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女川原発を救った企業文化

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女川原発を救った企業文化
E研コラム
2012年12月
女川原発を救った企業文化
EHS&S研究センター
上級研究員
尾形
努
事故を起こした福島第一原発。無事だった女川原発。この差は何だったのか。
8月10日から2週間に亘り、IAEA(国際原子力機関)、NRC(米原子力規制委
員会)、IRSN(仏放射線防護原子力安全研究所)、民間の一線級の外国人専門家19人
が女川原発を視察した。外国人専門家の一人は、技術的な要素に加え、「電力会社の企業文
化」をあげた(1)。つまり、東北電力の企業文化が、女川原発を事故から救ったことになる
が、東北電力の企業文化とはどのようなものなのだろうか。
大前研一氏の「事故検証プロジェクト最終報告」(2)では、女川原発、福島第一原発に
ついて、次のように説明している。
震度は、福島第一原発が6強であるのに対し、女川原発は6弱であったが、最大加速
度は、女川原発の方が大きかった(福島第一:550ガル(注1)、女川原発:607ガル)。
さらに、女川原発は、原発の設計の前提となる地震の揺れ(Ss)を、2回、上回ってい
る(福島第一ではSsを上回ったのは1回)。このように、地震の規模を見る限り、福島第
一原発だけが大きな地震に襲われたというわけではなく、女川原発も非常に危ない状況に
置かれていた。
福島第一原発では、外部交流電源、全6回線が地震で喪失し、非常用ディーゼル発電
機も津波によってすべて喪失した。直流電源は一部健全であったが、後に枯渇し、全電源
喪失となった。これに対し、女川原発では、外部交流電源が5回線中、1回線が健全であ
り、また、非常用ディーゼル発電機は一部を除き健全であり、直流電源はすべて健全であ
った。福島第一原発では、敷地はO.P.(注2)10mの高さであったが、非常用発電機
を設置していた高さが、O.P.2m~4.9mであったため、浸水で使えなくなった。
また、空冷の非常用発電機はO.P.10.2mに設置されていたが、電源盤の浸水によ
り使えなくなってしまった。一方、女川原発では、敷地の高さは、建設当時、O.P.(注
2)約15mであり、2号機、3号機はO.P.14mに設置されていた。なお、津波に
よる浸水の高さは、福島第一原発で、O.P.約15.5m、女川原発でO.P.約13
mであった。
原発の敷地、非常用電源の設置高さが、明暗を分けた形になっているが、敷地の高さ
はどのように決まったのだろうか。
(3)
東北電力の「女川原子力発電所における津波評価・対策の経緯について」
によれば、
女川原発の敷地高さは以下のように決定された。
NTTファシリティーズ総合研究所
EHS&S研究センター
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E研コラム
2012年12月
女川原発(1号機)は、東北電力にとって初の原発であるので、昭和43年7月~昭
和55年8月まで、専門家19名で構成される「海岸施設研究委員会」を設置し、津波に
対する安全性について専門的な視点で議論を行った。その結果、①敷地高さによって、津
波対策とする。②東北電力より提示された敷地高さ、O.P.15m程度でよい、という
ことで集約された。当時、文献調査や聞き込み調査による評価では、想定された津波の高
さは、3m程度であったが、当時の津波の高さの約5倍の高さの敷地に原発を設置するこ
とで、津波対策とすることが決定された。
このような画期的な決定を主導したのは、東北電力の副社長であった、平井弥之助氏
である。平井氏は、「海岸施設研究委員会」のメンバーとなり、O.P.15mの敷地への
設置を強く主張した。
8月20日の日本経済新聞には、次のように記載されている(4)。
女川原発が、福島第一原発に比べ、高い場所に建設されたのは、東北電力副社長を務
めた平井弥之助氏の進言とされる。津波の高さが、約3m(後に9.1m)と想定されて
いた時期に、平井氏は明治三陸津波や貞観地震の記録を踏まえ、高い場所に建てるよう主
張、反対を押し切って実現させた。
また、3月7日の東京新聞は、平井氏の次のような言葉を紹介している(5)。
「法律は尊重する。だが、技術者には法令に定める基準や指針を超えて、結果責任が
問われる。」
さらに、3月7日の東京新聞は、当時プロジェクトに参加した、東芝の小川氏の次の
ような言葉も紹介している(5)。
「東北で津波を考えなかったら、何をやっているんだということ。そういう雰囲気が
東北電力内にあった。」
一方、東京電力は、建設当時、海水ポンプの設置高さや主要建屋の敷地の高さをどの
ように決定したのであろうか。東京電力の事故調査報告書では、次のように説明されてい
る(抜粋)(6)。
当地点での高極潮位は、O.P.3.122m(チリ地震津波)であるので、海水ポ
ンプを設置する敷地地盤高はO.P.4.0mで十分である。
主要建屋が設置される発電所敷地エリアの敷地造成に必要な掘削費、基盤地盤までの
建物基礎掘削費、及び侵入道路の掘削費の合計額が経済的になるのは、O.P.10.0
m付近である。
このように、福島第一原発は、当時想定していた津波の高さ(約3m)と経済的な視
点から、海水ポンプをO.P.4.0m、主要建屋を10.0mとした結果、津波の浸水
による全電源喪失につながった。
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E研コラム
2012年12月
その後、東北電力では、想定する津波の大きさをどの程度の値にするかという以下の
ような議論、確認が行われた(3)。
東北電力女川原発では、平成14年2月、土木学会「原子力発電所の津波評価技術」
により、想定される津波の高さはO.P.13.6mとして、この値は敷地高さ以下であ
り、津波に対して、問題ないことを確認している。
なお、原発建設以降の東京電力の津波への対応については、国会事故調(7)、政府事故
調(8)、民間事故調(9)とも、以下のような批判的な見解を表明している(抜粋)
。
【国会事故調】福島第一原発は、40年以上の前の地震学の知識に基づいて建設され
た。その後の研究の進歩によって、建設時の想定を超える津波が起きる可能性が高いこと
や、その場合すぐに炉心損傷に至る脆弱性を持つことが、繰り返し指摘されていた。しか
し、東電はこの危険性を軽視し、安全裕度のない不十分な対策にとどめていた。
【政府事故調】東京電力は、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津
波地震)については、領域内のどこでも発生する可能性がある旨の文部科学省地震調査研
究推進本部の「三陸沖から房総沖にかけての地震活動への長期評価」報告書における指摘
や、貞観津波の波源モデルの研究論文を踏まえた試算により、福島第一原発において設計
上の想定を越える津波波高の数値を得たが、福島第一原発における具体的な津波対策に着
手するには至らなかった。
【民間事故調】東電の津波対策について、
「東電の重要な問題として認識されていた形
跡はうかがわれない。」とする政府事故調の報告内容を引用している。
これに対して、東京電力は次のように説明している(抜粋)(6)。
福島県沖の海溝沿いの津波評価をするために必要な波源モデルが定まっていないが、
明治三陸沖地震(M8.3)の波源モデルを福島県沖の海溝沿いに持ってきた場合の津波
推移を試算したところ、最大で15.7mの津波の高さが得られた。津波の波源として想
定すべき波源モデルが定まっていないことなどから、津波評価するための具体的な波源モ
デルの策定について、土木学会へ審議を依頼することとした。
貞観津波に対する佐竹氏の論文では、仙台平野及び石巻平野の津波堆積物調査に基づ
き、869年貞観津波の発生位置及び規模が推定されていた。また、波源モデルとしては、
2つの案が示されていたが、確定には至っておらず、確定のためには福島県沿岸の津波堆
積物調査が必要と指摘されていた。
・・・途中略・・・当社は、貞観地震による津波の影響
の有無を調査するため、福島県の太平洋沿岸において、津波堆積物を調査したが、南部(富
岡~いわき)では、津波堆積物を確認できなかった。・・・途中略・・・貞観地震について
も、波源の確定のためには、今後さらなる調査・研究が必要と考えた。
・・・途中略・・・ここまで述べてきた「地震本部の見解」や貞観地震への対応につ
いては、当社は適宜関係官庁である文部科学省や原子力安全・保安院と意見交換や説明を
している。
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東北電力は女川原発の建設時に、津波の高さの想定が3mと言われていた時期に、津
波対策として、約5倍の高さの敷地に原発を設置した。東北電力は、副社長だった平井氏
が言った言葉、「法律は尊重する。だが、技術者には法令に定める基準や指針を超えて、結
果責任が問われる。」に基づき決定・実践し、女川原発を東日本大震災から救ったのである。
女川原発を視察した、IAEA、米NRC、仏IRSN、民間の一線級の外国人専門家は、
この文化が脈々と東北電力内に伝わっているのを感じとり、「企業文化」の違いを挙げたの
であろう。なお、女川原発は、3ヵ月に亘って364人の被災者の避難場所の役割を果た
した(10)。
(注1)ガル・・・地震動の加速度で一秒間にどれだけ速度が変化したか表す単位
(注2)O.P.・・・小名浜港工事基準面(福島第一原発の場合、O.P.±0m=東京湾
平均海面-0.727m)、女川基準面(女川原発の場合、O.P.±0m=東京湾平均海
面-0.74m)
参考資料
(1) 2012 年 9 月 9 日
日本経済新聞
(2) 2012 年 7 月 30 日
大前研一
耐えた女川原発
小学館
外国人専門家が見たもの
原発稼働「最後の条件」
「福島第一」事故検
証プロジェクト最終報告
(3) 2011 年 9 月 13 日
東北電力
女川原子力発電所における津波評価・対策の経緯に
ついて
http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/senmon/shidai/jishin/jishin4/siryo4-2.pdf
(4) 2012 年 8 月 20 日
(5) 2012 年 3 月 7 日
日本経済新聞
東京新聞
女川原発の功績と教訓
津波の恐怖知り尽くす
立地の弱点どう克服
女川原発救った眼力
高さ
15メートル建設主張
(6) 2012 年 6 月 20 日
東京電力株式会社
福島原子力事故調査報告書
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/interim/index-j.html
(7) 2012 年 7 月 5 日
国会事故調
東京電力福島原子力発電所事故調査委員会
報告書
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/report/index.html
(8)2012 年 7 月 23 日 (政府事故調) 東京電力福島原子力発電所における事故調査・
検証委員会 最終報告(中間報告:2011 年 12 月 23 日)
http://www.kantei.go.jp/jp/noda/actions/201207/23kenshou.html
(9)2012 年 2 月 27 日 (民間事故調)財団法人 日本再建イニシアティブ 福島事故独
立検証委員会
調査・検証報告書
http://rebuildjpn.org/fukushima/report
(10)2012 年 4 月 3 日
川」
現代ビジネス
町田徹
明暗!
最悪事故の「福島」と避難所「女
復興に不可欠な「東通」のルーツを現地取材
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/32200
(2012 年 12 月 7 日
NTTファシリティーズ総合研究所
EHS&S研究センター
尾形 努)
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