 年 11 月 19 日(木)午後 12 時(米国東部時間)に国際学術雑誌『Stem Cell Reports』のオンライン版で掲載されました。 ■背 景 てんかんは、神経細胞(ニューロン)が過剰興奮することによって痙攣などの発作を繰り返す慢性神 経疾患です。その罹患率は全年齢層において約 1%とされており、生殖年齢の女性もその例外ではあり ません。てんかんを合併した妊婦においては、てんかん発作の予防を目的に抗てんかん薬を継続投与す ることが原則であり、抗てんかん薬の催奇形性に関する研究がこれまで盛んに行われてきました。しか し近年、注目され始めている妊娠中の抗てんかん薬投与が子どもの脳に与える長期的な影響(晩発性影 響)に関する研究は立ち遅れているのが現状です。晩発性影響の例として、抗てんかん薬の一つである VPA の胎生期曝露による影響が挙げられます。てんかん合併妊婦の約 20%は VPA による治療を受けて おり、その妊婦から出生した子どもは、他の抗てんかん薬による治療を受けた妊婦から出生した子ども と比較して、認知機能が低下することが報告されています。この原因は未だに明らかにされておらず、 これを解明し対処法を開発することは、てんかんを患った女性が安心して妊娠、出産するために重要で あると考えられます。 ところで、ヒトを含む多くの生物種において、記憶の形成や維持に重要であることが知られている脳 の海馬には、大人になった後でも神経幹細胞(※3)が存在しており、新しいニューロンが日々産生さ れています(ニューロン新生) 。新生されたニューロンは、海馬内で適切なネットワークを形成するこ とで記憶の形成や維持に寄与しており、ニューロン新生の障害は認知機能の低下と関連することがわか っています。そのため本研究では、VPA 曝露によって出生した子どもの認知機能が低下する原因として、 海馬のニューロン新生の異常に着目しました。 ■内 容 研究グループは妊娠マウスに対して、妊娠 12 日目から 14 日目(ヒトでは 4 週から 6 週に相当)まで VPA を投与した場合、投与しなかった場合と比べて、胎生 15 日目の胎仔の脳において通常より多くの ニューロンが神経幹細胞から産生されるとともに、神経幹細胞自体の増殖が抑制されることを発見しま した。さらに、胎仔期 VPA 曝露マウスでは成体期における神経幹細胞の数が少なく、それに伴って新 生されるニューロンの数が減少する(図 1)だけでなく、新生ニューロンの形態的・機能的な異常があ ることが明らかとなりました。また、このようなマウスでは学習・記憶機能に異常があることもわかり ました。以上より、VPA 曝露によって胎仔期の神経幹細胞からニューロンへの分化が過度に促進された 結果、本来成体期まで残存されているべき神経幹細胞が枯渇し、その数が減少すると考えられました。 その結果、成体海馬におけるニューロン新生が障害され、学習・記憶機能に異常も観察されました(図 2) 。 それではこの障害はどのように改善することができるのか。これまでの研究で自発的な運動は、海馬 におけるニューロン新生を亢進させる作用があることが明らかになっています。そこで、胎生期 VPA 曝露マウスの飼育箱に回し車を設置し自発的な運動を行わせたところ、成体海馬で神経幹細胞の増殖や ニューロンへの分化が促進するのみならず、新生ニューロンの形態的、機能的な異常も改善できること がわかりました。また、マウスの行動解析では学習・記憶機能が改善することが明らかとなりました。 以上より、胎仔期 VPA 曝露による晩発性影響は自発的運動によって大きく改善し得ることが示されま した(図 2)。 図1 コントロールマウス(MC)と比べ、胎仔期 VPA 曝露マウス (VPA)では成体海馬における神経幹細胞(赤)の数が減 少しているが、自発的運動(VPA+RW)によりその数は増 加している。 図2 VPA 曝露により胎生期神経幹細胞のニューロン分化が 促進し、成体海馬におけるニューロン新生が障害され る。その結果、記憶・学習機能に異常を来すが、自発 的運動によってこれらの晩発性影響は改善される。 ■効果・今後の展開 本研究成果により、これまで不明であった胎生期 VPA 曝露による成体期認知機能障害のメカニズム を明らかにするとともに、自発的運動といった薬物治療に頼らない方法で、その晩発性影響を改善でき ることを示しました。しかしながら、この知見をヒトに応用する場合、運動療法をどの程度の強度、期 間で行うかなど、検討すべき点が数多くあります。そのため、今後は神経幹細胞への晩発性影響がどの ような機序で引き起こされているのかをより詳細に明らかにすることで、自発的運動による改善法に加 えて他の改善方法を開発し併用する必要があります。 【用語解説】 (※1)バルプロ酸:抗てんかん薬として、てんかん患者に対して世界中で頻用されている薬剤である。 その作用機序としては GABA の不活性化抑制が広く知られているが、その他にヒストン脱アセチル化 酵素阻害作用など様々な作用を有する。 (※2)自発的運動:強制的な運動ではなく、運動ができる環境にすることで誘導される自発的な運動 である。マウスの飼育箱に回し車を設置することで、マウスが走りたい時に走ることができる。 (※3)神経幹細胞:増殖を繰り返しながら、ニューロンを産生する細胞。ニューロンを産生する際に、 神経幹細胞は自らをニューロンへと変化させるが、この現象を「分化」と呼ぶ。 【お問い合わせ】 大学院医学研究院 教授 中島 欽一(なかしま きんいち) 電話:092-642-6195 FAX:092-642-6561 Mail:[email protected] PRESS RELEASE(2016/03/04) 九州大学広報室 〒819-0395 福岡市西区元岡 744 TEL:092-802-2130 FAX:092-802-2139 MAIL:[email protected] URL:http://www.kyushu-u.ac.jp ノンコーディング RNA による神経モデル細胞が増えない仕組みの発見 概 要 九州大学大学院医学研究院の今村拓也准教授、星薬科大学先端生命科学研究センターの山本直樹 特任助教らの研究グループは、九州大学大学院医学研究院の中島欽一教授、京都大学大学院理学研 究科の阿形清和教授との共同研究により、ほ乳類神経モデル細胞を用いて、1,000 を超える遺伝子に プロモーターノンコーディング RNA(pancRNA)(※1)がペアとなって存在することを発見して いましたが(2015 年 2 月 5 日付けプレスリリース参照) 、これらは、エネルギーを供給されても細 胞が増殖せずに安定的に維持されるメカニズムに必須であることを今回新たに発見しました。今後、 動物組織や細胞の多様性を生み出し、維持するための基本メカニズムを解明する研究の促進、また、 再生医療に役立つ細胞における遺伝子スイッチを ON・OFF の両面から制御する応用展開が期待さ れます。 本研究成果は、2016 年 3 月 4 日(金)午前 7 時 5 分(英国時間)に、英国科学雑誌『Nucleic Acids Research』のオンライン版で掲載されました。 ■背 景 神経細胞は増殖すると、回路に余分な電気信号が生まれてノイズとして働いてしまうため、増殖する ことはありません(図 1) 。神経細胞以外でも増殖が適切に制御されないと、がん化のリスクが亢進しま す。生物の設計図とも言われるゲノム DNA には、細胞の増殖制御プログラムが書き込まれており、タ ンパク質を作る命令を出す遺伝子の他にも、タンパク質にはならずに RNA として機能を発揮する分子 群を生み出す情報がコードされています。このような RNA はノン(タンパク質)コーディング RNA と呼ばれており、2006 年には、米国の Craig Mello 博士と Andrew Fire 博士が、短い二本鎖 RNA(< 40 塩基)による遺伝子の抑制機構である「RNAi」の発見によりノーベル医学・生理学賞を受賞してい ます。2001 年にヒトゲノム DNA の配列解読がなされて以来、ビッグデータ解析を基礎とした大規模 RNA 解読が進行しており、その過程において、短い二本鎖 RNA 以外にも多種多様なノンコーディング RNA が見つかってきています。 図1:神経伝達のモデル図。神経細胞が分裂してしまうと、新たに作られた細胞(図中に紫で表示)が神経 伝達(図中に赤で表示)にノイズを生んでしまう。 ■内 容 細胞の増殖には 2 つのステップがあり、ゲノム DNA を複製するステップ(S 期)と、複製したゲノ ム DNA を等分に分配するステップ(M 期)があります。これまで、神経細胞が増殖しないメカニズム の研究により、S 期の制御が大事であることはよくわかっていました。今回、本研究グループは、神経 モデル細胞であるラット PC12 細胞(※2)を用いることで、M 期の制御も同様に大事であることを明 らかにしました(図 2) 。すなわち、S 期だけではなく、M 期にも制御メカニズムを働かせることで、神 経細胞には二重の厳重なセキュリティがかけられていると考えられました。 pancRNA のそれぞれは、特定の遺伝子とペアで機能しうると考えられます。昨年、本研究グループ は、pancRNA が遺伝子機能を ON にするメカニズムに関与することで、ほ乳類個体発生のごく初期か ら機能していることを明らかにしていました(2015 年 2 月 5 日付けプレスリリース参照:図 3)。今回、 同様のメカニズムが、上記の最終分化細胞の増殖制御にまで必須であることが新たに明らかとなりまし た。 pancRNA は、プロモーターと呼ばれる、遺伝子の発現制御に重要な働きを担うゲノム領域から生み 出されます。これまで、両方向性プロモーターが cAMP(※3)刺激を感知する、いわばエネルギーセ ンサーとして遺伝子のスイッチ ON・OFF 制御に働くことがわかっており、神経細胞の場合、このエネ ルギー感知メカニズムが細胞の最終分化に関与することが考えられました。今回、本研究グループによ る RNA の大規模解析から、このタイプのエネルギーセンサーでも、一方がタンパク質を命令しない pancRNA で一方がタンパク質コード遺伝子というペアになっていることが大多数であることを発見し ました(図 4) 。また、pancRNA の量を操作することで、エネルギー伝達物質がなくともエネルギーセ ンサー効果を再現することに成功しました。これにより、ノンコーディング RNA が短時間のエネルギ ー情報を長期間保持し、単一遺伝子レベルにて ON・OFF を記憶させることが明らかになりました。 図 2:神経モデル細胞の増殖抑制メカニズム。PC12 細胞が神経のようになる前は無限に増殖できる。この細 胞に神経栄養因子である NGF を入れると細胞が分化を開始し、桃色で示した経路 I が働き、S 期が阻害され る。ここに、さらに cAMP と呼ばれるエネルギー伝達物質を添加すると、経路 II も阻害することにより、細 胞分裂を完全に停止し、異常な細胞増殖を抑制できる。 図 3:ゲノムにコードされる pancRNA の発見。ゲノムには、矢印で示したタンパク質をコードする遺伝子以 外にも、橙色で示したノンコーディング RNA がたくさん見つかってきていた。昨年までに、本研究グループ は、次世代シーケンサー技術によるビッグデータ解析から、遺伝子とペアとなる pancRNA(図中の青矢印) を数千発見していた。 図 4:pancRNA 操作による細胞分裂の制御。ゲノムには遺伝子がコードされており、その上流はプロモ ーターと呼ばれ、ヒストンアセチル化(※4)などによる遺伝子発現調節が可能となっている。) 。 ■効 果 今回、pancRNA の量が異常になると、細胞増殖が制御できなくなりました。ヒトを含むほ乳動物に は、神経細胞とは別に増殖できる細胞である神経幹細胞が存在し、これらがメタボリックな細胞外環境 に応じて、増殖あるいは分化するという巧妙なしくみが働いています。生体において、統合的に組織修 復を行う上では、神経細胞と神経幹細胞の両者の動作原理を理解し、安全性を考慮しながら細胞を適切 に活用することが必須です。今回、機能性ノンコーディング RNA が、遺伝子機能抑制だけでなく遺伝 子活性化に働くことを発見したことにより、今後、動物種を超えて神経の信号伝達の恒常性を保つため の遺伝子のスイッチ ON・OFF を制御する研究展開が見込まれます。 ■今後の展開 今後、動物組織や細胞の多様性を生み出し、そして維持するための基本メカニズムを解明する研究が 促進されることが期待できます。また、再生医療に役立つ細胞における遺伝子スイッチを ON・OFF の 両面から制御する応用展開が期待できます。 【論文】 著 者:Naoki Yamamoto, Kiyokazu Agata, Kinichi Nakashima, Takuya Imamura 論文名:Bidirectional promoters link cAMP signaling with irreversible differentiation through promoter-associated noncoding RNA (pancRNA) expression in PC12 cells 掲載誌:Nucleic Acids Research オンライン版 doi: 10.1093/nar/gkw113 【本研究について】 本共同研究は、科学研究費補助金(基盤研究 B:研究代表者 今村拓也、グローバル COE プログラ ム「生物の多様性と進化研究のための拠点形成」 :京都大学)からの研究費を受け、新学術領域研究「ゲ ノム支援」の支援課題の一部として行われました。 【用語解説】 (※1)プロモーターノンコーディング RNA (pancRNA) : promoter-associated noncoding RNA の略称。プロモーターと呼ばれる、ゲノム上の遺伝子発現制御領 域から作り出される。RNA の多くはタンパク質にデコードされることによりさまざまな生物機能に関 わるが、pancRNA は RNA のまま遺伝子発現制御に関わる。 (※2)ラット PC12 細胞: ラット副腎髄質褐色細胞腫から 1975 年に樹立された細胞。神経成長因子によって長い神経線維を伸ば し、神経細胞に似た形態をとる。 (※3)cAMP: サイクリック AMP の略。細胞は、ATP と呼ばれる物質を元にして、栄養素を取り込んでいる。ATP は 一部が酵素反応により環状化し、cAMP に転換され、遺伝子発現パターン変化の開始反応に利用されて いる。 (※4)ヒストンアセチル化 ヒストンは、ゲノム DNA を小さい細胞の中に折りたたむために必須のタンパク質である。ヒストンは さまざまな化学修飾により制御されており、このうちヒストンがアセチル化されると、近傍の DNA 構 造が緩み、遺伝子が発現しやすくなる。 【お問い合わせ】 大学院医学研究院 准教授 今村 拓也 電話:092-642-6196 FAX:092-642-6561 Mail:[email protected]