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生体材料の疲労
原子力研究委員会 FQA小委員会 疲労に関する重要知識 Subcommittee for Organizing Question and Answer of Fatigue Knowledge 生体材料の疲労 慶應義塾大学 小茂鳥潤 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 1 生体材料の定義 『ヒトの細胞に接触して用いる治療用材料』 ただし,正常な皮膚表面に接触して用いられる材 料は除く 生体由来材料の定義 『生体を構成する物質皮膚や骨組織の主成分』 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 2 2 生体材料の利用されている部位とバイオマテリアル 使用場所 用途 具体例 素材 体外-体内 連絡 血液浄化 ガス交換 栄養補給 循環補助 注・排液 血液透析器,血液吸着材 人工心肺,人工肺 カテーテル,点滴セット カテーテル 注射器,導尿カテーテル 高分子 高分子,金属 高分子 高分子 高分子,金属 体表付近 皮膚被覆 歯科治療 視力矯正 創傷被覆材 歯冠,義歯床,人工歯根など コンタクトレンズ 高分子 高分子,セラミクス,金属 高分子 完全体内 手術補助 治療補助 体形補助 臓器代行 縫合糸,クリップ,止血材 骨折固定材,水頭症シャント 人工乳房,人工鼻・耳 ペースメーカ,人工関節,人工骨, 眼内レンズ,人工血管,人工弁 高分子,金属 金属,セラミクス,高分子 高分子 金属,セラミクス,高分子 使用場所が体外の場合を省略した。 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 3 3 生体材料の素材 金 属: チタン合金,ステンレス鋼,CoCr合金など セラミックス アルミナ,ジルコニアなど 高分子 シリコーンなど Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 4 4 金属系生体材料の臨床応用 人工関節(膝関節,股関節ほか) ボーンプレート 創外固定器 髄内釘(ずいないてい) 金属クリップ ステント 脊柱固定器(ロッド,スクリュー) 心臓ペースメーカー Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 5 5 生体材料が使用される環境 疲 ヒトの体内 労 温度:37℃ 大気圧 pH7 生化学的因子(免疫系) 腐 食 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 摩擦・摩耗 6 6 FQA:Question 生体内の環境は,金属にとってはマイルドな環境 だと思います.そのような環境でも金属疲労は生 じるのでしょうか? 金属疲労が生じる場合,疲労強度は大気環境と 比較して低下するのでしょうか? Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 7 7 FQA:Answer いいえ,生体内は化学工場のようなもので、その 環境は金属材料にとって非常に厳しいものです. したがって,生体内でも金属疲労は生じ,大気中 に比べて,疲労強度が減少する場合もあります. 実際に生体内で疲労破壊したネジの例、および、 動物を使った疲労試験結果の例を紹介します. Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 8 8 実際に生体内で疲労破解したネジの例 矯正ロッド 脊柱 (頸椎,胸椎,腰椎) 固定用ネジ 側湾症矯正ロッドとその固定方法 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 9 9 生体内で破壊したネジ 材質:チタン合金 疲労破壊 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 10 10 破面観察 2µm マクロ観察 ミクロ観察(SEM) ネジ底の複数箇所を起点に疲労き裂が発生、進展 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 11 11 動物を使った疲労試験結果の例 生体材料のin vivo疲労強度評価試験 (1985~1998) 森田真史(北里大学(現 埼玉大学)ほか Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 12 12 研究の目的 ■ 人工材料の機械的強度 ■ in vivoとin vitroで異なるか? ■ 動物の体内 ■ 金属材料の疲労試験 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 13 13 疲労試験の様子 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 14 14 in vivo 疲労試験機 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 15 15 SUS316L鋼の疲労試験機(10Hz) Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 16 16 SUS316L鋼の疲労試験機(周波数の影響) Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 17 17 Ti-6Al-4V合金の疲労試験機 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 18 18 森田らの考察 ウサギの体内でSUS316Lの疲労強度は低下 馬血清中では低下なし 単なる物質の差ではなく『生活している動物体内』と いう特殊性 溶存酸素濃度の計測 →体外にある水溶液と比較して疲労寿命は1/2~1/5 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 19 19 森田らの考察(不動態皮膜の破損と修復) Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 20 20 すべり変形に助長される疲労き裂発生 (李ほか,1999) Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 21 21 すべり変形に助長される疲労き裂発生 (李ほか,1999) Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 22 22 低溶存酸素分圧環境での疲労試験 動物を使わないin vitro 試験での検証 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 23 23 低溶存酸素分圧環境での疲労試験 Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 24 24 おわりに 最近,生体材料の疲労破壊は極めて少ない. しかし,今後はより長期にわたり生体材料を体内で利用 することが想定され,より長期間,破損することなく生体 内の環境で耐え得る材料を実現することは,患者が日常 生活を送る上で,非常に重要である. このとき,単に疲労破壊の防止を目指すだけでは生体材 料の場合は不十分であり,腐食や摩耗などによる損傷に も耐え得る材料あるいは表面を創製することが重要にな ると思われる. Copyright © 2015 The Japan Welding Engineering Society, All Right Reserved. 25 25