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安全でない中絶 - CiteSeerX
安全でない中絶 全世界と各地域の安全でない中絶と 安全でない中絶による死亡の推計(2008年現在) Unsafe abortion Global and regional estimates of the incidence of unsafe abortion and associated mortality in 2008 第6版 SIXTH EDITION 翻訳: 安全でない中絶 第6版 WHO(世界保健機関) WHO(世界保健機関) 図書目録データ 安全でない中絶− 全世界と各地域の安全でない中絶と安全でない中絶による死亡の推計(2008 年現在) (第 6 版) 1. 中絶、誘発性の−疫学 Abortion, induced-epidemiology. 2. 中絶、誘発性の−死亡 Abortion, induced-mortality. 3. 参考文献 I. WHO Review literature. I. World Health Organization. ISBN 978 92 4 150111 8 (NLM 分類:WQ 440) 安全でない中絶 全世界と各地域の安全でない中絶と安全でない中絶による死亡の推計(2008 年現在) ⒸWHO(世界保健機関)2011 年 本書は 2011 年にWHO(世界保健機関)により以下のタイトルで出版されました。 Unsafe Abortion: global and regional estimates of the incidence of unsafe abortion and associated mortality in 2008 - sixth edition ⒸWHO(世界保健機関)2011 世界保健機関事務局長は日本語版への翻訳・出版権をすぺーすアライズ(日本)に与えま した。すぺーすアライズは日本語版についてのみ責任を持ちます。 * 本書をお読みになる前に 本 書 は W H O( 世 界 保 健 機 関 ) の Department of Reproductive Health and Research( リ プ ロ ダ ク テ ィ ブ・ ヘ ル ス と 研 究 部 門 ) に よ る 報 告 "Unsafe Abortion: Global and regional estimates of the incidence of unsafe abortion and associated mortality in 2008 - sixth edition"(『安全でない中絶−全世界と 各地域の安全でない中絶と安全でない中絶による死亡の推計(2008 年現在)第 6 版』の全訳です。ただし引用文献は原文のまま収録しました。また、訳者による 日本の読者へのあとがきを末尾に加えました。 本文の注は本文末尾に、付録の注は各付録の末尾にまとめて示しました。 無断複写・複製・転写を禁じます。WHOの出版物はWHOの販売・流通部にて入手でき ます(20 Avenue Appia, 1211 Geneva 27, Switzerland tel: +41 22 791 2476 fax: +41 22 791 4857 email: [email protected])。販売用であれ非営利目的の配布であ れWHOの出版物の複製・複写・翻訳を希望される場合は上記住所のWHO出版部(fax: +41 22 791 4806 email: [email protected])までご連絡ください。 この文書において用いられている名称や表現は、国・領域・市・地方やその他の行政機 関の法的地位や国境あるいは境界の範囲に関するWHOの立場をいかなる形態においても 示唆するものではありません。地図上の点線は完全には合意に達してはいない場合のおお よその境界を示しています。 特定の企業や製造業者の製品に言及がある場合、そこに言及されていない同様の他社製 品に優先して、WHOがその製品を支持、または推奨することを示唆するものではありま せん。間違いや欠落を除き、登録商品名は頭文字の大文字で区別されています。 WHOは本書に含まれる情報を確認するための対応をしています。しかし、出版物は配 布に際して明記されているものも明記されていないものも含め保障責任を伴いません。本 書の解釈や利用に対する責任は読者に帰します。いかなる場合においてもWHOはその利 用によって生じる損害については責任を負いかねます。 安全でない中絶 安全でない中絶 序文 謝辞 WHO による『安全でない中絶−全世界と各地域の安全でない中絶と安全でない中 この報告書は UNDP(国連開発計画)/ UNFPA(国連人口基金)/ WHO(世界 絶による死亡の推計(2008 年現在) 第 6 版』は、政策立案者やプログラム管理者、 保健機関)/ World Bank Special Programme of Research, Development and 医療従事者、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス分野の NGO、安全でない中 Research Training in Human Reproduction (HRP)(世界銀行、特別研究プログ 絶に携わる研究者・団体・個人、そして安全でない中絶に関する情報に関心を抱く人々 ラム、人の生殖に関する研究開発)によって集められたデータをもとに、Elizabeth を対象としています。この推計のためのデータや方法については付録 1 に掲載して Ahman 氏(WHO 顧問)と Iqbal Shah 氏(WHO)によって作成されました。次 います。 の方々にも心から感謝します。ICF マクロ・インターナショナルの職員 Eliott Hoel 氏、Lady Ortiz 氏、Albert Themme 氏、Vinod Mishra 氏には人口と健康調査 第 1 章では、安全でない中絶の背景と特徴が述べられています。第 2 章と第 3 章 (DHS)のデータ作成に関して。WHO 情報・証拠・研究グループの Colin Mathers では、安全でない中絶の程度や動向をより深く理解するため、中絶に関わる法的背景、 氏、Doris Mafat 氏、Mie Inoue 氏にはいろいろと支援してくださったことに対し 中絶サービスへの障壁及び、安全でない中絶による合併症を患っている女性の医療へ て。国際家族計画連盟(IPPF)の Kelly Culwell 氏と国際家族計画連盟東アジア の障壁について述べています。第 4 章では中絶、望まない妊娠、避妊薬(具)の使用、 地域事務所の Rupsa Mallik 氏には報告書や経験を共有してくださったことに対し 避妊の失敗、避妊へのニーズが充たされていないことの相互関係に言及します。また て。Guttmacher 研究所の Susheela Singh 氏には文書を共有し、情報を検討し、 中絶と出生率の低下との関係についても触れます。第 5 章では、安全でない中絶の 助言をくださったことに対して。国際産婦人科連盟 FIGO の安全でない中絶の予防 健康への悪影響と、世界的な女性や社会への負荷を検証します。 とその結果についての作業部会について情報を共有してくださった FIGO の Anibal Faundes 氏にも感謝します。 第 6 章では、あらゆる国を対象とし、また、安全でない中絶についての証拠があ る国々を対象とした中絶の発生割合や対生児出産比を説明します。第 7 章では、全 世界での中絶発生状況と準地域ごとの差異について、中絶の件数や動向の綿密な分析 と共に述べています。ちなみに、この報告書で言及されている地理的な地域や準地域 は国連人口部の区分に基づいています。 第 8 章では中絶による死亡について推定します。第 9 章ではこの報告書の結びと して、安全でない中絶を緊急に防ぐ必要性を強調し、安全でない中絶を減少させるた めの政策やプログラムについての勧告を提示しています。 安全でない中絶 安全でない中絶 定義 字の解釈は単純ではなく比較を目的とするならばあまり役に立たないでしょう。 Contraceptive prevalence (CPR) 避妊実行率:婚姻あるいは同棲している The number of unsafe abortion deaths 安全でない中絶による死亡数: 生殖可能年齢の女性(15 〜 49 歳)のうち、 何らかの避妊法を実践している人の割合。 これらの数字はあらゆる妊産婦死亡の推算値から推定されています(文献 2 〜 6) 。 2008 年の妊産婦死亡の新たな推定が最近発表されました(文献 6) 。 Unmet need for family planning (%) 家族計画のニーズの非充足率(%) : ここでのニーズが充足されていない女性とは、調査時点で、出産可能でこれ以上子ど Unsafe abortion case-fatality rate 安全でない中絶による致死率:安全で もがほしくないか、次の子どもの出産時期を遅らせたいと思っているものの、避妊を ない中絶による致死率は、10 万件の安全でない中絶のうちの推定死亡数を示してい 実行していない女性です。データにはパートナーがいる女性に関するものであり、婚 ます。この数字は、安全でない中絶に関係した死亡の危険性を示しています。 姻だけでなく、婚姻類似の関係によって、同居している関係も含みます。 Unsafe abortion indicators 安全でない中絶の指標:とくに表記がない限り、 Total fertility rate per woman (TFR) 15 〜 44 歳の合計特殊出産率:合計特 中絶の割合や比率(対生児出産比)はあらゆる国を対象として計算されています。こ 殊出産率は人口統計上の指標で、特定の年齢階級別のそれぞれの女性が特定の期間に れらの指標は、異なる国の分類で計算される場合もあります。 産んだ子どもの数を生涯の出産可能年齢で産んだと仮定した場合の、1 人の女性あた りの生児出産の平均数。 (1)all countries in the region or subregion 地域や準地域におけるあらゆる 国々:それぞれの国が安全でない中絶の証拠を示しているかいないかを問わない。 Unsafe abortion rate 安全でない中絶の割合:安全でない中絶の割合は、年間 (2)only the countries with evidence of unsafe abortion 安全でない中 1,000 人当たりの、15 〜 44 歳の女性の中絶件数をいいます。この基準は人口比で 絶の証拠を示す国のみ:したがって中絶の割合や比率(対生児出産比)の計算を の安全でない中絶の発生の程度を表します。 するうえで安全でない中絶の証拠のない国を基準(分母)から外しています。こ れらの国は安全でない中絶件数(分子)を報告しておらず、したがってその人口 Unsafe abortion ratio 安全でない中絶比率(対生児出産比) :安全でない中絶 比率は、1 年間の 100 件の生児出産(妊娠数に代替する数値として) (脚注 a)と安 全でない中絶の比をいいます。安全でない中絶比率は妊娠が生児出産ではなく中絶に よって終わる度合いを示します。 Per cent of maternal deaths due to unsafe abortion 安全でない中絶 を分母には入れることはできません。 (詳細については第6章1を参照ください。 ) Unsafe abortion mortality ratio 安全でない中絶の死亡(発生)比:安 全でない中絶の死亡(発生)比は、10 万件の生児出産に対する安全でない中 絶による死亡数です(脚注 a) 。この数は生児出産数に対してどのくらいの女 性が安全でない中絶により死亡しているかを示しています。 による妊産婦死亡の%:あらゆる理由による妊産婦死亡 100 件のうち、安全でない 中絶による妊産婦死亡の占める数値。この数字は妊産婦死亡の原因のうちの、安全で ない中絶の相対的な重要度を表します。妊産婦死亡率が比較的低く、安全でない中絶 以外の妊産婦死亡の原因がすでに大幅に減少している所では、安全でない中絶による 妊産婦死亡が妊産婦死亡のかなりの割合を占めることもあります。したがってこの数 脚注 a 生児出産の数は妊娠数の代用値として使用します。より適切な基準は妊娠数(生児出産、死産、人工妊娠中絶、 自然流産、子宮外妊娠)の総計ですが、この数字はほとんど入手できません。したがって国際比較のために生 児出産が基準として用いられています。 安全でない中絶 安全でない中絶 略語の説明 AGI Alan Guttmacher Institute Alan Guttmacher 研究所 CDC Centers for Disease Control and Prevention, United States アメリカ 合州国の疾病対策予防センター DHS Demographic and Health Surveys 人口・保健統計 要旨 第 1 章 安全でない中絶と は ………………………………………………………11p 第 2章 中絶についての法的背景……………………………………………………13p 第3章 安全な中絶サービスへのアクセスの障壁…………………………………18p HCM hospitalization complications method 合併症による入院からの推算法 第 4 章 出生率の移行、計画外妊娠、避妊の実行及び満たされていない家族計画 へ の ニ ー ズ …………………………………………………………………23p ICPD International Conference on Population and Development (ICPD), 第 5 章 安全でない中絶が健康に及ぼす影響と、安全でない中絶の医療保健 サ ー ビ ス へ の 影 響 …………………………………………………………28p Cairo, Egypt, 1994 国際人口開発会議、エジプト、カイロ、1994 年 ICPD Five-year Review and Appraisal of the Programme of Implementation of the International Conference on Population and Development, New York, 1999 「国際人口開発会議」の履行プログラムの、5 年後の見直しと評価のための会 議、ニューヨーク、1999 年 RAMOS reproductive age mortality studies 生殖年齢での死亡についての調査 RRT randomized response technique 無作為抽出回答の手法 UN United Nations 国際連合 第 6 章 安全でない中絶の発生及び死亡についての推定………………………30p 6.1. 安全でない中絶の割合と対生児出産比の分母を選択する:全ての国を分母とする 場合と安全でない中絶の証拠のある国のみを分母とする場合 6.2. 準地域、地域、全世界での安全でない中絶の発生及び関連する妊産婦死亡 6.3. 2003 年時点及びそれ以前の推算との比較 第 7 章 地域及び世界における安全でない中絶の発生…………………………35p 7.1. 全世界及び主要地域における安全でない中絶 7.2. 2008 年時点の地域や準地域ごとの安全でない中絶の推算 7.3. 安全でない中絶の動向 第8章 地域及び全世界での安全でない中絶による死亡…………………………47p 8.1. 全世界での安全でない中絶による妊産婦死亡数と、安全でない中絶による死亡 発生比の推算 8.2. 安全でない中絶による致死率 第 9 章 結 論 と 提 言 …………………………………………………………………52p UNFPA United Nations Population Fund 国連人口基金 引用文献 付録 UNICEF United Nations Children’s Fund ユニセフ、国連児童基金 UNPD United Nations Population Division 国連人口部 WHO World Health Organization 世界保健機関 付録 1 安全でない中絶の年間発生及び関連する死亡を推算する 1 . 安全でない中絶についてのデータ 2 . 2008 年値の推算のためのデータ収集 3 . 安全でない中絶の発生を推算する 4 . 安全でない中絶による死亡を推算する 引用文献 付録 2 国連人口部の地域分類に従って分類された国及び領土 付録 3 2008 年時点の、WHO 地域区分による安全でない中絶件数と安全でない中絶 に関連する死亡の推定 付録 4 WHO 区分の地域と加盟国 要旨 第 1 章 安全でない中絶とは 安全でない中絶による死亡は依然として、全妊産婦死亡の 13%を占めています。 毎年、世界中で約 2 億 1 千万人の女性が妊娠し(文献 8) 、そのうちの 1 億 3,500 しかし妊産婦死亡数が 1990 年の 54 万 6,000 件から 2008 年の 35 万 8,000 件へ 万超件が生児出産です(文献 9) 。残りの 7,500 万件は死産や自然流産、人工妊娠中 と減少するのにつれて、安全でない中絶に関連する死亡は 1990 年の 6 万 9,000 件、 絶です。2003 年には約 4,200 万件の妊娠が、 女性の意思によって中絶されました (文 2003 年の 5 万 6,000 件から 2008 年の 4 万 7,000 件へと減少しています(文献 6) 。 献 10) 。そのうちの 2,200 万件は安全な中絶で、2,000 万件は安全でない中絶です。 安全でない中絶は防ぐことができますが、安全でない中絶は依然として、女性の健康 安全でない中絶は、しばしば無資格の、技術が未熟な施術者によって実施され、妊娠 や生命を不当にも脅かしています。 している女性本人によって実施されることもあります。安全でない人工妊娠中絶は、 公式に規定されている条件や安全基準を満たしていません。その状況は非衛生的な環 2008 年には世界中で推定 2,160 万件の安全でない中絶が行われ、そのほとんど 境や危険な施術、間違った薬の投与によって、さらに劣悪なものとなります。安全で 全てが発展途上国で行われています。15 〜 44 歳の女性 1,000 人中の安全でない中 ない中絶は避けられることですが、女性の健康を不当に脅かし続けており、命を脅か 絶の割合は 14 人と変化はありませんが、安全でない中絶の数は 2003 年の 1,970 万 すこともあります。 件と比して増加しています(図 1) 。安全でない中絶の割合が変化していないにもか かわらず、安全でない中絶の件数が増加している主な理由としては、生殖年齢の女性 WHO は、安全でない中絶を、次のいずれか、あるいは両方の条件に当てはまる、 の増加が挙げられます。 望まない妊娠を終わらせる手続きであると定義しています。必要な技術を持たない 人による場合と、最低限の医療水準に満たない環境で行われる場合です(文献 11) 。 安全でない中絶の絶対数は、異なる地域、準地域とでは人口の大きさが異なるため、 この定義は、中絶の過程に関するものに見えますが、安全でない中絶の特徴は中絶前、 有意義な比較はできません。したがってこの報告書では(生児出産に対する)比率と 中絶が行われる際、そして中絶後の不適切な状況にも影響します。次に挙げる状況は (15 〜 44 歳の生殖年齢の女性の中での)割合が比較のために算出されています。 安全でない中絶の典型的な特徴です。安全でない中絶には、このうちのいくつかの状 況が当てはまる場合もありますし、ほとんどあるいは全てに当てはまる場合もありま アクセス、女性のエンパ ワメントの支援(子ども を持つかどうか、いつ産 むかを決定する自由も含 む。 )が実施され、さら に強化されない限り、安 全でない中絶の数は増え 図1 2003年及び、 2008年の全世界及び主要地域の安全でない中絶の推計 25 21.6 20 21.2 19.7 19.2 ・中絶前のカウンセリングや助言がない。 療施設の部外の施術者によって中絶が実施される。 ・妊娠している女性本人か伝統的な施術者が子宮に物を押し込んだり、乱暴な腹部の 10.8 9.8 10 5 0 す。 ・技術がない施術者によってしばしば非衛生的な環境で、あるいは公式の/適切な医 15 4.0 続けるでしょう。 5.0 4.7 5.5 5.5 先進地域 発展途上 後発発展 地域 途上国 マッサージを行う。 6.2 ・中絶薬が不適切な方法で処方される、あるいは(適切な)服薬指示や経過観察がな 3.9 4.2 0.5 0.4 全世界 出典 表5及びWHO 文献73 10 2003年の安全でない中絶件数(単位は100万件) 2008年の安全でない中絶件数(単位は100万件) 件数(単位は100万件) 安全な中絶と避妊への 0.5 0.4 サハラ 以南の アフリカ アフリカ アジア ラテン・ ヨーロッパ アメリカ および カリブ海地域 い中で、薬局で中絶薬が処方される。 ・妊娠している女性本人が伝統的な薬の摂取や危険な物質によって中絶をする。 11 安全でない中絶 安全でない中絶の、その他のさらなる危険な特徴は次のとおりです。 第 2 章 中絶についての法的背景 ・施術過程で発生する多量の出血や緊急事態に速やかな対応ができない。 表1は中絶を認可する法律上の理由を示しています。この中絶についての法律上の ・頻回中絶を予防する避妊カウンセリングを含む、中絶後の健診やケアが提供されな 理由の定め方は計画外の妊娠をした女性が、その後の道筋、つまり、安全または安全 い。 ・法律上の制限や、人工妊娠中絶にまつわる社会的・文化的信念のせいで、合併症が 生じた場合に女性が適時の医療対応を求めることを躊躇する。 でない中絶の利用へとたどる道筋をかなり方向づけます。 中絶が認可される法律上の理由ごとの国の割合 (地域、 準地域別) 、 2007年 表1 国または地域 女性の生命 を救うため あらゆる国々 先進地域(表注a) 発展途上地域 アフリカ 東部アフリカ 中部アフリカ 北部アフリカ 南部アフリカ 西部アフリカ アジア(表注a) 東アジア(表注a) 南・中央アジア 東南アジア 西アジア ヨーロッパ 東欧 北欧 南欧 西欧 その他の先進国 (表注b) ラテンアメリカおよび カリブ海地域 カリブ海地域 中央アメリカ 南アメリカ オセアニア(表注a) 身体的 精神的 レイプ 健康を 健康を や 守るため 守るため 近親姦 胎児の 障がい 経済的・ 社会的 理由 女性の 要望が あれば 中絶を 認める 国の数 98 98 97 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 100 98 100 100 93 100 67 90 60 58 71 33 50 80 56 67 100 64 60 65 88 100 90 79 89 65 88 57 55 65 22 50 80 56 62 100 57 50 65 88 100 90 79 89 49 85 37 30 18 11 33 60 44 49 100 50 40 41 84 100 80 79 78 46 85 32 30 24 11 17 80 38 56 100 57 30 59 86 100 90 79 78 34 79 19 8 6 0 17 20 6 40 75 50 30 29 79 90 90 64 78 28 69 15 6 0 0 17 20 6 38 75 43 30 29 70 90 60 64 67 193 48 145(表注c) 53 17 9 6 5 16 45c 4 14 10c 17 43 10 10 14 9 100 100 80 100 80 80 60 5 91 58 58 42 18 15 6 33 100 75 92 100 69 38 58 50 69 38 58 50 38 25 58 7 23 13 17 0 23 13 8 7 8 0 8 0 13 8 12 14 表注a 日本、 オーストラリア及びニュージーランドは、地域の集計からは除外しましたが、全先進国の総計には含まれてい ます。 表注b オーストラリア、 カナダ、 日本、 ニュージーランド、 アメリカ合州国 表注c 東ティモール民主共和国の法的状況は明らかでないため、表には含まれていません。この図の元となった図表が 発表されて以降(文献12)、 マヨット島とアルーバが加えられました。 出典 国連 2007 (文献12) 中絶が認められる条件は国によって異なります。国によっては中絶へのアクセスが 厳しく制限されています。幅広い医学的・社会的理由により、または本人からの求め によって妊娠中絶ができる国もあります。表1はどのような条件で中絶が合法となる 12 13 安全でない中絶 か、その条件にあてはまる国の割合を示しています。98%の国で、女性の生命を守 表 2 は 2007 年時点の、妊娠中絶が認められる根拠の数を示し、その条件を 2008 るための中絶が認められています。中絶理由がより寛大になるほどその割合が急速に 年に当てはめて、該当する 15 〜 44 歳の女性の人口と出生数の比率を計算していま 下がります。 本人からの依頼により中絶ができる国は 28%のみです。 数カ国を除いて、 す。15 〜 44 歳の女性の 39%はある条件を満たす場合(妊娠期間等)には、本人の 女性の生命を守るための中絶は認められています。しかし、女性の生命を守る場合に 希望により中絶ができる法律のある国で暮らしています。本人希望によるという理由 のみ中絶を認める 53 カ国のうち約半分の国は、この理由だけがあれば人工妊娠中絶 ではないものの、WHO 分類 5 つ以上全ての理由により中絶を認めている国は 6 カ を明確に認めていますが、その他の国々では、法的審査が必要とされると同時に(ま 国のみです。インドもこの分類に入っており、そのため、このカテゴリーの出産可能 たは)医療者が中絶を拒否できます(文献 8,13) 。それ以外の全ての国(136 カ国) 年齢の女性と出生数の全世界に占める割合が高くなっています。 は女性の生命を守る場合だけでなく、それに加えて一つ以上の理由で中絶を認めてい ます。つまり生殖年齢にある世界の女性の 80%以上は、女性の生命を守るという理 15 〜 44 歳の女性の 20%近くが、中絶が非合法あるいは女性の生命を守るとい 由以外の何らかの規定による中絶への法的な権利を有しています。 う理由のみで中絶が認められる国で暮らしており、57%が法的な規制が少なく、さ まざまな理由で女性が中絶を要求できる国で暮らしています(表 2) 。しかし、安全 中絶に関する法律は、多様で複雑な場合があります。中絶に関する法律は通常は妊 でない中絶は、あらゆる法の下で行われています。生殖可能年齢の女性の 36%のみ 娠期間で規定していますが、法に規定された意図とは矛盾する条件が必要とされる場 が、安全でない中絶がされているという証拠がない国で暮らしています(付録 1、表 合があり、その結果、ほとんど公式には中絶できないこともあります。たとえばザン A1.3) 。また 15 〜 44 歳の女性の 39%が本人の希望に応じて妊娠中絶ができる国で ビアでは、医師や専門者がほとんどいないにもかかわらず、中絶を実施するには専門 暮らしています(表 2) 。この二つのグループはかなりの部分で一致していますが、 者を含め数人の医師の承認が要件とされています。また、同意やカウンセリングに関 本人希望での中絶を認めていない国もあります(例えば英国は強かんや近親かんを理 する追加的要件のせいで、中絶の申請が複雑かつ時間がかかるものとなり、法的に中 由とした中絶を認めておらず、ニュージーランドは社会経済的理由による中絶を認め 絶ができる期間を経過してしまうことがあります。また法の文言(de jure 法律)と ていません) 。1971 年に中絶が合法化されたインドは、それとは逆の状況を示して その適用 (de facto 現実 ) の間に大きなギャップがある場合には、慣習が安全で合法 おり、中絶は(本人希望のみでの中絶は認められていないものの)全ての理由での中 な中絶を促進したり妨げることがあります。 絶が認められています。しかし、インドでは安全でない中絶が行われています。幅広 表2 中絶が認められる根拠ごとに分類した国の数と割合、 その分類ごとの15∼44歳の 女性の割合、 出産の割合 中絶が女性の 中絶が許さ 生命を守る場合に れていない のみ許されている いかなる場合 女性の生命を にも中絶を 守る場合にのみ 中絶を認める 認めない では、たとえば農村部でなかなか安全な中絶サービスを利用できないために、法律の 中絶が女性の生命を守る場合以外の1つから5つの理由で 認められている、 または、 女性の要求のみで認められている。 女性の生命 を守る場合 及び他の1つ の理由により 中絶を認める 女性の生命 を守る場合 及び他の2つ の理由により 中絶を認める 女性の生命 を守る場合 及び他の3つ の理由により 中絶を認める 女性の生命 を守る場合 及び他の4つ の理由により 中絶を認める 女性の生命 を守る場合 女性の要求 及び他の5つ のみによって の理由により 中絶を認める 中絶を認める 国の数 4 53 7 32 17 19 6 55 国の割合(%) 2 28 4 17 9 10 3 28 0.4 17 6 10 4 6 18 39 0.4 21 5 17 3 7 20 27 (193) 表注a 15∼44歳の 女性の割合 出産の割合 表注a 東ティモール民主共和国の法的状況は明らかでないため、表には含まれていません。この図の元となった図表 が発表されて以降(文献12)、 マヨット島とアルーバが加えられました。 出典 国連 2007 (文献12) 14 い理由での、または本人の希望による中絶を認めている東欧や旧ソ連邦の多くの国々 枠組に則らずに安全でない中絶が行われる場合があります。法律はそれほど厳しくな くても、 中絶サービスが農村部など全ての地域に行き届いていない国のほとんどでは、 未だに安全でない中絶が行われています。カンボジア、ギアナ、ネパール、南アフリ カ共和国、そして最近ではエチオピアがより規制の少ない中絶法の実施を浸透させる 過程にあり、そのため成功はまだらであり、安全で合法的なサービスと並行して、安 全でない中絶が行われています。 2003 年の WHO と Guttmacher 研究所による妊娠中絶の推算についての共同研究 (文献 10)によれば、国連人口分類準地域による避妊や出生率という背景に対する安 15 安全でない中絶 全な中絶と安全でない中絶の発生数を検証できます。図 2 は合計特殊出生率(最左 これに対して、法律が厳しい場所ではほとんどの中絶が安全でない中絶です。合成 の中部アフリカ地域の女性 1 人あたり子ども 6.2 人から最右の東欧準地域における 人工妊娠中絶率は約 30%と高い数値を示しています。避妊実行率は、南アメリカの 1.3 人まで)の順に 2003 年の避妊実行率を推算しています。見て分かりやすいよう 目立った例外を除き概して低い傾向にあり、多くの女性たちが子育てを終える前の出 につけられた丸印は、安全な中絶と安全でない中絶の両方を含めた中絶の割合を示し 産間隔を空けるために安全でない中絶に依拠していることになります。南アメリカで ています。×印は安全でない中絶の割合を示しています。図 2 のカリブ海地域と北 は伝統的避妊法が 10%、不妊手術が 35%を占めています。合計特殊出生率は、中 アメリカ地域(合計特殊出生率がそれぞれ 2.5 と 2.0)の境目が、安全でない中絶が 部アフリカ準地域における 6.2 からカリブ海準地域の 2.5 と広い幅を見せています。 圧倒的である地域と安全でない中絶がほとんどない地域、法律の規制が厳しい地域と そうでない地域を分けるラインとなっています。 合計特殊出生率を降順に並べた避妊実行率から見た、2003年における中絶に ついて厳しい法律の国とそれほど厳しくない法律の国における人工妊娠中絶の割合 90 人工妊娠中絶の割合 安全でない中絶の割合 中絶について法規制がそれほど 厳しくない国 80 60 50 50 40 40 30 30 20 20 10 10 0 0 拠が皆無かほとんどありません。それに対して、法的規制が厳しくなると、非合法で 北 ニ オー アメ ュ ー スト リカ ジ ラ ー リ ラ ア ン ・ 東 ド 北 ア ヨ ジ ー ア 西 ロッ ヨ ー パ ロ 南 ッ ヨ パ ー 東 ロッ ヨ ー パ ロ ッ パ 70 60 かし中絶法がもっとも緩やかな場所では、安全でない中絶がされていることを示す証 安全でない中絶の百分率が増加します。 90 70 中 部 ア 西 フリ 部 ア カ フ 東 リ カ 部 ア フ リ 西 カ ア 南 ・ ジ 中 ア 央 ア ジ 北 ア 部 ア 南 フ 部 リカ ア 中 フリ 央 カ ア メ 東 リカ 南 ア ジ 南 ア ア メ カ リ リ ブ カ 海 地 域 避妊実行率(%) 80 避妊実行率 中絶について法規制が厳しい国 は無関係に、人工妊娠中絶を行う可能性が高いことを示しています(文献 10) 。し 人工妊娠中絶の割合 (15∼44歳の女性1,000人あたり) 図2 Sedgh 氏らは、世界中の女性たちが計画外の妊娠に直面する時には、法の条件と 図注 このグラフでは人工妊娠中絶の割合が線で結ばれていますが、 これは可視化してわかりやすい工夫であり、 連続帯であることを示すものではありません。 出典 国連文献76、 WHO文献73、Sedghほか (文献10) 東欧を除いて、中絶についての法律が比較的厳しくない国々では、丸印で示されて いるように安全でない中絶は皆無か、発生率が低く、人工妊娠中絶率が低いことが確 認できます。東アジア準地域は寛大な中絶法がある先進国にあてはまります。これら の地域では避妊実行率は 60%以上で、合計特殊出生率は女性1人あたり 2 人以下と なっています。 16 17 第 3 章 安全な中絶サービスへのアクセスの障壁 安全でない中絶 てきた国々も、医療従事者の態度の変容を含めて、必要とされる質の高いサービスを 中絶へのアクセスは法律によって制限されるだけでなく、その他にも障壁がありま 提供できるよう格闘しています。困難を克服している国もありますが、改正後まもな す。これらの障壁は、女性たちを安全でない中絶に追い込み、安全でない中絶による い国々では、公式にかつ安全に提供される中絶と並行して、かなりの数の安全でない 合併症が生じて緊急に治療が必要な際にも、女性が医療対応を求めることをためらう 中絶が継続するでしょう。公式の中絶サービスの利用のしやすさと質の問題、安全な 原因となっています。 中絶のための料金、医療スタッフの態度とクライアントへの対応、社会における中絶 に対する社会的、文化的態度は、中絶を利用し、アクセスする際に障壁となる多くの 中絶へのアクセスに関する切実な問題の一つは、発展途上国、とくに農村部では、 原因のごく一部に過ぎません。繰り返し発生する問題として、以下の問題が挙げられ ほとんど病院を利用できない状況であることです。病院での分娩で比較すると、発展 ます。 途上国では病院で出産する女性は 55%にとどまっています(文献 14) 。農村部はそ れにもまして厳しい状況です。農村部ではアフリカとアジアでは 35%(安全でない ・法で権利が保障されているにもかかわらず、多くの国が中絶サービスを実現するた 中絶がごくわずかな東アジアを除く) 、ラテン・アメリカでは 60%の女性しか、医 めの設備をまったく設けていないか、不充分である。これはしばしば中絶にまつわ 療施設を利用できません。東部アフリカと西部アフリカ、南中部アジア地域の農村部 る社会的、文化的信念に起因している。 では、病院での出産対応は 30%以下です。アフリカ都市部では 78%、アジア都市 部で 68%、ラテン・アメリカ都市部で 92%と都市部ではましな状況もありますが、 先進国の 95 〜 100%と比較するとまだかなり低い数字です(文献 14) 。 ・公的機関、法律部門、保健部門の専門者の中で、合法とされていることについての 認識が欠如している。 ・中絶法を実践し、ある状況下で女性が中絶をする権利があると認めることを政策立 案者や保健専門者がしたがらない。 中絶に対する社会的、文化的信念も、中絶へのアクセスの障壁です。中絶が合法で あれ非合法であれ、宗教的な教えやイデオロギーによって激しく非難され、報復への 恐怖あるいは社会的非難や、事実上であれ法律上であれ制限的な法律によって利用で きなくなってしまいます。 ・法律で保障された権利が女性に知らされておらず、中絶サービスにアクセスできる 権利が認められる条件が、女性に知らされていない。 ・中絶に関する社会的、文化的信念、医療の対応の悪さや法的制裁への恐怖感が、女 性がケアを求めるのを躊躇させている。 ・公式の中絶サービスは費用が高すぎて、ほとんどの人が支払えない。 もう一つの問題は能力強化に関するものです。法が認めた寛大さや条件にサービス ・中絶サービスの施設が国中にいきわたっていない。 が追いつかない多くの国々では、公式に提供されている中絶サービスと並行して、安 ・需要に応じきれる数の中絶サービス施設がない。 全でない中絶も行われています。すでに長い間、中絶法で複数の理由での中絶を認め ・中絶サービスの質が低い。 てきた国では中絶サービスは医療の枠組に組み込まれていますが、中絶に関する法規 ・医療スタッフが女性の気持ちをくじくような態度をとり、女性が嫌がらせやひどい 制を緩和する途上にある国々では、設備や技術を構築する必要があります。しかし、 インドは例外です。インドでは 1971 年にすでに法律によって中絶の規制が緩和さ れましたが、多くの女性たちはその法の規定を知らず、サービスに容易にはアクセス 対応を受ける。 ・法律によって許される場所でも、 緊急事態の場合でさえ良心的拒否者 (conscientious objectors)が中絶サービスを提供することを拒否する。 できず、公式な推定によれば「中絶の 3 分の 2 が無許可で、しばしば必要な技術が ない医療従事者により、許可された医療サービスの外で行われている」と認識されて 上記の問題点のいくつかは、世界中の報告からも次のように裏づけられています。 います(文献 15) 。過去 10 〜 15 年の間に、中絶できる理由を広げる法律改正をし 18 19 安全でない中絶 2000 年の南アフリカ共和国での施設利用に関する論評の中で、Jewkes 氏(文献 英国医学会会報 (British Medical Journal)(文献 21)は、 「ニカラグアでの新中絶 16)は 54%が法律を知らなかったために法的サービスを利用せず、15%は法的権 法のせいで、医師が介入できずに女性が死亡」と見出しで報じました。本文でその状 利については知っていたものの合法な機関については知らなかったとまとめていま 況を以下のように伝えています。 「処罰されることを恐れて、医師が女性の治療をし す。どこで合法なサービスを利用できるか知っていても、スタッフの態度の悪さや守 ないのです。マナグア病院では医師が膣出血を止血しなかったため若い女性が死亡し 秘義務が守られないことを恐れた人たちもいます。適法な妊娠期間内での合法な中絶 ました。地元のメディアによると、医師たちは法律をおかすことを恐れて女性を治療 をできなかった人たちもいます。南アフリカの別の調査(文献 17)は「女性が中絶 しなかったとのことでした。 」 を求めるのが遅れる理由は複雑であり、しばしば決断を迷わせる個人的な状況の変化 や妊娠に気づくのが遅れてしまったこと、また中絶サービスへのアクセスを妨げる医 2007 年のモーリシャス保健省によると、 「モーリシャスでは 1838 年に制定され 療サービスにまつわる障壁と関連している。 」と述べています。 た法律によって、女性の生命に危険がある場合を除き、社会的、または個人的理由に よる中絶は違法とされています。女性が中絶を求める際には、最高裁判所の承認が必 トルコからの報告は農村部における状況を描き出しています。 「中絶についての法 要となります。この過程にはとても長い時間がかかるため、最高裁の承認を得た中絶 律は、本質的には中絶を広く許容しているにもかかわらず、トルコ国内で行われる は報告されていません。この法律は見直されたことがなく、モーリシャスでは中絶が 10 週間までの中絶の件数は、中絶が婦人科医により、または婦人科医の監督の下で 問題となっている。 」と報告されています(文献 22) 。 行うという要件によって厳しく制限されています。この状況は、専門医などがめった にいないトルコ農村部では決定的に重要な要因となります。訓練をされた専門医のい 吸引法による中絶サービスがあらゆるレベルで利用できるバングラデシュでも、次 ない多くの農村部の医療設備は、中絶サービスを提供できないことにされています。 のような報告がなされています。 「なぜ、あまりにも多くの女性が中絶の際に伝統的 その結果、妊娠 10 週間以内の合法の中絶を求める農村部のトルコ女性が、中絶でき な施術者を頼ったかは定かではありません。中絶にまつわる社会的スティグマが安全 ないことがあります。 」 (文献 18) な中絶サービスを利用しない理由かもしれません。というのも、安全な中絶サービス を利用する場合、守秘義務が守られないかもしれないからです。 」 (文献 23) 現地からの報告によると、ザンビアで安全な中絶への法的な障壁を克服するのは容 易ではありません。 「サハラ砂漠以南のアフリカの中では、ザンビアは最も緩やかな リマ南部の、とある大病院における中絶の合併症の管理の現場からの情報(文献 中絶法がある国です。しかし、いくつかの理由によって合法的な中絶の利用が制限さ 24)があります。リマ南部の大病院では、4 件の出産があれば、中絶も 1 件あり、 れています。まず、中絶は病院で行わなければならず、また、 (専門医 1 人を含む) 妊産婦死亡の 3 件に 1 件が感染流産によるものです。 「ペルーでは人工妊娠中絶は非 3 人の医師が同意書にサインをしなければなりません。さらに中絶の費用は法外な値 合法で、内密の出来事となっています。安全な闇中絶もありますが、費用が高くつき、 段です。1988 年には合法な中絶件数の 25 倍の不完全な中絶の治療が行われました。 」 私たちの病院に来るほとんどの患者たちには払うことのできない値段です。この患者 (文献 19) たちは深刻な合併症が生じる危険をおかして、安価で安全でない中絶を選びます。し かし、合併症が起きても、警察に通報されるかもしれない恐怖のため、迅速な医療的 ウガンダからは「医療者から質問を受けることへの恐怖が、合併症を生じたときに 治療を求められません。 」 女性が治療を求めるのが遅れる最も大きな理由の一つとわかりました。 」と報告され タイムリーで、安全で、質が高い中絶後のケアを提供することは、国際人口開発会 ています(文献 20) 。 議とその5年後の見直し提言や北京行動綱領といった国際的な決議や合意文書で正式 に記載されています。しかし、女性たちはいまだに医療システムや医療提供者がこれ 20 21 安全でない中絶 に応じないために苦しんでいます。ガボンからの最近の報告(文献 25)によれば、 第 4 章 出生率の移行、計画外妊娠、避妊の実行及び 満たされていない家族計画へのニーズ 中絶に対する文化的スティグマが医療従事者の態度に影響を与え、その結果、中絶に 世界中の妊娠の 40%強は計画外の妊娠であると推定されています(文献 8) 。つま 関連した合併症の治療を求めた女性に冷淡な態度をとったと記されています。分娩後 り、避妊(薬)具を利用していなかったり、効果的ではない避妊方法であったり、避 出血や子癇を患う女性の診察と治療の開始までの推定平均所要時間が 1.2 時間である 妊の失敗によるものです。望まない妊娠や人工妊娠中絶については、例えば性的に活 のに対して、中絶に関連する合併症を患う女性の診察と治療の開始までには平均して 発な 10 代の非婚の女性、移民の女性、都市のスラムに住む貧困層等の共同体や充分 推定 23.7 時間もかかっています。中絶による合併症で亡くなった女性たちが「その なサービスを受けていない集団に出向いて行き、家族計画サービスや選択肢を提供し 他の妊娠関連の合併症を患う女性たちの場合とは異なり、時宜にかなった治療を受け たり改善することで、計画外の妊娠を防げます。家族計画のニーズが満たされれば、 ていない。病院への入院や治療開始までの時間が生死を決める決定要因であることを 安全でない中絶の件数は4分の1に減ると推定されています(文献 26) 。 考えると、中絶に関連する合併症で亡くなった女性たちの治療にたどりつくまでに時 間がかかったことが、致命的な結果を引き起こした一因であると考えざるを得ない。 」 避妊実行率の上昇や効果的な避妊法の利用の増加は、中絶件数を減少させます(文 と報告書の筆者たちは結論づけています。 献 27) 。このことは先進国のデータにより経験的に実証されています(文献 28) 。さ まざまな国のデータによれば、図 3 のように、出生率が減少し始めた段階では、中 絶数と避妊の利用が同時に増加します。筆者たちは、とくに出生率の移行期初期にお いては、避妊の利用のみによって出産を抑制しようとしても、実現できないと説いて います。1962 年にはチリのサンティアゴでこの傾向が観察されました(文献 29) 。 Streatfield 氏 (文献 30) は、 避妊、 合計特殊出生率と及び中絶の関連性を検証する中で、 バングラデシュのマトラブでは中絶の増加が止まり減少するのは避妊実行率が 30% を超えたときであると説いています。このことはプロジェクトの中で、介入をした地 域と、介入をしなかった地域の双方で観察されました。 図3 高い出生率から低い出生率への移行の軌跡と人工妊娠中絶、効果的な 避妊、 出生数の相対レベル 低出生率 高出生率 生児出産 効果的な避妊の利用 人工妊娠中絶の利用 社会経済・文化レベル 出典:Requeña Mより引用 1970年 (文献29) 22 23 安全でない中絶 いくつかの国では、出生率が急激に低下する移行期に、避妊サービスによって出産 国連人口部 (UNPD) は、2007 年に発展途上国に居住する既婚あるいは同棲してい を抑制しようとしても需要の多さに応じきれないこともあります(文献 31) 。その る女性の約 61.7%が何らかの避妊を実行しているものの、11.2%の既婚女性は家族 結果、 計画外の妊娠の件数が増加し、 その中には中絶する場合もありました。したがっ 計画のニーズが満たされていないと推算しました(アフリカ 22.2%、アジア 9.2%、 て図 3 のように、効果的な避妊が中絶のニーズを減少させるまで、出生率の移行期 ラテン・アメリカとカリブ海地域 10.5%) (表 4) 。つまり数の上では、発展途上地 の初期の段階では、中絶件数が増加する傾向があります。国や準地域における安全で 域では約 3 億 7,500 万人の既婚あるいは同棲している女性が避妊をしておらず、約 ない中絶の割合の増減は、低出生率への移行においてどこに位置するのかという相対 1 億 1,000 万人の家族計画のニーズが満たされていないことになります。アフリカ 的な地点を反映しています。 では 3,000 万人、 アジアでは 7,000 万人、 ラテン・アメリカとカリブ海地域では 1,000 万人の女性の家族計画のニーズが満たされていません。それに加えて 6%、数に直す したがって出生率の移行中は、効果的な避妊が出産の抑制への希望にしっかり応え と 5,900 万人の女性が効果のあまり高くない伝統的避妊法に頼っています。妊娠の るまで、高い中絶率の段階を経る傾向があります。当然のことながら、100%確実な 間隔を空けるためであれ、妊娠を完全に防ぐためにせよ、自分が選択したい避妊法を 避妊法は存在しません。表 3 は、避妊法の種類ごとに通常の利用法で使用開始 1 年 利用できない女性や、そのときの自分のニーズにもっとも適した避妊法を利用できな 目の間に避妊が失敗する可能性を、2007 年の推定数として示しています。毎年、避 い女性たちもいます。また、思春期の女性を含む 4 億人以上の生殖可能年齢にある 妊の失敗や効果のない避妊により 3,300 万件の望まない妊娠が生じていると推定さ 非婚女性の避妊へのニーズは、きちんと対処されていません。性的に活発な非婚の女 れています (表 3) (文献 32) 。このように避妊を実行する女性 7 億人以上のうち 3,300 性、とくに思春期の女性はリプロダクティブ・ヘルスについての情報やカウンセリン 万人(5%)が予期せぬ妊娠を経験することになります。予期せぬ妊娠は伝統的避妊 グをほとんど入手できず、避妊のサービスから除外されていることがしばしばです。 法によって起きることがほとんどです。したがって伝統的避妊法から近代的避妊法に 出産を抑制しようという動機があっても、効果的な避妊を幅広く利用できない、あ 移行すれば、避妊の失敗を 40%減らせます。また、効果の低い家族計画法が広く用 いられているところでは、計画外妊娠が生じ、その結果、中絶が行われる可能性が高 表4 2007年において家族計画を利用している既婚または同棲している女性の割合と、 発展途上地域、 準地域において家族計画のニーズが満たされていない割合 くなります。 何らかの家族計画を 家族計画のニーズが 用いている女性 (表注a) 満たされていない女性 の割合 (%) (表注a) の割合 (%) 表3 避妊の失敗率と望まない妊娠の推定数 2007年 避妊法 避妊利用者の数 表注a (単位は千件) 予期しない妊娠を 推定失敗率 (一般的使用法) している女性の人数 (一般的使用法) 表注b (%) (単位は1,000件) 232564 0.50 32078 0.15 48 42389 0.30 127 162680 0.80 1301 100816 5.00 5041 69884 14.00 9784 2291 20.00 458 周期的な禁欲 37806 25.00 9452 膣外射精 32078 19.00 6095 712586 4.70 33469 女性の不妊手術 男性の不妊手術 避妊薬の注射・注入 IUD 避妊ピル 男性用コンドーム バリア法 総計 1163 表注a 2007年に婚姻あるいはパートナー関係にある(in union)15∼49歳の女性の推定数、 そして特定の避妊法を用 いる割合に基づいています。 (文献75) 発展途上地域 サハラ以南のアフリカ アフリカ 東部アフリカ 中部アフリカ 北部アフリカ 南部アフリカ 西部アフリカ アジア 東アジア 南・中央アジア 東南アジア 西アジア ラテンアメリカとカリブ海地域 カリブ海地域 中央アメリカ 南アメリカ 61.7 11.2 28.0 22.2 21.1 26.2 18.6 50.3 58.4 14.5 67.0 24.2 27.7 22.8 14.1 16.0 22.2 9.2 84.8 54.2 60.7 54.4 2.3 14.6 10.4 n.a. 62.3 68.4 73.9 20.1 13.2 8.5 71.7 10.5 表注a パートナー関係にある15∼49歳の女性 n.a. 利用できる推定数がない 出典:国連人口部 2009年 (文献75) 表注b Trussell, 推定数はアメリカ合州国のデータに基づいています。 (文献74) 24 25 安全でない中絶 るいは恒常的に利用されない、または正しく用いられないと、多数の望まない妊娠が 避妊の積極的な利用は中絶の必要性を減らし、女性や家族にとって多くの点で有益 起きてしまいます。計画外妊娠は明らかに中絶と直接、関連しています。 です。国連人口基金は (文献 38) 、 2004 年レベルの避妊の利用により、 年間 1 億 8,700 万件の望まない妊娠、1億 500 万件の中絶、21 万 5,000 件の妊娠関連の死亡(安 正確な影響を推定するのは難しいものの、人工妊娠中絶は世界的な出生率の減少に 全でない中絶による死亡 7 万 9,000 件を含む)を防げたと推定しています。 おいて、一時的ではあっても大きくあてにされてしまいます。人工妊娠中絶が秘密裏 に、かつ安全でない状況で行われる場合には、保健上及び社会経済上の大きな課題で すが、合計特殊出生率はほとんど低下しません。というのも性交そのものを控える か、効果的な避妊法を用いない限り、女性は中絶後の次の月経周期で妊娠する可能性 があるので、出産する場合よりもずっと早く次の妊娠をする危険にさらされます(文 献 33) 。12 カ国の発展途上国における調査は、出生率を減らす効果的な方法を実証 しています(文献 34) 。この調査は、 これらの国々で近代的避妊法に移行することで、 人工妊娠中絶レベルが平均 30%減少したことが示されています。また伝統的避妊法 から近代的避妊法への移行によって、中絶が平均 20%減少したことが示されていま す。中絶件数を減らすための最善の選択肢は、家族の規模を縮小したいというニーズ を満たす近代的避妊法を促進する家族計画カウンセリングとサービスを拡大すること であると、 この調査結果は示唆しています (文献 35) 。中絶後の避妊カウンセリングは、 女性たちに妊娠を予防する手段や計画的妊娠についての知識を伝えるよい機会になり ます。 家族計画のニーズが満たされず、避妊実行率が低く、あまり効果的でない避妊法が 一般的である場所では、中絶率は高くなっています。ウガンダやパキスタンからの 報告は、中絶と避妊の矛盾を描いています。 「ウガンダではいまだに中絶は違法です が、中絶はますます出産を抑制するための重要な方法となっています。ウガンダでの 5,300 万人の性的に活発な年代の女性のうち、現在、避妊を実行しているのは 23% のみ(うち 18%が近代的避妊法)です。つまり 4,200 万人は性的に活発であるにも かかわらず避妊をしていないことになります。避妊を使用しなければ、望まない妊娠 あるいは望まない時期の妊娠につながり、さらに、安全でない中絶や妊産婦の死亡や 疾病につながります(文献 36) 。 」パキスタンからは、Sathar 氏が出生率がなかなか 減らないことについて報告しています。 「満たされていない避妊のニーズの高さや計 画外の出産の多さは、現在パキスタンの既婚女性の多くが望まない妊娠のリスクや中 絶をする可能性にさらされていることを示している(文献 37) 。 」 26 27 第 5 章 安全でない中絶が健康に及ぼす影響と、安全 でない中絶の医療保健サービスへの影響 安全でない中絶 最近のある調査は、発展途上国においては毎年 500 万人の女性が安全でない中絶 資格ある人が衛生的な環境で正しい技術を用いて人工妊娠中絶を実施する場合に のために入院していると推定しています(文献 71) 。つまり安全でない中絶による合 は、人工妊娠中絶は安全な手術です。たとえばアメリカ合州国では、人工妊娠中絶 併症への対応が必要な 850 万人のうち 300 万人ほどがその治療を受けていないこと による死亡率は 10 万件中 0.6 件で、ペニシリンの注射と同じくらい安全です(文献 になります(文献 26) 。病院での中絶の合併症の治療は、病院のベッド、血液の供給、 39) 。近代の医学は、避妊の失敗や計画外妊娠が起きた場合の対処として、初期の中 医薬品、そして時に手術室、麻酔、医療専門家といった多くの資源が使われます。こ 絶での真空吸引法や薬理作用による中絶(メディカル・アボーション)などの、 より(リ のように安全でない中絶が引き起こす状況は、多くの発展途上国において、乏しい病 スクが低く)侵入的でない方法に向かっています。しかし発展途上国では、安全でな 院の臨床的、物質的、財政的資源を多く必要とすることになり、他の産科医療、救急 い中絶にまつわる死亡の危険性は何百倍も高いのです。 医療に割り込むことになります(文献 53 〜 55) 。安全でない中絶を経験する女性自 身も多大な身体的、金銭的、感情的負担を被ることになります(文献 72) 。 安全でない人工妊娠中絶に関連する死亡や疾病の危険性は、中絶のための設備、中 厳しい法律の枠組よりも中絶の選択を認める法律の枠組の方が、中絶の管理コスト 絶提供者の技術、使用する中絶の方法、女性の全般的な健康、女性の妊娠周期によっ が低いことが、ある調査で分かりました(文献 55) 。また、あらゆるレベルの医療 て異なります。安全でない中絶は女性本人が行う場合もありますし、非衛生な環境で 機関で中絶サービスを利用できるようにする場合、その費用がよりいっそう低くなる 医療関係者ではない人が行うこともありますし、所定の医療施設外で医療関係者に ことが分かりました。3 次医療機関のみが中絶処置と合併症の処置をできると限定し よって行われる場合もあります。中絶の試みには次のようなものが含まれます。固い た場合、中絶ケア 1 件あたり平均 US45 ドルですが、あらゆるレベルの医療機関で 物(根、枝、カテーテル)を子宮に差し込む、技術を持たない人が不適切に行う子宮 中絶処置が利用でき、約 60%の患者が医師以外の中レベルの医療専門職によって処 内膜掻爬術、有害物質の摂取、外から力を加えるといった行為等です。伝統的施術者 置される場合、コストは US25 ドルまで下がることが分かりました。 たちが妊娠を終わらせるために力を込めて女性の下腹部を拳固で殴ることも多いので すが、 これにより子宮が破裂して女性が死亡する場合があります (文献 40) 。違法かつ、 しばしば間違った方法での、薬理作用による中絶が他の方法に比して増加している兆 候がありますが、にもかかわらず、これは深刻な合併症や妊産婦死亡を減少させる可 能性があります(文献 41 〜 43) 。 安全でない中絶の結果は、中絶への救急中絶ケアが利用できるかとそのケアの質だ けではなく、女性が医療を利用したいと思うかどうかの意思、そして医療スタッフが 即座に合併症に対処できるかどうかにもかかっています。不完全な中絶、中絶後の敗 血症、出血や外性器の外傷などで病院に運び込まれる事例や中絶による死亡は、安全 でない中絶の可視的な結果です(文献 44,72) 。病院で確認される事例が 1 件ある としたら、それより多い、安全でない中絶を行ったものの医療の助けを求めない女性 たちが存在します(文献 45 〜 52) 。女性たちが医療の助けを求めない理由としては、 充分に憂慮すべき合併症が起きていなかった、あるいは女性が嫌がらせやひどい対応 や法的制裁を恐れていたなどが挙げられます。 28 29 第 6 章 安全でない中絶の発生及び死亡についての推定 安全でない中絶 トも含め、それぞれの国について最新のデータを得るための徹底した調査が行われま 人工妊娠中絶が制限されてほとんど利用できなかったり、合法ではあるものの利用 した。これらのデータは異なる国での中絶法、政策、実践についての現状を確認する できない場所では、中絶の実践についての情報をほとんど入手できません。そのよう 既存のデータと同時に評価されました。付録1に記載されているように、誤った報告 な状況下では、中絶の件数を調べたり分類することは困難です。調査において中絶の や実際より少ない報告を補正し、安全でない中絶の割合や安全でない中絶の比率、妊 発生率は実際より少なく報告され、病院のデータにおいても実際よりも少なく報告さ 産婦死亡の原因となる安全でない中絶関連の死亡の占める割合が、国ごと、及びその れ、またはまったく報告されない傾向があります。安全でない中絶による合併症を起 総計としての準地域、地域、世界全体の数として算定されています。 こし、公的機関での中絶後のケアを求めなかった女性に関しては、そのデータは存在 しません。したがって死亡者数や合併症を生じて医療の助けを求める女性の数として 付録1は、安全でない中絶発生やそれに関連する死亡の発生件数の推定を、WHO は「氷山の一角」のみが目に見えるものとなります。 データベースで利用できるデータや情報を用いて詳細に表しています。各国ごとの推 定は合計特殊出生率、近代的・伝統的避妊法の利用、出生数の近似の決定要因に関す とくに中絶が違法の場合、女性が中絶したことを認めたがらないこともあります。 る他の利用できるデータによって裏づけられています。 中絶が合法な場合でも実際の中絶件数より少なく報告されることもあります(文献 58 〜 61) 。中絶が法律の枠組の外でなされている場合、まったく報告されないか、 自然流産として報告されることがあります(文献 62,63) 。これは、人工妊娠中絶 6.1. 安全でない中絶の割合と対生児出産比の分母を選択する:全ての国を 分母とする場合と安全でない中絶の証拠のある国のみを分母とする場合 を指し示すことへのためらいを表しています。人工妊娠中絶を表す言葉として次のも のが挙げられます。 「誘発流産 (induced miscarrige, fausse couche provoquée)(文 安全でない中絶の絶対数は、人口の大きさが異なるため、違う地域や準地域で意味 献 64) 、 「腹部内洗浄」 (文献 65) 、 「月経調整」 、 「遅延または停止月経調整」 (文献 ある比較はできません。したがって(生児出産に対する)比率 (ratio) や(15 〜 44 66)などです。たとえばある調査では、16.6%の女性が中絶を行ったことを認めて 歳の生殖可能年齢にある女性の中での)中絶の割合 (rates) が比較のために算出され います。しかし、妊娠を自ら終わらせたと言った女性は 4.4%のみで、12.2%は「月 ました。 (安全でない中絶の指標やその他関連する用語の定義はこの報告書の初めの 経誘発」を行ったと報告しました(文献 67) 。したがって安全でない中絶は、測定 部分に記載されています) が最も難しい指標の一つであるのも不思議ではありません。 過去の安全でない中絶の推定では、安全な中絶の証拠がある・ないにかかわらず、 30 WHO は、主に発展途上国における、安全でない中絶や中絶関連の死亡に関する、 あらゆる国を含めた中絶の割合や対生児出産比が算出されていました。この報告書で 質的情報・量的情報を含む 4,000 件の関連資料のデータベースを保持し続けていま は 2003 年に関しては(文献 73) 、それぞれの準地域の中絶の割合と対生児出産比 す。安全でない中絶を理解し評価する上で関係してくる情報としては、病院の記録や は安全でない中絶の証拠のある国のみに絞って算出されており、より意味のある指標 調査結果、中絶提供者、安全でない中絶の方法、中絶を求める態度、中絶後のケア、 となっています。要約すると、準地域、地域、世界レベルでの発生件数の指標は、二 法的発展に関する研究などが含まれます。人工妊娠中絶が厳しく制限されている場所 種類の異なる国々のグループ分けにしたがって算出されています。つまり、 (1)準 では、中絶の発生は、発生と死亡についての不完全な情報から間接的に推定されるに 地域の国全ての指標と(2)その準地域で安全でない中絶の証拠のある国々で、その とどまります(文献 68) 。これらの推定をするために、書誌データベースから識別 ため分母から安全でない中絶があるという証拠のない国の人口を除外した指標です。 された重要な資料を選べるよう、数多くの資料が系統的に審査されました。また関連 これらの国々は安全でない中絶の発生件数に反映されておらず、中絶の割合や対生児 機関のウェブサイトの調査も行われました。保健省やその他の公的機関のウェブサイ 出産比を算出する際の分母から除外するのが適切です。 31 安全でない中絶 安全でない中絶の割合や比率に関する後者、上記(2)の算出方法の効果は、 (安 6.2. 準地域、地域、全世界での安全でない中絶の発生及び関連する妊産婦死亡 全でない中絶がごくわずかな)東アジア準地域の人口を地域や世界レベルの値に含め る場合、と含めない場合の影響を見ると、明らかになります。これは、ことにキュー 以下に示される 2008 年の世界や地域での安全でない中絶の推定数は、2010 年 4 バ、シンガポール、チュニジア、ベトナムといった中絶が合法で比較的利用しやすい 月 30 日現在で利用できるデータをもとにしています。安全でない中絶とそれに関連 その他の地域の発展途上国においても同様です。したがってこれらの国々を除く中絶 する死亡件数は、 (付録 1 に詳しく述べられているように) まず人口が 10 万人以上 (付 の割合や対生児出産比は、それぞれに対応する準地域や地域における安全でない中絶 録 2)の国を対象に推定されました。そして国連人口部によって定義される地理的地 の状況をより忠実に写し出します。 安全でない中絶が発生しない国を除外することで、 域(付録 2)における推定数が算出されました。また地域や世界レベルでの安全でな より適切な分母となります。したがって図 4 の世界レベルでの数や主な地域に見ら い中絶の総合計数、中絶の割合や対生児出産比を算出するために国連人口部の 2008 れるように、分母にあらゆる国を含めた数字よりも、準地域推定の中絶の割合や対生 年の人口推定が用いられました。WHO の地域区分ごとの推算もされました (付録 3) 。 児出産比は高いのです。 的確な安全な中絶のための中絶サービスや安全でない中絶を理由とする合併症後の 図4 2008年の地域における15∼44歳の女性1,000人における年間の安全でない 中絶の割合(図注a)、及び中絶の証拠のある国のみにおける安全でない中絶の割合 15∼44歳の女性の1,000人における割合 35 査(DHS)の病院での分娩報告数に近似しているとされています。 あらゆる国 2008年 安全でない中絶の証拠のある国 2008年 31 31 30 27 27 25 31 31 28 28 発生数の推定に関しては、中絶の割合と対生児出産比はその年のデータをもとに国 ごとに算出され、2008 年のデータが算出されました。そしてそれぞれ適宜、女性の 23 22 人口あるいは出生数ごとに加算され、地域や世界のデータとしてまとめられました。 19 20 これらの推定は安全でない中絶の発生件数を幅をもって示し、その平均値は安全でな 16 15 14 い中絶の発生件数について現在入手できるデータの中で最も正確な数値となっていま 11 す。 10 6 6 5 0 処置を利用するにあたっての農村部と都市部における機会の不平等は、人口・保健調 2 1 世界 先進地域 発展途上 後発発展 地域 途上国 サハラ 以南の アフリカ アフリカ アジア ラテン ヨーロッパ アメリカと カリブ海地域 図注a:表示されている数字は四捨五入した数値です。 ただし、 棒グラフは小数点以下も含んで作成しています。 出典:表5 国ごとに安全でない中絶に関連する合併症を理由とする妊産婦死亡率を、2008 年 の妊産婦死亡推定総数にあてはめて、安全でない中絶を原因とする死亡数が推定され ています(文献 6) 。これらの国ごとの推定数を積み上げて、準地域、地域、そして 世界レベルでの中絶関連の死亡数、そしてそれに対応する妊産婦死亡の加重 100 分 率を計算しました。 安全でない中絶による国ごとの死亡件数は、地域レベル、世界レベルでの数値を集 計する目的で算出されており、 公表されていません。総計の推定数は頑健な数字です。 ただし、安全でない中絶の発生件数やそれに起因する死亡率の推定は、不確定要因を 含んでいます。これらの数字は、現在利用できる情報から算出された最善の推定数と 32 33 安全でない中絶 見なすべきでしょう。 第 7 章 地域及び世界における安全でない中絶の発生 7.1. 全世界及び主要地域における安全でない中絶 6.3. 2003 年時点及びそれ以前の推算との比較 表 5 は、1 列目から 3 列目までは、2008 年の、世界全体、地域、準地域(脚注 動向を明らかにするために、 過去の推定数との比較が必要とされています。しかし、 c) における安全でない中絶数、とその推定範囲をまとめています(脚注 b) 。4 列目 それぞれの最新情報は、利用できるデータやデータを解読する手助けとなる情報に依 と 5 列目には、以前算出された手順と一致し、図 5、6 の地図に示される準地域に集 存する多くの他の指標と同じように離散事象です。あらゆる情報が、データが不足す 約される、それぞれの地域の全ての国を対象に算出された中絶の割合と対生児出産比 る地域について言及しています。 より多くのデータが利用できるようになるにつれて、 が示されています(脚注 d) 。第 6 章に記述した通り、2003 年と 2008 年の推定数 一連の推定がより精度の高いものとなり、より信用できる数値となっています。した については、6 列目と 7 列目には、その中絶の割合と対生児出産比を安全でない中 がって年をまたいだ比較は、慎重に行わなければなりません。 絶の証拠のある国々だけに絞った数値で算出しています。この二つの計算の違いは注 目に値します。2008 年推定数の分析では、たとえば避妊実行率や合計特殊出生率と 1990 年から 2008 年(文献 6)にかけての妊産婦死亡を推定する方法論に関する いった他の指標との比較がしやすいよう、4 列目と 5 列目にはあらゆる国を含む数 最近の再評価では、過去に公表された数値よりも低い数値が出されています(文献 2 値を記載しましたが、関連する箇所では、安全でない中絶の証拠のある国にのみ絞っ 〜 5) 。したがって安全でない中絶を理由とする死亡の最近の推定数も以前より低く て算出された、より意味のある中絶の割合や対生児出産比に注目しています。 なっています(文献 73,77,79,80) 。この報告書では、妊産婦死亡数と安全でな い中絶を理由とする死亡数は 1990 年から 2008 年(文献 6)の最も新しいデータ 世界全体における 2008 年の安全でない中絶件数は、2,100 万件から 2,200 万件 をもとに算出されています。 と推定されています。この数は 2003 年の推定数より 200 万件多い数です。2008 年にはおよそ 2 億 1,000 万件の妊娠が発生しています(文献 8) 。したがって世界全 体で妊娠 10 件に対して約 1 件が安全でない中絶で終わっていることになります。し かし世界全体の安全でない中絶の割合は 15 〜 44 歳の女性 1,000 人に対して 14 人 (4 列目)と 2003 年から変わっていません。したがって、 安全でない中絶件数(1 列目) の増加は、 おもに世界全体における生殖可能年齢の女性の人口の増加によるものです。 2008 年の発展途上国における安全でない中絶件数は、2003 年より 200 万件増 加しています。中絶の発生割合は生殖可能年齢 1,000 人の女性に対し 16 件で、生 児出産 100 件に対し 17 件です。安全でない中絶の証拠のある国のみが推定数に含 まれる場合、中絶の割合や対生児出産比は 1,000 人の女性に対して 23 件、生児出 産 100 件に対し 21 件と高くなっています。安全でない中絶の数が増加する結果は、 脚注 c 準地域に含まれる国々は付録 2 に記載してあります。 脚注 b 国の集計の推定値の出し方や、中絶件数の高い推定値や低い推定値の出し方については 6.2 を参照ください。 脚注 d 比率や割合の別の算出基準については 6.1 を参照ください。 34 35 安全でない中絶 医療の需要に対する余裕のない後発発展途上国とサハラ砂漠以南のアフリカという二 加したため、安全でない中絶の件数は 2003 年と比べて増加しています。東部アフ つの重複するグループに顕著に見られます。これらのグループでは 1,000 人の生殖 リカ、中部アフリカ、西部アフリカ準地域での合計特殊出生率は、女性 1 人につき 5 可能年齢の女性の中で 27 〜 31 件と、安全でない中絶の高い割合を示しています。 人をかなり超える状態が続いていますが、これは意外な事実ではありません。という それに対して、生児出産 100 件に対する安全でない中絶の比率は、それぞれ 18 件 と 17 件と比較的低くなっています(脚注 e) 。その理由としては、これらのグルー プでは出生数の高いことが挙げられます。 表5 2008年の世界や地域における安全でない中絶の件数、割合、 比率の推定値 あらゆる国を対象とした 数値も推定され、 中絶の証拠のある国々だけの数値と比較をすることができる。 安全でない中絶が行われて いるか行われていないかの 証拠の有無を問わず、 その 地域におけるすべての国の 安全でない中絶の割合と比率 安全でない中絶の数 7.2. 2008 年時点の地域や準地域ごとの安全でない中絶の推算 安全でない 安全でない 安全でない 安全でない 件数― 件数― 件数 中絶の割合 中絶の比率 低い推定値 高い推定値 中絶の割合 中絶の比率 (四捨五入 (100人の生児 (15∼44歳の (100人の (四捨五入 (四捨五入 (15∼44歳の 出産に対する 女性1,000人 生児出産に された値) された値) された値) 女性1,000人 数値) に対する数値) 対する数値) に対する数値) 15 〜 44 歳の女性 1,000 人に対し約 30 件かそれ以上の、安全でない中絶の割合 がアフリカとラテン・アメリカで見られます。しかしアフリカの推定数は広い幅にわ たっています。東部アフリカと中部アフリカはどの準地域よりも発生率が高く、15 〜 44 歳の女性 1,000 人に対し 36 件となっています。それに対して、南部アフリカ 準地域はもっとも低く、1,000 人に対し 9 件となっています。 アフリカ地域全体では、安全でない中絶件数が 6,200 万件と少し数値が上がって いるものの、安全でない中絶の割合は減少してきています。その理由としては、北部 アフリカ、南部アフリカでは、避妊実行率が中程度から高程度であり、安全な中絶 サービスが部分的に利用できることなどの、アフリカが二極化している状況が挙げら れます。北部アフリカ、南部アフリカでの避妊実行率の高さや中絶サービスの利用 が、その他の地域の高い安全でない中絶の割合とは反対の方向に動き、アフリカ全 体での 15 〜 44 歳の女性 1,000 人に対し平均 28 件にまで押し下げています。サハ ラ砂漠以南のアフリカでは、安全でない中絶の割合は 15 〜 44 歳の女性 1,000 人に 対して 31 件で、南部アフリカを含めないサハラ砂漠以南のアフリカにおける安全で ない中絶の割合はより高く、女性 1,000 人に対し 32 件です(表には示されていま せん) 。中部アフリカ準地域においては、以前より正確な推定数を出すことができる、 より良質なデータを多く入手できたため、安全でない中絶の数と割合は以前の報告よ りも高くなっています。東部アフリカ準地域では割合はより低くなっています。西部 アフリカ準地域では、割合は変わっていないものの、生殖可能年齢の女性の人口が増 その地域で安全でない 中絶が行われている 証拠のある国における 中絶の割合と比率 世界 先進地域 (表注a) 発展途上地域 21600000 20790000 360000 360000 21200000 20430000 22300000 14 16 22 21 350000 22000000 1 16 3 17 6 23 13 21 後発発展途上国 4990000 4880000 5090000 27 18 27 18 サハラ以南のアフリカ 5510000 5390000 5630000 31 17 31 17 アフリカ 6190000 6050000 6320000 28 17 28 18 東部アフリカ 中部アフリカ 北部アフリカ 南部アフリカ 西部アフリカ アジア (表注a) 東アジア (表注a) 南・中央アジア 東南アジア 西アジア ヨーロッパ 東欧 北欧 南欧 西欧 ラテンアメリカと カリブ海地域 カリブ海地域 中央アメリカ 南アメリカ 北アメリカ オセアニア (表注a) オーストラリア・ ニュージーランド 2430000 2380000 930000 890000 900000 890000 120000 120000 1810000 1770000 10780000 10230000 b 20 18 18 10 16 14 36 36 19 9 28 19 20 18 19 10 16 19 b b b b 6480000 2970000 790000 7160000 3300000 870000 17 22 16 17 28 16 17 26 16 17 33 16 360000 360000 350000 5 12 6 13 b 360000 b b 36 36 18 9 28 11 6820000 3130000 830000 360000 b 2480000 960000 910000 130000 1840000 11330000 350000 b 2 b 5 b 6 b 13 b b b b b b b b b b b b b b b 4230000 4130000 4330000 31 39 31 40 170000 1070000 2990000 170000 1040000 2920000 180000 1090000 3070000 18 29 32 22 34 43 29 29 32 30 34 43 b 18000 b b 17000 b b 19000 b b b b b 8 7 8 7 b b b b 四捨五入されているため総計が必ずしも一致していません。 表注a 日本、 オーストラリア、 ニュージーランドは地域推定からは外されていますが、 先進国の総計に含まれています。 表注b 安全でない中絶の数がごくわずかな地域においては推定数が出されていません。 脚注 e 実際はこれら2つのグループは両方とも安全でない中絶の証拠があり、証拠を呈示する2つの方法において比 率と割合は同じになっています。 36 37 38 30件以上 20∼29件 10∼19件 1∼9件 0件/ごくわずか 100件の生児出産に対する 安全でない中絶の件数 図6 2008年の準地域ごとの生児出産100件に対する安全でない中絶件数の推定 30件以上 20∼29件 10∼19件 1∼9件 0件/ごくわずか 15∼44歳の女性1,000人あたりの 安全でない中絶の件数 図5 2008年の準地域ごとの15∼44歳の女性1,000人あたりの安全でない中絶の年間件数の推定 安全でない中絶 39 安全でない中絶 のも全体的な避妊実行率がそれぞれ 26%、19%、15%と他の地域よりずっと低い の場所では 2.4 人を達成しています(文献 9) 。小規模家族が規範となっているとこ からです。アフリカのその他の準地域、アジア、ラテン・アメリカでは避妊実行率は ろでは、出産の間隔を空ける幅広い方法を女性とカップルが自分たちの選択で選び、 50%を超えています(文献 75) 。アフリカを横切る中央の帯の地域では、安全でな かつ利用できるようにすることで、望まない妊娠の数ひいては人工妊娠中絶の数を減 い中絶の状況は、出産についての希望と 30%以上の避妊実行率の達成によるバラン らせます。 スがとれるまで、予測不可能かつ変動の多い状態が続くでしょう(文献 30) 。 人口統計学的に大きな東アジア準地域が分母から外される場合、アジア地域の安全 南部アフリカと北部アフリカでは、状況はかなり異なっています。南アフリカ共和 でない中絶の割合(6 列目) (脚注 f) は 15 〜 44 歳の女性 1,000 人に対して 19 人 国では中絶は合法化され、安全でない中絶は完全になくなったとはいえないものの、 とされています。このように安全でない中絶の割合は、安全でない中絶の証拠のある 安全な中絶サービスも徐々に利用できるようになっています。 (北部アフリカ準地域 国のみに焦点を当てる際に際立ちます。南・中央アジア準地域はその人口規模の大 の)チュニジアでは、長い間、中絶は合法かつ安全であり、チュニジア以外の北部ア きさにより、どの準地域よりも安全でない中絶の件数が多くなっています。2008 年 フリカでの安全でない中絶の比率が 15 〜 44 歳の女性 1,000 人中 19 件である中(6 には安全でない中絶の件数は 680 万件以上、あるいは生殖可能年齢の女性 1,000 人 列目) 、チュニジアでは中絶サービスも機能しています。南部アフリカと北部アフリ に対して 17 件と推定され、大きな課題となっています。この地域で最も人口の多い カにおける既婚女性の避妊実行率はそれぞれ 58%と 50%で、主に近代的避妊法を インドは、1971 年に基本的には中絶を合法化しましたが、いまだに中絶の 3 分の 2 利用しています。したがってこれら二つの準地域では合計特殊出生率が(女性1人に が認可医療施設の外で行われていることが確認されており(文献 15) 、そのためかな 対して)3 人以下で、安全でない中絶の割合はそれぞれ東部アフリカの 4 分の1か、 りの数の安全でない中絶が発生しています。女性が合法で安全な中絶についての情報 半分であるのも意外ではありません。しかし、避妊の利用が出産についての希望に合 提供を得て、大勢の教育を受けていない貧しい女性たちが幅広いサービスや中絶後の 致するよう増加するまで、北部アフリカの法律の枠組では引き続き安全でない中絶を ケアを利用できるようになるまでは、安全でない中絶の数は減らないでしょう。また 引き起こすでしょう。 この準地域の避妊実行率は 54%と中程度であり、46%の近代的避妊法利用のうちの 3 分の 2 は不妊化に関係しており、安全でない中絶の発生率の高さは、出産の間隔を ラテン・アメリカ地域では安全でない中絶が 4,200 万件ですが、件数や割合は少 空けたいという希望の結果と思われます。アジアの準地域の中では、安全でない中絶 し増加しています。その理由としては新しいデータを利用できるようになったことに の証拠のないシンガポールとベトナムが数値から外される場合、15 〜 44 歳の女性 よる中央アメリカの件数や割合の上方修正が挙げられます。これに対して、南アメリ 1,000 人中 26 人と東南アジアが最も高い割合を示しています。分母に全ての国を含 カの安全でない中絶件数は固定してきて、その頂点を越えたように見受けられます。 めた場合の数値は 1,000 人中 22 人です。東南アジアでは、伝統的避妊法に頼るカッ カリブ海地域の状況は二極化しています。中絶が合法化され中絶サービスを利用でき プルは 8%のみで、53%が近代的な家族計画法を用い、47%が可逆的な方法を利用 るキューバやその他の島を除くと、残りのカリブ海地域における生殖可能年齢 1,000 しています。避妊実行率がさらに上昇し安全な中絶サービスが利用できるようになる 人の女性の中で 29 件(6 列目)という安全でない中絶の割合は、南アメリカ準地域 まで、安全でない中絶の件数が減少する可能性は低いでしょう。 と同じくらい高い数字です。近代的避妊法の利用はラテン・アメリカ準地域で 58% 〜 65%となっています。しかしこの半数近くは不妊化による避妊です。近代的で可 西アジアの合計特殊出生率は、女性 1 人に対して子ども 2.9 人で、避妊実行率 逆的な避妊法への依存が 29%〜 35%と中程度であるということは、安全でない中 は 54%です。そのうちの 3 分の 1 は伝統的避妊法を利用しています。この数字は 絶が出産の間隔を空けるために用いられているということかもしれません。合計特殊 出生率は南アメリカでは女性1人に対して 2.2 人、ラテン・アメリカ準地域のその他 40 脚注 f 安全でない中絶の件数が少ない場合も含めて、合法的で安全な中絶と並行して安全でない中絶が起こる場所が 含まれています。 41 安全でない中絶 避妊の不足を示唆する組み合わせです。より多くのデータを利用できるようになり、 しましたが、2000 年にはまた増加しています。世界的にも地域的にも、女性の識字 2008 年の数値は 2003 年の数値(文献 73)より信頼のおける数値となっています。 率は向上しており婚姻年齢も上がってきています。また小規模な家族が規範となり、 2008 年の西アジアの推定の割合は 16 で、北部アフリカ準地域より低い数値となっ ニーズが満たされているにせよ満たされていないにせよ、あるいはニーズが意識的に ています。近代的避妊法の利用率は北部アフリカの数値の方が高く 45%ですが、合 認められていないにしても、家族計画のニーズが増してきています。このように直接 計特殊出生率や避妊実行率の数は西アジアと同程度の数値です。これは西アジアの数 的原因と近因は一見すると拮抗して、現在に至るまで安全でない中絶の数は比較的一 値が現状よりも少なく推定されていることを示唆している可能性があります。 定数を保っています。 いくつかのヨーロッパの準地域で、長い間ずっと安全でない中絶の割合を低いレベ 図 7 は 1990 年と 2008 年の準地域ごとの推定中絶の割合を表しています。準地 ルに抑えてきた国々は、安全でない中絶件数をいっそう減少させているようです。し 域は地域ごとに集計され、現在の安全でない中絶の割合にしたがって割合が高い順に かし、東欧準地域のみにおいては、依然として安全でない中絶が確認できます。法律 並べられています。この図は利用できるデータや推定の限界からくる変動だけではな が安全な中絶の利用を厳しく制限して障壁を設けているポーランドでは、安全でない く、出生率のその他の決定要因との相互作用による推定値の変動を明確に示していま 中絶の割合が増加しました(文献 69) 。 す。地域によっては過去にデータが非常に不足していて、ほんの数カ国の慎重な評価 をもとに準地域の推定が出された地域もありました。中部アフリカ準地域はその一つ オーストラリアとニュージーランドを除くオセアニア地域では安全でない中絶の問 ですし、西アジア準地域も図からは明らかではありませんがその一つです。カリブ海 題の存在が認められていますが、データがことのほか不足しており、推定数が不正確 地域やオセアニア地域でも良質のデータが不足しています。 な数値となっています。しかし、避妊実行率が 27%と低く(近代的避妊法 21%) 、 女性 1,000 人中 8 件と中絶件数が少ない地域において、女性 1 人に対して子ども 4 図7 1990年と2008年の準地域ごとの15∼44歳の女性1,000人あたりの 安全でない中絶の年間推定件数 人以下の合計特殊出生率である可能性は低いでしょう。安全でない中絶の数はこれよ 60 1990 2008 の推定」ということになります。そのため、安全でない中絶の推定は正確には比較で 東 きず、時点をまたいでの比較分析の際には注意が必要です。 0 この 20 年間の安全でない中絶の推定において、合計特殊出生率は減少し、避妊実 行率は増加しましたが、15 〜 44 歳の女性の人口は大幅に増加しました。女性の人 ヨ ー ロ ッ パ 同一の標準化されたアプローチを忠実に守っているものの、推定はあくまでも「最良 20 オ セ ア ニ ア 依存しています。安全でない中絶の推定は、 異なるデータ量を変動に応じて処理して、 南 ア メ リ 中 カ 央 ア メ カ リ リ カ ブ 海 地 域 安全でない中絶の一連の推定数は、利用できる約 190 カ国のデータの種類や質に 40 部 ア フ リ 中 カ 部 ア フ リ 西 カ 部 ア フ リ 北 カ 部 ア フ リ 南 カ 部 ア フ リ カ 東 南 ア ジ 南 ア ・ 中 央 ア ジ ア 西 ア ジ ア 7.3. 安全でない中絶の動向 15∼44歳の女性1,000人あたりの 安全でない中絶の年間件数 りもずっと多いかもしれないのですが、現在は証拠となるデータに欠けています。 出典:表5及びWHO 1993年 (文献77) 口はアフリカ地域でより急速に増加しました。1990 年代には出生数が世界的に減少 42 43 安全でない中絶 ラテン・アメリカとカリブ海地域では、合計特殊出生率は 10 年前の 2.7 から 5 年 前の 2.5、そして 2008 年の 2.2 と、一定かつ速いペースで減少しました(文献9) 。 過去 10 年間に、南・中央アジアと西アジア準地域において、それぞれ 20%、 2.2 を少し下回る南アメリカの合計特殊出生率は、発展途上の準地域では中絶が合法 17%と合計特殊出生率の大きな減少が見られました。数値にするとそれぞれ 2.8、 2.9 化され地域中で安全に利用できる東アジアに次いで低い数字となっています。合計特 にまで減少しています。避妊実行率がわずかしか上昇していない中でのこれらの数値 殊出生率の減少は、 中央アメリカと南アメリカ準地域において特に顕著です。これは、 の推移は、出生率の減少が中絶に依存していることを示しています。これに対して東 すでに高い避妊実行率と、安全でない中絶が同時に起きているようです。南アメリカ 南アジアは、 合計特殊出生率が過去 10 年間で 14%減少して 2.3 となっています。南・ 準地域の 1990 年の安全でない中絶の割合の高さ、そして 1,000 人の女性中 32 人 中央アジアと東南アジアの安全でない中絶の割合は減少してきていますが、西アジア にまで引き下げた安全でない中絶の割合の減少は注目に値します。一番大きな減少は では安全でない中絶の割合が上昇しています。この理由としては過去に得られたデー 最初の 10 年間で、その後は数値が一定しています。この減少は、可逆的な避妊法を タが充分でなく質の上でも不正確なものであったことが挙げられます。 あまり用いない避妊方法の組み合わせと、望まない妊娠が起きた場合の安全な中絶へ 世界のさまざまな準地域において、15 〜 44 歳の女性の人口(安全でない中絶は のアクセスが欠如していることが可能性として挙げられます。中央アメリカ準地域と この数値に対する割合として検討されます)と出生数(安全でない中絶はこの数値 カリブ海準地域では、明確な下降傾向があります。しかし過去の変動は、利用できる に対して率として検討されます)の増加が、異なる速度で独自に起きています。図 8 データが不足しており、中央アメリカに関しては中絶法が厳格化されているため、最 と図 9 は、世界の 4 つの地域における 1990 年と 2008 年の中絶の割合と対生児出 近の状況の不透明さを反映しています。 産比を示しています。この図表により中絶の割合と対生児出産比の関係をじっくり検 討できます。 アフリカの準地域では、合計特殊出生率が過去 10 年間に際立って減少しています。 中部アフリカでは 0.8 減少して 5.6 へ、西部アフリカでは 0.7 減少して 5.2 へ、東 図表 8、図表 9 はいくつかのシナリオを示しています。アフリカ地域では、1990 部アフリカでは 0.6 減少して 5.3 となっています。これらの準地域では避妊実行率 年と 2008 年で安全でない中絶の割合がほとんど同じである半面、出生数が比較的 は 30%をはるかに下まわり、近代的避妊法は中部アフリカ(7%)や西部アフリカ 減少したため、というよりむしろ過去に高い数値を示していた合計特殊出生率が下が (9%)ではほとんど用いていないにもかかわらず、家族の小規模化の傾向がここで り、15 〜 44 歳の女性の数が出生数よりも急激に増加したため、生児出産に対する 東部アフリカ、中部アフリカ、西部アフリカは準地域の中で高い中絶の割合を示し続 けています。 (1990 年の低い数字は先に説明したように間違いなく、データの欠如 によるものです) 北部アフリカと南部アフリカはアフリカ地域では特殊です。北部アフリカの合計特 殊出生率の減少率は最も高い地域の一つで、過去 10 年間に 18%、数値にして 2.9 にまで減少しています。南部アフリカでは 15%の減少で数値にして 2.6 にまで減少 しています。南部アフリカの主要国である南アフリカでは安全な中絶サービスが利用 できるようになり、安全でない中絶が徐々に減ってきています。すでに 2003 年の 時点で状況は改善してきています。 44 図8 主要な地域ごとの1990年と2008年の15∼44歳の女性1,000人 あたりの安全でない中絶の推定数 50 15∼44歳の女性1,000人あたりの 安全でない中絶の件数 も見られます。それゆえ、中絶が大きな役割を負わされているものと考えられます。 1990 45 2008 40 30 31 28 28 20 14 10 12 12 2 0 ラテンアメリカと カリブ海地域 アフリカ アジア ヨーロッパ 出典:表5及びWHO 1993年 (文献77) 45 安全でない中絶 安全でない中絶の比率が増加しています。同じような状況がアジア地域でも見られま 第 8 章 地域及び全世界での安全でない中絶による死亡 す。アジア地域では 1990 年よりも 2008 年の方が安全でない中絶の割合は低いの 世界の妊産婦死亡率の 3 大原因は、出血多量、出産による敗血症、安全でない中 ですが、安全でない中絶に対する対生児出産比は増加しています。ラテン・アメリカ 絶であり、全妊産婦死亡の約半数を占めています(文献 78) 。安全でない中絶による とカリブ海地域では、対生児出産比がわずかしか増加していないのに、中絶の割合は 死亡はおもに、安全でない中絶の過程での深刻な感染や出血、または臓器の損傷が原 大幅に減少しています。これらとは異なり、中絶の割合と対生児出産比の両方が減少 因です。その後、不妊を含む長期にわたる健康上の影響に苦しむ女性もいますし、よ している傾向が見られるのはヨーロッパだけです。 り短期の健康上の問題を患う女性もさらに多くいます(文献 71) 。 図9 主要な地域ごとの1990年と2008年の生児出産100件に対する 安全でない中絶の推定件数 50 生児出産100件に対する 安全でない中絶件数 40 安全でない中絶を原因とする死亡は、国ごとの妊産婦死亡に占める割合として推算 1990 37 2008 39 なる各機関協力によるグループによって最近推定されたように、国ごとの妊産婦死亡 にもあてはまります。国ごとの数は準地域、地域、世界レベルで総計としてまとめら 30 れています。したがって安全でない中絶による死亡数は、妊産婦死亡総数の推定に 20 20 18 13 10 0 されます。この比率は WHO、世界銀行、国連人口基金及びユニセフ(文献 6)から 11 大きく依存しています。妊産婦死亡の以前のデータ(文献 2 〜 5)は 1990 年から 14 2008 年までの新しい妊産婦死亡(文献 6)に差し替えられています。 5 ラテンアメリカと カリブ海地域 アフリカ アジア ヨーロッパ 出典:表5及びWHO 1993年 (文献77) アフリカ地域など出生率が高い場所では、対生児出産比は、中絶の割合より比較 世界の全妊産婦死亡は 1990 年から 3 分の 1 減少しています。状況は改善してき ていますが、妊産婦死亡のそれぞれの原因の相対的比重は、わずかしか変化していま せん(文献 78,81) 。出産にまつわる危険は完全にはなくせません。ただし、安全 でない中絶による死亡だけは完全に防ぐことができます。 的低くなっています。アフリカ地域の 2008 年の中絶の割合はラテン・アメリカや カリブ海地域と同じぐらいの数値ですが、高い出生率のためアフリカ地域の対生児出 産比はずっと低くなっています。アジア地域は概してその中間にあたります。ヨー 8.1. 全世界での安全でない中絶による妊産婦死亡数と、安全でない中絶によ る死亡発生比の推算 ロッパ地域のみにおいて、安全でない中絶件数の減少によって、最近の対生児出産比 が 1990 年の数値よりも低くなっています。 2008 年には 4 万 7,000 人が安全でない中絶によって死亡したと推定されていま す(表 6) 。この数値は当初の推定数よりも少なくなっています。数値の減少はおも 安全でない中絶の過去 20 年間の数値を検討すると、発展途上国において安全でな に妊産婦死亡件数の見直しによるものです(6.3. の項を参照) 。妊産婦死亡全体が い中絶が大きな影響を及ぼしていることを中絶の割合や対生児出産比が示していま 1990 年の 54 万 6,000 件から 2008 年の 35 万 8,000 件に減少したのに伴い、安 す。世界中の女性が望まない妊娠に直面し、安全な中絶を行う設備を利用できないな 全でない中絶に関連する死亡は 1990 年の 6 万 9,000 件から 2003 年には 5 万 6,000 らば、 女性たちは安全でない中絶に頼る傾向にあることを上記の数値や中絶の割合や、 件に減少しました(文献 6) 。 対生児出産比は示しています。そして出生率が低い準地域では、安全でない中絶の対 出生比が相対的に高いことを示しています。 46 世界的には安全でない中絶による妊産婦死亡が全妊産婦死亡に占める割合は、長期 47 安全でない中絶 間 13%程度のまま変化していません。安全でない中絶による妊産婦死亡の世界的な 表6 2008年の世界と地域ごとの安全でない中絶による死亡の推定 安全でない中絶が行われている 証拠があるかないかを問わず、 それぞれの地域のあらゆる国に おける死亡の推定 割合とは別に、準地域、地域ごとの平均は際立って異なっていて、またそれぞれの準 地域内でも国によって割合はかなり異なっています。安全でない中絶の発生やケアへ 安全でない 中絶による 10万件の生児出産数 妊産婦死亡数 10万件の生児出産数 に対する安全でない 妊産婦死亡 に対する安全でない 妊産婦死亡に 占める割合 中絶による死亡 に占める割合 中絶による死亡 (四捨五入された値) (四捨五入された値) のアクセスが国によって独自に異なる状況であることを反映しています。このような 差異でさえも平均値には吸収され、地域全体、世界全体の総計として集められた数値 は頑健です。 10 万件の生児出産に対する安全でない中絶による妊産婦死亡の比率は、安全でな い中絶による妊産婦死亡の相対的な危険性を示しています(図 10) 。安全でない中絶 による死亡の危険性は、世界中では 10 万件の生児出産に対して 30 件で、発展途上 国では 10 万件の生児出産に対して 40 件となっています。1990 年にはそれぞれ 50 件と 60 件という数値であり、改善が見られます。後発発展途上国における 10 万件 につき 80 件という数字は、発展途上国全体の 2 倍の数となっています。サハラ砂漠 以南のアフリカにおける数値はさらに高く 10 万件につき 90 件を示しています(東 部アフリカと中部アフリカの 10 万件につき 100 件に対して、西部アフリカでは 10 万件につき 80 件です) 。北部アフリカと南部アフリカは少なめであり、10 万件の生 児出産に対して、それぞれ 30 件、40 件であり、10 万件につき 10 〜 30 件の危険 性を示すアジアと同じような数値です。ラテン・アメリカとカリブ海地域では、安全 でない中絶がかなりの数にのぼるにもかかわらず、安全でない中絶に関連する死亡の 危険性は 10 万件につき 10 件と低く抑えられています。この数値は先進国の推定数 に近く、その理由としては薬による中絶の利用の増加や、医療設備が比較的整備され ていることが挙げられます。 48 それぞれの地域において 安全でない中絶が行われている 証拠のある国のみを対象とした 死亡の推定 世界 先進地域(表注a) 発展途上地域 後発発展途上国 サハラ以南のアフリカ アフリカ 東部アフリカ 中部アフリカ 北部アフリカ 南部アフリカ 西部アフリカ アジア (表注a) 東アジア (表注a) 南・中央アジア 東南アジア 西アジア ヨーロッパ 東欧 北欧 南欧 西欧 ラテンアメリカと カリブ海地域 カリブ海地域 中央アメリカ 南アメリカ 北アメリカ オセアニア (表注a) オーストラリア・ニュージーランド 47 000 90 47 000 23 000 28 500 29 000 13 000 4400 1500 500 9700 17 000 30 0.7 40 80 90 80 100 80 30 40 80 20 13 4 13 14 14 14 18 12 12 9 12 12 40 3 50 80 90 80 100 80 30 40 80 30 13 11 13 14 14 14 18 12 12 9 12 13 b b b b b 14 000 2300 600 90 90 30 20 10 1 3 13 13 16 8 11 30 20 10 3 3 13 13 16 11 11 b b b b b b b b b b b b b b b 1100 10 12 10 12 100 200 700 20 8 10 11 9 13 20 8 10 12 9 13 b b b b b 100 30 12 30 12 b b b b b 四捨五入されているため総計が必ずしも一致していません。 表注a 日本、 オーストラリア、 ニュージーランドは地域推定からは外されていますが、先進国の総計に含まれています。 表注b 安全でない中絶の数がごくわずかな地域においては推定数が出されていません。 49 安全でない中絶 8.2. 安全でない中絶による致死率 表 7 は世界全体や地域ごとの安全でない中絶の合併症による死亡の危険性を示し ています。死亡率は、中絶方法による危険性や、万が一緊急事態が発生した場合に医 50 世界全体での安全でない中絶に関連する致死率(10 万件につき 220 件)は、アメ リカ合州国での合法な妊娠中絶の場合の(10 万件につき 0.6 件、文献 39)350 倍 です(文献 39) 。サハラ砂漠以南のアフリカでは、800 倍以上です。先進国でさえ、 100∼110件 80∼89件 30∼39件 20∼29件 10∼19件 1∼9件 0件 安全でない中絶による致死率は、合法な中絶の場合の死亡率の 40 倍となっています。 表7 2008年における安全でない中絶10万件における、 安全でない中絶による死亡数の推定 10万件の安全でない中絶 における安全でない中絶に よる死亡の推定数、2008年 (四捨五入された数値) 世界 先進地域(表注a) 発展途上地域 後発発展途上国 サハラ以南のアフリカ アフリカ 東部アフリカ 中部アフリカ 北部アフリカ 南部アフリカ 西部アフリカ アジア (表注a) 東アジア (表注a) 南・中央アジア 東南アジア 西アジア この地図は四捨五入された値を表しています。 出生数10万件に対する安全でない 中絶に関連した死亡件数 図10 2008年の準地域ごとの出生数10万件に対する安全でない中絶による妊産婦死亡の年間推定数 療へアクセスできるかなどを反映しています。 ヨーロッパ 東欧 ラテンアメリカと カリブ海地域 カリブ海地域 中央アメリカ 南アメリカ オセアニア (表注a) 220 30 220 470 520 460 520 470 170 370 540 160 b 200 70 70 30 30 30 80 20 20 400 表注a 日本、 オーストラリア、 ニュージーランドは地域推定からは外されていますが、 先進国の総計に含まれています。 表注b 安全でない中絶の数がごくわずかな地域においては推定数が出されていません。 51 第 9 章 結論と提言 安全でない中絶と安全でない中絶による合併症は、そのほとんどが発展途上国で発 生しており、多くの女性たちを苦しめ続けています。安全でない中絶は、毎年、何 百万人もの女性に深刻な合併症と障がいを引き起こし、妊産婦死亡のきわめて大きな 原因です。2015 年までに妊産婦死亡率を 1990 年の水準の 4 分の 1 に引き下げる というミレニアム開発目標のターゲット 5A を達成しようという取り組みにもかかわ らず、安全でない中絶による妊産婦死亡が占める割合は 13%のまま変化していませ ん。安全でない中絶の件数は、生殖可能年齢の女性の人口増加に伴い増加しました。 女性が安全な中絶や避妊にアクセスでき、 (女性が子どもを産むかどうか、いつ子ど もを産むかを決定する自由を含めて)女性をエンパワーする支援が整備され、より強 化されない限り、この傾向は続くでしょう。 安全でない中絶は完全に防げるものですが、ほとんど全ての発展途上国と東欧諸国 で起き続けています。証拠に基づけば、子どもの数を調整するために中絶に頼らざる を得ない現状は、以下のような状況があればかなり減らせることを示しています。 ・女性が効果的な避妊を利用して妊娠を計画できる。 ・カウンセリングやサービスが、満たされていない家族計画のニーズと合致し、適切 な避妊方法の組み合わせが既婚、非婚を問わず、全ての女性に提供されている。 そして ・ 安全な中絶のサービスを簡単に利用することができる。 安全でない中絶の悪影響は次のように予防すべきでしょう。 ・中絶が違法でないところでは、安全な中絶サービスを簡単に利用できるようにする。 ・法が認めた中絶ができる理由は、国の法律と医療制度によって確実に支援されるよ うにする。 ・安全でない中絶から生じる合併症を扱う医療サービスへのアクセスを整備する。 ・中絶を繰り返すこと(頻回中絶)を予防できる、 中絶後のカウンセリングや避妊サー ビスを提供する。 中絶サービスは法律の範囲で最大限に拡大され、また適切な措置と医療制度の変革 が実施される必要があります。政府や政府間機関、非政府組織(NGO)は、1967 年 の世界保健会合で喚起され、ますます喫緊かつ重要な課題になっている、主要な公衆 衛生上の課題である安全でない中絶という課題に、 対応しなければならないでしょう。 52 引用文献 References 1. 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Health dimension of sex and reproduction. Boston and Genenva, World Health Organization, Harvard School of Public Health, World Bank, 1998. 57 付録 付録 1 安全でない中絶の年間発生及び関連する死亡を推算する 登録されています。 この付録では、2008 年の安全でない中絶の発生とそれに関連する死亡件数を推定 する際に用いられたデータと方法を解説します。 重要な資料を見きわめるために、何千件もの論文が体系的にふるいにかけられまし た。また関連機関のウェブサイトも閲覧し、最新の情報を得るために、国ごとの検索 1. 安全でない中絶についてのデータ も実施されました。400 件以上の参考資料と 600 件以上の新しいデータについての 再検討をしました。とくにインターネット検索によって貴重な新たなデータを入手で あらゆる国において、人工妊娠中絶へのアクセスは法律の枠組に大きく影響されま きましたが、 適切なデータが保健省のウェブサイトでは閲覧できなくなっているため、 す。人工妊娠中絶が制限されてほとんど利用できない場所、また、人工妊娠中絶が法 予定していたよりも多大な時間が必要でした。しかし、ウェブ検索という選択肢は、 律によって許可されてはいるものの利用が困難な場所では、中絶に関する情報はほと 最新のデータを得るためのかつてない機会でした。これはとくにラテン・アメリカ地 んど入手できません。そのような状況下では中絶は公には報告されず、安全でない中 域、カリブ海地域、西アジア準地域はウェブ検索が有益であり、国によっては 2003 絶は、入手可能な発生や死亡件数に関する病院のデータや調査から推定されます。法 年の推定時よりもデータへのアクセスを制限している国もありますが、より多くの国 的に制限されているかいないかを問わず、人工妊娠中絶は一般的に恥ずべきことと見 で情報が入手できるようになりました。マクロ・インターナショナルとの緊密な連携 なされており、宗教の教えやイデオロギーに咎めだてられています。 は、データと、人口と保健に関する調査(DHS)を、横断的調査において実際よりも 人工妊娠中絶を表す言葉は、中絶にまつわるためらいを反映しています。その言葉 少なく数値を報告することを補うための数値の増加補正率を適切に算出するため、他 は「誘発流産(fausse couche provoquée) 」 (文献 1) 「 、月経調整」 「腹部洗浄」 (文献 2) の資料からの推定値と比較する機会を与えてくれました。国ごとの中絶法、政策、中 や「遅延性(又は停止性)月経調整」 (文献 3)を含んでいます。安全でない中絶を 絶件数、実践を解明するために、新しい情報やデータは既存のデータと共に査定され 測定するのが極めて難しいのもうなずけます。 ました。 2. 2008 年値の推算のためのデータ収集 以下の記述では、安全でない中絶の発生や死亡件数の推定の理論的根拠、見積り、 方法の概要を述べます。推定数は合計特殊出生率、近代的/伝統的避妊法の実行率に WHO は安全でない中絶とそれに関連する死亡についてのデータを保持してきて 関するその他の資料データと比較して一貫性があるかどうか査定されました。推定数 おり、今や 4,000 件ほどの文書が集積されています。その多くは途上国のデータで、 はまず国ごとに出され、その後地域ごと、そして世界レベルでの推定として総計され 質的調査の結果もあれば量的調査の結果もあります。データベースは安全でない中絶 ました。同様の方法は、1993 年(文献 4) 、1997 年(文献 5) 、2000 年(文献 6) 、 が起きる状況についてのデータや、病院の記録や調査に関するデータ、法改正、中絶 2003 年(文献 7)の改定でも適用されました。本書における推定は、その国の法律 サービス提供者、安全でない中絶の方法、中絶を求める際の行動、中絶後のケアなど で認められている理由によって公に行われる中絶よりもリスクの高い人工妊娠中絶の の情報を含んでいます。図書館のデータベースやインターネット検索、会議の論文、 現状を表すことを意図しています。 WHO 本部や地域事務局に寄せられるデータ、国内担当機関や NGO により報告され るデータなどを通して情報が集められています。公表されているにせよ、非公表のも 3. 安全でない中絶の発生を推算する のであるにせよ、 報告書や論文は研究の科学的な厳密さを追求してふるいにかけられ、 58 関連する情報やデータがデータベースに取り込まれています。 中絶は筆者によっては、 国別の安全でない中絶件数は、年度ごとに、おもに病院のデータや調査データの報 単純に「中絶」あるいは「誘発性の」 「自然な」 「安全でない」という形容詞を付して 告の誤りや実際の件数よりも少ない報告数を補正して推定されています。おもに中絶 59 付録 付録 のために通常用いられる方法や、安全でない中絶の提供者や、既存の中絶法やその適 することは臨床的に不可能で、あらゆる妊娠の終了に関する病院のデータから自然流 用に関する報告にかなり依拠して数値の補正を行っています(文献 8 〜 16) 。 産の数を割り出すためには生物学的モデルに依拠しなければなりません。入院女性と 人工妊娠中絶が自然流産として誤報告される問題に対処するために、人工妊娠中絶 の対比で、治療を受けていない女性については、特別な調査を通して推定しなければ と自然流産の結合発生率が推定に用いられ、以下詳しく記載されているような自然流 なりません(文献 23,24) 。当然ながら、安全でない中絶を行った女性のうち、病 産の可能性にあわせた補正をしています。人工妊娠中絶が国の法律の枠組の中で行わ 院に行く必要があり、病院に行く選択をする女性は一部のみです。その決断は症状の れるにせよ、枠組の外で行われるにせよ、公式に認められた中絶はこの推定から外さ 重さ(出血、痛み、感染症)だけではなく、医療設備の利用のしやすさや、中絶を取 れました。 り巻く(認知されている)法律の枠組にも影響を受けています。女性が医療を求める ことへのためらいが大きくなると、女性の健康へのリスクが増し、不治の障害や死に 国レベルのデータが、その地方レベルのデータから調整を経て推定された国もい 至る可能性があります。 くつかあります。この場合、例えば都市部より農村部の方が中絶割合は一般的に低 いという事実を考慮して修正が加えられた数が、推定数となっています(文献 17 〜 国の安全でない中絶の件数は、今やよく知られている入院合併症推算方式でシミュ 19) 。国のデータと地方レベルのデータ、そして病院のデータと調査のデータが同じ レートされた病院のデータから推定されました(文献 23,24) 。病院における中絶 ような数値を示すことを考慮したうえで、可能な限り国の推定数は、数値の妥当性を と出産の比率は、病院での治療を必要とする可能性がある妊娠期間 13 〜 22 週目に 保障するためにいくつかのデータを組み合わせて算出されています。 起きる自然流産に合わせて調整されています。12 週目までの流産では、ほとんどの 女性が治療を必要とはしません。Singh 氏と Wulf 氏は修正された生命表データを その結果算出された安全でない中絶件数は、おもに合計特殊出生率(文献 21)や 用いつつ、妊娠 13 〜 22 週間目に自然流産に終る妊娠の数は、あらゆる生児出産の 効果的な避妊の使用(文献 22)や家族計画への満たされていないニーズなどの出産 3.41%であると推定しています(文献 25) 。また所定の国での、自然流産で入院する に関わるその他の決定因子(文献 20)が変化する場合のみ人工妊娠中絶が増加した 割合は病院で出産する女性の割合とほぼ等しいと見なされています。 「氷山の一角」 り減少したりするという情報を踏まえて最終的に査定されました。これらの出産に関 である病院での安全でない中絶の生児出産との比率は、安全でない人工妊娠中絶のほ するその他の決定因子に関しては、それぞれの国が独自に行う人口と保健についての とんどが入院を必要とする合併症には至らないという事実に基づき、その国の安全で 調査(DHS)や、マクロ・インターナショナル、疾病管理予防センターとの連携で ない中絶の対生児出産比(脚注 a)を算出するために、病院での安全な中絶の対生児 行われた人口と保健についての調査に報告されている数字が用いられています。より 出産比に 2 〜 7 倍(文献 25 〜 29)の乗数を用いて調整しました。さまざまな場所 幅広い理由や、女性からの求めだけで中絶が利用できるような法の改正や、その運用 における上記の調査から乗数がすでに分かっている国との類似性をもとに、乗数が適 実践における変革は、中絶施設やサービスが利用可能になるにしたがって、秘密裏に 行われている中絶から法的に認識された中絶への変化につながります。 脚注 a 例えば国立病院のデータを用いて中絶の対生児出産発生比率は次のように推定されています。 F× [A - (H × 3.41)] 3.1 安全でない中絶件数を推定するためのデータ、方法、仮定の情報源 この数式において 3.1.1 病院のデータ を考慮した数値となっています。 F は、補正係数であり、一般的に3〜7の範囲です。全ての安全でない中絶が入院を必要とするわけではないという事実 A は、国レベルの病院データにおける妊娠を中途で終了した比率(対生児出産比)です。 (出生数 100 件に対する人工 妊娠中絶及び自然流産の数) 60 病院での流産(妊娠の終了)による入院のデータは、実際の自然流産の発生率より Hは、その国における病院での出産の割合であり、これはまた妊娠 13 週〜 22 週目の自然流産で病院での対応を求める 多く報告されています。ほとんどの場合、自然流産のデータを人工妊娠中絶から分離 3.41%は 100 件の生児出産あたりの、妊娠 13 〜 22 週目における自然流産の比率です。 女性の比率であると想定されます。 61 付録 用されました。一般的に、安全でない中絶が女性の健康にもたらすリスクが低い国ほ 付録 の数を割り出す必要があります。 ど、乗数の値が高くなることを乗数の大きさが示唆しています。算出された中絶の生 児出生との比率(対生児出産比)は、国連人口部のその年の 15 〜 44 歳の女性の数 中絶報告のジレンマと人工妊娠中絶と自然流産を区別する困難を避けるために、人 や出生数の推定に基づき、最終的に全体に占める中絶の割合に換算されています(文 工妊娠中絶と自然流産の合算値をまず計算して、最後に国の合算値から調査結果の出 献 21) 。 生数の 10%(文献 38)と見積もられる自然流産の数を差し引く方が数値として信 用ができると見なされています。 妊娠の終了についての入院のデータが公立病院/私立病院で利用できたものの、そ れに対応する出生数のデータを利用できないこともありました(文献 30 〜 32) 。私 中絶に関する調査によれば、対面式の面接や自己記入式の用紙の場合、女性は中絶 立病院/公立病院を利用して出生をした割合についての最近のデータを用いつつ、対 の経験を実際の数より少なく報告します。アメリカ合州国における調査では、過去 5 応する出生数は、国連のその年のその国における出産推定数から推定されました(文 年間に行われた人工妊娠中絶で面接において報告されたのは半数以下で(文献 35, 献 21) 。そして、その国の安全でない中絶件数を割り出すために、病院のデータや 38,41,42) 、自己記入式の用紙(オーディオコンピューターの補助つき)に記入 国連のデータをもとに算出された中絶の対生児出産比が、自然流産や病院での治療を されたのは半数ちょっとでした(文献 41) 。気配りのきいた面接(文献 43)ができ 必要としない安全でない中絶を考慮して、上記の方法を適用して、補正されました。 ればもう少し正しい結果がでるのかもしれませんが、中絶に関する調査から安全でな い中絶の数値を推定する際には、中絶を報告するのは女性 2 人につき 1 人であると 病院での出産をする比率(文献 33)は、推定数の算出においてだけではなく、サー いう補正率として 2 が適用されました。 ビスへのアクセスや、安全でない中絶を行って、合併症を生じた女性が病院の治療を 求める際の行動を理解するうえでも重要です。これについては本文の第 3 章でも詳 人口と保健に関する調査といった横断的調査のデータでは、実際の数よりかなり少 説されています。 なく報告されており、その数値は、比較のために自然流産分の 10%が加算修正され た AGI などの国の中絶を対象とする広く認められた調査(表 A1.1 及び A1.2 参照) 3.1.2 調査結果 と人口と保健に関する調査 DHS の関係に基づいて補正率として 2 倍かそれ以上の修 正を必要としています。補正率が高いほど、人口と保健に関する調査において女性が 人工妊娠中絶の報告を女性がためらうこともよくあります。中絶の利用が法によっ 妊娠終了(自然流産にせよ人工妊娠中絶にせよ)をより少なく報告しているというこ て規制されている場所ではなおさらです。しかし法律の枠組の中で容易に中絶を利用 とです。 できる場所においても、実際の数よりもかなり少なく報告されることを調査結果が示 62 しています(文献 34 〜 37) 。法律の枠組の中で容易に中絶を利用できる場所におい このように特定された補正率は、表 A1.2 に記載のように準地域ごとの補正率とし て報告がなされないのは、 (認識されている)社会的スティグマが原因かどうかは明 てまとめ上げられました。ただし、ペルーはラテン・アメリカ及びカリブ海地域の補 らかではありません。しかし初期の妊娠中絶や過去に起こった出来事は、おそらく記 正率から除外されました。その理由は、ペルーの人口と保健に関する調査は、調査に 憶が薄れることにより報告されないようです(文献 38) 。中絶が秘密裏に行われる おける低い件数に示され、7という高い特有の補正率の原因となっているように、予 なら、女性は調査において守秘義務が保障されても、人工妊娠中絶を実際よりも少な 期しない感度を示した特別のケースと認められたからです。準地域の補正率は調査 く報告しがちです(文献 39,40) 。したがって調査データは、実際の件数よりも少 データに必要に応じて適用されました。しかし、重要性がある場合は地域の平均値に ない報告を修正しなければなりませんし、自然流産が数値に含まれている際には、そ 頼るのではなく、国特有の補正率が用いられました。 63 付録 付録 表A1.1 人口と健康に関する調査における自然流産と人工妊娠中絶の総計と、 「金字塔的」調査を情報源とする国の中絶推定数の比較 2008 2002 2003 1996 人工妊娠中絶と自然 流産についての人口 と健康に関する調査 調査時期 2001–2005 1999–2003 2002–2006 1991–1995 「金字塔的」 調査 (表注d) の 調査年 エチオピア ケニア ウガンダ エジプト (表注a) ブルキナファソ ガーナ (表注b) ナイジェリア バングラデシュ インド (表注c) インドネシア(表注c) パキスタン (表注b) フィリピン フィリピン グアテマラ ニカラグア コロンビア ペルー 比較する年 補正率 2008 2002 2003 1995 6.4 6.7 5.2 2.1 中絶の調査は一般的に、15 〜 44 歳、あるいは 15 〜 49 歳の女性 1,000 人に対 する数値を示しています。この数値は女性の一生における中絶数、あるいは 1 〜 5 年という短期間における中絶数を報告しています。割合は過小報告を修正し、最終的 に自然流産の数(生児出産の 10%) (脚注 c)が割合に含まれている場合はその数を 補正して、年間中絶割合に換算されています(脚注 b) 。 無作為抽出回答法は、面接調査を受ける女性への高度のプライバシーと守秘義務を 守りつつ、最近あるいは生涯における中絶数に関する情報を求める調査方法です(文 2008 1999–2003 2005 6.0 2000–2006 1996 1995 2002 2000–2001 2002 1994 2000 2003–2007 1999–2003 1993–1997 2002–2006 1998–2002 2001–2007 1994–1998 1999–2003 2003 1999 1995 2002 2001 2002 1994 2000 1.3 4.1 3.4 3.7 5.3 2.2 3.4 3.9 献 44) 。厳選された設問(中絶に関するものあるいは可能性が知られている中立的 2003 2003 2009 1998 1995–1999 1997–2001 2001–2005 1996–2000 1999 2001 2005 1998 6.0 3.2 4.1 7.7 ては、報告された人工妊娠中絶の数を修正する必要がありません。 な文章)に対して、回答者が「はい」か「いいえ」を答えるだけで、大量の標本の中 で中絶を行った女性の数を算出することができます。しかしこの方法は大量の標本を 必要とし、設問は 1 問 2 問でもよく、識字女性を対象とする場合はより信頼できる 回答を得ることができることが明らかとされています。この方法を用いた結果におい 表注 表注a. MRのための修正 表注b. 中絶の構成要素 表注c. 医療従事者の調査 表注d. 関連するものとして自然流産が加えられました。 脚注 b 2 〜 5 年の割合はその期間全体に同じように分布するものと見なし、年数で割っています。中絶したことのあ る女性の割合は次の数式を用いて年の割合に換算されます。 Wrep.age × Avab/Avrep.yr 表A1.2 横断的調査データに適用される準地域の補正率 地域あるいは準地域 (国連人口部) 東部アフリカ 西部アフリカ サハラ以南のアフリカ アジア 西アジアと北部アフリカ 南米と中央アメリカ 補正率 6.1 3.8 5 4 2.2 4.5 補正率を計算するために用いた国 エチオピア、 ケニア、 ウガンダ ブルキナファソ、 ガーナ、 ナイジェリア ブルキナファソ、 エチオピア、 ガーナ、 ケニア、 ナイジェリア、 ウガンダ バングラデシュ、 インド、 インドネシア、 パキスタン、 フィリピン(2000) エジプト、 パキスタン コロンビア、 グアテマラ、 ニカラグア Wrep.age は出産可能年齢にあり、これまでに中絶をしたことがあると報告している女性の割合 Avab は女性 1 人あたりの中絶報告平均件数(数字がない場合は 1.2 と推定) Avrep.yr は平均出産可能な年数のことで、特に何も記載されていない場合はここでは 15 〜 44 歳の女性において 15 年 と想定されています。 脚注 c 調査に基づく中絶の割合は、実際よりも少なく報告される場合を考慮して補正され、その後、推定される自然 流産が控除されています。 A × C − S この数式において Aは調査で算出された中絶の割合です。 C は実際より少なく報告されることに対する補正率です。 S は自然流産の補正です。 (出生数の 10%) 64 65 付録 3.1.3 その他のデータ 付録 さらに、より最近のデータはより信頼のおける予測推定数を提示しています。安 全でない中絶の数値の 38%は 2005 年以降のデータから算出されており、92%が 8 7 カ国において、中絶件数や安全でない中絶の数の推定が著名な情報源から報告さ 年以内のデータをもとに算出されています (表 A1.4) 。したがって、 国家レベルのデー れていますが、この数値は裏づけとなる根拠に欠けています。これらの推定は、その タがますます多く用いられていることを考慮すると、全般的に信頼度がさらに増して 地域における平均値を出すためではなく、中絶件数を算出するために用いられていま いるといえるでしょう。1995 年以前のデータは存在しません。要約すれば、ほとん す。それらの国々は出生数の 2%、安全でない中絶の 1%に相当し、表 1.3 の 1 列目 どの国において先に説明された方法を用いて推定数を算出するための国家レベルの発 に含まれています。 生データが利用できました。 情報を得ることができなかった出生数の 2%に相当する 20 カ国(そのほとんどが 3.3 国の割合と比率の算出 小国)では、その地域の他の国やその国と類似した中絶法があり、出生率や避妊の利 用が同程度の国々と同じくらいの割合であると想定されました。 (表 A1.3 と表 A1.4 2008 年の発生件数についての推定のため中絶数を算出するために、データ年の割 を参照) 合と比率が算出され、2008 年の推定値に反映されました。過去には割合のみが推算 されていたのみです。発生割合は 15 〜 44 歳の女性 1,000 人に対する発生件数を 3.2 行政レベルでの発生データの利用と年ごとの発生データの利用 表すのに対して、比率(対生児出産比)は 100 件の生児出産に対する安全でない中 絶の件数を表します。15 〜 44 歳の女性の人口が増加し出生率が減少しているなら、 表 A1.3 は国や地方レベルでの中絶発生のデータの利用可能性を示しています。そ 多くの中絶が起きており、 安全でない中絶の発生割合はより高いことが予想されます。 れに対応する安全でない中絶の推定件数の分布が生児出産と 15 〜 44 歳の女性の項 対生児出産比率と比較した場合も、同じことが言えます。世界的に、出生数と比べて 目と共に示されています。表 A1.3 は、安全でない中絶件数を算出するために用いら 女性の数が増加しているため、発生割合を用いた総計は対生児出産比よりも比較的安 れたデータの期間を特定しています。 全でない中絶の数値が高くなっています。しかし、これら二つの推定値の近似性は、 表 A1.3 は、安全でない中絶の 90%以上が国家レベルのデータにより推定されて 推定値とデータの質の高さの一貫性を示しています。つまりデータが新しく、調整や いることを示しています。これらは過去の最新情報にさらなる改善をしています。 仮定を最低限に抑えることができていることを示しています。このように二つの推定 2003 年時点の一連の推定において、国家レベルのデータに基づくのは 79%でした。 方法は、発生率の下限と上限を表し、この二つの推定の平均値は、現在利用できる安 したがって、数値の仮定が減少しているため推算はより信頼のおける数値となってい 全でない中絶の推定値として最適のものとなっています。 ます。中絶件数が実際よりも多く報告される可能性は低いです。しかし、データの提 供先(保健省であることが多い)に依存しなければならない国のデータの完璧さを評 価する手段はありません。データがない国の占める割合は減少し、その結果、他の国 のデータや地域平均値を用いて数値を推定する必要性も減少しました。世界での出産 4 件に 1 件は、生殖年齢にある女性の 36%が居住し、人工妊娠中絶に対する規制が 少ない、安全でない中絶の証拠のない世界 60 カ国で起きています。2003 年にはそ の数は出生数の 24%で、15 〜 44 歳の女性の 38%でした。 66 表A1.3 安全でない中絶を推算するため、 生児出産、 出産年齢の女性ごとの、 国レベル、 地方レベルで利用できるデータ、 2008年 データが利用できる度合い (国の数) 国の調査、病院のデータ、国の推算(102) 地方自治体の調査、病院のデータ (11) 利用できるデータがないため他の国のデータや地域の平均値 から算出 (23) 安全でない中絶の証拠のない国(60) 総合(%) 総数 (単位:1,000) (196) 15∼44歳の 全女性に おける割合 全出生数に 対する割合 全安全でない 中絶における 割合 60 3 71 3 93 5 1 2 2 36 100 24 100 0 100 1 553 217 136 428 21 600 67 付録 付録 出産年齢の女性ごとの、安全でない中絶の件数を推定 表A1.4 安全でない中絶、生児出産、 するための、 データのを利用可能性と期間、2008年 データの期間とデータの利用可能性 (国の数) 2005年以降に利用可能なデータ (52) 2000年から2004年に利用可能なデータ (38) 1995年から1999年に利用可能なデータ (19) 1995年以前に利用可能なデータ (4) 利用できるデータがないため他の国のデータや地域の平均値 より算出 (23) 安全でない中絶の証拠のない国 (60) 総合(%) 総数 (単位:1,000) (196) 4.1 安全でない中絶による死亡を推定するためのデータ、方法、仮定の情報源 15∼44歳の 全女性における 割合 全出生数に 対する比率 全安全でない 中絶における 割合 主に先進国とラテン・アメリカの何カ国かが妊産婦死亡原因の内訳を WHO に報 22 36 4 0.2 28 42 4 0.3 38 56 4 0.4 ん。国の保健統計から信頼のおける国のデータを入手できない場合、安全でない中絶 1 2 2 36 100 1 553 217 24 100 136 428 0 100 21 600 告しています。全ての国が充分に死亡報告や死因の把握をしているわけではありませ による死亡を、病院や地方のデータから推定せざるを得ません。 中絶に関連する妊産婦死亡の占める割合について農村部と都市部及び病院と病院で はない場所の比較を可能とする調査はごくわずかしかありません。都市部で医療を比 較的利用しやすい場合、実際のところ全て又は大多数の妊産婦死亡は病院で起こりま 4. 安全でない中絶による死亡を推算する す(文献 46,47) 。農村部では状況はそれほどはっきりとはしていません。ある調 査では、妊産婦死亡の 4 分の 1 が医療施設の外で起きています。医療機関にたどり 安全でない中絶は、妊産婦死亡の直接的 5 大原因の1つであり(その他 4 つは、 つく前に死亡することも珍しいことではありません(文献 46) 。都市部の病院にお 多量出血、産褥敗血症、閉塞性分娩、子癇です。 )広範囲にわたる間接的な原因がも ける安全でない中絶による妊産婦死亡の割合は、都市部における妊娠に関連する総死 ととなっています。したがって、ある国の全般的な妊産婦死亡は、安全でない中絶に 亡の中でのその割合について妥当な近似値を呈示するものの、農村部では高い妊産婦 よる妊産婦死亡が推定できる「許容限度」を提示してくれます。中絶による死亡は、 死亡率の現状の中で他の理由による妊産婦死亡がより比重を占めるため、妊娠に関連 安全でない中絶による妊産婦死亡と同じように実際の数よりも少なく計上されている する総死亡における安全でない中絶による妊産婦死亡が占める割合は都市部より低く と見なしつつ、安全でない中絶を妊産婦死亡の枠組に入れることで、妊産婦死亡につ なります。サハラ砂漠以南のアフリカのほとんどの国では、農村部でのその割合は都 いてはびこっている事実と異なる報告や、実際の数よりも少ない報告を考慮に入れる 市部の 70%と推定されています。この数値と符合して、中絶の割合も都市部より農 ことができます。しかし、安全でない中絶による死亡は社会的、法的帰結を考慮する 村部の方が低くなっています。医療施設での出産が 45%であるホンジュラスにおけ と、ほかの原因よりも報告されることが少ないとも考えられます。たとえば、安全で る 1989 年〜 1990 年の全国調査では、妊産婦死亡の 3 分の 2 が、そして中絶に起 ない中絶に関連する死亡は、女性が中絶を試みたという情報を人工妊娠中絶にまつわ 因する死亡の半分が病院ではない場所で起きています。このことは中絶を原因とする る社会的、文化的信念から、自ら明らかにしないかもしれないため、妊産婦死亡と認 妊産婦死亡の全妊産婦死亡に占める全妊産婦死亡の割合は、病院ではない場所よりも 識されないかもしれません。 病院内の方が高いことを示しています(文献 48) 。アフリカと同様、インドにおけ る調査は農村部よりも都市部の方が安全でない中絶による妊産婦死亡が全妊産婦死亡 それぞれの国の安全でない中絶に関連する死亡率は、2008 年の国ごとの安全でな に占める割合が高いことを示し、農村部の 2 倍に当たるかもしれません(文献 49) 。 い中絶による妊産婦死亡の推定数の 100 分率として算出されています(文献 45) 。 バングラデシュの最近の調査は、妊産婦死亡のわずか 4 件に 1 件しか病院で起きず、 またそれらの数は、地域や世界レベルでの総計、100 分率や比率としてまとめられ 全妊産婦死亡に占める中絶での死亡の占める割合は病院以外のデータのわずか 70% ています。 です(文献 50) 。これは、バングラデシュのように 21 世紀の初めに病院での出産が 8%と、医療施設での出産が少ない国の典型的な数字といえるかもしれません(文献 51) 。 68 69 付録 安全でない中絶による妊産婦死亡の占める割合の推定数には、国の統計、共同体の 付録 4.1.2 コミュニティの調査と生殖年齢死亡調査 調査、病院のデータという 3 つの情報源があります。可能な限り共同体の調査デー タも用いられました。しかし多くの国のデータは病院のデータに基づいています。し コミュニティの調査や生殖年齢死亡調査(RAMOS)や守秘義務を課した調査は、 たがって安全でない中絶を理由とする妊産婦死亡報告の正確さは、合併症が発生した 国レベルで行われる場合、あるいは農村部と都市部の両方を含む場合、最善の推定数 際に女性が病院での治療を求めるかどうかにかかっています。 地方レベルのデータは、 を呈示するものと見なされ、修正なしに用いられてきました。 国レベルのデータに一般化できると考えられています。病院ではない場所での中絶に よる死亡は病院のデータをもとに推定され、農村部での中絶による死亡の占める割合 地方レベルで利用できる調査はあまり多くありません。上記の調査では、農村部で は、都市部のデータをもとに推定できると想定されます。またその逆もしかりです。 の死亡率は都市部の 0.7 倍で、組織のデータ対組織以外のデータと同じであると見な 国の推定数を算出するために、適宜、出産が病院で行われる割合や、都市部人口の比 すのが通例となっています(脚注 d) 。 率にしたがって、病院と病院以外の場所、農村部と都市部の推定値に重みづけがされ ました。 4.1.3 病院のデータ さらに、自然流産が単独で死亡原因となることはほとんどないため、妊娠の終了に 国による病院のデータが利用できる場所では、修正を加えずにそのままの数値が用 関連する死亡はおもに、 あるいは専ら安全でない中絶の結果であるとみなされました。 いられました。多くの病院のデータを利用できる場合、 国の推定数を算出するために、 しかし死亡はまれであるものの、公式に認められた大多数の中絶以外に、安全でない 各病院での妊産婦死亡数によって重みづけがされました。 中絶が生じている国については、法的手続きによる推定死亡を明示するために死亡の データが補正されました。 都市部でのデータのみが利用できる場合は、上記の論理をさらに広げて、都市部に おける中絶に関連する妊産婦死亡率は、都市部の病院における数値と同じであると見 中絶による死亡に関するデータを利用できない国に関しては、中絶に関連する妊産 なされ、農村部での数値は都市部の病院の 0.7 倍として計算されました(脚注 e) 。 婦死亡の割合は、同じ地理的地域の国々、あるいは似かよった中絶に冠する法律、文 化的背景、出生率や妊産婦のケア、都市人口の割合といった指標を持つ国と同じぐら いの割合であるという前提がおかれました。 脚注 d 例えば、都市部の数値から国レベルの割合を出す場合 (Mu × U) + (0.7 × Mu × R) この数式において Mu は都市部での全妊産婦死亡に占める中絶に関連する死亡の割合です。 4.1.1 国の報告書 0.7 は都市部での全妊産婦死亡に占める中絶に関連する死亡の割合との対比でみた農村部での中絶による死亡の割合の想 定値です。 U は都市部に住む人口のその国の人口に占める割合です。 WHO の定義での完全性と 90%以上のとカバレッジがある国については、国に報 R は農村部に住む人口のその国の人口に占める割合です。 告された中絶に関連する死亡統計が、修正を加えずに用いられました。80%のカバ 脚注 e 都市部の病院データに使われた数式は レッジの国に関しては 10%の上方修正が加えられました。報告基準が低い国に関し Hu は都市部の病院での全妊産婦死亡に占める中絶に関連する死亡の割合です。 ては、20%の上方修正が加えられました。 (Hu × U) + (0.7 × Hu × R) この数式において 0.7 は都市部の病院での全妊産婦死亡に占める中絶に関連する死亡の割合との対比でみた農村部での中絶による死亡の割 合の想定値です。 U は都市部に住む人口のその国の人口に占める割合です。 R は農村部に住む人口のその国の人口に占める割合です。 70 71 付録 付録 4.1.4 データのない国 多数の安全でない中絶が起こっていると報告されているインドの例外を除き、ほんの わずかとなっています。 全妊産婦死亡の 14%を占める 36 カ国に関しては、何の情報も入手できませんで した。これらの国に関しては、同じ地域の別の国、あるいは同じような中絶法、合計 特殊出生率、安全でない中絶件数、病院での出産割合の国と中絶関連の妊産婦死亡の 割合が同じぐらいであると見なされました。 引用文献 4.2 死亡率データの利用 表A1.5 2008年の安全でない中絶による死亡を推算するためのデータの利用可能性 データの利用可能性 (国の数) データが利用できる国 (100) データが利用できない国、 地域平均 データに基づいた推定値 (36) 安全でない中絶による死亡の 証拠のない国 (60) 総数(%) 妊産婦死亡 における割合 安全でない中絶 による死亡に おける割合 全出生数に 対する比率 15∼44歳の 全女性における 割合 83 84 71 61 14 16 6 4 3 0 23 36 100 100 100 100 表 A1.5 は安全でない中絶による死亡数を推定するためのデータの利用可能性を表 しています。100 カ国では、安全でない中絶の証拠と共に妊産婦死亡のデータを利 用できました。これらの国は妊産婦死亡全体の 83%、安全でない中絶による死亡全 体の 84%、世界の出生数の 71%、15 〜 44 歳の女性の 61%を占めています(妊産 婦死亡が評定されていない何カ国かの小国を含む) 。その次の 36 カ国は、全出生数 の 6%、15 〜 44 歳の女性の 4%を占めています。これらの国に関しては、安全で ない中絶による妊産婦死亡数のデータがなく、妊産婦死亡の中絶に関連する死亡の割 合の地域平均値があてはめられています。これらの国は全妊産婦死亡の 14%、安全 でない中絶による全妊産婦死亡の 16%を占めています。情報の利用が可能だった国 の中には、中絶を幅広い理由で許可している国々もありました。しかし、合法な中絶 の費用の高さや社会的理由により、安全でない中絶はいまだ法律の枠組の外で起こっ ています。これらの国に関しては、安全でない中絶による死亡数算出のため、合法な 中絶による死亡数を推定し、この数を中絶による死亡として報告された総数から差し 2. Levin, E. Cleaning the belly: Managing menstrual health in Guinea, West Africa. In: Basu AM. The sociocultural and political aspects of abortion — Global perspectives. Santa Barbara, CA, Praeger, 2003. 3. Nations MK, Misago C, Fonseca W, Correia LL, Campbell OM. Women’s hidden transcripts about abortion in Brazil. Social Science and Medicine, 1997, 44(12):1833-1845. 4. World Health Organization. Abortion. A tabulation of available data on the frequency and mortality of unsafe abortion. Second edition. Geneva, World Health Organization, 1994 (WHO/FHE/MSM/93.13). 5. World Health Organization. Unsafe abortion. Global and regional estimates of incidence of and mortality due to unsafe abortion with a listing of available country data. Third edition. Geneva, World Health Organization, 1998 (WHO/RHT/MSM/97.16). 6. World Health Organization. Unsafe abortion. Global and regional estimates of the incidence of unsafe abortion and associated mortality in 2000. Fourth edition. 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United Nations Population Division. Department of Economic and Social Affairs. World abortion policies 2007 (wallchart). (ST/ESA/SER.A/264) United Nations, New York, 2007. のみです。これらの国は、 出生数の 23%、15 〜 44 歳の女性の 36%を占めています。 13. Center for Reproductive Rights. The World’s abortion laws. Fact sheet. New York, CRR, 2009. 合法な中絶と安全でない中絶の両方が存在する国では、 安全でない中絶による死亡が、 72 1. Ravolamanana Ralisata L, Rabenjamina FR, Razafintsalama DL, Rakotonandrianina E, Randrianjafisamindraokotroka NS Les péritonites et pelvi-péritonites post-abortum au CHU d’Androva Mahajanga: à propos de 28 cas. Journal de la gynécologie, obstétrique et biologie de la reproduction, 2001, 30(3):282-287. 73 14. Singh S, Wulf D, Hussain R, Bankole A, Sedgh G. Abortion Worldwide: a decade of uneven progress. New York, Guttmacher Institute, 2009. 15. International Planned Parenthood Federation (IPPF). Abortion legislation in Europe. Brussels, Belgium, 2009. 16. United Nations Population Fund (UNFPA). 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Bangladesh Demographic and Health Survey 1999-2000. Dhaka, Bangladesh and Calverton, Maryland (USA), NIPORT, MA and ORC Macro, 2001. 75 付録 付録 2 国連人口部の地域分類に従って分類された国及び領土(脚注 a) 発展の度合いによる国のリスト 先進地域(脚注 b) 北アメリカ、ヨーロッパ、日本、オーストラリア連邦、ニュージーランド 発展途上地域(脚注 b) アフリカ、カナダとアメリカ合州国を除くアメリカ、日本を除くアジア、オーストラ リア連邦とニュージーランドを除くオセアニア 後発発展途上国 アフリカ アンゴラ共和国、ベナン共和国、ブルキナファソ、ブルンジ共和国、カーボベルデ共 和国、中央アフリカ共和国、チャド共和国、コモロ連合、コンゴ民主共和国、ジブチ 共和国、赤道ギニア共和国、エリトリア国、エチオピア連邦民主共和国、ガンビア共 和国、ギニア共和国、ギニアビサウ共和国、レソト王国、リベリア共和国、マダガス カル共和国、マラウイ共和国、マリ共和国、モーリタニア・イスラム共和国、モザン ビーク共和国、ニジェール共和国、ルワンダ共和国、サントメ・プリンシペ民主共和国、 セネガル共和国、シエラレオネ共和国、ソマリア民主共和国、スーダン共和国、トー ゴ共和国、ウガンダ共和国、タンザニア連合共和国、ザンビア共和国 アジア アフガニスタン・イスラム共和国、バングラデシュ人民共和国、ブータン王国、カン ボジア王国、ラオス人民民主共和国、モルディブ共和国、ミャンマー連邦、ネパール、 東ティモール民主共和国、イエメン共和国 カリブ海地域 ハイチ共和国 オセアニア サモア独立国、ソロモン諸島、バヌアツ共和国 脚注 a 人口 10 万人以上のみ記載しました。 脚注 b 国連で「先進」と「発展途上」を区分けする決まった基準はありません。この文書では上記のように分類されて います。 76 地理的地域による国のリスト アフリカ 東部アフリカ ブルンジ共和国、コモロ連合、ジブチ共和 国、エリトリア国、エチオピア連邦民主共 和国、ケニア共和国、マダガスカル共和国、 マラウイ共和国、モーリシャス共和国、マ イヨット島、モザンビーク共和国、ルワン ダ共和国、ソマリア民主共和国、ウガンダ 共和国、タンザニア連合共和国、ザンビア 共和国、ジンバブエ共和国 中部アフリカ アンゴラ共和国、カメルーン共和国、中央 アフリカ共和国、チャド共和国、コンゴ共 和国、コンゴ民主共和国、赤道ギニア共和 国、ガボン共和国、サントメ・プリンシペ 民主共和国 北部アフリカ アルジェリア民主人民共和国、エジプト・ アラブ共和国、大リビア・アラブ社会主義 人民ジャマーヒリーヤ国、モロッコ王国、 スーダン共和国、チュニジア共和国、西サ ハラ 南部アフリカ ボツワナ共和国、レソト王国、ナミビア共 和国、南アフリカ共和国、スワジランド王 国 西部アフリカ ベナン共和国、ブルキナファソ、カーボベ ルデ共和国、コートジボワール共和国、ガ ンビア共和国、ガーナ共和国、ギニア共和 国、ギニアビサウ共和国、リベリア共和国、 マリ共和国、モーリタニア・イスラム共和 国、ニジェール共和国、ナイジェリア連邦 共和国、セネガル共和国、シエラレオネ共 和国、トーゴ共和国 アジア 東アジア 中華人民共和国(中国)、中国・香港特別 行政区、中国・マカオ特別行政区、朝鮮民 主主義人民共和国、日本、モンゴル国、大 韓民国 ( 韓国 ) 南中央アジア アフガニスタン・イスラム共和国、バング ラデシュ人民共和国、ブータン王国、イン ド、イラン・イスラム共和国、カザフスタ ン共和国、キルギス共和国、モルディブ共 和国、ネパール、パキスタン・イスラム共 和国、スリランカ民主社会主義共和国、タ ジキスタン共和国、トルクメニスタン、ウ ズベキスタン共和国 南東アジア ブルネイ・ダルサラーム国、カンボジア王 国、インドネシア共和国、ラオス人民民主 共和国、マレーシア、ミャンマー連邦、フィ リピン共和国、シンガポール共和国、タイ 王国、東ティモール民主共和国、ベトナム 社会主義共和国 西アジア アルメニア共和国、アゼルバイジャン共和 国、バーレーン王国、キプロス共和国、グ ルジア、イラク共和国、イスラエル国、ヨ ルダン・ハシミテ王国、クウェート国、レ バノン共和国、パレスチナ自治区、オマー ン国、カタール国、サウジアラビア王国、 シリア・アラブ共和国、トルコ共和国、ア ラブ首長国連邦、イエメン共和国 ヨーロッパ 東ヨーロッパ(東欧) ベラルーシ共和国、ブルガリア共和国、チェ コ共和国、ハンガリー共和国、ポーランド 共和国、モルドバ共和国、ルーマニア、ロ シア連邦、スロバキア共和国、ウクライナ 北ヨーロッパ(北欧) チャネル諸島、デンマーク王国、エストニ ア共和国、フィンランド共和国、アイスラ ンド共和国、アイルランド、ラトビア共和 国、リトアニア共和国、ノルウェー王国、 スウェーデン王国、グレートブリテン・北 アイルランド連合王国(英国) 南ヨーロッパ(南欧) アルバ島ニア共和国、ボスニア・ヘルツェ ゴビナ、クロアチア共和国、ギリシャ共和 国、イタリア共和国、マルタ共和国、モン テネグロ共和国、ポルトガル共和国、セル ビア共和国、スロベニア共和国、スペイン、 マケドニア旧ユーゴスラビア共和国 西ヨーロッパ オーストリア共和国、ベルギー王国、フラ ンス共和国、ドイツ連邦共和国、ルクセン ブルク大公国、オランダ王国、スイス連邦 77 付録 付録 3 2008 年時点の、WHO 地域区分による安全でない中絶件数 ラテン・アメリカとカリブ海地域 カリブ海地域 アルバ島、バハマ国、バルバドス、キュー バ共和国、ドミニカ国、ドミニカ共和国、 グレナダ、グアドループ島、ハイチ共和国、 ジャマイカ、マルチニーク島、オランダ領 アンティル、プエルトリコ、セントルシア、 セントビンセント・グレナディーン諸島、 トリニダード・トバゴ共和国、アメリカ領 バージン諸島 中央アメリカ ベリーズ、コスタリカ共和国、エルサルバ ドル共和国、グアテマラ共和国、ホンジュ ラス共和国、メキシコ合衆国、ニカラグア 共和国、パナマ共和国 南アメリカ アルゼンチン共和国、ボリビア共和国、ブ ラジル連邦共和国、チリ共和国、コロンビ ア共和国、エクアドル共和国、フランス領 ギアナ、ガイアナ協同共和国、パラグアイ 共和国、ペルー共和国、スリナム共和国、 ウルグアイ東方共和国、ベネズエラ・ボリ バル共和国 北アメリカ カナダ、アメリカ合衆国 オセアニア オーストラリア連邦とニュージーランド オーストラリア連邦、ニュージーランド メラネシア フィジー諸島共和国、ニューカレドニア、 パプアニューギニア独立国、ソロモン諸島、 バヌアツ共和国 ミクロネシア グアム、ミクロネシア連邦 ポリネシア フランス領ポリネシア、サモア独立国、ト ンガ王国 78 と安全でない中絶に関連する死亡の推定 表A3.1 2008年のWHO地域区分、所得水準による安全でない中絶件数の推算 全加盟国 低所得 低中間所得 高中間所得 高所得 アフリカ地域 低所得 低中間所得 高中間所得 東南アジア地域 低所得 低中間所得 北米・中南米 低所得 低中間所得 高中間所得 高所得 ヨーロッパ地域 低所得 低中間所得 高中間所得 高所得 東地中海地域 低所得 低中間所得 高中間所得 高所得 西大西洋地域 低所得 低中間所得 高中間所得 高所得 15∼44歳の女性 100件の生児出産数に 安全でない中絶の件数 1000人における (四捨五入した数値) 対する安全でない 安全でない中絶の割合 表注a 中絶の比率 21 500 000 14 16 12 270 000 21 17 6 770 000 11 16 2 380 000 17 25 110 000 1 1 5 370 000 30 18 4 970 000 33 18 250 000 18 16 150 000 11 12 7 420 000 18 19 5 260 000 16 16 2 150 000 28 39 4 230 000 20 27 60 000 16 15 2 430 000 29 37 1 730 000 35 45 b b 500 500 000 3 5 45 000 4 5 150 000 5 8 300 000 5 8 b b b 3 240 000 1 800 000 1 260 000 75 000 110 000 790 000 130 000 530 000 130 000 1000 24 29 20 23 15 2 4 2 20 20 20 21 27 15 3 6 3 23 b b 表注a 数値は四捨五入されているため総数と必ずしも一致しません。 表注b 安全でない中絶の件数がごくわずかな地域については推定値が出されていません。 79 付録 付録 4 WHO 区分の地域と加盟国 表A3.2 2008年のWHO地域区分、所得水準による安全でない中絶による 死亡率の推定 全加盟国 低所得 低中間所得 高中間所得 高所得 アフリカ地域 低所得 低中間所得 高中間所得 東南アジア地域 低所得 低中間所得 北米・中南米 低所得 低中間所得 高中間所得 高所得 ヨーロッパ地域 低所得 低中間所得 高中間所得 高所得 東地中海地域 低所得 低中間所得 高中間所得 高所得 西大西洋地域 低所得 低中間所得 高中間所得 高所得 安全でない中絶による 10万件の生児出産数に 妊産婦死亡に 妊産婦死亡の件数 対する安全でない中絶 占める安全でない 中絶による死亡 (四捨五入した数値) による妊産婦死亡 の割合 表注a (四捨五入した数値) 47 000 43 000 2700 900 100 26 300 25 500 400 400 1100 100 600 400 30 60 6 10 1 90 90 30 40 7 20 9 9 b b b 11 600 10 400 1200 150 10 50 90 30 30 20 1 2 3 2 30 32 22 7 3 9 9 b b b 7100 6800 200 30 10 680 300 200 20 100 40 70 3 10 2 3 10 1 4 7 14 14 5 26 9 3 14 1 4 7 表注a 数値は四捨五入されているため総数と必ずしも一致しません 表注b 安全でない中絶の件数がごくわずかな地域については推定値が出されていません。 表示されている数字は四捨五入した数値です。棒グラフは分数を含む数値を示しています。 80 13 14 8 10 8 14 14 7 9 10 11 11 12 アフリカ地域 アルジェリア民主人民共和国、 アンゴラ共和国、 ベナン共和国、ボツワナ共和国、ブルキナファ ソ、ブルンジ共和国、カメルーン共和国、カー ボベルデ共和国、中央アフリカ共和国、チャド 共和国、コモロ連合、コンゴ共和国、コートジ ボワール共和国、コンゴ民主共和国、赤道ギニ ア共和国、エリトリア国、エチオピア連邦民主 共和国、ガボン共和国、ガンビア共和国、ガー ナ共和国、ギニア共和国、ギニアビサウ共和国、 ケニア共和国、レソト王国、リベリア共和国、 マダガスカル共和国、マラウイ共和国、マリ共 和国、モーリタニア・イスラム共和国、モーリ シャス共和国、モザンビーク共和国、ナミビア 共和国、ニジェール共和国、ナイジェリア連邦 共和国、ルワンダ共和国、サントメ・プリンシ ペ民主共和国、セネガル共和国、セーシェル共 和国、シエラレオネ共和国、南アフリカ共和国、 スワジランド王国、トーゴ共和国、ウガンダ共 和国、タンザニア連合共和国、ザンビア共和国、 ジンバブエ共和国 アメリカ地域 アンティグア・バーブーダ、アルゼンチン共和 国、バハマ国、バルバドス、ベリーズ、ボリビ ア共和国、ブラジル連邦共和国、カナダ、チリ 共和国、コロンビア共和国、コスタリカ共和国、 キューバ共和国、ドミニカ国、ドミニカ共和国、 エクアドル共和国、エルサルバドル共和国、グ レナダ、グアテマラ共和国、ガイアナ協同共和 国、ハイチ共和国、ホンジュラス共和国、ジャ マイカ、メキシコ合衆国、ニカラグア共和国、 パナマ共和国、パラグアイ共和国、ペルー共和 国、セントキッツ・ネービス、セントルシア、 セントビンセント・グレナディーン諸島、スリ ナム共和国、トリニダード・トバゴ共和国、ア メリカ合衆国、ウルグアイ東方共和国、ベネズ エラ・ボリバル共和国 東南アジア地域 バングラデシュ人民共和国、ブータン王国、朝 鮮民主主義人民共和国、東ティモール民主共和 国、インド、インドネシア共和国、モルディブ 共和国、ミャンマー連邦、ネパール、スリラン カ民主社会主義共和国、タイ王国 ヨーロッパ地域 アルバ島ニア共和国、アンドラ公国、アルメニ ア共和国、オーストリア共和国、アゼルバイ ジャン共和国、ベラルーシ共和国、ベルギー王 国、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア共 和国、クロアチア共和国、キプロス共和国、チェ コ共和国、デンマーク王国、フィンランド共和 国、フランス共和国、グルジア、ドイツ連邦共 和国、ギリシャ共和国、ハンガリー共和国、ア イスランド共和国、アイルランド、イスラエル 国、イタリア共和国、カザフスタン共和国、キ ルギス共和国、ラトビア共和国、リトアニア共 和国、ルクセンブルク大公国、マルタ共和国、 モナコ公国、オランダ王国、ノルウェー王国、 ポーランド共和国、ポルトガル共和国、モルド バ共和国、モンテネグロ共和国、セルビア共和 国、ルーマニア、ロシア連邦、サンマリノ共和 国、スロバキア共和国、スロベニア共和国、ス ペイン、スウェーデン王国、スイス連邦、タジ キスタン共和国、マケドニア旧ユーゴスラビア 共和国、トルコ共和国、トルクメニスタン、ウ クライナ、グレートブリテン・北アイルランド 連合王国(英国) 、ウズベキスタン共和国 東地中海地域 アフガニスタン・イスラム共和国、バーレーン 王国、ジブチ共和国、エジプト・アラブ共和国、 イラン・イスラム共和国、イラク共和国、ヨル ダン・ハシミテ王国、クウェート国、レバノン 共和国、 大リビア・アラブ社会主義人民ジャマー ヒリーヤ国、モロッコ王国、オマーン国、パキ スタン・イスラム共和国、カタール国、サウジ アラビア王国、ソマリア民主共和国、スーダン 共和国、シリア・アラブ共和国、チュニジア共 和国、アラブ首長国連邦、イエメン共和国 西太平洋地域 オーストラリア連邦、ブルネイ・ダルサラーム 国、カンボジア王国、中華人民共和国(中国) 、 クック諸島、フィジー諸島共和国、日本、キリ バス共和国、ラオス人民民主共和国、マレーシ ア、マーシャル諸島共和国、ミクロネシア連邦、 モンゴル国、ナウル共和国、ニュージーランド、 ニウエ、パラオ共和国、パプアニューギニア 独立国、フィリピン共和国、大韓民国(韓国) 、 サモア独立国、シンガポール共和国、ソロモン 諸島、トンガ王国、バヌアツ共和国、ベトナム 社会主義共和国 81 あとがき や 「女性 2000 年会議」 「北京+5」 ( ) でも宗教勢力の抵抗が強まり、 リプロダクティブ・ 女たちが生きのびられるために 世界ができること ヘルス/ライツを女性の権利として確認することには成功しましたが、 「女性 2000 年会議」 では妊娠中絶の権利を完全に合意することはできませんでした。合州国では、 ブッシュ政権は、レーガン政権の際に導入されたグローバル・ギャグ・ルール(合州 すぺーすアライズ 麻鳥澄江 鈴木ふみ 国の資金援助を受けている世界中の組織・団体に対し、自己資金であっても妊娠中絶 に関する情報やサービス、ケアを提供することを認めず、妊娠中絶について話し合う この本を手にとっていただき、ありがとうございます。 ことも安全でない妊娠中絶を批判することも禁止するというルール)を復活させ、前 述の国際人口開発会議の行動計画や北京行動綱領の妊娠中絶の条項を制限する修正を この頁を読んでいただいているこの瞬間にも、世界中で 3 分間に 2 人の女性が、 試み、それらの女性の健康と人権について後ろ向きな政策方針によって、後退させら 妊娠・出産に関連した原因で死亡(妊産婦死亡)し続けています。その中で、安全な れました。合州国をはじめとする高所得国いわゆる先進国での、保守派の支持を集め 人工妊娠中絶ができる環境にいないために 5 分に 1 人の女性が死亡し続けています。 るために女性の命や健康を犠牲にすることが政争の具とされることにより、国内の貧 そして、彼女たちの死のほとんど全ては、防ぐことができるものです。女性が人とし 困者や国外の多くの貧しい女性たちの犠牲にされているのです。 て生きることが軽視され、 時には法律によって否定される現状に対して、 従来の 「保健」 という枠組みだけではなく、 明確に「人権」という視点を打ち立てる必要があります。 妊産婦死亡の是正のための道のり 1948 年の国連の世界人権宣言では、生命・身体の安全の権利が謳われ、プライバ 82 シーの権利も国際合意として認められました。生命への権利は「市民的及び政治的権 防ぐことが可能であるのに不当にも高い妊産婦死亡率に対して、25 年も前の 利に関する国際規約」 (自由権規約)6 条でも確認されています。健康への権利は社 1987 年には、 国際機関が集まり「Safe Motherhood Initiative」が開始されました。 会権規約 12 条などで保障され、妊産婦死亡率を低下させるための対策を各国政府に その後、1994 年の国際人口開発会議の行動計画第 8 章では、妊産婦の罹病率と死亡 求めています。しかし、この「女性が生きる」という当然の人権の享受は長い間障壁 率の急速かつ大幅な引下げ、先進国と途上国の格差の是正、安全でない妊娠中絶によ に囲まれ続けてきました。多くの政府や資金提供者が、妊産婦死亡、とくに女性たち る死亡と罹病の大幅な削減が公約されました。また、2000 年を記念して合意された が「安全な妊娠中絶」にアクセスできないという根深い課題を軽視してきたこともそ 国連の「ミレニアム開発目標」では、世界の貧困解決のために 2015 年までに世界が の原因になってきました。 達成を目指す 8 つの目標とその目標を達成するためのターゲットと指標を定めまし そればかりか、女性の生命や健康への権利を奪う流れさえも存在します。そのひと た。その 8 つの目標の一つに 「妊産婦の健康改善」 が掲げられており、 具体的には 「2015 つに、女性の、人間としての尊厳を否定し固定的役割を押し付ける国際政治の流れと、 年までに妊産婦の死亡率を 1990 年の水準から 4 分の 3 減少させる」ことが掲げら 人権に配慮を欠いた新自由主義・グローバリゼーションの流れがあります。1980 年 れました。 代には、世界的な構造調整政策の押し付けによって、多くの開発途上国の医療・保健 しかし、妊娠・出産を原因として死亡する妊産婦死亡率はこの 25 年間、ほとんど システムが、過重な対外債務の犠牲になって崩壊してしまいました。また、1994 年 下がらず、妊娠・出産を原因とする合併症はその何十倍にも上ります。国連の統計に には国際人口開発会議(カイロ会議)での行動計画が採択され、女性の性と生殖の よると、アフガニスタンでは 6 人に 1 人の女性が妊娠・出産が原因で死亡している 健康 / 権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、Reproductive Health / Rights) のに対して、スウェーデンでの死亡は約 3 万人に 1 人という、貧富による大きな格 が国際社会の合意となったにもかかわらず、一部の宗教原理主義勢力の抵抗にあいま 差があります。しかも、妊産婦死亡の大半がいわゆる開発途上国で起きており、低所 した。その後の 1995 年第 4 回世界女性会議(北京会議、 「北京行動綱領」を採択) 得国ではこの 20 年の間に妊産婦死亡率の改善がほとんどなく、悪化した国もありま 83 す。 途上国で妊娠することは棺桶の蓋を自分で開けてしまったようなものだと語られ、 用できることから、その被害は貧困層に集中しがちです。その背景には、宗教上層部 女性は生きる価値が低いと見られていることが、この不公正の原因といえます。この の価値観の押し付けと、多くの人たちがこのような押し付けが女性の生命・身体を侵 不正義を放置することはできません。人権に普遍性がある以上、文化や宗教を口実に 害すること見抜いていても反対できないという支配構造が存在します。ある新聞は、 することは許されないことです。人を死なせるものは文化や宗教とは呼べません。す ニカラグアの現状について、危険な妊娠をすれば、死か監獄行きかの究極の選択しか べての場所での妊産婦の健康改善を課題として、人権という視点で明確にしていくべ ないと表現しました。これとは逆に、妊娠中絶を合法化した南アフリカ共和国では妊 きです。 産婦死亡数が大幅に減少しました(本文7章参照) 。こうした事実を背景に、女性の 妊産婦死亡を防ぐという課題を解くには大きな、政治的意思と継続的な力が必要で 人権の視点からの法改革を推進する必要があります。 す。妊産婦の健康増進のためには医療・保健システムの強化も必要ですが、まず、妊 安全な中絶へのアクセスを実現するということは、 「安全でない妊娠中絶」による 産婦の死亡は当たり前という考え方を変えることです。男性パートナーが女性を病院 妊産婦死亡や障がいを減らすだけではありません。その実現のための 1999 年国際人 に行かせない、女性が医療機関を利用する余裕がないなどという現実が、世界のあち 口開発会議 +5(カイロ +5)で強調された保健人材の育成・確保、 保健システムの強化、 こちにあります。妊産婦死亡は妊娠する女性にしか起こり得ないのであり、これを放 ジェンダー不平等の是正、人権保障を同時に達成することになるので、必然的に妊産 置することは明らかな女性差別です。女性の教育も女性の労働環境の整備も必要不可 婦死亡が大幅に減っていくものなのです。つまり、安全な中絶へのアクセスを保障す 欠なものです。それらの改善は全ての女性に向けられるものです。各国や国際機関が、 ることは、女性の人権を保障し、国連ミレニアム開発目標達成への早道でもあります。 したい支援や短期的な成果が見えることだけをしていたのでは、根本的な解決につな 妊娠中絶は、女性にとって精神的・肉体的負担も大きいものです。妊娠中絶が合法 がりません。女性差別社会という社会の根本を変えることに手つけない限り、大きな とされ、安全な妊娠中絶にアクセスできることは大切なことです。そして、妊産婦死 進歩はありえないのです。すべての女性が、貧困、暴力、固定的役割分担から解放さ 亡を減らしていくには望まない妊娠を防ぐことがもっとも効果的です。避妊を利用す れ、尊厳を保てる社会を創ることこそ私たちすべてが目指すべきことです。 る「家族計画」は費用が小さく効果が大きいものであり、ミレニアム開発目標の改訂 また、妊産婦の健康は、平和問題とも関連します。紛争下、紛争後に性暴力が起き 版では「2015 年までにリプロダクティブ・ヘルスへの普遍的アクセスを実現する」 やすく、性暴力は、望まない妊娠を引き起こします。また、妊産婦死亡を予防するた ことが目標に加えられました(開発目標 5b) 。しかし、その「家族計画」にさえ、特 めの家族計画、医療サービス、専門者の訓練には費用がかかりますが、多くの政府が 定の宗教的または道徳的立場から制限をしようという反動が存在します。2007 年に 投入する軍事費予算を削減すれば、その大半がまかなえます。100 万米ドル分の避 はローマ・カトリック教会の一派の影響により世界銀行の「健康・栄養・人口に関す 妊具の予算が減少すれば、妊娠中絶が 15 万件、妊産婦死亡が 800 件増加してしま る戦略」から家族計画、リプロダクティブ・ヘルスという言葉が削除されそうになる う現実を私たちは知る必要があります。 という危機もありました。そもそも、途上国では、旧宗主国の影響で中絶に対して厳 しい法律が導入され、その後、旧宗主国は次々と女性の人権の視点から中絶を合法化 安全な妊娠中絶を実現するために していったのですが、中絶の合法化を政治的影響力、宗教的影響力で、途上国に迫る ことは歴史的な不公正なのです。 84 法律の範囲内での妊娠中絶のアクセス、つまり情報や手段などを本人が利用できる 1994 年の国際人口開発会議では、リプロダクティブ・ヘルス / ライツが、国際合 こと、を保障することは当然の前提であり、国際人口開発会議の行動計画でも確認さ 意とされています。女性の身体についての決定権、自律性を、自分の生と性を、女性 れています。しかし、2006 年、ニカラグアでは、妊娠継続が女性の生命を脅かす場 の手に、という当然のことを世界が再確認したのでした。これは性と生殖の健康 / 権 合も含めて全面的に妊娠中絶を禁止し、妊娠中絶を重罰の対象とする法律改悪がされ 利と翻訳されることが多いのですが、 「女(わたし)のからだは私のもの」と日本の ました。安全な妊娠中絶が保障されていない国では、富裕層は国外での妊娠中絶を利 女性運動は翻訳しています。世界は、反動と闘っており、このリプロダクティブ・ヘ 85 ルスの重要性と普遍性を再認識するためにも、この冊子が翻訳されました。 した。優生保護法は、優生的理由だけでなく、経済的理由による中絶を合法としてい ますが、1970 年代、80 年代には、この経済条項を削除する動きがあり、これに対 国際社会と日本の状況 して女性運動、家族計画推進団体等から反対があり、改悪が阻止されました。カイロ での国際人口開発会議を受けて優生保護法を改訂した母体保護法においても経済的理 (1)日本は無関係ではない 由を原因とする妊娠中絶は合法扱いとされるものの、純粋に女性の意思だけでは妊娠 女性の身体が、国家に支配され、男性に支配され、医療機関など専門者に支配され、 中絶が認められず、妊娠中絶のためには配偶者などの同意さえ原則として必要とされ その結果、女性が自分の生命、身体、健康への権利が軽視されていることは途上国だ ています。女性の人権、とりわけ、リプロダクティブ・ライツを基準にした法律策定 けでの状況ではなく、多くの先進国にも共通することです。問題が見えにくいのは、 を求める声は、女性運動の中だけでなく、政党の中にもありましたが、未だ実現して そのしわ寄せが、社会の中心からはじき出された女性たちに集中するからです。貧し いません。 「妊娠中絶」については、いろいろな考えがあるでしょう。それを含めて、 い女性、暴力被害に遭っている女性、若い女性、外国人女性などです。日本でも、人 戸惑い、悩み、悲しむのは妊娠した女性です。妊娠の原因を作った男性は妊娠中絶の 工妊娠中絶によって処罰される件数は、今でこそ少ないものの、社会の中心からはじ 苦しみを味わうことがない上、女性だけが処罰されるのは、ずいぶんと不公平なこと き出された女性たちは、危険な中絶や中絶による処罰に晒される危機に日々直面して です。家族計画の普及によって望まない妊娠を防ぐことはできますが、望まない妊娠 いるのです。 を完全になくすことはできず、中絶は不可欠な手段であり、処罰の対象とすることは 日本では、経済成長に伴って医療水準が高くなったことや医療保健関係者の努力な 許されないのです。 どによって、現在の妊産婦死亡率は出生 10 万件当たり 6 程度です。しかし、アメリ 86 カ合州国の妊産婦死亡率が増加傾向にあり、この傾向は日本にとって対岸の火事では いまやヨーロッパの多くの国々などでは女性の希望のみで妊娠中絶ができるよう ありません。日本でも、検診段階からの産科システムの崩壊、地域格差、障がい者や 法改正ができています。女性差別撤廃条約 2 条 g は女性差別になる刑罰規定の廃止 外国人への医療現場での差別、そしてそれに追い討ちをかける女性に固定的な役割を を政府に求めており、北京行動綱領 106-k 及び「女性 2000 年会議」成果文書は、 押し付ける一部の反対勢力の動きが起きています。妊娠した女性が複数の病院から受 違法な妊娠中絶を受けた女性に対する懲罰措置を含む法律の見直しを求めており、 け入れ拒否をされたことは、日本国内で起きたことです。 1999 年の女性差別撤廃委員会の「女性と健康に関する一般勧告」14 段落は、 「女性 ご存知のように、日本には、堕胎罪(刑法 212 条以下)が 100 年以上も変わらず のみが必要とする医療手続きを犯罪とすること」は適切な医療へのアクセスの妨害で 存在しています。この犯罪規定が残っている限り、中絶が悪いことであり、処罰され あると非難しています。これらに明らかに反する日本での堕胎罪の存在は、国際的な るべき行為であるという価値観が政府から押し付けられたままです。堕胎罪は、明治 人権標準からも遅れをとっています。もちろん非犯罪化だけが最終目的ではありませ 時代に、富国強兵に基づく出産奨励や、 「処女や寡婦の隠れた行為の結果」を統制す んが、刑罰の対象とする条項が存在する以上、安全な妊娠中絶へのアクセスの障壁に るため規定されたものですが、個人の尊厳と男女平等を謳った日本国憲法が制定され なっています。 ても廃止されませんでした。 戦後の混乱と貧困の中で、 中絶を容認せざるを得なくなっ 日本では妊娠の過半数が望まない妊娠です。日本では避妊実行率が(欧米が 7 割 た際、 優生思想と人口政策を利用した苦肉の策として優生保護法が制定されましたが、 であるのに対して)約 5 割に過ぎませんが、毎回使用する割合は 3 割程度であり、 これは女性の性と生殖についての人権を認めたものではなく、堕胎罪は残ったままで 避妊失敗率も 1 割を超えています。性道徳の押し付けや性教育の制限によって、若 あり、優生思想に従った場合に犯罪とされないという人権しての根拠に乏しいもので い女性などの中絶情報やアクセスが困難になりつつあります。婚姻した夫婦で、夫が した。確かに、優生保護法の制定によって中絶について処罰されない範囲は拡大した 避妊に協力しないことはまれではなく、これはれっきとした「暴力」です。さらに夫 時期は、世界の中でも早かったのですが、人権先進国としての改正ではありませんで による強姦については、夫には性交を要求する権利があるとして、婚姻関係が破綻し 87 ている場合にのみに強姦罪が成立するに過ぎないとした時代遅れの判例が存在してい 政治や保健のシステム、社会状況、とりわけジェンダーに基づく差別状況に合わせた ますが、夫による性暴力は、1993 年の国連「女性に対する暴力撤廃宣言」や「北京 ものではありませんでした。また北欧・中欧諸国等とは異なり、日本の ODA・国際 行動綱領」を持ち出すまでもなく女性に対する暴力であり、はなはだしい人権侵害で 協力政策は国益を重視し、憲法前文に示された、 「全世界の国民が、ひとしく恐怖と す。 「夫からの強姦」 を処罰するよう世界の潮流は動き出しています。 日本でも男性パー 欠乏から免かれる権利を有することを確認し、自国のみに専念して他国を無視しては トナーからの性行為の強要の体験がある女性が約 2 割に上る現状からも、さらに妊 ならない」という精神とは著しくかけ離れています。かつては、 途上国の「人口爆発」 娠中絶については思春期の女性の課題が注目されやすいが実際には 30 歳前後での女 から日本の贅沢な生活を守るために、途上国の人口抑制を副作用や女性の意思に反し 性の妊娠中絶件数が多いことからも、日本の判例は非常識です。避妊の失敗と、あっ た避妊への普及のために多額の資金拠出をしました。 てはならないことですが性暴力の被害者対応として、緊急避妊の普及も必要です。 2010 年 9 月に、日本政府から国際保健政策、いわゆる「菅コミットメント」が発 表されました。EMBRACE モデルと称していますが、妊娠してから出産、新生児、 (2) 日本の国際協力のあり方 乳幼児へのケアの連続性は、日本政府が主張するまでもなく、国際的に認識されてい このような日本国内の状況から、 この分野での国際協力も相当な改善をしない限り、 ましたが、本書の WHO の報告書で登場する、 「安全な中絶」については政策の対象 現場での賢明な努力にもかかわらず限界があることになります。振り返れば 1970 年 から意識的に除外をしており、さらに、家族計画やその前提となるジェンダー平等の 代、日本は途上国の人口を減らすことに他の先進国に負けじと大量の資金を投入し 位置づけもきちんとしていません。家族計画についてはわずかに 3 回登場するもの ました。それが日本の国益にかなうとされ、その結果、途上国では多くの女性たち の、政策の中での中心的役割は占めておらず、その位置づけが不明確であり、また「安 が、強制的に、または物などと引き換えに、意思に反して産むことを奪われ、健康被 全な中絶」については言葉さえ登場しません。国際社会においてミレニアム開発目標 害を被った歴史があります。リプロダクティブ・ヘルス / ライツが国際合意となった (MDGs)の 2015 年までの達成に向けた努力が続けられていますが,特に保健分野 1994 年以降は、女性の個人としての選択や意思を起点にすべきだと発想が転換され (MDGs4,5,6)の進捗が遅れているとの認識のもと、2011 年 9 月に日本政府は たはずですが、それ以降も、日本の国際協力が完全に女性の選択の視点に立っている 外務省国際協力局内に国際保健政策室を新たに設置しました。しかし、不明瞭な方針 かどうかは大いに疑問が残ります。日本国内で実践できていないことは、海外支援で のもとで保健分野のミレニアム開発目標を実現できるのでしょうか。せめてこの実現 やれないという現況です。人口の半分を占める女性の健康を重要視する改善が求めら を公約どおりに果たしてほしいものですが、2010 年度予算では、他の国連機関等に れます。 対する拠出額の総計が対前年度比 8 パーセント程度の削減となった中で、国際連合 女性が援助されることに抵抗を感じる男性指導者も多いのが現実であり、国家とし 人口基金及び国際家族計画連盟への拠出が対前年度比約 23 パーセント減となってい ての統率力を維持するために宗教的権威を利用し、女性の役割や行動の制限を規定す ます。 る国もある国際社会で、このような強固な男性優位の社会構造にメスを入れていく視 国内の政府認識が、 いかに直接に国際協力の方針に反映されているかがわかります。 点や発言が日本政府に必要です。すべての人々に生きる価値があります。世界中の女 少子化対策のため、妊娠・出産は公費助成でほどほどの支援がされるものの、避妊・ 性の身に起きている重要な人権課題について、理解が広まり、ともに取り組むよう日 中絶は自己責任と自腹とされています。家族計画の普及が不充分であり、中絶につい 本政府に期待します。 ては犯罪としつつ官許にゆだねるという枠組みをくずさず、一部の女性の犠牲と沈黙 のもとに国内の問題は顕在化しにくいままです。かつてアメリカ合州国では、国内の 88 日本の ODA・国際協力政策は、母子手帳の普及などが特徴的で、母子保健政策を 貧困女性を苦しめたリプロダクティブ・ヘルス/ライツに否定的な国内動向が、国際 重視しているという印象がありますが、実のところ、母子保健全体について「必要 協力ではグローバル・ギャグ・ルールとして国外の女性たちを苦しめたように、日本 な援助」をしてきたわけではなく、 「したい援助」をしてきました。被援助国の実情、 でも、国内状況が、途上国の女性たちにも反映しているのです。国内状況とともに、 89 国際協力方針を変革する努力が求められているのです。 また、日本政府が国際保健政策(2011−2015)を発表した 2010 年 9 月には、国 ▶堕胎罪撤廃キャンペーンの事務局をしている、すぺーすアライズです。◀ 連事務総長パンギムン氏の名で、女性と子どもの健康のための世界戦略(Global 刑法には、堕胎、つまり人工妊娠中絶を1年以下の懲役に処する堕胎罪が 100 年 Strategy for Women's and Children's Health) が発表されました。 この世界戦略は、 以上前からあります。このような女性のみを処罰する刑罰規定は女性差別であり、北 多くの関係機関に開かれたプロセスで策定され、家族計画や安全な中絶サービスを含 京行動綱領では妊娠中絶をした女性を処罰する法律をなくすよう求められ、2009 年 む基本的な介入やサービスの包括的で統合化されたパッケージと、医療保健従事者の の国連・女性差別撤廃委員会からも堕胎罪の撤廃を要請されています。 確保や、保健サービスへのアクセスの障壁の除去を中心として、充分なリーダーシッ 堕胎罪とは別に、人工妊娠中絶を医療行為として合法とする要件を定めた母体保護 プとアカウンタビリティ(課せられた責任をしっかりとる実践と報告)の元に実現し 法では、中絶に、配偶者の同意を要求しています。費用は自己負担となっています。 ようとしているものです。 日本の政策はこの国連の政策を無視して作成されています。 妊娠中絶の処罰は、女性全体に対する差別を意味しますが、特に、困難な状況にお さらに、安全な中絶や家族計画の分野に限りませんが、日本政府の国際協力は人 かれた女性たちをさらに追い詰めます。 権の視点が圧倒的に欠如しています。国連では 1990 年代から権利・人権を国際協力 夫の暴力から逃れて身を隠しているのに、同居している当時に夫から無理やり性行 の原則とすべきことが強調されており、国連改革プログラム(1997) 、世界サミット 為をされて妊娠し、中絶したい場合に、夫から同意書をもらうことは難しく、大変に (2005) 、アクラ行動計画(2008) 、釜山・効果的開発協力のためのパートナーシッ 困ります。 プ(2011)でも人権の重視が強調されていますが、日本政策の国際協力についての また、ドメスティック・バイオレンスで避難中の女性や貧困状態にいる女性、仕事が 文書では「人権」という言葉が忌避される傾向にあります。 「したい援助」を手放さ ない女性などからは、 中絶費用を捻出できないという問題もよく耳にします。日本は、 ないことの表れであり、経済的国益に結びつかない援助に束縛されたくないという本 世界でも有数の中絶費用の高い国です。 音が見え隠れします。憲法前文に示された、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏か 2010 年 11 月に、交際相手からおろしてほしいとせまられ、病院の費用を親に借 ら免かれる権利を有すること、人権の普遍性、つまりどこに生まれたかによって生き りて迷惑をかけたくなかったため、個人輸入した薬物で中絶をした女性が堕胎罪に該 られるかどうかが異ならないことが実現されることが必要です。 当するとされて通報され、書類送検になる事件がありました。彼女の苦境に対して、 交際相手はおとがめなしです。この報道された事件は、一例に過ぎませんが、恋人か ら中絶を求められ、親に迷惑をかけられず、お金もなく、知識もないという社会的な 排除を受けやすい女性が堕胎罪の餌食にされやすいのです。また、若い女性はろくな 判断ができないという画一された、想像力のない観念も本件の送検の背景にはありそ うです。 日本の妊娠中絶には、配偶者の同意という壁、薬による中絶が許可されていないと いう壁、中絶=悪いことだ、避けるべしという教育・情報の壁、他の国々に比べて異 常に高い中絶費用などの障壁があります。 一度妊娠したら産むしかない、 子育ても産んだ女性のみが負担を負うという社会では、 中絶を規制しても少子化対策は進むはずがなく、リプロダクティブ・ライツや女性の 生き方選びが保障されている国ほど、女性の社会参加が進み、また少子化対策に効果 があると言われています。産めよ、増やせよ、として中絶を規制する政策は今や時代 90 91 遅れとなり、逆効果です。むしろ、先進国では女性の人権、とりわけ女性に対する社 ことを求めます。 会保障やリプロダクティブ・ヘルス/ライツを保障している国ほど、女性が希望する (4) 母体保護法の配偶者の同意の廃止を求めます。 人数(日本では 1.75 人)の子どもを産むことができています。 (5) リプロダクティブ・ヘルス/ライツの保障を実現するための包括的な法律の制 中絶の規制は、男女の役割分担や宗教観の問題ではなく、女性の貧困や女性に対す る暴力の課題であり、むしろ女性の社会参加を妨げる障壁であるという認識を共有で きればと思っています。 定を求めます。 (6) 人工妊娠中絶の方法について、薬剤作用による中絶、吸引法による中絶の積極 的導入をしてください。 (7) 中絶費用について、公費負担を含めた利用者の経済的負担軽減を求めます。 (8) その他、妊娠中絶のアクセスを疎外する要因を解消し、妊娠中絶サービスと情 ▶▶▶これらの背景 ▶▶▶ 報の提供(アクセス)を高め、妊娠中絶の利用者のプライバシーを確保し、社 会的偏見(スティグマ)を解消する措置を求めます。 1979 年 国連・女性差別撤廃条約 2 条gでは差別的刑罰法規の撤廃を、16 条c では女性が子どもの数や出産の間隔を決定する権利を明記 *(1)ドメスティック・バイオレンス事案における 1994 年 国際人口開発会議ではリプロダクティブ・ライツについて国際合意 配偶者の同意を不要とする運用の確立 1994 年 国連・女性差別撤廃委員会一般勧告 21(婚姻・家族関係における平等) ドメスティック・バイオレンスなど配偶者との関係が悪化している場合、特にさら において女性が子どもの数や出産の間隔を決定する権利の確認(21 項) なる暴力から逃れるため避難している場合に、この同意を得るための協議や連絡をす 1995 年 北京行動綱領は人工妊娠中絶を処罰する規定の撤廃を求める(106 項k) ることは現実的ではなく、同意を得ることが困難で精神的苦痛を感じる場合に、妊娠 1999 年 国連・女性差別撤廃委員会一般勧告 24(女性と健康)において中絶に対 中絶の時期を逸したり遅れることがあり、女性の健康と人権を侵害しています。これ する刑罰の廃止を政府に要求(31 項c) らの場合について、公的機関の発行する証明等を配偶者の同意に代えて、女性が希望 2000 年 現与党・民主党が堕胎罪の廃止を含む「避妊、不妊手術および人工妊娠中 する場合には人工妊娠中絶を利用できるようにすべきです。 絶に関して規定し、性と生殖に関する健康を守る教育に関する法律(案) 」 2009 年 国連・女性差別撤廃委員会から、堕胎罪の撤廃をするようにとの勧告 *(2)刑法堕胎罪の速やかな撤廃 2010 年 閣議決定された第 3 次男女共同参画基本計画に、堕胎罪の見直しを明記 刑法堕胎罪は、女性を差別する法律です。女性を差別する法律については、女性差 別撤廃条約において廃止を求めており、とくに刑罰を伴うものにはついては廃止を強 く求めています。また、日本政府は、国連女性差別撤廃委員会より差別的法規の是正 ▶▶▶政府への要望事項 ▶▶▶ *(1)から(8)をご覧ください。 が進まないことについては世論を口実にできないことが指摘されています。第3次男 女共同基本計画においては、 「多様な国民の意見を踏まえた上で検討」との記載がな (1) 即時に、ドメスティック・バイオレンスの被害者の妊娠中絶について、夫の同 92 されているが、女性差別的法規については、世論を口実にせず、政府が女性の人権を 意がなくても関係機関の証明があれば妊娠中絶できる運用を導入することを求 保護するという強い政治的意思により、端的に速やかな撤廃をすることが必要です。 めます。 特に、中絶の課題は当事者のスティグマがあるため中絶を必要としている当事者の発 (2) 刑法堕胎罪の速やかな撤廃を求めます。 言が困難である反面、女性の決定権を認めない人々の発言力が大きいため、とくに世 (3) 妊娠中絶の費用を賄うことが困難な女性に対する救済措置を速やかに導入する 論の考慮が人権の保障に反することになります。 93 刑法堕胎罪(すべての人工妊娠中絶をした女性及びこれに関与した施術者を処罰す *(5)リプロダクティブ・ヘルス/ライツの保障を るという構成要件になっている)については、2009 年 8 月の女性差別撤廃委員会の 実現するための包括的な法律の制定 総括所見で撤廃の勧告をされてから、少なくとも撤廃に向けた具体的な動きが国民に 1994 年の国際人口開発会議にて採択された「行動計画」にて、リプロダクティブ・ 示されていません。このような中、 (2009 年 6 月の中絶について)2010 年 11 月に ヘルス/ライツが明記されて以降、民間団体からもリプロダクティブ・ヘルス/ライ は自己堕胎罪で女性が書類送検されており、女性差別撤廃委員会の総括所見が各行政 ツの保障を求める法改正の提言がなされ、また、現与党・民主党においても「避妊、 機関に対して不徹底ではないのかとの危惧もあります。 不妊手術および人工妊娠中絶に関して規定し、性と生殖に関する健康を守る教育に関 する法律(案) 」 (2000)を作成する等されておりますが、制定に向けた動きはなか *(3)人工妊娠中絶の費用負担の軽減 なか進展していないようであり、改めて、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの保障 妊娠中絶の費用については妊娠した女性のみに負担させることは不平等であり、中 を実現するための包括的な法律の制定を求めます。 絶費用が高額(初期で10万円程度、中期では数十万円程度)ですが、このような高 なお、少子化対策の観点からリプロダクティブ・ヘルス/ライツの保障に反対する 額の費用設定は人工妊娠中絶についての女性のアクセスの妨害するものです。特に、 議論もあるようですが、 国家の人口政策のために個人の権利や健康を否定する政策は、 性暴力被害による妊娠の場合には、これを被害女性が負担するのは不公平であり、現 まさに 1994 年の国際人口開発会議で否定されたものであり、かつ、リプロダクティ 状では各都道府県警察が所定の要件を満たした場合のみほぼ 10 数万円を公費負担し ブ・ヘルス/ライツを保障している国ほど、少子化対策や女性の労働市場への参加に ていますが、各都道府県で基準が異なる上、中期中絶の費用はこれではカバーできず、 成功していることを付記します。 また、被害後に警察に赴きたくない被害者は、このような公費負担を利用できないで います。また、貧困状態にある女性や学生、DVによる避難中のため所持金が乏しい *(6)人工妊娠中絶の方法について 女性が特に中期中絶の費用を捻出するのは困難な状況にあります。妊娠中絶の費用を 人工妊娠中絶の方法については日本では初期中絶では掻爬が中心的手法となってい 賄うことが困難な者に対する救済措置を速やかに導入することを求めます。 ます。しかし、この方法では中絶をする女性の身体的・精神的・経済的負担が大きく、 世界保健機関の安全な中絶のガイドライン(http://whqlibdoc.who.int/publicatio *(4)母体保護法 14 条の配偶者の同意の廃止 ns/2003/9241590343.pdf)においても、初期中絶の方法として吸引法とメディカ 現行・母体保護法は、刑法堕胎罪に対する違法性阻却事由として人工妊娠中絶が合 ル・アボーション(薬剤による中絶)が推奨される方法として記載されています。メ 法となる要件を規定していますが、法文上、原則として中絶には配偶者の同意を求め ディカル・アボーションに利用されるミフェプリストン及びミソプロストールは世界 ています。かかる同意の要求は、女性差別撤廃条約一般的意見 24 及び社会権一般的 保健機関では不可欠な薬剤として記載されていますが、日本ではこれらの方法につい 意見 14 の 21 項、 同一般的意見 16 の 29 項に違反しています。 (1) 記載のドメスティッ て厚生労働省により認可(ミフェプレストンは未承認、ミソプロストールは承認適応 ク・バイオレンスや性暴力の場合だけでなく、パートナーが女性の健康に及ぼす影響 症外となっている)や普及が進められておらず、人工妊娠中絶についての女性のアク についての理解不足や誤解や、婚姻前の妊娠など配偶者の同意を得ることが困難な場 セスを妨害しています。早急に、人工妊娠中絶の方法を見直す必要があります。 合など、配偶者の同意を求めることは女性にとって必要な医療へのアクセスへの障壁 なお、厚生労働省は、ミフェプリストンについてその副作用の危険性を流布してい となっており、配偶者の同意の要件を廃止すべきです。 (2007 年 11 月の母性保護法 ますが、海外の事故報告例はミフェプリストンの誤使用に基づくものであり、ミフェ に対する日本医師会母体保護法等に関する検討委員会の答申もほぼ同旨) プリストンの個人輸入が事実上されている現状の下ではむしろミフェプリストンにつ いて正確な情報を周知し、必要があれば医療の管理下で運用するほうが危険を削減で きます。 94 95 *(7)中絶費用について、公費負担を含めた利用者の経済的負担の軽減 上記(3)記載の貧困者の中絶費用対策に限らず、中絶費用全般の経済的負担軽減 が必要です。妊娠中絶は女性のみに起きることであり、女性のみが負担することは不 合理です。諸外国では、 (6)記載のメディカル・アボーションの導入によって中絶 の費用が低下しており、日本での中絶費用は高額すぎるものになっています。また、 費用の支払においては、利用した女性のプライバシー保護が不可欠であることは当然 です。 *(8)人工妊娠中絶についての女性のアクセス障壁と スティグマ(社会的偏見)等の除去 上記の他、人工妊娠中絶についての女性のアクセスの阻害要因として、中絶は県の 指定医の認定によること、一部医療機関において未成年の場合には保護者の同意を求 めている運用があることがありますが、これらは、人工妊娠中絶についての女性のア クセスを妨害しています。また、中絶をはじめとする女性の健康についての情報やす べてのサービスへのアクセス、中絶を含む女性の健康についての教育について、女性 差別撤廃委員会の第 6 回日本報告に対する勧告 49、50 で指摘されていますが、こ 「すぺーすアライズ」は小さな NGO です。これまで女性の健康について れを実行に移していく必要があります。また、人工妊娠中絶についての情報及びサー の分野で活動してきました。女性の健康とは、女性の人生そのものの健康で ビスについての女性のアクセス並びに医療ケアについて、依然として中絶を利用した あるという認識で、日本政府も批准している「女性差別撤廃条約」の完全実 当事者女性に対する社会的偏見・スティグマが押し付けられており、政府はそのため 施を求めています。この本では統計が利用されていますが、ひとり一人の女 の対策を講じていないようですが、中絶についてのスティグマを除去するために積極 たちの実感する人生、自分のまるごとの人生を心地よく感じられるよう、何 的な措置を講じてください。 をすべきか考えながら活動をしています。日本語版の刊行にあたり、林しん こさん、東千順さん、廣瀬麻弥さん、ジョジョ企画の皆様の応援があってで ※ なお、生殖について、および生殖過程における障害を理由とする差別や障害者に きあがりました。そして、この「安全でない中絶」を手にとって日本や世界 対する人権侵害や排除について、日本では未解決の課題が多いのですが、紙面の関係 の女たちの状況を読み解く皆様に感謝します。 で、省略しました。 すぺーすアライズ 麻鳥澄江 鈴木ふみ 堕胎罪撤廃署名用紙申し込みは、 FAX 047-320-3553 まで。または、下記アドレスをプリントアウトしてご利用ください。 http://www12.ocn.ne.jp/~allies/space/dataizai-teppai-shomeiyoushi.pdf 96 97 安全でない中絶 全世界と各地域の安全でない中絶と 安全でない中絶による死亡の推計(2008 年現在) 第6版 20012 年 4 月 1 日発行 訳・発行 すぺーすアライズ デザイン・編集 つなかんぱにー 連絡先 272-0023 千葉県市川市南八幡4−5−20−5A アライズ総合法律事務所内 すぺーすアライズ 電話:047−376−6556 ファクシミリ:047−320−3553 [email protected] ホームページ:http://www12.ocn.ne.jp/~allies/ または、 〒 272-0023 千葉県市川市南八幡 4-5-20- 5A Tel 047-376-6556 Fax 047-320-3553 アライズ総合法律事務所内 すぺーすアライズ この報告書は、 安全でない中絶と安全でない中絶による2008年の死亡を推算して います。 2008年には全体で2,160万件(推算として2,080万件∼2,240万件の範囲)の 安全でない中絶が行われたと推定されています。2008年の安全でない中絶による 妊産婦死亡は47,000件と推定されます。報告書は、世界と各地域での15−44歳の 出産可能年齢の女性1,000人中の安全でない中絶の比率と、10 0 件の生 児出 産 に 対する安全でない中絶の割合を示しています。これらの数値は世界的、地域的レベル での安全でない中絶の問題の深刻さを表しています。 また報告書は、安全でない中絶の経時的傾向を検証し、最近になって安全な中絶 へのアクセスが高まった地域についても言及しています。 人工妊娠中絶への法的枠組、出生率の変遷、望まない妊娠、満たされない家族計画 へのニーズ、避妊実行率についての関連情報も提示しています。安全な中絶サービス や、安全でない中絶による合併症をわずらう女性たちへのケアに対する障壁について も、安全でない中絶が健康に及ぼす影響として論じています。 この報告書は1990年にWHO(世界保健機関)が初版に取り組み始めてから、 第6版となります。 英文内容についてのお問い合わせは以下にご連絡ください。 WHO(世界保健機関) 性と生殖に関する健康と研究部門 (Department of Reproductive Health and Research) Avenue Appia 20, CH-1211 Geneva 27 Switzerland Fax: +41 22 791 4171 Email: [email protected] www.who.int/reproductivehealth