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第 16 章 平和祈念像の3次元形状計測とFE解析

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第 16 章 平和祈念像の3次元形状計測とFE解析
第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
135
第 16 章
平和祈念像の3次元形状計測とFE解析
16.1
はじめに
本章では,長崎平和祈念像の全体形状を把握するために,3Dレーザスキャナ他を用いた計測を実
施し,今後の補修・補強工事など維持管理の検討のための基礎的資料の収集を行ったものである.
補修・補強手法を検討するためには,管理者・設計者,施工者は補修・補強の計画段階でよりその
精度を高めておく必要があり,最低でもその損傷程度の把握が必要になるが,従来の測量には人手や
足場などの設備に費用,時間がかかっていた.
今回調査に用いた「3Dレーザスキャナ」は,離れた場所から計測できるため,足場が不要になる
ほか,作業時間の短縮,計測忘れなどの人的ミス解消,正確で客観的なデータ取得ができ,いわば(a)
非接触,(b)高精度,(c)高速,(d)全視野計測が可能など,多くの利点を有している.
またコンピュータ周辺機器や画像処理技術の進歩により,当該計測手法は,より使いやすく,信頼
性の高いものとなっている.例えば,取得した3次元データを側面図,平面図,断面図などさまざま
な図面に応用展開することもできる.また取得した3D データを基に,詳細なFEMモデルを生成し計
算力学的な解析と組み合わせて地震応答解析を行うことにより,耐震補強工事時の構造検討を行うこ
とも可能となる.その他当該敷地,仮設計画,耐震補強計画を事前に 3 次元で検討することも可能で
あり関係者間での事前合意形成にも寄与するものと考える.
16.2
16.2.1
3Dレーザースキャンによる実測
3Dレーザースキャナの概要
3Dレーザースキャナは,レーザーによる計測対象物とセンサーの間をレーザパルスが往復する時
間を計測することで距離を計測し,同時にレーザービームを発射した方向を計測することで,計測対
象点の3次元座標を取得するものである.
測定原理は,レーザーが測定対象物で反射して帰ってくるまでの時間から距離を算出し,またレー
ザーの移動方向角度から角度を算出し,この距離・角度情報から3次元位置情報を求めている(図 16.1)
.
3Dレーザスキャナの性能を表 16.1 に示す.また,3Dレーザスキャナで長崎市平和祈念像の計測風
景の写真を図 16.2 に示す.
現在,3Dレーザスキャナは,金型など工業製品の規格検査用には極めて精密な計測が可能な超短
距離計測用から,やや精度の劣る長距離計測用など様々な機器が存在する.これらのうち,文化財計
136
第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
測に有効と考えられる近・中∼長距離計測が可能なタイプの代表的な機器について,その諸元を表 16.2
に示す.現在,一般的に入手可能なこれらの3Dレーザスキャナの代表的な相違点は,①計測距離(数
m∼1000m 程度まで) ②計測精度(数 mm∼数 cm) ③スキャン範囲などである.3Dレーザスキャナ
を使用して計測を行う際には,対象までの距離,対象の規模・大きさ,必要な位置精度などを考慮し,
適切な機器を選択する事が必要である.
図 16.1 3Dレーザースキャナの測定原理
表 16.1
3Dレーザースキャナの性能
ILRIS-3D(オプテック社)
測定範囲
スキャンニング角
10∼350m(350mの反射率4%)
∼800m(800mの反射率20%)
垂直±20°×水平±20°
スキャンニング速度
2000 ポイント/秒
レーザー波長
1540nm(近赤外)
レーザー強度
クラス1
レーザー間隔
0.025°(最高0.0014°)
スポットサイズ
13mm(5m の時)
測定精度
標準±3mm(100m の時)
図 16.2
3Dレーザースキャナによる平和祈念像の形状測定
137
第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
表 16.2 中長距離計測が可能な代表的な 3 次元計測器の種類と緒元
機 種 名
メーカー
イメージ
測定範囲
スキャニング角
/速度
レーザー波長
測定精度
測定温度条件
レーザー強度
本体重量
・サイズ
備
考
用途
16.2.2
ILRIS-3D
optech 社(カナダ)
Cyrex 2500
サイラ社
3∼350m(反射率 4%)
∼800m(反射率 20%)
垂直±20°
×水平±20°
2000 ポイント/秒
1540nm(遠赤外)
標準±3mm
(100m の時)
0∼40°
クラス 1
12kg
312×312X205 ㎜
3D距離画像のほかに
受光強度画像得ること
ができる。 GIS プログ
ラ ム ( 例 え ば
PolyWorks、3D スタジ
オ MAX、Terramodel、
AutoCAD、Isogen)と互
換性。 多角形の出力
(.dxf、.iv、.obj、VRML
フォーマット)が可能で
ある
文化財/土木一般/橋梁な
どの維持管理
最大 100m(最適距離 1.5
m∼50m)
垂直 40°×水平 40°最大
1000 ポイント/秒
LMS−Z210
リーグル社(ライカ)
2∼350m
(反射率 50%)
[ラインスキャン方向]
80° 1∼36 スキャン/
秒:20000Hz
532nm(青色)
905nm(近赤外)
空間単独点6㎜
標準±2.5 ㎝
(50m 以内)
最悪±10 ㎝
0∼40°
0∼40°
クラス 2
クラス 1
20.5kg
13kg
L15.8×W13.25×H16.9
435×210 ㎜
スキャニング密度を垂直 広角度で対象物をスキャ
及び水平方向それぞれに ニングし、距離や角度位
独自に設定可能。CGP 置(鉛直・水平の両軸)
ソフトウェアが内蔵さ を計測。3D距離画像の
れ、3Dモデル、点群、 ほかに受光強度画像、及
ワイヤメッシュ、シュリ び RGB も得ることがで
ンクラップ面のズームや きる。受光強度画像から
パンも自在で、自由回 地形の起伏や対象物の材
転・移動が操作中も可能。 質差などを読み取ること
が可能。
プラント、文化財他
土木一般(のり面他やや
精度が問題か?)
iQsun880
iQvolution
50cm? 76m
垂直 320°×水平 360°
120,000/秒
785nm(近赤外)
3mm/10m
0∼50°
クラス 3R/3A
13kg
w400×d160×h280mm
近距離、特に建築物の内
部を高速で計測。パルス
方式でなく、1 パルス 3
サイン波フェイスシフト
方式を採用し、1周4分
という速さ、かつ±3mm
(10m)という誤差内で
計測。陳腐化しないよう
に 4 つのパーツで拡張性
大
プラント、建物の中のよ
うなクローズドの空間を
計測
現場計測から3Dレーザ計測データ活用の流れ
3Dレーザスキャナを用いた現場計測によって得られるによる3D形状データの活用法のフローは
図 16.3 に示すように,以下のようにまとめられる.
①
3Dレーザによる現場計測
土木構造物や建築物などの計測対象物にデータ合成用ターゲットを設置し(平和祈念像などの
ように特徴点がある場合は省略可能),3Dレーザスキャナにより複数箇所から3次元計測を実
施する.このとき,計測対象物の外観計測には長距離型(Optech 社 ILRIS-3D)
,室内計測には近
距離型(IQvolution 社 IQSun)の3Dレーザスキャナを使用する.従来の方法では 10 日程度か
かっていた計測作業が1∼3日程度の現場作業で終了することができる.
②
取得データの合成
外観計測,室内計測とも,現場において複数箇所から取得した3次元計測データを合成し,対象
計測物の3Dモデルを構築する.
138
③
第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
データの解析と活用
➁で合成した3Dモデルは,計測対象物をありのままに再現するCGモデルである.移動回転,
拡大縮小など任意に操作することが可能で,さらに2点間の距離を計測したり,任意断面を抽出
したりすることができる.3Dモデルの活用事例として,実測図面の作成,リニューアルの検討,
足場などの仮設物の検討,耐震補強の検討などが行われている.
長崎平和記念像
(基準点の設置)
3D レーザ計測(ILRIS-3D)
デジタル写真測量
現地調査
取得データの解析・処理
オルソ画像の作成
構成部材の形状・数量
損傷状況
その他痕跡など
現場作業
室内作業
点群データ
3DCG モデルの作成
面データ
(コンター図)
トレース図化
任意断面図
CAD 図
①側面図の作製
②平面図の作製
③破損図の作製
④全体平面図の作製
(高所の寸法形状抽出)
(亀裂他の抽出)
(周辺敷地形状の取得)
各項目毎に抽出が可能であったものを整理しまとめる.
側面図,断面図等の作製 写真合成図の作製
調査結果のまとめ
3Dデジタル情報
の活用
「補強工事」に向けた事前情報
補強工法検討その他
図 16.3 現場計測から3Dレーザ計測データ活用の流れ
第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
16.3
139
計測データ処理ソフトウェア(RapidForm)
本研究においては,3次元計測データの処理法として RapidForm2004(INUS Technology,Inc.)を導
入した.以下に RapidForm2004 の概要を示す.
16.3.1
特徴
RapidForm(ラピッドフォーム)は 3 次元スキャナでデジタイズした形状データを活用するためのソ
フトウエアである.主に2つの機能を有しており,3 次元測定データ活用ソフトのデファクトスタンダ
ードとなっており,以下のような特徴を有している.
„ 形状評価機能(インスペクション)
• CAD データと測定データを重ね合わせ
• 形状の違いを色表示にて分かりやすく評価
• 評価結果をレポート出力(PDF や Excel など)可能
„ データ変換機能(リバースエンジニアリング)
• 測定データを変換し,CAD,解析,NC 加工へ
• 点群データのノイズ除去やデータ欠損部分の補完など多彩な編集機能
• 点群,ポリゴン,NURBS サーフェスの相互変換可能
„ 2 通りの活用が 1 本のソフトで可能
RapidForm は上記の形状比較とデータ変換の 2 通りの活用が 1 本のソフトで可能である. 3
次元データの取り込み,データ変換等,3 次元での形状評価に最適である.
16.3.2
機能
RapidForm の豊富な機能はワークベンチ(WB)という概念でカテゴリー分けられており,作業工程に
応じて分けられた WB は以下のような操作性を提供している.
表 16.3 RapidForm の機能
Scan WB
点群を処理する WB.ノイズ除去やポリゴン化などの機能がある
Polygon WB
ポリゴン処理.穴埋め,ポリゴンの効率化,ポリゴン再配置など.データに厚み付
けも行える.
Color WB
テクスチャデータの 3 次元的な張り込み,バーチャルペイントなど色情報の取り扱
いをサポート.
Curve WB
NURBS カーブを作成する WB.カーブ作成方法は自由曲線やスライスなど多数.
Surface WB
NURBS 面に変換する WB.自動と手動の面張りが可能でトリムドサーフェスもサポー
ト.
Feature WB
測定データから幾何形状を認識して面貼り作業を強力にアシストする.またソリッ
ドデータへの変換をおこない,フィレット面の作成なども可能.
Inspection
測定点群データと設計 CAD データを比較検討する WB.色による全体評価,断面評価,
WB
レポート出力などサポート.
3D Imaging WB
CT スキャナの DICOM データをポリゴンデータへ変換する WB.
140
16.3.3
第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
ワークフロー例
図 16.4 に RapidForm2004 のワークフローの例を示す.
図 16.4 RapidForm の入出力可能ファイル
16.3.4
動作環境
表 16.5 RapidForm の動作環境
OS:
Windows 98, Me, 2000, XP or NT 4.0(SP6 以上)
CPU:
Pentium プロセッサ
メモリ:
最低 512MB,1GB 以上推奨
※メモリは操作するデータ量に依存.
※10000 ポリゴンごとに 1MB のメモリを占有(演算にはその倍程度必要).
※例:500 万ポリゴンのデータは 500MB のメモリを占有し,演算時は 1.5GB.
HDD:
最低 800MB,1GB 以上推奨
グラフィックス
解像度 1280X1024,32bit カラー,OpenGL1.2 以上対応グラフィックスカード
カード:
推奨は下記の OpenGL アクセラレータチップ搭載ボード
- NVIDIA Quadro/GeForce シリーズ
- 3Dlabs Oxygen GVX1 シリーズ
- ATI
FireGL シリーズ
- 3Dlabs Wildcat シリーズ
※最新のドライバでの使用が望ましい.
パラレルポート: ドングル版の場合はパラレルポート(DB25)必須
第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
16.3.5
141
パッケージ内容
RapidForm は,目的に応じたワークベンチ(WB)を選ぶことができ,必要な機能だけ購入可能である
(RapidForm の機能参照)
.一般的な使用目的に合わせて WB を組み合わせ,価格的にメリットを持た
せた「パック」も用意されている.
表 16.6 RapidForm のパッケージ
1
スキャン・パック
(点群をポリゴンに変換,複数スキャンの合成など)
2
カラー・パック
(スキャン・パックにテクスチャカラーの機能を追加)
3
リバースエンジニアリング・パック
(ポリゴンデータを NURBS カーブ,サーフェスに変換)
4
アドバンスド・リバースエンジニアリング・パック
(点群データからの変換,幾何形状の認識機能など追加)
5
インスペクション・パック
(CAD データとスキャンデータの形状比較,レポート出力機能)
6
アドバンスド・インスペクション・パック
(インスペクション・パックに各種変換機能も追加)
7
3D イメージ・パック
(CT スキャンなどで取得した DICOM データをポリゴンに変換,修正)
8
アドバンスド・3D イメージ・パック
(3D イメージ・パックに,NURBS カーブ,サーフェス変換機能を追加)
9
プレミアム・パック
(RapidForm の全機能を詰め込んだパッケージ)
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第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
❑
RapidForm が使用可能なデータ形式
第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
16.4
16.4.1
3D計測データの処理およびFEメッシュの作成
点群データの作成
平和祈念像を図 16.5 に示すように 8 方向から計測し,対象物の 3 次元計測データを取得する.
計測時の写真風景および得られた点群データを図 16.6 に示す.
図 16.5 計測位置
計測風景①
計測風景②
点群データ①
点群データ②
図 16.6 計測風景および点群データ
143
144
16.4.2
第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
表面 3 次元点群データの作成(点群データの合成)
得られた 8 つの点群データを重ね合わせ,合成することにより,平和祈念像全体の表面 3 次元点群デ
ータを得る.
得られた点群データの近い点同士を結び三角形(ワイヤフレーム)を作る.この三角形に面を貼るこ
とにより3Dモデル(サーフェイス)を作り上げる.
点
群
ワイヤーフレーム
サーフェイス
図 16.7 点群データから3Dモデル作成の流れ
第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
図 16.8 3次元表示
145
146
16.4.3
第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
3次元サーフェイスデータから FE メッシュの作成
3D計測データを元に3Dサーフェイス情報を作成し,そのデータを汎用有限要素コード Marc に取
り込んだ.レーザスキャナーで得られるデータのファイル形式は.XYZ であり,RapidForm で作成される
データのファイル形式は.STL である.Marc のプレポスト Mentat 環境で.STL ファイルを読み込んだも
のが図 16.9 である.メッシュ数は,(a)が 649,229 要素,(b)が 53,425 要素,(c)が 14,638 要素である.
線形解析に対しては(a)程度の要素数でも比較的短時間に解析可能であるが,地震応答解析などの動的
非線形解析を想定すると要素数は可能な限り少ない方が望ましい.(a)から(c)への変換は Mentat の
SWEEP 機能を用いて自動分割される.
(a)
(b)
649,229 要素
(c)
14,638 要素
図 16.9 FE メッシュ分割図
53,425 要素
第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
16.4.4
147
FE解析
図 16.9 の(c)の 14,638 要素のメッシュ分割を用いて解析を行った.境界条件は下端部を完全固定と
し,平和祈念像の右腕先端に集中荷重Pを載荷した.解析結果を図 16.10 に示す.(a)図は変位分布で,
(b)は x 方向応力σx 分布である.
(a)
(b)
x 方向変位分布
応力分布σx
図 16.10 FE 解析結果
148
第 16 章 平和祈念像の3次元計測とFE解析
16.5
まとめ
大型建設構造物を想定して平和祈念像の3次元計測を実施した.得られた結果は以下のようにまとめ
られる.
(1)
長距離用のレーザスキャナを用いて高精度の3D計測が行われることが確認できた.
(2)
RapidForm を用いることにより,点群データからポリゴン分割,サーフェイス分割が容易に行え
ることが確認できた.
(3)
MARC のプリポストである Mentat 機能を用いることにより,FE メッシュ分割として利用できるこ
とが確認できた.
(4)
FE 解析を適当な時間で行うためには,最適な要素分割が必要であるが,SWEEP 機能を用いること
により最適メッシュ分割要素を得ることができる.
(5)
平和祈念像のFE解析は静的弾性解析しか行っていないが,ここまでできると動的荷重をも含め
て任意荷重を取り扱うことができるので,この方面の発展には計り知れない活用法があるものと
考える.
(6)
本研究では,平和祈念像を対象として,3D計測から,3Dデジタル化,3DFE解析の一連の
システムが簡単に構築できることを確認できた.この手法は,次章の医学や歯学の生体力学分野
においても有効活用ができるものと考える.
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