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自動車保管場所の補償の調査方法に関する 検討について
自動車保管場所の補償の調査方法に関する 検討について 渡辺 用地部 用地補償課 (〒950-8801 住所 信 新潟市中央区美咲町 1 丁目 1 番地 1 号) 自動車保管場所(いわゆる駐車場)を事業用地として取得するにあたっては、 「国土交通省損 失補償取扱要領『別記5 自動車保管場所補償実施要領』 」に沿って、自動車保管場所の使用実 態に関する調査及び補償額算定を行ってきた。しかし、調査方法の詳細についての定めがない ことから、個々の事案においては、営業調査や建物調査の要否の判断や調査手順の決定に時間 を要していた。 このため、調査方法や集計方法等を統一することにより、適切な調査を経て、適切な補償額 を得ることを図るものである。 キーワード 自動車保管場所、敷地使用実態調査 1.はじめに 事業用地の取得に際し、各土地のうち事業用地と して必要となる形や面積は様々である。今回の検討 においては、自動車保管場所、いわゆる駐車場だけ が事業用地として必要になった場合を対象としてい る。直接的には土地が支障となっており、建物は支 障となっていない場合だが、その土地が店舗や工場、 営業所など業務用として使用されていた場合、自動 車保管場所が減るということは、営業活動に直接影 響を与えるということであり、補償内容は慎重に検 討されなければならない。事業に直接支障とならな い建物を当該敷地外に移転させる場合もあれば、売 上の減少に伴う補償を決定する場合もある。自動車 保管場所は、その存する土地の使用形態により、① 不特定多数の来客がある業種、②取引先等ある程度 限られた来客がある業種、の2パターンに大きく分 けられる。これら2つのパターンについて検討した。 2.概要 平成 17 年度から平成 21 年度の間に、用地部に承 認申請のあった案件によれば、自動車保管場所の使 用実態調査に関する調査方法、データの集計方法、 業務実施手順に統一性が見られず、同じ用途の店舗 でも調査日数や調査時間が異なっている例がみられ た。調査結果に基づいて機能回復の方法が検討され るが、調査方法に統一性がないことから、導き出さ れる機能回復の方法も統一性がないものとなってい た。 さらに、調査方法や機能回復方法のばらつきから、 直接支障とならない建物を安易に調査してしまう事 例も見られ、この場合には、建物所有者に補償して もらえるという期待をもたせてしまうことがある。 補償対象としないと結論が出た場合に、補償交渉が 難航することが懸念される。 上記のような問題を解消するべく、敷地使用実態 調査の方法や必要な調査の手順、営業調査や建物調 査の要否の判断を揃えることにより、統一された補 償額が得られることを図るものである。 3.調査方法の検討 (1) 調査回数の判断 調査回数について、図1の調査フローのように使 用形態に応じて2パターンに分類している。自動車 保管場所が最も使用される時間帯を的確に把握する 必要があることから、場合分けを行った。 ①不特定多数の来客がある小売業や飲食店業など においては、曜日による多寡、時間帯による多寡が それぞれあることから、1 週間通して、営業時間全 てを調査することとした。 ②取引先等ある程度使用者が限られている製造業、 建設業、卸売業、サービス業工場・営業所において は、1日のうちでも大体似たような時間帯に使用者 が多くなる傾向がある。使用者が多い時間帯を所有 者から予め聞き取って、1日のうちその時間帯にの み調査を行うことを1回として、1週間のうち3日 間(合計3回)調査することとしている。曜日によ る使用実態の差は少ないことから、1回の調査でも 傾向を掴めると考えられるが、1回だけでは、交渉 時に所有者の理解を得づらいことが懸念されたため、 週に5~6日営業するうちの半分を調査することと して、3回とした。 図1 自動車保管場所の補償に関する調査フロー 業務用 小売業、飲食店業 製造業、建設業、 卸売業、サービス業 調査期間 :1週間 調査期間 :週のうち3日 調査時間 :営業時間全て 調査回数 :1回/日 駐車場の利用状況を業種に応じて区分し、 “建物等の残地移転要件の検討”、または、 大規模工場等に該当する場合は“移転工法 案の検討”により、敷地利用実態調査を行う (2) 留意事項 起業者は、使用実態調査により、自動車保管場所 が減少することに伴う影響を掴み、建物所有者が現 地で営業を続けられるかどうか判断しなければなら ない。調査実施にあたっての主な調査事項は、以下 の3点である。 ①自動車保管場所を使用した台数の把握 自動車保管場所が減少することによる影響を掴む ためには当然のことである。 ②乗車していた人数の把握 売上への影響を掴むためには、まず全体像を把握 した上で、自動車保管場所の減少による影響を見定 めなければならない。自動車での来客が1人で来る とは限らないので、乗車していた人数も計測し、自 動車保管場所の利用台数だけでなく、自動車による 来客者数も調査しなければならない。 ③自動車以外の手段による来客数の把握 同じく全体像を掴むために、自動車による来客の みならず、徒歩や自転車による来客数も押さえる必 要がある。②と③により、自動車による来客数の割 合を求めることができるようになる。 以上の点を踏まえて定めたものが、図2の調査シ ートである。 (3)調査方法 現地調査では、調査シートの上半分を使用する。 様式左側の「駐車場」欄は、個々の駐車スペースに 対応しており、スペース毎の使用状況を書き込んで いく。駐車していた時間帯を欄の中ほどに直線で、 直線の左上の数字により車による来客数を、右下の 数字により駐車していた時間(分単位)を示してい る。 これと別に、徒歩や自転車など自動車によらない 来客数を1時間毎に集計して「徒歩等」の欄に記入 する。 4.集計方法の検討 (1)満車率 自動車保管場所の減少の影響を検討するためには、 検討の土台となる駐車スペースの必要台数を決めな ければならない。 その際に考慮しなければならないものに、満車率 がある。店舗の敷地内にある自動車保管場所のうち、 ある程度が埋まると、新たな客は自動車保管場所が 一杯であると判断して通過すると考えられており、 この割合を満車率と呼び、解説図書によれば、8割 とされている。1) 図3の例においては、駐車スペースが8台分あっ て、3台分が支障となる想定だが、満車率をあては めると、従前は、8台×80%=6.4台より7台 までの駐車により営業が成り立っていたと考える。 用地買収後においては、5台×80%=4.0台よ り4台までの駐車により営業することになる。 (営業 を成り立たせるために想定していた駐車台数を「有 効駐車台数」と呼ぶ。 ) 図2 調査シート(業務用) 時間 10:00 駐車場 11:00 12:00 (営業時間) 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 (休憩) 1 2 3 4 5 6 7 8 合計 徒歩等 駐車台数 (a) 8台 7台 6台 5台 4台 3台 2台 1台 0台 合計 (2)調査結果のとりまとめ 現地調査が済んだら、調査シートの下半分を使っ て結果の取りまとめ作業を行う。様式の下半分に記 載されている台数は、駐車場に同時に駐車していた 台数を表している。上半分の欄で1台ごとの駐車時 間帯を直線で表していることを利用すれば、ある瞬 間における駐車台数を容易に数えることができる。 これを時系列で集計すれば、1日の時間ごとの駐車 台数が求められる。この結果は、様式右下にある「台 数別駐車時間」欄に表され、これに駐車台数を掛け た時間数を合計し、1日の延べ駐車時間を求める。 様式中では、 「合計駐車時間」の合計として集約され ている。 自動車保管場所の減少による影響を判断するため には、1日の延べ駐車時間と別に、買収後に不足す る駐車時間も集計しなければいけない。満車率を考 慮すると、本事例においては、4台が有効駐車台数 であるから、4台を超える駐車が買収後に不足する 台数となる。合計駐車時間と同様の計算により、 「買 収後に駐車場が不足する合計時間」を求める。 「合計 駐車時間」と「買収後に駐車場が不足する合計時間」 の2つが、自動車保管場所の稼働状況を表すのに使 われる。 (3)用地対策課との打合せ 敷地使用実態調査の結果を踏まえて、用地対策課 と打合せをし、営業調査や建物調査が必要か判断す 18:00 19:00 (営業時間) 20:00 21:00 計 備考 人 分 人 人 分 人 人 分 人 人 分 人 人 分 人 人 分 人 人 分 人 人 分 人 人 分 人 人 台数別 駐車時間 (h) 買収後に 不足する 駐車台数 合計 駐車時間 (a)×(h) (e) (a)-(d) 買収後に 駐車場が 不足する 合計時間 (e)×(h) 分 分 分 台 分 分 分 台 分 分 分 台 分 分 分 台 分 分 分 台 分 分 分 台 分 分 分 台 分 分 分 台 分 分 分 台 分 る。また、 「国土交通省損失補償取扱要領『別記5 自 動車保管場所補償実施要領』」の第3条に定める機能 回復方法のうち、立体駐車場の設置や、残地内の建 物を移転させる補償は局長承認事項であることから、 この打合せを事前相談の場としても活用し、事務所 と用地部との情報共有を図るものである。 (4) 売上への影響度の分析 現地調査の集計結果を用いて求める。駐車可能台 数の減少率が、そのまま売上の影響度になるのでは なく、駐車場の稼働状況により影響を受ける程度が 変わってくることから、自動車による来客数への影 響度と稼働状況を掛け合わせて求める。駐車可能台 数の減少は、自動車による来客数に影響を与えるが、 徒歩など自動車によらない来客数には影響を与えな いことから、来客数への影響度を 自動車による来客数 自動車による来客数+徒歩等による来客数 で求める。 次に、駐車場の稼働状況を、 買収後に駐車場が不足する合計時間 自動車の合計駐車時間 により算出する。 売上への影響度= 来客数への影響度×駐車場の稼働状況 なので、図3の事例を、式にあてはめると、 図3 調査シート(業務用) 時間 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 (営業時間) 3 駐車場 1 16:00 17:00 18:00 19:00 (休憩) 4 3 5 60 2 45 75 60 60 75 75 90 60 3 90 4 3 90 2 3 60 4 5 3 60 3 75 75 4 8 75 4 3 75 2 3 75 90 2 7 4 75 4 60 2 90 4 75 4 5 60 2 45 5 6 5 75 4 6 4 90 60 2 4 計 75 2 45 3 21:00 4 75 2 2 20:00 (営業時間) 60 4 90 3 75 45 3 60 4 60 2 75 60 75 合計 2 徒歩等 4 3 30 15 4台 15 3台 15 30 30 15 15 30 45 15 15 15 15 15 15 1台 15 15 15 2台 60 15 15 15 15 15 15 15 15 合計 ※ ◎:従前の有効駐車台数 、○:買収後の有効駐車台数 ※ 買収後に 不足する 駐車台数 合計 駐車時間 (a)×(h) (e) (a)-(d) 買収後に 駐車場が 不足する 合計時間 (e)×(h) 45分 15 15 5台 0台 2 15 7台 6台 ○ 2 台数別 駐車時間 (h) 駐車台数 (a) 8台 ◎ 2 備考 7人 2台 150分 20人 6台 420分 21人 6台 390分 18人 6台 390分 19人 5台 360分 19人 5台 345分 19人 6台 450分 12人 4台 285分 135人 40台 2790分 15人 60分 420分 3台 180分 180分 1080分 2台 360分 75分 375分 1台 75分 60分 240分 0台 0分 75分 225分 0台 0分 30分 60分 0台 0分 30分 30分 0台 0分 45分 0分 0台 600分 2430分 0分 615分 (※有効駐車台数=満車率(80%)を考慮した駐車台数) 売上への影響度= {135 人÷(135 人+15 人)}×(615 分÷2,430 分) =22.77% が得られる。 営業調査により確認した年間売上高に、売上への 影響度を乗じて、用地買収後の年間売上高を推定す る。用地買収後の年間売上高と、損益分岐点売上高 を比較し、用地買収後に残地で営業を続けることが 可能かどうかを判断する。 本調査方法においては、現地調査で、自動車によ る来客数と用地買収後の有効駐車台数を超える駐車 時間数を押さえることにより、全来客数への影響度 と駐車場の稼働状況とを正確に算出することができ ると考えている。したがって、売上への影響度につ いても、精度の高い数値が得られ、これに基づく、 残地での営業存続可能性の判断についても、非常に 正確になされると考えている。 (5)営業調査及び建物調査 敷地使用実態調査と用地対策課との打合せにより、 営業調査が必要と判断されれば、営業調査を実施す る。その結果により、残地内での営業継続の可否が 判明するので、立体駐車場の設置もしくは建物移転 の必要性が生じた場合に、建物調査を実施する。調 査結果に基づいて、立体駐車場の設置や建物の構外 移転など認定した移転工法に必要な費用を算定し、 補償額を得る。 4.おわりに 今回定めた調査手順により、統一された調査結果 が得られるようになる。また、業務実施手順の不統 一により、直接支障とならない建物の調査を安易に 行うケースも防ぐことができる。建物移転が不要な 場合の調査を行わないことで、建物所有者に期待を 抱かせることもなく、交渉が円滑に進むことを期待 している。 用地対策課との打合せを必ず行うことで、用地 部と事務所とで情報を共有し、調査手順の適切な運 用を図っていきたい。 参考文献 1)公共用地補償研究会:改正基準に基づく営業補償 の実務 図4 自動車保管場所の補償に関する業務実施手順 作業項目 ①現地踏査 自動車の保管場所に関する補償の可能性を事前に確認 留意事項 駐車場台数が従前地の8割を切るような状況であれば、敷地使 用実態調査の他、営業調査、建物調査が必要になる可能性が高 いので、業務発注の際には当初数量に組み込むこと。 周辺同業種の使用実態も調査すること ②用地測量・物件調査(事業用地内) 工作物の再配置のみで駐車場が確保出来るか 残地内での再配置が出来ない場合や近隣に保管場所を 確保出来ない場合、真に必要となる自動車の保管場所の 使用実態を調査する 近隣に保管場所(貸駐車場含む)を確保出来るか 店舗等の場合 ③敷地使用実態調査 調査日数については「調査日数判断フロー」にて決定 ○調査期間:1週間 ○自動車:1時間毎の駐車マスの埋まり具合を調査 ○来店者:来店手段別に実数を調査 ④用地対策課と打合せ 要領*第3条4~6(立体駐車場、建物移転補償)については局 長承認事項のため、事前相談を必ず行うこと。 使用実態を把握した上で、営業調査・建物調査前に行う ○営業規模縮小率 =自動車来店者数÷(自動車来店者数+徒歩等来店者数) ⑤営業調査 営業規模縮小補償の可否を検討 ×買収後の駐車場不足合計時間÷従前地の合計駐車時 ※満車率を考慮するときの時間は、従前地及び買収後の有 効駐車台数を越える部分は算入しない。 ○損益分岐点(率) =1-(固定費÷{1-(変動費÷売上高)}÷売上高) ⑥建物調査 立体駐車場及び建物による機能回復を検討 営業規模縮小補償との経済比較 ○建物移転工法については、「建物移転工法のフロー」に基づき 残地内の建物移転に関する検討を行い、残地内工法と構外移転 との経済比較により、決定する。 ○立体駐車場は、二段式を妥当とする。 *要領:国土交通省損失補償取扱要領 補償方法の決定!! 別記5 自動車保管場所補償実施要領