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戦略的 CSR の観点から企業の持続的成長に関する研究 Some study

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戦略的 CSR の観点から企業の持続的成長に関する研究 Some study
修士論文要旨
(2009 年度)
戦略的 CSR の観点から企業の持続的成長に関する研究
Some study on sustainable growth of the company
from the viewpoint of strategic CSR
経営システム工学専攻
丹
羽
博 之
NIWA Hiroyuki
はじめに
1.
企 業 の 社 会 的 責 任 ( CSR : Corporate Social
企業はステークホルダーに対し様々な課題を抱えて
Responsibility)について様々な局面で求められること
おり、企業によって行動に違いが生まれてくる。その
が多くなっている。その背景として、近年世界中で企
課題について戦略的 CSR の考え方をもって行動するこ
業の不祥事が頻発していることが挙げられる。また、
とにより、持続的成長につながると考え、持続的成長
不祥事以外にも経済のグローバル化の進展が企業を取
企業はどう行動しているのかを具体例として3章で検
り巻く環境の変化を起こしている。企業の不祥事や行
証・分析していく。
動に対して顧客や社会の反応が企業の命運を左右する。
また、社会や顧客も地球環境問題への関心が高まって
3.
持続的成長企業の分析
いることや、ビジネスのグローバル化によって地域社
企業を分析していくにあたり、RPV 理論の考えを用
会との関係を築いていかなければならない企業は、
いる。RPV 理論とは、Resource(経営資源)、Process
CSR 活動について考えて行動していかなければならな
(業務プロセス)、Value(価値観)を統合的に捕らえ
い。
ることによって企業組織の強み・弱み・盲点を規定す
本研究では、この CSR を戦略的に捉え、企業とステ
ることができる。
ークホルダーとの関係を良好に築きながらも持続的成
長をしていくためのモデルを、事例の分析から提案す
ることを目的とする。
表3-1:RPV 理論
Resource
Process(業務
Value
(経営資源)
プロセス)
(価値観)
組織が売買した
企業が経営資源を
優先順位を決
り、構築あるい
製品やサービスに
める基準
え、企業活動にCSR を組み込むことである。
は破壊できるも
生まれ変わらせる
CSRを組み込む活動とは、企業行動が社会に適応す
のや資産
ために確率した手
2.
戦略的 CSR とは
企業が持続的成長を遂げていく一つの要因として考
るかどうかを踏まえ、経営資源や能力から強み・弱み
法
を分析し、企業がステークホルダーと相互にメリット
クリステンセンら(2005):
「明日は誰のものか
を享受し共生していくことである。
ーションの最終解」
イノベ
ランダムハウス講談社
そこで戦略的 CSR には、企業とステークホルダーの
協力が必要となってくる。協力とは、企業が社会的責
任を果たすことにおいて、ステークホルダーとの間に
3.1 業界選定理由について
本研究において業界を分けて持続的成長をしている
は信念や価値観が違ってくることもあるが、この価値
4社の企業を分析した。
観が違う中で企業とステークホルダーが共生し、企業
4社のうち2社は製品を企画から販売までのプロセス
の限られた経営資源を活かし補完関係を構築していく
を自社で管理し、製品のライフサイクルが速く、顧客
ことである。
のニーズがめまぐるしく変わるアパレル業界から、
ZARA と UNIQLO を選択した。
残りの 2 社は、製品の企画から生産までを主の活動
いる。2社とも生産プロセスは違うが、高品質の製品
と し て 、 開 発特 化 し て いる 業 界 か ら Panasonic と
を作るために企業側から従業員やサプライヤーに対し
Canon を選択した。
てインセンティブを与え、モチベーションを持たせ補
戦略的 CSR として考える際に、具体例の4社は製造
業という点で共通している。製造業における持続的成
完的な関係を作っていることが持続的成長を行えてい
る要因の一つであると考えられる。
長の一番の要因として顧客満足が大きく関わると考え
ファッション業界における戦略的 CSR の観点から企
る。顧客満足を満たすのは、高品質や革新的な機能が
業の持続的成長をもたらす要因は品質があげられ、顧
ある製品である。その製品を企業が提供するにあたり、
客を満足させることが重要である。その時、顧客は常
一番関係してくるのは、従業員やサプライヤーである。
に新しい製品を期待しているのでサイクルを早くする
そこで、各企業を RPV 理論から分析したうえで、従
か、既存の製品に付加価値をつける必要がある。
業員に対する行動について分析してみる。アパレル業
界ではサプライヤーについても分析する。
3.3
3.3.1
3.2
3.2.1
アパレル業界の分析
ZARA の分析
電器・精密業界の分析
Panasonic の分析
Panasonic は先進・洗練・信頼を価値観として生産
部門で蓄積されたノウハウを開発部門にフィードバッ
ファストファッションを価値観として、製品を「高
クして設計プロセスに改良を加える。設計は3次元
速回転」をさせるため、1回の会議で一気に世界発展
CAD を導入することで他部門と情報を共有し、設計が
可能なハイファッションの製品企画とデザインを決定
終わったら必ず一度は図面を他部門にみせ、問題点と
する。生産においては、当たり外れのあるハイファッ
改善点を指摘してもらわなければ図面として承認され
ションの製品とベーシックな製品とで生産工場を分け、
ないような仕組みにすると同時に、製品企画の段階か
ハイファッションの製品は、少量生産可能な本社近く
ら設計部門が生産部門とともに参加することで手戻り
の自社工場で行う。ベーシックな製品は中国、インド
を起こす要因を減らす。そして、量産に入る前には品
などの安い賃金国の契約工場で行う。完成した製品を
質部門において製品の品質を確認すると同時に、製品
ハンガーに吊るされた状態で値札をつけ、そのまま各
のライフエンドにおいて人や環境に影響を与えないか
店舗で陳列できるようになっている。
の検査を通過して量産に移る。
また、製品が顧客のところにいっても CRM(Customer
3.2.2
UNIQLO の分析
革新と挑戦を価値観として、一度販売した製品につ
いては永続的に改善をしていくことで製品に付加価値
Relationship Management)を行うことで顧客満足度
をあげ、さらにそこで得た情報をフィードバックし新
製品開発に活かしている
をつけている。また、流行を過度に追求しないデザイ
ンにすることで、シンプルな製品になり製品自体が陳
腐化しにくいものにしている。
生産は OEM 生産を行い、
3.3.2
Canon の分析
Canon は企業と社会の共生を価値観として製品開発
品質は会社が認めた「匠」と呼ばれる品質のスペシャ
の際、新しい要素技術やキーコンポーネントといった
リストを工場に常駐させることにより、高品質の製品
キーテクノロジーを新製品に必ず組み込んでいる。新
を作り上げている。
製品開発において、KI 活動と呼ばれるプロジェクトを
円滑に進めていくために、開発の初期の段階からプロ
3.2.3
戦略的 CSR の観点から ZARA と UNIQLO にお
ジェクトに関係する人を集めて「技術ばらし」会議を
ける特徴
行い開発の初期の段階で徹底的に議論をすることで後
ZARA と UNIQLO の品質管理について比較してみた。
ZARA は多くのサプライヤー同士を競争させることで
に課題や問題が見つかっても事業部同士の責任の押し
付け合いを回避している。
品質を高めていき、UNIQLO は契約工場で品質指導を
品質においては常に使う人のことを考え、品質部門
行い、さらに品質のスペシャリストを工場に配置して
では製品による人体への負担を軽減する研究がなされ
ている。また、品質のチェックにおいては、独自で製
かく対応することで、顧客の利便性と満足度を高め、
品安全技術基準を設定しているが、社会より厳しい基
顧客を常連客として囲い込んで収益率の極大化をはか
準を設けて審査を行うことで製品の品質や信頼性を向
っている。さらに、アパレル業界のように製品の開発
上させる。さらに、製品自体の品質と企業力を維持・
から生産までのスピードを上げる方法を学習して取り
向上するために各分野のエキスパートを定期的に会社
入れることによって、業界のさらなる成長につながる
が認定し報奨金をだし、製品の品質をチェックしなが
と考える。
ら、後継の人材に技術を教え込んでいく。
4.2
戦略的 CSR の観点から Panasonic と
3.3.3
Canon における特徴
戦略的 CSR の観点から持続的成長の
ロジックモデルの提案
製品の開発・生産に関わる従業員や生産に関係する
Panasonic が設計で行っている他部門に図面を見せ
サプライヤーと良好な関係を構築していくことで、品
る行動を、Canon は開発の段階で行っている。開発の
質のよい製品を提供でき、販売現場からのフィードバ
段階から他の部門も巻き込むことで新製品に対して真
ックを活かし顧客の潜在ニーズをみたすことができる。
摯に向き合わせることは、顧客に対する安全、信頼性
また、製品の販売後は CRM を用いてアフターケアも充
について考える仕組みをつくっている。また、新製品
実させる。それによって顧客満足を得ることができる。
の安全性について品質本部が認めなければ生産できな
顧客満足を得ることができれば、製品の革新を起こす
い仕組みをとっていることでマーケティング本部と開
ことができ、市場の活性化が行われ、技術や品質によ
発、設計、生産部門との間に補完関係をしく Panasonic
る公平な競争が起こりやすくなる。顧客満足により、
の業務プロセスは従業員が働くための十分なモチベー
製品は売れるので株主に還元することができる。さら
ションになり、持続的成長を促す要因の一つと考えら
に、製品の製造過程や製品自体が安全であれば、地域
れる。
に及ぼす影響は最小限に抑えられ、企業の発展と共に
Canon が行っている、企業のトップである社長が年
地域社会も発展できる。企業行動の流れを図4に表す。
に一回は製造現場に出向き、生産現場の人とコミュニ
以上より、従業員とサプライヤーとの良好な関係が
ケーションをとり、意見を聴くことはトップ・現場の
ステークホルダー全体を満足させることができる。そ
モチベーションとなる。
のために企業と従業員とサプライヤーが密なコミュニ
電機・精密業界における戦略的 CSR の観点から企業
の持続的成長をもたらす要因としては、他部門間で補
完関係を構築していくことが持続的成長をもたらすと
考えられる。
4.考察
4.1
産業行動による違い
4社とも製造業として品質を重要視している。アパ
レル業界はライフサイクルが速く、顧客の需要の変化
も速いので、顧客のニーズをすばやく認識し、新製品
を販売していくことで顧客を確保する。さらに、CRM
の考え方を一部分取り入れることで販売の時だけでな
く、企業全体で顧客と向き合っていくことで更なる成
長が望めるのではないかと考える。電機・精密業界は
IT の普及や生産技術の向上によって年々開発期間は短
くなっている。Panasonic のように製品の故障や欠陥
があった場合、CRM を用いて、顧客のニーズにきめ細
ケーションをとり、互いに信頼関係をつくることで必
要である。
従業員にインセンティブを与え
サプライヤーとの良好な関係を構築する
品質の向上
顧客の潜在ニーズを満たす
販売後のアフターケアの充実
顧客満足
市場から
株主・投資家の満足
市場の活性化(競争相手)
フィードバック
地域社会への配慮
ステークホルダーの満足
持続的成長
戦略的 CSR
図4:戦略的 CSR の観点から持続的成長のロジックモデル
5.
まとめと今後の課題
5.1
まとめ
5.1
今後の課題
本研究では製造業の大企業における持続的成長につ
今回の研究ではアパレル業界においては、販売現場
いて調べてきたが、このモデルが中小企業にも適応で
やデザイナーが最新のトレンドを早く読み取り、それ
きるのか。また、他業界においても適応できるかが課
を新製品に反映し、高品質のものを世の中に出すスピ
題である。
ードが大事になってくる。持続的成長をしていくため
には、生産現場の従業員との関係を良好にする必要が
謝辞
ある。また、製品を作る際に品質に大きく関係するサ
本研究を進めるにあたり、学部生時代から三年間、時
プライヤーとの関係も重要となる。
に厳しく、時に親身になりご指導頂いた宮村鐵夫先生
電機・精密業界においては、製品企画・設計の際に
に心より感謝致します。
「技術ばらし」を行うことで、各部門に横串を通し、
情報の共有をする。そうすることで仕事の効率性・製
参考文献
品の品質の向上を図ることができ、製品を安全かつ素
1.宮村鐵夫「品質リスクマネジメントと信頼性」中
早く生産することがきる。また、製品の販売後も CRM
央大学
を行い、顧客の声を聞き真摯に対応していることが持
2.スティーブン・B・ヤング「CSR 経営モラルキャ
続的成長につながっている。それを実現していくため
ピタリズム-グローバル時代の資本主義のあり方-」
には、企業と現場の一人一人の従業員との良好な関係
生産性出版 2005 年
が重要となる。
3.ポール・ミグロム、ジョン・ロバーツ
企業と生産現場における従業員やサプライヤーとの
2009 年
「組織の経済学」NTT 出版 1997 年
関係を良好にすることが、品質・安全性の高い製品を
4.日経テレコン 21
記事検索
顧客に提供することができ、それが顧客満足につなが
http://telecom21.nikkei.co.jp/
り、企業の持続的成長に必要な要因の一つとなること
5.日経 BP
がわかった。
http://bizboard.nikkeibp.co.jp/
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