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東京大学農学部 農業・資源経済学専修 - 東京大学大学院 農業・資源

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東京大学農学部 農業・資源経済学専修 - 東京大学大学院 農業・資源
東京大学農学部
農業・資源経 済学専修
INDEX
■ 農業・資源経済学専修のすすめ ―――― 1
■ 農業・資源経済学の研究領域 ――――
― 2~3
■ 農業・資源経済学専修の組織 ――――
― 4
■ 農業・資源経済学専修の研究室
農業経営学研究室 ――――――――― 5
農政学研究室 ――――――――――― 5
農業史研究室 ――――――――――― 6
経済学研究室 ――――――――――― 6
食料・資源経済学研究室 ――――――― 7
農村開発金融研究室 ―――――――― 7
■ 農業・資源経済学専修のカリキュラム
カリキュラム紹介 ――――――――――
― 8
地域経済フィールドワーク実習 ――――― 9
卒業論文作成 ――――――――――― 10
■ 卒業後の進路
進路状況 ――――――――――――― 11
大学院 ―――――――――――――― 11
■ 卒業生からのメッセージ ――――――― 12 ~13
農業・資源経済学専修のすすめ
「直ぐ役に立つ人間は直ぐ役に立たなくなる人間だ」。慶応大学
理工学部の前身、藤原工業大学の初代学部長をつとめた谷村豊太
郎は、実業界の「直ぐ役に立つ人間を作ってもらいたい」との注文
に対してこんな具合に応えたという。そのとおり、まことにもって至言
である。私たち農経(農業・資源経済学は昔からこう呼ばれている)
の気質にも、おおいに通じるところのあるアフォリズムである。
諸君が農経に進学したからといって、急にあざやかに変身し、たち
どころにつぶしが利くようになるわけではない。そんなことを期待しても
らってはこちらも困る。専門の勉強であるから、多少のテクニックは伝
授する。けれども、テクニックはあくまでもテクニックであって、これを
磨き上げるところに農経の本領があるわけではない。むしろ、つぎの
三つのことがらを心がけていただきたいと思う。
ひとつは事実を深く観察する力である。農経における事実とは、
すべてが人間の行動にかんする事実である。人間が人間を対象とする社会科学では、自然科学とは異
なって、実験を行うことができない。ここが社会科学のむずかしいところである。けれども、人間が人間を
対象にするのであるから、みずからの経験に照らして相手の心情の一端を汲み取ることはできる。エンパ
シーである。ここが社会科学としての農業経済学の強みである。農家の庭先でうかがい知ることのできる
生産者の表情は、しばしばよく吟味された統計数字以上に、農村の事実を伝えるものなのである。
イギリス
の農村であっても、タイの農村であっても、事情はまったく変わらない。
事実のなかにパラドックスを見つけだし、パラドックスを解き明かそうとする精神。これが心がけていただ
きたい二番目のことがらである。例えばこんなパラドックスがある。8億を超える飢餓と栄養不良の人々を救
うために行われる食料の援助は、ときとしてその意図に反して農業不振という逆効果を生んでしまう。
なぜであろうか。こうした問いをみずから探し出してもらいたい。そして、みずから真の解答を探し求めて
いただきたい。解き明かすべき大小さまざまなパラドックスがあるからこそ、農業経済学は依然として知的な
刺激にみちた分野であり続けている。
みずから解答を探し求めるといっても、無手勝流でははなはだ効率が悪い。効率が悪いだけならばま
だしも、勝手な思い込みでもって珍妙な解決策を振り回されたのでは、相手だって迷惑だ。そこで第三に、
考える道具としての経済学を学んでいただきたい。知識としての経済学の学習にとどまっていてはいけ
ない。エレガントな証明だけがとりえのような経
済学も、残念ながら農経とは無縁である。現実
の社会の問題を考えるための骨太な道具、
考え
た筋道を的確に表現する頑健な文法、これが
私たちにとっての経済学である。
ともあれ、農経に進学したとしよう。そこから
先の 2 年はなんといっても投資の 2 年である。
一 生をかけてじっくり収 穫 することのできる
永年性の作物を、ひとつしっかり根付かせて
いただきたいものである。
1
農業・資源経済学の研究領域
農業・資源経済学と聞いて何を想像されるでしょうか? 農業や自然環境は私たちの生活に様々な形
国際貿易論
で関わっており、農業・資源経済学が取り扱う分野は皆さんの想像以上に範囲が広いのです。また、国
際化の進展や経済学自体の発展に伴い、農業・資源経済学のカバレッジは現在も広がり続けています。
フードシステム論
環境経済学
農業は私たちの食料を生産する大切な役割を担う一方、自然環境や資源の適切な利用とも密接な
関係を持っています。海外の国や地域に目を向けると、農業はそれぞれの社会に根ざしながら多くの人々
の生活を支えています。とりわけ、開発途上国においては、農業を発展させることが、開発や貧困の問
題に対する重要な課題となっています。人々の日々の生活をみつめ、農業に関する制度や政策が与え
る影響を理解し、複雑な経済の仕組みを明らかにする学問、それが農業・資源経済学なのです。
農業・資源経済学は応用経済学の範疇に入ります。しかし、単に机上
先進国経済論
の学問を用いるだけでなく、自らフィールドに立って新たな事実を
発見し、それをアカデミックに解釈していくことが私たちの重視
農業政策・経済政策論
クス経済
ル
学
マ
野のフロンティアを拡大していくことを目指しているのです。
クロ経済
学
マ
するアプローチです。現実に対する理解を基礎に、この学問分
ロ経済
学 ミク
農業・資源経済学
農業経営学
農村計画学
量経済
学
計
マーケティング
開発経済学
比較制度論
農業・農村金融論
農村社会学
農業史・経済史
2
3
農業・資源経済学専修の組織
農業・資源経済学専修は、6つの研究室から構成されています。また、専修には 3 名の助教がおり、
普段の学生生活はもちろんのこと、卒業研究などにもきめ細かな対応を心がけています。
教 授
教 授
木南 章
准教授
( akira )
講 師
教 授
谷口 信和
( atanigu )
准教授
安藤 光義
( a ndo )
農政学
研究室
)
万木 孝雄
( ayuru )
八木 洋憲 (
泉田 洋一
( aizumid )
農村開発
金融
研究室
農業経営学
研究室
農業・資源経済学
専修
食料・
資源経済学
研究室
教 授
農業史
研究室
経済学
研究室
生源寺 眞一
( ashogen )
准教授
中嶋 康博
( anaka )
助 教
教 授
教 授
准教授
松本 武祝
本間 正義
( ahonma )
准教授
齋藤 勝宏
( asaito )
( amat )
※連絡先は、名前の後の括弧内の英字に @mail.ecc.u-tokyo.ac.jp をつけたものが emailアドレスです。
4
氏 家 清 和
( au ji )
宮 田 剛 志
( ami )
農業・資源経済学専修の研究室
農業経営学研究室
木南 章
(教授)
八木 洋憲(講師)
Lab. of Farm Business Management and Rural Development
Akira Kiminami
Hironori Yagi
当研究室では、農業および農業に関連するビジネス、
それらを取り巻く地域(経済、社会、資源、環境など)を
めぐる様々なマネジメントに関する問題について研究を行っ
ています。研究のポイントは、いかにして社会・経済環境
の変化に適応する戦略を策定し、戦略にふさわしい組織
を計画・管理し、経済活動の持続可能性を実現するかと
いう点にあります。経営学と経済学・社会学等の関連す
る学問の研究方法を用いながら、フィールドワークに基づ
オーストラリアの大農場:無人灌漑システムの導入によって省力化を実現。翼の如く広
がる噴霧式給水機が圃場内を自動的に移動。
● 研究テーマ
いた研究とそれを土台にした理論的研究を進めています。
・ 企業的農業経営の経営戦略とリスク・マネジメント
国内問題に限らず国際的な視野(農業経営の国際比較
・ 農産物のブランド化とマーケティング
や途上国農村開発への貢献)を持ち、また、実践性(問
・ 地域におけるバイオマス利活用と環境マネジメント
題解決型のアプローチやケース・メソッドの導入)を意識し
た研究を心掛けています。
農政学研究室
谷口 信和(教授)
・ 水田農業の持続可能性
・ 地域農業振興と農村開発のマネジメント
・ 東アジア農業の構造変化と競争力
Lab. of Agricultural Structure and Policy
Nobukazu Taniguchi
安藤 光義(准教授) Mitsuyoshi Ando
近代国家の形成以来、農業は政策と強い関係を持ち
続けています。資本主義国ではもちろん、旧社会主義国
でもそうでした。それは何故でしょうか?また、20 世紀末か
ら、WTO 体制の発足、食料・農業分野でのグローバリゼー
ションの本格化により、世界的規模で農業・農村地域政
策が刷新されています。それは何故でしょうか? 農政学研
究室では、こうした現代社会の根源的な問題と関わる課
題の解明を進めています。その手法は、主に政治経済学
的なアプローチによりますが、同時に地域ごとに様々な「顔」
ドイツの大農業経営の住宅は農場の真中にある。農政学研究室は日本における農場制
農業の可能性を研究する。
● 研究テーマ
・ 農地の所有と利用からみた農業構造問題の国際比較研究
を持つ農業構造や地域社会構造、食料消費の実態を的
・ 多様な農業経営の存立構造(家族経営・法人経営・集落営農経営など)
確に把握するために、濃密なフィールドワークを大 切にし
・ 中山間地域における農業と地域経済・食料自給率問題
ます。
「ひとつの農家、ひとつのムラの現実から、世界の
動きを見る」ことに挑戦しています。
・ 地産地消・スローフード・グリーンツーリズム・市民農園
・ 食料・農業・農村政策の総合的検討
・ 都市農業・都市農地に関する研究
5
農業・資源経済学専修の研究室
農業史研究室
(教授)
Lab. of Agricultural History
松本 武祝(准教授) Takenori Matsumoto
農業は、近代以前の時代から現代にいたる過程で急
激な変化を遂げてきました。農村社会の人々も、その過
程でさまざまな経験をしてきました。農業史研究は、そうし
た変化を追体験し、その時代を生きた人々の生産と生活
そして心性を再現しようとする試 みです。
その対象は、日本にとどまらずアジア・ヨーロッパなど世
界に広がっています。幅広い時間と空間を対象とするこ
とが、この研究の特徴となっています。
逆に、
“今、此処に生きるあなたが、どうしてそんなこと
元禄期加賀の農家のようす
(土屋又三郎『農業図絵』日本農書全集 26、農文協より)。
稲刈り後の酒宴。
● 研究テーマ
・ 農業発展の比較史(東アジアと西欧)
を研究するのか”という問いに常に晒されている研究分
・ 植民地朝鮮の農業問題
野でもあります。この難問に向き合いながら獲得した知見
・ 近代アジアの比較農村社会論
と洞察力は、現代という時代を理解するうえで多くの示唆
を与えることでしょう。
経済学研究室
本間 正義(教授)
・「総力戦体制」と農業問題
・「近世」東アジアの農村社会論
Lab. of Agricultural and Development Economics
Masayoshi Honma
齋藤 勝宏(准教授) Katsuhiro Saito
世界経済は相互依存の度合いを強め、あらゆる事象が
共有され互いに影響しあっています。ひとつの経済現象
を分析するにも、経済理論はもちろんのこと背後にある相
互関係やリンケージを念頭におく必要があります。経済学
研究室では様々な経済現象とその変化を理論と実証で明
らかにしていくことを研究課題としています。
具体的な研究課題としては、一国内における農村・農業
部門と経済発展との関係、異なる発展段階における諸国
間の国際的な相互依存関係、農業における労働と土地
● 研究テーマ
・ 農業問題の政治経済学
の調整問題、農業貿易の構造と政策などですが、ミクロ
・ 農産物貿易政策の経済分析
的視点とマクロ的視点の両方を組み合わせ、また現実問
・ 発展途上期日本の地主小作関係と村落
題を常に念頭において実証的に分析しています。特に、
開発経済学や国際経済学などの考え方を用いて、開発政
策や貿易政策が経済発展に及ぼす経済効果を、数量的
に解明することなどに取り組んで います。
6
東南アジアの農村における農業労働。各国で異なる自然条件や生産技術、土地や労
働の取引の仕組みが、農村の経済状況に大きな影響を及ぼす。
・ 品目横断政策の経済分析
・ 戦後日本における過剰就業の動学的調整過程
・ミヤンマーにおける米政策の評価
・ コートジボアールのカカオ豆市場の分析
食料・資源経済学研究室
生源寺 眞一(教授)
Lab. of Food and Resource Economics
Shinichi Shogenji
中嶋 康博 (准教授) Yasuhiro Nakashima
農業には大きな二つの役割があります。一つは私たち
が生きていくために欠かすことのできない食料を生産する
こと。もう一つは私たちが快適に暮らす基礎となる水や土
地などの環境と資源を管理することです。農業はGDPで
測り尽くせない価値を私たちにもたらしています。
食料・資源経済学研究室は、この農業の役割に注目し
続けながら、近代経済学の理論と手法をベースに、日本と
耕して天に至る棚田(雲南省南部)
世界の農業・食料問題から環境・資源問題までをカバー
する幅広い研究・教育を行っています。さまざまな顔を
● 研究テーマ
・ 先進国農業政策の比較研究
もつ現代の農業問題を考えることで私たちのウェイ・オブ・
・ 農業政策と農地市場
ライフの姿を描いていきたい。
・ 農業の多面的機能と貿易制度
研究室のモットーは warm heart and cool headです。
・ 農村資源管理の比較制度分析
・ フードシステムの産業組織論分析
・ 食の安全性の経済分析
農村開発金融研究室
泉田 洋一(教授)
Lab. of Rural Development Finance
Yoichi Izumida
万木 孝雄(准教授) Takao Yurugi
農村開発金融論は、金融的な手段を使って世界各国
の農業・農村をどう開発していくかを研究する学問です。
開発のためにはどうしても資金が必要となります。その資
金をどう調達するのか、調達された資金をどう配分するのか、
配分のための適切な方法は何かといったことを研究します。
農村開発金融の基礎となる学問は農業経済学であり、
金融論を含む経済学です。開発の経済理論も必要ですし、
ヴィエトナムのイェンバイ省における農家調査のあとに
更には農業・農村の実態に関する知識も要求されます。
主要な対象はもちろん途上国の農業・農村ですが、分析
● 研究テーマ
・ ヴィエトナムの農村構造と農村開発金融
を深めるためには、日本をはじめとする先進国の農業や農
・ バングラデシュのマイクロファイナンス
村金融についての研究も不可欠です。このような分野の
・ 日本の農業政策金融と経営体育成
研究を重ねながら、先進国のみならず途上国の農民の福
祉向上に資することが本研究室の使命であります。
・ 日本における農協の組織再編と信用事業の方向性
・ 農協や生協を中心とする協同組合組織に関する研究
・ アメリカの農村経済と農業金融
・ 中国の農村金融問題
7
農業・資源経済学専修のカリキュラム
カリキュラム紹介
農業・資源経済学専修において卒業に必要とされる単位数は 84 単位です。その単位数を満たすためには、農学主
題科目、農学基礎科目、課程専門科目、専修専門科目、および農学部他課程・専修科目、他学部科目を履修すること
になります。単位の取り方には、農学部共通に定められた要件以外に、農業・資源経済学専修の教員が開講する科目
を中心に指定されている選択必修科目からも30 単位以上を取得する必要があります。
■ 必要単位数
必要単位数
教養学部 4学期
農学主題科目
6単位以上
必修2単位
課程専門科目
合 計
6単位以上
あわせて
18単位以上
農学基礎科目
専修専門科目
農学部
22単位を
超える分は
卒業単位に
算入しない
( )
16単位以上
必修14単位
28単位以上
・ 農業・資源経済学専修の選択必修科目から 30 単位以上取得する必要があります。
・ 農学部の他課程・他専修科目については、卒業単位として認定されます。他学部聴講については、20 単位を上限に
卒業単位として認定されますが、経済学部以外の科目については学部委員の承認が必要です。
■ 主な履修科目
教養学部 4学期
3年次夏学期
3年次冬学期
4年次夏学期
4年次冬学期
専修専門科目
必修
科 目 農業・資源経済学演習 I
農業・資源経済学演習 II
農作業実習
農業・資源経済学演習 III 卒業論文 ( 通年)
選択
農業・資源経済学演習 IB 農業・資源経済学演習 IIB 農業・資源経済学演習 IIIB
科目
農学基礎科目
選択
必修
農業資源経済学汎論
国際農業論
比較農業史
課程専門科目
地域経済フィールドワーク実習( 通年)
農業経済学
比較農業経営論
農業経営学
比較農業政策論
農政学
農業史
開発経済学
フードシステム論
政治経済学
ミクロ経済学
マクロ経済学
数量経済分析
農村開発金融論
国際農業経済論
応用数量経済分析
農業経営分析論
比較農業法
地域農業マネジメント
農村社会論
農業経済学特別講義
協同組合論
資源経済学特別講義
・ 表には書き込んでいませんが、課程専門科目には他専修が開講する科目もあります。
・ 卒業論文は通年 8 単位、地域経済フィールドワーク実習は通年4単位です。他の科目は、半期2単位。
環境・資源科学課程専門科目は、農業・資源経済学を学ぶにあたってのコアとなる講義です。複数のゼミに参加した
い学生のために、選択科目として農業・資源経済学演習 IB ∼ III Bを用意しました。ふるって参加してください。農作業
実習は、3 年次夏学期の木曜日に、田無 ( 西東京市 )にある東大農場で耕起から収穫にいたるまで一連の農作業を実習
の形で行うものです。ともすれば、
「経済学」に追われがちな私たちに、土をさわり作物を育てる農の原点を感じさせてく
れる実習です。
8
地域経済フィールドワーク実習
―― 受講学生による紹介 ――
概 要
地域経済フィールドワーク実習は、農業・資源経済学専修の目玉とも言える科目です。農村調査の方法について学んだ
後調査票を作成し、実際に農村地域を訪問して泊まり込みでヒアリングなどを行い、そこで得られたデータや資料をもとに
社会科学的分析を加えて報告書をまとめる、といった一連の作業
を通じてフィールドワークの手法を学ぶことが出来ます。戦前から行
われている「農村調査実習」の流れをくむもので、歴史ある科目と
いえるでしょう。通年で行われ、取得単位は 4 単位です。
特 徴
本実習の特徴として、3 点ほど挙 げます。
1 点目は、農業の現場を肌で感じることができるという点です。
農家の声、農協職員の声、役場職員の声など、普段の講義では
得られない、現場の生きた情報に接することが出来ます。
2 点目は、一年間かけて報告書を作成するという点です。自分でテーマを設定し、質問項目を作成し、データを分析し
て報告書を作成していきます。自分で考え、悩む作業は確かに大変ですが、やりがいはあります。こうした一連の作業は、
4 年生の時の卒業論文作成にとても役に立ちます。報告書は製本して形として残るだけでなく、学校での報告会、さら
には現地での報告会などを通して多くの人に自分の報告書を見せることになります。自分の見解にリアクションを受ける
場があることは、非常に刺激的であり、報告書作成の際の励 みにもなります。
そして 3 点目は、人との出会いが広がるという点です。一年間を通じて、担当教員、ティーチング・アシスタントの大学
院生がサポートしています。先生、先輩との距離が近く、多くの事を学ぶことができます。
以上 3 点ほど挙げましたが、一年を振り返ってみると本実習は 4 単位以上の価値がある科目だったと思います。2005
年度受講生一同、おすすめの 科目です。
2005年度のフィールドワーク
2005 年度は千葉県銚子市という大規模野菜生産地域で調査を行いました。教員 3 名、ティーチング・アシスタント5 名、
受講学生 15 名、留学生 3 名の計 26 名が参加をしました。予備調査から本調査、補足調査に至るまで何度も現場を訪れ
た人、本調査後に収穫作業に手伝いに行った人、本調査の農家民泊の際に農家の方と朝まで飲み明かした人など様々
でした。主な日程は以下の通りでした。
2005年 4月27日
開講
4月∼6月 調査手法、分析手法などを学ぶ
6月 9日
予備調査(希望者のみ)
6月∼7月
質問票の作成など
7月20日 ∼7月23日 本調査実施
1日目 / バスで東京大学を出発
銚子市役所、営農センター銚子、東総野菜研究室を訪問
2日目 / 農家調査(24戸) 農家宿泊
3日目 / 農家調査(18戸) 懇親会
4日目 / 現地解散
9月∼3月
報告書作成
11月∼12月 補足調査(希望者のみ)
2006年 4月19日
2005年度地域経済フィールドワーク実習報告会
9月 5日
現地報告会
(岩瀬沙織・加藤史彬 作成)
9
農業・資源経済学専修のカリキュラム
卒業論文作成
農業・資源経済学専修では、卒業論文の提出が必修とされています。4 年生になると各研究室の卒業論文ゼミが行
われます。冬学期には論文作成のための作業が本格化します。
農業・資源経済学がカバーする領域は非常に広いため、毎年さまざまなテーマの卒業論文が提出されています。日本
の農業政策変更の影響について考察するもの、ある農家の経営戦略を分析するもの、中山間地域・条件不利地域の
農業問題を取り上げるもの、…日本の農業に焦点を当てるのばかりではありません。近年では、先進国はもとより途上
国の農村開発問題を取り上げるもの、ゴミ問題や環境汚染に取り組むものなど、その対象はますます広がりつつあります。
アプローチもさまざまで、データの収集に精力を傾けコンピューターでひたすら計算する人、文献を読みあさる人、ある地域
に足繁く通う人、海外に数週間調査に出かける人…など、各自がそれぞれの方法で取り組んでいます。
ここでは、近年提出された卒業論文のタイトルを紹介しましょう。
10
2005 年卒業生
2006 年卒業生
■ 家庭における食料消費の長期的変動と季節性に関する研究
■ 2000年センサスによる水稲部門構造分析
■ 酪農、牛乳のフードシステムと価格の変化
■ 不良債権問題の会計学的分析
■ 京野菜の生産と流通
■ 援農ボランティア制度の可能性と課題
−都市農業の再生に向けて−
■ 飼料稲が持つ意義の検証
■ マクドナルドの歴史、および戦略に関する研究
■ 農業の6次産業化の現状と展望
−三重県「伊賀の里モクモク手作りファーム」の多角化の過程−
■ 調停法体制下における小作調停制度と地方小作官
−その意義および限界−
■ 日本農業とインターネット
■ 食品スーパー主導型地産地消システムの形成
− 減農薬・減化学肥料PB米への取組を通して−
■ 株式会社の農業参入論
−グリンリーフ株式会社・株式会社野菜くらぶを題材にして−
■ 酪農への新規参入 − 北海道浜中町を例に−
■ 建設業からの農業参入
■ ODA
■ 有機農業の現状と展開条件
■ インドの農村金融における単位農業信用協同組合
西ベンガル州ナディア県GONTRA農協の財務諸表分析からの考察
■ 戦後日本の経済動向と都道府県間所得格差の変遷
■ 2段階制への移行期における農協系統信用事業の分析
− 都道府県信連の経営を中心として−
■ 日本の“食生活”の過去・現在・未来 −食の外部化を中心として−
■ ワイン貿易の経済分析
■ 日本の耕地面積の変化とその要因の分析
■ 焼酎産業の市場拡大と今後の展望
■ JA共済の現状と課題 − 財務諸表の比較分析を通して−
■ 日本における畜産排泄物問題へのクオータ制度の適用
■ 国際協力の新しい形 −コーヒーと貧困問題−
■ 日本における農業環境政策の展開過程
■ PB野菜の現状と将来の展望
■ 農産物輸出パフォーマンスの決定要因
− タイとフィリピンを事例に−
■ 養鶏業におけるリスクマネージメント
− 鳥インフルエンザの事例から −
■ 一次産品輸出の経済分析 −コートジボアール・ガーナの比較−
■ 豆腐製造業の産業構造とIPコストの負担先の決定
■ 日本におけるスローフード運動の性格と展望
− 各スローフード支部の取組を通して−
■ 市町村合併を契機とするエコツーリズムによる地域振興
− 埼玉県飯能市を事例として−
■ 国民栄養調査と食料需給表の乖離
■ 情報通信産業の拡大と資本主義の変容
■ 生薬原料生産の農業経営分析
■ コンビニエンスストアの展開とセブンイレブンの事業戦略
■ The Impact of European Market Changes On the Horticultural Export Sector in Kenya.
■ 環境報告書の問題点と解決策の検討
■ FTAにおける投資規制緩和の意義と課題 −海外直接投資(FDI)の視点からの分析−
■ 農業白書にみる農業の多面的機能への言及の変化
■ 不良債権証券化の手法とその有効性
■ 景観と都市再開発 − 国立市景観訴訟の背景−
■ 農協事業の収支構造と信用事業分理論
■ 青果物卸売り流通縮小傾向下の鹿児島青果物中央卸売市場の活性要因
■ ITを活用した地域農業振興の可能性
− 三ヶ日町における柑橘園地管理システムを事例として−
■ 畜産廃棄物処理型バイオガス発電の収益モデル分析
■ 酪農地域の変動と酪農経営の存立条件
■ 産直取引の実態と問題点 −埼玉産直センターの事例を中心として−
■ 人口減少の経済的影響について −人口減少社会に関する主要議論の検証−
■ 大規模生協の経営分析 −コープ神戸を事例として−
■ 東アジアの経済成長と対ドル・対円為替レートの関係
■ 貧困とマイクロファイナンス−グラミン銀行をモデルケースとして
■ 企業による食育
■ 2005年度版 バナナと日本人
−日本人のバナナ消費と、それを支えるフードシステム−
■ グリーンツーリズムの地域経済への波及効果と事業っ継続性
− 経営資源としての多面的機能−
■ 米国農業金融における農業貸出債権の証券化
−ファーマーマックの経営分析を通して−
■ 農外企業の農業参入について
■ 特産品と地域社会 −福島県川俣町「川俣シャモ」を題材に−
■ 変容する株式市場と高まる個人投資家の役割
■ 都市住民の農業参加に向けた教育活動に関する研究
− 国分寺市市民農業大学の事例 −
■ 農業生産法人における品質マネジメントシステムの導入可能性
−ながさき南部生産組合を事例にして−
■ 中山間地域における環境保全型農業形成にむけた堆肥の生産と流通への
取り組み − 栃木県茂木町を事例として−
■ 食品製造企業の環境経営への取組 −環境報告書作成動向からの分析−
卒業後の進路
農業・資源経済学専修の卒業生の大半は就職します。その就職先は、官庁、各種団体、金融、メーカー
など多岐にわたっています。
就職活動は、近年では3 年次より開始されるケースが多いようです。毎年11月になると、3 年生のため
の「就職説明会」が 4 年生の手によって開催されています。4 年生の体験談や、就職活動の荒波を乗り越
えるための知恵が語り継がれます。また、大学院進学者の多くは、農業・資源経済学専攻に進んでいます。
進路状況
監査法人トーマツ
新日本監査法人( 2人)
NTT西日本/ヤオコー/専門学校進学
シンプレックス・テクノロジー/SAP ジャパン
アブラハム・グループ・ホールディングス
( 7人)
農業・資源経済学専攻( 8人)
ヤマハ楽器(1人)
三菱商事
三井物産( 2人)
太陽ASG監査法人
(1人)
2004年
大学院進学
2005年
第一生命
みずほファイナンシャル
野村證券
損保ジャパン
八千代銀行
東京海上日動
( 6人)
カゴメ
ユニバーサル造船
松風(3人)
農林中金
中央酪農会議(2人)
横須賀市役所
大阪国税局
国土交通省( 3人)
農業・資源経済学専攻
農学国際専攻
経済学研究科
山梨学院大法( 4人)
みずほ銀行/三井住友銀行
北陸銀行/損保ジャパン( 4人)
銀行・証券・保険
官公庁
団体
住友商事( 1人)
商社
製造業
JICA/全農(2人)
監査法人
その他
大学院
農学生命科学研究科農業・資源経済学専攻
大学院において農業・資源経済学専修に相当する組織は、農学
生命科学研究科 農業・資源経済学専攻です。専攻内の研究室組織
はほとんど学部と変わりありませんが、学部にはない研究室として、
協力講座の形で東洋文化研究所の池本幸生教授の率いる汎アジア
経済研究室があります。
大学院での研究は、各自それぞれの専門分野に特化した、さらに
深いものとなっていきます。研究室の枠のとどまらず、専攻全体での議
論も活発です。農業・資源経済学専修の学生とのつながりも強く、例
えば地域経済フィールドワーク実習へは、大学院生がティーチング・ア
シスタントとして一年を通し指導に協力しています。研究室によっては、
コンパなどを大学院生・学部学生合同で行っています。このため、大
学院生と学部学生との距離はそれほど遠くなく、勉強・研究や進学・
就職のことも相談に応じてくれます。
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卒業生からのメッセージ
金 融
進学の理由は主に 2 つ、開発経済学への興味と自分の裁量で学習できる環境があることでした。進
学後、最終的には国内農業のマーケティングや有機農業に興味の軸がシフトしていきましたが、これも経
済学、農業史、経営論等幅広い分野について学ぶ機会があってこそ可能だったものです。過去の卒論テーマをご覧になれ
ばその幅広さを実感していただけるでしょう。また農経には文理双方から進学者がいる為、学生間でも多様な考え方に触
れられましたし、実験がない分、他学部聴講をしたり駒場で部活に没頭したりと学生生活を満喫してきました。
農経で最も思い出深く、進学される方に是非参加をお勧めしたいのがフィールドワーク実習です。正解のないところに
自分なりの課題を設定し、調査し、結論を導き出す作業は時に苦痛を伴いますが、達成感は非常に大きなものです。何
より農家の方々との語らいや学生同士の交流は机に向かって勉強していたのでは得られない貴重な体験でした。
私は現在金融機関に勤めておりますが、仕事では殆ど入社後に習得した知識を使っています。それでも確かに、問題
解決へのプロセスを考え多様な背景を持つ方々と協働する術は農経で培ってきたものだと言えるでしょう。
最後に皆さんへのメッセージです。自分の興味や卒業後の進路とともに大学生活を如何に過ごすかをじっくり考えてく
大学院進学
【大学院という選択肢】首都圏に生まれ育った私は、
“田舎に行きたい”という漠然とした気持ちと、
ださい。皆さんが選んだ学部学科で充実した日々を過ごされますことを祈念しております。
【 三井住友銀行 2005年卒業 笹木 美紀 】
たぶん就職にも有利だろうという「不純」な動機で、文 III から農経に進学しました。ところが 3 年時に農
村調査実習に参加したことで、俄然農経に惚れ込むことになります。様々な困難を抱えながらも力強く農業を営み続ける
農家の方々。彼ら/彼女らの選択の合理性や農業問題の根源を、手堅い経済学の理論に沿って突き止めようとする先生
や大学院の先輩たち。粗い現実とがっぷ り四つに組み合って格闘する人々に、それまでの学問に対するイメージが一変し
商 社
ました。俺もこれならやってみたい。大学院まで進学した理由は、突き詰めるとそんな単純な憧れだったように思います。
【大学院での研究】ゼミはテキスト輪読と論文報告の二本立てで、先生や先輩方の鋭いつっこみ・斬新な視点にはいつ
も驚かされます。論文の作成に際しては、ほとんどの人が国内・国外を問わず積極的に調査へ出て行くことを求められる
でしょう。特に大学院では、農家の方々をはじめ、国内外の官公庁や農業団体のスタッフとも協力しながら、現場に直結し
た研究をすることが多くなります。私の専攻は一見浮世離れした日本農業史ですが、現状との関わり、特に途上国の経済
発展を考える上でどんなインプリケーションがあるのかをしばしば問われてきました。象牙の塔に引きこもることが許され
ない現場との緊張感の持続は、農経最大の魅力かもしれません。
【大学院での生活】農経はとても居心地が良く、一言でいえば“アットホーム”。比較的小規模で先生方のお人柄も良く、
美味しいお酒や食べ物を「研究」の一環として満喫できるところです。理系につきものの実験に縛られず、文系出身者で
も院に行く抵抗感が薄れるという点で、農経に特有な「コウモリ的」性格からくる自由さは貴重でしょう。進振りに悩んでい
る方には、有力な選択肢の一つとして自信を持ってお勧めできる専修です。
【 大学院農学生命科学研究科 2005年卒業 小島 庸平 】
官 庁
私は、大学進学前、環境と教育という2 つの分野に興味を持つ中で、この 2 つの問題に共通してア
プローチできるフィールドとして、農業・農村という世界に漠然と惹かれていました。しかしながら、それ
というようなものでしょうか。実際そうなのですが、もっとも面白い農経の特徴は実体経済をもとに経済
学に取り組むことができるという点です。3 年生で進学したのもつかの間、皆さんはフィールドワークに取り組むことにな
るでしょう。バイト等で参加しない人もいますが、これはホントに面白いので取ることを進めます。 農業という分野は今、決して成長産業ではありません。でも、農業が一つの基幹産業であるという意識はこれからも変わら
ないでしょうし、農業に携わっている方々はもっと強い危機意識で、これからの農業をどうすれば良いのかというのを様々な
点から考え、実践されています。そういう生きた題材を、経済学を学ぶものとして、鋭い角度から切り取り提言をしていくこと
が求められるのが農経です。農業に携わる方々のお話や考え方を聞き、熱い想いや冷静な視点に触れると、驚くほど自分た
ちが日ごろ接している考え方から離れていないことが分かります。これらを経済学的によりシャープに、自分の好きなやり方
で(ただしレベルは一定以上を求められますが … )形にしていく過程がどれだけ大変で面白いかは入ったあとで分かります。
「経済学で世の中の全てをとらえることはできない。だが、世の中のおよそ 3 割を一度にとらえることができる学問は経
済学だけである。」農経のある先生からお聞きした言葉です。
【 三菱商事 2005年卒業 河野 晃典 】
農業団体
私は文科 3 類だったため、当初は文学部に行くことを考えていましたが、
「文 3 からも農学部に行け
る」ということを知り、興味を覚えたのが農経に進んだきっかけでした。もともと農家に囲まれた小さい
までの人生において農業・農村との具体的接点・経験がなかった私にとって、3 年次から専修を絞るという作業は難しいも
町で生まれ育ったので、農業に愛着を持っていたというのも大きな理由でした。
のでした。農経 …「農業・農村の現場と机上をフィードバックできる専攻」…これが私の目に留まりました。
農経では経済学・金融論・マーケティング論といった「経済」的な要素から、農業史・協同組合論等の「農業」的な要素
農業・農村という世界・学問・実態を何も知らなかった私にとって、フィールドワーク等現場で生業を営む農家のおじさ
まで幅広く包括的に学ぶことができましたが、私はどちらかというと歴史的な事柄に興味を持っていたので、ゼミも農業史
ん、おばさん達との出会い、語らいは全ての原点となりました。農家経済、生産から販売までの物流の実態、そして現場で
を選択していました。
生きる方々の生活や価値観、これらを生身で感じることにより、机上の学問に想像力が伴い、それはグローバル社会にお
就職活動では、農業関連団体を中心に回り、現在、JA共済に勤務しています。部署は全国本部の普及部という所で、一般
ける日本農業や食糧事情の把握にまで繋がる不可欠なものとなりました。
企業で言えば営業本部のような部門でしょうか。主に広報を担当しており、あらゆる広告物の制作・出稿管理、そしてその
こうして、現場と机上のフィードバックの面白さを知った私は、日本全国の農村を歩き、沢山の方々と出会いました。出
計画策案等を行っています。農経で学んだことを直接仕事に活かしている、というわけではないですが、農業関連団体と
会えば出会うほど、沢山の愛をもらい、そしてこれを日本全国に返すべく、現在は農林水産省という立場で働いています。
いう性質上、少なからず学んだことが役立ったなと実感できる機会はあります。
人生の原動力となった、農村の方々との出会いと、政策や主義ではなく、現場実態から真実を追究するという思考・行
そして農経は、農業分野に進む学生もいるものの、全く違う分野に挑戦していく学生も多いのが特長ではないでしょうか。
動パターンを学ぶことができた「農経」に、心から感謝しています。卒業後の職業は、その先にある大きな目標や夢に近
学んでいく中で自分の進みたい道を追求していける、というのも農経の自由な雰囲気の為せる業だと思いますし、農業や
づくための手段にしかすぎません。最も大切なその大きな目標や夢を描きたい方は、是非農経にいらして下さい。
経済に少しでも興味がある方でしたら、ぜひ来ていただきたい学科です。
【 農林水産省 2004年卒業 田嶋 亨基 】
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農経のイメージとはどんなものでしょうか? 理系だけど実験がない or 文系から進める数少ない理系、
【 JA共済 2004年卒業 土橋 沙耶香 】
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農学部キャンパス 建物配置図
本
郷
通
り
7号館
B棟
2号館
3号館
農正門
7号館A棟
6号館 7号館
1号館
図書館
言 問 通 り
仮門
東京大学農学部 農業・資源経済学専修
東京都文京区弥生1-1-1 農学部1号館
http: //www.ec.a.u-tokyo.ac.jp/
Department of Agricultural and Resource Economics
農業・資源経済学専修の窓から
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