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オープンデータ戦略における 法制度上の課題 ―著作権・ライセンス 井上 由里子 一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 井上 由里子 一橋大学国際企業戦略研究科教授 専門は知的財産法 文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委 員会委員 国土地理院測量行政懇談会委員 内閣府電子行政オープンデータ実務者会議 ルール・普及ワーキンググループ構成員 オープンデータ流通推進コンソーシアム理事 2 公共データの二次利用を促進するための法制度上の課題 1.国が著作権を有する公共データの権利処理をどうするか? 2.著作物性のない公共データの扱いはどうなるのか? 3.第三者が著作権等の権利を有する公共データの扱いをどうす るか? 4.測量法などの個別法で利用に制約が課されている場合の扱 いは? 5.オープンデータ化により問題が生じた場合の国や自治体の責 任は? これらの問題に配慮した利用規約・ガイドラインを 設ける必要 3 国や自治体が著作権を有する公共データの権利処理は? 公共データの中には、国や自治体が著作権を有するものが ある ► 著作権法上の「著作物」(著作権法2条1項1号):「創作的表現」 ・文章や図・写真、イラストなどの多くは著作物→著作権者に利用の独占権 ・数値データや事実、簡単なグラフや表は非著作物→著作権法上は自由に利用可 (著作権法は無方式主義をとっているので、著作物・非著作物の境目は不明確) ► 国や自治体が作成した著作物の著作権者は国・自治体 著作権法上の「著作者」(2条1項2号):「著作物を創作した者」 著作物性のある公共データで国等が著作権を有する場合、国等から著 作権法上の利用の許諾を得なければ、二次利用が侵害となるおそれ 4 国や自治体のホームページの現状をみると・・・ 著作権の権利制限規定の範囲内での利用に限定、 商用利用不可、改変不可など、様々な制約あり ⇒自由に二次利用できない 府省ホームページの利用規約の例 著作権について 「●●省ホームページ」に掲載されている個々の情報(文字、写真、イラスト等)は 著作権の対象となっています。また、「●●省ホームページ」全体も編集著作物と して著作権の対象となっており、ともに日本国著作権法及び国際条約により保護さ れています。 当ホームページの内容の全部又は一部については、私的使用又は引用等著作権 法上認められた行為として、適宜の方法により出所を明示することにより、引用・転 載複製を行うことが出来ます。 ただし、「無断転載を禁じます」等の注記があるものについては、それに従ってくださ い。 当ホームページの内容の全部又は一部について、●●省に無断で改変を行うこと はできません。商用利用については●●省・・・にご連絡ください。 5 どう考えるべきか? 権利処理のための取引コストがオープンデータ戦略の 阻害要因となる ◆ 他方、公共データは著作権というインセンティブがなくと も創作されるので、国や自治体の作成する公共データ を著作権で保護する正当化根拠なし ◆ 国や自治体の有する著作権の権利処理コストの問題 をどう解決すべきか? 6 課題解決の方向性 課題解決の 方向性 具体的内容と課題 (1)立法による ○ 国や自治体の著作権は著作権法で保護しない旨の著作権法改正をすれば、 二次利用者が権利処理をする必要はなくなる パブリックドメイン (cf.米国連邦著作権法) 化 × 著作権法の改正には長期間の検討が必要 (2)国や自治体 ○ 国や自治体が著作権を有することを前提としつつ、著作権を国や自治体が自 ら放棄すれば、二次利用者は権利処理をする必要がなくなる による著作権放 × 著作権も国や自治体の財産であり、国有財産法、財政法、地方自治法、補助 棄 金等適正化法等との関係において、権利放棄を行うことが適当かどうか検討が 必要 (3)二次利用促 ○ 国や自治体が著作権を有することを前提としつつ、二次利用を広く認めるパブ リック・ライセンスを採用し、個別の交渉なしにオンラインで処理できるようにすれ 進のためのライ ば、(1)と(2)と同等の効果が期待でき、早期の実現が可能 センス採用 出典:2012年データガバナンス委員会報告書 (3)のライセンス採用が現実的選択肢 7 オープンデータ戦略のための理想的なライセンスは? ① ② ③ ④ ⑤ 改変自由 営利・非営利を問わず利用可能 非排他的ライセンス/非差別的条件 原則無償(限界費用) 標準化・相互接続性の確保 ←重ね合わせ・国際的利用 ⑥ 機械判読可能性(メタレベル) (参照:OECD勧告、EU・PSI再使用指令) 8 OECD勧告(2008年)(利用ルールに関するものを抜粋) ■アクセス・二次利用は原則自由 ・データ作成のコストにかかわらず原則自由。制約をかけ る場合には、①国の安全保障、②個人情報・プライバシー、 ③著作権等の私的利益の保護、④情報アクセスに関する諸 法令などの根拠を明示 ■わかりやすい利用ルール 非差別的・競争的な条件/非排他的ライセンス/ 不必要な制限は不可/オンライン・ライセンスの提供 ■二次利用を促進する方向での著作権問題の解決 公共データの著作権問題(政府または第三者が著作権を有 するもの、著作権のない情報など様々)の解決策はいろい ろありうる 9 ・二次利用を促進するような著作権の行使態様(著作権の 放棄、著作権者が放棄を容易になしうるような仕組みの構 築、孤児著作物問題に対応する仕組みの構築等) ・著作権者が同意に基づく利活用推進のための簡便な仕組 み(簡便で効果的ライセンス等) ・政府等の資金提供により作成された情報のオープン化も 促進 ■限界費用を超えない対価が原則 ・無償でない場合には、わかりやすく、かつ、行政機関内 または相互間で整合性のある方法で対価を決定することに より、利活用を促進し、競争環境を確保 ・データの維持・頒布に係る限界費用を超えないのが原則 /デジタル化費用等に係る追加コストを対価に含めるのは 特別な場合 ・上記を上回る対価を設定する場合には、その政策的根拠 を明示 10 ■民業圧迫への配慮や競争上の中立性の確保 ・対価の設定にあたっては、民間の情報提供サービスと競合 する場合の民業圧迫とならないよう対価決定等において配慮 すること・・・特に対象となる情報がほかで入手できないも のである場合は、利活用市場への参入障壁とならないよう非 排他的契約とすること ■情報を提供可能とするための官民協働 ・第三者の情報利用等の権利の増進を阻害することなしに、 民と協働してデータのデジタル化資金を調達する革新的な方 策を見出すなど、公共データを提供可能にするために適切か つ実行可能な官民協働 ■国際的な相互運用性の確保 ■著作権問題解決の方策も含めたベストプラクティスの共有 11 諸外国で採用されているライセンス ライセンス名 ライセンスの概要 Creative Commons License ・クリエイティブ・コモンズが作成しているライセンス。 ・商用・非商用と、改変(再利用)の可否等について、選択肢がある。 ・複数の国(政府)で、出典表示のみを義務付け広く二次利用を認めるCCBYが採用さ れている(オーストラリア、ニュージーランド)。 Open Government Licence ・イギリス・カナダの政府機関のオープンデータに利用されているライセンス。 ・改変可能、営利利用も可能 ・利用条件としては、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのCC-BYに相当する。 Open License (LICENCE OUVERTE) Open Data Commons License ・フランスの政府機関のオープンデータに利用されているライセンス。 ・ライセンスの種類は1つしか無く、利用条件としては、CC-BYに相当する。 ・Open Knowledge Foundationの作成しているライセンス。 ・改変(再利用)を許諾する際に、継承ライセンスか、継承無しのライセンスかを選択で きる。パブリックドメインライセンスも準備している。 ・パリ市やドイツなどが採用。 ・ODC-BYはCC-BY、ODbLはCC-BY-SAに相当する。 【出典】各ライセンスに関する文書をもとにデータガバナンス委員会事務局作成 12 クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは? クリエイティブ・コモンズとは、クリエイティブ・コモンズ・ライセ ンス(CCライセンス)を提供している国際的非営利組織とそ のプロジェクトの総称。 2001年に組織が設立され、2002年にアメリカにおいてVer.1 公開(日本では2004年にVer.1公開) CCライセンスはインターネット時代のための新しい著作権 ルールの普及を目指し、様々な作品の作者が、著作権を保 持したまま、「この条件を守れば私の作品を自由に使って良 い」という意思表示をするためのツールである。 13 クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの特徴 • CCライセンスは三つのレイヤーから構成されている ① ② ③ 法律に詳しくない人でもライセンスの内容がすぐに理解できる簡潔な説明文と して、「コモンズ証」 同じ内容を法律の専門家が読むために法的に記述した「利用許諾」(ライセン ス原文) 検索エンジンが利用するための、作品そのもの(コンテンツ)に付随する説明 的な情報である「メタデータ」 【出典】 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン ウェブサイト( http://creativecommons.jp/licenses/ )参照 14 クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの種類 基本要素 15 クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの種類 イメージ ライセンス名称 要求事項 出典表示 商業利用 表示 2.1 日本 (CC-BY 2.1 Japan) 必須 (タイトル、全ての著 作者、URLを表示) 許可 表示-非営利 2.1 日本 (CC-BY-NC 2.1 Japan) 必須 (タイトル、全ての著 作者、URLを表示) 表示-改変禁止 2.1 日本 (CC-BY-ND 2.1 Japan) 必須 (タイトル、全ての著 作者、URLを表示) 表示-非営利-改変禁止 2.1 日本 (CC-BY-NC-ND 2.1 Japan) 必須 (タイトル、全ての著 作者、URLを表示) 表示-継承 2.1 日本 (CC-BY-SA 2.1 Japan) 表示-非営利-継承 2.1 日本 (CC-NC-SA 2.1 Japan) 改変 オープンデータ戦略 への適合性 改変を許可する(※) 最も利用範囲が広い ので、推奨。 許可しない (改変されたもの の商業利用も許 可しない) 改変を許可する(※) 電子行政オープン データ戦略では、「営 利目的・非営利目的を 問わず」としている。 許可 許可しない 改変(二次利用)を行 うことができない。 許可しない 許可しない 電子行政オープン データ戦略では、「営 利目的・非営利目的を 問わず」としている。 必須 (タイトル、全ての著 作者、URLを表示) 許可 改変を許可するが、改変さ れてできた二次的著作物は、 このライセンスと同一のライ センスを採用すること。(※) 同一ライセンス同士で なくては結合できない ため、利用しづらい。 必須 (タイトル、全ての著 作者、URLを表示) 許可しない (改変されたもの の商業利用も許 可しない) 改変を許可するが、改変さ れてできた二次的著作物は、 このライセンスと同一のライ センスを採用すること。(※) 同一ライセンス同士で なくては結合できない ため、利用しづらい。 ※ 著作者の人格権を侵害する改変は許可しない 【出典】 クリエイティブ・コモンズ・ジャパン ウェブサイト( http://creativecommons.jp/licenses/ )等をもとにデータガバナンス委員会事務局作成 16 オープンデータ戦略に適合的な選択肢は? ① 改変自由 ② 営利・非営利を問わず利用可能 ③ 非排他的ライセンス/非差別的条件 ④ 原則無償(限界費用) ⑤ 互換性・相互接続性の確保←重ね合わせ・国際的利用 ⑥ 機械判読可能性(メタレベル) ・出典表示以外は広く二次利用を許容するCCBYが適合的 ・国際的には、少なくともCCBYとの互換性に配慮する必要 17 著作物性のない公共データの扱いは? クリエイティブ・コモンズは、著作権の権利処理のためのライセンス。 しかし、公共データの多くは著作物性のないデータ 例:気象データ、数値データ、簡単なグラフ・図表等 クリエイティブ・コモンズを採用すると、著作権がない公共データまでも ライセンスでカバーされているかのような外観を呈することに (負のラベリング効果)。 【考えられる対応方法】 ◆著作権の有無を峻別し、著作権のない部分を表示する (参考) 豪やニュージーランドは ”No known rights”と明示。 ⇒著作物性の判定は微妙で仕分けに多くの労力がかかる ◆実質的にCCBYに対応する内容で、著作物性の有無にかかわらず適 用されるライセンス(利用規約)を設ける (参考) イギリス・フランス等の独自ライセンス ※EU諸国では、著作物性の認められないDBでも sui generisのDB権により保護されている 18 第三者が権利を有する情報の扱いは? 公共データの中には、第三者が著作権その他の権利(肖像権、商標 権等)を有するデータが含まれていることがある(例:白書、ホームページ 等) •国や自治体は第三者の権利について勝手に許諾することはできないの で、別途権利処理をしないと、二次利用が権利侵害となるおそれ •他方、公共データを保有する国や自治体も、どの部分に第三者の権利 があるか把握していないことが多い 【考えられる対応方法】 ◆過去のデータについて ・国や自治体が第三者の権利がある部分を把握している場合は、その部分を明示し、利 用者による権利処理を促す注意喚起 ・利用者の責任において第三者の権利を処理すべきことを利用規約に明記 ◆これから作成するデータについて ・第三者の権利の生ずる部分について明確化し、可能であれば予め権利処理 19 ケーススタディの手順(全体像) • 情報通信白書(ウェブ版)を対象に、①CCライセンス(CC-BY)を採用する場合の課題の洗い出し、②第三者の権 利関係の確認等にかかる労力等の調査を目的として、ケーススタディを実施した。 • 情報通信白書(ウェブ版)の全体をチェックし、①著作物性の有無、第三者が権利を有する可能性のある部分等 の要検討箇所の抽出・分類、②第三者の許諾の確認をした上で、③CC-BYが適用されない部分を明示して公開 することを予定している。 情報通信白書 (ウェブ版) 対象 文章 ※作業 手順 チェック基準① (抽出対象外) 出典表記あり(総務省) 図 出典表記あり(総務省以外) 出典表記なし 表/グラフ 写真 出典表記あり(総務省以外) 出典表記なし 統計データ チェック基準② 確認先 A - (確認対象外) B ☆ 総務省内(経済 室または他部 署) C or D ★ A ☆ (抽出対象外) 出典表記あり(総務省) ........ ........ ... ... ........ 権利分類 抽出実施 C or D A 第三者のイラスト・写 真等の利用あり (確認対象外) 第三者のイラスト・写 真等の利用なし (確認対象外) 総務省内(経済 室または他部 署) E ★ 利用規約がないデータ E - ★ ○ 第三者のイラスト・写 真等の利用あり (確認対象外) 第三者のイラスト・写 真等の利用なし (確認対象外) ※作業シートに記載 ★ ★ ○ ○ 第三者による二 次利用が可能 ○ 第三者による二 次利用が不可 ★ (確認対象外) ★ 商用DBを利用しており、その利 用規約が適用されるデータ ○ (確認対象外) ☆ ☆ 最終表記 第三者による二 次利用が不可 (確認対象外) - B 確認結果 第三者による二 次利用が可能 (確認対象外) (確認対象外) ★ ★ ○ ★ 要検討箇所抽出 - ① 要検討箇所の抽出 ・作業手順に則り、該当箇所を抽出・分類。 ③ CC-BYが適用されない部分を明示の 上、公開 ・②の結果に基づき、CC-BYが適用されない部 分を明示し、CC-BYを前提とした利用規約 とともに公開する。 ② 第三者の許諾の確認(各担当) ・①で抽出・分類した要検討箇所について、以下の作業を 行う。 a. 照会先の特定 b. 第三者による二次利用の可否の確認 c. (必要があれば)著作権者等への二次利用許諾依頼 d. 確認結果及び依頼結果の整理 ・作業負荷が大きい場合(特に過去の資料について)、要検 討箇所全てをCC-BY適用外とすることも考えられる。 ※二次利用許諾確認書の送付 ※作業シートに結果を記載 確認結果を 整理 ※「CC-BY」とは、「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス 表示ライセンス」を指す。 出所を表示すれば、商業的な利用を含めて自由に利用ができるという条件のライセンス。 20 個別法の利用制約がある公共データの扱いは? 公共データの中には、個別法により、利用制限が課せられているものが ある(例:測量法、気象業務法) ※地図等の測量成果については、測量法の下で二次利用に承認申請が必要 となることがある 個別法による利用制限のある公共データについては、ライセンス(利用 規約)に定められた条件を守るだけでは足りず、別途、個別法を遵守す る必要がある 【考えられる対応方法】 ◆ライセンス(利用規約)において、関連する個別法を利用者に わかりやすく表示することが望ましい 21 二次利用により問題が生じた場合の国や自治体の責任は? 国や自治体の懸念する二次利用によるリスク 公共データに含まれる第三者の権利の侵害(①) データの誤りによって利用者に損害(②) 利用者の悪意の改竄等(③) 問題が生じた場合に国や自治体の責任が問われるのでは、オー プンデータ化に委縮効果 ⇒国や自治体の懸念を低減する必要 【考えられる対応方法】 第三者の権利についての利用者への注意喚起を十分に(①) 利用規約に無保証条項を入れる(②) 利用規約が利用者による悪意の改竄等を認めるものでないこと の確認規定を置く(③) ※CCとの互換性が維持できるか検討必要 22 これから公共データのオープンデータ化を推進するには? 現在公開されている公共データ 二次利用を広く認めるライセンス(利用規約)をデフォルトに (表面上は二次利用に制約のあるかのような利用規約になってい るが、実際にはオープン化して問題ないものがほとんど) 今は公開されていない公共データ データの性質により二次利用を無制約に認めることが困難なもの も二次利用に一定の制約をかける利用規約も選択できるようにす る必要があるかもしれない → 今後の検討課題 ※ 国や自治体が、漠然としたリスクをおそれて、安易に二次利用を 制約する利用規約を選択することがないよう、具体的で明確な理 由があるものに限るべき 23 ご清聴ありがとうございました。 井上 由里子 一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 [email protected] 24