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コミュニケーションとリーダーシップの技術

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コミュニケーションとリーダーシップの技術
熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
コミュニケーションとリーダーシップの技術 : 対人関係
のプロフェッショナルを目指して
Author(s)
吉田, 道雄
Citation
: 1-36
Issue date
2012-03
Type
Learning Material
URL
http://hdl.handle.net/2298/24181
Right
コミュニケーションとリーダーシップの技術
-対人関係のプロフェッショナルを目指して-
熊本大学
吉田道雄
ら 800 年ほど前の 1212 年の成立とされま
1.リーダーシップの基礎
すが、〝河の流れ〟を〝組織や集団〟に読
1) 人間理解とグループ・ダイナミックス
み替えれば、まさに〝 Group Dynamics
私たち人間は文字通り〝人と人の間〟に
〟的な見方ではないかと感動を覚えます。
生きています。毎日の生活が人との関わり
ともあれ、〝グループ・ダイナミックス〟は
の中で営まれているのです。皆さんは〝グ
〝集団の中の人間〟に焦点を当てる研究領
ル ー プ ・ ダ イ ナ ミ ッ ク ス ( Group
域ということです。
Dynamics) と呼ばれる研究領域があるこ
ところで、心理学は〝人間行動を理解す
とをご存じでしょうか。日本語では英語を
る学問〟ですが、グループ・ダイナミック
〝集団力学〟と直訳しています。私たちは
スでは、〝集団を理解することが人間理解
スポーツ中継などでアナウンサーや解説者
に繋がる〟と考えます。一人ひとりの行動
たちが〝じつにダイナミックなプレーでし
をどんなに細かく分析しても、人間の本質
たね〟などと表現するのをよく聞きます。
はわからないのです。
英語の〝 dynamic 〟は形容詞ですが、
こうした話をすると、〝孤独な人間だっ
辞書を引くとまずは〝動的な〟〝力強い〟
〝精力的な〟といった訳語が付いています。
それに続いて、物理学の用語として〝力学
ているではないか〟と反問する人がいます。
ところが、〝孤独〟ということばくらい集
団と関わりの深いものはないのです。もし、
的な、力学の〟といった意味が載っていま
すべての人間が生まれてすぐに1人で生き
す。また名詞形として〝力、(特に活動な
ていくのであれば、〝孤独〟という単語は
どの)原動力〟という意味もあります。こ
いらないでしょう。それが当たり前の状態
れに〝 s 〟が付いて〝 dynamics 〟になる
なのですから。しかし、〝孤独な人〟は、
と、物理学の用語として〝力学、動力学〟
自分から進んでそうしているのか、あるい
が出てきます。この場合には〝単数扱い〟
は心ならずもそうなってしまったのかは別
になっています。そして 2 番目の意味とし
にして、〝集団〟や〝組織〟、さらには〝
て〝(肉体的、精神的)原動力〟が登場し
ますが、こちらは〝複数扱い〟なんですね。
さらに 3 番目には〝成長[変化、発達]の型
社会〟に所属していない人たちのことを指
しているのです。
しばらく前から〝引きこもり〟が社会問
・歴史〟とあります(以上、電子版ランダ
題になっています。これも〝家族〟や〝社
ムハウス英和辞典)。
会集団〟との関わりがうまくいかないとこ
こうしたことを見ても、グループ(集
ろに原因があります。見た目には〝独りぼ
団)は絶え間なく変化するものだというこ
っち〟なのですが、やはり〝集団〟との関
とがわかります。もちろん、それが必ずし
わりを抜きにしては理解も解決もできない
もプラスの〝成長〟や〝発達〟の方を向い
問題なのです。
ているとは限りません。〝ゆく河の流れは
このように、〝人間を理解する〟ために
絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
は〝集団的な視点〟が欠かせないことがお
よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、か
わかりでしょう。
つ結びて、久しくとゞまりたるためしなし
さて、人と人とが出会えばそこに対人関
… 〟。鴨長明の〝方丈記〟冒頭です。今か
-1-
係が生まれます。グループ・ダイナミック
ーシップを発揮していると見なされます。
スでは、二人以上の人間がお互いに影響を
また、議論とともに〝影響する人が代わっ
与え合っていれば集団が成り立つと考えま
ていく〟点に注目すれば、〝リーダーシッ
す。したがって、〝1対1〟の対話は最も
プは流動的〟だと考えることができます。
小さな集団における出来事ということにな
それが〝相互の影響過程〟ということです。
ります。
そうなると、〝人と人とが仕事をしている
グループ・ダイナミックスでは、リーダ
ときは、いつもリーダーシップがあるので
ーシップを〝他者に対する影響力〟と定義
はないか〟と思われるかもしれません。じ
しています。あるいは他者に対する〝影響
つはその通りなのです。
過程〟と言ったりもします。ここで大事な
もちろん、リーダーシップは職場に限定
のは、リーダーシップが〝公式の地位〟に
されたものではありません。私たちは日ご
限定されたものではないということです。
ろどこにでもある〝対人関係〟の中でお互
もちろん、職場をはじめとして組織には公
いに影響を与え合っています。そうした視
的な職位があり、いわゆる〝上司〟や〝上
点から見れば、すべての人々がリーダーシ
役〟と呼ばれる人たちがいます。こうした
ップを発揮していることになります。そこ
立場にいれば、リーダーシップを発揮する
で、効果的な〝対人関係〟を築いていくた
ことは〝仕事そのもの〟だと言えるでしょ
めには、リーダーシップを理解し、そのス
う。しかしながら、〝他者に影響を与える
キルを磨いていくことが必要になってきま
〟のは〝上役〟だけではありません。職場
す。
の先輩が後輩を指導するのは当然のことで
すが、このときも〝他者である後輩に対す
2) テクニカルスキルとヒューマンスキル
る影響力〟が必要になります。また、似た
私たちが仕事を進めていくには、それに
ような経験や能力をもっている仲間たちが
必要とされる専門的な知識や技術が欠かせ
仕事について議論することもあるでしょう。 ません。それらを身につけるために、学校
そんなときは、立場上はまったく同列に並
をはじめとした様々な教育機関があります
んでいます。しかし、ここでも〝お互いに
し、社会に出てからもそれぞれの場で教育
対する影響力〟は発揮されます。ある人が
が行われます。また、日々の仕事の中でも、
意見を言い、それを他のメンバーたちが納
知識や技術を向上させていくことが期待さ
得する。あるいは誰かが反論して、そちら
れています。こうした専門的な知識や技術
の方が受け入れられる。また議論が沸騰し
を〝テクニカル・スキル(Technical Skill)
過ぎて先に進まないとき、その場をうまく
〟と呼ぶことにしましょう。
まとめて収拾する …。こうした行動はすべ
ところで、仕事をスムーズに進めるため
て〝他者あるいは他者たち〟に〝影響〟を
には、〝テクニカル・スキル〟だけがあれ
与えているわけです。つまりはリーダーシ
ばいいのでしょうか。世の中には〝仕事は
ップが発揮されているのです。あらかじめ
できるのだけれど、職場の人間関係がうま
決められたリーダーがいない場合でも、相
くいかない〟と悩んでいる人がけっこうい
対的により多くの影響を与えた者がリーダ
ます。また、〝あれだけの力があるのに、
-2-
もう少し部下のことに気を配れるといいん
ワク〟した気分で 1 日のスタートを切りた
だがなあ〟と惜しまれているリーダーもい
いものです。それによってスムーズな対人
ます。こうした人たちは〝テクニカル・ス
関係を創り上げることもできるのです。ア
キル〟はもっているのですが、その一方で
メリカのウイリアム・ジェームス(William
何かが欠けているわけです。それは対人関
James,1842-1910)という心理学者がいまし
係に関する知識や技術だということができ
た。彼は 100 年ほど前に、〝人は悲しいか
るでしょう。こちらは、〝テクニカル・ス
ら泣くのではなく、泣くから悲しいのだ〟
キル〟に対して、〝ヒューマン・スキル
と言っています。ことばだけ聞くと逆のよ
(Human Skill) 〟と言うべきものです。自分
うな気がします。しかし最近では、ある種
に与えられた仕事を首尾よく進めるために
の筋肉を刺激すると意欲に関係する脳内物
は、この2つの〝スキル〟を欠くことがで
質が分泌されるという研究も報告されてい
きないのです。
ます。〝気持ちが安定していなければ、明
ここで、私が提唱している〝リーダーシ
るく振る舞うこともできない〟というのが
ップ力の公式〟をご紹介しておきましょう。 これまでの発想でしょう。しかし、意識し
詳細は別の機会に譲りますが、まずは①リ
て元気な行動をしているうちに、やる気が
ーダーシップは〝(影響)力〟であること、 高まってくることも事実なのです。〝朝か
②それは、〝専門力(Technical Skill)〟
らワクワクなんてできる心境じゃない〟と
と〝人間力(Human Skill)〟のかけ合わさ
あきらめずに、まずは気持ちだけでも〝ウ
れた結果であり、③さらに、その〝力〟は
キウキ〟するように試みることも必要なの
フォロワーの人数によっても影響を受ける
です。朝から〝にこにこ〟していれば体の
ことを示しています。ここで〝フォロワー
方から意欲が高まってくるということです。
〟とは職場の部下やスタッフなど、リーダ
笑顔は周りの人たちの気持ちもよくする
ーが指導する人たちのことです。
はずです。私は〝スマイルのインフレを実
現しましょう〟と提案しています。経済で
2 朝からワクワク人生の心
はインフレもデフレも困るのですが、〝ス
いつも前向きの気持ちでいることは、〝
マイルのインフレ〟は組織の雰囲気を変え
対人関係〟にとって大変重要な要素です。
ていく力になるはずです。皆さんのところ
人と出会ったとき、相手を沈んだ気持ちに
でも〝インフレターゲット〟を設定されて
させるようでは〝対人関係のスキル〟に優
はいかがですか。これなら、目標 10 %十
れているとは言えません。毎朝、すっきり
分に達成できる数値です。
目覚めて〝今日もいい日に違いない〟と思
いずれにしても、朝から〝ワクワク〟の
うとつい叫んでみたくなる。そんな〝ワク
気持ちで生活を送ることができるのも、〝
ヒューマン・スキル〟の1つだと考えまし
ょう。
3) ほめる免許
人からほめられて気持ちが悪い人はいな
「リーダーシップ力」の公式
-3-
いでしょう。ほめることは対人関係をスム
ろか、〝なにか下心があるんじゃないか〟など
ーズにする基本的な技術だということがで
と、その真意を疑ったりするかもしれません。
きます。それでは、ほめるスキルを向上さ
それでは、自分が尊敬している人、こんな人
せるためにはどうしたらいいのでしょうか。 になりたいと憧れている人がほめてくれたらどう
私は〝ほめる免許〟が必要だと言っていま
なるでしょう。この場合は有頂天になって喜ぶ
す。もちろん、それを取るために運転免許
はずです。ときには、それが見え見えのお世辞
のように学校に通う必要などありません。
だとわかるようなことがあるかもしれません。しか
自分が人からしっかりほめられることで免
し、それでもけっこう嬉しがるんじゃないでしょう
許が取れるのです。しかもその程度によっ
か。じつに対照的な反応ですが、この両者には
て免許のグレードが決まります。
どんな違いがあるのでしょうか。それは、〝ほめ
〝自分は部下をちゃんとほめているけれど、部
る人物〟自身が、〝ほめる相手〟からほめられ
下からほめられたことがないなあ〟と苦笑いされ
ているかどうかということです。つまりは相手から
ている方はいらっしゃらないでしょうね。それって
〝ほめられて〟いることが、〝ほめる〟効果に
立派な〝無免許運転〟状態なんですよ。〝いや
とって欠かせない〝対人関係のインフラ〟な
いやほめられたことってあることはあるよ。滅多に
のです。
ないけど〟などと言い訳をしてもダメです。それで
私たちの周囲には、〝自分は部下からほめ
は〝 C 級ライセンス〟しかあげられません。〝そ
られたことはないが、部下をほめるのはうまいつ
こそこほめられている〟方には〝 B 級ライセンス
もりだ〟などと自慢している管理者の方がいら
〟にしましょう。そして、〝いつもほめられている
っしゃいます。それが謙遜であればいいのです
〟のでしたら、めでたく〝 A 級ライセンス〟獲得
が、もしも本当のことだとすれば、その方はリー
ですね。ただし、それは〝永久ライセンス〟でな
ダーとしてはかなり危うい状況にあります。何と
いこともしっかり覚えておきましょう。〝これで安心
言っても、〝無免許〟で〝ほめている〟のです
〟と油断をしていると、ほめ損なって〝免停〟に
から…。
だってなるのです。それどころか、この世の中には
5) 無免許運転の危険性
〝免許剥奪〟の憂き目に遭って泣いている人が
これまでのところで、〝ほめる免許〟の
いるかもしれません。対人関係の免許は取得する
必要性とその取得法についてお話ししまし
のも維持するのもけっこうむずかしいんです。
た。さらに〝無免許〟のままで対人関係の
4) 免許取得のインフラ
世界を運転するとどんな問題が起きるかに
さて、どうして〝ほめる免許〟は自分が相手
ついても考えておきましょう。そこには 3
から〝ほめられる〟かどうかで決まるのでしょう
つの〝危うさ〟が潜んでいます。
か。それは〝ほめる〟ことが効果をもつために
まず第 1 に、〝ほめることをしても気づ
は、相手との間にインフラが整備されている必
かない〟ことが挙げられます。人が大きな
要があるからです。
こと、すごいことをしたときには、誰だっ
自分が尊敬できなかったり、まったく評価して
て気づきます。しかし、とくにリーダーに
いない人からほめられたとき、天にも昇るほど嬉
は人をほめるために小さなことにも気づく
しがるなんて人はいないでしょう。そんなことが
感受性が求められます。他の人は気づかな
あれば、〝えーっ、私をほめるなんて、あの人ど
い相手のちょっとした行動や仕事ぶりのい
うしたんだろう〟と驚いてしまいます。それどこ
-4-
いところを見つけてほめることが大事なの
いれば、〝こんなささやかなことでもほめ
です。それがほめられた方にとっても大き
てもらうと嬉しいんだよなあ〟と思い当た
な喜びになります。〝この人だからこそ、
るはずです。そこでタイミングよくほめて
私のこんな小さなところにも気づいてくれ
あげれば、相手の意欲も高まるのです。そ
たんだ〟。そんな気持ちになったとき、リ
れなのにせっかくのチャンスを逃がしてし
ーダーがより身近で信頼できる人だと思え
まうなんて、もったいない話ではないです
るでしょう。ところが、自分自身がほめら
か。
れたことがないと、相手がほめるべきことをして
ここでもまた反論されるかもしれません
いても、それに気づかないわけです。何と言っ
ね。〝そんなチョンボなんてしないよ。小
ても、〝無免許〟のリーダーにはその実体験が
さなことでも、気づいたらほめるに決まっ
ないからです。
ているじゃないの〟。こんな台詞が聞こえ
ところで、〝ほめる、ほめる〟と強調す
てきそうです。たしかにおっしゃる通りかも
ると、〝どこか軽いなあ〟と思われる方が
しれません。しかし、ちょっと待っていただ
いらっしゃるようです。そんなときには〝
きたいのです。じつは、〝無免許〟にはまだ
それでは評価すると言い換えてはいかがで
困ったことがあるのです。それは〝ほめる
すか〟とお勧めしています。〝小さなこと
〟ことをリアクションだと勘違いする可能
でもきちんと評価する〟ことはリーダーシ
性です。これが第 3 点目の問題です。相手
ップの基本です。
が〝ほめること〟をするまで漫然と待って
〝小さなことに気づかない〟ことが問題
いる。これでは〝ほめるチャンス〟を偶然
だと言うと、〝自分はほめられたことはな
に任せていることになります。とりわけ職
いが、それほど鈍感じゃないよ〟と言われ
場のリーダーには、部下たちを育てるため
る方もいらっしゃるでしょう。しかし、こ
に〝ほめること〟をするような場を創るこ
こに〝無免許〟に伴う第 2 の問題点がある
とが求められるのです。それは〝演出する
のです。つまりは、〝ここはほめてもいい
〟と言ってもいいでしょう。ただじっと自
かなあ〟とは思っても、〝自分がこんなこ
分の席に座っていて、〝部下たちはほめる
とでほめられても嬉しくも何ともないだろ
ことをしない〟と嘆いていても仕方がない
うなあ〟などと勝手に決めつけるわけです。 のです。部下たちが〝ほめること〟をする
ように演出する。それは〝ほめること〟が、
いろんなことで〝ほめられる〟体験をして
相手の行動に対するリアクション(反応)
ではなく、アクション(意識的働きかけ)
ほめるリーダーシップ
だと考えることです。
ところで、〝ほめること〟に関して、〝
驚育〟の重要性を強調したいと思います。
自分が指導する部下やフォロワーたちが〝
ほめる〟に値することをしたときには、そ
の力に〝驚いて〟ほしいのです。リーダー
が心から驚く姿を見れば、フォロワーたち
-5-
はさらにいい仕事(行動)をしようという
待は発達段階を問わないようです。これは、
意欲を高めるのです。これこそ〝驚育=ほ
ちゃんと〝叱るべき〟ときに〝部下を叱っ
める〟ことそのものなのです。
ていない〟リーダーがいるということでも
ともあれ、〝ほめられ体験〟を通して対
あります。一般的には、〝今の若者たちは
人関係で欠かせない〝ほめるスキル〟も向
叩かれるとすぐにくじける。下手に叱ると
上するわけです。皆さん、自分自身が〝朝
そっぽを向いてしまう〟などと言いながら、
からほめられたいの心〟を大事にしていき
叱ることを避ける傾向があります。おそら
ましょう。
くそれは、〝下手に叱って〟いるからでし
ょう。ここで重要なのは、リーダーにも部
6) 叱る免許
下たちにも、〝これは叱るべきだ〟〝ここ
ところで、〝人を指導するときは、ほめ
は叱られても仕方がない〟という共通の認
るばかりでなく、しかることだって大事だ
識があることです。ただ理由もわからない
ろう〟と思われるかもしれませんね。もち
ままに叱られたのでは誰だって混乱します。
ろん、〝しかるべきときにはちゃんと叱る
それどころか、相手のことを思って叱って
〟ことはリーダーシップの重要な要素です。 いるにもかかわらず、〝うちの上司は自分
の欲求不満を部下たちにぶつけてくる〟な
そこで、〝ほめる免許〟があるのなら、〝
しかる免許〟だってあってもいいじゃない
どと誤解されたりもします。これではリー
かと思います。そうですね、私は〝叱る〟
ダーとして立つ瀬がありませんね。
しかし、そんな受け止め方をされるのは、
のにも〝免許〟というか〝技術〟が必要だ
叱る理由をしっかり押さえていない上司が
と思っています。
いろいろな職場で〝上司にどんなことを
いるからでしょう。あるいは〝叱る理由〟
期待するか〟について部下たちに意見を聞
はしっかりしていても、つい大声を出すな
いたことがあります。その結果、〝叱るべ
ど、冷静さを欠いた雰囲気になると、部下
きときには叱ってほしい〟という声が少な
たちからは〝八つ当たり〟しているように
からず出されたのです。学校でも子どもた
見られてしまうわけです。こうした事態を
ちに対して、教師に期待する行動を聞いた
避けるには、まず第 1 に、叱る側と叱られ
ときにも同じような項目が挙がってきまし
る側に共通の物語が成立している必要があ
た。これはなかなか興味深いことです。
ります。つまりは、〝叱る理由〟が明らか
になっているだけでなく、〝叱られる理由
そんなわけで、〝叱る〟ことに対する期
〟も納得されていることが大事なのです。
〝叱る〟技術
〝叱る〟免許にとって第 2 のポイントは
★ 〝叱る〟側と〝しかられる〟側に共有される「物語」をつくる
〝失敗した者の人格を責めずに、その原因
★ 人格を責めず、原因を追及する
をしっかり押さえる〟ことです。〝どんな
★ 失敗したときは、再挑戦のチャンスを与える
ことをしても、おまえはダメなんだ〟。〝
〝ほめる〟と〝叱る〟リーダーシップ
人格〟を責めている典型的なパターンです。
〝叱る〟ときは、重箱の隅をつつかない、昔話をしない
しかし、寅さんではありませんが、〝それ
★ 「ほめる」ときは、
「重箱」の隅に残った米粒の
その裏まで見ながらほめましょう。
★ 「叱る」のは、
「重箱」の蓋を割ったときにとどめましょう。
を言っちゃあおしまいよ〟です。そこには
-6-
リーダーとして〝育てる視点〟が欠けてい
いずれにしても、叱り方には工夫がいり
るのです。それに〝人格〟を否定するとこ
ます。その点で〝叱る〟のは〝ほめる〟よ
ろまで至れば、人間そのものをつぶしてし
りも格段にむずかしいのです。
まう可能性だってあるのです。それはリー
そんなわけで、〝ほめる〟ために必要な
ダーにとってもむずかしいことではありま
条件はとくにありません。とにかく気づい
すが、喉まで出てきた一言をグッと飲み込
たらほめればいいのです。これに対して〝
んでおきたいものです。
叱る〟ときにはお互いに共通の〝物語〟が
そして、第 2 番目に、失敗したときには、事
成立しているという条件が必要だと言いま
情が許す限り〝再挑戦〟のチャンスをあげたい
した。よく〝いつも重箱の隅をつついてば
ものです。何の失敗もなく前に進んでいく部下
かりいる〟などと嫌がられる人がいます。
たちばかりであれば、リーダーとしては心配もい
細かいことで文句を言ったり揚げ足を取っ
りません。これに対して失敗を繰り返すフォロワ
たり、そして叱ったりしていると、こんな
ーがいると、つい怒りを表に出したくなることもあ
目で見られます。そんな叱り方をしてはま
るでしょう。そんなとき〝人格も否定せず、我慢、
ずいのです。些細な理由で叱られると気分
我慢〟などと言われれば、〝こちらの気持ちが
がよくありません。〝そんなことは言われ
折れそうになる〟と反論したくもなるでしょう。し
なくてもわかってる〟と反発したくなりま
かし、そこがリーダーとしての〝我慢のしどころ、
す。
正念場〟ということです。それによって〝自分も
ともあれ、ほめるときは〝重箱の隅に残
成長する〟という気持ちで踏ん張っていきまし
った米粒の裏側までいいところ〟を探しま
ょう。
しょう。これに対して〝叱る〟のは、重箱
の蓋を割るくらいの大きなことをしたとき
7) 重箱のバランス
でいいのです。リーダーとしては、このバ
ところで、〝ほめる〟場合は、どんな小
ランスをうまく取ることが求められている
ということです。
さなことでもそれなりの効果があります。
これとは対照的に、〝叱る〟のは一定の水
ところで、効果的に〝叱る〟には、〝叱
準を超えるときまでは抑えておいた方がい
る側〟と〝叱られる側〟が物語を共有する
いですね。細かいことで繰り返し叱られる
ことだけでなく、リーダーの個人的な力が
のは、誰だって気分のいいものではありま
ものを言います。朝から晩まで〝大声で怒
せん。また〝叱りついで〟に、〝あのとき
鳴り立てるだけ〟などと部下から認知され
もこうだった、ああだった〟と過去のこと
た上役の影響力は皆無と言っていいでしょ
まで蒸し返していては嫌われるに決まって
う。〝ほうら、今日はご機嫌が悪いぞ〟な
います。さらに、みんなの前でこれ見よが
どと部下たちがひそひそ話をする。〝どう
しに叱るのも避けないといけません。そも
せ怒り疲れたらおとなしくなるんだから…
そも人が叱られているのをじっと聞いてい
〟。これではリーダーの権威も吹っ飛んで
るのはいやなものです。それに快感を感じ
しまいます。それは悲劇と言うよりも喜劇
るような人は自分の神経を疑った方がいい
ではありませんか。
これに対して、部下たちから仕事の上で
でしょう。
-7-
一目置かれているリーダーは、〝叱る〟こ
ーが〝 5 分や 10 分遅れるのは常識〟と考
とでも大きな影響力があります。その違い
えていれば、誰も決められた時間には集ま
はリーダーが仕事についてしっかり専門性
らないでしょう。そんな集団で時間通りの
をもっていることがポイントになります。
行動をとれば、〝いい格好しいだ〟〝融通
この力が〝叱り〟と組み合わさると、大き
の利かない人間だ〟などと言って仲間外れ
な力を発揮するのです。これに対して〝ほ
にされかねません。こんなところで、一人
める〟ときは〝何でもあり〟です。どんな
ひとりに〝時間を守りなさい〟と言っても
小さなことでも評価してあげましょう。
効果は期待できないでしょう。何らかの方
法で、規範、つまりは常識を改善すること
を考えなければなりません。
8) 集団の力を生かす心
人間を理解するためには集団の理解が欠
かせないことは、すでに述べた通りです。
集団のリーダーに直接働きかけることなど
集団は人々の行動に、様々な影響を及ぼす
は1つの方法でしょう。これがうまくいけ
からです。〝3人寄れば文殊の知恵〟と言
ば全員に当たらなくても集団は変わってい
います。集団は個人では達成できないこと
くものです。グループ・ダイナミックスの
を可能にしてくれます。みんなの力を合わ
領域では、こうした集団に起こる様々な事
せれば、かなりのことができるのです。し
象に働く力について研究が行われています。
かし、その一方で〝船頭多くして船山に上
私たちも、こうした集団の力を理解して、
る〟といったことわざもあります。〝自分
それを有効に使うことを学ぶ必要がありま
が、自分が〟と、みんなが個人の意見ばか
す。このことは、〝1対1〟の対人関係の
り主張していては、集団はまとまらないど
場にも当てはまります。それは最小集団に
ころか、とんでもない方向に行ってしまい
おける対人関係であり、二人は互いにリー
ます。このように、集団には光と影がある
ダーシップを取り合う関係でもあるからで
のです。
す。
ところで、集団を動かす場合に、すべて
2.対人関係2つの目、3つの鏡
のメンバーに同じように働きかけるのは無
理な話です。それに同じことをしても人に
1) 2つの目
よって感じ方や反応も違ってくるものです。
目の不自由な方もおられますが、私たち
そんなときは、〝集団の力〟を活用するこ
には2つの目が備わっています。それは、
とを考えましょう。グループ・ダイナミッ
ものを立体的に見るためだと言われていま
クスでは〝集団規範〟ということばを使い
す。それぞれの網膜に写る像にはズレがあ
ます。これは要するに、集団のみんなが当
ります。これを〝両眼視差〟と言っていま
たり前だと思っている〝常識〟のことです。 すが、このズレによって、奥行きについて
の知覚が生まれるのです。ここで人間を見
人は自分が所属する集団の規範に従って
行動します。〝時間を守る〟ことが当然と
る目について考えてみましょう。私たちに
されているところでは、個別に指導しなく
は、やはり2つの視点があることがわかり
ても遅刻する人はいないでしょう。メンバ
ます。それは〝日常の目〟と〝科学の目〟
-8-
と言えるようなものです。〝日常の目〟は、 ついていたら、すぐにそれを取ろうとする
人の行動や態度について、主観的で経験的
はずです。〝顔におかしなものが付いてい
な立場から判断します。そして、それは感
るのを写すなどけしからん〟と言って鏡を
情を伴っています。人の行動を見て、〝自
放り投げる人はいません。こんなとき、私
分はあんな馬鹿なことはしないし、これま
たちは自分の姿を整えるための大切な道具
でしたこともない。とんでもない人だ〟と
として、鏡を使っています。これと同じよ
いった反応は、日常の目で人間を理解して
うに、他人は自分の行動を写す鏡だと考え
いる典型的な例でしょう。もちろん、主観
ることができます。自分の行動が他人に影
的で、経験を大切にすることにも、重要な
響を与え、それが私たちに対する行動とし
意味があります。〝人の苦しみに共感する
て返ってくるからです。相手の行動を〝日
〟〝夕日の美しさに感動する〟といった体
常的な目〟で捉えれば、〝私に向かってあ
験は、〝日常の視点〟の積極的な役割を示
の態度は何だ。ひどい人だ〟と思えること
しています。ただ、対人関係を考えるに当
も、〝科学の目〟で捉えれば、また違った
たっては、この視点だけでは十分でないこ
意味合いを持ってきます。〝あの人にあん
とも明らかでしょう。私たちには、物事を
な行動を起こさせたのはどうしてだろうか。
客観的な立場に立って、事実に基づいて、
私の行動がどういう影響を与えたのだろう
冷静に判断する力も必要です。これを〝科
か〟といった見方です。こうした捉え方が
学の目〟と呼ぶことにしましょう。人の行
できているときは、相手を自分の鏡として
動や態度に対して、ひたすら怒ったり、感
見ているのです。相手のすべての行動が、
動するだけでなく、その人がどうしてそう
自分の行動の反映だとまで考えることはあ
した行動をとっているのかを冷静に判断す
りません。しかし、いつも、このような視
ることも、人間理解には欠かせないのです。 点から対人関係を見ていくことは、自分の
〝科学の目〟といった表現を聞くと、何か
行動を改善していくための大きな力になる
難しいことのような感じがします。しかし、 のです。ところで、鏡は1枚だけだと顔し
それほど大げさに考えることはありません。 か見えません。これが2枚になれば後ろ姿
ここで重要なのは、〝人間に対して興味・
も見ることができます。自分の行動を写す
関心を持つ〟ことなのです。これを、〝人
鏡は、どんなに少なくても2枚はほしいも
間ウォッチングの精神〟と言っていいかも
のです。さらに3面鏡になると、一部では
しれません。あまり感情的にならずに、人
あるものの、左右が他人の見ている姿と同
の行動を見て楽しむことも、人間を理解す
じに見えます。それまでとは質の違った世
るヒューマン・スキルの1つの要素なので
界が現れるのです。こう考えると、〝行動
す。
の鏡〟も、せめて3枚くらいは必要だとい
う気もします。この3枚は、自分の姿をき
2) 3つの鏡
ちんと写してくれなければなりません。同
私たちは、多くの人が鏡を見ます。女性
時に、様々な角度から自分の姿を見ること
はお化粧のために、男性はひげ剃りのため
も大切です。そういう意味では、〝同僚の
に。そこに写った自分の顔に、何かがくっ
鏡〟〝上司の鏡〟〝部下の鏡〟など、種類
-9-
の違った鏡を揃えることがポイントになっ
とばがあって初めて可能になったというこ
てきます。これに、第4の鏡として〝自分
ともできるでしょう。人と人との相互理解
〟という鏡も考えることができるでしょう。 もことばによって飛躍的に深まります。し
かし、人間はことばを使って嘘をつくこと
3.リーダーシップに求められる技術
もあります。また、ことばの方が刃物より
1) コミュニケーション・スキルの要件
も人を傷つけることもあります。かけがえ
対人関係において〝リーダーシップ〟は
のないことばですが、その用い方次第では
重要な役割を果たします。そして、効果的
凶器にもなることを忘れてはいけません。
なリーダーシップを発揮するためには、〝
まさに、〝ことば〟は〝人間理解の最強の
コミュニケーション力〟や〝説得力〟が欠
道具〟であるとともに、〝人間誤解の最悪
かせません。〝説得〟は、それは広い意味
の凶器〟でもあるのです。
で〝コミュニケーション行動〟に含まれま
対人関係の場面でことばは最も重要な道
すが、人の行動や態度の変容と関わる興味
具になることは言うまでもありません。ま
深い領域です。そこでは、〝セールス・ト
ずは、お互いの意志を伝えることから、関
ーク〟などと呼ばれる巧みな商法も話題に
係がはじまりますが、その最も強力な道具
されます。ときには、悪徳商法などによっ
がことばなのです。その際に重要なことは、
て、多くの人々が被害を受けることもあり
自分の言いたいことが相手に伝わることで
ます。人をだますことは言語道断ですが、
す。どんな感動的な内容であっても相手に
人の態度や行動を変化させるという視点か
聞き取れなければ意味がありません。〝は
らは、実践に役立つ事実も明らかにされて
っきり聞こえる声〟で意志を伝えることは、
います。
対人関係の基礎的な技術です。ここで、〝
ここでは、〝説得〟のメカニズムに立ち
聞こえるように〟というのは、ただ大声で
入る余裕はありませんが、その基本になる
話すということではありません。自分の意
〝コミュニケーション力〟に求められる基
志が伝わるように、声の抑揚を考えたり、
本的な要件について考えてみます。
感情を込めたりする配慮が必要なのです。
もちろん、ときには感情を押さえて冷静さ
2) はっきり聞こえる声で
を印象づけるような伝え方も必要になるで
対人関係の基礎はコミュニケーションか
しょう。また、自分に知識が不足していた
らはじまります。その重要な道具が〝こと
り自信がないことがあると、声にも迫力が
ば〟であることは言うまでもありません。
なくなってきます。そんなことがないよう
人間は道具を使う動物だと言われます。直
にするには、仕事に関わる知識や技術につ
立歩行し、火を使い、道具を操ることによ
いての専門的な学習もしておかなければな
って、他の動物には見られない圧倒的に優
りません。こう考えると、自分の伝えたい
位な地位を築いてきました。ことばはそう
ことを相手に理解できるように表現するこ
した道具の中でも、最も重要なものです。
とは、なかなか難しいことがわかります。
ことばによって思考が広がり、体験が積み
重ねられていきます。ものを作ることもこ
- 10 -
3) 顔と目で笑う
スムーズなコミュニケーションを実現す
(Verbal
Communication)〟、それ以
るためには、〝笑顔〟は欠かせません。〝
外のものを〝非言語的コミュニケーション
上手に笑える〟ことは対人関係に必要なも
(Non-Verbal Communication )〟と呼
う1つの基本的技術なのです。さらに、〝
んでいます。先ほど見た〝目で笑う〟こと
目で笑う〟ことはできるでしょうか。顔で
も非言語的コミュニケーションの代表的な
は笑っているつもりでも、目には何かしら
ものです。言語そのものではありますが、
冷たさを感じるということがあります。〝
声の調子も重要な役割を果たします。顔の
目は口ほどにものをいい〟と言われますが、 表情や身振り・手振り、また服装のような
目こそは心の中身をそのまま伝える窓口な
身に着けるものも、相手に対するメッセー
のです。相手の目を見たとき、優しさがう
ジになるのです。その場に応じた身なりは
かがえるとほっとするものです。目で笑う
相手に安心感を与えます。あまりにも場違
というのはかなり比喩的な表現ですが、私
いの服装をすれば、相手に不快感を与えた
たちは目が相手に与える影響を十分理解す
り、常識を疑われたりするのです。
ることが必要でしょう。ある調査によると、
ここで忘れてならないのは、非言語的な
日本人の場合、対話中に、1.8m 程度の距離
ものは言語によるコミュニケーションの補
を置き、全体の 60%ほどの時間、相手を見
助手段ではない点です。ことば以上に対人
ると心地いいという情報もあります(1999
関係に大きな影響を及ぼすことも少なくあ
年3月:NHK 〝ためしてガッテン)。相手を
りません。ことばでは調子のいいことを言
見て話さないと言われる日本人ですが、そ
っても、体は反対の気持ちを伝えているこ
れでも、それなりに目は重要な役割を果た
とは、日常的に体験しています。落ち着い
していることがわかります。
ているように装っていても、顔は真っ青で
体がふるえていることもあります。子ども
4) ことば以外のコミュニケーション
に対して〝心から愛しているよ〟と言いな
ことばは人間のコミュニケーションにと
がら、だっこしようと差し伸べた手はそれ
って欠くことができないものです。しかし
を拒否している。子どもは敏感に大人の真
ながら、私たちはことば以外にも、自分の
意を感じとります。こうしたことが子ども
気持ちを伝える道具を持っています。その
の精神的発達に深刻な影響を及ぼした事例
昔、テレビの草創期にジェスチャーという
もあります。相手をほめるときには、その
人気番組がありました。男女に分かれた2
能力や仕事ぶりに感動することが必要です。
つのチームが、それぞれに文章として与え
〝すごいな〟と思ったら、体ごと〝驚く技
られた問題を体で表現して、時間内に当て
術〟がいるのです。まさに、非言語的コミ
るというものです。この番組のおかげで、
ュニケーションは良好な人間関係作りに決
老若男女が〝ジェスチャー〟という英語の
定的な役割を果たすのです。
意味を知っていたのです。私たちは、体を
使ってその気持ちを伝えることができるの
4.コミュニケーション技術のスキルア
です。心理学では、ことばによるコミュニ
ケーションを〝言語的コミュニケーション
- 11 -
ップ
1) 自分を知らせる、他人を知る
対人間関係はお互いを知ることからはじ
す。(2)は、自分は知っているが他人は
まります。そのためには、まずは〝自分を
知らない領域です。私たちは、どうしても
知らせる技術〟が必要になります。それと
他人に知られたくないこともあります。そ
同時に〝他人を知る技術〟も磨いておかな
うしたことは、意識的に隠そうとするもの
ければなりません。それだけではありませ
です。何でも他人に知らせる必要はありま
ん。〝自分を知らせ、他人を知る〟ことを
せん。しかし、お互いの気持ちを通じ合わ
通して、お互いに〝自分を知る〟ことがで
せるためには、必要な部分は知らせる努力
きるのです。
をすべきでしょう。それによって、互いの
すでに見た、〝コミュニケーション・ス
理解が深まることになるのです。こうした
キル〟の要件を頭に置きながら、ここで、
自分を知らせることを、〝自己開示(self
グループワークにチャレンジしてみましょ
disclosure )〟と呼びます。どれだけ自分
う。
のことを進んでオープンにできるか。それ
(研修等ではここでグループ・ワークを
は効果的なリーダーシップを発揮するため
導入します。その詳細については、吉田道
にも、大変重要なポイントです。(3)は、
雄(2010)リーダーシップ力アップの基礎
自分は知らないのに他人は知っている領域
看護展望 2010 年 6 月号をご覧くだ
です。自分では気づいていないうちに、相
技術
さい。)
手を傷つけていることもあるかもしれませ
ん。とんでもない誤解をされていることも
考えられます。対人関係においては重大な
実習 : 自分を知らせる、他人を知る。
結果をもたらす領域なのです。しかし、何
そして …
と言っても自分にはわかっていないのです
から、そのままではどうしようもありませ
ん。それでは、どうしたらいいのでしょう
ここでグループ・ワークが終了したとい
か。この際は、他者から教えてもらうしか、
う前提で、その〝振り返り〟における解説
いい方法は思いつきません。いわゆる、〝
に進みます。
率直なフィードバック〟を求めるのです。
2) 心の4つの窓
自分と他者との関係を、〝知っている〟
〝知らない〟という視点から見るアイディ
アがあります。ジョセフ・ルフトとハリー
・インガム(Joseph Luft & Harry Ingham,
1955)が提唱したことから、〝ジョハリの
心の4つの窓〟として知られています(図
1)。
(1)は、お互いに知っている領域で、
ここが広いほど、相互のコミュニケーショ
ンがスムーズに進み、相互理解も深まりま
- 12 -
図 1 .心の 4 つの窓
そして、それまで知らなかった自分に気づ
きに、誰だって〝えーっ、これって私の声
いたら、その視点から自分の行動を見直し
なのーっ〟と驚いたでしょう。もちろん、
ます。もし、行動を変えた方が良ければ、
中には〝何と素晴らしい声か〟とうっとり
そのために努力しましょう。そのことによ
した人がいるかもしれませんが …。いずれ
って、対人関係は飛躍的に改善されるはず
にしても自分の声だと信じていたものとは
です。(4)は、自分も他人も知らない、
まるで違って聞こえたはずです。そして、
気づいていない領域です。この部分は、お
その状態は今も続いていますし、これから
互いに情報がありませんから、コミュニケ
も一人ひとりがずっと同じままで生きてい
ーションのしようがありません。しかしな
くのです。このように、〝自分〟が思って
がら、これまで見た、〝自己開示〟と〝他
いる声の通りには〝他人には〟聞こえてい
者からのフィードバック〟を積み重ねるこ
ないことははっきりしています。ここで興
とによって、こうした領域は少しずつでも
味深いのは、どちらも真実だということで
狭められていくことになります。
す。自分に聞こえる声は、間違いなく自分
の声なのです。それは幻聴だなどと言われ
3) 自分の評価、他人の評価
ると困ってしまいます。しかし、他人が聞
ところで、自分のことについては〝自分
いている〝私の声〟もまた間違いなく〝私
の評価〟と〝他人の評価〟があります。毎
の声〟なのです。つまりは、〝自分が知っ
日を健康で楽しく過ごしていくためにはそ
ている自分(の声)〟と〝他人が知ってい
のどちらが正しいのでしょうか。
る自分(の声)〟が違っているわけです。
ここでちょっとしたクイズにお答えいた
これは単に〝声〟だけに限ったことでは
だきましょう。まず第1ヒント。〝私は〝
ないのです。私たちは、一人ひとりが異な
それ〟について、この世の中で自分だけが
る環境で生まれ育ち、様々な体験を積み重
正確に知っていると確信していることです
ねて今に至っています。そして、それぞれ
〟。そして第2ヒントは、〝ただし、〝そ
が自分の考えや行動について自分なりに理
れ〟は、私が知っている通りには、他の人
解しているわけです。それは自分の頭の中
たちに受け止められていないことも絶対的
で生まれる〝心の声〟を聞いているという
に自信を持っていることです〟。〝さて、
ことです。しかし、そうした考えや行動が
〝それ〟とは一体なんでしょうか〟。
他人の目からも同じように見えているので
いかにもわかりにくいヒントですね。こ
しょうか。〝自分の声〟の現実から推測す
れでは回答のしようがないと思われるでし
ると、〝えーっ、そんな風に見てるのーっ
ょう。しかし、もっとわかりやすいヒント
〟と驚愕するような見え方をしているかも
にするとクイズにならないほど易しくなっ
しれないのです。しかし、それもまた〝事
てしまう、そんな答えなのです。あまりも
実〟だということです。そう考えると、〝
ったいぶっても仕方がないので正解を申し
あなたは自分のことを知っていますか〟と
上げましょう。それは〝私(自分の声)〟
聞かれたら、その答は〝イエスであり、ノ
です。初めて〝自分の声〟を聞いたときの
ー〟と答えざるを得なくなってしまいます
ことを憶えていらっしゃいますか。そのと
ね。
- 13 -
声の場合は、〝いやだなあ〟と思っても
明るく楽しければそれでいいようにも思え
その質まで変えることはできません。しか
ます。しかし、この段階では必ずしも、自
し、レコーダーを使えば自分の声を聞きな
己開示や率直なフィードバックが十分行わ
がら、他人に気持ちよく聞いてもらえるよ
れることは期待できません。なぜなら、そ
うな工夫をすることは可能でしょう。それ
うした行動は、せっかくの〝明るく、楽し
とまったく同じように、私たちは他人に見
い〟雰囲気を壊してしまうからです。対人
えている自分の行動を知ることによって、
関係が成熟したものになるためには、もう
リーダーシップや対人関係スキルを磨いて
一歩前進することが必要なのです。それは、
いくことができるのです。
〝相互啓発段階〟と呼ばれるものです。こ
こでは、文字通りお互いの啓発・成長がキ
4) 対人関係の発達と心の4つの窓
ーワードになります。そのためには、互い
さて、〝自己開示〟も〝他者からのフィ
に厳しいことも言い合います。それまで隠
ードバック〟も、それならすぐにでもやろ
していた自分の気持ちも、表に出すことに
うというわけにはいきません。相手をよく
なります。この段階では、〝明るい〟とか
知らないうちに、自分のことをさらけ出す
〝楽しい〟といった浮ついた雰囲気は見ら
人はいないでしょう。相手がどんな反応を
れません。しかし、ストレスに満ちた冷た
するかわからないのに、率直なフィードバ
い状態ではありません。自己開示とフィー
ックをすることはできません。そこには、
ドバックを通して、お互いの理解が深まる
ある程度の関係が出来上がっていなければ
のです。〝自分を知ることができた〟〝相
ならないのです。ちょうど人間の発達と同
手の気持ちがわかるようになった〟〝本当
じように、手段も成長・発達するのです。
に自分は成長できた〟という爽快感が、当
そうした中で、集団は、〝防衛段階〟から、 事者たちの心の中に広がるのです。
〝集団形成段階〟を経て、〝相互啓発段階
〟へと成長していくという考え方がありま
5.対人関係におけるリーダーシップ発
す。対人関係がはじまって間もなくは、〝
揮のポイント
防衛段階〟にあります。そこでは、相手が
1) 対人関係スキルとしてのリーダーシッ
どんな人物かわかりませんから、互いに手
プ
探りの状態です。自分のことを伝えるにし
さて、ここまで対人関係を〝リーダーシ
ても、安全なことしか話しません。こうし
ップ〟や〝コミュニケーション〟の視点か
た状態では、率直なフィードバックも期待
ら考えてきました。それはお互いに影響を
できません。しかし、そのうちに対人関係
与え合うことだという点も明らかにしまし
も進んで、〝集団形成段階〟に至ると考え
た。この、互いに影響し合うことに注目す
られます。この段階のキーワードは〝明る
れば、対人関係はリーダーシップの問題と
く、楽しく〟です。せっかく関係を持つの
して捉えることもできます。リーダーシッ
であれば、できるだけ楽しくいこうという
プは、〝他者に対する影響力〟だと定義さ
気持ちが互いを支配します。まさに和気藹
れているからです。
々、ルンルンの人間関係が出来上がります。
- 14 -
ところで、リーダーシップは、実際の社
会生活でそれほど重要な役割を担っている
合っていると考えることができます。つま
のでしょうか。私たちの研究では、リーダ
り二人ともリーダーシップを発揮している
ーシップは、集団メンバーの意欲や満足度
のです。したがって、リーダーシップは組
などに大きな影響を及ぼすことが明らかに
織の中で指導的な立場についているかどう
されています。それは、
かといったこととは関わりなく、誰にとっ
職場の事故率や災害の発生件数にも関係し
ても重要なものだということも強調しまし
ているのです。私は、〝どうしても、リー
た。相手に影響を与えようとすること、そ
ダーシップの影響をはっきり見極めたい〟
のことがリーダーシップなのです。私たち
という方には〝学校に行ってご覧なさい〟
が講演を聴いているときのことを考えてみ
と答えることにしています。大人の集団で
ましょう。演壇に立った講演者は、聴衆に
は、うまくいっていない職場でも、覗きに
向かって影響を与えようと努めます。それ
行けば、メンバーたちは発足の当初からう
がうまくいけば、聞いている人々に感銘を
まくいっているといった顔をします。その
与えるでしょう。ここでは、講演者がリー
場を取り繕うのです。これに対して、子ど
ダーシップをとろうと努力している姿が浮
もたちは正直です。学級ごとにスライドす
かんできます。しかし、これはひょっとし
る戸を開けてみましょう。もう、その空気
たら一面的な見方かもしれません。なぜな
の色さえ違うことに気づくはずです。子ど
ら、講演者自身も、時々刻々と聴衆から影
もたちはできるだけ偏らないようにクラス
響を受けているからです。会場の反応が良
編成が行われます。教室の設備や構造も基
ければ、自分の意思がそのままうまく伝わ
本的には同じです。あるところは裸電球で
っていることがわかります。すると、自然
ボロボロの机、別のクラスはシャンデリア
に気持ちも良くなって、講演はさらに説得
にぴかぴかの机ということはありません。
力のあるものになるでしょう。反応が冷た
教科書も同じですし、その進み方でさえ、
ければ、講演者の気持ちも萎えてきます。
指導要領に基づいていますから、ほとんど
〝早く時間が経ってくれれば〟と考え込ん
同じなのです。それにも関わらず、クラス
でしまいます。そうした気持ちは、再び聴
の空気が違うというのは、先生と子どもた
衆に返っていくことになります。講演の迫
ちの人間関係のあり方が違っているからで
力は、ますます失われることでしょう。い
す。こうした状況は、大人の場合にも変わ
ずれにしても、対人関係のあるところには、
りません。表に現れる程度に差があるだけ
どこにでもリーダーシップが求められてい
なのです。
影響力の源泉
2) リーダーシップは影響力
はじめに、リーダーシップは他者に対す
る影響力だと言いました。したがって、人
と人とが出会ったときからリーダーシップ
という現象が起きているということもお話
強制による力
報酬による力
正当性による力
専門性による力
憧憬による力
情報による力
言うこと聞かないと怖い
言うこと聞くと得する
言うこと聞くようになってる
何たってプロだもの
あんな人になりたい
ししました。そこではお互いが影響を与え
Copyright©YOSHIDA, Michio
- 15 -
るのです。
レンチとレイブンが提案する5つの〝影響
力〟について考えていくことにしましょう。
3) 影響力の源泉
強制勢力:
リーダーシップが影響力だとしても、そ
まずは〝強制勢力〟です。原語では〝
れを十分に発揮できているリーダーもいま
Coercive power 〟と呼ばれています。〝
すが、その一方で影響力がない人もいます。 coercive 〟はあまり見かけないことばで
すが、〝強制的な、威圧的な〟という意味
そこにはどんな違いがあるのでしょうか。
ここでフォロワーがどうしてリーダーの影
があります。人がリーダーの、あるいは他
響力を受け入れるのか、その条件について
者の影響力を受け入れるのは、その人物が
考えてみましょう。
人を強制的にコントロールする力をもって
そこで人が人の影響力を受け入れる条件、 いるからです。あの人の言うことを聞かな
理由について少し考えてみることにしまし
いと罰を与えられるというわけです。それ
ょう。この点に関しては社会心理学者のフ
には肉体的な体罰も含まれるし、存在を無
レンチとレイブンが〝影響力〟あるいは〝
視するといった心理的なものもあります。
勢力〟の源泉として5つの要因を挙げてい
どのような形をとろうと、とにかく罰は恐
ます。その論文の原題は〝 The bases of
怖心を引き起こします。誰だってそんな事
social power 〟でとなっています。
態は避けたいと思いますから、内心はどう
ところで、次ページの写真はレイブン先
であれリーダーの言うことを受け入れてし
生と撮ったものです。恩師である三隅二不
まうことになります。〝面従腹背〟という
二先生がレビン賞を受賞されたときに開か
ことばがあります。表面的には、つまりは
れた祝賀パーティでのツーショット(?)
〝面(顔)〟では〝笑って〟言うことを聞
です。会場はロサンゼルスのホテル日航で、 いている。しかし、〝お腹(こころ)の中
〟では〝背いて〟いるんですね。世の中に
当時は世間を賑わせた M 氏の〝疑惑の銃
弾〟の舞台の一つとして話題になっていま
はこうした事例がワンサカあるのではない
した。いかにもアメリカ人らしく、肩に手
でしょうか。グループ・ダイナミックスの
をかけて10年来の親友といった雰囲気で
創始者であるレビンたちが行ったリーダー
並んでいます。個人情報に立ち入るとまず
シップの実験がありますが、専制型リーダ
いのですが、奥様がしっかりタイプで元気
ーの影響力がこれに近いでしょう。そうし
よく、どう見て
た条件の下では、子どもたちは表面的には
もお尻に敷かれ
〝服従的・依存的〟な行動をとりました。
ているなあとい
いわゆる〝迎合的〟な態度を示したのです。
う感じでした。
その一方で、目の前からリーダーがいなく
そこがまたほほ
なると仕事をさぼるという現象も見られま
えましいのもア
した。また、仲間同士の喧嘩やいじめも発
メリカ人らしい
生しています。抑圧された気分が攻撃的エ
と思います。
ネルギーに転化したのです。下手なことを
それでは、フ
したり言ったりすると罰を受けるから〝見
- 16 -
ても知っても言わザル〟でいた方が安全だ
がなくなれば影響力が失われるのは〝強制
と考えます。また〝失敗しても、責任はあ
勢力〟の場合と同じです。
の人がとるのだから〟と積極的な対応をし
〝報酬〟は〝経済的〟なものだけでなく
ないことも大いにあり得えます。そのなか
〝心理的〟なものもありまう。自分の存在
には組織の安全に関わるものも含まれるの
を認めてくれる、仕事ぶりを評価してくれ
です。これでは〝ヒヤリハット〟体験が報
るといったことも報酬と考えることができ
告されず、職場で共有化することができな
るのです。こうした〝心理的報酬〟は人が
くなるわけです。ともあれ、〝力によるコ
意欲的に働くために重要な役割を果たしま
ントロール〟は一時的な効果はあっても、
す。それに経済的報酬ほどは劣化しにくい
長期的には〝いつかボロが出る〟と考える
と思います。その意味で〝報酬勢力〟は〝
べきでしょう。いずれにしても、そのとき
強制勢力〟よりも望ましい側面をもってい
は絶大な影響力をもっているリーダーも罰
ると言えるでしょう。ただし、〝心理的報
を与える力がなくなればどうでしょう。そ
酬〟の効果は、それを与える者の〝人間力
の力はあっという間に消滅して〝ただの人
〟や受ける側との〝対人関係〟のあり方に
〟になってしまいます。
よって大きく影響されます。したがって、
報酬勢力:
ただ表面的に〝存在を認める〟〝仕事を評
さて、フレンチとレイブンが挙げる第2
価する〟〝ほめる〟といった行動をとるだ
番目の〝影響力の源泉〟は〝報酬勢力〟で
けではうまくいかないのです。
す。原語は〝 Reward power 〟ですが、
正当勢力:
リーダーが自分たちの望んでいることをし
第3のパワーは〝正当勢力〟と呼ばれる
てくれる力をもっていれば、その人の言う
ものです。原語は〝 Legitimate power 〟
ことを聞こうという気持ちになるというわ
です。世の中では一般的に〝上役が部下に
けです。つまりは〝いいことがある〝〝得
指示や命令を与えるのは当然だ〟と考えら
をする〟という利益が力になるのです。報
れています。それが〝就業規則〟に書かれ
酬と聞くと、すぐに〝経済的〟なものが頭
ているかどうかなど問題にもならないほど
に浮かびます。昇進や昇給などはその代表
常識というわけです。だから、組織で自分
格でしょう。子どもが〝、ほしい物を買っ
より上にいる人の言うことを聞くのです。
てくれる〟から親の言うことを聞くのも〝
上役の指示に少しばかり不満や疑問があっ
報酬〟による力が効いているのです。しか
ても、まあ取りあえずは〝はい、わかりま
し、こうした〝報酬〟に対する要求水準は
した〟と答える。とくに上役は当然のこと
エスカレートする傾向があります。給料が
ながら〝強制勢力〟も兼ね備えていますか
上がれば一時的には満足するでしょうが、
ら、なおさら〝 No 〟とは言えない圧力が
しばらく経つとそれが〝当たり前〟になり
かかってきます。しかし、その人が上役と
ます。それどころか、〝これまでの給料が
いう立場でいなくなれば、あっという間に
低すぎたんだ〟などと、かえって不満が高
影響力が失われるわけです。退職した後に
まったりもするわけです。こうなるとキリ
ご自分が勤めていた職場へ頻繁に顔を出さ
がなくなります。そして、報酬を与える力
れる方のお話を聞いたことがあります。ご
- 17 -
本人はあまり感じていないようですが、職
きは、研究所と大学の名前を並べて書いた
場のメンバーたちは〝あっ、また来ちゃっ
名刺を持っていました。複数の肩書きを使
た〟と思うわけです。とにかく昔の上下関
ったのはこのときだけです。そして現在で
係そのままに、ちゃんとした地位に就いて
は現職のみのシンプルなものに回帰してい
いる元部下を〝○○君〟などと呼ぶという
ます。じつに簡単でいいですよね。それに
のです。もちろん、退職後に元の職場に顔
しても、熊本大学をリタイアしたら、私も
を出して歓迎される方もいらっしゃるでし
あれやこれやと書き込みたくなるんでしょ
ょう。しかし、現実にはそうでない場合の
うか。ついでながら、研究所の名刺は研究
方が多いような気がします。みんな仕事で
所が負担してくれましたが、本職である大
忙しいから、〝招かれざる客〟になってし
学や附属校長の名刺はすべて自弁です。大
まうわけです。その上、〝○○君〟などと
学教員という仕事は名刺になじまないとい
過去の上役風まで吹かされてはたまったも
うことなんでしょうかね。
のではありません。〝もうあなたの言うこ
ともあれ、〝その人の言うことにしたが
とを聞く理由はないんですよ〟。そんな冷
うように決まっているから〟という〝正当
たい視線に気づかないとまずいんですね。
な理由〟による影響力も、その立場や地位
それにしても、人間というものはいつま
がなくなれば消滅してしまいます。
で経っても自分の存在を認めてほしいとい
さて、フレンチとレイブンが挙げる第4
う欲求を消すことが難しいようです。それ
の勢力は〝専門勢力〟です。原語は〝
が生きるエネルギーにも繋がってはいるの
Expert power 〟ですから、直訳です。リ
ですが。
ーダーが専門的な力を持っているからみん
やはりご退職された方と名刺を交換して
ながついてくる。これが専門勢力です。〝
ちょっとばかり驚いたことがあります。名
何と言ってもあの人の専門的な知識や技術
刺の表はもちろんですが、裏面にもぎっし
にはかなわない〟という声が職場の部下た
りと肩書きが書かれていたんです。社会的
ちから聞こえてくるときは、この力による
に様々な貢献をされているのは間違いない
影響力が浸透しているのです。もちろんそ
のですが、ここまで書くかなあと苦笑して
うした専門性にかかわる力がなくなれば、
しまいました。還暦は越えてしまいました
誰もついてこなくなります。いやはや厳し
が、ありがたいことに私はまだ現役で仕事
いものです。そうだからこそ、いつも自分
をしています。そこで私も大学の現職名を
の専門性を磨く努力をしておくことが第二
つけた名刺を使っています。じつは 2002
なのですね。
年度から2年ほど、附属中学校の校長をし
そして第5のパワーは〝憧憬勢力〟です。
たことがありますが、そのときは校長名を
英語は〝 Referent power 〟で、心理学の
付けた名刺をつくりました。しかし、わず
一般書には〝準拠勢力〟と訳されています。
か2年で〝クビ(?)〟になりましたから、
〝準拠〟とは、〝よりどころまたは標準と
ほとんど使わずじまいに終わりました。ま
してそれに従うこと〟です(電子版広辞
た、財団法人集団力学研究所というところ
苑)。たしかに〝 referent 〟の意味を伝
で所長をしていたこともあります。そのと
えてはいますが、〝準拠〟ということばは
- 18 -
一般的にはストンと腑に落ちませんね。た
たすことが期待されている方であれば、〝そ
だし、学校で使う教科書の表紙には小さな
のいずれも持っていません〟というわけには
字で〝文部科学省学習指導要領準拠〟と書
いきません。ともあれ、ご自分の職場を思い
かれているので、誰の網膜にも〝映った〟
起こしながら、少しばかり考えていただきま
ことはあるはずなんです。しかし、日常的
しょうか …。
に私たちが〝準拠〟ということばを使う機
皆さん、それぞれの思いをお持ちでしょう
会はほとんどありませんね。〝 Referent
が、ともあれこの4つの〝影響力の源泉〟は
power 〟は部下たちに、〝自分もあんな
大きく2つに分けることができるのです。
人になりたい〟〝あの人こそ私の目標だ〟
さて、部下が上役の影響力を受け入れる要
と思わせる力です。つまりは自分の行動の
因として〝強制〟〝報酬〟〝正当〟〝専門性
基準になる人だから〝準拠〟というわけで
〟〝憧憬〟の5つを挙げました。これはフレ
す。それはそうなのですが、私としてはよ
り身近な〝憧憬〟ということばを使ってい
ます。〝憧憬〟は本来〝しょうけい〟と読
むらしいのですが、これだって〝一般的で
ない〟と言われるかもしれませんが …。
部下たちに、〝自分もあんな人になりたい
〟〝あの人こそ私の目標だ〟と思わせる。私
としては、そうした力を指す英語の〝
referent power 〟を〝憧憬勢力〟と翻訳し
てみました。心理学では〝準拠勢力〟と呼ば
れているものです。
ともあれ、このような影響力は並み大抵の
努力では身につきません。それには相性とい
った要因も関係してくるかもしれませんね。
それに、そもそも努力で身につくようなもの
ではなく、あくまで日ごろの人間関係の結果
としてそうした力がにじみ出てくるのかもし
れません。たとえば、すでに見た〝専門力〟
に優れているリーダーは、部下たちに〝あん
な人になりたい〝という〝憧憬〟の気持ちを
生み出すでしょう。ただし、自分の力をひけ
らかしたり、部下の育成には関心がないとい
った態度をとれば、それがそのまま〝反発〟
に転じてしまいます。
さて、さてあなたは、こうした影響力の源
泉のうち、どの力をどのくらいお持ちでしょ
うか。組織の中でリーダーとしての役割を果
ンチとレイブンが最初に提起したものですが、
これに〝情報勢力〟を加えているものもあり
ます。いまや情報の時代です。自分たちにと
って重要な情報を持っているかどうかが、リ
ーダーの影響力を決めることは十分に理解で
きることですね。ただし、これはすでに挙げ
ている〝専門性〟による力に含めることがで
きるでしょう。
さて、5つのうちはじめの3つ、つまりは
〝強制〟〝報酬〟〝正当〟を見ると、いずれ
もが経験と年齢を積んで、ある程度の地位や
立場に立てば自動的に外から与えられるもの
なんです。もちろん、そのレベルに差はあり
ます。とくに〝強制勢力〟という用語は文字
通り強烈ですから、管理者が〝自分は強制的
な力を保持している〟なんてことを自覚して
いるとは限りません。しかし、上から指示さ
れる側から見れば、〝 Yes 〟と言わなければ、
自分に不利なことが起きるのではないかとい
った心配があります。とくに管理職ともなれ
ば、勤務評定する力も持っているわけです。
それは給与や人事異動に影響を及ぼす可能性
があります。管理者が〝自分はそんなに狭量
じゃない〟と思っていても、部下側から見れ
ばやはり〝恐い〟力なんです。私たちの研究
でも、リーダーシップに関しては〝自己評価
〟と〝部下評価〟にズレが生じやすいことが
わかっています。こうした事情は〝報酬〟の
- 19 -
場合にも適用できるのです。
とを最大の〝報酬〟にしていただきたいと思
ところで、表面的には〝強制〟と〝報酬〟
います。そもそも、優れた能力を得たのはそ
は正反対に見えます。しかし、上役の顔を伺
の人の力だけでないことははっきりしていま
うという点では共通する部分が多いのです。
す。アインシュタインと同じような脳力を持
上司から評価されれば〝いいことがある〟わ
った人間がジャングルの中にいないとは断定
けです。それが経済面や人事面で効果をもた
できませんし、その人が 500 年前に生きて
らすことも期待できます。そうなると、いわ
いたとしてもおかしくないわけです。また、
ゆる〝ごますり〟でもしておこうかという気
100m を8秒で走る筋肉を持った人間が今日
持ちになりやすい。もっとも、〝報酬〟は経
もアフリカの草原で走っているかもしれませ
済的なものだけではありません。仕事を正し
ん。みんなその時代や与えられた環境との相
く評価してくれるといった行動は〝心の報酬
互作用の結果として、優れた能力を発揮でき
〟ということになります。
ているのです。とにもかくにも力のある人は
さて、人がある程度の地位に座れば、多か
まずは〝感謝のこころ〟を大事にしましょう。
れ少なかれ〝自然についてくる〟と言いまし
たが、これが〝権限〟というものですね。ご
4) 影響力を磨く
本人がそれを意識している程度は、その人の
リーダーシップを発揮して人に影響を与えるた
性格などもふくめて大いにバラツキがあるで
めには、〝強制〟〝報酬〟〝正当性〟による力
しょう。ときどき権威を振り回す人がいます
だけに頼っていてはまずいというお話をしました。
が、彼らは権威を困った方向で意識している
それらは地位や立場がなくなると同時に消滅し
典型的な例ですね。世の中は〝みんな同じ〟
てしまうからです。それに、自分では影響を与え
というわけにはいきません。いや人類が存続
ていると思っていても、じつは〝面従腹背〟だっ
し続けることを目指すのなら〝みんな同じ〟
たりもするわけです。それでは、フォロワーたちが
であってはいけないのです。それが〝遺伝子
表面的にも内面的にもリーダーの影響力を受け
の意思〟なんですね。ですから、相対的には
入れるためには何が必要なのでしょうか。おわか
一般人よりも優れた人がいくらでもいるし、
りのように、それは〝専門力〟と〝憧憬力〟の
いないと困るわけです。テレビや新聞に登場
力を伸ばすことなんですね。両者はほかの3つと
する〝スーパースター〟も必要なんです。こ
違って、公式のリーダーになれば保証されるとい
うした人たちが発明し、発見し、また芸能や
うものではありません。しかし、こうした力は、リー
スポーツで人々を感動させるのです。私たち
ダー自身の絶え間ない努力なしには身に着きま
もそんな人たちを賞賛し喝采し、尊敬するべ
せん。
きだと思います。そして、仕事の領域によっ
いずれにしても、とくに〝専門力〟はリーダー
ては、かなりの経済的報酬を手にすることも
シップ発揮のための重要なポイントになります。
認めていいでしょう。ただし、その代わりと
〝専門性〟にかかわる力がなければ、〝あの人
言っては何ですが、ひとつだけ大事なことが
のようになりたい〟という〝憧憬〟的な影響力を
あります。それを〝笠に着て威張る〟のだけ
与えることもできません。豊富な経験と知識、そし
はやめてほしいということです。そんなこと
て技術に裏打ちされた専門性が高まれば、それ
をしなくても、誰もが尊敬しているんですよ
は必然的に〝憧憬勢力〟をも高めることになる
ね。〝実るほど頭を垂るる稲穂かな〟なので
のです。
す。そして、人から賞賛され、尊敬されるこ
- 20 -
そこで、リーダーにとって必要な〝専門力〟と
先を行っていることは不可能に近いですね。そ
は何かについてもう少し詳しく考えてみましょう。
れどころか、むしろ若い者のほうが特定の分野で
まずは①知識の量がポイントになります。なん
は新しい知識を持ち、機器類にしてもよほどうま
といってもリーダーは仕事に関係していろいろな
く使いこなすことが多いのではないでしょうか。そ
ことを知っている必要があります。〝とにかくあの
んなとき、〝フォロワーに負けてはいけない〟な
人は何でも誰よりもよく知っている〟。フォロワー
どと焦ることはありません。わからないことがあれ
たちからそんな評価を得ていれば、〝知識〟に
ば、相手がフォロワーであっても聞けばいいので
ついてはめでたくパスです。もちろん、そうなるた
す。ただそれだけのことです。いまから改めて勉
めには常に勉強をしていなければなりません。
強すればいいのです。どんなに年をとっても勉
その次は、②技術や技能に優れていることで
強は楽しい、そんな気持ちでいたいものです。大
す。仕事に関して知識の量が多いだけでは〝専
事なのは、いつまでも“専門性”を高めようとする
門力〟が十分だとは言えません。その立場にふ
意欲、あくなき向上心なのです。“専門性”に不
さわしい技術に優れていることが重要なのです。
十分なところがあれば、それを完全なものにしよ
そのなかには〝人とうまくコミュニケーションがで
うとする意欲や姿勢がフォロワーに見えることが、
きる〟技術も含まれています。
リーダーの〝専門性〟そのものなのです。
〝あの人の技術はすばらしい〟〝あの腕には
リーダーの〝専門力〟として、⑤問題発見
かなわない〟。フォロワーがそんな思いで見てく
能力の育成という重要な役割もあります。リ
れるようになれば、リーダーとしての影響力はこ
ーダーは自分の問題発見能力が優れているだ
の上なく大きくなります。こうした影響力を持つた
けでは十分ではないのです。そもそもリーダ
めにも、リーダーは絶えず技術の向上に努力し
ーにはフォロワーを育てることが期待されて
続けていかなければならないのです。
います。本人はすごく業績を上げたのだけれ
そして、③問題を発見する力も〝専門力〟に
ど、他に異動した後はまるでもぬけの殻、誰
とって欠くことができません。〝専門性〟は単な
も育っていなかったというのでは困るのです。
る知識の量や技術が優れていることだけで保証
仕事に関して問題を発見するためのノウハウ、
されるものではないのです。仕事をスムーズに進
方策をうまくフォロワーに伝えることを忘れ
めていくために〝何が問題か〟〝どこに問題が
てはならないのです。
あるか〟に気づく、あるいは発見する力も求めら
これに関連して、⑥専門性を高める方法を
れます。そもそも、仕事に関して専門的な観点か
教えることも大事なことです。問題発見の育
らの問題意識がなければ、〝どこに問題がある
成とならんで、どうしたら専門性を高めるこ
か〟もわからないからです。フォロワーに〝リー
とができるかについてもフォロワーに有効な
ダーはいろいろな問題点によく気がつくなー〟と
情報を伝えるわけです。こうした教育や働き
言わせることができれば、彼らはその影響力を進
かけによって、フォロワーも自分の力で専門
んで受け入れるはずです。
性を身につけていくことができるのです。そ
さらに、④専門性を高める意欲も大事です。ど
んな世界でも技術は日進月歩で進歩していきま
の結果として、リーダーの専門力に対するフ
ォロワーの評価も高まっていきます。
す。いまや秒進分歩だと言ったほうがいいかもし
リーダーに求められるものとして、〝専門
れません。それに伴って専門的な知識もこれま
性〟に焦点をあてて考えてきました。一口に
でのものでは対応できなります。そうなると、リー
〝専門性〟といっても多様な側面があること
ダーがすべての領域にわたってフォロワーよりも
がおわかりいただけたと思います。もちろん、
- 21 -
望ましいリーダーシップを発揮していくため
ょうか。その答えは、〝リーダーシップは
には〝専門性〟だけが優れていればいいとい
行動だ〟ということです。様々な状況に対
うわけではありません。けれども、自分自身
応して、そのときどきに求められている行
が〝専門性〟を高める努力をしていくことは
動を正確に認識し、それを積極的に実行し
リーダーに求められる必要条件なのです。
ていくこと、これがリーダーシップなので
それにしても、〝専門力〟はどの世界でも
す。ですから、〝自分は、性格的にリーダ
すばらしいものです。とくにそれが凝縮して
ーに向いていない〟などと決めつけること
目立つのがプロの世界です。それがスポーツ
は、賢い考え方ではありません。もっと前
であれ芸術であれ、とにかく〝プロ〟はすべ
向きに、〝自分に求められている行動をき
てが感動してしまいます。しかし、私たちの
ちんととろう〟という気持ちが大切なので
ような一般の庶民だってみんなプロなんです。
す。もちろん、とるべき行動がわかってい
いつも自分の〝専門性〟を磨いて、いやがら
れない程度に〝自慢〟しましょう。
ても、なかなか実行できない人もいます。
その点では、リーダーシップも、影響をま
5) リーダーシップは行動・役割演技
ったく受けないとは言えないでしょう。し
さて、リーダーシップが他人に対する影
かし、そうした壁を乗り越えることはでき
響力ということはわかりました。それでは、 るのです。
そうした影響力は、人によって違っている
このような人とリーダーシップとの関わ
のでしょうか。一般的にリーダーシップに
りは、役者と演技の関係にも似ています。
優れた人とそうでない人がいることは事実
役者は、台本に従って舞台の上で演技をし
です。そのような違いはどこから生まれて
ます。このとき、〝自分の性格に合わない
くるのでしょうか。これについては、個人
から、この役回りは遠慮したい〟というこ
の特性が大きな影響を持っているという考
とはできます。しかし、この人は優れた役
え方があります。いわゆる体つきや性格、
者として評価されることはないでしょう。
個人の能力などを重視する立場です。こう
どんなものでもチャレンジするのが、プロ
した見方は、〝特性論〟と呼ばれてきまし
フェッショナルというものです。こうして、
た。その中には、身長や体重、さらには容
名演技を披露した役者は観客にも大きな感
貌などを挙げるものさえあります。しかし
動を与えるのです。役者が、自分の性格に
ながら、私たちはこうした考え方をとりま
あった役しかしていないとするとどうなる
せん。それは、特性をいくら挙げてみても、 でしょう。悪役しかやっていない役者は日
これでリーダーシップとその影響をはっき
常生活でも、冷徹でひどい人だということ
り説明することはできないからです。それ
になります。八名信夫という、健康飲料で
に、特性論は、リーダーシップが一生を通
知られる俳優がいます。彼は悪役専門で売
じてほとんど変わらない要因によって影響
ってきました。それを逆手にとって、悪役
されると考えるのです。それでは、リーダ
商会というプロダクションを作っています。
ーシップを改善することはできなくなって
所属するメンバーは、それはそれは見るか
しまいます。リーダーシップは、それほど
らに怖そうなおじさんばかりです。しかし、
運命的なものではないのです。それでは、
こうしたグループを作った八名氏は、素晴
リーダーシップをどう考えたらいいのでし
- 22 -
らしいユーモアとセンスの持ち主に違いあ
りません。魅力的なリーダーとして、みん
6) リーダーシップの円錐
なから慕われているはずです。そして、お
私たちは、〝リーダーシップは〝特性〟
年寄りのための慰問活動も続けていると聞
ではなく、〝行動〟だ〟と考えます。そこ
いています。それにもかかわらず、舞台の
でこの2つの見方の違いを〝円錐〟を使っ
上では血も涙もないような人物に変身する
てご説明しましょう。下の図をご覧くださ
のです。まさに、迫真の演技力というほか
い。左右に2つのコーンがあります。左側
ありません。そしてその演技は観客から、
に道路工事や交通規制などで使われる円錐
高く評価されるのです。もし、評判が悪け
が立っています。本物はロードコーンと呼
れば、それを真摯に受け止めて、次の機会
ぶのだそうです。そして、右側では円錐が
に備えることです。こうした中で、ますま
逆立ちしています。図の上には〝対人関係
す名演技が身についていくのです。これと
の世界〟があって、2つの円錐からそこに
まったく同じことが、リーダーシップにつ
向かって矢印が出ています。図の下には、
いても当てはまります。リーダーは、〝自
それぞれの円錐に〝特性論/運命論・決定
分に求められている行動〟を台本にして、
論
職場という舞台の上で演技するのです。そ
改善可能論
の演技は、相手に評価されることになりま
釈が付いています。これを見ただけで、私
す。それは、望ましいときもあれば、そう
がお伝えしたいことがおわかりでしょうか。
でないこともあるでしょう。肯定的な評価
まずは左側の円錐ですが、これは〝特性
〝性格だから〟〟〝行動論/努力論・
〝やればできる〟〟という注
であれば、それに自信を持てばいいのです。 論〟をイメージしています。しっかり安定
否定的な場合にもめげることはありません。 していますね。道路工事で使われるコーン
それをまじめに受け取って、次の行動(演
も、ちょっと押したり、少しばかり風が吹
技)に生かせばいいのです。そうした努力
いたりしても簡単には倒れません。円錐の
を積み重ねることで、リーダーシップは改
土台から上の方まで〝特性〟が占領してい
善していくのです。はじめは誰でも大根役
ます。その先端の狭い部分に〝行動〟が乗
者に違いありません。それが、本人の努力
っかっている。そんな感じですね。その〝
と観客のサポートによって大向こうをうな
行動〟から1本の矢印が〝対人関係の世界
らせる名役者になるのです。リーダーシッ
〟に向かって出ています。そうなんです、
プも見習いからはじまります。それを倦ま
〝特性論〟の世界では、人の〝行動〟は〝
ずたゆまずの努力と周りの人との相互作用
リーダーシップ(対人関係)力の円錐
を通して、素晴らしいリーダーシップを発
対人関係の世界
揮できるようになるのです。そのときは、
行動のバリエーション
単にリーダーシップ技術が優れたものにな
行動
るだけではありません。おそらく、人間自
行動
身の幅も広がって、一段と大きな人物に見
えるに違いありません。それだけ成長した
特性
のです。
特性
特性論:運命論、決定論
「性格だから…」
- 23 -
行動論:努力論、改善可能論
「やればできる…」
特性〟によって支配されているのです。そ
ています。そこから5本の矢印が出ていま
のために、〝対人関係の世界〟と関わる〝
すが、これは〝特性論〟とは違って、様々
行動〟もワンパターンで柔軟性がないので
な〝行動〟のバリエーションがあることを
す。つまりは周りの状況が変わっても、ま
示しています。基礎的な部分には〝特性〟
た相手が違っても、とにかく同じような行
がありますから、〝行動〟が〝特性〟に影
動しかできないわけです。
響されることは否定できません。しかし、
このごろ A さんはリーダーシップがうま
リーダーシップにとって大事なのは、その
く発揮できていません。それに気づいた友
〝特性〟を乗り越えて様々な行動をしっか
人の B さんが A さんに声をかけました。〝
り試みることなのです。もちろん、すべて
A さん、何だか元気がありませんね。部下
の行動が成功するとは限りません。失敗す
の D さんとうまくいっていないようですが
ることだって少なくないでしょう。しかし
大丈夫ですか。あなたはずっと前に成功し
そのときは、また別の行動にチャレンジす
た部下の C さんに対する対応の仕方をその
ればいいのです。その中から成功体験も生
まま D さんにも当てはめようと思っている
まれてくるはずです。
んでしょう。私にはそこが問題だと思える
このように、〝行動論〟で大事なのは〝
んですね。D さんは C さんとは考え方が相
やればできる〟ことを確信してリーダーシ
当に違っているんです。ここで思い切って
ップの改善にチャレンジすることです。そ
あなた自身が行動を変えないと、D さんは
れは〝努力〟を大事にする考え方であり、
動かないと思いますよ … 〟。B さんとして
〝改善可能論〟と言うこともできるでしょ
は精一杯のアドバイスをしたわけです。し
う。
かし、これに対する A さんの答えはじつに
ここで、右側にある〝行動論〟の〝特性
単純明快でした。〝 B さん、心配してくれ
〟と〝行動〟の関係を実演してみましょう
るのはありがたいけれど、私に行動を変え
…。
ろなんて無理な話です。だって、これは私
じつはこの実演は〝文字〟で表現できま
の性格なんですから … 〟。まるで取りつく
せん。私が突如として口をパクパクしなが
島がないのです。まさに〝特性論〟の本領
ら 20 秒ほどしゃべるのです。いや声を出
発揮というところでしょう。これでは、B
さないのだから〝しゃべっている〟とは言
さんだけでなく、誰も意見を言わなくなる
えませんね。妙な雰囲気に笑いをこらえる
でしょう。そんなわけで、〝特性論〟は〝
人もいます。そんな感じになったときを見
運命論〟や〝決定論〟と呼ぶこともできる
計らって、私はまた聞こえる声で次のよう
でしょう。
な話をします。
もう1つの逆立ちした円錐はどうでしょ
皆さん、私は話し過ぎで声が出なくなった
うか。こちらも土台には〝特性〟が座って
のではありません。もちろんわざとです。
います。しかし、円錐の先端ですから占有
私は皆さんの公式の監督者ではありません。
している部分はわずかです。それと比較す
しかし、こうしてお話をしながら、それな
ると、その上にある〝行動〟は大きく広が
りに影響を与えることが期待されています。
り、底辺が〝対人関係の世界〟と向き合っ
その限りで私は一時的ながら皆さんにリー
- 24 -
ダーシップを発揮しなければなりません。
いというのでは、まるでロボット、味も素
そこで私には何が必要でしょうか。そうで
っ気もありません。その代わり、私として
す。少なくとも〝聞こえる声〟でお話しす
はその場で〝求められている行動〟である
ることですね。つまりは〝聞こえる声で話
〝聞こえる声で話す〟ことには全力を尽く
す〟という〝行動〟が期待されているので
すわけです。
す。そうしなければ、私は責任を果たして
〝逆立ちした円錐〟、つまりは〝行動論
いるとは言えません。だから、私は何とし
〟では、リーダーシップをこのように考え
ても〝聞こえる声〟でお話ししようと努力
るのです。そこは〝やればできる〟の世界
しているのです。肉声が聞こえないような
です。
ただし、それはそのまま〝やらな
広い場所であれば、当然マイクを使います。 きゃあアウト〟と宣言していることにもな
それも期待された行動を実践するために必
ります。そうなると、〝特性論〟と〝行動
要なのです。〝行動するかしないか〟。そ
論〟はどちらが〝楽〟なんでしょうか。
れがリーダーシップが評価されるかどうか
の分かれ道ということになります。
手のひらに〝円錐〟を置いてみましょう。
まずはしっかり安定して倒れません。これ
しかしながら、私は〝特性〟の影響を受
に対して、〝逆立ちした円錐〟はどうです
けてもいるのです。たとえば、後ろの方か
か。そんなことすれば一瞬にして倒れてし
ら話を聞いている方の声が聞こえます。〝
まいます。プロの曲芸師だって円錐を立て
吉田さーん、声はここまで届いているよー
たままで維持することは至難の業です。〝
っ。それはいいんだけどねえ、あなたは背
特性論〟と〝行動論〟もこれとまったく同
が低くて姿がよく見えないんだよね。悪い
じですね。〝あなたの『特性』はリーダー
けど身長を 180cm くらいにしてくれない
シップに最適です〟。そんな評価をもらえ
かなあ … 〟。そんなこと無理な話に決まっ
れば、あとは左うちわ、何の努力もしない
てます。背が伸びるどころか、このごろは
でいいリーダーとしてやっていける。その
縮んでいるくらいなんですから。こんな反
代わり〝あなたの『特性』には問題があり
応はどうでしょうか。〝声は聞こえるんだ
ます〟などと言われればお先は真っ暗とい
けど、もっとさあ、テレビのドキュメンタ
うことになります。〝どうせ私は望ましい
リーのナレーターみたいな低音で迫力のあ
リーダーシップなんて発揮できないのよ〟
る音質でいけないもんかなあ … 〟。私はコ
と居直るしかありません。
ロッケではありません。そんな器用なこと
められている行動をずっと続けていくこと
できるはずがないのです。
が大事ですよ〟と聞けば、その実現に努力
一方、〝今求
身長にしても声の質にしても、私の〝特
すればいいのです。ただし、期待されてい
性〟なのです。いくら期待されてもそれを
る行動も状況が変われば違ってきます。で
変えることはできません。その点は現状で
すから、時々刻々と求められている行動に
満足していただくしかないのです。それは
気づき、緊張感を持って実践していかない
まさに〝個性〟ですから、そのくらいの違
といけません。それは手のひらに乗せた逆
いはあった方が世の中おもしろいではない
立ちした円錐を倒さないようにする曲芸師
ですか。みんな同じ身長で声まで違いがな
よりも難しいことかもしれません。しかし、
- 25 -
そうした努力が仕事をスムーズに達成させ、 のでも人の見方は違っているということに
周りの人たちの意欲を高めるのです。まさ
も気をつけたいものです。心理学の教科書
に、〝努力が実を結ぶ〟のですから、それ
で、〝貴婦人と老婆〟と呼ばれる絵を見る
こそ〝リーダー冥利に尽きる〟と言えるで
ことがあります(図2)。これは、視点を
はないですか。
変えると、〝若い貴婦人〟にも、〝老婆〟
にも見える絵です。この絵の場合、どちら
7) コミュニケーションの落とし穴
の答えも正しいのです。私たちの周りには
リーダーシップは対人関係における影響
こうした事例が少なくありません。どちら
です。それは人と人とのコミュニケーショ
も間違いでないのに、〝自分こそ正しい〟
ンだと考えることもできます。最後にリー
と一歩も譲らない。あとで、どちらも良か
ダーシップを発揮する際に、気をつけるべ
ったことがわかって、思わず苦笑いしてし
きポイントをコミュニケーションの落とし
まった。誰でも、一度や二度は、こんな経
穴という視点から見てみましょう。
験をしたことがあると思います。これもコ
はじめに、私たちは自分の思ったことを、 ミュニケーションの大きな落とし穴だと言
えるでしょう。
できるだけ誤解のないように相手に伝えた
私たちの周りには情報が氾濫しています。
いと思います。しかし、このことは大変難
しいことです。むしろ、対人関係において
この情報に対する対応も、対人関係を考え
は、〝自分の思ったようには通じない〟と
る上で、非常に重要です。たった1つの情
考えていた方が安全かもしれません。こと
報だけを聞いて、私たちは喜んだり、悲し
ば1つ取ってみても、そうでしょう。私た
んだり、怒ったりしていないでしょうか。
ちは誰もが、〝犬〟ということばを知って
しかし、世の中には一面的な情報も少なく
います。しかし、私がイメージする〝犬〟
ありません。別の立場からは、まったく別
とあなたの頭の中に思い出す〝犬〟は明ら
の情報が出てくるかもしれないのです。こ
かに違っています。小学校のときにかまれ
の場合、情報を伝えた人のうちどちらかが
た経験から、犬嫌いになった人もいるでし
嘘を言っているのでしょうか。事実はそれ
ょう。子どものころから犬が大好きな家庭
に育った人にとっては、犬はこの上なく可
愛いパートナーのはずです。こうして、同
じことばを使っていても、まったく違った
イメージを持ちながら人はコミュニケーシ
ョンを展開していくのです。これは身近な
例にすぎませんが、ことばが持っているこ
うした特性を理解しておくことを忘れては
ならないのです。はじめにも指摘しました
が、ことばは〝人間理解の道具〟と同時に
〝人間誤解の凶器〟なのです。
こうしたことばの問題とは別に、同じも
- 26 -
図 2 .老婆と貴婦人
ほど単純ではありません。どちらも、その
していると思っていた列車に乗れなかった
立場に応じて本当のことを伝えていること
ことがあります。乗換駅に到着したところ、
も、大いにあり得るのです。〝情報は複数
その時刻よりも前に列車は発車していたの
で確認する〟ことは、誤解のない対人関係
です。信じられないような初歩的ミスに、
を作り上げるためのキーワードだと言える
私もことばを失いました。しかし、気を取
でしょう。
り直して次の列車に乗ったのですが、そこ
情報化の時代です。携帯電話、PHS、フ
からすぐに、旅行会社に抗議の電話を入れ
ァックスと、コミュニケーションをスムー
ました。はじめは驚いていましたが、〝と
ズにする機器が次から次に開発されてきま
にかく調べてみます〟ということで電話は
す。しかし、こうした機器の発達とともに、 切れました。1時間以上も遅れて先方には
人と人との直接的なコミュニケーションは
迷惑をかけることになってしまいました。
少なくなってきました。都会の雑踏の中を
それでもとにかく仕事は終わりました。や
携帯電話で話しながら歩いている人々がい
りきれない気持ちでホテルに向かいました。
ます。こんなとき、周りの人は単なる背景
旅行会社に対する怒りはおさまっていませ
になってしまいます。それどころか、ぶつ
んでした。ところが、ホテルのフロントで
かりそうになるときには、まるで障害物に
新しい事態が展開したのです。フロントか
なってしまうのです。こんな状態では、人
ら、1通のファックスを手渡されました。
に対する思いやりも生まれないでしょう。
それはあの旅行会社からのものでした。そ
こんなとき代こそ、直接的な対人コミュニ
こには、今回の件で多大な迷惑をかけたこ
ケーションを大切にしたいものです。それ
とについてお詫びの気持ちが書かれていま
を上手に進めるためには、意識してコミュ
した。〝お仕事にお差し支えなかったかと
ニケーションの技術を磨くように努力する
心配しております … 〟。この文を読んで、
ことが必要です。そういう意味で、私はこ
私はすべてを水に流そうと思いました。そ
こで、〝わざわざコミュニケーション運動
こには、一刻でも早くお詫びをしなければ
〟を提案したいと思います。これまでは、
という気持ちがあふれていたからです。こ
いやでも人と人との直接的なコミュニケー
のように、一見すると没人間的で冷たいと
ションが、対人関係の大半を占めていまし
思われる現代の機器も、使いようによって
た。ですから、自然に生活していれば、コ
は、心を伝える道具にもなるのです。
ミュニケーションのスキルも身に着いたも
のです。しかし、今では、〝わざわざ意識
6.リーダーシップの改善を目指す
的に〟コミュニケーションの機会を作り、
1) カリスマとミニ・カリスマ
お互いを理解する力を育てていくことが欠
かせないと思われます。
ときどき、〝カリスマ〟ということばを
聞くことがあります。〝カリスマ〟はギリ
もちろん新しい時代の機器をうまく活用
することによって、相手に自分の気持ちを
伝えることもできます。私は、旅行会社が
時刻を間違って切符を発行したため、連絡
シャ語を語源としたドイツ語なのですが、
〝予言や奇跡を行う超能力〟といった意味
があります。これが転じて〝大衆を心酔さ
せ、従わせる、超人的な資質や能力。また、
- 27 -
そのような資質を持った人〟ということに
る専門知識や技術で、周りの人たちに一目
なります(電子版精選 日本国語大辞典)。
置かせる。そんな力と雰囲気を持っている
カリスマを支配の1つの形態として取り上
わけです。実際に〝できる〟人ですから、
げたのは社会学者のマックスウェーバーで
その影響力もけっこう大きいのです。しか
す。彼はこのほかに、合理的(合法的)支
も目の前にいる人だから、部下たちに〝こ
配と伝統的支配を挙げています。それはと
んな人になりたい〟という 気持ちを起こさ
もあれ、現実の実践を考えるとき、私はリ
せます。
その点、〝カリスマ〟はほとんど〝神様
ーダーはカリスマではなく、ミニカリスマ
〟同然ですから、はじめから〝あんな人に
であるべきだと考えています。
それでは〝カリスマ〟と〝ミニカリスマ
なりたい〟などとは夢にも思わない。人々
〟はどこがどう違うのでしょうか。これに
はただひたすら従うだけなのです。それに
ついては4つの点を挙げておきましょう。
しても、〝カリスマ〟をカリスマたらしめ
その第一、〝カリスマは見えない人〟だと
ているのは偏った〝情報〟のような気がし
いうことです。〝あるいはほとんど神様〟
ます。もっと正確に言えば、〝コントロー
だと言えるかもしれません。そもそも一般
ルされている情報〟というべきでしょう。
の人々はカリスマと呼ばれる人物を見たこ
そんなわけで、〝カリスマの声〟さえま
とがないんです。何かの機会に見たことが
ともに聞くことができない。そんなことが
あったとしても、それは遠い遠い、しかも
当たり前に起きます。それはなぜかといい
桁違いに高い場所などにいて、ただ手を振
ますと、〝カリスマ〟はあくまで神秘的で
ったり拍手をしているだけの姿だと思いま
あり続けないといけないないからです。た
す。その上、その人の声すら聞いたことが
とえば、〝カリスマの声が〟ドーンと落ち
ないということさえめずらしくない。そん
着いた重厚なものでなかったらどうなるか。
なすごい人なんですね。
まるで子どものようなキンキン声だったら
しかし現実のリーダーはそんなすごい人
威厳が保てないんです。少なくとも取り巻
ではまずいのです。いわんや〝神様〟では
きたちはそう考えるわけです。シリアスな
いけません。 〝ミニカリスマ〟はみんなが
ドキュメンタリーのナレーターのように、
自分の目の前で見ることができる人です。
低音で鬼気迫るようなトーンでなければま
もちろん、平々凡々たる人よりも少しばか
ずいんですね。
声だけでなく体型だって〝カリスマ〟の
りは〝すごい人〟なんですね。仕事に関す
大事な条件になるでしょう。あまり小柄だ
ミニカリスマを目指して…
モデルとしてのリーダー
と迫力がないわけです。昔の日本では〝6
尺〟を超える大男などという表現がありま
カリスマ
ミニ・カリスマ
1)見えない人
1)目の前にいる人
あるいは 神様?
2)失敗したことない人
あるいは 神様?
3)失敗できない人
あるいは 神様?
4)欠点があってはいけない人
あるいは 神様?
あるいは 少しだけすごい人!
2)失敗体験が語れる人
だから けっこう普通の人!
3)今でも失敗してる人
でも スマートに謝れる人!
4)けっこう足りないところもある人
だけど それを克服できる人!
した。尺貫法時代の話ですが、1尺が
30.3cm ですから、身長が 180cm を上回る
人間のことを指していたのです。このくら
いあると、もうそれだけで他を威圧するで
しょう。ですから、〝カリスマ〟が小柄だ
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と、本物を身近で見せるわけにはいかなく
であるんですね。それが周りの人間にわか
なるんですね。
るわけです。それは実像のない単なる〝イ
カリスマは〝人に見えない〟のです。あ
メージ〟ではありません。本人がしっかり
るいは、それを利用しようという人たちに
頑張ったことを誰もが認めているのです。
とって〝人に見せてはまずい〟ものなので
そんなわけで、〝あの人のようになりたい
す。つまりは〝実態〟のない〝イメージ〟
〟という気持ちにさせる人でもあるのです。
に過ぎないとも言えるわけです。
〝カリスマ〟と〝ミニカリスマ〟の相違点
ヒトの大脳は恐ろしく発達して、イメー
の2点目は〝失敗〟がキーワードです。い
ジで物事を考えることができるようになり
わゆる〝カリスマ〟は失敗をしたことがな
ました。そのため、これから先のことを予
いはずです。少なくとも、そう思われるよ
測し、様々なものを創造できるのです。そ
うに仕組まれているんですね。そもそも失
して、その〝イメージ〟が自分たちの生き
敗しない人間などこの世にいるはずがあり
様や行動にけっこう大きな影響を与えるわ
ません。それにも拘わらず、〝カリスマ〟
けです。それは人間らしく生きるための大
は失敗したことがないというのです。だか
事な力だと言えるでしょう。しかし、すべ
ら、〝カリスマ〟はやはり神様と同じなの
ては諸刃の剣、裏と表を持っているもので
です。これに対して〝ミニカリスマ〟はけ
す。巧みな〝イメージ〟戦略で人の心を掌
っこう失敗しているわけです。と言うより
握し、自分たちの意に沿うようにコントロ
も、これまで失敗をしっかり生かしてきた
ールすることもできるのです。私たちの歴
から、めでたく〝ミニカリスマ〟になって
史を振り返ると、そうした事実はいくらで
いるのです。ただし、その失敗を隠し通し
も挙げることができます。あのファシズム
ていては〝ミニカリスマ〟の称号は与えら
時代なども〝カリスマ的指導者〟が大衆を
れません。自分の失敗体験を部下たちに語
動かしました。しかし、それは過去のもの
れる人でなければならないのです。
ではないんですね。今でも〝イメージ〟を
リーダーシップに欠かせない要件として
利用する戦略は政治に限らず、ありとあら
〝部下を育てる〟ことが挙げられます。知
ゆる領域で〝活用〟されています。
識や技術に優れているだけでは本物のリー
それはともあれ、現実のリーダーは〝目
ダーとは言えません。それに加えて部下た
に見えるミニカリスマ〟でないとまずいの
ちを育てる力が求められているのです。過
です。ただし、〝少しばかりすごい人〟で
去の失敗体験は部下の教育に大いに役立つ
ないといけません。それと同時に〝自分も
はずです。自分が駆け出しのころ、あるい
努力すればあの人のようになれる〟という
は若いころの失敗体験とその克服した過程
気持ちにさせる。リーダーはそんな〝ミニ
を語ることで部下たちの心は楽になります。
カリスマ〟であってほしいと思います。も
そして、〝失敗を乗り越えていこう〟とい
ちろん〝どうやってもあの人にはかなわな
う勇気を与えるのです。リーダーが頼りが
い〟と思うほどの〝すごさ〟を持った人も
いのある人間であればあるほど、その失敗
いるでしょう。それでも〝ミニカリスマ〟
体験が部下たちに与えるエネルギーは大き
の場合は、その〝すごさ〟は〝努力の賜〟
くなります。〝失敗してもくよくよするこ
- 29 -
とはない。これからしっかりやっていけば、 ことが大事です。それには〝失敗を繰り返
この人のようになれるんだ〟。そんな意欲
さない具体的なノウハウ〟だけでなく、〝
を引き出すことができるのです。もちろん、 ものの見方・考え方の変化〟を可能にする
日ごろから〝失敗ばかりしておこう〟など
情報も含まれるといいですね。私は大学生
と言うつもりはありません。それでは〝失
のころ〝イメージ〟が人間行動に与える影
敗を生かせない人〟という烙印を押される
響に興味を持ったことがあります。それは
だけでしょう。大事なことは失敗を語ると
人の〝認知〟に関する研究とも言えるので
き、それを克服した過程の物語もワンセッ
すが、〝物事をどう捉えるか〟によって、
トにしておくことです。
目の前の世界が変わるのです。それがうま
〝ミニカリスマ〟は自分の失敗を語れる人
くいけば、結果として態度や行動も変化し
なのです。それは自分が指導する人たちの
ていくわけです。
力になるわけです。そう考えると、若いう
〝カリスマ〟と〝ミニカリスマ〟の違い
ちはあれやこれやと失敗しておくといいで
の3点目も〝失敗〟に関係しています。〝
すね。とんでもない厳しい体験や苦々しい
ミニカリスマ〟は過去に失敗した体験を持
失敗が〝自分を育てる〟ことは言うまでも
っているだけでなく、今も〝失敗できる人
ありません。しかし、それらは〝人を育て
〟なんです。もちろん、〝カリスマ〟の方
る〟ためにも大いに役立つのです。つまり
は過去だけでなく、現在も失敗なんぞはし
は、〝失敗〟が将来の〝自慢話〟にもなる
ません。少なくとも〝失敗しないこと〟に
わけなんです。そんな気持ちで失敗をしっ
なっているわけです。なにせ神様なのです
かり整理しておきましょう。そんなわけで、 から。しかし、そもそも失敗するのは〝仕
〝カリスマ〟は神様と同列にいますが、〝
事をしている〟証拠なんです。何もしてい
ミニカリスマ〟は〝けっこう普通の人〟な
なければ失敗のしようがないでしょう。〝
んですね。それが人間であり、本物のリー
もっと成長しよう〟〝さらにいい仕事をし
ダーはそんな距離にいてほしいのです。
たい〟〝何かいい方法はないか〟。そんな
もちろん、そうだからと言って〝同じ失
積極性があるからこそ〝健全な失敗〟が生
敗〟をし続けるのではいただけません。け
まれるのです。私たちが子どものころ、よ
っこう知られた元タレントが覚醒剤の保持
く〝失敗は成功のもと〟と言われたもので
か使用かで捕まったりします。その中には
す。そこには、失敗したときに自分を納得
〝またか〟とか〝またまたか〟と言われる
させる言い訳の要素も含まれてはいました。
人が少なくありません。薬物は完全に断ち
しかし、それが失敗を克服するエネルギー
切るのが困難だと聞きます。もちろんきち
にもなったわけです。〝失敗〟をどう評価
んと克服した人もいるはずですが、どうし
するか。それも〝ものの見方〟なんですね。
ても〝繰り返し〟の方が目立ってしまいま
失敗して〝ああダメだ〟と落ち込んでいて
す。薬物による幻覚が犯罪に繋がることも
は前に進めないでしょう。そもそも、初め
多く、社会全体が困る深刻な問題です。
てのことをするときは、誰だって〝失敗〟
いずれにしても、人に語れる失敗は〝そ
しているはずです。それでも〝朝から晩ま
れを克服した物語〟とセットになっている
で失敗している〟という感覚がないのは、
- 30 -
失敗が小さ過ぎて気づかないだけのことな
らない〟のです。何と言ってもほとんど〝
んです。何でも同じことを繰り返していく
神様〟なのですから。
うちに〝うまく〟なるでしょう。というこ
これに対して、〝ミニカリスマ〟はちゃ
とは、そのときの基準で評価すれば、それ
んと〝欠点〟を持つことが許されているの
以前は〝失敗〟していたわけです。
です。〝欠点〟があるからといって心配な
ともあれ、〝ミニカリスマ〟は現在も、
んぞする必要はありません。〝人間〟なの
そしてこれからも〝しっかり失敗できる〟
ですから、〝けっこう足りないところ〟が
人なんです。ただし、その失敗をごまかし
あってもいいじゃないですか。ただし、当
てはまずいですね。そんな人は〝ミニカリ
然のことながら、〝欠点の持ちっぱなし〟
スマ〟の免許は取れません。自らの失敗を
では〝ミニカリスマ〟の免許も返上しない
きちんと認める。そしてそれを取り返すた
といけなくなります。大事なのは、〝欠点
めの努力を惜しまない。このワンセットが
を持っている〟ことではなく、そこから先
部下や周りの人たちのモデルになるのです。 の行動です。〝自分の欠点を克服するため
ときには、部下たちに謝罪しないといけな
に、いつも努力を惜しまない〟。この点こ
いことだってあるでしょう。そこでスマー
そが〝ミニカリスマ〟に期待されているの
トに謝る力が必要なんですね。〝ミニカリ
です。人間には〝自分の弱さを認める強さ
スマ〟は〝謝らない誤り〟を犯してはいけ
〟が必要です。そこをしっかり知った上で、
ないのです。
それを乗り越えるために絶え間ない努力を
〝ミニカリスマ〟は、その地位に就いてか
続けていく。そんなとき、人は輝いて見え
らも〝失敗できる人〟です。ただし、〝ス
るものです。〝ミニカリスマ〟はこうした
マートに、それを認めることができる人〟
点においても〝モデル〟になるのです。
あるいは〝カッコよく謝れる人〟でもある
2) 行動を変える 4 つの信念
わけです。リーダーは〝モデル〟になるこ
とが期待されています。しかし、〝モデル
適度の危機意識:
〟というと、つい〝何でもかんでも優れて
行動を変えるためには、適度の危機意識
いる人〟だと思ってしまいますが、そんな
〟を持ち続けていたいものです。ひょっと
ことはないんです。リーダーは〝モデル〟
すると、私たちの心の中にはラクダが住み
として〝ミスを犯し〟〝チョンボもする〟。 ついているのかもしれません。それは〝今
しかし、同時に〝スマートに謝る〟ことに
のままが楽だ〟〝何もしない方が楽だ〟と
おいても〝モデル〟の役割を果たすのです。 いう2頭のラクダです。皆さんは大丈夫で
もちろん、〝いつもいつも誤りを繰り返し、 すか。そんなラクダはすぐにでも動物園に
謝ってばかり〟というのでは困りますが …。 引き取ってもらいましょう。そうそう、私
〝カリスマ〟と〝ミニカリスマ〟の違い
たちの行動にはニュートンの〝慣性の法則
の4点目は〝欠点〟を持っているかどうか
〟も働いているような気がしませんか。外
です。言うまでもなく〝カリスマ〟は超人
から力が働かない限り〝静止しているモノ
ですから、〝欠点〟なんて持っているはず
はじっと動かない〟。そして、〝等速度で
がありません。そんなことは〝あってはな
動いているモノは、そのまま運動を続ける
- 31 -
… 〟。これが慣性の法則ですが、ここで〝
の場合は体と違っていつも明確な危険信号
モノ〟を〝者〟に入れ替えれば、まるでわ
を発してくるとは限りません。だからこそ、
れわれの日常生活を見ているようではない
私たちには〝現状の問題〟に気づく感受性
ですか。外から強制されなければ、じっと
が欠かせないのです。そして、適度な危機
して自分の行動を変えようとしない人。〝
意識が、これまた適度な緊張感を生み出し
これしかない〟と思ったら、状況の変化や
ます。それが個人だけでなく、人間で構成
人の意見などお構いなしに、ひたすら我が
される組織を成長させるエネルギーになる
道を行く人。いるはいるは、周りを見渡す
のです。ここで大事なのは、〝どこがどの
と、こんな人がワンサカといませんか。驚
ように問題なのか〟を明確にしておくこと
いたことに、ニュートンは万物の霊長であ
です。〝何となくまずい〟というのは、単
る〝人間〟行動の法則まで発見していたわ
なる不安にすぎません。漠然とした不安を
けです。もっともこの仮説はニュートンが
抱えているだけでは現状を変える行動に繋
〝モノ〟と〝者〟という日本語を知ってい
がりません。不安が不安を呼び、ますます
たという条件付ですが …。
ストレスが高まってくるのです。
ともあれ、〝今のままでいい〟といった
また、危機意識が強過ぎてストレスが高
気持ちでは、行動も変わりようがありませ
まれば〝行動の変化〟どころではなくなっ
ん。〝これではいけない〟といった危機意
てしまいます。ストレスは自虐的な反応を
識が人を動かすのです。もちろん、何でも
呼び起こしたり、まったく逆に攻撃的な行
そうですが、物事は程度の問題です。〝危
動を引き起こす原因にもなるのです。自虐
機意識〟も〝適度〟でないとまずいんです。 的な反応は自分に対する攻撃だと考えられ
いつも〝危ない危ない〟と騒いでいると、
ます。その結果として抑圧的になり、最悪
ストレスが高まるだけでしょう。私たちは
の場合には自ら命を絶つことにも繋がるの
一定の時間が経過するとお腹が空きます。
です。それが外に向かうと暴力やいじめを
これも体が発する〝適度の危険信号〟なの
引き起こします。当然のことながら、自分
です。〝このまま何もしないと危ないです
より強い者を攻撃するわけにはいきません。
よ〟と知らせてくれているんですね。それ
そんなことをすれば自分が危うくなります
を感知して、私たちは生きていくために食
から、攻撃は弱い者にしか向かないのです。
事をするわけです。ところが、日常の行動
そんなエネルギーがあるなら自分を伸ばす
ことに向ければいいのにと思います。何と
リーダーシップ:4つの信念
も寂しい話ではないですか。
改善可能性を信じる:
適度の危機感:
さて、〝適度の危機意識〟の次に行動の
2頭のラクダ追放作戦 今のままではまずい…
変化の確信:
変化に求められる条件は〝改善できること
どうせダメ、生まれつき → きっと変われる…
自分のため:
変わるのは自分のため 自己犠牲では続かない
リーダーシップは人のためならず
変化の使命感:
を信じる〟ことです。努力すれば行動はし
っかり改善できるという信念を持ちたいも
のです。〝どうせ生まれつき〟〝もともと
変わるのは私の使命…
性格だから … 〟。こんな発想でいては変
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わるものも変わりません。赤ちゃんを見て
ては意識的な練習、努力の繰り返しによっ
ください。生まれたときから身についてい
て獲得した成果なんです。〝やってもしよ
る行動は、呼吸をする、泣く、おっぱいを
うがない〟ではなく、〝やってきたから〟
飲む、手足を動かすくらいのことでしょう。 今があるのではないですか。しっかり〝行
もちろんおっぱいを飲むだけでなく、それ
動は改善できること〟を信じましょう。
を消化し排泄する働きなどもあります。こ
変わるのは自分のため:
うした生得的な反応と言うべき行動は生き
さて、〝行動変容〟に関わる第3番目の
ていくための基本的な条件として、練習し
ポイントは、〝変わるのは自分のためだ〟
なくても身についています。心臓だって勝
という視点です。〝情けは人のためならず
手に動いているとも言えます。しかし、お
〟といいます。〝人と人の間には思いやり
っぱいを飲むことだって、だんだんうまく
が大事だ。人に情けをかけていれば、自分
なるものです。心臓にしても努力次第で毛
が困ったときは自分も思いやりのある対応
が生える。というのは冗談ですが、人の前
をしてもらえる。だから、情けをかけるの
でものが言えず赤面するのが気になってい
は人のためではなく、じつは自分のためな
た人も、経験を重ねていくうちにそれを克
のだ〟。とまあそんな意味なんですね。こ
服することもできるわけです。運動してい
れを、〝情けをかけると人を甘やかすこと
れば心臓だって強くなります。いわんや筋
になるから、その人のためにならない。だ
肉なんぞはドンドン鍛えられるのです。日
から情けをかけるのは止めましょう〟とい
常の行動だって同じことではないですか。
う意味だと誤解している人もいるようです。
赤ん坊を見ていると一生懸命に努力してい
実際、私が授業でこの話をすると、〝私も
ることがたくさんあります。生後1年近く
勘違いしていました〟と言う学生がいるの
になると、手を振って〝バイバイ〟するよ
ですね。成句の解釈は置くとして、〝自分
うにもなります。もちろん〝バイバイ〟の
の行動を変える〟のもやはり〝人のためな
意味はわかってはいません。周りの大人た
らず〟と考えたいものです。〝部下に変わ
ちが勝手に喜んでいるだけではありますが。 れ変われと言うだけではダメですよ。あな
足の方は今ひとつで、まだ歩くにはほど遠
たの方が先に変わることが期待されている
い感じでしょう。もちろん、本人は〝もっ
んです〟。職場のリーダーなら耳にたこが
としっかり歩きたい〟なんて日本語で考え
できるほど聞かされるセリフでしょう。
ているわけではありません。それでも、と
こんなことばかり言われていると自分の巡
にかく〝歩きたい〟という心のエネルギー
り合わせの悪さを嘆きたくなります。〝や
が伝い歩きを上達させていくわけです。そ
れやれ。私が若いころは上役の命令は絶対
してそのうちしっかり歩くようになります。 だった。ようやく役職について、これから
私たちの行動を振り返ってみると、何の努
は部下たちをしっかり鍛えるぞと張り切っ
力もせずに身についたものなんてありませ
ていたのに、今度はお前たちが変われだっ
ん。生まれたときから自転車に乗れる人間
て …。昔とは違って、今は部下さまさま
などいないですよね。ことばを流暢に話す
の時代ってことか … 〟。もうかなり以前
赤ん坊だっているはずがありません。すべ
のことですが、製造の最前線で指揮を執る
- 33 -
職長や作業長と呼ばれる方々から、こんな
をもたらす最初のきっかけが自分であるこ
ため息混じりの声を聞いていました。そし
とを誇りにしようではありませんか。
3) 〝 K 〟のこころ
て、最後は〝部下のために自己を犠牲にし
ろってことか〟となってしまうわけです。
〝 K ちゃん〟の応援団長:
しかし、〝自己犠牲の精神〟だけでは身も
もう過去の思い出になってしまいました
心ももちません。そもそも管理者だけでな
が、〝3 K 〟ということばが〝流行〟した
く、この国の組織人たちは多かれ少なかれ
時代がありました。仕事が〝きつい
〝自己犠牲〟を強いられていますよね。そ
(Kitsui) 〟 〝 汚 い (Kitanai) 〟 〝 危 険
の上、さらに〝自己犠牲〟を背負わされて
(Kiken)〟の頭文字をとったものです。前世
はかないません。そう、〝自己犠牲〟だけ
紀終盤のバブル絶頂期のことで、仕事もバ
では続かないんです。そうではなくて、自
ブルで人手が足りない状態が慢性化してい
分の行動を変えることは、〝他人のためな
ました。そこで、賃金が低くても3Kを厭わ
らず〟と考えてはどうでしょう。こちらか
ない外国人労働者が一気に増えたりしたも
ら行動を変えれば、その結果として部下や
のです。そういえば、土地の価格も右肩上
職場のメンバーたちの評価が変わるに違い
がりが止まらない。そんな状況でした。と
ありません。そして、〝あなたがリーダー
にかく土地さえ買っておけば、その値上が
で本当に良かったと感謝しています〟〝し
りで必ず儲かると信じられていたのです。
っかり楽しく仕事ができます〟〝私がこれ
これがいわゆる〝土地神話〟だったことは
から責任を持つようになったら、あなたの
バブルがはじけたあとになって明らかにな
ようになりたい … 〟。そんなことを言わ
るのですが…。そんな時代ですから、狭い
れれば、リーダーとしても無上の喜びを感
土地を合わせて一定の広さにして高く売る
じるでしょう。まさに、〝行動変容は他人
ために、〝地上げ〟なるものも生まれまし
のためならず〟なのです。
た。それを暴力的に行うことが深刻な社会
変わるのは自分の使命:
問題にもなったものです。いまから考える
最後に、〝行動を変えるのは自分に与え
ととんでもない時代だったのです。
られた使命だ〟と考えていただきたいです
もっとも、世の中には無数の仕事があり
ね。〝使命(mission)〟というと与えら
ます。そして、その内容も千差万別ですか
れた重大な任務を果たすことです。何と言
ら、どんな国でも敬遠されるものは出てき
っても〝天からの命令を受けた使者〟なん
ます。そんなわけで、英語にも〝3 D 〟が
です。そこまで言うとちょっと大げさ過ぎ
あるらしいのです。それは〝 Dirty(汚い)
ますが、とくにリーダーはそんな気持ちで
〟〝 Dangerous(危険)〟〝 Demeaning
自分を変えることに力を注いでいただきた
(品位を傷つける、名を汚す)〟の3つの
いわけです。そうした意識が力になって、
です。最後の〝 Demeaning 〟は日本語の
自分を変えていくことができるのです。そ
感覚とかなり違っていますが、とにかく〝
れだけではありません。その変化が周りの
3 D 〟なるものがあるのです。わが国では、
人たちに影響を与えて、組織全体の変化を
一般化した〝 3K 〟のほかに、〝きつい〟
引き起こしていきます。そんな大きな変化
〝帰れない〟〝給料が安い〟などを加える
- 34 -
人もいました。また看護師たちが〝結婚で
ことで、私たちは刻々と変化する環境にう
きない〟もあるんですよと苦笑いしていた
まく対応していけるのです。こうして、私
ことも思い出します。
たちがよりよく生きるためには〝適度の危
それにしても〝3 K 〟は徹底して暗いわ
機意識〟が必要なのです。
けです。〝3 K 〟が〝きつい〟〝きたない
これは ある種の〝不全感〟と言い換える
〟〝危険〟と言われっぱなしでは〝 k 〟が
こともできます。あるいは、〝欠乏感〟と
かわいそうです。一方的に責められるのは
言ってもいいでしょう。そう、〝欠乏〟は
忍びないではありませんか。そこで天邪鬼
〝Ketubou〟ですから、またまた〝K〟ちゃ
を自認している私は、〝 K 〟ちゃんの応援
んに出会うではありませんか。もっとも、
団長になろうと決めたのです。その気にな
ことばとしては〝不全〟や〝欠乏〟はプラ
れば、世の中には〝 K 〟が頭に来るすばら
スの意味をもっていません。そもそも最初
しいことばはいくらでもあるんです。そも
の〝危機意識〟にしてもマイナスのイメー
そも人間は〝気持ち〟が大事です。いつだ
ジを背負っていますね。しかし、私たちは
って前向きで生きていかなくっちゃあいけ
〝現在を適切に否定する〟ことによって成
ません。ということで、まずは〝気持ち〟
長することができるのです。〝いまのまま
の〝 K 〟があります。そして前向きになれ
〟〝現状維持〟では〝思考停止〟に陥って
ば、〝こ(Ko)のままではいけない〟と考
しまうのです。それでは進歩を期待するこ
えることも、またきわめて大事ではないで
となどできません。昨日よりも今日を、そ
すかか。これについてはすでに〝 4 つの信
してさらに明日をよくしたい。そんな気持
念〟のところでお話しした〝適度〟の〝危
ちが行動の改善に繋がります。
機(Kiki)意識〟に繋がりますので、重複す
おやおや、ここでも〝K〟くんが登場しま
る部分はカットして、〝適度〟ということ
したね。この〝改善(Kaizen)〟は、日本
ばについて少し考えることにしましょう。
の優秀な工業製品を生み出すキーワードと
〝過ぎたるは猶及ばざるがごとし〟とい
して、すでに〝英語〟になっているんです。
います。何でもそうですが〝行き過ぎ〟が
とくに、トヨタ自動車における〝Kaizen〟
まずいことは当然です。しかし、この言い
はアメリカの経営界でも大いに注目されま
回しの裏側には〝不十分なものも問題だ〟
した。敗戦の焦土から立ち上がり、しっか
という意味だって含まれているはずです。
り働いて前世紀の後半近くまでは経済的に
まさに、〝適度〟が大事なんです。ただし、 ダントツで成功した国、それが日本だった
この〝適度〟の基準を決めるのがなかなか
のです。
難しいわけです。そこが人によって大いに
そうした〝元気な日本〟がいつの間にか
違ってくるので世の中はややこしくなるん
〝遠い過去の栄光〟になってしまいました。
です。そんなわけで、〝適度の基準〟の議
今日では、あらゆる状況が変わりましたか
論はちょっと脇に置くことにしましょう。
ら、〝夢をもう一度〟というわけにはいき
とにかく〝適度の危機意識〟があってこ
ません。ここで夢など見ても仕方がないの
そ、それを克服するための知恵が生まれま
です。幻想など捨てて、現実を見つめなが
す。そして、知恵が新しい行動を引き出す
ら新しい生き方を発見し続けていきたもの
- 35 -
です。だからこそ、〝いまのままでいい〟
の考え方や態度、そして何よりも〝行動の
〝どうしようもない〟では身動きがとれま
改善〟が実現できるのです。
せん。〝このままではいけない〟という〝
じつは、〝Kaizen〟だけでなく〝Kaikaku
危機意識〟をもつことが大事なのです。も
(改革)〟もアメリカのビジネス用語とし
ちろんそれは〝適度に〟〝前向きに〟です。 て認知されているのです。これについては、
さて、いまや英語になった〝Kaizen〟で
すが、これは〝The Japanese Strategy of
たとえば http://www.1000ventures.com/bu
siness_guide/mgmt_kaizen_vs_kaikaku_10c.
Continuous Improvement〟とされています。 html やWikipediaをご覧いただきたいと思
英語辞書では〝improvement〟だけで〝改善
います。前者によれば、〝Kaizen is evolu
〟を意味しますが、ここに〝continuous;
tionary, focused on incremental improve
継続〟が含められていることを忘れてはい
ments〝
けません。その点で、〝Kaizen〟には、本
りは〝漸次的あるいは個々に手を加えて進
来〝改善〟に欠かせない大事なポイントが
化させていく〟ということですから、まさ
ちゃんと押さえられているのです。改めて
に日本語の〝改善〟ですね。これに対して
〝継続は力なり〟を感じながら前進しまし
〝改革〟は〝Kaikaku is revolutionary, f
ょう。
ocused on radical improvements〟とされ
という解説が付いています。つま
ところで、〝適度の危機意識〟ですが、
ています。文字通り〝革命的な〟といいま
これについて少しばかり補足しておきたい
しょうか、〝根本的な〟変化、進歩を目指
と思います。それは、とにかく〝今のまま
すものということになります。Wikipediaで
ではいけない〟と右往左往してはまずいと
は、〝Both Kaizen and Kaikaku can be ap
いうことです。自分たちの〝どんな〟発想
plied to activities other than producti
や行為が〝危ない〟のか、さらには〝その
on〟とまとめています。〝kaizen〟〝kaika
どこが、どのように〝危険なのか〟をしっ
ku〟はそもそも日本の製造業が起源の〝考
かり把握しておかないといけません。つま
え方〟と〝実践活動〟ですが、それ以外の
りは〝具体的な問題〟に気づき意識するこ
分野にも応用することができるというわけ
とが大事なのです。〝何となくまずい〟と
です。いずれにしても、〝日本語〟が〝英
いう抽象的な感じだけでは、それを解決す
語〟として定着しているのですから素晴ら
る手立ても思い浮かびません。漠然とした
しいではないですか。
〝不安〟だけで終わってしまいます。もち
そんな気持ちで現実を眺めると、わが国
ろん、最初はそうした何とも説明のつかな
が世界経済の中でダントツの勢いをもって
い不安や〝ちょっとおかしいんじゃないの
いたころが懐かしくなります。学生たちに、
〟といった疑問が浮かんで、それが〝改善
こうした時代とその雰囲気を伝えるのは至
〟のきっかけになることは大いにあり得ま
難の業です。全員がバブル崩壊後に生まれ
す。そんな感じがしたら、職場のみんなで
たのですから…。
それを問題にして考えていくことが期待さ
ともあれ、〝Kaikaku〟もちゃんと〝K〟
れるわけです。ぼんやりした不安をはっき
からはじまる〝k〟ちゃんの仲間ですね。も
りした問題に整理していくことで、個々人
っとも同じ時期でしょうか〝過労死(karōs
- 36 -
hi )〟も英語になってしてしまいました。
条件を付けておかないといけません。そもそ
こちらも頭文字が〝k〟ですから、〝k〟ち
も〝競争〟ということばには危うさが潜んで
ゃん擁護派には厳しいものがあります。
いるのです。それは競争の対象である集団を
さて、〝K〟ちゃんサポーターの私が〝改善
〝敵〟と見なすことです。歴史を見ても外の
〟に続いて提案したいのは、〝競争意識( kyo
集団を敵にする手法は繰り返し使われてきま
usou Isiki)〟です。いやはや、このことば
した。とくに国内で民衆の不満が高まった場
だけを先行させると〝競争を煽るなんてとん
合など、外敵をつくれば、攻撃の対象が内か
でもない〟と叱られてしまいそうですね。も
ら外へ入れ替わるわけです。私たちとしては、
ちろん、〝人を蹴落してでも自分が勝ちたい
こうした手に乗らないよう十分に気をつけな
という気持ち〟を〝競争意識〟というのであ
ければなりません。そんな意味からも、〝競
れば、これは不適切きわまりない〝K〟ちゃん
争心〟といっても〝適度〟でないと困るので
に決まってます。じつは、私自身には〝競争
す。
心〟がほとんどないと思っています。私もお
為政者が考えることと言えば、〝テルマエ
かげさまで多くの方々とおつきあいいいただ
・ロマエ〟という、かなり荒唐無稽な映画が
いています。こんなことを言うと、そのなか
ありました。タイトルは日本語にすると〝ロ
には、〝ほんまかいな。あんたの言動は競争
ーマの浴場〟で、漫画を映画化したものです。
意識丸出しだよ〟とおっしゃる方がいらっし
古代ローマの浴場設計技師が、新しいお風呂
ゃるかもしれません。しかし、少なくとも私
づくりのアイディアが浮かばずに悩んでいる
自身の〝自己評価〟としては、〝競争意識〟
とき、現代日本の銭湯にタイムスリップしま
は希薄な方だと思っているんです、はい。
す。そこで見せつけられた驚くべき発想に感
ともあれ、ここで私が強調したいのは、個
動します。たとえば富士山の絵や風呂桶、着
人よりも集団として〝みんなでしっかりがん
替えのカゴなど、それまで考えたこともない
ばろう〟という気持ちがほしいということで
ものにあふれているわけです。そしてそれら
す。そのことで自分たちの集団が元気になっ
をローマのお風呂に持ち込んで大評判になり
て、結果として他のグループよりも望ましい
ます。それでお風呂の設計技師として高く評
成果を生み出す。こんな感じの意味での〝競
価され、ハドリアヌス第14代ローマ皇帝から
争意識〟です。つまりはグループの仲間同士
もプライベートの浴場設計を任されるまでに
は協力・協働しながら、他の集団と競い合う
なるのです。そのあとも日本の家庭にあるお
ということです。まあ〝協働的競争〟という
風呂や温泉、さらにはウォシュレットなどに
のでしょうか。公益財団法人集団力学研究所
も遭遇し刺激を受け続けます。
が作成した〝職場に関する調査〟のなかに、
まあそんな感じですからまさに漫画的なス
〝あなたの職場には他の職場には負けたくな
トーリーでしたが、そのなかで私の注意を引
いという気持ちがありますか〟という質問項
いた台詞がありました。皇帝のハドリアヌス
目が含まれています。これは〝業績規範〟と
は広大なローマ帝国を治めるために豪華な〝
名づけられている要因の一つなのですが、ま
テルマエ〟つまり〝大衆浴場〟を国中につく
さに〝他のグループ〟を念頭に置いて回答す
ったというのです。これはおそらく歴史的な
る項目です。
分析を基礎にしているのだと思いますが、い
ただし、どんなことでも〝適度に〟という
わゆる大衆操作のテクニックだったのだと思
います。強権的な圧力をかけるだけでは国民
- 37 -
の不満が高まる。これが爆発すると為政者に
が大事です。それがそのまま〝ほめる〟こと
とってはまずいわけです。そこでみんなが楽
そのものなのです。上司が驚くのを見れば〝
しめる場所やイベントを企画する。それで満
自分がいい仕事をした〟ことがわかります。
足感を味わう、あるいは不満を解消できれば
それが自信に繋がることはいうまでもありま
まことに都合がいい。そんな具合で〝テルマ
せん。
エ〟が全国各地につくられたというわけです。
そんなわけで、私はリーダーは〝驚育力〟
人間の歴史を振り返ると、国の内部に不満
を磨いてほしいと言い続けてきました。しか
が高まったときは、①さらに圧力をかけて抑
もこの〝驚育力〟は〝ほめる〟効果をもって
圧する、②外部に敵をつくって不満のエネル
いるだけではないのです。それとはまったく
ギーをそらす、③心地いい思いができるよう
逆の〝叱る〟ときにも応用できるわけです。
な、あるいは憂さ晴らしできる制度や施設を
〝うわーっ、ビックリしたあーっ。そんなこ
つくる、まあそんな対策が考えられるわけで
としたらいかんぜーっ〟などと驚けば、それ
す。
は叱ったことにもなりますね。
いずれも本質的な問題解決にはならないと
リーダーシップの重要な要素として〝教育
しても、一時的な欲求不満は解消されるでし
〟があります。どんな仕事であれ、リーダー
ょう。ただし圧力をかけ過ぎるとさらに爆発
は自分の専門知識や技術に優れていることが
のエネルギーが溜まってしまいます。そうな
期待されます。またそれらをさらに磨くため
ると抑える方の圧力をさらに上げないといけ
に努力している。そんな姿を見せるのが、モ
なくなりますから、爆発の危険性はドンドン
デルとしてのリーダーシップなのです。しか
高まっていきます。世界を見ればそんな状況
し、リーダーたるものはそれだけで満足して
の国がけっこうあります。
はいけません。自分が身につけた様々な力を
さて、お次に控えている〝Kちゃん〟は〝
フォロワーに伝えていくことも大事な仕事で
向上意欲〟です。これは人間にとってもっと
す。これは部下たちを〝育てる〟こと、つま
も基本的な〝動機付け要因〟の一つです。と
りは〝教育〟なのです。ところで、〝教育〟
くに〝仕事を通して自己実現〟を目指すこと
にはいろいろあって、その中でも〝驚育〟は
は人生にとって有意義なことです。いやもっ
とても重要です。リーダーが上手に〝驚く〟
と積極的に〝人生の目的〟そのものだとまで
とフォロワーは気持ちよくなります。自分が
言いたくなります。この〝向上意欲〟にとっ
評価されたと思うからです。子どもはほめて
て〝ほめられる〟〝認められる〟ことは最も
育てることが大事だと言われます。しかし、
重要なキーワードです。そうしたプラスの評
それは大人だって同じことです。世の中には
価を受けることで〝やったあー〟体験や〝仕
〝自分の部下たちはほめられることをしない
事そのものがおもしろい〟という実感が得ら
〟と嘆く管理者がいます。まるで〝自分だけ
れるのです。そこでほめたり認めたりするこ
は、ほめられることばかりしている〟と言わ
とで大きな役割を果たすのがリーダーです。
んばかりです。こうした発想や態度は、お世
職場でも上司がサポートしてくれることほ
辞にもほめられません。そんな方は〝自分は
ど力になるものはありません。しっかり仕事
フォロワーたちのいいところを見つける感受
をしたときにはすかさず評価する。実際、部
性が低いのではないか〟と疑ってみてはいか
下が驚くような仕事をすることだってあるで
がでしょうか。また、〝部下なんかに負けち
しょう。そんなときは心から驚きを表すこと
ゃあいられない〟と突っ張っている方はいら
- 38 -
っしゃいませんか。ご自分が育てた部下が自
欲〟だって低下するに違いありません。それ
分を負かすほどの力をもってきた。そう感じ
は仲間との連帯感などにも悪い影響をもたら
たら、タイミングよく〝驚き〟ましょう。子
すのです。こうして職場の人間関係がボロボ
どもがドンドン成長して、ついには自分の身
ロになってしまう。これだけでも組織にとっ
長を上回る。そんなときはほとんどの親が喜
て大きなマイナスです。
ぶと思います。わが子だと素直になれるのに、
こんな状態の組織が元気であるはずがない
他人が自分を追い越すと喜んではいられなく
でしょう。それどころか、ミスが頻発したり、
なる。まあ、〝それが人間〟ということでし
それが積み重なれば大きな事故を引き起こし
ょうか。その内容にもよりますが、リーダー
ます。そうなると最悪の場合は取り返しがつ
には〝おいおい、すごいじゃないか。こりゃ
きません。そんな悲劇の主人公にならないた
あ参ったなあ〟なんて言える余裕もほしいで
めにもリーダーシップが重要な役割を果たし
すよね。
ます。リーダーはフォロワーたちの気持ちを
まだまだ〝Kちゃん〟は出番を待っています。
〝応える(Kotaeru)〟あるいは〝答える〟の
理解し、それに〝応える力(Kotaeru)〟が求
められているということです。
〝Kちゃん〟です。リーダーはフォロワーから
ところで、〝応える力〟は専門性と強い関
の期待に〝応える〟ことが求められます。こ
係があります。ただ〝やさしい〟とか〝人柄
れは無条件に〝相手の言うことを聞く〟とか
がいい〟だけでは、十分なリーダーシップを
〝ごまをする〟という意味ではありません。
発揮することはできません。リーダーにはそ
リーダーが一方的に〝上から目線〟でフォロ
の立場や経験に対応した〝専門的〟な知識や
ワーを動かそうとしてもうまくいきません。
技術をもっていることが期待されています。
たしかにリーダーがもっている権威や権力を
そして、その力をさらに強化するために努力
使えば、フォロワーたちも表面的、一時的に
し続けることが必要なのです。
は言うことを聞くかもしれません。しかし、
さてさて、これまで様々な〝Kちゃん〟を挙
それではまさに〝面従腹背〟、文字通り顔で
げてきました。しかし、まだまだ〝Kちゃん〟
笑ってお腹の中では反発しているのです。そ
たちが〝はやく自分を紹介してくれ〟と行列
んなことでは本当の影響力にはなりません。
をつくっています。しかし〝Kちゃん〟物語も
それが短期間であればそんな対応法でも何と
けっこう長くなってきました。そこで列の前
かなるかもしれません。しかし時間とともに
方にいる〝Kちゃん〟を三つだけ取りあげるこ
フォロワーたちの心の中に不満やストレスが
とにしましょうか。
蓄積していきます。そしてそれが限界を超え
行列の先頭に立っていたのは〝聴く耳(Kik
れば爆発するかもしれません。もちろん罰を
umimi)〟をもつことでした。私たちが関わる
加えられたり、報復されたりするとまずいの
組織においては、上からの指示や命令は文書
で、露骨な反抗は抑えられるでしょう。そこ
などによって目に見えるようになっています。
でリーダーに見えないところで仕事の手を抜
しかし、下からの声はなかなか聞こえてこな
くといった形で抵抗することになります。ま
いものです。日常の生活の中には、鳥や虫の
た蓄積したストレスははけ口を求めて弱い者
声など様々なすばらしい音があります。しか
に向けられます。これが職場でのいじめにも
し、それも意識して〝耳を澄まさない〟と聞
繋がります。しかも、いじめはリーダーに気
こえません。〝その気〟にならないといけな
づかれないように行われます。また〝働く意
いのです。それは組織においても同じことで
- 39 -
す。とりわけリーダーは大事な声を聴き逃し
いますが、ことばを失うほどの過酷な状況が
てはいけません。そのためにも日ごろから意
目の前にありました。そんな文字通り生き地
識して〝聴力〟を磨いておく必要があります。
獄から生還した人間の記録ですから、鬼気迫
もちろん〝聴いただけ〟では意味がありませ
るものがあります。そうした中で生きる力を
ん。そうした声をしっかりと受け止めて、そ
持続させた最大のキーワードのが〝希望〟だ
れを実践に活かしていってこそ、〝聴く耳〟
ったというのです。
をもっていることになるのです。ここでも〝
実行力〟が求められているわけです。
〝希望(Kibou)〟といい、〝期待(Kitai)
〟いいい、いずれも〝Kちゃん〟ですが、それ
さて、〝聴く耳〟の後ろに並んでいたのは
はまさに命をつなぐ力だと言えるでしょう。
〝期待(Kitai)をもたせる〟でした。〝期待
さて、その次に並んでいたのは〝環境(Kan
〟は〝希望(Kibou)〟と入れ替えてもいいで
kyou) づくり〟でした。それ自身は幅広い意
しょう。私たちは〝先を見る〟あるいは〝未
味合いをもっていますが、ともあれリーダー
来を展望する〟ことができます。これまで動
には、自分が関わる組織にとって望ましい〝
物にインタビューした経験はありませんが、
環境〟を創っていくことが期待されているの
この力は人間だけがもっているものに違いあ
です。それには物理的に仕事がしやすい環境
りません。そして、これが〝生きるエネルギ
を創るだけでなく、メンバーたちがお互いに
ー源〟になるのです。もちろん、〝過去をし
信頼し、〝言いたいことが言える〟雰囲気を
っかり見る目〟があってこそ、〝未来の展望
創ることも含まれます。それは組織の安全に
〟も開けます。〝過去はどうでもいい。とに
とっても欠かせないものです。それだけでは
かく未来だ〟では〝希望〟も幻想になってし
ありません。〝言いたいことを言ったら、そ
まいます。その意味では、〝過去の失敗〟を
れを真剣に聴いてくれる、受け止めてくれる
冷静に分析することも大事なことです。そこ
〟。リーダーとメンバーたちの間にそんな関
がうまく克服できれば、〝失敗〟は新たな行
係があれば、ミスやヒヤリハット事例が共有
動のエネルギーになるのです。それは〝成功
化され、致命的な事故を未然に防ぐことがで
体験〟に負けない力を与えてくれます。
きるのです。
オーストリアの精神科医フランクルが書い
た〝夜と霧〟という本があります。彼自身が
7.部下を育てるリーダーシップ
ユダヤ人としてアウシュビッツなどの強制収
1) 飛行機からのアドバイス
容所に入れられたのですが、そのときの詳細
な記録です。〝夜と霧〟はいまでも本屋に並
んでいますが、ものすごいロングセラーです。
原題の"Ein Psychologe erlebt das Konzentr
ationslager" は〝ある心理学者、強制収容所
を体験する〟という意味で、1946年に出版さ
れています。邦訳は1956年に出ていますので、
それからでもすでに60年を超えているわけで
飛行機は駐機場にいる限り空を飛ばない
ことは誰でも知っています。そうです、滑
走路をまっすぐに走るからこそ空に向けて
飛び上がっていくのです。このときは空気
の圧力もすごいのでしょうが、それに立ち
向うことで揚力が得られるわけです。飛行
機が教えてくれています。〝じっと止まっ
ていても空には飛び上がれませんよ〟と。
す。
私は2012年の夏にアウシュビッツ収容所に
私たちがきちんと仕事をしたり、夢を実現
行ってきました。いまでは世界遺産になって
するためにも同じことが求められます。し
- 40 -
っかり走らないと、つまりはアクションを
飛行機も錆びるでしょう。私たちも、しっ
取らないと夢は実現できないのです。目標
かりアクションを取ろうではありませんか。
だって達成できません。私たちが住んでい
空に飛び立てば今度は飛行機は水平飛行
る世界は真空地帯ではありません。そこに
に移ります。このとき空を安定してまっす
はいろんな空気があり、その濃度や温度に
ぐ飛べるのは、機体に働く力である〝重力
も違いがあります。
〟と〝揚力〟が均衡しているからです。ど
しかしそうした空気の抵抗に向かって走
ちらかが大きければ水平飛行はできません。
っていかなければ何も変わらない。しっか
〝重力〟が強過ぎれば落ちてしまいます。
り走ることで現状からジャンプできるので
また〝揚力〟が一方的に強ければ上昇しっ
す。また、飛行機は離陸するときは向かい
ぱなしになり、そのうち失速するわけです。
風を利用します。その方が短い距離で離陸
また飛行機からのアドバイスが聞こえて
できるからです。それと同じで、私たちの
きます。〝バランスが大事なんですよ、バ
場合も周りの抵抗が大きければ大きいほど
ランスが…〟。そうなんです。人間にとっ
それだけ大きな変化が起きる可能性がある
て〝重力〟は〝責任の重さ〟や〝不安〟〝
でしょう。
ストレス〟、それに伴う〝弱音〟などに相
そんなこんなで、どう考えても飛行機の
当するでしょう。これに対して〝揚力〟と
アドバイスは大事にした方がよさそうです。 言えば何と言っても〝仕事に対する誇り〟
これは、20年ほど前のことになりますが、
ですね。それに〝自信〟や〝意欲〟も間違
沖縄から帰るその日に台風が襲ってきたの
いなく〝揚力〟になるはずです。〝責任〟
です。空港に着いたときは出発できるかど
ばかり重くては、私たちも墜落してしまい
うかという瀬戸際でした。どうなることや
ます。それを克服できるのは〝仕事に対す
らと思いながら外を見ると、ボーディング
る誇り〟であるに違いありません。ここで
ブリッジに繋がれた飛行機は強風の中で機
大事なのは、飛行機が飛び続けるためには
体を揺らせていました。じっとしていると
〝重力〟が欠かせないということです。そ
きの飛行機は風に翻弄されるままなのです。 の意味で仕事を遂行する上で、〝責任〟は
たしかに台風が来てしまえば、それが行き
なくてはならないものなのです。ただし、
過ぎるまで待つしかありません。
それに匹敵する〝誇り〟が必要だというこ
私たちも社会の嵐に襲われて、じっと耐
とです。このバランスが崩れて〝責任が重
えないといけないこともあります。そこで
すぎる〟〝ストレスで身動きできない〟と
無理をすれば飛行機と同じで自分が壊れて
なれば落ち込んでしまうわけです。あるい
しまうでしょう。しかし、そうだからこそ
は、〝誇り〟だといいのですが、それがい
先を予測して台風が来る前にアクションを
つの間にか〝驕り〟なって上昇し続ける。
起こすことも必要なのです。もちろん、先
それで気持ちよくなったと思ったら、あっ
のことを正しく読むのは簡単ではありませ
という間に限界点を超えて失速することに
んが、いつもその努力をしながらタイミン
なります。どちらも困ったものなのです。
グを掴んで行動することで状況は変わるは
それにしても、世の中を見渡すと、〝責
ずなのです。駐機場にじっといるだけでは
任〟は重いが、〝誇り〟が今ひとつ持てな
- 41 -
いと嘆く人の方が圧倒的に多いような感じ
しかし、このヒントを追加しても、彼らの
がします。
心は動きません。それほど魅力のない仕事
に思えるのですね。じつは1度だけなので
2) 職業当てクイズ
すが、キャリア教育の一貫として中学校で
そんなわけで仕事に〝誇り〟を見いだす
この話をしたことがあるんです。そのとき、
のはなかなか難しいのです。こうした状況
ヒントを聞いた1人の生徒が〝わかったあ
を打ち破るための決定的なノウハウはあり
〟と叫んで元気よく手を挙げたました。私
ません。ただし、物事を見る視点を変える
はいささか驚きながら、〝おおっ、わかっ
のも 大事だと思います。私たちは大学の
たかあ〟と言って反射的にその子を指さし
PR のためもあって、高校に出かけて授業
ました。その子は嬉しそうに答えましたよ。
をすることがあります。出前授業と呼んで
〝はーいっ、校長先生でーす!〟。その瞬
いるのですが、こんなときに〝職業当てク
間、私の話を一緒に聞いていた校長先生が
イズ〟を出したりします。皆さんにもヒン
椅子から転げ落ちそうになりました。後方
トを差し上げますので正解を考えていただ
にいた保護者たちからドッと笑いが起きま
きましょう。
した。私も苦笑いしながらゆっくり解説し
まずは第1ヒント〝その人は1 m だっ
ました。〝いやあー、残念でした。校長先
て人の許可がなければ動けません〟。第2
生ってねえそんなに給料はもらってないよ
ヒント〝その人はとても狭い部屋で拘束さ
〟。私はいろんなところで様々な人たちと
れて仕事をしています〟。第3ヒント〝そ
出会います。そしていつもおもしろい体験
の人は、仕事の始めと終わりだけは緊張す
をさせてもらっています。この生徒の発言
ると言っています。まるで途中はどうでも
も忘れることができない思い出になってい
いいみたい … 〟。〝さてこの人の職業は
ます。
何でしょう〟。とまあこんな謎かけをしま
さてさて、職業当てクイズの話に戻るこ
す。まずは答えを考える前に私は少し笑っ
とにしましょう。正解がおわかりになった
て高校生に問いかけます。〝ところで皆さ
方もいらっしゃるでしょう。それは〝パイ
ん、将来こんな仕事をしてみたいなあと思
ロット〟です。〝 1.その人は1 m だっ
う人、手を挙げてーっ〟。どんな反応があ
て人の許可がなければ動けません
るか、もうおわかりですね。どこで話して
の人はとても狭い部屋で拘束されて仕事を
も1人だって挙手などしません。そりゃあ
しています
そうでしょう。どう考えてもおもしろくも
終わりだけは緊張すると言っています
何ともない仕事としか思えませんよね。そ
給料はけっこうなものです〟。まあクイズ
こでもう一押しします。〝みんなが敬遠し
だから、この程度のヒントはお許しいただ
ているけど、この仕事は給料が相当にいい
けるでしょう。それにしても、給料以外の
らしいよ。はっきり聞いたわけじゃないけ
ヒントはいかにもおもしろくなさそうな仕
ど、1年で 2,000 万円くらいは稼げるんじ
事を想像させます。高校生が〝そんな仕事
ゃないかなあ … 〟。高校生であればそれ
なんぞしたくない〟と拒絶したのも当然か
2.そ
3.その人は、仕事の始めと
4.
がかなりのものであることが理解できます。 もしれません。しかし、〝そんな仕事をし
- 42 -
ている〟パイロットたちには〝意欲〟も〝
でしょう。この場合、〝責任〟が〝誇り〟
やる気〟もないのでしょうか。そんな人が
を生み出し、仕事の〝やり甲斐〟を感じる
いるような会社の飛行機には乗らない方が
重要な要素になっているわけです。まさに、
いいですね。最近は業界の競争も激しく、
〝重力〟が〝揚力〟を引き出し、両者が均
パイロットの中にもやる気がなかったり、
衡しているのです。さらにパイロットが、
モラルに問題がある者だっているかもしれ
〝自分は乗客の〝幸せ〟や〝喜び〟を運ん
ません。しかし、ここではあまり細かいこ
でいるのだ〟と思えば、ますます仕事が楽
とは考えないことにしましょう。
しくなるでしょう。その反対に〝悲しみ〟
これは私の推測に過ぎませんが、多くの
だって運んだりもします。希なことでしょ
パイロットは仕事に責任と誇りを持ってい
うが、〝事件〟や〝歴史〟と遭遇すること
るに違いないと思います。そうだとすると、 だってあります。しかし、どんなに衝撃的
〝単純な作業〟を繰り返しているのにパイ
なチャンスと出会っても、パイロットがす
ロットたちはどうして〝責任や誇り〟を感
る〝作業〟はいつも同じです。管制官の指
じるのでしょうか。それは〝仕事のやり甲
示を受けて空港を離陸し、あらかじめ決め
斐〟は仕事中に行っている動作で決まるの
られた高度を維持しながら目的地に着陸し
ではないからです。大事なのは仕事全体が
ます。さらに地上係員に誘導されてボーデ
持っている〝意味〟や〝意義〟なのです。
ィングブリッジに到達し機体を止める。こ
私が子どものころほどではないと思います
の間の〝作業手続き〟はいつもと同じこと
が、それでもパイロットの給料は一般と比
の繰り返しですよね。北朝鮮に拉致されて
較すればかなりのものでしょう。何と言っ
いた5人が帰国したのは 2002 年 10 月 15
ても高度の専門職です。それに、依然とし
日のことです。このときは全日空の飛行機
て子どもたちが憧れる職業であり続けてい
が使われました。その日のパイロットたち
るのではないでしょうか。そんな社会的評
は大きな責任と誇りを感じていたに違いあ
価が仕事のやり甲斐を高めている側面もあ
りません。しかし、どんなに歴史的な場に
るでしょう。しかし、給与の高さやカッコ
遭遇したからといっても、機長が〝 20 年
よさだけで、〝単純な作業〟を〝やり甲斐
以上も拉致されていた人たちを連れて帰る
のある仕事〟に替えられるマジックなんて
んだ。今日は大サービスで宙返りでもしよ
ありません。仕事が〝責任〟と〝誇り〟を
うか〟なんて考えるはずはありません。こ
感じさせる。それが力になって意欲が高ま
のときも、国交のない北朝鮮の管制官から
る。私はそう考えています。パイロットの
指示される通りに滑走路を走って飛び上が
仕事は乗客を遠くまで、できるだけ速く運
ったのです。日本の領空に入ってからは、
ぶことです。しかし、そこには〝安全に〟
日本の管制官の指示を受けながら、いつも
という大前提があります。パイロットは乗
と〝まったく同じ段取り〟で羽田空港の決
客の命を預かって飛行機を操縦するという
められた位置に機体を止めただけなのです。
重大な責任を負っています。その〝責任〟
そんなわけで、パイロットは文字で記述
が〝誰にでもできる仕事ではない〟という
すれば極めて単純な作業を切り返している
意識に繋がれば、意欲が高まることは当然
のに、意欲を持って仕事をしているわけで
- 43 -
す。その秘密は〝仕事に求められる動作〟
いるかといえば、それは断固として〝 No
ではなく、〝仕事が持っている意味〟にあ
〟なのです。
るのだと思います。〝意味〟を〝意義〟と
私自身、講義や講演で同じことを繰り返
言い換えても同じことです。それがしっか
していてもまったく飽きることがありませ
りしていれば、〝責任感〟が生まれ、また
ん。その最も大きな理由は、いつも話を聞
〝誇り〟を持つこともできるのです。俳優
く人たちが違うからです。はじめてだから、
の森 光子さんは〝放浪記〟で林芙美子を
反応もきちんとしてもらえるんです。そし
45 年以上にわたって演じ続け、上演回数
て、それがそのまま私のエネルギーになる
は 2000 回を超えています。私見ながら、
わけです。話ながらついエキサイトさえし
その退き際が今ひとつだったと思いますが、 ます。講演などの場合は、リピータがいら
まあそれは置いときましょう。ともあれこ
っしゃることもあります。しかし、そんな
の長い年月の間、ご本人は〝嫌々で仕事を
方からは〝同じことでもいいのよ〟と励ま
していた〟わけではありません。事実はそ
されたりもします。〝同じ話だとわかって
の正反対だったわけで、だからこそ退くタ
いても、いつも笑ったり頷いたりできるん
イミングを誤ったとも言えるでしょう。私
ですよ〟。こんなことを言われると、つい
はその舞台を見たことはありませんが、時
舞い上がってしまいそうになります。もっ
間が経っても林芙美子の原作そのものは変
とも、中には〝心配はいりませんよ、いつ
わりません。それを脚本にする段階でいろ
も忘れてるんだから〟と笑って言われる方
いろと変化が出てくるのでしょうが、それ
もいらっしゃいます。こうなると私として
でも根底から変わるなんてことはないはず
は悲しむべきなのか、喜ぶべきなのか、大
です。つまりは、狭い舞台の上で同じセリ
いに悩むことになります。まあ、これはか
フをしゃべりながら、同じ動作をして 45
なり冗談っぽいと思っていますので、こち
年間を過ごしたということです。しかし、
らも〝それを聞いて安心しました〟と笑っ
それでもご本人は大いに満足していたので
て答えています。
す。おそらく、演じるごとに、〝新しい発
それに私だって人が書いた台本を読んで
見〟をする。そんな気持ちだったと思いま
いるわけではありません。その意味では、
す。また観客の喝采という外的な刺激も望
講義や講演は〝いつも違っている〟とも言
ましい影響を与えたに違いありません。私
えるんです。またパワーポイントも大好き
も講義や講演をする際に同じような体験を
ですから、スライドには絶え間なく手を入
し続けています。たとえば概論的な授業の
れています。そんなわけで、レコーダーで
スタート時には〝まったく同じ話〟を繰り
はないのですから、厳密には完全に同じ話
返します。講演を依頼された場合でも、基
などあり得ないのです。
本的なところは〝同じネタ〟を使うことが
いずれにしても、〝仕事の段取り〟の単
多くなります。大事なところはしっかり押
純さが問題ではなく、〝仕事の意味〟が大
さえないとまずいからです。だからといっ
事だということです。
て、私が内心では〝まったく同じことの繰
とくに〝責任〟と〝誇り〟のバランスを
り返しで、おもしろくないなあ〟と思って
取ることが何よりだと思います。コインだ
- 44 -
って片方だけに刻印されているのでは偽物
です。〝責任〟の裏側に〝誇り〟が、そう
ですねえ、ついでに言えば〝権利〟の裏に
は〝義務〟が刻まれている。それこそが使
えるコインなんです。
そして、一人ひと
りが〝責任〟と〝誇り〟を自分で発見する
力を身につけたいものです。もちろん、そ
れが可能になるように職場の上役や先輩が
しっかりサポートしてほしいですね。さら
に、世の中のみんなが、お互いにすべての
仕事を尊重する、そんな社会を実現したい
ですね。そんな中でこそ、誰もが自分の仕
事に〝責任〟を感じるとともに、〝誇り〟
を持つことができるのです。これって、理
想的、ユートピア的だと思われますか。
参考文献
吉田道雄 (2001) 人間理解のグループ・ダ
イナミックス. ナカニシヤ.
吉田道雄 (2007) 人生をよりよく生きるノ
ウハウ探し. 熊本日日新聞社.
吉田道雄 (2010) リーダーシップ力アップ
養成講座. 看護展望 2010 年1月号~
12 月号 メヂカルフレンド社.
吉田道雄 (2011) 実践的リーダーシップ・
トレーニング
メヂカルフレンド社.
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著者はホームページで様々な情報を提供
しています。とくにコラム〝味な話の素〟
味な話の素
では〝対人関係〟〝コミュニケーション〟
〝リーダーシップ〟〝組織安全〟などをテ
Repository
ーマに取り上げ、毎日更新しています。
〝 Yahoo 〟や〝 Google 〟から〝吉田
道雄〟で検索すれば簡単にアクセスできま
す。
また、メニュー最下段にある〝
Repository 〟でも、〝リーダーシップ〟や
〝組織安全〟に関する論文や読み物を 122
目的のタイトルを
クリック
本公開しています(2012/12 現在)。
〝 Repository 〟から論文/読み物を見るに
は…
① Homepage 下段の〝 Repository 〟
(図の
)をクリックします。
② Excel の画面がでますので、目的のタイ
トル名をクリックします。なお、下段の
〝シート見出し〟で分野別(集団/リーダ
ーシップ→ LG トレーニング→ T 安全
1st Version 2000/8/10 2009 2010 2011/8
→ S 教育→ E)に探すこともできます。
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2012/03 2013/2
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