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情報通信の経済分析と 政策・戦略の相互作用
1 情報通信の経済分析と 政策・戦略の相互作用 東京経済大学 経済学部 専任講師 黒田敏史 略歴 2 2003年 総務省の競争評価における市場画定のた めの価格弾力性を推定(黒田・依田[2004]) 2005年 情報通信政策研究プログラムの研究メン バーとして参加 2009年 2007年度成果論文「日本のブロードバンド 市場における間接ネットワーク効果の実証分析」を元 にした論文にて、京都大学博士(経済学)を取得 現在 東京経済大学経済学部専任講師 経済分析がもたらすもの 3 経済学は、情報通信産業の政策・企業戦略に有用な 情報をもたらす 供給の分析 生産関数の推定:構造規制に関する基本情報 需要の分析 価格弾力性の推定:市場画定・価格戦略 非価格要素の貨幣価値の測定:ディジタルディバイド・スイッチ ングコスト 構造推定によるシミュレーション ブロードバンド市場におけるネットワーク効果 携帯電話プラットフォームの実証分析 供給の分析 4 情報通信の生産性分析 Oniki et al [1994] NTTの民営化と情報通信市場における競争導入により、NTT の全要素生産性の上昇率は1958-1987年の3.4%から、1 982-87年の5.12%に上昇したことを明らかに 浅井・根本[1998] NTTの地域通信事業の自然独占性を棄却 携帯電話・ブロードバンドの費用分析には野口[2004]等 若干の事例があるものの、構造規制に対する明確な結論 は得られていない 需要の分析1 5 価格弾力性の推定 中村・実積[2007] 通話需要の価格弾力性を推定し、通話料金低下による厚生へ の影響を明らかにしたほか、固定・携帯の代替を踏まえたラム ゼイ料金水準を明らかに 黒田・依田[2004] ナローバンド、ADSL,CATV,FTTHの需要価格弾力性を推 定し、それぞれ関連市場として単独に画定 その他、消費者グループ毎の価格弾力性の違い知る事で 価格差別の導入が利潤を増加させうるかを検証したり、両 面市場における価格バランシングの見直しを行う等、多様 な価格戦略の検討が可能 需要の分析2 6 非価格要素の貨幣価値の測定 依田・堀口[2006] 山形県八幡地域住人と東京都住人のアンケートデータを用い て、各種公共サービスに対する消費者の支払い意志額を推定 し、合計額は八幡地域で8,773円、東京都で8,620円と、八幡 地域の方が僅かながら高く、地方にはFTTHの需要が無いとす る通説を否定 中村[2007] ユーザアンケートにより、仮想的なメールアドレスやコンテンツ のポータビリティに対するユーザの支払い意志額を推定し、ユ ーザはメールアドレスのポータビリティに対し、電話番号ポータ ビリティに近い水準の支払い意志額を有することを明らかに 構造推定によるシミュレーション 7 構造推定とは 構造推定とは、経済モデルのパラメータの推定を行うこと で、外生変数が変化した場合のモデルの内生変数の変化 を構造的に分析するアプローチ 例:政府の課税導入のシミュレーションの手続き 1・市場シェア・価格データより、財毎の需要関数を推定 2・需要関数より、企業の利潤最大化を前提とした費用を導出 3・上記費用を元に、課税後に各企業が設定する価格を導出 4・課税後の予想価格から、各財のシェアを導出 5・税収・消費者余剰・企業利潤による厚生評価を実施 構造推定の例1 8 Kuroda[2009]” Does net neutrality contribute to the migration to FTTH? a lesson from Japan’s experience” 総務省公表の都道府県毎のブロードバンド加入者数を用いて 、ブロードバンド・マイグレーションを分析 ブロードバンド・コンテンツによるネットワーク効果を含んだ消 費者需要を推定した結果、消費者は、同じコンテンツであって も、ADSL・CATVよりもFTTHに加入した方が大きな効用を 得るため、コンテンツの増加と共にFTTHのシェアは増加する 事を立証 シミュレーションの結果、ADSL・CATV事業者は、FTTH事 業者よりもコンテンツを囲い込むことでライバルから奪える顧 客が大きいため、より強い囲い込みのインセンティブを持つ事 が明らかに データの制約から、企業毎のシェア変動のシミュレーションは今後の 課題(競争評価の2009年度データが揃うのを待っています) 構造推定の例2 9 黒田[2009]「携帯電話プラットフォームの実証分析」 携帯電話事業者の課金代行サービスの存在を考慮した、 消費者の携帯電話事業者選択と、コンテンツ数の決定に 関する構造モデルを構築、TCAの加入者数を用いて推定 推定の結果、携帯電話事業者はMNP導入による顧客離 脱を防ぐため、コンテンツ数を増加させるような行動をとっ た可能性が示唆される その結果、事業者を乗り換えないユーザにもコンテンツ増 加による便益が発生した可能性を指摘 消費者の同一性やコンテンツ支出額一定、技術一定等の強い 制約を置いている。これらの制約を緩和したより確かな分析の ためには筆者の技術の向上が必要 終わりに 10 企業・政府共に経済学者の能力を活用しつつ、今後の 発展に向けた支援をぜひ継続して頂きたい 特に、データの入手は研究者の努力だけではどうにも ならない面があり、公的な整備や民間の調査データ購 入のための費用が不可欠 経済学者はデータから引き出せる情報の価値を高め るべく日々研鑽を行っており、私もその一員として社会 に成果を還元してゆきたい 参考文献 11 Oniki, H et al. [1994] "The Productivity Effects of the Liberalization of Japanese Telecommunication Policy," Journal of Productivity Analysis, 5(1), pp.63-79. 浅井澄子・根本次郎[1998]「地域通信事業の自然独占性の検証」『日本経済研究』第48巻第3号 、pp.31-39。 中村彰宏・実積寿也[2007]「固定電話と携帯電話の料金低下の厚生インパクトの測定」情報通信 政策研究プログラム2006年度研究成果論文、 http://www.officepolaris.co.jp/icp/2006paper/2006002.pdf 黒田敏史・依田高典[2004]「離散的選択モデルを用いた日本のブロードバンド市場の需要分析」 InfoCom Review 35, pp.25-36. 依田高典・堀口裕記[2006]「FTTHを活用した公共サービスの消費者便益の計測:ミックスド・ロ ジット・モデルを用いた地方と都市部の比較分析」InfoCom Review 40, pp.3-22. 中村彰宏[2007]「携帯電話番号・メールアドレス・コンテンツポータビリティに関するコンジョイント 分析」『公益事業研究』第50号第2巻、pp.53-62。 Kuroda[2009] "Does net neutrality contribute to the migration to FTTH? a lesson from Japan’s experience," mimeo, http://www.tku.ac.jp/~kuroda/Does%20net%20neutrality%20help%20the%20mi gration%20to%20FTTH_final.pdf 黒田敏史[2009]「携帯電話プラットフォームの実証分析」 mimeo, http://www.tku.ac.jp/~kuroda/mobileplattform_090415.pdf