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最近のリコール届出の増加要因と 低減対策の方向性について

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最近のリコール届出の増加要因と 低減対策の方向性について
平成19年度交通安全環境研究所講演会
最近のリコール届出の増加要因と
低減対策の方向性について
リコール技術検証部長 小田曜作
1
1.検討の視点と進め方
1.検討の視点
近年、リコールが急激に増加している。リコールの要因は多岐に渡るが、その中で、仮に近年
のリコール増加に強く影響を与えている要因があれば、同要因に力点をおいて対策を講じる
ことによりリコ ルを効果的に削減できる可能性があるのではないか
ことによりリコールを効果的に削減できる可能性があるのではないか。
本研究では、このような視点に立ち、近年のリコール増加の主たる要因を探り、リコール対象
台数を低減するための効果的な対策の方向性について考察を試みた。
2.検討の進め方
(1)リコール届出の分析
過去5年間(平成14年度 平成18年度)のリコ ル案件の内容を多角的に分析し、最近
過去5年間(平成14年度~平成18年度)のリコール案件の内容を多角的に分析し、最近
のリコール届出の特徴や傾向を抽出する。
(2)リコール対象台数増加のメカニズム(仮説)の構築
(1)で抽出した特徴や傾向について、その相互関係を考察するとともに、関連する不具合事
例等を踏まえ、リコール対象台数が増加しているメカニズム(仮説)を構築する。
(3)リコール対象台数低減のための効果的な対策の考察
(2)の仮説を前提に、リコール対象台数を効果的に低減する対策の方向性について考察す
る。
2
2.最近のリコール届出の件数及び対象台数の推移(国産車)
最近5年間では、リコール届出の件数、対象台数ともに増加傾向にある。
なお、平成16年度のピークは、特定メーカーにリコールが集中して発生した特異値と
見られる。
8,000
7,000
400
対象台数
件 数
350
6,000
300
対
象 5,000
5 000
台
数
届
250 出
件
200 数
4,000
(
(
千
台 3,000
150
件
)
)
2,000
100
1,000
50
0
0
平成14年度
平成15年度
平成16年度
平成17年度
平成18年度
3
3.最近のリコール届出の分析(その1)
~不具合発生原因の分類~
不具合発生の原因は、大きく分けて「設計」によるものと「製造」によるものがある。
更に、「設計」、「製造」がそれぞれ8種類、合計16種類に分類される。これらの分類を用いてリコー
ル届出の分析を進めていく。(国土交通省「リコール届出分析」に基づく分類)
ル届出の分析を進めていく。(国土交通省
リコ ル届出分析」に基づく分類)
設計
不
具
合
発
生
原
因
性能
量産品の品質の見込み違い
部品、材料の特性の不十分
使用環境条件の甘さ
耐久性
開発評価の不備
実 車 相 当 テ ストの 不 十 分
設計自体
評価基準の甘さ
図面等の不備
プログ ラム ミス
作業工程
作 業 員 の ミス
マニュア ル の 不 備
製造工程不適切
作業管理不適切
製造
機械設備
保守管理の不備
工 具 ・治 具
保守管理の不備
金型寸法の不適切
部 品 ・材 料
管理の不備
4
4.最近のリコール届出の分析(その2)
~設計原因、製造原因別の分析~
リコール届出の件数及び対象台数を原因別に分類すると、
「設計原因」のリコール届出は件数、対象台数ともに増加傾向にあるが、「製造原因」のリ
コール届出は、件数、対象台数ともにほぼ横ばいであることが分かる。
件数
象台数 も
ぼ横ば
あ
が分
8,000
,
対象台数(設計原因)
16年度のピ ク
16年度のピーク
は特異値
対象台数(製造原因)
400
7,000
350
届出件数(設計原因)
6,000
300
届出件数(合計)
250
届
出
200
件
数
(
対
5,000
象
台
数
4,000
届出件数(製造原因)
)
千
台
3,000
150
2,000
100
1,000
50
0
0
平成14年度
平成15年度
平成16年度
平成17年度
平成18年度
注1:1件の届出について、複数の不具合箇所があり、それぞれ原因が異なる場合、原因別の件数は複数に
なる場合がある。このため、2頁の件数及び対象台数と本頁の件数及び対象台数の合計は一致しない。
注2:18年度については、リコール届出一覧表を基に交通研で分析した結果である。以下同じ。
5
5.最近のリコール届出の分析(その3)
~「生産開始から不具合初報までの期間」別の分析~
14年度と18年度の届出について「生産開始から不具合初報までの期間」別に分析したところ
(1)届出件数で見ると、「1年以内」のものと「5年超え」のものが増加している。
(1)届出件数で見ると、
1年以内」のものと 5年超え」のものが増加している。
(2)対象台数で見ると、「1年以内」のものもやや増加しているが、「5年超え」のものの増加が著しい。
(注1)「生産開始から不具合初報までの期間」とは、生産を開始した日から、メーカーが市場から初めて当該車両の不具合情報を受け
た日までの期間をいう。
(注2)「生産開始から不具合初報までの期間」が「1年以内」のものは、初期型不具合、「5年超え」のものは耐久型不具合と考えられる。
対 象 台 数
届 出 件 数
届 出
250
200
150
件
5年超
4年超え5年以下
3年超え4年以下
2年超え3年以下
1年超え2年以下
1年以内
7,000
6,000
5,000
千
台
100
4,000
5年超
4年超え5年以下
3年超え4年以下
2年超え3年以下
1年超え2年以下
1年以内
3,000
2,000
50
1,000
0
0
平成14年度
平成18年度
平成14年度
平成18年度
6
6.リコール対象台数増加のメカニズム(仮説)
設計起因による不具
合件数の増加
耐久劣化型不
具合件数の増
具合件数
増
加
リコール対象台
数の増加
長期にわたる不具
合車両の販売
初期型不具合
件数の増加
台数増加に影
響しているが、
それ程大きく
ない。
台数増加には
影響していない
製造起因の不具合件
数はほぼ横ばい
7
7.最近のリコール届出の分析(その3)
~設計原因の耐久劣化型不具合の詳細分析~
設計が原因で発生した耐久劣化型不具合について、先ほどの16分類に基づき分析すると
(1)「評価基準の甘さ」等の使用実態と評価基準の乖離が原因で発生した届出の増加が著しい。
(2)次に「開発評価の不備 等の基準に対する設計 評価の不足が原因で発生した届出が増加
(2)次に「開発評価の不備」等の基準に対する設計・評価の不足が原因で発生した届出が増加
している。
(注)ここで、「評価基準」とはメーカー各社で保有している「耐久性」、「耐候性」、「耐腐食性」等の基準をいう。
60
評価基準の甘さ等
50
開発評価の不備等
その他
(
40
届
出
件
数 30
)
件
20
10
0
平成14年度
平成18年度
8
8.リコール対象台数増加のメカニズム(仮説)
設計起因による不具
合件数の増加
使用実態と各種
評価基準の乖離
(評価基準の甘さ)
耐久劣化型不
具合件数の増
具合件数
増
加
リコール対象台
数の増加
長期にわたる不具
合車両の販売
基準に対する設
計・評価の不足
初期型不具合
件数の増加
台数増加に影
響しているが、
それ程大きく
ない。
(開発評価の不備)
台数増加には
影響していない
製造起因の不具合件
数はほぼ横ばい
9
9.具体的なリコール事例(その1)
~使用実態と評価基準の乖離が原因であるもの~
(1)リコール届出日
使用期間が長期化し
ているのではないか
平成18年4月6日
(2)不具合の状況及びその原因
イグニッションスイッチの接点の構造が不適切なため、スイッチの使用頻度が極めて高い場合、作動時に
発生する摩耗粉が接点付近にたまって導通するものがある。そのため、そのまま使用を続けると、スター
タモータが回転し続けるとともに、スイッチの接点が発熱し、摩耗粉から異臭、煙が発生し、最悪の場合、
火災に至る場合がある。(火災事例12件)
場
(3)対象車種及び台数
3車種、313,199台
10
10.具体的なリコール事例(その2)
~使用実態と評価基準の乖離が原因であるもの~
(1)リコール届出日
融雪剤の散布地域が広
がっているではないか
平成18年8月3日
(2)不具合の状況及びその原因
坂道発進補助装置の制御用電磁弁の防水構造が不適切なため、内部に融雪剤を含んだ水が侵入するも
のがある。そのため同装置の油圧回路が閉塞したままとなり、ブレーキを引きずり、最悪の場合、ブレー
キが過熱して発火するおそれがある。(火災事例6件)
(3)対象車種及び台数
4車種、115,119台
11
11.使用実態の変化(その1)
~車種別平均使用年数の推移~
最近10年間を見ると、1999年頃までは横ばい傾向であったが、2000年以
降、いずれの車種も平均使用年数が伸びている。
車種別の平均使用年数の推移
(年)
15.00
乗用車
14.00
14.5
14.4
14.0
貨物車
13.7
乗合車
13.00
13.0
12.00
12.6
12.5
12.4
12.2
12.6
12.5
11.8
11.2
11.00
10.7
10.4
10.5
10.00
99.66
9.4
99.55
9.3
96
9.6
9.3
96
9.6
9.3
9.8
96
9.6
95
9.5
9.4
10.9
10.6
11.0
10.8
10.0
9.00
94
95
96
97
98
99
2000
01
02
03
04
年
注:数値は各年3月末現在
出典:(財)自動車検査登録協力会「わが国の自動車保有動向」
12
12.使用実態の変化(その2)
~融雪剤の散布の状況~
北海道地域における融雪剤の散布状況を示す。
近年、北海道地域の融雪剤の散布量は一貫して増加しており、平成17年度に
近年、
海道 域 融雪剤 散布量
貫
増
おり、平成 年度
は、約6万5千トンに達した。他の寒冷地も同様の傾向と見られる。
北海道地域における融雪剤の散布量
70,000
60,000
50,000
40,000
散布量(t)
30 000
30,000
20,000
10 000
10,000
0
10
11
12
13
14
15
16
17
年度(平成)
出典:独立行政法人土木研究所寒地土木研究所
13
13.リコール対象台数増加のメカニズム(仮説)
使用実態の変化
設計起因による不具
合件数の増加
使用期間の長期化
EX:スイッチ操作回数の増大
使用環境の変化
使用実態と各種
評価基準の乖離
EX:融雪剤
(評価基準の甘さ)
耐久劣化型不
具合件数の増
具合件数
増
加
リコール対象台
数の増加
長期にわたる不具
合車両の販売
使用形態の多様化
EX:高速走行機会の増加
基準に対する設
計・評価の不足
初期型不具合
件数の増加
台数増加に影
響しているが、
それ程大きく
ない。
(開発評価の不備)
台数増加には
影響していない
製造起因の不具合件
数はほぼ横ばい
14
14.自動車の設計開発の状況(その1)
~車種の多様化とモデルチェンジサイクルの短縮~
自動車の開発期間は、一般的に、従来36ヶ月程度かかっていたが、最近では、12~
18ヶ月に大幅に短縮したと言われている。
(出典:ローランドベルガー「リコール問題とその再発防止に向けた自動車業界の取り組み」)
当研究所における審査型式等の申請状況も、過去5年間、増加傾向にあり、平成17
年は、平成13年と比較して約67%増加した。
同データからも車種の多様化やモデルチェンジサイクルの短縮により、開発期間が短
縮していることが伺える。
審査型式等 申請状況
審査型式等の申請状況
6,000
5,000
,
4,000
件
3,000
2,000
1,000
0
平成13年
平成14年
平成15年
平成16年
平成17年
15
15.自動車の設計開発の状況(その2)
~設計開発のマネジメントの不備とその改善策の事例~
設計開発
不備 そ 改善策 事例
平成12年度から14年度において、「線材・管材」などのリコールは届出全体の30~35%
を占めている。
その原因について調査したところ、一部のメーカーでは、従来、「線材・管材」は、設計段階
における優先順位が低く、結果として設計自由度がなくなるため、無理な配策経路をとり不
具合に繋がる場合があった。
このため、現在では、開発の初期段階から大物部品と同時にレイアウトするよう改善した。
出典:(株)日本総合研究所「リコールの原因調査・分析」
開発の時間軸
大物部品レイアウト
大物部品設計
従来体制
配索部品設計
全部品レイアウト
現在の体制
大物部品設計
配索部品設計
16
16.リコール対象台数増加のメカニズム(仮説)
使用実態の変化
設計起因による不具
合件数の増加
使用期間の長期化
EX:スイッチ操作回数の増大
使用環境の変化
使用実態と各種
評価基準の乖離
EX:融雪剤
(評価基準の甘さ)
耐久劣化型不
具合件数の増
具合件数
増
加
長期にわたる不具
合車両の販売
使用形態の多様化
EX:高速走行機会の増加
モデルチェンジ
サイクルの短
縮
開発期間
の短期化
車種の多様化
設計開発マネジメントの不備
リコール対象台
数の増加
基準に対する設
計・評価の不足
初期型不具合
件数の増加
台数増加に影
響しているが、
それ程大きく
ない。
(開発評価の不備)
台数増加には
影響していない
製造起因の不具合件
数はほぼ横ばい
17
17.部品共通化の進展事例(その2)
~部品共通化がリコール対象車種・台数を増加させたもの~
(1)リコール届出日
平成17年11月8日
( ) 具合 状況 びそ 原
(2)不具合の状況及びその原因
コネクティングロッドの組み付け時に使用している洗浄液の除去が不適切なため、コネクティングロッドの
ボルトと取付け穴の隙間に洗浄液が残留しボルトの表面が腐食することがある。そのため、そのまま使
用を続けると、ボルトに微小な亀裂が発生するものがあり、最悪の場合、ボルトが折損して走行不能に
なることがある。
(3)対象車種及び台数
25車種、246,592台
部品共通化の影響で、対象車種は、乗用車、
貨物車、乗合車の合計3用途、25車種に及
んだ。
18
18.リコール対象台数増加のメカニズム(仮説)
使用実態の変化
グローバル競争の中、
今後も進めていかな
ければならない
設計起因による不具
合件数の増加
使用期間の長期化
部
部品の共通化
通
EX:スイッチ操作回数の増大
使用環境の変化
使用実態と各種
評価基準の乖離
EX:融雪剤
(評価基準の甘さ)
耐久劣化型不
具合件数の増
具合件数
増
加
長期にわたる不具
合車両の販売
使用形態の多様化
EX:高速走行機会の増加
モデルチェンジ
サイクルの短
縮
開発期間
の短期化
車種の多様化
設計開発マネジメントの不備
リコール対象台
数の増加
基準に対する設
計・評価の不足
初期型不具合
件数の増加
台数増加に影
響しているが、
それ程大きく
ない。
(開発評価の不備)
台数増加には
影響していない
製造起因の不具合件
数はほぼ横ばい
19
19.まとめ
1.従来想定していなかった使用実態の変化により、実態と各種評価基準(耐久性、耐候性、耐
腐食性等)に乖離が生じ、それが、主要因となって耐久劣化型の不具合案件を増加させて
いる。
2.耐久劣化型の不具合案件の増加は、不具合車両を長期間販売することになるため必然的
にリコール対象台数の増加をもたらす。さらに、近年の部品共通化がこれに拍車をかけて
いる可能性がある。
3.したがって、近年のリコール対象台数の増大は、「使用実態と各種評価基準の乖離」の影響
が大きく、次に「基準に対する設計・評価の不足」の影響が大きい。このため、これらの要因
に力点を置いて対策を講じることがリコール対象台数の低減に効果的ではないか。
に力点を置いて対策を講じることがリコール対象台数の低減に効果的ではないか
<提案と今後の課題>
各メーカーにおいては、今一度、現在の市場の使用実態を精査し、各種評価基準の妥当性を
点検してみてはいかがか。
点検してみてはいかがか
また、「基準に対する設計・評価の不足」の問題については、今後、検討を深堀りしていく必要
があると考える。
20
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