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『インド拠点を活用したアフリカ市場進出戦略』

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『インド拠点を活用したアフリカ市場進出戦略』
4
コンサルタントが語る
インド拠点を活用したアフリカ市場進出戦略
自社のリソースという観点から見てみよう。
改めて検討することが望ましい。
ここでは、
アフ
欧州は、販売だけでなく、商品開発や生産の
リカ周辺の新興国であり、多くの商品開発・
先述した
「アフリカ市場における4つのエントリー戦略」で提案したように、
日本企業による
拠点ともなっているが、
これらは先に述べたよう
生産拠点を有し、
輸出国ともなっている有望国
迅速なアフリカ市場の進出を妨げる課題への対応策の1つに「第三国企業との連携による
にハイエンド向けである。
中東
(UAE)
には、
商品
として、
インドとトルコを比較してみたい。
進出」
がある。
これまで多くの企業は欧州や中東からアフリカを統括していたが、アフリカ市場
開発や生産機能は殆ど集積しておらず、
販売
商品開発については、
その国とアフリカでの
で今後成長する領域やセグメントへの展開を勘案すると、
この方法には限界がある。ここでは
機能が中心であるため、
アフリカ向けの商品
ニーズが似ているかどうかが重要である。
似て
インドを連携先とした際のアフリカ市場進出戦略について取り上げ、
その実態と可能性を
開発・生産拠点としては活用しにくい。
この結果、
いれば、同じ商品またはほとんどカスタマイズ
解説する。
欧州、中東(UAE)から攻めやすいアフリカ
をしていない商品を、
アフリカへ展開すること
市場は、
産油国で所得が高く、
アラブ人社会で
ができ、効率的である。その意味でインドは、
おける宗主国(主に英国、
フランス、
ポルトガル)
ある北アフリカ諸国および突出して市場の大
所得構造や気候、
インフラの整備状況などの
は、
これらの国の言 語がいまでも公 用語と
きい南アフリカのハイセグメントに限られてくる。
観点から、サブサハラ
(東・南・西アフリカ)
と
1.欧州・中東からの
アフリカ市場進出の限界
して旧植民地国で使用されていることもあり、
比較的ニーズが似通っている。一方、
トルコは、
社会・経済的なつながりが深い。
とはいえ、
北アフリカと似通っている面がある。
門林 渉
グループマネージャー
NRIインド
欧州、
中東
(UAE)
のターゲット顧客セグメント
欧州資本が現地経済を牛耳っているわけで
2.次なる第三国企業候補
調達・生産については、国内市場規模や
は、
グローバルに見た場合ハイエンドである
はなく、
これらの欧州国人と、現地の流通プレ
∼インド・
トルコの可能性∼
事業規模が大きいほど、規模の経済が働き
ことが多い。
とりわけ中東(UAE)がハイエンド
イヤーが強い関係を持っているわけでもない。
をターゲットとしている理由は、主に先進国向
一方、
中東(UAE)
の場合は、
民族・宗教・歴史
アフリカ市場を本格的に攻略するためには、
また、供 給コストや時 間という観 点からは、
けのモデルを、
中東の富裕層向けに展開して
的なつながりにより、北アフリカにはアラブ商人
いまはまだなかなか手のつけられていない
物理的な距離も重要である。船で輸送する
いるケースが多いためである。
のネットワークがいまでも色濃く残る。
このため、
ボリュームゾーンである、
ミドルセグメントや西・
場合、
インドはアフリカ東部・南部に近く、
トルコ
次に、
アフリカ現地への人的ネットワークという
中東
(UAE)
から北アフリカへは、
営業・販売チャ
東アフリカ向けに、商品開発や生産・販売網
は北アフリカに近い。
観点で見ると、欧州の場合、植民地時代に
ネルを構築するという観点ではメリットがある。
を構築することが重要である。
そのためには、
販売・アフターサービスという観点では、
現地
欧州・中東以外の第三国からのアプローチを
の販売代理店の開拓のしやすさ、管理のしや
図表1
欧州・中東(UAE)の拠点の特徴と攻略しやすいアフリカの地域
欧州・中東
(UAE)
拠点の特徴
欧州
ターゲット
セグメント
ハイエンド
中東
(UAE)
ハイエンド
営業・アフター
サービスが中心
(商品開発・生産機能
(商品開発・調達・生産) ほぼなし)
ロー
ポテンシャルはあるが
手を付けにくい地域
南
リソース
ハイエンド向けの
リソース
ミドル
1
インド
西・東
アフリカへの 弱い
アラブ諸国
( 旧 宗 主 国 の 繋がり (北アフリカ)
とUAEの
人的
代理店との繋がり
ネットワーク くらい)
産油国で所得が高く、アラブ人社会の
北アフリカ諸国、突出して市場の大きい
南アフリカのハイセグメントのみに展開
ハイ
図表2
アフリカ周辺国からのアフリカへの展開のしやすさ比較
北
(欧州ミドルセグメント (先進国向けモデルの
を含む)
展開)
攻略しやすいアフリカの地域
やすく、
この点はインドもトルコも同様である。
トルコ
商品開発
2
調達・生産
3 販売・アフターサービス
政府支援
ニーズの類似性 =
商品横展開の容易さ
規模の経済
物理的距離
サブサハラ
(東・南・西アフ
リカ)
とニーズが類似
国内市場は大きく規模の
経済が働く
アフリカ東部・南部に近接
サブサハラ
(特に旧英領) SACUとFTA交渉中だが
の印僑流通ネットワークが 未締結
輸出支援策あり
活用しやすい
国内市場は大きく規模の
経済が働く
北アフリカに近接
中東から北アフリカへ至る
アラブ商人ネットワークが
活用しやすい
(所得構造、
気候、
インフラ環境
等)
北アフリカとニーズが類似
(文化、所得構造、気候等)
チャネル開拓・
管理の容易さ
4
輸出支援政策
(FTA、税制等)
エジプト、モロッコ、チュニ
ジア、モーリシャスとFTA
締結済み
(注)
SACU:The Southern African Customs Union
(南部アフリカ関税同盟)
14 コンサルタントが語る-4
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コンサルタントが語る-4
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4
コンサルタントが語る
図表3
販売アフターサービスや政府支援の観点からインドの影響が大きい国
Tunisia
Morocco
すさが重要である。特にサブサハラの、
英国が
旧宗主国だった国には、
インド系住民(印僑と
スキームの対象国となっている。
その背景には、
アフリカの金融センターとして著名な同国は
呼ぶことがある)が多く、
いまでもインド文化に
人口の7割近くがインド系住民であり、
その数も
則った生活を営むとともに、
ビジネスの主要な
約90万人と多く、
アフリカ域外からアフリカ地域
担い手となっている。
への輸出の際の中継拠点として位置づけられ
とりわけ南アフリカはインド系移民の歴史が
ていることがあげられる。
近年はモーリシャスに
長く、2012年時点でおよそ120万人のインド系
地域統括拠点やBPOのためのコールセンター
インド人は、
これら印僑系の販
住民がいる 。
を設置するアフリカ企業も増えており、その
*1
売代理店とコミュニケーションをしやすく、
ま
存在感は、
これからますます増していくと考え
Algeria
Sahrawi Arab
Democratic Republic
Cape Verde
Libya
Egypt
Mauritania
Senegal
対象国
インドからの輸入が10億ドル
以上の国
ナイジェリア、エジプト、ケニア、
タンザニア、南アフリカ、
モーリシャス
Mali
Niger
Sudan
Eritrea
Chad
Guinea-Bissau Burkina Faso
Djibouti
Guinea
Benin
Sierra Leone
Cote
Nigeria
South
Sudan
Togo
d'Ivoire
Central African (Republic of Ethiopia
Liberia
Republic
Ghana
South Sudan)
Cameroon
Somalia
Uganda
Equatorial Guinea
Kenya
Sao Tome' and Principe
Gabon
Rwanda
Republic of the Congo
Burundi
Democratic
Seychelles
Republic of the Congo
Tanzania
Gambia
重点国抽出の観点
インドからの輸入が
10億ドル以上の国
Special Focus Markets
赤字は、
インド系人口
Angola
Namibia
Comoros
Zambia
Malawi
Zimbabwe
Mauritius
Mozambique
Botswana
Madagascar
アンゴラ、
カメルーン、
コンゴ共和国、
エチオピア、
ガボン、
ガンビア、
コートジボワール、
リベリア、
マダガスカル、マラウイ、マリ、
Special Focus Markets ナミビア、ルワンダ、セネガル、
対象国
シエラレオネ、チュニジア、
ウガンダ、コンゴ民主共和国、
ザンビア、
ジンバブエ、
スーダン、
ガーナ
(モロッコ:2012年6月に追加)
インド系人口10万人以上の国
南アフリカ、ケニア、
タンザニア、
モーリシャス
た流通構造の複雑さも似ているため、代理店
られる。
の開拓や管理がしやすい。一方、
トルコの場
こうした政府による支援を受け、
インド企業
合、
北アフリカのアラブ系の人的ネットワーク
はアフリカ市場での販売網を着実に拡大すると
を活用できることが特徴である。
ともに、
アフリカ地域内の様々な市場に対する
メリットは大きい。
このようなメリットを生かして、
販売はもちろんのこと、
商品開発・マーケティング
最後に、政府支援という観点では、FTAや
影響力を増大させている。
すでにインドは一部の製品でアフリカ向けの
といった権限も、
大幅にインド拠点に委譲され、
税制優遇などの輸出支援策が重要である。
なお、特定市場スキームは、2015年4月に
輸出国となっており、
トルコと比較しても、
多数の
インドを司令塔に、
インド向けに開発した商品
インド、
トルコもこれら政府の支援策を活用でき
改定され、他のスキームと一体化し、
「インド
商品カテゴリーで輸出拠点化していることが
の中東・アフリカへの横展開を図っている。
るが、特にインドでは2009年に税優遇制度で
スキームによる商用輸出
(MEIS:Merchandise
特徴である。
このような強みがあることから、
また、
日立建機は、
タタ・グループの中核会社
ある特定市場(Focus Markets)
スキームが
Exports from India Scheme)」
という名称
既に多数のインド企業がアフリカへ進出して
であるタタ・モーターズと合弁会社を作り、
インド
施行されて以来、
インドで製造した製品を輸出
に変更された。現在では、A、B、CのCountry
いる。展開先もアフリカ全土に広がっており、
国内で商品開発・生産・販売を手掛けている。
しやすくなっている。
この特定市場スキームと
Groupに対象国が分類され、
そのグループと
例えば、
タタ財閥は、
インドに近い東アフリカ
アフリカについては、
もともと日立ブランドにて
は、
対象国向けに輸出した場合、
満たしている
輸出品目の掛け算で還元額が決められる形に
(ケニア、
ウガンダ、
マラウイ、
ジンバブエ、
ザンビア)
ハイエンド向けに自ら展開していたが、
ミドル
条件に応じて輸出額(本船渡し条件)の3%
なっている。
より細かい分類で還元額が掲載さ
を中心に多くの拠点を構えながら、南部アフ
セグメントに向けては、
タタと共同で開発・生産
相当額を事業者に還元する制度である。制度
れることとなったため本書に詳細は記載しない
リカ
(モザンビーク、
ナミビア、南アフリカ)
と西部
したモデルを国内展開するとともに、
タタのアフ
対象国は、既にインドからの輸入が10億ドル
が、
アフリカ55カ国は等しくカテゴリーBに分類
アフリカ
(セネガル、
ガーナ、ニジェール)にも
リカにおける各種ネットワークを活用しながら
以上に達しているナイジェリア、
エジプト、
ケニア、
されることとなり、
インド政府が重点領域を設定
それぞれ展開している。
広域に販売している。
タンザニア、南アフリカ以 外のアフリカ各 国
しながら、
これまで以上に国外への輸出に力
10万人以上の国
Lesotho
Swaziland
South Africa
(出所)
インド政府公開資料より作成
いくつかの日系企業もまた、
インドからアフリカ
このように、
インドは、
アフリカへ本格展開する
への展開を開始している。
例えば、
パナソニック
際の、商品開発・生産・販売の統括拠点となり
ダンは除く)
となっており、特に重点国に対して
は、地域軸を強化したグローバル展開の方針
得る。
パナソニックのように、
自社単独で、
これら
は特別特定市場
(Special Focus Markets)
を打ち出し、
グローバルな戦略地域として、
の体制を構築する方法もあるが、
すでにアフリカ
(ただし、
制度施行時に存在しなかった南スー
スキームとして輸出額(本船渡し条件)の4%
を入れていることに注目しておきたい。
3.インド拠点の活用の薦め
相当額を事業者に還元する制度を適用して
「インド・南アジア・中東・アフリカ」
「中国・北東
へ展開しているインド企業と提携して、
インド・
アジア」
「東南アジア・大洋州」の3地域を設定
アフリカ市場へ協力して展開する方法も有効で
いる。
なお、
モーリシャスは、
インドからの輸入
このように、
インドをサブサハラ・アフリカ向け
しているが、
その中でインドは、南アジア・中東・
ある。
日本企業による
「インド拠点を活用したアフ
が10億ドル以上に達していながら特定市場
の商品開発・生産・販売拠点として活用する
アフリカ展開の統括拠点となっている。生産・
リカ市場進出」のさらなる展開を期待したい。
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*1.アフリカ全体では印僑は290
万人程度いるといわれている
コンサルタントが語る-4
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