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重力マイクロレンズによる 太陽系外惑星探索
重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 1 2006 年 6 月 12 日 若手ゼミ発表 重力マイクロレンズによる 太陽系外惑星探索 M1 村主 崇行 目次 はじめに.............................................................................................................................................. 2 太陽系外惑星を探索する目的は?............................................................................................. 2 重力マイクロレンズ現象とは?................................................................................................. 2 このレジュメで扱うことは?..................................................................................................... 2 他の系外惑星探索法と重力マイクロレンズ法の比較............................................................. 3 重力で光が曲がる.............................................................................................................................. 4 レンズ方程式...................................................................................................................................... 6 点レンズの方程式......................................................................................................................... 6 アインシュタイン角と像の位置................................................................................................. 7 複素レンズ方程式......................................................................................................................... 8 二連星のレンズ方程式................................................................................................................. 9 重力レンズによる増光.................................................................................................................... 10 面輝度の保存............................................................................................................................... 10 点レンズの増光........................................................................................................................... 11 光度曲線....................................................................................................................................... 12 複素レンズ方程式と増光........................................................................................................... 13 焦線と臨界線............................................................................................................................... 13 連星レンズの焦線と臨界線....................................................................................................... 14 系外惑星探索.................................................................................................................................... 15 銀河地図....................................................................................................................................... 15 付録―計算結果................................................................................................................................ 16 一般相対論的オイラー・ラグランジュ方程式....................................................................... 16 重力による光の屈折角―積分計算........................................................................................... 17 参考文献............................................................................................................................................ 18 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 2 はじめに 太陽系外惑星を探索する目的は? 「地球は知性の揺籠である。しかし、いつまでも揺籠の中に留まるわけにはいかない」 ―――コンスタンチン・エドゥアルドヴィチ・ツィオルコフスキー 好奇心のためである。地球に誕生したわれら知性は好奇心を持つ。太陽以外の恒星も惑 星を持っているのか知りたい。近所の恒星だけでなく、銀河の中でも太陽から離れたとこ ろにある恒星や、他の銀河の恒星が惑星を持っているか知りたい。太陽系だけが既知の惑 星系だった時代の惑星形成理論は、系外惑星の発見によって大きく揺さぶられた。よその 恒星の惑星事情を知ることで、惑星形成やその前提である恒星の誕生過程を理解するヒン トが手に入るだろう。惑星表面を観察し、宇宙生物学を始めることもできる。 しかし、太陽系外惑星を見つけたところで、人類が恒星間旅行の技術を手にし、惑星に ある利益を活用できるまでにあと何百年かかるか見込みもつかない。系外惑星探索の唯一 の目的は人の興味を満たすこと、探索のための探索なのだろうか。 否。 「鉄腕アトム」に、「ガンダム」に憧れ、2足歩行ロボットを実現した人達がいる。太 陽系外に、地球サイズの、乾いた大地か、海を持つ惑星が発見されれば、それは名づけら れるだろう。「惑星があるかもしれない」というのと「既に発見された惑星がある」とい うのは違う。その惑星の名前が SF の題材、少年の夢となり、以後数百年にわたって科学 者たちの目標となり続けるだろう。系外惑星を発見することは、科学の進歩を励ます上で 効果があり、人類が銀河にむけ旅立つまでの時間を縮めるだろう。 重力マイクロレンズ現象とは? 重力マイクロレンズ現象とは、ある天体(レンズ)が他の天体(光源)の前を横切るとき、 レンズ天体の重力が小さいため、レンズ像の変形や分裂は観測されず、ただ明るさの変化 のみが観測される現象である。 例えば、銀河中心付近にある光源―光源と地球との中点にある太陽質量のレンズ―地球 という、系外惑星探査で典型的な設定の場合、重力レンズによる光源のみかけの移動はせ いぜい数㍉秒角であり、これはハッブル宇宙望遠鏡の分解能~1 秒角よりはるかに小さい。 一方この設定の場合、光源の明るさは、数倍から数千倍まで変化しうる。 レンズ天体(~太陽質量)が、自分から 1 天文単位のところを通過する光を~㍉秒角ほど 曲げただけで、なぜ光源天体の見かけの明るさが何千倍にもなるのだろうか。 そこに、重力レンズ現象が遠距離の天体観測に発揮する威力の秘密が隠されている。 このレジュメで扱うことは? 重力レンズ天体がべつの光源天体の前を横切るあいだ、時間に対し光源天体の明るさを プロットしたグラフを光度曲線という。光度曲線から、重力レンズ天体の構造(単星か連 星か、連星なら 2 星の質量比や距離はどうか)を読み取ることができる。惑星をもつ恒星 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 3 が引き起こす重力レンズの光度曲線にどんな特徴があらわれるか、理解するのが目的であ る。そのためにまず、重力場による光の屈折を計算し、次に重力レンズを写像としてとら える方法について、さらにその写像の倍率を計算する方法について考える。 光度曲線 2005 年 7 月-8 月に観測された マイクロレンズイベント OGLE-2005-BLG-390 における 光源天体の明るさの変化。 ある赤色巨星の前を、惑星を 持った M 型矮星が通過し、重 力レンズ効果により赤色巨星 の像を拡大して明るくした。 矮星の重力による明るさ曲線 の一部に、矮星の惑星による と考えられる小さなピークを 読み取ることができる。 他の系外惑星探索法と重力マイクロレンズ法の比較 太陽系外惑星を探索する方法は複数あるが、重力マイクロレンズに頼る方法は他の方法 にはない利点を持つ。射程の長さである。 M ◎ 程度の恒星が 1AU 程度に惑星を持つ場 合、重力レンズが特に有効なのは恒星までの距離が~10kpc の時である。 重力レンズ法の欠点は、観測者―レンズ―光源が運良く直線上に並んだ時しか使えない ことである。銀河内で惑星が検出できるほどの重力レンズイベントは年に 500 件ほど。同 じ天体を 2 度、重力レンズで観測することは望めない。 他の選択肢の一つは恒星のスペクトルの赤方偏移を観察することである。惑星は恒星の 周りを公転しているので、恒星を前後に揺さぶり、恒星のスペクトルに周期的な赤方・青 方偏移を残す。 さらに他の選択肢として、惑星による恒星蝕を観測することができる。惑星が恒星の手 前を通過すれば恒星の光度がわずかに下がる。 いずれの方法も、赤方偏移の判定基準となる吸収線の位置を正確にもとめるために、あ るいは光度のわずかな変化をとらえるために、大量の光子が必要であり、太陽系に極めて 近い惑星系しか検出できないという欠点を持つ。 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 4 重力で光が曲がる 重力レンズ現象は(光の重力場による)散乱と考えることができる。散乱問題で散乱角を 求めたい場合に、運動方程式を解くより便利な、広く使える方法がある:(i)まずエネルギー と角運動量を粒子の速度 ṙ , ̇ で表す。(ii)すると d / dr=̇ / ṙ が保存量を用いて書ける。 (iii)これを粒子が十分遠くにいるときから最接近距離まで積分すると ∞ ∫r m dr⋅d /dr = 散乱による角度の変化が、 衝突係数 =r m の関数としてわかるというわけだ。 重力レンズにこの技を使おう。重力場(曲がっ た時空)のなかで運動する物体のエネルギーや角 重力による散乱 運動量をどうやって求めればいいのか?一般相対 論的では、ある運動の経路の作用は、その経路に 沿った運動の固有時間に比例している。だから、 計量が分かれば作用が分かり、作用の対称性から 導かれる保存量を計算することができる。(付録 参照) 光線が通過する平面を考え、極座標 t , r , を入れる。質量 M の天体●により、この座標上の 計量はシュワルツシルト計量 −1 質量 M の天体●により、光源☆からの光が曲 げられる。極座標 r , で考える。光線 が天体●に最接近する位置を r m , m と すれば、屈折角は =2 m− MG 2 2 MG c dt − 1−2 2 dr 2 −r 2 d 2 2 rc rc になる。光源天体からの光の測地線を考え、経路に 沿ってアフィンパラメータ をと ds 2= 1−2 る。上記計量は t , によらないので、 2 d ∂ ds ・ d ∂ ̇ d d ∂ ds d ∂ ṫ d = r 2 ̇ ≡ J 2 2 MG 2 c ṫ ≡ A 2 rc は測地線に沿って保存する量である。それぞれ時間並進対称性と回転対称性にまつわる保 ・ = 1− 存量なので、J は角運動量、A はエネルギーに相当する。一般性を失うことなく、パラメー タ を定数倍して A=c 2 となるようにしよう。すると、保存則はこうなる: ・ r 2 ̇=J 2 MG ṫ =1 ・ 1− 2 rc また光の経路に沿って ds / d =0 である(光速で運動する系の時間は止まる)から、 −1 2 MG 2 2 2 MG c ṫ − 1− ṙ 2−r 2 ̇ 2=0 2 2 rc rc ̇ , ṫ に保存則を代入すると、 2 J 2 MG 2 2 ṙ =c − 2 1− 2 r rc 1− 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 5 ṙ と ̇ が r と保存量で表せた。したがって、角運動量 J を持って運動している光が、 天体●への距離を r から dr だけ縮める間に、天体●の周りを d 回転するとすれば、 d ̇ J = = dr ṙ r 2 c − J 1− 2 MG 2 2 r 2 r c2 これを r =∞ .. r m まで積分して ∞ J dr =∞ − m= 2 r m r c − J 1− 2 MG ∫ 2 2 r 2 r c2 この積分を 2 MG /c 2=RSCH ≪ r の近似のもとに実行(付録参照)すると 2GM = になる。したがって、重力レンズによる屈折角は 2 rm c2 4 GM = である。 2 rm c ちなみに、ニュートン力学にもとづき、「光速で運動する古典粒子」が質量 M の天体 2 GM に衝突係数 r m で散乱されるときの屈折角をもとめると上記の半分の値 = が出 2 rmc る。サー・エディントンらによって、1919 年 5 月 29 日の皆既日食 のさい、太陽が引き起 こす光の屈折について、いずれの予言が正しいか検証観測が行われた。 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 6 レンズ方程式 一つの光源からは、重力レンズによって幾つかの像ができることがあるが、一つの像に 対応する光源は一つだけである。重力レンズを、像から光源への写像と考えた場合、これ は一価関数であるが、その逆写像は一般に多価関数であるというわけだ。この写像をレン ズ方程式という。 レンズ方程式は”視線”の方程式だと考えることができる。”視線”は、観測者から八方に 放射され、光線と同じように重力によって曲げられ、その一部は光源に到達する。光源に 到達する視線が多いほど、光源の像は明るくなる。異なる方向に視線の束が、異なる方向 から光源にたどりついたなら、光源の像が複数観測される。 点レンズの方程式 質点によるレンズ方程式は = − E 2 である。ここで E はレンズと光源まで の距離、およびレンズの質量で決まるパラメータで、アインシュタイン角という。 質点による重力レンズ O は観測者、L はレンズ天体、S は 光源天体。L の方向を角度の原点に とる。 S からの光は L によって曲げられ、 実線のコースをたどって O に観測さ れる。 像の見える方向が 、光源の本来 の方向が 、 と のずれ が 、重力レンズによる屈折角 。角度は十分小さい。 が 点レンズの場合、上図のように、視線の通る平面内で考えると、像の方向 も、光源 の方向 も実数であり、レンズ方程式 = は実数関数となる。いま、像と光源の みかけ上のズレは = − = − D LS / D OS である。最接近距離は r m=D OL であるか 4 GM 4 GM = ら、屈折角は = である。こうして質点の重力レンズ方程式 2 2 rm c D OL c D LS 4 GM = − を得る。 DOS DOL c2 4 GM D LS は重力レンズ現象の特徴的な c 2 DOS D OL 角度であり、アインシュタイン角とよばれる。 E を使うとレンズ方程式は 上の方程式に係数として現れる角度 E = E 2 = − と書き直される。 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 7 レンズ方程式はある像がどこの光源のものであるかを表す写像だから、逆写像を求めれ ば、ある光源がどこに像を結ぶかが分かる。いまレンズ方程式は の2次だから、解は 2 ±E 1 2 4 E 2 となり、点レンズは、あらゆる光源に対し2つの像を作ることがわかる。 ± = アインシュタイン角と像の位置 観測者―レンズ―光源が直線上のとき レンズを中心に半径 E の光の輪がで きる(アインシュタインリング) レンズと光源のなす角≪ E のとき 2 つの像は 2 の方向を中心に、 2 E だけ隔たって生じる レンズと光源のなす角≫ E のとき 1つの像は光源 の方向に生じ、もう 一つはレンズのごく近くに生じる。 - - - - - 天球上の方向を複素数で表す レンズ天体(黒丸)、光源天体(ペンタグラム)、像(☆) 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 8 複素レンズ方程式 レンズ天体が質点ではなく、複数の天体だったり、星雲のような質量分布だったりする と、それでも、一つの像ごとに一つの光源が対応することには変わりがない。物体の方向 は2つの角度によって特徴付けられるから、これをひとつの複素数と考え、複雑な質量分 布のレンズ方程式は、複素関数であると捉えるのがよい。このとき、角度はアインシュタ イン半径 E で規格化しておくのがよい。さきほど求めた質点のレンズ方程式をこの形 式で書き直してみよう。 質点レンズの複素レンズ方程式 レンズが複素平面の原点にある場合、光源とその像は絶対値だけが異なり、位相は共通である。 光源の座標を = x y x y 像の座標を z = とし、レンズ方程式をこの z から E E への写像として求めよう。 簡単のため、レンズ天体は複素平面の原点にあるとする。 質点によるレンズ方程式は、 E 2 = − だった。両辺を E で割ると、 = − E E E 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 9 絶対値が 1z 1 , z , E = の置き換えをすると、レンズ方程式を E E 偏角がz z 1 =z − z と書き直せる。 ここで レンズのない場合、視線は恒等写像 =z 的に着弾する。このレンズ方程式は、視線 1 の恒等写像に”屈折力” =− が及ぼされ着弾位置がずれたものと解釈できる。 z するとレンズが複素平面の原点以外の位置にある場合は、屈折力の項を平行移動して、 レンズ方程式は 1 =z − z − z L となることが理解できる。 二連星のレンズ方程式 レンズが2つの質点とみなせる天体からなる場合のレンズ方程式を書こう。2つの質点 の位置を z A , z B とし、質量比を A : B AB =1 とする。アインシュタイン半径は2 4 G M AM B D LS 定める。重力が十分弱いところでは DOS DOL c 2つの天体の重力場は線形に重ね合わせられるので、視線が2つの天体から受ける”屈折 つの天体の合計質量で E = 力”を足し算すれば、レンズ方程式が A − B =z − z − z A z −z B 求まる。 2 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 10 重力レンズによる増光 重力レンズは複数の像を作るが、像同士がどんな望遠鏡でも分解できないほど接近して いることも多い。この場合は、くっついて1つに見える像の明るさの変化が重力レンズ現 象の証拠となる。 じつは、像の面輝度(みかけの立体角あたりの明るさ)は一定である。そこで、重力レン ズによる増光を知りたかったら、重力レンズによる像の拡大率を求めるだけでいい。 面輝度の保存 dE 2 1 dE 1 = dA2 4 dA1 1 d 2= d 1 4 I 2 =I 1 面輝度の保存 片方は他方の2倍だけ光源から離れた2地点で、同じ面積を通過するエネルギーを測定 している様子を考えよう。光源から2倍離れると、エネルギーフラックスは 1/4 になるが、光が 1/4 の 立体角に絞られるため、面輝度は一定である。 ある点で、dt 秒間に、面積 dA にほぼ垂直に、立体角 dΩ 以内を通過する、波数が .. d の光子のエネルギーを dE とするとき、 dE I = dt dA d d を面輝度(surface brightness)という。系が定常的で、宇宙が平坦なら面輝度は保存する。 面輝度が保存することを確かめるには、光を光子の流体と考え、Liouville 定理を使うの がよい。光子の分布関数を dN f x , p ,t = 3 3 dx dp とする。分布関数と面輝度の関係を求めよう。 ・光子ひと粒あたりのエネルギーを考えると、 dE = E dN = ℏ dN =c p dN 。 ・立体角 dΩ 以内を通過する波数が .. d の光子は運動量空間で p 2 dp d の体積を占める。また dp=h / c d ・dt 秒間に、面積 dA をほぼ垂直に通過する光子は位置空間で dA c dt の体積を占める。 したがって、 I dE /c p = f x , p , t = 2 dA c dt p dp d h c p 3 ところで、Liouville の定理より f は経路に沿って一定である( df /dt ≡ v⋅grad f = 0 )。宇 宙膨張を無視すると運動量 p も保存するから、面輝度 I =h c f p3 も保存するといえる。 宇宙膨張が無視できないほど遠くの天体の面輝度を扱うには、光の運動量 p の赤方偏移 を考慮すればいい。光が出発した時点での物理量を添字 S 、観測される時点でのそれを 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 11 で表そう。光源の赤方偏移を z S とすると、 s=1z s o で p=h だから I p s =1 z s po 。 f = は保存するので、輝度は h c p3 I s 1z s o I o o = 3 1 z s 添字 O となる。輝度の分布全体が赤方偏移し、さらに輝度の強さも赤方偏移による減少をうける ことがわかる。 点レンズの増光 点レンズによる増光 像と光源の方向を表すレン ズ平面とソース平面を考え、 円筒座標 , , , を入れる。光は OL を含む 平面を進むので、光源と像 の 座標は共通である。 光源の位置 , に対 して2つの像の位置 ± , が対応する。 点レンズによる増光率を計算しよう。面輝度は保存することが分かったので、像の見か けの大きさが分かればいい。点レンズ方程式を思い出すと 2 ±E 1 2 4 E 2 したがって2つの像の見かけの大きさ(立体角)は、それぞれ d ± d ± ± d 1 22 E 2 = = ± A± = d 0 d d 2 2 2 4 2 E ± = 倍になる。2 つの像の明るさは見かけの大きさに比例し、 A および ∣A−∣ となる。 A− は負なのは、レンズ天体に近いほうの像は反転していることを表している。 系外惑星探索につかわれるような重力レンズ現象では、2 つの像は解像できないほど近 くに生じる。このような場合、像の合計の明るさのみが観測できる。合計の明るさは 22 E 2 A = A A = ∣ −∣ 2 2 4 E である。これは常に1より大きい。 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 12 光度曲線 レンズと光源が見かけの相対運動をしていると、重力レンズによる像の明るさがしだい に変化する。時間に対する明るさのグラフを光度曲線という。 質点レンズの光度曲線を求めてみよう。 移動する質点レンズによる増光 u , u 0, は E で規格化されている。 レンズと光源のみかけの隔たりをアインシュタイン 角度で規格化して u=/ E で表す。 レンズが光源にもっとも接近する時刻を t 0 、そ のときの u を u 0 とする。 また、相対運動の速度は一定とし、レンズが(相対運 動で) E だけ移動するのにかかる時間 t E を時 t−t0 間の規格化に使う。 = は最接近からの経過 tE 時間である。 質点レンズでは 2 つの像ができ、像の合計の明るさはレンズがないときの u 22 A= 2 u u 4 倍になるのだった。また、レンズが等速運動しているとすると u の時間発展は u= u 02 2 だから、 A= となる。 さまざまな衝突パラメータ u 0 に対応する質点レンズの 光度曲線 u 02 22 u 2 0 2 2 2 u 0 4 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 13 複素レンズ方程式と増光 一般の重力レンズの場合に、レンズ写像(像から光源への写像)を知って、重力レンズに よる像の拡大率、したがって増光率を計算する方法を述べる。 ベクトル関数の拡大率はヤコビアン J =det ∂ y1 ∂ x1 ∂ y2 ∂ x1 レンズ写像のヤコビアンと拡大率 ∂ y1 ∂ x2 ∂ y2 ∂ x2 である。複素レンズ写像 z z のヤコビアン は、z と bar z を独立変数と見なして ∂ J z =det ∂ z ∂ ∂z ∂ ∂ z ∂ ∂ z で計算できる。光源に対する像の拡大率は A= J −1 である。 焦線と臨界線 重力レンズの強みである、何千倍もの増光率の原因について語る準備ができた。 J z =0 となる位置zに像ができるとき A= J −1=∞ であり、光源は無限大に明るく ∂ なる。これは J z =det ∂ z のいずれかの微分成分が 0 になっており、 z を変化 ⋱ させても が変化しないこと、つまり視線を移動させても同じものが見えることに対応 している。実際には、光源が有限のひろがりを持つため、光源全体の増光率が発散するこ とはない。 像平面のなかで、無限に明るい像が見えうる点をあつめた曲線を臨界線(critical lines)と いう。また光源平面のなかで、そこに光源があれば無限に明るい像ができるという点をあ つめた曲線を焦線(caustics)という。焦線という呼び名はレンズの焦点に対応している。ガ ラスのレンズに平行光線が入射すると、焦点に光線が集中する。同様に、地球からの”視 線”が集中する点の集合が焦線である。 臨界線は、方程式 {z∣J z =0} で表される。焦線はこれをレンズ写像で光源平面にうつしたもので、方程式 { z ∣ J z=0} で表される。 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 14 連星レンズの焦線と臨界線 z A , z B の位置にある、質量比 A : B AB =1 の天体による重力レンズの方程式は A − B =z − 2連星の臨界線と焦線 z − z A z −z B であった。これのヤコビアンを計算すると ∂ /∂ z ∂/∂ z /∂ z ∂ /∂ z ∂ 2 2 ∂ ∂ = − ∂z ∂ z 2 A B =1− 2 2 z −z A z−z B であり、連星レンズの臨界線の方程式は J z =det ∣ ∣∣ ∣ ∣ { ∣∣ ∣ ∣ } B 2 =1 z − z A2 z −z B 2 となる。これをレンズ方程式でうつすと、焦線の z A 方程式 { =z− A − B z −z A z −z B ∣∣ A z −z A 2 B ∣ } 2 z −z B 2 =1 連星レンズの光度曲線 になる。 地球系からみて、この連星系の奥にある光源 が、焦線上の の位置に来たとき、臨界線上 の対応する z の位置に、明るい像が見えると いうわけだ。 質点レンズの焦線は1点であったのに対し、 連星レンズの焦線は2次元図形なので、連星レ ンズ現象では有限の確率で輝度のピークを観測 することができる。このような光度曲線は、連 星レンズの構成について豊かな情報をもたらす。 もっとも上記の臨界線と焦線の方程式は4次方 程式で、解くのは難しい。 だから あとはデモをごらんあれ 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 15 系外惑星探索 天の川銀河の構造 バルジのサイズ 重力レンズによる系外惑星探索 銀河地図 銀河内の恒星の分布について知り、 惑星が発見できる可能性のあるような 重力レンズイベントは年に何件ほど起 きるか概算してみよう。 地球からバルジを眺めると横幅は 800 pc 程度である。そこで、バルジ と地球の”中ほど”の体積 100 x 400 x 4000 pc 3 にある天体が重力レンズをお こすものとしよう。このような天体は (レンズ天体が全部太陽質量だったら) 40 個 / pc 2 x 400pc x 4000pc = その重力レンズ直径は 2AU = 6×10 7 個ほど存在する。天体一つをとってみると、 3×1013 cm ほどであり、それぞれが 200 km/ s ほどの速 度で運動しているから、年間に 3×1013 cm⋅2×107 cm/ s⋅3×107 s / yr =1×1027 cm2 / yr ほどの 面積を掃く。したがってバルジの中のある点が、1 年間にいずれかの重力レンズのアイン 1×10 27 cm2 / yr⋅6×10 7 個 =10−7 である。バルジの中の シュタイン半径内に入る確率は 41 2 100 pc⋅400 pc=4×10 cm 観測している点は(バルジ天体も全部太陽質量だったら) 1010 個 ほどあるので、年間 1000 件程度の重力レンズイベントが観測できる見積もりが立つ。 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 16 付録―計算結果 一般相対論的オイラー・ラグランジュ方程式 古典力学と対応して 古典解析力学 一般相対論 t 時間 経路に沿ってとった アフィンパラメータ ∫path L dt 作用 ∫path ds 1 2 L= m v V x 2 ラグラジアン ds d d ∂L ∂L = dt ∂ ẋ i ∂ x i E.L.方程式 d ∂ ds ∂ ds = k k ˙ d ∂x d ∂ x d 一般相対論でもオイラー・ラグランジュ方程式 d ∂ ds ∂ ds = k k ˙ d ∂x d ∂ x d が成り立つ。ところで計量からはまず ds 2 が計算できるので、これを ds 2 の方程式に 変えると便利だ。そこで、オイラー・ラグランジュ方程式に、辺々 2 ds/ d をかけて d ∂ ds ds ds ∂ ds =2 ⋅ 2 k d ∂ x˙ d d d ∂ xk d また がアフィンパラメータなら d 2 s /d 2=0 なので、左辺に d 2 s /d 2 を含む項 d ∂ ds ds ∂ ds d ds ds ∂ ds 2 =2 ⋅ 2 k k d ∂ x˙ d d d ∂ xk d ∂ x˙ d d d を勝手に加える。左辺の 微分をまとめると ∂ ds ds ds ∂ ds =2 ⋅ k k d d d ∂x d ∂ ẋ 左右辺で 2 x ẋ= x˙2 を使うと、 ds 2 のオイラー・ラグランジュ方程式 2 d d 2 2 d ∂ ds ∂ ds = k k d ∂ x˙ d ∂x d を得る。とくに、ある座標 x k がサイクリック 2 ∂ ds =0 ∂xk d だったら、 2 d ∂ ds =0 d ∂ x˙k d となる。つまり ∂ ds k ∂ x˙ d 2 は保存量になる。 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 17 重力による散乱 重力による光の屈折角―積分計算 光が、無限遠から天体に最接近するまでに、 天体の周りをまわる角度は ∞ J dr =∞ − m= r m r 2 c − J 1− 2 MG ∫ 2 2 r 2 r c2 であることが分かった。この積分を計算しよう。 質量 M の天体●により、光源☆からの光が曲 げられる。極座標 r , で考える。光線 まず、 r =r m で dr /d =0 になることから、 が天体●に最接近する位置を r , と m m rm すれば、屈折角は =2 − m J= 2 MG 1− r m c2 この J の値を代入し、積分変数を x=r m / r に取り替えると、 1 2 dx ∞ − m= r r m ∞ dr =− r dx 0 1− x 2− 2 MG 1− x 3 rm x 1 0 r m c2 になる。 ∫ ここで、 RSCH =2 MG / c 2 は質量 M の物体のシュワルツシルト半径であり、恒星によ 2 MG るような重力レンズでは光の最接近距離 r m よりずっと小さい。そこで、 a≡ 2 rm c とおき、 a ≪ 1 を利用する。 1 dx ∫0 1−x −a 1−x ∞ − m= 2 3 x=sin とおき、 に変数変換する。 2 0 ∫ = cos d 1−sin 2 −a1−sin3 分母分子を cos で割る。 cos 2 =1−sin2 を使う。 2 d = 0 1−a 1−sin 1−sin ∫ 3 2 a ≪ 1 を利用する。 ∫0 = 2 1 3 a 1−sin 2 1−sin 2 こうして、 = R SCH 2 2 rm 2 d ∫0 1−sin d 3 1−sin 2 − がレンズ天体の質量に比 このことからだけでも、重力レンズによる屈折角 =2 例し、衝突係数に反比例することは分かる。その比例係数を知るには積分を実行すると (三角関数の分数式をすべて積分できる方法がある。) 重力マイクロレンズによる太陽系外惑星探索 18 2 ∫0 1−sin d =2 3 1−sin 2 が分かるので、 = 4 GM 2 rm c を得る。 参考文献 [1] Discovery of a Cool Planet of 5.5 Earth masses through Gravitational Microlensing, J. Beaulieu et al, Vol 439|26 January 2006|doi:10.1038/nature04441 and its citations [2] Gravitational Lensing and Microlensing, Silvia Mollerach and Esteban Roulet 「OGLE-2005-BLG-390 における光源天体の明るさの変化」の図は[1]による。 質点レンズの光度曲線および連星レンズの臨界線、焦線、光度曲線の図は[2]による。 その他の図は筆者の手描きによる。