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2014.03 志波敬先生 地衣類レポート・《地衣類は環境のバロメーター》

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2014.03 志波敬先生 地衣類レポート・《地衣類は環境のバロメーター》
高 校 生 の た め の 地衣類の
地衣類 の 紹介
《 地衣類は
地衣類 は 環境の
環境 の バロメーター》
バロメーター 》
習志野高校
文 ・ 写真
定時制
志波
理科
敬
はじめに
私 は 「 地 衣 類 」 と い う 生 物 の 研 究 を し て き ま し た の で そ の 紹 介 を し た い と 思 い ま す 。 な ぜ 地衣
類に興味を持ったかというと、大気汚染に非常に敏感で環境のバロメーターになるからです。
子 供 の 頃 、 鼻 や 喉 が 弱 く 、 小 学 生 の 頃 か ら 大 気 汚 染 の こ と が 気 に な っ て い ま し た 。 二 酸 化 炭素
を 吸 収 し 酸 素 を 発 生 さ せ る 植 物 の 光 合 成 に も 強 い 関 心 を 持 ち ま し た 。 私 の 中 学 ・ 高 校 時 代 は 高度
経 済 成 長 期 で 日 本 が 急 速 に 発 展 し た 時 代 で す 。今 の 中 国 の よ う な 状 況 で 、豊 か に な る 反 面 、大 気 、
川 や 海 が ど ん ど ん 汚 染 さ れ て い き ま し た 。 公 害 問 題 が 多 発 し て 、 有 機 水 銀 に よ る 水 俣 病 、 大 気汚
染 に よ る 喘 息 、 カ ド ミ ウ ム 汚 染 に よ る イ タ イ イ タ イ 病 な ど が 発 生 し て い ま し た 。 そ う い う 状 況下
で 、 私 は 大 気 汚 染 に 敏 感 で 環 境 の バ ロ メ ー タ ー に な る 着 生 植 物 に 興 味 を も っ て 科 学 部 で 活 動 した
り し ま し た 。 し か し 参 考 資 料 が あ ま り 無 く 、 興 味 は 持 っ て い た も の の あ ま り 研 究 は 進 み ま せ んで
した。
生 物 教 員 に な っ て か ら 、 国 立 科 学 博 物 館 研 究 部 で 勉 強 を さ せ て 頂 く 機 会 を 得 ま し て 、 地 衣 類の
研究が進みました。夏休みには北海道の地衣類
現 地 調 査 を 行 い 、 英 文 で 研 究 報 告 論 文 ( ★ 091
シ バ 『 北 海 道 ,厚 岸 お よ び そ の 周 辺 地 域 の 地 衣
類』国立科学博物館)を載せることができまし
た。
研 究 と は 、や る 気 さ え あ れ ば 、あ と は 根 性・
忍耐・時間との戦い、体力などが決め手になる
と思いました。本校の吹奏楽部や運動部の頑張
りと共通するものがあると、自分勝手ながら思
っていました。習志野高校では頑張れば何でも
ミ ヤ マ ハナ ゴ ケ
できるという素晴らしい雰囲気があると思いま
す 。 良 き 習 志 野 高 校 の 伝 統 を 失 わ な い で 欲 し い と 思 っ て い ま す 。 吹 奏 楽 や 運 動 部 の 練 習 の 音 が聞
こ え て く る と 、 自 分 も 頑 張 ろ う と の 励 み に な り ま し た 。 習 志 野 高 校 の 生 徒 達 が 地 衣 類 に 興 味 を持
つきっかけになればと思い、地衣類に関する説明や調査の一部を紹介したいと思います。
で は 、 以 下 に 地 衣 類 の 紹 介 を 書 か せ て 頂 き ま す 。( 写 真 は す べ て 、 私 志 波 が 撮 影 し た も の で す 。)
地衣類
地衣類とは何か
地衣類とは菌類と藻類の2種類が共生した複合生
物 で 、コ ケ 植 物 に 似 て い る 生 物 で す 。複 合 生 物 な の に 、
まるで 1 つの生物であるかのような強烈な共生関係に
ある不思議な生物です。ゼニゴケやスギゴケなどのコ
ケ植物とは全く別系統の生物です。菌類はカビやキノ
コを含む仲間のことです。藻類は、クロレラで知られ
-1-
カワホリゴケの仲間
藍藻が共生した地衣(黒っぽい)
らんそう
る緑藻や藍藻(=シアノバクテリア)などを含む仲間のことです。それぞれは独自の形をしてい
ま す が 、 藻 類 と 菌 類 が 合 体 し 地 衣 類 と な る と コ ケ 植 物 に 似 た 形 に な り ま す 。 緑 藻 が 共 生 し た 地衣
類 は 緑 ~ 黄 緑 系 の も の が 多 く 、 藍 藻 が 共 生 し た 地 衣 類 は 褐 色 ~ 黒 色 の も の が 多 く み ら れ ま す 。地
衣 類 に は ○ ○ ゴ ケ と 名 が 付 い て い る も の が 多 い の で コ ケ 植 物 ( 蘚 苔 類 ) と 混 同 さ れ ま す が 、 地衣
類 は コ ケ 植 物 と は 見 か け は 似 て い る も の の 、全 く 系 統 の 違 う 生 物 で す 。地 衣 類 の 色 は 、緑 、黄 緑 、
黄 色 、 白 、 灰 、 茶 、 黒 、 赤 な ど 様 々 で 、 明 る い と こ ろ を 好 む も の が 多 く み ら れ ま す 。 一 般 に は誤
解 さ れ て い る の で す が 、 着 生 基 物 へ の 寄 生 で は あ り ま せ ん 。 地 衣 体 内 部 で 藻 類 が 光 合 成 を お こな
って養分を合成していますので、独立栄養です。
切 片 を 顕 微 鏡 で 観 察 し ま す と 、菌 類 の 菌 糸 の 中 に 緑 藻 や 藍 藻 が 層 を な し て い る の が 見 ら れ ま す。
地衣類
色
菌類
菌 類 と 共 生 する 藻 類
(参 照 )
コケ類
コケ 類 ( 鮮 苔 類 )
緑 色 、黄 緑 、灰 色 、
白 色 、茶 色 など
緑 色 、青 緑 色 、藍 色 な
緑 色 、黄 緑 色 、緑 褐 色
黒 色 、橙 色 など様 々
様々
ど様 々
など
成 り立 ちや
菌 と藻 の共 生 (合 体 )
光 合 成 を行 わない
光合成をする細胞か
光 合 成 をする細 胞 から
形 など
茎 、葉 なし
細 胞 からなる菌 糸
ら な る 。単 細 胞 や 単 細
なる植 物 。茎 と葉 の区
固 着 、樹 枝 状 、葉 状
など。茎 、葉 なし
胞 が 数 珠 状 、糸 状 に つ
別 がある茎 葉 体 や区
など
カビ、キノコの仲 間
ながったものなど
別 のない葉 状 体 など
菌 類 (共 生 体 )
菌類
藻 類 、真 正 細 菌 (シアノ
緑色植物
分類
バクテリア)
地衣類は大気汚染が苦手で、空気のきれいなところが好
きな生物です。地衣類が多いところは自然環境が良いこと
を 示 し ま す 。 ヨ ー ロ ッ パ で は 100 年 以 上 前 か ら 、 大 気 汚 染
や環境の指標生物になってきました。日本では、大形の美
しい葉状地衣類がどんどん見られなくなってきており、地
衣類が絶滅の方向にあります。種類によっては高い山や北
海道の一部などでしか見られなくなってしまっているもの
も増えてきています。都市部ではどんどん減少しています
ので、観察する機会が減ってきてしまっていますが、まだ
ウメノキゴケなどの仲間
ある程度残っています。
図鑑が少ないのと、外見だけでは種名が同定(後述参照)できないので、その場合には地衣成
分 ( 詳 細 は 後 記 ) を 調 べ な い と い け な い と い う 問 題 が あ り ま す が も し 、 興 味 を 持 っ た 生 徒 が いま
し た ら 、 是 非 勉 強 し て み て ほ し い と 思 い ま す 。 現 在 に お い て は 、 地 衣 類 の 絶 滅 が 速 い か 地 衣 類研
究 者 の 絶 滅 が 速 い か と い わ れ て い る く ら い で す 。 今 、 地 衣 類 を 観 察 し て お か な い と 、 ま す ま す見
ら れ な く な っ て し ま う こ と が 予 想 さ れ て い ま す 。 こ こ 習 志 野 高 校 付 近 で は 地 衣 類 は 目 立 ち ま せん
が あ る 程 度 み ら れ ま す 。 し か し 、 も し 皆 さ ん が も っ と 自 然 環 境 の 豊 か な と こ ろ に 行 く 機 会 が あり
ま し た ら 、 自 然 の バ ロ メ ー タ ー で あ る 地 衣 類 を 観 察 し て み て く だ さ い 。 登 山 や 旅 行 が さ ら に 楽し
くなります。
地衣分類の歴史
1.アカリウス以前
古代・中世には一部の地衣類は薬草とされていた。
2.アカリウス
ア カ リ ウ ス (Acharius, 1757-1819 ス ェ ー デ ン 人 )
分 類 学 者 リ ン ネ の 弟 子 で 「地 衣 類 学 の 父 」と 呼 ば れ 、 地 衣 分 類 学 の 基 礎 を 築 く 。
3.地衣分類学の発展
-2-
ヨーロッパに多くの地衣学者が出る。
・ ア レ キ サ ン ダ ー ・ ザ ル ブ ル ッ ク ナ ー (A.Zahlbruchner,1860 – 1938)
オーストリアの地衣類学者
・ エ ド ヴ ァ ル ド ・ ヴ ァ イ ニ オ ( 1853~ 1929) ( Edvard August Vainio,1853—1929 )フ ィ ン ラ ン ド 人 。
などが活躍。
4.化学分類
・ 朝比奈泰 彦(1881~1975) 顕微結晶法*注1)の確立
・ カ ル バ ー ソ ン (William (Bill) Louis Culberson, 1929=2003)
・ 薄 層 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー ( TLC) *注2)の 標 準 化
5.地衣類分類の新たな展開
地衣類を菌類の一部として扱う。属の細分化など。
*注1)
『 原 色 日 本 地 衣 植 物 図 鑑 』( ★ 475Y
吉村庸
保 育 社 ) P298~ 314 参 照
生物は、細胞成長する時に元々持っていない有機化合物を生成します。これを二次代謝産物といい、地衣類では地衣成分と呼び
ます。地衣成分を簡易的に結晶化する方法が顕微結晶法です。顕微化学的証明法(ミクロ法)とも呼ぶ。
*注2)
『 原 色 日 本 地 衣 植 物 図 鑑 』( ★ 475Y
吉村庸
保 育 社 ) P300~ 303
シリカゲル粉末をアルミのシートに張り付けた薄層プレートを使う。原理的には光合成色素を分離する実験に使うペーパーク
ロマトと同じ。
生育場所
① 生 育 基 物:木 の 幹 、枝 、葉 、岩 、
土の上などに生育する。
② 生育場所:北極、南極、高山、
亜 高 山 帯 、冷 温 帯 、温 暖 帯 、海
岸 、河 川 水 際 、石 灰 岩 地 帯 、蛇
紋岩地帯、コンクリー上など。
土の上に着生する地衣
石上に生育する地衣
同定方法 ( 種類 の 見分 け 方 )
以下の方法を総合して同定を行う。
1.形態観察:実体顕微鏡や生物顕微鏡での観察。
地衣体、子器、胞子など
て い しょく は ん の う
2.呈 色 反応:地衣体に試薬をつけて色の変化から地衣成分を見分ける方法。
KOH(水 酸 化 カ リ ウ ム ), パ ラ フ ェ ニ レ ン ジ ア ミ ン 、 さ ら し 粉 な ど で チ ェ ッ ク
3 . 顕 微 結 晶 法 ( MCT): 化 学 成 分 を 調 べ る 方 法 。
4 . 薄 層 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー ( TLC): 化 学 成 分 を 調 べ る 方 法 。
地衣成分
多 く の 地 衣 類 は 、体 内 に 多 量 の 二 次 代 謝 産 物(
物 細 胞 成 長 す る 時 に 生 成 す る 、元 々 持 っ て い な い
有 機 化 合 物 ) を 生 成 す る 。 乾 燥 重 量 の 1 0 % に 達 す る こ と も あ る 。 こ れ ら は 地 衣 成 分 と 呼 ば れ、
地 衣 類 の 種 類 に よ っ て 成 分 が 異 な っ て い る の で 、 同 定 す る 時 に 分 類 物 質 と し て 重 視 さ れ て い る。
-3-
顕 微 結 晶法 に よ る
地衣成分
地衣成分写真
アトラノリン oT
アトラノリン GE
サラチン 酸
アンチア酸 GE
地衣類のかたち
外部形態から
A:木の葉のように薄い紙状で、表と裏の区別がはっきりしている
B:樹枝のように上がったり、垂れ下がったりしている
C:着生基物の表面を非常に薄く覆っている
地衣類
A葉状地衣類
① カブトゴケ
② フクロゴケ
B樹枝状地衣類
③ハナゴケ
④ツノマタゴケ
C固着地衣類
⑤モジゴケ
⑥チャシ
A葉状地衣類
フクロゴケの仲間
①カブトゴケの仲間
-4-
B樹枝状地衣類
③ハナゴケの仲間
④ツノマタゴケの仲間
C固着地衣類
⑥チャシブゴケの仲間
⑤モジゴケの仲間
日本では場所により次のような地衣が見られます。
地衣類
●都 市 部
●高 山 帯
● 500m
500 m 以 下 の 低 山 地
●里 山 か ら 高 山 ま で
コフキジリナリア
ムシゴケ
キウメノキゴケ
ハナゴケ
ムカデゴケ
イワブスマ
ウメノキゴケ
ワラハナゴケ
ローソクゴケ
マキバエイランタイ
マツゲゴケ
ヘリトリゴケ
レプラゴケ
ヒメレンゲゴケ
ヒメジョウゴゴケ
ウチキクロボシゴケ
ヒカゲウチキウメノキゴケ
大気汚染 と 地衣類 、 絶滅 の 危機
都市部に見られる地衣類の種類は非常に少ない。都市
部にはウメノキゴケなどの葉状地衣はあまり見られない。
この原因として大気汚染が考えられている。地衣類は南
極や高山、砂漠などの厳しい環境に耐えて生活できるもの
が多い一方、大気汚染に対する強さは地衣類の種類によっ
て様々であるが、大気汚染に敏感な性質を利用してその種
類の分布から大気の状態を評価できると考えられている。
今後、環境教育や生物教育の中でもっと取り上げられても
良いのではないか。
-5-
絶滅 危惧 種に つい ては 国立 科学 博物 館ホ ーム ペー ジを 参照 して くだ さい 。( 最後 に明 記)
地衣類に関するインターネット話題から(参考ホームページは最後に明記)
食べられる?
・ お茶として煎じて飲める地衣類がある。中国雲南省深山
の地衣、ムシゴケは解毒、殺菌、肝臓、目などに効果が
あるといわれている。
・ イワタケは三杯酢でも天ぷらでも酒の肴にいける。
・ トナカイがツンドラで食べているのはトナカイゴケであ
る。
薬ですか?
・ ヨーロッパでエイランタイは生薬店で乾物の袋入りを販
ムシゴケ
売している。咳止めや風邪に効果がある。
・ ヨーロッパではセーターを地衣類で染めている。北欧では虫が付かないとして珍重されてい
る。
・ リトマス紙は地衣類のリトマスゴケから造られた。地中海沿岸に生息するリトマスゴケを用
い た 染 色 が pH で 変 化 す る こ と か ら 思 い つ い た 。
・ 南米フェゴ島では地衣類サルオガセの一種を煮出して洗顔に用いる。しわ、しみがとれると
いわれている。
・ 昔ヨーロッパでは、野晒しの頭蓋骨にはえた地衣類、キサントリア・パリエチナは万病に効
くとして、金と等価だった。
商品として?
・ 香水「ミツコ」の東洋的な香りづけは地衣類である。欧州原産の地衣類ツノマタゴケからと
れるオークモス油による。今は西欧では取り尽くされて北アフリカや東欧から輸入される。
びっくりしました!
・ 地衣類は重金属をため込む性質があり、チェルノブイリの放射能汚染によるトナカイへの影
響が心配されている。
・ 山で道に迷ったら、まず、木の幹を見て地衣類が生えている方向を南と考えよ。北面は蘚苔
類。日光の必要度できれいに住み分ける。
・ サンタさんのひげは地衣類である。北欧でサンタさんの
ひげは昔は地衣類サルオガセを使っていた。
・ いろいろな自然の模様は地衣類が創る。海岸の潮界面の
よこしま模様、ブナの木肌の模様、都会のコンクリート
の黒いまだら模様、古い墓石の模様など、地衣類は自然
の芸術家。
・ 生きている地衣類の種類で大気汚染がわかる。地衣類が
見つからなければ、相当ひどい環境といえる。サルオガ
セ、ウメノキゴケ、ハナゴケなどが環境目標。
・ 火山から噴出した溶岩に最初に根付く生物は地衣類であ
蘚苔類に混ざって生育する
る。厳しい環境の下で生育する地衣類は万物のパイオニ
ハナゴケ
アである。
-6-
北海道 の 地衣類
あっけし
2002 年 ~ 2005 年 に 北 海 道 厚 岸 ・ 釧 路 の 現 地 調 査 と 採 集 を 行 い 、 そ の 後 、 追 加 的 な 補 足 の 調 査
を 行 っ て き ま し た 。 採 集 後 採 集 し た 標 本 を 調 べ て き ま し た が 、 図 鑑 に 載 っ て い な い も の が 非 常に
多 く 、 同 定 作 業 は い ま だ に 途 中 で あ り 、 研 究 途 上 で あ り ま す が 、 こ れ ま で 調 べ て き ま し た こ とに
ついてのまとめを以下に書きます。
地衣類は大気汚染等の環境の変化に非常に敏感で、わが
国においては全国的に急速に減少してきております。自然
環境が悪化している都市部のみならず、北海道のような自
然環境の優れている地域に於いても地衣類は絶滅の方向に
向かっています。今この時期に、厚岸の地衣類の分布を調
べて記録しておくことは大切なことです。本研究では、自
然環境の優れている厚岸およびその周辺地域に生育する地
衣類の分類学的研究を行うとともに、生物指標種に関する
基 礎 的 デ ー タ を 得 る こ と を 目 的 と し て お こ な い 、 223 種 の
地衣類を報告しました。
あ い かっぷ
厚 岸 町 の 愛 冠 に は カ ブ ト ゴ ケ 、ヨ ロ イ ゴ ケ ,ア オ キ ノ リ 、
アワビゴケの仲間など、わが国において現在急速に減少し
自然環境の良い地域の樹皮には
多くの地衣が着生している。
(北大厚岸臨海実験場敷地内)
ている葉状地衣類が多く見られました。これらの大型の葉
状 地 衣 を 多 産 す る 環 境 は ,落 葉 広 葉 樹 が 優 先 す る 自 然 林 や ,
古い林分に限られています。大気汚染が少ないことに加え
て、この森林には葉状地衣類が生育できる照度、温度、湿
度その他の微妙な自然環境が確保されていると考えられま
し り お
す 。厚 岸 湾 を は さ ん だ 尻 羽 岬 も 同 様 な 傾 向 が 見 ら れ ま し た 。
これらの林は極めて希少価値があり、保全する必要があり
ま び ろ
ます。また、末広付近の針葉樹林には大気汚染に最も敏感
な種の一つであるナガサルオガセをはじめとするサルオガ
セ属が多く見られます。ナガサルオガセは現在急速に減少
しつつある種です。またサルオガセは樹木に寄生して樹木
調査地に現れたエゾシカ
を枯らすとの誤解がありますが,樹木に着生しているだけ
で 養 分 は 共 生 し て い る 藻 類 が 光 合 成 を お こ な い 供 給 し 、 そ の 他 の 養 水 分 は 雨 や 大 気 中 か ら 吸 収し
て い ま す 。 む し ろ サ ル オ ガ セ の 存 在 は 空 気 が 綺 麗 で あ る こ と の 証 明 に な り ま す 。 現 在 、 北 海 道に
お い て す ら ナ ガ サ ル オ ガ セ を 多 産 す る 地 域 は 急 速 に 少 な く な っ て き て い ま す 。ま た 、2000 年 に日
きり た っ ぷ
本新産として霧多布周辺で発見され、アッケシサルオガセと命名された種もこの地域にみられま
べ かん べ うし
し た 。こ れ ら の 針 葉 樹 林 も 非 常 に 優 れ た 自 然 環 境 で あ り 保 全 す る 必 要 が あ り ま す 。ま た 、別 寒 辺 牛
湿 原 の 海 岸 に 近 い 場 所 に お い て は , ワ ラ ハ ナ ゴ ケ が 見 ら れ ま し た 。 こ の 種 は 極 地 や 高 山 の 地 上に
よ く 見 ら れ る も の で 、 湿 原 の 海 岸 よ り の 地 域 は 地 衣 類 の 分 布 か ら す る と 高 山 に 近 い 環 境 で は ない
か と 推 測 さ れ ま す 。 別 寒 辺 牛 湿 原 の 内 陸 部 に お い て は 、 タ カ ネ ア カ ミ ゴ ケ 、 グ レ イ ジ ョ ウ ゴ ゴケ
が 見 ら れ ま し た 。 タ カ ネ ゴ ケ は 針 葉 樹 林 帯 以 上 の 、 日 当 た り の 良 い 地 上 に よ く 見 ら れ ま す 。 グレ
イ ジ ョ ウ ゴ ゴ ケ は 平 地 か ら 低 山 帯 に 見 ら れ ま す 。 こ の こ と か ら 同 じ 湿 原 で も 海 岸 沿 い と 内 陸 部で
は 環 境 条 件 が 多 少 違 う の で は な い か と 推 測 さ れ ま す 。 こ れ ら の 地 衣 類 が 生 育 で き る 高 層 湿 原 は急
速 に 減 少 し つ つ あ り 、 や は り 保 全 を す べ き で あ り ま す 。 こ れ ら の 地 域 で 多 く 見 ら れ た 葉 状 地 衣類
の ウ ス バ カ ブ ト ゴ ケ 、ナ メ ラ カ ブ ト ゴ ケ な ど の カ ブ ト ゴ ケ 属 、ア ワ ビ ゴ ケ な ど の エ イ ラ ン タ イ 属 、
テ イ リ ハ ヨ ロ イ ゴ ケ 、 ア ツ バ ヨ ロ イ ゴ ケ な ど の ヨ ロ イ ゴ ケ 属 、 樹 枝 状 地 衣 類 の ナ ガ サ ル オ ガ セ、
-7-
ア カ ヒ ゲ ゴ ケ な ど の サ ル オ ガ セ 属 の 地 衣 類 は 減 少 傾 向 が 強 く 、 わ が 国 に お い て は 、 い ず れ 近 い将
来 、 絶 滅 が 危 惧 さ れ る よ う に な る 可 能 性 が あ る と 思 い ま す 。 大 気 汚 染 や 自 然 破 壊 に 敏 感 な カ ブト
ゴ ケ 属 や サ ル オ ガ セ 属 を な ど の 地 衣 類 が こ の よ う に 多 く 見 ら れ る 地 域 は 近 年 、 急 速 に 減 少 し つつ
あ り 、 こ れ ら の 地 域 は 極 め て 貴 重 な 地 域 で あ り 、 別 寒 辺 牛 湿 原 お よ び そ の 周 辺 の 自 然 を 重 要 な地
域として保全すべきです。
ま た 、 Lecanora kurokawae ( 和 名 無 し ) を 新 種 と し て 、 Leptogium tenuissimum ( 和 名 無 し ) と
い う 地 衣 を 日 本 新 産 と し て 、 Hypotrachina incognita( 和 名 無 し )な ど の 地 衣 類 を 北 海 道 新 産と
して報告いたしました。
ま た 、 こ の 地 域 に 見 ら れ た 地 衣 類 を 、 植 物 地 理 学 的 分 析 を 試 み て み ま し た 。 そ の 結 果 、 こ の地
域 の 地 衣 類 は 、 温 帯 地 域 、 北 東 ア ジ ア 地 域 に み ら れ る 種 類 を 中 心 に 、 一 部 極 地 域 周 辺 に 多 く 見ら
れ る 地 衣 類 か ら 構 成 さ れ て い る こ と が 分 か り ま し た 。 し か し 僅 か で す が 、 熱 帯 地 方 に 多 く 見 られ
る地衣類が一部入り込んでいます。地球温暖化の影響かもしれません。
おわりに
現 在 、 日 本 で は 、 排 気 ガ ス の 規 制 が 進 み 、 以 前 の よ う に バ ス や ト ラ ッ ク が 黒 煙 を ま き 散 らし
な が ら 走 行 す る と か 、 工 場 か ら 高 濃 度 の 亜 硫 酸 ガ ス ・ 窒 素 酸 化 物 な ど を 排 出 す る こ と は な く なっ
て き ま し た 。 し か し 、 日 本 は 公 共 事 業 で 不 必 要 な 道 路 を 造 る 傾 向 が あ り 、 山 の 中 に 自 動 車 道 路が
ど ん ど ん 造 ら れ て い ま す 。 地 衣 類 は 乾 燥 化 や 自 動 車 の 排 気 ガ ス ・ ほ こ り な ど を 嫌 い ま す 。 山 の中
か ら 地 衣 類 が ど ん ど ん 減 少 し て い る 状 況 に は 変 わ り が あ り ま せ ん 。 ま た 、 経 済 成 長 の 著 し い 隣国
の 中 国 は ま だ 環 境 よ り 経 済 優 先 の よ う で 、 大 気 汚 染 が 深 刻 化 し て お り 、 有 害 物 質 が 西 風 に 乗 って
日本にも影響を及ぼしています。地衣類は非常に敏
感で、中国からの影響にも反応するといわれていま
す。その実態を調べるためにも、状況は日々変化し
ていきますのでこれから少しずつでも山に登り日本
の自然を調べていきたいと思っています。
習志野高校の生徒たちも自然環境の良い所に行く
機会があれば是非地衣類を観察してみてください。
自然環境のバロメーターである地衣類を調べること
は 、自 然 保 護 の た め の 貴 重 な 資 料 に な り ま す 。今 後 、
習志野高校生が地衣類に興味をもってもらえると嬉
ナガサルオガセ
しく思います。
【注】
★ 印 で 表 し た も の は 習 志 野 高 校 図 書 館 が 所 有 し て い る 本 で す 。 NDC も 表 記 し ま す 。
-8-
参考図書
『 地 衣 類 の ふ し ぎ 』( ★ 475 カ シ 柏 谷 博 之 ソ フ ト バ ン ク ク リ エ イ テ ィ ブ )
(写 真 が 豊 富 で す )
『 し だ ・ こ け 』( ★ 476 イ ワ 岩 月 善 之 助 山 と 渓 谷 社 フ ィ ー ル ド ブ ッ ク ス 14)
『 福 井 の コ ケ と 地 衣 [補 遺 ]』( 福 井 県 植 物 研 究 会 編 福 井 県 )( 2002)
『 校 庭 の コ ケ 』( ★ 475N1 殻 12 中 村 俊 彦 他 2 名 全 国 農 村 教 育 協 会 )( 2002)
『 原 色 日 本 地 衣 植 物 図 鑑 』( ★ 475Y 吉 村 庸 保 育 社 )( 1974)
『 Lichens of North America』 Irwin M. Brodo( 2001) Yale University Press
(写 真 が 豊 富 で 図 鑑 と し て も 使 え ま す )
参考文献
Shiba,T. Moon,K・ Kashiwadani,H.(2008)
Lichens of Akkeshi and its Adjacent Areas
Northeastern Hokkaido Japan. Bull.Natl.Mus.Nat.Sci. Ser.B.34(1) 1-16
参考ホームページ
http://research.kahaku.go.jp/botany/chii/01/
・小さき愛しきものたち(秋田県立大学)
http://www.lichen.akita-pu.ac.jp/~yamamoto/Netreview.htm/
・国立科学博物館
2014.01.20 掲 載
-9-
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