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無線センサネットワーク省電力化機構 HGAFの実環境評価
「マルチメディア,分散,協調とモバイル (DICOMO2008)シンポジウム」平成20年7月 無線センサネットワーク省電力化機構 HGAF の実環境評価 大 沢 昂 史†1 稲 垣 也†1 徳 石 原 進†2 無線センサネットワークは,小型の無線センサノードを観測したい領域に複数配置し,自律的に観 測ネットワークを構築することで情報を収集するものである.無線センサノードは電源容量が限られ るため,ネットワークの維持のために稼動端末の省電力化が必要である.筆者らは,位置情報を利用 した省電力手法である GAF(Geographic Adaptive Fidelity) に階層構造を導入し,活動ノード数 を減らすことで省電力化を図る電力制御手法 HGAF(Hierarchical Geographic Adaptive Fidelity) を提案し,シミュレーション評価によって GAF に対する優位性を示している.そこで本稿ではこの HGAF を市販の無線センサ端末 MICAz-Mote に実装し,実環境において HGAF と GAF を等し い条件下で稼働させ,実環境における HGAF の優位性を確認する実験を行った.その結果,HGAF は GAF に対して省電力性能において優れていることを確認した. An evaluation of Hierarchical GAF in actual environment Takashi Osawa ,†1 Tokuya Inagaki †1 and Susumu Ishihara†2 In the wireless sensor networks, wireless sensor nodes are placed at the observation area. They collect and transmit data to observers on contract with their networks. Becouse wireless sensor nodes have limited power supply so it is important to save power consumption on sensor nodes for prolonging the network lifetime. In our previous work, we proposed HGAF (Hierarchical Geographic Adaptive Fidelity) which introduces layerd structure into GAF (Geographic Adaptive Fidelity), a power saving technique using positions of nodes in sensor networks. We implemented HGAF on MICAz-Motes and evaluated energy consumption of HGAF and GAF in an actual environment. The experimental result show the advantage of HGAF for prolonging the network lifetime. 能な電源容量が限られており,いかに効率よくネット 1. は じ め に ワークを形成するかが重要な課題となっている. 現在,無線センサノードを観測対象に複数配置し 無線センサネットワークにおいて,電力消費の大部分 ネットワークを構築することで,情報を収集する無線 を占めるのは無線通信である.実際に,Micaz-Mote3) センサネットワークが注目をされている.既に,車両 においては,無線通信に必要とされる消費電力は,セ の存在及び移動を検出するシステム7) や,都市センシ ンシングおよび計算処理に要する消費電力に対して最 8) ングシステム が実装,運用実験が行われているなど, 無線センサネットワークは環境モニタリングや医療シ ステム,セキュリティなど幅広い分野での応用が期待 大で 2 倍程度となっており,省電力化のためには無線 通信の効率化が必要である. 無線通信の効率化を考える場合,通信を行わない間 は無線機をスリープさせるというアプローチがある. されている. 無線センサネットワークで用いられるノードは実用 無線機をスリープさせた場合の消費電力は,稼動時の 3) 消費電力に対して極めて小さいため,このアプローチ 及び研究用として世界的に普及している Mica-Mote や,比較的安価な Telos5) ,Body Sensor Network で は有効である.例えば Micaz-Mote で採用されている の利用に最適化されている BSN node6) など様々なも cc24204) では,無線機をスリープさせた場合の消費電 のがある.しかし,多くの無線センサノードは利用可 力は稼動時の 1000 分の 1 以下となる.これを受け, 無線センサネットワークでは無線通信を効率化し,無 †1 静岡大学大学院工学研究科 Graduate School of Engineering, Shizuoka University †2 静岡大学創造科学技術大学院 Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University 線機をスリープさせることで省電力化を図る手法が数 多く研究,提案されている. 無線センサネットワークにおける省電力化の研究の 一つに高密度に配置したノードの中で最小限のノー ─ 358 ─ ドを稼動させることでネットワーク全体での省電力化 を図る適応型トポロジがある.この適応型トポロジの 考え方に基づいて,さまざな省電力化手法が提案され R ている.接続性ベースの手法としては SPAN9) があ r る.SPAN では各ノードが近隣ノードとの接続性と電 力残量をもとに自身のノードがアクティブになるかス r リープになるか決定することで,ネットワークの維持 r 図 1 GAF におけるセルの一辺の長さ とノードの休止を実現し省電力化を果たす.位置情報 ベースの手法としては,GAF (Geographic Adaptive Fidelity)2) がある.GAF では,観測領域を正方格子 GAF は,ルーティングを担うアクティブノードを に分割し,各ノードが自身の位置情報に基づいて自律 選出するために観測領域を複数の正方格子状の領域 的にノードのグループ分けを行う.各グループ内にお に分割する.分割された各領域をセルと呼ぶ.各セル いてルーティングの役目を担うアクティブノードを 1 に所属しているノードを同一グループとして扱うこと 台選出し,それ以外のノードをスリープさせることで, で,観測領域内のすべてのノードを複数のグループに 省電力化を図る. 分ける. 筆者らは,この GAF に階層構造を取り入れるこ 各セルからルーティングを担う 1 台のアクティブ とで更なる省電力化を図る HGAF(Hierarchical Geo- ノードが自律的に選出され,他のノードは動作を休 graphic Adaptive Fidelity)1) を提案している.HGAF 止する.各ノードの残存電力に応じてアクティブノー では,GAF における各グループをさらに複数のグルー ドが交代することで,省電力化及び負荷均等化が為さ プに細分化することでアクティブノードの存在位置を れる. 特定の範囲に限定する.加えて,すべてのグループに 2.1 セルの分割 おいて,アクティブノードの存在範囲を同期すること GAF は各ノードはあらかじめ自身の位置情報を得 で GAF よりも正方格子の大きさを拡大する.これに ていることを前提として設計されている.各ノードは より観測領域内のアクティブノード数を GAF よりも 観測領域を複数の正方格子のセルに分割し,自身が属 減らすことができ,さらなる省電力化が期待できる. するセルを自律的に決定する.各セルにおいて,セル HGAF は既にシミュレーションによってベースとな 内からルーティングを担うアクティブノードを 1 台 る GAF との比較評価が行われており,ノード寿命及 選出する.よって,セル面積を拡大して観測領域全体 びパケット到達率の面で GAF に対する優位性が示さ におけるアクティブノード数を減らすことで,観測領 れている. 域内におけるアクティブノード数が減り,省電力性能 筆者らは無線センサネットワーク省電力化機構 をより高めることができる.しかし,アクティブノー HGAF を市販の無線センサ端末として広く普及して ドはルーティングを担う必要性から,隣接セルのアク いる MICAz-Mote 上に実装した.加えて,実装した ティブノードと通信可能でなければならない.そこで HGAF を GAF とともに実環境において稼働させ,シ セルは,隣接セル内のすべてのノード同士の通信可能 ミュレーション同様に HGAF の優位性が得られるか を保証するように構成される.そのため,GAF では 性能評価を行った.以下,第2章で HGAF 及び関連 隣接セル内の 2 点間における最長距離がノードの通信 の強い GAF の仕組みについて述べる.第3章におい 可能最大半径以下とならなければならない.この制約 て実装の詳細について述べ,第4章で GAF との比較 によって GAF における理論上の最大セル面積 SGAF 実験の詳細およびその結果について述べる.第5章で が決定される. (図 1).通信可能最大半径を R とする 本稿をまとめる. とセルの一辺の長さ r は 2. GAF(Geographic Adaptive Fidelity) GAF は,位置情報を用いて高密度に配置されたノー r2 + (2r)2 ≤ R2 なので r は 他のノードをスリープさせ省電力化を図る適応型トポ R (1) r≤ √ 5 を満たす必要がある.よって,GAF における最大セ ロジに基づいた無線センサネットワーク省電力化手法 ル面積 SGAF は (1) より ドの中から必要最小限のアクティブノードを選出し, である. ─ 359 ─ sleeping After Ts R Receive discovery msg from high rank nodes After Td R active After Ta discovery 図2 SGAF = R R Receive Discovery msg :active node GAF における状態遷移 R2 5 図 3 ノード位置を限定した場合のセルの 1 辺の長さ (2) 遷移する.このことにより,GAF では各セル内にお ける全ノードの消費電力の均衡化を行う. となる. 2.2 状 態 遷 移 GAF は同一セル内のすべてのノードに均等に電力 を消費させるため,各ノードの残存電力に応じてアク ティブノードを動的に変更し,それ以外のノードをス 3. HGAF(Hierarchical Geographic Adaptive Fidelity) 3.1 基 本 概 念 HGAF は,GAF の制約を越えてセル面積を拡大す リープさせる. GAF では各ノードはアクティブ,スリープおよび ディスカバリの 3 状態を遷移する (図 2).このディス ることで,観測領域内のアクティブノード数を減らし, ネットワーク全体での更なる省電力化を図る. カバリとはアクティブとスリープの 2 つの間の状態で GAF ではセル面積が大きくなるほど観測領域全体 ある.各ノードはディスカバリから開始し,Td 経過 におけるアクティブノードの数が減り,より高い省電 後にアクティブに遷移する.Td は電力残量が多いほ 力性能を発揮する.しかし同時に,ルーティングおよ ど小さな値になるように計算される.ディスカバリ状 びデータの転送の必要性から隣接セルのアクティブ 態のノードがアクティブに遷移する際,自身のノード ノード間の通信が保証される必要がある.GAF にお ID,セル ID,電力残量から計算される予想稼働時間, いてはアクティブノードがセル内のどの位置に存在す 現在の状態という4つの情報を含むディスカバリメッ るかを特定することはできないため,隣り合うセル内 セージを同一セル内のノードに向けてブロードキャス におけるすべてのノード同士の通信を保証する.この トする.アクティブに遷移したノードは Ta 経過後に 制約により,GAF では少なくとも面積 R2 /5 につき ディスカバリ状態へと戻る. 1 台以上のアクティブノードが必要となる. ディスカバリメッセージを受信した各ノードは,自 HGAF では各セル内におけるアクティブノードの存 在位置を特定の領域に限定し,その位置をすべてのセ 身の状態により以下の処理を行う. • ディスカバリ状態のノードがディスカバリメッセー ルで同期する.これにより,より大きなセルにおいて ジを受け取った場合,スリープに遷移する. もセル間の接続性を保証することができる.仮に,ア • アクティブのノードがディスカバリメッセージを クティブノードの存在位置が,すべてのセルにおいて 受け取った場合,自身の予想稼働時間と比較し, 特定の点に限定されているとすれば,アクティブノー より大きな値の予想稼働時間を含むディスカバリ ド間の通信を保障するためには,アクティブノード間 メッセージを受け取った時にのみスリープに遷移 の距離がノードの最大通信距離 R 以下となればよい する. (図 3).この時,セル面積は R2 となり,GAF の 5 倍 ディスカバリノードがアクティブに遷移する時以外 までセル面積を拡大することが可能となる.つまり, にもディスカバリメッセージは送信される.アクティ アクティブノードの存在位置を限定することで,ネッ ブノードはアクティブになった後にも Td 間隔でディ トワーク上のアクティブノード数を最大 1/5 まで減ら スカバリメッセージを送信し続ける.また,スリープ すことが可能となり,ネットワーク全体の消費電力を に遷移するノードは,受信したディスカバリメッセー 抑えられる.ただし,アクティブノードの存在位置を ジに含まれる予想稼働時間を基にスリープ時間 Ts を 一点に限定することは現実的ではないため,HGAF で 計算し,スリープを Ts 続けた後にディスカバリへと は GAF におけるセルをさらに複数の正方格子状の領 ─ 360 ─ N DN ≤ √ R (N + 1)2 + 1 D2 となる.これにより,サブセル面積 sN = (dN )2 およ びセル面積 SN = (DN )2 はそれぞれ, d2 d2 P D2 sN ≤ 1 R2 (N + 1)2 + 1 SN ≤ N2 R2 (N + 1)2 + 1 R O (5) となる. :active sub-cell 図4 (4) GAF と同様にアクティブノードは,同一セル内の セルを 4 分割した HGAF におけるセルの一辺の長さ ノードに対するクラスタヘッドとなる(同一サブセル のクラスタヘッドではないことに注意).したがって, 域に分割し,セル内の特定の領域内にアクティブノー アクティブノードは自身が属すセル内のすべてのノー ドの存在位置を限定する. ドと通信可能でなければならない.セル内における最 3.2 階層化されたアクティブノード選出処理 長の 2 点間の距離はセルの対角線の長さとなることか HGAF では GAF のセルをさらに複数の正方格子 ら,以下の条件を満たす必要がある. √ 2DN ≤ R に細分化する.細分化されたセルの 1 つ 1 つをサブセ ルと呼ぶ. HGAF はセル内のサブセルのうちの 1 つをアクティ ブサブセルとし,この中に含まれる 1 台のノードのみ を GAF と同様の状態遷移に基づく選出処理によって アクティブノードとして選出する.アクティブサブセ したがって,式 (4) より √ 2N √ R≤R (N + 1)2 + 1 ルの選択をすべてのセル内で同期することで,セル内 となり,これを満たす整数 N は 1 と 2 のみとなる. でのアクティブノードの位置をすべてのセルにおいて このことから,N ≥ 3 の場合においてはセルの対角線 同期しつつ限定する.以下,アクティブサブセル以外 を R とすることでセル面積を抑える必要がある.し のサブセルをスリープサブセル呼ぶ.スリープサブセ たがって,N ≥ 3 におけるセルの一辺の長さ DN は, (DN )2 + (DN )2 ≤ R2 ル内のノードはすべてスリープする. 3.3 セル・サブセルの分割 と表すことができる.よって,SN は HGAF では,GAF と同様に隣り合うセル内のアク SN ≤ ティブノード間の通信が保障されるようにセル及びサ 1 2 R 2 ブセルの大きさを決定する必要がある.したがって, となる.つまり N ≥ 3 の場合においてはセルの分割 隣り合うセルに含まれるアクティブサブセル内の最長 数を増やしてもセル面積は R2 /2 より大きくすること の 2 点間の距離 (図 4 の OP ) はノードが持つ通信デ ができない. 3.4 アクティブサブセルのローテーション バイスにおける通信可能最大半径 R 以下である. セル一辺あたりのサブセルの個数を N (分割数 : 2 アクティブサブセルは一つのサブセルだけで固定し N )とした時のセルおよびサブセルの一辺の長さを てしまうと消費電力の偏りが生じてしまい,ネット それぞれ DN ,dN とすると,隣り合うセルの同一の ワークの寿命が短くなる.そこで,HGAF では時間 場所に位置するサブセル間において最も遠い 2 点間の T 毎にアクティブサブセルのローテーションを行う. 距離が通信最大半径 R 以下とならなければならない アクティブサブセルの交代順はすべてのセルにおいて ため, 同じとする.すべてのノードはサブセルの交代タイミ (dN )2 + ((N + 1)dN )2 ≤ R2 が満たされる必要がある.よって,dN は 1 R dN ≤ √ (N + 1)2 + 1 となり,DN = N dN なので DN は ングを知っており,自身の属するサブセルの状態 (ア クティブ/スリープ) を知っているものとする. (3) アクティブサブセルの交代順は前後のアクティブサ ブセルが隣り合うようにする (図 5).これは時刻およ び位置情報の誤差の影響を軽減するためである.各サ ブセルにおいて時刻誤差が生じたノードがいた場合, ─ 361 ─ また,HGAF では予想稼働時間の長いノードから ① ② ① ② ④ ③ ④ ③ アクティブノードとして選出されることから,各ノー ドは自身の稼働時間予測が必要となる. 加えて,アクティブサブセルの位置を全てのセルで 同期することでセル面積を拡大する HGAF において 図5 セルを 4 分割した場合におけるアクティブサブセル交代順 は,通信の保証のためにアクティブサブセルの交代時 期が同期されなければならない.よって,時刻同期の 実際にはスリープサブセル内に存在するにもかかわら ず,位置情報の誤差,あるいは時刻同期のずれによっ 実装も必要である. 更に,データをマルチホップ通信で基地局へと送信 て自身が現在のアクティブセルに存在すると判断し するため,ルーティングの実装も必要となる. て,アクティブセルになろうとするノードが発生しう 以下に,これらの各実装について述べる. る.アクティブノードの選出処理は,同時にアクティ 4.3 セル分割とアクティブサブセル交代処理 ブノードになろうとする端末間が相互にお互いの発す HGAF では各ノードは位置情報に基づいて自身の る信号を受信することによって行われるので,互いの 所属するセル及びサブセルを決定するため,各ノード 通信範囲外にあるノードがアクティブになろうとした が何らかの方法で自身の位置情報を取得しなければな 場合には,セル内で複数のノードがアクティブになっ らない.本実装においては,位置情報は GPS や各種 てしまう.アクティブセルの交代順序が隣り合うセル のローカライゼーション技術によって得られるものと が隣接していれば,位置誤差,時刻誤差の影響によっ して,位置情報についてはプログラムを MICAz にイ て,互いに通信範囲外にあるノードがアクティブにな ンストールする際に各端末の設置位置に応じて静的に ろうとする機会がより減少する. 与えた.与えられる情報は端末が所属するセル ID,所 属するサブセル ID,セル一つ当たりのサブセル数の 4. HGAF の実装 3 つである. 本稿では,無線センサ省電力化機構 HGAF を,市 4.4 稼働時間予測 販の無線センサ端末上で実装した.本章では実装に用 本実装では過去の起動時間をもとに仮想的に残存電 いたプラットフォーム,および HGAF の実装の詳細 力を管理することで稼働時間の予測を行った.これは について述べる. MICAz-Mote では電源に関する情報は電源電圧しか 4.1 実装プラットフォーム 取得できず,正確な予測は困難なためである. 今回,実装に用いた無線センサ端末は,クロスボー 各ノードに対してソフトウェアのインストール時に, 株式会社製の MICAz-Mote・MPR2400J(以下,MI- 電源容量,アクティブ時及びスリープ時の消費電流の CAz)3) である.MICAz は,WSN 研究において世界 情報を与える.ノードは1秒ごとに発火するタイマを 的に用いられている MICA-Mote の一種である.通信 持つ.タイマは端末の動作開始と同時に起動され,タ 距離は,筆者らの測定では室内環境でおよそ 3m から イマが発火するたびに現在の電源容量から消費電流分 25m 程度であった.電源は単三乾電池 2 本を利用し, だけ値を減じる.その時点での電源容量をアクティブ 電源容量は 2000mAh である. 時の消費電流で除することで予想稼働時間とする. 本実装は HGAF の性能評価が目的であるため,測 4.5 時刻同期処理 定する情報は各ノードの電源電圧のみとし,センサ HGAF では,アクティブノードの存在範囲を全て ボードを取り付けていない MICAz-Mote 本体のみを のセルで同期するため,アクティブサブセルの交代時 扱った. 刻の同期が必要である.本試作では,1 ホップブロー 4.2 実装上の課題 ドキャストされた起動信号の受信によりすべてのノー HGAF を無線センサ端末上で動作させるためには, ドが動作を開始するタイミングを揃えることで簡易的 HGAF の動作を担ういくつかの重要な要素を実装し なければならない. な時刻同期とした. 各ノードは,観測領域に配置され電源が入れられる まず,観測領域を正方格子状のセルに分割し,特定 と待機状態となる.すべてのノードが待機状態となっ のセルからアクティブノードを決定するという HGAF た段階で,あらかじめ用意した専用の端末からすべて の仕組み上,観測領域をセルに分割し,アクティブサ のノードが受信できるように起動信号をブロードキャ ブセルを選出する機構の実装が必要となる. ストする.起動信号を受信したノードは直ちに HGAF ─ 362 ─ の動作を開始し,アクティブサブセルの交代周期毎に 4.4cm sink 53.7cm 各ノードはほぼ同時に起動信号を受信し動作を開始す クティブサブセルの交代周期を同期した. sink 4.4cm プブロードキャストで送信されるため,観測領域内の ることとなる.これによりすべてのノードにおけるア 53.7cm 53.7cm 4.4cm 発火するタイマをスタートさせる.起動信号は 1 ホッ ただし,あくまでこの簡易的な時刻動機は動作開始 のタイミングを同期するだけの簡易的なものである. 䉶䊦㕙Ⓧ䋺320ᐔᣇcm ᦨᄢ䉶䊦㕙Ⓧ䈱88.8% (a) - HGAF そのため,本実装では稼働時間の長さに応じて各端末 間での時刻のずれが大きくなることが想定される.ま た,稼動を開始したネットワークに新たな端末を追加 䉶䊦㕙Ⓧ䋺180ᐔᣇcm ᦨᄢ䉶䊦㕙Ⓧ䈱100% (b) - GAF 図 6 実験におけるノード配置及びセル分割 することができないという問題もある. 4.6 ルーティング 各セルに割り当てられた一意のセル ID を用いた静 的なルーティングを実装した.HGAF では,ノードの 予想稼働時間に応じてルーティングを担うアクティブ ノードが交代する.従って,ノード ID を用いたルー ティングでは,アクティブノードの交代が起こるたび に経路設定が必要となる.HGAF では,予想稼働時 間が短くなるほどアクティブノードの交代が頻繁に起 こるため,電池残量が少ない状況でのオーバーヘッド の増加を引き起こし,省電力性能に悪影響を与える. 一方で,ルーティングにセル ID を用いた場合,送信 図 7 実験の様子 先となるセルでのアクティブノード交代を考慮する必 要がなくなるため HGAF にとって都合がよい. 各ノードはパケットを送信する際,パケットに宛先 となるセルのセル ID を書き込んだ上で,パケットを ブロードキャストする.各セルのアクティブノードは, サノードのアンテナを外すことにより,最大通信距離 をおよそ 30cm に制限した. この観測領域を HGAF および GAF それぞれにお 受信パケットの宛先が自身の所属するセルである場合 いてセルに分割する.GAF は観測領域を 16 のセル にのみ,そのパケットを転送する. に分割し,HGAF では 9 のセルに分割する (図 6-b). セル間の転送経路は,基地局を親とするツリー状の 経路を利用する.経路上の親となるセルの ID は,各 ノードに対してソフトウェアのインストール時に静的 分割する (図 6-a). このとき,GAF におけるセルひとつあたりの面積 は 180cm2 となる.ノードの最大通信距離 R が 30cm に与える. 5. 評 さらに HGAF ではひとつのセルを 4 つのサブセルに である時の GAF の理論上の最大セル面積は,式 (2) 価 より Micaz-Mote 上で実装した HGAF について,既存 手法である GAF と同一のネットワークにおいて稼働 させ,性能評価を行った.本章では HGAF と GAF との比較実験の詳細,及びその結果について述べる. 5.1 実 験 環 境 302 = 180cm2 (6) 5 となる.よって,この実験環境における GAF のセ SGAF = ル面積は理論上の最大セル面積と等しく,GAF は理 論上の最大の省電力性能を発揮できる. 同一のノード配置がされた観測領域において,実装 一方で,HGAF におけるセルひとつあたりの面積は した HGAF 及び GAF を稼動させ,双方の省電力性 320cm2 である.ノードの最大通信距離 R が 30cm で あり,サブセル分割数 N = 2 であることから,HGAF 能の比較評価を行った. 一辺の長さが 53.7cm の正方形の観測領域に 64 台 の理論上の最大セル面積は,式 (5) より の無線センサノードを配置する (図 6).すべてのセン ─ 363 ─ 22 302 = 360cm2 (7) (2 + 1)2 + 1 となる.よって,この実験環境における HGAF の 㪘㫍㪼㫉㪸㪾㪼㪭㫆㫃㫋㪸㪾㪼㩿㪭㪀 S2 ≤ セル面積は,ノードの最大通信距離が 30cm である場 合の HGAF の理論上の最大セル面積に対して約 88.8 %の大きさに止まっている. つまりこの観測領域は,理論上の最大セル面積を採 㪊㪅㪋 㪊㪅㪊 㪊㪅㪉 㪊㪅㪈 㪊 㪉㪅㪐 㪉㪅㪏 㪉㪅㪎 㪉㪅㪍 㪉㪅㪌 HGAF GAF 㪇 用する GAF にとって理論上の最大セル面積よりもセ ル面積が小さい HGAF よりも有利な条件となってい る.本来比較実験を行う場合は,全ての比較対象にとっ 㪌㪇 㪈㪇㪇 㪫㫀㫄㪼㩿㪿㪀 㪈㪌㪇 図 9 GAF 及び HGAF における平均電源電圧の推移 て互角な条件で実験を行うことが望ましいが,実環境 下での実験では,利用できるノード数の制約や GAF 今回の実験では HGAF は 1 時間ごとにアクティブサ と HGAF の最大セル面積の差といった要因によって ブセルの交代が起こるが,その度にサブセル内でもっ 完全に互角な実験条件を設定することは困難である. とも電池残量の多いノードがアクティブノードとして しかし,このような GAF に有利な条件下で HGAF 選出される.HGAF は GAF に対してアクティブノー の優位を示すことができれば,HGAF の有効性を示 ド選出の機会が多いため,電力消費は均等化されて すには十分である. いる. なお,実験に必要となるノード数を減らすため,今回 図 9 に GAF 及び HGAF の各 36 台のノードの電 の実験では図 6 における太い破線で囲まれた約 40cm 源電圧の平均値の時間経過に伴う推移を示す.HGAF 四方の領域,36 台のノードについてのみ着目して実 は GAF に対して,平均電圧の推移が緩やかである. 験を行った. HGAF において 168 時間経過時点での HGAF の平 各ノードは 30 分おきに自身の電源電圧を測定する. 均電圧は 2812mV であるのに対して,GAF の平均電 測定したデータは,直ちに各セルのアクティブノード 圧が 2812mV に達するまでの時間は約半分の 84 時間 を介したマルチホップ通信により Sink へと送信され である.よって,HGAF のネットワーク寿命は GAF る.すべてのノードは,実験開始時に電源を未使用の のおよそ 2 倍と見ることができる.今回の実験条件で 単三アルカリ乾電池に交換され,初期電源容量はほ は,GAF ではアクティブノード数が 9 台であるのに ぼ均等化される.各ノードが時間経過とともに報告し 対し,HGAF ではセル面積の拡大により,アクティ てくる電源電圧値を比較することで,各端末,および ブノード数が 4 台と半数未満となっている.実験結果 ネットワーク全体での電力消費量を評価する. は,HGAF のアクティブノード削減による省電力効 HGAF では,負荷均等化のために各セルにおいて定 果が発揮されたものと考えられる. 期的にアクティブサブセルを交代する.今回の実験で 図 10 に,GAF 及び HGAF の時間経過に伴うパ は,1 時間ごとにアクティブサブセルのローテーショ ケット到達成功率の推移を示す.GAF(図 10-a) 及び ンを行った. HGAF(図 10-b) ともに,実験期間全体を通してほぼ 以上のような条件下で GAF 及び HGAF をそれぞ れ 168 時間稼動させ,省電力性能を比較した. 5.2 評 100 %の高い到達成功率を維持しており,パケット到 達の信頼性の面でも HGAF は GAF に対して遜色な 価 いことがわかる. 図 8 に,GAF 及び HGAF における時間経過に伴 う各ノードの電源電圧の推移を示す.GAF(図 8-a) で 6. ま と め は,電力消費に偏りがあることが見て取れる.GAF 本論文では,センサネットワークにおける位置情報 では,一度アクティブノードが選出されると他のノー を用いた階層的省電力化手法 HGAF を市販の無線セ ドのスリープ期間が終了するまでアクティブノードの ンサ端末 MICAz-Mote 上に実装した.また,実装し 交代は起きない.ネットワーク稼動直後のような電池 た HGAF と GAF を同一のネットワークにおいて稼 残量が多い状況ではスリープ期間が長くなるため,電 動させ,双方の電力消費を比較した.その結果,電力 力消費の偏りが発生する. 消費における HGAF の GAF に対する優位性が示さ 一方で HGAF(図 8-b) では,GAF と比べて各ノー ドの電源電圧は均等化されていることが見て取れる. れた. 今後の課題としては,より現実性のある評価を行う ─ 364 ─ 㪊㪅㪋 㪊㪅㪉 㪊㪅㪉 㪊 㪊 㪭㫆㫃㫋㪸㪾㪼㩿㪭㪀 㪭㫆㫃㫋㪸㪾㪼㩿㪭㪀 㪊㪅㪋 㪉㪅㪏 㪉㪅㪍 㪉㪅㪏 㪉㪅㪍 㪉㪅㪋 㪉㪅㪋 㪉㪅㪉 㪉㪅㪉 㪉 㪉 㪇 㪌㪇 㪈㪇㪇 㪫㫀㫄㪼㩿㪿㪀 㪇 㪈㪌㪇 㪌㪇 㪈㪇㪇 㪈㪌㪇 㪫㫀㫄㪼㩿㪿㪀 (a) - GAF (b) - HGAF 㪛㪸㫋㪸㩷㪛㪼㫃㫀㫍㪼㫉㫐㩷㪩㪸㫋㫀㫆㩿㩼㪀 図 8 GAF 及び HGAF における各ノードの電源電圧推移 参 㪈㪇㪇 㪏㪇 㪍㪇 㪋㪇 㪉㪇 㪇 㪇 㪌㪇 㪈㪇㪇 㪈㪌㪇 㪛㪸㫋㪸㩷㪛㪼㫃㫀㫍㪼㫉㫐㩷㪩㪸㫋㫀㫆㩿㩼㪀 㪫㫀㫄㪼㩿㪿㪀 (a) - GAF 㪈㪇㪇 㪏㪇 㪍㪇 㪋㪇 㪉㪇 㪇 㪇 図 10 㪌㪇 㪈㪇㪇 㪫㫀㫄㪼㩿㪿㪀 (b) - HGAF 㪈㪌㪇 GAF 及び HGAF におけるパケット到達成功率 ために,時刻同期の実装や HGAF に適したルーティ ングの検討及び実装が挙げられる. 7. 謝 辞 考 文 献 1) 稲垣 得也, 石原 進: “センサネットワークのため の位置情報を用いた階層的省電力化手法の評価,” DICOMO 2007, pp.66–73 (2007). 2) Xu. Y, et al.: “Geography-informed Energy Conservation for Ad Hoc Routing,” Proc. MobiCom’01, pp.70-84 (2001). 3) Crossbow micaz motes. http://www.xbow.com 4) Chipcon cc 2420 radios. http://www.chipcon.com 5) Polastre. J, et al.: “Telos: enabling ultralow power wireless research,” Proc. IPSN ’05, pp.364-369 (2005). 6) Lo. B, et al.: “Body Sensor Network - A Wireless Sensor Platform for Pervasive Healthcare Monitoring”, Proc. PERVASIVE 2005, pp.7780 (2005). 7) He. T, et al.: “Energy-efficient surveillance system using wireless sensor networks,” Proc. MobiSys ’04, pp.270-283 (2004). 8) Ono. T, et al.: “UScan: Towards Fine-Grained Urban Sensing,” Proc. Int’l Workshop on Real Field Identification (2007). 9) Chen. B, et al.: “Span: An Energy-Efficient Coordination Algorithm for Topology Maintenance in Ad Hoc Wireless Networks,” Proc. MobiCom’01, pp.85-96 (2001). 本研究の一部は知的クラスター創成事業浜松オプト ロニクスクラスターの支援を受けている.ここに記し て謝意を示す. ─ 365 ─