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琵琶湖と持続可能な社会(PDF:168KB)
〈琵琶湖と人の暮らし〉 4-13 琵琶湖と持続可能な社会 持続可能な社会の姿が世界各地で模索されている中で、府県の規模で は初めて、滋賀でその社会の姿が検討された。その目標は二酸化炭素を 指標として、 2030年までにその排出量を半減させるというものである。そ の姿は、自然と調和した技術と仕組みの中で、琵琶湖および自然の恵みを できるだけ活用することが基本になっている。 1.背景 戦後の急激な経済発展は、 豊かさをもたらすと同時に、 自然環境の悪化や資源 の枯渇を引き起こした。さらには、 コミュニティーや伝統文化の崩壊、社会的格差 の増大など社会面にも大きな影響をもたらした。人類の存続さえ危惧される今の 状況を改めることを目指して、 「持続可能な発展」 という概念が提案された。 その後、 これを具体化するために、 どのような目標を設定し、 どのような方策をと ればいいかが、 世界各地でさまざまに模索されてきた。その代表的指標として、 い ま地球温暖化の主因である「二酸化炭素の排出量」を採用することが多く、 京都 議定書の目標値が一つの目安になってきた。 しかし、 近年の科学的成果は、 温暖 化を防ぐためには、二酸化炭素を50%以上も大幅に削減することの必要性を示 唆し、EU諸国やアメリカのいくつかの州が2050年までに80%に近い削減を宣言 し始めた。そのような大幅な削減を目指した社会を「持続可能な社会」と考えて、 それへの道筋を探る試みが世界各地で始まっている。 2.持続可能な社会の姿 これまでの持続可能な社会像の模索は大きく二通りに分けられる。それは、大 規模な先端技術に依存する「先端技術型社会」がその一つで、工業国が歩ん できた道の延長上にあり、技術発展と経済成長の維持が前提となっている。 もう 一つは、 自然との共生を重視し、小規模な適正技術を採用するような社会「自然 共生型社会」である。 いまの日本で直ちに自然共生を目指すことが大変難しいのは明らかである。た だし、世界全体が持続可能であるためには、 それへの転換が必要ないくつかの 理由がある。それは、 地球環境問題の解決には途上国の参加が不可欠だが、 高 度な技術には資金、人材、技術基盤などが必要であり途上国が導入することは 琵 琶 湖 と 人 の 暮 ら し 【持続可能な発展】 「環境と開発に関する世界委員会」による報告書「我々の共通の未来」 (1987年)の 中で、 持続可能な発展とは、 将来世代が自らの必要性を満たす能力を損なうことなく、 現在世代の必要性を 満たすような発展を意味する、 と定義された。 166 難しいといったことである。 そのような理由から高度な科学技術に依存する、先端 技術社会よりも地域毎の自然と人々の調和を尊重した自然共生型の自立的社会 が持続可能性が高いだ ろう。 3.滋賀の持続可能性 日本でもこのような新 たな社会に向けた小さ な規模の実際の試みが 見られるが、 府県の規模 でのビジョンの検討は、 滋 賀が最 初である。そ の目標は二酸化炭素を 指標として、2030年まで に排出量を半減させると いう目標を設定し、 試算し 図4-13-1 持続可能な滋賀のイメージ (出典:ビオシティ) ている。 その試算結果は、 技術と産業、 ライフスタイル、都市設計、物流・交通など、社会システムが、総体とし て大きく変わることが不可避ということを示唆している。 省みれば、滋賀は古来、湖の恵みが人々の生活を支え、 また天然の水路として の舟運が栄えてきた。 さらに、 自然と人の生活文化が一体となった湖岸の自然や 景観は、近江八景として知られてきた。 それゆえ、滋賀において持続可能な社会と は琵琶湖との共生がその大事な要素となるだろう。 また、 それなくしては琵琶湖が 真に望ましい姿に再生されることも難しいと思われる。 したがって、滋賀の持続可 能社会づくりの方向としては、 自然の恵みをできるだけ維持・活用した自然共生型 に軸足を置くべきだろう (図4-13-1)。 ただしこれは、現在の石油に依存した社会 を大きく変えることにつながり、 その実現への道のりが困難であることは言うまでも ない。 その選択は県民のこれからの議論に掛かっている。 琵琶湖・環境科学研究センター 内藤正明 54 もっと知りたい方へ ⃝ 【京都議定書】気候変動枠組条約に基づき、 1997年に京都市で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国 会議、COP3で議決した議定書である。正式名称は、気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書。 日本の削減量は1990年を基準に−6%。 167