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コンクリートの品質向上のための 新しい浸水養生工法の開発
コンクリートの品質向上のための 新しい浸水養生工法の開発と トンネル覆工への適用 2013 年 7 月 古川 幸則 コンクリートの品質向上のための 新しい浸水養生工法の開発と トンネル覆工への適用 2013 年 7 月 九州大学大学院工学府建設システム工学専攻 古川 幸則 論文調査(甲) 論文提出者 古川 幸則 論文題名 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生 工法の開発とトンネル覆工への適用 論文調査委員 主査 九州大学 教授 三谷 泰浩 _________________________印 副査 九州大学 教授 濵田 秀則 _________________________印 副査 九州大学 教授 日野 伸一 _________________________印 目 次 第1章 緒 論 1.1 背景と目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1.2 本論文の構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 2.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 2.2 コンクリート施工技術の変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 2.3 国内外の図書や基準類からみた規定の変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・ 11 2.4 従来の養生方法とその定義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 2.5 最近の改良された養生方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 2.6 基準類における定義と養生の分類 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 2.7 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31 第3章 コンクリート養生における既往研究 3.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 3.2 強度発現特性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 3.3 物質移動抵抗性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42 3.4 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 4.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63 4.2 覆工の役割・機能および設計思想の変遷 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 64 4.3 覆工コンクリートの施工方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 67 4.4 覆工コンクリートの課題と養生技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 72 4.5 覆工コンクリートの養生効果に関する既往研究 ・・・・・・・・・・・・・ 81 4.6 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 5.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 99 5.2 システム開発の設計思想と浸水養生の定義 ・・・・・・・・・・・・・・・100 5.3 アクアカーテン養生システムの構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・102 5.4 浸水養生によるコンクリート壁面の汚れ対策 ・・・・・・・・・・・・・・105 5.5 吸水量と吸水速度に関する試験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・112 5.6 浸水養生と水中養生の養生効果の比較試験 ・・・・・・・・・・・・・・・116 5.7 浸水養生の実施時期と養生効果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120 5.8 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・126 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129 第6章 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 6.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・131 6.2 実験方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・132 6.3 圧縮強度試験および質量変化試験の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・137 6.4 大型試験体におけるテストハンマー反発度試験の評価 ・・・・・・・・・・142 6.5 中性化促進試験の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・145 6.6 凍結融解試験の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・146 6.7 細孔径分布試験の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・148 6.8 透気試験の評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・150 6.9 膨張コンクリートにおける浸水養生の効果 ・・・・・・・・・・・・・・・151 6.10 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・156 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・158 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 7.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・159 7.2 トンネル覆工用アクアカーテンの主要資機材の開発 ・・・・・・・・・・・160 7.3 トンネル覆工用アクアカーテンの施工方法 ・・・・・・・・・・・・・・・174 7.4 現場における覆工コンクリートの高品質化とその評価 ・・・・・・・・・・187 7.5 まとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・195 参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・196 第8章 結 論 8.1 本研究の総括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・197 8.2 開発の振り返りと今後の展望 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・205 謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・209 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 第1章 緒 論 1.1 背景と目的 硬化したコンクリートは,強度特性や耐久性などの面において本来優れた性能を発揮する材 料であるが,施工環境や施工方法によっては潜在的な性能を発揮できない場合がある.しかし, 多年にわたるコンクリートの品質に係わる研究は,理想的な養生が行われることを前提として 本来の性能を見極めることが主体となっている. コンクリートに関する技術については,コンクリートの製造,運搬,締固めといった各作業 工程において著しい発展を遂げてきたが[1] , [2] ,養生技術については目立った技術開発は行 われていない. コンクリートに関する国内外の歴史的図書では,養生の必要性が以前から記述されており, その中でコンクリートに外部から水分を供給することの重要性が述べられている[3] , [4] .し かし,最近ではセメントの水和が完全に行われるために必要な水は練混ぜ水で十分であり,コ ンクリートの硬化のために水を補給する必要は全くないとの誤った認識が蔓延している.その ため,封かん養生を湿潤養生とみなす傾向が認められる.また,建築学会では不透水性の型枠 を存置した状態を湿潤状態[5]と考えている. わが国における養生に関する規定の変遷を見ると,施工性や経済性を重視するあまり養生を 軽視してきた背景がある.また,土木学会コンクリート標準示方書[6]は,型枠を用いない露 出面に対する養生を規定しているものであり,型枠を用いる場合のコンクリート面についての 記述はない.鉄筋コンクリートの耐久性能は,かぶりコンクリートの性能に大きく左右される ことを考慮すると,型枠を使用する面に対する規定が必要である.このような中,土木学会コ ンクリート委員会においては,コンクリート構造物の表層コンクリートの品質が耐久性に大き な影響を及ぼすとして研究を始めている[7].また,実際の施工条件に近い養生期間で行なわれ た各種研究では,水中,散水,噴霧,封かん等の養生方法とコンクリートの品質向上効果につ いて検討されており,水中養生が最も優れていることが共通の研究成果として得られている [8],[9]. トンネル覆工は,道路,鉄道および水路等の使用目的や条件に応じて,トンネルの機能を長 期間にわたり維持するための重要な構造物である.覆工コンクリートは,力学的機能が不要と なったことや[10] ,コンクリートポンプなどの施工機械の性能向上と相まって,NATMにお ける覆工コンクリートの品質は,格段に向上したという認識が強くなっている.しかし,実際 の覆工コンクリートの施工方法では, コンクリート打込後 12~24 時間での型枠取りはずしと不 十分な養生となっており, 良いコンクリートが施工されているとは言い難い. また 1999 年以降, 覆工コンクリートの剥落事故が発生[11]し,覆工コンクリート構造物の安全神話が崩れコン 1 第1章 緒 論 クリートに対する信頼性が大きく損なわれている. 一般構造物のコンクリートの養生条件と異なり,トンネル覆工コンクリートは打込み翌日に 脱型する施工サイクルとなる.トンネル坑内は温度および湿度が安定しているという考え方に より,一般には付加的な養生は行っていない.しかし,近年では坑内環境を改善するために大 型換気設備の導入が進み,坑内温度および湿度は低下しており,コンクリートに対する坑内環 境は悪くなっている.また,トンネルの大断面化等の要因も重なり乾燥収縮が原因とされるひ び割れが発生している.覆工コンクリートの養生に関しては,型枠取りはずし時期と強度など に関する基準はあるものの,型枠取りはずし後の養生に関しては基準もない. 覆工コンクリートは,早期に脱型されるという不可避的な条件にあるが,給水を行い湿潤養 生することで,逆に大きな養生効果を期待することができる.コンクリート養生を単に覆工コ ンクリートの強度発現不足の対策としてではなく,覆工コンクリートの更なる耐久性向上を目 指した養生として捉えていくことが重要である. これらの課題を解決するためには,トンネル掘削の施工性を確保しつつ,覆工コンクリート 表面に常に水分を供給できる湿潤養生を適用することが理想である.スラブ面のような水平面 でのコンクリートの養生は容易に湿潤養生を行えるが,トンネル覆工コンクリートに対しては 湿潤養生を行なうことが難しく,実際は不十分な湿潤養生や養生環境が劣悪な中での気中養生 状態となっている. 一方で近年は,公共工事において総合評価落札方式が導入されており,ほとんどのトンネル 案件で覆工コンクリートの品質向上に関する技術提案が求められている.このような情勢の中 でトンネルの施工会社では, 覆工コンクリートの養生について新技術を開発し導入し始める等, 覆工コンクリートの養生に関して多くの研究が盛んに行われるようになった.その中でも写真 1.1-1 に示すように 2003 年(平成 15 年)に登場したトンネルバルーン[12]は,多くのトンネ ル現場で採用されている.しかし,これらの養生工法は保水養生に関するものが多く,給水養 生が可能な工法については施工性や経済性等の面で課題が残る.特に噴霧養生や散水養生につ いては,路盤の泥濘化や電気設備への影響もあり,実際の施工では給水養生と言えるほどの養 生を行えないのが現状である. 以上のような背景から,本研究では写真 1.1-2 に示すような覆工コンクリートに理想的な養 生が可能となるアクアカーテン養生システムを開発し,新たなる湿潤養生のひとつである浸水 養生を提案する.浸水養生については,覆工コンクリートにおいても水中養生並みの養生効果 を得ることができ,経済的で施工性に優れた工法である.なお,本研究の対象は現場打ちのコ ンクリートで覆工を施工するトンネルとし,養生時期は型枠取りはずし後である. 2 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 写真 1.1-1 トンネルバルーンの施工状況[13] 写真 1.1-2 アクアカーテン養生システムの施工状況 3 第1章 緒 論 1.2 本論文の構成 本論文では,先ず一般論としてコンクリートの養生方法や効果について,既往の施工報告や 関連書籍および基準等の文献調査を行い,これらの変遷や現況を把握し,課題の抽出を行う. そのうえで,トンネル覆工コンクリートの役割・機能を整理し,その施工方法や養生技術につ いての現状を把握し,覆工コンクリートに特化した課題の抽出を行なう.そして,コンクリー トの養生としては,最も理想的な水中養生に匹敵するアクアカーテン養生システム(浸水養生 工法)の開発について検討し,その効果を検証したうえで,実構造物のトンネルにおいてアク アカーテンを適用できるよう合理的な施工方法について検討する. 本論文は,全体を8章で構成する.第1章は緒論,第2章から第3章は一般論としてのコン クリート養生における定義や既往の研究について調査し,第4章は覆工コンクリートの施工方 法や養生方法についての現状と課題を考察する.第5章ではアクアカーテンの開発および施工 法を検討し,浸水養生の定義について検討する.第6章で強度発現性や耐久性の面からの浸水 養生効果を検討する.第7章はアクアカーテンを道路2車線断面のトンネルに適用する際の施 工方法について詳細を述べ,実際のトンネルにおける覆工コンクリートの高品質化に関する取 り組みを紹介する.第8章は本研究のまとめを述べて結論とする.図 1.2-1 に論文の構成を示 す.以下に,本論文を各章ごとに要約する. 第2章では,コンクリートの施工方法や養生方法の変遷および定義を振り返るために,コン クリート施工技術および歴史的図書,各種規定の調査し整理する.また,近年開発が進展しは じめた養生技術に関する新工法について,これらの適用性について調査する.さらにわが国の 代表的な基準類における養生の定義を紹介し,基準毎に定義が異なっている湿潤養生について 整理を行なう. 第3章では,一般的なコンクリートにおける養生とコンクリート性能に関する関連性につい て調査する.そのため,本章ではコンクリート性能の指標としてよく用いられる強度発現性, 物質移動抵抗性,耐久性等と養生方法に関する最近の取り組み事例をまとめ,養生の効果につ いて調査する. 第4章では,覆工コンクリートの現状と養生方法の課題を整理し,覆工コンクリートの役 割・機能および設計思想の変遷や施工方法を調査する.また,現場で最もなおざりになってい る養生方法の課題についても検討を行なう.さらに,近年の総合評価落札方式で評価項目にな っていることもあり,急速に技術開発が進んでいる覆工コンクリートの養生工法事例について まとめ,湿潤養生を適切に実施した場合の養生効果について検討する. 第5章では,今回開発した浸水養生工法(アクアカーテン)について工法の概要,標準仕様 について紹介する.なお,アクアカーテンは養生シート,吸引装置,給水装置から構成され, 養生シートとコンクリート表面の間の空気を吸引器により吸出し減圧することで,コンクリー ト面に養生シートを密着させ,その間に給水を行いコンクリート表面に水膜を形成させる工法 である.本章では,アクアカーテンの仕様や施工方法を決定するまでに行なった各種試験の内 4 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 容と成果について考察する. 第6章では,鉛直壁面や柱でも常にコンクリート表面に水膜を形成させ安定した給水養生が 可能となるアクアカーテンについて室内実験を行ない,その養生効果を明らかにする.効果に ついては,強度発現特性の評価,中性化促進試験の評価,凍結融解抵抗性に及ぼす影響,細孔 構造に及ぼす影響,透気係数および膨張コンクリートでの効果等について考察する. 第7章では,アクアカーテンを覆工コンクリートに適用できるように養生システムの更なる 改良について検討を行い,その中で主要資機材の開発を行なう.また,トンネル坑内という特 殊条件下でも確実で再現性の高い合理的な施工方法を提案する.そして最後に実際の現場にお ける覆工コンクリートの高品質化とその対応について述べる. 第1章 緒 論 一般論として養生の定義や 既往研究の整理 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 ・施工技術の変遷や各種基準類の変遷 ・最近の養生方法の調査 ・養生の分類 覆工コ ン ク リー トの役割・ 機能 およ び 養生方法の整理 第3章 コンクリート養生における既往研究 第4章 覆工コンクリートの役割と施工方法および 養生方法 ・強度発現特性 ・物質移動抵抗性 ・覆工の役割・機能の変遷 ・覆工の施工方法、養生に関する既往研究 ・覆工養生技術と課題 ア ク ア カー テ ン の開発として 各種実験、効果、 第5章 トン ネル覆工へ 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 適用方法の整理 ・システム開発の設計思想,浸水養生の定義 ・アクアカーテンの構成、出来栄え確保 ・施工方法確立のための各種試験 第6章 覆工コンクリートにおける浸水養生効果 の検討 ・圧縮強度等の評価 ・耐久性の評価 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 ・アクアカーテンの主要資機材の開発 ・アクアカーテンの施工方法 ・覆工コンクリート高品質化とその対応 第8章 結 論 図 1.2-1 論文の構成 5 第1章 緒 論 参考文献 [1] 建設ロボット・自動化技術便覧 1995,㈶先端建設技術センター,pp.5- 4~5-9. [2] コンクリート診断技術 ’09[応用編],日本コンクリート工学協会,pp.136. [3] 吉田徳次郎:第 3 次改著 鉄筋コンクリート設計法,養賢堂発行,1967,pp51-52. [4] 後藤幸正,尾坂芳夫監訳:ネビルのコンクリートの特性,技報堂出版株式会社,昭和 54 年, pp235-240. [5] 日本建築学会建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事 2009. [6] 土木学会コンクリート標準示方書[施工編]2007 年版. [7] 土木学会コンクリート技術シリーズ:構造物表面のコンクリート品質と耐久性能検証システム研 究小委員会(335 委員会)成果報告書およびシンポジウム講演概要集. [7] 蔵重勲,廣永道彦:脱型材齢や暴露環境がコンクリートの強度特性や表層透気性ならびに中 性化抵抗性に及ぼす影響の実験的評価,コンクリート工学年次論文 集,Vol.32,No.1,2010,pp.623-628. [8] 白根勇二,舟橋政司,松尾健二:施工条件や養生条件がコンクリート表層部の品質に及ぼす影 響,コンクリート工学年次論文集,Vol.32,No.1,2010,pp.1313-1318. [10] 土木学会:トンネル標準示方書(山岳工法編),2006 年,土木学会,pp94. [11] 日本鉄道建設業協会:山陽新幹線トンネル覆工技術に関する検討報告書,平成12年3月. [12] 佐藤幸三,椎名貴快,松井健一,一條俊之,新藤敏郎,安部俊夫,小林雅彦:バルーンを用 いたトンネル二次覆工コンクリートの養生方法と効果について,土木学会第 59 回年次学術講 演会(平成 16 年 9 月),pp727-725. [13] 九州建設技術フォーラム 2005 in 福岡 HP 6 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 2.1 はじめに 硬化したコンクリートは,理想的な養生環境下といえる 20±3℃の水中で,28 日間養生され た供試体によって確認される“本来の性能”が発揮される場合,強度特性や耐久性の面で優れ たものとなる.しかし実際は,構造物が様々な条件下で施工され, “本来の性能”とは大きく乖 離し,潜在的な性能を発揮できないコンクリートも少なくない. 多年にわたるコンクリートの品質に係わる研究は, “本来の性能”を見極めることが主題であ り, 特に耐久性についての性能についても十分な養生過程を経たコンクリートの“本来の性能” に対するものが主体である. 近年報告されているコンクリートの不具合事例を見ると,トンネルや高架橋で生じたコンク リート片のはく落,コンクリートの中性化の進行や塩分浸透による鉄筋腐食による耐荷性能の 低下,凍結融解によるスケーリングや断面減少,化学的侵食によるコンクリートの劣化などで ある.これらは,コンクリート構造物の表面付近に生じているコンクリートの性能低下が,大 きな原因となっている. 本章では,コンクリート施工技術および歴史的図書,各種規定の変遷を調査し,養生の施工 方法やその考え方を考察する.また,近年は総合評価落札方式による案件でコンクリートに関 するテーマが増加していることもあり,養生技術に関する新工法が多く開発されているため, これらの適用性について調査する.さらに実際に現場で採用されている養生方法の区分につい て述べる. 7 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 2.2 コンクリート施工技術の変遷 コンクリートの施工技術の変遷[1]は,図 2.2-1 に示すように,1920 年以前は鉄筋コンクリー ト工事の導入期であり,硬練りコンクリートを人力で打ち込んでいる.これ以降 1945 年第二 次世界大戦までの土木工事では,鉄道・橋梁・水力ダムでのコンクリート打設技術も国内技術 として自立してきている. 戦後から 1965 年までは,東京オリンピックや東海道新幹線の開通といった一大エポックの 達成に向かって,建設の機械化が図られた.大規模工事では大型クレーンの設置が行なわれ, 養生作業は一段と機械化されている.また水力ダムの建設が積極的に進められ,施工法が確立 している.道路工事や,橋脚へのコンクリートも大量打設へと変化し,型枠の大型化,支保工 の鋼製化が進んだ時代でもある. 1965 年以降 1980 年代までは,コンクリートポンプ工法の急速な普及とレディーミクストコ ンクリート工場が全国的に普及し始める. 1980 年以降は本格的な経済成長期でもあり,高強度コンクリート,流動化コンクリートなど の高性能コンクリートの開発およびロボット技術の導入が積極的に進められている. 1990 年以 降はバブル景気の崩壊を向かえ,建設工事が縮小傾向を迎え始めると,塩害による鉄筋腐食, アルカリ骨材反応等によるコンクリートの早期劣化が大きな社会問題となり,耐久性を確保す るための材料や配合上の対策が提示され始める. そして 2000 年以降は,本格的な建設産業の冬の時代を向かえ,維持更新のあり方が各方面 で検討され始めている. 1995 年に㈶先端建設技術センターが発行した建設ロボット自動化技術便覧のうち,5 編コン クリート工[2]では,当時の建設の機械化とその後の動向について以下のように示している. 当時のコンクリート工事現場では,構造物規模の大型化とともに3K職場回避風潮と相まっ て,優れた労働力の確保が厳しい状況にある.また,現場生産主体のコンクリート工事は労働 集約的作業の代表例でもあり,昨今のエレクトロニクス技術分野の目覚しい発展に比べ,機械 化・自動化を進めにくい工種といえる. 8 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 図 2.2-1 コンクリート工事の変遷と打設量の推移[1] 9 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 コンクリート工事を作業内容ごとにみると,型枠の設置,コンクリートの運搬・打込み,締 固め,養生,表面仕上げなどがあり,一連の作業の中で種々のロボットが開発され,実用の段 階に到っているものがある.代表的なロボット化技術としては,運搬・打込みでは,ディストリ ビュータの改良,締固めでは締固め判定機能を備えたバイブレータ,水平打継目では,グリー ンカットロボット,型枠・支保工では自動昇降式大型型枠や 3 次元測量による精度管理技術, 表面仕上げでは床仕上げロボットが普及し始めている. しかし,今後の方向性にはコンクリート品質管理およびコンクリート構造物の解体技術が含 まれているが,養生作業については何ら触れていない.ロボット便覧に記述されているコンク リート工事の機械化の動向にも, コンクリートの養生技術が欠落している. 養生作業にとって, どのような作業を自動化あるいはロボット化するかの将来展望を示すことは当時には困難であ ったと考えられる.また,建築工事省力化の方向[3]を図示した図 2.2-2 によると,建築現場 では運搬・打込み・締固めに対する省力化を示しているが,養生についてはその方向性を示し 得ていない.このように,養生方法については,主要な作業工程の一つではあるが,施工技術 としての位置付けが難しく,ロボット化あるいは機械化などの取組み機会はなかったものと思 われる. 図 2.2-2 コンクリート工事省力化の方向[3] 10 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 2.3 国内外の図書や基準類からみた規定の変遷 2.3.1 歴史的図書からの引用 本項では,国内外のコンクリートにおける歴史的な教科書と言える資料をもとに養生方法に 関する部分を以下に述べる. (1)吉田徳次郎著:鉄筋コンクリート設計法 1967 第 3 次改著(昭和 42 年)[4] コンクリートの養生方法について,歴史的な教科書である吉田徳次郎著「鉄筋コンクリート 設計方法によると,第1編総説,第9節コンクリート打ちおよび養生§46 養生で以下のとおり 記述している. コンクリート打ちを終わってから,コンクリートを保護して,コンクリートの硬化作用を十分発 揮させると同時に,コンクリートを打って後まもなく乾燥するためにできるひび割れ,コンクリー トの乾燥収縮のために鉄筋コンクリートにおこる元応力,等をできるだけ少なくするための作業を コンクリートの養生という.コンクリートの養生作業を以下に示す. (1) 霜,日光,風雨,等に対してコンクリートの露出面を保護すること (2) コンクリートが十分硬化するまで,衝撃および過分の荷重を加えないようにコンクリート を保護すること (3) コンクリートの硬化中コンクリートを適当の温度に保つこと (4) 硬化中に十分な湿気を与えること,等である. (2)近藤泰夫訳:TVAのコンクリート(コンクリートの製造と管理) ,1956 年[5] TVAのコンクリート(コンクリートの製造と管理)では,18.養生(Curing)の記述は以下の とおりである. コンクリートの強度その他の品質は,セメントの水和作用の程度によって定まり,主として適当 な温度と湿度との存在によって支配される.水養生(Water curing)-TVAの工事の大部分には 水養生が用いられ,これが最良の養生方法と考えられる.被膜養生剤(Membrane curing compound)が,Cherokee,Douglas 及び Fontana の各ダムに用いられた.よい方法であるが,その 使用される主な理由は,これを水に比較したとき,その適用による便宜のためであって,養生が優 秀であるためではない. 鉛直面に水を適用するには,型枠にとりつけた有孔パイプをホースで給水ラインに連絡する.パ イプを一度パネルにとりつけておくと,型枠を引き上げたときに,単にホース連絡を変更するだけ で十分である.給水ラインは通常コンクリートの中を通じてブロック毎に延長しておき,養生用の 便宜の連絡設備とする.表面に対し水は最小 14 日間与えたが次のリフトの養生のために,水が下位 のリフトの表面を流化するので,多くの表面は更に延長された期間に亘って養生されたことになる. 水平面は水又は湿砂で養生された.水は有孔パイプ,ローン型散水機(lawntype sprinkler)又は ホースを用いて適用された.連続散水が断続散水より遙かに効果的であった. 適当の養生を与えるためには監視隊(inspection force)を設けて,絶えず水が流れているように不 断に監視する必要がある,水が養生のために重要であることを知らない労務者によって,しばしば 中断される.又ホースや器具が他の目的のために持ち去られることも少なくない. 11 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 (3)ネビルのコンクリートの特性:後藤幸正・尾坂芳夫訳,1979 年[6] ネビルのコンクリートの特性では, 「5.10 コンクリートの養生」に以下のように記述されて いる. 1)養生とは よいコンクリートを得るためには,適切な配合のものを打ち込んだ後,引続き硬化の初期段階の 間,適切な環境で養生しなければならない.養生とは,セメントの水和反応を促進するためにとら れる処置に付けられた名称で,温度およびコンクリートにおける水分移動の管理から成る. 2)養生の目的,実際の現場における養生の現状 まだ固まらないセメントペーストのもともと水で占められていた空間がセメントの水和生成物で 所要の程度に充たされるまで,コンクリートを飽水状態に,またできる限り飽水に近い状態に保つ ことである.しかし,大部分の現場では,コンクリートに起こりうる最大の水和作用が生じるより かなり前に積極的な養生を中止している. 3)養生の必要性 セメントの水和反応が起こるのは毛管内の水で飽和された状態のときだけであるということから 生じる.このため,毛管から蒸発することによる水分の損失を防がなければならない.さらに自己 脱水による内的に失う水分を外側からの水で補ってやらねばならない.すなわち,コンクリート内 部へ水が浸入できなければならない. ペースト内に存在する水の量がすでに結合した水の量の少なくとも 2 倍なければ,密封した供試 体の水和反応を進行させることはできない.そのため,水セメント比が 0.5 以下の配合では自己脱 水が重要なこととなる. 一方,それよりも高い水セメント比では,密封供試体の水和反応の速度は飽水供試体と同様にな るが,忘れてはならないことはペースト内に存在する水の 1/2 だけが結合水に使われるということ である.以前は,セメントとの水和に必要な水量以上の水を含むコンクリートの配合であれば,わ ずかな水の損失ならば硬化の過程や強度の増進に不利な影響はないと考えられていたので,この報 告はかなり重要である.現在では,水和反応は,毛管内蒸気圧が飽和蒸気圧の 8 割ぐらいの十分高 いときにのみ生じることが知られている.水和反応が最も早く進行するのは,飽和蒸気圧のときだ けである.湿潤養生が強度に与える影響の程度は,例えば水セメント比 0.5 の場合を図示すると図 2.3-1 のとおりである.図 2.3-2 は種々の相対湿度で 6 ヶ月間放置後の水和の程度を示したものであ るが,飽和蒸気圧の 8 割以下では水和の程度が低く,3 割以下では極めてわずかであることが明らか である.十分な強度が発現するためにはすべてのセメントが水和する必要はなく,また実際にこれ が達成されるのはきわめて稀であることを強調しておきたい. 12 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 図 2.3-1 水セメント比 0.5 のコンクリートの強度への 湿潤養生の影響[6] 図 2.3-2 6ヵ月放置した乾燥セメントに種々の蒸気 圧で結合する水量[6] 2.3.2 わが国の規定の変遷 コンクリート工学協会のコンクリート基本技術調査委員会養生 WG[7]では,わが国の養生に 関する技術基準の変遷を2010年コンクリート年次大会の討論会資料として取りまとめている. それによると,土木学会コンクリート標準示方書(以下示方書)では,昭和 6 年制定(1931 年) において既に養生に関する規定がある.露出面を布,砂等で覆ってかつ散水し,7 日間湿潤状 態に保つ必要があり,また,せき板の乾燥の恐れがある場合は,これに散水する必要がある, と規定している.建築工事に関する規定はさらに歴史が古く,大正 3 年(1923 年)制定の建 築工事仕様書において,打込み後 7 日間,降雨・温度・直射日光に対する養生を行い,炎暑の 場合には散水が必要としている.明確な湿潤養生期間は,昭和 28 年(1953 年)制定の建築工 事標準仕様書・同解説 JASS5(以下 JASS5)に普通セメントで 5 日間,早強セメントで 3 日 間以上湿潤状態に保つ必要があると規定している.普通セメントを用いた場合の養生期間に着 目すると,示方書昭和 49 年(1974 年)制定において 7 日から 5 日間に変更され,以降,2007 年版まで同様である.建築学会の JASS5 では,1986 年改定で 7 日間に変更され,さらに,1997 年改定で供用期間の級毎に養生期間を設定している. この改定で供用期間が短期・標準の場合, 5 日間に変更されている. 既出の検討資料[7]では,示方書の中でいくつか興味深い記述があることを指摘している.昭 和 24 年制定における「水和作用の観点から,理想は少なくとも 6 ヶ月間湿潤養生に保つ必要 がある. 」と昭和 49 年制定の「長期間の養生は不経済,乾燥には相当の期間を有し,内部はそ 13 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 の間に硬化する.初期の効果が著しく,長期の養生は,利益は少ない.」である.昭和 49 年制 定の記述は,2007 年版の解説における記述内容にほぼ反映されている.ただ,次の改定の昭和 61 年制定以降,2007 年制定まで, 「内部はその間に硬化する」および「長期の養生は,利益は 少ない」という記述は見られないことを付け加えておく. 最後に,示方書に限定し,条文の解説の記述の変遷を概観しておく.養生の目的の中に耐久 性の確保と言う記述が初めてなされたのは,平成 3 年制定からであり,さらに鋼材を保護する 性能と言う記述は,次の平成 8 年制定からである.ただ,耐久性確保と言うことが改めて強調 されているにもかかわらず,湿潤養生期間の標準は,昭和 49 年以降変更されていない.前述 したように,昭和 49 年制定では, 「内部はその間に硬化する」および「長期の養生は,利益は 少ない」という記述もあり,当時は,表層部の耐久性の確保,鉄筋を保護する性能の確保と言 う概念は必ずしも重要視されていなかったことが想像される.すなわち,その時点から変更さ れていない現行の示方書の湿潤養生期間の標準が,表層部の耐久性の確保の上で十分な期間で あるか,その根拠は,明瞭とは言えないのである.また,同WG[7]では養生に関する定義に対 して,不確かな事項があることを記述している.JIS では,養生は「コンクリートに所要の性 能を発揮させるため,打込み後の一定期間,適当な温度と湿度を保つと同時に,有害な作用か ら保護する行為,または処置」と定義されている.しかしながら,実際の施工現場で行なわれ ている養生の実態から推察すると,養生に関する作業現場での目安は,不明確な点が多いこと をあげている.これらの項目を以下のようにまとめている. (1)養生期間 JIS の定義に基づけば,養生の開始は「打込み直後」となる.しかしながら,ここで言う「一 定の期間」とはいつまでを指すのか不明確である.実際に現場で行なわれている目安の一つに 「脱型までに要する日数」というものがあるが,この段階ではまだ「一定期間」の初期段階で あり一定期間とはなっていない. また,養生をいつまで続けるのかといった点については,①100%の性能が発揮されるまで, あるいは②100%の性能ではないにしても,養生を終了して有害作用によってコンクリートの 品質が変化しない程度に十分な性能が発揮されるまでなど,少し考えてみるとおぼろげな点が 多くある. (2)養生目的 JIS の定義に基づけば,養生の目的は,①温度と湿度を一定に保つこと,②有害な作用から 保護することである.しかしながら,実際の施工現場(特に暑中や寒中)では,温度と湿度を適 当に,且つ一定に保つことは甚だ困難であるのが実情である.どの程度の変動であれば「適当, 且つ一定」とみなせるのか明確になっていない.また,有害な作用からの保護とは,有害物の 侵入を制御するだけでなく,振動や衝撃などの物理的作用(振動等)から守ることと考えられる が,これらの物理的作用についてもどの程度の許容があるのか曖昧な定義となっている. 14 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 (3)品質確認方法 適切な養生を経てコンクリートの品質を確認するための試験方法は多く提案され実際に行な われているものもあるが,規定化されてはいない. 例えば,コンクリート強度の発現は,養生に大きく影響されることから,コンクリート強度 は養生効果を確認する一つの指標となる.構造物の強度を直接検査する代表的な試験方法は次 のとおりである.コア強度試験,ボス供試体試験,局部破壊試験による強度推定,反発度,超 音波試験,その他の方法がある. これに対し,コンクリートの耐久性に関する確認方法は,物質移動抵抗性を確かめるトレン ト法による簡易透気試験,真空吸引試験,電気泳動によるコンクリート中の塩化物イオンの拡 散係数試験,コンクリートの比抵抗試験,超音波試験などが開発提案されている. 15 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 2.4 従来の養生方法とその定義 養生とは,コンクリートの打込みまたは成形後硬化の初期段階において,コンクリートが低 温,乾燥,急激な温度変化による有害な影響および振動,衝撃や荷重を受けないように保護し, コンクリート構造物が十分な強度と耐久性を発揮するために必要な工程である. コンクリートの強度等の諸物性は,セメントの水和反応に左右されるところが大きいため, セメントの水和反応をいかに良好な条件下で進行させるかが重要であり,このためにはコンク リートの養生が大切である. セメントの水和反応は,化学反応であるため,温度,湿度などが本質的因子となる.また, 硬化初期においてコンクリートが急激な乾燥や凍結などを受けると,ひび割れが発生し,セメ ント水和物が脆弱となり,強度や耐久性を低下させる原因となる. コンクリート総覧[8]では,養生方法をその目的に応じて湿潤養生,保水養生,気中養生,保 温養生,加熱養生に分類し,さらに現場施工,工場製品,強度試験用供試体への適用範囲に区 分している.コンクリートの養生方法を表 2.4-1 に示す. 本節ではコンクリート総覧を基に,初期養生も含めて,養生に関して一般的に受け取られて いる定義について述べる. 2.4.1 初期養生 コンクリート総覧[8]では,初期養生とはフレッシュコンクリートを打ち込んだ直後から,コ ンクリートが凍害を受けたり(初期凍害),表面が急激に乾燥したり,また振動や衝撃などが作 用しないように初期の期間に行われる養生と定義している. スラブなど露出面で風や直射日光によってブリ-ディング水の急速な蒸発によって生じるプ ラスティック収縮ひび割れを防止すること,雨水の侵入によってコンクリート表面が荒らされ ることを防ぐことなどが初期養生といえる.初期養生の期間は一概には示せないが,寒中コン クリートに関して初期凍害を防止するために初期養生終了後の所要の強度が表 2.4-2 に示され ているので,これが一応の目安とできる. 2.4.2 湿潤養生 コンクリート総覧[8]では,コンクリートが水和するのに必要な水分がコンクリートから逸散 しないよう,補給または維持するためにコンクリート面を湿潤状態に保つ養生と定義されてい る.湿潤養生には,水中養生,濡れむしろまたは湿布養生,湿砂養生,噴霧養生,散水養生な どがある.コンクリートが硬化する際,セメントが完全に水和するのに必要な水量は,セメン ト質量の 25%程度である.しかし,通常のコンクリートの水セメント比は,ワーカビリティー を確保するために,これよりもはるかに多く,40~65%の範囲にあり,フレッシュコンクリー トに含まれている水分がそのまま保持されれば,水和反応に必要な水を外部から補給する必要 はないと誤解されている例も多い. 16 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 表 2.4-1 コンクリートの養生方法[8] 適用性 現場施工 工場製品 × × 標準養生(20℃) × × 現場水中養生 水中養生 △ △ 流水中養生 △ ◎ 湛水養生 ◎ ◎ 濡れむしろまたは湿布養生 ○ ○ 湿砂養生 ○ × 噴霧室養生 ○ ○ 散水養生 ○ ○ 封かん養生 ○ ◎ 現場封かん養生 ○ ○ シート養生 ○ ○ 膜養生 ◎ ◎ 空気中養生 △ △ 乾燥養生 △ × 炭酸ガス養生 断熱養生 △ × パイプクーリング養生 ○ × ◎ × 蒸気養生 ◎ × 高温高圧養生(オートクレーブ養生) △ △ 電熱養生 △ △ 電気養生 △ △ 赤外線養生 × × 高周波養生 ○ × 油中養生 ◎:適用性大,○:適用可,△:特別の場合適用可,×:適用不可 養生方法の分類 湿潤養生 保水養生 気中養生 保温養生 加熱養生 注) 供試体 ◎ ◎ △ × ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ △ ○ × ○ ○ △ △ △ △ ○ 表 2.4-2 初期養生終了時の所要強度[8] JASS5 構造物の露出状態 RC示方書 ダム 無筋・鉄筋 A B 地域 地域 * ** 断 薄い 面 普通 舗装 示方 厚い 示方書 書 所要曲 げ強度 所要圧縮強度(N/mm2) (1)連続して,あるいはしばしば水で 飽和される部分(RC 示方書) - - 15 (2)普通の露出状態にある(1)に属さ 12 10 - - 5 3.5 5 1 ない部分(RC 示方書)建築物(JASS5) * 気象庁による日別平均気温の平滑平年値が 0℃以下となる地域, 日別最低気温の平年値が-5℃以下となる地域, および最低気温の極値が-15℃以下となる地域 ** 以外の地域 17 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 例えば,コンクリートが表面から乾燥すると,コンクリートの内部の水が表面に移動し,こ の水が外部に逸散してしまうため,水和反応に必要な水が不足することとなる.また乾燥が起 こらない場合にも,セメントの水和収縮によって水が移動し表面近傍がいわゆる自己乾燥状態 になることがある. したがって, 水和反応が終了するまでに必要とする水分を外部から補給し, 反応に必要な水分を維持することが必要となる. したがって,本研究では,外部から水分を供給できない封かん養生は湿潤養生とは見なさい 方針とする.湿潤養生に分類される養生方法についてその定義を以下に述べる. ■水中養生 ■標準養生 水中養生とは,コンクリートを水中に入れておく 養生方法であり,最も湿潤養生効果がある. 水中養生のうち,標準養生とは,コンクリートの ポテンシャルを表す養生方法で 20±3℃の水中ま たは飽和湿気中において行うコンクリート供試体 の養生である.この方法によって養生されたコン クリートの性能がそのコンクリートの基本物性の 標準とされる. “本来の性能”と呼んでいる. ■現場水中養生 現場水中養生とは構造体として打ち込まれたコン クリートの性能を想定する養生方法で,JASS5 で は工事現場において,水温が気温の変化に追随す る水中で行うコンクリート供試体の養生と定めて いる.この方法によって養生されたコンクリート の圧縮強度が,構造体コンクリートの圧縮強度と 一致すると想定している. ■流水中養生 海水や水が流れている環境条件下でコンクリート を養生する流水中養生がある.流水中で供試体と 養生すると,コンクリート成分が溶出し,本来の 性能を発揮しないことがあるので,注意する必要 がある. ■濡れむしろまたは湿布養生 この養生は,コンクリート表面を濡れむしろま たは湿布で覆って湿潤に保つ養生である.最近で は吸湿性のマットに散水している.この養生は適 性が広く,とくに夏期高温時の乾燥が厳しい時に 有効である.コンクリート舗装,コンクリート床 版をはじめPC部材,コンクリート製品などにも 適用される.ただし,重量が相当重くなるので, 一枚当りの面積を制限するか,移動,設置時には 乾燥させるかの工夫が必要となる. ■湛水養生 コンクリート水平面の周囲に砂や型枠で堰を設 け,その内部に水を湛水する方法である.ダムコ ンクリートの越冬面など,水深を 10cm 以上深くす ると湛水が凍らないので,コンクリート温度が 0℃ 以下に下がらない. ■噴霧養生と散水養生 噴霧および散水養生は,コンクリート表面に噴 霧・散水して,表面から水の蒸発を防止する養生 方法である.この場合,噴霧・散水した水は比較 的速く蒸発しやすいので,頻繁に噴霧・散水する 必要がある.シートなどで覆った空間に噴霧する と効果的であるが,屋外のコンクリート面に噴霧 してもコンクリート面を湿潤させるためには多量 の噴霧が必要となり使用水量のロスが多い.この 方法が適用可能なコンクリート部材は,コンクリ ート表面が大気にさらされている場合ならどの部 材でもよい.養生効果は,柱・壁等の鉛直部材よ りもスラブ等の水平部材の場合に大きい.暑中に 施工される床スラブにおいては,初期養生として 散水養生が効果的である. ■湿砂養生 湿砂養生は,湿った砂をコンクリート表面に接 した状態に保ち,コンクリート表面からの水分の 蒸発を防止する養生方法である.この場合,砂が 乾燥しないように常に砂を湿潤状態にしておかね ばならない.この方法が適用可能なコンクリート 部材は,土に接しているスラブコンクリート,基 礎等である.砂の敷設および撤去には相当の手間 がかかることから適用例は少ないと思われる. 18 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 2.4.3 保水養生 コンクリート総覧[8]では,セメントの水和に必要な水を保持するためにコンクリート表面を 水密性の高い膜やシートで覆う養生ように定義している.封かん養生,シート養生,膜養生が ある.建築学会では不透水性のせき板を存置することを保水養生に区分している. 保水養生に分類される養生方法についてその定義を以下に述べる. ■シート養生 シート養生は,不透水性のシートでコンクリー ト表面を覆い,コンクリート中の水分が逸散しな いようにする方法である.外気温が高い場合や風 が強い場合などに用いられることが多い.型枠全 体を覆うことによって型枠をとりはずす前から養 生できる. ■封かん養生 封かん養生は,コンクリートが水和するのに必 要な水分を保持するために,コンクリートの水分 が逸散しないよう,コンクリート表面を大気から 遮断する養生方法である. ■膜養生 膜養生は,コンクリート表面に被膜のできる養生剤を散布して,コンクリート表面からの水分の蒸発を 防止する養生方法である.本養生は,コンクリートを打ち込んでからブリーディング水がなくなった直後 に散布する.散布は,縦横両方向の 2 回以上に分け,むらのないように行う必要がある.やむをえず膜養 生剤を散布する時間が遅れる場合には,散布するまでのコンクリート表面を湿潤状態にしておかなければ ならない.膜養生剤には,合成樹脂系とアスファルト系があり,それぞれ溶剤型および乳剤型がある.膜 養生剤は施工条件によって養生効果が大きく異なる.また,膜養生剤の銘柄によってその効果が大きく異 なるので,施工条件,取り扱い方法を十分確かめる必要がある. 2.4.4 その他の養生 その他の養生方法に関する定義を以下に述べる. ■気中養生 気中養生とは,コンクリートを空気中,乾燥炉中, 炭酸ガス中で養生することをいう. ■加熱養生 コンクリートの凝結・硬化,強度発現を促進する ためにコンクリートを加熱し,セメントの水和を促 進する養生である.蒸気養生,高温高圧蒸気養生(オ ートクレーブ養生) ,電熱養生,電気養生,赤外線 養生,高周波養生,油中養生がある. ■保温養生 主として寒中コンクリートにおいて, 初期凍害の防止のために断熱性の高い型枠を用いてセメントの水和熱 によってコンクリートの温度を保つ養生である.またマスコンクリートにおいては,パイプクーリングを行っ て内部コンクリートの温度上昇を抑制し,水和熱によるコンクリートの膨張,ひび割れなどの不具合を防止す るために行う養生である. 19 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 2.5 最近の改良された養生方法 コンクリートの養生は,セメントの水和反応をいかに良好な条件下で進行させるかという目 的のために,主として温度環境,湿度環境などの雰囲気環境と振動や衝撃などの物理的環境を 良好な状態に保つために行われる. 本研究では,これらの養生環境の中で特に湿度環境がコンクリートの品質に及ぼす影響を把 握し,具体的な養生方法を提供することが主題であることから,以下では湿度環境条件に関す る養生方法に限って検討を進める. 前節では,コンクリートの養生全体を俯瞰したが,表 2.4-1 に示した養生方法の分類のうち 湿潤養生および保水養生について,ここではさらに詳細に検討する.表 2.4-1 では適用性を現 場施工,工場製品,供試体と三つに区分しているが,本開発ではあくまで現場施工に利用でき る方法に限っているので,現場施工への適用が可能な方法に限っている. 一方,養生ができる部材については,特に区分していないが,一般的には,コテ仕上げ等を 行う露出面を対象としている.さらに,柱や壁などの鉛直面で,コンクリートの打込みに当た って使用する型枠を取りはずした後の養生についても適用できるかどうかを区分の対象とする. 以上の前提で表 2.4-1 を改定すると表 2.5-1 のようになる.ここで,最近の技術開発によっ て適用性が拡大されたものを矢印で示す.また,表 2.5-1 に示した各種の養生方法を実用性か らさらに絞り込んだものを表 2.5-2 に示す. 表 2.5-1 コンクリートの養生方法 現場施工における適用性 水平面 鉛直面 流水中養生 △ △ 水中養生 湛水養生 ◎ × 濡れむしろまたは湿布養生 ◎ △→○1) 湿潤養生 湿砂養生 ○ × 噴霧養生 ○ △→○2) 散水養生 ○ △ ○ 封かん養生 ○ × 現場封かん養生 ◎→×3) 保水養生 ○ ○ シート養生 ○ ×→○4) 膜養生 注) ◎:適用性大,○:適用可,△:特別の場合適用可,×:適用不可 養生方法の分類 1):吸水性のマットを事前に吸水させて,これを型枠取りはずし面に巻き付けて湿潤養生する方法が提案されて いる(図 2.5-1). 2):型枠取りはずし後のコンクリート面に沿って多数の噴霧用ノズルを配置し,湿潤養生する方法が提案されて いる(図 2.5-2). 3):JASS5 ではコンクリート供試体の養生方法と定めている. 4):膜養生はブリーディング水がなくなった直後に散布するが,最近型枠を取りはずした面に塗布するタイプの 養生剤が市販されているおり,養生剤と改質剤に区分される(図 2.5-3). 20 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 図 2.5-1 吸水性マットを躯体に取り付けた養生[9] 図 2.5-2 噴霧養生装置の設置概要[10] 21 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 図 2.5-3 浸透性吸水防止材[11] 表 2.5-2 コンクリートの実用的な養生方法 養生方法の分類 湿潤養生 保水養生 水中養生 養生マット 噴霧養生 散水養生 シート養生 膜養生 湛水養生 現場施工における適用性 水平面 鉛直面 ◎ × ◎ ○ ○ ○ ○ △ ○ ○ ○ ○ 注) ◎:適用性大,○:適用可,△:特別の場合適用可,×:適用不可 22 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 2.6 基準類における定義と養生の分類 わが国のコンクリートに関する代表的な基準類として,土木学会コンクリート標準示方書施 工編2007年制定[12], 建築学会建築工事標準仕様書JASS5鉄筋コンクリート工事2009年[13], 建築学会暑中コンクリート施工指針・同解説[14]を,覆工コンクリートに関する基準として土 木学会トンネル標準示方書山岳工法・同解説[15]の記載内容から抜粋する. 2.6.1 土木学会コンクリート標準示方書[施工編]2007 年版[12] 同示方書では養生を用語の定義において以下のように定めている.養生を目的別に分類し, その目的を湿潤に保つこと,温度を制御すること,および有害な作用に対して保護すること, の 3 項目に分類している.以下に養生および湿潤養生の定義を示す.なお,それぞれの養生方 法をまとめたものが図 2.6-1 である. 8章 養 生 8.1 総 則 コンクリートの養生は,施工環境条件を考慮し,打込み後の一定期間は硬化に必要な温度および湿度に保ち,有害 な作用の影響を受けない方法を定め,コンクリートが所要の品質を確保できるように実施しなければならない. 8.2 湿潤養生 (1) コンクリートは,打込み後,硬化を始めるまで,日光の直射,風などによる水分の逸散を防がなければ ならない. (2) コンクリートの露出面は,表面を荒らさないで作業ができる程度に硬化した後,養生用マット,布等を 濡らしたもので覆うか,または散水,湛水を行い,湿潤状態に保たなければならない.湿潤状態に保つ養生期間 は,表 2.6-2 を標準とする. 表 2.6-2 湿潤養生期間の標準 混合セメント 早強ポルトランド 日平均気温 普通ポルトランドセメント B種 セメント 15℃以上 5日 7日 3日 10℃以上 7日 9日 4日 5℃以上 9日 12 日 5日 (3) 膜養生を行う場合には,使用する目的を明確にし,品質,効果および施工性が確認された膜養生剤を用 い,適切な時期に所定の使用量を均一に散布しなければならない. 水中 湛水 散水 湿布(養生マット、むしろ) 湿砂 膜養生 油脂系(溶剤型、乳剤型) 樹脂系(溶剤型、乳剤型) 温度を制御する マスコンクリート 湛水、パイプクーリング等 寒中コンクリート 断熱、給熱、蒸気、電熱等 暑中コンクリート 散水、日覆い等 促進養生 蒸気、給熱等 有害な作用に対し保護する 湿潤に保つ 養生の基本 図2.6-1 養生の基本 23 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 本示方書の最大の特徴は,湿潤養生の定義において「セメントの水和に必要な水を,打ち込 んだコンクリートから逸散させないだけでなく,必要量だけ確保するために行う養生である. 」 としていることである. ただし,養生対象がコンクリートの露出面のみを対象としており,型枠を用いる面について は,何ら解説していないのである. また, 湿潤に保つとしている養生方法のうち, 鉛直面に適用できる方法は膜養生のみであり, 必要量だけ確保するという湿潤養生の目的をこれでは達成できない.また,以下に示す事項に ついては明確にすべき項目も多く, 湿潤養生の定義と具体的な方法とに乖離があると思われる. ・ 型枠に接している面は湿潤養生とみなすのか ・ 型枠を取りはずした面をどのようにして湿潤養生を保つのか 2.6.2 日本建築学会建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリー ト工事 2009[13] JASS5 では養生について土木学会標準示方書と同様な記述があるが,本仕様書の特徴は,透 水性の小さいせき板によるコンクリートの被覆は,湿潤養生として明確に扱っていることであ る.JASS5 では湿潤養生を以下の 3 つに分類し,いずれの方法も湿潤養生として特に優劣を評 価していない. ① 水分を維持する方法 ② 水分を供給する方法 ③ 水分の逸散を防ぐ方法 また,表 2.6-3 に示すように湿潤養生期間をセメントの種類と計画供用期間の級によって設 定していることが他の基準類には見られない特徴である. さらに,土木学会標準示方書では示し得なかった試験によって養生期間を確認する方法につ いて,圧縮強度が所定の値に達した場合,養生を打ち切って良いとしている点である.本事項 に関する部分の抜粋を次ぎに示す. 24 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 8.2 湿 潤 養 生 a.打込み後のコンクリートは,透水性の小さいせき板による被覆,養生マットまたは水密シートによる被覆, 散水・噴霧,膜養生剤の塗布などにより湿潤養生を行う.その期間は,計画供用期間の級に応じて表 2.6-3 によるものとする. 表 2.6-3 湿潤養生期間 計画供用期間の級 セメントの種類 早強ポルトランドセメント 普通ポルトランドセメント 中庸熱および低熱ポルトランドセメント, 高炉セメントB種, フライアッシュセメントB種 短期 および 標準 3 日以上 5 日以上 長期 および 超長期 5 日以上 7 日以上 7 日以上 10 日以上 b.コンクリート部分の厚さが 18cm 以上の部材において,早強,普通および中庸熱ポルトランドセメントを用 いる場合は,上記a.の湿潤養生期間の終了以前であっても,コンクリートの圧縮強度(1)が,計画供用期間 の級が短期および標準の場合は 10N/mm2 以上,長期および超長期の場合は 15N/mm2 以上に達したことを 確認すれば,以降の湿潤養生を打ち切ることができる. [注](1) JASS 5 T-603(構造体コンクリートの強度推定のための圧縮強度試験方法)によって養生方法は,現場 水中養生または現場封かん養生とする. c.9.10 に定めるせき板の存置期間後,上記a.に示す日数またはb.に示す圧縮強度に達する前にせき板を取 りはずす場合は,その日数の間または所定の圧縮強度が発現するまで,コンクリートを散水・噴霧,その他 の方法によって湿潤に保たなければならない. d.気温が高い場合,風が強い場合または直射日光を受ける場合には,コンクリート面が乾燥することがないよ う養生を行う. 上記定義の解説の中でa)およびb)については,さらに以下の記述がある. a.打込み後のコンクリートは,透水性の小さいせき板で保護されている場合は,湿潤養生と考えてよ い.しかし,コンクリートの打込み上面などでコンクリート面が露出している場合,あるいは透水 性の大きい型枠を用いる場合には,日光の直射,風などにより乾燥しやすいので,初期の湿潤養生 が不可欠となる.湿潤養生には以下のような方法が有効である. (1)養生マットまたは水密シートなどで覆い,水分を維持する方法 (2)連続または断続的に散水または噴霧を行い,水分を供給する方法 (3)膜養生剤や浸透性の養生剤の塗布により,水分の逸散を防ぐ方法 b.せき板の存置期間および初期養生が構造体コンクリートの品質に及ぼす影響については,実験 的研究がある.湿潤養生期間を定めるに当っては,材齢よりもコンクリートの圧縮強度の発現に基 づくほうが妥当であるとの観点から,せき板脱型時強度を実験的に定めた. 以上により,計画供用期間の級が短期および標準の場合においては,構造体コンクリートの圧縮 強度が 10N/mm2 以上であれば,以降の湿潤養生を行わなくても所要の品質を確保できることにな る.長期および超長期の場合,脱型時強度を 15N/mm2 以上とすれば,せき板を材齢 7 日以前に取 りはずしてその後湿潤養生を行わなくても,7 日存置に対する 28 日強度比はほぼ 100%確保できる ことがわかる.このため長期および超長期の場合は,脱型時強度を 15N/mm2 以上とした. 25 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 2.6.3 日本建築学会暑中コンクリートの施工指針・同解説[14] 書中コンクリートの施工指針・同解説では第9章,第2節,養生手段の中で,養生方法の考 え方を以下のように定めている. ・ 養生は原則として外部から水を供給する給水養生によって行う. ・ 給水養生が実用的でない場合は,次善の策として吹付け養生剤,シート養生などの保水養 生を行う. 同解説の中にある図 2.6-2 は給水養生と保水養生を行った後,材齢 28 日の圧縮強度を測定し た結果をまとめたものである.給水養生である現場水中養生と保水養生である封かん養生を比 較してみると,封かん養生は保水を完璧に行なっても圧縮強度を得るための効果が少ないこと が明らかとなっている.また,封かん養生期間を長くすれば期間延長の効果も認められてくる が,水中養生したものの強度には及ばないことも分かる. このように,練混ぜ水を蒸発させないことを目的とした封かん養生などの保水養生よりも, 外部から水を供給することを目的とした水中養生などの給水養生が養生効果で優り,基本的に 重要であることがわかる. 図 2.6-2 養生方法が圧縮強度に及ぼす影響 また,同解説の中ではコンクリートの具体的な養生方法として以下の内容が記述されている. (1)水分の制御方法 1)給水養生 散水養生,湿砂養生,水張り養生(ponding) ,その他に最近では吸水性のスポンジ質の材料 と蒸発防止のシートを組み合わせた養生マットを使用した養生手段などがある.これらの養生 手段はいずれも外部から供給した水がコンクリートの蒸発面を常時濡れた状態に保つことを狙 ったものである.建設現場では乾燥の影響があるために,蒸発面を常時湿潤に保つための管理 は容易ではないが,そのための努力は必要である. 26 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 2)保水養生 コンクリートを不透水性のシートで覆ったり,コンクリート表面に内部水の蒸発を抑制する 皮膜を形成する養生剤を吹き付けるなどの方法がある.保水養生も建設現場でシートなどによ って蒸発を完全に防止することは不可能に近い.養生剤はコンクリートの全表面積に施工する ことは不可能ではないが,養生剤の被膜が完全に不透水性ではないために,全表面に施工でき たとしてもやはり不完全な養生手段である. (2)養生の開始時期 型枠に接している面は,型枠自体がかなりの蒸発抑制効果を持っているため,コンクリート 露出面に比較すれば養生条件は良好であり,封かん養生に相当する程度の養生条件が保たれて いるものと推定される.したがって,部材側面のせき板に接した面の養生は脱型後から直ちに 開始すれば良いものと判断される. ただし,せき板面では蒸発は抑制されるといっても外部からの給水はないため,いわば保水 養生の状態で養生されている.先述のように水セメント比が小さい場合には保水養生の効果は 少ないので,できれば材齢 1 日以前から給水養生を開始したいところである. (3)養生期間 養生期間は,原則として 5 日以上とし,せき板に接した面は,脱型までの期間をこの期間に含 めることができる. また,信頼できる資料に基づき,所定の品質が確保されることが確認された場合は,この期間 を短縮することができる.なお,養生終了後は,コンクリートが急激に乾燥しないような措置 を講じる. 以上,同解説の養生の考え方を紹介してきたが最大の特徴は,養生は原則として外部から水 を供給する給水養生によって行うとし,次善の策として保水養生を行うと明記していることで ある.その根拠として,現場水中養生と封かん養生を行った試験結果を引用し,水中養生の優 位性を確認した結果,土木学会や JASS5 では区別していない給水養生と保水養生を区分して 捉え,給水養生は重要であることを強調している. 養生の開始時期についても,露出面ではブリーディング終了時,せき板に接した面では脱型 直後から開始するとしている.同解説に記載されている内容から判断すると,型枠を用いた面 であっても,できるだけ早期に型枠を取りはずし,給水養生することが給水養生の効果をさら に高めることができることを示唆している. 養生期間についても原則 5 日以上とし,せき板に接した面は,脱型までの期間に含めること ができるとしている.給水養生期間を長くすると養生効果は高まるが日数の経過とともにその 程度が小さくなっていくとし,土木学会の示す湿潤養生期間の標準と同様な養生期間を提示し ている. 27 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 2.6.4 土木学会トンネル標準示方書[山岳工法]同解説 2006 年制定[15] トンネル標準示方書山岳工法・同解説から覆工コンクリートの型枠の取はずしおよび養生に 関する記述を抜粋して以下に示す. 第 127 条 型枠の取はずし 型枠は,打ち込んだコンクリートが必要な強度に達するまで取りはずしてはならない. 【解 説】 型枠の取はずし時期は,覆工の工程に大きく影響するが,早すぎる型枠の取はずしは, 覆工コンクリートにひび割れを発生させたり,妻部コンクリートに欠けを生じたり,表面仕上がり 不良等の有害な影響を及ぼすため,十分な検討が必要である.型枠は,少なくとも打ち込んだコン クリートの自重等に耐えられる強度に達した後でなければ取りはずしてはならない. 型枠を取りはずしてよい時期は,コンクリートの種類,トンネルの大きさ,形状,覆工巻厚およ び施工条件等によって異なるが,通常,コンクリート打込み後 12~20 時間で型枠を取りはずしてい る例が多い.また,取はずし時の強度は,円形アーチのトンネルでは,コンクリートの圧縮強度が 2 ~3N/㎜ 2 程度を目安としている場合が多い.この強度発現前に取りはずす場合や特殊形状のトン ネルでは,地山条件も含めた有限要素法や骨組み構造解析等で自重やその他の荷重によりコンクリ ートに発生する応力を推定し,この応力に対して十分な安全率を確保したコンクリート強度に達す る材齢を取はずし時期とする必要がある.型枠の取はずし時期を決定するコンクリートの材齢強度 は,養生条件(温度,湿度等)を現場条件と合わせた供試体により試験した強度としなければなら ない.トンネル貫通後や冬期間の施工で外気の影響を受ける場合は,型枠取はずしまでの養生方法, 骨材や練混ぜ水の温度,コンクリート配合の改善等を検討する. 第 133 条 覆工コンクリートの養生 覆工コンクリートは,打込み後,硬化に必要な温度および湿度を保ち,有害な作用の影響を受けないよう適切な 期間にわたり養生しなければならない. 【解 説】 打ち終わったコンクリートに十分な強度を発現させ,所要の耐久性,水密性等,品質 を確保するためには,打込み後一定期間中,コンクリートを適当な温度および湿度に保ち,かつ振 動や変形等の有害な作用の影響を受けないようにする必要がある.坑内は坑口付近を除いて温度が 安定しており,湿潤状態に保たれているので,一般には付加的な養生は行なわれていない.しかし, 坑内換気やトンネル貫通後の外気の通風の影響については注意が必要である. トンネルの環境条件によっては,夏期では坑内の湿度低下を抑制する坑内散水,冬期では温度低 下を抑制するシート養生,ジェットヒーターによる加熱,あるいはその組合せ等による養生を行う ことが望ましい.その場合は,急激な乾燥,温度変化を与えないように留意する必要がある.とく に,トンネル貫通後には通風等により温度,湿度が低下することがあるため,必要に応じてシート 等による通風の遮断や保温,ジェットヒーターによる加熱等,養生に適した坑内環境を確保する必 要がある.坑口付近は,外気の影響を受けやすいため,ここでの覆工は明かり構造物と同じように 養生を行うなどの配慮が必要である. トンネル覆工コンクリートは,コンクリート打込み後 15 時間前後で型枠が取り外されるた め,養生期間という意味では極めて不十分な条件下にある.ただし,坑内は坑口付近を除いて 温度が安定しており,湿潤状態に保たれているので,一般的には付加的な養生は行なわれてい ない.これはトンネル坑内が湿潤環境にあることが前提とされた場合である.しかし,近年の トンネル施工の急速化にともない,坑内換気が積極的に行なわれ養生環境は劣悪な状況下にあ る.なお,トンネル坑内における養生環境については第4章で詳細を論ずる. 28 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 2.7 まとめ (1)コンクリート施工技術の変遷と課題 コンクリート技術の変遷を振り返えると,大量施工,急速施工の社会的要求に従って,施工 機械が改善され,一定の目的を達成した感がある.コンクリートの製造,運搬,締固め,養生 といった各作業工程において前三者については著しい発展を遂げてきた.しかし,養生につい ては,戦後 70 年の歴史の中で目立った技術開発は行われていない.養生方法については,主 要な作業工程の一つではあるが,施工技術としての位置付けが難しく,ロボット化あるいは機 械化などの取り組み機会が少なかったことが分かった. (2)国内外の図書や基準類からみた規定の変遷と課題 歴史的図書では,養生の重要性が昭和 30 年代から訴えられてきた.養生の目的と方法につ いては現在と大きな差異はなく,逆に湿潤養生といってもコンクリートに外部から水分を供給 することの必要性が,強調される形で述べられている.しかし,最近ではコンクリートが硬化 する際,セメントの水和が完全に行われるために必要な水は練混ぜ水で十分である.ワーカビ リティーを確保するために,一般にはこれよりはるかに多い.したがって,フレッシュコンク リートに含まれる水量がそのまま保持されれば,コンクリートの硬化のために水を補給する必 要は全くない[16]との誤った認識が蔓延しているためか,封かん養生を湿潤養生とみなす傾向 が認められる.建築学会が許容しているように不透水性の型枠を存置した状態を湿潤状態と考 えることは大きな疑問である. わが国の規定の変遷を見ると,養生は大切だが施工性や経済性を重視してきた背景が窺い知 れる.また,土木学会コンクリート標準示方書は型枠を用いない露出面に対する養生を規定し ているものであり,型枠を用いる場合のコンクリート面については,一切記述していない.鉄 筋コンクリートの耐久性能はかぶりコンクリートの性能に大きく左右されることを考慮すると, 型枠を使用する面に対する規定の充実が望まれる. 養生WG[7]の意見として,達成目標は“強度なのか” , “耐久性なのか”とい問いかけがある が,標準的な湿潤養生期間が強度を達成するためなのか耐久性を確保するためなのか,あるい は双方を担保するためなのかを明瞭にしていくことが必要と考えられる.また,具体的な養生 の方法として“給水”が抜けている.湿潤養生とは外部から水分を供給することとの定義を明 確化させる活動が大切である.このためには,コンクリート標準示方書における養生対象を露 出面に限定するのではなく,早期脱型を含めた型枠使用面に対しても湿潤養生の考えを展開し ていくよう改訂することが望まれる.土木学会コンクリート委員会においても,コンクリート 構造物の表層コンクリートの品質が耐久性に大きな影響を及ぼすとして研究を進めている[17]. 29 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 (3)従来および最近の養生工法とその定義 従来の養生工法の一覧には,戦前から用いられてきた旧来の方法とその分類を述べた.これ らの方法のうち,現場で適用可能なものを選択し,水平面および鉛直面への適用性を再評価し たところ(表 2.5-1) ,実用的な養生方法としては,表 2.5-1 を見直し表 2.7-1 のとおり絞り込 むことができる.その結果,壁や柱などの鉛直部材に適用できる養生方法は存在するものの, その適用の目的は,コンクリートから水分を逸散させないことに制約され,また施工性に問題 があり実用化が難しいものが多い.このように,最近の技術を含めても,鉛直面に対する湿潤 養生方法は養生の効果の確実性,経済性,実用性の各面で不十分である.広範囲な壁面に対し て,給水できる方法の開発は,独自性の高い技術となることが期待できる. 表 2.7-1 コンクリートの実用的な養生方法 現場施工における適用性 養生方法の分類 水平面 鉛直面 ◎ × 養生マット 噴霧養生 散水養生 ◎ ○ ○ ○ ○ △ シート養生 膜養生 ○ ○ ○ ○ 水中養生 湿潤養生 保水養生 湛水養生 注) ◎:適用性大,○:適用可,△:特別の場合適用可,×:適用不可 (4)基準類における定義と養生の分類 歴史的図書およびわが国の代表的な基準類をもとに,養生方法および国内の基準類の養生に 対する分類を概観した.本研究では,現在現場で採用されている湿潤状態に保つための養生方 法を図 2.7-1 とおり区分することとする. 湿潤養生 (給水養生) 水中養生(湛水養生)※1 養生マット 噴霧養生 養 生 散水養生※2 シート養生、型枠養生 保水養生 膜養生(養生剤噴霧) ※1 水平面のみ適用可能、※2 鉛直面での施工は困難 図 2.7-1 現場で採用されている湿潤状態に保つためのコンクリート養生の区分 30 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 参考文献 [1] コンクリート診断技術 ’09[応用編],日本コンクリート工学協会,pp.130. [2] 建設ロボット・自動化技術便覧 1995,㈶先端建設技術センター,pp.5- 4~5-9. [3] コンクリート診断技術 ’09[応用編],日本コンクリート工学協会,pp.136. [4] 吉田徳次郎:第 3 次改著 鉄筋コンクリート設計法,養賢堂発行,1967,pp51-52. [5] 近藤泰夫訳:TVA編TVAのコンクリート(コンクリートの製造と管理),国民科学社,昭和 31 年 pp162-164. [6] 後藤幸正,尾坂芳夫監訳:ネビルのコンクリートの特性,技報堂出版株式会社,昭和 54 年, pp235-240. [7] 日本コンクリート工学協会:「コンクリート施工技術の基本に関する討論会」討論資料,平成 22 年 7 月 9 日,pp11-16. [8] 笠井芳夫編:コンクリート総覧,技術書院,9.コンクリートの養生,pp.353-366. [9] 戸田建設ホームページ:うるおんマット. [10] 宮沢他:コンクリートの垂直面に対する湿潤養生手法に関する検討,土木学会第 66 回年次学 術講演会 pp.555-556. [11] 旭化成ジオテックホームページ:マジカルリペア. [12] 土木学会コンクリート標準示方書[施工編]2007 年版. [13] 日本建築学会建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事 2009. [14] 日本建築学会暑中コンクリートの施工指針・同解説. [15] 土木学会トンネル標準示方書 山岳工法・同解説 2006 年制定. [16] 土木学会コンクリートライブラリー82:コンクリート構造物の耐久設計指針(案). [17] 土木学会コンクリート技術シリーズ:構造物表面のコンクリート品質と耐久性能検証システム研 究小委員会(335 委員会)成果報告書およびシンポジウム講演概要集. 31 第2章 コンクリート養生の変遷および定義 32 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 第3章 コンクリート養生における既往研究 3.1 はじめに コンクリート構造物の耐久性能は,鉄筋を保護するかぶりコンクリート,いわゆる表層コン クリートの性能に大きく依存することが多数報告されている. そのため,最近ではコンクリート構造物の耐久性に関する研究が,多方面で進められている. 特に表層コンクリートの品質評価に関する研究や,かぶりコンクリートの品質を向上する方法 が提案され実施されている.例えば,土木学会コンクリート委員会「構造物表層のコンクリー ト品質と耐久性検証システム研究小委員会(335 小委員会)」では,最終的な製品の耐久性を直 接的に検査することで,コンクリート構造物の耐久性確保を目指す取り組みが行われている. さらに 2005 年 9 月からの第一期および 2008 年度の「歴代構造物品質評価/品質検査制度研 究小委員会(216 委員会)」活動のもとに,2009 年 9 月から開始した第二期の活動では,表層コ ンクリートの品質情報に関する非破壊試験を核とした,竣工時の耐久性検査制度の具体的な提 案へ向け,関連する技術情報のとりまとめを行うとともに,検査制度の導入の意義や課題につ いての分析を行っている. また,実際の施工に近い養生期間で行なわれた各種実験では,水中,散水,噴霧,封かんな どの湿潤養生方法とコンクリートの品質向上効果は,水中養生が最も優れていることが共通の 研究成果として得られている.よって,型枠を使用する鉛直面に対して水中養生と同等の養生 効果,すなわち,コンクリート表面を液相の水膜で常に覆っておける給水養生方法の開発が必 要である. 本章では,コンクリート性能の指標としてよく用いられる強度発現性,物質移動抵抗性等, 耐久性に関する最近の取り組み事例を述べる. 33 第3章 コンクリート養生における既往研究 3.2 強度発現特性 3.2.1 圧縮強度 郭ら[1]は,水中,封かん,気中養生を行って材齢 28 日の総細孔量と圧縮強度の関係を示し, 細孔量と圧縮強度の間には逆比例の関係があることを確認している(図 3.2-1).強度はコンクリ ートの個体部分で発揮され,空隙は強度を損なう働きをする.荷重を作用させる時の応力集中 とそれに伴う局部破壊は,大きな毛細管空隙やマイクロクラックから始まる. 岡崎ら[2]は,図 3.2-2~3.2-3 に示すように,圧縮強度は水和率にほぼ一意に依存し,養生の 相違による影響を受けた空隙の連続性などの形態因子の相違には,ほとんど影響を受けないこ とを確認している. 喜多ら[3]は不十分な養生を行ったコンクリートを実環境に暴露し,材齢 1 年後のコンクリー トの強度及び物質透過性の変化について検討している.図 3.2-4 は,普通ポルトランドセメン トを用いた場合には,養生の差異により確認された材齢 28 日の圧縮強度の差異が暴露1年後 にはなくなっている.一方,高炉スラグを添加した供試体の強度比は,1年の暴露で大きくな ったものの,水中養生の同等の圧縮強度までは戻らなかった. 図 3.2-1 細孔構造と圧縮強度[1] 図 3.2-3 水和率一定下の養生と圧縮強度[2] 図 3.2-2 養生と圧縮強度[2] 34 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 図 3.2-4 同材齢の水中養生に対する圧縮強度比の推移[3] また,岡崎ら[2]は圧縮強度の深さ方向における強度分布を検討している.表層コンクリート の性能はあくまで表層付近が検討領域となるが,シリンダーを用いた圧縮強度試験は,供試体 全体の平均的な領域を検討している.浅野ら[4]は空隙構造から推定した強度変化を図 3.2-5 に 示している.また,岡崎ら[2]は,超微小硬度計を用い直接的にダイナミック硬さを求めた硬度 を図 3.2-6 に示している.いずれの結果でも,表層から約 5cm 程度まで乾燥の影響を受けてい ることから,シリンダー供試体表層の乾燥影響領域全体の平均的な特性を反映していると考え られる. 宮原ら[5]は,各種の養生を行った試験体から採取したコアの材齢 3 ケ月の圧縮強度を表 3.2-1 および図 3.2-7 に示し,いずれの養生方法も表層部の品質を向上させるものであり,コンクリ ート内部に品質も反映される圧縮強度までが大きく変化することはなかったとしている. 表層透気係数試験を竣工時品質の耐久性能検証システムの導入を視野に入れて,各種非破壊 試験方法の竣工検査への適用性について基礎実験的評価を実施した蔵重ら[6]の研究では,早期 脱型後,乾燥環境へ暴露されることで密度が低下するほど,圧縮強度及び静弾性係数とも小さ くなる傾向がみられ,若材齢時における供試体表面からの水分逸散が水和反応を阻害し,強度 低下を招くことが定量的に示されたとしている.また,テストハンマー試験は,プランジャー の打撃による反発度を評価する衝撃現象を対象としていることから,この圧縮強度よりも弾性 係数との相関が強いとし(図 3.2-8~3.2-10),両者の関係を整理すると強い正の相関が認められ ている. 養生方法の違いがコンクリートの圧縮強度に及ぼす影響を調べた白根ら[7]は,養生方法や湿 度によって圧縮強度に差が生じており,特に供試体サイズが小さいモルタルは,表面付近の水 分移動の影響を大きく受け,湿度 60%以下における圧縮強度は標準養生の 1/2 以下となってい る(図 3.2-11). 35 第3章 コンクリート養生における既往研究 図 3.2-6 ダイナミック硬さの分布[2] 図 3.2-5 圧縮強度の分布[4] 表 3.2-1 試験ケース[5] 図 3.2-7 圧縮強度の分布[5] 36 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 図 3.2-8 供試体の養生条件および測定項目[6] 図 3.2-9 基準反発度と弾性係数の関係[6] 図 3.2-10 圧縮強度の分布[6] 図 3.2-11 養生方法の違いと圧縮強度[7] 37 第3章 コンクリート養生における既往研究 3.2.2 反発度 野々目ら[8]は,十分に吸水させた湿潤養生マット,12 時間に 1 回の散水,養生なしの 3 種 類の方法で水セメント比=45,55,65%のコンクリートについて,材齢 5 日まで養生し反発度 の確認を行った(図 3.2-12) .その結果,湿潤養生マットを使用した場合,早期に反発度が高 くなるとともに,長期材齢においても他の養生方法に比べて 2~5%大きかったとしている. 脱型材齢や暴露環境を変えて試験した蔵重[6]らの報告では,基準反発度が小さいほど圧縮強 度も低くなること,気中あるいは湿空環境に暴露した供試体,特に早期に乾燥環境に暴露され た供試体では各種推定式よりも大きな強度を示した(図 3.2-13) .これは圧縮強度試験がφ10 ×20cm 供試体の平均的品質を評価しているものであるのに対し,テストハンマー試験であら れる基準反発度は脱型時期や暴露環境によって,より敏感に変化したコンクリート表層の品質 を捉えていることが理由としている. 養生条件と反発度の関係を調べた白根ら[7]は,湿度 40%を除き,圧縮強度との相関は認め られなかった.また,養生日数を変化させたケースでも圧縮強度に見られたような傾向は認め られなかった(図 3.2-14) . 図 3.2-12 リバウンドハンマーによる反発度[8] 図 3.2-14 養生条件と基準反発度の関係[7] 図 3.2-13 基準反発度と圧縮強度の関係[6] 38 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 3.2.3 質量変化 神田ら[9]は,夏期におけるコンクリート強度の低下現象の理由を解明するため,供試体の脱 型時のコンクリートの硬化状態の相違が,その後の水中養生によって必要とする水量の変化を 調べた.練混ぜ後からの経過時間に対する供試体の重量変化率を図 3.2-15,脱型時の強度,4 週強度および 4 週までの吸水による水量増加率を図 3.2-16 に示す.これらの実験結果から,以 下のように考察している. コンクリートの供試体中には,練混ぜあるいは成形時に生ずる気泡のほかに,成形時には水 で満たされているが,硬化の進行に伴ってやがて生じる空隙(例えば毛細管空隙やゲル空隙)が ある.成形時に水で満たされている水隙は,セメントの水和が進むにしたがい水が水和物に変 わる過程で,空隙に変化していく.浸水前に硬化が進み空隙が増加した供試体は,それを浸水 しても内部の空気と外部からの水とが入れ替わりにくい状態となっていることが考えられる. したがって,吸水過程には差が現れ,浸水前に硬化が進んだものほど水量増加率が少ないもの と思われる.これに反し硬化の進まない状態で浸水した供試体は,自己乾燥があまり進まない うちに外部から水が与えられるので,水和の進行に伴って生じる空隙に水を補給しやすい状態 にある.水和を有利に進行させるためには,空隙に水が満たされていることが理想であって, 自己乾燥を防ぐため外部から十分な水を供給することが,コンクリートの強度増進に役立つと されている. この考察に基づくと,型枠を取り除いてよい圧縮強度が得られた時点でなるべく早く型枠を 取り外して給水養生を始めることが,養生効果をさらに向上させるためには有効であることが 分かる. 図 3.2-15 練混ぜ後の経過時間に対する供試体の重量変化率[9] 39 第3章 コンクリート養生における既往研究 図 3.2-16 脱型時の強度,4 週強度および 4 週までの吸水による水量増加率 [9] 喜多ら[3]は図 3.2-17 に示すように,封かん養生した場合セメント種類や水セメント比に関 わらず水分が逸散しにくい養生となり,遮水性が高くなると報告している.特に養生による遮 水性の変化は高炉スラグ微粉末を混和した場合に顕著であった.これらは再水和によってコン クリートが緻密化したため,遮水性が高まったと思われる.喜多らの研究の範囲では,結合材 として普通ポルトランドセメントを使用した場合,初期の養生が不足した場合であっても,水 分が供試体に供給される条件であると圧縮強度及び遮水性はともに増加し,その要因は水分の 供給による再水和が示唆されている.しかし,外部からの水分の供給は深部ほど小さくなると 予想されること,本研究では供試体の断面積と暴露条件を考慮すると非常に水分供給性の高い 条件下で暴露されていたと判断され,すべてのコンクリート構造物において本研究と同様の結 果が得られるとは断定できず,初期養生の重要性を否定することはできない.特に結合材とし て高炉スラグ微粉末を用いた場合には,コンクリートの性能は初期の養生に大きく依存する結 果となり,初期養生の重要性が確認されたとしている. 松崎ら[10]は図 3.2-18~3.2-19 に示すように,封かん養生を 7 日まで行った供試体の深さ方 向の吸水性試験を実施している.吸水の範囲は,セメントの種類および水セメント比によらず 表層から 5cm 程度であることを確認している. 玉井ら[11]は,コンクリートは多孔質体であり内部に水分を保持する能力を持っているとし, 塩害や鉄筋腐食には水分が不可欠との判断から,水セメント比及び養生条件がコンクリート中 の含水状態の分布に与える影響に着目し,質量変化及び水分移動を検討している.水セメント 比が小さくなると密実性が高くなり,質量変化率は小さくなる(図 3.2-20).また,気中養生, 封かん養生,水中養生に順に質量変化率は小さくなっており(図 3.2-21),表層部の水和反応の 進行と関連している. 40 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 図 3.2-17 封かん保管と沖縄暴露の水分浸透深さ[3] 図 3.2-18 W/C と深さ方向の真空吸水面積率の関係 (N)[10] 図 3.2-19 W/C と深さ方向の真空吸水面積率の関 係(BB)[10] 図 3.2-20 各水セメント比と質量変化率の関係 [11] 図 3.2-21 各養生条件と質量変化率の関係[11] 41 第3章 コンクリート養生における既往研究 3.3 物質移動抵抗性 3.3.1 空隙構造 コンクリートの細孔構造は,圧縮強度,塩化物イオン浸透性,中性化進行速度,乾燥収縮等 の品質特性に影響を及ぼし,構造物の耐久性を支配する.また,このようにコンクリートの品 質,特に鉄筋を保護する役目が期待されるかぶりコンクリートの品質は,物質移動抵抗性の優 劣に関わっており,その特性がセメント硬化体中の空隙構造にあるとすれば,その構造を決定 する養生との関連をさらに詳しく研究し事例を集約することが重要である. 郭ら[1]は,水中養生期間ごとの細孔構造の変化を図 3.3-1 のように示している.各養生期間 とも深さ方向に違いは見られず,水中養生を行えば均質な細孔構造が形成されている.養生日 数の経過に伴い総細孔量は減少する.もともと水で占められていた毛細管空隙はセメントの水 和生成物で満たされることから,50nm 以上の細孔が減少し,50nm 以下の細孔が増加したと 言える. しかし, 100nm 以上の大きな細孔は水和の進行に関わらずあまり変化が認められない. 一方,養生方法に違いによる細孔構造を養生方法ごとに図 3.3-2 に示す.水中養生を行えば 深さ方向に均質な細孔構造が形成されるが,気中養生では,表面からの乾燥により,深さ方向 の不均質化が生じる.水和反応による細孔構造の主な変化は,結合剤の種類に関わらず,ほぼ 200nm(2μm)以下で生じ,200nm 以上の細孔量の減少はないとしている. コンクリートはいくら緻密であっても,内部には数多くの空隙からなる多孔体である.この 空隙は,湿潤養生期間中にエントレインドエア,あるいは水和により分断され閉鎖されている 空隙以外は水で飽和していると考えられ,大きく分けて,毛細管空隙中に存在する毛細管水, ゲル空隙中に存在するゲル水がある. 図 3.3-1 水和による細孔構造の変化[1] 図 3.3-2 養生方法の相違による細孔構造の変化[1] 42 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 コンクリートの水分の存在状態および経時変化は,セメントの水和反応に影響を及ぼし,コ ンクリートの耐久性を左右する重要な因子となる.空隙が水分で飽和されている間はセメント の水和が十分進行し,空隙も減少するが,空隙の水分が乾燥による蒸発,あるいは水分の供給 がない状態(例えば封かん養生)になるとセメントの水和は阻害されることになる.水分の存 在の有無,あるいは供給の有無により,配合から決まる細孔構造の基本骨格は,さらに大きく 変化することになる.なお,空隙中の水分は,供用環境下で必然的に乾燥によって逸散し,乾 燥収縮が生じることになる.乾燥による水分の逸散は環境湿度と平衡状態となるまで続き,毛 細管空隙は,炭酸ガス,塩化物,酸素等の劣化因子の浸透・移動・拡散経路として働き,その 働きは毛細管空隙中の水分の存在状態によって大きく支配される.特に,毛細管空隙が水分で 飽和されているとこれらの拡散は非常に遅くなる.この毛細管空隙が連結しないようにするこ とが物質移動抑制に重要である. 郭ら[12]は,水セメント比及び初期水中養生期間によるコンクリート中の水分の存在状態と その経時変化を検討しるために,長期間の乾燥収縮試験を行い,その質量変化から,コンクリ ート中の水分は結合水量,逸散水量,乾燥水和水量,残存水量に分けられるとし,その定量化 を図っている.ここで,4 つの水分を表 3.3-1 のように解説している.コンクリート中の水分 の存在状態を結合水量,逸散水量,乾燥水和水量,残存水量の 4 つに分けてそれぞれの量を求 めた結果を図 3.3-3 に示している.初期水中養生期間が長いほど,水和反応が進行して結合水 量は多く,乾燥水和水量は少なくなり,その結果,細孔構造は微細化して緻密な組織となり, その結果,水分の逸散が抑制されるために,残存水量は多くなる.水セメント比が高いほど, 結合水量は少なく,細孔組織がポーラスとなるため,逸散水量は多く残存水量は少なくなる. 表 3.3-1 コンクリート中の水分分類[12] 分 類 内 容 結合水量 セメントと結合した水量.結合水量が増えるほど,すなわち,水和が進むほど,総細孔 量は減少し,結合水量と総細孔量は水セメント比,水中養生期間に関わらず反比例の関 係が認められる. 逸散水量 環境湿度と平衡状態に至るまで蒸発する水分.逸散水は主に毛細管空隙中の水分である と考えられる.逸散水量は細孔構造と密接な関係があり,緻密なコンクリートほど逸散 しにくく,ポーラスなコンクリートほど逸散しやすい.水セメント比が小さいほど逸散 水量は少なくなる. 乾燥水和水量 残存水量 乾燥環境下の水和反応に使用されて結合水になる水分. 乾燥環境下で逸散せず,コンクリートの内部に残っている水分.ゲル空隙中の水分であ る. 43 第3章 コンクリート養生における既往研究 図 3.3-3 コンクリートの内部水分の存在形態および経時変化[12] 養生が強度に及ぼす影響に対し,耐久性に係わる物質移動抵抗性に及ぼす影響が相当に大き いことを明らかにした岡崎ら[2]の研究では,鉄筋コンクリート構造物の早期劣化問題は依然と して根絶されておらず,圧縮強度だけで耐久性を確認するためには,耐久性における強度と物 質移動抵抗性の等価性を確認する必要性があるとし,養生条件が強度と物質移動抵抗性に与え る影響感度を,圧縮強度,透気・吸水の各試験によって定量的に評価している. 水セメント比 60%で水和率をほぼ一致させた時点での気中養生と水中養生供試体の表層部 の累積細孔量分布と細孔径分布を図 3.3-4,図 3.3-5 に示す.水中養生供試体の空隙構造が相当 に緻密であることが分かる.同一の試料から切り分けられたサンプルであれば,生成された水 和物量はほぼ等しく,結果として空隙率もほぼ同様のはずである.それにもかかわらず,水中・ 気中という養生方法の相違によって,空隙組織形成,特に物質移動の経路となる連続空隙に対 応すると考えられる比較的大きな細孔径付近の空隙構造が大きく異なることが水銀圧入式ポロ シメータから確認された.物質移動抵抗性には,水和率や空隙率などの量的因子よりも,空隙 の連続性などの形態因子の方が支配的であると考えられた. 図 3.3-4 水和率一定下での累積細孔量分布[2] 図 3.2-5 水和率一定下での細孔径分布[2] 44 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 伊代田ら[13]は,普通ポルトランドセメントを用いたセメントペーストを試料として,水セ メント比(0.25,0.30,0.35,0.40,0.50)の試験体を 24 時間後に脱型し,連続水中養生した 場合と連続乾燥養生した場合の結合水量および細孔径分布を調べた.また,水セメント比を 0.35 一定とし,脱型時期(6 時間,12 時間,24 時間,5 日)と養生時の環境(真空,RH50%, 80%,100%,封かん,水中)とした場合の結合水量と細孔径分布を示した.連続的な水中養生 環境下では水和反応は促進するが,低水セメント比では内部水分不足を引き起こし,水分の供 給があるにもかかわらず水和停止する(図 3.3-6).一方,連続的な乾燥養生環境にある場合には, 水和反応は一時的に停止してしまう(図 3.3-7). 連続的な水中養生環境下では,水和の進行つまり材齢の経過とともに緻密化していく(図 3.3-8).一方,連続乾燥環境下では水和の停止とともに粗大空隙が残存したまま組織形成され る(図 3.3-9). 図 3.3-6 連続水中養生と結合水量[13] 図 3.3-7 連続乾燥養生と結合水量[13] 図 3.3-8 脱型材齢と水和挙動の相違[13] 図 3.3-9 養生時の環境と水和挙動の相違[13] 45 第3章 コンクリート養生における既往研究 排水・水中養生を考案した宮原ら[5]は水セメント比 56.5%のコンクリートに対して,標準養 生に対する空隙率の比を調査した.その結果を図 3.3-10 に示す(試験ケースは表 3.2-1 参照) . 空隙率をみると一見養生による差は小さいが,分布は大きく異なっている.養生の効果は特に 表面から 1~2 ㎝程度の比較的狭い範囲に現れていることがわかる.空隙分布の測定からは排 水・水中養生により空隙構造が緻密化することや,型枠存置やマット散水養生では標準養生相 当の効果を得るのが難しいとしている. 図 3.3-10 空隙率及び標準養生との比[5] 3.3.2 透水性 岡崎ら[2]は,気中・封かん・水中などの方法で養生したコンクリートの材齢一定(28 日)の吸水 係数について検討を行なった. なお, 時間の平方根と累積吸水量は原点を通る直線関係にあり, この直線の傾きを吸水係数と定義している.図 3.3-11 に水セメント比ごとに各養生方法による 吸水係数をまとめたもの示す.水セメント比 60%では,相違による最大値と最小値の差は約 80%となっているのに対し,水セメント比が 45%および 30%における差は約 30%程度と小さ くなっている.図 3.3-12 に各養生方法と吸水係数の関係を示す.いずれの水セメント比におい ても水中養生の方が吸水係数は小さくなっており,圧縮強度の差(図 3.2-3)に比べると養生 の影響は大きく,吸水性は強度よりも養生の良否の影響が大きいといえる. 宮沢ら[14]は,表 3.3-1 に示す養生方法にしたがって,水セメント比 52.4%の普通セメント を用いたコンクリートに対して得られた透水試験結果を示している(図 3.3-13) .表面からの 水分逸散を抑制する養生手法(湿空養生,ビニールシート養生,被膜養生剤塗布)よりも,コン クリートに水を供給する養生手法(水中養生,マット養生,噴霧養生)の方がコンクリート表層 部の緻密化及び表層品質向上への効果が大きいとしている. 46 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 図 3.3-11 材齢 28 日における吸水係数[2] 図 3.3-12 水和率一定下の吸水係数[2] 表 3.3-1 各種の養生方法[14] 図 3.3-13 透水量試験結果[14] 3.3.3 透気性 岡崎ら[2]は,水和率一定の条件下で,気中・封かん・水中などの方法で養生したコンクリート の材齢一定(28 日)の透気係数について検討を行なった.図 3.3-14 に示すように透気試験結果で は,各水セメント比とも,水中養生と気中養生の透気係数の差は 95%以上となった.このこと から透気性という観点から考える物質移動抵抗性についても,強度よりも養生の良否による影 響を受けやすいことが分かった. 47 第3章 コンクリート養生における既往研究 図 3.3-14 図 3.3-15 水和率一定下の透気係数[2] 材齢 28 日における透気係数[2] 宮沢ら[14]は,表 3.3-1 に示す養生方法にしたがって,水セメント比 52.4%の普通セメント を用いたコンクリートに対して得られた透気試験結果を示している.図 3.3-16 は,室内実験の 結果であるが,表面からの水分の逸散を抑制する方法は,水中養生や噴霧養生に比較して透気 係数が大きくなり,水を供給する養生方法の有効性を確認したとしている.また,マット養生 を鉛直面に適用する場合には,特に密着性に配慮する必要があることも示している. 図 3.3-17 は,ミスト養生を行った場合の透気係数測定結果であり,コンクリートの鉛直面に 対する湿潤養生として,脱型後から一定時間間隔で所定量のミストを噴霧する養生手法を適用 して十分な水を供給することにより,実大規模のコンクリート構造物に対しても表層品質を向 上させる効果が期待できる. 図 3.3-17 透気試験結果(実大実験)[14] 図 3.3-16 透気試験結果[14] 48 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 排水・水中養生工法について検討した宮原ら[5]の検討では,図 3.3-18 に示すように材齢1ヶ 月および 12 ヶ月における透気試験結果から,型枠存置(1-4)やマット散水養生(2-3)は表 面が緻密化しておらず透気係数が大きいことが分かる. 排水・水中養生は透水板も完全には平滑 でなく.それらで生じるわずかな凹凸が原因で空気が遺漏し,養生の効果が反映されなかった と推察している.このことは,養生水がコンクリート面に確実に付着していることの必要性を 示している 図 3.3-18 透気係数測定結果[5] 表層透気係数試験を竣工時品質の耐久性能検証システムの導入を視野に入れて,各種非破壊 試験方法の竣工検査への適用性について基礎実験的評価を実施した蔵重ら[6]の研究では,図 3.3-19 に示す方法で養生した供試体について表層透気係数を求めている.図 3.3-20 に示すよう に材齢 5 日で脱型し, 湿度の異なる 3 条件で養生した材齢 91 日の透気係数は同程度であった. 図 3.3-21 に示すように脱型材齢が 1,5,14 日とした場合には,1 日脱型の場合,透気係数は 1オーダー大きくなっている.また,図 3.3-22 に示すように 1 日で脱型し,暴露環境の湿度を 変えた実験では,湿空や水中の比較的水分供給が豊富な条件では材齢 5 日で脱型した供試体と 同等の表層透気係数が得られている.このことより,材齢がごく初期の脱型が必ずしも有害な わけではなく,脱型後のコンクリート中の水分の逸散防止対策,あるいは水分を十分に供給す るなどの養生を適切に行えば, 所要の表層透気係数が得られることが確かめられたとしている. 松崎ら[15]は,図 3.3-23~3.3-25 に示すように単位水量,水セメント比と 28 日間 3 つの方 法(気中・封かん・湛水)養生した供試体の透気試験を実施した.いずれの条件においても水セメ ント比の増加とともに,透気係数も増加している.これは,水セメント比が物質の移動経路で ある空隙構造に影響を与えているためと考えられる.つまり,水セメント比が増加するとセメ ント粒子相互の間隔が広がるため空隙径は大きくなり,コンクリート表層を覆うセメントペー ストの品質が低下することで直接的に透気性に影響を与えていると推察している.次に,養生 に関しては,湛水養生が低い透気性を示し,気中養生では透気性が高いことを示している.こ れは,養生の相違が水和反応の過程で空隙組織に影響を与えたと考えられる.つまり,湛水養 生ではセメント粒子に対して水が十分存在するため,配合に準じた粒子間隔を保ちながら水和 反応が進行したと考えられる.養生は,単位水量,水セメント比の相違によらず透気性への影 49 第3章 コンクリート養生における既往研究 響が大きいことを示した.水セメント比が透気係数に与える影響は養生条件によって大きく異 なる.このことから,養生が透気性に及ぼす影響は水セメント比が透気性に及ぼす影響より大 きいことを確認している. 図 3.3-19 供試体の養生条件及び測定項目[6] 図 3.3-22 暴露環境が表層透気係 数と電気抵抗率の関係[6] 図 3.3-21 脱型材齢が表層透気係 数と電気抵抗率の関係に及ぼす影 響[6] 図 3.3-23 透気係数 (気中養生)[15] 図 3.3-20 材齢 5 日に脱型した供試 体の表層透気係数と電気抵抗率の 関係[6] 図 3.3-24 透気係数 (封かん養生)[15] 50 図 3.3-25 透気係数 (湛水養生)[15] コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 白根ら[7]の報告では,水セメント比 55%のコンクリートについて,表 3.3-2 に示すように 湿度環境を変えた養生を主体にその影響を報告している.図 3.3-26~3.3-27 に,その結果を示 す.養生湿度が低いほど透気係数は大きくなり,養生期間が長いほど透気係数は低く,密実な コンクリートであることが推察される.また,透気係数と圧縮強度の関係を見ると両者は高い 相関性が認められ,透気試験がコンクリート表層部の品質を評価する指標として非常に有用で ある. 表 3.3-2 実験水準および養生サイクル[7] 図 3.3-27 透気係数と圧縮強度の関係[7] 図 3.3-26 養生条件と透気係数の関係材齢 56 日[7] 51 第3章 コンクリート養生における既往研究 3.3.4 塩化物イオン透過性 宮沢ら[14]のミスト噴霧による塩化物イオンの浸透試験では,図 3.3-28 に示すように噴霧養 生によって気乾養生と比べて塩化物イオンの浸透抵抗性が向上するとしている. 図 3.3-28 塩化物イオン浸透深さ試験結果(実大実験)[14] 3.3.5 凍結融解抵抗性 野々目ら[8]は,十分に吸水させた湿潤養生マット,12 時間に 1 回の散水,養生なしの 3 種 類の方法で水セメント比=45,55,65%のコンクリートについて,材齢 5 日まで養生した供試 体の凍結融解試験を行った.図 3.3-29 に示すように養生マットで養生した場合,相対動弾性係 数の変化はほとんどなく,散水養生,無養生では 25%程度低下した.また,合わせて質量減少 率にも養生の効果が現れている. 図 3.3-29 凍結融解試験結果[8] 52 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 吉田ら[16]は,水セメント比 50%の普通及び高炉Bセメントを用いたコンクリートの水中凍 結融解試験を行い,図 3.3-30 を得ている.なお,横軸の記号は「セメントの種類(N,B) ,養 生温度(5,20℃) ,養生の種類(水中 W,湿布 S) ,養生日数(5~28 日) 」を意味している. これにより,凍結融解抵抗性は,セメントの種類や養生条件によって異なるが,質量変化への 影響が大きいとしている. 図 3.3-30 水中凍結融解試験結果[16] 3.3.6 中性化抵抗性 図 3.3-31 に,郭ら[1]が行なった 40nm 以上の細孔量と促進中性化材齢4週,12 週,24 週, 48 週の試験結果を示す. なお, 凡例の記号は, セメントの種類 (普通ポルトランドセメント O) , 養生材齢(3,5,7,28) ,養生種類(水中 W,封かん S,気中 A)を意味している.これより, 中性化進行に支配的な影響を及ぼすのは,40nm 以上の細孔径であり,養生期間,養生方法な どの養生条件に係わらず,中性化深さは 40nm 以上の細孔量と直線関係にあるとし,養生条件 の相違の結果生じる細孔構造により,中性化進行速度が評価できる. 図 3.3-31 40nm 以上の細孔量と中性化深さ[1] 53 第3章 コンクリート養生における既往研究 排水・水中養生の効果を確認した宮原ら[5]の中性化深さに関する実験結果を図 3.3-32 では, 型枠存置(1-4)やマット散水養生(2-3)の中性化深さは,標準養生に比べて最大で 34%大き くなっている. 脱型材齢と暴露環境を変えた蔵重ら[6]の研究では,図 3.3-33 に示すように湿空 1-H(98% 以上)および水中 1-W では中性化速度が小さく,1日脱型後 60%に放置した 1-6 では深くま で中性化している. 養生条件と促進中性化深さを調べた白根ら[7]は,図 3.3-34 に示すように湿度 60%以下で養 生した場合の中性化の進行が早く, 標準養生の約 3 倍の中性化深さとなったとしている. また, 初期養生期間の影響も顕著で,養生期間が長いほど中性化深さは小さくなる傾向を示した. 養生方法及び養生期間が中性化速度に及ぼす影響を調査した豊村ら[17]の試験結果では,図 3.3-35~3.3-36 に示すようにセメントの種類によらず水セメント比の増加に伴い中性化深さは 増加し,高炉セメントの方が敏感である.また,中性化深さは,気中,封かん,水中養生の順 に大きく,傾きはほぼ同等である.つまり,養生方法により表層からの乾燥する領域が異なり, 初期の中性化深さは異なるが,その後の挙動は水セメント比に依存すると考えられる. 図 3.3-32 中性化深さ及び標準養生に対する比 [5] 図 3.3-33 40nm 以上の細孔量と 中性化深さ[6] 図 3.3-34 養生条件と中性化深さの関係[7] 54 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 図 3.3-35 水セメント比と中性化深さの関係 [17] 図 3.3-36 養生方法と中性化深さの関係 [17] 3.3.7 乾燥収縮 ミストを噴霧養生する効果を確認した宮沢ら[14]の実験結果において,室内試験及び実大試 験とも,気乾養生に比べて噴霧養生の場合には乾燥収縮量は少なくなっている.ただし,乾燥 試験期間が途中であり.データが収束していないことから,データが収束して安定化した時点 での確認が必要と考えられる.試験結果を図 3.3-37~3.3-38 に示す. 図 3.3-38 長さ変化試験結果(実大実験)[14] 図 3.3-37 長さ変化試験結果(室内実験)[14] 55 第3章 コンクリート養生における既往研究 初期養生とその後の周囲環境の変化が乾燥収縮量に及ぼす影響を検討した伊予田ら[18]の実 験では,養生方法を図 3.3-39 のとおり,1 週間までの養生環境を変化させ,その後は乾燥およ び水中と湿度 45%の乾燥とを繰り返す養生を 90 日まで継続している. 図 3.3-40 に示すように一定環境(W-D,wet-D,S-D,A-D)に暴露した試験体では,乾燥 収縮量は初期養生の影響を大きく受け,普通セメントでは暴露環境に入るとほぼ同一挙動を示 すが,高炉B種セメントでは初期の養生の影響を受けている.水中養生したものは水和ととも に空隙を緻密化し水分の逸散を抑制している.乾湿繰返しを行った結果は初期養生の相違が乾 燥収縮量に与える影響はあまり見られなかった.材齢初期からの急激な乾燥で水和を停止した セメント粒子が乾湿繰返し作用により供給された水分により再び水和が進行したものと考えた. 図 3.3-41 に,乾燥収縮量と試験体の質量変化から求めた水分逸散率の関係を示す.気中養生 Aの試験体は,脱型直後(1 日後)を起点としている.暴露直後に急激水分が逸散しているが,収 縮に起因していないことが分かる.一方,A-WD のように乾湿繰返し作用を施すことでセメン トの再水和に伴い,他の養生を施した試験体とほぼ同様な挙動を示すことが分かった. 図 3.3-42 に内部湿度と乾燥収縮量の関係を示す.いずれのセメントでも内部湿度の低下に伴 い乾燥収縮量が増大している. 図 3.3-39 養生とその後の変化[18] 56 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 図 3.3-40 乾燥収縮の経時変化[18] 図 3.3-41 水分逸散率と乾燥収縮の関係[18] 図 3.3-42 内部湿度と乾燥収縮の関係[18] 57 第3章 コンクリート養生における既往研究 養生条件の違いがコンクリートの長さ変化の推移に与える影響を調べた白根ら[7]は,図 3.3-43 に示すように所定の養生期間中は,湿度が低いほど長さ変化量は大きくなっている.ひ び割れ抵抗性が低い初期材齢時には養生環境をコントロールし,急激な湿度変化を与えないよ う配慮する必要性を認めているが,実施工でのコントロールは難しい.また,材齢 34 日から 3 つの供試体をすべて湿度 60%で養生すると,長期ひずみは最初から湿度 60%で養生したケー スと同等となった.したがって,コンクリートの最終ひずみは乾燥履歴の影響をほとんど受け ないと考えられる. 図 3.3-43 養生条件の違いによる長さ変化推移[7] 3.4 まとめ (1)強度発現特性 1)圧縮強度 細孔量と圧縮強度の間には逆比例の関係があることを確認した.圧縮強度は,水和率にほぼ 一意に依存し,養生の相違による影響を受けた空隙の連続性などの形態因子の相違には,ほと んど影響を受けないことが分かった.圧縮強度の深さ方向における強度分布は,表層から約 5cm 程度まで影響を受けることも分かった. 2)反発度 湿潤養生を行なった場合,反発度は早期に高くなるだけでなく,長期材齢においても他の養 生方法に比べて大きくなる.また,反発度が小さいほど圧縮強度も低くなること,気中あるい は湿空環境に暴露した供試体,特に早期に乾燥環境に暴露されたものは,各種推定式よりも大 きな圧縮強度を示すことが分かった.これは圧縮強度試験が供試体の平均的品質を評価してい るものであるのに対し,テストハンマー試験で得られる基準反発度は脱型時期や暴露環境によ って,より敏感に変化したコンクリート表層の品質を捉えていることが理由である. 58 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 3)質量変化 ごく初期で硬化の進まない状態で浸水した供試体は,自己乾燥があまり進まないうちに外部 から水が与えられるので,水和の進行に伴って生じる空隙に水を補給しやすい状態にある. 水和を有利に進行させるためには,空隙に水が満たされていることが理想であって,自己乾 燥を防ぐため外部から十分な水を供給することが,コンクリートの強度増進に役立つ. (2)物質移動抵抗性 1)空隙構造 生成された水和物量がほぼ等しく,結果として空隙率もほぼ同様のはずであるにもかかわら ず,水中・気中という養生方法の相違によって,空隙組織の形成状況が異なることが分かった. 特に物質移動の経路となる連続空隙に対応する比較的大きな細孔径の空隙構造が大きく異なる. 物質移動抵抗性は,水和率や空隙率などの量的因子よりも,空隙の連続性などの形態因子の方 が支配的である.また,養生の効果については,初期水中養生期間が長いほど,水和反応が進 行して結合水量は多く,乾燥水和水量は少なくなり,その結果,細孔構造は微細化して緻密な 組織となり,その結果,水分の逸散が抑制される. 連続的な水中養生環境下では水和の進行つまり材齢の経過とともに緻密化していく.一方, 連続乾燥環境下では水和の停止とともに粗大空隙が残存したまま組織形成される.コンクリー トのように,表層コンクリートの空隙構造を緻密化するためには,硬化の初期に水分を十分供 給することが重要であることが空隙構造に関する試験の結果,明らかとなった. 2)透水性 普通セメントを用いたコンクリートに対して得られた透水試験結果では,表面からの水分逸 散を抑制する養生手法よりも,コンクリートに水を供給する養生手法の方がコンクリート表層 部の緻密化及び表層品質向上への効果が大きいことが分かった.また,気中・封かん・水中な どの方法で養生したコンクリートの透水係数は,強度よりも養生の良否の影響が大きい.よっ て,透水係数についても水分を供給する養生の効果が大きいと言える. 3)透気性 透気試験で水中養生と気中養生の透気係数の差は 95%以上となったことから,透気性という 観点から考える物質移動抵抗性についても,強度よりも養生の良否による影響を受けやすいこ とが分かった. また,普通セメントを用いたコンクリートに対して得られた透気試験結果では,保水養生は 給水養生に比較して透気係数が大きくなり, 水を供給する養生方法の有効性を確認した. また, マット養生を鉛直面に適用する場合には,特に密着性に配慮する必要も分かった.ミスト養生 を行った場合の透気試験結果では,コンクリートの鉛直面に対する湿潤養生として,脱型後か ら一定時間間隔で所定量のミストを噴霧する養生手法を適用することで,実大規模のコンクリ 59 第3章 コンクリート養生における既往研究 ート構造物に対しても表層品質を向上させる効果が期待できる. 排水・水中養生工法を採用した実験では, 型枠存置やマット散水養生では表面が緻密化せず透 気係数が大きい.この理由として,排水・水中養生は透水板も完全に平滑でなく,それらで生じ るわずかな凹凸が原因で空気が遺漏し,養生の効果が低下したことがあげられる.これは,養 生水がコンクリート面に確実に付着していることの必要性を示している. 4)塩化物イオン透過性 ミスト噴霧による塩化物イオンの浸透試験では,噴霧養生によって気乾養生と比べて塩化物 イオンの浸透抵抗性が向上する. 5)凍結融解抵抗性 湿潤養生マットで養生した場合,相対動弾性係数の変化はほとんどなく,散水養生,無養生 では相対動弾性係数は低下する.質量減少率についても同様なことが言える. 6)中性化抵抗性 中性化の進行に支配的な影響を及ぼすのは,40nm 以上の細孔径であり,養生期間,養生方 法などの養生条件に係わらず,中性化深さは 40nm 以上の細孔量と直線関係にある.型枠存置 やマット散水養生の中性化深さは,標準養生に比べて最大で 34%大きい.水中養生を行ったケ ースの方が中性化深さは小さくなることが分かった. 7)乾燥収縮 乾燥収縮量は,普通セメントでは暴露環境に入るとほぼ同一挙動を示すが,高炉B種セメン トでは初期の養生の影響を受ける.しかし,材齢初期からの急激な乾燥で水和を停止したセメ ントであっても,乾湿繰返し作用により水分が供給されると再び水和が進行し,初期養生の相 違が乾燥収縮量に与える影響は小さくなることが分かった. 60 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 参考文献 [1] 郭度連,宇治公隆,國分勝郎,上野敦:養生条件によるコンクリートの組織変化と中性化を支配 する細孔径の評価,土木学会論文集 No.718/Ⅴ-57,59-68,2002,11. [2] 岡崎慎一郎,八木翼,岸利治,矢島哲司:養生が強度と物質移動抵抗性に及ぼす影響感度の相 違に関する研究,Cement Science and Concrete Technology,No.60,2006,pp,227-234. [3] 喜多雄士,西博貴,皆川浩,久田真:養生が異なるコンクリートの材齢 1 年後書物性の変化,コン クリート工学年次論文集,Vol.33,No.1,2011,pp.617-622. [4] 浅野昇,笠井芳夫,松井勇:構造体コンクリートの表層から内部に到る圧縮強度分布,セメント・コ ンクリート論文集,No.51,pp.840-845,1997. [5] 宮原茂禎,丸屋剛,岸利治:排水・水中養生したコンクリートの耐久性評価,コンクリート工学年次 論文集,Vol.33,No.1,2011,pp.767-772. [6] 蔵重勲,廣永道彦:脱型材齢や暴露環境がコンクリートの強度特性や表層透気性ならびに中 性化抵抗性に及ぼす影響の実験的評価,コンクリート工学年次論文 集,Vol.32,No.1,2010,pp.623-628. [7] 白根勇二,舟橋政司,松尾健二:施工条件や養生条件がコンクリート表層部の品質に及ぼす影 響,コンクリート工学年次論文集,Vol.32,No.1,2010,pp.1313-1318. [8] 野々目洋,権代由範,藤井真之,菅原隆:湿潤養生マットによるコンクリート組織の緻密化と耐久 性の向上に関する基礎的検討,コンクリート工学論文集,第20 巻第1 号2009 年1 月,pp.23-32. [9] 神田衛,鈴木脩,石渡章介:夏期におけるコンクリート強度の低下現象に関する一考察,コンクリ ート・ジャーナル,Vol.8,No.11,Nov,1970,pp.12-19. [10] 松﨑ら:養生期間がコンクリート表層から深さ方向への吸水性に与える影響,土木学会第 65 回 年次学術講演会(平成 22 年 9 月),pp.1159-1160. [11] 玉井譲,上田洋:水セメント比及び養生条件がコンクリート内部の含水状態に与える影響,土木 学会第 66 回年次学術講演会(平成 23 年度),pp.561-562. [12] 郭度連,國分勝郎,宇治公隆:コンクリートの乾燥下における水分の存在状態および経時変化, コンクリート工学論文集,第 16 巻第 3 号 2005 年 9 月,pp.1-10. [13] 伊代田岳史,魚本健人:若材齢における乾燥がセメント硬化体の内部組織構造に及ぼす影響, 土木学会論文集 No.732/Ⅴ-59,17-25,2003,5. [14] 宮沢昭良,田中秀周,村松道雄,羽渕貴士:コンクリート構造物の垂直面に適用する噴霧養生手 法の検討,コンクリート工学年次論文集,Vol.33,No.1,2011,pp.1391-1396. [15] 松﨑晋一朗,吉田亮,岸利治:単位水量と水セメント比がコンクリート表層の透気性に及ぼす影 響とその養生依存性,コンクリート工学年次論文集,Vol.31,No.1,2009,pp.757-762. [16] 吉田行,田口史雄:養生条件がコンクリートの凍結融解抵抗性に及ぼす影響意について,土木 学会第 66 回年次学術講演会(平成 23 年度),pp.133-134. 61 第3章 コンクリート養生における既往研究 [17] 豊村恵理,松﨑普一郎,伊代田岳史:養生方法及びその期間を考慮した中性化速度式に関す る一検討,土木学会第 66 回年次学術講演会(平成 23 年度),pp.567-568. [18] 伊与田岳史,松崎晋一朗,井ノ口公寛,歌川紀之:養生とその後の環境による内部湿度の相違 が乾燥収縮に与える影響,コンクリート工学年次論文集, Vol.32, No.1, 2010, pp.425-430. 62 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 4.1 はじめに 覆工は,道路,鉄道および水路等の使用目的や条件に応じてトンネルの機能を長期間にわた り維持するための重要な構造物である.覆工の役割・機能の考え方は,トンネルの使用目的, 使用条件によって異なることから,本研究では既往文献を調査し,これらの考え方を述べる. NATMによるトンネル覆工コンクリートに関しては,それ以前の工法であった矢板工法の 覆工コンクリートと比較して,一般地山では覆工コンクリートの力学的機能が不要となったこ とや,コンクリートポンプなどの施工機械の性能向上と相まって,NATMにおける覆工コン クリートの品質は格段に向上したという認識が強くなっている.しかし,実際の施工方法の現 状を鑑みると覆工コンクリートの施工方法は,コンクリートの品質に関して必ずしも適切であ るとは限らない.むしろ早期の型枠取りはずしと,十分とは言えない養生などを考慮すれば, 良いコンクリートが施工されているとは言い難い.それを裏付けるように 1999 年以降,覆工 コンクリートの剥落事故が発生し,覆工コンクリート構造物の安全神話が崩れコンクリートに 対する信頼性が大きく損なわれた. 本章では,覆工コンクリートの役割・機能および設計思想の変遷や施工方法を調査し,覆工 コンクリートの養生工法について述べる.そして,現場で最もなおざりになっている養生方法 の課題と湿潤養生を適切に実施した場合の養生効果について考察する. なお,海外からNATMが導入される 1970 年代後半までは,わが国のトンネルには,矢板 工法が標準工法として採用されていた.しかし,以降はNATMの施工事例が多くなり,現在 ではNATMが標準工法となっている.NATMと矢板工法では覆工の役割・機能も異なるこ となるが,本検討では現在標準工法となっているNATMについて述べる. 63 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 4.2 覆工の役割・機能および設計思想の変遷 4.2.1 役割および機能 トンネル標準示方書[1],山岳トンネル覆工の現状と対策[2]で示されている覆工の役割・機能 では, 「トンネル覆工は,道路,鉄道,および水路等の使用目的,使用の条件等に適合した設計 を行わなければならない」とされ,覆工の役割および機能を以下のように述べている. NATMのトンネルにおける支保工の役割は,吹付けコンクリート,ロックボルト,鋼製支 保工等の支保部材によってトンネル周辺地山の安定を確保し,トンネルの安定が保つことであ る.この場合,覆工には力学的機能は付加されずに供用性に関する機能,将来的な不確定要素 に対して備える機能が求められる. しかし,小土被り,断層破砕帯,膨張性地山,都市部のトンネルなどの特殊な地山条件にお いては,これに加えて支保工を補完する力学的な機能も求められる場合もある. 力学的機能を付加させる場合は,次のような場合である. ① 土圧・水圧が作用すると考えられる場合 ② 交通振動や将来,切土盛土等環境条件の変化による付加荷重等の外力が作用する場合 ③ 膨張性地山のように,地山変形の収束前に覆工を打設せざるを得ない場合 ④ 双設トンネルや近接施工が計画されている場合 山岳トンネル工法における覆工の役割・機能をトンネルの用途別に表 4.2-1 に示す[2].設計 の考え方については,矢板工法では崩落岩塊や土砂は矢板で支え,作用する地山荷重は支保工 と覆工コンクリートで支保するが,NATMでは支保工がトンネル周辺地山と一体となって作 用し,地山の支保機能を有効に活用しながら地山の安定を図る思想となっている.そのため, NATMでは覆工コンクリートは,特殊地山を除く安定した地山において力学的機能を付加し ない薄肉構造となる.しかし,表 4.2-1 の不確定要素に関する機能に示されるように,支保部 材の支保能力が発揮できなくなった際,その機能を補うことを期待する余力保持機能が含まれ ている. 64 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 表 4.2-1 覆工が果たしうる役割・機能[2] 主な用途 覆工の機能 内空断面の 保持機能 ◎ ◎ ◎ ◎ 必要な内空断面を確保する。 防水機能 高い防水性を確保することで、漏水落下による視野障害、路面 の摩擦抵抗の急激な変化、寒冷地におけるつらら・氷結・路面 ◎ ◎ ○ ◎ 凍結、側壁の汚れによる快適性の低下、坑内諸設備の絶縁不 良・腐食などを防止する。水路トンネルの場合は内外の水の流 通を防止する。 供 用 性 に 耐火機能 関 す る 保守管理 機 機 能 能 ◎ △ 火災中の高温による地山や支保の著しい損傷を防ぎ、トンネル 崩壊を起こさない。また、火災終了後にわずかな補修補強に よって再使用できる。 ◎ ◎ ○ 覆工表面を目視観察しやすく保つことで、供用中のトンネル変 状の徴候を早期に発見する。水路の場合、維持管理を容易に する ◎ △ 内装工を設置し側壁の輝度を高く保つことで、前方の障害物の 視認性向上、心理的圧迫感の軽減を図る。また、換気において は、通気抵抗を小さく抑え効率を上げる。 トンネル内施 設の保持機 ◎ ◎ 能 照明・換気・非常用などの諸設備、およびこれらを機能させるた めの電力・信号ケーブル類の取り付け性を確保する。 内装機能 不 確 定 要 素 に 関 す る 機 能 概 要 と う 路 道 路 洞 道 鉄 水 備 考 余力保持 機 能 支保工の品質の不均一性や経時劣化、地山の経時劣化や緩 み、あるいは異常降雨に起因する水圧上昇など将来の不確定 ○ ○ ○ ○ な要因により覆工に追加の荷重が作用することを想定して、荷 重に耐えうる余力を保持する。また、あらかじめ想定することが 難しい地震等の荷重に対しても余力を保持する機能を有する。 変形性能 保持機能 破壊に至るまでの変形が大きく、覆工構造の崩壊が一気に進 ○ ○ ○ ○ 展しない。また、あらかじめ想定することが難しい地震等の荷重 が作用した場合についても変形保持機能を有する。 構造的 安定機能 インバートや梁盤コンクリートを設置することで、側圧の増大、偏 ○ ○ ○ ○ 圧の作用、覆工脚部の支持力不足に対する構造的安全性を確 地山劣化防止 保する。 力 付加外力の 学 支持機能 的 な 機 能 支保工の 補完機能 都市部のトンネ 覆工施工後の水圧の回復、切土・盛土・双設トンネル・近接施 ルや土被りの薄 工などの予め判明している要因により土圧や水圧が変化し、外 い土砂トンネル ○ ○ ○ ○ 力が作用する場合に、これを支持する。内水圧、外水圧、グラウ (特殊地山) ト注入圧について構造物としての安定性を保持する。地震荷重 また、圧力トン を載荷して検討する場合に地震時の安定性を保持する。 ネルなど 膨張性地山な トンネルの変形が収束しない状態で覆工を施工し、支保工に追 ど変位や荷重 ○ ○ ○ ○ 加してトンネルの安定に必要な拘束力を与える。 の大きい地山 (特殊地山) 凡例:◎:重要度の高い役割・機能、 ○:一般的に必要な役割・機能、 △:場合により必要な役割・機能 65 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 4.2.2 覆工の設計思想の変遷 山岳工法は山岳部にトンネルを施工する際,主に使用される施工方法である.日本において 本工法による本格的な施工が行われたのは,明治初期の東海道本線逢坂山トンネルが最初であ る.当時の覆工は,煉瓦が採用され支保工は木製である.その後,大正期にコンクリートが急 速に普及したことから,覆工の材料は煉瓦からコンクリートブロックへと移行している.さら に,昭和に入ると現場練りコンクリートプラントの採用により,現場打ちコンクリートが主流 となった.その後,1950 年代に入り,コンクリートポンプの普及に呼応してコンクリートポン プによる打込が一般的となり現在に至っている.また,覆工コンクリートの締固めにバイブレ ータが使用され始めたのは, 1935 年頃の信濃川発電工事との説もあるが定かではない. しかし, 1940 年頃の関門トンネル工事で使用されている記録があることを勘案すれば,1935 年頃から 使用され始めたものと推定される.1950 年頃から混和剤の採用が一般的になったこともあり, 覆工コンクリートの水セメント比やワーカビリティーの管理が注目されるようになっている. その後のコンクリート施工においては更なる機械化もあり, 1960 年頃にはほとんど土木学会制 定のコンクリート標準示方書と同様な管理を行うようになっている. 山岳工法の標準工法として採用されているNATMでは,矢板工法と比較して上述した因子 (以下の①~④参照)が有利に働き覆工コンクリートの品質が向上した.これにより覆工厚さ も軽減されてきている.覆工コンクリートの設計厚さと圧縮強度の変遷について,土木学会制 定のトンネル標準示方書より抜粋したものを表 4.2-2 に示す. ① 一般地山では覆工コンクリートの力学的機能が不要 ② アーチ部と側壁部の施工目地が解消された上に防水性も向上 ③ コンクリートポンプの施工機械の性能向上 ④ 混和剤の一般的な採用 表 4.2-2 覆工コンクリートの設計厚および圧縮強度の変遷 トンネル標準示方書(土木学会) 時期 1955 年頃 1965 年頃 制定年月 覆工設計厚 圧縮強度σ28 (N/㎜ 2) - - 14 昭和 39 年 8 月(1964 年) 昭和 44 年 11 月(1969 年) 1975 年頃 昭和 52 年 1 月(1977 年) 昭和 61 年 11 月(1986 年) 内空断面幅 2m:20~30cm 5m:30~50cm 10m:40~70cm 内空断面幅 3m:20~30cm 5m:30~50cm 10m:40~70cm 内空断面の大きさに応じて 20~40cm 平成 8 年 5 月(1996 年) 66 16 18 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 4.3 覆工コンクリートの施工方法 4.3.1 覆工コンクリート配合設計と仕様 日本鉄道建設業協会(以下鉄建協)では,山岳トンネルの覆工コンクリートの配合に関する 各発注者の基準を整理している[3].この中から主要な事項について抜粋し,まとめたものを表 4.3-1 に示す.なお,ここで言う発注者とは国土交通省,鉄道運輸機構(旧国鉄,JR 東日本を 含む,以下 JRTT) ,各高速道路会社(旧日本道路公団,以下 NEXCO)であり,土木学会[1], 日本道路協会[4]および日本トンネル技術協会(以下 JTA)[5]の推奨値も参考として示す. 表 4.3-1 覆工コンクリート配合に関する基準 項 目 セメントの種類 設計基準強度 粗骨材の最大寸法 特 徴 普通ポルトランドセメントまたは高炉セメントB種としている. 無筋コンクリートは 18N/mm2,鉄筋コンクリートは 21 または 24N/mm2 となっている. 無筋コンクリートは,土木学会および日本トンネル技術協会の推奨値が 20~25mm と併記されている以外は,すべて 40mm である. 鉄筋コンクリートはすべて 20~25mm である. スランプ 土木学会および日本トンネル技術協会の 18cm 以下という以外は,すべて 15cm とな っている.国土交通省も平成 15 年 11 月の改訂で,12cm から 15cm となっている. 空気量 規格がある場合は,4.0 または 4.5%である.4%は,比較的古い時期に制定され た基準と考えられる. 単位水量 上限値は,無筋コンクリートで 165kg/m3,鉄筋コンクリートで 175 kg/m3 と指定 されている. 単位セメント量 水セメント比 下限値は,NEXCO,国土交通省で 270kg/m3 と指定されている. 上限値は,無筋コンクリートにおいては,指定されている場合は,60%が多い.鉄 筋コンクリートについては,JRTTが定めており普通で 55%,高炉で 53%,さ らに寒冷地の坑口から 200mは,普通で 53%,高炉で 50%の指定されている. 4.3.2 打設時期および打設方法 NATMでは支保工によってトンネルを安定させ,変形が収束した後に力学的機能を付加さ せないで覆工コンクリートを施工することを原則としている.しかし,膨張性地山のようにト ンネルの変形が長時間漸増してトンネルの安全性が損なわれる問題が生じる場合には,支保工 の補強やインバートコンクリートによる断面閉合など適切な処置をした上で,変形が収束する 前に①~③に示すような対策を行う場合がある.なお,覆工コンクリートの施工は,全断面の 掘削が完了した後にアーチ部のコンクリートを全断面打設で行うのが一般的である. 67 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 ① 高強度コンクリートの採用 ② 鉄筋コンクリートの採用 ③ 鋼繊維補強コンクリートの採用 4.3.3 防水工 防水工は,覆工の水密性の確保と背面拘束によるコンクリートのひび割れを抑制する目的で, 吹付けコンクリートと覆工コンクリートの間に設置される. 防水工ではシート防水が一般的であり,厚さ 0.8 ㎜の防水シートと裏面緩衝材が一体となっ た材料を用いる.なお,ウォータータイトトンネル(非排水構造)においては,厚さ 1.0~2.0 ㎜の防水シートを用いるため,一体型のシートでは重量が大きくなることから,防水シートと 裏面緩衝材を別に展張する分離施工が行われている. 4.3.4 型枠工 (1)型枠形式 トンネル覆工に用いられる型枠は,図 4.3-1 に示すように走行架台と型枠が一体となって移 動できる形式のものが一般に使用されている. (2)型枠長さ 型枠の長さはトンネル断面積,延長,工程,コンクリート打設能力,曲線部の曲率などによ って異なるが 10.5mのものが標準である.型枠は長い方が工程上有利であり,覆工コンクリー トの不具合が発生しやすい打継部が少なくなる点で品質上にも優れる.しかし,一打設長が長 くなることで,温度収縮や乾燥収縮によるコンクリートのひび割れが発生しやすいという欠点 も併せもつ.特にインバート部の拘束を受けやすい覆工側壁部では,その傾向が顕著である. 図 4.3-1 全断面型枠の例 6) 図 4.3-1 覆工コンクリート用型枠の例[5] 68 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 4.3.5 打込み・締固め コンクリートの打設は,材料分離の少ないコンクリートポンプを使用する例が多い.覆工コ ンクリートの打設手順は, 図 4.3-2~4.3-3 に示すように側壁から天端下部は検査窓から打込み, クラウン部は吹上げ方式で打込むのが一般的である. コンクリートの締固めには内部振動機を使用する.締固めは振動機を 50 ㎝以下の間隔で下 層コンクリートに 10 ㎝以上挿入し,打重ね面の上層と下層が一体となるように行う.内部振 動機をコンクリートの横移動に使用すると材料分離による品質低下を招くため,注意が必要で ある.なお,クラウン部の締固めについては,近年引抜きバイブレータが多く採用されるよう になっており,品質も向上している. 図 4.3-2 インバート先打ち方式の打設手順[5] 図 4.3-3 吹上げ方式によるクラウン部の施工法[5] 69 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 4.3.6 覆工コンクリートの養生方法 (1)覆工コンクリートの型枠取りはずし時期と設定根拠 鉄建協報告[3]では,山岳トンネルの覆工コンクリートの型枠取りはずし時期と,脱型時強度 などに関する各発注者の基準を示している.この中から主要な事項について抜粋しまとめたも のを表 4.3-2 に,一覧に整理したものを表 4.3-3 に示す. なお,国土交通省については,各地方整備局の土木工事共通仕様書に「請負者は,打込んだ コンクリートが必要な強度に達するまで型枠を取りはずしてはならない」と記載されているだ けで,国土交通省では独自の基準はない.そのため,土木学会[1]や日本道路協会[4]等の基準が 適用されている. 表 4.3-2 脱型基準に関する特徴[3] 項 目 必要強度 材 齢 脱型時強度 早期脱型時や特殊 条件での措置 特 徴 少なくとも自重に耐えられる強度が全基準に共通である.さらに,施工中 に加わる荷重を考慮するよう示唆している基準が半分以上ある. 何れの基準でも指定されておらず,過去の実績より 12~18 時間や 12~24 時間が目安として挙げられている.日本道路公団ではコンクリート初期圧 縮強度試験と骨組構造解析をともに実施し,脱型時期を設定することを基 準として明記している. 土木学会,日本トンネル技術協会および鉄道運輸機構では2~3N/㎜ 2 程 度を目安として挙げている.一方,日本道路協会では,その指定が無いが, 骨組構造解析による脱型時必要強度検討方法の例題を挙げている. 骨組構造解析などの数値解析を実施し,十分な安全率を見込んで必要な脱 型時強度を設定する事を基準として明記している. 強度確認試験 何れの基準でも実打設時の養生条件と合わせた上で,若材齢圧縮強度試験 を行い所定の強度発現を確認することを明記している. その他 土木学会,日本道路協会,日本トンネル技術協会では,冬季間にコンクリ ート強度発現が遅れやすい点に留意するよう指摘している. 70 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 表 4.3-3 覆工脱型時期に関する基準一覧[3] 項目 必 要 強 度 土木学会 日本道路協会 少なくとも自重及び施工 自重に耐えうる強度 中に加わる荷重に耐えら れる強度 指定無し JTA JRTT NEXCO 少なくとも自重や施工 少なくとも自重に耐 自重に対し十分安全な強度 中の荷重等に耐えられ えられる強度 る強度 12~18時間程度の事 指定無し 例が多い 通常12~18時間 材 齢 脱 型 時 強 度 早 期 脱 で型 の時 措や 置特 殊 条 件 強 度 確 認 試 験 備 考 自重に耐えられる強度とし 指定無し て、圧縮強度2~3N/㎜2 程度を目安 自重や施工時に加わ 指定無し る荷重に耐えられる強 度として、2~3N/㎜2 程度を目安 早期脱型時やトンネル形 状・寸法が特別な場合等 では、覆工に作用する応 力をFEM解析や骨組解析 等によって算出し、十分な 安全率を見込んで必要な 脱型時強度を設定する。 トンネルの形状・寸法 が特別な場合等では、 覆工コンクリートに作 用する応力を骨組解 析等によって算出し、 十分な安全率を見込 んで必要な脱型時強 度を設定する。 早期脱型する場合に は、数値解析等で自 重その他によりコンク リートに生じる応力を 推定し、この応力に対 して十分な安全率を確 保できるコンクリート強 度に達する材齢を脱 型時期とする。 養生条件を実際と合わせ た供試体などによりコンク リートの強度発現特性を 把握して、覆工コンクリート の強度が脱型時強度に達 しているかどうかを確認す る。 養生条件を実際と合わ 試験室での試験結果 指定無し せた供試体などにより で脱型時期を設定した コンクリートの強度特 場合には、実際の養生 性を把握して、脱型時 条件と合わせた供試 強度に達していること 体によって、コンクリー を確認する。 トの強度発現の経時変 化を確認する。打設時 の気温による影響を考 慮しておく。 脱型時間が工程や工事費 特に冬季については に大きな影響を及ぼす場 強度発現が遅いので 合や、冬季間の施工に関 注意を要する。 しては、配合の改善、骨材 や練混ぜ水の温度、脱型 までの養生方法も含めて 検討する。 ・指定無し(通常12~24時間 以内に脱型するケースが多 い) ・実際の養生条件と合わせた 供試体作成によりコンクリート の初期強度の発現特性を把 握し、骨組解析により脱型可 能時期について解析したもの と合わせて検討し、十分な安 全を確認の上、脱型時期を設 定する。 早期脱型時は、骨組構造解 析による数値解析を実施し、 覆工コンクリートに発生する応 力を算出し、十分な安全率を 見込んで必要な脱型時強度 を設定する。 脱型時間が工程や 上記に従う コストに大きな影響 を及ぼす場合や冬 期間の施工では脱 型時強度を検討。 ・試験項目:圧縮強度試験 ・試験方法:1)施工管理要領 による、2)坑内の同様の条件 下で、テストピースの型枠は脱型 しないで養生すること ・試験頻度:1)試験練り時覆工 打設に先立ち1回、2)使用材 料、現地条件、温度が大きく 異なるごとに再実施、3)試験 時間は12,16,20,24,28hrの 設定時間で実施 「試験研究所技術資料第360 号 覆工コンクリート施工マニュアル (2002.3)」の参考資料15.5に、 覆工コンクリート脱型時必要強度 検討書(例)が記載。 71 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 4.4 覆工コンクリートの課題と養生技術 4.4.1 覆工コンクリートの現状の問題点 (1)覆工コンクリートの不具合の増加 トンネル覆工コンクリートの役割・機能を十分発揮するためには,施工に際して配合,型枠, 打ち込みおよび締め固めを確実に行うことが重要である.しかしながら,覆工コンクリートの 一般的な施工方法を鑑みると, コンクリートの品質に関して必ずしも適切であるとは限らない. むしろ,打ち込み後,早期の型枠取りはずしと不十分な養生等を考えると,コンクリートの品 質が確保されているとは言い難い.それを裏付けるかのように,1999 年に相次いで,鉄道トン ネルの覆工コンクリートの剥落事故が発生した(表 4.4-1 参照) .これらのトンネルは 1965 年 ~1975 年頃の高度経済成長期に建設されたものであり, 皮肉にもコンクリートの品質管理が強 化され始めた時期とも重なる.これらの事故により,道路および鉄道トンネルの安全性につい て多くの不安感をユーザである国民に与えた.また,半永久的とされていたコンクリート構造 物の安全神話が崩れる発端ともなった. 福岡トンネルではコールドジョイントが,北九州トンネルでは覆工側壁部の沈下によるひび 割れが剥落事故の原因とされており,いずれも施工段階のコンクリートの“打込み時”あるい は“打込み直後”に発生する初期欠陥である.これらの初期欠陥が直ちに覆工コンクリートの 剥落事故に繋がるものではないが,コンクリートの劣化により徐々にひび割れが進展し剥落に つながったとされている[6].また,事故発生がひび割れの発生から数十年を経て剥落に至って いることを踏まえると,剥落が生じるまでの進行速度は緩慢であることがわかる. これらの事故の教訓としては,良質な構造物を建設すればライフサイクルコストの軽減が図 れるということである. 表 4.4-1 覆工コンクリート剥落事故[6] 時期 場 所 内 容 1999 年 6 月 山陽新幹線 福岡トンネル 剥落したコンクリートにより,新幹線の車輌が破損 1999 年 10 月 山陽新幹線 北九州トンネル 側壁部の打込み口のコンクリートが剥落 1999 年 11 月 室蘭本線 礼文浜トンネル 重さ 2t におよぶアーチ部の剥落により,貨物列車が脱線 72 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 (2)覆工コンクリート養生の実態 覆工コンクリートの性能は,施工方法の影響を大きく受ける.特に,コンクリートの運搬, 打込み,締固め,養生などの方法がコンクリートの性能に及ぼす影響は大きい.特に養生につ いては,打ち込んだコンクリートを適当な温度のもとで十分な湿潤状態に保ち,かつ,有害な 作用を受けないようにし,水和反応により十分な強度を発現させることが重要である. しかし,覆工コンクリートの型枠取りはずしは,一般に覆工コンクリートの自重および施工 中に加わる荷重に耐えられる強度にコンクリート強度が達していると判断された段階で行われ る.これは,覆工コンクリートの施工工程の特殊性,つまり 1 サイクル/2 日で計画されるこ とも多分に影響している.自重に耐えられるコンクリートの強度として,アーチ形状のトンネ ル覆工では圧縮強度が 2~3N/mm2 程度に達すれば安全であると判断している場合が多い.ま た,骨組構造解析を行い圧縮強度が1N/mm2 程度で型枠を取りはずすこともある.そのため, 通常コンクリート打込み後12~24時間程度の範囲で型枠を脱型することが多い. したがって, 型枠存置による十分な養生効果は期待できない. 表 4.4-2 に,土木学会[5]における設計段階で想定するコンクリートの養生方法を示すが,こ れに従うならば,5~7日は何らかの湿潤養生をしなければならない.しかしながら,一般構 造物のコンクリートの養生条件と異なり,トンネルコンクリート施工指針(案)[5]では,養生 について以下のような記述がされている.したがって,このような状態が確保されているトン ネル内は,湿潤状態に保たれているとみなし,一般には特に付加的な養生は行っていない. “覆工コンクリートは一般に脱型が早いため,型枠存置による十分な養生効果は期待できない.し かしながら,トンネル内は坑口付近を除いて温度が安定しており,湿度も高い状態になっている. また,覆工コンクリートは背面が地山に面しており,外気に露出しているのは一面のみである.日 照作用も無く風等の影響もほとんど受けない.そのため,コンクリート表面からの水分の逸散は, 一般の屋外コンクリート構造物よりも格段に少ない. 施工中のトンネル坑内環境と覆工コンクリートの湿度変化に関する馬場らの研究[7]では,ト ンネル内の温度,湿度についてトンネルの延長,貫通の有無等の違いによる影響を 4 トンネル について調査している.図 4.4-1~4.4-2 にその結果を示す.これより,貫通トンネルと比較し て未貫通トンネルの方が温度のバラツキが小さいことがわかる.また,夏期よりも冬期の方が 坑内温度のばらつきは大きい.一方,湿度範囲は概ね 50~90%程度であることがわかる. なお,図 4.4-3 に 53 トンネルのセントル位置における坑内温度および湿度のアンケートの結 果を示す.トンネル坑内湿度は平均で 60~70%程度,範囲で 50~90%程度である. このことより,施工中のトンネル坑内環境は,これまで考えられていたような高湿度環境で はないことが分かる. トンネルでは削孔と覆工コンクリートを同時に施工する.トンネルの施工方法を振り返ると, 以前はトンネル掘削ずりやコンクリートの運搬はレール方式であったが,近年は掘削ずり運搬 にはダンプトラック,コンクリートの運搬にはトラックミキサを使用するタイヤ方式が主流と なった.このため,多量の排気ガスが排出されることから坑内換気が不可欠となっている. 73 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 このような施工条件の変化の中,トンネル内の作業環境を改善する目的で換気設備の大型化が 進んだことが養生環境を悪化させた要因である.そのため,覆工コンクリートの乾燥収縮ひび 割れ低減のためには,湿潤養生を施す必要がある. 表 4.4-2 コンクリートの養生日数[6] 項目 養生方法 養生期間 (平均気温 15℃) 標準養生日数 湿潤養生 ・ 普通ポルトランドセメント:5 日間 ・ 早強ポルトランドセメント:3 日間 ・ 高炉セメント フライアッシュセメント 低熱ポルトランドセメント:7 日間 図 4.4-2 坑内温度と坑内湿度の関係 (調査Ⅰ冬期) [7] 図 4.4-1 坑内温度と坑内湿度の関係 (調査Ⅰ夏期)[7] 図 4.4-3 アンケート調査による坑内温湿度 の関係(セントル位置)[7] 74 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 4.4.2 覆工コンクリート養生の課題 覆工コンクリートには様々な要因でひび割れが発生することがある.現在の標準的な施工法 ではこれを完全に防止することは非常に困難である.特に,覆工コンクリートは無筋コンクリ ート構造であり,打込み終了後 12 時間~24 時間程度で型枠を取りはずすことや,特別な養生 を一般的には実施しないこと,さらに,トンネル延長方向 10.5m,トンネル周方向 21m程度 で巻厚 30cm 程度の構造であり,天端の覆工コンクリートは打込み口からの流し込みによる充 填方法であることから,ひび割れ防止が非常に困難な構造と施工法であることがいえる. しかし,このような条件であっても,極力慎重な施工,配合および養生対策を行うことで, 覆工コンクリートへの有害なひび割れを抑止するため,各種工夫を行うべきである.覆工コン クリートのひび割れ防止対策として, 養生方法に関する考え方を述べ, その課題を以下に示す. (1)コンクリート硬化温度の低下対策 打込まれたコンクリートは,水和熱で温度上昇後,外気温まで降下することになる.外気温 の低下は覆工コンクリートを収縮させひび割れ発生の原因となるため,坑内環境を良好に保つ 必要がある.特にトンネル貫通に伴い坑内気温が急激に低下することが予測される場合は,坑 口部にシート等による気流の遮断壁を設け,坑内温度の急激な低下を防ぐことが必要となる. (2)コンクリート乾燥収縮対策 コンクリートの乾燥収縮については,トンネル坑口付近の湿度の低い区間や貫通後の湿度低 下によるひび割れの発生,および既に発生しているひび割れをさらに開口させることもあるた め,養生条件についても特に留意する必要がある.特に覆工コンクリートの強度,耐久性,水 密性などの所要の品質を確保するため, 適切な期間, 湿潤状態で養生を行わなければならない. 養生期間は,普通ポルトランドセメントを用いる場合は 5 日間以上,高炉セメント(B 種) を用いる場合は 7 日間以上湿潤状態に保つことを標準とするとなっている.小断面トンネル等 では,トンネル坑内の気温はほぼ一定となっていること,型枠取りはずし後もトンネル壁面が 結露の状態となっていること等,事実上湿潤養生している状態となっている場合がある.しか し,多くのトンネルでは坑口付近やトンネルが貫通し,風が通り抜けるような場合は,外気温 の影響による温度変化やコンクリート表面が乾燥しやすい状態となるため,十分な養生方法を 実施しなければならない. 施工中のトンネル坑内環境と覆工コンクリートの湿度変化については,湿度 75%程度のトン ネル坑内環境であれば,1 回/週程度の散水を行うことにより,乾燥収縮によるひび割れを低 減できる可能性が高いことが報告されている[7].そのため,容易な設備で湿潤養生を行える散 水養生が現場で導入することが多いが,コンクリートが必要とする養生水を適宜供給するため には写真 4.4-1 に示すように多くの労力を要するだけでなく,路盤の泥濘化や電気設備への悪 影響等も課題も多く,実際に十分な養生が行われているとは言い難い. 75 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 写真 4.4-1 坑内散水作業状況 4.4.3 覆工コンクリート養生技術の紹介 (1)覆工コンクリートを取り巻く情勢 覆工コンクリートの養生に関する論文の土木学会年次学術講演会への投稿件数は,最近数年 増加している.これは,総合評価方式における技術提案項目の中で,トンネル覆工コンクリー トの耐久性の向上を図る技術,覆工コンクリートのひび割れ抑制対策に関わる具体的な施工計 画,覆工コンクリートの品質の確保,向上のための施工方法の工夫とその効果,覆工コンクリ ートの品質向上を配慮した技術提案,覆工コンクリートの充填性,剥落,及びひび割れ抑制等 に関する耐久性向上対策などが掲げられているためである. また,評価項目のポイントとして,覆工コンクリートのひび割れ抑制対策,養生に関する工 夫,覆工コンクリートの乾燥収縮・温度変化によるひび割れの防止,コンクリート打設方法や養 生等の施工方法,ひび割れ発生スパン数及び施工の確実性(施工実績)など具体的な着目点が示 されている. このような中で施工会社では,覆工コンクリートの養生について新技術を導入するなど研究 が盛んに行われ,数多くの養生工法が開発され実用化されている.覆工コンクリートの施工工 程の特殊性,1 サイクル/2 日で計画されることも多分に影響しているが,型枠取りはずし時 期が一般の屋外コンクリート構造物より早期であることから,養生に関する技術開発は各社の 大きなテーマとなっている. 本項では,覆工コンクリート養生に関連する新技術・新工法について述べる. (2)養生方法の分類 覆工コンクリートの養生については,脱型前の養生と脱型後の養生に大別できる.前者は, 養生温度を確保し必要脱型強度を得るための養生であり,後者は,コンクリートを保温および 保湿し,長期的な強度発現を促進させ緻密性,耐久性を向上させるための養生である. 鉄建協報告[3]では,鉄建協部会員の担当する鉄道トンネルおよび主要な道路トンネルとして 60 現場を抽出しこれらの現場におけるひび割れ防止対策に関するアンケート調査を実施して 76 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 いる.その中で覆工養生に関する調査結果を抜粋し,まとめたものを表 4.4-3 に示す.これよ り,脱型前の養生については保温という目的を達成するためであり,施工方法も限定されてい る.また,脱型後の養生よりも実施されている現場が多いことが分かる.一方,脱型後の養生 については施工方法がまちまちで工法も定着していない. 表 4.4-3 覆工養生アンケート結果[3] 項目 実施 現場 主な 養生 方法 脱型前の養生 脱型後の養生 23 現場(全体 57 現場の 40%)で実施されて いる. 18 現場(全体 57 現場の 31%)で実施されてい るが,脱型前の養生よりも実施現場は少ない. 施工方法も限定されており,技術も定着して いる. ・ 型枠部のシート養生とヒータによる給熱 ・ 断熱養生シート ・ エアー式バルーンの採用 ・ 型枠取りはずし時期を遅らせる対応 施工方法はまちまちで,定着しているとは言い 難い. ・ 通気の遮断 ・ ミスト噴霧 ・ 散水による養生 ・ 坑内の湿度を一定に保つ養生 ・ 断熱養生シート,養生バルーンによる養生 ・ 被膜養生剤の使用 (3)覆工コンクリートの養生方法 表 4.4-4~4.4-5 には,型枠取りはずし後における代表的な養生方法を示した.バルーン工法 [8]は,覆工コンクリート養生の改善の草分けとなってもので適用実績も多い.しかし,保 温効果は期待できるが,保水養生に留まっている.プラスチックフィルム養生[9]は乾燥に ともなう練混ぜ水の逸散を防止する典型的な保水養生である温度制御噴霧式養生法[10]は, 文字どおり噴霧する水温を調整しながら保水養生を行うことが特徴的である.システマチック 養生台車[11]は,使途による保水養生と湿潤養生マットを養生時期によって変えることで保 温,給水の適用時期を効率的に実施している. バルーン工法から始まって,ここで紹介した技術の他にも給水方法(散水,噴霧),シート材(マ ット,パネル,フィルム)などの工夫を行なった技術もある.ここで重要なことは,コンクリー トの養生目的あるいはその効果として,湿潤養生や湿度 90%以上等の記述が見られるが,本開 発の区分では,これらはいずれも保水養生であり,給水養生ではない. 77 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 表 4.4-4 トンネル覆工コンクリートの代表的な養生工法(1) 工法の バルーン工法[8] プラスチックフィルム養生[9] シート養生(7 日間) シート養生(28 日) セントル用とコンクリート用の 2 種類のバ コンクリート表面に噴霧した後高密度ポリエ ルーンを使用. チレンフィルムを密着させる.シート端部をテープ 前者は,セントル妻部と通行路を覆う. で密閉し長期的密着を確保.アルミ製パイ 後者は,専用台車を用いてトンネル断面と同 プ支柱とナイロン糸でフィルムの剥離防 形バルーンで覆う. 止. 保温養生効果あり,覆工内外温度差なし. 初期数日を除いて保温効果は小さい. 初期 2 日まで 95%以上,その後 80%まで低 坑内湿度 78.2%に対し,フィルム内は 99.0 下. ~99.9%. 材齢 7 日反発度 1 割増加. 標準養生に対し 11.2%増加. 材齢 21 日まで気中養生より減少. 透気速度の平均は気中養生に比べ若干低 名称 養生の 分類 養生方法 概要図 温度 湿度 品 質 強度 ひず 下. み等 その 温度ひびわれ抑制効果を期待. - 適用実績 200 件以上と最も実績が多いが,養 1 スパンの施工を 3 人/日の人員を要すため,効 生効果は小さい.給水は不可. 率化が必要.シートの落下が懸念. 他 施工課題 給水は不可. 78 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 表 4.4-5 トンネル覆工コンクリートの代表的な養生工法(2) 工法の 温度制御噴霧式養生法[10] システマチック養生台車[11] 養生の シート養生 シート養生(2 日) 分類 散水養生(噴霧) (7 日間) 湿潤養生マット(4 日) 名称 養生方法 遮水シートとコンクリートとの間の 30~60cm 外気遮断シートを敷設した台車. の密閉空間に工業用微霧発生用ノズルを 3m ピ 厚さ 2cm のステラシートを湿潤状態に保 ッチ,周方向 4 段に配置.湿度 90~100%を維 持するため,天端部および両肩部に有孔パ 持.噴霧水温度によって温度制御. イプを通水する仕組みの台車. 噴霧水の温度を調整することで養生温度調整. 無養生に比べ表面温度を 10℃程度高く保 概要図 温度 湿度 品 質 強度 ひず 温. 坑内湿度 30%に対し,平均 70%程度.散 湿度 90~100%の湿潤状態. 水時一瞬 100%. 標準水中養生の 95%程度. 反発度は水中養生の 90%. 内外温度差によるひびわれ抑制効果を期待. 内部ひずみ,有効応力は圧縮側. 表面ひずみもばらつき大. み等 その 細孔構造の緻密化が進行. 結合水量差が見られない. 必要水量 144ℓ/hr と多い.また,ノズル閉塞防 湿潤養生マットへの均一な給水が困難.水を含 止用対策が必要であり,大型架台が必要となる んだマットを保持するため,架台が大規模にな ためコストも増大. る. 他 施工課題 79 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 4.4.4 養生以外の覆工コンクリート品質向上対策 トンネルの工事は,掘削,ずり出し,坑内運搬,支保工,覆工などの様々な過程を得て完成 する.しかし,最終的にはトンネルの出来栄えを代表するのは,覆工コンクリートの最終仕上 がり状態である.ひび割れや縞模様あるいは継目の目違いなどは,仕上がりの評価に大きく関 わる. 覆工コンクリートは,設計基準強度は 18N/㎜ 2 と一般の鉄筋コンクリート構造物に比べて低 く,水セメント比が大きいため,やや貧配合の傾向がある.また,打設した翌日には型枠支保 工を取りはずすことから,コンクリート表面が極めて早期に露出することとなる.このため, 十分な湿潤養生行なえず,コンクリートが有する“本来の性能”を発揮できていないことが想 定される.覆工コンクリートは無筋コンクリートが一般的で,コンクリートの中性化や塩分に よる鉄筋腐食が問題となることは少ないが,施工中の温度ひび割れあるいは乾燥収縮ひび割れ が,問題視されることがある.特に,コンクリート片の剥落事故では,ひび割れが進行しては く落したり,ひび割れに浸潤した雨水が凍結融解作用によって剥落を助長したりすることが指 摘され,ひび割れに対する認識が高まってきた. このように覆工コンクリートのひび割れを抑制すること,耐久性の高いコンクリートとする ことが社会的にも求められており,最近では,覆工コンクリート自体の品質を向上させる試み が各所で行われている.例えば,高性能 AE 減水剤を使用して単位水量を減じて乾燥収縮ひび 割れを抑制したり,単位セメント量を減じて温度応力を低減したりする試みがある.また,膨 張コンクリートとすることで乾燥収縮量を減じたり,短繊維を混入してひび割れを抑制したり 剥落を防止するなど,主として材料面からの取り組みがある. 施工面からの取り組みでは, 天端部の締固めを行なう引抜きバイブレータなど締固めの工夫, 坑内温度を高めたり,脱型後のコンクリート表面にバルーンやマットを設置して保温したり, 養生マットやシートとコンクリート面の間に散水や噴霧を行って,この部分の湿度を 100%程 度まで高める保水養生など各種の工夫されている.また,脱型後のコンクリート表面に水分の 逸散を抑制する養生剤や,コンクリートに含浸して表層のコンクリートを改質する改質材を塗 布する工法なども試みられている. 80 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 4.5 覆工コンクリートの養生効果に関する既往研究 近年では,坑内環境を改善するために大型換気設備の導入が進み,坑内温度および湿度が低 下しており,コンクリートに対する坑内環境は悪くなっている.そのため,乾燥収縮が原因と されるひび割れが発生している.本節では,覆工コンクリートの養生方法によって得られる養 生の効果を,養生環境の改善という観点で検討した. 4.5.1 養生温度および湿度特性 (1)コンクリート養生バルーンによる養生 先ず多くのトンネルで施工実績があるセントルバルーンおよびコンクリート養生バルーン [8]について述べる.セントルバルーンは,打ち込み後のコンクリート温度を高く保つことがで きる.覆工コンクリートにも初期強度の発現に不利な高炉セメントを用いる傾向が高まってき たことから,18 時間前後で脱型強度を得るためには,コンクリートの練り上がり温度の低い秋 季から春季にかけては有効である.しかしながら,打込み温度が高くなる夏季においてはむし ろ養生温度を下げる方が,長期的な温度ひび割れの抑制には有効である.また,一般的な道路 トンネルでは覆工厚は20~40cm であることから覆工コンクリート内部と表面の温度差はもと もと小さく,表面ひび割れの原因とはならない. 脱型後の温湿度効果については図 4.5-1 に示すように,コンクリート養生バルーンによりコ ンクリート表面温湿度を坑内温度より高く保てる.しかし,覆工コンクリートにとっては脱型 強度が得られ次第,できる限り低温で養生されることが好ましく,養生終了時(材齢 7 日程度) には坑内温度とほぼ平衡することが理想的である. 図 4.5-1 コンクリート養生バルーンの効果[8] (2)プラスチックフィルムを用いた養生 壱岐ら[9]のプラスチックフィルムを用いた養生方法では,フィルム端部をテープで接着し, 空気の侵入を防止し長期的な密着性を得ている.図 4.5-2~4.5-3 に示すように,ある程度の保 温とコンクリート表面の湿度を 100%に保つ効果はあるが,シートの貼り付け状況の観察では, 81 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 貼り付け直後はコンクリート面とフィルムの気泡は見られなかったが,徐々に増加し 4 週間後 には気泡の面積は,シート全体の 1/3 程度と報告されていることから,シートの密着性に課題 がある.また,4 週間後にもフィルム内部に水滴が残っていたとのことであるが,通常,プラ スチックシートでコンクリート面を封かん養生すると,シート背面に結露による水滴が見られ る.この水滴は,外気温がコンクリート温度よりも低いために結露するものであり,コンクリ ート温度の高い初期養生期間には頻繁に確認される. (3)温度制御噴霧式装置による養生 山田らが報告する[10]温度制御噴霧式覆工コンクリート養生方法は,温度検知センサーデー タを温度制御装置へフィードバックさせながら適時噴霧水を温度管理し,最適な養生温度を保 てるように管理を行うシステムである.湿度については,工業用ノズルを用いることにより, 粒径 45~60μm 程度の微粒の霧を発生させ,密閉空間の湿度を 90~100%程度に保持できる としている.本工法は図 4.5-4 に示すように無養生や他の養生方法よりもコンクリート表面湿 度を 90~100%に保つことができている.類似工法の散水や噴霧によっても,密閉空間の湿度 を 90~100%に制御できる工法があるが,覆工コンクリート全面に常時養生水が接触すること は,いずれの養生工法でも困難なようである.その理由として,シート等とコンクリート面と の空間,もしくは保水層の一部である不透水層とコンクリート面との空間の存在が避け難いこ とが挙げられる.これにより,養生水がシート面上を流れたり,噴霧では結露水がシート上も しくは不透水層の上に集まったりコンクリート面に水が接し難くなるためである. 松浦らが報告する[12] 保温・湿潤養生台車を適用した養生方法では, 図 4.5-5 に示すように, 高い湿度環境を実現しているとは言えない. 福田ら[13]が行った散水機能付きバルーンの測定結果では,図 4.5-6~4.5-7 に示すように散 水を行っても温度は変わらないが,湿度は散水によって回復することが報告されている.しか し,給水ムラが大きく覆工コンクリート全体を湿潤状態にできないのが課題である. 田中ら[14]養生マットを用いて覆工を模擬した実験では,図 4.5-8~4.5-9 に示すようにコン クリート温度を緩やかに坑内温度まで下降させ,湿度は 90%以上維持できることを示している. 高岡ら[15]は,3 スパン(31.5m)に養生台車に 2 流体噴霧ノズルを備えた連続養生システムで は,ほぼ安定した養生環境が得られており,平均温度は 20.1℃,平均湿度は 96.8%である.養 生なしの場合には, 脱枠後から徐々に低下し, 平均温度は 17.6℃, 平均湿度は 71.2%であった. 図 4.5-10~4.5-11 に試験結果を示す. 椎名ら[16]らは,中空のポリエチレン製パネルにポリエチレン高発泡シートと不織布を貼付 した厚さ 11mm の養生パネルを覆工コンクリート面に密着させた結果,無養生より 3℃高くな り,覆工表面付近の相対湿度は 85%で無養生より 3 割程度高かったと報告している.図 4.5-12 ~4.5-13 に試験結果を示す. 82 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 図 4.5-2 封かん養生内外での温度計測結果 [9] 図 4.5-3 封かん養生内外での相対湿度の計測 結果[9] 図 4.5-4 養生方法と表面湿度の関係[10] 図 4.5-5 坑内温・湿度経時変化グラフ[12] 図 4.5-6 散水バルーン温度計測結果[13] 図 4.5-7 散水バルーン相対湿度計測結果[13] 図 4.5-8 コンクリート表面温度の計測結果 [14] 図 4.5-9 コンクリート表面湿度の計測結果 [14] 83 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 以上にコンクリート養生バルーンや保温性のあるマットやパネルを用いる工法による養生 効果を述べたが,湿度については,採用事例の多いコンクリート養生バルーンでは 70~80%, シート等でコンクリート面の空間を作成した場合には 70~85%以上であるが十分な養生環境 と言えない.また,高橋ら[17]は,坑口付近に隔壁バルーンを設置し,バルーンの有無による 坑内環境を比較した.図 4.5-14~4.5-15 に試験結果を示す.隔壁バルーンがない場合には,坑 内温度は外気温の日変化に応じた挙動を示しているが, 隔壁バルーン内では 15~20℃を維持し ている.坑内湿度については 70%以上維持している測点もあるが温度ほど安定しておらず,良 好な湿度環境を確保するためには他の設備や施工法が必要なことを示唆している. 図 4.5-10 環境温度測定結果[15] 図 4.5-11 環境湿度測定結果[15] 図 4.5-12 覆工温度[16] 図 4.5-13 覆工付近の相対湿度[16] 図 4.5-15 湿度の測定結果(肩部) [17] 図 4.5-14 温度の測定結果(肩部)[17] 84 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 4.5.2 強度発現特性 (1)圧縮強度 圧縮強度については,多くの論文から報告されているため,本項では試験結果を中心に述べ る. 散水システムを用いた小泉ら[18]の研究では,図 4.5-16 に示すように現場実験の気中養生, 湿潤養生とともに室内実験の気中養生に比較し圧縮強度は大きくなっている.また,現場実験 の気中,湿潤養生ともに設計基準強度 18N/mm2 を 25%以上大きくなっているが,標準養生に 比べて 25%程度強度が低いのは,コンクリート温度が 5℃低かったためとしている. 覆工トンネルを模擬した試験体鉛直面を養生マットで養生した田中ら[14]は,表 4.5-1 に示 すようにコアの圧縮強度を求め,養生期間の違いによる明確な差異が認められないとした.こ の理由として,湿潤養生による圧縮強度の増進は,コンクリート表面近傍に限られていると考 えている. 超音波加湿器を用いた平川ら[19]は,図 4.5-17 に示すように初期7日間の養生で材齢 28 日 では,無養生と比べて 11%の強度増進を確認している. 噴霧式養生を行った三原ら[20]は,図 4.5-18 に示すように初期 7 日間の噴霧養生で,覆工コ ンクリートの水和反応の積極的促進により初期および長期強度の増進を得ている.また,同養 生方法を行った後藤ら[21]は,図 4.5-19 に示すように気中養生のみの圧縮強度は強度発現が遅 く材齢 28 日強度は標準養生の 55%,噴霧養生では標準養生と同程度であった. 謝ら[22]の報告では,図 4.5-20 に示すように材齢 28 日の標準養生に対し,気中養生では明 らかに低下しており,特に高炉セメントを用いた場合の強度低下が大きいとしている. 表 4.5-1 圧縮強度試験[14] 図 4.5-16 圧縮強度比[18] 図 4.5-18 圧縮強度比較試験結果[20] 図 4.5-17 圧縮強度試験結果[19] 85 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 図 4.5-20 各養生方法における圧縮強度試 験結果[22] 図 4.5-19 圧縮強度試験結果[21] (2)反発度 保温・湿潤台車を用いた松浦ら[12]は,図 4.5-21 に示すように材齢 7 日のテストハンマー反 発度による推定強度が,水中養生した供試体強度の 90%程度を有しているとしている. 養生マットで模擬トンネルを養生した田中ら[14]は,表 4.5-2 に示すように無養生と比較し て養生期間が長いほど圧縮強度の推定値は高くなる. 養生パネルを用いた椎名ら[16]は,表 4.5-3 に示すように養生した場合,無養生よりも 1 割 以上高い結果であった. 連続養生システムを用いた高岡ら[15]は,図 4.5-22 に示すようにテストハンマーによる推定 圧縮強度はいずれの材齢でも,10 スパンの平均で 2~3N/㎜2大きくなることを確認している. 噴霧養生を適用した三原ら[20]は,図 4.5-23 に示すように噴霧養生による反発度の増加効果 を確認している. 散水養生した小平ら[23]は,図 4.5-24 に示すように天端部で養生の有無の差が顕著であり, 10%程度高い値を示した.これは,散水位置が天端部に近いこと,養生なしでは天端部に熱が こもりやすく乾燥が著しいことを挙げている. バルーンを用いた佐藤ら[8]は,図 4.5-25 に示すように材齢 28 日の天端,肩部,下端部の反 発度を求め,バルーン養生では高い反発度が得られたこと,また,天端部において 1 割大きく なったと報告している. 覆工コンクリートを対象とした反発度に関する研究成果をまとめると,湿潤養生の効果はい ずれも共通して約 1 割大きくなるとしている点である.また,天端部においてその効果が顕著 としている.散水養生の場合,コンクリート面全体に養生水が均一に行き渡らないことから測 定位置によって測定値がばらつくとの報告もある.また,無養生の場合と比較しているが,無 養生では全体的に養生温度が低く,このことが反発度に影響していることが想定され,厳密な 意味での反発度が向上しているかの判定は難しい. 86 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 表 4.5-2 テストハンマー試験結果[14] 表 4.5-3 テストハンマー強度[16] 図 4.5-21 テストハンマーによる推定圧縮強度 (σ7)[12] 図 4.5-22 テストハンマーによる推定圧縮 強度[15] 図 4.5-23 表面強度比較試験結果[20] 図 4.5-25 覆工表面の反発度[8] 図 4.5-24 シュミットハンマーによる推定強 度[23] 87 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 4.5.3 物質移動抵抗性 (1)空隙構造 松浦ら[12]は,図 4.5-16 に示すように気中養生したコンクリート表面が 100nm 以上の細孔 半径を主体とした分布傾向にあるのに対し,保温・養生マットで湿潤養生したコンクリート表 面および内部コンクリートは 100nm 程度以下の細孔半径を主体とした分布をしていると報告 している. 平川ら[19]は,図 4.5-27 に示すように超音波加湿器を脱型後 7 日間適用した.その結果,コ ンクリート表面付近において, 孔径15.2μm 以下の総空隙量が無養生と比較して16%減少し, さらに主に孔径 0.01μm 以下と粒径の極めて小さなゲル空隙の割合が約 7%増加するなど,コ ンクリートの空隙空洞が密になったと報告している. 図 4.5-26 細孔径分布[12] 図 4.5-27 細孔径分布測定結果[19] 88 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 高岡ら[15]は,図 4.5-28 に示すように 7 日間噴霧して 95%以上の湿度を確保した結果,養 生なしと比較して細孔径 0.01~0.1 μm は増加し,0.1~1μm は減少していることを報告して いる. 三原ら[20]は,図 4.5-29 に示すように 20℃高温室内で噴霧養生を 7 日間行った.その結果, 噴霧養生では表層と内部の細孔構造に差異が小さいこと,気中に較べ細孔構造の緻密化が進む ことを確認している.100nm に着目すると,65%から 28%に減少している. 以上のように,脱型後 7 日間,養生マットあるいは噴霧養生した場合,細孔径 100nm(0.1 μm)付近より小さな細孔径が増し,空隙が小さくなっていることから,コンクリートが緻密 化していることがいずれの試験結果からも確認された. 図 4.5-28 細孔径分布測定結果[15] 図 4.5-29 有効細孔量測定結果[20] (2)透気係数 田中ら[14]は,トンネル坑内を模擬して,表 4.5-4 に示すように養生マットで養生した場合 の透気係数の試験結果から,材齢 7 日まで養生した場合の透気係数は無養生の半分以下の値と なった.この理由は,養生によってセメントの水和反応が促進され,コンクリート表面が緻密 化しているためと考えている. 表 4.5-4 表面透気係数試験結果[14] 89 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 (3)乾燥収縮量 初期養生方法と養生後の環境変化が乾燥収縮に与える影響を実験的に調べた井ノ口ら[24]の 研究では,初期養生(W:水中,D:気中,Wet:散水,S:封かん)期間中は養生方法によっ て乾燥収縮量に差がみられるが, 終局の乾燥収縮量は初期の養生方法や環境変化に影響されず, 同じところに収束することを確認しているが,図 4.5-28~4.5-30 ではそのばらつきは大きい. 図 4.5-28 養生条件と環境条件[23] 図 4.5-29 乾燥収縮試験結果(N)[24] 図 4.5-30 乾燥収縮試験結果(BB)[24] 90 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 歌川ら[25]は,室内試験と現場覆工のおける延長方向の表面ひずみの変化を図 4.5-31 によう に示した.これより室内試験では 80 日後には収縮量の差がなくなること,覆工でも初期の養 生条件と同等で初期の乾燥収縮ひずみの低減効果が表れないこと,覆工では打設 10 日後イン バートの拘束効果によりひずみは一定値になることが分かったとしている.このことはインバ ートの拘束ひずみがコンクリート内部に生じていることであり,むしろひび割れの有無という 観点では不利と言える. 謝ら[22]は,材齢 1 日で脱型し,7 日まで気中,封緘,湿潤養生後恒温室で測定した乾燥収 縮量を図 4.5-32 に示している.ここでは,養生条件が良くなるほど,自由収縮ひずみは小さく なり,材齢 7 日までの養生条件の影響を大きく受けることを示している. 気中養生,バルーン養生,散水システムを利用した湿潤養生を実施して,ひび割れ調査の結 果を示した乾川ら[26]の報告では,表 4.5-5~4.5-6 に示すように平均ひび割れ幅やひび割れ長 さに養生の違いが表れている. 謝ら[22]は,図 4.5-33 に示す拘束されたコンクリートの乾燥収縮試験を行った.その結果, 図4.5-34~4.5-35 に示すように普通セメントおよび高炉Bセメントの拘束乾燥収縮量および収 縮の速度はほぼ同位置であり,また養生条件が良いほど,ひび割れ発生時の拘束ひずみは増加 する傾向にあるとしている.ひび割れ発生材齢は,いずれの養生条件でも高炉セメントBが普 通より早い.高炉セメントBを用いた場合,初期の水分の供給あるいは養生期間が不十分であ ると,ひび割れ抵抗性が低下するとしている. 図 4.5-31 表面ひずみの変化[25] 図 4.5-32 養生方法及び配合による 材齢と長さ変化の関係[22] 表 4.5-6 ひび割れ調査結果[26] 表 4.5-5 養生条件の違い[26] 91 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 図 4.5-33 拘束収縮試験体[22] 図 4.5-35 拘束試験体ひび割れ発生時の平 均材齢[22] 図 4.5-34 拘束収縮ひずみの履歴[22] 乾燥収縮低減剤を塗布した覆工コンクリートの乾燥収縮を平均気温約 13℃,平均湿度 70% の試験環境で,測定した網野ら[27]の実験結果を図 4.5-36~4.5-37 に示す.これより,供試体 の収縮ひずみは暴露 90 日でほぼ収束し,乾燥低減剤の塗布によって,乾燥収縮の進行を 20% 低減できることを確認した.また,覆工コンクリートの収縮ひずみ量も脱型 90 日後において も 100μ以下を満たしており,乾燥収縮低減効果が得られたとしている. 図 4.5-36 供試体による収縮ひずみの経時変化 [27] 図 4.5-37 覆工コンクリートの収縮ひずみの 経時変化[27] 92 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 温度制御噴霧式養生工法によって噴霧養生の温度を 5,10,15,20 および 30℃とした場合 のひび割れ指数を計算した山田ら[10]結果では,ひび割れ指数が最も大きくなるのは 15℃の場 合で,その値は 1.7 であった.養生温度が異なる場合には,適切な養生温度にすることが有効 としている.図 4.5-38~4.5-41 に解析モデルと解析結果を示す. また,同一の工法において夏期施工の温度応力解析を実施した斎藤ら[28]の結果,温度制御 の実施の有無によってひび割れ指数が低減し,冷水を噴霧する温度制御を実施した場合のひび 割れ発生確率を75%から30%に低減できたとしている. 最近の温度応力解析プログラムでは, 乾燥収縮量を考慮できるものが利用されているが,温度ひび割れと乾燥収縮ひび割れの危険性 が高まる時期は大きく離れていることから, 覆工コンクリートの乾燥収縮ひび割れの解析には, むしろ温度解析を行わずに乾燥ひずみ解析とこれによる応力解析結果を参考とする方が良いと 思われる. 図 4.5-38 解析モデル化[10] 図 4.5-39 解析結果[10] 図 4.5-40 最少ひび割れ指数の分布[28] 93 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 4.6 まとめ (1)覆工の役割・機能および設計思想の変遷 NATMが標準工法となってからは,覆工コンクリートは特殊地山を除く安定した地山にお いて力学的機能を付加しない薄肉構造となった.また,施工技術や施工機械の性能向上により 覆工コンクリートの品質も向上してきたことから,覆工厚さも軽減されてきている.しかし, トンネルが小土被り,断層破砕帯,膨張性地山等の特殊な地山条件下に計画されるケースが増 加しているため,覆工コンクリートの機能として支保工を補完する力学的な機能も求められる 場合もある.また,覆工コンクリートの品質管理については,1960 年頃から土木学会制定のコ ンクリート標準示方書と同様な管理を行うようになっており,その重要性は高まっている. (2)覆工コンクリートの施工方法 覆工コンクリートの配合については,発注者毎に基準が定められている.また,打設方法に ついても大型の型枠が導入されるようになりアーチ部を全断面打設で施工するようになったこ と,コンクリートポンプや締固め機械の高性能化,施工技術の蓄積等によりコンクリートの品 質確保できるようになった. (3)覆工コンクリートの課題と養生技術 一般構造物のコンクリートの養生条件と異なり,トンネル覆工コンクリートは打込み翌日に 脱型する施工サイクルとなる.そのため,型枠存置による十分な養生効果は期待できないが, トンネル坑内は温度湿度が安定しているという考え方により,一般には特に付加的な養生は行 っていない.しかし,近年では坑内環境を改善するために大型換気設備の導入が進み,坑内温 度および湿度は低下しており,コンクリートに対する坑内環境は悪くなっている.そのため, 乾燥収縮が原因とされるひび割れが発生している. また, 覆工コンクリートの養生に関しては, 型枠取りはずし時期と強度などに関する基準はあるものの,型枠取りはずし後の養生に関して は基準もない.さらに,実施工においても型枠取りはずし後の養生を行なっている現場は3割 程度であり,養生を行なっている現場においても施工方法はまちまちで定着していない. トンネル覆工コンクリートに対する養生技術は,2003 年(平成 15 年)にトンネルバルーン が登場以来,各社から改良工法が提案され実用化している.バルーンを利用した上で,散水機 能や噴霧機能を設けた方式,バルーン以外のシートで覆工コンクリートとシート面との間に空 間を形成し,この空間に噴霧したり,あるいは温度調節した養生水を噴霧したりする工法も実 用化している.さらには,薄いプラスチィックフィルムを覆工コンクリート面に密着させ封か ん養生する方法や,バルーンのようなシート類を用いずに,アーチ状に噴霧ノズルを配置した 移動体で覆工コンクリートに直接養生水を噴霧する工法も提案されている.これらの工法は保 水養生に関するものが多く,給水養生を行う工法については,施工性や経済性等の面で課題が 残る.特に噴霧養生や散水養生については,路盤の泥濘化や電気設備への影響もあり,実際の 施工では給水養生と言えるほどの養生を行えないのが現状である. 94 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 (4)覆工コンクリートの養生効果に関する既往研究 上述した新しい養生技術においては,いずれの方法も覆工コンクリート表面を高い湿度に保 って,練混ぜ水を逸散させない効果は認められるものの,経済的にコンクリートが必要として いる養生水を均一に供給することは困難である.また,冬期の坑内温度が低くなる場合を除い て,覆工コンクリートを保温することは,貫通後の外気の侵入による坑内温度の低下による収 縮ひび割れを大きくするのみで何らメリットは考えられない. 覆工コンクリートの養生方法によって得られる養生の効果を既往文献による調査をした結果, 型枠取りはずし後,湿潤養生を行なうことで,品質や耐久性が向上することが分かった.一方, 封かん養生等の保水養生については,湿潤養生ほどの効果は確保できないことも分かった. (5)覆工コンクリートにおける今後の課題 覆工コンクリートは,早期に脱型されるという不可避的な条件にあるが,給水を行い湿潤養 生することで,逆に大きな養生効果を期待することができる.この意味では,覆工コンクリー トと給水養生の組み合わせは,大きな相乗効果が期待できる.また,コンクリートに発生する ひび割れを防止するためには,適切な養生を行うことも必要であるが,実際の養生期間は 12 ~20 時間程度しか確保できていないのが現状である.この養生期間は,脱型時の必要強度を確 保することは可能であるが,コンクリート表層の品質を確保する観点からは著しく短いもので ある.また,表 4.6-1 に示すように覆工コンクリートを取り巻く環境は変化してきており,鉄 筋構造物としての機能を期待される場合もでてきた. 今後の課題として,養生を単に覆工コンクリートの強度発現不足の対策としてではなく,覆 工コンクリートの更なる耐久性向上を目指した養生として捉えていく必要がある.そして,ト ンネルの施工方法やコンクリートの材料特性に合った積極的な養生を行っていく必要がある. これらの課題を解決するためには,トンネル掘削の施工性を確保しつつ,覆工コンクリート表 面に常に水膜が形成できるような養生工法を適用することが理想である. 表 4.6-1 覆工コンクリートを取り巻く環境の変遷 項 目 内 容 立地条件等 小土被り,断層破砕帯,膨張性地山,非排水型の都市部トンネルの増加 力学特性 力学機能が付加した構造体の適用増加(鉄筋構造物としての位置づけ) 配 合 高炉セメント B 種の採用増加,膨張コンクリートの採用 巻 厚 圧縮強度増と薄肉化 換気環境 養 生 技術開発 換気設備性能向上による坑内湿度の低下 脱型後の養生については施工方法も様々で定着していない 総合評価落札方式の導入により覆工養生技術開発が増加 95 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 参考文献 [1] 土木学会:トンネル標準示方書(山岳工法編) ,2006 年,土木学会,pp94. [2] 土木学会:山岳トンネル覆工の現状と対策,土木学会ライブラリー,平成 14 年 9 月,pp.2-8. [3] 日本鉄道建設業協会:覆工コンクリート施工技術の動向と課題(中間報告書) ,平成17年 3月. 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[23] 小平哲也,水口均,平間昭信,藤本克郎,岩城圭介:二次覆工コンクリートの養生方法に 関する検証,土木学会第 612 回年次学術講演会(平成 18 年 9 月),6-181,pp.361-362. [24] 井ノ口公寛,佐藤健太朗,歌川紀之,伊与田岳史:初期養生方法と養生後の環境変化が乾 燥収縮に与える影響, 土木学会第65 回年次学術講演会(平成 22 年9 月), Ⅴ-166,pp.331-332. [25] 歌川紀之,宇野洋志城,藤谷三千男,加藤公章: 覆工コンクリートの湿潤養生効果の現地 測定,土木学会第 63 回年次学術講演会(平成 20 年 9 月),6-312,pp.623-624. [26] 乾川尚隆,平山保彦,森安弘,歌川紀之:散水システムを利用した覆工コンクリートの湿 潤養生方法に関する検討(その 1) ,土木学会第 65 回年次学術講演会(平成 22 年 9 月),Ⅵ -015,pp.29-30. [27] 網野貴彦,上岡秀喜,萱野朋之,濱田洋志,羽渕貴士: 噴霧養生装置により乾燥収縮低減 剤を塗布した覆工コンクリートの乾燥収縮低減効果,土木学会第 61 回年次学術講演会(平 成 18 年 9 月),6-180,pp.359-360. [28] 齋藤淳,杉山律:型枠取りはずし後の封かん養生によるコンクリートの耐久性向上効果に 関する実験,土木学会第 63 回年次学術講演会(平成 20 年 9 月),5-294,pp.587-588. 97 第4章 覆工の役割と施工方法および養生方法 98 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 63 98 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 5.1 はじめに コンクリートの養生に関しては,水中養生が最も基本であるが,壁等の鉛直面あるいはスラ ブ下面では, 水中養生を行なう方法が無いことから, 次善の対策として型枠存置期間の遵守や, 最近では封かん養生が実施され始めた.また,環境問題の一環として高炉セメントB種,温度 ひび割れの抑制効果のある低熱セメントが普及し始めている.これらのセメントは,初期強度 の発現が遅く,湿潤養生を長く行なう必要があり,型枠の転用回数減少による工事費の増大や 工期の増大に影響を及ぼすことが懸念される.このようにコンクリートの養生が重要視される 理由として,第3章で述べたとおりコンクリートの養生が,表面部のかぶりコンクリートの品 質に大きく影響するからである.また,かぶりコンクリートの品質は,中性化や塩化物イオン の浸透に伴う鉄筋腐食やはく離・はく落の危険性とも密接に関連している. 一方,トンネル覆工についても覆工コンクリート剥落事故や公共工事における総合評価落札 方式の導入の後押しもあり,品質向上が求められるようになっている.このような状況の中, 壁面や柱等の鉛直面やトンネル覆工のようなアーチ構造物内面に対し,経済的で確実に湿潤養 生を維持できる養生方法が望まれてきている. 以上のような観点から,本研究では壁面や柱およびトンネル覆工のコンクリートに対しても 適用が可能な湿潤養生工法のひとつとして浸水養生工法を定義し,アクアカーテン養生システ ムの開発を行う.アクアカーテンはアイデア的には単純であるが,実構造物において採用する 際,より合理的で実用性のあるものに具現化する必要がある.そのため,給水期間,給水量等 の施工仕様を確立する必要がある.本章では,本工法のアイデア立案から,標準仕様を決定す るまでに行なう各種試験の内容と成果の詳細について述べる. 99 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 5.2 システム開発の設計思想と浸水養生の定義 型枠内に打ち込まれたコンクリートは,日平均気温や用いたセメントの種類に応じて湿潤養 生期間の標準が決められている.また,型枠を取りはずした後の湿潤養生方法としては,シー ト養生や養生剤の塗布といった水分の蒸発を抑制する保水養生方法がとられるが,外部からコ ンクリートに水分を供給することはできない. セメントの水和を有利に進行させるためには,生成される水和物間の隙間に水が満たされて いることが理想であり,外部から十分な水を供給することが,コンクリートの強度増進や密実 性の向上に役立つ.しかし,スラブ上面やダム等のマスコンクリートの露出面などは,湛水養 生や水を含ませた養生マットの敷設などが容易であることから給水養生が可能である. しかし, トンネル覆工コンクリート内面や型枠を取りはずした鉛直面や傾斜面での給水養生は,極めて 困難とされている. 今回開発したアクアカーテン養生システムは,吸引によって養生シートをコンクリート面に 貼り付けるため,湿潤養生が難しかったトンネルの覆工コンクリートだけでなく壁や柱にも適 用できる.また,外部から水分供給も可能であるため,コンクリート構造物を水中養生するの と同じ効果が得られものである.なお,アクアカーテン(AQUA CURTAIN)は,商標登録(第 5360643 号)された養生工法である. 本養生方法は,型枠を取りはずした後,できる限り長期間給水養生を継続したい場面で活用 されることが期待される.その中でも,コンクリート打込み後 12~24 時間程度で型枠を取り はずすトンネル覆工コンクリートの養生には特に適している.また,覆工コンクリートでは, 近年高炉スラグを混合した混合セメントが主流になっているが,外気の影響を受けやすい坑口 付近では日平均気温が低い時期には湿潤養生期間を相当長くする必要がある. アクアカーテンによる養生は,壁面や柱および覆工等のコンクリート構造に対し,安定的に 水膜を形成させ養生水を供給できる.そのため,図 2.7-1 に示した現場において採用されてい る湿潤養生区分にはない新しいタイプの養生方法となることから,アクアカーテンによる養生 方法を浸水養生と定義する. ネビルは,コンクリートに給水を行う方法とコンクリートから水が失われるのを防ぐ方法と に養生方法を分類し,それぞれ湿潤養生および膜養生と表現している.また,その中で各養生 方法の原理について考察を加えている[1].ネビルの分類したものを図化し,これにアクアカー テンによる養生方法を加筆修正したものを図 5.2-1 に示す. また,コンクリート標準示方書[2]では,養生を目的別に分類し,その目的を湿潤に保つこ と,温度を制御すること,および有害な作用に対して保護することの 3 項目に分類している.標 準示方書の考え方に浸水養生を追加した湿潤養生方法の区分を図 5.2-2 に示す. 100 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 養 生 湿潤養生 (給水養生) 湛水養生(散水や浸漬による養生) 湿砂、おがくず、わらによる養生 *近年での採用事例は少ない 湿布養生(ヘッセン、綿マットによる養生) *近年では改良型マット養生が主流 浸漬用ホースによる養生(鉛直面) 浸水養生(アクアカーテンによる養生) 膜養生 ポリエチレンシート、強化紙、型枠存置による養生 (保水養生) 養生剤の噴霧による養生 *赤書きは著者が追記したものである 図 5.2-1 浸水養生方法の分類 給水養生 湿潤に保つ 保水養生 水中 湛水 浸水 散水 湿布(養生マット,むしろ) 湿砂 不透水性せき板 シート 膜養生 養生の基本 温度を制御する マスコンクリート 湛水,パイプクーリング等 寒中コンクリート 暑中コンクリート 断熱,給熱,蒸気,電熱等 散水,日覆い等 促進養生 蒸気,給熱等 有害な作用に対し保護する 図 5.2-2 養生の基本 101 油脂系(溶剤型,乳剤型) 樹脂系(溶剤型,乳剤型) 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 5.3 アクアカーテン養生システムの構成 5.3.1 システム構成概要 本システムは,養生シート,吸引装置,給水装置から構成される.鉛直壁面にアクアカーテ ンを適用する場合のシステム概要図を図 5.3-1 に示す.養生シートとコンクリート表面の間の 空気を,吸引機により吸出し減圧することで,コンクリート面に養生シートを密着させ,その 間に給水を行いコンクリート表面に水膜を形成させるものである. アクアカーテン養生システムの構成は,図 5.3-1 に示すように養生シート,給水ホース,給 水ポンプ,給水タンク,吸引機,吸引口などからなっている.養生水は,所定量の水量を貯め た給水タンク内の養生水を給水ポンプにより給水管,給水ホースまで汲み上げ,給水ホースか ら自然流下させる.流下した養生水が養生シート下部から流出しないように,給水量を調整す る. 養生箇所 【給水装置】 給水ポンプ 給水ホース 給水口 上 部 養生シート 給水タンク 気密部 第5章 【吸引装置】 排気 吸引口 (負圧部) 吸引口 吸引機 脚 部 図 5.3-1 アクアカーテン養生システムの構成 5.3.2 施工方法 (1) 適用範囲 アクアカーテン養生システムは,トンネル覆工やアーチカルバート内面だけでなく,コンク リート構造物の鉛直面(壁,柱部材)のコンクリートに対して浸水養生を行う場合に適用する ものである.吸引口,吸引管,吸引機の運転目的は,養生シートをコンクリート表面に押し付 け固定させるとともに,自然流下水がコンクリート面全体に均等に行き渡たらせること,養生 シート端部からの養生水の漏水を防止するために,養生シートとコンクリート面を低圧に保持 することにある.したがって,吸引機は養生実施期間中常に稼動させることが原則である. 102 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 (2)施工手順 アクアカーテンによる養生の基本的な施工手順を以下に示す. ① 型枠および支保材や緊結材を取りはずす. ② 給水ホースを上端部に取付け,養生シートを仮留めする. ③ 養生シートの下端部に約 4m 間隔で吸引口を取付ける. ④ 吸引機と吸引管を接続する. ⑤ 養生シートの周囲端部の気密性を確保した後,吸引機を稼働する. ⑥ 給水ポンプに接続した給水ホースから養生水を供給し,湿潤養生を開始する. (3)給水管理 給水管理は,コンクリートの吸水速度に応じて養生開始から終了に到るまで一定量を間欠的 に給水する.留意点を以下に示す. ・ 1 回の給水量は,対象範囲のコンクリート表面全体が濡れるのに必要な量を施工により確 認し決定する. ・ 給水の時間間隔は,コンクリート面が乾燥しない間隔とし,現場での実施状況によって判 断する. 5.3.3 主要設備 (1)養生シート 養生シートの部材は,写真 5.3-1 に示すように表面に凹凸をもつ負圧部と,表面が滑らかな 気密部の2つの部位から構成される.養生シートの特徴を以下に示す. ・ 低圧領域を広げるためには空気の流路の確保が重要である.そのため,図 5.3-2 に示すよ うに,シート表面形状は凹凸形状としている. ・ シート材料は,軽量,安価で保温性にも優れる気泡緩衝シートを採用する. ・ 気泡緩衝シートのコンクリート側に親水性の不織布を付けることで保水能力を向上できる. 負圧部 (凹凸形状) 気密部 (平坦形状) 吸引口 図5.3-2 養生シート表面の凹凸形状による 空気流路の確保 写真 5.3-1 養生方法の分類 103 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 (2)吸引ファンおよび給水ポンプ 吸引ファンは安定した吸引力を長期間維持させるため,ターボファンを採用する.ターボフ ァンの仕様は,養生面積を考慮し必要な風量と風圧を確保できるものを選定するが,標準的に は表 5.3-1 に示すものを使用する.養生水用の給水ポンプの仕様は,集水タンクから給水ホー スまでの高さの揚程を確保できるものを選定する.吸引装置および給水装置の配置例を写真 5.3-2 に示す. 表 5.3-1 吸引ファンおよび給水ポンプ仕様 種別 名称 仕様 電 源:三相200v,60Hz,0.4KW 最大風量:6.0m3/min, 吸引ファン ターボファン 最大静圧:4.3kPa, 重 量:16.5kg/台 給水ポンプ 水中ポンプ 吸引機 ターボファン 電 源:三相200V,60Hz,0.48kW 吐出口径:50㎜ 給水ポンプ 吸引・集水管 集水タンク 写真 5.2-1 吸引装置および給水装置配置例 写真 5.3-2 吸引ファンおよび給水ポンプ 5.3.4 給水ホース 給水ホースは,延長 70~100m 程度まで均一に給水(100~200cc/m・分)することができる ものを使用する.給水システムとして,図 5.3-3 に示すように 2 つの基本システムがあるため, 以下の設備条件の有無,可否によって判断する. 給水ホース(エバーフローA100)の散水量は 0.1 リットル/m・分であるため,給水ポンプから直 接給水管に直結させる方式であれば,100m の給水ホースの全長にわたって,一定の吸水が可 能となる.実際には 60m を上限とする. 水道等 給水ホース 一定量給水(ボールタップに よる流量調整) 給水ポンプ 給水タンク 貯水タンク 給水ホース 一定量給水(ボールタップに よる流量調整) 給水ポンプ 給水タンク 図 5.3-3 給水方式の分類 104 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 5.4 浸水養生によるコンクリート壁面の汚れ対策 アクアカーテンによる浸水養生を行なう場合,コンクリート表面に水和反応に十分な水分が 供給され白色の析出物が付着することがある.本節では,この付着物による出来栄え悪化に対 する対応について検討する. 5.4.1 壁面汚れ状況 大型供試体に対する浸水養生を終了し,浸水養生シート撤去後エフロレッセンスの白色析出 物が表面に付着した状況を写真 5.4-1~5.4-2 に示す.写真は浸水養生を一週間継続直後の表面 状況である.この析出物は,養生循環水に溶出した水酸化カルシウムと空気中の二酸化炭素が 反応して炭酸カルシウム(エフロレッセンス)となったものである.この模様はコンクリート表 面が乾燥すると目立たなくなる. しかし,掛樋らの研究[3]では美観の感覚は個人差があり,経験年数 31 年以上の技術者は それ以下の技術者に比べ美観性へのこだわりが高いとしている.このようなことから,コンク リート表面の模様は,外観上の問題になることも考えられる.また,コンクリート表面にエフ ロレッセンスが析出したままでは, 外観上だけでなく品質面でも劣化の疑念を抱かれることは, 浸水養生の適用に当たって大きな障害となるため,現場適用前にこの対策を検討する. エフロレッセンスの生成プロセスを確定することは困難であるため,基本的な対策方針とし て以下の4つの方策を検討する. ① 生成したエフロレッセンスがコンクリート表面に直接析出しないよう,織布もしくは不 織布等でコンクリート表面を覆う. ② 養生水をアルカリ性とし,セメントからのCaイオンの溶出を止める. ③ 連続通水を行わず,間欠的に通水し炭酸化の進行時間を抑制する. ④ 緩衝シート(気泡緩衝シート)に3層シートを採用する. 写真 5.4-2 養生シート撤去後の乾燥開始時の 表面状況 写真 5.4-1 養生シート撤去直後の表面状況 105 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 5.4.2 試験内容 (1)エフロレッセンス対策の検討 1)織布等の採用 養生中に炭酸化したエフロレッセンスがコンクリート面に付着することを防止するため,図 5.4-1 に示すようにコンクリート面に織布等をあてがい,さらに気泡緩衝シートで覆うことに よってエフロレッセンスの析出を織布面に生じさせることを狙ったものである.極めて薄い透 水性の織布等(布,織布,不織布,スポンジ等)を貼り付けた上に気泡緩衝シートを設置する. エフロレッセンスの析出は,織布等とコンクリート面の間に生じ,浸水養生終了後,織布等 を撤去するとこれに付着したエフロレッセンスを同時に除去できるという発想に基づく. 2)養生水のアルカリ化 養生水は,浸水養生開始後,半日程度で pH12 程度の強アルカリとなる.このアルカリ性は, セメントから溶出される水酸化カルシウムがイオン化し,炭酸カルシウムの析出と水酸基イオ ンの生成によって強アルカリとなると思われる.ここで,イオン化傾向がカルシウムよりも小 さいナトリウムで養生水を飽和させておくと炭酸ナトリウムとなり,炭酸カルシウムの析出を 阻害させるのではないかという発想に基づく. 実験は図 5.4-2 に示すように,給水タンクに貯めた養生水に水酸化ナトリウムをあらかじめ 溶かし,pH が 11.5 程度となったことを確認し養生水として用いる. 3)間欠通水 今回の供試体試験では,浸水養生期間中の全てにおいて連続的に養生水の流下と吸引を継続 した.しかし,コンクリート面と浸水シートの間が浸潤していれば,常時通水する必要は無い. 浸水養生開始時点では, コンクリートの吸水量が多く, 数時間は連続通水が必要と思われるが, 数時間後以降は,6 時間ごとに 30 分程度の通水によって浸潤状態は保たれるものと想定される. これにより,エフロレッセンスの析出時間を短縮し,結果的にエフロレッセンス対策となるこ とが期待できるという発想に基づく. 間欠通水の方法は,給水ポンプの電源にコンセントタイマーをセットし,作動・休止時間を 設定する. 4)3層シート 養生シートとして用いている気泡緩衝シートの 3 層品を使用する.円形もしくは亀の甲羅 状の形状が現れないように,両面とも平滑面を有する 3 層シートを,コンクリート面に当て 凹部への養生水の侵入を防止し析出物を発生させないという発想に基づく. 106 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 給水孔 エフロ析出 浸水シート 浸水シート 循環養生水 内面織布等 湿潤養生水 排気孔 図 5.4-1 織布等によるエフロレッセンスの除去 水酸化ナトリウムで飽和 給水タンク 給水管 浸水養生シート 汲上ポンプ 集水タンク 水酸化ナトリウム溶解 図 5.4-2 アルカリ水を用いた養生方法 (2)試験方法 試験は前述のエフロレッセンス対策を大型試験体の適用し,その効果を確認する.使用した コンクリートの配合を表 5.4-1 に示す.大型試験体は,横 180 ㎝,高さ 90 ㎝,幅 6 ㎝とし, コンクリート打設後 3 日~4 日養生した後,型枠を取りはずし,直ちに浸水養生を開始する. 試験ケースを表 5.4-2,試験用の型枠および対策方法割付図を図 5.4-3~5.4-4 に示す. 表 5.4-1 コンクリートの配合 粗骨材 の最大 寸法 (㎜) スランプ (㎝) 20 12±2.5 空気量 (%) 水セメント 比 W/C (%) 細骨 材率 s/a (%) 4.5±1.5 55 45.8 107 水 セメント 165 300 単位量(kg/m3) 粗骨材 砂 15-5 20-15 混和 剤 852 3.00 606 404 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 表 5.4-2 試験ケース CASE 試験目的 通水 方法 気泡 緩衝 シート シートの特徴 1 織布比較 連続 2層 木綿織布2層,木綿織布 1 層,ナイロンメッシュ 2 間欠比較 間欠 2層 木綿織布2層,木綿織布 1 層,ナイロンメッシュ 3 3層シート比較 間欠 3層 木綿織布 1 層,ナイロンメッシュ 4 アルカリ水比較 連続 2層 シート対策なし 5 不織布比較 連続 2層 不織布 6 不織布比較 間欠 2層 不織布 1800 合板型枠 合板型枠 900 第5章 転倒防止横材 転倒防止用ボルト(コンクリート埋込み) 図 5.4-3 試験用型枠 両面に跨いで養生 気泡緩衝シート 試験 3 試験 2 試験 1 無対策 織布等 脱型直後のコンクリート 気泡緩衝シート+織布 写真 5.4-4 対策案割付図 108 排水孔 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 給水タンク 送風機 循環ポンプ 試験体 排水管孔 集水タンク 吸引孔 排水ホース 写真 5.4-1 試験用型枠 写真 5.4-2 織布の種類 109 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 (3)実験結果および考察 実験結果を表 5.4-2 に示す.なお,養生期間は7日で行なった.エフロレッセンス対策とし て効果が認められたケースは,間欠養生を実施するケースで,織布を 2 層もしくは 1 層とした 場合である.気泡緩衝シートに織布等を重ねてもエフロレッセンスの発生自体の抑制効果は認 められないが,織布があることでエフロレッセンスがコンクリート表面に付着するのをある程 度抑制できるということである.また,給水方法については,連続的に7日間実施するよりも 間欠的に供給する方が,エフロレッセンス抑制効果があるということも分かった. CASE2における試験状況および養生後のコンクリート表面状況を,それぞれ写真 5.4-3, 5.4-4 に示す.なお,織布よりも軽量で安価な不織布を用いた場合も,木綿と同等の効果が得 られた.気泡緩衝シートの3層については,吸引力の均一性および水膜形成状態が不十分であ った.また,アルカリ水による対策については,水酸化ナトリウム溶液を溶解し,pH を 11.5 程度まで高めた養生水を使用して試験を行なったが,写真 5.4-5 に示すように,エフロレッセ ンスの抑制には何らの効果は認められなかった. 表 5.4-2 実験結果 CASE 試験目的 通水 方法 気泡 緩衝 シート 1 織布比較 連続 2層 木綿織布2層,木綿織布 1 層,ナイロンメッシュ 〇 2 間欠比較 間欠 2層 木綿織布2層,木綿織布 1 層,ナイロンメッシュ ◎ 3 3層シート 間欠 3層 木綿織布 1 層,ナイロンメッシュ - 4 アルカリ水 連続 2層 シート対策なし × 5 不織布 連続 2層 不織布 〇 6 不織布 間欠 2層 不織布 ◎ ※ シートの特徴 効果 備考 吸引不良 間欠養生の場合の給水時間は,連続給水の場合の 20%程度以内. 以上の検討の結果,エフロレッセンス対策が必要な場合には,以下の対策を検討することと する. ① 養生期間全体の 20%程度以内を目標とする間欠養生を実施する. ② 2層の気泡緩衝シートと不織布との併用を基本とし,工場で一体化したものを用いる.な お,不織布はコンクリートと気泡緩衝シートの間に取り付ける. ③ 養生開始から数時間で養生循環水は pH11 を超えるため,事前にアルカリ化する必要はな い. 110 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 木綿布二層 木綿布一層 ナイロンメッシュ 無し 写真 5.4-3 養生状況(CAE2:開始直後) 木綿二層 ナイロンメッシュ 木綿一層 写真 5.4-4 養生完了後乾燥状況(CASE2:養生シート撤去4日後) 写真 5.4-5 アルカリ養生水による対策(CASE4:乾燥後) 111 無し 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 5.5 吸水量と吸水速度に関する試験 5.5.1 試験内容 (1)実験方法 型枠取りはずし後から浸水養生を実施する場合, 養生水の供給量を推定しなければならない. そのため,吸水量および吸水期間を実験室レベルで検討する[4]. 直径 10 ㎝×高さ 20 ㎝の圧縮強度試験用の円柱供試体を作製し,実構造物で想定される型枠 の取りはずし時期に供試体の型枠を取りはずす.その後,供試体の底面を写真 5.5-1 および図 5.5-1 に示すように深さ 10 ㎜の水に浸す.供試体は,表面からの水分の逸散を防ぐために側面 および上面(打込み面)を薄いビニールシートで密閉する. ビニールシートにより密閉 吸水 シーリング 10mm 第5章 写真 5.5-1 供試体の吸水状況 織布 図 5.5-1 供試体の養生状況 (2)使用セメント 供試体は,一般構造物への適用も考慮して,普通,早強,高炉 B 種,中庸熱,フライアッシ ュセメントの 5 種類のセメントを使用する.使用するセメントの仕様を表 5.5-1 に示す.また 混和材として膨張材を使用する. 表 5.5-1 使用セメントおよび混和材の仕様 仕 様 項目 普通 (N) 早強 (H) 中庸熱 (M) 高炉 B (BB) フライアッシュ (FB) 膨張材 密度(g/㎝ 3) 3.16 3.16 3.21 3.04 2.25 3.05 比表面積 (㎝ 2/g) 3,300 4,470 3,150 3,830 4,150 2,840 112 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 (3)配 合 各配合は,水セメント比または水粉体比を 55%一定とした.コンクリートの配合表を表 5.5-2 に示す. 表 5.5-2 コンクリートの配合表 単位質量(kg/m3) 混和剤 (ℓ) セメント の種類 水 セメント 混和材 細骨材 粗骨材1 1505 粗骨材2 2015 N 165 300 - 834 681 342 3.00 H 167 304 - 829 677 340 3.04 BB 168 305 - 824 672 337 3.05 M 164 298 - 838 684 343 2.98 FB 159 231 58 837 683 343 2.89 N+膨張材 165 280 20 834 681 342 3.00 BB+膨張材 168 285 20 824 673 338 3.05 (4)型枠の取りはずし時期 表 5.5-3 に示す型枠を取りはずす標準時期は,2007 年制定コンクリート標準示方書(以下, 示方書)施工編の外気温 15℃以上の場合の湿潤養生期間を基本に設定する.中庸熱セメントに ついては,圧縮強度が他のセメントと同程度になる 9 日間とする.普通セメントと高炉セメン ト B 種を使用したコンクリートでは,型枠の取りはずし時期がコンクリートの吸水に与える影 響を確認するため,標準時期よりも早期に取りはずす場合も設定する. 表 5.5-3 型枠の取りはずし時期 セメントの種類 取りはず し時期 普通 早強 高炉 B種 中庸熱 フライアッシュ 普通+ 膨張材 高炉+ 膨張材 標準 5日 3日 7日 9日 7日 5日 7日 早期 3日 - 4日 - - - - (5)吸水量の測定方法 型枠取りはずし後,すぐに側面および上面を密閉した後に供試体の質量を測定して初期値と する.以降は,水に浸漬した供試体を 1 回/日,引き上げて表面水をよく拭き取って質量を測定 し,初期値との差を吸水量とする. 113 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 5.5.2 試験結果および考察 型枠を標準時期に取りはずした場合の供試体の吸水量を,底面積で除した単位面積当り吸水 量の経時変化を図 5.5-2 に示す.膨張材を使用していない供試体の単位面積当り吸水量は 0.48 ~0.65ℓ/㎡となった.また,膨張材を混入した配合の単位面積当り吸水量は,同じセメントで 混入しない場合に比較して,普通セメントで 1.8 倍,高炉セメントで 1.4 倍増加している. 型枠の取りはずしを早期に行った場合と標準期間養生の場合の単位面積当り吸水量の比較 を図 5.5-3 に示す.早期に型枠を取りはずして浸漬した方が,普通セメントでは 1.2 倍,高炉 セメントでは 1.8 倍程度多く吸水していることが確認できた. 浸漬 1 日目の吸水量を 100%として,各配合の浸漬開始からの日吸水量の割合を図 5.5-4 に 示す.ほとんどの配合で 7 日目では 20%以下,14 日目以降では 5%以下となっており,コン クリートの吸水が有効である期間は,浸漬後 7~14 日程度であることが確認できた. 1.0 早強 中庸熱 普通+膨張材 単位面積当り吸水量(ℓ/m2) 普通 高炉 フライアッシュ 高炉+膨張材 1.0 0.5 普通(3日) 普通(5日) 高炉(4日) 高炉(7日) 0.5 0.0 0.0 0 5 10 15 材齢(日) 20 0 25 図 5.5-2 材齢と単位面積当たり吸水量 5 10 15 材齢(日) 普通 早強 高炉 中庸熱 フライアッシュ 普通セメント+膨張材 高炉セメント+膨張材 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 0 20 図 5.5-3 吸水量と型枠取りはずし時期の関係 100.0 日吸水量の割合(%) 単位面積当り吸水量(ℓ/m2) 1.5 5 10 15 20 吸水期間(日) 図 5.5-4 吸水期間と日吸水量の関係 114 25 25 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 吸水量と吸水速度および養生期間についての試験結果は,以下のとおりである. ① 示方書の湿潤養生期間に則り型枠を取りはずした場合,浸水養生によりコンクリート表 面から吸水される水量は 0.48~0.65ℓ/m2 である. ② 膨張材を混入した場合,混入しない場合に比べて単位面積当り吸水量が,普通セメント で 1.8 倍,高炉セメントで 1.4 倍となる.これは,エトリンガイトの生成に多くの水分 が必要であるためだと考えられる. ③ 示方書の標準養生時期より早期に型枠を取りはずした場合,単位面積当り吸水量が,普 通セメントで 1.2 倍,高炉セメントで 1.8 倍となる. ④ 浸水養生が有効な期間は,経済性を考慮すると 7 日~14 日程度である. 115 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 5.6 浸水養生と水中養生の養生効果の比較試験 5.6.1 試験内容 浸水養生と現場水中養生を比較し,脱型後の養生方法が圧縮強度および質量変化に及ぼす影 響を確認するための試験を行う[5]. 試験には普通ポルトランドセメント(N),高炉セメントB種(BB)を用いる.レディーミクス トコンクリート工場から生コンクリートを購入して,φ100 ㎜,高さ 200 ㎜の円柱供試体を作 成し,型枠取りはずしまで上面をラップで覆い,封かんする.配合条件は,粗骨材最大寸法 20 ㎜,スランプの範囲 8±2.5 ㎝,空気量の範囲 4.5±1.5%であり,その配合を表 5.6-1 に示す. 表 5.6-1 コンクリートの配合 セメントの 種類 普通 高炉B W/C (%) 55 55 s/a (%) 43.6 43.8 W 159 155 単位量(kg/m3) C S G 289 802 1068 282 810 1039 写真 5.6-1 アクアカーテン供試体の作成手順 116 ad. 3.09 3.02 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 各供試体は,型枠取りはずし時にキャッピングを行った後,表 5.6-2 に示す 5 ケースで養生 する.脱型材齢は,コンクリート標準示方書に示される湿潤養生期間の標準(N:5 日,BB: 7 日)を満たすようにしたケースを実施工養生とする.その他のケースは,材齢 2 日で脱型し 水中養生した水中養生,実施工養生の 6 割の期間で脱型し気中養生した短縮養生,現場温度条 件下で材齢 2~4 日に脱型し浸水養生を 1 週間行った後,気中養生した浸水養生,現場温度条 件下で材齢 2~4 日に脱型し現場水中養生を 1 週間行った後,気中養生した現場水中養生であ る. なお,浸水養生供試体は,写真 5.6-2 に示すように,底部容器の台座上に供試体を 3 本積み 重ね,不織布および気泡緩衝シートを巻き付け,底部容器との隙間を塞ぎ,天端をラップで覆 う.そして,底部容器に設けた吸引口から内部の空気を吸引し,シートとコンクリートを密着 させたのち,表 5.6-3 に示す給水間隔で天端のラップを一旦はずし,養生水を全面に行き渡る まで供給することで,現場で実施する浸水養生と同様の養生状態を再現する. 表 5.6-2 養生方法 養生ケース 水中養生 セメント N,BB N BB N BB 温度 脱型材齢 脱型後の養生 20℃ 2日 水中 5日 気中 実施工養生 20℃ 7日 気中 3日 気中 短縮養生 20℃ 4.2日 気中 2日 浸水1週⇒気中 現場 浸水養生 N,BB 3日 浸水1週⇒気中 温度 4日 浸水1週⇒気中 2日 水中1週⇒気中 現場 現場水中養生 N,BB 3日 水中1週⇒気中 温度 4日 水中1週⇒気中 ※脱型まで供試体上面をラップで覆い封かん 表 5.6-3 間欠給水 給水時期 給水間隔 開始~6時間 1時間 6時間~1日 3時間 1日~2日 4時間 2日~5日 6時間 5日~7日 12時間 写真 5.6-2 浸水養生供試体 5.6.2 試験結果および考察 (1)水中養生と実施工養生および短縮養生 図5.6-1によると実施工養生および短縮養生では, 材齢28日以降の強度増加が認められない. また,図 5.6-2 によると水中養生では質量が増加するが,実施工養生および短縮養生では気中 養生中に質量が減少する. 117 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 (2)浸水養生と実施工養生および短縮養生 脱型後に気中養生した実施工養生と短縮養生の材齢 28 日圧縮強度は,図 5.6-3 に示すよう に,セメントの種類に関わらず,脱型材齢が早い短縮養生の方が低い.一方,浸水養生を行っ た場合には,脱型材齢の影響は認められない.また,比較した養生条件の範囲では,実施工養 生よりも脱型材齢を早くして浸水養生を行った方が大きな強度が得られ,その効果は普通ポル トランドセメントより高炉セメントの方が大きい.材齢 28 日時点の質量を比較した図 5.6-4 に よると,浸水養生の場合は,セメントの種類の差は小さい.実施工養生および短縮養生の場合 の質量は浸水養生より小さくなっており,高炉セメントは普通ポルトランドセメントより大き く減少している.よって,1 週間の浸水養生によって高炉セメントの方が多くの養生水を吸水 している. (3)現場水中養生と浸水養生 脱型後 1 週間経過した材齢 9~11 日に実施した現場水中養生の圧縮強度に対する浸水養生の 圧縮強度比率を図 5.6-5 に示す.強度比は 100%前後であり,両養生の効果は等しいと考えら れる.また,脱型材齢が 2~4 日における現場水中養生に対する浸水養生の材齢 28 日圧縮強度 比率を図 5.6-6 に,質量比率を図 5.6-7 に示す.これらによれば,どちらも 100%前後の比率と なっており,両養生の効果は同等と考えられる. 浸水養生と水中養生の養生効果についてまとめると,以下のようになる. 実施工養生よりも,脱型材齢を早くして浸水養生を行う方がより大きな強度が得られる.言 い換えれば,コンクリート打設後の養生としては,コンクリート標準示方書の規定に基づき型 枠での養生を行うよりも, 打ち込んだコンクリートが自重等に耐えられる強度に達した段階で, 早期に型枠を取りはずし浸水養生を行う方がコンクリートの品質向上に繋がるということであ る.また,アクアカーテンの養生効果は,圧縮強度や供試験体の質量変化の試験結果から水中 養生と同等の結果を得られたことから,浸水養生の効果は,同期間同温の現場水中養生を実施 した供試体で確かめることができる. 45 2.38 水中養生 実施工養生 短縮養生 3 40 質量(ton/m ) 2 圧縮強度(N/mm ) 第5章 35 30 25 N:普通セメント 20 28 30 60 91 90 水中養生 実施工養生 短縮養生 2.34 2.32 2.30 2.28 0 7 2.36 N:普通セメント 07 3028 60 材齢(日) 材齢(日) 90 91 図 5.6-2 養生方法と質量の比較 図 5.6-1 養生方法と圧縮強度の比較 118 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 実施工(N) 実施工(BB) 浸水養生(N) 浸水養生(BB) 2.34 40 3 質量(ton/m ) 2 圧縮強度(N/mm ) 45 短縮養生(N) 短縮養生(BB) 35 30 25 短縮養生(N) 浸水養生(N) 実施工(BB) 短縮養生(BB) 浸水養生(BB) 2.33 2.32 2.31 2.30 20 1 2 3 4 5 脱型材齢(日) 6 7 1 8 現場水中養生に対する 浸水養生強度比(%) 110 100 90 N:普通セメント BB:高炉セメント 80 8 9 10 11 試験材齢(日) 12 現場水中養生に対する 浸水養生質量比(%) 100.5 100.0 N:普通セメント BB:高炉セメント 1 2 3 4 脱型材齢(日) 4 5 脱型材齢(日) 6 7 8 100 90 N:普通セメント BB:高炉セメント 80 2 3 4 脱型材齢(日) 5 図 5.6-6 現場水中養生に対する浸水養生強度 比率に脱型材齢が及ぼす影響 (試験材齢 28 日) 101.0 99.0 3 110 1 図 5.6-5 現場水中養生に対する浸水養生強度比 率(試験材齢脱型後 1 週) 99.5 2 図 5.6-4 養生方法と材齢 28 日質量 図 5.6-3 養生方法と材齢 28 日圧縮強度 現場水中養生に対する 浸水養生強度比(%) 実施工(N) 5 図 5.6-7 現場水中養生に対する浸水養生質量比率 に脱型材齢が及ぼす影響(試験材齢 28 日) 119 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 5.7 浸水養生の実施時期と養生効果 5.7.1 試験内容 アクアカーテンでは,型枠を取りはずした後,できるだけ早い時点で給水することを基本と している,現場においては,型枠緊結材や支保材,型枠の取りはずしとこれらの撤去作業など の事前作業が必要となる.型枠面積が広い場合にはアクアカーテンの実施が翌日となり,休日 等の関係で3日後とならざるを得ない場合がある.そこで,型枠の取りはずし時期,アクアカ ーテンの開始時期や実施期間および水セメント比を浸水養生実施方法に対するパラメータとし て取り上げ, 56 日圧縮強度および吸水・乾燥に伴う質量変化量に及ぼす影響を調査する[6],[7]. 試験には高炉セメントB種(BB)を用い,表 5.7-1 に示す水セメント比の異なる 4 種類の配合 のコンクリートをφ100 ㎜,高さ 200 ㎜の円柱型枠に打ち込んで供試体を作成し,表面をラッ プする. キャッピングを終了した供試体の養生方法を表 5.7-2 に示す.水セメント比は 45~60%間を 5%間隔で5ケース,型枠の取りはずし時期は,コンクリート示方書に示す湿潤養生期間の標 準(15℃以上, BB:7 日)を参考にし,アクアカーテン開始時期を 3 ケース,アクアカーテン 実施期間を 2 ケースとする.湿潤養生以外の気中養生は温度 20±3℃,相対湿度 60%の環境下 とし,アクアカーテンは養生効果が同等と確かめられている水中養生(温度 20±3℃)とする. 封かん養生は供試体全体をラップする方法とする. また,比較のため型枠取りはずしの翌日,封かん養生を 1 週間行うケースと水中養生を 28 日まで行うケースを実施する.圧縮強度試験は,供試体の湿潤の影響を避けるため所定の養生 が終了した後,28 日間以上気中養生を経た材齢 56 日を基準とする. 5.7.2 試験結果および考察 (1)養生中の質量変化 水セメント比 55%における型枠取りはずし後の質量変化量を,図 5.7-1(1)~(3)に示す.水中 養生のケースは,材齢経過とともに吸水が進み質量が増加する.アクアカーテン養生のケース は,養生前は急激な質量減となるが,養生開始後は吸水とともに質量が増大し水中養生と同様 な質量となる.図 5.7-1(1),(2)は,3日および5日で型枠を取りはずしアクアカーテン養生の開 始時期を変化させたものであるが,養生開始時期が遅いほど乾燥による質量減は大きくなる. 養生開始後は吸水により再び質量増に向かうが,開始時期が遅くなればなるほど水中養生との 差異は大きくなる.しかし,材齢 56 日においてはいずれのケースも同様な質量変化量となる. 図 5.7-1(3)は3日で型枠を取りはずしアクアカーテンを2週間実施した質量変化を示したもの である.図 5.7-1(1)と比較すると養生期間の延長にともない材齢 56 日での質量変化量も1割程 度改善されている. 120 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 表 5.7-2 養生方法 表 5.7-1 コンクリートの配合 W/C (%) 45 50 55 60 s/a (%) 44.7 45.7 46.7 47.7 3 W 159 159 159 156 型枠取り 外し時期 単位量(kg/m ) C S G ad. 353 796 1020 3.53 318 828 1024 3.18 289 857 1021 2.89 260 891 1020 2.60 3日 5日 3日 5日 翌日 7日 翌日 2日 当日 封かん1週間 AC1週間 封かん1週間 水中養生 20 20 標準水中養生 3日脱型当日アクア1W 3日脱型翌日アクア1W 3日脱型2日後アクア1W 0 標準水中養生 5日脱型当日アクア1W 5日脱型翌日アクア1W 5日脱型2日後アクア1W 10 0 質量変化量(kg/m3) 10 質量変化量(kg/m3) 湿潤養生 湿潤養生 実施期間 開始時期 当日(6時間) AC1週間 翌日 AC2週間 2日後 -10 -20 -30 -40 -50 -10 -20 -30 -40 -50 -60 -60 高炉セメントW/C=60% -70 0 10 20 30 40 脱型後の材齢(日) 50 60 高炉セメントW/C=60% -70 0 10 20 30 40 脱型後の材齢(日) (2)アクアカーテン開始時期の影響(5日脱型) (1)アクアカーテン開始時期の影響(3日脱型) 20 標準水中養生 3日脱型当日アクア2W 3日脱型翌日アクア2W 3日脱型2日後アクア2W 質量変化量(kg/m3) 10 0 -10 -20 -30 -40 -50 -60 高炉セメントW/C=60% -70 0 10 20 30 40 脱型後の材齢(日) 50 50 60 (3)アクアカーテン実施期間の影響(AC2週間) 図 5.7-1 脱型後材齢と質量変化(BB:水セメント比 60%) 121 60 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 図 5.7-2 に水セメント比毎の質量変化量を示す.1 ヶ月後の 4 配合の平均質量は 17kg/m3 の 増加となり,水セメント比の影響は小さくその差は 2.4 kg/m3 である.しかし,2ヶ月後の気 中養生による質量減少は水セメント比の影響が大きく現れている. 図 5.7-3 に示すように供試体の脱型後養生開始までの質量変化は,養生開始までの経過時間 に比例し質量が減少する.また,型枠取りはずし後から2日時点における質量減少量に及ぼす 水セメント比の影響は,最大差でも 6kg/m3 と小さい.このことから,脱型後の湿潤養生の開 始の遅れが 2 日迄程度であれば,養生開始時期や水セメント比の影響を考慮する必要はない. 図 5.7-4 に示すように,アクアカーテンの実施期間による質量増加の効果は,1 週間実施で 9.7kg/m3,2 週間実施では 11.3kg/m3 となり約 16%増加する.また,アクアカーテンの開始時 期の影響は大きく,当日(養生開始6時間後)と2日後の質量変化量は 40%程度異なる結果と なった.よって,吸水による質量増加を多くする場合には,型枠取りはずし後できるだけ早期 にアクアカーテンを開始する方が良い. 図 5.7-5 に示すように,アクアカーテン実施期間による質量増加量を水セメント比で整理す ると,多少のバラツキが認められるもののその影響は小さい.水セメント比が小さいことでよ り多く吸水しようとするものの,低透水性となり水分移動が抑制され,結果的に吸水が阻害さ れているものと推定される. 各水セメント比の材齢56日における質量変化をまとめたものを, 図5.7-6と図5.7-7に示す. なお,両者はそれぞれ型枠取りはずし時期,アクアカーテン開始時期をパラメータとして整理 したものである.図 5.7-6 より,型枠の脱型時期が打設後 3~7 日の範囲においては,型枠取り はずし時期の違いが質量変化量に与える影響は3%以内と小さいが,水セメント比の影響は大 きく水セメント比 45%より 60%では質量変化量が 1.5 倍となっている.図 5.7-7 より,アクア カーテン開始時期が打設当日~2 日後の範囲において,水セメント比の違いが質量変化量に与 える影響は5%以内と小さいことがわかる.また,水セメント比がアクアカーテン開始時期お よびアクアカーテン実施期間に及ぼす影響も小さい. アクアカーテンの実施期間の影響と養生方法の影響についてまとめたものを,それぞれ図 5.7-8 および図 5.7-9 に示す.図 5.7-8 より,アクアカーテン実施期間を 1 週間から 2 週間に延 長することで質量変化量を 17%低減できていることら,質量変化量をより低減するにはアクア カーテン実施期間を延長することが効果的である.また,図 5.7-9 より,封かん養生よりもア クアカーテンの質量変化量は 9%程度低減できており,型枠を残置するより,脱型後アクアカ ーテンを実施した方が,質量変化量を低減できる. 122 0 20 10 0 -10 -20 -30 -40 質量変化量(kg/m3 ) 質量変化量(kg/m3 ) コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 1ヶ月後の質量 2ヶ月後の質量 40 45 50 55 60 水セメント比(%) -10 -20 -30 -40 W/C=45% W/C=55% -50 -60 65 0 質量変化量(kg/m ) 図 5.7-2 水中養生の質量変化 3 質量変化量(kg/m ) 3 AC2週間 10 AC1週間 5 0 1 2 AC開始時期(日) 10 AC1週間 5 0 45 50 55 60 水セメント比(%) 65 0 -20 脱型7日後 脱型5日後 -30 -40 -50 当日 翌日 2日後 -10 質量変化量(kg/m3 ) -10 脱型3日後 3 質量変化量(kg/m ) AC2週間 図 5.7-5 AC による質量増加(AC 終了時) 0 -20 -30 -40 -50 -60 -60 65 40 図 5.7-6 W/C と質量変化量(脱型時期の影響) 図 5.7-7 40 45 50 55 水セメント比(%) 60 45 50 55 水セメント比(%) 60 65 W/C と質量変化量(AC 開始時期の影響) 0 質量変化量(kg/m3 ) 0 3 15 40 図 5.7-4 AC による質量増加(AC 養生開始時) 質量変化量(kg/m ) 1 2 脱型からの経過時間(日) 図 5.7-3 養生前の質量変化 15 0 W/C=50% W/C=60% -10 -20 -30 AC2週間 -40 AC1週間 -50 -10 -20 AC実施 -30 -40 -50 封かん養生実施 -60 -60 40 図5.7-8 45 50 55 水セメント比(%) 60 40 65 W/Cと質量変化量(AC実施期間の影響) 123 図 5.7-9 45 50 55 水セメント比(%) 60 65 W/C と質量変化量(養生方法の影響) 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 (2)56 日圧縮強度 各水セメント比の材齢56日における圧縮強度をまとめたものを図5.7-10と図5.7-11に示す. なお,両者はそれぞれ型枠取りはずし時期,アクアカーテン開始時期をパラメータとして整理 したものである.前述した質量変化量と同様に,型枠の脱型時期が打設後 3~7 日の範囲にお いては,水セメント比の違いが圧縮強度に与える影響は極めて小さいことがわかる.また,ア クアカーテン開始時期が打設当日~2 日後の範囲において,水セメント比の違いが圧縮強度に 与える影響も1%と小さいことがわかる.ただし,水セメント比がアクアカーテン開始時期お よびアクアカーテン実施期間に及ぼす影響は小さい. アクアカーテンの実施期間の影響と養生方法の影響についてまとめたものを,それぞれ図 5.7-12 および図 5.7-13 に示す.前述した質量変化と同様に,アクアカーテン実施期間を 1 週間 から 2 週間に延長することで圧縮強度を 10%向上できていることから,圧縮強度をより増大さ せるにはアクアカーテン実施期間を延長することが効果的である.一方,養生方法の影響につ いては,図 5.7-13 に示すように封かん養生よりアクアカーテン養生の方が圧縮強度は 3%向上 しているが,質量変化量ほど大きな効果は得られていない. なお,水セメント比と圧縮強度には明瞭な関係が認められており,水セメント比 55%以下でそ の影響は大きい. 材齢 56 日における質量変化量と圧縮強度関係を図 5.7-14 に示す.供試体の質量変化量と圧 縮強度は相関関係にあり,脱型からの質量変化量が大きいほど圧縮強度は小さくなる傾向にあ る.図中の○印で囲った測定値は,標準水中養生を行った供試体強度であり,いずれの水セメ ント比においても最も大きな値が得られている.質量変化量は養生方法の影響を受け,脱型か らの質量変化量が大きいほど圧縮強度は小さくなる傾向が明瞭である.このことから型枠を取 りはずした後,養生水を十分供給することが圧縮強度を高めるために有効であり,同時にかぶ りコンクリートの密実性も向上することが期待できる. 浸水養生の実施時期と養生効果をまとめると以下のようになる. アクアカーテンによる浸水養生が同期間型枠を存置するよりも強度増進の面で効果的であ ることが確かめられた.またアクアカーテンの養生方法に対して質量変化および 56 日圧縮強 度に及ぼす水セメント比(45%から 60%の範囲)の影響は小さいことが判明した. したがって,一般に使用される水セメント比の範囲のコンクリートに対しては,アクアカー テンの施工手順として特に考慮する必要はないことが確かめられた.ただし,アクアカーテン の効果をより高める場合には,2 週間程度まで実施期間を延長することが好ましい. 124 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 60 圧縮強度(N/mm ) 50 2 2 圧縮強度(N/mm ) 60 40 30 ●脱型3日後 ■脱型5日後 ▲脱型7日後 20 10 0 図 5.7-10 45 50 55 60 水セメント比(%) ●当日 ■翌日 ▲2日後 20 10 40 W/C と圧縮強度(脱型時期の影響) 図 5.7-11 45 50 55 60 水セメント比(%) 65 W/C と圧縮強度(AC 開始時期の影響) 60 2 50 圧縮強度(N/mm ) 2 30 65 60 圧縮強度(N/mm ) 40 0 40 AC2週間 40 AC1週間 30 20 10 0 50 AC1週間 40 封かん養生実施 30 20 10 0 45 50 55 60 水セメント比(%) 65 45 W/C と圧縮強度(AC 実施期間の影響) 図 5.7-13 50 55 水セメント比(%) 55 2 50 45 40 W/C=60% 35 W/C=55% 30 W/C=50% 25 W/C=45% ○標準水中養生 20 0 -20 -40 質量変化量(kg/m3 ) 図 5.7-14 質量変化と圧縮強度関係 125 60 W/C と圧縮強度(養生方法の影響) 60 圧縮強度(N/mm ) 40 図 5.7-12 50 -60 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 5.8 まとめ (1)システム開発の設計思想と浸水養生の定義 アクアカーテンによる養生は,壁面や柱および覆工等のコンクリート構造に対し,安定的に 水膜を形成させ養生水を供給できる工法である.そのため,これまで現場において採用されて いる湿潤養生区分にはない新しいタイプの養生方法となる. 「壁面等の鉛直面やアーチ構造物内側面のコンクリートに対し,養生シートを用い給水を行 いながら,常にコンクリート表面に水膜を形成させ湿潤養生を行うこと」を浸水養生工法と定 義する.なお,アクアカーテン養生システムは,この浸水養生を行う唯一の工法である. (2)アクアカーテン養生システムの概要 アクアカーテン養生システムは,養生シート,吸引装置,給水装置から構成され,養生シー トとコンクリート表面の間の空気を,吸引機により吸出し減圧することで,壁面や柱のような 鉛直面や覆工のようなアーチ構造物内面にも養生シートを密着させることができる.このよう にコンクリート面に養生シートを密着させた状態で,給水を行いコンクリート表面に水膜を形 成させることで,より水中養生に近い状態で湿潤養生を行うことができる. 養生シートは減圧部と気密部からなり,減圧部には表面に凹凸をもつ気泡緩衝シートを採用 した.気泡緩衝シートは,安価で保温性にも優れ,軽量であることから施工性でも優れる.更 に養生シートのコンクリート側に親水性の不織布を付けることで保水能力を向上させることが できた. (3)浸水養生によるコンクリート壁面の汚れ対策 ・ 浸水養生期間全体の 20%程度以内を目標とする間欠養生を実施する. ・ 緩衝シートと不織布との併用した浸水養生シート基本とし,工場で一体化したものを用い る. ・ 吸引孔を水平方向に張り巡らせた排水ドレーンとラップさせて設置する.また,排水ドレ ーン背面とコンクリートの間には不織布を取り付ける. ・ 養生開始から数時間で養生循環水の pHは 11 を超えるので,事前にアルカリ化はしない. (4)吸水量と吸水速度に関する試験 ・ 示方書の湿潤養生時期に合わせ,型枠を標準時期に取りはずした場合,浸水養生によりコ ンクリート表面から吸水される水量は,0.48~0.65ℓ/m2 である. ・ 膨張材を混入した場合,混入しない場合に比べて単位面積当り吸水量が,普通セメントで 1.8 倍,高炉セメントで 1.4 倍多くなっている.混入しない場合に比べ吸水量が多くなる のはエトリンガイトの生成に多くの水分が必要であるためだと考えられる. 126 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 ・ 示方書の湿潤養生時期より早期に型枠を取りはずした場合,単位面積当り吸水量が,普通 セメントで 1.2 倍,高炉セメントで 1.8 倍多くなっている. ・ 浸水養生が有効な期間は,7 日~14 日程度である. 以上のことから,浸水養生の給水期間は,1~2 週間が有効であることが確認できた.また, 浸水養生を行う時の吸水量は,膨張材を混入した場合および型枠を早期に取りはずした場合に 多くなることが確認できた. (5)浸水養生と水中養生の養生効果の比較試験 ・ 実施工養生よりも,脱型材齢を早くして浸水養生を行う方がより大きな強度が得られる. ・ 浸水養生の効果は,同期間,同温の現場水中養生を実施した供試体で確かめることができ る.すなわち,アクアカーテンの養生効果は,同水温の水中養生で評価して良い. (6)実施時期と養生効果 ・ 型枠取りはずし時期が湿潤養生期間の標準より早期であっても浸水養生を 1 週間行うこと で,型枠を 1 週間存置するより大きな圧縮強度が得られる. ・ 型枠の取りはずしから浸水養生を開始する時期が型枠取りはずしの翌日あるいは 2 日後と なっても,同等の浸水養生の効果が得られる.したがって,現場の作業工程や休日などに よって浸水養生の開始時期を調整して対応することは可能である. ・ アクアカーテンによる浸水養生が同期間型枠を存置するよりも強度増進の面で効果的であ ることが確かめられた. ・ アクアカーテンの養生方法に対して質量変化および 56 日圧縮強度に及ぼす水セメント比 (45%から 60%の範囲)の影響は小さいことが判明した. したがって,一般に使用される水セメント比の範囲のコンクリートに対しては,アクアカー テンの施工手順として特に考慮する必要はないことが確かめられた.ただし,アクアカーテン の効果をより高める場合には,2 週間程度まで実施期間を延長することが好ましい. (7)浸水養生工法の施工仕様 上述の成果にもとづいて,浸水養生工法の施工仕様は,以下のとおりとする. 1)型枠の取りはずし時期は,コンクリート標準示方書に定める型枠・支保工の取りはずしで 解説している型枠を取りはずしてよい時期のコンクリート圧縮強度の参考値を満たす時期以 降(表 5.8-1) . 2)浸水養生の開始時期は,型枠取りはずし後できるだけ早い時期とするが,脱型後 3 日以内 に開始することを原則とする. 3)浸水養生の実施期間は,浸水養生の最短でも 1 週間は実施する.型枠存置期間と浸水養生 期間の合計は,コンクリート標準示方書の定める湿潤養生期間の標準以上の期間とする(表 5.8-2) . 127 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 4)給水量および給水間隔は,養生中のコンクリート表面の水分状態を確かめながら決めるこ とを原則とするが,最初の給水では,コンクリートが多量の水分を吸収するため,給水状況 を観察しながら給水を行う. 次回以降は, 表5.8-3 に示すような間欠養生を行うものとする. 5)浸水養生シートは,気泡緩衝シート(#37 以上)および親水性の不織布(目付け量 30g/m2 以上)を重ね合わせて使用する. 表 5.8-1 型枠の取りはずし時期 例 コンクリートの 圧縮強度(N/㎜ 2) フーチングの側面 3.5 柱,壁,はりの側面 5.0 スラブ,はりの底面, アーチの内面 14.0 部材面の種類 厚い部材の鉛直または鉛直に近い面,傾いた上面,小 さいアーチの外面 雨水部材の鉛直または鉛直に近い面,45°より急な傾 きの下面,小さいアーチの内面 橋,建物等のスラブおよびはり,45°より緩い傾きの 下面 表 5.8-2 湿潤養生期間 日平均 気温 普 通 セメント 高炉セメント B 種 フライアッシュセメント B 種 早 強 セメント 中庸熱 セメント 低 熱 セメント 15℃以上 5日 7日 3日 10日 12日 10℃以上 7日 9日 4日 12日 15日 5℃以上 9日 12日 5日 15日 18日 表 5.8-3 間欠養生方法 浸水養生日 間欠養生方法 初日 2日 3 日~5 日 6 日以降 3 時間ごと 4 時間ごと 6 時間ごと 12 時間ごと 8 回/日 6 回/日 4 回/日 2 回/日 128 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 参考文献 [1] 後藤幸正,尾坂芳夫監訳:ネビルのコンクリートの特性,技報堂出版株式会社,昭和 54 年,pp235-240. [2] 土木学会コンクリート標準示方書[施工編]2007 年版. [3] 掛樋雅人,平岡照規,稲川雪久,小無禮宏樹,吉武勇:AHP を用いたアンケートによるトン ネル覆工コンクリートの美観性調査:土木学会第 67 回年次学術講演会(平成 24 年 度),pp.25-26 [4] 白岩誠史,古川幸則,庄野昭:型枠取りはずし後の給水養生による給水量および給水期間の 検討,土木学会第 65 回年次学術講演会(平成 22 年 9 月),pp.1347-1348 [5] 齊藤淳,庄野昭:水中・封かん・浸水養生したコンクリート円柱供試体圧縮強度の比較,土 木学会第 66 回年次学術講演会(平成 23 年度),pp.575-576 [6] 庄野昭,斎藤淳:浸水養生に実施方法とその養生効果に関する考察,土木学会第 66 回年次学 術講演会(平成 23 年度),pp.557-558 [7] 林俊斉,齋藤淳:コンクリートの浸水養生効果に与える水セメント比の影響:土木学会第 66 回年次学術講演会(平成 23 年度),pp.569-570 129 第5章 浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 130 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 第6章 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 6.1 はじめに コンクリートが硬化後,所要の強度,耐久性,ひび割れ抵抗性等の性能を発揮させるために は,硬化初期において適切に養生を行うことが重要である.すなわち,打込み後一定期間,適 切な温度および湿度に保つ必要がある.特に,耐久性を確保する観点から,コンクリート表層 部の鉄筋のかぶり部が所要の物質移動抵抗性を有している必要があり,養生の良否が大きく影 響することが容易に推察される. 土木学会コンクリート標準示方書[1],建築学会建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コ ンクリート工事[2]等の標準類では,セメント種類,日平均気温,構造物の供用期間の級等に応 じた湿潤養生期間の標準が示されている.しかし,これらの湿潤養生期間が終了した時点では セメントの水和は不十分であり,当然ながら,コンクリートは所要の強度,耐久性を発揮して いない.したがって,構造物のおかれる環境条件によっては,その後のセメントの水和反応が 十分進行せず,所要の性能に達しない可能性も考えられる. コンクリート構造物の性能を確実に確保するためには,できる限り長く湿潤養生を行うこと が望ましい.さらに水分逸散を防ぐだけではなく,積極的に水を供給し十分な水がコンクリー ト中に保たれた状態を維持すること,すなわち給水養生が重要である.ただし,湿潤養生期間 の延長,給水養生の実施は,コンクリート構造物の種類によっては,必ずしも施工は容易では なく,工期の遅延,工事費のアップに繋がる可能性も高い.しかし,本研究で開発したアクア カーテンを採用することで,水中養生が困難な覆工表面についても確実な湿潤養生が可能であ る. 本章ではアクアカーテンによる養生について,より実構造物に近い条件で養生効果を明らか にするため,大型供試体を用いた室内実験について述べる.なお,実験では普通ポルトランド セメントおよび高炉セメントを使用したコンクリートを養生条件や養生期間を変化させ,強度 発現特性や長期耐久性に及ぼす影響を検討する. 131 第6章 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 6.2 実験方法 6.2.1 使用材料およびコンクリート配合 実験に使用するセメントは,覆工コンクリートに使用される頻度の高い高炉セメントB種と ポルトランドセメントの基本性能を確認する上で参考となる普通ポルトランドセメントを用い る.表 6.2-1 にセメント試験結果を示す. 配合試験は,トンネル覆工コンクリートとして最も一般的な配合条件として,スランプ 15cm, 水セメント比 60%の標準品を配合条件とする.いずれのコンクリートも使用量が多いため,全 て同一の生コン工場(㈱多摩,筑波工場)から購入し,材料も同工場のものを使用する.なお, トンネル覆工コンクリートと同配合にするためには最大粗骨材寸法は 40 ㎜となるが,生コン クリート工場の都合で 20 ㎜とする.実験用のコンクリートに使用する材料の詳細を表 6.2-1~ 表 6.2.2 に,配合を表 6.2-3 に示す. 表 6.2-1 セメント試験結果 セメントの種類 密度 粉末度 始発 終結 7 日強度 28 日強度 普通 3.16 3300 2-15 3-21 45.4 62.1 高炉B 3.04 3820 2-46 4-32 34.9 61.9 セメント:太平洋セメント㈱社製 細骨材 :神栖産陸砂,表乾密度 2.60g/cm3,FM2.4 佐野(唐沢鉱山)砕砂,表乾密度 2.70g/cm3,FM3.1 粗骨材 :石岡産砕石,表乾密度 2.67g/cm3,実積率 60.0% 混和剤 :AE減水剤標準形Ⅰ種 ポゾリス No.70 表 6.2-2 使用材料 材料 セメント C 細 骨 材 S S1 S2 粗骨材 G 混和剤 種 類 仕 様 普通ポルトランドセメント 密度 3.16g/cm3 陸砂(70%) 茨城県鹿島産 砕砂(30%) 栃木県佐野産 密度 2.58g/cm3 FM.3.00 密度 2.78g/cm3 F.M.2.51 砕石(20mm) 茨城県石岡産 密度 2.67g/cm3, 吸水率 0.55% AE 減水剤 リグニンスルホン酸系 132 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 表 6.2-3 試験コンクリートの配合 セメントの 種類 Gmax (㎜) スラ ンプ (cm) 空気 量 (%) 水 セメント 比 (%) 細骨 材率 (%) 普通 20 8±2.5 4.5 55 高炉 B 20 8±2.5 4.5 トンネル用 BB 20 15±2.5 4.5 単位量(kg/m3) 細骨材 陸砂 砕砂 粗骨 材 混和 剤 286 561 241 1073 3.05 153 279 567 243 1073 2.97 164 274 600 257 1001 2.92 水 セメント 43.1 157 55 43.4 60 46.5 ※最小セメント量 270kg/m3,W/C=60%,Gmax40mm,W=165kg/m3 6.2.2 大型試験体の作製 試験体は,表 6.2-3 に示す3種類の配合で,コンクリートを長さ 7.2m(4.2m+3.0m) ,高さ 1.2m,幅 0.30m の 2 つの擁壁構造体にそれぞれ打ち込む(合計 2.59m3).打込みは,生コン車 からバケットに一旦受け,バケットにより打設する.試験体は擁壁形状となっており概要を写 真 6.2-1 および図 6.2-1 に示す.試験体となる壁部分は無筋コンクリートとするが,基礎部お よび立ち上がり部には転倒防止のため,鉄筋を 200mm 間隔に配筋する. コンクリート打込み後, 所定の型枠存置期間に達した範囲から順次計画した養生を実施する. 大型試験体は, 図6.2-2 に示すように5 区間に分割して型枠を取りはずせるような工夫を行い, 各養生条件にもとづき所定の時期に型枠を取りはずす.型枠浸水養生終了後のコンクリート面 については,観察を続ける面は気中養生とし表面を露出状態とし,それ以外の背面,天端およ び側面については乾燥を防止するために,養生用塩ビフィルム(アキレスマジキリⅡ,品名 FTEP4939)をシリコーン接着剤にて貼り付ける. 写真 6.2-1 大型試験体 133 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 7.2m 0.60m 0.60m 1.2m×5 ブロック=6.0m 0.30m 1.20m 4.2m と 3.0m に2分割 0.3m 第6章 3.0m 4.2m 0.9m 図 6.2-1 大型試験体 トンネル用高炉 B 種 養生標準 7日 養生短縮 15 時間 端部 養生 1 カ月 養生 2 カ月 養生 3 カ月 養生 1 週間 養生 2 週間 養生 3 週間 養生 1 週間 養生 2 週間 養生 3 週間 高炉B種 養生標準 7日 養生短縮 4.2 日 端部 養生短縮 3日 端部 普通 養生標準 5日 図 6.2-2 コンクリート棟内大型試験体の配置状況 6.2.3 試験内容 (1)試験ケース コンクリートの養生条件を表 6.2-4 に示す.養生条件として 2007 年制定土木学会標準示方 書[1](以下,示方書)に準じた湿潤養生条件(以下,示方書養生) ,示方書養生より養生期間 を短縮した条件(以下,短縮養生)および十分な水を供給する浸水養生の3つの養生を実施す る.養生温度は全て 20℃で一定とする. 示方書養生の養生期間は,日平均気温 15℃以上,普通ポルトランドセメントの場合に準じ 5 日間とし,短縮養生は 3 日間とする.示方書養生および短縮養生では,実施工における湿潤養 生を想定し,型枠を存置し水分の逸散を防ぐ封かん養生を採用する.具体的には,打込み直後 に型枠の露出部をポリエチレンシートで覆って水分逸散を防ぎ,養生期間終了まで型枠内に存 置する. 浸水養生期間を長く確保することによる効果を確認するため,水中養生期間を 1,2 および 3 週間とした条件(以下,浸水 1,2,3W)で養生を行う.所要の養生終了後,試験までの期間, 試験体は温度 20℃相対湿度 60%の恒温恒湿室に保管する.なお,水分供給が十分な基準とな る養生条件として,試験までの期間標準水中養生を行う条件も採用する. 134 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 (2)給水方法 浸水養生は,写真 6.2-3 に示すように大型試験体についてはアクアカーテンを使用して,連 続的に給水する.この際,コンクリート表面に水膜が形成されることを確認する.一方,円柱 供試体については,十分な水がコンクリート中に保たれた条件として,水中養生を実施する. 表 6.2-4 養生条件 区分 記号 養生方法 水中養生 W ■コンクリート性能の基準調査のための養生 ・材齢2日で型枠を取りはずし,その後標準水中養生を行う(20℃) ・養生完了後(28日),気中養生を行う. S ■実構造物の養生(JSCEの養生方法に則した養生) ・示方書で示されている養生期間後,型枠を取りはずし気中養生を行う. ・養生期間(N:5日、BB:7日) ・養生完了後,気中養生を行う. P ■養生期間を短縮した養生(JSCEの60%の養生期間) ・養生期間を示方書養生の60%に短縮して養生を行う. ・養生期間(N:3日、BB:4.2日、BT:15時間) ・養生完了後,気中養生を行う. 型枠養生 A1 浸水養生 A2 A3 ■アクアカーテンによる養生効果の確認 ・材齢3日(BTは15時間)で型枠を取りはずし,その後浸水養生を行う. ・養生期間(N,BB:1,2,3週間、BT:1,2,3ヶ月) ・養生完了後,気中養生を行う. 写真 6.2-3 浸水養生実施状況 135 第6章 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 (3)現場採取によるコンクリート円柱供試体試験 生コンクリート打設時にテストピースを作成し,表 6.2-5 の試験を実施する. 表 6.2-5 試験項目 配合要因 水 準 圧縮強度 脱型時,7,28,91,182 日,1 年 質 初期値(脱枠時) ,圧縮強度試験時,試験後絶乾質量 量 凍結融解試験 細孔径分布 28 日,1 年 28 日,(91 日),1 年 (4)現場試験体から採取するコア供試体に対する試験 現場試験体から採取したコア供試体および現場試験体の表面コンクリートに対する試験方法 として表 6.2-6 を行う.コア採取跡は,コンクリート供試体(φ100×200 ㎜)を埋め,隙間を シーリング材で充填する. 表 6.2-6 現場試験体に対する試験 供試体の 区分 コア供試体 試験名 試験目的 中性化促進試験 かぶり部の改善効果確認 反発強度 表面硬度の向上 原位置透気試験 かぶり部の改善効果 表面コンクリート 136 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 6.3 圧縮強度試験および質量変化試験の評価 6.3.1 試験項目および試験方法 試験項目および試験方法を表 6.3-1 に示す.圧縮強度と物質透過性等の耐久性にかかわる性 能は,必ずしも対応しないことが指摘されており[3],様々な性能を総合的に評価することが必 要である.本節では,コンクリートの代表的な性能である圧縮強度により湿潤養生条件の影響 を評価することで基本的な知見を得る.また,浸水状態を定量的に把握するため,打込み時, 養生終了時および圧縮強度試験時に供試体の質量を測定する. 表 6.3-1 試験項目および試験方法 試験項目 試験方法 圧縮強度 JIS A 1108に準拠,φ10×20cm 材齢7,28,91,182日および365日 短縮養生,示方書養生終了時 試験体質量 打込み直後,脱枠時,圧縮強度試験時および養 生終了時 6.3.2 圧縮強度試験結果 図 6.3-1 に示す示方書養生や短縮養生は,材齢 28 日までは水中養生とで大きな差は見られな いが,長期の強度増進がほとんど見られず,材齢経過とともに水中養生との差が大きくなって いる.浸水養生の延長によって長期強度の改善が見られ,水中養生の材齢 28 日と同等以上の 圧縮強度が得られている.高炉Bの場合,普通セメントの場合とほぼ同様な強度発現が見られ ており,普通セメントより 2 日間長く養生することがほぼ妥当であると言える.両セメントも 水中養生期間を延長することによって強度増進が大きくなっており,効果は明確である.その 効果は,普通ポルトランドセメントよりも高炉Bで水中養生期間の延長の効果が大きい. 普通ポルトランドセメントや高炉セメントにおいては,示方書,短縮養生では,いずれも材 齢 28 日まで圧縮強度が増加し,長期的に減少する傾向が見られる.これは,湿潤養生終了に 伴う乾燥過程で圧縮強度が見かけ上増加することによると考えられ[4],水和の進行によるもの ではないことに留意が必要である. 永松らは, 十分に水中養生を行ったコンクリートを用いて, 乾燥に伴う強度変化を調べている[5].これによると,乾燥過程で圧縮強度の増加が見られるが, 乾燥がさらに進行すれば,湿潤状態とほぼ同等の値を示すことを明らかである.今回の試験結 果においても,圧縮強度は,材齢 28 日で増加した後,低下が見られ材齢 91 日以降ほぼ一定と なっている.このことから,乾燥による圧縮強度への影響は,乾燥が進行した材齢 91 日以降 は,無視できるものと考えられる.以上のことから,後述の圧縮強度発現特性の評価において, 示方書養生,短縮養生および浸水養生の材齢 28 日の圧縮強度の試験値は除外する. 137 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 圧縮強度(N/mm2 ) 50 普通セメント,W/C:55% 40 30 20 10 標準水中 浸水1W 示方書(5日) 浸水2W 短縮(3日) 浸水3W 0 0 28 56 84 112 140 168 196 224 252 280 308 336 364 392 材 齢(日) 圧縮強度(N/mm2 ) 50 高炉B,W/C:55% 40 30 20 10 標準水中 浸水1W 0 0 示方書(7日) 浸水2W 短縮(4日) 浸水3W 28 56 84 112 140 168 196 224 252 280 308 336 364 392 材 齢(日) 50 圧縮強度(N/mm2 ) 第6章 トンネル高炉B,W/C:55% 40 30 20 10 標準水中 浸水1M 0 0 示方書(7日) 浸水2M 短縮(1日) 浸水3M 28 56 84 112 140 168 196 224 252 280 308 336 364 392 材 齢(日) 図 6.3-1 各セメントの圧縮強度と材齢の関係 138 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 養生方法をレーダーチャートで整理したものを図 6.3-2 に示す.養生方法や期間が異なって も,普通セメントはほぼ円形に近い形を示しており,養生方法の影響を受け難いのに対し高炉 セメントは養生条件の影響を受けやすい.さらに,覆工コンクリートのように極端に養生期間 が短い場合は,その影響は大きい.つまり,15 時間で型枠を取りはずしても,その後浸水養生 を実施することで所定の品質を確保できる. 標準養生 50 普通セメント,W/C=55% 水中 50 40 40 3日脱型 浸水3週 高炉セメントB種,W/C:55% 30 4日脱型 浸水3週 5日脱型 (標準期間) 20 30 20 10 10 0 0 3日脱型 浸水2週 4日脱型 浸水2週 3日脱型 (短縮期間) 4日脱型 (短縮期間) σ28 σ91 σ182 3日脱型 浸水1週 7日脱型 (標準期間) σ28 4日脱型 浸水1週 高炉セメントB種トンネル,W/C:55% 標準水中 50 屋外 40 30 示方書(7日) 20 10 0 W/M 短縮(15h) 15h 保水3M 保水1M 保水2M 7 28 91 182 図 6.3-2 各セメントの養生効果特性 6.3.4 質量変化測定結果 図 6.3-3 に材齢と質量変化率の関係を示す.なお,材齢とともに吸水が生じる標準水中養生 の保水率を 100%として,質量変化率から保水率を算定した. 図 6.3-4 に材齢と保水率の関係を示す.なお,保水率の算定にあたって水和に伴う自由水量 の低減は考慮していない.いずれの場合も,示方書および短縮養生では,比較的早い段階で水分 逸散が進行し,大きな質量減少が生じている.浸水養生の延長により,若材齢における保水率 が高くなるとともに,長期的な低下も抑制されている.質量変化率,保水率の変化は,セメン トの種類により差が見られ,高炉Bの方が質量変化は小さく,保水率も高くなっている.示方 書および短縮養生では材齢 28 日以降,強度増加はほぼ停止することから,保水率 60%程度ま で水分が逸散すると,セメントの水和は,見かけ上停止するものと推察される. 139 σ91 σ182 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 2.0 普通セメント,W/C:55% 質量変化率(%) 1.0 0.0 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 標準水中 浸水1W -5.0 示方書 浸水2W 短縮 浸水3W -6.0 0 28 56 84 112 140 168 196 224 252 280 308 336 364 392 材 齢(日) 2.0 高炉B,W/C:55% 質量変化率(%) 1.0 0.0 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 標準水中 浸水1W -5.0 示方書 浸水2W 短縮 浸水3W -6.0 0 28 56 84 112 140 168 196 224 252 280 308 336 364 392 材 齢(日) 2.0 トンネル高炉B,W/C:55% 1.0 質量変化率(%) 第6章 0.0 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 標準水中 浸水2M -5.0 短縮 浸水3M 浸水1M -6.0 0 28 56 84 112 140 168 196 224 252 280 308 336 364 392 材 齢(日) 図 6.3-3 質量変化率と材齢 140 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 110 普通セメント,W/C:55% 100 90 保水率(%) 80 70 60 50 標準水中 浸水1W 40 示方書 浸水2W 短縮 浸水3W 30 0 110 28 56 84 112 140 168 196 224 252 280 308 336 364 392 材 齢(日) 高炉B,W/C:55% 100 90 保水率(%) 80 70 60 50 標準水中 浸水1W 40 示方書 浸水2W 短縮 浸水3W 30 0 110 28 56 84 112 140 168 196 224 252 280 308 336 364 392 材 齢(日) トンネル高炉B,W/C:55% 100 90 保水率(%) 80 70 60 標準水中 浸水2M 50 短縮 浸水3M 浸水1M 40 30 0 28 56 84 112 140 168 196 224 252 280 308 336 364 392 材 齢(日) 図 6.3-4 各セメントの保水率と材齢 141 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 6.4 大型供試体におけるテストハンマー反発度試験の評価 6.4.1 養生期間半年におけるテストハンマー反発度試験結果 テストハンマー反発度試験は表 6.2-4 に示す 5 つの養生条件について,下位,中位,上位の 3 箇所,合計 15 箇所測定する.各供試体の高さごとの平均値を図 6.4-1 に示す.さらに,中位 の反発度を基本に上位,下位の比率を求めて図 6.4-2 に示す.高炉セメントの反発度が最も大 きいが,全てのセメントでコンクリートの反発度はいずれも下位で大きく,上位で小さい.そ れぞれの高さの差は 30 ㎝であるが,打ち込み高さの影響が明瞭に認められる. また,セメントの種別ごとの上位,中位,下位の 3 測定値の平均値を養生方法別に図 6.4-3 に示す.さらに,養生期間を標準期間とする場合の反発度を基準としてそれぞれの養生方法に 反発度の比率を図 6.4-4 に示す.普通セメントを除いて,短縮養生を行った場合よりも標準期 間養生を行った場合の反発度は大きくなっている.これは,コンクリートの打ち込みからの養 生期間が長いほどコンクリートの特性が向上することと一致している.トンネル覆工コンクリ ートでは,浸水養生を 1 ケ月から3ケ月もの長期間実施した.短縮養生は僅か 15 時間であり, 反発度が小さいことは当然であるが,浸水養生後の反発度が他の例と比べて著しく大きい. なお,ベルトサンダーを用いて,コンクリート表面のノロ分を除去し,その前後の測定値を 図 6.4-5 に示す.サンダーによる清掃後の測定値を清掃前の測定値で除したものである.サン ダーの影響は,全体的には±2%程度であるが,トンネル覆工コンクリートおよび浸水養生を 3 週間実施した高炉セメントでは,サンダー清掃による反発度の向上が認められる.これは, 浸水養生期間が長いことでコンクリート表面の脆弱化が深化することが推定される.仮に浸水 養生に改善効果と逆効果が作用する場合には,浸水養生期間の全てにわたって養生水の循環を 継続するのではなく,間欠的に給水を実施し対応を判断する. 50 105 普通 高炉 トンネル サンダー後 サンダー後 反発度比率(%) 45 反発度 第6章 40 100 95 90 35 85 30 上 中 測定位置(上、中、下) 下 普通 高炉 トンネル 上 中 下 測定位置(上、中、下) 図 6.4-2 中位を基準とした反発度比率 図 6.4-1 各種セメントを用いたコンクリートの 反発度 142 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 50 サンダー後 反発度比率(%) 45 反発度 105 普通 高炉 トンネル サンダー後 40 35 100 95 90 85 30 短縮 標準 浸水1 浸水2 浸水3 養生方法 普通 高炉 トンネル 短縮 標準 保水1 養生方法 保水2 保水3 図 6.4-4 標準養生期間を基準とした反発度の比 率 図 6.4-3 各種セメントを用いたコンクリートの 反発度 110 サンダー後/サンダー前 比率(%) 105 100 95 普通 高炉 トンネル 90 短縮 標準 浸水1 養生方法 浸水2 浸水3 図 6.4-5 ベルトサンダーによる表面清掃の影 響 6.4.2 養生期間1年におけるテストハンマー反発度試験結果 テストハンマー反発度試験は 5 つの養生条件について,下位,中位,上位の 3 箇所,合計 15 箇所測定する.各供試体の高さごとの平均値を図 6.4-6 に示す.さらに,中位の反発度を基本 に上位,下位の比率を求めて図 6.4-7 に示す.半年時点の結果と同様にコンクリートの反発度 はいずれも下位で大きく,上位で小さい.それぞれの高さの差は 30 ㎝であるが,打ち込み高 さの影響が明瞭に認められる. また,セメントの種別ごとの上位,中位,下位の 3 測定値の平均値を養生方法別に図 6.4-8 に示す.さらに,養生期間を標準期間とする場合の反発度を基準としてそれぞれの養生方法に 反発度の比率を図 6.4-9 に示す.試験結果は,半年時点の結果とほぼ同様である. 半年養生後および 1 年養生後の試験結果を図 6.4-10 に示す.高炉セメントを用いたコンクリ ートと覆工コンクリートについては,浸水養生2,3において 1 年後の増加が大きい. 143 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 50 105 サンダー後 サンダー後 反発度比率(%) 反発度 45 40 35 普通 高炉 トンネル 30 上 中 測定位置(上、中、下) 90 普通 高炉 トンネル 上 中 測定位置(上、中、下) 下 図 6.4-7 各中位を基準とした反発度比率 115 サンダー後 サンダー後 反発度比率(%) 110 45 反発度 95 85 50 40 35 30 100 下 図6.4-6 各種セメントを用いたコンクリー トの反発度 短縮 標準 浸水1 浸水2 養生方法 105 100 95 普通 高炉 トンネル 90 普通 高炉 トンネル 85 短縮 標準 浸水3 浸水1 養生方法 浸水2 浸水3 図 6.4-9 標準養生期間を基準とし 反発度の比率 図 6.4-8 各種セメントを用いたコンクリ ートの養生方法と反発度 50 半年 普通セメント 1年 反発度 45 40 35 30 短縮 標準 浸水1 浸水2 浸水3 養生方法 50 50 半年 高炉B種セメント 1年 45 反発度 45 40 半年 覆工コンクリート 1年 反発度 第6章 40 35 35 30 30 短縮 標準 浸水1 浸水2 浸水3 養生方法 短縮 標準 浸水1 養生方法 図 6.4-10 半年養生と 1 年養生の反発度の比較 144 浸水2 浸水3 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 6.5 中性化促進試験の評価 本研究では,浸水養生によるコンクリート表層部の品質改善効果を評価するために,促進中 性化試験を実施し養生による影響を検討する.なお,本試験は図 6.2-1 に示した大型試験体か ら材齢 26 週でコア供試体を各面から 1 本採取し, 以降, 促進期間 13 週まで促進中性化試験(JIS A 1153)を実施する. セメントと養生方法の違いによる反発度および中性化深さについて,図 6.5-1 および図 6.5-2 に示す.なお,本検討では高炉セメント B 種を用いてトンネルの施工条件に基づいた養生期間 を設定したものも追加する. 普通ポルトランドセメントや高炉セメント(トンネル)では,図 6.5-1 に示すように標準期 間のケースよりも,浸水養生を行ったケースの方が反発度は小さくなる.一方,中性化促進試 験結果では,図 6.5-2 に示すように標準期間のケースよりも,浸水養生を行ったケースの方が 中性化深さは小さくなる.反発度の結果より,コンクリート表面から浸水養生中の流水へのセ メント成分の溶脱を懸念したが,中性化深さは逆に小さくなることから,十分な吸水によりコ ンクリート表面の組織が緻密になったと考えられる. 日平均気温が 15℃以下となる場合,必要な湿潤養生期間は表 2.6-2 よりさらに長くなり,柱 や壁の湿潤養生が困難な現状では型枠の存置期間が必然的に長くなる.しかし,型枠の脱型に 必要な強度が得られた後,浸水養生を実施することで早期脱型が可能となり,しかも,コンク リート表面の緻密化がさらに図れる. 40 40 38 35 36 34 普通 32 高炉B(一般) 高炉B(トンネル) 30 標準 短縮 短縮 +浸水1 短縮 +浸水2 短縮 +浸水3 図 6.5-1 養生条件による反発度の比較 促進中性化深さ(mm) 反発度 普通 高炉B(一般) 高炉B(トンネル) 30 25 20 15 10 標準 短縮 短縮 短縮 短縮 +浸水1週 +浸水2週 +浸水3週 図 6.5-2 養生条件による中性化深さの比較 145 第6章 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 6.6 凍結融解試験の評価 凍結融解試験は,JIS A 1148 の A 法に準じて行い,試験開始材齢は 28 日とする.標準水中 養生以外の気中養生を行った試験体は,吸水させることなく,恒温恒湿室から取り出した状態 で初期値を測定し,直ちに凍結融解試験に供する.測定は,30 サイクル毎に行い,300 サイク ルまで実施する. 普通ポルトランドセメントにおける,凍結融解サイクルと相対動弾性係数の関係を図 6.6-1 に,凍結融解サイクルと質量変化率の関係を図 6.6-2 に示す.ここで,質量変化率は,打込み 時の時の質量を基準とした.凍結融解サイクルに伴う相対動弾性係数の低下は,湿潤養生期間 が短い条件ほど小さくなっている.これは,湿潤養生期間が短いほど供試体の乾燥が進行し, 飽水度が低く,凍結融解による劣化を受けにくくなったことが一要因と考えられる. 標準水中養生を行った試験体以外は,最初 30 サイクル時には,吸水による質量増加が生じ ている.30 サイクル時の質量変化は,水中養生より若干低いものの,いずれも試験体打込み時 より増加しており,ほぼ飽水状態にあると考えられる.30 サイクル以降の質量変化は,養生条 件による差がみられ,湿潤養生期間の短いものほど質量変化は,大きくなっている.湿潤養生 のみの養生条件では,300 サイクルにおいて 3~5%と大きな質量減少が生じており,水中養生, 浸水養生を行ったものに比べて凍結融解抵抗性は低い. 一方, 共鳴振動数, 試験体質量から JIS A 1127 に準じて動弾性係数を算定した結果を図 6.6-3 に示す.湿潤養生条件によって相対動弾性係数は,大きく異なっており,コンクリートの性能 は,相当に差がある.湿潤養生期間が短いものほど,初期の凍結融解サイクルにおいて動弾性 係数の増加が見られる.これは,初期の水和が不十分な試験体では,水和の進行によるものと 考えられる. 凍結融解 30 サイクル以降,直線的に質量変化が生じていることから,それぞれ直線回帰し 凍結融解サイクルに伴う質量変化速度を算定した.図 6.6-4 に湿潤養生期間(湿潤養生を終了 した材齢)と質量変化速度の関係を示す.湿潤養生期間の延長とともに質量変化速度は,大き く低減している.浸水養生の効果も大きく,1週間の延長により水中養生を 28 日間実施した ものと同程度まで質量変化速度が低減されている. 146 120 1.0 110 0.0 質量変化率(%) 相対動弾性係数(%) コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 100 90 80 70 W S P A1 A2 A3 60 0 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 0 44 42 40 38 36 34 W P A2 32 S A1 A3 30 60 A3 30 60 90 120 150 180 210 240 270 300 凍結融解サイクル(回) 0.030 0.025 W S P A1 A2 A3 0.020 0.015 0.010 0.005 0.000 30 0 P A2 図 6.6-2 凍結融解サイクルと動弾性係数の関係 質量変化速度(%/サイクル) 動弾性係数(kN/mm2 ) 46 S A1 -5.0 凍結融解サイクル(回) 図6.6-1 凍結融解サイクルと相対動弾性係数の関係 W 90 120 150 180 210 240 270 300 凍結融解サイクル(回) 図 6.6-3 凍結融解サイクルと動弾性係数の関係 0 5 10 15 20 養生期間(日) 25 図 6.6-4 湿潤養生期間と質量変化速度の関係 147 30 第6章 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 6.7 細孔径分布試験の評価 6.7.1 養生条件の相違による細孔径分布 浸水養生がコンクリートの細孔構造に及ぼす影響を検討するため,各種条件下での圧縮強度 および細孔径分布(水銀圧入式ポロシメータ)の測定を行う.ここで,粗骨材の影響を排除す るために,細孔径分布の測定には,5mm ふるいによりウエットスクリーニングしたモルタル 供試体(φ5×10mm)を 5mm 以下に粉砕した試料を用いる. 図 6.7-1 に細孔径分布の測定結果を示す.いずれのケースにおいても,浸水養生期間の延長 とともに,細孔径分布は,微小径側にシフトし,緻密な細孔構造となった.セメント種別 N, BB の浸水養生では,細孔直径 100nm 付近に分布のピークがあり,給水養生や水中養生と比較 するとかなり粗な細孔構造となった.また,養生時間が極端に短いトンネル(BT)においては, 細孔直径 1000nm 付近になり,その傾向が顕著である. 6.7.2 養生条件と細孔容積 養生条件,セメントの種類による細孔径分布の差異を定量評価するために,粗大径側(細孔 直径 10nm および 50nm)の細孔容積に及ぼす養生条件の影響を調査する.図-6.7-2 に養生条 件と総細孔容積,細孔直径 10nm および 50nm 以上の細孔容積の関係を示す. 総細孔容積に及ぼす養生条件の影響は,小さいが,細孔直径 10nm あるいは,50nm 以上の 粗大径の細孔容積は,浸水養生により顕著な差異が発生した.すなわち,粗大径の細孔容積は, 型枠による養生では増加するのに対し, 浸水養生では養生期間の延長とともに明確に低下した. その増加あるいは低下量は,養生期間あるいは養生条件と明確な相関がある. 6.7.3 細孔直径毎の細孔容積と圧縮強度の相関性 算定した細孔直径毎の細孔容積と圧縮強度の相関性を調査する.図 6.7-3 に細孔容積と圧縮 強度の関係を示す.いずれの細孔容積とも相関関係が見られるが,細孔直径 10nm 以上の細孔 容積との相関が高くなった.以上のような養生条件による細孔構造の差異は,セメントの水和 の程度に起因していると推察される. 148 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 0.14 0.12 dV(D)/dlog(D) 0.10 W S P A1 A2 A3 Cement : N 0.12 細孔容積(ml/g) N 0.08 0.06 直径50nm< 直径10nm< 総細孔量 0.10 0.08 0.06 0.04 0.04 0.02 0.02 0.00 W 0.00 0 1 2 3 4 5 0.12 細孔容積(ml/g)) 0.12 dV(D)/dlog(D) A1 A2 W S P A1 A2 A3 0.08 Cement: BB 直径50nm< 直径10nm< 総細孔量 0.10 0.08 0.06 0.04 0.02 0.06 0.00 0.04 W S P A1 A2 A3 養生条件 0.02 0.14 0.00 1 2 3 4 0.12 5 細孔容積(ml/g)) 0 細孔径 log(D) (nm) (b)Cement Type BB 0.12 BBT 0.10 直径50nm< 直径10nm< 総細孔量 Cemnet: BBT 0.10 0.08 0.06 0.04 W 0.02 P A1 0.00 W 0.08 S P A1 養生条件 A2 A3 図 6.7-2 養生条件と細孔容積の関係 0.06 0.04 0.02 45 0.00 1 2 3 4 5 40 2 0 材齢91日圧縮強度 (N/mm ) dV(D)/dlog(D) A3 0.14 (a)Cement Type N 0.10 P 養生条件 細孔径 log(D) (nm) BB S 細孔径 log(D) (nm) (c)Cement Type BT 図 6.7-1 細孔径分布 35 30 直径50nm< 25 直径10nm< 総細孔量 20 0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 細孔容積 (ml/g) 0.10 図 6.7-3 細孔径容積と圧縮強度の関係 149 0.12 0.14 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 6.8 透気試験の評価 6.8.1 試験内容 大型供試体を用いてコンクリート表層部の透気性を検討するため,ダブルチャンバー法 (Torrent 法) [6]による透気試験を実施する.なお,試験体材齢は屋内養生約 4 ヵ月である. コンクリート表層の透気性を直接計測することにより,コンクリートの耐久性の向上を評価 する.本検討では,コンクリート表面に真空ポンプで二層式チャンバーを吸着させ,チャンバ ー内圧力によってコンクリート表層の透気性を評価するトレント式透気試験(トレント法)を 行った.トレント法では,計測結果に基づいて,コンクリート表層の透気グレードを 5 段階に 区分・評価する.これまでの報告から計測値は部位によりばらつきがあることから,3 回計測 の平均値とした.透気試験状況を写真 6.8-1 に示す. 6.8.2 試験結果および考察 トンネル用高炉 BB における透気試験結果を図 6.8-2 に示す.この結果,短期養生の場合の 透気係数が極めて大きく,若材齢での型枠取り外しの影響が確認される.しかし,その後,浸 水養生を行うことで透気係数は大幅に改善されている.透気性のグレードで1~2,コンクリ ート表面の緻密性が向上することがわかった. 透気係数KT(×10^-16㎡) 0.100 1.000 10.000 0.010 100.000 S 養生条件 第6章 P A1 A2 A3 透気性評価 (グレード) 良(2) 一般(3) 劣(4) 劣悪(5) 図 6.8-2 透気試験結果(トンネル用高炉 BB) 写真 6.8-1 透気試験状況 150 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 6.9 膨張コンクリートにおける浸水養生の効果 6.9.1 試験概要 膨張材を混和したコンクリートの養生方法を要因とした強度特性および膨張特性を検討す る.養生方法は,従来の覆工コンクリートの養生を模擬した「気中養生」および「封緘養生」 と「浸水養生」の3種類とする.なお,本試験は電気化学工業㈱無機材料研究部にて行う.使 用材料および配合表を表 6.9-1、6.9-2 に示す. 表 6.9-1 使用材料 名称 品名 セメント 産地またはメーカー 高炉セメントB種 電気化学工業社製 膨張材 パワーCSAタイプT 電気化学工業社製 細骨材 川砂 姫川水系産 粗骨材 川砂利 姫川水系産 混和剤 AE減水剤 No.70 BASF ポゾリス社製 AE剤 マイクロエア 303 BASF ポゾリス社製 表 6.9-2 コンクリートの配合および試験水準 Gmax 種別 W/B s/a Air 単位量(kg/m3) (mm) (%) (%) (%) 水 セメン ト プレーン 25 56.0 49.5 4.5 167 299 0 893 922 膨張コン 25 56.0 49.5 4.5 167 299 20 876 922 膨張材 細骨材 粗骨材 混和剤 調整 6.9.2 実験ケース 実験ケースを表 6.9-3 に示す.実験パラメータは,型枠の取りはずし時間を4水準,養生方 法を3水準とする. コンクリートの養生方法は,所定の時間(打込み後 15,18,21,24 時間)経過後,3 つの 方法で 1 週間養生し,その後は全て気中養生とする. ① 浸水養生:型枠取外し後,水中養生.7 日間水中養生に相当. ② 封緘養生:型枠取外し後,ビニルシートを密着させ乾燥防止.型枠存置 7 日に相当. ③ 無養生:型枠取外し後,気中養生.養生を行わない場合に相当. 151 第6章 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 試料としたコンクリートは,強制二軸ミキサを用いて1バッチあたり 50 リットルで練り混 ぜた.普通コンクリートで2バッチ,膨張コンクリートで5バッチである.表 6.9-4 に,各バ ッチにおける練り上がり直後のフレッシュ性状を示す. 表 6.9-3 実験ケース 表 6.9-4 フレッシュ性状 152 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 6.9.3 試験結果および考察 (1)型枠の取り外し時における圧縮強度 図 6.9-1 に型枠の取り外し時の材齢と圧縮強度の関係を示す.これより,若材齢時における 膨張コンクリートの圧縮強度は,普通コンクリートに比べて小さい.膨張材には膨張に起因す る水和熱を低減させるための水和熱抑制剤を添加されており,その作用により若材齢時の水和 を低減したためである. 図 6.9-2 に養生方法の違いによる圧縮強度の関係を示す.養生方法に違いにより得られる圧 縮強度には大きな差が確認される.18 時間で型枠を取はずし,気中放置した場合,6 割前後の 強度しか得られない.一方,アクアカーテンで養生したものは,7 日間型枠内で養生した場合 と同等以上の強度が得られている. 圧縮強度(N/mm2) 5.0 4.0 3.0 2.0 普通コンクリート 膨張コンクリート 1.0 0.0 12 15 18 21 材齢(時間) 24 27 図 6.9-1 コンクリートの違いによる若材齢時の圧縮強度 圧縮強度(N/mm2) 50 40 30 20 10 18時間脱型(膨張材) アクアカーテン 封緘養生 無養生(気中) 0 0 30 60 材齢(日) 図 6.9-2 コンクリートの違いによる圧縮強度 153 90 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 (2)長さ変化率試験結果 図 6.9-3 に材齢 18 時間における普通コンクリートと膨張コンクリートの長さ変化率を示す. また,図 6.9-4 は膨張コンクリートと普通コンクリートの養生方法による長さ変化率の差分を 示す. これより,普通コンクリートと膨張コンクリートでは長さ変化率に 200~250×10-6 程度の 差が生じている.したがって,膨張コンクリートを用いることで,乾燥収縮を低減することが できるといえる.また,アクアカーテンによる養生方法が最もその効果は高く封緘養生および 気中養生と比較して,長さ変化率は 50×10-6 程度低減しており,型枠の取はずし時期の影響は 小さいと判断される. 300 膨張コン・アクアカーテン 普通コン・アクアカーテン 膨張コン・封緘養生 普通コン・封緘養生 膨張コン・無養生 普通コン・無養生 長さ変化率(×10-6) 200 100 0 -100 -200 -300 -400 -500 -600 0 20 40 60 材齢(日) 80 100 図 6.9-3 コンクリートの種類と養生方法の影響 300 長さ変化率差(膨張-普通) (×10 -6) 第6章 250 200 150 100 アクアカーテン 封緘養生 無養生 50 0 0 20 40 60 材齢(日) 80 100 図6.9-4 膨張コンクリートの普通コンクリートにおける長さ変化率の差 154 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 図 6.9-5 に,型枠の取りはずし時期をパラメータとして膨張コンクリートの長さ変化率を示 す.これより,型枠の取りはずし時期を変えても,膨張・収縮に与える影響は,小さいものと いえる. 300 長さ変化率(×10-6) 200 100 15時間 18時間 21時間 24時間 0 -100 -200 -300 -400 -500 -600 0 20 40 60 材齢(日) 80 100 図 6.9-5 型枠取り外し時期の影響 6.9.4 浸水養生効果の考察 ・ 若材齢時における膨張材を混和した膨張コンクリートの圧縮強度は,普通コンクリートに 比べて小さい.膨張材には膨張に起因する水和熱を低減させるための水和熱抑制剤を添加 しており,その作用により若材齢時の水和を低減したためである. ・ 材齢7日以降における膨張コンクリートの圧縮強度は,普通コンクリートに比べて 1.1~ 1.2 倍の高い値を示す. ・ アクアカーテン養生は,気中養生を施した供試体の圧縮強度を大きく上回った. ・ 長さ変化率試験の結果から,膨張コンクリートを用いることで,乾燥による収縮を低減す ることができる.また,アクアカーテンによる養生では,他の養生に比べて,膨張の発現 が大きく,後の収縮に対しても効果的に収縮を補償している. 以上より,アクアカーテン工法は,従来の養生方法に比べて,以下の効果があることが確認 できた. ① 膨張コンクリートの圧縮強度の発現を促す. ② 膨張コンクリートの膨張を効果的に発現させ,後の収縮に対する補償効果が高い. 155 第6章 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 6.10 まとめ (1)強度発現特性の評価 示方書養生,短縮養生は,長期の強度増進がほとんど見られず,材齢経過とともに浸水養生 や水中養生との差が大きくなる.浸水養生の延長によって長期強度の改善が見られ,水中養生 の材齢 28 日と同等以上の圧縮強度が得られる. 乾燥による圧縮強度への影響は,乾燥が進行した材齢 91 日以降は,無視できるものと考え られる. 普通ポルトランドセメントよりも,高炉セメントを用いたコンクリートは養生条件の影響を 受けやすい.同様なことが質量変化率についても確認できることから,高炉セメントに浸水養 生を適用することは効果的である. 大型試験体での反発度試験結果から,過度な給水はコンクリート表面の脆弱化が深化するこ ともあるため,養生水は過度な水を連続的供給するよりも,間欠的に供給するのが望ましい. なお,浸水養生の給水量は,対象範囲のコンクリート面全体が濡れることが必要な量を施工に よって確認する.給水間隔は,コンクリート面が乾燥しない間隔とし,現場での実施状況によ って判断する. (2)中性化促進試験の評価 中性化促進試験結果では,標準養生のケースよりも浸水養生を行ったケースの方が中性化深 さは,小さくなる傾向を示した.反発度の結果では,標準養生の方が反発度が高くなっていた ため,コンクリート表面から浸水養生中の流水へのセメント成分の溶脱を懸念したが,中性化 深さは逆に小さくなった.浸水養生による十分な給水によりコンクリート表面の組織が緻密に なったと考えられる. (3)凍結融解試験の評価 湿潤養生期間が短く養生が不十分でも,凍結融解に伴う相対動弾性係数の低下はさほど大き くないが,質量変化率は,十分な養生を行ったものと大きな差が見られ,コンクリート標準示 方書で示されている湿潤養生の標準日数およびそれより短い養生日数では,十分な凍結融解抵 抗性は確保されない. 浸水養生を行うことにより質量変化速度は大幅に低減され,浸水 1 週間の延長で水中養生を 28 日間行ったものと同程度の凍結融解抵抗性を確保できる. (4)細孔径分布試験の評価 浸水養生期間の延長とともに,細孔径分布は,微小径のものが増加し緻密な細孔構造となる. 特に養生時間が極端に短いトンネル(BT)においては,細孔直径 1000nm 付近になり,浸水 養生の効果が顕著である. 156 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 (5)透気試験の評価 トンネル用の高炉セメントにおける透気試験は,通常のトンネル施工での養生と比較して, 浸水養生を行なうことで透気性のグレードで1~2,コンクリート表面の緻密性が向上する. (6)膨張コンクリートにおける浸水養生の効果 浸水養生は,気中養生を施した供試体の圧縮強度を大きく上回った.また,長さ変化率試験 の結果から,膨張コンクリートを用いることで,乾燥による収縮を低減することができる.ま た,アクアカーテンによる養生では,他の養生に比べて,膨張の発現が大きく,後の収縮に対 しても効果的に収縮を補償している. 157 第6章 覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 参考資料 [1] 土木学会:2007 年制定コンクリート標準示方書【施工編】,pp.126-129,2007. [2] 建築学会:建築工事標準仕様書・同解説 JASS5 鉄筋コンクリート工事,pp.270-277,2009. [3] 岡崎慎一郎,八木翼,岸利治,矢島哲司:養生が強度と物質移動抵抗性に及ぼす影響感度の 相違に関する研究,セメントコンクリート論文集,No.60,pp.227-234,2006. [4] Prince, W.H. : Factors Influencing Concrete Strength, Journal of the ACI, Vol.47, pp.417-432, 1951. [5] 永松静也,佐藤嘉昭,竹田吉紹:あらかじめ乾燥したコンクリートのクリープ性状および乾燥の 程度を含んだクリープ関数,日本建築学会構造系論文報告集,No.351,pp.12-21,1985. [6] Torrent,R. and Frenzer,G.: A method for the rapid determination of the coefficient of permeability of the “covercrete”,International Symposium Non-Destructive Testing in Civil Engineering (NDT-CE), pp.985-992, Sept.1995 158 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 7.1 はじめに 本研究では,養生シート,吸引装置,給水装置から構成されるアクアカーテン養生システム を開発し,鉛直壁面にアクアカーテンを適用する方法(浸水養生)について,第5章でその詳 細を述べた. 型枠を取りはずした覆工コンクリートに対して給水養生できる方法は,近年開発が進みいく つかの工法があるが,トンネルだけでなく一般の構造物の鉛直面や傾斜面にも適用している工 法は少ない.何故ならば、トンネル覆工コンクリートにおいては,養生シートを上向きに設置 する必要があることや、養生時間が 12~24 時間程度であり養生の対象となるコンクリートが 若材齢で強度が小さく、アンカー等の冶具による養生マットや養生シートを固定するための反 力をコンクリートから得ることは、覆工コンクリートの品質確保の面から課題が多いためであ る.また,トンネル覆工コンクリートの養生においては,トンネル掘削作業と並行して養生作 業を行う必要があり,その作業環境も明かり工事と比較して著しく悪い. アクアカーテンではコンクリート表面に水膜を形成させることが重要であるが,水膜の広が り方はトンネル形状や縦断勾配等に影響を受けやすい.さらに,コンクリートの吸水量は型枠 取りはずし後,時間経過とともに変化するなど,検討課題も多い. 本章では,アクアカーテンを覆工コンクリートに適用できるように養生システムの更なる開 発を行い,トンネル内という特殊条件下でも確実に且つ再現性の高い工法を提案する.先ずト ンネル工事の特殊性を考慮しトンネル覆工にアクアカーテンを適用する際のシステム概要を検 討する.そして,アクアカーテンの施工を行なう上で必要となる資機材である,浸水養生シー ト,吸引装置,給水装置,シート展帳台車について検討する.次にアクアカーテンの施工計画 について,基本条件の整理のためシステム設計,施工フローを検討し,さらに詳細な施工方法 や各種設備の仕様について検討する.最後に,養生方法としてアクアカーテンを採用したトン ネル現場における覆工コンクリート高品質化の取り組みとその効果について述べる. 159 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 7.2 トンネル覆工用アクアカーテンの主要資機材の開発 7.2.1 システム構成 トンネルの覆工コンクリートは,打込み後 12~20 時間程度の早期に脱型される.そのため, 脱型後の覆工コンクリート表面は急激に乾燥し,セメントの水和反応の十分な進行が妨げられ ている.このため,覆工コンクリート表面に間欠的に給水し水膜を形成させるアクアカーテン を採用することが,覆工コンクリートの品質向上に有効である.トンネルにアクアカーテンを 適用する場合のシステム構成を図 7.2-1 に示す.なお,一般構造物と比較してトンネル工事の 特殊性を考慮し,以下の工夫を行っている. ・ 養生水は重力の作用により,天端から左右両脚部へ流下する.均一な吸引力確保のため両 脚部に吸引口を設ける. ・ 浸水養生シート落下防止用にφ40 ㎜の塩ビパイプを用いたフレーム材を設置する.なお, 本フレームは,トンネル周方向の気密性確保および給水チューブ固定支持材としての機能 を持つ. ・ 浸水養生シートの展張に際しては,トンネル通行車両に影響を与えないよう専用の浸水養 生シート展張台車を利用する. 気泡緩衝シートと覆工面 との間に 水膜を形成 養生シートは、端部に気密部を 設けた一枚ものを製作 給水ホースは 覆工天端部の 中央に配置し 間欠給水 マルチフレームの機能 ・養生シートの仮押え ・停電時の落下防止 吸引・給水設備 給水ポンプ 覆工面を流下した養生 水は 吸引口より空気と ともに回収 集水タンク 排気 吸引機 シート展張台車 養生水は、再利用可能な循環システム 吸引により シートを密着 坑口側,切羽側には気密確保用 マルチフレームを設置 図 7.2-1 トンネルでのアクアカーテンシステム構成 160 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 トンネル覆工コンクリートへ適用するアクアカーテンは,浸水養生シート,ユニットフレー ム,吸引設備,給水設備,フレーム組立・移動に使用する専用台車から構成される. アクアカーテンの覆工コンクリート適用時の各部位名称を図 7.2-2 に示す. 気密フレーム 給水チューブ (不織布一体型) 給水チューブ 接続ユニット メインフレーム メインフレーム メインフレーム 浸水養生シート ワイド吸引 吸引口 つなぎ材 気密フレーム 吸引主管 マスカーシート 吸引ホース 循環水設備 給水水槽 吸引ファン 圧力調整バルブ 除水除塵機 ・ 浸水養生シート :気泡緩衝シート(不織布含む)を用いたトンネル用1スパンシート ・ 吸引設備 ・ 給水設備 :吸引ファン,除水除塵機,吸引管,吸引ホース,吸引口,ワイド吸引 :給水タンク,給水ホース,給水取り出し口,給水チューブ ・ ユニットフレーム:メインフレーム,つなぎ材 ・ 気 密 処 理 :気密フレーム,下端マスカー,目地脚部ゴムマット 図7.2-2 覆工コンクリート適用時の各部位名称 161 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 7.2.2 浸水養生シートの開発 (1)トンネル覆工における施工上の特殊性 トンネル覆工コンクリートに用いる養生シートは,表面に凹凸をもつ負圧部と表面が滑らか な気密部からなる浸水養生シートを採用する点では一般構造物と同様であるが,以下に示すよ うな課題があることから,トンネル覆工コンクリート専用の浸水養生シートを製作するものと する. ・ トンネル工事では掘削作業がクリティカルとなるため,覆工コンクリート養生作業におい ては,掘削作業に関連するずり出し作業や重機の入れ替え作業を妨げるものであってはな らない. ・ 覆工コンクリートの施工箇所は狭隘であり,養生作業の段取りを行うスペースが限定され ているだけでなく,多くの作業員を導入しても施工速度は向上しない. ・ 養生シート展張作業は高所で,且つ上向き作業が多く,安全衛生面でも困難を伴う. (2)トンネル覆工用浸水養生シートの設計 浸水養生シートは,気泡緩衝シートと不織布より構成され,対象とする覆工打設スパンを 1 枚の養生シートで覆い(200~250 ㎡) ,吸引により発生した負圧でコンクリート面に養生シー トを密着させる. このため,シート端部の気密を確保することは極めて重要であり,トンネル覆工の断面形状 に合わせ,シート端部には写真 7.2-1 に示すような気密部を設けるほか,マスカーシート,気 密ゴムマットによる気密を確保する.養生シートの加工例を図 7.2-3 に示す. 気密フィルム 不織布 溶着部 気泡緩衝シート 写真7.2-1 浸水養生シートの構成 162 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 図7.2-3 浸水養生シートの構成 163 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 7.2.3 吸引装置の開発 トンネル覆工は同様な施工条件の下,繰り返し作業による養生作業を行うことになるため, 吸引装置の盛り替え作業が多い.一般構造物の明かり作業と比較し,坑内の低照度下での作業 となるため,吸引配管接続時に異物が混入し,吸引装置を破損することが懸念される.また, コンクリートと養生シート間の空気や養生水を吸い出すことから,電気系統へ水の侵入や錆に よるトラブルが懸念される. そのため,吸引装置は気密性を確保するだけでなく,異物混入にも耐え,運搬性や耐水性に 優れたものである必要がある.このような条件を満足する吸引装置は,市販品として現存しな かったため,本研究では吸引装置の開発を行う. 吸引装置は,覆工脚部左右に各 1 台配置し除水除塵機と 1 セット組で使用するため 1 スパン に 2 台セットとする.除水除塵機は吸引ファンの直前に接続し,空気と水,吸引管内の小砂利 やゴミを分離することで,ファンの過負荷や損傷を防止する.また,分離した余剰水は底部に 設置した排水弁により排水できる.吸引ファン及び除水除塵機の設置例を図 7.2-4 に示す.分 離型は初期タイプのものであり構造も単純である.一体型は分離型の改良モデルであり,排水 弁も内蔵し配管もなく移動作業が楽になる. 分離型 【ターボファン仕様】 電 ターボファン 源:三相 200v,60Hz,0.4KW 最大風量:6.0m3/min, 最大静圧:4.3kPa, 重 量:16.5kg/台 【除水除塵機】 ・吸引ファンに直接吸引管を接続した場 合,養生水や配管内に残っていた砂利や 養生水が進入し,ファンを損傷する.そ のため,以下の機構を有する除水除塵機 を設置する. 吸引管より 吸引機へ 除水除塵機 一体型 水や砂利等は落下 水 排水弁 図 7.2-4 トンネル覆工用吸引装置概要図 164 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 吸引用の主管はφ65 ㎜塩ビ管を標準とし,4m 間隔に吸引ホース用分岐(φ65 ㎜×40~25 ㎜)を設けて吸引ホースに接続する.吸引ホースおよび吸引ファン周辺部の接続管は,フレキ シブル管を使用しているため,配置の自由度を持つ. 養生シート内部の空気を吸引する吸引口は,片側 1 つの吸引系統に対して脚部に 3 箇所設置 を標準とする.養生シート内部の空気を均一に吸引するため,ワイド吸引を採用する.吸引フ ァン周りの接続例,吸引口およびワイド吸引設置状況を図 7.2-5 に示す. ワイド吸引 ワイド吸引 吸引ホース つり下げネット 吸引口 吸引主管(φ65) 吸引管 接続管 吸引管分岐(φ65×40~25) 図 7.2-5 吸引装置設置状況 165 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 7.2.4 給水装置 (1)給水チューブ トンネル覆工コンクリートの養生では給水を天端から行い,養生水は重力によりトンネル周 方向へ流下させる方法を採用する.コンクリートの吸水量に合わせながら給水量をできる限り 小さくするのが望ましいため,給水は農業用の散水ホースとして市販されているエバーフロー を採用する.エバーフロー仕様を表 7.2-1 に,散水状況を写真 7.2-2 に示す. 給水は養生スパン(10.5m)に対して左右の給水量にばらつきが生じないようにしなければ ならない.そのため,本研究ではエバーフローに改良を加えた給水チューブを開発する.給水 チューブの詳細図を図 7.2-6 に示す. 給水チューブは3本のエバーフローを 50cm 間隔に配置し,保水性および出来栄えの向上の ため不織布と一体化させたものである.給水チューブは覆工天端センターに設置することを基 本とし,送水方向は安定的な給水ができるようにトンネル縦断勾配の低い位置から高い方向, すなわち上流側に送水する.また,養生シートへの取り付け方法は,専用部品(給水取り出し 口)を用いシートを貫通させて設置する.給水チューブの設置状況を写真 7.2-3 に示す. 給水チューブの端部は 10cm 程度の余俗を持たせているため,設置後の状態を確認し養生シ ート内に収まるように付属品を用いて端末処理する.端末処理方法を写真 7.2-4 に示す. 表 7.2-1 エバーフロー仕様 仕様(A-100 型) ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 材質:特殊ポリエチレン 折幅:42 ㎜ 内径:約φ23 ㎜ 最高使用圧力:1.0kg/cm2 孔形状:丸穴レーザー加工 散水孔間隔:40 ㎜ 散水均一性:100m 散水圧力:0.1~0.5kg/cm2 水量:110~200cc/分・m 散水孔側には下図のように目詰まり防止のための特殊フィル ターが設けられている.(WWW.GREENJAPAN HP より) 写真 7.2-2 エバーフローによる散水状況 166 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 図 7.2-6 給水チューブ詳細図 ・不織布一体型給水チューブ ・微細孔より水が噴出する (噴射方向は下向き) ・給水取り出し口(シート内部) ・給水ホースとワンタッチジョイントで接続 写真7.2-3 給水チューブ設置状況 端末を折り曲げ芯材を通す 写真 7.2-4 給水チューブ端末処理方法 167 ストッパーを差し込む 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 (2)給水タンク 給水装置は以下に示すように,水源から給水タンクに自動補給する方法と給水車により定期 的に人力により補給する方法がある.トンネルの規模,コスト,施工期間等を考慮して養生水 の補給方法を検討する必要がある. 表7.2-2 養生水の補給方法 自動補給 人力補給 ・水源から給水タンクに自動補給する方法. ・給水車により定期的に補給する方法. ・タンク容量は3スパン養生の場合,200~300ℓ程度. ・タンク容量は3スパン養生の場合1000ℓ程度. 200ℓタンク 概 フロートバルブ による自動補給 要 1000ℓ タンク 特 徴 ・水の補給作業がないため,人力補給より施工性に ・給水量や頻度を考慮すると,自動補給より施工性 優る. に劣る. ・配管切替え後や休止後の送水時に赤さび等が混入 ・養生水の水質を常に管理できるため,水質悪化に し,コンクリートへの着色や給水チューブの目詰まり よる,不具合を防止できる. が発生することがある. ・給水タンクが大きく,配置位置や補給頻度,移設 ・給水タンクが比較的小さく台車上に配置可能. 方法の検討が必要. (3)給水ポンプ 給水チューブへの送水方法は,制御タイマーにて給水ポンプを作動させる間欠送水方法とす る.給水ポンプの運転時間を養生日数毎に変え給水量を調整する必要があるため,養生スパン 毎に給水ポンプを 1 台用意し,メインタンクまたは貯水槽等内に設置する. 給水ンプは,低水位時に自動停止するセンサー付きポンプとし,トンネル天端までの揚程, 送水ホースの延長を考慮のうえ選定する.また,止水バルブ,逆止弁,接続ジョイントを装備 する.電源はアクアカーテン用分電盤(200V)からダウントランスで 100V に降圧する.給水 ポンプを写真 7.2-5,給水系統図を図 7.2-7 に示す. 168 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 φ12 ㎜耐圧ホース 接続ジョイン 逆止弁 1000ℓ タンクを台車上の配置 止水バルブ 低水位ポンプ(100V) 自動停止センサー 写真 7.2-5 給水ポンプ P 循環タンク P 吸引ファン 打設進行方向 循環タンク P 吸引ファン アクアカーテン 循環タンク 吸引ファン アクアカーテン アクアカーテン 給水制御 (スライディングフォームに配置) メインタンク 300㍑ 吸引ファン P 吸引ファン 循環タンク P 吸引ファン 循環タンク P フィルタ J ポンプ 圧力計 ポンプ制御盤 P インバーター J J 分 岐 J :給水チューブ :吸引主配管 :ワイド吸引 循環タンク :返送水系統 :返送水水槽 :給水系統(B,C,Dの長さは同じ) 吸引ファン :吸引ファン :返送水ポンプ :バルブ :ジョイント(φ15→φ13(ボールバルブ+レジューサー+短尺塩ビ+ユニオンジョイント) 図 7.2-7 給水系統図 169 循環タンク 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 (4)制御タイマー アクアカーテンではコンクリート表面に水膜を形成させることが重要であるが,トンネル形 状や縦断勾配等に影響を受けやすい.また,コンクリートの吸水量は型枠取り外し後が最も大 きく時間の経過とともに小さくなる.このため,養生初期段階ではコンクリートの吸水量を確 認しながら給水量を調整する必要がある.給水量は給水間隔を変化させて調整するものとし, 具体的には水中ポンプに接続したタイマーで制御する.タイマー設定方法として,写真 7.2-6 に 4 時間毎に 3 分間給水ポンプを稼働させ給水チューブに送水する例を示す.また,養生水量 の概算を図 7.2-8 に示す. ・ ①赤色の針が示す数値が給水ポンプの稼動時間を示レ, タイマー右下②で単位を設定する. この揚合,単位は min(分)で数値は“3”→ 給水ポンプは3分間稼動し送水する. ・ ③緑色の針が示す数値が給水ポンプの休止時間を示し,右上④で単位を設定する.この揚 合,単位は hrs(時)で数値は“4”→ 給水ポンプは4時間休止する. タイマー盤 運転タイマー ④休止時間の単位設定 (給水ポンプOFF) 単位 hrs:時 ②休止時間の単位設定 (給水ポンプOFF) 単位 min:分 切替えスイッチ 単位切り替えループ:sec→10s→min→hrs ③緑針:休止時間(この場合は,4時間停止) ①赤針:稼働時間(この場合は,3分間稼働) 作動状態を点灯表示 運転タイマー 文字盤切り替えループ:1.2→3→12→30 :給水ポンプの稼動時間【送水】および休止時間【停止】を設定する. 切替えスイッチ :【入】連続運転,【断】停止,【自動】タイマーによる運転. 写真 7.2-6 運転タイマーの設定例 170 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 給水量の目安 新武岡トンネルの例 養生対象 3スパン 給水能力 0.100 ℓ/m/min (0.10~0.15) 覆工周長 チューブ延長 30.00 m (3ライン) スパン長 流量 3.00 ℓ/min 給水運転 設定パターン 20.0 m 10.5 m 面積 ON(min) OFF(min) 給水量(ℓ)/回 210.0 ㎡ 回数/時 給水量(ℓ)/時 A 1~2日目 間欠 2 10 6.0 6.0 36.0 B 3~4日目 間欠 2 30 6.0 2.0 12.0 C 5~6日目 間欠 2 180 6.0 0.33 2.0 設定パターン 経過日 開始 1 15:00 ~ 08:00 17 36.0 612 2.9 ℓ/㎡ 2 08:00 ~ 08:00 24 36.0 864 7.0 ℓ/㎡ 3 08:00 ~ 08:00 24 12.0 288 8.4 ℓ/㎡ 4 08:00 ~ 08:00 24 12.0 288 9.8 ℓ/㎡ 5 08:00 ~ 08:00 24 2.0 48 10.0 ℓ/㎡ 6 08:00 ~ 08:00 24 2.0 48 10.2 ℓ/㎡ 7 08:00 ~ 08:00 24 2.0 48 10.5 ℓ/㎡ A B C 終了 給水稼働時間 給水量(ℓ)/時 給水量(ℓ)/日 TOTAL 2,196 アクアカーテン3スパン ローテーション 覆工 AC ① 月 セット AC 612 火 打設 水 セット 木 打設 金 セット 土 打設 セット 火 打設 水 セット 木 打設 ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ 612 864 AC AC 日 月 ② AC AC 288 864 612 900 288 864 48 288 612 1,152 948 48 288 864 1,200 48 48 288 └> 48 288 384 612 948 48 48 864 └> 48 288 612 948 960 48 288 864 1,200 金 48 288 336 土 48 288 336 日 48 48 月 セット 火 打設 水 セット 木 打設 金 セット 土 打設 AC └> 48 48 AC └> AC └> セット 火 打設 水 セット 木 打設 AC AC 660 864 288 日 月 96 612 912 612 900 288 864 48 288 612 1,152 948 48 288 864 1,200 48 48 288 └> 48 288 384 612 948 48 48 864 └> 48 288 612 948 960 48 288 864 1,200 金 48 288 336 土 48 288 336 日 48 48 96 48 48 48 48 └> :封緘養生 図 7.2-8 養生水量の概算 171 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 (5)設備および電源ケーブル配線 アクアカーテンにより 3 スパン養生を行なう揚合,標準的な吸引設備配置および電源ケーブ ル系統を図 7.2-9 に示す. 盛替えは AC 用分電盤のブレーカー操作とケーブルコネクタの脱着により作業を行う. なお, 撤去・移設時以外は,吸引ファンを稼働させておく必要があるため,ブレーカーおよびケーブ ルには行き先表示板等により明示し,誤操作のないよう注意する. 吸引管 台車(定常時配置) フレームに固定して横断 F F AC 用分電盤 F ケーブル長は坑内 分電盤間隔を考慮 台車動力 吸引ファン F 盛替え時用 コネクター F ポンプ セントル 照明等 進行方向 F 最遠スパンに合わせた ケーブル長さを設定する 坑内高圧ケーブル 図 7.2-9 吸引設備配置および電源ケーブル系統図 7.2.5 アクアカーテンシート展帳台車の設計 アクアカーテンのシート展帳作業を効率的に行なうため,図 7.2-10 に示すような台車を製作 する.詳細な仕様はトンネルの断面・形状,スパン割りを考慮して決定する. なお,台車レールは,覆工コンクリートスパン割付などの余裕も考慮して,養生スパン分延長 に加えて 1~2スパン分の延長を準備する.また,レール幅は,セントルと同線か専用幅とす るか現場状況に合わせて決定する. 172 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 フレーム 支持パイプ ユニット フレーム 4910 作業足場 作業足場 6860 電動昇降機 電動昇降機 (4 点支持) フレーム ガイド 1950 自走台車・ レール設置 50kg/m Rail C to C 4900 移動時 設置時 補助昇降機 断面図 11000 10500 250 1250 250 3000 2500 2500 1250 1500 スライド伸縮可能 作業足場 フレーム 支持パイプ 電動昇降機 (4 点支持) 自走台車 作業足場 資材置き場 制御盤 レール ベース鋼管 側面図 図 7.2-10 台車の基本構造例 173 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 7.3 トンネル覆工用アクアカーテンの施工方法 7.3.1 施工計画 トンネル覆工コンクリートにおけるアクアカーテンは,トンネル毎に断面形状や縦断勾配が 異なるため,養生シート,ユニットフレーム,各種設備の組合せ等を詳細検討する必要がある. このため,実施計画の立案に際しては,現地条件を十分に把握し,計画に反映することが重要 である. (1)基本条件の把握 アクアカーテンを計画する際,図 7.3-1 の事項について施工者と事前に確認を行い,基本条 件を把握・整理する.また,電気容量(分電盤間隔含む)及び養生水の確保,配置条件や制約 条件等が認められた揚合は,早期に協議し改善する必要がある. <確認事項> トンネル諸元 基本条件 ・トンネル延長,覆工断面・周長,縦断勾配 ・覆工訂設工程,サイクル,スパン割り ・ポンプ車の配置(ポンプ車はセントルより前方配置) ・壁面仮設材(高圧ケーブル・照明・配管類は路盤に下げる) ・坑内高圧ケーブル容量と分電盤位置・間隔の確認(AC 対応) ・予想電気容量の算定(吸引・給水設備,台車,照明等) ・坑内給水管の配置位置,分岐バルブ間隔 ・養生水として適用可能か確認(水質・濁り),補給方法(連続給水が必須)の確認 ・掘削の有無・留意事項,風管位置,形状,路盤の不離,施工基面高確認 ・箱抜きの有無(コンパネ等による養生) ・台車組立箇所(クレーン・搬入車両の配置) ・敷設レールの考え方(レール規格,セントルと同線,別線) ・施工体制(覆工班の編成) 電気設備例 水中ポンプ ターボファン 徐水除塵一体型ファン シリンダーライト 投光器 ダウントランス 分電盤 コネクター 容量(kw) 単相 100v 三相 200v 三相 200v 単相 200v 単相 200v 200v/100v 三相 200v 250v20A4極 地質情報 実施条件 ・路盤泥寧化対策の必要性 ・循環システムの検討(コスト留意) ・アクアカーテン実施時期(工程) ・標準部,養生期間,養生対象スパン ・非常駐車帯の有無 ・特殊部の有無 図 7.3-1 基本条件把握フロー 174 0.48 0.40 0.75 0.04 0.50 3.00 - - 備考 ダウントランス 配線・コネクタ附属 台車用 作業用 水中ポンプ 20A×4以上 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 (2)システム設計 アクアカーテンの構成設備の設計手順及び主要項目を図 7.3-2 に示す. <項 目> 養生シート シート製作計画・設計 ・養生シ-ト,不織布,気密フィルムの割付 ・ワイド吸引,吊り下げネット設置険討 ・養生シ-トの展張方法(巻き方確認) ・気密部の処理(マス力一,脚部ゴムマット,目地部) ユニットフレーム 標準部タイプの設計 ・気密フレ-ムの検討 ・特殊部対応の検討 給水設備 給水系統・設備構成の計画 ・予想電気容量の算定 ・給水方向 ・給水チュ-ブ ・給水タンク ・給水用ポンプ ・制御タイマー ・給水ホース配置,盛替え計画(手順) 吸引設備 吸引系統・設備構成の計画 ・予想電気容量の算定 ・吸引ファンの選定,必要台数 ・除水除塵機・調圧バルブ ・吸引管の割付,ワイド吸引 ・吸引口必要数 ・電源ケーブル配線,盛替え計画(手順) ユニットフレーム台車 台車の設計 ・予想電気容量の算定 ・標準仕様との変更部把握~詳細設計 ・レールゲージ,補助昇降機 ・レール必要長 調達品・在庫確認 調達スケジュールの確認 ・養生シート母材(トンネル用 d40) ・養生シート用不織布(30g/m2) ・給水チューブ用不織布(50g/m2) ・エバーフロー(A-100) ・ ワイド吸引(M-115),・吸引ロセット ・ 給水取り出し口セット,・吸水ポンプ ・吸引ファン,除水除塵機,除水除塵機一体型吸引ファン ・タイマー盤 図7.3-2 設計手順及び主要項目 175 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 (3)施工フロー アクアカーテン施工フローを図 7.3-4 に示す. 項 目 内 容 頻 度 START レール敷設 ユニットフレーム組立 養生シート展張 給水チューブ設置 ・ユニット地組,台車上で一体化 初回のみ ・ユニットフレームヘ固定 シート張替時のみ ・給水取り出し口セット ・吸水用ホース取り付け・接続 ・吸引電源ケーブルの横断設置 養生シートのリフトアップ ・台車によるリフトアップ ・脚部ジャッキ固定 養生シートの気密処理 ・端部気密部にフレーム設置 ・気密フレームジャッキ固定 吸引設備設置 ・ワイド吸引設置 ・吸引管,吸引口設置 ・脚部気密処理(脚部ゴムマット,マスカー) ・吸引管組立,吸引ホース配置・接続 ・吸引ファン,除水除塵機の配置・接続 給水設備設置 ・給水ポンプ,送水ホース配置接続 ・給水制御タイマー接続 吸引開始 ・気密状況点検 給水開始 ・漏水点検 ・間欠給水運転(タイマー制御) 撤去・移設 ・吸引設備・給水設備の運転確認 ・台車上にユニットフレームをダウン,設備撤去 ・ユニットフレ-ムをガイドに固定 ・新設スパンまで自走(風管盛替え) ・設備関係小運搬 箱抜き等の処理 箱抜き部への当て板補強 ※再設置(繰り返し) END 図7.3-4 施工フロー 176 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 7.3.2 施工方法 (1)ユニットフレーム組立 覆工1スパンを基本単位として養生を行うため,目地部の取り合い,気密部の収まりなど養 生シートの割付と関連を持たせて計画する.また,フレーム各部材をユニット化し,坑内作業 でも組立可能な方法を採用する. 1)メインフレーム 立ち上げ ・ トンネル中央部で組み上げたメインフレームを作業員4名+2名でアーチを描くように 曲げ,トンネル縦断方向にメインフレームを立ち上げる. ・ その後転倒防止用の控えロープを操作しながら 90 度回転しトンネル断面にあわせる.図 7.3-5 に施工状況を示す. メインフレーム立ち上げ 図 7.3-5 メインフレーム立ち上げ状況 2)ユニットフレームの仮組立て ・ 方向を転回したメインフレーム4組を順次台上に預け図7.3-6のようなベース部の部材に 順次差し込む. 図 7.3-6 メインフレームベース部仮組立状況 177 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 3)ユニットフレーム継手材の取り付け ・ 各ユニット間に継手材を取付ける(13 ㎜ソケットを使用しウツボユニバーサルで固定) . この際,台車を前後して足場を確保しながら行う. ・ 継手材は3列,天端より3本は 1m間隔,その下2本は 2m間隔に設置する.図 7.3-7 に ユニットフレーム継手材設置位置を写真 7.2-7 に組立完了状況を示す. 図 7.3-7 ユニットフレーム継手材設置位置 写真 7.3-1 ユニットフレーム組立完了状況 5)特殊部におけるユニットフレーム 標準部のユニットでは対応ができないスパン長の短いブロックは,図 7.3-8 に示すようなつ なぎ材中央部の長さを変化させることで対応可能な構造を横討する. 非常駐車帯や妻壁などは断面・形状等を考慮して別途検討する. 178 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 気密フレーム フレーム 固定ジャッキ メインフレーム つなぎ材 側面図(標準タイプ) 断面図 縮小スパンに 合わせて切断 ベース部伸縮 側面図(スパン調整) 図7.3-8 ユニットフレーム構造例 (2)養生シート展張 養生シートは覆工 1 スパンに対して 1 枚で製作され,標準的な道路 2 車線トンネルでは養生 面積が 200 ㎡程度になる.養生シートの展張作業は,ユニットフレーム天端部に荷解きしたシ ートをメガネ巻の状態で縦断方向に送り込む.その後,位置決めを行い左右方向に展開,シー ト本体固定フィルムをユニットフレームに巻き込み専用クリップで固定する.養生シートの搬 入から展帳状況を写真 7.3-2~7.3-4 に示す.以下に養生シートの展帳作業の施工手順を示す. 1)養生シートの搬入 ・ メガネ巻きの状態で養生シートを台車の天端へ引き込む. ・ 搬入した養生シートはセンターラインを目印にフレーム中央にセットする. 2)養生シート展張作業 ・ 養生シートを所定の位置に配置してメガネ巻きシートの片側を展張する. ・ 台車足場上で給水チューブをフレーム間で手渡ししながらシート縦断方向に仮配置する. ・ 反対側のシートを展張する. ・ 養生シート固定フィルムは図 7.3-9 に示すように専用クリップにて,たるみの無いように メインフレーム端部へ固定する. 179 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 ・ 専用クリップの設置間隔は,天端 45 度範囲は 60cm 間隔,それ以外は 1m 間隔とする. ・ 天端部 2m 範囲の固定フィルは,緩み防止のため粘着テープ(PE テープ)で点付けする. 展張方向 写真7.3-2 養生シート梱包例と巻き方 シート規格表示 写真 7.3-4 養生シート展帳状況 養生シート 専用クリップ(@0.6~1m) 固定フィルム 給水ホース 固定フィルム メインフレーム 図 7.3-9 養生シート両端部の固定方法 180 専用クリップ コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 (3)養生シートのリフトアップ ・ 図 7.3-10 に示す台車の昇降装置を操作し,ユニットフレーム全体を覆工面へ密着させる. ・ 設置に際しては,フレーム,給水チューブの中央配置を確認しながら全体のバランスを微 調整し,過度に押し付け過ぎないよう注意して行う. ・ 特に,天端部分の密着不良は,吸引後に水溜まりの原因となるため,補助昇降装置(足踏 み油圧ジャッキ)で確実に押し上げることが重要である. ・ フレームの固定は, ベース部に差し込まれたジャッキベースを適度なところまで押し上げ ることで,トンネル周方向に軸力を確実に与え全体を安定保持させる.ジャッキの安定性 が悪い場合には,木製キャンバーを挟む. 1950 6860 4910 ②補助昇降機 (2箇所) ①電動昇降機 (4 点支持) 50kg/m Rail C to C 4900 電動昇降機 ③補助昇降機 (計4箇所) 補助昇降機 図 7.3-10 養生シート展帳台車昇降装置 181 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 (4)養生シートの気密処理 養生シート端部の気密処理方法は,部位により3つのパターンの施工方法がある.気密部の 処理方法例を写真 7.3-5 に示す. 1)シート両端部周方向面 気密用フレームに緩衝材を巻き付け,養生シート端部の気密フィルム部を覆工面に押し当て 密着性を高める. 2)シート両端部脚部面 ユニットフレームの脚部は,直接フレームにより覆工面に押し当てることができないため, 気密ゴムマットを設置し,ジャッキ部から控えをとることで面的に密着させる. 3)シート脚部(両端部以外) 養生シート下端部は,汎用品の粘着テープ付きマスカーシートを養生シートに貼り付けフィ ルムを広げる. 気密フレーム マスカーシート 目地部ではバックアッ プ材でフィルム部を押 し当て気密性を高め る 気密ゴムマット 吸引ファン 除水除塵機 緩衝材付き 気密フレーム 気密フィルム 緩衝材 固定フィルム 写真 7.3-5 気密処理方法例 182 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 (5)吸引状況および給水状況 写真 7.3-6 に浸水養生シート展張完了状況を示す.1スパンの養生面積は約 200m2 であり, 左右に設置した 2 台のファンにて吸引を行った結果,給水開始後 30 分程度で水膜が形成され た. これにより, 道路 2 車線断面トンネルにおいても充分な浸水養生が可能となった. 写真 7.3-7 にトンネルでの水膜形成状況を示す. 展張完了状況(3スパン) 吸引前 吸引後 写真 7.3-6 浸水養生シート展張完了状況 183 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 給水用チューブ2本仕様 給水開始時点 天頂部の水膜形成 10分後 給水開始後30分程度で水膜が全面に形成 30分後 写真 7.3-7 トンネルでの水膜形成状況 184 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 (6)給水ホース配置・盛替え手順 アクアカーテンを 3 スパン実施する揚合の給水ホース配置計画を以下に示す. 給水ホースの延長は,給水タンクの配置位置,盛替え手順を考慮して延長を決める,坑内給水 からの分岐の間隔を考慮し検討する必要がある.一般的な給水設備配置および送水系統を図 7.3-11 に示す.また,標準的な3スパン養生における盛替え手順を図 7.3-12 に示す. 側面図 給水チューブ 打設ブロック 給水ホース(アーチ) (フレームに固定) ワンタッチジョイント セントル 送水ホース 給水ポンプ P P P 平面図 給水タンク(台車上に配置) 台車(定常時配置) 給水方向 セントル 坑内給水本管 台車移動時に全ての ジョイントを分離 P P P 延長○m 本管分岐(間隔確認) 補給用の配管延長 は分岐間隔による 延長□m 延長△m 自動補給装置の有無により,タンク容量は大きく異なる 自動補給装置の装備を推奨 図 7.3-11 給水設備配置および送水系統図 185 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 No.1 No.2 No.3 【養生実施(定常運転時)】No.1~No.3 スパンの吸引ファン・給水ポンプ稼働中 ① No.1~No.3 スパンの給水ポンプ停止・送水ホースジョイント分離 ② No.1 撤去スパンのみ吸引ファン停止,No.2~3 スパンの吸引ファンは稼働中 No.1 No.2 No.3 セントル移動 【撤去スパンの盛替え準備】No.2~3 スパンの吸引ファン稼働中・給水ポンプは全て停止中 ① No.1 撤去スパンに台車移動,昇降装置点検 ② 台車のフレーム支持パイプを上昇させユニットフレーム支えたままダウン ③ No.1 撤去スパンの吸引設備・給水設備撤去~No.4 スパンへの移動準備 No.1 No.2 No.3 No.4 【新設スパン(再設置)】No.2~3 スパンの吸引ファン稼働中・給水ポンプは停止中 ① No.1 スパンのユニットフレームを台車に載せたまま No.4 スパンまで移動 ② ユニットフレームを昇降機で上昇~設置~ジャッキにより脚部固定~気密フレーム設置 ③ No.4 スパンの吸引装置設置~吸引開始~吸引完了の確認 ④ No.2~No.4 スパンの給水ホースを接続~給水開始 No.2 No.3 No.4 【養生実施(定常運転時)】No.2~No.4 スパンの吸引ファン・給水ポンプ稼働中 ① 新設 No.4 スパンの浸水状況を確認 ② 給水運転をタイマー設定に切替え定常運転へ 図 7.3-12 盛替え手順 186 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 (7)箱抜き等の処理 箱抜き箇所は, 負圧により養生シートが引き込まれ破損するため, 合板ベニヤで事前に塞く. 写真 7.3-8 に箱抜き部の処理状況を示す. 4本程度の控えが必要 写真 7.3-8 箱抜き部処理 7.4 現場における覆工コンクリートの高品質化とその評価 7.4.1 新武岡ランプトンネルでの取り組み 鹿児島市に位置する新武岡トンネルのランプトンネル(延長約 700m)は,2 車線の道路ト ンネルで,将来,供用後に並行して掘削される予定の本線トンネルによる影響を考慮して,全 線にわたり鉄筋コンクリート構造の覆工である[1] .鉄筋コンクリート構造とすることで,覆 工は力学的機能を付加されたものとなるが,一方で,一般の無筋コンクリートの覆工とは異な る品質の管理なども必要となる.日向等[2]は,新武岡トンネルにおいて,鉄筋コンクリー ト構造の覆工の要求性能を明確化し,アクアカーテンを用いた養生を行い覆工の高品質化に取 り組んでいる. 本節では,新武岡ランプトンネルに RC 覆工の高品質化に対する取り組みとその評価につい て検討する. 7.4.2 覆工の高品質化対策 鉄筋コンクリート構造の覆工における高品質化対策として,表 7.4-1 のような配合,打設方 法の対応を行なった上で,アクアカーテンによる浸水養生を実施する.なお,ここでは配合及 び打設方法の対策について述べる. (1) コンクリートの配合での対応 配合では,表 7.4-2 に示す対策を行う.なお,中流動コンクリートは流動性が高く,良好な スランプ・空気量の保持機能を有するだけでなく,材料分離抵抗性についても優れていること から,近年覆工での適用事例が増えている.コンクリート配合を表 7.4-3 に使用材料一覧を表 7.4-4 に示す. 187 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 表 7.4-1 高品質化を目的とした具体的対策 乾燥・温度 着目点 具体的対策 中性化 ひび割れ に対する抵抗性 に対する 剥落 に対する 抵抗性 流動性の高いコンクリー ○ トの採用 の配合 ○ ○ セメント種類の変更 コンクリート ◎ の採用 短繊維 ○ の採用 打設方法 方法 の改善 ◎ ○ 湿潤養生 養 生 ◎ ○ 膨張材 打設 初期欠陥の防止 抵抗性 ◎ ◎ の実施 ◎ ◎:効果が大きく期待できるもの ○:効果が期待できるもの 表 7.4-2 配合面の高品質化対策 着目点 対 策 初期欠陥の防止 ・中流動コンクリートの採用 中性化に対する抵抗性 ・セメントの種類を変更(高炉B種→普通ポルトランド) 乾燥・温度ひび割れに対する抵抗性 ・膨張材の採用 剥落に対する抵抗性 ・短繊維(合成繊維)の採用 表 7.4-3 中流動コンクリート配合表 セメン トの 種類 Gmax (㎜) スランプ / スランプ フロー (cm) 普通 20 21±2.5 35~50 空気 量 (%) 水 セメ ント 比 (%) 細 骨 材 率 (%) 4.5 ± 0.5 50 55 単位量 (kg/m3) 細骨材 粗骨材 水 セメ ント S1 S2 G1 G2 175 350 336 610 238 567 188 膨張材 20 高性能 AE 減水 剤 短繊 維 (kg/ m3) 5.63 2.73 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 表 7.4-4 使用材料一覧 材料 種類・産地など 密度その他 普通ポルトランドセメント 3.16 g/cm3 石灰岩:大分県津久見市上青江戸高鉱山 2.67 g/cm3,FM=2.75 硬質砂岩:鹿児島県日置市吹上町田尻 2.62 g/cm3,FM=2.85 硬質砂岩:鹿児島県日置市吹上町田尻 2.64 g/cm3,実績率 59.5% 石灰岩:大分県津久見市下青江津久見鉱山 2.70 g/cm3,実績率 60.0% 高性能AE減水剤 ポリカルボン酸エーテル系 化合物と増粘性高分子化合物の複合体 1.03~1.10 g/cm3 膨張材 Ex エトリンガイト・石灰複合系 2.98 g/cm3 短繊維 F ポリプロピレン製 0.91 g/cm3,繊維長 48mm セメント 細骨材 S1 細骨材 S2 粗骨材 G1 粗骨材 G2 砕砂 砕石 2005 (2) 打設方法の改善 今回採用した中流動コンクリートは,締固めが困難な天端部の充填性向上や型枠バイブレー タ等を用いることによる省力化を目的に開発されたものである[3] .これを鉄筋コンクリート 覆工に用いることで充填性の向上が期待でき,初期欠陥の少ないコンクリートの構築が可能と なる.ただし,鉄筋コンクリート覆工は,普通の無筋コンクリートの覆工に比べて充填性を確 保するのが難しいため,中流動コンクリートの採用だけでは高品質化の施策としては十分であ り,打設方法の改善も必要である. そのため,表 7.4-1 に示す初期欠陥の防止を第一の目的として,打設方法の改善に取り組む. (3) 養生 コンクリートは,打込み後のごく早い時期に表面が乾燥して内部の水分が失われると,セメ ントの水和反応が十分に行われずひび割れ発生の要因となり,さらに,風などによって表面だ けが急激に乾燥すると,ひび割れ発生の確率が高くなる.また,コンクリートの力学的性能, 耐久性,およびその他の性能等の品質を高めるためには,コンクリートを十分硬化させること と,硬化中の乾燥による収縮をできるだけ小さくすることが必要である.そのため,打ち込み 後は,できるだけ長く湿潤状態に保つことが望ましい[4] . 以上のことから,覆工コンクリートの養生にアクアカーテンを適用する. 189 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 7.4.3 高品質化施策の評価 (1)中性化に対する抵抗性 覆工コンクリートにおける浸水養生の効果を比較した既往の研究[5]では,浸水養生 1 週 間の後に気中養生 3 週間を行った供試体と,気中養生 4 週間を行った供試体について,促進中 性化試験を行い, 中性化深さを比較している. これによると,50 年後の中性化深さの推定値は, 気中養生 4 週間では 43mm,浸水養生 1 週間では 20mm となり,浸水養生により中性化深さ を大幅に低減できる. よって,ランプトンネルにおける浸水養生の実施により,かぶりコンクリートの中性化速度 が低減し,鋼材を腐食から十分に保護する性能が付与されたと言える. (2)乾燥・温度ひび割れに対する抵抗性 a)膨張材による初期ひび割れの低減効果 覆工コンクリートの高品質化対策による,初期ひび割れ低減効果を検証するため,3 次元 FEM 温度応力解析を行い,ひび割れ指数(コンクリートの引張強度/発生引張応力)を算出する ことで評価する. 表 7.4-5 に示すように,通常鉄筋コンクリート構造の覆工で使用する配合と今回採用した配 合の2種類について検討を行う.その解析モデルを図 7.4-1 に,主な解析条件を表 7.4-6 に示 す.解析モデルはランプトンネルの一般部を対象として,トンネルの対照性を考慮し,トンネ ル断面を左右 2 分割,1 スパン 10.5m をスパン中央で 2 分割した 1/4 モデルとした.検討時期 は,コンクリート温度が最も高くなる 8 月初旬の打設を想定して比較する.なお,解析プログ ラムにはマスコンクリートの非線形温度応力解析プログラム ASTEA MACS for Windows(Ver.6)を使用する. 解析結果をまとめて表 7.4-7 に示す.また,図 7.4-2 に各配合の最小ひび割れ指数分布図を 示す.温度応力の発生形態としては,側壁部にトンネル軸方向に引張応力が発生していること から,アーチ部のコンクリートがインバートに拘束されて発生する外部拘束応力が卓越する結 果が得られた. 通常コンクリートの配合においては,最小ひび割れ指数が 1.0 程度となったが,高品質化し た中流動コンクリートは,膨張材の採用により,最小ひび割れ指数が 1.56 となり,ひび割れ発 生の可能性を低減できた.また,トンネル軸方向の鉄筋量(トンネル軸方向鉄筋比 0.19%)とひ び割れ指数からひび割れ幅を算出すると,高品質化した中流動コンクリートは 0.06mm 程度と 小さくなった. 190 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 表 7.4-5 通常鉄筋コンクリート配合表(性能比較表) セメン トの 種類 Gmax (㎜) スランプ / スランプ フロー (cm) 普通 20 15±2.5 空気 量 (%) 水 セメ ント 比 (%) 細 骨 材 率 (%) 4.5 ± 0.5 53 50 単位量 (kg/m3) 細骨材 粗骨材 G1 G2 膨張 材 高性能 AE 減水 剤 167 315 230 679 634 278 - 4.41 水 セメ ント S1 S2 短繊 維 (kg/ m3) - しらす 吹付けコン クリート 覆工コン クリート インバート 対称面 図 7.4-1 解析モデル(1/4 モデル) 表 7.4-6 解析条件 特性値 単位等 覆工コンクリート 吹付けコンクリート 地山(シラス) 打込み温度 ℃ 31.7 - - 熱伝導率 W/m℃ 2.7 2.7 3.45 比熱 kJ/kg℃ 1.15 1.15 0.8 単位容積 質量 kg/m3 2,300 1,550 - - 10 0.2 10 0.3 22,000 216 断熱温度 上昇式 (打込み 20℃) 基本式 (セメント量) kg/m3 (K)℃ (α,β) 熱膨張係数 ポアソン比 ×10 – - 有効 ヤング係数 N/mm2 引張強度 N/mm2 膨張ひずみ ×10 6 – 6 通 常:2303 中流動:2296 Q(t)=K(1-exp(-αtβ)) 通 常:315 中流動:350 通 常:47.7 中流動:51.5 通 常:(1.16,1.00) 中流動:(1.29,1.00) 10 0.2 Ee=Φ(t)×4700(f’c(t))0.5 Φ(0<t<3 日)=0.73 Φ(3≦t<5 日)=0.73~1.0 Φ(t≧5 日)=1.0 ft(t)=0.44(f’c(t))0.5 中流動のみ 150 付与 191 - - - - 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 表 7.4-7 3 次元温度応力解析結果および推定ひび割れ幅 配 合 通常 27-15-20 中流動 最小 ひび割れ 指数 ひび割れ * 発生確率 (%) トンネル 軸方向 鉄筋比(%) 推定最大 * ひび割れ幅 (mm) 1.04 80 - - 1.56 14 0.19 0.06 *:2007 年版・土木学会・コンクリート標準示方書(設計編)に準拠して算出 凡例 最小ひび割れ 指数=1.04 最小ひび割れ 指数=1.56 通常 27-15-20 中流動 図 7.4-2 最小ひび割れ指数分布 b)浸水養生による乾燥収縮ひずみの低減効果 浸水養生による乾燥収縮ひずみの低減効果を,実際の配合で確認するため,コンタクトゲー ジ法による乾燥収縮ひずみの比較を行う.また,圧縮強度の比較も合わせて行う. 10×10×40cm の角柱供試体を覆工コンクリート打設時に採取し,実際の施工と同様に翌日 脱型した後,ゲージプラグを取り付け,坑内において,気中養生 4 週間を行ったものと,浸水 養生 1 週間の後に気中養生 3 週間を行ったものの 2 条件で養生し, 長さ変化を比較した. また, 同様の条件でφ12.5×25cm の円柱供試体を養生し,圧縮強度を比較する.なお,材齢 28 日ま での間の坑内平均気温は 27.8℃,平均湿度は 77%である. 試験結果を図 7.4-3 および表 7.4-8 に示す.図 7.4-3 より,1 週間の浸水養生の実施により, 材齢 28 日における乾燥収縮ひずみが約 75μ低減することが確認できた.また,表 7.4-8 より 圧縮強度は約 20%向上することが確認できた. 192 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 150 気中4週 100 浸水1週、気中3週 ひずみ(µ) 50 0 -50 -100 -150 -200 0 5 10 15 材齢(日) 20 25 30 図 7.4-3 乾燥収縮ひずみの比較 表 7.4-8 圧縮強度の比較 養生条件 28 日強度(N/mm2) 坑内気中養生 4 週間 33.1 坑内浸水 1 週間,気中 3 週間 39.8 (3) 初期欠陥の防止 a)豆板(ジャンカ) 豆板は,覆工コンクリートの場合,側壁とインバートとの打継目部分,および投入口を下段 の窓から上段の窓に切り替えた際の打重ね部分に発生しやすい.対策としては,図 7.4-4 に示 すようにシュートを長くし, コンクリートの落下高さを小さくすることで材料分離を防止する. しかし,鉄筋コンクリートの場合は,鉄筋に阻まれてコンクリートが充填され難い箇所が生じ る場合があるため,締固めの層厚の管理を確実に行い,写真 7.4-1 に示すように目視にて棒状 バイブレータによる締固めを行う. 以上の対応の結果,鉄筋コンクリートの打設区間全線にわたり,豆板と判定されるようなコ ンクリートの初期欠陥は認められなかった. 1.5m 程度 0.5m 程度 図 7.4-4 コンクリート落下高さの低減 写真 7.4-1 コンクリート締固め状況 193 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 b)コールドジョイント・縞模様 一般に,コールドジョイントは,適切な打重ね時間間隔で打設し,層境界部の締固めを十分 行うことで発生を回避することが可能であり,近年のトンネル覆工で,コールドジョイントが 発生する例は少ない.天端部で,吹上げ方式で打設したコンクリートは,先に流れたコンクリ ートの上に一定の時間を置いたのちに流れる場合が多い.そのため,若干の硬化時間の差やブ リーディングの影響により縞模様となって現れやすい.そこで,中流動コンクリートで使用さ れる型枠バイブレータに加え,以下の対策を行う. 先に流れたコンクリートと後に流れたコンクリートの境界部については,棒状バイブレータ により確実に締め固めることを基本とした(図 7.4-5 中①参照) .また,特に鉄筋コンクリート の場合,吹上げ口近辺には,滞留して動かないコンクリート塊が生じやすいため,打設中常に 棒状バイブレータで,滞留したコンクリートの締固めを行う(図 7.4-5 中②参照) .なお,仕上 がり状況を写真 7.4-2 に示す. ②滞留部の締固め 吹上げ口 吹上げ口から の打設範囲 :コンクリートの流れ 側壁窓から の打設範囲 バイブレータ ①打重ね部の締固め 図 7.4-5 天端部の締固め 写真 7.4-2 覆工の仕上がり状況 194 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 7.5 まとめ 本章では,トンネル工事の特殊性を考慮しトンネル覆工にアクアカーテンを適用する際のシ ステム概要を示した. そして,アクアカーテン施工上,必要となる資機材である,浸水養生シート,吸引装置,給 水装置, シート展帳台車については, 市販品として現存しなかったためこれらの開発を行った. また,アクアカーテンの施工計画について,施工フローや詳細な施工方法および各種設備の仕 様について示した.さらに,養生方法としてアクアカーテンを採用したトンネル現場における 覆工コンクリート高品質化の取り組みについて紹介した. その結果,これまで湿潤養生することが困難であったトンネル覆工コンクリートに対し,ア クアカーテンを適用することで水中養生なみの浸水養生を確実に行うことが可能であることを 示すことができた.以下に本章で得られた知見を示す. 1)浸水養生シートは,負圧部と気密部からなり,覆工打設スパン単位の大きさに加工したも のを採用する. 2)吸引装置は,吸引機械であるターボファンに除水除塵機を組み合すことで,吸引配管接続 時に異物が混入し吸引機械を破損したり,電気系統への水の侵入や錆によるトラブルを防 止することができる.また,トンネルにおける吸引装置系統についての検討を行い,施工 性に優れる配置を提示した. 3)給水装置は,制御タイマーによりコンクリートの吸水量に合わせながら給水量をできる限 り小さくできるように装置を開発した.給水チューブは不織布付きの3連のホースを組み 合わせたものとし,養生スパン(10.5m)に対して左右の給水量にばらつきが生じないよ うにした.また,トンネルにおける給水装置系統についての検討を行い,施工性に優れる 配置を提示した. 4)アクアカーテンのシート展帳作業を効率的に行なうため,作業足場,昇降機,移動設備か らなる専用の台車を開発した. 5)鉄筋コンクリート構造の覆工に中流動コンクリートを適用することで,コンクリートの流 動性,材料分離抵抗性などの充填性を改善し,ワーカビリティーを向上させることができ た. 6)アクアカーテンの採用により,中性化に対する抵抗性が向上し,鉄筋コンクリート構造の 覆工における長期耐久性向上が期待できることを確認した. 7)膨張材の採用により,乾燥収縮および温度ひび割れに対する抵抗性が向上することを確認 した. 8)コンクリートのワーカビリティーの向上に加え,打設方法の改善により,覆工に生じやす い初期欠陥を低減できることを確認した. 195 第7章 アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 参考文献 [1] 五反田信幸,緒方秀敏,多宝 徹,日向哲朗:シラス地盤に超大断面 378m2 の地中分岐部を建 設 鹿児島東西道路 新武岡トンネル,トンネルと地下,Vol. 43,No. 3,pp.15-25,2012. [2] 日向 哲朗,多宝徹,緒方秀敏,杉山律,武若耕司:山岳トンネルにおけるRC覆工の高品質化施 策とその評価,トンネル工学報告集第 22 巻,2012.11,pp.213-223. [3] 中野清人,小川澄,佐伯徹:NEXCO 中流動覆工コンクリート技術のまとめ,㈱高速道路総合技 術研究所,平成 23 年 12 月初版. [4] 土木学会:コンクリート標準示方書 施工編,pp.126-129,2007. [5] 新居秀一,白岩誠史,林俊斉,齋藤淳:覆工コンクリートにおける給水養生開始時期の品質に 与える影響,土木学会第 67 回年次学術講演会,VI-002,pp.3-4,2012.9. 196 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 第8章 結 論 8.1 本研究の総括 本研究はトンネルにおいて,現場打ちのコンクリートで覆工を施工する構造物を対象とし, 覆工コンクリートの品質の向上および長期耐久性を確保することを目的として,型枠取り外し 後の養生方法の開発および効果について検討を実施したものである. 以下に,本論文を各章ごとに要約する. (1)コンクリート養生の変遷および定義 第2章では,コンクリート施工技術および歴史的図書,各種規定の変遷を振り返り養生の施 工方法や考え方を整理した.また,養生技術に関する新工法についてこれらの適用性について 調査した.さらにわが国の代表的な基準類における養生の定義について提案を行なった. 1)コンクリート施工技術の変遷 コンクリート技術は,コンクリートの製造,運搬,締固めといった各作業工程において著し い発展を遂げてきており,一定の目的を達成した感がある.しかし,養生については,戦後 70 年の歴史の中で目立った技術開発は行われていない. 2)国内外の図書や基準類からみた規定の変遷 養生の目的と方法については現在と大きな差異はないが,旧基準の方が湿潤養生については, コンクリートに外部から水分を供給することの必要性が強調される形で述べられている. コンクリートが硬化する際,セメントの水和が完全に行われるために必要な水セメント比は 3割弱であるが,高強度コンクリートなどを除きコンクリートに用いる練混ぜ水は,ワーカビ リティーを確保するため,一般にはこれよりはるかに多い.そのため,フレッシュコンクリー トに含まれる水量がそのまま保持されれば,コンクリート硬化のために水を補給は不要という 認識が蔓延している.このことより,封かん養生を湿潤養生とみなす傾向が認められる. わが国の養生に関する規定の変遷を見ると,施工性や経済性を重視するあまり養生を軽視し てきた感がある.また,土木学会コンクリート標準示方書は型枠を用いない露出面に対する養 生を規定しているものであり,型枠を用いる場合コンクリート面については,一切記述してい ないことが確認できた.鉄筋コンクリートの耐久性はかぶりコンクリートの性能に大きく左右 されることを考慮すると,型枠を使用する面に対する規定の充実が望まれる.また,具体的な 養生の方法として“給水”が抜けている.湿潤養生とは外部から水分を供給することとの定義 197 第8章 結 論 を明確化させる活動が大切である.このためには,コンクリート標準示方書における養生対象 を露出面に限定するのではなく,早期脱型を含めた型枠使用面に対しても湿潤養生の考えを展 開していくよう改訂することが望まれる. 3)従来および最近の養生工法とその定義 従来の養生工法の一覧では,戦前から用いられてきた旧来の方法とその定義を整理した.こ れらの方法のうち,現場で適用可能なものを選択し,水平面および鉛直面への適用性を再評価 した.その結果,壁や柱などの鉛直部材に適用できる養生方法は存在するものの,その適用の 目的は,コンクリートから水分を逸散させないことに制約され,また施工性に問題があり実用 化が難しいものが多い. 4)基準類における定義と養生の分類 我が国の代表的な基準類をもとに,現場で採用されている養生方法および国内の基準類の養 生に対する分類を概観した. (2)コンクリート養生における既往研究 第3章では,コンクリート性能の指標としてよく用いられる強度発現性,物質移動抵抗性等 の耐久性に関する最近の取り組み事例を調査した. 1)強度発現特性 ・圧縮強度 圧縮強度は,水和率にほぼ一意に依存し,養生の相違による影響を受けた空隙の連続性など の形態因子の相違には,ほとんど影響を受けない.また,圧縮強度の深さ方向における強度分 布は表層から約 5cm 程度まで影響を受けている. ・反発度 反発度が小さいほど圧縮強度も低くなること,気中あるいは湿空環境に暴露した供試体,特 に早期に乾燥環境に暴露されたものは,各種推定式よりも大きな圧縮強度を示す.これは圧縮 強度試験が供試体の平均的品質を評価するものであるのに対し,テストハンマー試験で得られ る基準反発度は,より敏感に変化したコンクリート表層の品質を評価していることが理由であ る.また,湿潤養生を行なった場合,反発度は早期に高くなるだけでなく,長期材齢において も他の養生方法に比べて大きくなる. ・質量変化 硬化の進まない初期段階で浸水した供試体は,自己乾燥があまり進まないうちに外部から水 が与えられるため,水和の進行に伴って発生する空隙に水が補給される.このため,理想的な 水和反応が進行し自己乾燥を防ぐことができる. 198 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 2)物質移動抵抗性 ・空隙構造 物質移動抵抗性には,水和率や空隙率などの量的因子よりも,空隙の連続性などの形態因子 の方が支配的である.また,養生の効果については,初期水中養生期間が長いほど水和反応が 進行して結合水量は多く,乾燥水和水量は少なくなり,その結果,細孔構造は微細化し緻密な 組織となることで水分の逸散が抑制される.連続的な水中養生環境下では水和の進行,つまり 材齢の経過とともに緻密化するが,連続乾燥環境下では水和の停止とともに粗大空隙が残存し たまま組織形成される.表層コンクリートの空隙構造を緻密化するためには,硬化の初期に水 分を十分供給することが重要であることが空隙構造に関する試験の結果明らかとなった. ・透水係数 普通セメントを用いたコンクリートに対して得られた透水試験結果から,表面からの水分逸 散を抑制する養生手法(湿空養生,ビニールシート養生,被膜養生剤塗布)よりも,コンクリー トに水を供給する養生手法(水中養生,マット養生,噴霧養生)の方が,コンクリート表層部の 緻密化及び表層品質向上効果が大きくなり,透水係数は小さくなる. ・透気性 透気試験で水中養生と気中養生の透気係数の差は 95%以上となったことから,透気性という 観点から考える物質移動抵抗性についても,強度よりも養生の良否による影響を受けやすいこ とが確認された.また,給水養生より保水養生の方が透気係数が大きくなり,水を供給する養 生方法の有効性を確認できた. ミスト養生については,コンクリートの鉛直面に対する湿潤養生として,脱型後から一定時 間間隔で所定量のミストを噴霧する養生手法を適用することで,実大規模のコンクリート構造 物に対しても表層品質を向上させる効果が期待できる.しかし,排水・水中養生工法をについて は, 型枠存置やマット散水養生では表面が緻密化せず透気係数が大きい結果となったことから, 給水が可能なマット等を鉛直面に適用する場合には,密着させることが重要である. ・塩化物イオン透過性 ミスト噴霧による塩化物イオンの浸透試験では,噴霧養生によって気乾養生と比べて塩化物 イオンの浸透抵抗性が向上する. ・凍結融解抵抗性 湿潤養生マットで養生した場合,相対動弾性係数の変化はほとんどなく,散水養生,無養生 では相対動弾性係数は低下する.質量減少率もついても同様な傾向である. ・中性化抵抗性 中性化の進行に支配的な影響を及ぼすのは,40nm 以上の細孔径であり,養生期間,養生方 法などの養生条件に係わらず,中性化深さは 40nm 以上の細孔量と直線関係にある.型枠存置 やマット散水養生の中性化深さは,標準養生に比べて最大で 34%大きくなり,給水養生を行っ た方が中性化深さは小さくなることが分かった. 199 第8章 結 論 ・乾燥収縮 乾燥収縮量は,普通セメントでは暴露環境に入るとほぼ同一挙動を示すが,高炉B種セメン トでは初期の養生の影響を受ける.しかし,材齢初期からの急激な乾燥で水和を停止したセメ ントであっても,乾湿繰返し作用により水分が供給されると再び水和が進行し,初期養生の相 違が乾燥収縮量に与える影響は小さくなる. (3)覆工の役割と施工方法および養生方法 第4章では,覆工コンクリートの役割・機能および設計思想の変遷や施工方法を調査し,現 場で最もなおざりになっている養生方法の課題と湿潤養生を適切に実施した場合の養生効果に ついて整理した.また,近年の覆工コンクリートの養生工法について調査し考察した. 1)覆工の役割・機能および設計思想の変遷 NATMが標準工法となってからは,覆工コンクリートは特殊地山を除く安定した地山にお いて力学的機能を付加しない薄肉構造となってが,支保部材の支保能力が低下した場合の機能 補填を行うことを期待する余力保持機能の側面も持つ. 施工技術や施工機械の性能向上により覆工コンクリートの品質も向上してきたことから覆 工厚さが小さくなっている.しかし一方で,トンネルが小土被り,断層破砕帯,膨張性地山等 の特殊な地山条件下に計画されるケースも増加し,覆工コンクリートの機能として支保工を補 完する力学的な機能も求められる場合も増加している.覆工コンクリートの品質管理について は, 1960 年頃からほとんど土木学会制定のコンクリート標準示方書と同様な管理を行うように なっている. 2)覆工コンクリートの施工方法 覆工コンクリートの配合については,発注者毎に基準が定められている.また,打設方法に ついても大型の型枠が導入されるようになりアーチ部を全断面打設で施工するようになったこ と,コンクリートポンプや締め固め機械の高性能化,施工技術の蓄積等によりコンクリートの 品質確保できるようになった. 3)覆工コンクリートの課題と養生技術 トンネル覆工コンクリートは打込み翌日に脱型するため,型枠存置による十分な養生効果は 期待できない.しかし,トンネル坑内は温度湿度が安定しているという考え方により,特に付 加的な養生は行っていないが,大型換気設備の導入が進み,坑内温度および湿度は低下してお り,コンクリートに対する坑内環境は悪い.そのため,乾燥収縮が原因とされるひび割れが発 生している.また,覆工コンクリートの養生に関しては,型枠取りはずし時期と強度などに関 する基準はあるが,型枠取りはずし後の養生に関しては基準もない.さらに,実施工において 200 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 も型枠取りはずし後の養生を行なっている現場は3割程度であり,養生を行なっている現場に おいても施工方法はまちまちで定着していない. トンネル覆工コンクリートに対する養生技術は,2003 年(平成 15 年)にセントルバルーン およびコンクリート養生バルーンが登場以来,各社から改良工法が提案され実用化している. 4)覆工コンクリートの課題と養生技術 覆工コンクリートの新しい養生技術においては,いずれの方法も覆工コンクリート表面を高 い湿度に保って,練混ぜ水を逸散させない効果は認められるものの,経済的にコンクリートが 必要としている養生水を均一に供給することは困難である. 養生方法によって得られる養生の効果を既往文献による調査をした結果, 型枠取りはずし後, 湿潤養生を行なうことで,強度発現特性,物質移動抵抗性,耐久性が向上することが分かった. 一方,封かん養生等の保水養生については,湿潤養生ほどの効果は確保できないことも分かっ た. 5)覆工コンクリートにおける今後の課題 覆工コンクリートは,早期に脱型されるという不可避的な条件にあるが,給水を行い湿潤養 生することで,大きな養生効果を期待することができる.また,近年覆工コンクリートを取り 巻く環境は変化してきており,従来“化粧巻き”として扱われてきたコンクリートが鉄筋構造 物としての機能を期待される場合もでてきた. 今後の課題として,養生を単に覆工コンクリートの強度発現不足の対策としてではなく,覆 工コンクリートの更なる耐久性向上を目指した養生として捉えていく必要がある.そして,使 用するコンクリートの材料特性に合った積極的な養生を行っていく必要がある.これらの課題 を解決するためには,トンネル掘削の施工性を確保しつつ覆工コンクリート表面を常に湿潤状 態に保つ養生が必要となる. (4)浸水養生の定義とアクアカーテン養生システムの開発 第5章では,今回開発したアクアカーテンについて工法のアイデア立案から標準仕様を決定 するまでに行なった各種試験の内容と成果について詳細に示した. 1)浸水養生の定義 アクアカーテンによる養生は,壁面や柱および覆工等のコンクリート構造に対し,安定的に 水膜を形成させ養生水を供給できる工法であり,この養生方法を以下のように浸水養生と定義 した. 「壁面等の鉛直面やアーチ構造物内側面のコンクリートに対し,養生シートを用い給水を行 いながら,常にコンクリート表面に水膜を形成させ湿潤養生を行うこと」を浸水養生工法と定 義する.なお,アクアカーテン養生システムは,この浸水養生を行う唯一の工法である. 201 第8章 結 論 2)アクアカーテン養生システムの概要 アクアカーテンは,養生シート,吸引装置,給水装置から構成される.養生シートとコンク リート表面の間の空気を,吸引機により吸出し減圧することで,コンクリート面に養生シート を密着させ,その間に給水を行いコンクリート表面に水膜を形成させるものである. 3)浸水養生によるコンクリート壁面の汚れ対策 アクアカーテンによる浸水養生を終了し浸水シート撤去した場合,コンクリート表面に白色 析出物が付着する場合がある.この析出物は,養生循環水に溶出した水酸化カルシウムと空気 中の二酸化炭素が反応して炭酸カルシウム(エフロレッセンス)となったものである. この模様はコンクリート表面が乾燥すると目立たなくなるが,美観の感覚は個人差もあり外 観上の問題になることも考えられる.また,コンクリート表面にエフロレッセンスが析出した ままでは,外観上だけでなく品質面でも劣化の疑念を抱かれることは,浸水養生工法の適用に 当たっては大きな障害となる. そこで,これに対する対策を検討し,現場適用前に解決しておくことを検討し,浸水養生期 間全体の 20%程度以内を目標とする間欠養生を実施すること,緩衝シートと不織布との併用し た浸水養生シートを採用することで,析出物を少なくすることができた. 4)吸水量と吸水速度に関する試験 示方書の湿潤養生時期に合わせ,型枠を標準時期に取りはずした場合,浸水養生によりコン クリート表面から吸水される水量は,0.48~0.65ℓ/m2 である.また膨張材を混入した場合,混 入しない場合に比べて単位面積当り吸水量が,普通セメントで 1.8 倍,高炉セメントで 1.4 倍 多くなる.混入しない場合に比べ吸水量が多くなるのはエトリンガイトの生成に多くの水分が 必要であるためである.なお,吸水量の観点から考えると浸水養生が有効な期間は,7 日~14 日程度である. 5)浸水養生と水中養生の養生効果の比較試験 浸水養生と現場水中養生を比較し,脱型後の養生方法が圧縮強度および質量変化に及ぼす 影響を確認すること,さらに給水方法を連続と間欠とを比較し養生効果への影響の有無を確認 するため,比較試験を行なった.その結果,浸水養生の効果は現場水中養生を実施した供試体 と同等であることを確認した. 6)実施時期と養生効果 型枠取りはずし時期が,湿潤養生期間の標準より早期であっても浸水養生を 1 週間行うこと で,型枠を 1 週間存置するより大きな圧縮強度が得られることが分かった. 養生開始時期については,型枠の取りはずしから翌日あるいは 2 日後となっても,同等の浸 水養生の効果が得られることが確認できた.したがって,現場の作業工程や休日などによって 202 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 浸水養生の開始時期を調整して対応することは可能である. アクアカーテンによる浸水養生期間を1週間から2週間に延長することにより,圧縮強度が 5%向上することから,アクアカーテンの効果をより高める場合には 2 週間程度まで実施期間 を延長することが望ましいことを確認した. 7)浸水養生工法の施工仕様 上述の成果にもとづいて,浸水養生工法の施工仕様は,以下のとおりとする. ・型枠の取り外し時期は,コンクリート標準示方書に定める型枠・支保工の取りはずしで解説 している型枠をとりはずしてよい時期のコンクリート圧縮強度の参考値を満たす時期以降と する. ・浸水養生の開始時期は,型枠取りはずし後できるだけ早い時期とするが,脱型後 3 日以内に 開始することを原則とする. ・浸水養生の実施期間は,浸水養生の最短でも 1 週間は実施する.型枠存置期間と浸水養生期 間の合計は,コンクリート標準示方書の定める湿潤養生期間の標準以上の期間とする. ・給水量および給水間隔は,養生中のコンクリート表面の水分状態を確かめながら決めること を原則とするが,最初の給水では,コンクリートが多量の水分を吸収するため,給水状況を 観察しながら給水を行う. ・浸水養生シートは,気泡緩衝シートおよび親水性の不織布(目付け量 30g/m2 以上)を重ね合 わせて使用する. (5)覆工コンクリートにおける浸水養生効果の検討 第6章では,大型試験体による室内試験を実施し,アクアカーテンによる養生効果を明らか にした. ・強度発現特性の評価 示方書養生や短縮養生は,長期の強度増進がほとんど見られず,材齢経過とともに浸水養生 や水中養生との差が大きくなる.浸水養生の延長によって長期強度の改善が見られ,水中養生 の材齢 28 日と同等以上の圧縮強度が得られる.普通ポルトランドセメントよりも,高炉セメ ントを用いたコンクリートは養生条件の影響を受けやすく,浸水養生を適用することは効果的 である.しかし,過度な給水はコンクリート表面の脆弱化が深化することもあるため,養生水 は間欠的に供給するのが望ましい. ・中性化促進試験の評価 中性化促進試験結果では,標準養生のケースよりも浸水養生を行ったケースの方が中性化深 さは小さくなることが確認できた.浸水養生による十分な給水によりコンクリート表面の組織 が緻密になったと考えられる. ・凍結融解試験の評価 湿潤養生期間が短く養生が不十分でも,凍結融解に伴う相対動弾性係数の低下はさほど大き 203 第8章 結 論 くないが,質量変化率は,十分な養生を行ったものと大きな差が見られ,コンクリート標準示 方書で示されている湿潤養生の標準日数およびそれより短い養生日数では,十分な凍結融解抵 抗性は確保されない.浸水養生を行うことにより質量変化速度は大幅に低減され,浸水 1 週間 の延長で水中養生を 28 日間行ったものと同程度の凍結融解抵抗性を確保できる. ・細孔径分布試験の評価 浸水養生期間の延長とともに,細孔径分布は,微小径のものが増加し緻密な細孔構造となる. 特に養生時間が極端に短い覆工コンクリートにおいては,細孔直径 1000nm 付近になり,浸水 養生の効果が顕著となる. ・透気試験の評価 トンネル用の高炉セメントにおける透気試験は,通常のトンネル施工での養生と比較して, 浸水養生を行なうことで透気性のグレードで1~2,コンクリート表面の緻密性が向上するこ とがわかった. ・膨張コンクリートでの効果 浸水養生は,気中養生を施した供試体の圧縮強度を大きく増加する.また,長さ変化率試験 の結果から, 膨張コンクリートを用いることで, 乾燥による収縮を低減することも確認できた. (6)アクアカーテンの覆工コンクリートへの適用 第7章では,アクアカーテンを覆工コンクリートに適用できるように養生システムの更なる 開発を行い,トンネル内という特殊条件下でも確実に且つ再現性の高い工法を検討した. 1)主要資機材の開発と施工方法 ・浸水養生シート 負圧部と気密部からなり,覆工打設スパン単位の大きさに加工したものを採用する.養生シ ートの構成は,気泡緩衝シートおよび親水性の不織布を重ね合わせたものとする. ・吸引装置 吸引機械であるターボファンに除水除塵機を組み合すことで,吸引配管接続時に異物の混入 による吸引機械破損や電気系統への水侵入によるトラブルを防止する.また,トンネルにおけ る吸引装置系統についての検討を行い,施工性に優れる配置を提案した. ・給水装置 制御タイマーによりコンクリートの吸水量に合わせながら給水量をできる限り小さくでき るように装置を開発した. 給水チューブは不織布付きの3連のホースを組み合わせたものとし, 養生スパン(10.5m)に対して左右の給水量にばらつきが生じないようにした.また,トンネ ルにおける給水装置系統についての検討を行い,施工性に優れる配置を提示した. ・養生シート展帳台車 アクアカーテンのシート展帳作業を効率的に行なうため,作業足場,昇降機,移動設備から なる専用の台車を開発した. 204 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 2)現場における覆工コンクリートの高品質化とその対応 ・ 鉄筋コンクリート構造の覆工に中流動コンクリートを適用することで, コンクリートの流動 性,材料分離抵抗性などの充填性を改善し,ワーカビリティーを向上させることができた. ・ アクアカーテンの採用により,中性化に対する抵抗性が向上し,RC 覆工の長期耐久性向上 が期待できることを確認した. ・ 膨張材の採用により, 乾燥収縮および温度ひび割れに対する抵抗性が向上することを確認し た. ・ コンクリートのワーカビリティーの向上に加え,打設方法の改善により,覆工に生じやすい 初期欠陥を低減できることを確認した. 8.2 開発の振り返りと今後の展望 8.2.1 開発の振り返り 浸水養生工法の開発は,平成20年度(2008年度)からトンネルの覆工コンクリートの保温封か ん養生の開発からスタートした.平成21年度(2009年度)には,保温封かんシートとして選定し た気泡緩衝シートをコンクリート面に吸着させる場合に,コンクリート面を濡らすことによっ て気密性が更に増し, コンクリート面により強くシートが押し付けられることを偶然確認した. この観察がきっかけとなり,養生の目的を水中養生と同程度の養生効果が期待できる給水養 生へと変更した.また,大型の試験体および多数の供試体を用いた室内試験を実施し,養生方 法とセメントの種類がコンクリートの品質に及ぼす影響と効果を確認した. 平成22年度(2010年度)には,浸水養生の効果や養生の開始時期,実施期間に関する施工仕様 に関わる選定試験を実施した.この成果を受けて,浄水場や立坑,トンネル覆工で初めて現場 で適用することができた. 平成23年度(2011年度)には,九州地区での多数のトンネルの実績と改良を踏まえ,本格的 な普及に向けて活動を開始した.また,同年7月にはアクアカーテン普及会(ハザマ,青山機工 ㈱,岐阜工業㈱,㈱東宏)を設立し,11月にはホームページを開設した.9月にはNETIS登録が 完了し(登録番号 HR-110011-A),総合評価落札方式の入札案件における技術提案に弾みがつい た.また,同業他社の大手ゼネコンや地場建設会社での採用も始まった. これらの成果は,2012年日本コンクリート工学会賞(技術賞) ,平成23年土木学会賞【技術 開発賞】をW受賞したことによって,公的にも認められた. 2013年5月末におけるアクアカーテン養生の施工実績を図8.2-1~図8.2-4および表8.2-1に示 す.施工完了から施工予定まで含め,約30万㎡の浸水養生が実施および計画されている.施工 規模が大きいトンネル覆工が施工面積で約9割を占めているが,施工件数では約4割である. 205 結 論 また施工年度と施工面積や施工件数の関係では,急激に本工法の施工量が増加している.この ことより,開発したアクアカーテン養生システムの施工技術の有効性が示されたと言える. 250,000 施工面積(㎡) 一般 構造物, 24,961 施工面積(㎡) 200,000 トンネル 覆工, 14 150,000 100,000 50,000 0 2010年度 図 8.2-1 構造物と施工面積の関係 2011年度 2012年度 2013年度以降 図 8.2-2 施工面積と施工年度の関係 施工件数(件) 20 その他, 5 16 PCタンク, 2 トンネル 覆工, 14 浄水場, 2 施工件数(件) 第8章 12 8 4 橋梁, 10 0 2010年度 図 8.2-3 構造物と施工件数の関係 2011年度 2012年度 2013年度以降 図 8.2-4 施工件数と施工年度の関係 206 コンクリートの品質向上のための新しい浸水養生工法の開発とトンネル覆工への適用 № 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 表8.2-1 アクアカーテン施工実績(2013年5月末) 施工 構造物 場所 発注者 状況 トンネル 大分県 九州地方整備局 ● トンネル 大分県 九州地方整備局 ● トンネル 鹿児島県 九州地方整備局 ● トンネル 岩手県 東北地方整備局 ● トンネル 熊本県 九州地方整備局 〇 トンネル 熊本県 九州地方整備局 〇 トンネル 高知県 四国地方整備局 〇 トンネル 和歌山県 近畿地方整備局 〇 トンネル 和歌山県 近畿地方整備局 〇 トンネル 北海道 NEXCO東日本 〇 トンネル 富山県 北陸地方整備局 ● トンネル 福岡県 福岡県 ● トンネル 北海道 北海道 ● シールド 大阪府 近畿地方整備局 〇 共同溝立坑 宮城県 東北地方整備局 ● 橋梁下部工 神奈川県 関東地方整備局 ● 橋梁下部工 埼玉県 関東地方整備局 ● 橋梁下部工 埼玉県 関東地方整備局 ● 橋梁下部工 神奈川県 関東地方整備局 〇 橋梁下部工 大阪府 阪神高速道路 ● 橋梁下部工 愛知県 中日本高速道路 ● 橋梁下部工 和歌山県 近畿地方整備局 〇 橋梁下部工 大分県 九州地方整備局 ● 橋梁下部工 和歌山県 近畿地方整備局 〇 橋梁上部工 新潟県 北陸地方整備局 ● 浄水場 神奈川県 川崎市上下水道局 ● 浄水場 神奈川県 川崎市上下水道局 ● PCタンク 佐賀県 九州農政局 ● PCタンク 福井県 北陸農政局 ● ケーソン 宮崎県 九州地方整備局 ● 水門 岩手県 岩手県 〇 水路 北海道 北海道開発局 ● 貯蔵庫 愛知県 東海防衛支局 ● トンネル覆工コンクリート 小 計 一般構造物コンクリート 合 計 207 施工面積 (㎡) 28,000 31,000 10,528 1,063 2,000 20,000 43,000 37,400 11,970 65,000 13,700 6,000 2,000 350 125 1,888 770 677 1,028 35 2,340 170 209 1,060 74 1,080 100 962 2,400 2,131 7,700 112 2,100 272,011 24,961 296,972 第8章 結 論 8.2.2 今後の展望 今回開発したアクアカーテンは,社会的な認知度はまだ低いと思われるものの, “ゆっくり” , “確実に” , “確かなものを”を建設していくことが土木技術者に求められていることから,今 後の普及につれ社会貢献に通じる技術と確信している.また,浸水養生が, 「普通の養生技術」 として多くの工事で利用されるためには,広報活動も不可欠であるが,土木学会での認知やコ ンクリート標準示方書への反映や発注者の理解等,多くの課題が山積する. アクアカーテンは実用化レベルの技術となっているが,今後多くの現場で採用していく中で, よりコストを低減し施工性の良いものとなるよう,使用資機材の開発を行なっていきたい.さ らに,コンクリートの養生を適切に実施できるよう,具体的な方法と,そのために必要な費用 を積算基準に盛り込むとともに,見積項目に計上することを一般化させていく試みも行ってい きたい.また,コンクリート表面の出来栄えについては,多くの技術者の評価では満足できる レベルに達しているが,美観性については個人差も大きく万人から評価されているものではな い.普及活動と更なる改良活動を継続することによって,これらの課題を解決しながらアクア カーテンに利用が広がることを切望する. アクアカーテンは,コンクリート構造物の表面に水膜を形成させ長期間にわたってその状態 を保持できることが特徴である.養生水の替わりに浸透性の改質剤等を採用することで,コン クリートの劣化修繕工事に利用できると考えられる.近年,問題になっている社会資本の老朽 化にともなう維持更新技術の開発にも応用していきたい. 208 謝 辞 本研究は,九州大学大学院工学府博士後期課程において,九州大学大学院 三谷泰浩教授の ご指導の下で取りまとめたものであります. 本論文の取りまとめに際して,三谷泰浩教授には,多くの休日を返上して熱心で懇切丁寧な ご指導を受け賜りました.先生には,学位とは縁遠くゼネコンのトンネル屋である私に対し, 親身で絶大なるご指導ご鞭撻をいただき心より感謝申し上げます.また,論文審査過程におい て,九州大学大学院 濵田秀則教授にはコンクリート工学の分野から,九州大学大学院 日野 伸一教授には構造工学の分野から,きめ細やかなご指導をしていただきました.謹んで感謝の 意を表します. 本学位論文に取り組むきっかけとなったのは,著者が㈱間組土木事業本部技術第三部在籍中 に,平成20年度(2008年度)から取り組み始めたトンネルの覆工コンクリートの保温封かん養 生の開発です.覆工コンクリート表面に“養生シートをどのようにして固定するか” , “これま でにないような方法で施工できないか”など考えながら,ホームセンターで資材を物色し思い ついた工法がアクアカーテンでした.養生シートを壁面に密着させるためには気密の確保が重 要ですが,偶然にもコンクリート表面に適度な水分があれば気密性が飛躍的に向上するという ことを発見し,実験を続けていました.この様子を観察していた庄野昭氏から「これまで壁面 で困難とされていた給水養生を可能にする素晴しいアイデアだ,学術的なテーマにもなる!」 という助言をいただきました。この一言が博士号取得への挑戦の始まりとなりました.このよ うな機会を与えて下さり,またその後の研究でも精力的にご協力をいただいた安藤ハザマ土木 事業本部土木設計部 庄野昭部長には深く感謝申し上げます.石川工業高等専門学校 福留和 人教授(元㈱間組技術研究所研究第一部部長)には,各種実験の計画や取りまとめにおいて, ご指導およびお手伝いをいただきました.ここに感謝申し上げます. また,開発当初から共に汗を流し,熱く意見を交わしアクアカーテンの実用化に協力してく れた土木事業本部技術第三部 白井孝昌氏,同本部土木設計部 白岩誠史氏,林俊斉氏,工事 監理部 塩崎修男氏,機電部 副島幸也氏,技術本部土木研究部 齋藤淳氏,環境開発部 森 一顕氏,いつも遠方から差し入れを持ってきて叱咤激励をして頂いた東北支店土木部 佐々木 照夫氏,実用化に向け更なるアイデアを提供し現場で開発を進めていただいた九州支店土木部 黒田二郎氏に心から深く感謝申し上げます. アクアカーテンの現場適用に際し,東北支店岩泉トンネル作業所の皆様,北陸支店氷見第10 トンネル作業所の皆様,九州支店蒲江出張所の皆様,新武岡トンネル作業所の皆様,五ヶ山ト ンネル作業所の皆様に多大なご協力をいただきました.心より感謝申し上げます. 東京大学生産技術研究所 岸利治教授,財団法人電力中央研究所 蔵重勲博士,西田孝弘博 士には, 大型試験体における透気試験でご協力をいただきました。 電気化学工業株式会社の方々 209 には,膨張コンクリートにおける浸水養生効果に関する実験でご協力をいただきました.ここ に深く感謝いたします. 現在在籍している職場の九州支店長 菊地保旨氏,同副支店長 大西亮氏,土木営業部長 山中徹氏には本研究に対してのご理解とご支援をいただきました.厚く御礼を申し上げます. さらに同職場の土木営業部の皆様からの暖かい励ましに深く感謝いたします. 本研究に取り組む機会を設けていただいた安藤ハザマ 技術本部長 世一英俊氏,同本部技 術企画部長 谷口裕史氏,土木事業本部長 木下壽昌氏,同本部副本部長 浜野哲夫氏,関東 土木支店長 福富正人氏には深く感謝致します.また,技術的なご支援をいただいた土木事業 本部技術第三部 鈴木雅行氏,日向哲朗氏,土木設計部技術統括グループ長 杉山律氏,営業 第一部 伊藤彰氏には謹んで感謝致します. また,博士課程入学後に親しく接していただいた,九州大学大学院工学府建設システム工学 専攻地圏環境システム工学研究室の皆さんに感謝の意を表します. 本研究は,以上の多くの方々のご指導と,ここに名前を挙げることのできなかった多くの 方々のご協力によって成果としてまとめられたものであることを明記し,深く感謝の意を表し ます. 最後に,単身赴任中で週末の帰省や家庭サービスを疎かにしたにも関わらず,いつも暖かく 優しく支援してくれた妻 有里子,子供達 千紘,雄一,万里子,愛犬メイに心より感謝しま す.本当に有難うございました. 2013年7月 吉日 古川 幸則 210