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抗体産生不全症における臨床遺伝学
S4-3 抗体産生不全症における臨床遺伝学 Clinical genetic of primary antibody deficiencies 金兼 弘和 富山大学 医学部 小児科 抗体産生不全症は低ガンマグロブリン血症の結果として肺炎や中耳炎などの細菌感染症を繰り返す疾患であり、臨床的診断はそ れほど困難ではなく、代表的疾患は X 連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)と分類不能型免疫不全症(CVID)である。B 細胞は骨髄にお いて造血幹細胞から抗原非依存性にプロ B 細胞、プレ B 細胞、未熟 B 細胞と分化し、末梢血に流出する。末梢血では抗原依存性に ナイーブ B 細胞からメモリーB 細胞へと分化し、さらに形質細胞へと分化し、免疫グロブリン産生を行う。この分化段階のいずれかに異 常がある場合に低ガンマグロブリン血症となる。XLA の原因遺伝子はブルトンチロシンキナーゼ(BTK)であり、BTK はプレ B 細胞レセ プターからのシグナル伝達に重要な働きをしており、BTK 欠損によりプロ B 細胞からプレ B 細胞への分化障害が生じ、末梢血 B 細胞 欠損となる。プレ B 細胞レセプターはμ重鎖、λ5、VpreB、Igα、Igβから構成され、VpreB 以外の遺伝子変異によって XLA と臨床的 に区別しがたい常染色体劣性無ガンマグロブリン血症を発症する。またプレ B 細胞からシグナルを下流に伝えるアダプター分子として BLNK が存在、その変異によっても無ガンマグロブリン血症となる。 BTK は Xq25 に局在し、19 のエキソンからなり 37kb の遺伝子であり、細胞内チロシンキナーゼである TEC ファミリーに属し、形質細 胞を除く B 細胞、単球、血小板などの発現している。BTK 変異は BTKbase(http://bioinf.uta.fi/BTKbase/)に登録されており、世界中で 1100 例以上が同定されており、わが国でも 200 例余りが同定されている。変異にホットスポットはなく、ミスセンス変異、ナンセンス変 異、欠失、挿入などさまざまな変異が報告されている。われわれは BTK が単球にも発現していることに注目し、単球における BTK 蛋白 の発現をフローサイトメトリーで検出する方法を開発し、迅速診断に応用している。ごく一部のミスセンス変異例を除き、ほとんどの XLA では BTK 蛋白の発現は低下しており、またほとんどの保因者では X 染色体のランダムな不活化を反映し、二峰性パターンを呈す る。BTK のセントロメア側には TIMM8A が存在するが、この遺伝子は進行性感音性難聴を特徴とする Mohr-Tranebjaerg 症候群(MTS) の原因となる。XLA では臨床的に難聴を合併することがあるが、一部には BTK と TIMM8A を欠失した隣接遺伝子症候群が存在する。 最近わが国において 2 例の XLA-MTS を同定し、その切断点を明らかにした。これまで報告されている XLA の大欠失の切断点と比較 検討し、大欠失のメカニズムについて考察する。 末梢血に B 細胞は存在するものの低ガンマグロブリン血症を呈する疾患の多くは CVID と総称され、免疫学的にはナイーブ B 細胞 からメモリーB 細胞への分化障害が特徴である。従来は雑多な症候群と考えられてきたが、CVID の原因として ICOS が同定されたの を機会に CVID の原因が少しずつ解明されてきた。これまでのところ TACI、BAFF レセプター、CD19、CD81、CD20、CD21 などが CVID の原因として少数例ながら報告されている。私たちは世界で 3 家系目となる CD19 欠損症を同定したが、片アレルはスプライス異常で あり、もう片アレルが CD19 遺伝子部分を含む大欠失による複合へテロ接合体変異であった。その後数家系の CD19 欠損症が同定さ れ、また CD81 ならびに CD21 とは複合体を形成しており、CD19 複合体欠損症として共通した臨床的特徴を有することが明らかとなっ た。 本稿ではわれわれの研究成果を中心に抗体産生不全症における臨床遺伝学のトピックスを述べたい。