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レポート問題と解説
r–1 4月20日:今日は高校での微積分とその延長. x ≥ 0 を「x は非負 (non-negative)」,x ≤ 0 を「x は非正 (non-positive)」ということがある. A := B というのは,A を B で定義する,の意味.例えば f (x) := x2 とか. 第1回レポート問題:簡単な計算練習ですが,ともかくやりましょう.面白くない問題ですが,そのうち に少しは面白く(難しく)なるはず. 問 1: 次の原始関数を求めよ. ∫ a) ∫ x arcsin x dx b) (cos x)2 dx 番外問題:これまでの講義内容で改善したらよいと思うところ,わかりにくかったところ,講義への要望などがあ れば自由に書いてください.また,質問があれば,それもどうぞ.この番外問題は成績には一切関係ないことを保 証しますから,次回からの講義を良くするつもりで書いてくださると助かります. レポート提出について: 上の問に解答し, 4 月 24 日(火)午後5時までに,原の部屋(六本松3号館 3-312)の前の箱(のようなもの)に 入れてください.整理の都合上,用紙はできるだけ A4 を使ってください(B5 だとなくなっても知らんぞ).また, 2枚以上にわたる場合は何らかの方法で綴じてくだされ. 僕の都合,またお休みの入り方などにより,レポートの提出方法や提出期限は回によってコロコロと変わる可 能性があります.申しわけないけど,毎回ちゃんとチェックして下され. r–2 4月27日:今日はこの前の続きで, 「関数を多項式で近似すること」です.前回も強調しましたが,今やって いる方法は少し回りくどいもので,今学期の最後の方でもっと良いやり方を示します.しかし,このような回 りくどい方法はどんな時にも(というと言い過ぎだが、大抵の場合に)使えるので,知っておいても損はあり ません.また,より高度な方法をやる場合の足がかりにもなってくれることを期待しています.このトピック が少し浮いているのですが,高校までのまとめのつもりでやって下さい. 連休が明ければ,本格的に大学の数学(極限の厳密理論)をやる予定です. 第2回レポート問題:今回は関数を多項式で近似すること(級数に展開すること)のチャレンジ問題で, お題は「指数関数 ex の多項式近似を2通りの方法で求めよう」です.問 3 はちょっと難しい可能性もあるから,で きなくても悲観する必要はありませんが,誘導の通りにやって行けば(その意味はともかく)答えは出るからなんと かやって欲しいと思います.なお,問題番号は第一回からの通しなので,今回は問2から始まります(今後も同様). 問 2: (方法その1:逆関数の級数展開を用いる)講義では arctan y の級数展開から tan x の級数展開を,これ らが逆関数の関係にあることを用いて求めた.同じ方法で log x の級数展開から ex の級数展開を出してみよう. (1) 指数関数と対数関数は互いに逆関数の関係にあるから ( ) 1 + x = elog(1+x) = exp log(1 + x) (1) を満たしているはずである. (注:指数関数の肩が複雑になった場合,e... と書くと見にくいので,最右辺のように exp(· · · ) と書くことが多い. )また,log(1 + x) の級数展開は教科書にあるとおり, log(1 + x) = x − x3 x4 x5 x2 + − + − ··· 2 3 4 5 (2) である.そこで ey = a0 + a1 y + a2 y 2 + a3 y 3 + · · · (3) と書けるものと仮定して,(1) の両辺を具体的に書き下せ(答えには当然,a0 , a1 , a2 , . . . が出てくるはず).· · · の ところは適当に省略して(つまり x3 か x4 までにして)書けば良い. (2) 上の結果の両辺の x0 , x1 , x2 , . . . の係数を比較することにより,a0 , a1 , a2 , . . . を求めよ. (計算が大変なので, a0 ∼a3 くらいまでを求めれば良い.根性のある人は a4 , a5 もやってみよう. )この結果から,ex はどのような級数 で書けそうかを予測してみよ. 問 3∗: (方法その2;逐次近似法)この方法は今まで見たことがないから,とまどうかもしれないが,頑張って やってみよう. 指数関数はそもそも, 「微分しても自分自身」ということで定義した.つまり, d t e = et . dt (4) この両辺を積分してみると ∫ ex − 1 = 0 x (et )0 dt = ∫ ∫ x et dt 0 つまり ex = 1 + x et dt (5) 0 が得られる.右辺にも指数関数が出ているので,右辺をそのまま積分したら右辺も ex に戻るだけで面白くない.そ もそも,良くわからない関数 ex を知りたくてこのようなことをやっているのだから,何か工夫しないといけない. そこで以下のように強引に議論してみよう. (以下の議論は穴だらけで 厳密ではない.だから,以下の議論のええ 加減さを,間違っても「大学の数学」とは思わないこと! !ただし,1年の終わり頃には以下の議論がある意味で厳 密化できることがわかるだろう. ) (1) ともかく,x がゼロに近いところだけ考える.x = 0 ならもちろん,(5) 右辺の積分はゼロであり,結果とし て e0 = 1 だ. (むしろ,e0 = 1 を使って積分した式なのだからこれは当然. )では x が正確にはゼロではないけどゼ r–3 ロに近い場合,(5) 右辺の積分中の et は大体 e0 = 1 と等しいと思っても良いのではないか?そこで,(5) 右辺の積 分中で et を 1 に置き換えて (5) 右辺を計算し,その結果を f1 (x) と書く: ∫ x f1 (x) := 1 + 1 dt (6) 0 馬鹿にするなといわれそうだが,上の積分を行って f1 (x) を求めよ. (2) 上で求めた f1 (x) は x が小さいときの ex の近似のつもりだ.そこで,(5) 右辺の積分中で et を f1 (t) で置き 換えたものを計算し,答えを f2 (x) とする: ∫ x f2 (x) := 1 + f1 (t)dt (7) 0 f1 (x) は積分の中身で et を 1 で置き換えたが,今の f2 (x) は(1 よりも近似の良いはずの)f1 (t) で置き換えた.従っ て,f2 (x) の方が f1 (x) よりも良い近似になっていると 期待 できる. (3) 同じノリで f3 (x), f4 (x), . . . を作ってみよう.つまり,fn (x) が求められたら,fn+1 (x) を ∫ x fn+1 (x) := 1 + fn (t)dt (8) 0 と定義するのだ.一般の fn (x) を求めよ. (厳密には数学的帰納法を行うべきだが,n = 2, 3, 4, 5 くらいから類推し てもよいとする. ) (4) n を上げて行くと ex の近似が良くなって行くと 期待 しているので,n → ∞ では fn (x) が ex に収束すると 期待 してもよいかも知れない.その期待の下に,ex がどのような級数(和)で書けるかの予想を書け. (5)∗∗∗ n → ∞ で fn (x) が本当に ex に近づくかどうかはこれまでの議論では 全く保証されていない.そこでこの ギャップを埋める議論(つまり,n → ∞ で fn (x) が ex に収束することの説明または証明)を考えてみよ.正直,こ れはあとで習うテイラー展開の一般論などの「飛び道具」を使わなければ非常に難しいだろう. (注)ここでやった方法は「微分方程式」を解く際の「逐次近似法」の特殊な場合にあたる.この種の方法は原 始的ではあるが, (高級な理論が使えないような場合も含めて)ほとんどすべての場合に使え,最後の切り札として 重宝する.これから高級な理論ばかりを習うことが多いと思われるので,敢えて泥臭い方法を紹介した. 番外問題:これまでの講義内容で改善したらよいと思うところ,わかりにくかったところ,講義への要望などがあ れば自由に書いてください.また,質問があれば,それもどうぞ.この番外問題は成績には一切関係ないことを保 証しますから,次回からの講義を良くするつもりで書いてくださると助かります. レポート提出について: 上の問に解答し, 5 月 7 日(月)17:00 (時刻は 24 時間制)までに,原の部屋(六本松3号館 3-312)の前の箱に 入れてください.整理の都合上,用紙は A4 (この問題プリントと同じ大きさ)を使ってください.また,2枚以 上にわたる場合は何らかの方法で綴じてくだされ. —————————————————先週のレポートの略解 ————————————— 問 1: 普通に計算するだけだが,一つ目の方が難しかったですね. 2つめの積分は: ∫ 1 (cos x) dx = 2 2 ∫ (1 + cos 2x)dx = x sin 2x + +C 2 4 となる(C は積分定数). また1つめは部分積分を用いて ∫ x2 arcsin x − x arcsin x dx = 2 ∫ 1 x2 √ dx 2 1 − x2 r–4 であるが,第2項はまたもや部分積分で ∫ ∫ √ ∫ √ d √ x2 √ dx = − x × 1 − x2 dx = −x 1 − x2 + 1 − x2 dx dx 1 − x2 となる.また, x = sin θ とおいて(ここで2つ目の問題の結果を用いる) √ ∫ √ ∫ arcsin x + x 1 − x2 2 2 1 − x dx = (cos θ) dθ = 2 と計算できるので,最終的に ∫ x arcsin x dx = √ x2 x 1 − x2 arcsin x arcsin x + − +C 2 4 4 が得られる(C は積分定数). (注意1)三角関数の積分や倍角公式が怪しい人が何人かいました.ついうっかり,だとは思うけど,しっかりして 下され. (注意2)y = arcsin x とおくと x = sin y ですが,このときに cos y を x で書くとどうなるのか?この点,かなりの √ √ 人が cos y = ± 1 − (sin y)2 = ± 1 − x2 としていましたが,これは今の問題では誤りです.と言うのは,逆正接 関数 arcsin x の値域は |y| ≤ π/2 の範囲にあります.従ってこの y では cos y ≥ 0 であって,複合は必要ありません. √ つまり,ここでは cos y = + 1 − x2 なのです. (注意3)非常に多くの人が以下のような解答をしていました.これは誤りではありませんが,不充分です(以下に 解説).ともかくその解答とは: y = arcsin x とおくと,x = sin y だから dx = cos y dy .よって ∫ ∫ ∫ 1 x arcsin x dx = (sin y) y (cos y) dy = y sin(2y)dy 2 となるから,高校までの部分積分を思い出して ∫ 1 1 1 y 1 = − y × cos(2y) + cos(2y)dy = − cos(2y) + sin(2y) + C 2 2 4 4 8 1 1 = − arcsin x cos(2 arcsin x) + sin(2 arcsin x) + C 4 8 というものです.ここまでは全く問題ありませんが,ここで終わってしまったのが良くない(cos(2 arcsin x) や sin(2 arcsin x) がそのまま残っている).そもそも,逆三角関数の意味を考えれば,x は三角形の辺の長さ,arcsin x は角度,です.だから角度であるところの arcsin x が cos や sin の中に入っておれば,これは元の辺の長さ(つまり x)で表せるはずで,そこをやって欲しかった. 実際, です(cos y = √ sin(2 arcsin x) = sin(2y) = 2 sin y × cos y = 2x × √ √ 1 − x2 = 2x 1 − x2 1 − x2 となる事情は上の注意2で書いた通り).また同じノリで cos(2 arcsin x) = cos(2y) = 1 − 2(sin y)2 = 1 − 2x2 です.従って最終的な答えは ∫ √ 1 1 x arcsin x dx = − arcsin x (1 − 2x2 ) + × 2x 1 − x2 + C 4 8 となります.これはもちろん,前に求めた結果と一致します. r–5 5月11日:今日はいよいよ,²-N です.山場だから,心して学習するように.教科書も該当部分はきちんと 読み,練習問題もする事. 新居さんからの伝言: 「数学入門の中間テスト略解にミスプリがありました.問4 (a) と (b) の答えが逆です. 」 第3回レポート問題:今回は ²-N へ向けての練習です.本当に良くわかってる人にはつまらないかもしれ ないけど,皆さんの理解度を見るためにも必要と思って出しました. 問 4: 「すべての ² > 0 に対して」の意味を実感する問題.以下の (a)∼(d) のうち,どれが正しくてどれが正し くないか,判定せよ.正しくないものは反例を与え,正しいものは証明すること(a, b, x は未知の定数で,もちろ ん,² には依存しない). (a) (すべての ² > 0 に対して |a − b| < ²) =⇒ a=b (b) (ある ² > 0 に対して |a − b| < ²) =⇒ a = b (c) (すべての ² > 0 に対して x > 2 − ²) =⇒ x ≥ 2 (d) (すべての ² > 0 に対して x > 2 − ²) =⇒ x > 2 問 5: 以下の小問(条件を満たす n の範囲を求める)に答えよ. (本当は n は正の整数のつもりだが,この問題で は n は正の実数と思って良い.つまり,条件を満たすような正の実数 n の範囲を求めればよい. ) ¯ n ¯ ¯ ¯ −2 1) ¯ − 1¯ < 10 となる n の範囲を求めよ. n+2 ¯ n ¯ ¯ ¯ 2) ² > 0 を任意の実数として,¯ − 1¯ < ² となる n の範囲を ² を用いて表せ. n+3 ¯ √n ¯ ¯ ¯ √ − 1¯ < ² となる n の範囲を ² を用いて表せ. 3) ² > 0 を任意の実数として,¯ 1+ n √ 問 6: 数列 an := n √ (n = 1, 2, 3, . . .)の n → ∞ での極限を,²-N 論法を用いて求めよ.その際,N (²) を 1+ n どのようにとれば良いかを明記する事.当然,問 5 の結果がヒントになるはずだ. 問 7: 数列 an を以下のように定義する: 1 (ある整数 k によって n = 2k と書ける時) an := 0 (上のように書けない時) この {an } はどんな値にも 収束しない ことを証明せよ. 番外問題: (前回と同じ.感想や改善の要望など,あれば書いて下さい. ) レポート提出について: 上の問に解答し, 5 月 16 日(水)18:30 (時刻は 24 時間制)までに,原の部屋(六本松3号館 3-312)の前の箱に 入れてください.整理の都合上,用紙は A4 を使ってください(B5 だとなくなっても知らんぞ).また,2枚以上 にわたる場合は何らかの方法で綴じてくだされ.今回は問題数が多いかもしれないので,〆切を遅くしました. —————————————————先週のレポートの略解 ————————————— 問 2: 急いで訂正した通り,問題文に誤りがありました.小問 (1) の最後の方で「(5) の両辺を具体的に」という のは, 「(1) 式の両辺を具体的に」の間違いです.誘導の通りにやるだけなので,簡単に筋道を示すにとどめます. r–6 (1) 問題の (1) 式に log(1 + x) = x − x2 /2 + x3 /3 − · · · を代入すると(しんどいので x3 までしか書かない), ( ) ( )2 ( )3 ( )4 ( )5 1 + x = a0 + a1 log(1 + x) + a2 log(1 + x) + a3 log(1 + x) + a4 log(1 + x) + a5 log(1 + x) + · · · ( ) x2 x3 x4 x5 = a0 + a1 x − + − + − · · · + a2 ( 同左 )2 + a3 ( 同左 )3 + a4 ( 同左 )4 + a5 ( 同左 )5 + · · · 2 3 4 5 ( a ) (a ) ( a ) 11 3 1 1 1 2 = a0 + a1 x + − + a2 x + − a2 + a3 x3 + − + a2 − a3 + a4 x4 2 3 4 12 2 (1 ) 5 7 5 + a1 − a2 + a3 − 2a4 + a5 x + · · · (1) 5 6 4 (2) 両辺の係数を比較して a0 = 1, − a1 = 1, a1 + a2 = 0, 2 a1 − a2 + a3 = 0, 3 − a1 11 3 + a2 − a3 + a4 = 0, 4 12 2 5 7 1 a1 − a2 + a3 − 2a4 + a5 = 0 5 6 4 が得られるので,これから (2) 1 1 1 1 1 1 1 , a3 = = , a4 = = , a5 = = (3) 2 6 3! 24 4! 120 5! が順次得られる. (十人近く,a5 まで求めてくれた人がいました. )これらから,an = 1/n! が予想でき,つまり a0 = 1, a1 = 1, a2 = ∞ ∑ xn e ≈ n! n=0 x (??) (??) (4) が予想される.この最後のところは n = 4, 5 くらいまでやってから予想するのが望ましいが,いずれにせよ,この 予想だけではまだ数学にはなりきっていない. なお,上では a5 = 1/5! まで確かめたが,これを任意の n までやるにはどうすれば良いのか,は僕には良くわか らない. (もちろん,ex を別途定義してから直接級数展開する,などの方法はいくらでもあるが,この問題のように 逆関数であることのみを用いて級数展開する方法ではわからない,ということ. )我こそは,と思う人は是非,チャ レンジしてもらいたい. 問 3: これも誘導の通りなので簡単に行く. (1)∼(3) は単なる計算で f1 (x) = 1 + x, f2 (x) = 1 + x + x2 , 2 f3 (x) = 1 + x + x2 x3 + 2 6 (1) などと計算できる.ここまでくれば, fn (x) = 1 + x + と仮定してみると ∫ x( fn+1 (x) = 1 + 1+t+ 0 x2 x3 xn + + ··· + 2! 3! n! t2 t3 tn ) x2 x3 xn xn+1 + + ··· + dt = 1 + x + + + ··· + + 2! 3! n! 2! 3! n! (n + 1)! (2) (3) となるので,数学的帰納法により, ∑ xj x2 x3 xn + + ··· + = 2! 3! n! j! j=0 n fn (x) = 1 + x + (4) が証明された. (4) それで単純に n → ∞ としてみると (??) ex ≈ ∞ ∑ xj j=0 j! (??) (5) が 予想 できる. (5) これは現時点では大変に難しいので,できなくても仕方ない.実のところ,後でやる「テイラー展開」(特に 「積分型剰余項」のもの)の理論を使うと,高校のレベルでも理解できるのではあるが. . . . r–7 5月18日:²-δ です.引き続いて心して学習するように.教科書も該当部分はきちんと読み,練習問題もす る事. 問 8: 関数の極限に関する問題.九重研修もあって大変だろうし,正直ぼくも採点で疲れたので,今回は問題は 少なめです. 1) 0 < ² < 1 とする.|x2 − 1| < ² となる x の範囲を求めよ. 2) |x3 + 2x − 3| < 10−3 となる x の範囲を数値的に求めよ. (x の範囲を正確に求めるのは難しいだろうから,グ ラフの概形を書いた後で,電卓で計算して良い. ) 3) 次に,² > 0 を任意の実数として, 「|x − 1| < δ ならば |x3 + 2x − 3| < ² 」となるような十分小さい δ > 0 を ² の関数として表せ. (この場合,ギリギリ大きい δ でなくても — 余裕を見て小さめの δ を選んでも — 良い. ) 4) lim (x3 + 2x) を,²-δ 論法によって求めよ. x→1 問 9: lim (x4 + x3 + 2x2 + x) を,²-δ 論法によって求めよ.この場合,最良の δ(²) を使う必要は全くない.計算 x→1 し易いように ², δ を制限しても良い(もちろん,本当に見たい ² の範囲は入っている必要があるが). 番外問題: (前回と同じ.感想や改善の要望など,あれば書いて下さい. ) レポート提出について: 上の問に解答し, 5 月 23 日(水)18:30 (時刻は 24 時間制)までに,原の部屋(六本松3号館 3-312)の前の箱に 入れてください.整理の都合上,用紙は A4 を使ってください.また,2枚以上にわたる場合は何らかの方法で綴 じてくだされ. (紙の端を手で折るなら決して緩まないように織り込むこと.現在,2名ほどの人がこのテクに挑戦 しているようだが,一人しか合格水準に達していない. ) —————————————————先週のレポートの略解 ————————————— 問 4: 正しいのは (a) と (c),正しくないのは (b) と (d).予想外にできが良くありませんでしたね. . . (a) 対偶をとるのが楽だろう.問題の主張の対偶は (a 6= b) =⇒ (∃² > 0 |a − b| ≥ ²) ですね(ここのところ,怪しい人は十分に反省して新居さんの講義を復習すること!).さて,a 6= b の場合, ² = |a − b|/2 > 0 に対しては |a − b| > ² が成り立っているので,対偶は確かに成立している.証明終. ここのところは,わざわざ対偶と言わずに以下のように議論しても良いだろう.単に上の対偶の議論を言い換え たに過ぎないけど. もし a 6= b と仮定すると,² = |a − b|/2 に対しては |a − b| < ² がなりたたない.つまり,a 6= b の場合 は命題の条件「すべての ² > 0 に対して |a − b| < ²」が成り立たない.ということは命題の条件を満た すような a, b は a 6= b ではあり得ず,a = b しかない. (じつのところ,命題の条件をみたす a, b が存在 しないかもしれないから,本当は「a = b なら条件を満たす」ことはチェックすべきだが,これは自明. ) (b) a 6= b であっても,² = 2|a − b| とすると |a − b| < ² は成り立ってしまう.つまり,命題の条件では a = b と は言い切れないから,命題は偽. (c) (a) と同様に対偶で議論する.と言うか,以下のように考えるのが一番わかり易いのではないか? r–8 もし x < 2 であると仮定すると,² = (2 − x)/2 に対しては x > 2 − ² が成り立てない(下を参照).つ まり,x < 2 の場合,命題の条件は満たされない.従って,命題の条件が満たされるなら,x ≥ 2 が必 要であって,命題は真である. 「² = (2 − x)/2 に対しては x > 2 − ² が成り立てない」が良くわからない人は,α = 2 − x > 0 を中間的に導入す ると良いだろう.この時,² = (2 − x)/2 = α/2 ととると,命題の条件 x > 2 − ² は, 2 − α > 2 − α/2 ⇐⇒ ⇐⇒ 0 > α/2 α<0 となって,これは α > 0 と矛盾する.もちろん,α を導入しなくても不等式の同値変形で(² = (2 − x)/2 に対して) x>2−² ⇐⇒ x > 2 − (2 − x)/2 = 1 + x/2 ⇐⇒ 2x > 2 + x ⇐⇒ x>2 とやって,もともとの x < 2 と矛盾する,としても良い. (d) x = 2 ならば, x>2−² ⇐⇒ 2>2−² ⇐⇒ 0 > −² ⇐⇒ 0<² であって,これは ² > 0 なら常になりたつ.つまり,命題の条件は x = 2 の場合でも満たすから,x > 2 と結論す ることはできない.よって命題は偽である. 注意 • 深刻な間違いのほとんどは論理の理解の不足,甘さによるものです.事態はかなり深刻です.慣れないでとま どうかもしれませんが,ここは一つ,力を入れてやって欲しい.間違いの代表的な例を挙げましょう. • (a), (c) などについて,対偶の作り方を間違った人が多数いました.新居さんの講義を良く復習するように. • (a) の対偶をとろうとしたのは良いけども,特定の a, b だけを考察した答案も多数.これでは全く対偶になっ てません.対偶は「a 6= b であるどんな a, b を持ってきても,|a − b| ≥ ² を満たすような ² > 0 がとれる」と いうことであって,特定の a, b のみをやってもダメです. • 不等号に関する誤解,無理解があるように見受けられます.x > 2 であれば,当然,x > 1 を満たしますね. つまり, x>2 =⇒ x>1 は正しい命題です.一方,x > 1 でも x > 2 とは限りませんから,逆は成り立ちません.理由はわかりません が,ここのところを逆にしてる人が目立ちました.もしかしたら,そのような人は「x > 2 を満たす x の全 体」や「x > 1 を満たす x の全体」を考えてしまったのかも知れませんが,この問題ではあくまで一つの x に ついての話をしています. 問 5: ひとつずつやっていけばできるはず. n 2 2 1) n+2 − 1 = − n+2 なので,求める n は n+2 < 10−2 を満たすものである.分母を払って整理すると,n + 2 > 2 × 102 = 200,つまり,n > 198 ならよい. 3 2) 上と同様に,今度は ² を用いてとくと,n > − 3 なら良い,となる(もちろん,n > 0 は前提としている). ² (1 )2 1 √ < ² が条件だから,これを解いて,n > 3) − 1 が条件となる. (うるさいことをいうと,これは ² ≤ 1 ² 1+ n の時の話.² > 1 ならどんな n でも O.K.) n − 1| = | − 注意:どうも絶対値の扱い方がうまくないですなあ.n > 0 と仮定した場合,1) なら | n+2 2 n+2 | 2 = n+2 なんだから,絶対値は簡単にはずれる.(2) や (3) も同様だ.ここをわざわざ ± を用いて絶対値を外す必要はない ですよ. 問 6: まず,無味乾燥な必要最低限の答えを書く.そのあとで,どうやって N (²) を決めたのかを説明する. (一 年生の段階では,後半部分まで書いた方が良い. ) r–9 (無味乾燥な答え)任意の ² > 0 に対して, (1 )2 N (²) = −1 (これが負の時は,N (²) = 1 とでもする) ² と決めよう.すると,n > N (²) では ¯ ¯ ¯ ¯ ¯an − 1¯ = 1 1 1 √ < √ = =² 1 + 1/² − 1 1+ n 1 + N (²) が成立する.これは lim an = 1 を ²-N で書いたものに他ならないから, lim an = 1 である. n→∞ n→∞ (N (²) の決め方)これは問 [5] の 3) でやったとおりである.つまり,我々は |an − 1| < ² となるような n がど (1 )2 んなものかを知りたい.この答えは問 [5] の 3) で既に出したとおり,n > − 1 であった.これから直ちに, ² )2 (1 N (²) = − 1 ととれは充分である事がわかる. ² (注)N (²) はできうる最小の取り方をしなくても良い.上ではギリギリにとったけども,もっと余裕を見て N (²) = 1/²2 とか,N (²) = 4/²2 などでも構わない.問題が難しくなってくると N (²) をギリギリにうまくとること は困難で,ある程度余裕を見て決めるしかないことも多い(今週のレポート,問 [12]). 問 7: 何通りかのやり方があるが,その一つを示す.この数列が極限 α に収束すると仮定すると,任意の ² > 0 に対して N (²) > 0 が存在して, n > N (²) =⇒ |an − α| < ² となるはずである(収束の定義そのもの).これは N (²) より先の an が,どれも α ± ² の範囲にあることを意味し ている.これは特に,m, n > N (²) ならば |an − α| < ² |am − α| < ² かつ ということであり,これから |an − am | < 2² でなければならない,と結論できる(ここの不等式は各自,導出すること). しかし,考えている数列で n = 2k , m = n + 1 とすれば,k がいくら大きくても |an − am | = 1 であって,上の式 は ² < 1/2 では満たされない.つまり,この数列は収束しない. (注)この証明は後でやる「コーシー列」の概念を使っている. (同じことだが少し別の言い方をすると)行き先の極限が α であったとすると, 「極限が α」の定義から任意の ² > 0 に対して N (²) > 0 が存在して, n > N (²) =⇒ |an − α| < ² となるはずである.特に ² = 1/4 の場合を考えてみる.数列 {an } は n = 2k の形の n に対しては,どんなに n が大 きくても an = 1 であるので,上の条件から |1 − α| < 1/4 が必要である。一方.n = 2k + 1 の場合を考えると,こんどは |0 − α| < 1/4 が必要となる.ところが,この2つを同時に満たす実数 α は存在しない.従って,この数列の極限値 α が存在する ことはあり得ない. r – 10 5月25日:今日は ²-δ の続き,そして連続関数です.先週に引き続いて心して学習するように.教科書も該 当部分はきちんと読み,練習問題もする事.なお,2,3週のうちに中間試験の予定. 第5回レポート問題:今回は ²-δ の練習問題です.これでも問題数が足りないと思うから,講義ノートと 教科書の問題は自分でやること! 問 10: ²-δ の練習問題.以下の極限を ²-δ 論法を用いて求めよ. √ x+3− 3 b) lim x→0 x→0 x √ √ b) については, 「分子の有理化」がヒントである.つまり,分母と分子に x + 3 + 3 をかけてみよ. √ a) lim |x| √ ∗ 問 11: ²-δ の証明問題もやってみようか.数列 {an }, {bn } がすべての n で an ≤ bn を満たしており,かつ極限 α = lim an ,β = lim bn が存在するならば,α ≤ β であることを証明せよ. n→∞ n→∞ 番外問題: (前回と同じ.感想や改善の要望など,あれば書いて下さい. ) レポート提出について: 上の問に解答し, 5 月 30 日(水)18:20 (時刻は 24 時間制)までに,原の部屋(六本松3号館 3-312)の前の箱に 入れてください.整理の都合上,用紙は A4 を使ってください.また,2枚以上にわたる場合は何らかの方法で綴 じてくだされ. —————————————————先週のレポートの略解 ————————————— √ √ 問 8: 1) これはええわね.1 − ² < x2 < 1 + ² なので, 1 − ² < |x| < 1 + ² が答え. 2) f (x) = x3 + 2x − 3 と書く.f (x) = (x − 1)(x2 + x + 3) かつ,x2 + x + 3 = (x + 12 )2 + −3 11 4 ≥ 11 4 なので, |f (x)| < 10 のためには,x ≈ 1 が必要である. (これは y = f (x) のグラフを描いてもわかる. )f (x) は増加関数だ −3 から,f (x) = ±10 となるような x の値を x± として,x− < x < x+ が求める範囲である. x = 0.999, 0.9999, 1.0001, 1.0002 などでの f (x) の値を計算機で計算してみると,x− ≈ 0.9997999760, x+ ≈ 1.000199976 がわかる.少し余裕をみて,つまり,上の ≈ の誤差を吸収するつもりで x の範囲を狭めて,0.99979998 < x < 1.00019997 なら十分(かつ,ギリギリに近い)である. (もちろん,ここまでたくさんの桁を出す必要はない. ) なお,電卓を用いずともこのような近似値を求めることはできる.つまり,x = 1 + δ がギリギリの値だと思って f (1 + δ) = 10−3 を解く訳だが,δ が小さいと思って段々と精度をあげる方法がある. (詳しくは講義でやりたいけど, 時間があるかな. . . ) 3) ギリギリ大きい δ でなくても良い,ところがミソ.まず,任意の ² > 0 を考える事を要求されてはいるが, 0 < ² < 1 などと,小さな ² に対する δ の表式を求めれば充分 なことに注意.なぜなら,²1 < ²2 の場合,δ(²1 ) が わかっておれば,δ(²2 ) = δ(²1 ) ととれるから,つまり,大きな ² での δ(²) は,より小さな ²0 での δ(²0 ) で代用でき るから,である.また,この前にも強調したように,δ を小さくとるのは一向に構わない. そこで以下では,² ≤ 1 の場合を考え,² > 1 は ² = 1 の δ(1) で代用することにする.|x − 1| < 1 のときには 0 < x < 2 なので,|f (x)| = |x − 1| × (x2 + x + 3) ≤ 9|x − 1| が成り立つ.従って,δ(²) = |x − 1| < δ(²) = ² 9 =⇒ ² 9 ととれば, |f (x)| = |x − 1| × (x2 + x + 3) ≤ 9|x − 1| < ² が成り立つので,題意をみたす.よって,² > 1 の場合も考えに入れてまとめると,このような δ(²) は ²/9 (² ≤ 1 の場合) δ(²) = 1/9 (² > 1 の場合) r – 11 とすれば良い. 4) 上の 3) をそのまま使う.つまり,任意の ² > 0 に対して上のように δ(²) をとると,|x − 1| < δ(²) ならば |x + 2x − 3| < ² がなりたつ.これは lim (x3 + 2x) = 3 を ²-δ で書いたものに他ならない. (細かいことを言うと, 3 x→1 |x − 1| < δ(²) には x = 1 まで含まれてしまっているが,これはより多くの x について欲しい不等式 |x3 + 2x − 3| < ² が成り立つ事を主張しているので,問題ない. ) • δ(²) などを選ぶところで,x に依存する形で選んだ人がいたが,これではダメだよ.δ(²) は x の範囲を制限す るものだから,x に依存しては全く意味なし. • x の範囲を規定できずに苦しんでいる人が非常に多く見られた.確かにわかりにくいとは思うが,まずは「δ(²) は正である限りいくら小さくとっても良い」ことを再確認しよう.であるから,δ ≤ 10−3 などと決めてしまっ ても良いのだよ.こうすれば 0.999 < x < 1.001 となるから,邪魔な x は消せるでしょ(より詳しくは講義で). 問 9: f (x) = x4 + x3 + 2x2 + x と書く.極限は 5 と思われるので, lim f (x) = 5 を示したい.まず,無味乾燥 な答えを書く.あとで,どのように δ(²) を決めたのかを書く. x→1 (無味乾燥な答え)任意の ² > 0 に対して,δ(²) を { ² } δ(²) := min 1, 30 と定める.すると,|x − 1| < δ(²) では(δ ≤ 1 から)0 < x < 2 であるので, |f (x) − 5| = |x − 1| × |x3 + 2x2 + 4x + 5| ≤ |x − 1| × 29 < 29 × δ(²) ≤ ² が成り立つ.これは lim f (x) = 5 を ²-δ で書いたものに他ならない.答えの極限は 5 である. x→1 (δ の決め方)先ずは因数分解して f (x) − 5 = (x − 1)(x3 + 2x2 + 4x + 5) に注意しておく.この左辺が x → 1 でゼロに行って欲しい訳だが,確かに右辺にも (x − 1) が出ているので,ゼロ に行きそうだ.しかし,(x − 1) の後ろには (x3 + 2x2 + 4x + 5) がついていて,こいつがあんまり大きくなると都 合が悪い. ここが大きくならないためには,考える x の範囲を制限してやれば良い. (なぜ x の範囲を制限して良いかと言う と,今は x → 1 の極限のみを考えているから,充分 1 に近い x だけ考えれば良いからである. )x の範囲を制限す るには,|x − 1| < δ とするはずの δ を制限すれば良い.ので,簡単のために δ ≤ 1 としてしまおう. この時,|x − 1| < δ ≤ 1 つまり 0 < x < 2 だから,上の嫌な因子は x3 + 2x2 + 4x + 5 ≤ 29 を満たす.つまりこの場合, |f (x) − 5| ≤ 29 × |x − 1| なのだ.従って,上のを ² より小さくするには,29δ < ² とすれば良いのだ. (29δ = ² となるのを避けるため,29 でなく 30 で割った. ) r – 12 6月1日:今日は ²-δ の復習と実数の性質です. 来週(6/8),中間試験をやります!範囲は僕のプリントの第1章と第2章,具体的には大体, • 高校のノリの微積分,逆三角関数など • 極限の厳密理論,特に「²-N 」「²-δ 」「連続関数」など です.もちろん,山場は後者の極限です(3章の内容は期末に持ち越し). 始めに宣言した通り,テスト問題のかなりの部分はレポート問題や教科書の問題などの類題です. (ただし, 「以 下の関数は連続か」など,連続性についてのレポート問題は出さなかったけど,試験では出すかもよ. )教科書 の該当部分の問題をやったり,自分で演習書をやったりすることをお奨めします. —————————————————先週のレポートの略解 ————————————— 問 10: 今回は陰の計算から書いてみる. (a) は今までの問題より,むしろ易しいだろう. √ (陰の計算) |x| < ² となる x の範囲を求めたら良い.両辺を二乗すれば |x| < ²2 となるから,この範囲なら 良い訳だ.つまり,δ = ²2 なら良さそうだね. (無味乾燥な答え)任意の ² > 0 に対して,δ(²) = ²2 ととると,|x| < δ(²) である限り √ √ √ √ | |x| − 0| = |x| < δ(²) = ²2 = ² がなりたつ.これは lim x→0 √ |x| = 0 を ²-δ で書いたものに他ならない.よって,極限はゼロ. (b) は予告通り,ちょっと難しい.分子の有理化を2回やらなければならないのがポイント.問題には明記してい √ ないけど, x + 3 が定義できるように,x > −3 で考えれば良い. (陰の計算)問題の分数に対して分子の有理化を行うと, √ √ 3+x− 3 1 √ =√ x 3+x+ 3 √ √ となるので,x → 0 での極限は 1/(2 3) と予想できる.そこで,上の量と 1/(2 3) の差をとってみると, √ √ 1 1 3− 3+x −x √ − √ = √ √ √ = √ √ √ √ 3+x+ 3 2 3 2 3( 3 + x + 3) 2 3( 3 + x + 3)2 √ √ √ √ が得られる.ところでこの分母は, 3 + x ≥ 0 を使うと 2 3 × ( 3)2 = 6 3 より大きい.だから,x > −3 では √ ¯ ¯√ ¯ 3+x− 3 1 ¯¯ |x| |x| ¯ √ √ − = √ √ ≤ √ ¯ x 2 3 ¯ 2 3( 3 + x + 3)2 6 3 √ が成り立っている.従ってこの場合,δ = 6 3² ととれば,上の差を ² よりも小さくできる.もちろん,δ を小さめ にとることには何の問題もないから,δ = ² でも充分だ. (無味乾燥な答え)任意の ² > 0 に対して,δ = ² と定義しよう.すると,x > −3 では √ ¯√ ¯ ¯ 3+x− 3 1 ¯¯ |x| |x| ¯ √ √ − = √ √ ≤ √ < |x| ¯ x 2 3 ¯ 2 3( 3 + x + 3)2 6 3 がなりたつが,上の右辺は δ = ² より小さい,つまりこれは √ √ 3+x− 3 1 lim = √ x→0 x 2 3 を意味している. r – 13 問 11: 一応,二通りのやり方(ほとんど同じだけど)を示す. (その1)任意の ² > 0 を固定して考えて行く(最後に ² が任意であったことを使う).仮定から,この ² で決ま る(大きな)数 N1 と N2 があって, n > N1 では |an − α| < ² n > N2 では |bn − β| < ² が成り立っているはずだ.特にこれから,N1 と N2 の両方より大きな n では |an − α| < ² かつ |bn − β| < ² かつ bn < β + ² となっている.上の不等式から(この n で) α − ² < an が言える. (ここのところは単に絶対値を外して欲しい向きをピックアップするだけだが,数直線上に an , bn の存在 範囲を書くのがわかり易いだろう).ところが,常に an ≤ bn であったから,上の不等式と組み合わせると α − ² < an ≤ b n < β + ² つまり α < β + 2² が結論できる.さて,² は任意の正の数であった.任意の正の ² に対して上の不等式が満たされているなら,α ≤ β しかあり得ない(第3回レポート,問4参照). (その2)直接の背理法を狙いましょう.こっちの方が考え易いかな. α > β を仮定して矛盾を導こう.² = (α − β)/3 > 0 を固定する.仮定から,この ² で決まる(大きな)数 N1 と N2 があって, n > N1 では |an − α| < ² n > N2 では |bn − β| < ² が成り立っているはずだ.特にこれから,N1 と N2 の両方より大きな n では |an − α| < ² = α−β 3 かつ |bn − β| < ² = α−β 3 となっている.しかし,この不等式で許される an , bn の存在可能範囲は an ≤ bn を許さない.つまり仮定の α > β は許されない. (以下に各自で数直線を書いて,上の不等式の表す範囲を実感しよう!) このような問題では不等式を式のママで扱うのはわかりにくく,間違いの元だ.できるだけ数直線などを書い て,視覚的にとらえるように工夫すべきである. (注意)不等式の向きをそろえて片々足すことはもちろん,可能だが,片々引く時には向きに注意が必要だ.悪い例 を挙げると,α < 3 と β < 2 を片々引いて,α − β < 3 − 2 = 1 を結論する,など. (これがなぜおかしいかはわかる わな.でも同じことを an , bn がらみでかなりの人がやってたぞ. ) r – 14 6月22日:今日は連続関数の性質(中間値の定理など),及び, 「微分」です. 微分に関しては「テイラーの定理」以外は高校でやったことの復習です. (もちろん,高校では極限や微分の定 義が曖昧だったのが,大学に入って厳密に議論できるようにはなりましたが. )あまり細々と証明して行ったら 時間がなくなりそうなので,テイラー展開以外はあっさりと済ませるつもりです. 第6回レポート問題:このところ,ちょっと「理論的」な内容なので,あまり良いレポート問題を思いつ きません.苦し紛れに出すのが以下のものです.有名どころばっかりですが,まあいいでしょう. 問 12: 以下のように定義される数列 {an }, {bn }, {cn } が収束するか否かを判定せよ.x は正の定数である. (おま けの問題:極限の値を求められるものは求めてみよ. ) n ∑ 1 (a) an := k3 k=1 (c) 初項は c1 = x, それ以降は (b) bn := n ∑ xk k=1 k! cn+1 = (cn )2 − 2 で決まる cn 番外問題:(今までと同じ.感想や改善の要望なども,あれば書いて下さい. ) レポート提出方法: 上の問に解答し, 6 月 27 日(水)18:20 (時刻は 24 時間制)までに,原の部屋(六本松3号館 3-312)の前の箱に 入れてください.整理の都合上,用紙は A4 を使ってください.また,2枚以上にわたる場合は何らかの方法で綴 じてくだされ. r – 15 6月29日:今日は高階導関数と「テイラーの定理」です. 今学期の最初にやってもらったレポート問題がすっきり理解できるようになるはず. 第7回レポート問題:テイラー展開に慣れるための問題です.テイラー展開を求めよ,というもののいく つかは既にプリントに書いてあるけど,自分で微分を実行して,テイラーの公式を実際に使って納得することが大 切です. 問 13: 以下の関数の x = 0 でのテイラーの公式を書き下せ(a は正の定数).ただし (a), (b), (c), (d) は一般の n に対する主要項 Sn (x) と剰余項 Rn (x) を,(e), (f) は最初のゼロでない3項を求める事. (a は定数) (a) f (x) = 1 , 1 − 3x g(x) = eax , (b) (e) (c) h(x) = cos x, q(x) = (1 + x)1/2 (f ) r(x) = (d) p(x) = log(1 − ax) (1 + x)1/2 (1 − x)1/2 番外問題:(今までと同じ.感想や改善の要望なども,あれば書いて下さい. ) レポート提出方法: 上の問に解答し, 7 月 4 日(水)18:20 (時刻は 24 時間制)までに,原の部屋(六本松3号館 3-312)の前の箱に 入れてください.整理の都合上,用紙は A4 を使ってください.また,2枚以上にわたる場合は何らかの方法で綴 じてくだされ. —————————————————先週のレポートの略解 ————————————— 問 12: 実は (c) の問題は出題ミスで,本来はここまで難しい問題にするつもりではありませんでした.でも怪我 の功名というか,何人かの人がいろいろと工夫してくれたのは非常に良かったと思います.以下では一応の解答を つけます. (もしかしたら (c) については補足を来週に配るかもしれません. ) (目標)行き先がわからないけども収束を判定しよう,ということで,我々の知ってる唯一の判定条件「有界な 単調列は収束する」を使うことをねらってみる.もちろん, 「コーシー列である」などの高度なことを狙っても良い1 (a) この数列は(狭義の)単調増加だ.なぜなら(n ≥ 1) an+1 − an = 1 >0. (n + 1)3 次に,これが上に有界であることを言おう.そのためにはいくつかの方法がある.これまでに知ってる範囲だけで 厳密に議論するには例えば,n ≥ 2 で 1 1 1 1 1 ≤ 2 ≤ = − k3 k k(k − 1) k−1 k として an = 1 + n n ( ∑ ∑ 1 1 1) 1 ≤ 1 + − =1+1− <2 k3 k−1 k n k=2 (どんなに大きな n でも) k=2 を導くのが良いだろう.こうすれば,どんな n に対しても an < 2 であるので,これは上に有界.よって {an } は収 束する. 1 コーシー列は講義ではやってないけど,ここは大学だから,講義でやってないことを使ってもかまいません.ただ,たいていの場合は講義 の進度やレポート問題は論理的順序を重視して並べてあるので,講義でやった範囲で解くのが自然ではあります r – 16 先の議論はもう少し精密にできて,例えば,k ≥ 2 では ) 1 1 1( 1 1 ≤ = − を用いて 3 k (k − 1)k(k + 1) 2 (k − 1)k k(k + 1) ) 5 1 1 ∑( 1 − < 2 (k − 1)k k(k + 1) 4 n an ≤ 1 + k=2 なども可能.実のところ,この極限は ζ(3)(リーマンのゼータ関数)と呼ばれるもので,その値は簡単には表せな い.近似値は ζ(3) = (b) この数列は(狭義の)単調増加だ.なぜなら x > 0 だから(n ≥ 1) bn+1 − bn = xn+1 > 0. (n + 1)! 次に,これが上に有界であることを言おう.少し泥臭く考えてみる.x は何か正の定数だから,x 以上の最小の整 数があるはず.それを N とする.bn が n の単調増加なことは既に見たので,大きな n について bn が有界であるこ とを言えば,それより小さな n での有界性は自動的に保証される.そこで以下では,n ≥ 4N くらいの n を考える. まず,bn に寄与する和を2つに分ける: bn = n ∑ xk k=1 k! = 2N ∑ xk k=1 k! n ∑ + k=2N +1 xk = S1 + S2 k! 上では真ん中の2つの和をそれぞれ S1 , S2 と書いた. さて,S1 の方は N, x のみで決まる有限な量で,n にはよらない.のでこの項はもちろん,有界だ.問題は S2 の 方だが,これは以下のように変形してみると良いだろう S2 = n ∑ k=2N +1 xk x2N = k! (2N )! n ∑ k=2N +1 xk−2N x2N = k!/(2N )! (2N )! ( ∏ k n ∑ k=2N +1 l=2N +1 x l ) 最後のところでは,l ≥ 2N + 1 > 2x なので,x/l < 1/2 である.つまり,上のは x2N S2 < (2N )! n ( 1 )k−2N ∑ x2N < 2 (2N )! k=2N +1 ∞ ( 1 )k−2N ∑ x2N = 2 (2N )! k=2N +1 とできる.これもまた x, N のみで決まって n にはよらない量だから,有界だ.と言う訳で,S1 , S2 ともに有界と言 えた.ので,bn は収束する. 極限の値は昔のレポート問題から ex − 1 のはずである. (重要な注意) 「有界」の意味がよくわかっていない答案(特に M を n に依存する定数として「an < M だから有 界」)がたくさんあった.これは有界の意味が全く分かっていないことだから要注意.もしこれで有界なら,an = n でも有界になってしまいますよ. r – 17 (c) 前述の通り,予定より難しい問題になってしまいました.そのために,まともな解答はかなり長いです.実のと ころ,この問題は幸運にもある程度簡単に解けるのですが,できるだけそれは使わないでがんばってみましょう. Step 1. (ここは全員に理解してほしい. )まず,x > 2 なら数列が収束しない(無限大に発散する)ことはすぐ にわかる.と言うのは, cn+1 − 2 = (cn )2 − 4 = (cn + 2)(cn − 2) なので,(1) cn > 2 なら cn+1 > 2 であり,さらにこのとき,cn+1 − 2 > 4(cn − 2) である.これはつまり,cn − 2 が n を 1 増やすごとに4倍以上になる,ことを意味し,cn − 2 は無限大に発散する.よって cn も無限大に発散する. Step 2. 極限があるとすれば,それは −1 か 2 のどちらかである.なぜなら,極限が α であるなら,それは漸化 式から α = α2 − 2 をみたすはずだから.この解は α = −1, 2 である. Step 3. (以下はかなり複雑なので,興味のある人だけ,理解すればよろし. )−2 ≤ cn ≤ 2 ならば,−2 ≤ cn+1 ≤ 2 でもある.すなわち,閉区間 [−2, 2] はこの漸化式の下で不変である.逆に,cn > 2 ならばそれ以降も cn+1 > 2 で ある. (漸化式から,x ≥ 0 である限り,cn ≥ −2 は保証されている. ) (証明)単に −2 ≤ x ≤ 2 の時に f (x) = x2 − 2 がどの範囲にあるかを考えれば良い.これは y = f (x) = x2 − 2 のグラフを書けば一目瞭然だろう. Step 4. Step 3 から,収束するなら −2 ≤ cn ≤ 2 であることが必要とわかる.では,どんなときに収束するのだ ろうか?少し試行錯誤して,以下のような振る舞いがわかってくる. • x = 2 の時は c1 = c2 = c3 = . . . = 2. • x = −1 の時は c1 = c2 = c3 = . . . = −1. • x = 1 なら,c1 = 1, c2 = c3 = . . . = −1. • x = −2 なら,c1 = −2, c2 = c3 = . . . = 2. • x = 0 なら,c1 = 0, c2 = −2, c3 = c4 = c5 = . . . = 2. √ √ • x = 3 なら,c1 = 3, c2 = 1, c3 = c4 = c5 = . . . = −1. このようにあるところから 2 または −1 になって,以降はそのまま,というパターンが見られる.しかし一方で,い つまでたっても収束しないようなやつ(そういうのは,大体は (−2, 2) を飛び回っている)もありそうだ. Step 5. そこで,どのようなときに −1 や 2 に収束するのかをはっきりさせるため,以下の命題を証明しよう. Step 4 で注意したように,−2 ≤ cn ≤ 2 を考えれば良い. 命題 1. {cn } が収束するためには,ある n にて cn = −1 または cn = 2 となることが必要充分である. (証明)ある n にて cn = −1 または cn = 2 となれば,それ以降も −1, 2 であり続けるから,十分であることは 証明された.必要の方を証明しよう. 今,cn が 2 に収束するが,どんな n に対しても cn 6= 2 だと仮定して,矛盾を導こう.cn が 2 に収束することか ら ² = 1/2 に対して N が存在して,n ≥ N では |cn − 2| = 2 − cn < ² となっているはずである.ところが,ここで は cn > 2 − 1/2 = 3/2 であるから, 2 − cn+1 = (cn + 2)(2 − cn ) > 7 (2 − cn ) > 3(2 − cn ) 2 となって,(2 − cn ) はどんどん増える(ここで cn 6= 2 の仮定から (2 − cn ) > 0 であることを用いた).これは最終的 に |cn − 2| < ² を超えるところまで続く.つまり,ある n から先ずっと |cn − 2| < ² ということはあり得ないのだ. cn が −1 に収束すると仮定しても同様だ.この場合は 1 + cn+1 = cn − 1 = (cn − 1)(cn + 1) に注目し,cn が −1 に十分近ければ |cn + 1| > 3/2 となることを用いて議論する. Step 6. という訳で,cn が収束するのは,ある n で cn = −1 または cn = 2 となるとき,かつそのときに限る,と わかった.問題はこのようになる初期条件 x は何か,ということだ. r – 18 cn = 2 となる方から考えよう.原始的なやり方としては,cn+1 = 2 となる cn をまず求めて(cn = 2 はアタリマ エだから,それ以外のものを探す)cn = −2 を得,今度は cn = −2 となる cn−1 を求めて cn−1 = 0 を得,cn−1 = 0 √ となる cn−2 を求めて cn−2 = ± 2,. . . ,とやっていけば良い.こうやっていくと √ √ √ √ √ √ 2 −2 0 ± 2 ± 2± 2 ± 2± 2± 2 ... (複合任意) というのが,あるところから cn = 2 となる(従って,cn が 2 に収束する)ための初期条件,として求められる. √ 同様に cn = −1 となるためには cn−1 = 1 であり(cn−1 = −1 以外に),このためには cn−2 = ± 3 であり,. . . と いうことで(やはり複合任意) −1 1 ± √ 3 √ √ ± 2± 3 √ √ ± √ √ 2± 2± 3 ± √ 2± √ 2± 2± √ 3 ... というのが,あるところから cn = −1 となる(従って,cn が −1 に収束する)ための初期条件,として求められる. これ以外の初期条件では収束しないのだ. Step 7. 一応,以上で最低限の答えはおしまい.実はこの問題,一般項が奇麗に書けてしまうのだ.というのは, ( ) x = 2 cos θ となる θ ∈ [0, π] を用いると, cn = 2 cos 2n−1 θ となるのである.この式自身は三角関数の倍角の公式を用いてすぐにでるからここでは証明しない.これと命題 1 を用いると,cn が収束するような初期条件は割合奇麗に書ける.命題 1 によれば,cn が 2 に収束するには,ある n でもって ( ) 2 cos 2n−1 θ = 2 つまり, ある整数 m を用いて 2n−1 θ = 2mπ となる ことが必要充分である.つまり,初期条件は, 適当な整数 m と非負の整数 n を用いて x = 2 cos ( 2mπ ) 2n と書けることが cn が 2 に収束する必要充分条件である.同様に考えると, {1( 2π ) } 適当な整数 m と非負の整数 n を用いて θ = 2 cos n 2mπ + 2 3 と書けることが cn が −1 に収束する必要充分条件である. 実際,上で適当に m, n をとって x を計算してみると Step 6 で求めたものが(もちろん)再現される. r – 19 7月6日:今日は「テイラーの定理」「テイラー展開」「オーダーの概念」などです. 第8回レポート問題:テイラー展開に慣れるための問題の続きです. ex + e−x cosh x と定義する.このとき,関数 f (x) = √ の x = 0 でのテイラー 2 1 + x2 展開の,最初のゼロでない3項を求めよ. 問 14: 関数 cosh x を cosh x = 問 15: 以下の極限がゼロでない有限の値になるような n を求めよ.また,そのときの極限値を求めよ. lim x→0 1 xn ( ) cosh x √ −1 1 + x2 問 16: 2 の立方根 21/3 の近似値を以下のようにして求めてみよう. (1) f (x) = (1 + x)1/3 とする.この関数に対するテイラーの公式を考え,Sn (x) と Rn (x) を n = 2, 3, 4 に対して 求めよ. (2) 21/3 = f (1) であることに注目し,上の (1) の結果と組み合わせて 21/3 の近似値を求めよ.具体的には R2 (1), R3 (1), R4 (1) がそれぞれどのような範囲にあり得るかを考えて,その結果を S2 (1), S3 (1), S4 (1) の値と組 み合わせれば,21/3 の存在範囲に対する情報が得られるはずである. (本当は π に対して同様のことをやってもらうと良いのかもしれないが,これは教科書の p.28 近辺に載ってい る.なお,試験では逆三角関数のテイラー展開なども訊くかもしれないから復習しておいてくださいね. ) 番外問題:(今までと同じ.感想や改善の要望なども,あれば書いて下さい. ) レポート提出方法: 上の問に解答し, 7 月 11 日(水)13:00 (いつもより早いので注意! !)までに,原の部屋(六本松3号館 3-312)の前の 箱に 入れてください.整理の都合上,用紙は A4 を使ってください.また,2枚以上にわたる場合は何らかの方法で綴 じてくだされ. —————————————————先週のレポートの略解 ————————————— 問 13: 今回は計算するだけ(でも自分で計算することに意味がある)なので,解説は簡単にします.各問で ξ は 0 と x の間の数です(うるさいので,まとめて断っておきます). (a) 微分して行くと f 0 (x) = 3 , (1 − 3x)2 f 00 (x) = 32 2 , (1 − 3x)3 f 000 (x) = 33 3! , (1 − 3x)4 となって(厳密には数学的帰納法により) f (n) (x) = 3n n! , (1 − 3x)n+1 f (n) (0) = 3n n! である.従ってテイラーの公式によれば Sn (x) = n−1 ∑ k=0 である. 3k xk = n−1 ∑ k=0 (3x)k , Rn (x) = (3x)n (1 − 3ξ)n+1 r – 20 実のところ,これは高校までの知識でもできる.等比級数の和の公式から n−1 ∑ (3x)k = k=0 1 − (3x)n 1 − 3x n−1 ∑ 1 (3x)n = (3x)k + 1 − 3x 1 − 3x だから k=0 が得られるが,ここで最後の項について 1 − 3x = (1 − 3ξ)n+1 となるような ξ を探してくるとテイラーの公式になる. (こうやって求めたのがテイラーの公式の結果と一致するの は今日の講義で. ) (b) これは簡単. g (n) (x) = an eax なので Sn (x) = n−1 ∑ k=0 ak k x , k! Rn (x) = an eaξ n x n! (c) これもまあ,簡単ですが,答えのまとめ方が厄介やな. cos x ( n が 4 の倍数のとき) − sin x ( n を 4 で割ると 1 余るとき) h(n) (x) = − cos x ( n を 4 で割ると 2 余るとき) sin x ( n を 4 で割ると 3 余るとき) なので,原点でのゼロでない微分の値は h(2k) (0) = (−1)k となっている.従って,Sn と Rn は n を 4 で割った時のあまりに応じて以下のようになる(以下の解は n が 2n や 2n + 1 になってることに注意). S2n (x) = n−1 ∑ k=0 S2n+1 (x) = (−1)k 2k x , (2k)! n ∑ (−1)k k=0 (2k)! x2k , R2n (x) = R2n+1 (x) = (−1)n cos ξ 2n x (2n)! (−1)n+1 sin ξ 2n+1 x (2n + 1)! (別解)以上が答えですが,何人かの人は以下のようにやってくれてました.これもなかなか良いと思います.ま ず,cos x の微分は ( π ) h(n) (x) = cos x + n 2 と書けることに注意する. (こうなるのはもちろん,地道に確かめられるけど,なぜこんなことを思いつくのか,気 になる人もいるだろう.その一つのヒントはオイラーの公式 eix = cos x + i sin x にある.この両辺を n 階微分し た上で,両辺の実部と虚部を比べると cos x と sin x の n 階微分の表式が上のようにでるのだ.今日の講義を参照. ) これをテイラーの公式に用いて Sn (x) = n−1 ∑ k=0 (π ) 1 cos k xk , k! 2 ( 1 π ) cos ξ + n xn n! 2 Rn (x) = (π ) k を具体的に計算すると,もちろん,上で書いた答えと一致する. が得られる訳.cos 2 (d) 一回微分すれば後は (a) と同じようなもの: p0 (x) = Sn (x) = − −a , 1 − ax n−1 ∑ k=1 ak k x , k p(n) = −an (n − 1)! (1 − ax)n Rn (x) = − an xn n(1 − aξ)n r – 21 (e) 一般項を求めることも可能だが,まあ,最初の3項でいいや,としました. q 0 (x) = 1 (1 + x)−1/2 , 2 1 q 00 (x) = − (1 + x)−3/2 , 4 3 q 000 (x) = + (1 + x)−5/2 8 なので, x x2 1 − , R3 (x) = (1 + ξ)−5/2 x3 2 8 16 当初の出題意図では剰余項は求めなくてもよいつもりでしたが,おまけとして載せました. S3 (x) = 1 + (f) 同様に, 1 1 (1 + x)−1/2 (1 − x)−1/2 + (1 + x)1/2 (1 − x)−3/2 , 2 2 1 3 1 r00 (x) = − (1 + x)−3/2 (1 − x)−1/2 + (1 + x)−1/2 (1 − x)−3/2 + (1 + x)1/2 (1 − x)−5/2 4 2 4 r0 (x) = なので, S3 (x) = 1 + x + x2 2 である. なお,この (f) は上のように闇雲に微分するよりも, r(x) = (1 + x)1/2 × (1 − x)−1/2 という積だと思って,前と後ろを別々に展開し: 1 1 (1 + x)1/2 = 1 + x − x2 + ... 2 8 1 3 (1 − x)−1/2 = 1 + x + x2 + ... 2 8 両者の積をとるのが簡単である(今日の講義参照).この方法なら少しの苦労でもっと先まで求められる: 1 1 1 5 4 (1 + x)1/2 = 1 + x − x2 + x3 − x + ... 2 8 16 128 1 3 5 35 4 (1 − x)−1/2 = 1 + x + x2 + x3 + x + ... 2 8 16 128 なので 1 1 45 4 r(x) = 1 + x + x2 + x3 + x + ... 2 2 128 r – 22 7月13日:今日は「テイラー展開」「オーダーの概念」などをまとめます.また,これまでのところで少し 手薄になった話題などを補強します. 1. 期末テストは教務課の掲示通りの時間,場所で行うので,各自,確認の事. 2. 期末テストの範囲は今学期にやったとこ全部.特に • 極限の定義,²-N ,²-δ など • 数列の収束条件,単調列 • テイラーの定理とテイラー展開 • 簡単な論理の問題 • 三角関数の逆関数など などは最重要でしょうね. (このすべてを訊く事はできないから,ある程度の取捨選択はしますが. )もち ろん,これ以外にもやった事,関連した事は訊く可能性があります. 3. 「学習到達度再調査」を行う事は可能です.どのようにやるか,そもそもやるかやらないかも含めて,現 在,検討中です.期末までには決めますが, 「再調査」をやるならば期末から1週間後の同じ時間にやる でしょう. (1週間後で都合の悪い人は期末の前までに必ず僕に言って下さい. ) なお,再調査には(本来不合格になるはずの)全員を呼ぶとは限りません —— あまりに期末の成績が 悪ければ,その時点でアウト! 4. 秋学期の最初の頃に「夏休み復習テスト」を行う可能性が非常に高いので予告しておきます.詳しい事 は期末テストの時に宣言します. テスト対策も兼ねて, 「このように勉強してほしい」ことを列挙しておきます. • 教科書の関連するところ(1章と2章)はすべて読む.学期が終わりつつある今,復習のつもりでもう一度 (いや,もう3度)通読すべし. • その際,定理の証明は理解することが望ましいが,あまりに困難ならば無理しなくてもよい.証明よりも,そ の定理の「こころ」がわかることの方が大事だ.定理の「こころ」がわかるとは – その定理の意味は何か? – その定理の成り立つ典型的な例は何か? – その定理の成り立たない典型的な例は何か? – 定理の前提条件をはずすと定理が成り立たない例があるだろう.どの条件をはずすと,どんな例が出る か?(これによって,定理の前提条件の存在意義を理解する. ) などがわかることを意味する.始めのうちは難しいだろうが,できるだけ心がけてほしい. • 教科書の該当部分の問題はやるように努力する.ただし,問題の大半は少し難しい証明問題だから,できなく ても悲観しないこと. • 教科書の問題が「難しすぎる」ことをカバーするため,問題集(演習書)をやってみることを強く勧める.演 習書の例は最初の講義の時に配ったプリントに載せたが,これにこだわる必要はない.少々,簡単すぎるくら いでも,説明が丁寧で,自分で理解できるものが良い. • 上に関連して,単なる計算練習と思えるものでも馬鹿にせずにやること.下手に計算間違いすると問題の核心 に迫れないぞ. • ともかく,焦らずに「基本的な考え方」「重要な概念」を身につけるように努力する.間違っても付け焼き刃 で試験の点を上げようとしないこと.特に意味もわからずに丸暗記することは絶対に避ける.合格ラインギリ ギリになった場合, 「不器用で得点が伸びなかったが,よくわかっていることが読み取れる」人には十分の配 慮をすることはお約束します. r – 23 —————————————————先週のレポートの略解 ————————————— 問 14: 分数の形になってるので,分母と分子を別々にやってから合わせるのが良いでしょう.g(x) = cosh x と すると,単純に微分して g 0 (x) = sinh x, g 00 (x) = cosh x, g 000 (x) = sinh x, g (4) (x) = cosh x, ... ex − e−x と書いた).従って,x = 0 の周りでのテイラーの公式から 2 となっていく( sinh x = g(x) = 1 + x2 x4 x6 x8 + + + + O(x10 ) 2 4! 6! 8! がわかる.一方,分母の方は先週のレポートの (e) や (f) を参考にしよう.まず, (1 + y)−1/2 = 1 − y 3 2 5 35 4 + y − y3 + y + O(y 5 ) 2 8 16 128 であるので,y = x2 として (1 + x2 )−1/2 = 1 − x2 3 5 35 8 + x4 − x6 + x + O(x10 ) 2 8 16 128 が得られる — O(y 5 ) において y = x2 としたら O(x10 ) になるのはほとんどアタリマエだが,各自で納得しておく こと.従って,この2つをかけると, [ x2 (cosh x) × (1 + x2 )−1/2 = 1 + + 2 1 = 1 + x4 − 6 ] [ ] x4 x6 x8 x2 3 5 35 8 + + + O(x10 ) × 1 − + x4 − x6 + x + O(x10 ) 4! 6! 8! 2 8 16 128 13 6 37 8 10 x + x + O(x ) 90 280 が得られる.テイラー展開の一意性から,上のは問題の関数をテイラー展開した最初のゼロでない4項になってい るはずだ.というわけで答えは cosh x 1 13 √ = 1 + x4 − x6 + O(x8 ) 2 6 90 1+x である. 問 15: 問題の極限は 1 lim x→0 xn ( ) ( ) cosh x 1 1 4 13 6 8 √ − 1 = lim n x − x + O(x ) x→0 x 6 90 1 + x2 である.x がゼロに行くときには,括弧の中の最初の項が一番大事だから,n = 4 ととるべきであることがわかる. このとき,極限の値は 1/6. 問 16: (1) これは今までみたいに計算するだけ. f 0 (x) = 1 (1 + x)−2/3 , 3 2 f 00 (x) = − (1 + x)−5/3 , 9 f (3) (x) = 10 (1 + x)−8/3 , 27 f (4) (x) = − 80 (1 + x)−11/3 81 であるから,テイラーの公式から(ξj は 0 と x の間の数) S2 (x) = 1 + x , 3 1 R2 (x) = − (1 + ξ2 )−5/3 x2 9 x x2 − , 3 9 2 x x 5 S4 (x) = 1 + − + x3 , 3 9 81 S3 (x) = 1 + 5 (1 + ξ3 )−8/3 x3 81 10 R4 (x) = − (1 + ξ4 )−11/3 x4 243 R3 (x) = が得られる. これを元にして 21/3 = f (1) の近似値を求めよう.まず S2 と R2 を使ってみる.ξ2 は 0 と 1 の間にあるから,一 番ええかげんには −R2 (1) = 1 1 2−5/3 2−2 1 (1 + ξ2 )−5/3 ≥ (1 + 1)−5/3 = ≥ = 9 9 9 9 36 r – 24 および −R2 (1) = 1 1 (1 + ξ2 )−5/3 ≤ 9 9 というような評価が得られる.従って, 21/3 = f (1) = S2 (1) + R2 (1) = 4 4 1 47 + R2 (1) ≤ − = 3 3 36 36 および 21/3 = 4 1 11 44 4 + R2 (1) ≥ − = = 3 3 9 9 36 が得られる.この2つをまとめて書くと 1.222222 ≈ 11 44 47 = ≤ 21/3 ≤ ≈ 1.305556 9 36 36 となる(以上は S2 , R2 を用いた場合). 他のものも同様に評価できる.結果だけを書くと S3 , R3 から 1.229938 ≈ S4 , R4 から 1.242798 ≈ 797 11 5 11 5 104 = + ≤ 21/3 ≤ + = ≈ 1.283951 648 9 648 9 81 81 302 104 10 104 5 2491 = − ≤ 21/3 ≤ − = ≈ 1.281379 243 81 243 81 1944 1944 題意からは少し外れるが,今は以下のようにして 21/3 の範囲を出すこともできる.まず,Rn (x) の符号は,n が 偶数なら Rn は負,n が奇数なら Rn は正,となっていることに注意しよう(上では n = 4 までしかやってないけ ど,単なる微分の問題だからすぐにわかる).従って, f (1) ≤ S2n (1) f (1) ≥ S2n−1 (1) かつ がいつも成り立っている(n は 1 以上の任意の整数).従って,Rn (1) の具体的な値に立ち入らずに 21/3 を評価す ることが可能である.以下にいくつかの Sn (1) の値を表にした. n 1 2 3 4 5 10 100 S2n 1.33333333 1.28395062 1.27297668 1.26850582 1.26615999 1.26229088 1.26002675 S2n+1 1.22222222 1.24279835 1.24950465 1.25267151 1.25446997 1.25770514 1.25981605 正直,収束はかなり遅い!200項とって小数点3桁目がアヤシいのではあまり実用的ではない.これはなぜか というと,このテイラー展開が収束するかどうかのギリギリのところが x = 1 だからだ. (もっと小さい |x| ではテ イラー展開の収束は格段に良い. )この辺りの事情は秋学期の数学概論 II で学ぶことになるだろう.なお,参考ま でに:21/3 ≈ 1.25992 10498 94873 である. r – 25 —————————————————-夏休みチャレンジ問題 ————————————— (問題の趣旨)これは過去2年も出した問題です.今まで高校で習った sin, cos の定義や性質はいったん忘れ, sin x と cos x をそのテイラー級数で定義 した場合,我々の知っている sin, cos と同じになるかどうかを考える問題 です.何をもって「同じ」というかはなかなか難しいのですが,一見異なる性質のものがどうも同じらしい,と実 感してもらえれば良いですね.我こそはと思う者は,是非,チャレンジしてください. • 前提条件として,高校での sin x, cos x の知識はいったんすべて,忘れてください.そのようなものを知らな いところから sin, cos を 定義する のが目的です. • まず,関数 S(x) と C(x) を S(x) := ∞ ∑ (−1)n x2n+1 , (2n + 1)! n=0 C(x) := ∞ ∑ (−1)n x2n (2n)! n=0 N ∑ (−1)n x2n+1 と定義する.右辺の意味はもちろん,S(x) なら aN := という数列を考え,その N → ∞ の (2n + 1)! n=0 極限を S(x) と定義する,ということ.先走っていうと,S(x) は sin x,C(x) は cos x になるはずのものである. • この級数はすべての実数 x で収束していることを確かめよう. • このように定義したものが S 0 (x) = C(x), C 0 (x) = −S(x) をみたすこと(0 は x での微分)を示せ.この場合, S(x), C(x) ともに無限級数で定義されているから,級数の無限和と x による微分の 順序交換 ができるかどう かが問題だ.一般論は後期にやるが,今までの知識でも(微分の定義から出発して)できるから,頑張れ! • {S(x)}2 + {C(x)}2 = 1 を示せ. • sin, cos の加法定理に相当するものが成り立つことを示せ.例えば,S(x + y) = S(x)C(y) + C(x)S(y) などと いうことである. (無限級数の積を考える必要があるから,極限の取り方などに注意して厳密に議論しよう. ) • S(α) = 0, C(β) = 0 となるようなゼロでない α, β が存在することを何とかして示せ.S(x), C(x) の満たす不 等式を作ってみるのが良いかもしれない. • S(x), C(x) が周期関数であることを導け.つまり,正の数 α があって,S(x + α) = S(x), C(x + α) = C(x) がすべての x について成り立つことを示せ. • 上の α, β と,円周率 π の関係をつけよう.π の定義としては「半径 1 の円の円周の長さが 2π 」とする.これ まで考えてきた S(x), C(x) からその円周の長さを計算することで,π との関係をつけよ. • その他,わかることがあったら何でもやってみて,上の S(x), C(x) と皆さんの知っているはずの sin x, cos x が「同じ」である状況証拠を積み重ねてみよう.あと,どのようなことを言えば,本当に「同じ」だといえる だろうか?そもそも,皆さんの知っているはずの sin x, cos x の定義は何だったんだろう? 上に書いたものはこの順序でやる必要はない.また,上のはあくまで一つのアプローチであって,これにとらわれ る必要もない.ともかく上で定義した級数 S(x), C(x) と皆さんの知っているはずの sin x, cos x との関係をいろいろ とつけてくれれば良い.