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第3章 出入国管理行政に係る主要な取組

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第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
第 3 章 出入国管理行政に係る主要な取組
第
2
部
第1節●出入国管理業務全般
1 九州・沖縄サミットにおける対応等
平成12年7月に開催された九州・沖縄サミットは,同月21日から23日までの間首脳会合が沖
縄で開催されたほか,同月8日に福岡で蔵相会合が,同月12日及び13日に宮崎で外相会合がそ
れぞれ開催された。入国管理局においては,国際テロリスト等のテロ等の違法行為を未然に防
止し,また,要人等の出入国手続を円滑に行うため,十分な出入国審査体制を整えた上で厳格
かつ円滑な出入国審査を実施し,サミット開催に対応した。
九州・沖縄サミットのための出入国審査体制としては,サミット開催の数か月前から出入国
審査を強化し,サミット開催の1か月ほど前からは出入国審査特別強化期間を設け,一層厳格
な出入国審査体制を敷いた。特に,7月1日から26日までの間,参加国要人に対する円滑な審
査及びテロ行為等に及ぶおそれのある要注意外国人の入国防止を確実に実施するために,九
州・沖縄サミットの会場となる福岡入国管理局管内及び各国要人の入出国が見込まれた東京入
国管理局管内に他の地方入国管理官署から応援職員を派遣して対応した。
また,法務本省と地方入国管理局の間に緊急連絡体制を構築し,特異事案等に対して即時に
対応できる体制を整えた。
さらに,入国管理局においては,外務省をはじめとする関係省庁とサミットに参加する要人
の出入国手続等について緊密に連絡を取り合い,要人の円滑な出入国手続に備えるとともに,
警察等関係機関とは,不審外国人の入国に係る情報交換を行い,入手した情報をいわゆるブラ
ックリストに登載するなどして有効に活用し,確実にテロリスト等の上陸を阻止すべく,厳格
な出入国審査の徹底を図った。
このような対策により,九州・沖縄サミット開催期間中,首脳,外相及び蔵相会合に出席さ
れたサミット参加要人等は,羽田空港,成田空港,福岡空港,宮崎空港,那覇空港,嘉手納空
港及び関西空港と多くの空港を利用して入出国したが,テロ等の違法行為の未然防止及びサミ
ット参加要人等の円滑な出入国の確保が実現され,サミットという国家的な行事の成功に出入
国管理行政として貢献することができた。
2 米国同時多発テロ対策
(1)米国同時多発テロ事件の発生及び米国等の軍事行動
平成13年9月11日,4機の米国国内線民間航空機がほぼ同時にハイジャックされ,米国の
経済,軍事を象徴する世界貿易センタービル及び国防総省に相次いで突入する自爆テロが行
94
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
われた。
このような無差別テロに対して,米国及び英国を中心とする諸国は,同年10月7日,ウサ
マ・ビンラディンを首謀者とする国際テロ組織アルカイダ及び同組織を支援してきたアフガ
ニスタンのタリバン政権に対して武力行使を開始し,同年12月には北部同盟等がタリバン支
配地域を奪還し,同月,アフガニスタン各派の代表は今後の和平プロセスに関する合意を達
第
2
部
成し(ボン合意)
,同月22日には暫定政権が発足した。
そして,14年6月には,ボン合意に基づき緊急ロヤ・ジェルガが開催され,カルザイ暫定
政権議長を大統領とする移行政権が発足した。
(2)日本政府の対応
日本政府は,同時多発テロ事件発生後直ちに総理大臣官邸連絡室及び同対策室を設置し,
平成13年9月12日には,全閣僚が出席して安全保障会議が開催され,邦人の安否確認等,情
勢の的確な把握に全力を挙げること,国際テロに対しては,米国を始めとする関係国と力を
合わせて対応することなど6項目からなる「政府対処方針」(注1)を決定するとともに,
同日午前の記者会見で,小泉内閣総理大臣は,今回の同時多発テロは,極めて卑劣かつ許し
がたい暴挙であるとともに,米国のみならず民主主義社会に対する重大な挑戦であり,強い
憤りを覚える,日本は,米国を強く支持し,必要な援助と協力を惜しまない決意であり,こ
のようなことが二度と起きないよう,世界の関係国と共に断固たる決意で立ち向かう旨の発
言をした。
また,日本政府は,事態の進展を見極めつつ,事件発生後約一週間を経た9月19日の記者
会見で,小泉内閣総理大臣から,米国における同時多発テロへの対応に関する日本の措置に
ついての談話を発表し,テロリズムとの闘いを日本自らの安全確保の問題と認識して主体的
に取り組むなど3つの基本方針(注2)及び出入国管理等に関し,情報交換等の国際的な強
力を更に強化するなど7つの当面の措置(注3)を示した。
以後,日本の対応策は,この当面の措置に沿って実施された。
そして,10月7日,米国等がアフガニスタンにおいて武力行使を開始すると,その直後,
閣僚級の緊急テロ対策本部が設置され,小泉内閣総理大臣は談話を発表し,国民の安全を確
保するため,出入国管理の強化及び密航監視の徹底等国内における警戒体制を強化すること
など緊急対応措置7項目(注4)を示した。
(注1)政府対処方針
1.関係省庁が一体となり,政府全体として邦人の安否確認を含めて情勢の的確な把握と対応に万全を期する。
2.邦人関係者に対して,できる限りの対策を講じるとともに,国際緊急援助隊の米国への派遣等を検討し,
要請があれば速やかに対応できる体制を整える。
3.国内の米国関連施設等の警戒警備を強化するとともに,情勢に応じ随時必要な措置を採る。
4.国民に対する適切な情報提供及び注意喚起に努める。
5.国際テロに対しては,米国をはじめとする関係国と力を合わせて対応する。
6.世界及び日本の経済システムに混乱が生じないよう適切な措置を講ずる。
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(注2)基本方針
1.テロリズムとの戦いを我が国自らの安全確保の問題と認識して主体的に取り組む。
2.同盟国である米国を強く支持し,米国をはじめとする世界の国々と一致結束して対応する。
3.我が国の断固たる決意を内外に明示し得る具体的かつ効果的な措置をとり,これを迅速かつ総合的に展開
していく。
(注3)当面の措置
1.安保理決議1368号において「国際の平和及び安全に対する脅威」と認められた本件テロに関連して措置を
第
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取る米軍等に対して,医療,輸送・補給等の支援活動を実施する目的で,自衛隊を派遣するため所用の措
置を早急に講ずる。
2.我が国における米軍施設・区域及び我が国重要施設の警備を更に強化するため所要の措置を早急に講ずる。
3.情報収集のための自衛隊艦艇を速やかに派遣する。
4.出入国管理等に関し,情報交換等の国際的な協力を更に強化する。
5.周辺及び関係諸国に対して人道的・経済的その他の必要な支援を行う。その一環として,今回の非常事態
に際し,米国に協力するパキスタン及びインドに対して緊急の経済支援を行う。
6.避難民の発生に応じ,自衛隊による人道支援の可能性を含め,避難民支援を行う。
7.世界及び日本の経済システムに混乱が生じないよう,各国と協調し,状況の変化に対応し適切な措置を講ずる。
(注4)緊急対応措置
米国等による攻撃を踏まえ,我が国として可能な限りの協力を行うとともに,国民の安全を守るため,次
のような緊急措置を講ずる。
1.国民の安全を確保するため,次のとおり国内における警戒体制を強化する。
・出入国管理の強化及び密航監視の徹底
・テロ関連情報の収集・国際協力の強化
・ハイジャック等の防止のため,空港の保安体制・警備の強化等を徹底
・NBCテロ等への対処の強化
・国内重要施設及び米国等関係施設の警戒警備強化
・小型航空機等の飛行計画受理時のチェック及び米軍施設上空の飛行自粛等の徹底
・海運事業者による自主警備,不審物への警戒等の徹底
・通関検査体制の強化の徹底
2.在留邦人の安全及び必要な退避を確保する。
特に,パキスタン及びその周辺諸国については次のような措置を講ずる。
・在留邦人との連絡体制を維持する。
・当面の間,現地情勢の急変に備えて,所要の準備を進めるとともに,退避計画を直ちに発動できる状況を
維持。現地の状況が悪化した場合には,速やかな退避を実施。
・在留邦人の円滑な帰国手続の実施。
全在外公館において,在留邦人に対し,引き続き,情勢の推移を踏まえ,迅速かつ的確に注意喚起
(米国等による空爆作戦開始を受けての海外相談センター情報については発出済み)
・各国において危機管理・邦人援護体制の再確認を引き続き行う。
・危険度の高い地域への旅行の取り止め。
3.「テロ対策特別措置法」等の早期の成立を目指す。
4.難民支援及び関係諸国に対する人道的,経済的その他の必要な支援を行う準備を整え,必要に応じて機敏
にこれを実施する。
5.テロリストの資金源対策として,テロ資金資産凍結等に係る国連安保理決議に対応する措置の実施やマネ
ーロンダリングの監視体制の活用により,テロ資金の監視体制を強化する。
6.世界及び日本の経済システムに混乱が生じないよう,各国と協調し,次の措置を講ずる。
・金融市場の動向,原油,食料その他の物資の市場動向や供給状態を監視する。
・外国為替市場の安定,国内の流動性の確保を図る。
・原油については,関係諸国等と連携しつつ,必要に応じて安定供給のための適切な措置を実施する。
7.国民に対し,必要な情報を迅速かつ的確に提供する。
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第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
(3)入国管理局の対応
入国管理局においては,テロ発生直後,厳格な出入国審査を徹底するよう全国に指示し,
特にテロリストは偽変造旅券を行使する可能性が高いと考えられることから,偽変造文書の
発見に強力に取り組んだ。
具体的には,第1に,警察等関係機関との間で,不審な外国人等に係る情報を交換すると
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ともに,入手したこれらの情報をいわゆるブラックリストに登載するなどして有効に活用し,
確実にテロリスト等の上陸を阻止すべく,厳格な出入国審査の徹底を図った。また,法務本
省と出入国審査を担当する全国約90の官署との間にホットラインを結び,連絡の緊密化・迅
速化を図り,緊急事態に対しても,的確な対応がとれるような体制をとった。
入国管理局においては,国内関係機関との情報交換以外に,国際的なテロリストに関連す
る情報等テロリスト対策に必要な情報を収集するために,諸外国の出入国管理担当者が参集
する国際会議等に職員を派遣し,テロ対策に係る諸外国との広範な情報交換を積極的に実施
した。具体的には,平成13年10月24日から26日までの間,ソウルにおいて開催された「環太
平洋出入国管理情報担当者会議」に職員を派遣し,米国等参加国間のテロ対策情報等を含む
広範な情報交換を行った。また,同年11月26日から28日までの間,我が国において「東南ア
ジア諸国出入国管理セミナー」を開催し,東南アジア諸国を始めとする環太平洋諸国等の出
入国管理機関との情報交換を行った。
また,国内においてテロ行為が発生することを防止するためには,要注意人物の出入国情
報の確実な把握が必須であり,これらの情報に基づき関係機関からの照会に答えることも入
国管理局の重要な役割である。そのためには,外国人に係る出入国記録の迅速・確実な把握
が必要であるが,従前,外国人出入国記録の取得にはおおむね3週間を要しており,テロ対
策として国内外から外国人出入国記録情報の迅速な取得の早期実現を唱える声が更に高まっ
たことを踏まえ,後記第6節のとおり,従来のシステムの本格的な再構築が完成するまでの
措置として,テロ発生後の14年1月から外国人出入国記録の早期取得システムを導入し,関
係機関等からの照会に対し迅速に回答できる体制を構築した。
第2に,偽変造文書の発見に関しては,13年度に主要空港に偽変造文書鑑識専従職員28名
を増配置し,かつ,全国の空海港に最新鋭の偽変造文書鑑識機器44台を導入するなど偽変造
文書鑑識体制の強化(後記4(3)
)を図り,偽変造旅券等を行使して不法入国を試みようと
するテロリスト等の入国阻止を強力に押し進めた。
そして,13年10月7日に米英軍によるアフガニスタンにおける武力行使が開始されると,
その直後,全国の地方入国管理官署に対し,より一層の出入国審査の強化及びアフガニスタ
ンの近辺から緊急に本邦に帰国することとなった邦人に対する円滑な帰国手続の実施を指示
するとともに,出入国審査体制の強化のため成田空港等主要空港に職員を応援派遣した。
15年3月31日現在,ウサマ・ビンラディン等の消息は依然として明らかでなく,また,こ
の間においても,世界各地でテロが発生しており,前記の出入国管理体制の強化は,米国同
時多発テロの発生から1年半以上経過した現在も継続しており,テロリストの我が国への入
97
国を阻止するために全組織を挙げて取り組んでいる(図32)。
図32
法務省入国管理局におけるテロ対策のための取組について(出入国管理の強化)
テロリスト関係情報
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部
情報収集
情報収集
情報交換
入国管理局
国内外関係機関
連携強化
不
法
入
国
対
策
照
会
・
回
答
情報管理機能の強化
最新鋭の偽変造文書鑑識機器の配備
外国人出入国記録の即日取得の実現
出入国管理の強化
水際対策
テロリストの入国阻止
3 2002年ワールドカップ・サッカー大会における対応
(1)概要
平成14年5月31日から6月30日までの31日間にわたり日本及び韓国において2002年ワールド
カップ・サッカー大会が開催された。入国管理局は,大会の安全な運営に資するため,
(2)
以降で述べる措置を講じ,円滑かつ適正な出入国審査の実施及びフーリガンの水際における
入国阻止を最重要課題として全組織を挙げて取り組んだ。
具体的に採った措置は次のとおりである。
(2)入管法の改正
入管法第5条において,外国人が上陸できない事由(上陸拒否事由)が規定されているが,
98
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
前記第1章第1節2で述べたとおり,近年,ワールドカップ・サッカー大会等の国際的なサ
ッカー競技会においてフーリガンと呼ばれる一部の熱狂的なサッカーファンが暴徒化する事
案や主要先進国首脳会議(サミット)等の国際会議において大規模な暴動が発生する事案等
が相次いでいることを踏まえ,我が国においてこうした国際的な競技会又は会議が開催され
る際に,これに乗じて暴行事件等を起こすおそれのある外国人の上陸を阻止し,また,入国
第
2
部
後,このような行為を行った外国人を迅速に国外に退去させるため,平成13年11月30日,い
わゆるフーリガン条項(入管法第5条第1項第5号の2,第24条4号の3)の規定を新たに
設けた改正入管法が公布され,14年3月1日から施行された。
(3)フーリガン対策要員の英国派遣
平成14年3月,英国内務副大臣が来日された際に,法務事務次官に対しフーリガン等の英
国から我が国への出国を事前に阻止するための情報交換等を目的として,我が国の入国管理
局職員を英国国家犯罪情報庁に派遣してもらいたい旨の要請がなされたことを受け,入国管
理局においては,同年5月13日から同月31日までの間,入国管理局職員2名を英国に派遣し,
フーリガン等の我が国への出国を事前に阻止することに貢献した。
(4)水際におけるフーリガン対策等
いわゆるフーリガンによる暴動事案を引き起こさないためには,フーリガンの入国を水際
で阻止することが最も効果的であるため,入国管理局においては,警察庁と連携を図り,厳
格な上陸審査を実施した結果,平成14年5月26日から決勝戦終了までの間にフーリガン等大
会の安全対策上問題となる者65名の上陸を拒否した。
(5)円滑な出入国審査の実施
大会期間中,我が国に入国した外国人は49万6,491人(前年同時期比11.1%増),日本人出
国者は127万8,056人(同15.0%減)であった。
大会期間中の外国人入国者数を見ると,英国等我が国において試合を実施した国の入国者
総数が前年と比べ99.8%増加しており,多くの出場国の国民が観戦のため我が国を訪れたも
のと推測される。
入国管理局においては,成田空港及び関西空港等の主要空港へ入国審査官延べ約1,000人
を応援派遣し,大会関係者及び観客等に対する円滑かつ迅速な審査を行った。
(6)日韓プレクリアランスの実施
本大会は,日韓両国で共同開催されるものであったことから,日韓間の人の往来が円滑か
つ適正に行われるようにするため,平成14年5月15日から6月30日までの47日間,両国が相
互に出入国管理担当職員を派遣し,希望する外国人を対象に入国許可の可否の事前確認を相
手国において行う「プレクリアランス」(pre-clearance)を,成田空港及び韓国仁川国際空
99
港において相互に実施した。
我が国からは,14人の入国審査官を韓国仁川国際空港に派遣し,約2万9,000人の韓国人
等に対してプレクリアランスを実施した。そのうち韓国人は約2万7,000人で,プレクリア
ランス全体の93%を占めた。
第
2
部
(7)期間限定査証免除措置(外務省における措置)
日本から韓国へ観光目的で短期間渡航する場合には,査証取得が免除されているが,韓国
から日本へ観光目的で渡航する際には,外交又は公用旅券所持者を除き,査証を取得する必
要がある。本大会においては,大会の日韓共同開催の歴史的意義にかんがみ,我が国は,前
記(6)等の措置により厳格な出入国審査を実施することを確保した上で,平成14年5月15
日から6月30日までの47日間に30日以内の短期滞在を目的として我が国に入国しようとする
すべての韓国人を対象として,滞在期間30日間の期間限定査証免除措置を試行的に実施した。
この措置により日本に入国した韓国人は約5万5,000人であり,期間中に「短期滞在」で
入国した韓国人の約40%を占めた。
(8)大会関係者に対する便宜措置
2002年ワールドカップ・サッカー大会開催期間中には,日韓間において,選手及び報道関
係者等大会関係者の大規模な移動が予想されたため,大会関係者については,有効期間1年
間,滞在期間90日の数次査証が発給されるとともに,大会組織委員会から入国管理局に事前
に大会関係者名簿の送付を受け,入管法上の上陸拒否事由に該当するか否か等のチェックを
行い,問題がない場合には大会組織委員会に連絡し,その事前審査により大会参加資格認定
証(ADカード)の発給を受けた大会関係者については,大会開催期間中,日韓いずれかの
国へ入国した後は日韓間の移動において,入国審査の際に査証を免除する取扱いを行い,大
会関係者に対する円滑な出入国審査を行った。
4 偽変造文書対策の強化
(1)偽変造旅券等の行使の状況
偽変造された旅券等の文書行使による不法入国事案は,依然として後を絶たず,また,近
年,行使される偽変造文書が一層巧妙化する傾向にある。こうした不法入国者等は,我が国
における不法就労や外国人犯罪の社会問題に直接関係することから,これら事案を確実に水
際において阻止することが,出入国管理の重要な課題となっている。
また,我が国に不法に滞在している外国人が,あたかも適法に在留するかのように装うた
めの手段として偽変造上陸許可証印を行使する事案も相当数発見されており,しかも,この
ような証印は,最新の技術を使用し,より精巧に作成されている実状にあり,その対策を強
化していく必要がある。
100
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
(2)偽変造文書対策室及び文書鑑識係の設置
入国管理局においては,出入国港における偽変造文書対策を一層強化するため,平成11年
4月東京入国管理局成田空港支局に,続いて翌12年4月大阪入国管理局関西空港支局にそれ
ぞれ偽変造文書対策室を設置した。
同対策室では,出入国審査において行使された旅券等の文書鑑識のほか,入国審査官に対す
第
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部
る文書鑑識研修の実施及び発見された偽変造文書に関する分析・資料の作成等を行っている。
また,昨今の外国人犯罪等の増加に伴い,警察等関係行政機関からの鑑識依頼にとどまら
ず,関係機関等の職員に対する研修会等への派遣要請もなされるなど,その重要性が一段と
増している。
さらに,15年4月,偽変造文書対策室等において培われてきた鑑識技術等のノウハウの蓄
積,国内外の偽変造文書に関する情報の収集,バイオメトリクス(注)等新たな認証技術に
関する研究等を目的として法務省入国管理局総務課出入国情報管理室に文書鑑識係が新設さ
れた。
(注)バイオメトリクス(biometrix)
人間の肉体の特徴を読み取り,登録している記録と照合するシステムで,顔画像,指紋,虹彩,声紋,網膜の
血管パターン等の識別がある。
(3)偽変造文書鑑識専従要員の増員及び偽変造文書鑑識機器の導入
平成13年5月1日に発生した偽造ドミニカ共和国旅券を使用した外国人4人による不法入
国事件を踏まえ,小泉内閣総理大臣から入国管理局職員の増強や機器の整備等,入管体制の
強化を検討するよう指示がなされ,これを受け,同年7月1日に偽変造文書鑑識業務に専従
する入国審査官28人を増強し,また,同年度中に全国の空海港に最新鋭の偽変造文書鑑識機
器44台を導入した。
導入された最新鋭の偽変造文書鑑識機器は,これまでの機器に比べ,拡大倍率が10倍以上
であり,また,偽変造された文書には特殊な反応を示す照明装置が装備される等,最新鋭の
装備を備えたものである。これら各種装置が配備されることにより,飛躍的に精度の高い鑑
識が可能となり,その結果,より一層厳格な出入国審査が実施されることとなった。
また,偽変造文書鑑識体制を強化するためには,職員の鑑識能力の向上が肝要であるため,
入国管理局においては,13年度以降職員全体を対象とした鑑識技術に関する一般的な研修及
び鑑識担当者を対象にした高度な鑑識技術に関する研修を実施し,職員の鑑識能力の向上を
図っている。
さらに,15年度は,審査ブース等において入国審査官が旅券等の文書鑑識を行うための機
器を全国の出入国港に配備することとしている。
(4)上陸許可証印の様式の改正
我が国に不法に滞在している外国人が,あたかも適法に在留するかのように装い出国する
ための手段として偽変造上陸許可証印を行使する事案に対する対応策として,上陸許可証印
101
の様式を改めることとし,平成12年2月2日,入管法施行規則第7条に定める別記第7号様
式を改正し,同年4月10日から施行された。
改正された上陸許可証印には,入国審査官の識別番号が記入されるなど偽変造対策措置が
採られているが,その他の出国証印等についても,証印外部に入国審査官の識別番号が記入
されるなど偽変造対策措置が採られている。
第
2
部
見 本
見 本
見 本
出国証印
帰国証印
上陸許可証印
(5)対策の効果
前記の対策をとることにより,上陸審査・上陸審判及び出国手続における偽変造文書発見
図33
偽変造文書発見件数の推移
(件)
(件)
3,000
3,000
,
,
,
2,500
,
,
,
,
,
2,000
2,500
,
2,000
,
1,500
1,500
1,000
1,000
500
500
0
0
平成10
102
11
12
13
14 (年)
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
表56
偽変造文書発見件数の推移
年
上 陸
出 国
合 計
(件)
平成10
11
13
14
旅 券
1,251
1,081
867
1,331
1,402
その他
1,189
1,050
1,011
1,226
985
合 計
2,440
2,131
1,878
2,557
2,387
旅 券
152
125
88
114
139
その他
81
109
117
64
68
偽変造文書発見件数
12
合 計
233
234
205
178
207
旅 券
1,403
1,206
955
1,445
1,541
その他
1,270
1,159
1,128
1,290
1,053
合 計
2,673
2,365
2,083
2,735
2,594
第
2
部
件数は,平成10年(2,673件)から12年(2,083件)までは減少を続けていたが,13年は2,735件
と前年と比べ652件(31.3%)増加しており,特に,偽変造旅券については,13年は1,445件で
あり,前年と比べ490件(51.3%)増と,大幅な伸びを示した。
また,14年の偽変造文書発見件数は2,594件と高い水準を維持しており,特に,偽変造旅券
の発見件数は,偽変造文書鑑識機器の活用により,前年よりもさらに96件(6.6%)増加した
が,全体では,前年と比べ141件(5%)減とやや減少している。
これは,外務省が新型のMRV(注)の発給を開始し,その効果により偽変造査証が行使さ
れることが少なくなり,偽変造査証の発見件数が大幅に減少したためであると考えられる
(図33,表56)
。
(注)MRV(Machine Readable Visa)とは,査証上の名前,査証の種類等を機械読み取りすることのできる査証の
ことである。
第2節●入国・在留業務
1 出入国審査手続の簡素化
(1)APEC・ビジネス・トラベル・カードの導入
ア APEC・ビジネス・トラベル・カード
APEC(アジア太平洋経済協力)・ビジネス・トラベル・カード(以下「ABTC」と
いう。)とは,APEC域内のビジネス関係者の移動に関し,その利便を図るとともに,
制度参加国(地域)が相互に査証に関わる事務負担を減らす試みである。APEC域内を
頻繁に往来するビジネス関係者に対し,各国(地域)政府が特別なカードを発給し,あ
らかじめ参加国(地域)の政府に有効性の了解を得ておくことにより,その有効性を認
めた参加国(地域)の査証が免除されるか,又は査証手続が免除され,旅券及びABTC
のみで入国審査を受けることが可能となり,入国が許可された場合は少なくとも2か月,
最長3か月以内の入国滞在ができる取り決めとなっている。
103
第
2
部
APEC・ビジネス・トラベル・カード
ABTCの発給条件は次のとおりである。
① 申請者の属する各国政府(各地域行政府)が交付する。
② 犯罪歴を有さず,商用目的でAPEC域内を頻繁に移動する必要のある誠実なビジ
ネスマンが対象となる。
(我が国においては,外務省が同カードを発行することとなっており,その発行基
準は外務省令・告示で定められている。)
平成8年以来行われてきたAPECビジネス諮問委員会によるビジネス関係者の移動を
促進するための提言を受け,同年にフィリピン(マニラ)における首脳会議で,フィリ
ピン,オーストラリア,韓国の3か国がABTCの導入に同意した。その後,9年5月に
前記3か国により試行が開始され,現在14か国(地域)が参加している(注)
。
(注)平成15年4月1日現在,既に運用を開始しているのは,オーストラリア,チリ,中国香港,韓国,マレ
ーシア,ニュージーランド,フィリピン,中国台湾,日本の9か国(地域)。近い将来運用を予定している
のは,ブルネイ,中国,インドネシア,ペルー,タイの5か国である。
イ 我が国における運用状況
我が国は,平成14年10月,メキシコ(ロス・カボス)で開催されたAPEC首脳会議で,
小泉内閣総理大臣,茂木外務副大臣が,ABTCへの参加意向を表明し,15年4月1日か
らその運用を開始することとした。
我が国において,ABTC所持者が短期商用目的で上陸申請した場合,入国審査官は,
査証を求めることなく,審査の結果,上陸のための条件に適合していると判断したとき
は,「短期滞在(90日)
」の上陸許可を付与することとしている。
本運用に伴い,東京入国管理局成田空港支局及び大阪入国管理局関西空港支局におい
ては専用レーンを設置し,ABTC所持者に対する円滑な上陸審査手続を行うこととして
いる。また,他の空港においても可能な限り専用レーンを設置するよう努めている。
104
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
第
2
部
ABTC専用レーン
(2)日本人EDカードの廃止
日本人が出帰国する場合,入国審査官から出帰国の確認を受けなければならず,従来は,
出帰国の手続に際して旅券と出帰国記録カード(EDカード)を入国審査官に提出すること
になっており,入国管理局においては提出されたEDカードを基に出帰国の情報を取得して
いた。そして,かねてより,日本人海外渡航者が年々増加している実情を考慮し,日本人海
外渡航者の出帰国確認の合理化,効率化について様々な施策を推進してきたところ,外務省
が発行する日本国旅券が,海外で発給されるものの一部を除いて,すべて機械で読み取るこ
とができる仕様になったことから,出帰国する日本人の便宜を図るための規制緩和策として,
日本人海外渡航者の出帰国確認に必要な情報を旅券から機械で直接取得することとし,平成
13年7月1日以降日本人EDカードの提出を廃止した。
これまで,出帰国確認を受ける際にEDカードを記載していなかったり,記入事項に記載
漏れがあったりして,手続が停滞する原因にもなっていたが,同日以降,日本人が出帰国の
確認を受ける際にはEDカードの提出が不要となり,手続が円滑に行われることとなった。
(3)乗員上陸許可支援システムの導入
現行の入管法令においては,船舶の乗員が我が国に上陸を希望する場合には,その乗員が
乗っている船舶の長又はその船舶を運航する運送業者が,乗員上陸許可申請書を入国審査官
に提出して申請を行わなければならないこととなっており,また,船舶が海港に入出港する
際には,入港通報,入港届,出港届,乗客名簿及び乗員名簿を書面で提出しなければならな
いことになっている(入管法第56条,57条,同法施行規則第51条,52条)が,平成15年7月
105
に運用を開始した乗員上陸許可支援システムにおいては,運送業者からの乗員上陸許可申請
等を電子的に受け付けるとともに,要注意外国人等のチェック,乗員上陸許可書等の作成が
システム化されることとなった。また,このシステムにより,これまで電算記録を取得でき
ていなかった乗員の出入国についても電算記録を作成し,審査業務の適正化及び利便性の向
上を図ることを目指している。
第
2
部
さらに,本システムは,政府が推進する「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」
(10年
11月9日高度情報通新社会推進本部決定)等の施策により,各種申請・届出の電子化による
ワンストップサービス(注1)の実施を念頭に,関連するシステムとの積極的な連携が求め
られ,
「輸出入・港湾手続関係府省連絡会議」
(13年9月設置)及び「第9回IT戦略本部(高
度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)」(14年1月31日)により,各省に提出している
重複した港湾関係届出書類についてのシングルウィンドウ化(注2)が決定され,輸出入・
港湾関連手続及び乗員上陸許可申請手続において,Sea-NACCS(財務省)又は港湾EDI
システム(国土交通省・海上保安庁・港湾管理者)を相互に接続・連携することにより,利
用者がいずれかのシステムに対して1回の入力・送信を行うことで,複数の行政機関に対す
る手続を可能にした(シングルウィンドウ化)もので,これらシステムに入力された「入港
通報」・「入港届」・「出港届」・「乗員名簿」・「乗客名簿」等を利用して乗員上陸許可支援シ
ステムに対しても申請できるようにすることでシングルウィンドウ化を実現するものである
(図34)
。
(注1)ワンストップサービスとは,複数に分かれているサービスをひとつに関連づけ,一度の手続又は一カ所で
すべてのサービスを受けられるようにすること。
(注2)シングルウィンドウ化とは,一回の入力・送信で関係府省に対する必要な輸出入・港湾関連手続を一括し
て行うことを可能とすること。
2 国家機関が発行しない旅券等の取扱い
(1)パレスチナ旅券の取扱い
パレスチナ暫定自治政府(以下,「自治政府」という。)が発行する旅券については,入管
法上の旅券ではないため,パレスチナ人の我が国への入国については,日本国領事官等が渡
航証明書を発行する必要があるなど,出入国関係事務が複雑となっていたところ,自治政府
との友好・協力関係の強化に伴う交流の活発化により,将来的には,自治政府の支配する地
域からの入国者の増加が予想され,この場合には,更なる事務負担となる可能性があった。
また,かねてから自治政府から我が国政府に対して,自治政府の発行する旅券について入管
法上の旅券としての取扱いを求める要望がなされていた。
そこで,欧米諸国の取扱いを踏まえつつ,パレスチナ人に係る出入国関係事務の簡素・合
理化を図るため,自治政府発行の旅券を入管法上の旅券として取り扱うことができるよう,
入管法第2条第5号ロの地域を定める政令を改正し(平成14年10月23日公布・施行),同政
令で定める地域に自治政府が支配する地域(「ジョルダン川西岸地区及びガザ地区」)を追加
した。
106
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
図34 乗員上陸許可支援システム
交付
許可書等交付
回収
回収
乗員
第
2
部
船舶等の長
申請者
(船舶等の運送業者)
∼シングルウィンドウサービス∼
乗員システム対象機能
・入港通報、乗員、乗客名簿
・入港届、乗員、乗客名簿
・出港届、乗員、乗客名簿
・ステータス参照
・乗員上陸許可申請
・特例上陸許可書再発給願書
・数次乗員上陸許可申請
Sea-NACCS又は港湾EDI
乗員システム
http://www.cps.immi-moj.go.jp
インターネット
Sea-NACCSサーバ
又は
港湾EDIサーバ
乗員システム
ヘルプデスク
乗員システムサーバ
地方局等
(地方局、支局、出張所)63カ所
許可書等交付
・入港通報確認
・入港届確認
・出港届確認
・乗員上陸申請審査
・数次乗員上陸申請審査
・特例上陸許可書再発給審査
・許可書印刷
回収
乗員上陸許可支援システム
107
(2)マカオの中国返還に対する対応
マカオの中国返還については,昭和62年4月13日,中国・ポルトガル共同宣言等が調印さ
れ,平成11年12月20日,マカオが中国に返還されることが宣言された。同宣言を踏まえて,
中国は「中国マカオ特別行政区基本法」を制定し,マカオを「特別行政区(SAR:Special
Administrative Region)」とし,「一国二制度」の方針に基づき,外交と防衛を除き自治権を
第
2
部
認め,出入国管理及び旅券の発行等の権限を付与した。
これを受け,返還日以降,マカオ特別行政区政府発行のSAR旅券(Macau Special
Administrative Region Passport)については,入管法上有効な旅券として取り扱うこととし
た。
なお,SAR旅券は,(1)と異なり,我が国政府が承認している中国政府の一機関が発
行した旅券であり,政令の改正を要するまでもなく,入管法上の旅券である。
3 観光促進への対応
(1)沖縄振興特別対策の実施
ア 沖縄県からの要望
「沖縄問題についての内閣総理大臣談話(平成8年9月10日,閣議決定)」に基づき,
米軍の施設・区域が沖縄県に集中し,住民の生活環境や地域振興に大きな影響を及ぼし
ている現状を踏まえ,地域経済としての自立,雇用の確保により,県民生活の向上に資
するとともに,沖縄県が我が国経済社会の発展に寄与する地域として整備されるよう,
沖縄県に関連する基本施策に関し協議することを目的として,8年9月17日,沖縄対策
及び北方対策担当大臣を長とし,法務大臣を含む閣僚,沖縄県知事を構成メンバーとす
る沖縄政策協議会が設置された。
沖縄振興策の一環としての外国人受入れに係る沖縄県からの要望として,当初,韓国,
台湾及び香港からの外国人観光客の査証を沖縄県内に限り免除する措置が出されていた
が,9年11月に沖縄県が政府に提出した要望では,査証免除制度に代わり「入国手続の
簡素・合理化」が盛り込まれ,その具体的措置として,「査証手続の簡素・合理化」(外
務省関係分)に加え,入国管理局に関しては「特例上陸の許可条項の拡大」が盛り込ま
れた。
その後,11年4月に沖縄県から出された「『沖縄経済振興21世紀プラン』に関する基
本的な考え方」の中で「査証手続等の簡素化の推進」が要望され,同年6月,沖縄政策
協議会において,「沖縄経済振興21世紀プラン」(注)の中間報告が決定され,入国管理
局関係では,「寄港地上陸の許可に係る行動範囲の拡大」が盛り込まれた。
イ 要望に対する対応
入管法第14条に規定する寄港地上陸許可を受けた者の行動範囲は「当該出入国港の近
傍」とされ,同法施行規則第13条に規定する行動範囲は,入国審査官が特別の事情があ
108
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
ると認めて別に定めた場合を除き「出入国港の所在する市町村の区域内」とされ,沖縄
県については,那覇空港等で同許可を受けた者の行動範囲は沖縄本島,那覇港等で同許
可を受けた者の行動範囲は「出入国港の所在する市町村の区域内」とされていたところ,
前記アの要望を受けて,平成11年9月,空港及び海港とも,行動範囲を沖縄県内全域に
拡大した。
第
2
部
この措置により,9年及び10年は,沖縄県内空海港における寄港地上陸許可数は各10
人であったのに対して,措置後は,11年54人,12年280人,13年32人,14年629人と,年
によって格差はあるものの,措置前よりも急激な増加を示しており,本措置が沖縄県の
観光・リゾート産業の新たな展開にとって効果的なものであることを示している。
(注)沖縄経済振興21世紀プラン
沖縄政策協議会は,12年8月,沖縄経済の現状と課題を踏まえつつ,自立型経済に向けての政策の基本
的考え方及び政策の具体化の方向を,可能な限り示そうとする「沖縄経済振興21世紀プラン」を取りまと
めた。
(2)中国人訪日団体観光旅行の実施
従来,中国政府は,中国国民の観光目的での日本向け出国を原則として認めていなかった
が,平成11年に団体観光の海外渡航先として日本を指定したことから,中国政府の要望を受
け,日中両国の相互理解の増進と両国の友好関係の促進に重要な意義を有するとの認識の下
に,両国国民の健全な交流の発展に寄与することを目的として,12年6月,両国政府の間で
口上書の交換が行われ,同年9月から中国人訪日団体観光旅行が実施されることになった。
当該口上書においては,査証の発給対象を北京市,上海市,広東省の2直轄市及び1省に
在住する中国国民とすること,取扱いのできる旅行会社を日中双方で指定すること,査証は
発給から3か月有効で15日間の滞在を認める一次有効の短期滞在査証が発給されること,査
証発給の申請は前記の指定旅行会社が取り扱い,日中双方の旅行会社から添乗員が同行し,
5名以上概ね40名以下の団体旅行であること,日中両政府間においては,訪日団体観光旅行
が厳正な管理の下に円滑に実施されていくよう緊密に協力し,原則として半年に1回会合し,
実施状況及び全体的枠組みにつき検討及び見直しを行うことが取り決められた。
当該団体観光旅行での本邦への入国者は,13年が1万6,758人,14年が3万3,485人(国土
交通省集計)と年々増加傾向にあり,日中間の人的交流に貢献している。
4 我が国社会が必要とする外国人労働者の円滑な受入れ
(1)
「投資・経営」の基準に係るガイドラインの策定
OTO(市場開放問題苦情処理体制)推進会議,日韓投資協定の交渉等の場において,
「投資・経営」の在留資格に係る上陸許可基準の運用で「2人以上の常勤職員の雇用」を要
件としていることは,事業開始時の人件費を増大させて事業運営を困難にさせており,日本
に対する投資の障壁となっている,また,従業員の雇用は経営者の判断に委ねられるべきも
のとして同基準の緩和が求められていた。
109
そもそも「投資・経営」の在留資格に関する基準省令は,外国人が我が国で安定的・継続
的に投資・経営を行うに当たり,現実的に最低限必要な投資事業の規模の要件として,「2
人以上の従業員の雇用」を「規模」に関する一つのメルクマールとして例示したものである。
したがって,基準省令上「2人以上の従業員の雇用」がなくとも,なお「その程度の規模の
投資」であれば上陸が許可される内容の規定となっているものである。
第
2
部
そこで,入国管理局では「投資・経営」の同基準に関する取扱いのガイドラインを平成12
年12月に作成して,改めて同趣旨の周知・徹底を図ることとした。
具体的には,新規事業を開始しようとする場合は,投資されている額が500万円以上あり,
かつ,500万円以上の投資額が継続して維持されることが確認される場合には基準省令にい
う「当該事業がその経営又は管理に従事する者以外に2人以上の本邦に居住する者で常勤の
職員が従事して営まれる規模のものであること。」に適合するものとして取扱うこととして,
外国人が日本においてより円滑に投資・経営が行えるよう措置を行った。
(2)IT技術者の受入れの拡大
近年IT関連技術は目覚ましい発展を遂げており,同時にこれらIT関連技術者に対する
ニーズも非常な高まりを見せている。
平成13年3月,IT戦略本部(「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」)は「e−
JAPAN重点計画」を作成し,「IT技術者などの専門的,技術的分野の業務に従事する外
国人を一層積極的に受け入れていくことにより,我が国における高度な技術や知識を有する
人材の確保を図るため,IT技術者に関する上陸許可基準等外国人受入れ関連制度の見直し
について検討を行い所要の措置を講ずる。」こととした。
また,同月に閣議決定された「規制改革推進3か年計画」においても「IT技術者などの
専門的・技術的分野の業務に従事する外国人を一層積極的に受け入れ,我が国における高度
な技術や知識を有する人材の確保を図るため,IT技術者に関する上陸許可基準等外国人受
入れ関連制度の見直しについて検討を行い,所要の措置を講ずる。」こととした。
このような状況の中,法務省でも「第2次出入国管理基本計画」(12年3月策定)におい
て,「国内外の新たな社会の動きの中で社会のニーズに応えるよう外国人の円滑な受入れを
図っていくこととする。」,また,「情報通信分野の発展は,その他の産業分野の発展にも大
きく寄与するものであり,積極的な人材の確保や交流に出入国管理行政としても貢献してい
く。」こととしており,これらの方針のもと,IT関連技術者の受入れ拡大のニーズに応え
るものとして13年12月に在留資格「技術」に係る基準省令(上陸許可基準)を一部改正し,
IT技術者受入れに関する緩和措置をとることとした。
具体的には,日本のIT関連資格と相互認証された外国の資格・試験のうち,法務大臣が
告示で定めた試験に合格し,又は資格を有している外国人については,「技術」の在留資格
に関する上陸許可基準である「大卒若しくは大卒相当以上の学歴又は10年以上の実務経験」
に関わりなく入国できることとした。
110
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
相互認証された外国の資格・試験で,法務大臣が告示で定めているのは,シンガポール
(13年12月28日付け),韓国(14年7月19日付け),中国(同日付け),フィリピン(15年5月
30日付け)及びベトナム(同日付け)において行われている資格・試験である。
(3)国際業務に係る報酬要件の見直し
第
2
部
「人文知識・国際業務」又は「企業内転勤」の在留資格に該当する活動を行おうとする外
国人のうち,外国人に特有の感性を活かしたいわゆる国際業務に従事する外国人については,
その基準の制定当初は,同様の業務を行う日本人が多くないことを想定していたという経緯
もあり,基準省令において,「月額25万円以上の報酬を受けること。」という報酬要件が課さ
れていたが,今日これら業務に従事する日本人も多くなり,また,企業等において業務の多
様性に応じた処遇を行うことを可能とするため,その要件を「日本人が従事する場合に受け
る報酬と同等額以上」とし,平成11年8月10日,基準省令を改正した(11年10月1日施行)
。
この措置により,一層円滑かつ適正な外国人の受入れが図られることとなった。
(4)
「研究」の経歴要件の見直し
従来,「研究」の在留資格に係る基準省令においては,「研究について3年以上の経験」と
いう要件が課されていたが,研究者の積極的な受入れを図るため,「3年以上の経験」を求
めている要件に関し,修士の学位を有する者については,他に研究の経験がない場合であっ
ても,経歴に関する要件を満たすこととし,平成11年8月10日,基準省令を改正した(平成
11年10月1日施行)
。
(5)構造改革特別区域法等による入管法等の特例
平成14年12月11日,第155回国会において構造改革特別区域法(平成14年法律第189号。以
下「特区法」という。)が成立し,同月18日に公布,施行された(特例措置等に係る規定を
除く)
。同法における入管法の特例措置の概要等は次のとおりである(図35)。
ア 特区法の目的及び特例措置の背景
特区法は,「構造改革特別区域の設定を通じ,経済社会の構造改革を推進するととも
に地域の活性化を図り,もって国民生活の向上及び国民経済の発展に寄与すること」を
目的とするもので,同法の施行により,自治体がその設定する構造改革特別区域(以下
「特区」という。)において内閣総理大臣の認定を受けた構造改革特別区域計画に記載さ
れた事業を実施しようとする場合には,規制(法律によるもののほか,政令,省令,通
達によるものも含む。
)の特例措置が適用されることとなる。
近年,産学連携等の強化等により,質の高い研究開発の推進及び当該研究開発の成果
を実用化し,新規事業を創出する動きがみられ,これによる産業の活性化及び経済の活
性化を図る地域が増加している。このような地域においては,外国人研究者によりベン
111
図35
第
2
部
構造改革特別区域における入管法の特例措置に係る流れ図
特区計画認定申請
構造改革特別区域
(地方公共団体)
(外国人研究者受入れ促進事業)
↓
最長の在留期間の延長等の特例措置
在留資格認定証明書交付申請
(受入れ研究機関等)
地域特性の認定
産学連携による,研究の効率的推進,
産業発展の見込める地域
特定研究活動
在留資格認定証明書交付
(地方入国管理局等)
研究機関等の特定
(自然科学等の分野に属する技術
又は知識を要する情報処理に
係る業務に従事する活動)
査証申請
(在外公館)
特定研究事業活動
(研究活動と併せて行う経営活動)
上陸申請
法務大臣の同意
(空港等)
特定家族滞在活動
(研究者の配偶者等として扶養を
受ける活動)
内閣総理大臣の認定
上陸許可
(在留資格「特定活動」)
チャー企業が起業された例や海外の優秀な研究者に対する需要があるほか,来日した外
国人研究者の研究活動の成果により新規事業が創出され,地域及び国の経済活性化の起
爆剤となることへの期待が高まっているところ,こうした状況を背景に,外国人研究者
に係る最長の在留期間の伸長及び事業活動を併せて行おうとする外国人研究者に係る活
動範囲の拡大等が求められていた。
そこで,外国人研究者の受入れの促進及び当該研究者による研究成果の円滑な事業化
による研究の効率的推進,産業の発展が見込まれる特区において実施される「外国人研
究者受入れ促進事業」に基づいて受け入れられる外国人研究者等について,在留期間の
伸長等の特例措置を講ずることとしたものである。
イ 特例措置の概要
(ア)研究活動の特例
特区内に所在する研究施設等において研究活動と当該研究の成果を利用して行う
事業を経営する活動を行おうとする外国人研究者について「特定活動」の在留資格
を決定し,当該研究者が在留資格変更許可又は資格外活動許可を受けることなく,
研究活動と併せて経営活動を行うことを可能とした。
112
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
(イ)在留期間の特例等
(ア)の特例措置の対象となる外国人研究者及び特区内に所在する研究の中核とな
る大学等の施設において研究活動のみを行う外国人研究者(それぞれ当該研究者の
家族を含む。)について,これまで在留期間の更新を受けずに在留できる最長の期間
は3年であったところ,これを特例措置として5年に伸長した。
第
2
部
ウ 法律によるもの以外の特例措置の概要
アで述べたように,構造改革特別区域制度においては,法律によるもの以外にも規制
の特例措置を講じているものがある。その概要は以下のとおりである。
(ア)特定事業等に係る外国人の入国・在留諸申請優先処理事業
外国人研究者等海外からの頭脳流入の拡大により経済活性化を図る地域において,
当該地域における特定事業等(構造改革特別区域計画に基づき,特区において,特
区法等により実施される規制の特例措置の適用を受けて実施する事業又はその関連
事業をいう。)に係る外国人の受入れに当たり,特定事業等の遂行に必要な業務に従
事する外国人又はその家族に係る入国・在留に係る諸申請について,特に迅速な審
査が行われるように,他の一般の外国人の諸申請とは区別して優先的に処理する措
置を講ずるものである。
(イ)特定事業等に係る外国人の永住許可弾力化事業
永住許可を受けるためには,日本人,永住者の配偶者や実子及び定住者,難民の
認定を受けている場合等を除き,一般的には,我が国における在留実績が10年以上
あることが必要とされるところ,これらのうち,外交,社会,経済,文化等の分野
において我が国への貢献があると認められる外国人は,この在留実績について5年
以上とする緩和措置が講じられているが,特区内における特定事業等における我が
国への貢献がある外国人については,更にこの在留実績を3年以上であることとす
る更なる緩和措置を講じるものである。
エ 平成15年度において実施される予定の特例措置
イ及びウで述べた特例措置については,平成14年8月までの地方公共団体等からの提
案に係るものであるが,その後,15年1月15日までに提案のあったもののうち,構造改
革特別区域制度において実施されることとされたものについては,特区法の一部改正等
が行われ,同年10月1日から実施することとされており,そのうち,入管法等の特例に
5 及び■
6 に該当する
係るものは以下のとおりである(
(イ)及び(ウ)は、それぞれ後記■
ものであるが、構造改革特別区域制度における特例措置であることからここで述べる。)
。
(ア)外国人情報処理技術者受入れ促進事業
情報処理産業は,先端産業(ロボット,バイオ,環境等)の基幹技術となるもの
であり,新たな技術・サービスの開発による新事業創出効果が高く,さらに,産業
113
の高度化等にも重要な要素となる分野であることから,特区内の事業所において,
3年を超える期間,情報処理分野の業務に従事することが予定されている情報処理
技術者につき,在留期間の上限について,現行の3年から5年に伸長する措置を講
ずるものである。
(イ)外国人研修生受入れによる人材育成促進事業
第
2
部
特定の地域においては,特定の産業について,中小企業等が当該産業に係る技術
保有の主体となっている場合があることから,研修生を受け入れようとする業種に
属する企業が相当程度集積し,当該業種が当該地域における主な産業である地域に
おいて,当該業種に関する研修生派遣国との間の密接な経済交流等を前提に,研修
生の受入れ人数枠の一部について拡大する措置を講ずるものである。
(ウ)夜間大学院留学生受入れ事業
学習形態が多様化する中で,夜間大学院において学習するという形態に対応する
ことにより,海外の優秀な人材である大学院留学生の受入れを促進するため,夜間
において授業を行う大学院の研究科で教育を受ける留学生について,当該大学院が
置かれている大学による徹底した在籍管理がなされる場合に,夜間通学して教育を
受ける場合であっても「留学」の在留資格を付与することとし,併せて,当該留学
生について,現行と同様,週28時間以内の包括的な資格外活動許可を与える措置を
講ずるものである。
5 研修制度及び技能実習制度の適切かつ円滑な推進と一層の充実
(1)「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針」の策定
本邦の公私の機関において技術,技能又は知識(以下「技術等」という。)の修得を行う
外国人(以下「研修生」という。)及び雇用関係の下に実践的な技術等の修得を行う外国人
(以下「技能実習生」という。)の受入れについては,我が国が先進国としての役割を果たし
つつ,国際社会の調和ある発展に貢献するため,我が国で培われた技術等の開発途上国等へ
の移転を図り,当該開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に寄与することを目的とし
て推進されている。
このような状況の中で,研修及び技能実習制度は,その制度の目的に従って,おおむね適
正に活用されているところであるが,研修生の失踪者や不法残留者が増加傾向にある(図25,
表26)ほか,不適切な研修・技能実習の実施,事件・事故等の問題が発生している状況も認
められた。
これらの問題の発生状況,一部受入れ機関の実態等を踏まえ,入管法に定める在留資格該
当性,基準適合性等諸要件を満たすだけではなく,さらに研修生等の受入れ体制及び研修内
容の充実を図ることが必要であることから,研修生及び技能実習生の受入れの適正化を推進
するため,「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針(以下「指針」という。)」
を策定し,これを平成11年2月に公表することとした。
114
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
指針は,入国・在留審査における基本的な指針であり,これにより,研修生及び技能実習
生の受入れ機関,送出機関,研修生及び技能実習生がそれぞれ負うべき役割について正しく
認識し,適正な受入れを行うことにより,今後も研修及び技能実習制度の維持・発展を図る
ものである。
第
2
部
(2)研修生・技能実習生に係る提出書類の見直し
入国管理局においては,従来から,規制緩和及び申請負担軽減の観点から,適正な入国・
在留審査を阻害しない範囲で提出書類の大幅な簡素化を図ってきたところであるが,関係団
体等から手続の簡素化等の要望が寄せられていたこともあり,研修生・技能実習生の入国・
在留手続に関与する(財)国際研修協力機構の意見も聴取しつつ,簡素化等の要望のあった
書類の必要性及び簡素化の可能性について,検討を行った。
その結果,研修生の在留資格認定証明書交付申請,在留資格変更許可申請及び在留期間更
新許可申請における提出書類について,また,技能実習移行希望者からの技能実習移行表明
及び技能実習生からの技能実習期間延長の際に,これらの者から(財)国際研修協力機構に
対して提出を求めている書類のそれぞれについて簡素化を図ることとし,平成11年11月1日
から実施することとした。
(3)研修・技能実習全国総合実態調査の実施
技能実習制度は,平成5年の創設以来,社会の各方面からの要望を踏まえ,前記のとおり
見直しを行い,我が国社会に定着・発展してきたものと認められるが,その一方で,研修・
技能実習生の失踪,逃亡事件の発生等の諸問題が顕在化しており,その背景には,制度の趣
旨が受入れ団体・企業,研修生,技能実習生本人及び外国の送出機関に十分に理解されてい
ないことが挙げられる。そこで,研修・技能実習制度の実状及び問題点を把握し,今後の制
度の在り方の検討に必要な情報を収集するため,入国審査官による受入れ機関の個別訪問調
査及び(財)国際研修協力機構の協力の下に受入れ機関の要望等を聴取するアンケート調査
を実施した。
入国審査官による受入れ機関の個別訪問調査は,13年5月21日から7月31日までの間に行
われ,201機関の研修・技能実習生194人を対象に,受入れ機関の要望等を聴取するアンケー
ト調査を実施した。
また,(財)国際研修協力機構の協力による受入れ機関に対するアンケートは,13年8月
1日から同月30日までの間に行われ,「研修生の受入理由」及び「研修制度に対する評価」
について調査を実施した。
これらの調査の結果,受入れ機関については,研修・技能実習制度についておおむね正し
い理解を有していることがうかがわれたが,中には研修生を単なる労働力として活用してい
ると見られる事例が見受けられた。また,研修生・技能実習生の多くは,我が国で技術等を
修得できた旨回答しているものの,研修生は学習としての「研修」を受けるものであって報
115
酬を伴う稼働は認められていないにもかかわらず,報酬を得て働くことができるとの誤った
理解を有している研修生が全体の半数近くに上った。
(4)研修・技能実習制度に対する国民の考え方
入国管理局においては,研修・技能実習制度に関する前記のような実態を踏まえつつ,今
第
2
部
後,どのように研修・技能実習制度を改善,充実していけばよいか検討するに当たって,こ
れらの制度についての国民の意識やニーズを把握することが重要であると考え,以下のとお
り,世論調査や国政モニターを積極的に活用している。
ア 「外国人労働者問題に関する世論調査」
内閣府は,外国人労働者問題に関する国民の意識を調査し,今後の施策の参考とする
という目的で,平成12年11月に「外国人労働者問題に関する世論調査」(注)を行った
ところ,その調査項目の1つに「研修・技能実習制度について」が取り上げられた。
調査の結果,研修・技能実習制度についてどう思うかとの質問に対して,回答者の
48.8%が「積極的に充実させる」と答え,「今のままでよい」と答えた者が35.2%,「あ
まり充実させる必要はない」と答えた者が7.0%であった。
このように,国民の多くが,研修・技能実習制度を積極的に充実させる必要性を認識
していることが明らかとなった。
(注)同調査は,内閣府(当時総理府)が,平成12年11月2日∼同月12日までの間,全国20歳以上の3,000人を
対象に行ったものである。有効回収(率)は2,070人(69.0%)。
イ 外国人研修・技能実習制度に係る国政モニター
入国管理局においては,外国人研修・技能実習制度による研修生受入れについてどの
ように考えるか(①研修・技能実習生の受入れを積極的に推進する。②研修・技能実習
生の受入れは現状程度でよい。③研修・技能実習生の受入れはあまり進めない方がよい)
等について,国政モニターからの率直な意見,提言をいただくこととし,平成13年11月,
全国から多数寄せられた応募者の中から,地域,職業,年齢等を考慮して選考された
550人のモニターに対して調査を実施し,その結果,20歳から70歳代までの幅広い年齢
層にわたり,269人(男性140人,女性129人)から意見,提言をいただいた(注)。
結果を見ると,外国人研修・技能実習制度による研修生受入れについてどのように考
えるかについては,①と回答した者は133人(49.4%),②と回答した者は88人(32.7%)
,
③と回答した者は40人(14.9%),不明8人(3.0%)であった。
①と回答した者の意見には,「国際社会の一員として,先進国として,開発途上国の
発展に寄与する技術移転は行うべき」といった国際貢献の観点から研修・技能実習生の
受入れを推進すべきであるという趣旨のものが多く見られ,また,「技術の交流のみな
らず,文化交流等が促進され,友好関係,信頼関係が構築される」といった相互理解の
116
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
促進に資するという趣旨の意見や,企業・職場の活性化に資するといった趣旨のものも
見られた。
②と回答した者の意見には,「国際貢献は重要だが,国内の雇用情勢が厳しい中でこ
れ以上の受入れは困難である」といった国内の雇用や産業への影響の観点からのものや
「国際貢献は重要であるが,不適切な事例があることから,さらなる受入れによって不
第
2
部
正行為が増加する懸念がある」といった適正化を図ることが先決であるという趣旨のも
のが多く見られ,また,「現在の国内の経済状況から,研修生等を受け入れる企業にお
いてこれ以上十分な指導体制はとれないのではないか」といった意見も見られた。
③と回答した者の意見には,「安い賃金で外国人を雇用することとかわらず,失業率
の増加が懸念される」といった国内の雇用や産業への影響の観点からのものが多く見ら
れた。
(注)国政モニターは,国の重要施策等に関して,広く一般国民から意見,要望などを聴取し,国の行政施策
の企画,立案及び実施のための参考とすることを目的とし,全国民を対象とし、一般公募に応募した者の
中から、県別人口、職業別などの基準により550人を選定し、依頼している。
国政モニター制度の運営は,内閣府大臣官房政府広報室が行っている。
(5)制度の見直し
前記第2節1(2)のとおり,第2次出入国管理基本計画において,研修制度及び技能実
習制度の今後の在り方について検討していくとされているところ,入国管理局においては,
同基本計画の策定後,前記(3)の実態調査並びに(4)の世論調査及び国政モニターを
活用し,これらの調査の結果等を踏まえ,研修・技能実習制度の見直しや,技能実習により
更に高度な技術等の修得を希望する研修生及び受入れ機関の要望に応えるため,技能実習対
象職種の拡大等による技能実習制度の拡充について,関係省庁と協力して検討を行っている
ほか,問題事例の発生も踏まえた制度全体の在り方について法改正も含めた検討を行ってい
るところである。
6 学術・文化・青少年交流の推進と留学生,就学生の積極的な受入れ
(1)
「留学」及び「就学」の入国・在留審査に係る指針の策定
外国人留学生の受入れは,昭和58年以降「留学生受入れ10万人計画」の下,我が国政府の
基本方針として積極的に推進され,留学生及びその大半が留学生となる日本語就学生の入国
者が急増した。しかし,日本語就学生に関しては,専ら就労を目的とする者が就学生を装っ
て入国し,不法就労者又は不法残留者となったり,受入れ教育機関として不適切な教育機関
が存在したりする等深刻な問題となったことから,平成元年の入管法の一部改正により「留
学」及び「就学」の在留資格を整備するとともに上陸許可基準を整備する等,その入国・在
留に当たっては厳正な審査を実施する措置を採ってきた。その結果,留学生及び就学生の不
法残留者数が減少し,不適切な教育機関も減少するなどの改善が認められた(図36,表57)。
また,政府の推進する規制改革の取組の一環として申請者の負担軽減の観点から手続の簡
117
図36 「留学」及び「就学」の在留資格からの不法残留者数構成比の推移
(人)
(%)
300,000
第
2
部
7.0
6.0
250,000
5.0
200,000
4.0
150,000
3.0
100,000
2.0
50,000
1.0
0
0
平成10・1
11・1
12・1
13・1
14・1
15・1 (年・月)
表57 「留学」及び「就学」の在留資格からの不法残留者数構成比の推移
区分
年月日 平成10年1月1日
不法残留者総数(人)
留 学(人)
構成比(%)
就 学
留 学(人)
構成比(%)
11年1月1日
12年1月1日
13年1月1日
14年1月1日
15年1月1日
276,810
271,048
251,697
232,121
224,067
220,552
6,824
5,914
5,100
4,401
4,442
5,450
2.5
2.2
2.0
1.9
2.0
2.5
15,083
12,931
11,359
10,025
9,953
9,779
5.4
4.8
4.5
4.3
4.4
4.4
素化・合理化が求められる一方で,留学生の新規入国者数は年々増加してしてきたことから,
従来の審査によっては適切かつ円滑な処分を維持することが困難となることが予想された。
これらのことから,不法残留者を発生させない等適正な受入れを行っていると認められる
教育機関については提出書類の大幅な削減等手続の簡素化を図ることとする,受入れ教育機
関の在籍管理状況に応じた取扱いを行うことを内容とした留学生及び就学生の入国・在留審
査方針を11年12月に策定し,公表した上で実施した。
118
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
(2)
「家族滞在」に係る資格外活動許可の運用の見直し
従来,「留学」及び「就学」の在留資格をもって本邦に在留する外国人を除き,資格外活
動許可を得て就労活動を行おうとする場合,母国語に関する翻訳等,特別な技能等を要する
仕事に就職するときにのみ同許可は認められてきた。
しかしながら,社会の実情を見ると,「家族滞在」の在留資格をもって本邦に在留する外
第
2
部
国人(以下「家族滞在者」という。)が就労活動を行おうとする場合,その多くはそのよう
な特別な技能等を要する仕事に就職することは期待できないことから,許可を得ることなく
資格外活動に従事する者が少なくないものと推測されていた。また,特に留学生の家族滞在
者からの要望が強いと考えられ,このような状況を放置することは,留学生の積極的な受入
れを行おうとしている我が国政府の方針からも適当でなく,また,外国人の公正な管理を図
るという入管法の目的に反することからも適当でないことから,社会の実情に即した取扱い
となるよう運用の見直しを行った。
この結果,家族滞在者は,家事の合間の余暇時間を利用した短時間労働を志向しているこ
とから,女性パートタイム労働者の週平均労働時間を踏まえ,平成12年4月から留学生と同
様に特別な技能等を要しない活動であっても,原則として週28時間以内であれば,資格外活
動を許可する取扱いとした。
(3)ワーキング・ホリデー制度の拡大
ワーキング・ホリデー制度は,実施国双方の青少年に相手国の文化や一般的な生活様式を
理解する機会を拡大して提供するため,一定期間休暇を主目的として在留する青少年に対し
て,その間旅行資金を補うため付随的に働くことを認めるものである。
我が国は,平成10年までにオーストラリア(昭和55年12月1日実施),ニュージーランド
(60年7月1日実施)及びカナダ(61年3月1日実施)の3か国との間で同制度を実施して
いたが,その後対象国を拡大し,韓国(平成11年4月1日実施),フランス(11年12月1日
実施),ドイツ(12年12月1日実施)及び英国(13年4月16日実施)との間に同制度を導入
したことにより,現在我が国との間でワーキング・ホリデーの制度を実施している国は7か
国となっている。
14年における同制度のための滞在を目的とした外国人の新規入国者数を見ると,オースト
ラリア1,045人,カナダ770人,韓国749人,ニュージーランド307人,英国232人,フランス
214人,ドイツ99人となっている。
なお,14年に同制度を利用して入国した外国人の数は合計で10年の1,981人から3,416人に
増加している。
また,これら7か国が我が国の青少年に対して発給した査証件数は,10年の1万5,753件
から14年1万9,733件と増加傾向にある(表58)。
119
表58
年
国籍
オーストラリア
日 本
第
2
部
国籍別ワーキング・ホリデーを目的とする新規入国者数及び
日本人に対するワーキング・ホリデー査証の発給件数の推移
平成10
11
12
(
上段:人
下段:件
14
13
977
875
975
906
1,045
7,841
7,158
8,982
9,510
9,717
カナダ
654
551
620
712
770
日 本
4,008
4,833
4,183
4,346
4,207
350
209
317
325
307
3,904
3,518
3,303
3,841
4,081
ニュージーランド
日 本
)
韓 国
ー
257
650
698
749
日 本
ー
48
145
262
344
フランス
ー
2
161
191
214
日 本
ー
20
250
344
400
ドイツ
ー
ー
4
77
99
日 本
ー
ー
15
444
582
英 国
ー
ー
ー
120
232
日 本
ー
ー
ー
400
402
ア 査証発給のための要件
査証発給のための要件は,以下のとおりである。
・前記7か国のいずれかの国籍を有し,かつ,国籍国に住んでいる者であること。
・一定期間,主として我が国において休暇を過ごすことを目的とすること。
・査証発給時の年齢が18歳から25歳(フランスは30歳)までであること(権限のある
当局が年齢制限を30歳まで延長することに同意する場合を除く。)
。
・子を同伴しない者であること(カナダを除く。なお英国は配偶者も同伴しない者で
あること)。
・有効な旅券及び帰国のための旅行切符又は旅行切符を購入するための十分な資金の
あること。
・最初の滞在期間の生計を維持するための相当な資金のあること。
・健康であり,かつ,健全な経歴を有すること。
イ 在留期間
オーストラリア,ニュージーランド及びカナダについては,最初6か月間の滞在許可
が付与され,適当な場合には,6か月までの延長が認められる(オーストラリアについ
ては,その後の延長も可能)。他の国の場合は最初1年の期間の滞在許可が付与され,
その延長は認められていない。
ウ 条件
相手国の法令を遵守し,制度の目的に反する就労,具体的には風俗営業又は風俗関連
営業が営まれている営業所における就労を行うことができない。
120
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
(4)インターンシップの特定活動告示への追加
外国の大学の学生が,大学教育の一環として我が国の企業に受け入れられて,就業体験を
するいわゆるインターンシップについては,従来は「文化活動」又は「短期滞在」の在留資
格で受け入れ,報酬を得る場合には資格外活動許可を認めていたが,インターンシップが既
に制度として定着してきていることに加え,国際間の文化的交流に資するものであることか
第
2
部
ら,より一層の発展のため独立した活動として受入れの枠組みを創設することとし,平成11
年8月10日,インターンシップ制度を特定活動告示(平成2年5月24日法務省告示第131号)
に追加した(11年10月1日施行)
。
(5)東アジア競技大会及びアジア冬季競技大会関係者に対する査証免除措置
平成13年5月19日から同月27日までの9日間にわたり,大阪市において第3回東アジア競
技大会が開催された。
この大会には,選手及び報道関係者等多数の大会関係者の参加が見込まれたため,大会組
織委員会から,10年2月に開催された長野オリンピック大会と同様の手続により大会関係者
の入国手続をしてほしい旨の要請があった。
具体的には,大会関係者については,大会組織委員会から事前に大会関係者名簿の送付を
受け,入管法上の上陸拒否事由に該当するか否か等のチェックを行い,問題がない場合には,
大会組織委員会に連絡し,大会組織委員会が大会関係者に大会身分証明書(IDカード)と
大会参加資格認定証(ADカード)を統合したカード(以下「統合カード」という。)を発
給し,統合カードを所持する大会関係者については,統合カードの有効期間中,入国審査の
際,査証を免除することが要請された。
そこで,大会の円滑な運営に資するため,前記要請を受け入れ,長野オリンピック大会以
来2回目の措置(IDカードのみによる査証免除措置は平成6年の広島アジア大会の際も実
施している。
)を採ることとし,2,804人の大会関係者に統合カードが発給された。
また,これと同様の取扱いは,15年2月1日から同月8日までの8日間にわたり青森県に
おいて開催された第5回アジア冬季競技大会においても採用され,大会組織委員会から
1,148人の大会関係者に統合カードが発給された。
7 在留期間の見直し
(1)見直しの背景
入管法第2条の2第3項は,我が国に入国・在留する外国人の在留期間について,
「外交」
,
「公用」及び「永住者」の在留資格以外の在留資格に伴うものは3年を超えない範囲内で法
務省令で定めることと規定しており,これを受けて,同法施行規則第3条及び別表第2は,
各在留資格について複数の在留期間を設けている。そして,具体的にどのような場合にどの
在留期間を付与するかについては,当該外国人の活動内容,過去の入国・在留状況等を勘案
し,適当と認めるものを決定することとしている。
121
近年,経済活動の活性化を図るため,行政全般にわたって規制緩和が推進されているとこ
ろ,「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月16日),「規制緩和推進三か年
計画」(平成10年3月31日)等の閣議決定において,外国企業駐在員等の在留期間に関し,
必要に応じて見直しを行うこととされた。
在留期間の取扱いについては,従来も,原則として入管法施行規則別表第2に定める複数
第
2
部
の在留期間のうち最も長期のものを決定することとしていたが,前記閣議決定等を受けて,
また,外国人の申請負担軽減及び審査業務の簡素合理化の観点から,在留期間の見直しを行
い,入管法施行規則を改正した(同施行規則の施行日は平成11年10月1日)。
(2)見直しの内容
見直しの概要は次のとおりである。
ア 改正前に最長の在留期間が「3年」であった在留資格「教授」,「投資・経営」,「日
本人の配偶者等」等の最短の在留期間を「6月」から「1年」に改めた。
イ 改正前に最長の在留期間が「1年」であった就労可能な在留資格「技術」,「人文知
識・国際業務」,「企業内転勤」,「技能」等の最長の在留期間を「3年」に,また,最
短の在留期間を「1年」に改めた。
ウ 在留資格「留学」について,改正前の最長の在留期間「1年」を「2年」に,また,
最短の在留期間「6月」を「1年」に改め,その家族のため,在留資格「家族滞在」
に新たに「2年」の在留期間を設けた。
エ 在留資格「興行」について,改正前の最短の在留期間「30日」を「3月」に改め,
新たに「6月」の在留期間を設けた。
オ 在留資格「就学」,「研修」について,改正前の最短の在留期間「3月」を「6月」
に改めた。
第3節●退去強制手続業務
1 不法滞在外国人の積極的な摘発
我が国における雇用情勢がかつてなく厳しい状況にある中,国内外の賃金格差等を背景に不
法就労を企図して我が国に入国を図る外国人は依然として跡を絶たず,コンテナ貨物船に潜伏
するなどした小規模な集団密航事案が相次いでいるほか,偽変造旅券等を行使した不法入国事
案,あるいは日系人等を偽装して正規在留者を装う事案なども増加しており,国内外における
ブローカー組織の暗躍と相まって,その入国手口は複雑・巧妙化の一途をたどるなど,これら
不法就労を企図する者の入国の防止や発見が困難な状況となっている。
他方,国内に潜在する不法滞在外国人は,近年における摘発の強化等により漸減傾向にある
とはいえ,いまだ顕著な減少を見せることなく高水準で推移しているほか,地方への拡散化や
定着化の傾向をたどりつつ,その一部は,薬物犯罪や凶悪犯罪に関わるなど,不法滞在外国人
122
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
問題は,今や出入国管理行政にとどまらず,我が国社会全体における深刻な問題となっている。
こうした状況を踏まえ,入国管理局では,これら不法滞在外国人の定着化を防止しつつ減少
を図るとの基本方針の下,東京,大阪及び名古屋各地方入国管理局に調査部門を設置し,常時
摘発体制をとるとともに,平成7年度以降,年間複数回の全地方入国管理局における一斉摘発
や首都圏等における集中摘発を実施し,入管法違反外国人の積極的な摘発を行っている。
第
2
部
14年度においては,通常の摘発以外に,首都圏及び近畿・東海地区における入管法違反外国
人の集中摘発を各1回,全国の地方入国管理官署が一斉に摘発活動を実施する入管法違反外国
人一斉摘発を1回実施した。その結果,入国警備官延べ3,505人を動員の上,事業所,風俗関連
店舗及び居宅等777か所を立入調査し,合計1,844人の入管法違反外国人を摘発した。
また,近年,我が国において空港内のトランジット・エリアを悪用し,我が国への不法入国
を幇助する者や米国等第三国への不法入国を試みる者が後を絶たず,これらの者に対する厳正
な取扱いが,国際組織犯罪,テロ対策上喫緊の課題となっているところ,14年度から,成田空
港及び関西空港においてパトロール強化
期間を設けて,空港内のトランジット・
エリアでの偽変造文書行使事案等悪質な
事案の発見・防止を図っている。
さらに,積極的な摘発を実施するため
の体制の強化に取り組んでおり,10年度
には東京入国管理局に不法入国特別調査
担当を設置し,13年度に同局千葉出張所
及びさいたま出張所,14年度に同局水戸
出張所,宇都宮出張所及び高崎出張所,
15年度に同局新宿出張所にそれぞれ摘発
専従班を増・新設し,入管法違反外国人
が集中する関東地方における摘発体制を
強化した。
入管法違反事件の摘発
2 人権に一段と配慮した収容場等における処遇の充実
入管法違反外国人は,退去強制手続の過程で主任審査官の発付する収容令書により,また,
我が国から退去を強制されることとなる外国人は,主任審査官の発付する退去強制令書により
それぞれ収容することとなるが,その施設として「収容場」と「入国者収容所(入国管理セン
ター)」が設けられている。前者は,地方入国管理局,同支局及び一部の出張所の計15か所に,
後者は,茨城県牛久市,大阪府茨木市及び長崎県大村市の3か所に設置されている。
これらの施設は,入管法違反外国人を我が国から退去強制するまでの間一時的に身柄をとど
123
め置くものであるため,収容されている外国人(以下「被収容者」という。)の処遇に当たって
は,従来から,保安上支障のない範囲内においてできる限りの自由を与え,被収容者の属する
国の風俗習慣等による生活様式を尊重して処遇業務を行っていたが,平成10年8月には,被収
容者処遇規則を改正して(同年9月施行),より人権に配慮した適正な処遇に努めるとともに,
各収容施設に被収容者が収容施設の長に対して処遇に関する意見を投かんすることができる意
第
2
部
見箱を設置して行う意見聴取制度を実施し,さらに,13年9月にも同規則を改正して,被収容
者が自己の処遇に関して不服があるときは,収容施設の長に対し不服を申し立て,最終的には,
法務大臣に対して異議を申し立てることができる,不服申立制度を同年11月から実施するなど,
積極的な処遇の改善に努めてきた。
また,昨今,被収容者の増加,多国籍化等が進行しており,収容施設における処遇業務が困
難の度を増しているところ,収容施設の面でも被収容者の人権に配慮するため,東日本,西日
本及び大村各入国管理センターを始め,各地方入国管理局等の収容施設の改修及び設備の充実
を順次図っている。さらに,平成15年2月に供用開始された東京入国管理局の新庁舎において
は,施工段階から被収容者の処遇を見据えた計画を立てた結果,施設・設備面を含め,より一
層被収容者の人権に配慮した処遇を実現することとなった。
3 円滑な送還への取組
被退去強制者の円滑で速やかな送還は,収容施設の拡充とともに,悪質な入管法違反事件へ
の対策を実効あるものとする上で必要不可欠である。
平成13年7月10日,「国際組織犯罪等対策推進本部」の設置が閣議決定され,同年8月29日,
同本部により「国際組織犯罪等対策に係る今後の取組みについて」が決定された。その中で,
円滑な送還への取組に関し,「関係国との連携」として,「退去強制対象者の迅速な送還を行う
ことができるよう,旅券等渡航文書の早期発給等について外国関係機関に働きかける」ことが
被退去強制者の集団送還
124
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
盛り込まれた。また,同年9月,北京で開催された日中領事当局間協議において,中国政府に
対し,被退去強制者に対する渡航証発給の迅速化及び安定した渡航証発給体制の確保について
申入れを行い,さらに,14年7月,北京で開催された日中治安当局間協議において,中国人集
団密航者の早期引取りについて申入れを行った。
第
2
部
4 関係機関との協力の推進
(1)入管法違反事件全般
入管法違反事件の効果的な防止及び積極的な摘発の推進のため,昭和46年から「入管法違
反事犯の防止及び摘発対策協議会」を開催し,警察庁,法務省,外務省,財務省,厚生労働
省,国土交通省が,情報交換や協力体制の緊密化など入管法違反事件に適切に対処するため
の方策について協議している。
また,最近,国際的な犯罪組織によって敢行される各種の犯罪が多発していることから,
これら国際組織犯罪等に対して,関係機関の緊密な連携を確保するとともに,有効・適切な
対策を総合的かつ積極的に推進することを目的として,内閣に前記3で述べた「国際組織犯
罪等対策推進本部」が設置され,多くの不法滞在外国人の存在が国際組織犯罪等の温床にな
っていることを踏まえて,関係機関と連携して,不法入国・不法滞在外国人対策への取組を
強化している。
その他にも,銃器対策推進本部,薬物乱用対策推進本部,密輸出入取締対策会議などを通
じて密接な情報交換を行うなど関係機関と連携し,悪質事案への効果的な対応に努めている。
(2)不法就労外国人対策
不法就労外国人問題は,多方面からの対応が必要であることから,関係機関との協力関係
を強化し,より実効性のある協力体制を構築する必要がある。
このため,不法就労に係る悪質な雇用主やブローカーについては,捜査機関に対して告発
あるいは通報するなどして,不法就労助長罪の積極的な適用を促しており,また,雇用主や
ブローカーが関与する売春強要事案や賃金搾取事案等を認知した場合にも関係法令に基づく
罰則の適用を捜査機関に促している。
また,我が国の国際化の進展等の観点から外国人労働者の受入れの範囲拡大や円滑化が要
請される一方,外国人の不法就労等が社会問題化している現状にかんがみ,昭和63年,内閣
官房に「外国人労働者問題関係省庁連絡会議」が設置され,内閣府,警察庁,総務省,法務
省,外務省,財務省,文部科学省,厚生労働省,農林水産省,経済産業省,国土交通省が,
外国人労働者を中心とする外国人受入れに関する諸問題を検討する中で不法就労者対策につ
いて協議を行っている。
さらに,平成4年からは,警察庁,法務省,厚生労働省の3省庁による「不法就労外国人
対策等関係局長連絡会議」,「不法就労外国人対策等協議会」の場を通じて,定期的に情報交
換を行い,合同摘発の実施等の具体的取組について協議を行っている。
125
第4節●難民認定手続業務
1 難民認定申請事案の処理促進
近年,国際情勢が刻々と変化する中で,世界の各地で起こる地域紛争による各国情勢の不安
定化等に伴い,第1部第3章第1節で述べたとおり,我が国の難民認定申請件数は年々増加傾
第
2
部
向を示しているほか,申請者の多国籍化,申請内容の複雑化及び難民認定制度を濫用する事案
の増加が顕著となっている。また,難民認定手続における事実関係等の調査は,申請の理由と
なった事象が外国において発生していることが多いことから容易ではない。
こうした状況に起因して生じる処理の長期化及び未処理案件の増加等に的確に対処するため,
次のような措置を講じた。
(1)難民認定申請案件処理促進月間の実施
東京入国管理局を中心として,平成10年には6か月に及ぶ難民認定申請案件処理促進月間
を,13年には難民認定申請の多い特定国を対象とした案件の処理促進を,さらに,14年12月
から15年3月にかけて約3か月半に及ぶ処理促進月間を実施した。
(2)難民調査官の増員及び研修体制の充実・強化
特に申請が集中している東京入国管理局の難民調査官を増員するなどして調査体制の強化
に努める一方で,平成9年から毎年難民認定事務従事者研修を実施し,難民調査官の知識の
涵養,調査技術等の向上を図った。
(3)難民関連情報収集の一元化
入国管理局において,難民出身国情報の収集・分析を行った上,当該情報を一元的に管理
するとともに,各地方入国管理局にこれらの情報を逐次提供することにより情報共有体制の
強化に努めた。
(4)通訳体制の整備
少数言語を中心とした通訳人の確保に努め,その体制整備を図った。
これらの各種措置を講じたことにより,処理件数は着実に伸びて一定の成果を上げつつあり,
今後とも,長期化する未処理案件及び制度濫用ケース等の事案の適切かつ迅速な処理に努める
こととしている。
2 難民不認定に対する異議申出事案の処理の円滑化
近年の難民認定申請の急増に伴い,難民と認定されなかった者からの異議申出件数も増加し
た。
126
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
平成9年以降14年末までの間に難民不認定とされた者1,215人のうち,異議の申出を行った者
は820人であり,その割合は67.5%となっている。
異議申出事案の処理については,事案が増加した地方入国管理局において,集中処理促進期
間を設け,他の地方入国管理局から難民調査官を応援派遣するなどして,早期処理に努めてい
るところである。
第
2
部
3 難民認定制度の在り方に係る検討
(1) 難民問題をめぐる諸情勢
我が国の難民認定制度は昭和57年1月1日に発足し現在に至っているところ,この間,東
西冷戦構造の崩壊を契機として,同構造の中に押しとどめられていた人種,宗教,民族,そ
の他歴史的文化的要因を背景とする枠組みが顕在化し,世界各地において紛争が頻発し,そ
の結果難民や避難民が大量発生している。また,同時に経済活動のグローバル化に伴って地
域間の貧富の差が拡大し,貧困国から富裕国へ移動する経済難民が生じ,その結果,受入国
の社会的負担が増加して社会不安を誘発するなどの事態が生じている。さらに,平成13年9
月の米国同時多発テロ事件の発生後,テロリストが入国の手段として難民を偽装する危険性
が指摘されたことから,これまで難民受入れに積極的といわれてきた欧州諸国においても,
経済難民の排除や不法滞在者の送還促進を主眼とした協定や法制度の整備を行っている。ま
た,我が国においては,14年5月,在瀋陽日本国総領事館への北朝鮮出身者による駆け込み
事案の発生を契機として,難民認定制度の在り方について国内外の大きな関心を集めること
となった。
こうした状況の中,法務大臣の私的懇談会「出入国管理政策懇談会」の下に設置された
「難民問題に関する専門部会」において難民認定制度の在り方について議論がなされ,同政
策懇談会から法務大臣に対し提出された中間報告において,今後の課題として,難民認定制
度の全体的な合理性と透明性を高めるため,不認定理由の具体的で明確な告知等について改
善が図られる必要があるなどの提言がなされた。これを踏まえ,難民認定制度の合理性及び
透明性を一層高めるとともに,行政サービスの向上を図るため,15年1月から難民不認定処
分を行うに当たって処分通知書に不認定判断の基礎となった理由を具体的に付記することと
した。
なお,これまで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)(注1)等から条約難民に対する
処遇改善の要望がなされていたほか,世論による難民認定者に対する定住促進支援への気運
が高まってきたことなどを踏まえ,14年8月7日の閣議了解及び入国管理局長が構成員とな
っている難民対策連絡調整会議(注2)において,これまでインドシナ難民を対象としてい
た定住支援措置が,条約難民に対しても講じられることとなったほか,難民認定申請者への
支援について所要の検討を行うことが決定された。
(注1)国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)
世界各地の難民に対する国際的保護の付与,難民問題の恒久的解決(本国への自発的帰還,現地定住,第
127
三国定住),難民条約等の各国による締結の促進などを行う国連機関。
(注2)難民対策連絡調整会議
昭和54年7月インドシナ難民の定住受入れ,促進等を図ることを目的にインドシナ難民対策連絡調整会議
が内閣に置かれたが,インドシナ難民に限らず難民をめぐる諸問題について政府全体として必要な対応を検
討することができるよう,平成14年8月7日,インドシナ難民対策連絡調整会議が,難民対策連絡調整会議
に改組された。
難民対策連絡調整会議は,内閣官房副長官(事務)を議長,内閣官房副長官補(外政)を副議長とし,警
第
2
部
察庁長官官房国際部長,外務省総合外交政策局国際社会協力部長及び法務省入国管理局長等を構成員として
いる。
(2)在瀋陽総領事館における脱北者問題(いわゆる瀋陽事件)の発生
平成14年5月8日,在瀋陽日本国総領事館への北朝鮮出身者による駆け込み事件が発生し
たが,当該事件は本来的には領事関係に関するウィーン条約に定める領事機関の公館の不可
侵に関する問題であり,本邦にいる外国人を対象とした我が国の難民認定制度に直接かかわ
る問題ではなかった。
ところが,当該事件は国内外の大きな関心を集めることとなったことから,国会審議等に
おいても様々な議論がなされることとなり,ひいては難民認定制度の在り方についても再検
討の余地があるのではないかとの指摘を受けることとなった。
入国管理局としては,当該事件をめぐる国内外の動向を契機として,難民問題をめぐる国
際情勢や国民の意識の変化を踏まえ,難民認定制度の在り方について幅広い観点から検討し,
今後の難民認定行政に反映していくこととした。
(3)出入国管理政策懇談会(難民問題に関する専門部会)における議論
ア 難民問題に関する専門部会設置の目的
(1)及び(2)のとおり,今日,難民問題は社会の大きな関心を集めており,我が
国の難民認定制度の在り方をめぐっても活発な議論が展開されているほか,紛争地域等
からの避難民等に対する人道的な配慮や国際的対応の在り方を問い直す声が高まってき
た状況を踏まえ,法務大臣が各方面の有識者から,難民認定制度の今後の在り方につい
て意見を聴取し,今後の法務行政に活かすため,平成14年6月11日,「出入国管理政策
懇談会」の下に「難民問題に関する専門部会」(以下「専門部会」という。)を設け,現
在,我が国の難民認定制度の中で議論の対象とされている事項のうち,①いわゆる「60
日ルール」,②難民認定申請中の者の法的地位,③不服申立ての仕組み,の3点につい
て検討を求めた。
イ 専門部会における議論
専門部会においては,不服申立ての仕組みについては,国内の他の法制度及び各国の
法制度を調査研究した上で議論する必要があり,結論を出すのに時間がかかると考えら
れたことから,まず,いわゆる「60日ルール」と難民認定申請中の者の法的地位につい
て議論された。
128
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
具体的には,法務大臣から専門部会に検討が求められてから,平成14年10月15日まで
の間,いわゆる「60日ルール」及び難民認定申請者の法的地位の2項目を中心として,
合計7回,延べ約22時間にわたり,各メンバーが意見を交換したほか,東日本入国管理
センター及び東京入国管理局を視察して難民認定を含む出入国管理行政の実情を見聞
し,さらに,複数の在京大使館の担当職員から各国における難民認定制度の仕組みと現
第
2
部
状等について説明を受け,我が国で難民として認定され在留している者からその経験を
聴取し,国際法学者から国際法の視点から見た難民問題について講演を受けるなどして,
難民問題についての理解を深めた。
その結果,専門部会における議論はすべての検討事項について完了したとはいえない
ものの,難民認定制度に関する法律改正のための準備期間を考慮し,ひとまず専門部会
の検討を終えた事項についてその結果を中間報告として取りまとめ,14年10月28日,専
門部会から出入国管理政策懇談会に提出され,同年11月1日,出入国管理政策懇談会か
ら法務大臣に中間報告が提出された。
中間報告が法務大臣に提出された後,専門部会においては,残された検討事項である
不服申立ての仕組みについて議論を進めているところ,前記のとおり,不服申立ての仕
組みについては,国内の法制度及び海外の難民不認定処分に対する不服申立制度を慎重
に検討していく必要があることから,専門家の各国における調査研究を踏まえ,出入国
管理政策懇談会から法務大臣に最終報告書が提出される予定である。
(4)出入国管理政策懇談会の中間報告
(3)の議論を踏まえ,平成14年11月1日に出入国管理政策懇談会から法務大臣に提出さ
れた中間報告の概要は次のとおりである(資料編6)
。
ア いわゆる「60日ルール」について
申請期間を設けることには,現在でも合理的理由があると考えられ,そして,この申
請期間の問題を,難民認定制度全体の中での公平性,透明性にかかわる問題と位置付け,
我が国が,今後,積極的に難民を受け入れていく姿勢を国際社会に示すメッセージとし
て,申請期間を現在より延長し,これを6月ないし1年とする方向で法改正されること
を提言する。
イ 難民認定申請中の者の法的地位
難民認定申請者については,安心して審査が受けられるよう,①法務大臣による難民
認定の許否の決定(異議申出を含む。)が下されるまでの間は,退去強制事由該当者で
あっても退去強制されないよう法的に保障すること,②政府として衣食住の提供や保護
施設の設置等必要な経済的・物質的保護措置の充実を図り(NGOとの効果的な連携も
検討する。),申請者が審査を受けることに専念できるような生活環境を確保することを
129
提言する。ただし,経済的・物質的援助を目当てとする難民認定制度の濫用者を排除す
ることに努力する必要がある。
ウ 関連する提言
難民認定申請に対する判断が遅延することは好ましくないので,真の難民を保護し,
第
2
部
審査手続の合理化・迅速化を図り,審査が1年以内に終結することを目途とした難民調
査官の大幅な増員,適正な人員配置,難民調査官の能力と専門性向上のための研修等の
充実・強化,及び,適切な通訳の確保に努められることを要望する。
さらに,難民認定制度濫用者を排除する基準ないし指針として,外国において既に難
民不認定処分を受けた者,明らかに安全な第三国を経由して来た者,身分事項を偽り又
は偽造証明書を提出するなど不正の手段を用いて庇護を受けようとする者等を排除して
いる欧州諸国の対応が参考にされてよいであろう。
エ 今後の課題
真に政治的迫害等から逃れて我が国に難民として庇護を求めて来た者については,迅
速に庇護し,必要に応じた援助を行うことが望ましい。これを実現するため,関係省庁
が真の難民の円滑な受入れ体制を整備するため相互に緊密な連携を保ちつつ積極的に取
り組んでいくことを希望する。
また,新たに構築される難民認定制度は,全体として合理性と透明性の高められたも
のであることが要請されているのであって,例えば,不認定理由の具体的で明確な告知
などについて改善が図られる必要がある。
第5節●外国人登録業務
1 地方分権推進計画に基づく「法定受託事務」
外国人登録は,法務大臣の所掌する事務であるが,その具体的な事務処理は市区町村長が行
っている。
この市区町村長が行う外国人登録事務はこれまで機関委任事務(注1)とされており,外国
人登録の内容は,市区町村長から都道府県知事を経由して法務大臣に送付・報告され,その記
録は電算処理された上保管されていたが,平成10年5月に閣議決定された地方分権推進計画
(注2)を受けて制定された地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(平成
11年法律第87号)により,機関委任事務が廃止されるとともに,市区町村が行う外国人登録事
務は地方自治法第2条第9項第1号に規定する第1号法定受託事務(注3)であることが明記
された。
これにより,登録原票の移動の承認,経由事務等に係る都道府県の事務そのものが廃止され,
130
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
市区町村は引き続き法定受託事務として外国人登録事務を担当することとなり,市区町村から
の各種報告事務については直接法務省へ送付されることとなった。
(注1)本来は国の事務であるが,その具体的な執行は都道府県知事・市区町村長等の地方公共団体の機関に委任され
ているものをいう。
(注2)国と地方公共団体が分担すべき役割を明確化し,これまでの機関委任事務制度は廃止することを内容としてお
第
2
部
り,国は国際社会における国家としての存立に関わる事務,全国的に統一して定めることが望ましい基本的な準
則に関する事務等を重点的に担うこととする一方,住民に身近な行政はできる限り地方公共団体の事務とするこ
とを基本としている。
(注3)本来国が果たす役割に属する事務であるが,国においてその適正な処理を確保する必要があるものとして法律
(これに基づく政令を含む。)により地方自治体で処理することとされる事務と定められたものをいう。
2 外国人登録事務の合理化推進
(1)外登法の一部改正による合理化
外登法は,制定以来,国内外の諸情勢の変化に応じ所要の見直しが行われ,今日に至って
いるが,第1章第2節のとおり,平成11年外登法の一部改正により,過去の国会における附
帯決議(注)等の趣旨を踏まえ,外国人の負担軽減及び事務処理の簡素化を行っている(第
1章第2節2)
。
(注)4年の外登法の一部改正の際の衆・参両議院法務委員会において,指紋押なつ制度を含め外国人登録制度の
在り方を同改正法施行後5年を経過した後の速やかな時期までに見直すようにとの附帯決議がなされている。
(2)地方分権推進計画に基づく都道府県の経由事務の廃止に伴う合理化
かつては市区町村の長が登録証明書を交付したときは,その旨を都道府県知事を経由して
法務大臣に報告するとともに,外国人本人が提出した写真1葉及び署名原紙を都道府県知事
を経由して法務大臣に送付しなければならないこととなっていたが,地方分権推進計画に基
づき都道府県の経由事務が廃止されることとなったのを機に,登録証明書を調製した地方入
国管理局から写真等を直接法務大臣に送付することとし,市区町村の事務の簡素・合理化を
図ることとした。
そのほか,外国人の登録内容に変更が生じた場合(転居,新たな在留許可など)には所定
の手続を経て登録事項の変更登録を行うことになるが,これに関する報告についても,同様
に市区町村から直接法務省に行うこととなった。
(3)今後の合理化
外国人登録事務の合理化については,外国人登録が目的とする在留外国人の公正な管理に
資すること,すなわち出入国管理行政を始め労働,教育,福祉その他各般の行政において在
留外国人の居住関係及び身分関係に関する正確な資料・情報を提供することが適切に実現さ
れることを念頭に,外国人登録制度を取り巻く国内外の諸情勢の変化等を踏まえつつ,例え
ば,近年発展著しいIT技術を活用した外国人登録事務のオンライン化について検討するな
ど,事務処理の簡素・合理化を図っていくこととしている。
131
第6節●出入国管理業務のコンピュータ化
出入国管理関係業務の電算化は,昭和40年代に端を発し,これまで①外国人の出入国及び在
留資格審査記録,②外国人登録記録及び要注意外国人リスト,③日本人の出帰国記録,④地方
入国管理局等へのオンライン化を実現する各種業務システムを順次開発し,導入・運用してき
第
2
部
た。昭和50年代以降,我が国に入国・在留する外国人の大幅な増加やその活動内容の多様化,
また,不法就労を目的に入国する外国人の増加といった状況に適確な情報管理で対処すること
が緊急の課題となり,出入国管理業務の更なる電算化,及び,既存システムの統合化を積極的
に推進し,各種業務処理にコンピュータが直接役立つような体制を早急に確立する必要に迫ら
れることとなった。
そこで,将来の業務処理のあり方を見据えながら出入国管理業務全般を電算化の対象とする
「入管電算トータルネットワーク構想」
(注)に基づく電算業務処理体制を構築することとした。
この構想は,入国管理局における独自の総合電算システムを早期に確立することを最終目標
としたものであり,出入国審査,在留資格審査及び退去強制手続という出入国管理業務の全分
野にわたる情報の一元化を図るとともに,各地方入国管理局等とのオンラインネットワークを
推進し,出入国管理行政における電算システムのネットワーク化を目指すものであった。
その後の電算化は,昭和63年度から,出入国審査総合管理システム,在留資格審査事務支援
システム及び退去強制手続支援システムが順次開発導入されたが,コンピュータ技術の進歩の
速度は目覚ましく,各システムの開発・導入時期ごとに,より高性能な機器で構成してきたこ
とから,導入時期が古いシステム機器と新しいシステム機器の間の互換性を保つために,別途
接続機能を持たせる必要が生じるなど,性能面,運用面及びコスト面における効率化も求めら
れることになった。
平成9年12月,政府が閣議において「行政情報化推進基本計画」を改定し,10年3月,これ
に基づく「法務省行政情報化推進計画」が策定されたことを受け,入国管理局においても,行
政情報化が取り巻く環境の変化等を踏まえ,出入国管理行政の情報化を強力に推進するための
「入国管理局行政情報化推進計画」を策定した。これにより,出入国管理行政のあらゆる分野に
おいて情報通信技術を活用し,必要な情報を,誰でも,何時でも,どこからでも瞬時に利用,
交換できるようなシステム及びネットワークを整備し,業務の簡素化・効率化,ペーパーレス
化及び経費削減,さらには個人情報の保護や適正な行政運営の確保などに配慮しながら,入管
電算システム機能の高度化と行政サービスの質的向上を図ることとしている。
(注)「入管電算トータルネットワーク構想」は,情報の完全統合化ではなく,各システムを連携したものである。
1 外国人出入国記録の早期取得システムの開発
従来,外国人の出入国記録を電子データとして一元管理するため,我が国に入国する外国人
が提出する出入国記録(EDカード)を全国の出入国港からすべて法務省に送付させた上でコ
ード化(注1)し,これを光学文字読取装置(OCR)によって読み取った後,氏名等の情報を
132
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
パンチ入力で付加することによりホストコンピュータに取り込むという行程を経ていたことか
ら,全国の外国人出入国記録を電子化するまでに,おおむね3週間を要していた。
しかし,国際間の人的移動は量的にも速度的にも著しく向上しており,さらに,本邦におけ
る外国人犯罪が増加し,我が国の治安維持のためにも入国した外国人に関する情報を直ちに把
握できる状況にすべきとの観点から,外国人出入国情報を即時に取得しホストコンピュータに
第
2
部
反映することができるシステムの必要性が高まってきた。
従来のシステムには,外国人の出入国記録情報を即時取得する機能がなく,また,大量のデ
ータを送信できる回線も整備されていなかったことから,後記2のとおり,大規模なシステム
の改修(再構築)計画が立てられ,平成13年度から3年計画で入管電算システムを再構築する
こととなった。折しも,システム開発初年度である13年9月,前記第1節2のとおり,米国で
同時多発テロ事件が発生し,国内外から,外国人出入国記録情報の迅速な取得の早期実現を求
める声が更に高まったことを踏まえ,再構築が完成するまでの措置として,全国の主要空港で
直接外国人の出入国記録を入力する方式に14年1月から改めた。
現在,再構築に取り組んでいるFEIS(外国人出入国情報システム)においては,旅券自動
読取装置(MRPリーダ)(注2)を利用して,機械読取旅券(MRP)情報を瞬時に読み取り,
要注意外国人情報,旅券・査証等情報と照合すると同時にホストコンピュータに迅速に反映さ
せることが可能となるため,取り込まれた情報は,その瞬間から入管電算システムのすべての
端末において検索が可能となる。
(注1)コード化とは,文字情報等を機械が読み取るための英数字(コード)に変換する作業のこと。
(注2)MRPリーダは,旅券上の名前,旅券番号,国籍,生年月日,性別,有効期限を機械的に読み取ることができる。
2 入管電算システムの再構築−「FEIS(外国人出入国情報システム)」の構築
これまでの入国管理におけるオンライン型電算システムは,昭和59年から運用している出入
国記録等情報システムを機軸として,出入国審査総合管理システム,在留資格審査事務支援シ
ステム及び退去強制手続支援システムがそれぞれ開発・運用されるごとに,連携機能を追加す
ることで接続しているにすぎない。このため,それぞれのシステムで管理している情報を他シ
ステムから一部取り出すことができないなど,効率的運用が十分に図られているとはいえない
状況であった。
そこで,平成13年度から3年計画で,各既存システムのデータベースを統合し,外国人出入
国記録情報の迅速な取得と併せて,在留資格審査事務支援システムをオープン化(注1)し,
イントラネット(注2)型システムへの再構築に向けた開発を進めることとなった。
入管システムの再構築が完成することにより,外国人出入国記録情報の迅速な取得はもとよ
り,統合照会機能による全システムのデータ検索が可能となる等一層の迅速・効率化が図られ
ることになる。
また,厳しい行財政事情の中,システム用通信回線をすべて高速かつ低価格のVPN(注3)
回線に切り替えるほか,在留資格審査事務支援システムのオープン化等により,導入費用の低
133
価格にも努めている。
(注1)オープン化
コンピュータ,周辺機器やソフトウェアの仕様が公開されているという意味。仕様が非公開であるということ
は,それを作り出した会社が独占的にその製品を製造・販売することを意味する。反対に仕様が公開されていれ
ば,それを使って第三者がその市場に参加できることになる。
(注2)イントラネット
第
2
部
インターネットの技術を利用した,組織内の情報通信網。電子メールやブラウザーなどで情報交換を行い,情
報の一元化・共有化を図る。
(注3)VPN
仮想施設網。
電話回線を使って構築した企業内専用網。国内外の事業所間で通常の内線電話のように利用することが可能。
高度な暗号,セキュリティ技術による仮想的なネットワーク配線。
第7節●国際化への対応
1 各種セミナーの主催
交通手段の発達や情報通信技術の進歩に伴い,国際社会においても,サービス,資本,情報
等の移動は一層活発化しており,「人の移動」もまた例外ではなく,より一層の円滑化が求めら
れている。
しかしながら,特に平成13年9月に発生した米国同時多発テロ事件により,テロリスト等の
国際間の移動を抑えることも出入国管理の重要な役割であるとの認識がより一層深められた。
このように相反する課題を抱えている国境を越える人の移動の問題は,一国限りの対応では限
界があることから,二国間,地域間,多国間での協力した取組が特に重要となってきており,
秩序ある人の移動を実現させるためには,出入国管理等に関する情報交換等国際協力の強化が
不可欠である。
入国管理局では,こうした認識から,ODA(政府開発援助)事業の一環として以下のような
各種プログラムを実施し,アジア諸国(地域)に対する行政技術の移転を図るとともに,域内
各国(地域)の出入国管理行政当局間での情報網・協力体制の構築に取り組んでいる(図37)。
(1)東南アジア諸国出入国管理セミナー
昭和62年度から毎年度,アジア域内各国(地域)の出入国管理行政当局幹部を招へいし,
域内の出入国管理行政に関する意見交換・情報交換の場を提供している。本セミナーにおい
て,建設的な意見交換及び情報交換を行うことで,参加各国の効果的な出入国管理政策立案
及び効果的な運用実現に寄与しているものと認識している。
特に,平成13年度は,9月11日の米国同時多発テロ事件の発生を受けて,それぞれの国が
テロ防止という新たな課題に直面しており,このために出入国管理当局間において更なる国
際協力の強化の必要性が増大しているとの点で参加者の見解が一致し,この国際協力の強化
の中でも,特に出入国管理に関する国際的な情報交換の必要性がこれまで以上に強調された。
134
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
図37
入国管理局ODA関連プログラム関係図
昭和62年度から実施
東南アジア諸国出入国管理セミナー
出入国管理行政全般の問題点について協議・意見交換
第
2
部
(継続的情報交換フォーラム)
平成7年度から実施
平成7年度から実施
偽変造文書鑑識技術者セミナー
JICA大阪国際センター主催セミナー
累次の東南アジア諸国出入国管理セ
JICAから要請を受け、大阪入国管理
ミナーで参加国から特に高い要望が
局が主体となり、約1ヶ月間アジア諸
寄せられていた文書鑑識技術者のた
国の出入国管理機関からの研修生を
めのセミナーを独立させたもの
受け入れることとしたもの
また,14年度は14か国(地域)(オーストラリア,ブルネイ,カンボジア,カナダ,中国,
中国香港,インドネシア,韓国,マレーシア,ニュージーランド,フィリピン,シンガポー
ル,タイ,米国)のほか,オブザーバーとして欧州委員会(注1),国連難民高等弁務官事
務所(UNHCR),国際移住機関(IOM)(注2)及びヨーロッパ,北アメリカ及びオース
トラリアの庇護申請,難民及び移民政策に関する政府間協議体(IGC)(注3)が参加し,
テロ対策,APIシステム(事前旅客情報システム)(注4)の導入,不法入国・不法滞在
者対策等について活発な意見交換が行われた。
なお,同セミナーにおいては,アジア域内及び太平洋諸国(地域)の出入国管理当局職員
が一堂に会する機会をより有意義なものとするために,9年度から,全体会合だけでなく,
セミナー参加国において特に関心のある当事国(地域)間で直接議論する場(二国間協議)
を設けている。
(注1)欧州委員会
欧州理事会(EU首脳会議)の決定の執行などを主な任務とする欧州連合(EU)の主要機関の1つ。
(注2)国際移住機関(IOM)
難民への支援,移民への支援及び人的資源移転計画を主な活動とする国際機関。
(注3)ヨーロッパ,北アメリカ及びオーストラリアの庇護申請,難民及び移民政策に関する政府間協議体(IGC)
英国,米国及びオーストラリアなど欧米諸国16か国の政府機関が,庇護申請,難民及び移民政策に関して
協議を行う非公式の協議体。
UNHCR及びIOMも各国と対等の立場で参加している。
135
(注4)APIシステム(事前旅客情報システム)
搭乗手続時等に電算機器により取得した乗員及び乗客情報を,航空会社からオンラインで提供を受け,要
注意人物等に係るデータベースと自動照合するシステム。
(2)偽変造文書鑑識技術者セミナー
前記東南アジア諸国出入国管理セミナーの開催を重ねる中で,参加国(地域)から,特に
第
2
部
偽変造文書鑑識技術に関する技術移転・情報交換の要望が強く寄せられたことを受け,平成
7年度から毎年度,同セミナーの参加国(地域)から偽変造文書鑑識業務に携わる実務者を
招いて,偽変造文書鑑識技術者セミナーを開催している。特に近年は不法移民及びこれをめぐる
国際組織犯罪等の問題が世界的に深刻化しており,アジア地域においても,巧妙な偽変造文書を
行使した事案が多発し,域内各国の出入国管理行政当局の共通した問題となっている。
そこで,本セミナーでは,我が国がこれまで蓄積してきた偽変造文書鑑識技術を紹介する
とともに,米国,カナダ,オーストラリア等の参加協力を得て,より効果的な技術移転及び
情報交換に努めることとしており,偽変造文書を行使した不法出入国事案の根絶に向けて取
り組んでいる。
14年度は,オーストラリア,バングラデシュ,ブルネイ,カンボジア,カナダ,中国,中
国香港,中国マカオ,インドネシア,韓国,ラオス,マレーシア,ミャンマー,パキスタン,
フィリピン,シンガポール,スリランカ,タイ,米国,ベトナム,ICPO(国際刑事警察
機構)(注)が参加した。
(注)ICPO(国際刑事警察機構)
国際犯罪及び国際犯罪者に関する情報の収集と交換,国際会議の開催及び逃亡犯罪人の所在発見と国際手配
書の発行等を行う国際制度。
偽変造文書鑑識技術者セミナー
136
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
2 研修の実施−「出入国管理行政コース」の支援−
平成7年度から,JICA(国際協力事業団)大阪センターが「出入国管理行政コース」の研
修を実施しているところ,それに,大阪入国管理局が全面的な協力を行っている。同研修は,
アジア地域内の開発途上国等において出入国管理行政に携わる中堅行政官に,日本の出入国管
理行政の現状を紹介し,行政技術の実施研修を行うことを通して,各地域内の出入国管理行政
第
2
部
の発展に資するとともに,地域内を結ぶネットワーク構築を目指している。
14年度は,バングラデシュ,ブータン,中国,カンボジア,インドネシア,カザフスタン,
マレーシア,モンゴル,ネパール,パキスタン,フィリピン,ベトナムの出入国管理行政当局
の中堅職員を受け入れ,1か月にわたり研修支援を行った。
3 条約及び国際会議への対応
近年,国境を越える「人の移動」の問題に対する関心が高まっていることから,出入国管理
に焦点を当てた条約や国際会議などが増加しており,入国管理局としても積極的にこれらの取
組に参加している。
(1)条約締結等への対応
ア 国連国際組織犯罪防止条約並びに「密入国」及び「人身取引」議定書の概要
国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(以下「本体条約」という。)は,国
際的な組織犯罪が近年急速に複雑化,深刻化してきたことを背景として,国際社会全体
がこれに効果的に対処することを目的として検討されてきたもので,重大犯罪の共謀,
資金洗浄,司法妨害等の犯罪化を定めるほか,多数国間の犯罪人引渡し,司法共助等の
幅広い協力体制につき定めており,移民の密輸,人身取引については同条約の附属議定
書(国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する陸路,海路及び空路によ
り移民を密入国させることの防止に関する議定書(以下「密入国」(スマグリング)議
定書という。)及び国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人,特に
女性及び児童の取引を防止し,抑止し及び処罰するための議定書(以下「人身取引」
(トラフィッキング)議定書という。)において犯罪化することを定めている。
本体条約及び両議定書等は,平成12年11月15日,国連総会で採択された。なお,我が
国は12年12月の本体条約への署名に引き続き,14年12月,両議定書等にも署名している。
(ア)「密入国(スマグリング)
」議定書
「移民を密入国させること」の定義は「金銭的利益その他の物質的な利益を直接又
は間接に得るため,締約国の国民又は永住者でない者を当該締約国に不法入国させ
ること」とされており,同議定書は,国際組織犯罪に対処するため,このような行
為等を刑事犯罪として確立し,それらの犯罪を防止等するため締約国間の協力を促
進することを目的としたものである。
出入国管理行政に関連するものとして,営利目的で移民を密入国させる行為,偽
137
変造旅券の譲渡,譲受け,所持等の処罰化(第6条),移民の密入国に関する情報交
換(第10条),移民を密入国させる行為等の防止等に関する入国管理局職員等の訓練
等(第14条)がある。
(イ)
「人身取引(トラフィッキング)」議定書
「人身取引」の定義は,性的搾取や強制労働などの目的で暴行,脅迫,欺もう等の
第
2
部
手段を用いて女性や児童等を移送し,収受するなどの行為,とされており,同議定
書はかかる行為を防止し,取り締まるとともに,対象となった被害者を保護しよう
とするものである。
出入国管理行政に関連するものとして,人身取引の被害者に対する援助及びその
者の保護(第6条),受入国における人身取引の被害者の法的地位の付与関係(第7
条)
,人身取引に関する情報交換及び入国管理局職員等の訓練等(第10条)がある。
(ウ)共通事項
両議定書の共通事項として送還に関する規定(密入国議定書第18条,人身取引議
定書第8条),運送業者による旅券等の確認義務の創設(密入国議定書第11条,人身
取引議定書第11条),旅行文書の安全性の確保(密入国議定書第11条,人身取引議定
書第12条)等がある。
イ 日・シンガポール新時代経済連携協定の締結
平成11年12月の日本とシンガポール両国首脳の合意に基づいて,両国の産官学からな
る経済連携強化の検討を行う共同研究会が設置され,その報告内容を踏まえつつ政府間
で交渉を重ねた結果,日・シンガポール新時代経済連携協定が,14年1月に署名され,
同年11月に発効した。
本協定は,貿易や投資の自由化にとどまらず,様々な分野において二国間の協力関係
促進を目指しており,これまでの自由貿易協定の枠を超えた新しいものであるといえる。
本協定には,「人の移動」という1つの章が設けられており,両国は,相手国の①短
期の商用訪問者(出張者等),②企業内転勤者,③投資家,④自国の公私の機関との個
人的な契約に基づいて業務に従事する自然人(高度な工学的知識を有し,技術者として
雇用される者)のいずれかに該当する人について,一定の条件及び制限の下で,自国の
領域への入国及び領域内における一時的な滞在を認めることとなった。
ウ 人権条約規定に基づく報告及び審査への対応
我が国が締結している経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約,市民的及び
政治的権利に関する国際規約,女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約,
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約,児童の権利に関する条約並びに拷問
及び他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約では,こ
れらの条約の実施状況等につき国連事務総長等に報告することとなっている。入国管理
138
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
局では,外国人の出入国管理を所管する立場から報告書の作成を行っており,その内容
に応じてジュネーブで行われる報告書審査にも出席している。
エ WTO協定サービス交渉への対応
サービス貿易の漸進的な一層高い水準の自由化が達成されることを目的として,平成
第
2
部
14年初めから,17年1月を交渉期限とした複数国間での自由化約束交渉が開始された。
現在,我が国はWTO(世界貿易機関)のGATS(サービスの貿易に関する一般協定)
に基づき,①短期の商用訪問者(出張者等)及び②企業内転勤者について,一定の条件
及び制限の下,我が国への入国及び我が国における一時滞在を認める約束を行っている。
出入国管理業務との関連が深い第4モード(自然人の移動によるサービス提供)は,
各国の関心も高く様々なリクエストが寄せられている。入国管理局としては,各国から
のリクエストを踏まえつつ,外務省の取りまとめの下に行われている新たな約束の策定
に積極的に取り組んでおり,交渉にも入国管理局職員が参加し,直接我が国の制度説明
を行うなどしている。
オ その他の条約
平成14年1月に小泉内閣総理大臣によって提案された日ASEAN包括的経済連携構想
の一環として,同年9月からタイと,同年10月からフィリピンと,15年5月からマレー
シアとの間で,前記イの日・シンガポール新時代経済連携協定を参考にしつつ,二国間
の経済連携を検討する作業部会が開催されている。「人の移動」の問題はすべての会合
において主な関心事項の一つとなっていることから,入国管理局から職員が参加するな
どし,作業に取り組んでいる。
また,経済連携に向けた取組として,14年7月から韓国との間で産官学からなる日韓
FTA研究会が,同年11月からメキシコとの間で経済連携強化に向けた正式交渉が始ま
っており,これらの中でも同様に「人の移動」が大きな論点の一つとして取り上げられ
ている。
そのほか,空港における手続に関する規定を定めた国際民間航空条約(ICAO)第9
そのほか,空港における手続に関する規定を定めた国際民間航空条約第9附属書の改
正作業や,国際海運の簡易化に関する条約(FAL条約)の加入に向けた作業に取り
附属書の改正作業や,国際海運の簡易化に関する条約(FAL条約)の加入に向けた作
組んでいる。
業に取り組んでいる。
(2)国際会議への対応
ア G8移民専門家会合
G8(注)におけるテロ対策や国際組織犯罪対策を検討する作業部会の一つで,出入
国管理の専門家による会合である。出入国管理におけるG8としての効果的な取組み等
について議論が行われており,入国管理局から職員が出席し,G8の担当者との情報交
換の場としても有効に活用している。本会合で採択された内容は,「交通保安に関する
139
G8協調行動(人員部分)」(2002年カナナスキス・サミット)などの形で成果が現れて
いる。
(注)平成6(1994)年にナポリで開催された主要先進国首脳会議(サミット)からロシアが政治問題の討議に
のみ参加できることとなったことから,7か国(日本,米国,英国,フランス,ドイツ,カナダ,イタリ
ア)をメンバーとして行っていた通常のサミットと区別するためにP8(Political 8)との呼称が用いられ
第
2
部
ていたが,平成9(1997)年のデンヴァーサミットからロシアがサミットのメンバーとして正式に参加す
ることとなったことから,G8と呼ばれるようになった。
イ 環太平洋出入国管理専門家会合(PACRIM)
アジア太平洋地域の出入国管理行政当局の主として情報管理担当者等による情報交換
及び協力促進を目的とする会議で,平成6年から年1回開催されている。9年には,第
4回会合が日本において開催された。より行政実務的な情報交換を行うことを目的とす
る会合であり,不法移民問題をはじめ,偽変造文書問題,密航問題等について協議が行
われている。入国管理局からは毎回職員が参加し,情報交換等に努めている。
ウ グローバルコンサルテーション(世界協議)
「世界協議」(Global Consultations)は,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が,
難民流入国における負担の増大,難民受入国における難民認定制度濫用者の問題等,現
下の世界の難民をめぐる状況を踏まえ,難民条約に基づく難民の保護体制が,現在の世
界情勢に十分に対応できていないとの認識に立って,難民保護体制を再活性化するため,
難民条約成立50周年となる平成13年に世界規模で行うことを提唱した会議である。この
協議は,第1部会が閣僚級会合,第2部会は学識者会合,第3部会は実務レベル会合と
いう3つの部会で構成されており,13年5月28日,29日,中国マカオ特別行政区におい
て開催された第3部会アジア・大洋州地域会合には入国管理局からも出席し,保護を必
要とする者を特定する手続の策定等に関し,必要な意見を述べている。
エ その他の国際会議等
前記国際会議以外にも,入国管理局は二国間での経済関係協議,テロ対策協議,領事
当局間協議,治安当局間協議等に出席し,積極的に我が国の立場を説明し協力関係の構
築に努めているほか,OECD/SOPEMI(経済開発協力機構・移民に関する継続的報
告システム),人の密輸に関する地域会合,ASEM(アジア・欧州会合)移民担当局長
級会合,IATA/CAWG(国際民間輸送協会・入国管理機関関係部会)等,多国間での
情報・意見交換や協力関係向上を目的とした会合等にも積極的に参加している。
また,UNHCR執行委員会,APEC(アジア太平洋経済協力)ビジネス関係者の移
動専門家会合等での議論も,当局の業務に深く関連するところであり,積極的な対応を
行っている。
140
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
第8節●広報活動と行政サービスの向上
1 広報活動の推進
入国管理局では,幅広い国際交流や適正な入国・在留管理を円滑に推進するためには,積極
的な広報活動が重要であるとの認識の下,従来よりその実施及び充実に努めてきた。
第
2
部
例えば,我が国社会の多くの分野に様々な問題を引き起こす可能性がある外国人の不法就労
防止対策の推進には,事業主等を含め国民各層に対し,施策の趣旨を適切に理解してもらうこ
とが不可欠である。そこで,平成5年から,内閣官房が中心となり「外国人労働者問題啓発月
間」が設定され,外国人労働者の正しい受入れに関し国民の理解と協力を得るための広報活動
が実施されている。この一環として入国管理局でも,例年6月を「不法就労外国人対策キャン
ペーン月間」に設定し,関係省庁及び地方自治体等に対しポスターやリーフレットを送付する
などして,不法就労防止に対する協力依頼をしている。また,著名人を招いての「一日入国管
理局長」や中学生に入国審査を体験してもらう「一日入国審査官」等のイベントを行ってきた。
さらに,出入国管理行政に関する広報活動の在り方について,全国的に適切かつ統一のとれ
た対応を執ることが可能となるよう,平成7年度から,各地方入国管理局等の広報担当者を集
めて「地方入国管理官署広報担当者協議会」を実施しており,組織として広報の質の向上を目
不法就労外国人対策キャンペーン月間ポスター
141
指している。
入国管理局としては,国民に開かれた出入国管理行政の推進を目指し,今後とも,広報活動
の充実に努めていく方針である。
第
2
部
一日入国審査官
2 行政サービスの向上
(1)入国・難民申請手続総合案内所の設置
我が国と諸外国との交流が活発化し,我が国を訪れる外国人が増加している中,これら外
国人の上陸手続に関する各種相談も多様化してきていること,また,難民認定制度の合理
性・透明性を高める必要性もあることから,これら各種相談に迅速・的確に対応するため,
平成15年1月6日から,東京入国管理局成田空港支局内に「入国・難民申請手続総合案内所」
を設置した。さらに,同年4月15日には,大阪入国管理局関西空港支局内にも同様の相談所
が設置された。
(2)インフォメーションセンターの拡充
入国管理局の職員は,正規に入国・在留する外国人に,さわやかな行政サービスを提供し
ようと努めているものの,これまでに見たような業務量の増加をも原因として,審査時間や
待ち時間が長時間に及び,また,十分な手続案内がなされていないといった苦情も寄せられ
ている。
そこで各地方入国管理局等では,職員の行政サービスに関する意識の向上を図り応接態度
を洗練するほか,窓口環境の整備や各種案内サービスの工夫等その改善に取り組んでいる。
例えば,外国人の中には,生活様式・風俗習慣・言語などが異なっているため,入国・在
留手続やその他日本の法律,社会制度などに不案内である場合も少なくなく,そのような場
合の支援のため,「外国人在留総合インフォメーションセンター」を開設し,外国人及び本
邦の関係者に対して,次のような案内を行っている。
○ 外国人社員や研修生の招へい,配偶者等の呼び寄せなどの入国関係諸手続
○ 在留資格の取得及び変更,在留期間の更新,永住許可などの在留関係諸手続
142
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
○ 外国人登録手続
○ 外国人の入国・在留に関する各種申請書類の記載要領
○ その他外国人の入国・在留に関する各種案内
このインフォメーションセンターは,平成10年8月までに既に設置されていた東京入国管
理局,同局横浜支局,名古屋入国管理局,大阪入国管理局,同局神戸支局,広島入国管理局,
第
2
部
福岡入国管理局以外に,11年8月1日に仙台入国管理局に設置され,英語のほか韓国語,中
国語,スペイン語等様々な言語で,電話や来訪による外国人の入国・在留に関する手続につ
いての相談に応じている。
また,札幌入国管理局,高松入国管理局及び福岡入国管理局那覇支局の2地方入国管理
局・1支局には相談員を置き(札幌及び那覇は11年7月1日設置,高松は同年8月1日設
置。),インフォメーションセンターと同様の総合案内を行っており,前記(1)の入国・難
民申請手続総合案内所の設置と併せて,全国の8地方入国管理局・5支局すべてにおいて総
合案内所が設置され,外国人の相談・案内に適切に対応できる体制となっている。
なお,インフォメーションセンターの運営は,後記第9節2の(財)入管協会に委託され
ている。
外国人在留総合インフォメーションセンター
(3)入国管理局ホームページの開設
入国管理局では,平成14年3月,法務省ホームページ以外に入国管理局専用の「外国人在
留総合案内用ホームページ」を開設し,入国在留手続等のQ&Aや,地方入国管理官署の所
在地,連絡先,略図及び窓口開設時間等が閲覧できるように申請者等への利便を図っている。
143
第9節●公益法人の活用
入国管理局が所管する公益法人には,財団法人日韓文化協会,財団法人入管協会,財団法人
日本語教育振興協会及び財団法人国際研修協力機構がある。我が国に入国・在留する外国人が
増加し,その活動内容も多様化している中,これら公益法人は,国際交流の増進や外国人の入
第
2
部
国・在留に関する制度・手続の正しい理解等について国内外で支援・助言する事業を運営して
いる。入国管理局では,これら公益法人の活動を通じて更にきめ細やかなサービスを提供する
観点からも,これら公益法人の事業運営に積極的に協力している。
1 財団法人日韓文化協会
(財)日韓文化協会は,日韓文化の交流を図り,日本に在住する韓国人の生活と文化の向上を
促進し,日韓善隣友好の実を挙げることを目的として,昭和32年12月6日に設立され,平成15
年3月31日現在,特定公益増進法人の指定を受けている。
同協会の主な事業は,韓国人子弟の育英のため奨学金を大学生・大学院生に支給することで
あるが,14年5月に日韓共催で行われた2002年ワールドカップ・サッカー大会を契機として日
韓交流の気運が高まっていることもあり,今後,同協会の活動がより一層日韓文化の交流に資
することが期待される。
2 財団法人入管協会
(財)入管協会は,国際間の人の交流に関し,調査研究を行い,知識の普及を図るとともに,
出入国管理行政の円滑な運営に寄与し,もって国際的な相互理解及び国際協力の増進に資する
ことを目的として,昭和62年8月20日に設立された。
同協会では,会報誌「国際人流」や出入国管理に関する法令解説集等の刊行物の発行・頒布,
出入国管理行政に関連したセミナー・研修会の開催のほか,「外国人在留総合インフォメーショ
ンセンター」の運営も行っており,外国人の入国・在留に関する情報発信源として広く定着し
ている。
また,平成6年度から,正しい外国人の受入れと研修・技能実習制度の活用促進を図るため,
法務省,(財)国際研修協力機構,日本商工会議所,全国中小企業団体連合会等の後援の下,各
種関連制度についての理解を深めるためのキャンペーンを実施するなど,適正な外国人の受入
れに関する啓蒙活動に大きな役割を果たしている。
3 財団法人日本語教育振興協会
(財)日本語教育振興協会は,我が国における日本語教育施設の質的向上を図るため,外国人
に対する日本語教育の振興に貢献することを目的として,平成2年2月26日に法務省及び文部
省(現文部科学省)の共管の公益法人として設立された(その後,外務省も主務官庁となって
いる。
)。
144
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
同協会では,外国人に対する日本語教育を行うにふさわしい教育施設の審査・証明,教育施
設の概要を掲載した要覧の作成・頒布,日本語教育教材の研究・開発,日本語教育施設の水準
向上のための研究会・研修会の開催,日本語教育を受ける外国人の入国・在留に関する助言・
調査研究等の事業を行っている。
日本語教育施設の中には,教育施設としての実態を伴っていないなどの問題がある例が多々
第
2
部
見られる時期もあったが,同協会による審査・証明事業や日本語教育施設に対する指導・助言
等により状況は改善しており,日本語教育を受けようとする外国人の適正な入国・在留に大き
く貢献している。
4 財団法人国際研修協力機構
(財)国際研修協力機構は,研修生・技能実習生の受入れの拡大と円滑化を図り,我が国の技
術,技能又は知識を開発途上国等に寄与することを目的として,平成3年9月19日に法務省,
外務省,通商産業省(現経済産業省)及び労働省(現厚生労働省)の共管の公益法人として設
立された(その後,建設省(現国土交通省)も主務官庁となっている。
)。
同機構では,研修生・技能実習生の入国・在留に関する法制度や申請手続等に関する案内や
参考書の作成,各種申請書類の作成要領の指導・助言及び申請書類の点検,在留資格認定証明
書交付申請等の取次等の事業を実施している。
また,研修生・技能実習生の受入れ機関・送出機関を対象とした各種説明会や情報誌の発行
などを通じて,研修・技能実習制度に関する知識・理解の広報・啓発を推進するなど,研修
生・技能実習生の適正かつ円滑な受入れに大きく貢献している。
第10節●組織・職員の拡充
近年の出入国管理行政を巡る状況の変化は著しく,業務の量的増加及び質的複雑化・困難化
を反映して,組織・機構,人員等の整備・拡充が図られてきた。
現在,出入国管理行政は,法務省入国管理局を始めとする全国の入国管理関係機関において
2,600人余りの職員によって遂行されているが,出入国管理行政の抱える課題は多岐にわたって
おり,なお体制整備面での課題も少なくない。
1 組織・機構
(1)入国管理官署の概要
出入国管理業務を所掌する組織としては,法務本省の内部部局として入国管理局が設置さ
れ,また,法務省の地方支分部局として,全国8つの地域ブロックごとに地方入国管理局,
その下に支局及び出張所(支局の出張所を含む。)が設置されている。また,法務省の施設
等機関として全国3か所に入国者収容所が設置されており,それぞれ法令に基づいて,出入
145
国審査,在留審査,退去強制手続,難民の認定といった出入国管理行政関係の様々な業務を
行っている。
これら,入国管理局,地方入国管理局,支局,出張所及び入国者収容所を総称して「入国
管理官署」という(図38,39)。
第
2
部
図38
入国管理局組織表
(平成15年6月30日現在)
(施設等機関)
東日本入国管理センター
入国管理センター 3か所
地方入国管理局 8局
西日本入国管理センター
同支局 5局
出張所 77か所
大村入国管理センター
(地方支分部局)
札幌入国管理局
出張所(6か所)
仙台入国管理局
出張所(9か所)
東京入国管理局
出張所(12か所)
法
務
省
入
国
管
理
局
成田空港支局
横浜支局
出張所(2か所)
出張所(10か所)
名古屋入国管理局
出張所(8か所)
大阪入国管理局
関西空港支局
神戸支局
広島入国管理局
出張所(8か所)
高松入国管理局
出張所(3か所)
福岡入国管理局
出張所(12か所)
那覇支局
146
出張所(2か所)
出張所(5か所)
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
図39 法務省入国管理局所管事項
● 入国審査官,入国警備官の配置及び規律に関する事項
総務課
● 地方入国管理官署の組織及び運営に関する事項
第
2
部
● 出入国の管理に関する法令案の作成に関する事項
● 他の課の所掌に属しないもの
● 一時庇護のための上陸の許可に関する事項
難民認定室
● 難民の認定及び難民の認定の取消しに関する事項
● 難民旅行証明書の交付及び返納命令に関する事項
● 出入国の管理に関する情報の収集,整理及び分析に関する
出入国情報管理室
事項
● 出入国の管理に関する情報システムの運用及び管理に関す
る事項
入国管理企画官
● 出入国管理基本計画の策定に関する事項
● 入国管理局の総合調整に係る企画に関する事項
入国管理調整官
● 外国人の上陸の許可に関する事項
局長
入国在留課
● 外国人の在留の許可に関する事項
● 外国人の再入国の許可に関する事項
審査指導官
● 日本人の出国及び帰国,外国人の出国の確認に関する事項
● 出入国の管理に関する船舶等の長及び運送業者の責任に関
する事項
● 違反審査に関する事項
● 外国人の上陸及び退去強制についての口頭審理及び異議の
審判課
申出に関する事項
● 収容令書,退去強制令書の発付に関する事項
● 難民の認定をしない処分及び難民の認定の取消しについて
の異議の申出に関する事項
● 違反調査に関する事項
警備課
● 収容令書,退去強制令書の執行に関する事項
警備指導官
● 収容施設の警備,被収容者の仮放免及び処遇に関する事項
登録課
● 外国人の登録に関する事項
登録指導官
参事官
● 入国管理局の所掌事務に関する法令案の作成その他重要事
項についての企画及び立案に参画
(注) 上記のほか,官房審議官1人及び局付3人が,入国管理局担当として配置されている。
147
(2)入国管理官署の主要な拡充
ア 中央省庁等再編に伴う本省組織の再編
平成13年1月に行われた中央省庁等改革の一環として,入国管理局政策課が廃止され,
同局総務課入国管理企画官が設置された。入国管理企画官は,出入国管理政策に関する
一般的企画から出入国管理基本計画の策定,入国管理局の所掌に係る危機管理対策など
第
2
部
幅広い企画・立案業務を担当している。特に,危機管理対策に関する業務については,
13年9月に発生した米国同時多発テロ事件以降,その重要性が非常に高まっており,そ
れに伴い,入国管理企画官の果たす役割は大きなものとなっている。
イ 偽変造文書対策及び文書鑑識体制の強化のための組織拡充
近年,ますます巧妙化する旅券,査証,上陸許可証印等の偽変造事案に的確・厳正に
対処するため,前記第1節4で述べたとおり,平成11年度に成田空港支局,12年度に関
西空港支局にそれぞれ偽変造文書対策室を設置した。13年度には,同年5月に発生した
偽造ドミニカ共和国旅券を行使した不法入国事件を受けて,成田・関西空港など主要空
港に文書鑑識要員を増配置し,15年度には法務省入国管理局総務課出入国情報管理室に
文書鑑識係が設置されるとともに,名古屋空港及び福岡空港出張所に偽変造文書対策担
当の統括審査官を配置した。これら文書鑑識体制の強化により,入国管理官署における
偽変造文書鑑識機能が向上し,偽変造文書に関する情報が収集・蓄積されたことから,
偽変造旅券等を行使して不法に入国・在留を企てる外国人の発見に効果的な役割を果た
している。
ウ 不法滞在者対策の強化に伴う組織拡充
平成15年1月1日現在の我が国における不法残留者数は約22万人であり,過去最高で
あった5年5月1日現在の約30万人に比べると約8万人減少したものの,依然として高
い水準で推移している。前記第3節1のとおり,これら不法滞在者の削減を図るため,
首都圏を中心に入管法違反者の摘発体制の整備を進めており,13年度には東京入国管理
局さいたま出張所,千葉出張所及び横浜支局,14年度には東京入国管理局水戸出張所,
宇都宮出張所及び高崎出張所に新たに摘発専従要員を配置した。また,15年度には,東
京入国管理局に地域住民,関係機関等からの不法滞在者に関する情報を一元的に受理・
収集し,これらの情報を分析して精度を高めた上で各審査部門及び警備部門に提供する
組織として,調査企画部門を新設するとともに,新宿区内を中心とした不法滞在者など
の入管法違反容疑者に関する実態調査,各種情報収集及び摘発を行うことを目的として
新宿出張所を設置した。
エ 難民認定業務に係る組織の拡充
近年,難民認定申請は,増加傾向にあり,申請者の国籍も多様化していることから,
148
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
難民認定に関する調査は,ますます複雑かつ困難化してきている。また,平成14年5月
に発生したいわゆる瀋陽総領事館駆け込み事件を契機として,難民問題に関する国民の
関心が高まった。
そこで,15年度には,東京入国管理局の永住・難民審査部門を分割し,新たに難民調
査部門を新設するとともに,難民の認定に関する事実の調査を行う難民調査官を増員配
第
2
部
置した。
オ 地方入国管理局の出張所の整理・統廃合
地方入国管理局の出張所(支局の出張所を含む。)については,元来,外航船舶の乗
員・乗客の出入国審査を目的として設置された歴史的事情を背景に,その大半が全国の
海港区域内に立地していたが,国際間の主たる輸送手段が船舶から航空機に移ったこと
に伴い,空港における出入国審査が主となった。また,就労,勉学,日本人配偶者等と
の同居などを目的に長期間我が国に在留する外国人が増加したことにより,これら行政
のニーズの変化に応えるために,空港や外国人が多数居住する都市部に出張所を新設,
あるいは移転する必要が生じた。
そこで,入国管理局では,海港に設置されている出張所の整理・統廃合を進めるとと
もに,国際線が数多く就航している地方空港や,都道府県庁所在地その他主要都市に出
張所を設置するなど,出張所の再配置に努めてきた。
表59
地方入国管理局の出張所の整理統廃合状況(実績)
廃 止
区分
年度
平成11
12
13
14
15
(平成15年6月30日現在)
設 置
名 称
所在地
名 称
所在地
箱崎出張所
東京都中央区
千葉出張所
千葉市
宮崎出張所
宮崎市
佐賀出張所
佐賀市
静岡出張所
静岡市
千葉港出張所
千葉市
木更津港出張所
木更津市
衣浦港出張所
半田市
水俣港出張所
水俣市
細島港出張所
日向市
坂出港出張所
坂出市
尼崎港出張所
尼崎市
呉港出張所
呉 市
唐津港出張所
唐津市
伊万里港出張所
伊万里市
横須賀港出張所
横須賀市
鹿児島空港出張所
姶良郡溝辺町
清水港出張所
清水市
田子の浦港出張所
富士市
岩国港出張所
岩国市
甲府出張所
甲府市
八代港出張所
八代市
岐阜出張所
岐阜市
日立港出張所
日立市
大津出張所
大津市
鹿島港出張所
鹿島郡神栖町
水戸出張所
水戸市
東京港出張所
東京都江東区
新宿出張所
東京都新宿区
渋谷出張所
東京都渋谷区
149
今後は,出入国審査,在留審査及び入管法違反者に係る情報収集等を総合的に行う
「出入国管理総合事務所」型の出張所の整備を進めることにより組織の大幅な合理化・
効率化を図っていく必要がある。
これらの動きは,平成11年4月に閣議決定された「国の行政組織等の減量,効率化等
に関する基本的計画」の中で示されている,「地方入国管理局出張所については,海型
第
2
部
から内陸型への再編を進めるとともに,縮減を図る」との基本方針において明確に具体
化されている(表59)
。
2 職員
(1)入国管理局職員
入国者収容所及び地方入国管理局には,出入国管理業務に従事する職員として,入国審査
官,入国警備官が配置されているほか,一般行政事務を行う職員である法務事務官及び医師
等の法務技官が配置されている。
入国審査官は,①上陸及び退去強制についての審査及び口頭審理,②収容令書又は退去強
制令書の発付,③仮放免,④難民認定及び在留資格諸申請等に関する事実の調査を行うほか
法務大臣の補助機関として,在留資格審査等を行っている。
入国警備官は,①入国,上陸又は在留に関する違反事件の調査,②収容令書又は退去強制
令書を執行するため,その執行を受ける者の収容,護送,送還,③入国者収容所,収容場に
おける被収容者の処遇及び施設の警備など入管法違反者の取締りを行っており,「国家公務
員法」及び「一般職の職員の給与に関する法律」の規定の適用については警察職員とされ,
危険な業務に従事することも多いことから,公安職職員となっている。
入国警備官には,摘発等の部隊組織で行動する際の指揮命令を明らかにするため,7つの
階級(上位から警備監,警備長,警備士長,警備士,警備士補,警守長,警守)が設けられ
ている。
また,入国審査官及び入国警備官は,個々の職員が独立した出入国管理業務の専門家とし
ての業務を行うことから,「専門官制」が導入されている。業務処理に必要な法律知識に加
えて,バランスのとれた国際感覚,外国人の多様な風俗,習慣,宗教及び人権に配慮した柔
軟な対応が求められている。
(2)増員
入国管理局関係の職員数は,平成15年度は2,693人で,平成10年度の2,512人と比べ約7%,
181人増加している。しかし,この間に出入(帰)国者数,在留資格審査件数等の業務件数
は,増員を上回る割合で増加しており,加えてテロ行為・不法入国防止のための入国審査の
厳格化,複雑・巧妙化する偽変造文書対策,外国人犯罪の温床となっている不法滞在者の摘
発強化など業務内容も複雑・困難の度合いが増している。このような状況に的確かつ迅速に業務
。
処理を行い,国民の行政ニーズに応えていくためには,さらなる増員が望まれる(図40,表60)
150
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
図40 入国管理官署職員定員の推移
(人)
3,000
2,800
第
2
部
2,600
2,400
2,200
2,000
1,800
1,600
1,400
1,200
1,000
800
600
400
200
0
昭和60 平成2
表60
7
8
9
10
11
12
13
14
15 (年度)
入国管理官署職員定員の推移
区分
(人)
地 方 入 国 管 理 官 署
本 省
事務官
事務官
審査官
警備官
その他
小計
総 数
昭和60
169
155
703
658
55
1,571
1,740
平成2
166
154
777
673
46
1,650
1,816
7
163
165
1,152
869
38
2,224
2,387
8
161
166
1,182
915
34
2,297
2,458
9
161
166
1,203
931
31
2,331
2,492
10
159
166
1,202
956
29
2,353
2,512
11
159
165
1,204
978
27
2,374
2,533
12
157
164
1,196
998
26
2,384
2,541
13
156
155
1,211
1,017
26
2,409
2,565
14
154
146
1,268
1,070
25
2,509
2,663
15
152
144
1,272
1,101
24
2,541
2,693
年度
(3)研修
近年の業務内容の複雑・困難化等に対処するためには,入国管理局関係職員の資質・能力
の向上が必要であり,研修体制の充実・強化に取り組んでいる。
法務省の研修機関である法務総合研究所によって実施される初任者,中堅職員,管理者等
を対象とした体系的な研修に加えて,職員の専門知識を向上させるために偽変造文書鑑識従
151
事者研修,入国在留事務従事者研修,難民認定事務従事者研修,入国警備官警備処遇担当官
研修,情報システム等運用担当職員研修等各種の実務研修を実施している。このほかに,人
権関係,メンタルヘルス関係の研修,警察等の関係機関が行う研修,海外研修等に職員を積
極的に参加させることにより幅広い知識・経験を積ませるように努めている。
また,入国管理局の業務は主として外国人を対象としていることから,英語,中国語,韓
第
2
部
国語,スペイン語等については,語学専門学校等に語学研修を委託し,業務に必要な語学能
力の向上を図っている。
第11節●予算等
1 予算
出入国管理行政の予算の推移は,図41,表61のとおりであり,近年,業務量が増加するとと
もに,質的にも業務の複雑・困難化の度合いが増していることを反映し,体制の整備・拡充が
順次図られていることを裏付ける結果となっている(図41,表61)。
なかでも電子計算機運用関連予算については飛躍的に増加しており,近年,出入国管理行政
の電算化が著しい進展を遂げていることがうかがえる(図42)。
図41
予算額の推移
(千円)
40,000,000
35,000,000
30,000,000
25,000,000
20,000,000
15,000,000
10,000,000
5,000,000
0
昭和63
(注) 予算額は当初予算額である。
152
平成5
平成10
平成15 (年度)
第3章 出入国管理行政に係る主要な取組
表61
出入国管理行政の予算
(単位:千円)
法務本省(入国管理局)
区分
総 額
年度
入国管理局
関係経費
地方入国管理官署
外国人登録事務費
総 額
一般事務費
委託費
地方入国
管理官署
護送収容費
昭和63
2,049,351
167,011
90,309
1,792,031
10,036,213
9,823,652
212,561
平成5
5,273,028
494,052
260,304
4,518,672
18,184,162
17,065,952
1,118,210
10
5,446,034
664,429
377,158
4,404,447
25,769,798
24,291,015
1,478,783
11
5,801,587
609,463
305,628
4,886,496
26,500,173
24,986,218
1,513,955
12
5,646,393
585,721
399,412
4,661,260
27,130,991
25,628,022
1,502,969
13
5,350,020
452,939
463,989
4,433,092
27,597,170
26,091,206
1,505,964
14
5,126,630
245,441
371,925
4,509,264
29,229,770
27,426,048
1,803,722
15
4,994,338
230,580
267,931
4,495,827
29,077,187
27,387,158
1,690,029
第
2
部
(注)予算額は当初予算額である。
図42 電算関連主要予算額の推移
(千円)
7,000,000
6,000,000
5,000,000
4,000,000
3,000,000
2,000,000
1,000,000
0
昭和63
平成5
平成10
平成15 (年度)
(注) 予算額は当初予算額である。
2 施設
平成15年3月31日現在,全国に8か所ある地方入国管理局は,法務単独庁舎(東京),法務合
同庁舎(仙台,名古屋,大阪,高松),行政合同庁舎(札幌,広島)及び民間施設(福岡)に入
居している。また,地方入国管理局支局及び出張所は,港湾合同庁舎,行政合同庁舎及び民間
施設に入居している。さらに,全国に3か所ある入国者収容所は,いずれも平成5年以降に完
成した施設であり,法務単独庁舎(大村)及び法務総合庁舎(東日本・西日本)に入居してい
る。
153
近年,我が国に入国・在留する外国人は年々増加し,各種申請等のために地方入国管理局等
を訪れる人も増加しているが,一部の地方入国管理局等では待合室を十分に確保することがで
きないことなどから,相当の混雑を来すとともに,職員の執務環境も悪化している。また,不
法滞在外国人対策として摘発を強化する上で,収容施設の拡充を図る必要が生じるなど,施設
の整備が喫緊の課題となっている。
第
2
部
こうした中,港湾合同庁舎に入居していた福岡入国管理局が,平成12年12月,交通至便な福
岡空港に隣接する旧国際線旅客ターミナル施設へ移転した。また,東京入国管理局は,各種業
務の取扱件数が大幅に伸び,同局専用部分の狭あい化が進行したため,2年12月,退去強制部
門を東京都北区の東京入国管理局第二庁舎に移転し,業務を行っていたが,15年2月,東京都
港区港南に完成した地上12階,地下1階建ての新庁舎へ移転するなど,狭あい化・分散化の解
消,申請者の利便性の向上,窓口環境の改善,及び収容施設の拡充などに努めており,さらに,
東日本入国管理センターでは,不法滞在外国人対策の一環として,収容施設の増築工事を行い,
15年度中に完成する予定となっている。
このように,入国管理局では,順次施設の整備を進めているところであるが,今後とも更な
る施設の充実に努めたいと考えている(表62)。
表62
収容定員の推移
区分
年度
平成10
11
12
13
14
15
2,219
2,418
2,418
2,568
2,788
3,039
入国者収容所
1,350
1,549
1,549
1,549
1,549
1,800
地方入国管理局
869
869
869
1,019
1,239
1,239
収 容 定 員 合 計
各年度3月31日現在(平成15年度は予定定員)
東京入国管理局新庁舎全景
154
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