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ワルシャワ通信2(2013 年 11 月 15 日 ポーランド・ワルシャワ) 日本
ワルシャワ通信2(2013 年 11 月 15 日 ポーランド・ワルシャワ) 会期 5 日目、日本に特別化石賞。 特別化石賞は長い歴史のなかでもたった 2 回しか例がない。1 回目は 2009 年 6 月 10 日。その時も、 日本に贈られている。 日本政府の増加目標に大きな反響 11 月 15 日午前、日本政府は、2020 年の温室効果ガスの削減目標を「現時点での目標 として 2005 年度比 3.8%削減とする」と発表しました。通信 1 で記載したとおり、2005 年の排出量は 1990 年比で 7.1%増加しており、 「2005 年度比 3.8%減」という目標は、 1990 年比では 3.1%増となります。すなわち、 「削減目標」ではなく、 「増加目標」です。 ワルシャワ時間午前11時から、COP19内の記者会見場で、気候変動問題に取り組む世 界のNGOのネットワークである気候行動ネットワーク(CAN)と、CASAを含む日本で気候 変動問題の国際交渉に参加しているNGOの連合体である気候行動ネットワークジャパン (CAN-J) 、政権が変わって削減目標が引き下げられたオーストラリアのNGOによる共同 記者会見が開催され、その場で、日本に特別化石賞が贈られました(写真)。 目標に値しない「目標」 政府の発表資料によれば、この目標は、「原子力発電の活用のあり方を含めたエネル ギー政策及びエネルギーミックスが検討中であることを踏まえ、原子力発電による温室 効果ガスの削減効果を含めずに設定した現時点での目標」であり、「今後、エネルギー 政策やエネルギーミックスの検討の進展を踏まえて見直し、確定的な目標を設定する。」 とされています。 -1- 野心的?良い数字? また、今回の目標は、「最大限の努力によって実現を目指す野心的な目標」で、「足 下で進展してきた省エネ等の効果を踏まえた相当程度良い数字」なのだそうです。 その理由は、一定の前提を置いて、原発の削減効果を見込まずに比較した場合、京都 議定書の6%削減目標は電力の36%を、鳩山内閣の25%削減目標も電力の42%を原発に 頼っているので、原発での削減分を除けば、京都議定書の削減目標は2005年比だと+4% になり、25%削減目標でも+2.1%なので、今回の「2005年度比-3.8%」のほうが「野 心的」で、「相当程度良い数字」なのだそうです。 しかし、原発の活用のあり方を含めたエネルギーミックスを検討中とされており、原 発を廃止するのではなく、原発を再稼働することが当然の前提になっています。それを 原発の削減効果を見込まずに比較して、今回の目標のほうが「野心的」だとか、「良い 数字」などと評価するのは恣意的に過ぎます。 エネルギー起源のCO2排出量 政府の資料では、2020年のエネルギー起源のCO2の排出量の目安は表1のとおりとされ ています。 運輸部門以外は、軒並み排出量は増加しています。全体でも、2020年に2005年比0.4% のプラスになっています。「世界最高水準の省エネを更に進める」とされていますが、 真面目に省エネを進める気があるとはとても思えない内容になっています。 表1 エネルギー起源二酸化炭素の各部門の排出量の目安(単位/百万 t-CO2) 2005 年 2012 年 (速報値) 2020 年 2005 年比 削減率(目安) 産業 459 431 484 5.4% 業務その他 236 259 263 11.4% 家庭 174 203 176 1.1% 運輸 254 227 190 ▲25.2% 79 86 95 20.3% 1202 1206 1208 0.4% エネルギー転換 合計 再生可能エネルギーは? 発表資料を見る限り、再生可能エネルギーがどの程度見込まれているかははっきり しません。資料では、「再エネ導入を含めた電力の排出原単位の改善」で目標の達成を 目指すと書かれているだけで、具体的に2020年にどのくらい再生可能エネルギーの導入 を見込むかの記載はありません。 -2- ワルシャワ時間午後2時30分から、COP19会議場内で行われた日本政府の記者会見で は、再生可能エネルギーの導入目標について質問され、エネルギーミックスの検討中な ので、再生可能エネルギーの導入は入っていないと答えていました。 もしこの記者会見での回答のとおりであれば、いくら「現時点の目標」であっても、 再生可能エネルギーの導入見込みが入っていない削減目標など、目標の名に値しません。 世界中から非難の声 今回の日本の増加目標に対し、世界中から非難の声がわき上がっています。 温暖化対策を進めるための世界のキャンペーン団体「Tcktcktck」は、各国にある日 本大使館にでかけて、IPCCの温暖化に関する最新の科学レポートと一緒に、下記のよう なメッセージを送ろうとのキャンペーンを始めました。 日本政府交渉団の皆様 新しい排出削減目標では大いに笑わせていただきました。まさか本気でお 考えではないでしょうね? 今まであんなによくやってきていたのに残念です。もともとの目標であっ た 1990 年比 25%の削減では、その野心的な目標設定に世界が期待をしてい ました。それなのに、世界中の新聞に日本の新しいターゲットが 1990 年比で 3.1%増加という記事が踊っています。日本が公式に目標を出すときには、こ れらの噂が馬鹿げたものだと思えるのでしょうね。 もしかしたらこれが役に立つのではないかと思うので、送ることにしまし た。IPCC の第 5 次報告書です。たぶん削減目標を決める前にこれを読んだ方 がいいと思います。覚えているかわかりませんが、数年前に注文しましたよ ね?それからだいぶ時間がたって、いろんなことが変わったし、たぶん忙し すぎて読む時間がなかったんじゃないでしょうか。それとも、宅配ミスで届 いていませんでしたか?どっちにしろ、これが最新の科学が排出削減の重要 性と緊急性について言っていることです。きっと野心的な削減目標を発表す るときに役に立つに違いありません。勉強してください。 きっと楽しいと思います。本当のターゲットを聞くのを楽しみにしていま す。 各国政府からも非難の声が相次いでいます。 28 ヵ国で構成される欧州連合(EU)は、東日本大震災の難しい状況には理解を示し つつ、以下のとおり、これまでの目標を堅持することを呼びかけています。 欧州連合は、今日発表された日本の 2020 年目標が相当引き下げられたことに 遺憾の意を示す。我々は、日本が 80%削減すると約束した 2050 年目標を思い起 こし、日本の新しい削減目標が国際的な削減活動に与える影響について検討する -3- ことを促す。 イギリスも、以下のようなステートメントを発表しました。 世界第 3 位の経済大国である日本は、野心的行動の先頭に立っていなければな らない。日本の 160 億ドルの資金提供については歓迎するが、これは野心的な削 減目標を代替するものではない。私たちは、日本政府がエネルギー政策を明らか にし、近い未来、目標を引き上げるよう促す。 44 ヵ国で構成される小島嶼国連合(AOSIS)も、「日本の新目標は島嶼国を更に危険な 状態に置く」として、以下の声明を発表しました。 日本は世界の温室効果ガス排出大国の一つだ。今回の発表数値は、地表の平均 気温上昇を 1.5−2℃に抑えるという世界の努力に反し、島嶼国の人々を更に危険 な状態に曝す。今は、コペンハーゲンで世界の首脳が掲げた目標を下げる時では ない。 日本の NGO の共同声明 COP19 に参加している日本の NGO は共同で以下の声明を発表しました。 共同声明 日本政府は、2020 年増加目標を撤回し、野心的な目標の再提出を! 2013 年 11 月 15 日(ポーランド・ワルシャワにて) 「環境・持続社会」研究センター 足立治郎 気候ネットワーク 平田仁子 WWFジャパン 山岸尚之 地球環境と大気汚染を考える全国市民会議 早 川 光 俊 FoE Japan 小野寺勇利 本日、日本政府は、2020 年の削減目標を「2005 年度比 3.8%削減」とすること を発表した。2005 年度の排出量は、1990 年比で 7.1%増加しており、今回の日本 の 2020 年目標は、1990 年比では 3.1%増となる。すなわち、今回の日本の 2020 年目標は、削減目標ではなく「増加目標」である。 2009 年 9 月、日本政府は国連気候変動サミットで、2020 年 25%削減目標を公 約した。25%削減目標を放棄し「増加目標」とすることは、国際的な背信行為で ある。 現在、ここポーランド・ワルシャワで、気候変動枠組条約第 19 回締約国会議 (COP19)が開催されている。最大の課題の一つは、平均気温の上昇を 2℃未満に 抑制するために必要な排出量との乖離(ギャップ)を解消することである。その ために、ダーバンプラットホーム作業部会(ADP)で、各国の 2020 年目標を引き 上げるための交渉が行われている。こうした中での今回の日本政府による増加目 標は、各国の交渉に水をさし、交渉の足を引っ張るという大きな悪影響を及ぼす -4- ものである。 2011 年 3 月、福島第一原子力発電所は、3 基の原子炉が同時にメルトダウンす る、国際原子力事象評価尺度(INES)レベル 7 の事故を起こした。今回の増加目 標の背景には、温室効果ガスの削減を原発に頼ってきたことがある。 しかし、日本の NGOs の検討では、省エネを進め、エネルギー源を再生可能エネ ルギーに転換することにより、原発に頼らず 2020 年に大幅な削減が可能との結果 になっている。 WWF ジャパンのエネルギーシナリオでは、エネルギー起源の CO2 排出量を 1990 年比で 25%削減することが可能であることを示している。2020 年時点で原発をゼ ロとするために、化石燃料で代替したとしても、約 18%〜22%の削減が可能との結 果になっている。 気候ネットワークの分析でも、原発ゼロを前提に、省エネ・再生可能エネルギ ーの推進、及び燃料転換によって、2020 年に 26%の削減が可能との結果を得てい る。 CASA が独自に開発した「CASA2020 モデル」での検討では、全原発を即時に廃止 しても、2020 年に 25%の削減が可能で、経済への影響もほとんどないとの結論に なっている。 COP18 で、日本政府は京都議定書の第 2 約束期間の削減目標を拒否し、京都議 定書から事実上離脱した。加えて増加目標を掲げることになれば、日本は世界で 地球温暖化防止にもっとも消極的な国との評価を受けることになる。 日本政府は、増加目標を撤回し、改めて今気候変動対策のために日本が必要な こと・できることを検討し、野心的な目標を再提出すべきである。 また CASA も、以下の声明を発表しました。 CASA 声明 2020 年 25%削減目標を維持し 25%削減目標を維持し、 %削減目標を維持し、増加目標の撤回を! 本日、日本政府は、2020 年の温室効果ガスの削減目標を「現時点での目標とし て 2005 年度比 3.8%削減」とすると発表した。今回の日本の 2020 年目標は、1990 年比で 3.1%増となる「増加目標」である。 現在、ポーランド・ワルシャワで、気候変動枠組条約第 19 回締約国会議(COP19) が開催され、平均気温の上昇を 2℃未満に抑制するために必要な排出量との乖離 (ギャップ)を解消するため、各国の目標を引き上げるための交渉が行われてい る。こうした中で増加目標を公表することは、COP19 での交渉に対する著しい妨 -5- 害行為である。 また、今回の目標は政府部内だけで決定し、その過程はまったく公開されず、 市民からの意見聴取(パブリックコメント)も行われていない。将来世代の生存 に関わるこのような重大な政策決定を密室で行ったことは強く非難されるべきで ある。 今回の目標は、 「原子力発電による温室効果ガスの削減効果を含めずに設定した 現時点での目標」とされている。すなわち、原発について稼働ゼロと想定したこ とが増加目標になった理由とされている。しかし、原発に頼らなくても、温室効 果ガスの削減は可能である。 CASA が独自に開発した「CASA 2020 モデル」での検討では、省エネ対策などに よるエネルギー需要量の削減と、エネルギーシフト(脱原発・脱化石燃料、再生 可能エネルギーの普及)により、2020 年に CO2 排出量を 1990 年比で 24.4%削減 可能で、これにフロンガスなどでの削減を加味すれば、25%削減は十分可能であ る。さらに、こうした対策の実施によるマクロ経済への悪影響もほとんどなく、 むしろ 2020 年に年 37 兆円の生産誘発、215 万人雇用増加などの経済波及効果が 見込まれている。 日本政府は京都議定書の第 2 約束期間の削減目標を拒否し、京都議定書から事 実上離脱した。2009 年 9 月、国連気候変動サミットで、鳩山内閣は 2020 年 25% 削減目標を国際的に約束した。25%削減目標を放棄し、 「増加目標」とすることは、 世界と将来世代への背信行為であり、日本は世界で地球温暖化防止にもっとも消 極的な国との評価を受けることになる。 日本政府は増加目標を撤回し、国際公約となっている2020年25%目標を維持す べきである。震災と津波で百数十カ国から受けた国際支援に対する応えが、25% 目標の放棄と増加目標であってはならない。 会議場から 日本政府が「増加目標」を発表してくれたおかげで、今日は「JAPAN DAY」でした。 ワルシャワ時間午前 11 時から始まった、CAN と CAN-J との合同記者会見では、まず、 中東の若者が、真っ白なシーツに身を包み、フィリピンを襲った台風 30 号による被害 者の死体を装い床に横たわり、その横で何事もなかったかの様子で、寿司やハンバーガ ーを食べる日本の若者とオーストラリアの若者によるパフォーマンスが行われ、続いて、 CAN インターナショナル事務局長、気候ネットワークの平田さん、オーストラリアの NGO と若者の代表がスピーカーとなって記者会見が行われました。その後、いつもは午後 6 時から行われる化石賞の受賞式を繰り上げ、日本にスペシャル化石賞が授与されました。 記憶が正しければ、日本に特別化石賞が贈られるのは、2009 年に麻生政権が 1990 年比 15%という低い削減目標を発表した際と今回の 2 回だけです。 -6- ワルシャワ時間 11 月 15 日午前 11 時からの記者会見の様子 記者会見場には、会場を埋める 120 名の内外のメディアが参加し、関心の高さを示 していました。 発行:地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA) 〒540-0026 大阪市中央区内本町 2-1-19 内本町松屋ビル 10-470 号室 TEL: 06-6910-6301 FAX: 06-6910-6302 早川光俊、大久保ゆり、土田道代 現地連絡先: 早川光俊 +81 9070961688、[email protected] 大久保ゆり +48 785 391 686、[email protected] 土田道代 +81 9042998646、[email protected] #これまでの通信は、以下のサイトをご覧ください http://www.bnet.jp/casa/cop/cop.htm -7-