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産業トレンド 拡大するインターネット広告市場
産業トレンド 拡大するインターネット広告市場 株式部 百瀬 智教 (要旨) ○ インターネット広告市場が大きく拡大している。2004 年の国内インターネット広告市場は 1,814 億円と前年比で 53.3%増加し、ラジオ広告市場を上回った。 ○ 市場拡大の背景はアフィリエイト広告など多様化する広告手法と、インターネット接触時間の増 加により高まる媒体価値にある。 ○ 今後市場をさらに牽引するのは、インターネットのインタラクティブ性と大衆化に目を向けた大 口広告主である。 1.拡大するインターネット広告市場 2004 年 の イ ン タ ー ネ ッ ト 広 告 市 場 は 1,814 億円と前年比で 53.3%増加し、広告市 場全体に占める割合は 3.1%となった(資料 1)。テレビ・新聞・雑誌・ラジオの4大媒 体の広告費が伸び悩む中、インターネット広 資料1 国内インターネット広告市場 2,000 億円 % 1,500 3.5 広 告 市 場 全 体 に 占 め る 比 率 (右 軸 ) 3.0 2.5 2.0 1,000 1.5 告は著しい成長を遂げ、2004 年にラジオ広 告の市場規模(1,795 億円)を初めて上回っ た(資料2)。今後インターネット広告市場 は広告手法の多様化とブロードバンド通信 の普及、料金定額化によるユーザーの接触時 4.0 イ ン ター ネ ット広 告 費 (左 軸 ) 500 1.0 0.5 0 0.0 96年 97年 98年 99年 00年 (出所)電通「日本の広告費 01年 02年 03年 04年 2004 年」 間増加を背景に、更なる市場拡大が見込まれ る。電通総研の予測によれば、2009 年には 2004 年比約3倍の 5,660 億円に市場は拡大 資料2 媒体別広告費 し、テレビ・新聞に次ぐ第3の広告媒体が誕 25,000 生することになる。 2.多様化する広告手法 億円 12,000 億円 10,000 20,000 8,000 15,000 6,000 10,000 インターネット広告市場の拡大には、広告 5,000 主ニーズに合ったメディアの開発が必要であ 0 る。インターネット広告と言えば、メールを 使った「メルマガ広告」やホームページの一 角に画像を表示する「バナー広告」、検索キ ーワードに連動する「リスティング広告」な 4,000 2,000 0 96年 97年 98年 99年 00年 01年 02年 03年 04年 新聞(左軸) 雑誌(右軸) インターネット(右軸) (出所)電通「日本の広告費 テレビ(左軸) ラジオ(右軸) 2004 年」 どが主流である。これらの広告はTV広告等 第一生命経済研レポート 2005.9 と比較して単価が安く、また特定顧客を対象にしやすいことから主に中小の広告主ニーズを捉え、イ ンターネット広告市場の拡大に大きく貢献している。ネット広告はその特性として費用対効果が高い。 つまり見込み客の獲得コストが低いことが挙げられ、最近ではブログ(個人運営の日記風WEBサイ ト)の広まりを背景に成果報酬型のアフィリエイト広告(WEBサイト等にリンクを張り、ユーザー がそこを経由して商品購入等をするとサイト運営者に報酬が支払われるもの)が浸透しつつある。広 告主は限られた広告予算の中でより費用対効果を意識し、こうした新しい広告手法に関心を強めてい る。 3.増加するインターネット接触時間 インターネット広告の普及には、通信インフラ整備によるユーザーの利用機会増大も背景にある。 資料3を見ると、インターネット利用人口は 7,000 万人を超え、人口普及率は約 62.3%に達した。イ ンターネットはもはや誰でも利用できる手段であり、身近な存在である。 ユーザー数の増加のみならず、通信の高速化 がインターネット広告のメディア価値を増大 資料3 インターネット利用者数と人口普及率 させる。総務省の発表によれば、2005 年3月 末時点の国内DSL(デジタル加入者回線)接 続サービスは約 1,367 万加入、ケーブルTVは 約 296 万加入、光ファイバー(FTTH)は約 285 万加入とブロードバンド利用は広がりを見 せ、普及率は全世帯の約4割に達している。ブ ロードバンド進展による通信の高速化は音声 9,000 7,000 40.0% 4,000 30.0% 3,000 1,000 態化させる。過去7年間の家庭内メディア接触 0 触時間はほぼ横ばいなのに対して、インターネ としてだけではなく、マスマーケット向けメデ ィアとしての役割も担いつつある。 2010 年には固定通信事業者大手が光ファイ バーを 3,000 万世帯に普及させることを目標 に掲げており、高品質・高速接続サービスの普 及はインターネット広告市場を一層後押しし 10.0% 0.0% (出所)総務省「平成 16 年通信利用動向調査」 ット接触時間は飛躍的に伸びている(資料4)。 ともに、これまでの特定顧客を対象とした媒体 20.0% 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 時間の推移を見ると、テレビ・新聞・雑誌の接 は、インターネット広告の媒体価値を高めると 50.0% 5,000 また通信料金の定額化がネットアクセスを常 いる。こうした利用者の増加と接触時間の拡大 60.0% 6,000 2,000 ったのに対し、2004 年には 21.8 分と拡大して 70.0% インターネット利用者数 (左軸) 人口普及率(右軸) 8,000 や動画CMなどネット広告を質的に向上させ、 1998 年では1日当たり 1.5 分の接触時間であ 万人 資料4 メディア接触時間の推移 30 25 20 15 10 5 0 分 分 220 200 180 160 140 120 100 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 インターネット(左軸) 雑誌(左軸) テレビ(右軸) ラジオ(左軸) 新聞(左軸) よう。 (出所)ビデオリサーチ社より第一生命株式部作成 第一生命経済研レポート 2005.9 4.牽引役となる大口広告主 資料5 ポータルサイト国内大手A社の広告売上のうち 大口顧客からの出稿額 これまでインターネット広告は中小企業 が主な広告主であったが、2005 年以降、大 百万円 口広告主の出稿積極化により更なる市場拡 4,500 大が予想される。ポータルサイト大手A社の 4,000 広告売上高のうち、大口広告主からの出稿額 3,500 を見ると、3年前と比べ現在では約 4.4 倍に 3,000 2,500 拡大している(資料5)。しかも例年4~6 2,000 月期は広告需要の端境期であったにもかか 1,500 わらず、2005 年4~6月期の出稿額は前四 1,000 半期に比べ大きく伸長した。これまでTVや 500 ケット向け広告としての役割も果たすイン 05/1Q 4Q 3Q 2Q 04/1Q 4Q 3Q 2Q 03/1Q 4Q 3Q 02/1Q 費用対効果の高い広告手法、そしてマスマー 2Q 0 新聞を中心に出稿してきた大口広告主だが、 (出所)会社資料より第一生命株式部作成 ターネット広告への出稿を増やしている。 また、広告出稿額が大きい業種(金融・自 動車・飲料・化粧品・食品)もインターネッ ト広告への出稿を増やしている(資料6)。 口座開設を目的とした消費者金融や証券会 社の需要は依然強く、また商品情報を多く抱 資料6 3,500 2,500 2,000 している。昨年後半あたりからビール会社な 1,500 ど飲料メーカーも出稿を増やしており、こう 1,000 した広告予算の大きい業種がインターネッ 500 ト広告への出稿を増やしていることは市場 0 この流れはインターネット広告手法の多 様化とユーザーの接触時間増加を背景に当 百万円 3,000 える自動車業界などはネット広告費を増や 拡大を大きく後押しする。 A社の業界別広告売上高 03/1Q 2Q 3Q 金融・保険・証券 飲料・嗜好品 食品 4Q 04/1Q 2Q 3Q 4Q 05/1Q 自動車・関連品(輸送用機器) 化粧品・トイレタリー (出所)会社資料より第一生命株式部作成 面続くものと予想される。より詳細な商品や サービスの情報を得たいと考える消費者のニーズを捉えるためには、専門のウェブサイトを立ち上げ ることが効果的であり、そのサイトに消費者を誘導するのがインターネット広告である。テレビや新 聞広告では商品を消費者に広く知らしめる効果はあげられるが、直接誘導することは出来ない。こう した従来からインターネットが持つインタラクティブ性と、通信インフラ整備によりもたらされたイ ンターネットの大衆化がネット広告の媒体価値を増大させ、大口広告主の出稿を積極化させよう。 ももせ とものり(主任) 第一生命経済研レポート 2005.9