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情報活動を基盤とした新しい金融経済教育

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情報活動を基盤とした新しい金融経済教育
2014 年 度
博士学位請求論文
情報活動を基盤とした新しい金融経済教育
名古屋大学大学院経済学研究科
指導教員
柳原
光芳(教授)
氏
奥田
真之
名
はしがき
近 年 ,金 融 関 連 の 消 費 者 被 害 件 数 が 依 然 高 い 状 態 に あ り ,1 件 あ た り の 被 害 金 額 も 高
額 化 し て い る 。国 民 生 活 セ ン タ ー に 寄 せ ら れ た 2013 年 度 の 相 談 で は ,第 5 位 に サ ラ 金・
フ リ ー ロ ー ン( 36,666 件 ),第 10 位 に は フ ァ ン ド 型 投 資 商 品( 17,216 件 )が 入 っ て い
る( 国 民 生 活 セ ン タ ー ,2014)。警 察 庁 に よ る と ,振 り 込 め 詐 欺 の 被 害 も 依 然 多 く ,そ
の 他 の 特 殊 詐 欺 を あ わ せ る と 約 487 億 円( 2013 年 度 )に も 上 っ て い る 。ま た イ ン タ ー
ネットによる通信販売やオンラインゲームを利用する子どもも多く,親のカードを無
断で使い何十万円もの買い物をしたという相談も見受けられる。これらオンラインゲ
ームに関する相談も急増している。ここで問題となるのは,子ども達がお金の価値を
よく理解していないことである。わが国では,子どもにお金の話をすることをタブー
視する傾向がみられるが,児童・生徒による消費行動が活発化し,インターネットの
普及や決済手段の多様化によって,お金やカードがより身近になった現代社会におい
て,子ども達に正しい金融経済の知識を教育することは極めて重要である。
このように増加傾向にある被害を防ぐために,金融経済教育の必要性が謳われ,消
費 者 教 育 推 進 の た め の 体 系 的 プ ロ グ ラ ム 研 究 会 は 2013 年 に「 金 融 教 育 」を「 消 費 者 教
育体系イメージマップ」
( 消 費 者 庁 ,2014)の 中 で 位 置 づ け ,金 融 経 済 教 育 推 進 会 議 は
2014 年 に「 金 融 リ テ ラ シ ー・マ ッ プ 」を 発 表 し て い る( 金 融 経 済 教 育 推 進 会 議 ,2014)。
しかし教育現場では,環境教育,情報教育,キャリア教育等,種々の新しい教育に対
応し切れず,金融経済教育を実践する時間を確保することも困難であるのが現状であ
る。また学校で行われている消費者教育や金融教育は,本来人間発達を目的としてい
るはずであるが,その視点よりも,その時点での問題を解決する,いわば対症療法的
な知識提供に重点を置きがちなものとなっている。しかしそれでは子ども達が学校教
育を終了した後,時代の変化によって発生する新しい金融トラブルに巻き込まれてし
まう恐れがある。
そこで,金融経済教育を実践するに際して,新しい視点として情報活動を基盤とし
た人間発達を促す視点を加えて,教材や授業方法を工夫することにより,学校教育終
了後も将来にわたって,時事刻々と変化する金融経済情勢の変化に,適切に対応でき
る能力を養うことができると考えた。
i
このような考えに基づき,本博士論文は,情報活動と人間発達の視点を組み込んだ
新しい金融経済教育理論を構築し,その理論を基盤として,金融経済教育に関わる 4
つ の 授 業 案 を 開 発 し ,合 計 1191 人 の 児 童・生 徒・学 生 に 対 し て 実 践 す る こ と で ,新 し
い金融経済教育の効果を明らかにしようとした。特に新しい理論を用いて授業実践を
行った点が本論文の最大の特徴である。全ての授業実践がうまくいった訳ではなく,
試行錯誤を交えたものとなったが,持てる力を尽くしたつもりである。
本論文の執筆にあたり,指導教員の柳原光芳教授には,大変お世話になり心から感
謝 申 し 上 げ ま す 。ご 指 導 し て 頂 け た の は 最 後 の 1 年 と い う 短 い 期 間 で は あ り ま し た が ,
そのような中,時間を割いて論文指導をして頂けましたことに,深く感謝致しており
ます。副指導教員である根本二郎教授,セミナー担当教員である中島英喜准教授には
多大なご教授を賜わりました。そして博士課程 2 年生まで主指導教員としてご指導頂
いた家森信善教授も常に温かい目で見守って下さいましたことに感謝申し上げる次第
です。最後に,岐阜大学の大藪千穂教授には金融経済教育の共同研究者として,常に
貴重なご助言と叱咤激励を賜り,親身にご指導頂いたことに深く感謝致します。
ii
目
第1章
次
金融経済教育の動向と実践に向けた課題
1. は じ め に
1
2. 諸 外 国 に お け る 金 融 経 済 教 育
2.1. OECD
3
3
2.2. 米 国
5
2.3. 英 国
9
3. わ が 国 に お け る 金 融 経 済 教 育
3.1. 経 済 教 育
10
11
3.2. 金 融 教 育 ・ 金 融 経 済 教 育
3.3. 投 資 教 育
12
15
3.4. 消 費 者 教 育
16
3.5. 学 習 指 導 要 領 で の 金 融 経 済 教 育
4. 本 研 究 の 位 置 づ け
5. 今 後 の 課 題
第2章
・・・・・・・・・・・・・・・1
17
18
20
新しい金融経済教育の構築・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24
1. は じ め に
24
2. 人 間 発 達 を 目 的 と し た 新 し い 金 融 経 済 教 育
3. 情 報 活 動 の 視 点
25
27
3.1. 情 報 活 動 を 基 盤 に 用 い た 既 存 研 究
3.2. 情 報 活 動 を 規 定 す る ア ン ケ ー ト の 作 成
4. 授 業 実 践 に 必 要 な 4 つ の 視 点
30
iii
28
29
第3章
新しい金融経済教育の実践 1.
大学生を対象とした金融経済教育・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34
1. は じ め に
34
2. 方 法
35
3. 結 果
36
3.1. 属 性
36
3.2.「 情 報 活 動 に 関 す る ア ン ケ ー ト 」 結 果
3.3.「 金 融 に 関 す る ア ン ケ ー ト 」 結 果
3.4. 講 義 案 の 作 成 及 び 講 義 実 践
39
3.5. 人 間 発 達 の 視 点 か ら の 分 析
40
36
37
3.6. 事 後 ア ン ケ ー ト に よ る 理 解 度 ・ 関 心 度 の 変 化
4. ま と め
41
42
第 4 章 新しい金融経済教育の実践 2.
小学生・中学生・高校生を対象とした金融経済教育・・・ 52
1. は じ め に
2. 方 法
52
52
2.1. 4 つ の 視 点 を 持 っ た 「 金 融 経 済 教 育 」
2.2. 授 業 案 と 分 析 方 法
3. 結 果
3.1. 属 性
53
54
54
3.2. 単 純 集 計 の 結 果
54
3.3. 情 報 活 動 グ ル ー プ 分 析
4. ま と め
56
58
iv
52
第 5 章 新しい金融経済教育の実践 3.
小学生を対象とした環境に配慮した金融経済教育・・・・・ 64
1. は じ め に
64
2. 分 析 方 法
64
2.1. 授 業 案 と 分 析 方 法
3. 結 果
64
67
3.1. 属 性
67
3.2. 単 純 集 計 の 結 果
68
3.3. 情 報 活 動 グ ル ー プ 分 析
4. ま と め
第6章
69
71
新しい金融経済教育の実践 4.
小学生・中学生・高校生・大学生を対象とした
「人生設計ゲーム」を用いた金融経済教育・・・・・・・・ 82
1. は じ め に
2. 方 法
82
83
2.1. 「 人 生 設 計 ゲ ー ム 」 の 開 発
83
2.2. 「 人 生 設 計 ゲ ー ム 」 を 用 い た 授 業 案 と 分 析 方 法
3. 結 果
85
87
3.1. 属 性
87
3.2. 単 純 集 計 の 結 果
87
3.3. 情 報 活 動 グ ル ー プ 分 析
4. ま と め
90
92
第 7 章 研究の要約と今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 107
1. 研 究 の 要 約
2. ま と め
3. 今 後 の 課 題
107
112
113
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117
v
第1章
1.
金融経済教育の動向と実践に向けた課題
はじめに
近年, わが国 を含 む先 進各国 におい て個 人の 金融リ テラシ ー 向 上を 目的と した 金 融
経済教育 に関 心が高 ま っている 。 こ の金融 リ テラシー とは ,狭義 で は金融商 品・ サー
ビスの理解であるが,広義では金融やその背景となる経済についての基礎知識と ,日々
の生活の 中で こうし た 基礎知識 に立 脚しつ つ 自立した 個人 として 判 断し意思 決定 する
能力と定義できる(Financial Literacy and Education Commission,2006 ; 金融経済
教育懇談会 ,2005)。
2008 年のリーマンショックは ,金融経済教育で先行してき た米国や英国において,
国民の金融リテラシー 不足を認識させ,教育体制の見直しを迫るに至っている。一方,
わが国で は金 融広報 中 央委員会 と金 融庁が 金 銭教育 や 投資 教育を 通 じて主導 的な 役割
を担ってきた。さらに ,2013 年には消費者教育推進のための体系的プログラム研究会
が「消費者教育体系イメージマップ」
(消費者庁,2014)で金融教育を位置づけ,2014
年には金 融経 済教育 推 進会議 が ,学 校教育 や 社会人 , 高齢 者にお け る 金融経 済教 育に
関する初の統一的なガ イドライン「金融リテラシー・マップ」
(金融経済教育推進会議,
2014)をそれぞれ公表し,金融経済教育が新たな段階に移行したと考えられる。
本章の 目的は ,本 博士 論文の 全体を 通し て行 われて いる金 融経 済教 育の実 践を 系 統
立てて進 めて いくた め に ,内外 の金 融経済 教 育の動向 を概 観する こ とにある 。そ れに
より,金 融経 済教育 を 実践する ため に必要 な 課題を明 らか に する 。 金融経済 教育 の動
向は,小池(2009)によるものが詳しいが ,それと 教育現場での実践とつなげて考察
したもの はな い。わ が 国の金融 経済 教育は , これまで 行政 が主と な って進め てき てお
り,学校 教育 での位 置 づけは , 家庭 科と社 会 科におい て , 別々に 実 施されて おり ,横
断的及び 継続 的な学 習 には なっ てい ない。 そ こで本章 では ,特に 行 政を中心 とし た金
融経済教 育の 動向 を 概 観し ,今 後, 金融経 済 教育 を教 育現 場で実 践 するのに 必要 な課
題につい て考 察する 。 生活に必 要な 金融や 背 景となる 基礎 的な経 済 知 識の習 得を 目的
とした教 育の 名称は , 実施する 主体 によっ て 異なる が ,わ が国で の 経緯を踏 まえ ,本
博士論文では「金融経済教育」とする。
-1-
金融経済教育が注目される背景には ,先進国に共通した 2 つの変化が要因として考
えられる 。 第 一に, 経 済上の変 化に ついて は ,近年, 経済 のグロ ー バル化 , 情報 通信
技術の進 展に 伴い , 欧 米が先行 する かたち で ,金融商 品・ サービ ス が高度化 かつ 多様
化してきた 点が重要である 。わが国においても,1996 年の橋本首相による金融システ
ム改革「日本版金融ビッグバン」以降約 10 年に及び,大幅な規制緩和が実行されてき
た。この 結果 ,銀行 , 証券会社 ,保 険会社 等 の業態の 垣根 を超え て , 多様な 金融 商品
が提供さ れる ように な ってきた 。金 融商品 が 多様化し ,金 融機関 の 業務範囲 が拡 大す
るなか, 消費 者がこ れ らのメリ ット を受け る ためには ,自 分にと っ て 本当に 必要 な商
品かどう かを 判断し 選 択する 能 力が 不可欠 で ある。つ まり ,基礎 的 な知識の 習得 と経
験によっ て , 金融リ テ ラシー を 身に 付け , 金 融商品に 対す る適合 性 を高めて いく こと
が求めら れる ように な ったので ある 。 また , インター ネッ トの急 速 な普及を 前提 とし
た情報通 信技 術の変 化 に伴い , 通信 販売の 増 加やクレ ジッ トカー ド による決 済な ど販
売形態や 決済 手段の 変 化をもた らし ており , 子ども達 や社 会人 , 高 齢者とい った 幅広
い年齢層を対象に,正しい金融経済の知識を教育すること が重要な課題となっている。
第二に ,社会 上の 変化 に つい ては , 特に 人口 構造の 変化 に 伴う 影響 が重要 である 。
わが国の みな らず , 程 度の差こ そあ れ先進 国 に共通す る問 題とし て , 少子化 や平 均寿
命の伸長 に伴 う人口 の 高齢化に よっ て ,定 年 退職後の 生活 の長期 化 , かつ社 会保 障財
源の脆弱 化が 深刻な 問 題となっ てい る。老 後 資金の柱 とな る年金 制 度も従来 の確 定給
付型のみ でな く ,確 定 拠出型 に 徐々 にシフ ト してきて いる 。これ に 伴い ,元 本割 れの
リスクの ある 金融商 品 を長期的 に運 用する 判 断を自己 責任 で行っ て いくのに 必要 な投
資教育が求められるようになった。
以上のような経済上・社会上の変化は,私たちの生活を大きく変えよ うとしている。
したがっ て, それら の 変化に対 応す るため に は,これ まで の金融 経 済教育の あり 方で
は十分と はい えない 。 そこでま ず, これま で の金融経 済教 育ある い はそれに 関わ る教
育が,こ れま でどの よ うに行わ れて きたの か ,その流 れに ついて 本 章では概 観す るこ
ととする。
本章の構成は以下の通りである。 第 2 節では,諸外国における金融経済教育の歴史
を OECD(Organization for Economic Cooperation and Development:経済協力開発
機構),米国,英国について概観する。第 3 節では,わが国の金融経済教育を「経済教
育」,「金融教育」,「投資教育」,「消費者教育」という 4 つの観点から整理する。それ
-2-
を踏まえ,第 4 節では ,本博士論文の位置づけを明確にし,第 5 節では, 今後の課題
について 金融 経済教 育 の主体 , 方法 ,内容 の 視点から 検討 し,そ の 解決方法 につ いて
考察する。
2.
諸外国における金融経済教育
本節では,世界各国での金融経済教育を主導してきた OECD の金融経済教育の動向,
そして先進的な取り組みを進めてきた米国と英国の金融経済教育の動向 を概観する。
2.1.
OECD
OECD(2005)は“financial education”を「金融消費者や投資家が金融商品や金融の
概念への 理解 度を深 め ,情報, 指示 や客観 的 な助言を 通じ て金融 の リスクと 機会 につ
いてよく 知り ,情報 に 基づく選 択を し ,ど こ に助けを 求め たらよ い のかを知 り , さら
に金融情 報を 改善す る ために他 の効 果的な 行 動がとれ るよ うにす る ための技 術と 自信
を養う過程」と定義している。
OECD 加盟国において金融経済教育の重要性が増している要因として ,OECD は,
①金融商 品の 複雑化 , ②金融商 品数 の増加 , ③ベビー ブー ムと平 均 寿命の伸 び , ④年
金協定の変更,⑤低レベルの金融リテラシーの 5 点をあげている。近年 ,金融商品が
複雑化し ,消 費者は 手 数料や金 利 , 期間に 関 する幅広 い選 択肢を も つ異なる タイ プの
金融商品 に対 応しな け ればなら なく なった 。 また ,金 融市 場の規 制 緩和や情 報 通 信に
要するコ スト 低減は , 特定のマ ーケ ットニ ー ズ に合わ せた 新商品 を 続々と生 み出 して
きた。さらに, OECD 加盟国の多く においては,第二次世界大戦後にベビーブームを
経験し,その第一世代の大量退職が 2010~15 年に到来している。第一世代の多くは出
産時期が 遅く ,少子 化 傾向にあ った ことか ら ,第二世 代は 第一世 代 に 比べて 格段 に人
口が少な い。 大量退 職 する第一 世代 を第二 世 代の少な い労 働者で 支 えなけれ ばな らな
いうえに ,平 均寿命 の 伸びによ って ,より 長 いサポー トが 必要と な るのであ る。 人口
の高齢化 は「 支払っ た お金で定 額の 年金が 受 けられる 」公 的年金 制 度を困難 な状 況に
追い込んだ ものとして 広く捉えられている。OECD 加盟国の年金システムは確定給付
から確定 拠出 に移行 し ており , 年金 支給の リ スクは支 給者 から労 働 者にシフ トし つつ
-3-
ある。最後に OECD 加盟国 での消費者の金融リテラシーは概して低く ,とりわけ教育
レベルが低い人々,マイノリティ(少数民族),低所得層での低さが顕著である。これ
らのこと が要 因とな っ て ,現在 ,金 融経済 教 育の必要 性が 高まっ て いると説 明し てい
る。
このような金融経済教育に対する社会的認識の高まりを受け ,OECD は,国際的な
情報共有 体制 や専門 家 間ネット ワー クの構 築 を目的と した 金融経 済 教育促進 プロ ジェ
クトを 2003 年に立ち上げ(OECD’s Financial Education Project),2005 年には,同
プロジェ クト の一環 と して ,主 要国 におけ る 金融経済 教育 の現状 に 関する調 査報 告書
を公表した(Improving Financial Literacy: Analysis of Issues and Policies,OECD,
2005)。これは,
「国際レベルで行われた,最初の主要な金融教育に関する研究」
(栗原,
2008 ;
OECD,2005)とされた。同じ 2005 年に,Recommendation on Principles and
Good Practices for Financial Education and Awareness (金融教育と理解のための指
針および 優れ た実践 に 関する勧 告 ) を公表 し た。これ は各 国政府 が 金融 教育 プロ グラ
ムを作成 し , 実行に 移 すための 参考 となる ガ イドライ ンを 示した も のである (栗 原,
2008)。
2006 年 7 月には,OECD の声明として The Importance of Financial Education(金
融教育の重要性 )が公表され ,金融教育に取り組む各国政府を OECD がどのように支
援しているかを明 らか にした 1 (栗原,2008)。また,定期的な 国際 会議 や専門家会 議
を開催し,加盟国での金融経済教育の推進を促している(福原,2008 ;
栗原,2008 ;
OECD,2008,2011)。さら に,2008 年 3 月に世界中の金融経済教育プログラムや研
究に関する情報交換の場となるインターネット上のホームページを開設した。2012 年
4 月には OECD と金融経済教育に関する国際ネットワーク が「金融教育のための国家
戦略に関する原則」を作成し ,同年 6 月開催の G20 で承認されている。OECD の取り
組みは金 融経 済教育 そ のものの あり 方を考 え るという より は ,各 国 の金融経 済教 育の
現状等の情報交換の場の提供という意味合いが強いと考えられる。
1
OECD ウ ェ ブ サ イ ト に よ る 。
-4-
2.2.
米国
Becker(2001)によれば ,経済教育(economics education, economic education)
は, 第一に全ての教育レベルにおいて経済学を教えるのに用いられる経済学のカリキ
ュラム,教材や教育学的技法の現状とそれを改善すること , 第二に経済学に関する代
替的な教 育方 法の効 果 ,多様な グル ープで の 経済リテ ラシ ーの水 準 , そして 経済 リテ
ラシーの水準に影響を与える要因などに関する研究という 2 つの主要テーマに焦点を
絞った経 済学 分野で あ る。 金融 経済 教育は , 経済教育 の一 つとし て 考えられ るが ,米
国で の金 融 経済 教育 は “ financial education”と表 現 され るこ と は あま りな く ,通 常,
“financial literacy (and education)”あるいは “personal finance education”と表
記されている。 米国の経済教育の歴史は,Saunders(Hoyt and McGoldrick, 2012)
と Becker(2001)によるものが詳しいので,それに沿って概観したい。
1885 年に,米国の経済学会である AEA(American Economic Association)が設立
され,高校や単科大学での経済教育の改善に取 り組むようになった 。1949 年に,非営
利の民間研究・教育団体推進組織である CEE(Council on Economic Education:全
米経済教 育協 議会 ) が 設立され ,第 二次世 界 大戦後 の 米国 の金融 経 済教育を 主導 する
こ と と な っ た 2 。 1950 年 代 に は , 米 国 経 済 協 会 に よ っ て Committee on Economic
Education(経済教育委員会 )が設立された。両機関とも,米国と世界での経済教育の
進展を目 的と してい る 。 しかし , 米 国の高 校 の教師や 経済 学者 , そ して 教育 団体 も ,
経済教育にほとんど関心をもって いなかったことから(Walstad,1992), 1960 年に
The National Task Force on Economic Education(経済教育特別委員会)が組織され,
1961 年には,Economic Education in the Schools: A Report of the National Task
Force on Economic Education が経済教育のスタンダードとして発表された。 この中
で,学校 の第 一の役 割 は ,生徒 が明 確に , 客 観的に , 妥当 な水準 の 知識をも って 経済
問題につ いて 考える 能 力を育て るこ とであ り ,経済教 育と は ,経 済 問題につ いて の 合
理的な考え方を養うこととしている(栗原,1998)。このスタンダードは,1977 年に
Framework for Teaching Economics: Basic Concepts が出版されるまで ,学校で学ぶ
べき主な内容を述べた 重要な文書 として位置づけられていた(Walstad,1992)。1977
2
CEE は 1949 年 に JCEE( Joint Council on Economic Education) と し て 設 立 さ れ , そ の 後 1993 年
に NCEE( National Council on Economic Education) に 改 組 さ れ , 2009 年 か ら CEE と な り 現 在 に 至
る ( 水 野 ・ 鵜 飼 , 2013)。
-5-
年版では ,経 済的な 常 識にとっ て重 要と思 わ れる ,経 済概 念や一 般 原理を具 体的 に明
らかにしている(栗原,1998;Saunders. and Gilliard,1995)。
米国に おいて は , 義務 教育年 限や教 育課 程を 含む教 育制度 の運 用が ,州政 府と各 地
方教育行 政に 委ねら れ ているた め , 日本の 学 習指導要 領 に 相当す る 教育に関 する 全国
共通のガイドラインは無い(福原,2008)。そのため CEE や Jump$tart Coalition for
Personal Financial Literacy(全国金融教育連盟)がそれぞれガイドラインを示して
いる 3 。全国金融教育連盟は,National Standards in K-12 Personal Finance Education
( K-12 教 育 に お け る 金 融 教 育 の 全 国 基 準 ) を 公 表 し て い る ( Department for
Education and Employment,2000)。この全国基準は,所得,金銭管理,支払いとク
レジット,貯蓄と投資の 4 つの領域から成っており,幼稚園から義務教育が終了する
までの全国的な基準を示している(Jump$tart,2007 ;
済教育合同協議会,1988 ;
水野・鵜飼,2013 ;
全米経
および Mandell,2008)。
そ の 後 , 1994 年 の ク リ ン ト ン 政 権 時 に 教 育 改 革 の 基 本 方 針 を 定 め た Goal 2000
Educate America Act(2000 年の目標・米国教育法)によって,
「経済」が学校での教
科として ,「公民」,「歴史」,「地理」とは独立した教科と なった(小池, 2009)。この
法律では ,全 ての米 国 の 国民が 世界 で競争 力 を持ち , 理解 できる 経 済リテラ シー を十
分に獲得 する という 目 標設定を して いたが , 連邦政府 に 委 任され て おらず , あや ふや
なものとなって しまっ た(Becker ,2001)。このような中,CEE(当時は NCEE)は,
教科の学習を通して児童・生徒に習得させたい知識・技能 に関する基準を明らかに し,
1997 年に Voluntary National Content Standard in Economics を出版 し,経済学的
な 常 識 を 持 っ た 生 徒 が 知 っ て お か な け れ ば な ら な い 経 済 学 の 基 本 20 項 目 ( The
National Education Goals Panel,1996)を公表した 4 (栗原,1998)。その内容は,
希少性, イン センテ ィ ブ ,市場 ,価 格,貨 幣 ,インフ レ , 金利, 経 済成長 , 金融 政策
といった 経済 学の基 本 的な概念 やマ クロ経 済 学に関す る内 容とな っ て おり, 実質 的に
学習指導要領の 役割を果たしている(水野・鵜飼, 2013 ;
消費者教育支援センター,
2000)。しかし,金融経済教育の立場から見れば,金融に関する経済理論を学ぶ 内容で
3
Jump$tart は ,1990 年 代 の 教 育 改 革 で 縮 小 傾 向 に あ っ た 金 融 経 済 教 育 の 建 て 直 し の た め に 1995 年 に
設 立 さ れ , 現 在 100 以 上 の 金 融 と 経 済 の 教 育 に 関 す る 団 体 が 加 盟 し て い る 。
4 CEE の 基 準 は ,生 徒 が 論 理 的 思 考 や 意 思 決 定 に 欠 か せ な い 経 済 知 識 を 学 ぶ 際 に 教 員 が 生 徒 に 対 し て 指
導 す る 内 容 が 示 さ れ て い る こ と か ら , 学 習 指 導 要 領 の よ う な 役 割 と い え る ( 水 野 ・ 鵜 飼 , 2013 ; CEE
ウ ェ ブ サ イ ト )。
-6-
あり,金融商品の選択・意思決定に必要な方法や技術を学ぶものではなかった(小池,
2009 ;
山根,2006)。
一方, 経済学 を教 える 教師や 学者 の 間で は, 経済教 育の教 える べき 内容に 関して ,
マクロ経済学かミクロ経済学 かで議論が起こっていたが(Kennedy,1992 ;
1990 ;
Mankiw,
および Shapiro and Varian,1999),「2000 年の目標・米国教育法」の制定
によって ,教える内容に関する議論 に終止符が打たれた (Siegfried and Meszaros,
1998;
Pennar,1997)。しかし 2000 年当初まで,経済学的なリテラシーに必要な知
識,記述と能力が何であるのかに関する 共通認識はなかった。
経 済 教 育 で は , 経 済 学 を 教 え る 方 法 に つ い て も 研 究 し て い る 。 Hinshaw and
Siegfried (1991)によると ,AEA は経済教育に長期にわたって協力 的であった が,
1990 年 代 後 半 ま で , 経 済 学 者 は 経 済 の 教 え 方 に つ い て は 無 関 心 で あ っ た 。 一 方 ,
Krueger(1991),Kasper(1991) に よる と , 教 育現 場で は ,様 々な 取 り組 みが 行 わ
れていた。小規模クラスでの授業(Benzing and Christ,1997 ;
Rosen,1987)やコ
ンピュータ技術を用いた授業の可能性 (Agarwal and Day,1998)等をめぐって 議論
が起 こ って い た ( Becker and Watts, 1996 ;
Keenan and Maier, 1995 ; および
Siegfreid and Fels 5 ,1979)。Becker and Watts(1997)は,学部生に対して,グル
ープディ スカ ッショ ン やディベ ート ,コン ピ ュータの 利用 や短い レ ポート作 成の 実践
を紹介している。経済教育の教育方法と学習方法の評価方法については,点数評価
(Romer ,2000 ; Becker,1997;Saunders,1991)と,先生と生徒との現場でのやり取
り を 評 価 す る も の が あ る ( Light,1990,1992 ; Kelly,1973 ; Hansen,1998 ; お よ び
Walstad and Saunders,1998)。教師の評価方法としては,生徒が先生を評価する SET
( Student Evaluation of Teaching ) に は 問 題 が あ り ( Becker and Watts,1999 ;
Walstad and Saunders,1998;および Siegfried and Walstad,1998),生徒に尋ねる 小
テストと同様のテストがよい(Chizmar and Ostrosky,1998)という議論もある。この
ような経 済教 育の内 容 ,教育方 法 , 教育方 法 と学習方 法の 評価等 の 多様な 研 究分 野 を
持つ経済 教育 学は , 教 育の経済 的効 果 ,費 用 負担,効 率性 と計画 , 便益に関 する 分析
などを行う教育経済学とは異なる。
Siegfreid and Fels が 1975 年 に 述 べ た ,「 生 徒 が 変 わ れ ば 経 済 を 学 ぶ 方 法 も 異 な る 。 最 適 な 教 育 戦 略
とは多様な学習方法を提供すること」が結局は最もよい教え方であると教師は考えるに至った。
5
-7-
経済教育に関する研究と同時に,金融経済教育の内容はどちらかというと行政や
NPO によって 推進されていた。 2001 年にはブッシュ政権の下,新たな教育改革法が
成立し, 金融 経済教 育 が 重点的 に推 進すべ き 分野とし て 指 定され , 民間の金 融教 育活
動に対する連邦政府による資金援助が なされるようになった (福原,2008)。2003 年
には Financial Literacy and Education Improvement Act (金融経済教育改善法 )が
成 立 し , 財 務 省 内 に 連 邦 政 府 の 金 融 経 済 政 策 を 所 管 す る Financial Literacy and
Education Commission(金融経済教育委員会)が設置された。同委員会は,財務,教
育などの主要な省庁と FRB( Federal Reserve Bank:米国連邦準備制度理事会 )や
SEC(Securities and Exchange Commission:証券取引委員会)などの関係政府機関
によって構成され,2006 年に The National Strategy for Financial Literacy(金融リ
テ ラ シ ー に 関 す る 国 家 戦 略 ) を 発 表 し て い る ( Financial Literacy and Education
Commission,2006)。これによれば,金融経済教育の目的は「消費者が自らのニーズ
に合った 金融 商品・ サ ービスを 理解 し選択 す ることの 手助 け」と さ れており ,内 容は
貯蓄,持ち家,退職準備,クレジット,消費者保護 ,投資家保護など 13 分野に及んで
いる(Lusardi and Mitchell,2006 ;
Lusardi and Tufano,2009)。さらに ,2008
年のリー マン ショッ ク は ,米国 の金 融政策 ・ 金融シス テム 監督当 局 の関係者 に対 して
も金 融 経済 教育 の 必要 性を 再 認識 させ る 契機 とな っ た 6 (Fox, 2008 ;
Hasting and
Mitchell,2011)。このサブプライム問題対策の一環として, 2008 年 1 月には金融リ
テラシーに関する大統領諮問委員会が設立された 7 。2009 年 1 月には報告書を公表し
ており,
「金融危機の発生には複数の要因が関連しているが,米国消費者の金融リテラ
シー不足が根本的な原因の 1 つ」としている(伊藤,2012)。
米国で の経済 教育 を振 り返る と ,単 科大 学や 入学前 のレベ ルに おい て特に 広がり と
専門性を 見せ た。 経 済 で教える 内容 や方法 , 教師と生 徒の 評価方 法 を主に経 済学 者や
経済を教 える 教師が 研 究し ,同 時に 家計運 営 の健全化 を目 的とし た 経済学の 基本 概念
や貯蓄,クレジット等の生活と関連した内容を主とした金融経済教育 (Xiao,2010)
を,主に行政や NPO が普及させることにより,個人の金融行動の改善が達成され ,
「外
部経済効 果」 として , 経済全体 にも 好影響 が 生じると 期待 され て い る。 金融 経済 教育
こ れ は FRB の ミ シ ュ キ ン 理 事 が 2008 年 2 月 の 講 演 の 中 で ,「 サ ブ プ ラ イ ム 問 題 に は 複 数 の 原 因 が 関
わっているが,仮に消費者がより確かな金 融知識を有していたならば,住宅投資ブームの過熱はよりマ
イルドなものに止まり,マクロ経済に与えるダメージも少なくて済んだのではないか」と発言している
こ と か ら も 分 か る ( Mishkin, 2008 ; 福 原 , 2008)。
7 2010 年 1 月 に は ,
「 金 融 ケ イ パ ビ リ テ ィ に 関 す る 大 統 領 諮 問 委 員 会 ( PACFC) に 名 称 変 更 し て い る 。
6
-8-
は,リー マン ショッ ク のような 金融 危機の 再 発防止策 とし て有効 と 位置づけ られ てい
る。しか し, 米国 に お いても, 金融 経済教 育 ができる 教師 の不足 と カリキュ ラム に必
要な時間 の不 足,教 育 方法や効 果そ のもの を どうやっ て測 定する の かといっ た研 究が
不足しており,金融経済教育を実践する環境の整備が今後の課題となっている(伊藤,
2012)。
2.3.
英国
グローバルな金融経済教育の強化の動きが広がるなか ,英国は政府が主導する形で,
体系的に金融経済教育を推進している。英国においては “financial literacy”とほぼ同義
の言葉として “financial capability” がよく使われている。
1986 年に英国のロンドン証券取引所 で行われたサッチャー政権による証券制度改革
「金融ビックバン」以降,1990 年代初頭に社会問題化した個人年金商品の不正販売問
題の事後 処理 に多額 の コストを 要し たこと を 教訓とし て , 英国政 府 は金融ト ラブ ル予
防を目的とした金融経 済教育の普及に努めて いる (福原,2010; 山根, 1999)。 1988
年には「 教育 法」が 制 定され , 学校 教育課 程 に国家的 な基 準と国 家 統一試験 が導 入さ
れた。こ の取 り組み に は ,シテ ィズ ンシッ プ の育成が 重要 な課題 と され ,そ の一 環と
して金融経済教育が開始された (小池,2009)。
政府は金融市場の規制監督機関として ,FSA(Financial Services Authority:英国
金融サー ビス 機構 ) の 設立に際 し , 法的責 務 の一つに 金融 経済教 育 の促進を 規定 して
おり,国家戦略の策定(2003 年),国民の金融リテラシーに関する全国調査(2005 年)
8
など各種プログラムを他国に先駆けて実施している(FSA,
1998,1999,2003,2006)。
一方,財務省は Financial Capability: Government’s long-term approach(国民の金
融能力向上のための長期的計画)(HM Treasury,2007)を 2007 年に公表した。これ
らを踏まえて FSA と財務省は「金融行動計画」を 2008 年に進めることで合意した(小
池,2009;
HM Treasury ,2008)。
リーマンショック以降 ,政府は,危機再発防止策の一環として,FSA の金融教育部
門の独立機関化を実施している (Kempson,2010)。FSA は,金融経済教育を担当す
る学校・ 教師 に対す る サポート 体制 の充実 化 を図るた め, 全国ネ ッ トワーク を有 する
8
FSA は 2000 年 に 金 融 サ ー ビ ス 市 場 法 が 制 定 さ れ ,ブ レ ア 政 権 の も と で 金 融 監 督 の た め に 設 置 さ れ た 。
-9-
金融経済教育を目的とした非営利団体 “pfeg”(personal finance education group)と
の間で資金提供を含めた広範な連携活動を行っている 9 。また財務省を中心に,政府予
算の投入による金融経済教育普及にも努めている。例えば 2005 年に The Child Trust
Funds(子ども信託基金)と呼ばれる児童名義の税制優遇貯蓄制度を導入(Zucgawo,
2014),金融経済教育の教材として活用することなどがあげられる 10 。
英国で は,学 校教 育に おける 金融 経 済教 育も 重視し ており ,学 習カ リキュ ラムに 即
した金融 経済 教育ガ イ ドブック の作 成 ,中 学 校のカリ キュ ラム改 定 時におけ る金 融 経
済教育コ ンテ ンツの 拡 充や ,金 融経 済教育 の 履修義務 化を 盛り込 ん だ教育改 革法 案の
議会提出 など が実施 さ れた。 英 国に は,経 済 教育の科 目は ないが , 各科目の 中に 金融
教育が含 まれ ており , 学校で金 融教 育を扱 う ことが政 府の 方針と な っている (水 野・
鵜飼,2013)。
英国は ,他国 に先 駆け た革新 的な教 育手 法を 積極的 に導入 して ,学 校教育 以外に お
いても金融経済教育を実施している。例えば ,最近の行動経済学の研究成果を踏まえ ,
金融経済教育の新しいツールとして「中立・公正なアドバイスの提供サービス 」を 2010
年から全 国展 開して い る。この サー ビスを 消 費者に無 料提 供する こ とで ,低 所得 者や
高齢者な どを 含むあ ら ゆる消費 者層 が ,金 融 トラブル に巻 き込ま れ ることを 未然 に防
止する効果を期待している。
このよ うに 英国で の 金融経済 教育 は ,政 府 主導で民 間団 体も巻 き 込んで 学 校教 育の
カリキュ ラム の作成 等 ,教育現 場で の体系 的 な金融経 済教 育に積 極 的に取り 組ん でい
る点が特 徴で ある。 ま た,近年 はこ れまで の 教育と情 報の 提供を 重 視した ア プロ ーチ
から,助言と行動を重視するアプローチに変化してきている (大橋,2012)。
3.
わが国における金融経済教育
わが国における金融経済教育は ,これまで独自の展開を遂げてきた (奥田,2012,
2014)が,OECD や米国などの諸外国の影響も 受けている。わが国における金融経済
教育は,「経済教育」,「金融教育」,「投資教育」と「消費者教育」の 4 つに分類できる
(平岡,2005)。金融経済教育 をピラミッドの構造に例えると(図 1-1),基盤に「経
9
pfeg ウ ェ ブ サ イ ト に よ る 。
子 ど も 信 託 基 金 の 運 用 を 通 じ て ,投 資 や 貯 蓄 を 学 ぶ 子 ど も と 保 護 者 ,教 員 を 巻 き 込 ん だ 金 融 教 育 と な
っている。
10
- 10 -
済教育」があり,その上に「金融教育」,さらに「投資教育」が位置づけられる。そし
て,これ ら三 層のい ず れにも一 部分 が重な る かたちで 縦断 的に「 消 費者教育 」が 存在
する。つ ま り ,ここ で の金融経 済教 育 は, 経 済の基本 を理 解する た めの「経 済教 育」
が土台となり,その上に金融の仕組みと役割や金融商品を理解するための「金融教育」
があり,「経済教育」と「金融教育」によって得られた基礎知識を前提として ,さらに
投資判断 に必 要な知 識 を身につ ける 「投資 教 育」が位 置づ けられ る 。ただし これ は概
念的な分類方法であるため,実際には,各教育の領域は相互に部分的に重複しており ,
厳密に分類することは 難しい。
一方,「消費者教育」は,消費者が商品・サービスの購入に必要な知識や態度を習得
するため の教 育であ る 。このた め 金 融経済 教 育 の知識 を利 用しな が ら ,金融 に関 連す
る消費者被害を防ぐことは「消費者教育」の重要な目的であり ,
「消費者教育」と金融
経済教 育と は代 替的 ( alternative) な関 係 ではな く , 補完 的(complimentary)な関
係にあるといえる。
以下, 金融経 済教 育 を 構成す るそれ ぞれ の定 義を整 理する と同 時に ,わが 国にお け
る金融経済教育 の経緯について明らかにしたい。
3.1.
経済教育
日本で は,経 済教 育学 会が広 く経済 に関 する 教育 ( 経済学 ・経 営学 および 商業・ 消
費者教育などを含む)の目的・内容・方法・評価・制 度 を 調査 研究 し ,会員 の教 育者・
研究者と して の力量 を 高め ,経 済教 育の普 及 を図り , 社会 全体の 経 済的教養 水準 の向
上に寄与することを目的として活動している。経済教育学会は ,1985 年に創立された
経済学教育研究会を前身としており ,その歴史は約 30 年と,他の多くの経済学関連学
会に比べて新しい(経済教育学会 ウェブサイト)。過去に経済教育学会で扱われたテー
マをみる と , ①経済 ( 学)教育 の理 念 ,② 経 済学の教 科書 ,③教 材 , ④授業 実践 ,⑤
小・中・ 高校 と大学 で の経済 ( 学) 教育, ⑥ 学習方法 ,⑦ 授業理 念 と方法 , ⑧目 的・
課題,⑨ 教育 改革 , ⑩ 歴史的現 実問 題 ,⑪ 社 会問題と の関 連など が あり ,経 済の 教育
に関わる様々な分野を扱っていることが分 かる(宇佐見,2013)。
一方,経 済教 育に関 す る研究会 は ,「 経済教 育」とは ,「経 済学の 基本概念 」を 大学
の経済学 部に とどま ら ず ,幅広 く市 民の教 養 として享 受す ること に よって , 自立 した
- 11 -
個人が行 う合 理的な 意 思決定の 技術 を身に 付 けること を支 援する た めに ,① 教養 とし
ての経済 学の 基本概 念 ,②経済 や経 済制度 に ついての 正確 な理解 , ③政策を 議論 する
枠組みの 3 つを広く市民に提供するものとしている(経済教育に関する研究会 ,2005,
2006)。「経済教育」では,経済学の基本的概念として ,合理的な意思決定・希少性・
選択・機 会費 用・ト レ ードオフ ・リ スクの ほ か ,財・ サー ビス・ 消 費・ 生産 ・価 格・
市場などの基礎的な知識 ,GDP・インフレ・為替などを取り上げる マクロ経済学 ,企
業・政府 ・財 政・税 制 ・金融な どの 制度を 扱 うとして いる 。経済 教 育に関す る研 究会
は,「経済教育」に対して「金融教育」を「お金にかかわる教育のことであり ,働いて
お金を得る ,お金を使う,お金を貯める(運用する ),お金を借りることなどに関する
教育である」と解説し ,「経済教育」と分けて考えている。
当初は 経済 学をい か に教育し てい くかが 経 済教育学 の研 究とし て 多くを占 めて いた
が(山根,2006 ;
楠元 ,2006 ;
木村,2006;
三好,2013 ; および西村・村上,2008),
近年では単に経済学の知識を教えるだけではなく ,樋口(2013), 藤岡(2013), 加
納(2012)らに見られるように,思考法や生き方を学ぶことに関心が移行している 11 。
経済教育の基本目標として近年,共通に認識されているのは,「経済(学)的に考える
こと」
(economic thinking)を身につけることである(八木,2013 ;
Yamaoka,2010)
12 。例 えば ,飯 田 (2013) は「 実際 にビ ジ ネ スに おい て直 面 する 課 題は 制約 の下 での
利潤最大化や費用最小化の性質を有している」として ,
「経済を学ぶのではなく,経済
の問題を 練習 問題と し て思考法 を訓 練する と ころに経 済教 育・経 済 学教育の 最大 の意
義があるのではないかと考える」としている。
3.2.
金融教育・金融経済教育
わが国 での金 融教 育・ 金融経 済教育 の動 向を みるに あたっ て , 金融 広報中 央委員 会
と金融庁の実践内容が主なものとなる(金融経済教育研究会,2013)。金融広報中央委
員会は,日本銀行に事務局を置き,戦後の貯蓄運動・金融広報活動の担い手として 60
例 え ば 樋 口 ( 2013) や 加 納 ( 2012) は , 新 学 習 指 導 要 領 の 理 念 と し て の 「 生 き る 力 」 を ベ ー ス に 社
会 的 な 見 方 や 考 え 方 を 成 長 さ せ る 経 済 学 習 の あ り 方 を ,藤 岡( 2013)は ,自 然 と 社 会 の 大 恩 を 前 に「 謙
虚 に 成 熟 し 」,「 経 済 正 義 」を 具 現 し た 「 よ り 良 い 社 会 」 を 見 出 し , そ こ へ 平 和 的 に 移 行 す る た め に 必 要
な「エコノミック・リテラシー」の中身を再吟味・再編・再体系化する必要を述べている。
12 八 木 ( 2013) は , 経 済 学 の 基 本 と し つ つ ,
「考え方」を教えることほど難しいことはないと もしてい
る。
11
- 12 -
年近くに 及ぶ 活動実 績 を持って いる 。その 変 遷は,わ が国 の金融 経 済教育の 歴史 とも
いえる。同委員会は終戦直後から 1949 年 12 月にかけて「救国貯蓄運動」として ,主
にインフレの収束を目的とした貯蓄運動を 行っていた。1950 年 3 月からは「特別貯蓄
運動」と して 貯蓄目 標 額を設定 した 貯蓄推 進 活動を 実 施し ,その 後 各都道府 県単 位の
地方貯蓄推進委員会を結成し ,自主的な貯蓄運動の基礎作り を行った。1952 年 4 月に
は貯蓄増 強中 央委員 会 が発足し ,こ れが金 融 広報中央 委員 会の前 身 である 。 そし て都
道府県の貯蓄増強委員会と連携し ,民間組織主導の貯蓄運動が展開された。1988 年に
は,貯蓄増強中央委員会を貯蓄広報中央委員会 に改称し ,この頃から運動の重点が「貯
蓄」から 「経 済 ,金 融 ,通貨等 につ いての 正 しい知識 ・情 報提供 」 にシフト した 。 そ
して活動 目標 に,① 金 融経済情 報の サービ ス ,②生活 設計 の勧め , ③ 金銭教 育の 普及
の3つを掲げた。その後,貯蓄広報中央委員会は金融広報中央委員会 に改称され,2001
年からは「金融教育支援」と「金融知識普及」が活動の 2 本柱となり,現在に至 って
いる。
現在,金融広報中央委員会は ,「金銭教育」と「金融教育」の二つの名称を用いてい
る。「金 銭教育 」につ いては ,「健全 な金銭 感覚を養 い ,も のやお 金を大切 にし , 資源
の無駄使 いを 避ける 態 度を身に つけ させ , そ れを通じ て自 立して 生 きること がで き ,
社会形成 者と してふ さ わしい人 間形 成を目 指 す教育」 と定 義して い る。日常 用い てい
るものや 金銭 を通じ て ,具体的 な日 常生活 に 密着して 心の 学習を 行 い ,人間 らし い心
を育て, 力強 く生き る 児童 ・生 徒を 育成し , 学習や生 活に 意欲的 に 取り組む 活力 を育
てること を目 指して い る 。金銭 は人 間の一 生 に 常に伴 うも のであ り , 衣食住 を維 持す
るのに必 要な だけで な く ,人間 のあ り方や 生 き方にも 大き な影響 を 与える。 それ ゆえ
に金銭に 関す る教育 は ,人生を 豊か にする こ とから , 学校 ・家庭 , さらに社 会教 育の
分野で必須とされている。
「金融 教育」 に関 して は 「お 金や金 融の 様々 な働き を理解 し , それ を通じ て自分 の
生き方や 価値 観を磨 き ながら , より 豊かな 生 活やより よい 社会づ く りに向け て , 主体
的に行動できる態度を養う教育である」
( 金融広報中央委員会,2013)と定義している。
お金に関 する 知識や 能 力は生き てい く上で 必 要不可欠 であ るとし て , 急激に 変化 する
社会の中 で安 心して 生 活してい くこ とがで き るように ,金 融リテ ラ シーを身 につ けさ
せることを主眼とし, その支援も行っている。
「金融 教育」 の内 容と しては ,①生 活設 計・ 家計管 理に関 する 分野 (金銭 管理や 貯
- 13 -
蓄方法や意義,生活設計や資産運用など),②経済や金融のしくみに関する分野(お金
や金融の働き,経済情勢と経済政策,政府の役割など),③消費生活・金融トラブルに
関する分野(消費者意識,金融トラブル,多重債務問題など),④キャリア教育に関す
る分野(働く意義など )の 4 つを設定している(金融広報中央委員会,2007)。
「金融」
とは,本 来「 資金余 剰 主体」か ら「 資金不 足 主体」へ のお 金の融 通 という意 味で ある
が,ここ での 具体的 内 容は パー ソナ ル・フ ァ イナンス で扱 う 「家 計 管理」の ため の教
育であり,「生活設計」なども含まれている。
一方,金 融庁 は ,金 融 経済教育 の名 称を用 い ている。 ここ では ,「 国民一人 一人 に ,
金融やそ の背 景とな る 経済につ いて の基礎 知 識と ,日 々の 生活の 中 でこうし た基 礎知
識に立脚 しつ つ自立 し た個人と して 判断し 意 思決定す る能 力 ,す な わち金融 リテ ラシ
ーを身に つけ てもら い ,また, 必要 に応じ そ の知識を 充実 する機 会 を提供す るこ と」
と定義している(金融経済教育懇談会,2005)。また金融庁は ,同庁金融研究センター
内に金融 経済 教育研 究 会 を設置 し , 金融広 報 中央委員 会と ともに , ① 金融経 済教 育を
進めるに あた り ,ど の ような内 容を どのよ う な層に対 して 行うべ き か ,②国 民の 客観
的な金融 リテ ラシー の 水準をど のよ うな方 法 で把握す るか ,③金 融 経済 教育 によ って
最低限必 要な 金融リ テ ラシーを 身に つける こ との重要 性を 国民に 理 解しても らう には
どうすればよいか等の 論点を議論 している。同研究会の 2013 年 4 月 30 日の報告書で
は,
「生活スキルとしての金融リテラシー」,
「健全で質の高い金融商品の供給を促す金
融リテラシー」,「 我が 国の家計金融資 産の有 効活用につなが る金融 リテラシー」 の 3
つを教育 目的 として い る。そし て , 今後金 融 経済教育 を進 めるに 従 って身に つけ るべ
き金融リ テラ シーと し て ,①行 動面 の重視 , ②最低限 習得 すべき 金 融リテラ シー への
フォーカ ス化 ,③体 系 的な教育 内容 のスタ ン ダードの 確立 を あげ て いる。ま た金 融経
済教育の 対象 として , 学校にお ける 取り組 み の定着と とも に ,社 会 人・高齢 者を 設定
している(経済教育に関する研究会, 2005)。
金融経済教育研究会の報告書の方針を推進するに当 たり,2013 年 6 月には,関係省
庁(金融 庁, 消費者 庁 ,文部科 学省 )と金 融 関係団体 など をメン バ ーとして ,金 融広
報中央委員会に金融経済教育推進会議 が設置された。2014 年 6 月に公表された「金融
リテラシー・マップ」は,金融経済教育研究会報告書で示された 4 分野 15 項目の最低
限身につ ける べき金 融 リテラシ ー概 念を元 に ,金融広 報中 央委員 会 と金融庁 が共 に作
り上げた 金融 リテラ シ ーの項目 別・ 年齢層 別 スタンダ ード であり , わが国で 初め て金
- 14 -
融経済教 育に 関する 統 一的な学 校段 階や社 会 人 ,高齢 者に おける 習 得する目 安 が 示さ
れたものである (金融経済教育推進会議,2014)。
その他 の機関 によ る金 融教育 の定義 や取 り組 みにと しては ,一 般社 団法人 全国銀 行
協会が, 学校 向けの 金 融経済教 育教 材の作 成 と配布 , 講師 派遣等 を 実施し , 会員 銀行
に よ る 金 融 経 済 教 育 活 動 の 状 況 を ホ ー ム ペ ー ジ で 紹 介 し て い る 13 ( 全 国 銀 行 協 会 ,
2008)。また,日本証券業協会は ,教員向けセミナー,株式に関する教育教材の作成と
配布を行っている 14 。さらに,NPO 法人には ,金融知力普及協会,経済知力フォー ラ
ム,証券学習協会 ,投資と学習を普及・推進する会(エイプロシス ),日本経済学教育
協会の 5 つの法人と日本ファイナンシャル・プランナーズ協会があり ,教材作成 ,講
師派遣などを行い,金融教育を推進している (日本消費者教育学会,2007)。
3.3.
投資教育
「投資教育」(investment education)とは,金融商品の知識や投資理論などを学習
し,自立 した 個人と し て金融商 品・ サービ ス を評価し て , 選択す る 能力を身 に付 ける
ための教 育で ある。 学 校教育で あれ ば ,将 来 の資産運 用に 備える 意 味で ,金 融教 育 の
応用編・ 実践 編にあ た る。社会 人向 けでは , 株式,債 券, 投資信 託 などの商 品を 理解
し,各人 の資 産運用 に 活用す る 内容 である こ とから , 初歩 的なレ ベ ルから高 度・ 専門
的なレベルまで ,幅広く扱われている。
わが国 では , 投資 の成 果によ って給 付額 が変 動する 確定拠 出年 金制 度 の導 入にあ た
って,「確定拠出年金法第 22 条」で,事業主が加入者に対して投資教育を行うことを
努力規定 とし て定め て いる。こ の法 律に関 す る厚生労 働省 通達は , 確定拠出 年金 にお
ける投資 教育 の具体 的 な事項と して ,制度 , 金融商品 の仕 組みと 特 徴 ,資産 の運 用の
基礎知識等をガイドラインとして示している 15 。一方,米国や英国の学校教育では「投
資教育」という表現はあまり使われておらず ,金融教育の一分野として扱われている。
13
一般社団法人全国銀行協会ウェブサイトによる。
14 日 本 証 券 業 協 会 ウ ェ ブ サ イ ト に よ る 。
15
「 確 定 拠 出 年 金 法 並 び に こ れ に 基 づ く 政 令 及 び 省 令 に つ い て ( 法 令 解 釈 )」( 2001 年 8 月 21 日 年 発
第 213 号 )の「 第 2 資 産 の 運 用 に 関 す る 情 報 提 供( い わ ゆ る 投 資 教 育 )に 関 す る 事 項 」に「 投 資 教 育 」
の具体的な事項が定義されている。
- 15 -
3.4.
消費者教育
「消費 者教育 」は , 消 費者が 商品・ サー ビス の購入 などを 通し て消 費生活 の目標 ・
目的を達 成す るため に 必要な知 識や 態度を 習 得し ,消 費者 の権利 と 役割を自 覚し なが
ら,個人 とし て ,ま た 社会の構 成員 として 自 己 実現し てい く能力 を 開発する 教育 であ
る(日本消費者教育学会,2007)。消費者教育学の目的は消費者としての人間形成を促
すことで ある 。主体 形 成された 消費 者は , 単 に個々の 消費 者とし て の能力を 持つ だけ
でなく, 他の 消費者 と 協力する こと で ,消 費 者の行動 が社 会や環 境 に対 して どの よう
な影響を 与え るかを 理 解し ,行 動す ること が できる。 そし てその よ う な消費 者は ,市
民社会に おけ る消費 者 として , 社会 的役割 を 担うこと がで きるよ う になる ( 日本 消費
者教育学会,2007)。
わが国 では 金 融経 済教 育 は「 消費者 教育 」の 一部と しても 位置 づけ られて いる ( 西
村,1999 ; 乗本,1999)。これまでの 消費者教育における金融経済教育の内容は ,金
融トラブ ルに 巻き込 ま れないた めに はどう す れば よい かと いった も のや ,学 校教 育で
の教材作成が中心であった(鎌田,2008 ; 藤本他,2012 ; 柿野他,2013 ; および田
中他,2009,2010) 16 。これは,金融経済教育を含む「消費者教育」 が,当初は,生
活を取り 巻く 問題に い かに適応 して 行動す る かという 「生 活環境 適 応型」 で あっ たこ
とからも明らかである 17 。その後,生活環境の意味が ,単に商品やサービスだけでなく ,
法律や経済環境等の社会環境にまで広がったことで ,
「消費者教育」は,消費者の立場
にたって 商品 やサー ビ スをある べき ものに 作 り変え , 自ら 率先し て 生活環境 をよ り良
いものへ変える 「生活環境醸成型」に変化した (日本消費者教育学会,2007)。
2013 年には消費者教育を体系的に推進していくため,消費者教育推進のための体系
的プログラム研究会は「消費者教育体系イメージマップ」を発表した。同マップでは,
4 つの「重点領域」である「消費者市民社会の構築」,
「商品等の安全」,
「生活の管理と
契約」,「情報とメディア」のうち ,金融経済教育を「消費者市民社会の構築」(消費が
もつ影響力の理解)と「生活の管理と契約」(生活を設計・管理する能力 )の 2 つの領
域で位置づけている( 消費者庁,2014)。同マップの作成を契機に ,消費者教育 は,持
続可能な 社会 の実現 の ために , 消費 者教育 を 実践して いく ことが , 主体性を 自己 形成
16
これらは,学習指導要領に基づいた消費者教育の中の金融教育という位置づけである。
消 費 者 を 取 り 巻 く 「 生 活 環 境 」 に は , 様 々 な も の が あ る が ,「 生 活 環 境 適 応 型 」 の 消 費 者 教 育 で は ,
商 品 や サ ー ビ ス 等 の 経 済 環 境 が 想 定 さ れ て い る ( 日 本 消 費 者 教 育 学 会 , 2007)。
17
- 16 -
した消費 者に 対する 働 きかけと して 重要で あ ると認識 され るよう に なった 。 これ によ
り,近年 の金 融経済 教 育 は,持 続可 能な社 会 のため , 消費 者市民 社 会 にとっ て必 要な
教育のあり方に沿った 内容に変わりつつある (橋長・西村,2014 ; 田中,2014) 18
3.5.
学習指導要領での金融経済教育
以上, わが国 にお ける 金融経 済教育 の流 れを みてき たが , 学習 指導 要領に よれば ,
学校教育において,主に家庭科で は「消費者教育」,社会科では「経済教育」に関係す
る内容が扱われてい る (国立教育政策研究所,2001)。小学校の家庭科(文部科学省,
2009a)では「身近な消費生活と環境」として ,物や金銭の活用の視点から生活を見つ
め,限り ある 物や金 銭 の大切さ に気 づき , 自 分の生活 が身 近な環 境 に与える 影響 を知
り,主体 的に 生活を 工 夫できる 消費 者とし て の素地を 育て ること を 意図して いる 。ま
た社会科(3・4 年生)(文部科学省,2009b)では,児童が住む地域を取り上げること
によって ,地 域産業 や 販売の仕 事に 携わっ て いる人の 工夫 を調べ る 学習と関 連づ けて
消費者側の工夫を学ぶことで ,消費生活を事業者と消費者の両面から 捉えている。
中 学 校 の 家 庭 科 ( 文 部 科 学 省 , 2011a) で は ,「 身 近 な 消 費 生 活 と 環 境 」 に お い て ,
「消費や 環境 に関す る 実践的・ 体験 的な学 習 活動を通 して ,消費 生 活と環境 につ いて
の基礎的 ・基 本的な 知 識及び技 術を 習得し , 消費者と して の自覚 を 高め ,身 近な 消費
生活の視 点か ら持続 可 能な社会 を展 望し , 環 境に配慮 した 生活を 主 体的に営 む能 力と
態度を育てる」ことを意図している。また社会科(特に公民分野)
(文部科学省,2011
b)では,生徒に消費生活を中心に学ばせることで ,経済活動の意義について考え ,個
人と社会を結びつけて 学ばせている(増田,2011)。
高校の家庭科(文部科学省,2011c)には「家庭基礎」,
「家庭総合」,
「生活デザイン」
の 3 科目があるが,すべての科目に「生涯の生活設計」の内容が含まれており ,生活
と経済の つな がりや 主 体的な資 金管 理の在 り 方 ,リス ク管 理など 不 測の事態 への 対応
などにかかわる内容が重視されている (田中,2009)。社会科(公民)( 文部科学省,
2011d)では,個の視点で消費を把握し,現代の社会の中の金融・消費の現状を考えさ
せ,個を 取り 巻く全 体 としての 社会 の問題 と して ,経 済に 関して 考 察する態 度や 解決
18
特 に 消 費 者 市 民 社 会 を 目 指 す 内 容 が 多 く な っ た が ,「 イ メ ー ジ マ ッ プ 」 に は , 学 習 指 導 要 領 と の 対 応
関 係 を 示 す も の で は な い と 記 載 さ れ て い る こ と か ら ,「 イ メ ー ジ マ ッ プ 」 に 基 づ い た 指 導 案 と 学 習 指 導
要領との整合性が必要となってくる。
- 17 -
していこうとする姿勢の形成が 目標とされて いる。
わが国 におけ る金 融経 済教育 は,行 政主 導に よって ,貯蓄 推進 ,金 銭教育 ,消費 者
教育,投 資教 育の視 点 で進めら れて きたが , 一方教育 現場 では経 済 との関連 や生 活設
計の視点 から 進めら れ てきてお り, 金融経 済 教育の体 系化 が なさ れ ていない 現状 が明
らかとなった。
4.
本研究の位置づけ
以上, 欧米を 中心 に 金 融経済 教育と わが 国に おける 金融経 済教 育の 変遷に ついて 概
観してきた。金融経済教育は ,欧米もわが国も NPO や行政指導で始まるが,AEA や
日本の経 済教 育学会 が ,経済教 育の 必要性 を 取り上げ ,授 業にお け る様々な 指導 方法
を研究し てき た。ま た 指導方法 だけ でなく , 教師や生 徒 の 評価方 法 を ,経済 学者 や経
済を教え る教 師が研 究 するよう にな り, 教 え る内容に 関し ても議 論 され るよ うに なっ
た。経済 教育 学会 は , 教える内 容 だ けでな く ,いかに 教育 してい く か ,その 指導 方法
についても研究を重ねてきている。近年は,経済学の知識を教えるだけでなく ,
「経済
(学)的 に考 える」 こ とを 身に つけ る,つ ま り思考法 を 身 につけ る ことが経 済教 育の
最大の意義とし ている (飯田,2013)。
このよ うな経 済教 育学 の立場 と同時 に , 金融 経済教 育は , 消費 者教 育学の 立場か ら
も研究さ れて きた。 消 費者教育 学で は,生 活 を取り巻 く問 題にい か に適応し て行 動す
るかとい う「 生活環 境 適応型」 の消 費者教 育 学 から, 消費 者の立 場 にたって 商品 やサ
ービスをあるべきものに作り変え ,自ら率先して生活環境をより良いものへ変える「生
活環境醸 成型 」 の消 費 者教育学 へ 変 化して お り ,金融 経済 教育 も , 持続可能 な社 会に
おける消費者の役割と責任の視点から研究されるようになってきている。
本博士論文 が考える 金 融経済教育 は , Romer(2000)や Becker( 1997)が示し て
いる教育方法と 学習方法の評価方法の研究や Becker and Watts(1997)のグループデ
ィスカッ ショ ンやデ ィ ベート , コン ピュー タ の利用や 短い レポー ト 作成の実 践紹 介等
の研究分野 に位置づけられる。Becker and Watts(1998,2005)は,経済教育方法の
ワークシ ョッ プで使 わ れた資料 を編 集し, 高 い評価を 得て いる。 ま た ,米国 の中 等教
育以降で,経済教育がどのようにされているかを 1995 年,2000 年,および 2005 年
の 3 回にわたって調査し,黒板を使って一方的に話しをする 昔ながらの 方法が主流で
- 18 -
あるものの ,パソコンやディスカッション等の 様々な方法を授業に取り入れるこ とで,
授業効果をあげた実践例を紹介している (Watts and Becker,2008)。
さらに 教育効 果を どの ように して評 価す るか は ,米 国の経 済教 育学 の中で も近年 多
く研究されるようになった。 米国では,生徒は 5 段階評価などの 尺度方式の回答方法
から授業を評価するが ,他の国では自由回答 方式が多い。Walstad and Becker(1994)
は,尺度 方式 の回答 方 法と自由 回答 方式の 回 答方法を 比較 した結 果 , 両者の 相関 が高
いことを示しているが ,Becker and Johnston(1999)は両者の方法で評価する こと
が好まし いと 結論づ け ている。 本博 士論文 で は ,特に 自由 記述を 用 いて 授業 評価 を実
施し,自 由記 述 の内 容 を 分析す るこ とで授 業 効果をみ てい ること か らも ,米 国の 経済
教育の方法と評価に関する研究に関連づけられる 。日本の経済教育学では ,飯田(2013)
が「経済 を学 ぶので は なく,経 済の 問題を 練 習問題と して 思考法 を 訓練する とこ ろに
経済教育 ・経 済学教 育 の最大の 意義 がある の ではない かと 考える 」 と述べて いる こと
から,本 博士 論文が 考 える 経済 教育 学にお け る金融 経 済教 育と同 じ 方向性を 持つ こと
が分かる。
また, 近年の 消費 者教 育学 は ,消費 者の 立場 にたっ て商品 やサ ービ スをあ るべき も
のに作り 変え ,自ら 率 先して生 活環 境をよ り 良いもの へ変 える「 生 活環境醸 成型 」の
視点がふ くま れてお り ,自ら新 たな ライフ ス タイルを 生み 出す ( 自 己創造 ) 金融 経済
教育を目指している。 これは,本博士論文が 第 2 章において展開する理論的位置づけ
となる人間の発達過程の視点を含んだものである。
以上の ことか ら , 本博 士論文 では , 今後 必要 となる 金融経 済教 育の 位置づ けを , 経
済学の知 識に 関する 教 育方法を 研究 するだ け ではなく ,経 済学特 有 の思考方 法や 生き
方を学ぶ こと を重視 す る経済教 育学 の視点 と ,消 費者 が個 人とし て ,また社 会の 構成
員として 自己 実現し て いく能力 を開 発 し, 自 ら新たな ライ フスタ イ ルを生み 出す 消費
者教育学 の視 点の両 方 を合わせ 持つ ことか ら , 経済教 育学 と消費 者 教育学の 融合 と 位
置づけることができる。
- 19 -
5.
今後の課題
本章で は,諸 外国 にお ける金 融経済 教育 とわ が国に おける 変遷 につ いて概 観して き
た。この結果,OECD では金融経済教育の情報交換の場が提供されており,米国では
経済教育 の内 容 ,方 法 ,教師と 生徒 の評価 方 法に関す る研 究と同 時 に 家計運 営の 健全
化を目的 とし た経済 学 の基本概 念や 貯蓄 , ク レジッ ト 等の 生活と 関 連した内 容を 主と
した金融経済教育を普及させることにより ,個人の金融行動の改善が達成され ,
「外部
経済効果 」と して , 経 済全体に も好 影響が 生 じると期 待さ れてい る 。 米国で はわ が国
のように学習指導要領が存在しないことから ,NPO の活動が極めて重要な意味を持っ
ている。 米国 では , 近 年金融経 済教 育の重 要 性が 広く 理解 されて き ている。 しか し ,
教える内 容に 関して は ,経済学 の知 識 が主 と なってお り , 経済学 的 に考え , 思考 法を
学ぶとい う内 容には 至 っていな い。 英国で は ,学校教 育の カリキ ュ ラムの作 成等 ,教
育現場で の体 系的な 金 融 経済教 育に 積極的 に 取り組ん でい る点が 特 徴である 。 一 方,
わが国で は , 行政主 導 で貯蓄推 進 , 金銭教 育 ,消費者 教育 ,投資 教 育の視点 で進 んで
きたが, 教育 現場で は 経済との 関連 や生活 設 計の視点 から 進めら れ て おり, 金融 経済
教育の体系化が なされていない現状が明らかとなった。
現在の 金融経 済教 育 を その主 体,内 容, 方法 の視点 から み ると ,主 体は , 米国で は
NPO や財務省主導,英国でも政府主導であり ,学校での教育に積極的に関与している。
わが国で は金 融庁や 消 費者庁主 導で 発展し て きたが , 学校 教育 で は 別途 取り 上げ てき
ており, 体系 化はま だ な されて いな い 。内 容 としては ,諸 外国, わ が国 とも マク ロ経
済と生活 に関 わる経 済 内容を知 識と して教 え ,現行の 金融 商品 や サ ービスを 理解 し ,
これらに伴う金融トラブルを防止し,生活設計に活かしていく対症療法的 内容である。
また方法は,OECD は主にネットを通じた情報交換 ,米国は「経済」教科を通じ ,学
習ガイドラインを用いた教育 ,英国は FSA によるカリキュラム作成,コンテンツの充
実を通じた教育 ,わが 国では基本的には教師による学習指導要領に応じた教育であり ,
加えて教 師に よって は 金融庁や 消費 者庁が 提 案してい る金 融教材 を 取り入れ た 教 育を
行ってい る。 このよ う な ,内外 の金 融経済 教 育の流れ と現 状を踏 ま え ,以下 ,金 融経
済教育を 実践 するに あ たって必 要と なる課 題 について 主体 ,内容 , 方法の3 点か ら 考
える。
- 20 -
まず, 金融経 済教 育を 行って いく主 体に つい てであ るが , わが 国で の金融 経済教 育
は,これ まで 金融広 報 中央委員 会と 金融庁 が 主導的役 割を 担って き た。戦後 の復 興期
から高度 成長 期 には , 金融広報 中央 委員会 が 主体とな って 貯蓄増 強 を奨励し てき た。
現在は金 融シ ステム 改 革を背景 に , 投資型 商 品への理 解を 促進す べ く ,金融 庁が 先導
し,関係 省庁 ・団体 と 連携する かた ちで金 融 経済 教育 体制 の構築 が 図られて いる 。ま
た他にも金融機関や金融関連の団体による出前授業 ,NPO 法人等,多くの機関が金融
経済教育 に携 わるよ う になった 。こ のよう に 主に学校 以外 の機関 に よって発 展し てき
た金融経済教育には,幅広い視点が含まれている点が利点である一方 ,教育現場では,
どこのも のを いつ使 え ばよいの かと いった 混 乱も見受 けら れる。 こ のため , 金融 経済
教育を実施する主体の体系化が重要となってくる。
次に金 融経済 教育 で扱 う内容 につい てで ある が ,米 国,英 国や わが 国では 経済と 生
活設計に 関す る内容 が 主であ る 。学 習指導 要 領によれ ば , 学校教 育 では ,主 に家 庭科
では「消 費者教 育」, 社会科で は「経 済教育 」に関係 する内 容で扱 われてい る。ま た ,
「消費者 教育体 系イメ ージマッ プ」 で は,「 消費者市 民社会 の構築 」( 消費 がもつ 影響
力の理解),
「生活の管理と契約」
(生活を設計・管理する能力)の 2 つの領域で金融経
済教育を位置づけている。さらに「金融リテラシー・マップ」では ,「家計管理」,「生
活設計」,「金融知 識及 び金融経 済事情 の理解 と適切な 金融商 品の利 用選択」,「 外部 の
知見の適切な活用」という 4 つの分野で金融経済に関わる内容を提示している。今後
教育現場 では ,先に 述 べたよう に , これら の マップで 示さ れてい る 内容と , 学習 指導
要領にお ける 位置づ け とを調整 し , どのよ う に実践し てい くか , 内 容の体系 化 が 課題
となる。
最後に ,金融 経済 教育 を実施 する方 法に つい て は, 諸外国 では ,政 府機関 がカリ キ
ュラムや 教育 プログ ラ ムを考案 し , 教育現 場 に提供し てい る。し か しわが国 の 教 育現
場におい て最 大の課 題 は ,授業 時間 を 確保 で きないこ と , 教員が 適 切な教材 を知 らな
いこと, そし て教員 が 専門知識 を学 ぶ機会 が ないこと であ る(金 融 経済教育 を推 進す
る研究会,2014)。環境教育 ,情報教育 ,キャリア教育 ,人権教育等,種々の新しい教
育に対応 し切 れず , 加 えて 金融 経済 教育を 実 践する時 間を 確保す る ことが困 難な の が
現状であ る。 金融経 済 教育 とし て単 独の授 業 時 間を確 保す ること も 重要であ るが ,金
融経済教 育の 内容を 家 庭科 や社 会科 のみな ら ず算数や 国語 ,道徳 な どの 既存 教科 の中
- 21 -
に組み込む こともできる (坂野・大藪・杉原,2004;
大藪・杉原・坂野 ,2005)。今
後は,両方の方法で金融経済教育を進めていく必要がある。
これら の主体 ,内 容 , 方法の 体系化 に加 えて ,今後 金融経 済教 育を 教育現 場で進 め
ていくに あた って最 も 重要な課 題 と して, 金 融経済 教 育を 行う 意 味 の再考が あげ られ
る。学校 で行 われて い る金融経 済教 育 は, 教 育の一環 であ ること か ら ,本来 人間 発達
を目的と して いるは ず であるが ,諸 外国や わ が国の金 融経 済教育 は , その時 点で の 問
題を解決する,いわば対症療法的な知識提供に重点が置かれ がちである(大藪・杉原,
2008)。この場合,子ども達が学校教育を終了した後 ,時代の変化によって発生する新
しい金融 トラ ブルに 巻 き込まれ てし まう恐 れ がある 。 この ため , 金 融経済教 育を 実践
するに際 して ,情報 活 動を基盤 とし た人間 発 達を促す 視点 を加え て , 教材や 授業 方法
を工夫す る こ とによ り ,学校教 育終 了 後も 将 来にわた って 時々刻 々 と変化す る金 融経
済情勢に 対応 可能な 金 融リテラ シー を養う こ とができ ると 考えら れ る (大藪 ・奥 田,
2013 ; 奥田・大藪,2013 ; および大藪・奥田,2014)。
今後必 要と なる 金 融 経済教育 は , 経済学 の 知識に関 する 教育方 法 を研究す る だ けで
はなく, 経済 理論に 基 づき個人 が自 らのラ イ フスタイ ルを 考える こ とを 重視 する 経済
教育学の 視点 と ,個 人 が一人の 消費 者とし て ,また社 会の 構成員 と して より 豊か な生
活を実現 して いく能 力 を開発す る と ころに 重 点を置く 消費 者教育 の 視点の両 方を 合わ
せ持つこ とか ら ,経 済 教育学と 消費 者教育 学 の融合と して 位置づ け る 必要が あろ う 。
具体的に,第 3 章以降,その実践例について紹介していく。
- 22 -
図 1-1
経済教育・金融教育・投資教育・消費者教育の位置づけ
(出典:平岡,年金レビュー,p.19,2005)
投資教育
消
費
者
教
育
金融教育
経済教育
- 23 -
第2章
新しい金融経済教育の構築
1.はじめに
第 1 章では,諸外国とわが国の金融経済教育の動向を紹介し,またその実践に向け
た課題に つい て検討 し た。そし て, 今後必 要 となる金 融経 済教育 の 最 終目標 が, 子ど
も達が学 校教 育終了 後 も将来に わた って, 時 々刻々と 変化 する金 融 経済情勢 に適 切に
対応できるだけの能力を養うところにあることを明らかにした。
この目標を達成するためには,大きく以下の 2 つの視点を鑑みて教育を実践するこ
とが必要であると考えられる。まず 1 つは,経済理論に基づき個人が自らのライフサ
イクルを考えることを重視する経済教育学の視点である。もう 1 つは,個人が一人の
消費者と して ,また 社 会の構成 員と してよ り 豊かな生 活を 実現し て いく能力 を開 発す
るところ に重 点を置 く 消費者教 育の 視点で あ る。これ ら両 方の視 点 を合わせ 持つ ,す
なわち経 済教 育学と 消 費者教育 学の 融合と し ての新し い金 融経済 教 育を構築 しな けれ
ばならない。
この新 しい金 融経 済教 育を考 える前 に, そも そも教 育をど のよ うに 考える べきか ,
つまり教育の定義・概念を考えることは重要である。すでに第 1 章で見てきたように,
今後金融 経済 教育を 教 育現場で 進め ていく に あたって は, 金融経 済 教育が単 なる 知識
の伝達や ,技 術の紹 介 の手段だ けで あるべ き ではない 。教 育現場 で 行われて いる 金融
経済教育 は, あくま で も教育の 一環 である こ とから, 本来 人間発 達 を目的と して いる
はずである(大藪・杉原,2008)。しかし,現在,諸外国やわが国の金融経済教育は,
それがな され る時点 で の金融・ 経済 に関す る 諸問題を 解決 するた め だけの処 方箋 の提
示,言い 換え れば, 対 症療法的 な知 識の提 供 にその重 心が 置かれ が ちなもの とな って
いる。既に述べたように,このような対症療法的な,一時的な処方箋だけの提示では,
子ども達 が学 校教育 を 終了した 後, 時代の 変 化によっ て発 生する 新 しい金融 トラ ブル
に巻き込まれてしまう恐れがある。
今後, 新しい 金融 経済 教育 に 求めら れる もの は,単 に金融 経済 の知 識のみ を提供 す
るのでは なく ,金融 経 済情報を 自ら 取捨選 択 で き,新 たな 知識を 自 分で読み 解く 力を
つけるこ とで ある。 そ のような 力を つけさ せ る過程に おい ては, 新 しい金融 経済 教育
- 24 -
も,教育 の一 環の中 で 位置づけ られ る以上 , 人間発達 を最 終目的 と していな けれ ばな
らない。 そこ で本章 で は,本博 士論 文を展 開 するため の理 論とし て ,人間発 達と 情報
活動をその基盤に据えることとする。
2.人間発達を目的とした新しい金融経済教育
坂野・大藪・杉原( 2003)が指摘しているように,教育理論を基盤とした新しい金
融経済教 育や 消費者 教 育を構築 する ために は ,教育そ のも のの定 義 に立ち返 った 上で
行っていく 必要がある。
田浦(1967)によれば,教育とは,人間の発達の特質を発展形成させる意図的な人
間間の関 わり ,働き を 指す。こ の定 義を受 容 したとす ると ,次に 問 題となる のは 人間
発達の意味するところである。
この人 間発達 につ いて は,発 達過程 にお ける 主体( 自己) と環 境の 関係の 捉え方 か
ら,以下の 3 つの段階に分けることができる。まず第 1 に,主体(自己)が環境から
多様な価値を吸収し,自己の内面世界を創造する過程(田浦, 1967;今津・浜口・作
田,1979;藤永,1979;梶田,1996 など )である。次に,主体 (自己)が課題を 果
たすために環境や自分自身に働きかけ,自己を創造する過程( ハヴィガースト,1967;
波多野・堀尾,1979;堀尾, 1979ab;園原・岡本, 1979 など)である。最後に,主
体(自己 )が 環境か ら 価値を吸 収し 理解し 順 応しなが ら, さらに 自 らの意志 によ って
環境に働きかけ自己を創造する過程(園原・岡本, 1979; 杉田 , 1984 など )であ る。
発達とは,これらそれぞれの段階において,我々が環境から外的刺激を受けたり,あ
るいは環 境や 自分自 身 への働き かけ を行っ た りするこ とに よって , 多様な価 値 観 を吸
収し,自分のものとして内在 化しながら,主体である自己を創造していくことを指す。
つまり, 発達 とは, 自 分自身を 取り 巻く環 境 とのやり とり による 自 己の創造 と考 える
ことができる。事実,坂野・大藪・杉原( 2003)は発達を「人が自分を取り巻く環境
と様々な 相互 作用を も ちながら ,自 己形成 を していく 過程 」と捉 え ることが でき ると
している。
以上の様な形で人間発達を捉えることで,発達を基盤に据えた教育を,次の 2 つの
方向から捉えることができる。まず第 1 に,人間を真の理想的な人間たらしめる働き
であるものとし,個性の開花・人間形成に寄与するという捉え方(田浦 ,1967;稲富,
- 25 -
1977;堀尾,1979ab;および東京教育大学,1950)である。第 2 に,人間の発達を意
図的に導 くも のとし , 価値の受 容能 力を内 面 世界に育 て, 内面を 通 しての真 理の 再発
見と再構 成の 過程を 通 して,新 たな 自己形 成 ・自己創 造の 基盤を つ くること とし た,
内面世界の変化を重視した捉え方(田浦,1967;今津・浜口・作田,1979;梶田,1996;
ハヴィガースト,1967;および堀尾,1979ab)である。これら 2 つの方向から捉えた
場合には ,教 育とは , 人間の発 達を 理想的 自 我の自己 実現 へと意 図 的に導く ため に ,
内的世界 に価 値の受 容 能力を育 て, 内面を 通 しての真 理の 再発見 と 再構成の 過程 を通
して,新 たな 自己形 成 ・自己創 造の 価値基 盤 をつくっ てい くこと で あると考 える こと
ができる(坂野・大藪・杉原, 2003)。
そこで ,本博 士論 文で はその 全体を 通し て, 教育を 「主体 的な 心を もち活 動をし て
いる人間 に, 価値の 受 容能力を つけ ること で 環境から の情 報を内 的 世界に適 切な 形で
位置づけ ,新 たな自 己 形成・自 己創 造の価 値 基盤をつ くる こと」 と 定義する こと とし
た(坂野・大藪・杉原,2003)。また,本博士論文では,この定義を再度細かく見るこ
とで,人間の発達段階を以下の 3 つに分けられるものとした。第一段階は,主体的な
心を持ち活動している自分を把握する段階で,これを「現状把握」(状況理解・洞察把
握)と呼 ぶこ とにす る 。 この「 現状 把握」 が できた後 に, 第二段 階 として, 価値 の受
容能力が つき ,環境 か らの情報 を内 的世界 に 適切な形 で位 置づけ ら れる段階 で, これ
を「価値の内面化」
(吟味・検討,捉え直し・葛藤・内在化)と呼ぶ。最後に,これらの
「現状把 握」 と「価 値 の内面化 」を 経験し て から,新 たな 自己形 成 ・自己創 造の 価値
基盤を作ることができるようになる段階で,これを「新たな自己 の創造」(実践・価値
実現)と呼ぶ。
以上のような形で,教育の定義から導かれた,人間の発達段階が 3 つに分けられる
という教 育理 論をも と として, 本博 士論文 で は新しい 金融 経済教 育 について 考え ,実
践し,そ して その検 証 を行って いく 。より 具 体的には ,本 博士論 文 の中で扱 われ る新
しい金融 経済 教育 の さ まざまな 方法 は,金 融 経済を題 材と しなが ら も,人間 発達 の各
段階に注 目し つつ, 主 体性を生 み出 す内的 世 界に変化 を及 ぼすこ と をめざす 形で 実践
されていく。上で示した人間発達の 3 つの段階を授業の効果とみなすことで,その実
践された授業がどのような効果をもたらしたかについて明らかにする 19 。
19
人 間 発 達 の 段 階 は ,第 一 段 階 の「 現 状 把 握 」,そ の 上 に「 価 値 の 内 面 化 」,そ し て 最 も 高 次 の 段 階 と し
て 「 自 己 創 造 」 が あ る と 考 え る た め ,「 現 状 把 握 」 の な い 「 価 値 の 内 面 化 」 や 「 自 己 創 造 」,「 価 値 の 内
- 26 -
3.情報活動の視点
上で述べたように,人間発達は 3 つの段階に分けることができるとすると,その第
二段階が ,第 一段階 と 第三段階 の橋 渡し的 な 存在とし て, 重要な 地 位を占め るこ とは
容易に理 解で きる。 こ の人間発 達の 第二段 階 とは,外 から の情報 を 内的世界 に位 置づ
ける「価 値の 内面化 」 の段階で あっ た。し た がって, 人間 発達を 促 すために 最も 重要
な要素は情報であるということができる。
しかし ,現代 の社 会に おいて は,イ ンタ ーネ ットの 普及に よる 情報 流通コ ストの 低
下を背景 に, 膨大な 情 報が溢 れ てい る。我 々 は日々, その ような 膨 大な情報 の中 から
自分にと って 必要な 情 報だけを 取捨 選択す る 必要があ る。 また, 情 報自体が 価値 を持
つように なる と,そ れ をいかに 蓄積 するか も 問題とな る。 そして そ のような 形で 蓄積
された情 報が まとめ ら れたり, 加工 された り ,あるい はそ のまま 活 用された りし て,
さらに発 信さ れてい く 。このよ うに ,現代 社 会を生き 抜い ていく た めには, 必要 な情
報を選び 取る ことの で きる能力 と, それに 効 果的に手 を加 えつつ 活 用 してい く情 報処
理能力が要求されることとなる(大藪・杉原, 2001)。
一方で ,情報 は情 報の ままで も十分 に価 値を 持ちう るもの であ る。 また一 方で, 情
報は独自 の認 知,評 価 ,判断, 価値 ,基準 や 規範等 を 形成 し,我 々 の内的世 界 を 作る
ものである 20 。そのよう にして内的世界が形成されると,実際の行動という形で具体化
する。形 成さ れる価 値 ,基準や 規範 などは , 個人の内 的世 界の発 達 や形成に 深く 関与
しつつも ,逆 にその 人 間の内的 世界 が,個 人 の価値, 基準 や規範 な どを規定 し, 思考
や行動を 決定 づける 。 こうして 形成 された 個 人の内的 世界 が,個 人 の行動と して 表出
したものの総体をライフスタイル(生活様式)と呼ぶ(大藪・杉原,1999)。すなわち ,
情報が人 間の 発達を 促 し,それ によ り個人 の 思考や行 動を 決定し , その結果 とし てラ
イフスタ イル が創出 さ れること とな る。し た がって, 金融 経済問 題 を始め, 消費 者問
題や環境 問題 等を解 決 する可能 性を 持って い るものは ,煎 じつめ れ ば情報で ある とい
える。情報は我々の行動を大きく規定すると同時に(杉山他,1998),持続可能な社会
の構築にも極めて重要な意味を持っているといえるのである( Sugihara and Oyabu ,
1996;大藪・杉原,1998)。
面化」をしていない「自己創造」はないものとする。
20 「 内 的 世 界 」 と は , 杉 原 ( 2001) に お い て は , 外 の 世 界 ( 現 実 ) に 対 し て 名 づ け ら れ た 人 間 の 脳 の
状態とされている。
- 27 -
以下,本博士論文の 第 3 章,第 4 章,第 5 章および第 6 章で,これまで実践してき
た金融経 済教 育の授 業 について 紹介 してい く 。各章に おい ては, そ の授業対 象や 授業
内容が異 なっ たもの と なってい る。 そのよ う に,さま ざま な教育 現 場,状況 にお いて
上で述べ た教 育理論 に 依拠する 形で 金融経 済 教育を実 践し ,その 結 果から情 報活 動と
人間発達の関係について明らかにする。
3.1.
情報活動を基盤に用いた既存研究
我々が 何か 具体的 な 行動を起 こす 際には , 情報が重 要な 意味を 持 っている 。我 々が
日々直面する,金融経済問題,消費者問題や環境問題等の様々な問題を解決するには,
人間の情 報活 動が大 き な役割を 果た すと考 え られ,実 際, これま で も消費者 問題 と情
報活動との関連について多くの研究がなされてきた(杉山他, 1998;辻他, 1998ab;
大藪他,1999;三輪他,1999;坂野他,2004;および大藪他, 2005)。これらの一連
の研究で は, 消費者 を 情報活動 のあ り方に よ っていく つか のタイ プ に分類し た上 で,
消費者の情報活動と製造物責任法( PL 法)や規制緩和等の消費者問題への対応との関
係が分析 され ている 。 それらの 研究 におい て は,情報 活動 が活発 な 消費者は ,消 費者
問題に対 する 意識が 高 く,消費 者問 題解決 の ための行 動を 積極的 に とるこ と が明 らか
とされている 。これに対して ,坂野・大藪・杉原( 2004)は,学校教育において情報
活動の視 点か らの消 費 者教育の 授業 を実践 し ている。 そこ では児 童 を情報活 動に よっ
ていくつ かの タイプ に 分類した 上で ,児童 の 情報活動 と授 業効果 を 分析して いる 。こ
の研究で は, 情報活 動 と授業効 果に は一定 の 関係が見 られ ,情報 活 動が活発 な子 ども
の授業効 果が 高いこ と が明らか とな ってい る 。また, 情報 活動が 活 発な子ど もは 価値
の内面化 が深 まり, 自 己創造が 促さ れるな ど ,人間発 達の 面から も 教育効果 が高 いこ
とが明らかにされている。
以上のような研究を敷衍する形で,本博士論文においては,さまざまな形で,また,
さまざま な児 童・生 徒 ・学生 を 対象 と して , 金融経済 教育 を実践 す る。そし て, 情報
活動と人間発達との関係を分析することで,金融経済教育の効果を明らかにする。
- 28 -
3.2.
情報活動を規定するアンケートの作成
情報活 動に よって 授 業の対象 者を 分類す る ために, 情報 活動を 収 集 ,蓄積 ,活 用,
発信の 4 つに分類し,
「情報活動に関するアンケート」を作成する準備を行った。情報
活動の 4 つの類型に関係するアンケート項目を抽出し,以下の 30 項目とした(金子晃,
1996,および辻他,1998a)。
まず,情報の収集に関する項目は以下の 15 項目である。①新聞は毎日一通り目を通
す,②テレビのニュースを一日一回は見る,③定期購読している雑誌が一冊以上ある,
④折り込 みチ ラシや 新 聞・雑誌 の広 告はよ く 目を通す , ⑤ 送られ て くるダイ レク トメ
ールは一 通り 目を通 す , ⑥テレ ビや ラジオ の CMは, 興味 を持っ て 見聞きす る, ⑦県
や市が発 行し ている 広 報は,よ く目 を通す , ⑧情報誌 をよ く読む , ⑨ 商品や 食品 等の
比較記事 や紹 介記事 を よく読む , ⑩ 買う目 的 がなくて も, よくお 店 をぶらぶ らす る,
⑪新しい 情報 は,人 と の話か ら 得る ことが 多 い, ⑫新 聞や 雑誌や 会 話の中で ,自 分の
知らない 事柄 が出て く ると,人 に聞 いたり , 自分で調 べた りする , ⑬ 利用し たサ ービ
スや,購入した商品にトラブルがあったとき,どこに苦情を申し出るかを知っている,
⑭消費者 セン ターを 知 っている , ⑮ パソコ ン 通信やイ ンタ ーネッ ト で情報を 入手 した
ことがある。
次に,情報の蓄積,処理・活用に関する項目は,以下の 8 項目とした。①新聞や雑
誌などに 関心 のある 事 柄が載っ てい ると, 切 り抜いた りコ ピーし た りする, ②家 電製
品などの 取扱 説明書 や ,食品・ 医薬 品のラ ベ ルを保存 して おり, 必 要なと き には 取り
出せるよ うに なって い る, ③友 達と 比べる と ,新しい 商品 や事柄 に ついてよ く知 って
いるほう だ, ④食品 や 衣料品な どを 購入す る とき,賞 味期 限や品 質 表示マー クを 確か
めて購入 する , ⑤チ ラ シや広告 を参 考にし て ,店を訪 ねた り,商 品 を購入す る, ⑥新
しい食品 が発 売され る と,まず 買っ て試し た くなるほ うだ , ⑦新 し い料理を 番組 で見
たり,人 から 聞いた り するとさ っそ く作っ て みる, ⑧ 家電 製品等 の 操作で分 から ない
ときは,取扱説明書を読む。
最後に,情報の発信に関する項目は,以下の 7 項目を設定した。①知らない人と同
席したと き, 自分の ほ うから話 しか けるほ う だ, ②市 民講 座等に よ く参加す る, ③何
かサーク ルに 参加し て いる, ④ 自分 が買っ た 商品や, 利用 したサ ー ビスにつ いて よく
人に話す,⑤自分で買った商品や,利用したサービスに不満があったときは申し出る,
- 29 -
⑥新聞や 雑誌 に投稿 し たりする , ⑦ 商品を 購 入したと き等 につい て くるアン ケー トは
よく出すほうだ。
しかし,これら 30 項目の「情報に関するアンケート」を実施した際,
(辻他,1998a),
回答者が ほと んどい な い項目や ,回 答者数 が 極端に低 い項 目が現 れ てしまっ た。 そこ
で,そのような項目を削除し,全 12 項目の質問を「情報活動に関するアンケート」と
して改めて設定することとした。
その結果,情報の収集は,以下の 5 項目となった。①テレビのニュースを一日一回
は見る, ②毎 月買っ て くる 雑誌 があ る, ③ イ ンターネ ット やタウ ン 誌で情報 をよ くチ
ェックす る , ④買う も のがなく ても お店に 行 っていろ いろ なもの を 見る, ⑤ 新し いこ
とを知る時は,人から聞くことが多い。同様に,情報の蓄積については以下の 2 項目
となった 。 ① 利用し た サービス や買 ったも の に問題が あっ た時, ど こに言え ばよ いか
知ってい る, ②消費 生 活センタ ーを 知って い る。また ,情 報の活 用 につい て は, 以下
の 3 項目となった。①お菓子や文房具を買う時,
「賞味期限」やマーク を確かめて買う,
②電気製 品な どの取 り 扱い説明 書や 薬のラ ベ ルはしま って あり, す ぐに見る こと がで
きるよう にな ってい る , ③電気 製品 などの 使 い方で分 から ない時 は ,説明書 を読 んで
もらったり,自分で読んだりする。最後に,情報の発信は,以下の 2 項目となった。
①自分で 買っ た商品 や 利用した サー ビスに 不 満があっ た時 は,店 の 人にすぐ 言う , ②
商品を買った時などについてくるアンケートはよく出すほうだ。
これらの 12 項目を,第 3 章,第 4 章,第 5 章および第 6 章の「情報活動に関するア
ンケート 」に 用いた 。 そしてこ のア ンケー ト 結果によ って ,対象 者 を情報活 動グ ルー
プに分類した。
4.
授業実践に必要な 4 つの視点
本博士 論文 では, 情 報活動を 基盤 としな が ら,人間 発達 を促す こ とを目的 に, 金融
経済教育 を題 材とし た 授業案を 作成 ・実践 し ,児童・ 生徒 ・学生 の 情報活動 別の 授業
効果を分析することを目的としている。次の第 3 章では大学生を対象としたため,情
報活動を 基盤 としな が ら,人間 発達 を促す 視 点のみに 着目 し,パ イ ロット授 業と して
実践した。第 4 章,第 5 章および第 6 章では,この人間発達を促す視点に加えて,授
業実践をする際に必要な要素として,
「生活システムの規模」,
「モノ・サービスのライ
- 30 -
フサイクル」,「学習指導要領の領域」と「 3F」の 4 つの視点を新たに組み込むことに
した。
第 1 の「生活システムの規模」とは,我々の社会を構成している様々なシステムの
規模を意味している。システムとは,ベルタランフィ( 1976)の定義によると,
「多く
の要素が 互い に関係 し あいなが ら, 全体と し てある有 機的 なまと ま りをもち ,機 能す
るもの」である。また,ルーマン(1993)によれば, 人間の社会は,様々なシステム
の集合体 であ るとさ れ ている。 具体 的には , 人間の社 会は , 個人 , 家庭,企 業, 地域
社会,自 治体 ,国家 , 国家連合 体, 地球な ど から成っ てい る とい え る 。これ らを シス
テムの大きさの観点から,個人や家庭などの「小規模システム」,地域社会や企業など
の「中規模システム」,そして国や国家連合体,地球などの「大規模システム」の大き
く 3 つに分けることができる。 それぞれのシステムは図 2-1 に見られるように,より
大きなシステムに包含され,そのシステムを構成する要素となる(杉原, 2001)。
授業実 践をす る場 合, 対象学 年や授 業で の子 どもの 達成度 の視 点 か ら,シ ステム の
どの規模 を対 象とす る のかをあ らか じめ明 ら かにして おく 必要が あ る。また 一つ の授
業の中で も, 場面に 応 じてシス テム の規模 を 変えなが ら, 授業を 進 めていく こと があ
るが,その場合もどの規模の視点で授業をするのかを決めておく必要がある。
第 2 の「モノ・サービスのライフサイクル」の視点は,上記で示したシステムと関
連してい る。 すなわ ち ,人間を 含め ,多く の 要素が有 機的 に作用 し てシステ ムを 構成
している 。そ してシ ス テムが恒 常的 に働く に は,入力 (イ ンプッ ト )と出力 (ア ウト
プット)が必要である(杉原, 2001)。
モノやサービスが家庭で使われる場合を想定すると,
「小規模システム」である家庭
に,モノやサービスが購入(インプット)され,それが使われ(プロセス),廃棄(ア
ウトプッ ト) される 。 モノやサ ービ スの側 か ら見れば ,こ の流れ は モノやサ ービ スの
ライフサ イク ルを示 し ている。 授業 をする 場 合,授業 の目 標に合 わ せて,モ ノや サー
ビスのライフサイクルのどの時点を取り上げるのかを設定しておく必要がある。
第 3 の「学習指導要領の領域」の視点は,小学校,中学校および高等学校で授業を
する場合 に必 須の視 点 である。 より 具体的 に は,授業 実践 をする 時 には,学 習指 導要
領で設定しているどの教科の,どの領域の事柄を扱うのかを設定しておく必要がある。
金融経済教育は,一般的に家庭科と社会科で扱われることが多い。例えば家庭科なら,
小学校と 中学校 では「 家族・家 庭と子 どもの 成長」,「食 生活と 自立 」,「衣生活 ・住 生
- 31 -
活と自立」と「身近な消費生活の環境」の 4 つの領域がある。どの領域においてもお
金に関す る授 業は可 能 であるの で, 授業を 組 み立てる とき に,ど の 領域を対 象と する
のかを決めておく必要がある。
第 4 の「3F」の視点は,人間にとって有効な,意味のある情報のメルクマールを意
味する(杉原,2001)。3F は,新鮮さ( Freshness),おもしろさ(Fun),そして自由
(Freedom)の英語の頭文字をとっている。おもしろさ( Fun)とは,「人間の知的刺
激」の ことで あり, 自 由( Freedom) とは, 人間の 発達と それを 支 援する 教育は ,自
由度が保 障さ れては じ めて成り 立つ ことを 意 味してい る。 授業は 「 情報」そ のも ので
ある。授 業内 容が新 し く,対象 者の 知的好 奇 心が刺激 され るおも し ろいもの であ り,
自由度があるものでなければ,人間発達は促せない。そのため,
「 3F」の視点を授業案
に取り入れることは極めて重要となる。
以上,本博士論文では,人間発達と情報を新しい金融経済教育の理論に据え,4 つの
視点を加 えな がら金 融 経済教育 の授 業実践 を 行い,情 報活 動と人 間 発達の関 係か ら,
授業の効果を明らかにする。
- 32 -
図 2-1
生活システムの規模
大規模システム
国家・国家連合体
中規模システム
小規模システム
- 33 -
第3章
新しい金融経済教育の実践 1.
大学生を対象とした金融経済教育
1.
はじめに
近年,インターネットやスマートフォンの急速な普及を背景として,現金を決済手
段としない契約が身近なものとなってきた。こ れに伴い,子ども達が金融トラブルに
巻き込まれる事例も発生しており,学校教育における金融経済教育に対する関心が高
まっている 21 。
しかし教育現場では,金融経済教育の重要性を理解していながらも,その担い手不
足に直面している。このような中,近年は一般社団法人全国銀行協会などの各業界団
体や地域の金融機関が金融経済教育のプログラムを開発し,教育現場との協力関係を
模索しており,今後の金融経済教育の新たな担い手として期待されている(奥田,2012)。
地域に密着した地域金融機関による地元の小学校,中学校,高校および大学での 金
融経済をテーマとした出前授業の実施は,消費者の消費生活知識の向上を図る取り組
みとして位置づけることができる 22 。また,「金融経済教育研究会報告書」では,特に
大学の教養課程で金融リテラシーを向上させる教育を実施する必要があると指摘して
おり,金融経済教育の推進にあたり,各業界団体・金融機関等は重要な担い手である
として,積極的な取組みを求めている 23 。
本博士論文の金融経済教育に対する考え方は,第 2 章で述べた情報活動を基盤とし
て,人間発達を促すという新しい視点を内容と方法に加え,教材や授業方法を工夫す
るというところ にある。それにより,子ども達が学校教育終了後も将来にわたって,
時々刻々と変化する金融経済情勢に適切に対応できる能力を養うことができるように
なることを,最終的な目標に据えている。
21
国民生活センターウェブサイトによる。
2012 年 に 成 立 し た 「 消 費 者 教 育 に 推 進 に 関 す る 法 律 」 の 第 7 条 で は , 事 業 者 に も 消 費 者 団 体 と の 情
報 交 換 な ど の 連 携 を 通 じ ,消 費 者 の 消 費 生 活 知 識 の 向 上 を 図 る 取 り 組 み を す る よ う 努 力 規 定 を 設 け て い
る ( 消 費 者 庁 ウ ェ ブ サ イ ト )。
23 「 金 融 経 済 教 育 研 究 会 報 告 書 」
( 金 融 庁 ,2013)に よ れ ば ,金 融 経 済 教 育 の 意 義 ・ 目 的 は ,金 融 リ テ
ラ シ ー の 向 上 を 通 じ て ,国 民 一 人 一 人 が ,経 済 的 に 自 立 し , よ り 良 い 暮 ら し を 送 っ て い く こ と を 可 能 と
するとともに,健全で質の高い金融商品の提供の促進や家計金融資産の有効活用を通じ,公正で持続可
能な社会の実現にも貢献していくことにある。
22
- 34 -
本章では, 第 2 章で提示した教育理論を基に, 社会人になる前で最も金融経済が身
近である大学生に対して,地域金融機関が実践している金融経済教育の講義について
紹介する。そして,講義後における受講者の人間発達を分析し,講義の効果を検証す
る 24 。
2.
方法
本章は,「情報 活動に 関するア ンケー ト」,「 金融に関 するア ンケー ト」,講 義案の 作
成,講義 実践 ,講義 後 の感想の 人間 発達の 視 点からの 分析 および 事 後の「金 融に 関す
るアンケート」の分析から成っている。
まず, 講義前 に行 う「 情報活 動に関 する アン ケート 」によ って ,学 生の情 報活動 を
明らかにした(表 3-1,複数回答)。質問項目は,第 2 章で作成した以下に示す 12 項
目である。
「収集」は以下の 5 項目である。①テレビのニュースを一日一回は見る,②
毎月買ってくる雑誌がある,③インターネットやタウン誌で情報をよくチェックする,
④買うものがなくてもお店に行っていろいろなものを見る,⑤新しいことを知る時は,
人から聞くことが多い。
「蓄積」については以下の 2 項目である。①利用したサービス
や買った もの に問題 が あった時 ,ど こに言 え ばよいか 知っ ている , ② 消費生 活セ ンタ
ーを知っている。また,情報の 「活用」については,以下の 3 項目となった。①お菓
子や文房具を買う時に,
「賞味期限」やマークを確かめて買う,②電気製品などの取り
扱い説明書や薬のラベルはしまってあり,すぐに見ることができるようになっている,
③電気製 品な どの使 い 方で分か らな い時は , 説明書を 読ん でもら っ たり,自 分で 読ん
だりする。最後に情報の「発信」は以下の 2 項目である。①自分で買った商品や利用
したサー ビス に不満 が あった時 は, 店の人 に すぐ言う , ② 商品を 買 った時な どに つい
てくるアンケートはよく出すほうだ。
上の「 情報活 動に 関す るアン ケート 」と 並ん で,講 義前の 「金 融に 関する アンケ ー
ト」を行 った 。これ に よって, 学生 の金融 知 識等を事 前に 把握し た 。このア ンケ ート
は,①金融について(理解度,関心度),②金融教育について(有無,有用性,担い手,
場所),③金融情報について(情報源,活用の場面,情報提供の媒体,ネット利用)お
24
本章での授業実践は,第 4 章,第 5 章,第 6 章に続く授業実践と効果分析のパイロット的な位置づ
けにある。このため,情報活動を基盤とし,人間発達を促す視点のみを授業に取り入れて実践した。
- 35 -
よび④金融トラブルについて(有無,対処法)という質問項目から成っている。
これらのアンケート結果を参考に講義案を作成し,講義を実践した。また第 2 章で
示した人 間発 達の影 響 を明らか にす るため に ,講義後 のア ンケー ト の中で, 自由 に感
想を記述する欄を設けた。その記述内容を,人間発達の 3 つの発達段階である「現状
把握」,「 価値の 内面化 」および 「自己 創造」 に分類し た。さ らに講 義の効果 を明ら か
にするために,2 ヵ月後に再び「金融に関するアンケート」の理解度と関心度に関して
のみアンケートを行い,その変化を分析した。
3.
結果
3.1.
属性
授業実践( 2013 年 5 月 27 日)の対象者は,G 大学全学共通教 育の「生活の経済と
法律」の講義の受講者 110 名で,男子 72 名(65.5%),女子 38 名(34.5%)である。
所属学部は工学部 64 名(58%),応用生物学部 24 名(21.8%),地域科学部 9 名(8.2%),
教育学部 7 名(6.4%),および医学部 6 名(5.5%)である。学年はほとんどが 1 年生
であった(104 名,94.5%)。
「生活の経済と法律」は半期の講義であり,前半の家計に
関する内 容( 家計の 成 り立ち, 家計 簿記帳 の 方法,家 計法 則,ラ イ フサイク ル別 にか
かる費用など),そして後半の消費者関連の法律(消費者契約法,特 定商取引法,クー
リング・ オフ 制度な ど )から成 って いる。 本 講義は, 前半 の家計 に 関する講 義終 了後
に実践した。
3.2.
「情報活動に関するアンケート」結果
前節でみた「情報活動に関するアンケート」
(表 3-1)より,
「活用」の「電気製品な
どの使い方で分からない時は,説明書を読んでもらったり,自分で読んだりする」
(78.2%)が最も多く,次いで「収集」の「テレビのニュースを一日一回は見る」
( 70.9%)
となった。続いて「活用」の「お菓子や文房具を買う時に,『賞味期限 』やマークを確
か め て 買 う 」( 58.2%),「 収 集 」 の 「 新 し い こ と を 知 る 時 は , 人 か ら 聞 く こ と が 多 い 」
(50.0%)の順となった。情報活動の内容でみると,
「収集( 243 件)」,
「活用(202 件)」,
- 36 -
「蓄積(60 件)」そして「発信(24 件)」の順となったが,その平均を見ると,
「活用」
が 61.2%,「収集」が 44.2%,「蓄積」が 27.3%,「発信」が 10.9%となり,情報活動
の「活用 」と 「収集 」 が活発で ある ことが 分 かる。以 上の ことよ り ,講義は ,受 講者
の「収集 」と 「活用 」 が活発で ある という 情 報活動の 特性 に合わ せ て,今後 時々 刻々
と変化す る金 融経済 情 勢を把握 する た めに 必 要な情報 と今 後の金 融 経済に関 する 情報
の活用を促す内容に重点を置くこととした。
3.3.
「金融に関するアンケート」結果
まず, 講義 前に受 講 者が既に 有し ている 金 融に関す る知 識の水 準 や意識の 高さ につ
いて明ら かに する。 こ の目的の ため に,講 義 前に「金 融に 関する ア ンケート 」を 実施
した。
3.3.1.
金融について
金融についての理解度は,表 3-2 に示す 25 項目からあてはまるもの全てを選択させ
ることで分 析した (複 数回答)。そ の結果,「 利子」,「デ フレ・イ ン フレ」,「預 貯金」,
「生命保険」については 7 割以上が内容を理解していると答えた。一方,「金融緩和」
や「アベノミクス」など近年の経済状況に関しては半分以下となり,「改正貸金業法」
は誰も理解していなかった。
一般的 に理解 度の 測定 は,あ る項目 に対 して いくつ かの質 問を する ことに よって 行
う場合が多い。しかし本章では,質問項目数が多いことを考慮し,「次に示す言葉で 内
容を理解しているもの 全てに○をつけなさい」という自己申告式で尋ねた。その結果,
マスコミの報道等で認知度が高いと思われる「アベノミクス」の理解度は 3 割程度と
低かった 。こ のこと か ら,受講 者は 単に言 葉 を聞いた こ と がある と いう程度 の認 識で
「理解し てい る」と 回 答するこ とな く,実 際 に理解し てい るかど う かを考え て回 答し
ていると推測される。
関心度については,「円安・円高の影響」,「デフレ・インフレの影響」,「アベノミク
ス」に半 分以 上の回 答 が見られ たこ とから , 近年の経 済情 勢につ い てよく理 解は して
いないものの,関心は持っていることが分かる。その一方で,「財形貯蓄」や「債券」
- 37 -
などの金融商品に関するキーワードには,ほとんど関心を示さなかった。
3.3.2.
金融経済教育について
これまで金融経済教育を受けたことがある受講者は 22 名(20.0%)と少なく,大部
分は金融経済教育を受けていないことが明らかとなった(表 3-3)。金融経済教育の有
用性については,
「役だっている」と「少しは役だっている」を合わせると 9 割近くが
有用と感 じて いる。 ま た,社会 にお いて金 融 経済教育 をど のよう な 主体が, ある いは
どのよう な場 が担う べ きである かと いう, 金 融経済教 育の 役割分 担 について は, 半数
以上の受 講者 は,今 後 も学校教 育の 特に高 校 と中学で 行う とよい と 考えてい るこ とが
明らかとなった。
3.3.3.
金融情報について
主要な金融情報源と活用,提供媒体,ネ ット利用について尋ねた結果( 3 つ以内の複
数回答で選択肢を選択),金融情報源は「テレビ,新聞,雑誌」と「インターネット」
が最 も多 くな った ( 表 3-4)。 次い で「 授 業」 およ び「 家族 や友 人と の会 話」 が多 い。
「窓口や 担当 者の説 明 」や「パ ンフ レット 」 はほとん ど活 用され て いなかっ た。 どの
ような目的で金融情報を活用したいかについては,
「トラブルや損失の防御」,
「将来の
生活設計 」お よび「 家 計運営」 に対 する希 望 が半数以 上を 占めた 。 その一方 「金 融資
産を増やす」については少なかった( 18.2%)。これらの結果より,金融情報の活用に
関しては堅実な姿が伺える。
今後, 金融経 済に 関す る情報 提供を 受け る場 合には ,どの 媒体 を望 むのか を尋ね た
ところ,
「授業」
(76.4%)が最も多く,多くの受講者が授業を通じた情報提供を望んで
いることが分かる。次いで,
「インターネット」,
「新聞・雑誌等」,
「講演会やセミナー」
が続く。金融情報をインターネットから取得,活用しているかについては,
「時々利用
している」と「良く利用している」を合わせると 42.8%を占めており,さらに「今は
利用していないが,今後利用予定がある」と答えた受講者も加えると 7 割にのぼる。
このよう に, 今後は 授 業とイン ター ネット で の情報提 供が 大学生 に は有効で ある とい
える。
- 38 -
3.3.4.
金融トラブルについて
金融ト ラブル の有 無と トラブ ルの対 処方 法を 尋ねた 結果, 実際 に金 融トラ ブルに あ
ったことがある受講者はいなかった(表 3-5)。トラブルにあった場合の対処方法を尋
ねた結果(1 つ選択),「家族や友人に相談」が最も多かった( 74.5%)。一方,「消費生
活センター等に相談」(8.2%),「警察に相 談」( 6.4%),「金融機 関等に相談」( 5.5%)
等の結果 から 専門機 関 に相談す る人 は少な か ったこと がわ かる。 ほ とん どの 受講 者は
身近な家族や友人に相談しようと考える傾向があることが明らかとなった。
3.4.
講義案の作成及び講義実践
上の受講者の「情報活動に関するアンケート」結果から,「収集」と「活用」が活発
であることが明らかとなった。これまでの研究(大藪・杉原・坂野,2005;大藪,2014;
大藪・奥田,2013; および坂野・大藪・杉 原, 2003, 2004)よ り,「収集」 活動が高
いと人間 発達 が促さ れ ることが 明ら かとな っ ているた め, 講義で は 主として 受講 者が
「収集」 でき る情報 を 提供し, それ を実生 活 に「活用 」で きる内 容 を 考える こと とし
た。それに加えて,
「金融に関するアンケート」結果からは,近年の経済情勢に関心を
持ちながらも理解していないことが明らかになった。そのため,講義で扱う内容には,
近年の経済情勢の代表としてアベノミクスを取り上げる方向とした。
また, 消費者 教育 推進 のため の体系 的プ ログ ラム研 究会の イメ ージ マップ (同研 究
会,2012)では,大学生を含む成人期の若者の特徴を「生活において自立を進め,消
費生活の スタ イルや 価 値観を確 立し 自らの 行 動を始め る時 期」と し ており, 具体 的な
目標の一つとして「消費がもつ影響力の理解」の中で ,「生産・流通・消費・廃棄が環
境,経済,社会に与える影響を考える習慣を身につけよう」を掲げている。そのため,
アベノミクスの経済政策だけでなく,家計への影響を考える内容を含めることとした。
「生活の 経済 と法律 」 の講義で は, 経済に つ いては家 計に 関わる 内 容のみを 扱っ てい
ることから,国家経済と家計に関する内容に触れることは有意義であると考えられる。
さらに,金融機関による講義であることから,金融機関に関する知識提供も行った。
以上の ことか ら, 講義 のテー マを「 国家 経済 と家計 の関係 」と し, 銀行の 役割, そ
してアベノミクスと家 計に対する効果の 2 点に絞った講義を実践した。
- 39 -
講義内容は ,金融機 関 における地 方銀行の 位 置づけにつ いて確認 し た後,銀行 の 3
つの業務 (預 金,貸 出 および為 替) と機能 ( 資金仲介 機能 ,信用 創 造機能お よび 資金
決済機能 )に ついて 解 説を行っ た。 次いで , アベノミ クス の政策 と 家計への 影響 (図
3-1)と政策による円安・円高のメリットとデメリット(図 3-2)について説明した。
3.5.
人間発達の視点からの分析
講義終了後に,講義に関する感想を記述させた。この記述内容を第 2 章で述べた人
間発達段階である「現状把握」,「価値の内 面化」および「自己創造」の 3 つに分類し
た。具体的には,以下のような手順で分析した。
「現状把握」には,
「銀行の仕組みが分かった」,
「経済政策と家計の関係が分かった」
など,講義で扱った内容(現状)が理解できたといった内容の記述が該当する。「価値
の内面化」は,
「しくみは理解できたが,本当に経済政策が機能するのだろうか」など,
「現状把 握」 をした 結 果生じる ,内 面の変 化 や葛藤が 生じ ている 内 容の記述 が該 当す
る。「自 己創造 」は,「 このよう な経済 政策の 変化を家 計がど のよう に受ける かを確 認
したい」など,「現状把握」,「価値の 内面化」を踏まえて,自分なら今後どうしたいか
を記述している内容が該当する。
記述を人間発達の視点で分類した結果(表 3-6),「現状把握」(43.1%)が最も多か
った。しかし,「価値の内面化」と「自己創造」もそれぞれ 28.4%となり,半数の受講
者の人間発達が高次であることが明らかとなった。
「現状把握」では,「アベノミクスについて理解できた」( 81 件,75.7%)とコメン
トしていた 受講者が最も多く,次いで「銀行の役割が理解できた」( 50 件,46.7%)と
なった。 他には 「信用 創造の仕 組みが 面白い 」,「経済 の動 き が分か った」等 の記述 が
あった。 これ らより , 事前アン ケー トで関 心 はあるが 内容 を理解 し ていない 項目 であ
った現在の経済状況について,講義によって理解・関心を促すことができた。
「価値の内面化」に該当する記述をその内容から分類すると,
「漠然とした不安や期
待」
(19 件),
「経済」
( 8 件),
「家計負担」
(4 件),
「物価問題」
( 3 件)と「円安の不安」
(2 件)に分類できた。講義を受けることによって,現在の経済政策の正当性やその効
果に疑問や葛藤が生じていることが分かる。「家計負担」,「物価問題」,「円安の不安」
等は,こ れま で知ら な かった経 済の 動きや 政 策を理解 した ことか ら 生じてい るた め,
- 40 -
講義によ り, 受講者 の 内的世界 に変 化がみ ら れ,これ らの 物事を 自 分で考え るこ とが
できるようになっていることが分かる。
最後に「自己創造」に該当する記述をみると,「もっと勉強したい,調べたい,メリ
ット・デメリットを考えたい」という情報収集に関する内容が 20 件と最も多く,次い
で「授業や生 活に活か したい,参院 選に備え たい」という 情報活用 に関する内容 が 6
件となっ た。 さらに 「 自分の意 見を 言える よ うになり たい 」など の 情報発信 に関 する
内容も見られた 25 。
このよう に情 報の「 収 集」,「活 用」 に焦点 を あてた今 回の 講義を 通 じて,も っと 情
報収集を 自主 的に進 め たい,今 回の 情報を 活 用してい きた いとい っ た受講者 の気 持ち
が促され た。 さらに 情 報の「発 信」 にまで 受 講者 の情 報活 動が広 が り,講義 によ って
受講者の情報活動が進み,高次の人間発達段階を示した。
3.6.
事後アンケートによる理解度・関心度の変化
金融に関する理解度と関心度の変化を明らかにするために,講義の 2 ヵ月後に再び
「金融に 関す るアン ケ ート」の 理解 度と関 心 度に関し ての みアン ケ ートを実 施し ,マ
クネマー検定を用いて同じ項目の 対応のある比率の差を検定した。表 3-7 より,7 項目
について 理解度 が高く なった。 講義前 は「利 子」,「デ フレ・ インフ レの影響 」およ び
「預貯金 」の理 解度が 最も高か ったが ,講義 後は「都 市銀行 」,「ア ベノミク ス」お よ
び「地方銀行」の理解度が最も高まっており,「金融商品販売法」,「都市銀行」,「アベ
ノミクス 」お よび「 地 方銀行」 等を 理解し て いると答 えた 受講者 が 増加して いる 。し
たがって ,銀 行の役 割 とアベノ ミク スに焦 点 を絞った 講義 の効果 が 表れてい ると いえ
る。
一方,関心については,表 3-8 にあるように,講義前のアンケート上位 3 項目は「円
安・円高 の影響 」,「デ フレ・イ ンフレ の影響 」と「ア ベノミ クス」 であった が,講 義
後は 13 項目で関心度が高まった。「多重債務」,「債券」,「損害保険」など,授業前に
は関心が低かった項目についても関心を広げている。また「金融緩和」も 2 倍に増加
している こと から, 講 義によっ てア ベノミ ク ス政策の 「金 融緩和 」 への関心 が高 まっ
25
講 義 の 実 施 は 2013 年 5 月 27 日 で ,第 23 回 参 議 院 議 員 通 常 選 挙( 2013 年 7 月 4 日 公 示 ,7 月 21 日
投開票)の直前であった。
- 41 -
たと考えられる。
4.
まとめ
本章で は,地 域金 融機 関が大 学生に 対し て実 践して いる金 融経 済の 講義に ついて 紹
介した。 そし て,講 義 後に受講 者の 人間発 達 を分析し ,講 義の効 果 を検証し た。 この
結果,受 講者 の情報 活 動は「収 集」 と「活 用 」が極め て活 発であ る ことが分 かっ た。
この情報 活動 を活か す ために, 金融 経済知 識 の提供を 重視 しなが ら もその知 識が 「活
用」に結びつきやすい情報を提供することとした。
また, 事前の 「金 融に 関する アンケ ート 」か ら,最 近の政 策に 関心 はある が理解 し
ていない 実態 が明ら か となった 。こ のため , 金融情報 とし てアベ ノ ミクスの 政策 と家
計への影響について,銀行の役割とともに講義を行った。
講義の結果,約半数は講義内容を理解し(「現状把握」),銀行の役割やアベノミクス
について 知る ことが で きてよか った と感じ て いる。一 方, 約半数 は 単に理解 した だけ
でなく,「価値の内面化」や「自己創造」まで進んでいることが明らかとなった。講義
を聞いて疑問に感じたり,不安に感じることで,
「現状把握」以降の発達段階を示して
いた。またそのような疑問から,もっと自分で調べてみたい(収集),生活に活かした
い(活用),意見を言えるようになりたい(発信)と考えていることから,今回の講義
が単に金 融経 済情報 の 提供に留 まら ず,受 講 者の人間 発達 を促す と 同時に情 報活 動を
活発化させることができたことが明らかとなった。
さらに ,講義 前後 の「 金融に 関する アン ケー ト」か ら理解 度と 関心 度を比 較した 。
この結果 ,講 義内容 の 銀行の役 割と アベノ ミ クスに対 する 理解度 と 関心度が 高く なっ
たことから,講義の効果を明らかにすることができた。
以上, 本章で 行っ た研 究では ,情報 活動 と人 間発達 が密接 に結 びつ いてい るとい う
理論のも と, 事前に 受 講者の情 報活 動と金 融 に関する 意識 や 関心 を 明らかに した 上で
講義案を作成・実践することによって,受講 者の人間発達を向上させることができた。
また事後 アン ケート か らも講義 の有 用性を 明 らかにす るこ とがで き た。 ただ し, 本章
では,情 報活 動別の グ ループを 作成 しなか っ たので, 情報 活動別 に どのよう な人 間発
達を示す のか を明ら か にするこ とは できな か った。こ のた め,次 章 からは情 報活 動に
関するア ンケ ートを 用 いて ,単 に対 象者全 体 の特徴を 明ら かにす る だけでな く, 対象
- 42 -
者を情報 活動 グルー プ に分類し ,そ れぞれ が どのよう な人 間発達 段 階を示し ,講 義に
よってど のよ うに変 化 するのか を明 らかに し たい。そ うす ること に よって, より 効果
的な講義 案を 作成す る ことが可 能と なり, 受 講者 の人 間発 達を促 す ことがで きる と考
えられる。
- 43 -
表 3-1
「情報活動に関するアンケート」結果
項目
該当数* 割合(%)
テレビのニュースを一日一回は見る
78
70.9
毎月買ってくる雑誌がある
15
13.6
収集 インターネットやタウン誌で情報をよくチェックする
43
39.1
買うものがなくてもお店に行っていろいろなものを見る
52
47.3
新しいことを知る時は、人から聞くことが多い
55
50.0
合計(割合は平均)
243
44.2
利用したサービスや買ったものに問題があった時、どこに言えばよいか知っている
20
18.2
蓄積
消費生活センターを知っている
40
36.4
合計(割合は平均)
60
27.3
お菓子や文房具を買う時に、「賞味期限」やマークを確かめて買う
64
58.2
電気製品などの取り扱い説明書や薬のラベルはしまってあり、すぐに見ることができ
52
47.3
活用 るようになっている
電気製品などの使い方で分からない時は、説明書を読んでもらったり、自分で読ん
86
78.2
だりする
合計(割合は平均)
202
61.2
自分で買った商品や利用したサービスに不満があった時は、店の人にすぐ言う
17
15.5
発信
商品を買った時などについてくるアンケートはよく出すほうだ
7
6.4
合計(割合は平均)
24
10.9
*複数回答である。割合は、全体の回答者110人のうち、何%が選択したかを示している。
- 44 -
表 3-2
理
解
度
(
理
解
し
て
い
る
)
関
心
度
(
関
心
が
あ
る
金融につ いて
)
項目
利子
デフレ・インフレ
預貯金
生命保険
クレジット
自己破産
為替
株式投資
損害保険
金融緩和
多重債務
リスクとリターン
地方銀行
固定金利
アベノミクス
インターネットバンキング
外貨預金
債券
リボルビング払い
都市銀行
マネーストック
投資信託
財形貯蓄
金融商品販売法
改正貸金業法
円安・円高の影響
デフレ・インフレの影響
アベノミクス
年金保険
生命保険
クレジット
株式投資
金融緩和
インターネットバンキング
自己破産
投資信託
損害保険
外貨預金
リボルビング払い
財形貯蓄
債券
多重債務
*
該当数
97
94
81
78
75
59
53
51
47
42
41
39
37
36
35
34
29
27
21
20
17
11
10
2
0
70
60
57
34
33
23
21
15
13
12
10
8
7
7
5
2
1
割合(%)
88.2
85.5
73.6
70.9
68.2
53.6
48.2
46.4
42.7
38.2
37.3
35.5
33.6
32.7
31.8
30.9
26.4
24.5
19.1
18.2
15.5
10.0
9.1
1.8
0.0
63.6
54.5
51.8
30.9
30.0
20.9
19.1
13.6
11.8
10.9
9.1
7.3
6.4
6.4
4.5
1.8
0.9
* 複数回答である。割合は、全体の回答者110人のうち、何%が選択し
たかを示している。
- 45 -
表 3-3
有
無
有
用
性
担
い
手
場
所
金融経済教育について
項目
金融経済教育経験あり
金融経済教育経験なし
役だっている
少しは役だっている
ほとんど役だっていない
学校教育
家庭
分からない
その他
小学校
中学校
高校
県や市町村等での講義
その他
該当数
22
88
6
14
2
60
14
23
9
0
9
12
0
1
割合(%)
20.0
80.0
27.3
63.6
9.1
54.5
12.7
20.9
8.2
0.0
40.9
54.5
0.0
4.5
注)全体の回答者は110人であり、それぞれの項目で1つを選択している。
- 46 -
表 3-4
情
報
源
情
報
いを
場活
面用
し
た
情
報
提
希
供
望
の
媒
体
金
融
利の
用ネ
ッ
ト
金融情報について
項目
テレビ,新聞,雑誌
インターネット
授業
家族や友人との会話
テレビ新聞雑誌の広告
書籍
窓口や担当者の説明
パンフレット
業界外のパンフレット
その他
トラブルや損失の防御
将来の生活設計
家計運営
教養や視野拡大
自立する判断力向上
金融資産を増やす
その他
授業
インターネット
新聞・雑誌等
講演会やセミナー
パンフ、冊子、ビデオ
メールマガジン
その他
良く利用している
時々利用している
今は利用していないが、今
後利用予定がある
利用する予定なし
該当数*
76
58
42
40
28
17
3
1
1
0
71
70
61
38
31
20
0
84
53
47
34
30
16
1
7
割合(%)
69.1
52.7
38.2
36.4
25.5
15.5
2.7
0.9
0.9
0.0
64.5
63.6
55.5
34.5
28.2
18.2
0.0
76.4
48.2
42.7
30.9
27.3
14.5
0.9
6.4
40
36.4
31
28.2
30
27.3
* 複数回答である。割合は、全体の回答者110人のうち、何%が選択したか
を示している。
- 47 -
表 3-5
金
ル
融
の
ト
有
ラ
無
ブ
ト
ラ
ブ
方
ル
法
の
対
処
金融トラブルについて
項目
あいまいなまま購入したこと
がある
購入を勧められて購入して
後悔したことがある
該当数
ない
家族や友人に相談
消費生活センター等に相談
警察に相談
金融機関等に相談
弁護士や司法書士に相談
何もしない
その他
割合(%)
0
0.0
0
0.0
110
82
9
7
6
2
2
0
100.0
74.5
8.2
6.4
5.5
1.8
1.8
0.0
注)全体の回答者は110人であり、それぞれの項目で1つを選択している。
図 3-1
アベノミクスの政策と家計への影響
お金の流れを良くして景気を刺激
日銀
資金供給量
を増やす
銀行
貸出量
を増やす
②機動的な
財政政策
①大胆な
金融緩和
(公共事業)
円の流通が増え
「円安」になる
目標
物価上昇
デフレ脱却
家計が潤い、
モノ・サービスが
よく売れるようになり、
需給が引き締まる
- 48 -
企業
③民間投資を喚起
する成長戦略
ビジネス活発化
雇用・給与改善
家計
図 3-2
円安・円高のメリットとデメリット
円安のメリット、デメリットはさまざま
メリット
輸出型企業
・海外での価格
競争力向上
(例)トヨタ自動車
海外からの旅行客
円
個人の家計
・円高還元セール・割安海外旅行
輸入型企業
・原材料費の減少(ガス・電力)
海外企業買収のチャンス
安
円
個人の家計
高
輸出型企業
(自動車、電機、
精密機械会社など)
・海外での価格
競争力低下
・輸入品の値上げ
・海外旅行代金の上昇
輸入型企業
・原材料費の増加
(例)小麦粉、ガソリン
デメリット
表 3-6
現状把握
人間発達
人間発達
価値の内面化
自己創造
該当数
割合(%)
該当数
割合(%)
該当数
割合(%)
44
43.1
29
28.4
29
28.4
注)全体は110人であったが、有効回答は102人であった。
- 49 -
表 3-7
項目
利子
デフレ・インフレの影響
預貯金
生命保険
クレジット
自己破産
為替
株式投資
損害保険
金融緩和
多重債務
リスクとリターン
地方銀行
固定金利
アベノミクス
インターネットバンキング
外貨預金
債券
リボルビング払い
都市銀行
マネーストック
投資信託
財形貯蓄
金融商品販売法
改正貸金業法
講義前後の理解度の変化
講義前
該当数
97
94
81
78
75
59
53
51
47
42
41
39
37
36
35
34
29
27
21
20
17
11
10
2
0
割合(%)
88.2
85.5
73.6
70.9
68.2
53.6
48.2
46.4
42.7
38.2
37.3
35.5
33.6
32.7
31.8
30.9
26.4
24.5
19.1
18.2
15.5
10.0
9.1
1.8
0.0
講義後
該当数
98
77
60
60
60
54
49
35
31
37
49
30
48
40
47
34
22
17
18
37
15
8
9
6
1
割合(%) 検定*
89.1
70.0
54.5
54.5
54.5
49.1
44.5
31.8
28.2
33.6
44.5
27.3
43.6
36.4
42.7
30.9
20.0
15.5
16.4
33.6
13.6
7.3
8.2
5.5
0.9
***
***
***
*
*
***
***
***
***
***
***
***
***
***
***
* マクネマーの検定 ***p<0.001 *p<0.05
注)複数回答である。割合は、全体の回答者110人のうち、何%が選択したかを示している。
- 50 -
表 3-8
項目
円安・円高の影響
デフレ・インフレの影響
アベノミクス
年金保険
生命保険
クレジット
株式投資
金融緩和
インターネットバンキング
自己破産
投資信託
損害保険
外貨預金
リボルビング払い
財形貯蓄
債券
多重債務
講義前後の関心度の変化
講義前
該当数
70
60
57
34
33
23
21
15
13
12
10
8
7
7
5
2
1
割合(%)
63.6
54.5
51.8
30.9
30.0
20.9
19.1
13.6
11.8
10.9
9.1
7.3
6.4
6.4
4.5
1.8
0.9
講義後
該当数
77
57
69
39
33
25
21
30
19
17
8
19
16
14
6
5
5
割合(%) 検定*
70.0
51.8
62.7
35.5
30.0
22.7
19.1
27.3
17.3
15.5
7.3
17.3
14.5
12.7
5.5
4.5
4.5
***
***
*
*
***
***
***
***
***
*
***
***
***
***
***
* マクネマーの検定 ***p<0.001 *p<0.05
注)複数回答である。割合は、全体の回答者110人のうち、何%が選択したかを示している。
- 51 -
第4章
新しい金融経済教育の実践 2.
小学生・中学生・高校生を対象とした金融経済教育
1.
はじめに
第 3 章では,大学生 110 人を対象として金融経済教育を実践した。その中で金融経
済教育が 単に 金融経 済 情報の提 供に 留まら ず ,受講者 の人 間発達 を 促すと同 時に 情報
活動を活発化させることが明らかとなった。
本章では,小学生,中学生および高校生という,校種の異なる児童・生徒を対象に,
「お金と その 価値」 を 課題とし て 同 じ授業 案 で金融経 済教 育 の実 践 をし ,情 報活 動と
人間発達 の関 係 が普 遍 的な 傾向 とし て捉え ら れるか に つい て 明ら か にする。 子ど も達
が楽しみ なが らお金 の ことを学 び , お金の 価 値を理解 でき る授業 を 開発 ,実 践し ,児
童・生徒 の情 報活動 が どのよう な形 で 授業 効 果 として 現れ るかを 見 ることで ,新 たな
金融経済教育の可能性を提案 する。
2.
方法
2.1.
4 つの視点を持った「金融経済教育」
授業開発の 基本概念として,第 2 章で示したように,情報活動を基盤として,人間
発達を促すことを据えている。それに加えて授業実践に必要な 以下の 4 つの視点を組
込んだ(大藪・奥田, 2013;および奥田・大藪, 2014)。
第一の視点は「生活システムの規模」である。システムには ,個人・家族などの「小
規模シス テム」,企業 ・学校・ 地域社 会など の「中規 模シス テム」,国家・ 自然な どの
「大規模 シス テム」 が 存在する 。 授 業でど の 規模の シ ステ ム を扱 う かを設定 して おく
必要があ る。 第 二の 視 点は「モ ノ・ サービ ス のライフ サイ クル」 で ある。モ ノや サー
ビスをライフサイクルの視点で考えると ,「インプット(購入)」,「プロセス(使用)」,
「アウトプット(廃棄 )」に分類できるため,授業でどの部分に焦点を合わせて 扱うの
かはあらかじめ決めて おく必要がある。第三の視点は「学習指導要領の領域」である。
- 52 -
学校教育 で実 践する 金 融 経済教 育 は ,家庭 科 や社会科 で取 り上げ ら れること が 一 般に
は多く見 られ る。本 章 で扱った 教育 実践は , 自分とお 金と の関係 を 知ること を主 な目
的とする ため ,学習 指 導要領の 内容 を踏ま え て, 家庭 科に おいて 行 うこと と した 。 よ
り具体的 には, 小学校 と中学校 の家庭 科は「 家族・家 庭と子 どもの 成長」,「 食生活 と
自立」,「衣生活・住生活と自立」,「身近な消費生活の環境」の 4 つの領域に分かれて
いる(文部科学 省,2009a,2011a)。このうち本章では,「身近な消費生活の環境」を
対象とした 。第四の視点は,
「3F」の要素に関するもの である(杉原,2001)。この 3F
とは,Freedom(自由 ),Fun(楽しみ),Freshness(新鮮さ)である。教材に関して
この 3F を捉えた場合には,多様性のある生活を対象とした自由度のある教材,楽しめ
る教材,そして新しい情報の取得が可能な教材を 意味する。
以上,情報活動を基盤として,人間発達を促すことを目的に,授業に必要な 4 つの
視点を盛 り込 んだ授 業 案を作成 した 。 その 上 で,小学 生, 中学生 , 高校生を 対象 に授
業実践を行った。
2.2.
授業案と分析方法
まず,上で示した視点を含んだ金融経済教育の 1 時間分の授業案を開発した。それ
が表 4-1 である。授業は,課題を「お金とその価値」として,「お金の役割や生活に必
要な労働時間についての学習を通して ,お金の価値を実感し ,自分達ができることに
気づく」ことをねらいに,クイズ形式でスライドを用いながら お金に関する理解を深
めるものとした。
小学生と中学生 の授業における違いは,自分に使われている 税金の 額のみであり,
他は同じ内容の教材を用いた。高校生 の授業においては,小学生と中学生の授業で扱
う内容に加えて ,生まれてから大学卒業までにかかる教育費を生徒が計算 すること ,
またそれが,コンビニ エンスストアでの時給制のアルバイトを行った場合に 何時間働
くことと同じであるか を計算した。
分析方法の手順 は以下 のとおりである。まず,「情報活動に関するアンケート 」を単
純集計し た後 ,数量 化 Ⅲ類とク ラス ター分 析 によって ,児 童・生 徒 を情報活 動別 のグ
ループに 分類 する。 な お, 数量 化Ⅲ 類は, ア ンケート など の質的 デ ータ分析 に用 い ,
変数相互 の関 係や回 答 選択肢相 互の 距離を 得 点化 ,分 類し て解釈 す るもので ある 。 ま
- 53 -
た,クラ スタ ー分析 は ,今回の アン ケート の ように , 異な る性質 を 持つ対象 者が 混合
する集団を ,それぞれが持つデータの類似性 により分類 ,グループ化するものである。
類似性は各データの間の距離の近さで測定し ,距離を手がかりにグループをまとめる。
次に, 授業前 の調 べ学 習であ る 「事 前プ リン ト」と 授業後 に記 入す る「事 後プリ ン
ト」の記述部分を人間発達の 3 つの視点(「現状把握」,
「価値の内面化」,
「自己創造」)
によって分析する 26 。そして,最後に情報活動グループと 人間発達の関係をクロス分析
することで授業効果を見る。
3.
結果
3.1.
属性
授業実践は ,2012 年 11 月から 2013 年 3 月の間に ,高校(1 校 2 年生 ,49 名),中
学校(2 校 1 年生と 2 年生,168 名),小学校(2 校 3 年生と 4 年生の合同クラスと 5
年生,94 名)の合計 311 名を対象に行った 27 。性別は,男子 173 人(57.2%),女子
138 人(44.4%)である。校種別の男女の比率は,表 4-2 に示す通りである。
3.2.
3.2.1.
単純集計の結果
「情報活動に関するアンケート」結果
「情報活動に関するアンケート」は ,第 3 章で用いた 12 項目であり,「収集」5 項
目,「蓄積」 2 項目,「活用」3 項目,「発信」2 項目から成っている。これらの項目か
ら当てはまる項目全てを選択する。
この結果(表 4-3), それぞれの情報活動の平均を見ると ,「活用」(62.0%)が最も
活発で,次に「収集」
( 53.8%),
「 蓄積」
( 29.7%),そして最も消極的なのが「発信」
(18.6%)
であった。「収集」は小学生(48.3%)が最も低いが,中学生と高校生はあまり変わら
ない。特 に「イ ンター ネットや タウン 誌で 情 報をよく チェッ クする 」で校種 間に差 があ
26
高 校 の み ,授 業 当 日 に 複 数 あ る 授 業 か ら ,生 徒 が 関 心 の あ る 授 業 を 選 択 す る と い う 授 業 形 態 で あ っ た
た め ,「 事 前 プ リ ン ト 」 は 配 布 し て い な い 。
27 本 来 , 校 種 に よ る サ ン プ ル 数 と 質 の 偏 り に よ る 影 響 に 留 意 す る 必 要 が あ る 。
- 54 -
った。「蓄積」では ,質問項目にある「消費生活センター」について小学生はまだ習っ
ていないことから,中学生・高校生と差が見られ ,これが全体に影響し,小学生で「蓄
積」は低く,中学生・高校生では小学生よりも高くなった。「活用」は「 お菓子や文房
具を買う時に,
『賞味期限』やマークを確かめて買う」高校生が 38.3%と低率であった
ことが影響して,
「活用」全体としては ,小学生が最も高く,高校生が低くなった。
「発
信」では ,小 学生に は アンケー トを 出す児 童 が多くい たこ とから , 中学生・ 高校 生と
の間に差が見られた。
以上をまとめると,
「収集」と「蓄積」は年齢が高くなる に従って高くなった。一方,
「活用」と「発信」は年齢が高くなるに従って低くなることが分かった。
3.2.2.
授業前後の 自由記述による人間発達の変化
人間発達 には, 上述し た「現状 把握」,「価値 の内面化 」,「自 己創造 」の三段 階が あ
る。このうち,「現状把握」とは,単に状況を把握し理解する段階 である 。例えば「お
金の役割 につい て分か った」,「 人生に はとて もお金が かかる と知っ た」など の記述 が
該当する。
「価値 の内面 化」 とは ,現状 を把握 した 上で ,その 内容を 自分 自身 に関わ る もの と
して考え ,吟 味・検 討 ,捉え直 し・ 再発見 , 葛藤・再 構築 ・内在 化 ・自己化 を意 味 す
る。そのため,「税金のおかげで勉強ができると気づいた」,「1 ヶ月の生活費を稼ぐた
めにはコンビニで 60 日も働かなければならず ,足りないのでどうすればいいのだろう
か」などが該当する。
「自己創造」とは,
「 現状把握」と「価値の内面化」を通じて,自分は何ができるか ,
どうすればよいかを考える段階 である。そのため,
「お金のありがたみを感じてしっか
り勉強し たい」,「自分 のために 働いて くれる 両親や大 人に感 謝して , 私は節 電や節 約
をして協力していきたい」などの記述が該当する。
記述内 容をこ れら の視 点 に基 づき , 二人 の分 析者が それぞ れ 分 類し た結果 を つき 合
わせ,分 類が 異なる も のについ ては 協議の 上 分類する こと で ,判 定 にぶれが 生じ ない
ようにした 。表 4-4 に見られるように,その結果,授業前 では,「現状把握」が,全児
童・生徒で 9 割弱,その中でも小学生は約 9 割,中学生は約 8 割と高くなり,
「価値の
内面化」 や「 自己創 造 」にはほ とん ど到達 し ていなか った 。 また , 中学生の 「自 己創
- 55 -
造」は皆無である。
一方,授業後では,全児童・生徒は「現状把握」
(37.0%),
「価値の内面化」
(41.8%),
「自 己創 造」( 20.6% ) の 順と なり ,「価 値 の内 面化 」が 最も 高く ,吟 味や 捉え 直しが
できた児童・生徒が多かった。校種別に見ると ,
「現状把握」が最も高くなったのは小
学生(45.7%)で,中学生と高校生は約 3 割である。「価値の内面化」はいずれも 4 割
程度であった。
「自己創造」については ,中学生も高校生も 2 割以上となったが,小学
生は 1 割に満たなかった。このことから ,中学生は小学生に比べると ,授業後に人間
発達が進み ,授業効果が顕著であることが分かる。
3.3.
情報活動グループ分析
情報の「収集」,
「蓄積」,「活用」,
「発信」に 関する 情報 活動 12 項 目に対 する 児童・
生徒の反 応パ ターン を 数量化 Ⅲ 類に よって 分 析 を行っ た。 その 結 果 , 固有値 が高 く解
釈可能な 2 軸が析出された(累積寄与率 44.1%)。まず第Ⅰ軸は「収集」(+が積極的,
固有値 0.2216,寄与率 18.0%,相関係数 0.47),そして第Ⅱ軸は「活用」
(+が消極的,
固有値 0.3207,寄与率 26.1%,相関係数 0.57)を表す軸と解釈できる。
また,これら 2 軸に対する児童・生徒の個人得点をもとにクラスター分析を行った。
その結果,全児童・生徒を 3 つの情報活動グループに分類できた (図 4-1)。それぞれ
のグループの 2 つの軸に対するケース得点の偏りから ,
「収集消極・活用消極型」
(120
人),「収集積極・活用積極型」(140 人),「収集積極・ 活用消極型」(51 人)と名づけ
ることができる。
3.3.1.
情報活動グループの属性
情報活動グループに属する人数を表 4-5 から見ると,「収集積極・活用積極型」が最
も多く (45.1%),次 いで「 収集消 極・ 活用 消極型 」であ った ( 38.6%)。なお,「収 集
積極・活用消極型」は 16.4%と最も少なかった。
これら のそ れぞれ の グループ での 小学生 , 中学生, 高校 生に含 ま れる人数 と割 合を
示した(表 4-6)。この結果 ,どのグループにおいても 全体の分布と同様,中学生が約
半数あるいはそれ以上を占め ,
「収集積極・活用消極型」では,中学生が 7 割以上と多
- 56 -
い。それぞれの校種ごとの内訳から特徴を見ると(表 4-6 下段),小学生は「収集積極 ・
活用消極型」にはほとんど属しておらず ,中学生は「収集積極・活用積極型」に 4 割,
「収集消極・活用消極型」に約 3 割が属している。高校生は「収集消極・活用消極型」
と「収集積極・活用積極型」に約 4 割ずつ属している。
3.3.2.
情報活動グループ別・授業前後の自由記述による人間発達の変化
授業の 前後で ,情 報活 動グル ープに よっ て人 間発達 に違い が生 じる か どう かを 検 証
した(表 4-7)。事前の結果では,全児童・ 生徒・校種別のいずれにおいても,グルー
プ間の差異はみられなかった。
一方,事後の結果を見ると,「現状把握」では,全児童・生徒で「収集積極・活用消
極型」の割合が他のグループと比べて低くなった。校種別で見ると ,「収集積極・活用
消極型」の小学生の割合が約 8 割と依然高かったが,その他のグループや校種では ,
事前と比較すると割合は大幅に低下した。
「価値の内面化」では ,全児童・生徒はどのグループも 4 割台と事前に比べると高
くなった。校種別では ,小学生は「収集積極・活用消極型」が 2 割未満にとどまった
が,他の校種では 3 割弱から 7 割であった。特に高校生は「収集積極・活用消極型」
が 7 割以上,「収集積極・活用積極型」が 5 割以上であった。
「自己 創造」 では , 全 児童・ 生徒は 「収 集積 極・活 用消極 型」 が最 も高く なった 。
校種別に見ると,小学生は「収集積極・活用積極型」が最も高くなったが ,
「収集 積極 ・
活用消極型」は皆無であった。中学生はどのグループも 2 割超となったが,特に「収
集積極・ 活用 消極型 」 が最も高 くな った。 高 校では「 収集 消極・ 活 用消極型 」が 最も
高くなり,校種によってばらつきが見られた。
このこ とより ,情 報活 動と人 間発達 の関 係は ,全児 童・生 徒の 場合 は ,情 報活動 の
「収集」が積極的なほど人間発達が促されることが明らかとなった。校種別に見ると ,
小学生では「収集」と「活用」が人間発達に影響力を持っている。中学生 になると「収
集」も「 活用 」 も重 要 であるが ,ど ちらか と いえば 「 収集 」が影 響 し,高校 生で は,
情報活動はあまり人間発達と関係が見られなかった。
- 57 -
4.
まとめ
本章では,小学生 94 名,中学生 168 名,高校生 49 名の計 311 名を対象とした金融
経済教育 の授 業実践 で 得たデー タを もとに , 情報活動 と人 間発達 の 関係から 授業 効果
を明らか にし た。こ の 結果 ,情 報活 動はど の 校種も「 収集 」と「 活 用」が活 発で ある
が,年齢 が高 くなる に つれ「収 集」 が積極 的 になった 。ま た数量 化 Ⅲ 類によ って ,情
報活動の「収集」と「活用」の軸が析出された。さらにクラスター分析によって ,「収
集消極・活用消極型」,「収集積極・活用積極型」,「収集積極・活用消極型」の 3 つの
グループ に分 類 した 上 で, これ らの 情報活 動 グループ と人 間発達 の 関係を分 析し たと
ころ,全児童・生徒では,
「収集積極・活用消極型」のグループの「自己創造」が高く ,
人間発達が進むことが明らかとなった。
ただし,校種ごとに異なる。事前と事後の変 化を見たところ,「自己創造」の割合が
高くなったのは ,小学生は「収集積極・活用積極型」,中学生は「収集積極・活用消極
型」,高 校生は 「収集 消極・活 用消極 型」( 事後のみ ) とな った。 これより 小学生 では
「収集」と「活用」,中学生になると「収集」が影響し,高校生では,情報 活動は人間
発達とあまり関係がないことが明らかとなった。
これまでの本博士論文における研究において ,「収集」や「活用」が積極的な児童・
生徒の人 間発 達が進 む ことを明 らか にして い る 。特に 本章 では, 校 種と対象 人数 を増
やし,共通の金融経済教育を題材とした授業実践をした結果,「収集」が活発な児童・
生徒の人 間発 達が進 む ことが明 らか となり , これまで の研 究を裏 付 ける結果 が得 られ
た。また 年代 によっ て ,情報活 動の 人間発 達 への影響 が異 なるこ と が分かり ,こ れま
での研究を更に進めることができた。ただし,本章でとりあげた授業は,1 時間のみで
あったこ とか ら,今 後 は数時間 の授 業案を 作 成し,時 間的 経過の 影 響を検討 する 必要
があろう。
「収集 」活動 は様 々な ことに 関心を 持ち ,自 ら情報 を集め てい くこ とがで きる力 で
あるが,「情報活動に関するアンケート」からも ,小学生は「収集」に関する情報活動
がまだ低 いこ とから , まずは授 業前 の「調 べ 学習」が 効果 的であ ろ う。その 積み 重ね
によって ,児 童が自 主 的に ,日 々の 生活の 中 で関心事 を調 べ ,授 業 に向けて 予習 する
ことがで きる ように な る。また 授業 中 ,先 生 や友達の 発言 をよく 聞 くことも 「収 集」
力を高める。「活用」の情報活動 は,授業で学習したことを日々の生活に役立てる力で
- 58 -
ある。小 学生 のうち に この 「収 集」 と「活 用 」の情報 活動 をしっ か りと身に つけ てお
くことが ,人 間発達 に 影響する と考 えられ る 。小学生 の時 に基礎 力 が獲得で きて いる
と,中学生になってからさらに「収集」と「活用」を生かして生活することによって,
人間発達が進むと考えられる。
ここで は,高 校生 につ いては 情報 活 動と 人間 発達の 関係が 明ら かに ならな かった 。
高校生で は事 前学習 が できず , 事前 と事後 の 比較が出 来な かった こ とや ,対 象人 数が
少なかったことが影響したのではないかと考えられる。
金融経 済に関 する 諸問 題に遭 遇する 可能 性は ,特に 学校生 活を 終え てから の方 が 高
くなる。 時代 が変わ っ ても ,新 たな 情報を 自 ら獲得し ,そ れを自 分 の生活に うま く生
かしていくことができる力の育成が望まれる。
- 59 -
表 4-1
活動
累積
時間
時間
事前
学習
「お金とその価値」の指導案 (中学生用)
学習活動
留意点/見方・考え方・感じ方
お金について自由に自分の関心事を
どの程度収集能力があるか
調べてくる
3 3分 講師の紹介
導入
新しい人と内容を観察
情報活動
人間発達
3F
システムの ライフサイ
規模
クル
収集
現状
楽しみ
小・中・大 ロセス・アウ
収集
現状
新鮮さ
中
インプット・プ
トプット
8 5分
お金について調べてきたことを発表 自分と他の人の違いやお金に
する
ついての情報を得る
発信・収集
現状
新鮮さ
小・中
インプット・プ
ロセス・アウ
トプット
13 5分
お金を使うにはまずお金のこと
お金の種類や重さなどのクイズをす
をどれだけ知っているかを確認
る
する
収集・蓄
積・発信
現状
楽しみ・
新鮮さ
小
インプット・プ
ロセス・アウ
トプット
18 5分 お金の役割をクイズで理解する
お金にはそれぞれ役割があるこ 収集・蓄
とに気づく
積・発信
現状
楽しみ・
小・中・大 プロセス
新鮮さ
20 2分 お金の3つの役割を再確認する
お金の役割を覚えて理解してい
蓄積・発信
るか確認する
内面
楽しみ
小・中・大 プロセス
現状
新鮮さ
小・中・大 ロセス・アウ
インプット・プ
25 5分 身近な税金(消費税)のクイズをする 税金について知る
収集・蓄積
トプット
展開
27 2分
中学生に使われている1日の税金の
自分と税金の関係を知る
額のクイズをする
収集・蓄積
現状
新鮮さ
小・中・大 ロセス
29 2分
県別の最低賃金とコンビニ等のアル
1時間の労働賃金を知る
バイトの平均賃金のクイズをする
収集・蓄積
現状
新鮮さ
小・中・大 インプット
中学生に1日に使われている税金を
自分達に支払われている税金
32 3分 稼ぐにはコンビニで何時間働かなけ
収集・蓄積 現状・内面化
と労働との関係に気づく
ればならないかを計算する
勉強以外に生活に必要なものを考え 生活するには多くのものが必要
発信・収集
る
であることに気づく
1ヶ月平均36万円の生活費を稼ぐた
42 7分 めに何時間働かなければならないか 働くことの大変さに気づく
収集・蓄積
を計算する
35 3分
47 5分
まとめ
新鮮さ
小・中
インプット・プ
ロセス・アウ
トプット
現状
自由
小・中
アウトプット
内面化
新鮮さ
小・中
インプット
小・中
プロセス・ア
ウトプット
小・中
プロセス・ア
ウトプット
まだ働けない児童・生徒は代わりに 働かなくてもお手伝い、節約な
自由・新
収集・蓄積 内面化・創造
何ができるかを考える
ど自分ができることに気づく
鮮さ
50 3分 どのようなことができるかを発表する
他の人の意見を知って、自分に
発信・収集 内面化・創造
取り込む
表 4-2
小学生
中学生
高校生
合 計
男子
49(52.1)
95(56.5)
29(59.2)
173(55.6)
- 60 -
新鮮さ
属性
女子
45(47.9)
73(43.5)
20(40.8)
138(44.4)
インプット・プ
該当数(%)
合計
94(100.0)
168(100.0)
49(100.0)
311(100.0)
表 4-3
「情報活動に関するアンケート」 結果
項目
収集
蓄積
活用
発信
テレビのニュースを一日一回は見る
毎月買ってくる雑誌がある
インターネットやタウン誌で情報をよくチェックする
買うものがなくてもお店に行っていろいろなものを見る
新しいことを知る時は、人から聞くことが多い
平均
利用したサービスや買ってきたものに問題があった時、どこに言えばよいか知っ
ている
消費生活センターを知っている
平均
お菓子や文房具を買う時に、「賞味期限」やマークを確かめて買う
電気製品などの取り扱い説明書や薬のラベルはしまってあり、すぐに見ることが
できるようになっている
電気製品などの使い方が分からない時は、説明書を読んでもらったり、自分で読
んだりする
平均
自分で買った商品や利用したサービスに不満があった時は、店の人にすぐ言う
商品を買った時などについてくるアンケートはよく出すほうだ
平均
全児童・
生徒
83.6
28.3
35.0
62.4
59.5
53.8
小学生
中学生
高校生
80.9
25.5
23.4
53.2
58.5
48.3
85.7
28.6
41.7
66.1
60.1
56.4
85.1
34.0
36.2
70.2
61.7
57.4
36.3
28.7
41.1
36.2
23.2
29.7
56.6
1.1
14.9
59.6
31.0
36.0
60.7
40.4
38.3
38.3
48.9
54.3
46.4
48.9
80.4
83.0
77.4
89.4
62.0
25.1
12.2
18.6
65.6
30.9
21.3
26.1
61.5
23.2
8.3
15.8
58.9
21.3
8.5
14.9
注) 複数回答である。割合は、全体の何%が選択したかを示している。
1) χ 2検定, ***: p<0.001, **:p<0.01
表 4-4
授業前後の自由記述による人間発達 の変化(%)
割合(%)
人間発達
全児童・
生徒
小学生
中学生
85.4
89.4
83.3
7.6
7.4
7.7
自己創造
0.4
1.1
0.0
現状把握
37.0
45.7
33.3
32.7
41.8
43.6
39.9
44.9
20.6
9.6
26.2
22.4
現状把握
授業前 価値の内面化
授業後 価値の内面化
自己創造
注)授業形式が異なるため高校生には、事前プリントを配布していない
1) ***:p<0.001
- 61 -
高校生
検定1)
***
***
検定1)
***
***
**
**
図 4-1
情報活動グループの分布
収集積極・活用 積極型
収集積極・活用消極 型
収集消極・ 活用消極 型
表 4-5
情報活動グループの属性
情報活動グループ
収集消極・活用消極型
収集積極・活用積極型
収集積極・活用消極型
合計
- 62 -
人数(%)
120(38.6)
140(45.1)
51(16.4)
311(100.0)
表 4-6
情報活動グループ
収集消極・活用消極型
収集積極・活用積極型
収集積極・活用消極型
収集消極・活用消極型
収集積極・活用積極型
収集積極・活用消極型
合計
表 4-7
情報活動グループ別・校種別特徴
人数(%)
120(100.0)
140(100.0)
51(100.0)
120(38.6)
140(45.1)
51(16.4)
311(100.0)
小学生
41(34.2)
47(33.6)
6(11.8)
41(43.6)
47(50.0)
6(6.4)
94(100.0)
該当数(%)
高校生
21(17.5)
21(15.0)
7(13.7)
21(42.9)
21(42.9)
7(14.3)
49(100.0)
中学生
58(48.3)
72(51.4)
38(74.5)
58(34.5)
72(42.9)
38(22.6)
168(100.0)
情報活動グループ別・授業前後の自由記述内容 による人間 発達の変化
割合(%)
情報活動グループ
収集消極・活用消極型
授
業
前
授
業
後
人間発達
価値の内面化
現状把握
全児童・
全児童・
小学生 中学生 高校生
小学生
生徒
生徒
69.2
81.5
収集消極・活用積極型
74.5
7.5
11.1
90.3
自己創造
全児童・
中学生 高校生
小学生 中学生 高校生
生徒
12.7
0.0
3.7
3.2
0.0
0.0
収集積極・活用消極型
74.3
86.8
88.9
5.0
10.5
5.6
0.7
0.0
0.0
収集積極・活用積極型
72.5
100.0
81.8
7.8
0.0
9.1
0.0
0.0
0.0
収集消極・活用消極型
40.3
44.7
38.2
41.2
50.0
40.0
18.5
5.3
21.8
収集消極・活用積極型
27.4
36.4
38.7
45.5
32.3
18.2
収集積極・活用消極型
27.5
46.4
38.9
42.9
45.1
35.7
44.4
42.9
27.5
17.9
16.7
14.3
収集積極・活用積極型
38.1
48.1
33.3
25.0
41.7
44.4
39.4
45.0
20.1
7.4
27.3
30.0
- 63 -
第5章
新しい金融経済教育の実践 3.
小学生を対象とした環境に配慮した金融経済教育
1.
はじめに
これまで第 3 章では大学生 110 人を対象として, 第 4 章では小学生 ・中学生・高校
生の合計 311 人を対象として,金融経済教育を実践し,情報活動と人間発達 が密接に
結びついていることを検証してきた。その中で情報活動において,「収集」活動が活発
な児童や生徒は,授業によって人間発達が深まる傾向がみられた。
本章で は,小 学校 高学 年を対 象とし て, 環境 に配慮 した金 融経 済教 育の授 業開発 と
実践を取 り上 げる。 そ して,授 業に よる効 果 を分析し ,情 報活動 と 人間発達 の関 係を
明らかにする(藤井, 2013) 28 。
環境へ の負荷 を軽 減す る消費 行動を 身に つけ ること は,小 学校 家庭 科の学 習指導 要
領の主要テーマとして位置づけられている 29 。そこで,本章における 授業の実践に際し
ては,環 境に 配慮し た 金融経済 教育 を行い , 児童の人 間発 達を促 す ことを試 みた (中
央環境審議会,2010)。具体的には,まず地球温暖化と CO 2 の関係を理解し,その後
でお金と CO 2 排出量との関係に気づ かせる。この学習のねらいは 家庭生活での工夫を
考えるところにある。
2.
分析方法
2.1.
授業案と分析方法
本章の授業案には,情報活動を基盤として,人間発達を促す視点に加えて,第 4 章
で用いた授業実践に必要な 4 つの視点を組み込み,環境に配慮した金融経済教育の授
業案を開発した。第一の視点は「生活システムの規模」,第二の視点は「モノ・サービ
スのライフサイクル」,第三の視点は,
「学習指導要領の領域」,第四の視点は「 3F」で
28
29
第 5 章 は 大 藪 ・ 奥 田 ( 2013), 奥 田 ・ 大 藪 ( 2014) に 基 づ く 。
文 部 科 学 省 ( 2009a, 2011a) に よ る 。
- 64 -
ある。
これまでの授業実践は,1 時間のみの授業であったことから,1 時間の授業の中での
児童の人間発達の変化を分析するにとどまっており,これは第 4 章での課題でもあっ
た。本章では, 1 時間だけの授業ではなく,数時間の授業を連続して実践することで,
児童の人間発達の変化を分析することとした。 ここでの 授業では 4 時間を設定した。
また, これま での 研究 から, 情報の 「収 集」 と「活 用」が 積極 的な 児童・ 生徒は ,
人間発達 がよ り促さ れ ることが 明ら かとな っ ている。 これ を踏ま え て,本章 では 特に
「収集」と「活用」を促す授業案を作成した。
4 時間分の授業課題は以下の通りである。 ①地球温暖化と CO 2 排出量について知ろ
う,②自分の家の CO 2 排出量を計算してみよう, ③自分の家の工夫を紹介しよう,④
自分の家の環境家計簿を作成しよう。
2.1.1.
1 時間目の授業案
1 時間目の授業の課題は,
「地球温暖化と CO 2 排出量について知ろう」である。学習
のねらいは,地球温暖化が起こる理由と原理について知り,地球温暖化と CO 2 排出量
との関係を理解することとした。授業案を表 5-1 に示す。
「収集」を高めるために事前学習として以下の 5 つの項目について調べることを課
題とした。 ①地球温暖化って何?
②なぜおこる? ③どうなる? ④国別の CO 2 排出
量の割合はどうなっている? ⑤日本の CO 2 排出量の割合はどうなっている?
授業後,感想を自由に記述させた。その記述内容を人間発達の 3 段階である「現状
把握」,「価値の内面化」,「自己創造」を用いて分類した。
2.1.2.
2 時間目の授業案
2 時間目の授業課題は,
「自分の家の CO 2 排出量を計算してみよう」である。学習の
ねらいは,1 時間目でとりあげた 地球温暖化と,家庭から排出される CO 2 との関係を
知った上で,自分の家の CO 2 排出量を 実際に計算することである。授業案は表 5-2 に
示す通りである。
「収集」を高めるため,事前学習として以下に示す 4 つの項目について児童の家族
- 65 -
と話し合いながら調べさせた。①1 ヵ月の電気の使用量(kwh)と電気代,②1 ヵ月の
ガス(都市ガスか LP ガス)の使用量(m 3 )とガス代,③1 ヵ月の水道の使用量(m 3 )
と水道代, ④1 ヵ月のガソリンの使用量(ℓ)とガソリン代。
授業では事前学習の情報をもとに,それぞれの CO 2 排出係数を示し,使用量と係数
を掛け合わせて各費目の CO 2 排出量を算出した。そして自分の家の CO 2 排出量で多い
のは何か,電気,ガス,水道,ガソリンのそれぞれの CO 2 排出量と,家庭全体での CO 2
排出量のデータを授業中にプロジェクターで表示し(図 5-1),平均家庭と比べて,自
分の家庭の CO 2 排出量の大きさを比較させ,その理由について発表させた。
2.1.3.
3 時間目の授業案
3 時間目の授業課題は,「自分の家の工夫を紹介しよう」である。学習のねらいは,
2 時間目で自分の家の CO 2 排出量を計算してクラスの中での自分の家の CO 2 排出量の
順位を確 認し た上で , なぜその よう な値に な ったのか に気 づき, ま たお金と の関 係を
知ることである。3 時間目の授業案を表 5-3 に示す。
「収集」を高める事前学習として,以下の 3 つの項目について調べさせた。 ①自分
の家の CO 2 排出量の傾向をまとめよう,②今,すでに家でやっている工夫を書こう,
③電気,ガス,水道,ガソリンについて,それぞれどのような工夫をすれば CO 2 排出
量を減らせると思うか考えよう。
授業では,これらの事前学習の内容を発表させた。また クラスの電気,ガス,水道,
ガソリンの排出量と金額との関係を 1,000 円あたりの排出量で示し (図 5-2),お金と
排出量と の関 係につ い て考える 授業 とした 。 そして, この 情報と 自 分の家の 現状 ,友
達の家の 工夫 をもと に ,今後ど のよ うな生 活 をすれば よい かを考 え させた。 電気 ,ガ
ス,水道 ,ガ ソリン の 使い方で でき る工夫 と ,お金と の関 係から す べきこと を発 表さ
せ,「活用」を高める授業構成とした。
2.1.4.
4 時間目の授業案
4 時間目の授業課題は,「自分の家の環境家計簿を作成しよう」である。学習のねら
- 66 -
いは,自分の家の環境家計簿を作成することとした 30 。授業案は表 5-4 に示す通りで あ
る。この 時間 は,事 前 学習は設 けず ,新し い 知識であ る環 境家計 簿 について 説明 する
ことで,授業内での「収集」を高める工夫を行った。
現在,自治体や企業等によって多種の環 境家計簿が出版されているが, そのような
既存の環境家計簿をそのまま 利用するのではなく,まず既存の環境家計簿から代表的
な取り組みをガス,車,電気,水道に関して 24 項目抽出した。そして児童にはその中
から自分ができそうだと思うもの,やってみたいと思うものを 10 項目選択させ,選ん
だ理由を記述して,独自の環境家計簿を作成することとした(表 5-5)(大藪・杉原,
2000)。
また,友達の家の取り組みを聞き,やってみたいと思ったことがらとその理由を発
表することで「活用」を高める授業とした。最後に 4 時間の環境に配慮した金融経 済
教育を通して,分かったことや感じたことを自由記述し, それらの内容を人間発達の
視点から「現状把握」,「価値の内面化」 および「自己創造」の 3 つに分類した。
2.1.5.
分析方法
分析は以下の 4 つの方法で行った。 ①「情報活動に関するアンケート」を用いて,
第 4 章と同様,単純集計後,数量化 Ⅲ類とクラスター分析によって児童を情報活動別
のグループに分類した。②1 時間目と 4 時間目の授業中に記述させた自由記述欄の感
想を内容から判定し,人間発達の「現状把握」,「価値の内面化」,「自己創造」の 3 段
階に分類した。 ③情報活動グループと人間発達の関係を分析した。
3.
結果
3.1.
属性
小学 5 年生の 1 クラス 40 名を対象とした。授業は 2012 年 12 月 13 日と 20 日にそ
れぞれ 2 時間続きで 合計 4 時間の授業を実践した。
30
盛 岡( 1986),山 田( 1996)に よ れ ば ,環 境 家 計 簿 と は ,私 達 の 生 活 が ,環 境 に ど の よ う な 影 響 を 与
えるかを記入することで生活を見直し,環境への影響が少なくなるライフ スタイル 作りに活用できる 。
- 67 -
3.2.
3.2.1.
単純集計の結果
「情報活動に関するアンケート」結果
「情報活動に関するアンケート」の質問項目は第 3 章,第 4 章と同様とし(坂野・
大藪・杉原,2004;および大藪・杉原・坂野,2005),
「収集」5 問,
「蓄積」2 問,
「活
用」3 問,「発信」2 問の合計 12 問である。この結果 (表 5-6),「テレビのニュース
を一日一回は見る」
(95.0%)が最も多く,次いで「お菓子や文房具を買う時,
『賞味期
限』のマークを確かめて買う」( 77.5%),「使い方が分からない時は,説明書を読んで
もらったり,自分で読んだりする」( 72.5%)の順となった。
情報活動の「収集」,
「蓄積」,
「活用」,「発信」別に見ると,「収集」が 134 件と最も
多く,次いで「活用」(82 件),「発信」(28 件),「蓄積」(24 件)となった。一人あた
りの選択項目数は,
「収集」3.4,
「蓄積」0.6,
「活用」2.1,
「発信」0.7 であり,
「収集」
が最も高 い。 項目数 が それぞれ 異な るので 各 項目での 割合 の平均 値 を計算す ると 「収
集」
(50.0%),
「活用」
(30.6%),
「発信」
(10.4%),
「蓄積」
(9.0%)となり,情報の「収
集」の割 合が 最も高 く ,次いで 「活 用」が 積 極的に行 われ ている こ とが明ら かと なっ
た。
3.2.2.
環境に配慮した金融経済教育の授業と人間発達の変化
1 時間目の授業後に,記入させた自由記述の内容を人間発達の段階によって分類した
結果(表 5-7),
「現状把握」
(43.2%),
「価値の内面化」
( 40.5%),
「自己創造」
( 16.2%)
となった。「現状 把握 」では,「 地球温 暖化 の仕組み を初め て知っ た」,「予想 してい た
よりも被害が多くあった」,「思っていたよりも CO 2 排出量が多かった」,「水不足は怖
い」等の 記述が あった 。「価値 の内面 化」で は,「温 暖化に なると 将来不安 になる 」な
ど自分の 生活に 結びつ けて考え ている ものが 多く見ら れた。「自己 創造」で は,「 もっ
と勉強してよりよい生活を送っていきたい」,「人間が CO 2 を排出していたとは知らな
かった。 これな ら自分 達でも直 してい ける」,「温暖化 が進ま ないよ うにする にはど う
すればい いかが 気にな るので考 えた い 」,「温 暖化を予 防して いきた い」等の 意見が 見
られた。
- 68 -
2 時間目と 3 時間目の授業を学び,4 時間目の授業では,それらの内容を踏まえて自
分の家の環境家計簿を作成した。4 時間目の授業終了後の感想を人間発達の視点で比較
した結果(表 5-7),
「現状把握」
( 0.0%),
「価値の内面化」
(23.1%),
「自己創造」
(76.9%)
となり,「現状把握」が皆無となり、 8 割近くの児童は何らかの新しい事柄を実践しよ
うとしていることが分かった。
内容では,「現状把握」に関しては,「 CO 2 が出るに伴って電気代などの金額も変わ
ってくるこ とが分かった」,「環境は人間の生活が関わっていることが分かった」,「必
要ないのにしていることがたくさんあったことに気づいた」等があげられる。
「価値の
内面化」に つい ては,「ガス ⇒電 気⇒ ガソリ ン ⇒水 道の 順で お金が 安くな って いた が,
私の家はオール電化なので電気 ⇒ガソリン⇒水道の順になることが分かった」という
ものが見られた。「自己創造」に関しては,「ガソリンからの排出量が大きくてびっく
りしたのでアクセルを急に踏まないように両親に言う」,「窓を二重サッシにすること
で CO 2 排出量を減らすことができ,暖かくお金もあまりか からないので家族に伝えた
い」,「電気のコンセントをこまめに抜く」,「調理時は,ガスの余熱を利用するなどで
CO 2 排出量を減らせるし,ガス代も安くすむのでやっていきたい」等,実践に関する
記述と,お金と環境との関係を書いている記述も多く見られた。
3.3.
情報活動グループ分析
情報の「収集」,「蓄積」,「活用」,「発信」に関する情報活動 12 項目(表 5-6)に対
する児童 の反 応パタ ー ンを数量 化 Ⅲ 類によ っ て分析し た結 果,固 有 値が高く 解釈 可能
な 2 軸が析出された(累積寄与率 50.7%)。第Ⅰ軸は,「電気製品などの取り 扱い説明
書や薬の ラベル はしま ってあり ,すぐ に見る ことがで きるよ うにな っている 」,「電 気
製品など の使 い方が 分 からない 時は ,説明 書 を読んで もら ったり , 自分で読 んだ りす
る」など,情報の「活用」に関係している(固有値 0.24,相関係数 0.49)。第Ⅱ軸は,
「テレビ のニュ ースを 一日一回 は見る 」,「毎 月買って くる雑 誌があ る」など ,情報 の
「収集」に関係している(固有値 0.17,相関係数 0.42)。各軸に強く反応した有効な
質問項目から軸の解釈を行うと,第 Ⅰ軸は情報活用(+が消極的),第 Ⅱ軸は情報収集
(+が消極的)を表す軸と解釈できる。
この 2 軸に対する児童の個人得点をもとにクラスター分析を行った。その結果,児
- 69 -
童は 3 つの情報活動グループに分類できた(図 5-3)。それぞれのグループの 2 つの軸
に対するケース得点の偏りから,
「収集消極・活用消極型」
( 7 人),
「収集積極・活用消
極型」(9 人),「収集積極・活用積極型」( 23 人)と名付けた。
情報活動グループと性別の関係は,「収集消極・活用消極型」と「収集積極・活用消
極型」は男子が多く( 57.1%,55.6%),「収集積極・活用積極型」は若干ではあるが女
子の方が多くなった( 52.2%)が,男女別のデータに有意差は見られなかった。
3.3.1.
情報活動グループと自由記述による人間発達分析
次に人間発達の視点から「人間発達度」を分析した(表 5-8)。以下にタイプ別の特
徴を述べる。
1 時間目と 4 時間目を平均して見ると,
「収集消極・活用消極型」は「価値の内面化」
(46.7%)が最も高く,次いで「自己創造」( 40.0%),「現状把握」(13.3%)の順とな
った。また「価値の内面化」の割合は他のグループよりも高く,「現状把握」は他のグ
ループよりも低い。「収集積極・活用消極型」は「価値の内面化」と「自己創造」が同
じ割合(38.9%)でともに高かった。
「収集積極・活用積極型」は,
「自己創造」が 55.8%
と過半を占め,他のグループに比べて最も高く,
「価値の内面化」
( 23.3%),
「現状把握」
(20.9%)の順となった。
授業ご とに見 ると ,ど のグル ープも 「現 状把 握」と 「価値 の内 面化 」の占 める割 合
は 1 時間目よりも 4 時間目の方が低下し,
「自己創造」が高まる傾向を示した。とりわ
け「収集積極・活用積極型」は, 1 時間目の「自己創造」の割合は 23.8%であったが,
4 時間目の授業実践直後では 86.4%となり,その割合が 高いことから,授業効果が最も
顕著となった。「収集積極・活用消極型」では, 1 時間目で「自己創造」にまで至った
児童は皆無であったが,4 時間目の感想では,8 割近くの児童が「自己創造」に至った。
これら「 収集 積極・ 活 用消極型 」と 「収集 積 極・活用 積極 型」は , いずれも 「収 集」
が積極的 なグ ループ で あること から ,情報 活 動の「収 集」 が人間 発 達に関与 して いる
と推測される。
- 70 -
3.3.2.
「収集」と「活用」の人間発達への影響
情報活動の 3 つのグループは,いずれも「収集」と「活用」の組み合わせによる分
類である。このため,グループ間を比較することによって,「収集」と「活用」がそれ
ぞれ人間発達にどのように影響するかを分析した。
「収集 消極・ 活用 消極 型」と 「収集 積極 ・活 用消極 型」は ,ど ちら も「活 用」は 消
極的であるが,「収集積極・活用消極型」は「収集」が積極的であるため,両グループ
の記述内容の差は「収集」の差とみなされる。
「収集消極・活用消極型」と「収集 積極 ・
活用消極 型」の グルー プを比較 すると ,「収 集積極・ 活用消 極型」 は,「現 状把握 」の
割合が「収集消極・活用消極型」よりも高い傾向を示している。「収集積極・活用消極
型」は人間発達との関連から見ると,「収集」の差は「現状把握」にのみ影響している
と推測される。
次に「活用」について見ると,
「収集積極・活用消極型」と「収集積極・活用積極型」
は,どちらも「収集」が積極的であるが,「収集積極・活用消極型」は「活用」が消極
的,「収集積極・活用積極型」は積極的であることから,記述内容の差は「活用」の差
とみなされる。その視点から記述内容を考察すると,「活用」に関しては,人間発達で
は「自己創造」で「収集積極・活用積極型」が上回った。このことから,「活用」の差
によって「自己創造」が促されたと推測できる。以上の 分析結果より,情報活動の「活
用」力が人間発達に影響していることが確認できた。
4.
まとめ
第 3 章,第 4 章と同様 ,本章では,小学生 40 人を対象として,情報活動と人間発達
が密接に 結び ついて い ることを 明ら かにし た 。特に「 収集 」活動 が 活発な児 童, 生徒
の人間発達が深まる傾向がみられた。
本章で は,情 報活 動を 基盤に した金 融経 済教 育の理 論に基 づい て, 情報活 動(特 に
「収集」と「活用」)を高めることで人間発達を深める工夫をした授業を,環境を配慮
した金融経済 教育を題 材として開発 ,実践し た。対象は小 学校高学 年で授業時間 は 4
時間分で ある 。授業 は ,情報活 動を 基盤と し ,人間発 達を 促す視 点 に加えて ,授 業実
践に必要な 4 つの視点として,
「生活システムの規模 」,
「モノ・サービスのライフサイ
- 71 -
クル」,「学習指導要領の領域」 および「3F」を組み込んだ。授業前に「情報活動に関
するアンケート」を実施し,クラスの情報活動の傾向を把握した。この結果,「収集」
と「活用」が活発であることが明らかとなった。
次に,授業では,1 時間目と 4 時間目の児童の自由記述内容を分析することで人間
発達を明 らかに した。 記述内容 に関し ては, 人間発達 の視点 から「 現状把握 」,「価 値
の内面化」,「自己創造」の 3 段階に分類した。この結果, 1 時間目と 4 時間目の結果
を比較す ると,「現状 把握」が 皆無と なり ,「自己創 造」の 割合が 増加した ことが 明ら
かとなった。「自己創造」は 4 時間の授業後,7 割以上の児童にみられるようになった
ことから,多くの児童において人間発達が深まったことが確認できた。
情報活動によって児童を 3 つのグループに類型化し,情報活動と人間発達との関係
を明らかにした結果,情報活動によって児童を,
「収集消極・活用 消極型」,
「収集積極 ・
活用消極型」,「収集積極・活用積極型」の 3 つに分類できた。これらのグループと人
間発達と の関係 を分析 した結果 ,「収 集消極 ・活用消 極型」 では,「価値の 内面化 」が
半数を占 め最も 高くな った。「 収集積 極・活 用消極型 」では ,「価 値の内面 化」と 「自
己創造」が進んだ。「収集積極・活用積極型」では,過半数の児童が「自己創造」に到
達してい るこ とが明 ら かとなっ た。 このこ と より,情 報活 動の「 収 集」と「 活用 」が
積極的な 児童 は人間 発 達の「自 己創 造」を 示 す割合が 最も 高く, 授 業効果が 大き いこ
とが明ら かと なった 。 これまで の研 究では 「 活用」の みで は,人 間 発達が促 され ない
ことが明らかとなっている( 坂野・大藪・杉原,2003)。本章においては,「活用」の
みが積極的なグループは構成されなかったことから,「収集」と「活用」のそれぞれの
影響を確 かめる ことは できなか ったが ,「活 用」の差 に着目 すると ,「活用 」が積 極的
であると,
「自己創造」が促されることが推測できた。第 4 章と対象者や授業内容が異
なるため ,比 較はで き ないが, 本章 では, 特 に「収集 」と 「活用 」 を促す授 業と した
影響があったのではないかと考えられる。
以上, 本章の 分析 によ り,授 業対象 や題 材を 変えて も,情 報活 動の 「収集 」と「 活
用」が人 間発 達に影 響 している こと が明ら か となった 。こ れより , 情報活動 と人 間発
達が関係 して いるこ と を検証で きた 。 今後 の 課題は, 人間 発達に 影 響を持つ と考 えら
れる「収集」と「活用」が具体的にどのような方法で獲得できるのか,また,「収集」
と「活用 」は ,それ ぞ れ授業効 果に どのよ う な影響を もた らすか に ついて明 らか にす
ることである。本章で試験的に行った,「収集」と「活用」を促す授業を,より継続的
- 72 -
にするためにはどうすればよいかを考える必要がある。そして,
「どのような問題にも
自分で解決できる消費者」を育成するための金融経済教育の方法論を提案したい。
- 73 -
表 5-1
活動 時間
留意点/見方・考え方・感じ方
1.地球温暖化って何? 項目別に調べてくる。
①地球温暖化って何? ②なぜおこる? ③どう
自分でどこまで情報を収集できるか
なる? ④国別のCO2排出量の割合 ⑤日本の
CO2排出量の割合
事前
学習
導入
学習活動
1 時間目の授業案
3F
収集
新鮮 大
アウトプット
大
アウトプット
新鮮 大
アウトプット
大
アウトプット
現状把握
5分 地球温暖化とCO2排出量の関係について知ろ 実感していることと学習する内容とが密 発信
接な関係にあることに気づく
う!
地球温暖化の調べ学習の発表 1項目5分× それぞれの内容に関して調べ学習の発
25分 5=25分 分かったことを書いていく(収集)
表をすることによって現状を理解する。ま 発信
とめてシートに書く
①地球温暖化って何?
収集
②なぜおこる??
展開
生活指標
(システム ライフサイクル
の大きさ)
情報活動 人間発達
現状把握
価値の内面
化
③どうなる?
④国別のCO2排出量の割合
⑤日本のCO2排出量の割合
まとめ
⑥家庭内のCO2排出量の割合
これは調べていないので予想させる
5分
それぞれについて復習テストをする
理解しているかを確かめる
活用
3分
5分
2分
テスト結果をチェックして確認する。
今日のわかったことを記入する
分かったことを発表する。
理解しているかを確かめる
理解しているかを確かめる
理解しているかを確かめる
発信
- 74 -
価値の内面
化
表 5-2
活動
時間
学習活動
2 時間目の授業案
留意点/見方・考え方・感じ方
情報活動 人間発達 3F
1ヵ月の電気代・水道・ガス、ガソリ 授業で学習した光熱・水道に関して、使用
ンの使用量と金額を事前に調べて 量と金額について関心を持ち、表にするこ 収集
おく。
とができる
事前学習
生活指標
(システム ライフサイクル
の大きさ)
現状把握 新鮮
大
アウトプット
価値の内
新鮮
面化
中・小
アウトプット
中
アウトプット
中・大
アウトプット
5分 前時の内容を復習する。
導入
家庭の中での排出量で多いものを
家庭での状況に関心を持つ。
復習する。
費目、品目によって排出係数が異なること
5分 グラフで紹介
発信
に気づく
5分
自分の家のCO2排出量を計算して
みよう!
3分 CO2排出係数について理解する CO2排出係数について理解する
収集
現状把握 新鮮
表を用いてCO2排出量を算出する。調べ
収集
てない子は教師のを渡す。
価値の内
新鮮
面化
10分
それぞれの排出量を発表して合計
人によって排出量が違う事に関心を持つ 発信
のみパソコンに入れていく
自由
7分
自分の家のCO2排出量の傾向をま
自分の家の傾向を知る
とめてみよう!
展開
10分 表からCO2排出量を算出する。
まとめ
楽しみ
- 75 -
蓄積
価値の内
楽しみ
面化
表 5-3
活動
時間
学習活動
①自分の家のCO2排出量の傾向をまとめ
よう。②今、すでに家でやっている工夫を書
こう ③電気、ガス、水道、ガソリンについ
て、それぞれどのような工夫をすればCO2
排出量を減らせると思いますか。
留意点/見方・考え方・感じ方
情報活動 人間発達
3F
生活指標
(システムの ライフサイクル
大きさ)
授業で学んできた中で、どのような工
夫ができるかを考えることができる。
活用
家族で話し合うことによって情報を共
有することができる。
自己創造
楽しみ・自
大・中・小
由
アウトプット
皆のデータを入力した紙を返却する。前時 家庭によって排出量に差があること
5分 のデータ入力したグラフシートをみせて前 を知る。やり方によって排出量を削減 収集
時までの確認をする
できることを知る
現状把握
楽しみ
中・小
プロセス
価値の内面 楽しみ・新
中・小
化
鮮
プロセス
事前学習
導入
3 時間目の授業案
自分の家のCO2排出量を減らすための工
夫を考えてみよう!
自分の家のCO2排出量を減らすための工
15分 夫を発表する。少ない家庭、多い家庭の例 自分の家の工夫が発表できる
を挙げる
発信・収集
シートに友達の例で面白い方法、取り上げ
友達の工夫のよい点に気づける
たい方法を書きとめる
発展
5分
友達の家の工夫を聞いてとりあげられるも
友達の工夫のよい点に気づける
のを発表する。
5分 お金と排出量との関係を理解する
10分
まとめ
お金と排出量との関係を理解する
お金と排出量との関係を話し合い、どのよ お金と排出量との関係を考えて何が
うな方法がより効果的かを話し合う。
よいかを考えられる
5分 自分の今後やりたい方法をまとめる
- 76 -
プロセス
収集
価値の内面
新鮮
化
中・小
アウトプット
インプット
表 5-4
活動
導入
時間
5分
学習活動
留意点
お金との関係を考えて、何を工夫すればよいかを考えたか発
前の時間の確認
表する。自分の今後のやりたい方法を確認する
5分 環境家計簿について知る
8分 チェック方式の環境家計簿をやってみる
展開
4 時間目の授業案
情報活動 人間発達 3F
生活指標(シ
ステムの大 ライフサイクル
きさ)
発信・蓄積 現状把握 自由
中
アウトプット
中・大
インプット
環境家計簿について理解す
収集
る
いろいろな種類の環境家計
収集
簿があることを知る
計算式の環境家計簿
活用
自分の環境家計簿をシートから10項目選択して作成する。理
自分の家の独自な環境家
20分 由と書きこむ。また友達の活動で自分でもやりたい項目も書き
活用
計簿を作成する事ができる
こむ。
まとめ
5分 感想と発表
現状把握 新鮮
現状把握 新鮮
価値の内面
自由
化
自己創造
楽しみ・自
小・中・大 プロセス
由
他の人の環境家計簿を知
価値の内面
活用・発信
自由
る。
化
- 77 -
小・中・大 インプット
小・中・大 アウトプット
表 5-5
分野
車
電気
電気
電気
車
電気
水道
車
ガス
電気
車
水道
車
車
ガス
電気
ガス
電気
水道
車
電気
電気
車
車
学級の環境家計簿
内 容
急いでいない時や近い場所は、車に乗りません
使っていない部屋の電気をけします
冷蔵庫にモノをつめこみ過ぎず、ドアを開けたらすぐに閉めます
冷蔵庫、テレビ、エアコンなどの使い方を工夫します
自動車を利用した買い物は、できるだけまとめてします
使わない電化製品の主電源をこまめに消します
歯みがきや顔を洗う時は、水をだしっぱなしにしません
急発進・急ブレーキをしません
コンロの炎は、ナベからはみ出さないようにチェックします
部屋の温度を冷房は28℃、暖房は19℃にします
マイカーはできるだけひかえ、電車・バス・自転車を利用します
トイレでむだな水を流しましせん
余分な荷物を積まずに走ります
乗り合わせをこころがけます
お風呂をわかしたら、家族が続けて入ります
カーテン、ブラインドをうまく利用して、省エネルギーの暮らしをします
ガスの節約につとめます
エアコン、掃除機などは、こまめに掃除します
お風呂の残り湯は洗濯や洗車に使います
アクセルはやさしくふみます
テレビゲームで遊ぶ1日の時間を決めます
照明は、省エネ型のランプを使用します
むだなアイドリングはやめます
環境にやさしい低公害車を買います
- 78 -
該当数
25
24
23
22
19
19
19
18
17
17
16
16
15
13
12
12
10
10
10
8
8
6
4
2
割合(%)
62.5
60.0
57.5
55.0
47.5
47.5
47.5
45.0
42.5
42.5
40.0
40.0
37.5
32.5
30.0
30.0
25.0
25.0
25.0
20.0
20.0
15.0
10.0
5.0
表 5-6
「情報活動に関するアンケート」結果
項目
テレビのニュースを一日一回は見る
毎月買ってくる雑誌がある
インターネットやタウン誌で情報をよくチェックする
収集
買うものがなくてもお店に行っていろいろなものを見る
新しいことを知る時は、人から聞くことが多い
合計(割合は平均)
利用したサービスや買ったものに問題があった時、どこに言えばよいか知っている
蓄積 消費生活センターを知っている
合計(割合は平均)
お菓子や文房具を買う時は、「賞味期限」やマークを確かめて買う
電気製品などの取り扱い説明書や薬のラベルはしまってあり、すぐに見ることができるようになっている
活用
電気製品などの使い方が分からない時は、説明書を読んでもらったり、自分で読んだりする
合計(割合は平均)
自分で買った商品や利用したサービスに不満があった時は、店の人にすぐ言う
発信 商品を買った時などのついてくるアンケートはよく出すほうだ
合計(割合は平均)
*複数回答で、割合は、全体の何%が選択したかを示している。
表 5-7
1時間目
4時間目
現状把握
該当数
割合(%)
16
43.2
0
0.0
該当数
割合(%)*
38
95.0
19
47.5
26
65.0
26
65.0
25
62.5
134
67.0
19
47.5
5
12.5
24
30.0
31
77.5
22
55.0
29
72.5
82
68.3
18
45.0
10
25.0
28
70.0
人間発達の変化
価値の内面化
該当数
割合(%)
15
40.5
9
- 79 -
23.1
自己創造
該当数 割合(%)
6
16.2
30
76.9
図 5-1
図 5-2
各家庭の CO 2 排出量
1,000 円あたりの排出量
- 80 -
図 5-3
情報活動 グル ープの分布
Ⅰ軸活用
収 集 積 極 ・活 用 消 極 型
収集消極・活用消極型
収 集 積 極 ・活 用 積 極 型
Ⅱ 軸 :収 集
表 5-8
情報活動グループ別・1 時間目と 4 時間目後の
自由記述内容による人間発達の変化
収集消極・活用消極型
現状把握
1時間目の自由記述
4時間目の自由記述
1時間目と4時間目の平均
価値の内面化 自己創造
2(25.0)
5(62.5)
1(12.5)
0(0.0)
2(28.6)
5(71.4)
2(13.3)
7(46.7)
6(40.0)
該当数( % )
収集積極・活用消極型
合計
8(100.0)
現状把握
価値の内面化
自己創造
収集積極・活用積極型
合計
4(44.4)
5(55.6)
0(0.0)
7(100.0)
0(0.0)
2(22.2)
7(77.8)
9(100.0)
15(100.0)
4(22.2)
7(38.9)
7(38.9)
18(100.0)
- 81 -
9(100.0)
現状把握 価値の内面化
9(42.9)
自己創造
合計
7(33.3)
5(23.8)
21(100.0)
0(0.0)
3(13.6)
19(86.4)
22(100.0)
9(20.9)
10(23.3)
24(55.8)
43(100.0)
第6章
新しい金融経済教育の実践 4.
小学生・中学生・高校生・大学生を対象とした
「人生設計ゲーム」を用いた金融経済教育
1.
はじめに
本博士 論文の 金融 経済 教育に 対する 考え 方は ,一貫 して情 報活 動を 基盤と した人 間
発達を促 すと いう視 点 から ,こ れま であま り 目にする こと のなか っ た新しい 教材 や授
業方法を 工夫 すると い うところ にあ る。そ れ により, 子ど も達が 学 校教育終 了後 も将
来にわた って ,時々 刻 々と変化 する 金融経 済 情勢に適 切に 対応で き る能力を 養う こと
ができるようになることを,最終的な目標に据えている。そのような考え方から,第 3
章では大学生 110 人を対象に「国家経済と家計の関係」について,第 4 章では,小 学
生・中学生・高校生の合計 311 人を対象に「お金とその価値」について,そして第 5
章では,小学生 40 人を対象に環境に配慮した金融経済教育の 内容を扱う形で,金融経
済教育を 実践 してき た 。これら の実 践を通 じ て,情報 の 「 収集」 活 動が積極 的な 学生
は,人間 発達 の段階 が より進む こと がわか り ,情報活 動と 人間発 達 には一定 の関 係が
認められることが明らかとなった。
本章で は,上 で見 てき たよう な情報 活動 を基 盤とし た金融 経済 教育 の考え 方に基 づ
いて,こ れま で行っ て きた形 と は異 なる教 育 実践を行 った 場合に も ,同様の 結果 が得
られるかについて検証する。具体的には,次の 2 点でこれまでの章とは異なる形式を
とっている。第 1 に,対象を小学生から大学生まで広くカバーしていることである。
これにより, 校種の違 いによる差を より鮮明 にすることが できると 考えられる。 第 2
に,扱う 内容 をお金 そ のものと する のでは な く,人生 の中 でのお 金 の生活へ の関 わり
方まで広 げる ことに よ って,生 活設 計のデ ザ インをシ ミュ レート で きる「人 生設 計ゲ
ーム」を開発・作成した点である。ここではそれを用いて授業実践を行った。
- 82 -
2.
方法
2.1.
「人生設計ゲーム」の開発
本章で 扱う「 人生 設計 ゲーム 」は, これ まで 金融経 済教育 を目 的と して, 様々な 機
関で作成 され ている よ うな,他 人と ゲーム 終 了時の残 金を 比べて 競 うことを 目的 とし
たものではなく,自分の人生を自分で考えて生活設計する事を目的としたものである 31 。
大藪・杉原(2008)による「人生設計ゲーム」における基本構想を尊重するかたちで,
若干の修正を加え 100 セット作成した(図 6-1) 32 。
ゲームは一人用で,10 年を 1 つの期間の単位として,自分の人生を平均寿命までじ
っくり考 えら れるよ う に設定し たボ ードゲ ー ムである 。ゲ ームを 行 う生徒の 意思 決定
の判断材料として,「年収表」,「生活費表」,「保険表」,「選択可能なライフイベント」
と「選択不可能なライフイベント」を用意した。このうち,前の 3 つ,つまり年収と生
活費,「選択可能なライフイベント」については自分で選択する形式をとり,一方,最
後の 1 つである「選択不可能なライフイベント」は,10 年ごとに 1 回,20 枚あるパネ
ルの中から無作為に 1 つのパネルを引くようにする形式をとった 33 。
「年収表」には,20 代から平均寿命(女性は 86 歳,男性は 80 歳)までそれぞれ金
額が設定されている。独身の場合はフルタイム,結婚したら片働き,片働きとパート,
片働きとフルタイムから選択する。60 歳から平均寿命までは年金額が設定されている。
「生活費表」には,独身(年間 180 万円),夫婦のみ(年間 300 万円),夫婦と子ども
(年間 360 万円),共働き夫婦と子ども(年間 450 万円)が設定されており,子どもの
人数については考慮しないこととした。「選択可能なライフイベント」には,結婚(結
婚式あり 500 万円,結婚式なし 150 万円),出産(1 人につき 20 万円),車の購入(軽
自動車 100 万円,普通車 300 万円),住宅購入(2,000 万円,3,000 万円),住宅のリフ
ォーム(500 万円,1,000 万円),老人ホームの購入(1,000 万円),子どもの教育費(幼
31
第 一 生 命 保 険 株 式 会 社 の「 ラ イ フ サ イ ク ル ゲ ー ム 」と「 ラ イ フ サ イ ク ル ゲ ー ム Ⅱ ~ 生 涯 設 計 の ス ス メ
~ 」, 全 国 銀 行 協 会 の 「 生 活 設 計 ・ マ ネ ー プ ラ ン ゲ ー ム 」 等 が あ る が , い ず れ も 数 名 で 行 う ゲ ー ム で サ
イコロや「見ないでカードを引く」など偶然性によって進むものである。
32 2008 年 に 作 成 し た 「 人 生 設 計 ゲ ー ム 」 は , 1 年 ご と に 人 生 を 設 計 し て い く ス タ イ ル で あ っ た が , ゲ
ー ム に 時 間 が か か る こ と か ら , 本 章 で の ゲ ー ム は 10 年 後 に 人 生 を 設 計 す る ス タ イ ル に 変 更 し た 。 ま た
用紙に記載するものから,ホワイトボード形式 に変更した。
33 ゲ ー ム 用 の 紙 幣 も 用 意 し た が ,金 額 の 収 支 を 直 接 計 算 す る ほ う が ゲ ー ム 進 行 上 効 率 的 で あ る こ と か ら ,
使わないことにした。
- 83 -
稚園から 専門 学校, 短 大まで公 立と 私立別 。 大学は国 公立 ,私立 文 系,私立 理系 ,私
立医歯系別に設定。下宿の選択肢もある 。),投資( 10 万円,50 万円,100 万円),娯
楽(旅行 10 万円,30 万円,100 万円)を設定した。車とリフォームは 10 年おきに購
入し,これに「保険」が加わる。「保険」の加入は自由で,独身(年間 10 万円),夫婦
のみ(年間 10 万円),夫婦と子ども(年間 20 万円)の選択肢がある。年収と生活費の
差額を計算しながら,それぞれのライフイベントを選択し,ボードに金額を記載する。
最後に「選択不可能なライフイベント」のパネルを 1 枚無作為に引く。
「選択不可能
なライフイベン ト」には,健康に関するもの(病気手術 50 万円,病気ガン治療 100
万円,介護 200 万円),災害や事故等に関するもの(交通事故 30 万円,泥棒被害 100
万円,火事 500 万円,地震 1,000 万円),経済に関するもの(給料カット 50 万円,ク
レジット被害 50 万円,ボーナスカット 80 万円,リストラ 200 万円),株価の上昇(10
万円⇒20 万円,50 万円⇒100 万円,100 万円⇒200 万円),株価の低下 100 万円,連
帯保証人による借金( 300 万円,500 万円,1,000 万円),遺産(500 万円,1,000 万円)
の計 20 種類がある 34 。「保険」に加入していて,「選択不可能なライフイベント」で ,
マイナスのパネルを引いた時は,パネルに記されている金額を全額支払う必要はなく,
どんな場合でも上限 200 万円まで補償されることとした 35 。
ゲームを行うにあたって,口頭で 10 分程度ルールの説明をする一方,マニュアル(図
6-2)も配布した 36 。また, 小学生と 中学生は,年収,生活費や保険の計算に時間がか
かるため,マニュアルに 3 つの生き方と年収,生活費,保険の金額を事前に設定して
おき,年代ごとに 1 つの生き方を選択してもらい,それに対応する年収,生活費,保
険の金額を記入するようにした。生き方のタイプは,①一人で暮らす(独身),②結婚
して 1 人が働く(片働き),③結婚して 2 人が働く(共働き:フルタイムかパート)を
設定した 。最 後に 小 学 生 と中学 生は 結婚と 出 産時期を 判断 しにく い ので,結 婚す る場
合は 26 歳,出産は第一子を 27 歳と設定した。またゲーム終了時の残金による「人生
設計ゲー ム」 チェッ ク 表を作成 し, 自分の 人 生のタイ プを 確認で き るように した ( 図
6-2 右下に記載)。なお,ルールを黒板に提示し,いつでも確認できるようにし(図 6-3),
教師用のルールブックも作成し配布した。
34
投資をしていないのに「株価の上昇」や「株価の低下」のパネルを引いた場合は引き直す。
本 来 は ,連 帯 保 証 人 の 被 害 や 株 価 の 低 下 に は 保 険 が 適 用 さ れ な い が ,設 定 を 細 か く す る と ル ー ル が 複
雑になるため,本ゲームではルール説明時にその旨を説明するにとどめた。
36 高 校 生 と 大 学 生 用 に は , 自 分 で 各 年 に 計 算 を す る た め の マ ニ ュ ア ル を 別 途 作 成 し た 。
35
- 84 -
2.2.
「人生設計ゲーム」を用いた授業案と分析方法
本章では,授業案作成の基本方針としては,第 4 章と第 5 章で用いたものと同じく,
情報活動を基盤として,人間発達を促すこととし,それに授業実践に必要な 4 つの視
点を 盛 り込 ん だ( 大藪 ・奥 田 , 2013,2014)。第 一 の視 点 は「 生活 シス テ ムの 規 模」,
第二の視点は「モノ・サービスのライフサイクル」,第三の視点は「学習指導要領の領
域」,第四の視点は「 3F」(杉原,2001)である。
授業は基本的に授業時間の 1 時間(小学生 45 分,中学生と高校生 50 分,大学生 90
分)で実施するが,小学校と中学校では 2 時間続きで実施したところもある。内容は
表 6-1 に示す授業案に準ずる。授業実践は,2013 年 11 月から 2014 年 2 月の間に,小
学生 91 人(2 校),中学生 284 人(3 校),高校生 234 人(4 校),大学生 121 人(4
校)の合計 730 人を対象に行った 37,38 。授業に入る前に対象者に「情報活動に関す るア
ンケート 」と 「授業 前 アンケー ト」 を記入 さ せた。授 業で 「人生 設 計ゲーム 」を 実践
し,ゲーム終了後に対象者が「授業後アンケート」に記入する構成とした(表 6-1)。
授業前に実施する「情報に関するア ンケート」は,第 2 章で作成し,第 3 章,第 4 章
および第 5 章で用いてきたものと同じ 12 項目であり,「収集」に関するもの 5 項目,
「蓄積」に関するもの 2 項目,
「活用」に関するもの 3 項目,そして「発信」に関する
もの 2 項目から成っている。これら 12 項目のデータに対する児童・生徒・学生の反応
パターン を, まず数 量 化 Ⅲ類に よっ て分類 す る。次に ,ク ラスタ ー 分析を用 いて ,情
報グループに分類する。
「授業前アンケート」では,どのような人生を送りたいかを記入させる(自由記述)。
自由記述 の内 容をゲ ー ム前後で 比較 すると , 現実を把 握す る段 階 に 差が見ら れた こと
から,人 間発 達の指 標 として, 本章 では現 実 把握度と いう ,新た な 指標を用 いる こと
とする 39 。現実把握度は,自由記述の内容を読み込み,記述内容を「漠然としている」,
37
中 学 校 は ク ラ ス の 数 が 4~ 6 と 一 般 的 に 多 か っ た た め , 校 数 は 3 校 で あ っ た が , 人 数 が 多 く な っ た 。
なお,校種間のサンプル数や質の偏りに伴う影響に留意する必要がある。
39 他 の 第 3 章 ,第 4 章 お よ び 第 5 章 で の 分 析 と 同 様 ,本 章 の 分 析 に お い て も 本 来 は 人 間 発 達 の 指 標 そ の
も の を 用 い る べ き で あ る 。 し か し , 自 由 記 述 を 人 間 発 達 の 視 点 で 分 類 し よ う と す る と ,「 ど の よ う な 人
生 を 送 り た い か 」 を 聞 い て い る こ と か ら ,「 現 状 把 握 」 や 「 価 値 の 内 面 化 」 に 該 当 す る 記 述 が 少 な い 一
方,自分がどうしたいのかという希望のみを述べるものが多く見られ,人間発達の各段階への分類にな
じ ま な い 回 答 の 分 布 と な っ た 。 そ こ で , こ の 人 間 発 達 の 指 標 の 代 替 と し て み な す こ と が で き る ,人 間 発
達 の 指 標 と 正 の 相 関 を 有 し て い る 現 実 把 握 度 と い う 指 標 を 新 た に 作 成 し ,分 析 を 行 う こ と と し た 。 後 ろ
の 3.2.3.節 を 参 照 の こ と 。
38
- 85 -
「少し現実味がある」,「かなり現実的である」の 3 つの段階に分類して現実の把握度
を捉える。例えば「漠然としている」には,「楽しい人生」,「幸せな人生」など,具体
的ではな い記述 が該当 する。「 少し現 実味が ある」と 「かな り現実 的である 」の差 は,
年代ごとに,詳しく人生設計ができているかどうかの差である。「少し現実味がある」
は,「結婚,出産後,また働きたい」や,「子どもは 2 人産んで,老後は 2 人で楽しみ
たい」な どが該 当する 。「かな り現実 的であ る」は,「高校 卒業後 ,大学で 教員の 資格
をとって,教師として就職をしてから結婚,出産する。共働きを続け, 30 代に家を購
入する。 退職 するま で 働き,老 後は 年金生 活 をしなが ら, 趣味を 楽 しみたい 」の よう
に,具体的な人生設計を記述しているものが該当する。
「授業後アンケート」では,
「ゲームを通して気づいた点と,どのような人生設計を
したいか」を自由記述させる。「授業前アンケート」と同様,記述内容を読み込み,そ
の内容から,現実把握度として,
「漠然としている」,「少し現実味がある」,「かなり現
実的である」の 3 つの段階に分類し,授業前後の変化を分析する。また,現実把握度
による記 述内 容の分 析 結果が人 間発 達の視 点 と相関が ある かどう か を明らか にす るた
め,授業後アン ケート の自由記述を「 現状把 握」,「価値の内面化」,「自己創造」 の 3
つの段階に分類し人間発達の視点でも分析することとした。
授業の分析方法の手順を以下に示す。①「情報活動に関するアンケート」を用いて,
児童・生 徒・ 学生を 数 量化 Ⅲ類 とク ラスタ ー 分析によ って ,情報 活 動別のグ ルー プに
分類する 。② 「授業 前 アンケー ト」 と「授 業 後アンケ ート 」の自 由 記述の内 容を 読み
込み,現実把握度の視点(「漠然としている」,「少し現実味がある」,「かなり現実的で
ある」) で分析 する。 ③ 「授業 後アン ケート 」の自由 記述を 人間発 達の視点 (「現 状把
握」,「価値の内面化」,「自己創造」)で分析し,現実把握度との相関をみる。④情報グ
ループの 校種 (小学 校 ,中学校 ,高 校,大 学 )別に「 授業 前アン ケ ート」と 「授 業後
アンケート」の自由記述を現実把握度の視点で分析する。⑤以上の結果より,
「人生設
計ゲーム 」を 用いた 情 報を基盤 とす る金融 経 済教育の 効果 を現実 把 握度の視 点 か ら明
らかにす る。 なお自 由 記述内容 の分 類は, 二 人の分析 者で 行い, 結 果を比較 し, 分類
が異なる場合は協議することで,分類基準がぶれないようにした。
- 86 -
3.
結果
3.1.
属性
授業実践は,小学校 2 校(91 人),中学校 3 校(284 人),高等学校 4 校(234 人),
大学 2 校(121 人)の合計 730 人を対象に実施した。性別は,男子 308 人(42.2%),
女子 422 人(57.8%)である。校種別の男女の比率は表 6-2 に示す通りである。
3.2.
3.2.1.
単純集計の結果
「情報活動 に関するアンケート」結果
「情報活動に関するアンケート」結果(表 6-3)より,「テレビのニュースを一日一
回は見る」(81.0%)が最も多く,次いで「電気製品などの使い方が分からない時は,
説明書を読んでもらったり,自分で読んだりする」( 78.5%),「買うものがなくてもお
店に行っていろいろなものを見る」
( 67.1%),
「お菓子や文房具を買う時に,
『賞味期限』
やマークを確かめて買う」
(61.4%)と続く。情報活動ごとの平均を見ると,
「活用」が
60.2%,「収集」が 54.4%,
「蓄積」が 34.3%,
「発信」が 17.0%となり,「活用」と「収
集」に関する活動が活発であることが分かった。
3.2.2.
授業前後の自由記述による現実把握度とキーワードの変化
授業前の自由記述で,
「どのような人生を送りたいか」を記述させ,その内容を「漠
然としている」,「少し現実味がある」,「かなり現実的である」の 3 つの段階に分類し
た。その結果,図 6-4 に示すように,「漠然としている」( 57.3%)が最も多く,「少し
現実味がある」( 30.1%),「かなり現実的である」(12.6%)の順となった。
また, 自由記 述の 「ど のよう な人生 を送 り た いです か」の 内容 をキ ーワー ドの頻 出
度数で分析した 40 。頻出度数が 30 個以上のものを選択し,その傾向を見たのが図 6-5
である。 30 回以上の頻度で現れたキーワードは, 20 項目となった。図から,「人生」
40
こ の 分 析 に は , SPSS の Text Analysis for Survey を 用 い た 。
- 87 -
(285 回),
「仕事」
(277 回),
「金」
( 200 回)というキーワードが最も多いことが分か
る。「人生」というキーワードに関しては,質問に「どのような人生を送りたいと思い
ますか」と記していることから,
「~のような人生を送りたい」と記述していることが
多くなったと思われる。これより,最も多い今後の人生で望むことは「仕事」と「金」
に関することである。次いで,「楽しい」( 153 回),「子ども」( 152 回),「結婚」( 146
回),「生活」(131 回) と続く。これらのキーワードをつなげると ,「仕事をして,お
金を貯め て , 結婚し て ,子ども を産 んで , 楽 しく暮ら した い」と 考 える児童 ・生 徒・
学生が多いことが分かる。また「家族・家庭」( 102 回),「暮らす」(76 回),「幸せ」
(60 回),
「安定」
(60 回)などから,
「家族と幸せな家庭を作って ,安定して暮らした
い」と考えている者が多いことが分かる。また「老後」( 55 回),「貯める」(42 回),
「家」(41 回)等から,「お金を貯めて家を買い,老後に備えたい」と考えていること
が分かる。一方で「自分」(121 回)や「好きなこと・やりたいこと」( 62 回)から,
自分のや りた いこと を して過ご した いと考 え ている。 これ らの回 答 からは, 自分 の将
来につい て一 定の関 心 を示して いる ことが 見 て取れる もの の,多 く の回答に おい ては
内容が具体的なものではなく ,抽象的なもの にとどまっていた。
授業後も同様に,「ゲームを通して気づいた点と,どのような人生設計をしたいか」
を自由記述させ,現実把握度で分析した。授業前後を比較した結果, 図 6-4 に示すよ
うに,
「漠然としている」
(14.9%)が減少する一方 ,
「少し現実味がある」
( 39.9%),
「か
なり現実的である」(45.2%)は授業後に増加し ,ゲームの効果が現実把握度に現れた
ということが分かる。また,自由記述の中で使われたキーワードの頻出度数によって,
授業後の変化を明らかにした。授業前と同様に, 30 回以上記述されたキーワードを抽
出したのが図 6-6 である。
これより, 30 回以上の頻度となったのは 32 項目であった。これは授業前のアンケ
ートの 20 項目よりも 12 項目多いことから,児童・生徒・学生が ,似たようなキーワ
ードを様々な内容で感じていたことが分かる。一番多かったのが「金」( 345 回)で,
次いで「人生」
(259 回),
「分かる」
( 210 回),
「金がかかる」
(201 回),
「子ども」
( 178
回)である。 授業前で は「人生」が 最も多く ,次いで「金 」であっ た。授業後は 第 1
位が「金」となり,より「金」そのものに関心が高まったと考えられる。「人生」につ
いては,授業前同様,質問に「どのような人生を送りたいか」と聞いていることから,
「~のよ うな人 生にし たい」,「 ~のよ うな人 生になら ないよ うにし たい」等 の使わ れ
- 88 -
方であったため,増加したと思われる。3 番目に多かったのが「分かる」である。ゲー
ムを通して,様々なことが「分かった」と感じた児童・生徒・学生が多かった。また,
「金がか かる 」も多 く ,子ども の教 育費や 生 活等に 多 くの お金が 必 要である と実 感し
たことが 分か る。授 業 前には「 幸せ 」や「 楽 しい」な どの 抽象的 な 言葉が多 く出 現し
たのに対して,授業後ではそのような言葉は見当たらず,
「貯蓄」,
「人生設計」,
「借金」,
「保険」,「 共働き」,「 教育費」,「 年収」,「計 画的」等, 生活に 関わ るより現実 的な言
葉が現れ てい る。ゲ ー ムを通し て, 現実の 生 活やその プラ ンにつ い てより現 実的 に考
えるようになったことが分かる。
次に 授業 前と 授 業後 に どの よう に現 実 把握 度 が変 化し たか を 明ら か にし た。 図 6-7
より,授業前に「漠然としている」中で授業後にも「漠然としている」のは 19.1%で
あり, 41.6%は ,「少 し現実 味が ある」 とな り, 39.2%は「 かな り 現実 的 であ る」に 変
化した。一方,授業前に「かなり現実的である」 については,対象の 65.2%は授業後
においても「かなり現実的である」となり,授業後に「漠然としている」のは 4.3%に
過ぎない。
3.2.3.
授業後の自由記述による人間発達分析
第 3 章,第 4 章および第 5 章では,自由記述内容を読み,
「現状把握」,
「価値の内面
化」,「自己創造」の 3 つの段階に分類して,人間発達の段階を確認した。本章では,
これまで と同 様,人 間 発達によ って 自由記 述 を分類し て, 授業前 後 の人間発 達段 階の
変化を分 析す る予定 で あったが ,前 述した よ うに,授 業前 の自由 記 述内容を 人間 発達
の視点で 分析 を試み た が,自分 がど うした い のかとい う希 望のみ を 記述し, 人間 発達
の段階に 分類 するに は なじまな い回 答が大 半 を占めた 。こ のこと よ り,人間 発達 の概
念と似た 概念 である 「 現状把握 度」 の視点 を 用いるこ とで 自由記 述 を分類す るこ とと
した。本 節で は,現 状 把握の視 点 を 人間発 達 の視点の 代替 として 用 いること がで きる
かを確か める ため, 授 業後の自 由記 述を両 者 の視点で 分析 し,そ の 結果を比 較す るこ
ととした 。人 間発達 の 分類方法 は, 記述内 容 が単に「 面白 かった 」 や「大変 だっ た」
等は「現状把握」に,「人生にはいろいろな場面でお金がかかるが,今後どのようにし
て準備すればよいかと考えた」等は「価値の内面化」に,「このように教育費や選択不
可能なラ イフ イベン ト にかかる 費用 を少し ず つでも貯 蓄し ていこ う と思った 」な どの
- 89 -
内容を「 自己 創造」 に 分類した 。こ の結果 , 授業後の アン ケート の 自由記述 の内 容か
ら(図 6-8),
「現状把握」と「価値の内面化」に関する内容は,それぞれ 3 割であった
が,「自己創造」に関する内容は 4 割と最も多くなった。
人間発達と現実把握度の関係を示したのが,図 6-9 である。この結果,授業後「漠
然としている」人の中では「現状把握」( 82 人〔「漠然としている」の 75.2%,現状把
握全体の 42%〕)が最も多く,
「少し現実味がある」の中では「価値の内面化」( 120 人
〔「少し現実味がある」の 41.2%,価値の内面化全体の 54.3%〕)が多く,「かなり現実
的である」では,「自己創造」( 210 人〔「かなり現実的である」の 63.6%,自己創造全
体の 66.9%〕)が多くなった。これより,人間発達と現実把握度に は関係が見られるこ
とから, 現実 把握度 を 人間発達 での 分析の 代 替 指標と して 用いる こ とが妥当 であ ると
考え,本章では,以下,現実把握度を用いて分析することとする。
3.3.
情報活動グループ分析
授業前 に実施 した 「情 報活動 に関す るア ンケ ート」 に基づ いて ,児 童・生 徒・学 生
を情報活動グループに分類した。分類には,数量化 Ⅲ類とクラスター分析を用いた。
「情
報活動に 関す るアン ケ ート」の 質問 項目に 対 する児童 ・生 徒・学 生 の反応パ ター ンを
数量化Ⅲ類によって分析した結果,固有値が高く解釈可能な 2 軸が析出された(累積
寄与率 45.2%)。用いた質問項目は 7 つである。第 Ⅰ軸は「活用」(+が消極的),第Ⅱ
軸は「収集」(+が積極的)を表す軸と解釈できる。また,これら 2 軸に対する児童・
生徒・学生の個人得点をもとにクラスター分析を行った。その結果, 3 つの情報活動
グループに分けられた(図 6-10)。それぞれのグループの 2 つの軸に対するケース得点
の偏りから,「収集積極・活 用積極型」(328 人),「収集消極・活用消極型」( 97 人),
「収集積極・活用消極型」(305 人)と名づけることができる。
3.3.1.
情報活動グループの属性
情報グループの属性を見ると(表 6-4),全体では,
「収集積極・活用積極型」と「収
集積極・活用消極型」が約 4 割ずつを占め,
「収集消極・活用消極型」
( 13.3%)が最も
少ない。男子の中の割合を見ると,「収集積極・活用積極型」と「収集積極・活用消極
- 90 -
型」に 4 割ずつ含まれており,
「収集消極・活用消極型」
( 14.0%)には少ない。女子も
同様に,「収集積極・活用積極型」と「収集積極・収集消極型」に 4 割と多く,「収集
消極・活用消極型」( 12.8%)が少なくなった。
3.3.2.
情報活動グループ別・授業前後の自由記述による現実把握度の変化
「授業 前アン ケー ト」 の自由 記述を 読み 込み ,現実 把握度 をそ の内 容から 「漠然 と
している」,「少し現実味がある」,「かなり現実的である」の 3 つの段階に分類し,情
報グループとの関連から明らかにした(表 6-5)。この結果,
「漠然としている」割合が
どのグル ープも 高い。「収集消 極・活 用消極 型」は,「かな り現実 的である 」の割 合が
最も低い 。一 方 ,「収 集積極・ 活用積 極型」 は,「少 し現実 味があ る」と「 かなり 現実
的である」割合が,他の情報グループに比べると高くなった。
ゲーム終了後,
「授業後アンケート」の自由記述を,同様に現実把握度の視点からグ
ループ別に分析した(表 6-5)。
「授業前アンケート」と「授業後アンケート」の変化を
見ると, 授業 前は「 漠 然として いる 」割合 が どの情報 グル ープで も 高いが, 授業 後に
はその割合は低くなった。一方,授業前,「少し現実味がある」や「かなり現実的であ
る」割合はどのグループでも低いが,授業後は約 4 割と高くなっ た 。特に「 収集 積極 ・
活用積極型」の「かなり現実的である」割合は,5 割近くとなった。このことより,
「人
生設計ゲーム」の実践は,現実把握度を高める効果があることが分かった。
3.3.3.
情報活動グループと校種との関係
情報活動グループと校種との関係を分析した。表 6-6 の上段は,グループごとの校
種の特徴を示している。
「収集積極・活用積極型」の内訳は,中学生が約 4 割と最も多
く,次いで高校生が約 3 割であった。小学生と大学生はともに約 15%となった。
「収集
消極・活用消極型」には,高校生が約 4 割と最も多く,次いで中学生が約 3 割,大学
生が約 2 割を占め,小学生は 6.2%と少ない。
「収集積極・活用消極型」は,中学生が 4
割と最も高く,次いで高校生(約 3 割),大学生と小学生( 1~1.6 割)となった。次に
校種別に見ると(表 6-6 下段),どの校種においても「収集消極・活用消極型」が最も
少なくなり,その他のグループに 3~5 割が含まれていた。中でも小学生は「収集積極・
- 91 -
活用積極型」が半数以上を占めており,最も情報活動が積極的であることが分かる。
「収
集消極・活用消極型」は,小学生が最も少なく( 6.6%),以下,少ない順に中学生( 9.5%),
高校生(17.1%),大学生( 19.8%)である。
男女別に見ると,「収集消極・活用消極型」では,中学生と大学生の男子,高校生の
女子が多く,「収集積極・活用積極型」には,大学生の女子と中学生と高校生の男子が
多い。校 種別 に見る と ,小学生 では 男女と も 「収集積 極・ 活用積 極 型」が半 分以 上を
占め,中 学生 と高校 生 では「収 集積 極・活 用 積極型」 に男 子が多 く ,女子は 「収 集積
極・活用消極型」に多くなった。大学生の男子は「収集積極・活用消極型」,女子は「収
集積極・活用積極型」に多い。
3.3.4.
情報活動グループ別・校種別・授業前後の自由記 述による現実把握度の変化
情報活動グループの校種別に,「授業前アンケート」と「授業後アンケート」の自由
記述を現実把握度の視点で分析した。この結果(表 6-7),
「漠然としている」割合は「授
業前アンケート」で,どのグループも,小学生の「収集消極・活用消極型」を除いて,
どの校種 におい ても高 いが,「 授業後 アンケ ート」で は低く なった 。また,「授業 後ア
ンケート 」で は,小 学 生は「収 集積 極・活 用 積極型」 と「 収集積 極 ・活用消 極型 」の
収集活動 が積 極的な グ ループで 「か なり現 実 的である 」割 合が高 く なった。 中学 生は
「収集積極・活用積極型」で「かなり現実的である」割合が高くなった。高校生は,
「収
集積極・活用消極型」で「かなり現実的である」割合が高くなり,大学生は,「収集積
極・活用積極型」で「かなり現実的である」割合が高くなった。 これより,校種によ
って差はあるが,全ての校種で,「収集」が積極的であると現実把握度が高くなること
が明らかとなった。
4.
まとめ
本章では,「人生設計ゲーム」を開発・作成し,小学生 91 人,中学生 284 人,高校
生 234 人,大学生 121 人の合計 730 人に対して,「人生設計ゲーム」を用いた金融経
済教育の 授業 実践を 行 った。さ らに , ゲー ム 対象者を 情報 活動グ ル ープに分 類し ,人
間発達の代替指標である現実把握度によって授業効果を見た。
- 92 -
「情報活動に関するアンケート」より,「収集」と「活用」に関する活動が活発であ
ることが 分か った。 ま た,授業 前後 の自由 記 述の項目 を, 人間発 達 によって 分類 した
ところ, 授業 前の自 由 記述は人 間発 達の視 点 では分類 でき ないこ と が明らか とな った
ことから ,似 た概念 と して,現 実把 握度の 視 点を用い るこ ととし た 。人間発 達の 視点
の代わり に現 実把握 度 の視点を 用い ること が できるか どう かを 確 認 するため に, 二つ
の視点で 分類 した結 果 の相関を 見た 。その 結 果,人間 発達 の視点 の 結果と, 現実 把握
度の視点 で分 類した も のとは, 同様 の傾向 が 見られた こと から, 本 章では人 間発 達の
視点ではなく,現実把握度の視点で分析を進めることとした。
授業前後 の自由 記述を 現実把握 度の「 漠然と している 」,「少 し現実 味がある 」,「 か
なり現実的で ある」 の 3 段階 に分類した 結果,授業前 は,「漠 然としている 」割合 が
57.3%と半数以上を占め,「かなり現実的である」割合は 12.6%と少なかったが,授業
後は,「漠然としている」が 14.9%,「かなり現実的である」が 45.2%と逆転した。こ
のことか ら, ゲーム 後 に,多く の児 童・生 徒 ・学生は ,人 生を現 実 的に捉え られ るよ
うになっ てい ること が 分かった 。こ れは, キ ーワード の出 現数や そ の内容か らも 明ら
かとなった。
次に対 象者を 「情 報活 動に関 するア ンケ ート 」によ って情 報活 動グ ループ 別に分 類
したところ,「収集積極・活用積極型」,「収集消極・活用消極型」,「収集積極・活用消
極型」の 3 つに分類できた。情報活動グループと現実把握度との関係を分析した結果,
「収集積極・活用積極型」は,ゲーム後に「漠然としている」割合が減少し,「かなり
現実的である」割合が増加した。以上より,「人生設計ゲーム」によって,現実把握度
が高まったと言える。
校種別に特徴をみると,小学生は現実把握度の「かなり現実的である」割合も高い。
男女差は ある が,情 報 活動の 「 収集 」も「 活 用」も活 発な 児童は , 授業を通 じて 物事
を現実的に捉えることができることが明らかとなった。中学生の現実把握度を見ると,
授業前は「漠然としている」割合が高かったが,授業後は低くなり,「収集積極・活用
積極型」で「かなり現実的である」割合が高くなった。このことから中学生は「収集」
と「活用」が現実把握度に影響することがわかった。高校生は,「収集積極・活用消極
型」と「収集積極・活用積極型」が多い。「収集積極・活用消極型」は,授業後の「か
なり現実 的で ある」 割 合が高い 。こ れより 高 校生は, 情報 の 「収 集 」 が現実 把握 度に
影響することが明らかとなった。大学生は,「収集積極・活用積極型」は授業後で「か
- 93 -
なり現実 的で ある」 割 合が高い こと から, 情 報の 「収 集」 も「活 用 」 も現実 把握 度に
影響していることが明らかとなった。以上のことから,校種別にみると,小学生は「収
集」と「 活用 」の両 者 が現実把 握度 に影響 す ることが 確認 できた 。 さらに, 中学 生は
「収集」 と「 活用」 が 現実把握 度に ,高校 生 は収集が 現実 把握度 に 影響し, 大学 生は
「収集」と「活用」が現実把握度に影響していることが分かった 41 。
本章では, 校種に よっ て差は生じ たが , 情報 の「収集」 と「活 用」 の両者が現 実把握 度
に極めて重 要な意味 を 持つことが 明らかと な った。 第 4 章,第 5 章 において,「収集」 が
人間発達に 最も影 響し ,次いで「 活用」 であ ることを明 らかに して きた。 また 年代に よっ
て異なるこ とを明 らか にしてきた 。本章 では ,対象を広 げ,内 容も 生活設計の 視点を 組み
込み,視野 を広げ た題 材を用いて 分析し た結 果 ,校種別 の特徴 が同 じであるこ とを 明 らか
にすること ができた 。 この点から ,今後の 金 融経済教育 のあり方 に ついて考え たい。
小学生は, 情報の 「収 集」と「活 用」が 現実 把握度に大 きく影 響し ている。小 学生は ,
自分から「収集 」す る 力がまだ育 っておら ず ,授業も 受身に なりが ちである。
「収集 」す る
力を徐々に つけなが ら,
「活用」に 活かすこ と が,現実把 握度によ い 影響をもた らすこと が
明らかとな った。中 学 生と高校生 は ,
「収 集」が現実把握 度に影響 し ていた。中 学生や高 校
生になると ,自分の 力で 様々な媒体 を通じて 情 報収集をす ることが で きるように なる ので ,
「収集」力 の差に よっ て ,現実把 握力に 差が 生じると考 えられ る。 中学生と 高 校生の 年代
に対しては ,情報 の「 収集」力を 高める 授業 をすると効 果的で ある と考えられ る。 大 学生
は,
「収 集」と「 活用」の両者が現 実把握度 に 影響するこ とが明ら か となった こ とから ,両
者の力をつ けること が 必要である 。
41
人 間 発 達 の 視 点 か ら も 同 様 に 分 析 し た 結 果 ,小 学 校 と 高 校 に お い て は 現 実 把 握 度 と 同 様 の 結 果 が 得 ら
れた。
- 94 -
図 6-1
「人生設 計ゲ ーム」
ボード(B4 サイズ )
年収表
選択不可能なライフイベントのパネル
生活費表, 保険
表
- 95 -
図 6-2
どんな人生を送ろうかな?
1.2.3の中からいいなと思う
ものを選ぼう!
年齢
「人生設 計ゲ ーム」簡単 マニュア ル (小・中学 生)
☆人生設計ゲーム 簡単バージョン☆(小・中学版)
20代
30代
40代
50代
60代~寿命
( 2 0 ~2 9 才の1 0 年間)
( 3 0 ~3 9 才の1 0 年間)
( 4 0 ~4 9 才の1 0 年間)
( 5 0 ~5 9 才の1 0 年間)
( 6 0 ~8 0 才の平均寿命ま で)
1.一人で暮らす!
2.結婚して1人が働く!
3.結婚して2人で働く!
1
2
26歳で
結婚
3
1
2
3
1
2
3
年収
(10年間で働いて得るお金)
2800万
2800万
5500万
4000万
4000万
8000万
5800万
5800万
10500万
生活費
(生活するのに必要なお金)
1800万
2460万
2460万
1800万
3600万
3600万
1800万
3600万
3600万
×
500万
500万
×
20万
20万
(1億500万)
1
2
6300万
6300万
1800万
3000万
3
12500万
(1億2500万)
3000万
1
2
3
4200万
5600万
5600万
3600万
6000万
6000万
就職・転職
余ったお金で
車や家を買ったり
旅行をしちゃおう!
結婚
出産
×
×
×
就職・転職のところは
何も書かないでね
車の購入
選
択
可
能
な
ラ
イ
フ
イ
ベ
ン
ト
住宅購入
≪入学年齢≫
幼稚園 4~6才,
小学校 7~12才,
中学校 13~15才,
リフォーム
27歳で出産
老人ホームの購入
0~2才
子どもの養育費(教育費)
第1子
0~2才
3~12才
3~12才
13~22才
13~22才
270万
270万
550万
550万
公立幼稚園・公
立小学校の場
合
子どもの養育費
第2子
高校 16~18才,
大学 19~22才,
(短大・専門は20才まで)
公立中学・公立
高校・国立大学
の場合
子どもの養育費
第3子
投資(株の購入)
娯楽(旅行)
保険
100万
選択不可能な
ライフイベント
120万
120万
100万
200万
200万
100万
200万
200万
100万
100万
100万
200万
200万
クレジットの被害
-50万円
人生終了!
どれくらいお金が
残ったかな?
残金額
借金
返済額
貯蓄額(残高)=残ったお金
選択不可能なライフイベントって??
地震、火事、交通事故、病気などなど、人生には予想もできない出来事がたくさん!
思わぬところでお金が必要なときがあるよ。きちんと対応できるかな?
▼年代の終わりに磁石パネルを1 つ引いてボードに貼る。
・マイナスのパネル → パネルに書かれた金額を支払おう!
ただし、保険に入っているから200万円まではカバーできるよ。
書かれた金額から200万円引いた金額を支払おう!
(例:-50万円→支払いなし!-1000万円→800万円の支払い)
・プラスのパネル → やったね!書かれた金額分もらっちゃおう!
※株のパネル ・・・ その年代で株を購入していない場合は引き直しだよ!
200万
≪人生最後に持っているお金を見てみよう!≫
①マイナスな人
→ やりなおし人生
②100万円以内の人
→ ぎ りぎ り人生
③100万~300万円の人
→ 取るに足る人生
お金を使いすぎていないかな?
もう一回チャレンジしてみよう!
もう少しよゆうを持って行動しよう!
お金があっても使わないようにね
計画通りの人生!
遺族も安心だね
- 96 -
④300万~1000万円の人
→ 穏やかな人生
⑤1000万円以上の人
→ 贅沢ま たは心配性人生
ちょうど良い金額。遺産相続でもめる
こともなさそうです!
もう少し計画的に使ってもよかったか
も。遺言書を書いておこう。
図 6-3
「人生 設計 ゲーム」の ルールカ ー ド
(1)1人で ゲーム をす る。
(2)10 年ず つ,自分 の人生設計 を考えな が ら,ホワイ トボード に 記入してい く。
☆ただし小・中学生は,マニュアルに示してある 3 つの人生タイプから 1 つ選んで,
そこに書か れてある 金 額を記入す る。 10 年 後 に人生タイ プを変更 し てよい。
☆高校 ・大学生 は ,マニュア ルを参考 に 計算する。
① 年収 →「年収表 」を参考に , 10 年分 を 計算して記 入する。
② 生活 費 →「生活 費表」を参 考に, 10 年 分を計算し て記入す る 。
③ 選択可能 なライフ イ ベント →選択 して金額 を記入する 。何個選 択 してもよい 。
④ 子どもの 教育費 →子 どもが生ま れたら子 ど もの年齢を 年代ごと に 書き(例 0 才→9
才),その 間にかか る教 育費を「選 択可能な ラ イフイベン ト金額表 」を参考に年 齢の下
に記入する 。
⑤ 保険 →「保険表 」を参考に , 10 年分 を 計算して記 入する。
○保険は各 年代で加 入す るかどうか を選択す る 。
○保 険 に 入 っ て い な い 場 合 ,「 選 択 不 可 能 な ラ イ フ イ ベ ン ト 」 を 引 い た 時 に , 保 険 に
入っている 場合より も ,支払う金 額が多く な ることがあ る。
⑥ 借金 →借金があ る場合はそ の年の借 金 残高を記入 する。
家を購入し た場合 ,購 入金額の払 える分 を一 括して払う が, 残 りは 返済できる 時に
する。
(3)各年代 の終わ りに 「選択不可 能なライ フ イベント」 のパネル を 見ずに 1 つ 引く。
○その年代 で保険に 入っ ていた場合 ,書かれ て いる金額か ら 200 万円 を引いた金 額を
支払えばよ い。
○保険に入 っていな い場 合は,書か れている 金 額を差し引 く。
(4)寿命ま で終了 した ら,最終所 持金額を 貯 蓄額(残高 )の欄に 記 入する。
( 5) ゲ ー ム が 終 了 し た ら ,「 人 生 設 計 ゲ ー ム 」 チ ェ ッ ク 表 で 自 分 の タ イ プ を 確 認 す る 。
(6)評価表 に記入 する 。
- 97 -
表 6-1
「人生設 計ゲ ーム」を用 いた金融 経 済教育の授 業案(中 学 生用)
活動 累積 時間
時間
学習活動
授業 事前 5分 5分 「情報に関するアンケート」と「授業前アンケート」の実施
活動
導入 8分 3分 1. 人生設計ゲーム実施前の説明
人生には様々なお金が必要。どのような時に必要?
結婚、出産、教育費、住宅、老後・・・・
収入はいくら必要?
展開1 18分 10分 ルール説明
留意点/見方、感じ方、考え方
情報 人間発達
活動
3F システム モノ・サービス
の規模 のライフサイク
ル
新鮮 小 アウトプット
自分の情報活動とライフイベントについての 蓄積 現状把握
考え方を見直す
説明を理解し、考えることができる
収集 価値の内面化 新鮮 小・中 インプット・プロ
セス・アウト
人生にはいろいろとお金がかかる事に気づく 蓄積 現状把握 新鮮 小・中 インプット・プロ
セス・アウト
どんなライフイベントがあるかを発言できる 発信 現状把握 新鮮・ 小・中・大 インプット・プロ
自由
セス・アウト
プット
様々なライフイベントを経験するにはお金が 発信 現状把握・価 新鮮・ 小・中・大 インプット
必要であることに気づく。どのぐらい必要か、
値の内面化 楽しみ
現実をどれほど知っているか
ルールをしっかり理解できるか
収集 現状把握 新鮮・ 小・中・大 インプット
楽しみ
①年収と生活費の記載(小・中学生はマニュアルを参照して生き方を決定 自分で人生を決定することができるか
収集 価値の内面化 楽しみ・ 小・中 インプット
する)
自由
②選択可能なライフイベントの結婚、出産、車(10年で乗換)、住宅(10年に 収入と生活費の差額で、結婚等のライフイベ 収集・ 現状把握・価 新鮮・ 小・中・大 インプット・プロ
1回リフォーム)、子どもの教育費、投資、娯楽を、収入から生活費を引いた ントをやりくりできるか
活用 値の内面化・ 楽しみ・
セス・アウト
金額内で決め、支出額を記載する。
自己創造 自由
プット
③保険に加入する場合は、10年に1回加入する。保険に加入していると、 保険のメリットとデメリットを考えて、意思決定
選択不可能なライフイベントでマイナスを引いた場合、200万円までカバー できるか
される。
④10年に1回選択不可能なライフイベントを見ずに引き、ボードに貼る。投 選択不可能なライフイベントに対処できるか
資をしていないのに株関連が出たら引きなおす。マイナスのものは、保険
に加入していれば、200万円までカバーされる。
⑤10年間の残金や借金を計算してボードに記載する。
計算がしっかりできるか
展開2 38分 30分 2. 人生設計ゲームの開始
まとめ 46分 8分 「授業後アンケート」を記載。
収集・ 現状把握・価 新鮮・ 小・中 インプット・プロ
活用 値の内面化 自由
セス・アウト
プット
活用 現状把握 楽しみ 小・中・大 インプット・プロ
セス・アウト
プット
活用・ 現状把握 新鮮 小・中・大 アウトプット
蓄積
自分の力で、あらゆる情報を考えながら、人 収集・ 現状把握・価 新鮮・ 小・中・大 インプット・プロ
生設計をすることができるか
活用 値の内面化・ 楽しみ・
セス・アウト
自己創造 自由自
プット
由
自分を客観的に評価できるか
蓄積・ 現状把握・価 新鮮 小 アウトプット
発信 値の内面化
50分 4分 残金の確認と、何にお金がかかったかを確認。現在働けない児童は何が ゲームを通じて、人生のシミュレーションの反 蓄積・ 現状把握・価 新鮮・ 小・中・大 アウトプットとプ
できるかを考え、発表する。
省と評価ができるか。親に感謝し、手伝いや 発信 値の内面化・ 自由
ロセス
勉強をするなど、自分ができる内容を考えら
自己創造
れるか
- 98 -
表 6-2
小学生
中学生
高校生
大学生
合計
表 6-3
男子
40(44.0)
139(49.0)
70(30.0)
59(48.8))
308(42.2)
属性
女子
51(56.0)
145(51.0)
164(70.0)
62(51.2)
422(57.8)
該当数(%)
合計
91(100.0)
284(100.0)
234(100.0)
121(100.0)
730(100.0)
「情報活 動に 関するアン ケート」 結 果
項目
該当数
テレビのニュースを一日一回は見る
毎月買ってくる雑誌がある
インターネットやタウン誌で情報をよくチェックする
収集
買うものがなくてもお店に行っていろいろなものを見る
新しいことを知る時は、人から聞くことが多い
合計(割合は平均)
利用したサービスや買ってきたものに問題があった時、どこに言えばよいか知っている
蓄積 消費生活センターを知っている
合計(割合は平均)
お菓子や文房具を買う時に、「賞味期限」やマークを確かめて買う
電気製品などの取り扱い説明書や薬のラベルはしまってあり、すぐに見ることができるようになっている
活用
電気製品などの使い方が分からない時は、説明書を読んでもらったり、自分で読んだりする
合計(割合は平均)
自分で買った商品や利用したサービスに不満があった時は、店の人にすぐ言う
発信 商品を買った時などについてくるアンケートはよく出すほうだ
合計(割合は平均)
*複数回答である。割合は、全体の何%が選択したかを示している。
- 99 -
591
173
295
490
437
1986
283
218
501
448
298
573
1319
173
75
248
割合(%)*
81.0
23.7
40.4
67.1
59.9
54.4
38.8
29.9
34.3
61.4
40.8
78.5
60.2
23.7
10.3
17.0
図 6-4
授業前後 の自 由記述によ る現実把 握 度の変化( %)
- 100 -
6-5
図
授業前 のキー ワードとそ の頻度( 回 )
キーワード
2人
30
しっかり
31
生きる
31
困らない
37
家
41
貯める
42
老後
55
安定
60
幸せ
60
やりたいこと・好きなこと
62
暮らす
76
家族・家庭
102
自分
121
生活
131
結婚
146
子ども
152
楽しい
153
金
200
仕事
277
人生
285
0
50
100
150
200
250
頻度
- 101 -
300
図
6-6
授業後 のキー ワードとそ の頻度( 回 )
キーワード
計画的
30
30
31
31
32
33
33
33
33
34
38
38
40
44
48
49
55
59
59
60
61
66
年収
教育費
現実
起こる
結婚
将来
余裕
働く
20代
ライフイベント
車
しっかり
実際
家
共働き
保険
借金
大切
人生設計
貯蓄
残る
ゲーム
87
88
生活
自分
102
111
もっと
たくさん
160
子ども
178
金がかかる
201
210
分かる
人生
259
金
345
0
50
100
150
200
250
300
350
400
頻度
- 102 -
図
図
6-7
6-8
授業前 と授業 後の現実把 握度の変 化 ( %)
授業後 の自由 記述による 人間発達 分 析( %)
自己創造, 314,
43%
現状把握, 195,
27%
価値の内面化,
221, 30%
現状把握
価値の内面化
- 103 -
自己創造
図 6-9
人間発達 と現 実把握度と の関係
人
図 6-10
情報活動 グル ープの分布
Ⅰ軸:活用
収集消極・ 活用消極 型
収集積極・ 活用消極 型
収集積極・活用積極 型
Ⅱ軸:収集
- 104 -
表 6-4
情報活動グループ
情報活動 グル ープの属性
人数
該当数(%)
女
男
収集積極・活用積極型
328(44.9)
141(45.8)
187(44.3)
収集消極・活用消極型
97(13.3)
43(14.0)
54(12.8)
収集積極・活用消極型
305(41.8)
124(40.3)
181(42.9)
730(100.0)
308(100.0)
422(100.0)
合計
表 6-5
情報活動 グル ープ別・授 業前後の 自 由記述によ る
現実把握度 の変化
該当数(%)
漠然としている
少し現実味がある
かなり現実的である
情報活動グループ
授業前
授業後
授業前
授業後
授業前
授業後
収集積極・活用積極型
173(52.7)
38(11.6)
112(34.1)
128(39.0)
43(13.1)
162(49.4)
収集消極・活用消極型
58(59.8)
17(17.5)
28(28.9)
40(41.2)
11(11.3)
40(41.2)
収集積極・活用消極型
187(61.3)
54(17.7)
80(26.2)
123(40.3)
39(12.5)
128(42.0)
- 105 -
表 6-6
情報活動グループ
収集積極・活用積極型
収集消極・活用消極型
収集積極・活用消極型
収集積極・活用積極型
収集消極・活用消極型
収集積極・活用消極型
合 計
表 6-7
小学生
中学生
情報活動 グル ープ別・校 種の属性
高校生
328(100.0) 52(15.9) 135(41.2)
92(28.0)
97(100.0)
6(6.2) 27(27.8)
40(41.2)
305(100.0) 33(10.8) 122(40.0) 102(33.4)
328 52(57.1) 135(47.5)
92(39.3)
97
6(6.6)
27(9.5)
40(17.1)
305 33(36.3) 122(43.0) 102(43.6)
730 91(100.0) 284(100.0) 234(100.0)
小学生
大学生
中学生
高校生
男
女
男
女
男
女
49(14.9) 23(44.2) 29(55.8) 71(52.6) 64(47.4) 31(33.7) 61(66.3)
24(24.7) 3(42.4) 3(50.0) 16(59.3) 11(40.7) 11(27.5) 29(72.5)
48(15.7) 14(42.4) 19(57.6) 52(42.6) 70(57.4) 28(27.5) 74(72.5)
49(40.5) 23(57.5) 29(56.9) 71(51.1) 64(44.1) 31(44.3) 61(37.2)
24(19.8)
3(7.5)
3(5.9) 16(11.5)
11(7.6) 11(15.7) 29(17.7)
48(39.7) 14(35.0) 19(37.3) 52(37.4) 70(48.3) 28(40.0) 74(45.1)
121(10.0) 40(100.0) 51(100.0) 139(100.0) 145(100.0) 70(100.0) 164(100.0)
該当数(%)
大学生
男
女
16(32.7) 33(67.3)
13(54.2) 11(45.8)
30(62.5) 18(37.5)
16(27.1) 33(53.2)
13(22.0) 11(17.7)
30(50.8) 18(29.0)
59(100.0) 62(100.0)
情報活動 グル ープ別・校 種別・授 業 前後の自由 記述によ る 現実把握度 の変化
人数(%)
情報活動グループ
授 収集積極・活用積極型
業 収集消極・活用消極型
前
収集積極・活用消極型
授 収集積極・活用積極型
業 収集消極・活用消極型
後 収集積極・活用消極型
全体
173(52.1)
漠然としている
小学生 中学生 高校生 大学生 検定
21(40.4) 85(63.0) 41(44.6) 26(53.1) **
全体
112(34.1)
現実把握度
少し現実味がある
小学生
中学生 高校生 大学生 検定
22(42.3) 36(26.7) 40(43.5) 14(28.6) *
全体
43(13.1)
かなり現実的である
小学生 中学生 高校生 大学生 検定
9(17.3) 14(10.4) 11(12.0) 9(18.4)
5(20.8)
11(11.3)
2(33.3)
7(14.6) *
38(12.5)
6(18.2)
58(59.8)
1(16.7)
21(77.8) 20(50.0) 16(66.7) *
28(28.9)
3(50.0)
5(18.5) 15(37.5)
187(61.3)
15(45.5)
88(72.1) 51(50.0) 33(68.8) ***
80(26.2)
12(36.4)
23(18.9) 38(37.3)
51(37.8) 44(47.8) 14(28.6)
38(11.6)
4(7.7)
15(11.1) 12(13.0) 7(14.3)
128(39.0)
19(36.5)
17(17.5)
1(16.7)
2(7.4) 8(20.0) 6(25.0)
40(41.2)
2(33.3)
54(17.7)
2(6.1)
24(19.7) 18(17.6) 10(20.8)
123(40.3)
12(36.4)
χ 2検定 * :p<0.05 , ** :p<0.01 , *** :p<0.001
- 106 -
12(44.4) 17(42.5)
9(37.5)
57(46.7) 30(29.4) 24(50.0) *
162(49.4)
40(41.2)
128(42.0)
1(3.7)
5(12.5) 3(12.5)
11(9.0) 13(12.7) 8(16.7)
29(55.8) 69(51.1) 36(39.1) 28(57.1)
3(50.0) 13(48.1) 15(37.5) 9(37.5)
19(57.6) 41(33.6) 54(52.9) 14(29.2) *
第7章
研究の要約と今後の課題
1.研究の要約
本博士論文の目的は,情報活動と人間発達の視点を組み込んだ新しい金融経済教 育
理論を構築し,授業実践を通してその効果を明らかにすること にあった。第 1 章では
内外の金融経済教育の動向を概観し,本論文の位置づけを明らかにした。第 2 章では,
本論文の理論として,情報活動を基盤とした人間発達を促す金融経済教育と,授業実
践に必要な 4 つの視点を提示した。第 3 章では,新しい金融経済教育のパイロット的
研究として,大学生を対象に授業実践を行った。続く第 4 章,第 5 章,第 6 章では,
第 2 章で示した理論を用いて,小学生 ,中学生,高校生,大学生を対象に金融経済教
育を実践した。第 4 章では,「お金とその価値」,第 5 章では環境に配慮した金融経済
教育,第 6 章では,
「人生設計ゲーム」を用いた金融経済教育を実践した。以下,それ
ぞれの章で明らかとなったことをまとめた上で,今後の課題について考えたい。
第 1 章では,諸外国とわが国の金融経済教育の動向を紹介し,またその実践に向け
た課 題 につ い て検 討 し た。 OECD,米 国 お よ び英 国 の事 情 を概 観 す るこ と で, 以 下の
点が明らかになった。まず, OECD の取り組みは,金融経済教育そのもののあり方を
考えると い う よりは , 各国の金 融経 済教育 の 現状等の 情報 交換の 場 の提供と いう 意味
合いが強 い 。 次に米 国 では, 経 済教 育学の 流 れから金 融経 済教育 の 位置づけ は主 とし
て行政や NPO の主導で進められてきた一方,内容や方法は,教師や研究者による研究
が重ねら れて きてい る が,質の 高い 教師の 不 足やカリ キュ ラム に 必 要な 時間 の不 足と
いった問 題も ある 。 ま た 英国に おい ても金 融 経済教育 は政 府主導 に より民間 団体 を巻
き込む形 で進 められ , 学校教育 のカ リキュ ラ ムの作成 等が 体系的 に 行われて おり ,近
年は助言 と行 動を重 視 するアプ ロー チに変 化 している 。 わ が国に お いて は, 行政 主導
によって ,経 済教育 , 金融教育 ,投 資教育 , 消費者教 育の 枠組み の 中で金融 経済 教育
がなされ てき た 一方 , 教育現場 では ,経済 と の関連や 生活 設計の 視 点から 進 めら れて
いる。こ れは ,日本 に おいては 金融 経済教 育 の体系化 がな されて い ないこと を意 味し
ている。
これらの結果を踏まえて,今後必要となる金融経済教育を,大きく以下の 2 つの視
- 107 -
点から位置づけることができる。まず 1 つは,経済理論に基づき個人が自らのライフ
サイクルを考えることを重視する経済教育学の視点である。もう 1 つは,個人が一人
の消費者 とし て,ま た 社会の構 成員 とし て よ り豊かな 生活 を実現 し ていく能 力を 開発
するとこ ろに 重点を 置 く消費者 教育 学の視 点 である。 本博 士論文 で は,今後 必要 とな
る金融経済教育を,経済教育学の視点と消費者教育学の融合として位置づけた。
第 2 章では,情報活動と人間発達の視点を組み込んだ新しい金融経済教育の理論構
築を検討した。授業の効果は,授業の対象者の情報活動によって異なると考えられる。
高い情報処理能力を持つことにより,学校教育終了後も将来にわたって,時々刻々と
変化する 金融経 済情勢 の変化に 適切に 対応で きる金融 リテラ シーを 養うこと ができ る 。
そこで情報活動を基盤とし,人間発達を促す視点を加えた金融経済教育を構築し,教
材や授業方法を工夫することとした。その際,情報活動を 「収集」,「蓄積」,「活用」,
「発信」の 4 つに分類し,授業の対象者の情報活動を明らかにするために,これら 4
つの情報活動に関する質問項目を組み込んだ「情報活動に関するアンケート」を作成
した。
次に, 人間発 達を 教育 の視点 から考 え, 教育 を「主 体的な 心を もち 活動を してい る
人間に, 価値 の受容 能 力をつけ るこ とで環 境 からの情 報を 内的世 界 に適切な 形で 位置
づけ,新 たな 自己形 成 ・自己創 造の 価値基 盤 をつくる こと 」と定 義 した。こ れよ り人
間発達段階を,単に状況を把握し理解する「現状把握」,現状を把握した上で,その内
容を自分 自身 のもの と して考え ,吟 味・検 討 ,捉え直 し・ 再発見 , 葛藤・再 構築 ・内
在化・自己化できる「価値の内面化」,そして「現状把握」と「価値の内面化」を通じ
て自分は何ができるか,どうすればよいかを考えられる「自己創造」の 3 段階である
ものとし,金融経済教育の授業効果をこの 3 つの段階の観点から分析することとした。
またこの視点に加えて,授業実践をする際に必要な要素として,
「生活システムの規模」,
「モノ・サービスのライフサイ クル」,「学習指導要領の領域」および「 3F」の 4 つの
視点を新たに組み込むこととした。
第 3 章では,新しい金融経済教育の第一の実践例として,大学生 110 人を対象に,
銀行の役割,アベノミクスと家計に対する効果の 2 点に絞った金融経済教育を実践し
た。まず講義前に,
「情報活動に関するアンケート」と「金融に関するアンケート」
(金
融知識の 理解 度と関 心 度)を実 施し ,受講 者 の特徴を 明ら かにし た 上で,講 義案 を組
み立てた 。受 講者の 情 報活動や 金融 知識を 考 慮した講 義を 実施後 , 講義の感 想を 記述
- 108 -
させ,講義前と同様の「金融に関するアンケー ト」を実施した。また,講義前後の「金
融に関す るア ンケー ト 」の理解 度と 関心度 の 変化を比 較し た。記 述 内容に関 して は,
人間発達の視点から分析を行った。
「情報 活動に 関す るア ンケー ト」の 結果 から ,受講 者の情 報活 動は 「収集 」と「 活
用」が活 発で あるこ と が明らか とな ったた め ,情報活 動を 活かす た めに,金 融経 済知
識の提供 を重 視しな が らも,知 識が 活用に 結 びつきや すい 情報を 提 供する講 義内 容と
した。ま た「 金融に 関 するアン ケー ト」か ら ,最近の 政策 に一定 の 関心は持 って いる
ものの,それを十分に理解していない実態が明らかとなったことから,
「国家経済と家
計の関係 」を テーマ に ,アベノ ミク スの政 策 と家計へ の影 響およ び 銀行の役 割に つい
て講義を行った。講義後,講義前と同じ「金融に関するアンケート」を実施した結果,
生活と銀 行の関 係とア ベノミク スに対 する理 解度と関 心度が 講義前 よりも高 くなっ た 。
また,自由記述の内容を人間発達の視点で 3 つのグループに分類した結果,約半数は
「現状把 握」 の段階 に 留まって いる ものの , 残りの約 半数 は意図 し た講義内 容を 理解
しただけで なく,「価値の内面化」や「自己創造」を示していた。そのため,講義が金
融経済知 識の 理解度 と 関心度を 高め るだ け で なく, 受 講者 の人間 発 達に効果 を有 して
いることが明らかとなった。
第 4 章では,新しい金融経済教育の第二の実践例として,小学生,中学生 および高
校生の合計 311 人を対象に,
「お金とその価値」と題した共通の授業案を開発し,金融
経済教育を実践した。第 4 章では,情報活動グループと人間発達との関係を分析した。
授業前に 「情 報に関 す るアンケ ート 」とお 金 に関して 調べ てくる 「 事前プリ ント 」に
記述させ,授業後,
「事後プリント」に感想を記述させた。アンケートによって,児童・
生徒を, 数量 化 Ⅲ類 と クラスタ ー分 析を用 い て情報活 動グ ルー プ に 分類した 。次 いで
情報活動グループ別に,
「事前プリント」と「事後プリント」の記述内容を人間発達の
視点で分析した。
この結果 ,児 童・生 徒 は「収集 消極 ・活用 消 極型」,「 収集 積極・ 活 用積極型 」お よ
び「収集積極・活用消極型」の 3 つのグループに分類できた。そしてこれらの情報活
動グループと,
「事前プリント」と「事後プリント」の内容を人間発達の視点で分析し
た結果との関係を明らかにしたところ,「収集積極・活用消極型」のグループの「自己
創造」が 高く ,人間 発 達が進ん だこ とから , 情報の「 収集 」が人 間 発達に影 響し てい
ることが明らかとなった。ただしこの傾向は校種によって異なった。
「自己創造」の割
- 109 -
合が高くなったのは,小学生は「収集積極・活用積極型」,中学生は「収集積極・活用
消極型」,高校 生は「 収集消極 ・活用 消極型 」(事後 のみ) であっ た。これ らの結 果よ
り,小学 生で は「収 集 」と「活 用」 が,ま た 中学生に なる と「収 集 」が人間 発達 に影
響する一 方, 高校生 で は,情報 活動 は人間 発 達とあま り関 係がな い ことが明 らか とな
った。
第 5 章では,新しい金融経済教育の第三の実践例として,環境に配慮した金融経済
教育の実 践を 行った 。 環境に配 慮し た金融 経 済教育の 授業 は, お 金 を環境と の関 係で
考える視点を含んでいる。対象は小学校高学年の 40 人である。時間数は第 3 章と第 4
章での授業実践がどちらも 1 時間であったので,数時間の授業を連続して実践するこ
とで,児童の人間発達の変化を分析するために,4 時間の授業構成とした。それぞれの
授業案には,第 2 章で明らかにした,情報活動を基盤として,人間発達を促す視点に
加えて,授業実践に必要な 4 つの視点である,
「生活システムの規模 」,
「モノ・サービ
スのライフサイクル」,「学習指導要領の領域」 および「3F」の視点を組み込んだ。ま
た,これ まで の分析 に よっ て, 情報 の「収 集 」と「活 用」 が積極 的 な児童・ 生徒 は,
人間発達がより促されることが明らかになっていることから,「収集」と「活用」を促
す授業案 を作 成した 。 授業前に 「事 前学習 」 と「情報 活動 に関す る アンケー ト」 を実
施し,
「情報活動に関するアンケート」を用いて,情報化 Ⅲ類とクラスター分析によっ
て情報活動グループに分類した。次に児童の 1 時間目と 4 時間目の授業後の感想を人
間発達の視点から「現状把握」,「価値の内面化」,「自己創造」の 3 段階に分類し,変
化を分析した。
児童を数量化Ⅲ類とクラスター分析によって情報活動グループ に分類した結果,
「収
集消極・活用積極型」,「収集積極・活用消極型」,「収集積極・活用積極型」の 3 つの
グループ に分 類でき た 。さらに ,こ れらの グ ループと 人間 発達と の 関係を分 析し た結
果,
「収集消極・活用消極型」では,
「価値の内面化」が半数を占め最も高くなった。
「収
集積極・ 活用消 極型」 では,「 価値の 内面化 」と「自 己創造 」が進 んだ。「 収集積 極・
活用積極 型」 では, 過 半数の児 童が 「自己 創 造」に到 達し ている こ とが明ら かと なっ
た。以上 より ,授業 対 象や題材 を変 えても , 情報活動 の「 収集」 と 「活用」 が人 間発
達に影響 して いるこ と が明 らか とな り,情 報 活動と人 間発 達が関 係 している こと を検
証できた。
第 6 章では,新しい金融経済教育の第四の実践例として,
「人生設計ゲーム」を開発
- 110 -
し,小学生・中学生・高校生・大学生の合計 730 人を対象に,それを用いた金融経済
教育を実践した。
「人生設計ゲーム」は,自分の人生を自分で設計できる生活設計の視
点を組み入れたものである。このゲームは一人用で, 20 代から平均寿命まで 10 年ご
とに結婚 ,出 産,住 宅 購入など のラ イフイ ベ ントを自 分で 選択し , 収支を考 えら れる
ように設計した。
授業案作成の基本方針としては,第 4 章と第 5 章と同じく,情報活動を基盤として,
人間発達を促すこととし,それに授業実践に必要な 4 つの視点を盛り込んだ。授業は 1
時間とし ,授 業に入 る 前に対象 者に 「情報 活 動に関す るア ンケー ト 」と「授 業前 アン
ケート」を記入させた。授業で「人生設計ゲーム」を実践し,ゲーム終了後,「授業後
アンケート」 に記入さ せた。授業前 に実施す る「情報に関 するアン ケート」は, 第 3
章,第 4 章および第 5 章で用いたものと同じである。「情報活動に関するアンケート」
を数量化Ⅲ類とクラスター分析を用いて,情報グループに分類した。また,「授業前ア
ンケート 」で は, ど の ような人 生を 送りた い かを記入 させ ,現実 把 握度とい う, 人間
発達の尺度の代替指標 によって,記述内容を「漠然としている」,
「少し現実味がある」,
「かなり現実的である」の 3 つの段階に分類した。「授業後アンケート」では,「ゲー
ムを通して気づいた点と,どのような人生設計をしたいか」を自由記述させた。「授業
前アンケー ト」と同様,記述内容を読み込み,その内容から,現実把握度 の 3 つの段
階に分類 し, 授業前 後 の変化を 分析 した。 そ して,情 報グ ループ の 校種(小 学校 ,中
学校,高 校, 大学) 別 に「授業 前ア ンケー ト 」と「授 業後 アンケ ー ト 」の自 由記 述を
現実把握度の視点で分析した。
この分析 から ,児童 ・ 生徒・学 生は 「収集 積 極・活用 積極 型」,「 収 集消極・ 活用 消
極型」,
「収集積極・活用消極型」の 3 つの情報活動グループに分類 することが できた。
また,情報活動グループと現実把握度との関係を分析した結果,
「収集積極・活用積極
型」は,ゲーム後に「漠然としている」割合が減少し,「かなり現実的である」割合が
高くなった。これより,
「人生設計ゲーム」によって,現実把握度が高まったと言える。
校種別に 特徴 をみる と ,小学生 は現 実把握 度 の「かな り現 実的で あ る」割合 も高 い。
男女差は ある が,情 報 活動の「 収集 」も「 活 用」も活 発な 児童は , 授業を通 じて 物事
を現実的 に捉 えるこ と ができる こと が明ら か となった 。中 学生は 「 収集」と 「活 用」
が現実把 握度 に影響 す ることが わか った。 高 校生は, 情報 の「収 集 」が現実 把握 度に
影響し, 大学 生は, 情 報の「収 集」 も「活 用 」も現実 把握 度に影 響 すること が明 らか
- 111 -
となった。
2.
まとめ
以上,本博士論文では,第 1 章で金融経済教育の流れと本論文の位置づけを明らか
にし,第 2 章で本論文の理論を構築し,これを用いて第 3 章では金融経済教育のパイ
ロット研究を,続いて第 4 章,第 5 章,第 6 章においては,情報活動を基盤として,
人間発達 を促 すため の 金融経済 教育 の授業 実 践を行っ た。 本節で は ,これら の授 業実
践を通じ て明 らかと な った情報 活動 と人間 発 達および 現実 把握度 と の関係を まと めた
い。
表 7-1 より,第 4 章では「収集積極・活用消極型」,第 5 章では「収集積極・活用積
極型」で人間発達の「自己創造」の割合が最も高く,第 6 章では「収集積極・活用積
極型」で 現実 把握 度 が 最も高ま った 。この こ とから, 本博 士論文 全 体を通し て, 情報
活動と, 人間 発達お よ び現実把 握度 には関 係 があるこ と, そして 「 収集」が 活発 であ
ると,人間発達,現実把握度の両者とも高まることが明らかとなった。
校種別にみると,小学校では,第 4 章,第 5 章とも「収集積極・活用積極型」で人
間発達の「自己創造」の割合が最も高く,第 6 章では「収集積極・活用積極型」で現
実把握度 が最 も高ま っ た。この こと より, 小 学生では 「収 集」と 「 活用」の 両方 が活
発である と, 人間発 達 ,現実把 握度 がとも に 高まるこ とが 明らか と なった。 中学 校で
は,第 4 章において「収集積極・活用消極型」で人間発達の「自己創造」の割合が最
も高く,第 6 章では「収集積極・活用積極型」で現実把握度が最も高まった 。このこ
とから, 中学 生では 「 収集」が 活発 である と ,人間発 達, 現実把 握 度ともに 高ま るこ
とが明らかとなった。高校では,第 4 章では「収集消極・活用消極型」において,人
間発達の「自己創造」の割合が最も高く,第 6 章では「収集積極・活用消極型」で現
実把握度が高まった。このことから,高校生は,「収集」と「活用」と人間発達度との
関係がはっきりしなかった。大学生は,「収集積極・活用積極型」で現実把握力が最も
高まり,「収集」と「活用」が活発であると,現実把握度が高まることが明らかとなっ
た。
- 112 -
3.今後の課題
本博士 論文を 通 し て, 情報活 動と人 間発 達の 視点を 組み込 んだ 新し い金融 経済教 育
理論を提 示し ,授業 実 践に基づ いて その効 果 を測定し た。 一連の 授 業実践と 効果 測定
を通して ,本 博士論 文 の課題と して あげた , 情報活動 を基 盤とし た 人間発達 を促 す金
融経済教 育を 実践し た 結果,情 報活 動と人 間 発達には 一定 の関係 が 認められ るこ とが
明らかとなった。また,情報活動の中でも,「収集」活動が積極的であると,人間発達
の発達段階の「自己創造」,そして現実把握度の「かなり現実的である」の段階にまで
到達する 割合 が高い こ とが明ら かと なり, 情 報活動と 人間 発達が 密 接に関係 して いる
ことを検 証す ること が できた。 最後 に今後 , よりよい 金融 経済教 育 を実践し てい くた
めに残された課題について考えたい。
第 1 章では,金融経済教育を進めるための課題の最も重要な点として,金融経済教
育をする 意味 の再考 を あげ,次 いで 金融経 済 教育の主 体, 内容, 方 法の体系 化の 必要
性につい て述 べた。 本 博士論文 では ,最も 重 要と考え られ る 金融 経 済教育を 行う 意味
の再考に つい て取り 上 げ,この 課題 の解決 策 を,経済 教育 学と消 費 者教育学 の融 合に
求めた。 その 上で, 情 報活動を 基盤 とした 人 間発達の 理論 を構築 し ,この理 論に 基づ
き,授業実践の 4 つの視点を用いた授業案の作成と実践を通じて,新しい金融経済教
育の可能性を明らかにした。今後は,それらを踏まえて,金融経済教育の主体,内容,
方法の体系化を行っていかなければならない。
金融経 済教育 の主 体と 内容に 関して は, 今後 ,文部 科学省 ,金 融庁 ,消費 者庁, そ
して他の 多く の金融 経 済教育を 実践 してい る 機関との 連携 が必要 と なってく るこ とか
ら,その コー ディネ ー ター役の 設置 とその 役 割を認識 する ことが 重 要と考え られ る。
方法に関しては,第 1 章で述べた ように,諸外国では,政府機関がカリキュラムや教
育プログ ラム を考案 し ,教育 現 場に 提供し て いる。し かし わが国 の 教育 現場 にお いて
は,授業 時間 を確保 で きないこ と, 教員が 適 切な教材 を知 らない こ と,そし て教 員が
専門知識 を学 ぶ機会 が ないこと が問 題であ り , 環境教 育, 情報教 育 ,キャリ ア教 育 ,
人権教育 等, 種々の 新 しい教育 に対 応し切 れ ず,加え て 金 融経済 教 育 を実践 する 時間
を確保す るこ とが困 難 なの が現 状で ある。 金 融経済教 育と して単 独 の授業時 間を 確保
すること も重 要であ る が,金融 経済 教育の 内 容を家庭 科や 社会科 の みならず 算数 や国
- 113 -
語,道徳 など の既存 教 科の中に 組み 込むこ と もできる 。今 後は, 両 方の方法 で金 融経
済教育を進めていく必要がある。
次に, 本博士 論文 から 明らか になっ た点 を, 課題解 決の糸 口と して 示 すこ とが必 要
である。 まず は,本 博 士論文で 明ら かとな っ た結果を 授業 に 還元 す ることが 重要 であ
る。第 5 章において試験的に取り上げたが,「収集」が積極的であると,人間発達が促
されると いう 結果が 見 られた。 その 内容を 授 業実践の 中に 積極的 に 取り込ん でい くと
効果的である。
「収集」力を強化する授業を組み立てることによって,人間発達が促さ
れ,金融 経済 教育を 効 果的に実 践す ること が 可能にな ると 考えら れ る。また ,校 種に
応じた情 報 の 「収集 」 と「活用 」の 方法を 提 供するこ とに よって , 金融リテ ラシ ーの
獲得だけ でな く,人 間 発達の促 進が 期待さ れ る。加え て, 本研究 に おける一 連の 授業
実践は, 同一 の金融 経 済教育の 授業 案をな る べく多く の校 種と多 く の児童・ 生徒 を対
象に実践し,その効果をみることを目的としていたことから,第 4 章を除いて,それ
ぞれ 1 回のみの授業実践となった。この結果,授業前後の情報活動と人間発達の関係
は明らか とな ったが , 今回の授 業が 長期に わ たって人 間発 達を促 す ものであ るの かど
うかの確 証を 得るに は 至らなか った 。今後 は 少なくと も複 数回の 授 業実践を 行い ,情
報活動と人間発達プロセスの経過を見ていく必要がある。
本博士 論文で は, 年代 に応じ て ,情 報の 「収 集」力 と「活 用」 力の 獲得と それら を
提供する 教育 を今後 金 融 経済教 育だ けでな く ,あらゆ る教 育にお い て実践し てい くこ
とが重要 であ る こと が 明らかと なっ た 。今 後 ,自分の 人生 を具体 的 に捉え , 人生 設計
を現実的 に行 う時期 が 必ずやっ てく る。そ の 時期は , 今回 の実践 に より小学 生か らで
も早過ぎないことが明らかとなった。むしろ早くから ,様々な情報を知っている方が ,
計画が立てやすく,実行に移しやすい。第 6 章で取り上げた 「人生設計ゲーム」は,
子どもた ち が 年代に 応 じて自分 の人 生を自 分 自身で考 え , 切り開 い ていくた めの きっ
かけにな った と思わ れ る。今後 もこ のよう な ゲームを 実践 してい く ことで , 現実 社会
を見据える力が培われ ,自分の人生設計に生かすことが可能となる。
また,
「人生設計ゲーム」による授業実践では,受講者がお金を通して人生をシミュ
レートす る機 会を設 定 した。授 業後 の感想 か ら,受講 者は ,授業 前 よりも具 体的 に自
らのライ フプ ランを イ メージす るよ うにな る 効果が顕 著に みられ た 。受講者 が, より
充実した 人生 をおく る ためには ,ど のよう な 働き方や 家族 形成が 望 ましいの かと いっ
たことが らを 具体的 に 考える機 会を 提供す る ことから ,金 融経済 教 育は,ワ ーク ・ラ
- 114 -
イフ・バランスについての理解を深める効果が期待される。このことから,本研究は,
経済教育 学や 消費者 教 育学の領 域に とどま ら ず,労働 経済 学など 他 の領域の 研究 への
拡張可能性をもっていると考える。
今後は ,本博 士論 文で 明らか と なっ たよ うに ,より 「収集 」力 が発 達する 授業案 の
作成と授 業実 践を通 じ て,新し い金 融経済 教 育 を展開 した い。 そ れ は金融 経 済教 育や
消費者教 育に とどま ら ず ,全て の教 育に適 用 すること がで きよう 。 本博士論 文の 実践
を通して 明ら かにな っ た事 柄を さら に 進め る ことによ って , 次世 代 を担う子 ども たち
の人間発 達を 促 し, 時 々刻々と 変化 する金 融 経済情勢 に柔 軟に対 応 する能力 を養 う こ
とに貢献できればと願っている。
- 115 -
表 7-1
情報活動と,人間発達および現実把握度の関係
全体
小学校
中学校
高校
大学
第4章
第5章
第6章
人間発達 人間発達 現実把握度*
○×
○○
○○
○○
○○
○○
○×
○○
××
○×
○○
注)○○は「収集積極・活用積極型」、○×は「収集積極・活
用消極型」、××は「収集消極・活用消極型」を表す 。人間発
達では「自己創造」の割合が最も高かったタイプを、現実把握
度では「かなり現実的である」割合が最も高かっ たタイプ を表
記している。
*人間発達の代替指標として用いた。
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