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糖尿病の急性合併症 糖尿病ケトアシドーシス ケトアシドーシスの病態
生体統御・造血病態学 目標� 内分泌・栄養・代謝病態系 1. 糖尿病の急性合併症が列挙できる� 糖尿病の急性合併症 3. ケトアシドーシスの病態と検査所見を説明できる。� 2. 糖尿病性昏睡の分類を説明できる。� 4. 非ケトン性高浸透圧性昏睡の病態と検査所見を説明で きる。� 5. 乳酸アシドーシスについて説明できる� 病態制御内科学(第3内科)! 谷澤 幸生� 6. 糖尿病性昏睡の治療の要点を説明できる。� 7. Sick Day について説明できる。� 糖尿病ケトアシドーシス� • 強度のインスリン作用不足� +グルカゴン作用の増加� • 高血糖、ケトン体産生亢進� • アシドーシス� • 脱水� • 意識障害(昏睡)� ケトアシドーシスの病態� 血中� 中性脂肪合成� インスリン欠乏およ びAcyl-CoAの増 加により活性抑制� ACC� 肝細胞� 脂肪酸合成� CPT-1� Malonyl-CoAによ る活性抑制の解除� β-酸化� β酸化亢進� ケトン体合成� ケトン体の産生� ケトン体産生亢進� 1! 発症要因 症状 • 多飲、多尿、体重減少、低血圧、頻脈、皮膚 緊張 turgor の低下 • 嘔気、嘔吐、腹痛 消化器症状はほぼ必発 本態:高度のインスリン作用の不足状態 • 1型糖尿病初発時 • 1型糖尿病患者でのインスリン中断、sick day • 過呼吸 Kussmaul (クスマウル) 呼吸 • 感染、外傷、重篤な全身性疾患、脳血管障害、 心血管障害など(1型、時に2型糖尿病患者) • 意識障害、ショック • 清涼飲料水ケトーシス sick day 糖尿病性ケトアシドーシスの診断� • 糖尿病患者が治療中に発熱、下痢、嘔吐をきたし、または食欲不振のため食事が できないときをsick day(シックディ)と呼ぶ。� • sick dayでは、インスリン非依存状態で平常よくコントロールされている患者でも、 著しい高血糖が起こることがある。インスリン治療中の患者ではさらに起こりやすい。� 臨床症状に加えて、 血糖値 250 mg/dl 以上、尿糖強陽性、尿ケトン体強陽性 血液ガス分析で代謝性アシドーシスを証明する。 誘因の分析� sick dayの対応� • 食物は口当たりのよいものや消化のよいものを選び、できるだけとり、絶食しない� • 十分な水分の摂取により脱水を防ぐ。� • インスリン治療中の患者では、できるだけ食事がとれるように工夫し、インスリンは 量を変えずに注射を続けることを原則とする。� • 自己血糖測定を利用して、必要に応じてsliding scale� • Sick dayを起こしやすい患者には、対応について、あらかじめ良く指導、指示して おく。� – 勝手にインスリンの投与を中断しない!� – sick dayのときには医師に連絡し指示を受ける。� – 発熱、消化器症状が強いときは必ず受診する。� 検査 必須 • 血糖、尿ケトン体、尿糖 • 血清電解質、BUN、クレアチニン • 血液ガス分析 その他、 • 血液生化学一般、血算、白血球分画 • ケトン体 (アセト酢酸、ベータヒドロキシ酪酸)の測定を依頼 基礎疾患、合併症等の診断のための検査 糖尿病性ケトアシドーシスの治療� • インスリンの投与� • 輸液(脱水の治療)� • 電解質補正� • メイロン(重炭酸ナトリウム)は原則として投与し ない。� • 合併症の予防と治療� – 感染症� – 脳浮腫� – DIC� – 低血糖� – 低カリウム血症� – 乳酸アシドーシス� 2! M. T. 18 歳女性 [主訴] 入院時現症 意識障害、腹痛、嘔吐 身長 148 cm, 体重 50 kg , 脈拍 124 /min , 血圧 114/ 60 [家族歴]弟:1型糖尿病 mmHg, 体温 36.8 ℃ [既往歴]気管支喘息 呼吸数 36 /min (Kussmaul 呼吸 ) [現病歴] 平成x年、1糖尿病と診断され、以後強化インスリ ン療法を開始した。平成x+4年5月からは朝食前 18 U(R)、昼 食前12 U (R)、夕食前 12 U(R)、眠前 10 U(N)のインスリン 自己注射にてほぼ良好な血糖コントロール状況にあった。 意識:JCS I-1(意識清明とは言えない) 眼瞼結膜:貧血 (-) , 眼球結膜:黄染 (-) 胸部:肺音・清 心雑音 (-) 平成x+年12月10日頃から咳嗽、喀痰を認めるようになった。 12月16日より発熱、食欲不振、全身倦怠感が出現、12月17日 食事摂取不能のため、自己判断でインスリンを中止した。同 日夜間より嘔吐がみられるようになった。翌朝、当科外来を 受診、血糖が 870 mg/dl であり、緊急入院となった。 腹部:平坦、やや硬、全体に圧痛(+)、反跳痛 (-)、肝脾触知 せず その他:皮膚口腔粘膜乾燥、turgor 低下、アセトン臭(+) 入院時検査成績 <Blood Chemistry> この患者に� 何が起こっているのか?� T.P. 7.8 g/dl Chol Alb 4.5 g/dl AST (GOT) Glob 3.3 mg/dl ALT (GPT) T.B. 0.4 mg/dl γ-GTP D.B. 0.2 mg/dl AIP 699 IU/L アセト酢酸� BS 782mg/dl LDH 184 IU/L 3-ヒドロキシ酪酸� ChE 193 IU/dl CRP 2.11 mg/dl <電解質> 243 mg/dl 137 mmol/l RBC K 6.7 mmol/l Ht CI 102 mmol/l Hb 糖� 蛋白� 40 IU/L UA 49 IU/L AMY >1000 mg/dl (-)� 55 mg/dl 13,400µ mol/l PH 7.019 47.3% PO2� 118.9 mmHg 15.9 g/dl 24,200/mm3� 6.0% seg 73.0% Lymph 14.5% Mono Plt 10.1 mg/dl 4,200 µmol/l 500万/μl neutro-band (+++)�� 28 mg/dl 1.13 mg/dl <血液ガス> WBC <尿検査> ケトン� Cre < CBC> Na BUN 20 IU/L PCO2 HCO3-� BE 13.1 mmHg 3.2 mmol/l -25.9 mmol/l 5% 45.3 万/mm3 糖尿病の急性合併症� ��(糖尿病性昏睡)� – 糖尿病ケトアシドーシス� Diabetic ketoacidosis (DKA)� – 高浸透圧高血糖症候群� Hyperosmolar hyperglycemic syndrome (HHS)� – 乳酸アシドーシス� – 低血糖症(低血糖性昏睡)� 3! 高浸透圧高血糖症候群� 非ケトン性高浸透圧昏睡の誘因 • 2型糖尿病患者、特に高齢者に多い。 • 高度の脱水 • 高血糖、高浸透圧血症 – 血糖はしばしば1,000 mg/dl以上。高Na血症。 – 浸透圧が 340 mOsm/l くらいになると意識障害をきたす。 浸透圧 mOsm/l = 2 ×(Na+K)(mEq/l ) + 血漿ブドウ糖(mg/dl)/18 + BUN(mg/dl)/2.8 • ケトン体は陰性か、軽度の上昇 – ケトアシドーシスに比べてインスリン欠乏の程度は軽い。 高浸透圧高血糖症候群の治療 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の治療に準じる。! ! 脱水の補正! • 生理食塩水を用いるのが基本。高浸透圧血症が高度で、Na > 155 mEq/Lの時に0.45 %食塩水を用いる。! • 高齢者が多いので、心不全、腎不全に注意しながら輸液量を 決める。! • 急速な浸透圧の低下は意識障害の遷延を招く(脳浮腫)! ! インスリンの投与! • 少量持続静注法。DKAに比べると必要量は少ない。! 電解質の補正! • Kの補給。� 糖尿病の急性合併症� ��(糖尿病性昏睡)� – 糖尿病ケトアシドーシス� Diabetic ketoacidosis (DKA)� – 高浸透圧高血糖症候群� Hyperosmolar hyperglycemic syndrome (HHS)� 乳酸の産生� Phosphoenol pyruvate! Pyruvate kinase! NADH! pyruvate! Pyruvate! dehydrogenase! NAD! lactate! lactate! dehydrogenase! Acetyl-CoA! – 乳酸アシドーシス� – 低血糖症(低血糖性昏睡)� TCA cycle! 4! 乳酸アシドーシス 昏睡の糖尿病患者が搬送されてきたら� • ショック、心不全、呼吸不全、低酸素血症、 重症貧血、CO中毒、肝不全、腎不全、敗血 症、アルコールなどの薬物中毒など • 高浸透圧性非ケトン性昏睡に合併 1. 糖尿病ケトアシドーシス� 2. 高浸透圧高血糖症候群� 3. 低血糖� • ビグアナイド薬投与 4. その他昏睡を来す疾患� • ミ ト コ ン ド リ ア 遺 伝 子 異 常 ( M I D D , tRNALeu(UUR)3243A→G) anion gap([Na+]-{[Cl-]+HCO3-]}の開大(正常12±4mEq/L) • 脳血管障害� • 心筋梗塞�など� 高乳酸血症(血中レベルが5 mM/L以上) 糖尿病性ケトアシドーシスの発症要因 本態:高度のインスリン作用の不足状態 • 1型糖尿病初発時 • 1型糖尿病患者でのインスリン中断、sick day • 感染、外傷、重篤な全身性疾患、脳血管障 害、心血管障害な)(1型、時に2型糖尿病患 者) • 清涼飲料水ケトーシス 検査成績� 症例:K.N. 21歳男性 体温 35.6℃,血圧162/104� 脈拍110,整,意識 JCS 20� Kussmaul呼吸を認める.� 胸,腹部に異常を認めない.� 身長168 cm,体重83 kg (BMI 29.4) 生来健康であった.中学生の頃尿糖を指摘されたことがあ るが,血糖検査は正常であった.その後,検診で時に尿 糖を指摘されることがあった. 99年4月はじめより頚部,前胸部に紅色の皮疹が出現,市 販の外用薬で改善しないため近医を受診.当院皮膚科 に紹介となり,4月6日よりステロイド外用薬及び predonisolone (10 mg/日) の投薬をうけた. Hb A1c 11.4 %� 抗GAD抗体�1.3 U/ml� 動脈血ガス分析� � Na 125 mmol/L, K 4.5 mmol/L� Cl 99 mmol/L� CRP 2.36 mg/dl� BUN 34 mg/dl, Cr 1.71 mg/dl� GOT 17 IU/L, GPT 17 IU/L, � AlP 317 IU/L, γGTP 31 IU/L,� Amylase 824 IU/L� Elastase I�1,750 ng/dl� 尿酸 13.9 mg/dl� WBC 19,800 /μL� Hb 17.8 g/dl,platelet 17.5万/μL� 4月8日,皮膚科外来再来時,意識混濁をきたし,転倒した ため緊急入院となった. 4月初旬より口渇感を覚え,清涼飲料水を多飲していた.最 近,約7kgの体重減少があった. 血糖 471 mg/dl,尿ケトン強陽性� �pH � �paO2 � �6.981� �363.9� �paCO2 �8.9� �HCO3-� �2.0� �Base Excess �-23.8� �アニオンギャップ�31.4� アセト酢酸�2,060 μmol/L� βヒドロキシ酪酸�3,730 μmol/L� � � � 5! 臨床経過� ヒューマリンR� ケトーシスを伴って急性発症する 肥満2型糖尿病(清涼飲料水ケトーシス) ヒューマカート3/7� 500! 400! HbA1c! 12! ヒューマリンN� 10! 300! 8! 200! • 肥満を伴った若年者に多い. • 発症以前には耐糖能異常を指摘されたことのないものが 多い. • 発症前1〜3ヶ月に清涼飲料水の多飲. • 高血糖に気づかずに清涼飲料水を多飲し,糖毒性による 悪循環に陥りケトーシスをきたす. 6! • インスリン分泌は比較的保たれている. 4! 100! • 急性期はインスリン治療を要するがその後大部分は食事 療法で治療可能. 1! 2! 3! 4! weeks! 5! 2! 4! 6! 8! months! • 抗GAD抗体陰性 6!