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“e-Volving Telephony”コンセプトによるVoIPルータ:LR-Vシリーズ
特 集 “e-Volving Telephony” コンセプトによる VoIPルータ:LR-Vシリーズ VoIP Router: LR-V Series Based on e-Volving Telephony Concept あらまし 富士通では,音声・データ統合ソリューションとして“e-Volving Telephony”コンセ プトを提案している。本コンセプトに基づき,音声をLAN/WAN IPネットワーク上に 取り込むためのVoIPルータとしてLR-Vシリーズを開発した。さらに,ゲートキーパソ フトウェアNetEyemanager/VoIPの開発により,LAN/WANネットワーク上での内線電 話網構築も可能とした。 LR-Vシリーズはルータ機能,音声/データ変換機能,および電話番号/IPアドレス変換 機能をコンパクトに一体化している。LR-Vシリーズは,LR-V対向による2地点間の音 声・データ共通回線接続から,LR-Xシリーズ (ルータ) と組み合わせたLAN上のVoIPネッ トワークを複数WAN結合した音声・データ統合IPネットワーク網構築まで,低コスト で最適なVoIPソリューションを提供する。 Abstract Fujitsu has proposed the e-Volving Telephony concept as a voice/data integration solution. Based on this concept, Fujitsu has developed the LR-V series of VoIP routers, which fetch voice data over a LAN/WAN. Fujitsu has also developed the NetEyemanager/VoIP gatekeeper software to enable construction of an extension station network over a LAN/WAN. The LR-V series provides a compact set of router functions, voice/data conversion functions, and telephone number/IP address conversion functions. It provides inexpensive and optimum solutions ranging from the connection of a voice/data common line between two points in combination with LR-V to the construction of a voice/data integrated IP network in which multiple VoIP networks are WAN-connected over a LAN combined with LR-X series routers. This paper describes the deployment of the IP Voice Solution and describes our VoIP products and their core technologies. 荻野憲一(おぎの けんいち) (株)PFUネットワーク事業部システ ム技術部 所属 現在,LR-Vシリーズの製品化に従事。 FUJITSU.51, 6, p.373-377 (11,2000) 西山正顕(にしやま まさあき) 井上義章(いのうえ よしあき) 第二ネットワーク事業部 所属 現在,ネットワーク・セキュリティ 機器の製品化に従事。 第二ネットワーク事業部第三ビジネ ス推進部 所属 現在,VoIPルータの製品化に従事。 373 “e-Volving Telephony” コンセプトによるVoIPルータ:LR-Vシリーズ ○○○○○○○ LR-Vシリーズを利用すれば,VoIPによる音声・データ ま え が き 統合によって音声回線とデータ通信回線との一元化を簡 インターネット時代(IP時代)の音声・データ統合市場 単に行うことができる(図-2)。 の立上がりに向け,富士通の音声・データ統合コンセプ VoIP技術のアイデアは5年以上前からあり,音声・ ト“e-Volving Telephony” (electronic Age VoIP Optimum データ統合によるメリットがあることは分かっていなが Lower TCO Value ing)に基づいて,LAN/WANネット ら,技術的問題からこれまで企業ユーザでの採用は少な ワーク上にVoIP(Voice over Internet Protocol)による音 かった。LR-Vシリーズにおいては,以下に示すように各 声・データ統合を簡単かつ低コストで実現するための, 種の技術的問題を解決していくことにより,企業ユーザ VoIPルータLR-Vシリーズとゲートキーパソフトウェア にも安心して利用いただける製品が開発できた。 NetEyemanager/VoIPを開発した。 ● 音切れの防止 ○○○○○○○ 本稿ではこれらの製品開発における課題とその解決策を 音声品質の確保には,音声を途切れることなく処理す 紹介し,製品で実現した特徴的な機能について紹介する。 るリアルタイム性能が必須である。VoIPルータとして, 例えば電話機4台とINSアナログ入力とを同時接続するに 開発のポイント は,送話・受話各5チャネル,計10チャネルの音声デー LR-VシリーズはLAN/WANとの接続を行うルータ機 タ処理,およびLAN/WANルーティング処理が必要とな 能,音声をIPデータに変換するVoIP機能,および電話番 る。音切れを防ぐだけのリアルタイム性能を確保するた 号とIPアドレスとの変換を行うゲートキーパ機能をコン めに,LR-Vシリーズでは,複数ブロックの連続転送によ パクトに一体化している(図-1)。 る単位時間あたりの処理性能向上,高速CPUとVoIP用 DSPの採用,PCM Highwayの採用による音声データ交換 の一元管理とCPUオーバヘッド抑制とを行った。さら に,各ドライバ,OSおよび各種プロトコル制御処理の調 整により音切れを防ぐに十分なリアルタイム性能を得た。 ● 音声データ遅延の抑制 音声データの遅延は,それ自身が音声品質に影響する ほかに音切れの原因ともなる。音声データの遅延を防ぐ ために,音切れ対策で行ったリアルタイム性能を確保す るとともに,バッファ機構を追加し,欠落データに対応 図-1 LR-Vシリーズ外観 Fig.1-LR-V series router. 一般公衆網 サーバ,端末 SHシリーズ 内線通話 LR-Xシリーズ IPネットワーク NetEyemanager/VoIP LR-V1150T 拠点 LR-X シリーズ LR-V1150D PBX 一般公衆網 拠点 INS アナログ 一般公衆網 LR-V1150T 拠点 図-2 LR-VシリーズによるVoIPネットワークソリューション Fig.2-VoIP network solution with LR-V router. 374 FUJITSU.51, 6, (11,2000) “e-Volving Telephony” コンセプトによるVoIPルータ:LR-Vシリーズ ● VoIP機能,電話機能 した。 ● FAX対応 【音声・FAX信号とVoIPの相互データ変換】 従来のVoIP装置では,FAXを使用する場合の制限が多 既存の内線電話網の電話機・FAXからVoIP端末との通 く,VoIPの普及を妨げる要因となっていた。LR-Vシリー 話・FAX通信が可能である。内線電話,ISDN回線網から ズの開発においては,FAX通信における技術課題に対し の外線電話・FAXなどの音声・FAX信号をVoIPデータに 以下の対策を行うことにより,FAX使用時の制限を大幅 相互変換する音声・FAXゲートウェイ機能を備えてい に少なくした。 る。また,転送機能および保留機能もサポートしている。 【VoIP通信固有の問題】 【ゲートキーパ機能】 VoIP通信では,従来のFAX通信では考慮されていな 電話番号からIPアドレスへの変換テーブルを管理し, かったバースト的な遅延やパケットロストが発生し, 問合せに応答する。PBXで構築した内線電話網と同様の FAX通信エラーの原因となる。LR-Vシリーズでは,FAX 内線通話・FAX通信が可能になる。 装置との間でプロトコル上の問題を吸収することによ 【簡易ボタン電話機能(LR-V1150Tのみ)】 り,遅延や伝送エラーを回避している。例えばG3FAXで ダイヤルイン,FAX無鳴動着信,発信規制,内線通 は,ネゴシエーションフェーズにおいてバースト的な遅 話・転送,発着信記録などの機能を搭載しており,アナロ 延や伝送エラーが発生した場合,プロトコルフレーム再 グポートに直接収容された電話機・FAXでPBX・ボタン電 送処理でもリカバリできない。これに対し,LR-Vシリー 話装置がなくても簡易なボタン電話機能が利用できる。 ズでは,プロトコルフレーム通信時はG3FAXの転送レー ● ルータ機能 トが低いことを利用し,プロトコルフレーム転送中のフ 【充実した回線接続機能】 レームデータの冗長化により,FAX通信エラーを防止し 複数の拠点間をLAN-WAN-LAN接続するためのIPルー ている。 タ機能を備えている。回線インタフェースは,Iインタ 【FAX通信の伝送帯域の圧縮】 フェースを1本備え,ISDN,専用線,フレームリレー回 従来のVoIP通信ではFAX通信が占有する帯域は音声が 線をサポートしている。ISDNのBチャネル2本を束ねて 使用する帯域に比べて大きく,中継回線に音声用の帯域 回線の帯域幅を広げる「マルチリンクPPP(Point to Point を確保しただけでは,FAX通信の際に帯域が不足しがち Protocol) 機能」もサポートしている。また,「アドレス変 であった。LR-VシリーズではFAXデータ送信時のパケッ 換機能 (マルチNAT ) 」 をサポートしており,各種プロバイ トのブロック化により,フレームヘッダ分の帯域を減ら ダによるダイヤルアップ接続サービスや専用線接続サー し,FAXデータの効率良い伝送を可能とした。この結 ビスによるインターネット接続も可能である。 果,例えば9,600 bpsでのFAX通信時でも,占有帯域は 1,967バイト/秒に抑えることができた。これにより音声 ○○○○○○○ (1) 【ブラウザを使って簡単に設定】 設定はすべてWWWブラウザを使ってメニュー形式で CODECとしてG.729A を使用した場合の音声帯域(2,100 行う。このため,コマンド入力などの難しい操作は不要 バイト/秒)でもFAX通信が可能となる。 であり,パソコンの機種やOSが違っていても設定手順は LR-V シリーズ 変わらない。 【簡単にLANを構築】 LR-Vシリーズは,VoIP機能を備えたIPルータである。 これまでLANを構築する場合,アドレス割当ての設定 LAN-WANネットワーク接続のためのルータ機能に加え, など,面倒な設定が必要だった。LR-Vでは,「アドレス VoIPゲートウェイ機能,ゲートキーパ機能を搭載したコ 自動割当て機能(DHCPサーバ機能)」をサポートしてお ンパクトなオールインワン装置である。LR-V1150Dは, り,LAN構築も簡単である。 OD (Out-band Data) トランクを4ポート備えており,PBX 【利用状況のチェックが簡単】 やボタン電話と連携して既存の内線電話網と接続しVoIP ISDN回線の課金情報を始めとする各種情報を,WWW による音声・FAX通信が可能となる。LR-V1150Tは,アナ ブラウザの画面でチェックできる。通信エラーの原因や ログポートに4台の電話機・FAXを直接収容することが 回線使用料などの管理も簡単である。 でき,ISDN回線と組み合わせるだけで簡易なボタン電話 システムを構築できる。 以下,LR-Vシリーズの特徴的な機能について述べる。 FUJITSU.51, 6, (11,2000) ○○○○○○○ NetEyemanager/VoIP NetEyemanager/VoIPは,VoIPソリューションを提供 375 “e-Volving Telephony” コンセプトによるVoIPルータ:LR-Vシリーズ する製品群の一つであり,ゲートキーパ機能を提供する VoIPを各拠点に配置することで,自ゾーン内の端末には ソフトウェアである。ゲートキーパ機能とは,IPネット 内線番号だけで発信し,またほかのゾーンの端末には ワークにおいて必要な情報であるIPアドレスと,従来電 ゾーン番号と内線番号で発信というように電話番号体系 話網で提供してきた最も簡易なインタフェースである電 を柔軟に設計することができる。 話番号などの情報の関連付けを管理する機能である。従 【代表電話機能】 来から慣れ親しんだ電話番号をダイヤルするという操作 複数の電話をグループ単位に管理する。通話先の電話 をそのままに,VoIPという先端技術を利用することがで が話し中の場合,グループ内のほかの電話に転送できる きるようになる。NetEyemanager/VoIPは,基本的な ようになる。また,グループ内のすべての電話が話し中の ゲートキーパ機能のほかに独自の拡張機能を提供し, 場合,ほかのグループの電話に転送することができる。 VoIPによる内線網の実現を支援する。また,複数のLR-V 【短縮・特定番号機能】 シリーズをまとめて管理し,最大2,000通話までの大規模 特別な番号を,あらかじめ決めておいた電話機に設定 なネットワークに対応できる。 することができる。また,短縮番号で電話をかけること 以下,NetEyemanager/VoIPの特徴的な機能について ができる。 ○○○○○○○ 述べる。 適 用 事 例 【IPアドレス検索機能】 電話番号などの情報から,IPアドレスを検索する機能 グローバルな企業への体質強化が続く銀行業界では, である。ゲートキーパの基本的な機能であり,この機能 再編の動きが加速しており,より効率的な経営が求めら により通話先のIPアドレスを特定し通話ができるように れている。このような中,A行殿では,ITによる経営の効 なる。 率化を目指し,社内ネットワークの更新に着手した。こ のシステムでは,国内で最大規模のVoIPによるデータ・ 【ゾーン管理機能】 NetEyemanager/VoIPは,自分の管理できる端末を 音声統合ネットワークを実現する (図-3)。VoIPシステム ゾーンという単位で管理する。複数のNetEyemanager/ 導入に当たり,電話網は企業における重要なインフラで 電話 LR-V1150D ×6 PBX NetEyemanager/VoIP クラスタ構成 PRIMERGY ×2 コンピュータ センタ 富士通VoIP製品 ODT 24チャネル 本店 LR-X7050 ×6 PC ホスト LR-X7050 DA1.5 M ×2 電話 32チャネル DA1.5 M × 3 営業店 PBX ODT (DA64 kまたはDA128 k)× 営業店数 営業店 LR-V1150D ×8 ISDN 64 PC 営業店 LR-X2050 LR-V1150D × 19 LR-X7050 LR-V1150T 事務センタ PBX 電話 電話 ODT 76チャネル PC PC 図-3 VoIPネットワークシステム構築例 Fig.3-Example of VoIP network solution. 376 FUJITSU.51, 6, (11,2000) “e-Volving Telephony” コンセプトによるVoIPルータ:LR-Vシリーズ あり,システムの停止は即営業活動への影響が大きいた め,高い信頼性が求められる。そのため,今回のシステ ○○○○○○○ む す び ムでは,電話網の核となるN e t E y e m a n a g e r / V o I P は LR-VシリーズとNetEyemanager/VoIPの開発により, SafeCluster運用によるPRIMERGY ×2台のホットスタン LAN/WANネットワーク上に各種の規模のVoIPシステム バイ構成で構築し,高い信頼性を持つシステムを実現し 構築が可能となり,音声・データ統合を簡単かつ低コス ている。現在,百数十店舗の営業店すべてにLR-V1150T/ トで実現できるようになった。VoIP技術をベースとした Dを,また本店や事務センタなどの拠点にはPBXに接続さ ビジネスの今後の拡大に向け,さらに高品位な製品を れるLR-V1150Dを導入し,これらをNetEyemanager/VoIP ユーザに提供し,情報化社会の拡大と浸透に積極的に取 で管理することにより,内線番号体系に店番号を組み込 り組んでいく。 んだ代表電話番号など既存電話の運用性を損なうことな くVoIPシステムによる内線電話網での通信コスト削減を 実現した。 参考文献 (1) ITU-T Recommendations H.323. Packet-based multimedia communications systems. FUJITSU.51, 6, (11,2000) 377