...

研究者は 困って いる!?

by user

on
Category: Documents
53

views

Report

Comments

Transcript

研究者は 困って いる!?
Topics
01
Topics
02
バイオインフォマティクスの挑戦
DNAの3次元構造がDNAの変異に相関することを解明
おっちゃんが教室に 来た!
理科支援員等配置事業“特別講師”
の実施事例から
Close up
研究者は
科学技術総合
困って リンクセンター
いる!? “J-GLOBAL”
β版の
サービス開始
Vol.6
No. 1
2009
April
4
月号
Vol.6
No. 1
2009
April
4
月号
Contents
科学技術振興機構の最近のニュースから……
JST Front Line
03
Close up
科学技術総合リンクセンター「J-GLOBAL」β版のサービス開始
研究者は困っている!?
06
インターネットを通じて科学技術情報をつなぎ、研究者や技術者、企業の発想を支援する
新しいサービス「J-GLOBAL(科学技術総合リンクセンター)」試行版のサービスがスタートした。
その背景には、科学技術情報に関する日本の現在の状況への危機感がある。
Topics 01
DNAの3次元構造がDNAの変異に相関することを解明
10
バイオインフォマティクスの挑戦
Topics 02
12
理科支援員等配置事業「特別講師」の実施事例から
おっちゃんが教室に来た! ようこそ、私の研究室へ
ヘンシュ貴雄
理化学研究所 脳科学総合研究センター 臨界期機構研究グループディレクター
14
理科の先生がオススメする 私のイチ押しデジタル教材
16
身近な自然世界 里山を知ろう
先端の「科学」と「技術」を体験し理解できる場所―日本科学未来館。
vol.01
ロボット感覚系(味覚)コース
対話と実験を通じて先端科学技術への理解を深める「日本科学未来館 実験工房」。
子どもから大人まで、全員が考え・理解できる参加型のプログラムを紹介。
「 味を感じるロボットを作ろう!」
あまい・しょっぱい――。これは、人の舌にあ
参加者の舌にはややブレがあったようだ。人で
る味細胞が受容したものを脳が判断をして生じ
はわかりにくい微妙な数値を判別できる味覚ロ
る感覚だ。人の味覚は主観的なものだから、味
ボットのすごさを実感できるコースだ。
に基準を設けるのは難しいと言われていた。し
これは、九州大学のシステム情報科学研究
かし、人の舌をまねた「味覚センサ」の誕生に
院が味のデータ化に成功した画期的なセンサで、
より、味の数値化が現実となったのだ。
そんな最 先 端の味 覚センサを使っ
本日のプログラム
て実験できるのが、実験工房の『ロボ
ット感覚系(味覚)コース』。味覚セン
「感じる」
しくみについてのお話
味覚センサを作る
センサをロボットに搭載する
作ったロボットで実験する
サを通じ、
「感じる」
「測定する」とはど
ういうことなのかを学ぶのがテーマで
ある。小 学4年 生 以 上の参 加 者が集
まり、簡 易 型 味 覚 セン サを作 製し、教 育 用
すでに製品化もされている。個人の主観に頼ら
LEGO「マインドストームNXT」を組み立て、動
ずに、応答特性が一定にできるので、食品の均
かしてみる。微妙な塩味の違いを検出し、人対
一な品 質 管 理や苦くない薬の製 剤 開 発など、
ロボットで味覚を競い合うプログラムだ。
幅広い分野で活躍が期待されている。
ロボットの動作を確認したら、
いざ味覚対決 ――。
また、料亭の味やおふくろの味などが再現で
4種類の食塩水をロボットは完璧に判断できたが、
きることも、ユニークな特徴だ。
編集長:木村 美実子(JST)
/編集・制作:株式会社トライベッカ/デザイン:中井俊明/印刷:株式会社テンプリント
http://www.miraikan.jst.go.jp/event/school/
4
科学技術振興機構(JST)の 最近のニュースから……
2009
月号
今月も、科学技術の各分野の新しい研究成果や新コンテンツなどをご紹介していきます。
まずは画期的ながん治療につながる新たなプロジェクトのニュースから。
NEWS
01
研究加速課題
「iPS細胞」と「鉄系高温超伝導物質」に続く研究加速課題として
「新規がん遺伝子同定プロジェクト」がスタート。
JST では 2008 年来、「iPS 細胞」「鉄
系高温超伝導物質」という大きな可能性
を秘めた2つの研究成果について、通常
の研究推進事業とは別の「研究加速課題」
と定め、特別に研究の加速を推進してい
ます。これらに続く3番目の研究加速課
題として、2009 年、がんの新たな治療
法開発の基盤構築となる技術開発に取り
組む「新規がん遺伝子同定プロジェクト」
(研究代表者:間野博行・自治医科大学
教授)が選定されました。
間野教授らは 2007 年に、戦略的創造
研究推進事業 CREST の研究課題「遺伝
子発現調節機構の包括的解析による疾病
の個性診断」で、肺がんの原因遺伝子の
1つとして EML4-ALK を発見。この活
性を抑える物質は、著しい治療効果を示
し、ある種の肺がんを飲むだけで治す新
たな特効薬につながると期待され、世界
中で開発競争が始まっています。
EML4-ALK の発見に大きく貢献したの
が、間野教授らが新たに開発した「レト
ロウィルスを用いたがん遺伝子スクリー
ニング法」です。この技術は、肺がんは
もちろん、それ以外のがんについても、
特効薬開発につながる新たな原因遺伝子
を特定する可能性を秘めています。そこ
で、研究をさらに推進すべく、本プロジ
ェクトが立ち上がりました。
プロジェクトがターゲットとして定め
たのは、肺がん、食道がん、乳がんなど、
死亡数が多く現在有効な治療法がないが
んです。これらのがんについて、間野教
授が所属する自治医科大学に全体総括や
スクリーニングを行う「配列解析グループ」
を、さらに、他大学などに「機能スクリー
ニンググループ」
「病理解析グループ」
「疾
患モデル動物グループ」を設け、先に開
発したスクリーニング法を用いて各種が
んの原因遺伝子の特定を行っていきます。
このプロジェクトが
がん治療の
明日を拓く
!
間野教授は、2000 年に自治医科大学ゲノム機能研究
部を立ち上げ、ゲノム解析によるがんの原因究明と
治療の開発に尽力しています。
現在、がんにより世界では年間 700
万人が死亡し、成人死因の第1位となっ
ています。この重大な疾患を治療する、
画期的な研究成果が生まれる可能性を秘
めた本プロジェクトの今後に、注目が集
まっています。
NEWS
02
研究成果
戦略的創造研究推進事業CREST「先進的統合センシング技術」領域/研究課題「事故予防のための日常行動センシングおよび計算論の基盤技術」
子どものけがを予想して事故防止や適切な治療に活用できる
「身体地図情報システム」を開発、無料ソフトを公開。
事故によって起こりやすい子どものケ
ガの部位がひと目でわかるソフトウェア
「身体地図情報システム」が、インター
ネットで無料公開されました。西田佳史・
産業技術総合研究所デジタルヒューマン
研究センター・チーム長の研究成果から
生まれたものです。
遊具から落ちたり、浴槽でおぼれたり
など、日常生活のなかでも子どもはさま
ざまな事故の危険にさらされています。
こうした事故から子どもを守るには、過
去の事故のデータ分析が重要です。しか
し、日本ではこれまで本格的な事例の収
集・分析は行われていませんでした。
そこで、西田チーム長らは、事故によ
“ 身体地図情報 シ ステム”の 画 面
発達段階や活動場所を入力すると、子どもの全身画
像が表示され、ケガをしやすい部位が赤く表示されます。
子どもの傷害予防工学カウンシル (CIPEC) のホー
ムページで無料公開中 (http://cipec.jp/#/project/)
って起きたケガの部位、発生状況、原因
などを、病院で看護師が直感的に入力で
きるシステムを開発。これによって事例
を収集・分析した結果、ある場所である
活動をしているときに体のどの部位でケ
ガが起こりやすいかが見えてきました。
その研究成果をもとに開発されたのが「身
体地図情報システム」です。これを使え
ば、ケガをしやすい部位を素早く検索す
ることが可能。言葉をしゃべれない赤ち
ゃんでも、ケガの部位を推測できるので、
適切な治療を行えます。また、ケガをし
にくい遊具の開発など、子どもを事故か
ら守るためのさまざまな工夫につながる
ものと期待されています。
03
科学技術振興機構(JST)の 最近のニュースから……
NEWS
03
研究成果
戦略的創造研究推進事業CREST「免疫難病・感染症等の先進医療技術」領域/ 研究課題「病原細菌の粘膜感染と宿主免疫反応抑制機構の解明とその応用」
“ピロリ菌 ”が胃がんを発症させる新規メカニズムを発見!
ピロリ菌感染症に対する治療薬やワクチン開発に期待。
世界人口の約半数が感染し、胃がんの
発症リスクを高めるといわれているピロ
リ菌。その胃がん発症につながる新しい
メカニズムが発見されました。東京大学
医科学研究所の笹川千尋教授、鈴木仁人
助教らの研究成果です。
ピロリ菌と胃がん発症との関連につい
ては、これまで、ピロリ菌が分泌する
CagA と呼ばれる病原たんぱく質がかか
わっていること、CagA がリン酸化する
と細胞増殖や細胞運動などの細胞応答を
引き起こすことがわかっていました。
しかし、笹川教授らは、今回、リン酸
化されない CagA が肝細胞増殖因子受容
体(Met)と結合し、βカテニンの活性
化など、胃がん発症にかかわるシグナル
を引き起こすことを明らかにしたのです。
さらに、CagA のさまざまな変異体を精
査した結果、CagA の活性を担うのに重
要な活性部位の遺伝子配列を同定。その
配列に由来する合成ペプチド(人工的に
作られた短いアミノ酸鎖)を導入すると、
CagA と Met との結合が阻害され、発が
んシグナルが抑制されることも確かめて
います。
この研究成果により、ピロリ菌の病原
たんぱく質である CagA が、宿主のシグ
ナル伝達系を混乱させることで、胃粘膜
における菌の持続感染を促進し、胃がん
発症につながる、新しいメカニズムが示
されました。
日本が世界でも有数の胃がん大国であ
る理由の1つとして、ピロリ菌の感染率
の高さが指摘されています。また、日本
で臨床分離されるピロリ菌はほとんどが
CagA 陽性であり、CagA 陽性のピロリ
菌は CagA 陰性のピロリ菌より胃がん発
症リスクが高いと証明されています。そ
れだけに、今回の研究成果が、ピロリ菌
感染症に対する治療薬やワクチン開発へ
つながるものと、注目を集めています。
ピ
ロ
リ
菌
が
い
な
い
場
合
ピロリ菌が
分泌する
CagAの作用
ピロリ菌(青)の有無による胃
上皮細胞 (赤) のβカテニン
(緑)活性化の様子を確かめた
ピ
ロ
リ
菌
が
い
る
場
合
実験結果。ピロリ菌がいる場合
(下の 2 枚)は、ピロリ菌がい
ない場合(上の 2 枚)に比べて、
ピロリ菌から分泌される CagA
の作用によって、βカテニンが
活性化し高頻度に核内に移行
していることがわかります。
NEWS
NEW
04
新コンテンツ
技術者のスキルアップを支援する「Webラーニングプラザ」
平成20年度制作の新6コースを公開。
「Web ラーニングプラザ」をご利用にな
ったことがありますか? Web ラーニン
グプラザは、ライフサイエンス、情報通信、
信、機械などさまざまな分野に関する技
術知識を、音声による解説やアニメーシ
ョンなどでわかりやすく学べる無料のe
要望の高い“ 情報通信 ”分野が充実
04
April 2009
ラーニングシステムです。1回の学習時
間が 10 ∼ 15 分と短く、ちょっとした空
き時間を活用できることもあり、見落と
しがちな基礎を復習したいときや、専門
分野以外の知識を身につけたいときなど
に広く活用されています。
特に要望の高い情報通信分野は、エンジニアでも見落
としがちな基礎をサポートするコースを新たに用意しました。
そんな Web ラーニングプラザに、こ
のほど、新コースが加わりました。情報
通信分野の「オペレーティングシステム」
「プログラミング言語」
「ヒューマンイン
ターフェース」
、電気電子分野の「ディ
ジタル回路」
、技術者倫理分野の「安全
安心のための技術倫理」
、社会基盤分野
の「地盤災害から人々を護る」の6コース。
他分野と融合した領域を受け持つ技術者
へ向けたもの、環境意識やコンプライア
ンスに関連したものなど、これまでの利
用状況やユーザからの要望を考慮した新
しいコンテンツです。
ほかにも充実したコースをそろえた
Web ラーニングプラザは、下記の URL
で公開されています。
http://weblearningplaza.jst.go.jp/
NEWS
Renewal
05
リニューアル
日本科学未来館の常設展示「技術革新と未来」を全面リニューアル。
テーマは「想像から創造へ、
そして技術革新がもたらす新しい社会へ」
開館から間もなく8年を迎える日本科
学未来館は、最先端の科学技術をより身
近に体験できる場となるべく、2009 年
4月、3階の常設展示「技術革新と未来」
を全面的にリニューアルしました。
新たに展示されているのは、開発され
た技術そのものではありません。
「想像
新 規 展 示 の イメ ー ジ C G
から創造へ、そして技術革新がもたらす
新しい社会へ」というテーマを掲げた今
回の展示では、研究者たちが革新的な技
術を生み出した道筋を伝えることを目指
しています。ここでは、
「むすびつける」
「くみあわせる」
「ひらめく」
「みならう」
「きりかえる」という5つの力が、どの
ように新しい技術の創造につながるのか、
体験できるようになっているのです。
例えば「みならう」なら、19 世紀末
に生まれた過去の技術=「鳥に学んだグ
ライダー飛行」と、最先端の技術=「自
然のシステムに学んだ人工光合成」とい
う2つのテーマを関連させることで、科
学技術が過去から現在、そして未来へつ
ながっていると実感することができます。
展示全体を川の流れになぞらえた工夫
も見どころの1つ。来場者に、
「こんな
ものがあったらいいな」という願いをボ
ールに込めて「願いの泉」に投げてもら
います。その後、泉から湧き出してでき
た5つの「創造力の川」
(むすびつける・
くみあわせる・ひらめく・みならう・き
りかえる)で、新しい技術の創造の過程
を体験。そして、それらの流れの先にあ
る「豊饒の海」では、海に浮かぶたくさ
んの先端技術から、未来への創造力をふ
くらませることができます。
また、来館者の想像力や創造力から生ま
れた技術が、現代の科学でどこまで実現で
きるか考えるイベントなども開催予定です。
豊饒の海
創造力の川
ひらめく
くみあわせる
みならう
むすびつける
きりかえる
想像が創造につながり、革新的な技術が生まれるまでを体
験。1 つの川を通って豊穣の海までたどり着いた後も、次
は違った川を通れば、また異なった体験をすることができます。
願いの泉
Good
NEWS
06
データ集発行
産学官連携の実態を図表などでわかりやすく示すデータ集、
「産学官連携データブック2008−2009」を発行!
「特許権の実施料収入ってどれくらい?」
「共同研究の実績が多い大学ってどこ?」
―さまざまな産学官連携に関する疑問
を解決できるデータを網羅した「産学官
連携データブック」の 2008 ∼ 2009 年
版を発行しました。
2007 年に初めて発行したこの冊子は、
2年目を迎えてさらに内容を充実させて
います。大きな特徴は、産学官連携に直
接関連したデータばかりでなく、周辺の
データを幅広く集めたこと。例えば学校
基本統計(大学の分類別学生数、教員数、
卒業後の進路など)
、科学技術関連(主
要国等の1人あたりの研究費の推移など)
、
さらには世界の大学ランキングや日本の
論文引用動向など、産学官連携を進める
ヒントになるデータが満載。ページ数も
2007 年版の約3倍と、質・量ともに充
実した、役立ち度の高いものになりまし
た。さらに、グラフや図表もこれまで以
上に掲載し、ひと目でデータの比較・検
討ができるのも大きな特徴です。
データは常に変化するもの。自分では
知っているはずでも、じつは大きく変わ
っていたということも少なくありません。
産学官連携データブックは、産学官の道
しるべホームページから無料でダウンロ
ードできます。
http://sangakukan.jp/index.html
産 学 官 連 携 デ ータブック2 0 0 8 - 2 0 0 9
1 ページ 1 テーマが基本で、
表やグラフを多用し、見やす
くなるよう工夫しました。 必要
なときに必要な情報が捜せる
のはもちろん、 1 冊通して目
を通すことによって、産学官
連携の 「今」 の姿が浮かび
上がってきます。
05
C lose up
科 学 技 術 総 合 リ ン ク セ ン タ ー「 J - G L O B A L 」β 版 の サ ー ビ
インターネットを通じて科学技術情報をつなぎ、研究者や技術者、企業の発想を支援する新しいサービス「J-GLOBAL(科学技術総合リンクセ
報をつなぐ役割を果たすために開発された。
らの日本全体を左右すると予測している。
さらに、JST 内の情報だけでなく、特許庁
「20 世紀初め、世界の人口のうち先進国
が提供する公開公報の書誌情報(約 200 万
が占める割合は約8人に1人でした。現在
現代社会には情報があふれている。しか
件)など、JST 外の情報とも連携し、相互
でも、約6人に1人です。ところが、極め
し、情報の質は玉石混交。量が増えれば増
に関連づけている(P 07 図参照)
。
て近い将来には、約3人に1人になると予
えるほど、ほんとうに役立つ情報を選び出
情報の活用をうながす仕組みが求められ
想されるのです」
し、活用するのは難しくなる。研究者も例
ている背景には、イノベーション創出とい
そうなれば、研究者のように高度な知識
外ではない。膨大な文献などの情報の洪水
う、日本の科学技術にとっての大きな命題
や技能が要求される分野では、先進国の間
を前に、
「求めている情報に、もっと早く
がある。このため、J-GLOBAL は、産学連
で仕事の奪い合いが起こる。すでに社会が
たどりつけたらいいのに」と途方に暮れた
携や研究開発の立案時における課題抽出・
成熟しつつある日本は、その争いに勝ち抜
経験のある者も少なくないだろう。そんな
検索など、イノベーションを創出するため
くためには、大きなハンディを背負ってい
願いに応えるべくスタートしたのが、J-
の、分野や業種を超えたつながりを想定し
ると考えざるをえない。例えば人件費を比
GLOBAL(科学技術総合リンクセンター)
て設計されている。ただ情報をつなげるだ
較すると、日本は中国やインドと比べては
試行版のサービスだ。
けでなく、そこからさまざまな可能性が広
るかに高い。もしも能力が同じなら、日本
J-GLOBAL のコンセプトは、
「つながる、
がり、発想が生まれるような工夫がこらさ
人は彼らに仕事を奪われてしまうだろう。
ひろがる、ひらめく」。JST はこれまで、
れているのだ(詳しくはP 08 ∼ 09 で紹介)
。
それでも生き残っていくには、世界をリー
コンセプトは
「つながる、
ひろがる、
ひらめく」
科学技術に関する文献の書誌情報(約 600
ドできるような日本の強みを自覚し、育て
る研究者情報(約 20 万人)
、科学技術用語
日本の科学技術が生き残れるかは
情報の有効な活用にかかっている。
の辞書(見出し約 15 万件)など、正確で
情報の活用は、研究者一人ひとりにとっ
「例えば高齢化問題や環境問題など、日本
役立つ情報を整備し、インターネットを通
ての課題にとどまらない。東京工業大学の
が世界に先んじて取り組んできた分野は強
じて提供してきた。J-GLOBAL は、バラバ
名取幸和教授は、世界的な視点から見て、
みになるでしょう。しかし、既存の分野だ
ラで孤立しがちだったそれらの科学技術情
情報を有効に活用できるか否かが、これか
けに目を向けていたら、すぐに限界がくる。
万件)
、国内の大学・研究所などに所属す
質の高い情報こそが、
知の産業化〟の出発点になる!
名取幸和
な と り・ ゆ き か ず
東京工業大学大学院理工学研究科
大学院教育改革支援プログラム特任教
授。三菱化成株式会社(現三菱化学株式
会社)などを経て現職。専門はバイオテク
ノロジー。大学の研究を産業に生かすた
めの活動を各方面で展開。研究者同
士が交流するSNSの機能を持つ
特定非営利活動法人UCEE
ネット副理事長も務める。
06
April 2009
て、イノベーションを創出することが求め
られる。
ビス開始
セ ンター)」試行版のサービスがスタートした。その背景には、科学技術情報に関する、日本の現在の状況への危機感がある。
研究者は、専門以外の分野の情報にも目を
ら危機感を抱いている。研究者たちに見ら
の洪水を前にとまどうあまり、手近にある
向け、共同研究を積極的に進めて、日本の
れる〝保守性〟だ。
コップ1杯分の情報だけを汲み取って、満
新たな強みとなる分野を開拓していかなけ
「日本の若者は、起業への意欲が他国と比
足してしまっているのだ。
ればいけません」
べて極端に低いというデータが出ています。
「以前の研究者は、1日に何本も論文を読
そして、日本よりはるかに人口の多い中
若手研究者のなかにも、自分の専門分野と
んだものですが、今は1カ月に1本しか読
国やインドのような国には、個人戦ではな
いう蛸壺にこもったまま、外に出ようとし
まないような者も少なくありません。情報
く団体戦で挑むべきだとも名取教授は指摘
ない者が少なくありません。これでは、日
を、楽をして入手したいという傾向が強す
する。さまざまな分野の人たちが交流し、
本の強みを生かせるイノベーションなど、
ぎるのです」
チーム JAPAN として知恵を絞っていける
生まれるはずもないでしょう」
世界中が注目するような大きな研究成果
よう、〝知識の産業化〟を行うことで、日
本の強みが生きてくるのだ。
「異分野の研究者たちが交流するには、顔
手近にある情報だけで
満足してしまっている研究者も。
が生まれると、多くの研究者たちがそこに
群がるケースをよく見かける。もちろん、
そこから日本の強みを生かすことにつなが
と顔を付き合わせて話をすることが大切で
もう1つ見過ごせないのが、若手研究者
ることもあるだろう。しかし、ただ追随す
す。日本は狭いし、交通網が発達している
を中心に見られる、情報に対する安易な姿
るだけでは、真の強みにはつながらない。
から、会おうと思ったらすぐに会うことが
勢だ。近年、学生にレポートの提出を求め
大切なのは、新しい考え、新しい分野を切
できる。東京にたくさんの研究機関が集中
ると、似通った内容や表現のものになるこ
り拓いていく意欲を持つことだ。
していることも、この点から見れば好まし
とが少なくないという。理由は明らか。イ
「ふだんからいろいろなことに興味を持ち、
いといえます」
ンターネットの一般的な検索エンジンでキ
質の高い情報を得ようという意識を高めて
日本語という特有の言語で話ができるこ
ーワードを調べ、最初のほうに出てくるペ
ほしい。J-GLOBAL は、そのためのきっか
とも、結束や交流のためには利点といえる
ージで事足れりとしてしまうのだ。記事の
けになると思います」
だろう。
最初に、情報の洪水を前に途方に暮れてい
では、J-GLOBAL をどう使えば情報を活
しかし、情報に関する現在の日本の研究
る研究者の姿に触れたが、どうやらそれは
用できるのか、次のページで詳しく紹介し
者の状況について、名取教授は別の観点か
必ずしも正しくないようだ。彼らは、情報
よう。
J - GLOBALとは? http://jglobal.jst.go.jp/
研究者=
国内研究者の名称等、
約20 万人
特許情報=
国内出願の特許の書誌、
約200万件
大学・研究所=
公的研究機関の名称等、
約2 万機関
科学技術用語辞書=
科学技術用語の見出し語、
約15万件
研究課題=
公的研究課題の名称等、
約 6万テーマ
化合物辞書=
有機化合物の名称等、
約260万件
文献情報=
国内外主要文献の書誌、
約 600万件
遺伝子辞書=
ヒト遺伝子の名称等、
約 4万件
JST内外のサイトから
表記揺れや別名を考慮し、
基本情報間を相互に関連づけ
知らなかった
有用な情報、
意外な知の
発見!
資料目録=
国内外主要学術誌の名称等、
約20万誌
07
基本情報の関連づけとは? 例えば「バイオ燃料」という言葉からJ-GLOBALに入ってみると……
「バイオ燃料」は生物燃料という科学技術用語と同義語なのか。
関連文献にはどのようなものがあるのだろう?
文献の「発行年」を見る。文献数が年々多くなっているのがわかる。
注目の技術らしい !
08
他にも文献があるようだし、
「微生物燃料電池」で特許も多く出ているみたいだ。
インターネットでニュースを見てみると、
オランダで「微生物燃料電池」で水田
から発電という記事が!さっそくJ-GLOBALで関連の研究を調べてみよう!
「タイトル切り出し語」の絞り込みも見てみる。
あれ 、生物燃料って「廃水処理」と関係あるの?
山形大学で類似の研究がされているようだ。
文献も読めるし、研究者の名前もわかる。
文献を見てみると、
「廃水処理用の微生物燃料電池」ってあるけど、
「微生物燃料電池」って何だろう?
共同研究が可能かもしれない。問い合わせてみよう!
April 2009
C lose up
さまざまなヒントをきっかけに
情報を広げ、新たな発想を生む。
左に示したのは、
「バイオ燃料」という
言葉をきっかけに、J-GLOBAL を活用して
共同研究者を見つけた例だ。キーワードを
の割合の高さによって、そのキーワードに
たどることができる。ここから先は、直接、
関する研究がこれからも活発に発展する可
顔と顔を突き合わせて話をしながら、共同
能性が高いかどうかの参考となる。
研究を進めていくというわけだ。
情報だけでなく研究者同士が
つながる仕組みの構築も。
また、イノベーションにつながるような
日本の強みを生み出すには、学問分野ばか
りでなく、産業分野への広がりへの意識も
入力し、あてはまる「文献」や「研究者」
新たな発想を得られたら、次は、興味を
などを検索するという基本的な使い方は、
持った研究者に共同研究をもちかけるなど、
一般の検索エンジンに近い。しかし、表示
具体的なアクションを起こす段階だ。J-
業にまでつながらなければ、イノベーショ
された結果の質は J-GLOBAL のほうがは
GLOBAL で、キーワードから情報をつな
ンを興すことはできません。アメリカでは
るかに高いといえる。特に、キーワードに
げていき、研究者の名前、所属機関、文献
以前からそういう意識が高く、学問の世界
関連した「文献」を検索できることは大き
などにたどり着いて、共同研究の対象とし
と産業界との自由な行き来が当たり前のよ
なメリットだ。研究の細かい内容がわかる
て興味が持てたなら、そのまま「お問い合
うに行われています。だから、あえて産学
のはもちろん、一般的な検索の場合には見
わせ」フォームでダイレクトにコンタクト
連携というスローガンを掲げる必要もあり
落とされがちな、退官した研究者の研究内
を取ることが可能だ。
ません。こうした意識を持つには、日本の
容などもチェックできる。
また、名取教授が副理事長を務める特定
研究者も、早い段階で産業界を経験する必
そして、情報入手の可能性を広げ、発想
非営利活動法人 UCEE ネットも、共同研
要があると私は思います。実際、博士課程
を生むために重要なのが、画面の左側に、
究者を発見する場として機能している。
に進んだ学生のなかには、大学で研究者に
検索結果のさまざまな観点からの分析がヒ
UCEE は、研究者同士が交流する SNS(ソ
なるのではなく、もっとイノベーションを
ントとして示されていることだ。左の例で
ーシャル・ネットワーキング・システム)
具現化できる、民間企業で働きたいと考え
必要だと名取教授は指摘する。
「たとえ研究が進んだところで、それが産
は、
「文献」の検索結果について、
「発行年」
や「タイトル切り出し語」をヒントに、さ
まざまな情報へとつないでいる。このとき、
ちょっとした目のつけどころで、日本の強
情 報も 研 究 者 同 士もつ な げ る!
みとなりそうな分野のめぼしをつけていく
ことも可能だと、名取教授は指摘する。
る者がたくさんいます。そういう人材に活
「例えば、
『研究者』の検索結果なら、
『所
躍の場を与えてほしいですね」
属学会』に注目してください。ポイントは、
学問と産業のつながりという点でもう1
幅広い学会を網羅しているか。それも、な
つ懸念されるのが、技術者を取り巻く環境
ぜこのキーワードでこの学会の研究者が含
学問だけでなく
だ。日本の製造業の企業数は年々減り続け
まれているのか、不思議に思うくらいがい 産業への広がり
い。そのほうが、幅広いつながりを持つと という意識も!
ている。日本の大きな強みである質の高い
考えられるし、柔軟な発想の研究が生まれ
が、その力を失いつつあるのだ。
る可能性を秘めている。つまり、幅広い分
「業界によっては、高い能力を持った技術
野の活性化につながりやすいんです」
者が海外の企業に引き抜かれている例も少
試しに、
「太陽電池」をキーワードに調
なくありません。そんな事態を防ぐために
べてみると、農業に関する学会の研究者が
も、研究者は技術者のことをもっと知ろう
多いことに気づく。確かに、1日中、太陽
ものづくりを支えてきた中小企業の技術者
とするべきです」
にさらされる農地は、太陽電池利用に最適
で、さまざまな分野の研究者が集い、各自
情報をつないで新たな発想を得たら、ネ
だ。太陽電池パネルの開発に従事している
の判断でプロフィールを公開し、必要に応
ットワークを生かして迅速に共同研究につ
応用物理の研究者が、そういう視点から自
じて、相互にアプローチできる。
なげ、さらに産業界をも巻き込んでいく。
らの研究を見直せば、まったく新しい発想
研究分野が異なるため、ふだんから学会
日本がイノベーション立国を果たし、生き
が生まれてくるかもしれない。逆に、農業
などでつながりを持たない相手でも、共同
残っていく方策は、
「それは国が考えること」
にかかわる企業が、応用物理の研究者を発
研究者を見出す機会がグンと高まる。
とのん気に構えるのではなく、一人ひとり
見するチャンスも生まれる。こうした広が
「私自身、すでに J-GLOBAL で見つけた
の研究者がそうした意識を持つことが必要
りは、従来の検索エンジンからはなかなか
共同研究者に、UCEE ネットの人脈を通じ
だ。J-GLOBAL には、その出発点となるた
生まれてこないものだ。
てアプローチをすることができました」
めの「つながる、ひろがる、ひらめく」ツ
また、
「研究者」の「生年」にも注目で
ここまでのステップは、研究室や自宅に
ールとして、大きな期待が寄せられている。
きる。1970 年代生まれなど、若い研究者
いながらにして、インターネットを通じて
TEXT : 十枝慶二/PHOTO : 大沼寛行
09
森下真一
も り し た ・し ん い ち
1983 年、東京大学理学部情報
学科卒業。1985 年、東京大学大
学院理学系研究科修士課程修了。同
年、日本 IBM 入社。1997 年、東京
大学医科学研究所客員助教授に就任。
2003 年より東京大学大学院新領
域創成科学研究科教授。コン
ピュータを活用して生命現象
を解明しようとしている。
Topics
染
色
体
D N A の 3 次 元 構 造 が D N A の 変 異 に 相 関 す ることを 解 明
の
構
造
DNA
テクノロジーの進化によりDNAの塩基配列の解読技術は飛躍的に向上した。
その結果、生物学者は膨大な遺伝子情報を扱わなければならなくなったが、
バイオインフォマティクスを駆使することで、謎多き生命現象が解明されようとしている。
ヒストン
メダカのDNAで偶然発見された
DNA変異の周期性。
染色体
遺伝情報の素のDNAはヒストンに巻き取
られ、さらに折りたたまれて染色体とな
る。今回の研究成果で、このDNAの3次元
構造が変異に影響することが示された。
10
April 2009
形成といった生命現象との関係を検討するこ
とは困難になってきている。そこで、近年、
ライフサイエンスの研究者が重要視している
1970 年代に DNA の塩基配列の解読法が
のが、コンピュータの力を借りて膨大な情報
開発されて以来、さまざまな生物種の DNA
を解析する “バイオインフォマティクス”だ。
が解読されてきた。特に 1990 年頃から多く
東京大学大学院新領域創成科学研究科の森
の研究室に解読装置が導入され、それぞれ
下真一教授も、そうしたバイオインフォマテ
塩基配列の解読が行われていったが、当時
ィクスを駆使する研究者で、膨大な遺伝子情
は 1 日に 1 万塩基を読むのが精一杯だった。
報を相手に生命現象の謎を解明しようとして
しかし、その後、テクノロジーの進歩によ
いる。現在、取り組んでいるのは、JST のバ
って塩基配列の解読技術は飛躍的に向上。現
イオインフォマティクス推進事業をはじめ、
在、多くの研究室で広く利用されている超高
文部科学省やアメリカ国立衛生研究所(NIH)
速DNA解読装置を利用すれば1日に5億から
の協力を受けて、メダカのDNAの3次元構造
10億もの塩基配列を解読できるようになった。
を解析するというものだ。
こうした解読装置から得られる遺伝情報は
メダカのDNAの塩基配列は、森下教授を含
膨大なものとなり、酵素のはたらきや生物の
む日本の研究グループによって解読され、
2007 年にデータが発表されている。しかし、
その研究過程でメダカのDNAの変異が周期性
を持つことが明らかになり、森下教授は、そ
の現象の研究に取り組むことになった。
■解析手順
DNA
リンカー
「当時の大学院生が、メダカのDNAには周期
ヌクレオソームコア(ヒストン8量体)
的に変異が現われる確率が高いことを発見し
(DNA解析装置)
超高速シークエンサー
ました。最初は間違いじゃないかと思ったの
ですが、これはDNAの3次元構造とかかわっ
ヌクレオソーム
リンカー部分を分解して削除
ているのではないかと考えてみたんです」
P10の図はDNAの3次元構造を示したもの
だが、一般にもよく知られている二重らせん
構造のDNAは、ヒストンと呼ばれるたんぱく
質に巻き取られ、さらに細かく折りたたまれ
ヌクレオソームコアに巻きついたDNA断片を抽出
し、超高速シークエンサーで配列を決定
て染色体となる。DNAがヒストンに巻き取ら
れている構造はヌクレオソーム構造と呼ばれ
ているが、これがDNAの変異の周期的な変動
長さは146∼147塩基対
に影響を与えているのではないかと考えたのだ。
ヒストンに巻かれたDNAだけを解読し
ヌクレオソームの位置を確定。
その配列をDNA上に写像し、ヌ
クレオソームの位置を確定。開発
したソフトウエア群により情報を
整理してウエブブラウザ上に表示
しかし、当時は DNA 上で、どこがヌク
日本のメダカで生命進化のメカニズムに迫る!
なるのですが、東京大学では50世代以上にも
わたって、同じ親から生まれた個体同士を交
配し、両親から由来するDNAの塩基配列がほ
ぼ同一なメダカを作り出してきました。こう
したメダカは“近交系メダカ”と呼ばれていて、
レオソーム構造になっているかはわかってい
ファイヤー博士の大量のデータを解析し、
遺伝子を研究するには格好の材料なんです」
なかった。そこで森下教授は、ヌクレオソー
DNA中のどの領域がヌクレオソーム構造にな
こうした共同研究者の協力により得られた
ム構造の位置を確定するために、ヒストンに
っているのか分析した結果、転写開始点下流
遺伝子情報を、森下教授が解析して研究が進
巻き取られていないDNA(リンカー)を取り
の約100塩基、300塩基、500塩基の位置を中
められた。その結果、DNAの転写開始点下流
除き、ヒストンに巻き取られた部分だけを解
心としてヌクレオソームコアが存在する傾向
から約200塩基、400塩基、600塩基の位置で
読することを試みる。その結果と、解読済み
にあることがわかった。
塩基の挿入や削除の確率が上昇し、約100塩基、
のメダカの塩基配列とを比較検討することで、
DNAのどこがヌクレオソーム構造をとってい
るのかを確かめようとした。
DNAの変異周期性と3次元構造が
生命進化を解明する鍵を握る。
300塩基、500塩基の位置で1塩基が変異する
確率が上昇していることが確かめられた。
転写開始点下流から約 100 塩基、300 塩基、
森下教授がこう続ける。
先に「転写開始点」と述べたが、遺伝子の
500 塩基の位置を中心としてヌクレオソーム
「当時、わたしたちはリンカー部分だけを取
変異を調べるには、DNAのどこからがたんぱ
コアが存在する傾向にあることを考えると、
り除くことはできませんでした。ところが、
く質を合成する情報になっているのか、すな
DNA 変異の「200 塩基」という周期性に、こ
スタンフォード大学のアンドリュー・ファイ
わち、DNAのどこに転写開始点があるのかを
の3次元構造が影響を与えている可能性が高い。
ヤー博士の研究グループならそれができると
明らかにする必要がある。そこで、転写開始
今のところ DNA の 3 次元構造がどのよう
聞き、共同研究をお願いすることにしました」
点を確定する技術を持つ東京大学大学院医学
に影響して、DNA の変異が周期的に起こる
ファイヤー博士は、RNA干渉の発見で2006
系研究科の橋本真一博士らに協力を要請した。
のかは明らかになっていない。しかし、今回
年にノーベル賞を受賞したことで知られる研
メダカの遺伝子サンプルについては、東京
の研究成果により明らかになった DNA の 3
究者だが、リンカー部分だけを分解する技術
大学大学院理学系研究科の武田洋幸教授の研
次元構造の影響は、今後、生物の進化の謎を
を使ってクロマチン(※)構造の全体像を分
究室から提供された。
ひも解くうえで、重要な視点を提供するもの
析していた数少ない研究者だったのだ。
「自然のメダカは個体それぞれで遺伝子が異
になるだろう。
※クロマチン…DNAとたんぱく質の複合体
TEXT:斉藤勝司/PHOTO:大沼寛行
11
Topics
理科の授業は、社会に出てから役立つと思い われている。そこにこそ、この事業の大き
な意義がある。
理科の学習は、日常生活とは無関係と思
われがちだ。実験も教科書で習ったことを
確かめるためで、教室の中で完結してしま
う傾向がある。そこで、企業の人たちが、
自らの仕事内容と、子どもたちの学習内容
とを、同じ時期に結びつけ、その意義や楽
しさを語ってくれれば、ギャップを埋める
効果的な手段となる。しかし、それは言葉
「電気なかったら暮らしていける? いけへんやんなあ」― 棚橋さんの巧みな話術が子どもたちを惹き込む。
で言うほど簡単なことではなかった。
「企業の人が学校で出前授業を行う例は、
外部の人材を特別講師に迎え
理科の授業の充実を図る。
実施の仕組みとしては、JST が都道府県・
ほかにもたくさんあるでしょう。しかし、
政令指定都市に委託するかたちをとる。今
そのほとんどは、企業の人たちが考えた授
回紹介する授業は、大阪商工会議所の協力
業のパッケージをそのまま持ってくるだけ
「みんな、おっちゃんのこと知ってる? を得て実現が進められてきた。
ですから、理科の授業との関連が不十分で、
おっちゃんな、
『まいど1号』をつくったんや。
ただの出張授業ではなく
学習単元との結びつきを重視。
無駄な部分も多い。だからこそ、企業の方
映ってるから」
棚橋さんは、以前から教育に関心を持ち、
そう語るのは菊地岩男さん。教員時代の
大阪市立中津南小学校の理科室に、明る
出張授業を行ってきた。しかし、今回の「特
経験と実績をかわれ、退職後、大阪市の理
く、テンポのよい関西弁が響く。声の主は、
別講師」は、これまでの授業と比べて大き
科支援員等配置事業のコーディネーターを
棚橋電機株式会社代表取締役社長の棚橋秀
な違いがあったという。それは、6年生が
務めている。
行さん。電気設備に関する設計、製造、工
電磁石の学習をしている時期に合わせ、学
授業を作り上げる核となるのは、特別講
事などの業務のかたわら、東大阪市の中小
習単元と関連させて授業を行ったという点だ。
師が作成する授業案だ。狙いや概要を簡単
企業の技術を結集して 2009 年 1 月に打ち上
棚橋さんばかりではなく、特別講師の授業
にまとめ、それをもとに教員と打ち合わせ
げた人工衛星「まいど1号(SOHLA-1)
」の
はすべて、理科の学習単元と関連づけて行
をして、内容を詰めていく。とはいえ、企
ホンマやで! ウソやと思うんなら、ニュ
ースのビデオ、見てみよう。おっちゃん、
事業にも参画している。そんな、親しみや
すいけれど尊敬できる地元企業の“おっち
ゃん”が、
「理科支援員等配置事業」の「特
別講師」として、6年生の理科の授業の教
12
たちと現場の教員とが、一緒に授業を作り
上げる必要があるのです」
業の人たちにとって授業案を作るのは簡単
理科支援員等配置事業
コーディネーター菊地岩男さん
なことではない。経験豊富な棚橋さんでさえ、
大いに苦労したという。そこで、授業案が
書けない場合は遠慮なく言ってもらい、一
壇に立っているのだ。
緒に相談しながら作っていく必要があると
「理科支援員等配置事業」は、外部の人材
菊地さんは言う。
を活用して理科の授業の充実を図ることを
「何よりも大切なのは、企業の方にこの事
目的に、平成19年度にスタートした。大学生・
業を続けてもらうこと。そのためにできる
大学院生・退職教員などが観察・実験のサ
限りのサポートはしなければ」
ポートを行う「理科支援員」と、棚橋さん
学習単元とより効果的につながった授業
のように一般企業人や研究者などが発展的
案にするために、単元ごとに企業同士が集
な内容の授業を実施する「特別講師」があり、
まった勉強会も実施している。
特別講師の場合、平成 19 年度は全国 1452 校
「検討をするうちに、
『そういう教材なら、
の 3866 学級に、1179 名を派遣。20 年度は
ウチで作れるわ』という話になったりする
その数をさらに伸ばし、全国各地でその活
んですよ。そんな横のつながりができてく
動を定着させつつある。
れば、もっといい授業になります」
April 2009
理 科 支 援 員 等 配 置 事 業“特 別 講 師”の 実 施 事 例 から
ますか?―そんな質問に自信をもって「はい!」と答えられる子どもの育成を目指している「理科支援員等配置事業」の事例を紹介しよう。
大阪市立中津南小学校 6 年 1組の 授業
単元
特別講師
電磁石のはたらき
棚橋秀行(棚橋電機株式会社代表取締役)
チャレンジ ! 電磁石クレーンゲーム
さまざまな作業を通じて
実生活と電気の結びつきを実感。
こうした経緯を経て実現した棚橋さんの
授業は、じつに刺激的なものだった。
「コンセントの差し込むとこ、右と左で長
さが同じやと思う? 違うと思う?」
そんな身近な例をきっかけにして子ども
たちを惹きつけ、自らの電気工事の仕事に
関連したエピソードを交えながら、電気に
ついて解説していく。
授業のメインは、
「電磁石クレーンゲーム」
もたちが惹きつけられていて、子どもたち
も『楽しかった』と感想を述べていました」
(担任の伊藤嘉孝先生)
の実験だ。使用するのは、棚橋電機特製の、
「授業中、
『なんでやろう?』といったつぶ
乾電池を使った電磁石をクレーンに見立て
やきが、子どもたちの口から自然に出てい
た装置。先端部の芯や巻きつける線などの
ました。今回の棚橋さんのお話で、子ども
素材は、子どもたちが班ごとに好きなもの
たちは電磁石を身近に感じることができた
を選び、クリップなどをくっつけ、素材の
と思います」
(理科担当の清谷愛実先生)
種類や線を巻きつけた回数、くっついたク
リップ数などを記録する。狙いは、電気を
身近に感じてもらうことだ。
ものづくりの現場に立つ誇りを
子どもたちに伝える場に。
電 磁 石を作った
り、自転車をこいで
電気を起こしたり、
さ
まざまな作業を通じ
て電気を体感。
強く響くのだろう。
棚橋さんと同じようにものづくりの仕事
に誇りを持ち、専門知識や技能を子どもた
このクレーンゲームをはじめ、授業のさ
今回の授業中、特に印象に残ったのは、
ちに伝えたいという思いを抱いていたとし
まざまな場面で、手を使った作業が取り入
棚橋さんのこんな話だった。
ても、小学校での授業の経験がないために、
れられている。コンセントを分解して、差
「みんな、いつもテストで何点とってる?
行動に移せずにいる人は少なくないだろう。
し込んだプラグが抜けないようになってい
おっちゃんの電気工事の仕事は、いつも 100
この事業が根付き、広がれば、そんな埋も
る仕組みを確かめたり、太い電線を使って
点やないとあかんのや」
れている人材を活かして、子どもたちに理
綱引きをしたり、自転車発電機(これも棚
驚きの表情を浮かべる子どもたちに、棚
科の面白さや楽しさを伝える絶好の場とな
橋電機の自家製)をこいで光や音を発生さ
橋さんはこう続ける。
るはずだ。2年目を終えた今、菊地さんは
せたり、たくさんの使用済み携帯電話を用
「例えば、
『鈴木さんちで蛍光灯とコンセン
その手応えを感じている。
意して、興味がある人は分解してみるよう
トをつけました。今日の仕事は 80 点です。
「特別講師のなかには、
『新しい生きがいが
に呼びかけてもいた。
10回に2回くらいはつかないかもしれません。
できました』と言ってくれる方もいます。
『い
「子どもたちの感想に、
『僕も電気の仕事が
100 回に1回は火ぃ噴くかもしれません』そ
つまでさせてもらえますか?』と聞かれた
したいと思いました』なんて書いてあると、
『よ
んなんやったら困るやろ?」
から、
『あなたの足腰が立たなくなるまで』
っしゃ!』と思いますね」
ユーモラスな表現に笑いながら、大きく
と答えましたよ」
刺激を受けているのは子どもたちばかり
うなずく子どもたち。棚橋さんの巧みな話
子どもから大人まで、さまざまな人たち
ではない。棚橋さんと授業を一緒に作り上
術や自分の仕事にかける思いの強さはもち
の胸に確かな波紋を広げながら、それを大
げた2人の先生は、こんな話をしていた。
ろん、理科の学習との結びつきが感じられ
きなうねりとすべく、
「理科支援員等配置事
「専門的なお話でも、楽しい雰囲気で子ど
るからこそ、その言葉が子どもたちの心に
業」は、3年目のスタートを切った。
TEXT:十枝慶二/PHOTO:大沼寛行
13
Welcome to my laboratory
戦略的創造研究推進事業CREST“ 脳の機能発達と学習メカニズムの解明”
ようこそ
私 の研究室 へ
25
ヘンシュ貴雄(へんしゅ・たかお)
理化学研究所脳科学総合研究センター
臨界期機構研究グループディレクター
「臨界期機構の脳内イメージングによる解析と総合的解明」
研究代表者
1966年東京都生まれ。68年、ニューヨークへ移住。88年、ハーバ
校で博士課程を修了。同年、理化学研究所脳科学総合研究セン
ード大学理学部を卒業。90年、東京大学医学部修士課程を修了
ターの神経回路発達研究チームリーダーに就任。2000年より現
し、1年間、独マックス・プランク研究所に留学。91年、米カリフォ
職。04年10月よりCREST代表研究者。06年よりハーバード大学
ルニア大学サンフランシスコ校医学系研究科に留学し、96年、同
脳科学センターおよび大学付属のボストン小児病院教授を兼任。
イトたちの間で、やすやすと4カ国語目も
たところ、興奮を抑える抑制性細胞の成熟
習得。どうも自分の脳はみんなと違う。そ
こそが重要であることを発見しました」
れは幼少期の言語環境に関係があるのでは?
研究の流れを変えた。そして、臨界期の
―こうして将来の研究テーマが定まった。
仕組みの一端が見えはじめた瞬間でもある。
ノックアウトマウスが
研究の流れを変えた。
臨界期の動物の脳内を
生きたまま観察する。
家族で海外に引っ越したら、真っ先に現
「ハーバード大学では睡眠について研究し
「臨界期のメカニズムをもっと理解したい。
地の言葉を覚えるのは子どもたちだ。言語
ました。臨界期に興味はありましたが、脳
そのために、神経回路のつなぎ変えの過程
学習に限らず、幼少期のある期間(臨界期)
を理解するためには、まず、いろいろな部
を生きた実験動物で観察したい。これが
には運動や楽器演奏などの習得にも優れる
位を順に理解していこうと考えたのです」
CREST 研究の1つの狙いです」
ことはよく知られている。よく言われるよ
大学卒業後は日本へ留学。博士課程を修
これまで、神経細胞の形態を調べるには、
うに、子どもの脳は「柔らかい」からだが、
了するまでに、日本、ドイツ、カリフォル
マウスなどの実験動物の脳をスライスして、
科学的には、脳が外部刺激に応じて可塑性
ニアと研究室を渡り歩き、そのたびに脳研
それを顕微鏡で観察するほかなかった。変
を持つ、ということだ。
究のテーマも変えた。じつは、先に紹介し
化の様子を知るには、多数の個体を用意し、
1960 年頃、臨界期の可塑性を示す実験
たネコを使った視覚の臨界期の実験は、そ
異なるタイミングで脳切片の試料を作って
が行われた。生まれたばかりのネコの片目
の後停滞していた。そして 90 年代に入り、
見ていく。個体間のバラツキは統計的に処
を数週間だけ覆い、脳の変化を調べる。頭
ヘンシュさんがカリフォルニア大学のスト
理する。しかし、この方法では限界がある。
蓋骨を開いて脳に電極を差し入れ、電気信
ライカー教授の下へやって来たとき、機は
「生きた動物の脳内で変化を連続的に観察
号からその部位の活動を測定するのだ。こ
熟した。ストライカー教授のグループは、
したい。そのために、蛍光たんぱく質を作
の方法で、片目の覆いを外してからネコの
実験動物をネコからネズミに置き換えたの
る遺伝子を、観察したい細胞に送り込む技
脳を調べると、覆っていたほうの目からの
だ。「視力の弱いマウスなんか使ってうま
術を利用しました。胎仔の段階の実験動物
刺激には脳は反応しなくなっていた。
くいくわけない、とさんざん言われました。
にその遺伝子を持ったアデノウイルスを注
「臨界期に外部刺激がなかったため、覆っ
でも、マウスなら遺伝子操作という強力な
入し、観察したい細胞に感染させるのです」
ていた目と視覚野を結ぶ神経回路が物理的
道具が使えるのです」
。特定の遺伝子が発
2光子レーザー顕微鏡という装置を使え
に消滅したのです。このように、外部刺激
現しないように改変したマウス(ノックア
ば、脳の内部で発現した蛍光たんぱく質を
に応じて脳の再編成が行われるのが臨界期
ウトマウス)を作ることで、臨界期の可塑
光らせ、生きた細胞の観察が可能になる。
です。誕生時には大まかに設計されていた
性にどの遺伝子や分子が関与しているのか、
この技術を武器に、
「臨界期のメカニズム
神経回路網をチューニングし、実際に生き
調べることが可能になる。
を解明したい」と声を弾ませる。
る環境に適した状態にする、動物にとって
さらに、理化学研究所脳科学総合研究セ
2006 年からはハーバード大学の教授を
非常に重要な時期といえます」
ンターの創設メンバーとして赴任したヘン
兼任。
「母校の学生たちと一緒に研究したい」
。
そう語るヘンシュ貴雄さんには、臨界期
シュさんに飛躍の時が訪れる。
そんな「ロマンチックな想い」がある。大
の不思議を実感した体験がある。ドイツ人
「それまでの可塑性の研究でずっと注目さ
学付属のボストン小児病院では自閉症の研
の父と日本人の母は「それぞれが母国語で
れてきたのは、大脳皮質の神経細胞の8割
究をする。自閉症の原因は臨界期の異常に
子どもに話しかける」教育方針で、学校で
を占める興奮性細胞でした。しかし、ノッ
あると考えられているのだ。
「遺伝子操作
は英語であったため、3カ国語を自然に使
クアウトマウスを使った実験では、興奮性
で人為的に自閉症にしたマウスを、薬物投
い分けられるように育った。学校でフラン
細胞は臨界期の開始を決めていないという
与で回復させることに成功しています。治
ス語の授業が始まると、苦労するクラスメ
結果が。そこで、方針を変えて実験を行っ
療法の開発に貢献できると信じています」
3カ国語を使い分けて育った
経験が臨界期の研究へ導く。
「
『臨界期』という脳の発達初期に現れる
特別な期間について研究しています。脳の
神経回路網が入力刺激に応じて形態的に変
化する極めて重要な時期です」
14
April 2009
居室入口に掲げられた行き先表示 。その下には「その日の気
分」が描かれたイラスト。ちなみに、取材時にマークされていた
のは「HOPEFUL」。
2光子レーザー顕微鏡
で観 察する対 象はモ
ニターに表 示される。
蛍 光たんぱく質 の 発
現している神 経 細 胞
が青っぽく明るく光っ
て映っている。
2光子レーザー顕微鏡。
生体に影響を与えない
弱い光子が脳内で焦
点を結び、
生きたままの
状態で細胞観察できる。
この顕微鏡で見ながら、
マウスの胎仔にアデ
ノウイルスを注入する。
「非常にデリケートな
手術です」。
ボストン小児病院・生命科学センター
研究拠点は理化学研究所、ハーバ
ード大 学、ボストン小 児 病 院の3カ
所。1年に何度も日米を往復しなが
ら精力的に働く。
シナプスの形成に必要なたんぱく質の同定とその
はたらきについての理解も進んでいる。
一方、キンカチョウを使った聴覚野の実験にも
臨界期の脳の形態的可塑性、すなわち神経回路
並行して取り組み、さえずりの学習過程での神経
再編成のメカニズムを分子レベルで解明しようと
回路の再編成を観察しようとしている。そして、
している。ノックアウトマウスの視覚野を使った
これらの実験を可能にするのが、生きたままの実
実験では、臨界期の開始やシナプスのつなぎ変え
験動物の脳内を可視化する技術で、その技術開発
に関与する遺伝子やたんぱく質のはたらきに迫る。
もCREST研究の重要なミッションだ。
これまでに、神経細胞膜に形成される抑制性神経
脳内の特定の神経細胞で蛍光たんぱく質を発現
伝達物質GABAの受容体の数が、臨界期の開始を
させて、2光子レーザー顕微鏡でその細胞の時間
視覚野の臨界期を操作したマウスの視力を測る
決める重要な要因であることがわかった。また、
装置。縞を水平に動かしてマウスの反応から判断。 変化を観察することに成功している。
研 究 の概 要
TEXT:黒田達明/PHOTO:大沼寛行/パース:意匠計画
15
http://www.rikanet.jst.go.jp/(一般公開版はhttp://rikanet2.jst.go.jp)
4万人以上の先生が活用中!
理科授業に役立つデジタル教材。
〈理科ねっとわーく〉
は、
小・中・高等学校の授業で使える
“理科教育用デジタル教材”
を集めたWebサイト。第
授業の単元に対応した約45,000点の
動画・静止画で構成される
約110タイトルのデジタル教材の
活用例を毎月1タイトルずつ
ご紹介します。
1回
身近な自然世界 里山を知ろう
授業例
新潟県糸魚川市立中能生小学校
渡辺径子 先生
オススメポイントはココ!
身近な自然世界 里山を知ろう
(3月末時点)
小学校 4 年
里山という身近にある自然を取り上げる教材です。動植物の
写真や解説が入ったカードを取り出せる「四季のマップ」、里
山の成り立ちやその自然を紹介するVTR、観察授業に使える
ワークシートが含まれています。
「自分も探してみ たい」
と、
子どもたちの意欲を
高めるのに有効です。
「季節と生物 ∼あたたかくなって∼」
授業 の 狙い
きなり「身の周りから春の動
植物を探そう」と投げかけて
も、見通しがもてないため意欲的
な追究活動に入ることができない
子どもがいます。そこで、
まずは寒
い時期と比べ、最近の身の周りの
動植物の様子を子どもたちに想起
させることから授業を始めました。
その後、デジタル教材で春の里
山の画像を提示し、そこにいる動
植物の多様性をつかめるようにし
ました。さらにVTRで、多様な動植
物が生き生きと活動している様子
を見せることで、
「自分も身の周り
から実際に探して見てみたい」と
いう意欲を大きく高めることができ
たと思います。季節と関係づけて
動物の活動や植物の成長を追究
していく単元で、四季を通じて活
用できるコンテンツです。
い
暖かくなった春の季節に見られる
動物や植物に興味や関心を持ち、
身の周りの自然を進んで調べよう
とする意欲を持つ。
1
寒い頃と比べ、暖かくなったこ
の頃の動植物の様子について
想起する。
児童の思考:今日、
タンポポが咲い
ていたよ。チューリップも咲いて
いた。ハチが飛んでいた。今は春
だからね。
2
小学生マップ“春”
デジタルコンテンツで「春の里
山」の様子を見て、春の動植
物に興味や関心を持つ。
児童の思考:里山ってどこ。自然が
いっぱいのところだね。生き物が
たくさんいそうだね。
わっ! 虫がいる。
鳥もいる。花も咲いている……。
教 育 関 係 者 向 け
理 科 ね っと わ ー く
3
自分たちの身のまわりの自然
のなかからも、動植物を探して
みたいという意欲を持つ。
http://www.rikanet.jst.go.jp/
タイミングよく
[全体を見る]で、生物の図を提示する。
児童の思考:わたしたちの周りにも
VTR
“里山の春”
いるかな? 探してみようよ。
4
人の手が入ることで
培われる豊かな自然
があることを知ったり、
自然 環 境の保 持を
大切に考えてきた先
人の生き方を知った
りするきっかけにも
なる。
全員で校庭を散策しながら動
植物を探す。
児童の思考:木の芽が出てきている
よ。花壇にチョウが飛んでいる。雑
草にも花が咲いているよ。
Vol.6 / No.1 2009 / April
非営利・教育目的という条件で、ホー
ムページ上での簡単な利用者登録だ
けで、無償で利用できます。
一 般 向 け
理 科 ね っと わ ー く
一般の
方もご覧
いただけ
ます!
一般公開版
http://rikanet2.jst.go.jp/
〈 理科ねっとわーく〉
のデジタル教材の
なかから一般公開が可能なものを、
イ
ンターネットで公開しています。登録
の必要はなく、
どなたでも無料で閲覧
できます。
発行日/平成21年4月15日
編集発行/独立行政法人 科学技術振興機構 広報ポータル部広報担当
〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3 サイエンスプラザ
電話/03-5214-8404 FAX/03-5214-8432
E-mail/[email protected] JSTホームページ/http://www.jst.go.jp
JST News/http://www.jst.go.jp/pr/jst-news/
Fly UP