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2)知的障害や自閉症がある人の医療機関受診について

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2)知的障害や自閉症がある人の医療機関受診について
第3章
2)知的障害や自閉症がある人の医療機関受診について
千葉県自閉症協会 会長
旭中央病院脳神経外科 部長 大屋 滋
知的障害や自閉症等の発達障害がある人も当然の如く診療所や病院を受診し
ます。しかし、発達障害について詳しい知識を持った医師や医療従事者(以後、
代表して医師と記しますがすべての医療従事者に当てはまります)、診療に慣れ
ている医師はそれほど多くありません。同時に、患者さんの多くは、現在医療
機関や医師が陥っている厳しい状況について充分に認識していません。その結
果、受診する側のみならず、医師の側にとっても辛い体験になることがありま
す。顔を向き合わせて話し合いを行い、お互いの状況を知り、現実に見合った
具体的な対策を考え、地道に実行し続けていくことが大切です。
本稿では自閉症児の親の立場と、救急医療に携わる病院勤務医の立場の両方
から情報を報告することにより、今後の議論の種になることを期待しています。
I 医師に知ってもらいたいこと(障害児の親の立場から)
知的障害や自閉症のある人の医療機関受診は医師が想像しているよりもずっと
大変です。しかし、正しい知識と熱意があれば、スムーズな診療が可能となる
場合が多く、時としてお互いに大きな達成感を得ることもできます。
1)医療機関受診時の困難さ
平成16年度厚生労働科学研究助成「発達障害者支援のための地域啓発プログ
ラムの開発」(主任:堀江まゆみ、分担:大屋滋)の調査によると、知的障害や自閉
症のある人とその家族の多くが病院や診療所で辛い経験をしています。診療を
拒否された、途中で受診をあきらめた、待合室での周囲の目、医師からの暴言、
本人への説明がない、強引に押さえつけての診療など、後々までトラウマとし
て残るような経験も含まれています。
医師の側からも、言葉が理解できず診療ができない、症状がわからない、指
示に従えない、待ち時間を待てない、パニックになった、暴れた、大声を出し
た等の問題が挙げられています。
2)対応の基本
対応はあくまで本人に対して行うことが基本です。そのためにこそ、親など
の家族や周囲の支援者の協力が不可欠です。緊急を要する場合を除いて、可能
な限り知的障害や自閉症の障害特性に対するバリアフリーと、本人に対する説
明と同意(インフォームド・コンセント)を行う努力が必要です。要するに、一般
の人にするのと同じことをどのようにしたら知的障害や自閉症がある人に対し
て実現できるかを検討し続ける姿勢が大切なのです。
1 基本的な考え方
病院において、自閉症や知的障害がある人がいわゆる「問題行動」を起こす
ことがあります。例えば、医師の指示に従えないとか、暴れて検査ができない
などの行動ですが、水面下には本人にとってそれなりに理由がある場合が多い。
その理由の一つが、検査や処置がどの様な内容でどれくらいの時間かかるのか
が本人にとって理解しづらいという認知能力の問題と、それを伝えあうコミュ
ニケーションの不十分さです。コミュニケーションは、本人だけでなく相手と
の関係で成り立つものですから、相手となる周囲の人たち(医師や看護師等)の側
もうまくコミュニケーションをとっていないことになります。これを自閉症や
知的障害を持つ人と周囲の人とのあいだにある障害特性に起因する一種の「バ
リア」として認識することが大切です。
世の中には色々な意味で理不尽な扱いを受けている人がいると思いますが、
知的障害や自閉症がある人とその家族はその代表の一つです。ある調査では、
知的障害や自閉症のある人の家族は、一般の方はもとより身体障害のある人の
家族に比べても、他人から差別されているという意識が高い。
このような意識が生じる第一の要因は、障害の軽い重いではなく、社会におけ
る障害に対する支援策が乏しいことです。しかし、それ以上に、障害の存在や
バリアの存在自体を周囲の人に理解してもらえないことが、大きな要因となっ
ています。さらに、障害の存在自体を親の責任として責められることもしばし
ばあります。プロである医療従事者は、自分の方から相手に合わせたコミュニ
ケーションをとろうとする姿勢が大切です。
2 患者さん側が医師にどの様に伝えるか
日本において一般の医療機関の医師は非常に多忙であり、外来診察はいわゆ
る3分間診療にならざるを得ません。その制約の中で、コミュニケーションに困
難性を持つ患者さんの場合「本人の訴えがわからない。」ということが最初の
関門となります。自閉症児者が的確な診療を受けるためには、親や支援者の準
備が必要です。千葉県が作成した受診サポート手帳や市川市で取り組んでいる
医療機関への説明カードは、上記の目的達成に効果が期待されます。身体の絵
を描いた問診票などが有効な場合もあります。
3 医師側からどの様に伝えるか
しばしば「医師側の言うことを理解してもらえない。」という場合があります。
確かに如何ともしがたい場合もありますが、本人へ可能な限り状況を説明し納
得してもらう工夫をすることが大切です。知的障害や自閉症がある人も自分が
受ける医療行為について曲がりなりにも理解できると、しばしば我慢すること
ができます。医師が自閉症や知的障害に特有のバリアの存在自体に気付き、不
完全ながらその対策があることを知っていれば、少しずつであっても解決策が
見えてきます。例えば以下のような方策があります。
1. まず、本人が少しでも安心できるような環境を作る工夫が必要です。
2. 視覚的な説明、具体的には、写真や絵を使うと有効な場合が多いです。
3. 予め実物を見学するのも有効な方法です。
4. 何をする場所かをわかりやすくすることが有効です(場所の構造化)。
5. スケジュールを伝えることが有効です。
6. ステップ・バイ・ステップで行うとうまくいくことがあります。
知的障害や自閉症がある人の支援にはTEACCH(ティーチ)プログラムの考え方
が非常に有効です。TEACCHプログラムは、アメリカノースカロライナ州で行
われている「自閉症の人たちへの教育と福祉の包括的な援助システム」のこと
ですが、日本では「自閉症や知的障害の人への援助方法」として有名です。「自
閉症のための絵で見る構造化」(学研)、「自閉症や知的障害をもつ人とのコミュ
ニケーションのための10のアイデア」(エンパワメント研究所)等沢山の参考書が
出版されています。
4 支援方法の多様性
知的障害や自閉症がある人は、ひとり一人様々な特徴や個性があり、環境の
変化にも弱いため、誰にでも、いつでも通用する単一の方法はありません。で
すから、どの様な工夫をしても最初からうまく行く保障はありません。ただ、
視覚的な説明、スケジュールの説明の二つに心がけつつバリアフリーの工夫を
していくと、うまく行く確率が高まります。一つでもうまく行くと、患者さん
からの信頼はすごく高まります。そして、2回目からはスムーズに検査や処置を
受けることができるようになります。自分で理解した処置を、自分の意志でや
り遂げたときの患者さんの嬉しそうな顔を見ると、医師も、また工夫してみよ
うという意欲が湧いてきます。まずは、初めの一歩をトライしてみることです。
II 医療機関受診支援のための活動と今後の課題
千葉県や全国で行われている医療機関受診サポートのための取組みと課題を
列挙します。
1)受診支援の仕組み作り
1 「受診サポート手帳」
2005年千葉県が「受診サポート手帳」を作成しました。多数の有効事例が報
告されていますが、全県的な普及は今のところ充分ではありません。千葉県の
手帳に触発されて、広島、名古屋、鳥取、群馬、静岡、北海道などでも同様の
試みが始まっています。市川市手をつなぐ育成会と市川市医師会が行っている
「説明カード」の取組みは、両団体の密接な交流により、大きな成果が生まれ
ると期待されています。
2 障害者の総合健康診断及び人間ドックを進めるモデル事業
千葉県は2004年度から2006年度にかけて、旭中央病院において知的障害や自
閉症がある人の人間ドックモデル事業を行いました。今後、他病院にも広がる
ことが期待されます。
3 千葉県における「自閉症等の相談・診療の医療機関名簿」
2003年12月、日本自閉症協会千葉県支部は千葉県医師会の協力のもと、千葉
県医師会に所属する全会員を対象にアンケートを行いました。質問は1.医療の相
談にのる、2.自閉症等の専門診療を行う、3.身体疾患の診療が可能、の3項目で
す。その結果、合計117の医療機関から賛同をいただきました。名簿を作成しホ
ームページに公開するとともに、医師会会員に名簿を配布しました。2006年に
追加調査が行われました。
知的障害や自閉症のある人を快く受け入れてくれる医師は、ある程度の時間
的・心理的余裕があること、自閉症に対する知識があることに加え、医師本人
の個性や環境が関係しており、現時点ではその数は限られています。バリアフ
リー策が広く知られるようになり、また社会的な評価が高まり、徐々に増えて
いくことが期待されます。
4 医療サポーター、メディカルヘルパー、病院ボランティア
将来的には、病院受診時に、患者側(本人、家族、教育・福祉関係者)と、医療
関係者の間のコミュニケーションを支援する専門職が必要と思います。聴覚障
害者にとっての医療手話通訳者に相当する役割でが、知的障害や自閉症の場合、
より複雑な能力を要求されます。介護ヘルパー講習のプログラムに加えること
も一案でしょう。また、障害に対する知識をもった人を病院内でのボランティ
アとして重用することも有意義と思います。
5 学校での取り組み
いくつかの特別支援学校では、健康管理及び病院受診スキルの向上、本人の
コミュニケーション能力の向上、本人の特性についての情報提供等に関する取
り組みがあります。今後は学校全体の取り組みとして発展することが期待され
ます。
2) 医療従事者に対する啓発活動
1
医療団体を巻き込んだセミナーの開催
2003年5月に千葉市で「自閉症や知的障害を持つ人の医療に関するセミナー」
を開催しました。以後、旭市、市川市、船橋市、千葉市等でも地元の医師会や
歯科医師会と合同でセミナーを開催し意見交換が行われました。このような意
図を持ったセミナー・講演会は、千葉県以外の全国各地でも開催され始めてい
ます。
2
医学学会での宣伝活動
日本自閉症協会は日本小児神経学会、日本小児精神神経学会、日本児童
青年精神医学会など、知的障害や自閉症に関心を持つ医師が多い学会で宣伝活
動をしています。
3) 障害児者の医療に関する研究
1
日本発達障害者福祉連盟(旧・知的障害者福祉連盟)は1998年に知的障害の人
たちの健康調査報告集「不平等な命」を発行するなど、調査・研究・教育活動
を行っています。
2
日本障害者歯科学会や日本小児歯科学会は、障害児者の歯の健康や治療に関
心を持つ歯科医師の学会です。この分野の専門家の育成、質の向上に努めてい
ます。残念ながら、現時点で「障害者医科学会」はありません。今後、障害の
ある人が医療を受けることをテーマとした研究会、学会の設立が望まれます。
3
日本小児神経学会、日本小児精神神経学会、日本児童青年精神医学会などで
は、障害児者の医療についての諸問題がテーマとしてしばしば取り上げられま
す。
4
自閉症カンファレンスNIPPON、TEACCHプログラム研究会、日本自閉症ス
ペクトラム学会など自閉症に関する研究会では、病院受診に関する実践発表が
行われています。
5
自閉症児者を家族に持つ医師・歯科医師の会(afd :autism family doctor)は、2002
年10月に自閉症児者の親である3人の医師が発起人となって立ち上げた会です。
現在全国から約180名が参加し、医療に関する情報の集積を行っています。
III 患者さんに知ってもらいたいこと(勤務医の立場から)病院内において患者
さんは一般的には弱い立場です。時として、医師等による、患者さんやその家
族に対する暴言などのドクターハラスメントや、配慮に欠ける対応等が存在す
ることは確かです。しかし、近年、医療機関や医師をとりまく状況は急速に厳
しくなっており、医師も決して楽ではありません。
1) 医師の時間的・精神的余裕の欠如
深刻なのは救急医療です。20年前、日本には救急医療を積極的に扱う病院や診
療所が多数存在しましたが、急速に減少しています。産科、小児科のみならず、
外科系の不足が深刻です。その結果、残っている救急医療機関に患者さんが集
中します。患者さんを診ようと努力する医師ほど多忙になり、時間的・精神的
余裕はどんどん無くなっています。
また、多くの病院では電子カルテの導入や、ISO取得等の経営管理体制の強化
が推進されています。いずれも理念としては大切な意義を持っていると思いま
すが、診療自体を直接改善するわけではありません。多くの医師や看護師はパ
ソコン画面を見ている時間が大幅に増え、患者さんと向き合う時間を削減せざ
るを得なくなっています。
2) 社会福祉制度の不十分さが医療に悪い影響及ぼしています。
老人や障害のある人の社会的入院が問題となっている療養型の病床は削減さ
れ続けています。しかし、地域社会で暮らすことが困難な人に対して、現在の
介護保険や自立支援法等の福祉制度は充分とは言い難く、退院が進みません。
そのあおりを受けて、急性期病院のべッドも空かず、最終的に患者さん救急受
診を受け入れに支障が生じています。
現場の医師は、救急患者さんを受け入れるためのべッドを確保するという使
命を果たすために、クレーム覚悟で入院患者さんを強引に転院や退院させるこ
ともあります。逆に、自分が診ている患者さんだけには丁寧な対応を行う方針
を取った場合、医師は患者さんの受診数を制限せざるを得なくなります。
「受診を拒否された」、「診察時間が短い」、「退院を強要された」といった
状況が作り出されるのは、医療機関の困窮を表している場合が少なくありませ
ん。いうならば、患者さんに障害があろうが無かろうが、平等に生じている要
素があります。このような状況を、障害があることに対する差別として捉えて
も解決に繋がりません。障害のある人の医療の改善の基盤として、全ての人の
医療体制、そして取り囲む福祉体制の改善が必要なのです。
3) 患者さんからの医療機関に対する不合理な要求が徐々に増加しています。
一般の人はマスコミから多くの知識を得ることが出来ます。しかし、マスコ
ミに植え付けられた中途半端な医学的知識や不安に基づいて、不合理な要求を
する患者さんが徐々に増えています。また、医療機関を24時間営業のコンビニ
のように利用しようとする患者さんが増えています。小児科受診数が、日中よ
りも夜間救急の方が多い病院まで出現しています。深夜に専門医の呼び出しや
高度な精密検査を要求する患者さんも増え、医師の疲弊を助長しています。
4) 医師は患者さんとの関係の中で、「良い医師」にも「悪い医師」にもなり
ます。
マスコミは報道内容をわかりやすくするため、時として単純化して伝えよう
とする性質があります。テレビや新聞での医療に関する報道では医師や医療行
政を一方的に批判する内容が多数あります。逆に売れっ子タレントのような医
師を作り上げたり、新しい薬や治療法が万能であるかの如く過大に喧伝する番
組や記事もあります。その結果として、一般の人に医療に対する極端に二分化
した概念を植え付けることになります。例えば「良い病院と悪い病院」、「神
のように手術がうまい医師と、下手でミスばかりする医師」、「僻地医療等に
献身的に邁進する高潔な志を持った医師と、金儲けに走る堕落した医師」とい
った具合です。極端な表現は誤った知識を誘導し、医療に対する信頼感をおと
しめる最大の原因の一つになっています。マスコミは、一般の人に正確に伝わ
るような丁寧かつバランスのとれた番組や記事を作って欲しいと思います。と
同時に、視聴者である患者さんには番組や記事に対して冷静な判断をしていた
だきたいと思います。
医師と患者さんの関係の多くは良好だと思いますが、一部でうまくいかない
場合があります。その原因は「一部の悪い医師」、もしくは「一部の悪い患者」
にある、という見解があります。しかし、固定された一部の悪い医師、悪い患
者という考え方は不的確だと思います。どんなに良い医師といわれる人でも、
全ての患者さんを100%満足させることは出来ません。患者さんの事前の期待度
が高い場合には、その分クレームが激しくなることすらあります。逆にひどい
医師といわれる人にも、ファンになる患者さんが必ずいます。同じ医師でも時
間的余裕があるときは丁寧な対応ができるが、余裕がないときにはできない場
合もあります。どんな医師も、患者さんとのその時の関係や特定の状況の中で、
「良い医師」にも「悪い医師」にもなりうるのです。
5) 誰もが「被害者」にも「加害者」になりえます。
患者さんの中には、医師が最大限の努力をして治療をしても、結果が思い通
りでないと、理不尽なクレームや暴言を繰り返す人がいます。また、「普通の
患者さん」が突然「切れる」こともあります。責任感が強く、精神的にナイー
ブな医師、優しい医師ほど深く悩む傾向があります。私の周辺には、患者さん
からの攻撃的クレームに耐えきれず、救急医療や外科などのリスクの高い仕事
から身を引いた医師が多数存在します。患者さんが普通の医師をつぶすことも
あるのです。患者さんも、自分が「被害者」になる事があるだけでなく、時と
場合によっては「加害者」になるかもしれないという認識を持つことは、お互
いに思いやりを持つこと、「共に暮らしやすい」社会を作るために大変重要と
思います。
6) 日本には手間のかかる患者さんを診るための医療制度がほとんどありませ
ん。
病院は現在の医療保険制度の中では経済効率を重要視せざるをえません。障
害者歯科には保険点数上の加算の項目が存在しますが、医療分野にはありませ
ん。さらに、今後全国の病院では医療費の包括払い制度(DPC)の導入が進む見込
みです。同じ病名の患者さんは病状が重くても軽くても病院の収入が同一にな
ります。病院は病状の重い人を診れば診る程「損」になる可能性があり、敬遠
されがちになる懸念があります。同様に、障害などのために手間がかかる人も
敬遠されがちになる可能性があります。
また、現時点で日本病院評価機構などの第三者評価には、障害者医療の充実
に関する評価項目はほとんど皆無です。障害者の医療に邁進しても誰も評価し
てくれません。障害者の医療に熱心にとりくむ医師は、ある意味でのボランテ
ィアのような精神を求められるだけでなく、病院内の迷惑者と見なされている
ことすらあります。障害者に対する医療を、病院の使命として職員間の共通理
解とすることは容易なことではありません。
7) 患者さんの応援が励みになります。
障害者の医療に熱心な病院に対する公的な社会的評価、経済的評価を高めて
いく仕組みが望まれますが、現実的には見通しが立っていません。これを乗り
越えるためには、院長等病院幹部の熱意とリーダーシップ、そして、何よりも
患者さんからの励ましと評価が大きな力になります。患者さんは医療機関での
不十分な対応に目を向けるのみではなく、少しでも良かった対応を評価し、伸
ばすように心掛けていただけるとありがたいと思います。
IV
相互の理解と思いやりに基づく話し合いの重要性
2003年10月に市川市で行われた医療セミナーでは、医師側が患者さんの辛さ
知り、困難さを理解しようという姿勢を持ち、解決のためのバリアフリー策や
支援システムの工夫を具体的に話し合ったことに第一の意義があったと思いま
す。
さらに、自閉症や知的障害のある人と接する時、医師としてどうすればいい
のか大変困惑しているとの報告があり、患者さん側が医師も困っていることを
知ることができました。今後も患者さん側が医師の気持ちや医療機関がおかれ
ている現状についての理解を深めていくことにより、現時点で何ができて何が
できないのか、できないことを改善するためにはお互いに何をすればいいのか
を、本音で話し合うことができるのではないかと思います。そのために、顔を
つきあわせての話し合いの継続は、最も有効な方法と思います。市川市では医
師会のリーダーシップの元、継続的に取り組みが続けられており、全国的に見
ても極めて意義深く貴重であると思います。
知的障害や自閉症などコミュニケーションが困難な人への医療は、時として
大変手間がかかります。しかし、1回このような手間をかけることにより、2回
目以後、さらにその人の人生を通じてずっと安心して医療機関受診をすること
ができるようになることも稀ではありません。すべての患者さんに対してでき
るだけの医療を行うことは、医師等の医療従事係者が本来もっている志です。
バリアフリーの具体的方策を追求することによって、お互いに満足できる診療
を実現する道が広がります。
さらに、コミュニケーションが困難な人への配慮や工夫は、一般の幼児、高
齢者、さらに認知症や高次脳機能障害、精神障害のある人、そしてすべての一
般の患者さんに対する診療にも大いに役に立ちます。表面上の「問題行動」に
目を捕らわれるのではなく、その水面下にどの様なバリアがあり、どの様に支
援するかの具体策を考える。医療現場にとどまらず、本人にとっても周囲の人
にとっても快適な楽しい地域生活社会をつくるために非常に重要なポイントで
あり、最終的にすべての人の幸福に繋がるものだと確信しています。
3)精神科医から「かかりつけ医」に望むこと
社団法人 市川市医師会 精神科医会
代表 池田 良一
1,
今日の精神科の医療と福祉の流れ、減らない自殺者数
a) 精神障がい者数の変化
この10年間に精神障がい者数は1.5倍に増加しています。患者調査の値で平成8
年218万人、11年204万人、14年260万人、さらに平成17年度には300万人を突破
しました。このうち約35万人が入院し、約270万人が通院しています。この中で、
とりわけ気分障害(うつ病、躁うつ病など)の増加が著しく、平成8年は43万人で
したが、17年には92万人と倍以上に増えています。
b)精神科入院医療の現状
図-1、図-2にOECDのデータを示します。共にやや古いデータですが、この10
年間、日本のデータに大きな変動はないためこれらを用います。図-1のように、
欧米諸国は30数年前から病床数の削減を始めましたが、この時期日本では逆に
増加させており、入院期間を最小限にとどめ積極的に地域社会に戻そうとする
努力が医療にも社会にも不足していました。この結果日本の精神科病床数は絶
対数で約35万床と世界で最も多く、図-2のように人口あたりの病床数でも他国の
数倍あり、平均在院日数は300日を超えています。
現在、適切な受け皿があれば退院可能な約8万人の方々が、社会的な意味での
入院生活を余儀なくされています。
地域社会に帰り生活するためには、受け皿となるハード、ソフト両面にわた
る支援体制が必要です。また、新たな社会的入院を防ぐためにも、なるべく入
院せず、入院しても短期間で地域に帰り、社会生活を営むことを可能にする体
制がもとめられています。こうしたことは、日本以外の各国では、すでにおこ
なわれていることです。
c) 障がいのある人が普通に地域で暮らす
障害者自立支援法は、障がい者が地域で安心して暮らせる社会の実現をめざ
し、地域生活支援事業などを行うとしています。しかしながら、現在の社会資
源の利用だけで地域で暮らすには不十分な面が多いため、千葉県はどのような
支援がより効果的であるかを問い、県の試行事業として、ここ市川で平成17年
度から「マディソンモデル活用事業」をおこないました。これは、アメリカの
マディソン市を中心におこなわれている先進的な支援体制をモデルにし、市川
の実情にあわせて、既存の社会資源に足らないものは何かを考え、ケアマネジ
メントシステム、クラブハウス、就労支援、自立生活体験などの事業を行いま
した(文献1)。試行事業のため残念ながら平成19年度で終了しました。しかし、
地域で支えるシステムには何が必要かを改めて考えさせる機会になり、現在こ
れに換わるものが模索されています。
このような種々の社会資源を利用しながら、障がいのある人が普通に当たり
前のこととして地域で生活する社会へと、動きつつあります。そしてこのこと
は、障がいのない人が様々な身体疾患で受診するのと同様に、障害のある人も
また一般医療機関を受診する機会が増えることを意味します。
d) 年間3万人の自殺者
日本の人口あたりの自殺者数は残念ながら世界でトップクラスです(図-3)。ま
た、日本における最近10数年の自殺者数の推移を図-4に示します。平成9年に
24,391名だったのが、翌10年にいっきに32,863人に急増し、以降3万人台が続い
ています。
2,身体疾患による身体症状と精神疾患による身体症状
a)求められる全人的医療
すでによく知られていることですが、平成16年から本格的に始まった、医師
国試後におこなわれる2年間の臨床研修制度では、内科、外科、救急・麻酔部門
が基本科に、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療が必須科に位置づけ
られています。狭い疾患や臓器だけを診るのではなく、患者を一人の人間とし
て全人的に診ることができる医師の育成を目的とするためです。
一般身体科の受診者の中で相当数が、不安、心気、抑うつなどの症状を併せ
持ち(例:難病を持つ人の抑うつなど)、あるいは主訴の身体症状が精神障がいに
基づくもの(例:パニック発作、うつ病の身体症状)であることもよく知られてい
ます。精神疾患は大変多彩で、種々の身体症状が出現することがありますが、
その身体症状を身体医学で説明できないときに「ストレスのせい」と決めつけ
がちな医師が時にいます。しかし、多くのかかりつけ医は日々の混み合う外来
の中で、身体疾患に伴う精神症状や精神疾患を背景とする身体症状に苦労され
ていることを、我々精神科医もよく存じております。その上で、ちょっと失礼
にあたるかもしれないことを次の項に書きます。
b) プライマリ・ケア医によるうつ病の診断と自殺防止
平成19年6月に政府が出した自殺総合対策大綱の中で、うつ病の早期発見がう
たわれています。自殺者の3/4は何らかの精神障害をもち、その半分をうつ病が
占めています。本人や周囲の人がうつ病ではないかと疑ってくれれば精神科受
診率が高まり、これによりかなりの人々が救われる可能性があります。しかし
ながら、「胸痛が続き仕事にならず破産してしまうと嘆いていた」「景気が悪
く注文が減り、食欲がなく眠りが浅く体重が落ちてきた」などの状態が、本人
はもとより、周囲もうつ病によるものとは気づかず、「体調が悪くひどく悩み、
嘆いていた」、「身体的不具合を過剰に心配しすぎていた」と思うにとどまっ
てしまうことがしばしばあります。
では、こうした身体症状を主訴として受診するうつ病などに、プライマリ・
ケア医やかかりつけ医は、どれだけ気づいてくれるでしょうか。
図-5に、WHO国際共同研究によるプライマリ・ケア医のうつ病診断率を示しま
す(文献2)。
このデータを見る限り日本はひどく残念な状態にあります。主訴の身体症状
が身体疾患では説明できないものである時、うつ病によるかもしれないと疑い、
もう一歩踏み込みうつ病の主要症状をたずねるだけで、診断率がかなり上がる
のではないかと考えます。さらにこうした経験の積み重ねと精神科主要症状を
頭の片隅においておけるようになると、他の精神疾患もけっこう診断できるよ
うになります。そしてこの技術は、身体疾患の身体症状を正確に診断する強力
な助けにもなると考えます。
このようにして得られるうつ病の早期発見は、自殺者の減少に少なからぬ影
響を与えると思われます。
3,プライマリ・ケア医、かかりつけ医による精神障がいの見い出し
精神科の初診は医師の診察だけでも通常30分以上かかります。1時間余りかか
ることもあります。私の診療所では初診予約の際、これを含め全部で2時間くら
いを予定してもらいます。受診動機となった主訴に関連する過去のできごと、
症状出現時期、経過などについて、診断の方向をしぼりながら聞く作業に時間
がかかり、また、うつ病の思考制止、統合失調症の思考障がい、解離性疾患に
おける否認、認知症の想起困難など把握困難な状態それ自体が症状になってい
ることがらが多々あるためです。
このようなわけで、プライマリ・ケア医が、見つけにくいのはよく理解でき
ます。しかし、長い経過の中で(たとえば子供の頃から)診てきた強みを生かせる、
かかりつけ医がいます。これまでと違う雰囲気、態度を敏感に感じ取り、精神
障がいを見つけてくれます。プライマリ・ケア医として初めて診る時でも、話
のまとまりにくさや、身体疾患としての不自然さ、了解しがたさから賢察され
る医師もたくさんおられます。
いずれも、ご自身が属する医療機関に来られた方を、ご自身の患者として全
人的にとらえ、それにより責任をまっとうしようとされておられる姿勢がある
からこそ、見えてくるように思われます。「私にお任せください。困っている
ことは何ですか」と、笑顔で真正面から診ておられる姿が浮かびます。
4,精神科通院中の精神障害者
現在精神科に通院されている方も、しばしば一般医を受診します。思考の不
まとまりや迂遠などのために、自身の症状を上手に伝えることが難しい方もい
ます。また、精神科に通院中であると伝えると、精神障がいに基づく身体症状
と思われてしまうと心配し、伝えることができない方もいます。
併用禁忌や併用注意の薬物もあるため、通院中の方には、市販薬を買うとき
は調剤薬局で薬剤師に、他科を受診するときは受診先の医師に、「お薬手帳」
あるいは院外処方箋で薬を購入した薬局が出す注意書きを、必ず見せるように
伝えています。しかし、上記理由から守れない方も時々おります。
私自身をはじめ市川市医師会の精神科医会に属する医師には、千葉県が平成
17年4月から用意している「受診サポート手帳」を、今よりさらに積極的に用い
るように呼びかけ、またこの手帳で不便な点など改良が考えられることがらな
ども報告してもらうようにしたいと存じます。
5,おわりに
大変くどくどしくまた偉そうに、失礼なことなども書きましたこと、どうぞ
お許し下さい。今回は『精神科医から「かかりつけ医」に望むこと』というタ
イトルで要請され、書かせていただきましたが、この逆に、『「かかりつけ医」
から精神科医に望むこと』を是非ともお寄せいただきたいと存じます。匿名で
も結構ですので、医師会精神科医会宛にお寄せ下さいましたら、まことに幸い
に存じます。医会のメンバーの間で読ませていただき、貴重なご意見に致した
いと考えます。
<文 献>
1)池田良一、「千葉県試行事業 マディソンモデル活用事業」、市川市医師会「会報」第114号、2006年夏
季号(2006年8月発行)、7-16頁
2)平成19年版 自殺対策白書 第1章 第2節 自殺対策の基本的考え方[第2-1-10図]、WHO国際共同研究による
うつのプライマリ・ケア医による診断率
4)重症心身障害児・者の在宅医療を支える
社団法人 市川市医師会理事
大野 京子
重症心身障害児・者とは、先天性、後天性を問わず、知的および運動機能に
重度の障害を持つ重度重複障害児・者をさす。広範囲の脳のダメージによるも
ので、知的には、重度から最重度で、言葉でのコミュニケーションはまず不可
能、運動機能的には、ほぼ寝たきりの状態で、自力での寝返りさえ、ままなら
ないことが多い。しかし、それ以上に重要なのは、知的や運動機能だけではな
く、生命維持に関わる体の諸機能までもがダメージを追っているケースが多い
ことである。
生命維持のための機能で、呼吸、嚥下がダメージを受けているケースは多い。
喀痰自力排出困難、口腔内の分泌物の嚥下困難は、すぐに呼吸困難・窒息につ
ながりかねず、継続的な吸引という医療的サポートを必要とする。夜間でも1時
間に1回以上の吸引を必要とするケースもあり、障害児・者を自宅で家族が介護
している場合は、介護者の大きな負担となっている。
大抵のケースで、主治医は、大学病院や集約的医療を行う小児病院などの医
師が務めており、月に1回程度の割合で受診していることが多い。受診の際には、
携帯酸素やポータブルの吸引機を持参、1日がかりとなるため、本人・家族への
負担は軽くなく、受診後に本人が調子を崩すことさえある。それゆえ、多少の
発熱くらいだと、家族が病院へつれていくことを躊躇し、結果として、重症化、
入院となるケースも多い。
以上より、地域の重症心身障害児・者を支えるべく医療的ニーズは、
1.吸引などの医療的ケアを家族に代わって行える者の確保
2.大学病院などの主治医と連携をとり、日常、地元で医療に当たる“地域のかか
りつけ医師”の確保の、2点と考えられる。
従来、家族、看護師、医師しか行えなかった医療的ケアである吸引は、平成
18年に法律が改正され、確実な手技を身に着けたヘルパーであれば、行えるよ
うになった。しかし、その研修・実習についての指針は無く、現場任せの状態
である。未熟な手技のヘルパーが吸引を担うことになれば、障害児・者の安全、
家族の安心、ヘルパー自身の保全の点から著しい問題となることは明白で、ヘ
ルパーの研修・実習の実施が課題となった。
市川市医師会では、市の障害者支援課とともに、主にヘルパーを対象とした
医療的ケアの研修・実習を初級4回シリーズで平成18年度より行っている。重症
心身障害児・者に対する基礎知識、必要とされるケアの考え方・とらえ方、吸
引をはじめとする医療用具に実際に触れる、人体模型を使用した吸引実習、な
どがその内容である。ヘルパーのみならず、障害児・者の家族、高齢者の介護
に当たる方、特別支援学校の教諭など、多くの方にご出席いただいている。平
成19年度からは、中級コースも設けた。誰でも・どこからでも・いつからでも
と、開かれた勉強会を目指しているので、志を持つ方にご紹介いただければ、
幸甚である。
研修・実習を終えたとしても、ケースごとにかなりの個人差がある重症心身
障害児・者の吸引行為を実際にヘルパーが担うのは難しい。障害児・者の家族
が安心してヘルパーに吸引行為をゆだねられるように、まだ市のモデル事業の
段階ではあるが、実際にヘルパーが障害児・者の家庭に入る際に、看護師が同
行して、ヘルパーの指導に当たるシステムを構築・検討中である。
家族、ヘルパー、医師、看護師、市の職員で障害児・者の自宅でミーティン
グを持ち、必要とされる医療的ケア、留意点などについて、話し合いをする。
医師の指示の下、以後約10回程度、看護師がヘルパーに対して、実際の障害児・
者の医療的ケア(主に吸引)の指導を行う。最終的に手技に習熟したと判断された
時点で、再び同じメンバーで、ミーティングを持ち、今後の注意点などを話し
合い、以後、ヘルパーが単独で、障害児・者の医療的ケアに当たる。
医師や看護師の確保、費用の負担など考慮されるべき点は多々あるが、家族
が安心して、ヘルパーに障害児・者をゆだねられる、ヘルパーも自身の手技に
自信持って介護に当たれる、と言った利点は大きい。今後の重症心身障害児・
者を自宅で介護している家族の負担を少しでも軽減すべく、育てていきたいシ
ステムである。
かかりつけ医を持とうといわれるようになり久しい。重症心身障害児・者の
家族には、従来の大学病院などのかかりつけ医(主治医)と、その病院を受診する
ほどではないが、日常ケアの延長としての医学的管理をゆだねられる地元のか
かりつけ医を持つことを勧めている。
ケアをしている家族にとって、病院受診は、前にも述べたように負担が大き
い。在宅医療も行えて、地域の医療資源に精通している地域の医師が、医療コ
ーディネーター的な役割を果たすことにより、重症心身障害児・者の健康や生
活の質の向上に寄与できると考えられる。
した医療的ケアの研修・実習を初級4回シリーズで平成18年度より行っている。
重症心身障害児・者に対する基礎知識、必要とされるケアの考え方・とらえ方、
吸引をはじめとする医療用具に実際に触れる、人体模型を使用した吸引実習、
などがその内容である。ヘルパーのみならず、障害児・者の家族、高齢者の介
護に当たる方、特別支援学校の教諭など、多くの方にご出席いただいている。
平成19年度からは、中級コースも設けた。誰でも・どこからでも・いつからで
もと、開かれた勉強会を目指しているので、志を持つ方にご紹介いただければ、
幸甚である。
研修・実習を終えたとしても、ケースごとにかなりの個人差がある重症心身
障害児・者の吸引行為を実際にヘルパーが担うのは難しい。障害児・者の家族
が安心してヘルパーに吸引行為をゆだねられるように、まだ市のモデル事業の
段階ではあるが、実際にヘルパーが障害児・者の家庭に入る際に、看護師が同
行して、ヘルパーの指導に当たるシステムを構築・検討中である。
家族、ヘルパー、医師、看護師、市の職員で障害児・者の自宅でミーティン
グを持ち、必要とされる医療的ケア、留意点などについて、話し合いをする。
医師の指示の下、以後約10回程度、看護師がヘルパーに対して、実際の障害児・
者の医療的ケア(主に吸引)の指導を行う。最終的に手技に習熟したと判断された
時点で、再び同じメンバーで、ミーティングを持ち、今後の注意点などを話し
合い、以後、ヘルパーが単独で、障害児・者の医療的ケアに当たる。
医師や看護師の確保、費用の負担など考慮されるべき点は多々あるが、家族
が安心して、ヘルパーに障害児・者をゆだねられる、ヘルパーも自身の手技に
自信持って介護に当たれる、と言った利点は大きい。今後の重症心身障害児・
者を自宅で介護している家族の負担を少しでも軽減すべく、育てていきたいシ
ステムである。
かかりつけ医を持とうといわれるようになり久しい。重症心身障害児・者の
家族には、従来の大学病院などのかかりつけ医(主治医)と、その病院を受診する
ほどではないが、日常ケアの延長としての医学的管理をゆだねられる地元のか
かりつけ医を持つことを勧めている。
ケアをしている家族にとって、病院受診は、前にも述べたように負担が大き
い。在宅医療も行えて、地域の医療資源に精通している地域の医師が、医療コ
ーディネーター的な役割を果たすことにより、重症心身障害児・者の健康や生
活の質の向上に寄与できると考えられる。
5) 特別支援学校の校医として思うこと
社団法人 市川市医師会副会長
市川市立特別支援学校校医
小坂 弘道
<条例について>
障害のある人の権利を擁護し不平等な状況を解消する、などの障害者差別を
なくす動きが世界的にひろがっている昨今です。千葉県はわが国の中では先ん
じて平成19年7月より「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり
条例」を施行しています。この条例は8つの分野において「不利益扱い」「合理
的な配慮に基づく措置の欠如」を差別としています。8分野の1つに“医療”があり
ます。本冊子はそんな条例の趣旨を理解し私共の医療機関を受診する障害者へ
の理解を深めるための「医療機関向け」メッセージと捉えて良いと思います。
<応招義務違反>という言葉をご存知でしょうか。医師は診療治療の求めがあ
った場合、正当な事由がなければこれを拒んではならない(医師法第19条1項)と
いうものです。障害のある人に対して単に障害があることを理由に診療を拒否
すると違反になるということです。この違反についての判定は非常に難しい判
断となります。診療拒否が合理的な理由である事柄は様々であり診療の場での
状況も多種多様のため診る側、診られる側の相互理解がなければ双方にとって
不愉快な結果を招きます。
<現場から>
年に3回ほど健診で出向く特別支援学校(従来の養護学校)の校門に入ると小学
校~高校の生徒達に出会う。校外作業に出る生徒、校庭で遊ぶ低学年の子供達、
一見普通学校の光景と変わりはないが、聴こえてくる会話らしい声や動きにや
や違った感があるのは否めない。
保健室に入り各クラス毎に担任の先生が2~3人付いて生徒達が入ってくる。先
生達は日頃より接しているので個々の生徒達の全体像を把握しているため各人
に合った声掛けをし順番を様々な形で待たせる。私は整形外科医なので脊柱の
側彎から四肢の関節、筋肉の変化、歩容、運動能力、生活動作などを先生達と
話しながら診ていく。私の膝に急に飛び込んできて座ってしまう子、しゃがみ
込んで立とうとしない子、ボールペン、カルテを持ち去ろうとする子、飛び跳
ねて奇声を発する子、自分の頭を何回も叩いて止めない子、本当に色々な子達
がいる。
自分の診療所で診る患者とはまるで違うその雰囲気に慣れ、診ていくには長
年この子と付き合っているにも拘わらず切り替えに時間を要す。そのうちに誰
をも可愛らしく思い、語りかける。そして何かが伝わった感があり嬉しい気分
になって来る。終わって校門を出るとふと思う。“あの子供達がもし怪我でもし
て自分の診療所に来たらどうなるだろう...”恐らくその対応に職員が戸惑い周囲
の患者さんも何事だろうと不安と違和感を持つだろう。付き添って来る親御さ
ん、学校の先生も周りに迷惑をかけまいとして気遣うことだろう。
一般の診療とは違い障害のある子供達は、こちらの意思が伝わりにくくレン
トゲンを撮るのも大変な作業になる事が多い。子供達には本来の主治医はいる
ものの日常遭遇するアクシデント、軽い風邪など各科全般にわたり診療所で対
応出来る病気は多いと思われる。受診する側がいかに気遣いする事なく自然に
来院出来るかは相互の意識が大事であり理解の上での歩み寄りが求められる。
「不利益な扱い」とか「合理的な配慮に基づく処置の欠如」とかの規則もさ
ることながら、まず温かい心根をもって子供達を診る事が本当は大事なのだろ
う。それには障害のある人の現実を理解しまた逆に診る側の現状を理解しても
らう事も必要であろう。
この冊子がそんな両者の優しい医療の橋渡しとなる事を願っています。冒頭
の土橋正彦医師会長の「障害のある人への優しい医療は、全ての人に優しい医
療を提供する事につながる」の言、正にその通りだと思います。
障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例
目 次
前文
第一章 総則(第一条―第七条)
第二章 差別の事案の解決
第一節 差別の禁止等(第八条―第十一条)
第二節 地域相談員等(第十二条―第十九条)
第三節 解決のための手続(第二十条―第二十八条)
第三章 推進会議(第二十九条・第三十条)
第四章 理解を広げるための施策(第三十一条・第三十二条)
第五章 雑則(第三十三条―第三十六条)
附則
障害のある人もない人も、誰もが、お互いの立場を尊重し合い、支え合いながら、安心して
暮らすことのできる社会こそ、私たちが目指すべき地域社会である。
このような地域社会を実現するため、今、私たちに求められているのは、障害のある人に対
する福祉サービスの充実とともに、障害のある人への誤解や偏見をなくしていくための取組で
ある。
この取組は、障害のある人に対する理解を広げる県民運動の契機となり、差別を身近な問題
として考える出発点となるものである。そして、障害のあるなしにかかわらず、誰もが幼いこ
ろから共に地域社会で生きるという意識を育むのである。
すべての県民のために、差別のない地域社会の実現と、一人ひとりの違いを認め合い、かけ
がえのない人生を尊重し合う千葉県づくりを目指して、ここに障害のある人もない人も共に暮
らしやすい千葉県づくり条例を制定する。
第一章 総則
(目的)
第一条 この条例は、障害のある人に対する理解を広げ、差別をなくすための取組について、基
本理念を定め、県、市町村及び県民の役割を明らかにするとともに、当該取組に係る施策を総
合的に推進し、障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会の実現を図り、もって現在及び
将来の県民の福祉の増進に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この条例において「障害」とは、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)第二条に
規定する身体障害、知的障害若しくは精神障害、発達障害者支援法(平成十六年法律第百六十七
号)第二条第一項に規定する発達障害又は高次脳機能障害があることにより、継続的に日常生活
又は社会生活において相当な制限を受ける状態をいう。
2
この条例において「差別」とは、次の各号に掲げる行為(以下「不利益取扱い」という。)を
すること及び障害のある人が障害のない人と実質的に同等の日常生活又は社会生活を営むため
に必要な合理的な配慮に基づく措置(以下「合理的な配慮に基づく措置」という。)を行わないこ
とをいう。
一
福祉サービスを提供し、又は利用させる場合において、障害のある人に対して行う次に掲
げる行為
イ
障害を理由として、福祉サービスの利用に関する適切な相談及び支援が行われること
なく、本人の意に反して、入所施設における生活を強いること。
ロ
本人の生命又は身体の保護のためやむを得ない必要がある場合その他の合理的な理由
なく、障害を理由として、福祉サービスの提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれ
に条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。
二
医療を提供し、又は受けさせる場合において、障害のある人に対して行う次に掲げる行為
イ
本人の生命又は身体の保護のためやむを得ない必要がある場合その他の合理的な理由
なく、障害を理由として、医療の提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を
課し、その他不利益な取扱いをすること。
ロ
法令に特別の定めがある場合を除き、障害を理由として、本人が希望しない長期間の
入院その他の医療を受けることを強い、又は隔離すること。
三
商品又はサービスを提供する場合において、障害のある人に対して、サービスの本質を著
しく損なうこととなる場合その他の合理的な理由なく、障害を理由として、商品又はサー
ビスの提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いを
すること。
四
労働者を雇用する場合において、障害のある人に対して行う次に掲げる行為
イ
労働者の募集又は採用に当たって、本人が業務の本質的部分を遂行することが不可能
である場合その他の合理的な理由なく、障害を理由として、応募若しくは採用を拒否
し、又は条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。
ロ
賃金、労働時間その他の労働条件又は配置、昇進若しくは教育訓練若しくは福利厚生
について、本人が業務の本質的部分を遂行することが不可能である場合その他の合理
的な理由なく、障害を理由として、不利益な取扱いをすること。
ハ
本人が業務の本質的部分を遂行することが不可能である場合その他の合理的な理由な
く、障害を理由として、解雇し、又は退職を強いること。
五
教育を行い、又は受けさせる場合において、障害のある人に対して行う次に掲げる行為
イ
本人に必要と認められる適切な指導及び支援を受ける機会を与えないこと。
ロ
本人若しくはその保護者(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第十六条に規定する保
護者をいう。以下同じ。)の意見を聴かないで、又は必要な説明を行わないで、入学する学
校(同法第一条に規定する学校をいう。)を決定すること。
六
障害のある人が建物その他の施設又は公共交通機関を利用する場合において、障害のある
人に対して行う次に掲げる行為
イ
建物の本質的な構造上やむを得ない場合その他の合理的な理由なく、障害を理由とし
て、不特定かつ多数の者の利用に供されている建物その他の施設の利用を拒否し、若
しくは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。
ロ
本人の生命又は身体の保護のためやむを得ない必要がある場合その他の合理的な理由
なく、障害を理由として、公共交通機関の利用を拒否し、若しくは制限し、又はこれ
に条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。
七
不動産の取引を行う場合において、障害のある人又は障害のある人と同居する者に対して、
障害を理由として、不動産の売却、賃貸、転貸又は賃借権の譲渡を拒否し、若しくは制限し、 又
はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。
八
情報を提供し、又は情報の提供を受ける場合において、障害のある人に対して行う次に掲
げる行為
イ
障害を理由として、障害のある人に対して情報の提供をするときに、これを拒否し、若し
くは制限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。
ロ
障害を理由として、障害のある人が情報の提供をするときに、これを拒否し、若しくは制
限し、又はこれに条件を課し、その他不利益な取扱いをすること。
3
この条例において「障害のある人に対する虐待」とは、次の各号に掲げる行為をいう。
一
障害のある人の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二
障害のある人にわいせつな行為をすること又は障害のある人をしてわいせつな行為を
させること。
三
障害のある人を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の障害のある人
を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
四
障害のある人に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の障害のある人に著
しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
五
障害のある人の財産を不当に処分することその他当該障害のある人から不当に財産上
の利益を得ること。
(基本理念)
第三条
すべて障害のある人は、障害を理由として差別を受けず、個人の尊厳が重んぜられ、
その尊厳にふさわしく、地域で暮らす権利を有する。
2
障害のある人に対する差別をなくす取組は、差別の多くが障害のある人に対する誤解、偏見
その他の理解の不足から生じていることを踏まえ、障害のある人に対する理解を広げる取組と
一体のものとして、行われなければならない。
3
障害のある人に対する差別をなくす取組は、様々な立場の県民がそれぞれの立場を理解し、
相協力することにより、すべての人がその人の状況に応じて暮らしやすい社会をつくるべきこ
とを旨として、行われなければならない。
(県の責務)
第四条
県は、前条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、障害のある人
に対する理解を広げ、差別をなくすための施策を総合的かつ主体的に策定し、及び実施するも の
とする。
(県と市町村との連携)
第五条
県は、市町村がその地域の特性に応じた、障害のある人に対する理解を広げ、差別を
なくすための施策を実施する場合にあっては、市町村と連携するとともに、市町村に対して情
報の提供、技術的な助言その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
(県民の役割)
第六条 県民は、基本理念にのっとり、障害のある人に対する理解を深めるよう努め、障害のあ
る県民及びその関係者は、障害のあることによる生活上の困難を周囲の人に対して積極的に伝
えるよう努めるものとする。
2
県民は、基本理念にのっとり、県又は市町村が実施する、障害のある人に対する理解を広げ、
差別をなくすための施策に協力するよう努めるものとする。
(財政上の措置)
第七条
知事は、県の財政運営上可能な範囲内において、障害のある人に対する理解を広げ、
差別をなくすための施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるものとする。
第二章 差別の事案の解決
第一節 差別の禁止等
(差別の禁止)
第八条
何人も、障害のある人に対し、差別をしてはならない。ただし、不利益取扱いをしな
いこと又は合理的な配慮に基づく措置を行うことが、社会通念上相当と認められる範囲を超え
た人的負担、物的負担又は経済的負担その他の過重な負担になる場合においては、この限りで
ない。
(虐待の禁止)
第九条
何人も、障害のある人に対し、虐待をしてはならない。
(通報)
第十条
障害者自立支援法(平成十七年法律第百二十三号)第五条第一項に規定する障害福祉サ
ービス又は同条第十七項に規定する相談支援(以下「障害福祉サービス等」という。)に従事する
者(以下「障害福祉サービス等従事者」という。)は、障害福祉サービス等を利用する障害のある
人について、他の障害福祉サービス等従事者が障害のある人に対する虐待を行った事実がある
と認めるときは、速やかに、これを関係行政機関に通報するよう努めなければならない。
2
障害福祉サービス等従事者は、前項の規定による通報をしたことを理由として、解雇その他
不利益な取扱いを受けない。
(通報を受けた場合の措置)
第十一条 県が前条第一項の規定による通報を受けたときは、知事は、障害福祉サービス等の事
業の適正な運営を確保することにより、当該通報に係る障害のある人に対する虐待の防止及び
当該障害のある人の保護を図るため、障害者自立支援法の規定による権限を適切に行使するも
のとする。
第二節
地域相談員等
(身体障害者相談員)
第十二条
身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)第十二条の三第二項に規定す
る身体障害者相談員は、同条第一項に規定する業務の一部として、差別に該当する事案(以下「対
象事案」という。)に関する相談に係る業務を行うものとする。
(知的障害者相談員)
第十三条
知的障害者福祉法(昭和三十五年法律第三十七号)第十五条の二第二項に規定する知
的障害者相談員は、同条第一項に規定する業務の一部として、対象事案に関する相談に係る業
務を行うものとする。
(その他の相談員)
第十四条
知事は、障害のある人に関する相談を受け、又は人権擁護を行う者その他第三十条
第一項各号に掲げる分野に関し優れた識見を有する者のうち適当と認める者に委託して、対象
事案に関する相談に係る業務を行わせることができる。
2
知事は、前項の委託を行うに当たっては、あらかじめ千葉県行政組織条例(昭和三十二年千葉
県条例第三十一号)に基づき設置された千葉県障害のある人の相談に関する調整委員会(以下「調
整委員会」という。)の意見を聴かなければならない。
(業務遂行の原則)
第十五条
前三条に規定する業務を行う相談員(以下「地域相談員」という。)は、対象事案の関
係者それぞれの立場を理解し、誠実にその業務を行わなければならない。
2
地域相談員は、この条例に基づき業務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その業務を終
了した後も同様とする。
(広域専門指導員)
第十六条
知事は、次の各号に掲げる職務を適正かつ確実に行うことができると認められる者
を、千葉県行政組織条例第十七条第四項に規定する健康福祉センターの所管区域及び保健所を
設置する市の区域ごとに、広域専門指導員として委嘱することができる。
一
地域相談員に対し、専門的な見地から業務遂行に必要な技術について指導及び助言を
行うこと。
2
二
対象事案に関する相談事例の調査及び研究に関すること。
三
第二十二条第二項に規定する調査に関すること。
知事は、前項の委嘱を行うに当たっては、あらかじめ調整委員会の意見を聴かなければなら
ない。
(指導及び助言)
第十七条
地域相談員は、対象事案に係る相談について、必要に応じ、広域専門指導員の指導
及び助言を求めることができる。
2
広域専門指導員は、前項の求めがあったときは、適切な指導及び助言を行うものとする。
(協力)
第十八条
地域相談員以外の、障害のある人に関する相談を受け、又は人権擁護を行うものは、
知事、地域相談員及び広域専門指導員と連携し、この条例に基づく施策の実施に協力するよう
努めるものとする。
(職務遂行の原則)
第十九条
広域専門指導員は、対象事案の関係者それぞれの立場を理解し、誠実にその職務を 行
わなければならない。
2
広域専門指導員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様と
する。
第三節
解決のための手続
(相談)
第二十条
障害のある人、その保護者又はその関係者は、対象事案があると思うときは、地域
相談員に相談することができる。
2
地域相談員は、前項の相談を受けたときは、次の各号に掲げる措置を講じることができる。
一 関係者への必要な説明及び助言並びに関係者間の調整
二 関係行政機関の紹介
三 法律上の支援(民事上の事件に限る。)の制度に関するあっせん
四 関係行政機関への前項の相談に係る事実の通告
五 虐待に該当すると思われる事実の通報
六 次条に規定する助言及びあっせんの申立ての支援
(助言及びあっせんの申立て)
第二十一条 障害のある人は、対象事案があると思うときは、知事に対し、調整委員会が当該
対象事案を解決するために必要な助言又はあっせんを行うべき旨の申立てをすることができる。
2
障害のある人の保護者又は関係者は、前項の申立てをすることができる。ただし、本人の意
に反することが明らかであると認められるときは、この限りでない。
3
前各項の申立ては、その対象事案が次の各号のいずれかに該当する場合は、することができ
ない。
一 行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)その他の法令により、審査請求その他の不服
申立てをすることができる事案であって行政庁の行う処分の取消し、撤廃又は変更を求めるも
のであること。
二 申立ての原因となる事実のあった日(継続する行為にあっては、その行為の終了した日)
から三年を経過しているものであること(その間に申立てをしなかったことにつき正当
な理由がある場合を除く。)。
三 現に犯罪の捜査の対象となっているものであること。
(事実の調査)
第二十二条 知事は、前条第一項又は第二項の申立てがあったときは、当該申立てに係る事実 に
ついて調査を行うことができる。この場合において、調査の対象者は、正当な理由がある場合
を除き、これに協力しなければならない。
2
知事は、前条第一項又は第二項の申立てについて必要があると認める場合には、広域専門 指
導員に必要な調査を行わせることができる。
3
関係行政機関の長は、第一項の規定により調査の協力を求められた場合において、当該調 査
に協力することが、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他公共の安全と秩
序の維持(以下「公共の安全と秩序の維持」という。)に支障を及ぼすおそれがあることにつき 相
当の理由があると認めるときは、当該調査を拒否することができる。
4
関係行政機関の長は、第一項の規定による調査に対して、当該調査の対象事案に係る事実 が
存在しているか否かを答えるだけで、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある と
きは、当該事実の存否を明らかにしないで、当該調査を拒否することができる。
(助言及びあっせん)
第二十三条 知事は、第二十一条第一項又は第二項に規定する申立てがあったときは、調整委 員
会に対し、助言又はあっせんを行うことの適否について審理を求めるものとする。
2
調整委員会は、前項の助言又はあっせんのために必要があると認めるときは、当該助言又
はあっせんに係る障害のある人、事業者その他の関係者に対し、その出席を求めて説明若しく
は意見を聴き、又は資料の提出を求めることができる。
3
関係行政機関の長は、前項に規定する出席による説明若しくは意見の陳述又は資料の提出
(以下「説明等」という。)を求められた場合において、当該説明等に応じることが、公共の安全
と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあることにつき相当の理由があると認めるときは、当該
説明等を拒否することができる。
4
関係行政機関の長は、説明等の求めに対して、当該対象事案について事実が存在している か
否かを答えるだけで、公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるときは、当該事 実
の存否を明らかにしないで、当該説明等の求めを拒否することができる。
(勧告等)
第二十四条 調整委員会は、前条第一項に規定する助言又はあっせんを行った場合において、差
別をしたと認められる者が、正当な理由なく当該助言又はあっせんに従わないときは、知事 に
対して当該差別を解消するよう勧告することを求めることができる。
2
知事は、前項の求めがあった場合において、差別をしたと認められる者に対して、当該差
別を解消するよう勧告することができる。この場合において、知事は、前項の求めを尊重しな
ければならない。
3
知事は、正当な理由なく第二十二条第一項の調査を拒否した者に対して、調査に協力する
よう勧告するものとする。
4
知事は、関係行政機関に対し第二項に規定する勧告をしようとするときは、あらかじめ、 当
該行政機関の長に対してその旨を通知しなければならない。この場合において、当該行政機関
の長が公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあることにつき相当の理由があると認
めて通知したときは、知事は、当該勧告をしないものとする。
(意見の聴取)
第二十五条 知事は、前条第二項又は第三項の規定による勧告をする場合には、あらかじめ、
期日、場所及び事案の内容を示して、当事者又はその代理人の出頭を求めて、意見の聴取を行
わなければならない。ただし、これらの者が正当な理由なく意見の聴取に応じないときは、意
見の聴取を行わないで勧告することができる。
(訴訟の援助)
第二十六条 知事は、障害のある人が、差別をしたと認められるものに対して提起する訴訟(民
事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)による調停、民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第
二百七十五条第一項の和解及び労働審判法(平成十六年法律第四十五号)による労働審判手続を
含む。以下同じ。)が第二十三条第一項に規定する助言又はあっせんの審理を行った事案に係る
ものである場合であって、調整委員会が適当と認めるときは、当該訴訟を提起する者に対し、
規則で定めるところにより、当該訴訟に要する費用の貸付けその他の援助をすることができる。
(貸付金の返還等)
第二十七条 前条の規定により訴訟に要する費用の貸付けを受けた者は、当該訴訟が終了した
ときは、規則で定める日までに、当該貸付金を返還しなければならない。ただし、知事は、災
害その他やむを得ない事情があると認めるときは、相当の期間、貸付金の全部又は一部の返還 を
猶予することができる。
(秘密の保持)
第二十八条 調整委員会の委員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退い た
後も同様とする。
第三章 推進会議
(設置)
第二十九条 県は、障害のある人に対する理解を広げ、差別をなくすため、障害のある人及び
その支援を行う者、次条第一項に規定する分野における事業者、障害のある人に関する施策又 は
人権擁護に関し専門的知識を有する者並びに県の職員からなる会議(以下「推進会議」という。)
を組織するものとする。
2
推進会議の組織及び運営に関し必要な事項は、知事が定める。
(分野別会議)
第三十条
推進会議に、次の各号に掲げる分野ごとの会議(以下「分野別会議」という。)を置く
ものとする。
一 福祉サービス、医療及び情報の提供等の分野
二 商品及びサービスの提供の分野
三 労働者の雇用の分野
四 教育の分野
五 建物等及び公共交通機関並びに不動産の取引の分野
2 分野別会議は、次の各号に掲げる事項に関し協議を行うものとする。
一 前項各号に掲げるそれぞれの分野における障害のある人に対する差別の状況についての共通
の認識の醸成に関すること。
二 前項各号に掲げるそれぞれの分野における障害のある人に対する理解を広げ、差別をなくす
ための、構成員によるそれぞれの立場に応じた提案に基づく具体的な取組に関すること。
三
前号に規定する取組の実施の状況に関すること。
四
調整委員会と連携して行う、前項各号に掲げるそれぞれの分野における差別の事例及び差
別の解消のための仕組みの分析及び検証に関すること。
3
分野別会議の構成員は、基本理念にのっとり、相協力して障害のある人に対する理解を広
げ、差別をなくすための取組の推進に努めなければならない。
第四章 理解を広げるための施策
(表彰)
第三十一条 知事は、障害のある人に対する理解を広げ、差別をなくすため、基本理念にのっ
とり、県民の模範となる行為をしたと認められるものについて、表彰をすることができる。
2
知事は、前項の表彰をするに当たっては、調整委員会の意見を聴かなければならない。
3
地域相談員及び広域専門指導員は、第一項の行為をしたと認められるものを知事に推する
ことができる。
4
知事は、第一項の表彰をした場合は、その旨を公表するものとする。
(情報の提供等)
第三十二条 知事は、障害のある人に対する理解を広げ、差別をなくすための民間の取組につ い
て、県民への情報の提供その他の必要な支援をすることができる。
第五章 雑則
(条例の運用上の配慮)
第三十三条 この条例の運用に当たっては、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第百三十
八条の四第一項に規定する委員会及び委員の独立性並びに市町村の自主性及び自立性は、十分
配慮されなければならない。
(関係行政機関の措置)
第三十四条 関係行政機関は、この条例の趣旨にのっとり、公共の安全と秩序の維持に係る事 務
の執行に関し、障害のある人に対する理解を広げ、差別をなくすため必要な措置を講ずるよ
う努めなければならない。
(委任)
第三十五条 この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。
(罰則)
第三十六条 第十九条第二項又は第二十八条の規定に違反して秘密を漏らした者は、一年以下
の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
附 則
(施行期日)
1
この条例は、平成十九年七月一日から施行する。ただし、附則第三項及び第四項の規定は、
同年一月一日から施行する。
(検討)
2
知事は、この条例の施行後三年を目途として、この条例の施行の状況、障害のある人の権
利擁護に関する法制の整備の動向等を勘案し、この条例の規定について、障害及び差別の範囲、
解決の手続等を含め検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
(千葉県行政組織条例の一部改正)
3
千葉県行政組織条例の一部を次のように改正する。
別表第三中千葉県障害者介護給付費等不服審査会の項の次に次のように加える。
(準備行為)
4
第十四条第二項及び第十六条第二項の規定による意見の聴取並びにこれらに関し必要な手
続その他の行為は、この条例の施行前においても行うことができる。
附 則(平成十九年十二月二十一日条例第七十八号)
この条例は、学校教育法等の一部を改正する法律(平成十九年法律第九十六号)の施行の日から施
行する。
社団法人 市川市医師会
「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」
医療機関に対する条例趣旨の啓発事業推進作業部会委員一覧
伊藤 貴子
市川市身体障害者地域生活支援センター
ピア・カウンセラー
向後 和子
社団法人 千葉県視覚障害者福祉協会会長
植野 圭哉
社会福祉法人 千葉県聴覚障害者協会理事長
竜円 香子
千葉県手をつなぐ育成会権利擁護委員会委員長
市川手をつなぐ親の会副会長
横山 典子
千葉県地方精神保健福祉審議会委員
古土井利明
NPO法人 ぴあ・さぽ千葉
井上みどり
千葉県立船橋特別支援学校
医療的ケアコーディネーター・教諭
大屋 滋
千葉県自閉症協会会長
国保旭中央病院脳神経外科部長
社団法人 市川市医師会
土橋 正彦
会 長(外科)
小坂 弘道
副会長(整形外科・市川市立特別支援学校校医)
滝沢 直樹
副会長(外科)
伊藤 勝仁
理 事(神経内科・市川市介護支援専門員協議会長)
大野 京子
理 事(小児科)
福澤 健次
理 事(呼吸器内科)
池田 良一
精神科医会代表
オブザーバー
安藤 公一
千葉県健康福祉部障害福祉課長
横山 正博
千葉県健康福祉部障害福祉課障害者計画推進室長
田畑 英典
千葉県健康福祉部障害福祉課障害者計画推進室
(順不同・敬称略)
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