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高校生の生活意識調査結果から考察・提言(平成18年3月発行)
1 はじめに 次代を担う青少年が社会の変化に対応しつつ、こころ豊かにたくましく成長することは 市民全ての願いです。しかし、昨今の社会環境の大きな変化が青少年に及ぼす影響は大き く、さまざまな問題が顕在化しています。全国的には、高校生世代を中心とする青少年の 犯罪が多発し、ますます低年齢化、凶悪化の一途をたどっており、憂慮する状況にあると 言われます。姫路市においても例外ではありません。 そ こ で 、姫 路 市 青 少 年 問 題 協 議 会 は 、平 成 16 年 度 、姫 路 の 高 校 生 を 対 象 に 彼 ら の 生 活 実 態 と 合 わ せ 、彼 ら は 今 、 「何を考え」 「何を求め」 「 何 を 悩 ん で い る の か 」等 々、思 い や 悩 み 、 将来の進路や夢など、意識の面にも踏み込んで調査・研究を行い、青少年への理解と支援 のあり方を探る資料を得ました。 そ し て 、平成 17 年 度 に は 、デ ー タ を も と に 彼 ら の 特 徴 や 問 題 点 等 を 明 ら か に す る と と も に、他の研究資料や実践等も参考にしながら、次代を担う青少年の健全育成の方向性を探 り、行政、学校、関係機関に向けて、今後の施策に反映できるよう提言をまとめました。 これを多くの皆様方に様々な角度から検討していただき、それぞれの分野で、より的確で 具体的な青少年育成の方策を探っていただければ幸いです。 最後になりましたが、調査・研究のまとめに当たり、兵庫県立大学の勝木洋子教授をは じめ、研究委員の先生方には格別のご協力をいただき、心より厚くお礼申し上げます。 平 成 18 年 3 月 姫路市青少年問題協議会 2 も Ⅰ Ⅱ じ 調査・研究の概要 1 調査・研究の背景 2 本年度の調査・研究 3 研究組織 1 1 2 考察・提言 1 総括提言 「若者たちは、今」 兵庫県立大学環境人間学部教授 2 4 勝木 教頭 吉田 10 和子 善太郎 26 清水 提言 「思春期の揺れる心のうち」 兵庫県子どもの人権専門委員会委員長 元姫路市立教育相談センター所長 吉田 提言 「生命を大切にする性教育への転換」 姫路赤十字看護専門学校 専任教師・看護師 資 洋子 21 提言 「青少年への地域や社会の関わり」 OAA( 野 外 活 動 協 会 ) 専 務 理 事 5 6 3 提言 「家 庭 の あ り 方 が 及 ぼ す 高 校 生 の 意 識」 兵庫県立嬉野台生涯教育センター 主任指導主事兼婦人・家庭課長 中村 3 提言 「高校生の学校と居場所」 姫路市生涯学習大学校 Ⅲ く 勲夫 33 八郎 42 松井 里美 料 ( 平 成 16 年 度 実 施 の 高 校 生 の 生 活 意 識 調 査 報 告 ) 調査・研究の概要 48 データ分析 51 単純集計結果 121 高校生の生活意識アンケート 152 3 Ⅰ 調査・研究の概要 4 平成 17 年度 姫路市青少年問 題協議会 調査・研究の概要 1 調査・研究の背景 平 成 16 年 度 に 実 施 し た 「 高 校 生 の 生 活 意 識 調 査 」( 以 下 、 本 調 査 ) で は 、 高 校 生 の 日 常生活(家庭・学校・地域社会)における考えや気持ち、将来の夢や悩み等、彼らのふ だんの生活意識を浮き彫りにした。 本調査によると、高校生は、ふだん、学習や部活動を熱心にしたり、友だちとコミュ ニケーションを楽しんだりしている。また、休日には自分の趣味や家族との団らんを楽 しんだりしており、表面的には真面目に穏やかに過ごしている高校生が多い。しかし、 人 間 関 係 や 将 来 の こ と に な る と 、多 様 な 価 値 観 に 惑 わ さ れ た り 経 験 不 足 で あ っ た り な ど 、 当然ながら様々な悩みや心配事を心に秘めており、それを解決する方策を探っている状 況がうかがえる。 高校生の意識の一端が明らかになった今、次代の担い手である彼らが、直面する課題 に立ち向かい、夢や目標を持ってこころ豊かにたくましく生きていくために、今一度、 彼ら自身の内面を掘り下げ、 「 意 識 」か ら「 意 欲 」に つ な げ る た め の 方 策 を 探 る 調 査・研 究を行う必要がある。 2 本年度の調査・研究 (1) 趣 旨 平 成 16 年 度 の 調 査 結 果 に 基 づ き 、高 校 生 世 代 が 今 、 「 何 を 求 め 、何 を 悩 ん で い る の か 」 ま た 、将 来 に 向 け て 、 「 ど の よ う な 夢 や 目 標 を 持 っ て い る の か 」等 、彼 ら の 内 面 を 掘 り 下 げ、高校生を中心とする青少年の実像を明らかにする。同時に、他の研究資料や実践等 を参考にし、彼らの理解と支援に向けた健全育成の方向性を探り、関係機関等との連携 の充実を図るとともに、今後の青少年施策に反映するもの。 (2) テーマ 青少年のパワーが躍動する環境づくり (3) 方 法 ① 研究委託 青少年の健全育成にかかる研究者・実践者等の研究委員会を作り、趣旨に基づい た調査・研究を委託する。 ア 平 成 16 年 度 に 実 施 し た 本 調 査 の デ ー タ 分 析 を 元 に 、浮 き 彫 り に な っ た 高 校 生 像 (生活実態や考え、願い、悩み等)を捉えるとともに、他の研究資料や実践等を 参考にしながら、今問われている高校生世代を中心とした青少年の健全育成の諸 課題について考察を行う。 イ 青少年の理解と支援に向けた健全育成の方向性を探り、その成果を冊子にまと め、市の施策及び関係機関等に提言する。 ウ 市 民 に 広 く 啓 発 す る パ ン フ レ ッ ト 作 成( 平 成 18 年 度 の 予 定)に 向 け て 、内 容 等 を検討する。 ② 研究委員会の取り組み ア 会議(考察の視点・内容等の検討等) イ 資料の収集及び執筆(執筆者各自) ウ 報告書の検討及び作成 5 平 成 17 年 7 月 10 月 2 月 (3 回 ) 平 成 17 年 7 月 ∼12 月 平 成 18 年 1 月 ∼ 3 月 (4) 内 容 青 少 年 の 生 活 環 境 で あ る 「 家 庭 生 活 」「 学 校 生 活 」「 社 会 ( 地 域 ) 生 活 」 を 柱 に 、 浮 き彫りになった青少年の実像をとらえ、 「 大 人・社 会 の 役 割 と 責 任 」と「 青 少 年 自 ら の 気づきを促す」という両面から、専門家の視点で考察・提言を行う。 テーマ 1 2 3 4 5 6 3 主な内容 青少年犯罪 青少年施策(条例等) マナーと規範意識 青少年の就労 (総括提言)若者たちは、今 親子関係 基本的生活習慣 社会規範意識 自尊感情 家庭の現状と意識 不登校 カリキュラム 居場所 PTCA 学校と居場所 地域環境 自立 フリーター キャリア教育 地域や社会の関わり 親子関係 自尊感情 生きる力 思春期の揺れる心のうち 生命を大切にする性教育への転換 正しい性知識 性行動・自己決定力 HIV/AIDS カリキュラム 研究組織 氏 委員長 勝木 名 洋子 職 名 兵 庫 県 立 大 学環 境 人 間 学 部 教 授 姫 路 市 青 少 年問 題 協 議 会 委 員 委 員 中村 和子 姫 路 市 社会 教 育 委 員 兵 庫 県 立 嬉 野台 生 涯 教 育 セ ン タ ー 主 任 指 導 主 事兼 婦 人 ・ 家 庭 課 長 委 員 吉田善太郎 姫 路 市 立 生 涯学 習 大 学 校 教 頭 委 員 清水 財 団 法 人 O AA ( 野 外 活 動 協 会 ) 専 務 理事 勲夫 兵 庫 県 社 会 教育 委 員 委 員 吉田 八郎 兵 庫 県 子 ども の 人 権 専 門 委 員 会 委 員 長 元 姫 路 市 立 教育 相 談 セ ン タ ー 所 長 委 員 松井 里美 姫 路 赤 十 字 看護 専 門 学 校 専 任 教 師 ・ 看 護師 6 Ⅱ 考察・提言 7 総括提言「若者たちは、今」 兵庫県立大学環境人間学部 教 授 勝木 洋子 1 はじめに 近年、青少年の生活・行動・意識などの現状に、かつての高校生像とは少し異なった多 様化が見られ、全く問題がないかのような現象と目に余るほどの問題行動や犯罪に至るも のまである。 マスコミ等の報道では、さまざまな事件を背景に青少年犯罪が凶悪化していると言われ て い る 。 現 実 に 1997 年 に 神 戸 の 中 学 生 に よ る 幼 児 惨 殺 事 件 が 起 こ り 、2000 年 に は 佐 賀 バ ス ジ ャ ッ ク 事 件(5 月 3 日 )や 岡 山 金 属 バ ッ ト 致 傷 事 件(6 月 21 日 )、大 分 一 家 六 人 殺 傷 事 件(8 月 14 日 )と 相 次 い で 少 年 に よ る 凶 悪 な 事 件 が 発 生 し た 。昨 今 に お い て も シ ョ ッ キ ン グな少年犯罪が後を絶たない。 「 新 ・ 児 童 生 徒 の 問 題 行 動 対 策 重 点 プ ロ グ ラ ム ( 中 間 ま と め )」〔 平 成 17 年 9 月 文 部 科 学 省 〕 で は 、「 2005 年 6 月 に は 、 山 口 県 光 高 等 学 校 で の 爆 発 物 傷 害 事 件 、 東 京 都 板 橋 区 で の管理人夫婦殺害事件、福岡県福岡市での実兄刺殺事件など、児童生徒による重大な問題 行動が相次ぎ、宮城県で中学生が警察官を刃物で刺して重傷を負わせる事件が発生するな ど、児童生徒の問題行動は非常に憂慮すべき状況となっている」と述べている。 このように、青少年犯罪は戦後間もない頃とは異なり、成人犯罪と境目がなくなってい る現実がある。 さ て 、 姫 路 市 は 、「 姫 路 市 民 等 の 安 全 と 安 心 を 推 進 す る 条 例 」( 平 成 13 年 〔2001 年 〕3 月 28 日 か ら 施 行)を 持 っ て い る 。こ れ は 、交 通 事 故 の 続 発 、非 行 の 低 年 齢 化 、凶 悪 化 す る 犯罪の増加、青少年を取り巻く環境の悪化、暴走行為やそれを見物するいわゆる期待族の 常軌を逸した行動の増加など、市民生活を取り巻く社会環境が悪化する中で市民が安全で 安心して健やかに暮らせるよう、市、事業者及び市民等が互いに連携して安全で安心な地 域社会づくりを推進するとともに、喫緊の課題である暴走行為を助長する行為等を禁止す るものを目的として施行されている。基本認識として、自らの安全と安心は自らの手で守 るとされている。 また、兵 庫 県 では、インターネットをはじめとする情 報 化 の急 激 な進 展 や深 夜 営 業 の増 加 など、青 少 年 を取 り巻 く社 会 環 境の変 化に対 応 すべく青 少 年 条 例 を一 部 改 定 し、青 少 年の健 全 な育 成 を阻 害 する恐 れのある行 為 から青 少 年 を保 護 する取 り組 みを始めた。特に姫 路 市 においては、昨 年 の秋 、 夢 前 川 の悲 惨 な事 件 が起 こった。この事 件 の背 景 から多 くの大 人 が教 訓 を得 て、少 年 犯 罪 の再 発 防 止に努めなければならない。 そ こ で 、平成 17 年 3 月 に 姫 路 市 青 少 年 問 題 協 議 会 か ら 発 表 さ れ た「 高 校 生 の 生 活 意 識 調 査 報 告 書:青 少 年 の パ ワ ー が 躍 動 す る 環 境 づ く り ∼ 高 校 生 は 今 ∼ 」 ( 以 下 、本 調 査)と 、 他府県の調査や取り組み及び最近できた少年補導に関する条例から、高校生層を中心とす る青少年にかかわる健全育成のあり方と支援の方策について考察し、次代を担う青少年の 健全育成のあり方、方向性を総括的に提案する。 なお、家庭、学校、地域社会及び青少年自身に関する具体的な提案は、他の委員が後述 する。 8 2 青少年と家族(保護者・大人)の関係 「 禁 止 に よ っ て 規 範 を 覚 え る の か 」「 論 理 的 に 自 分 を 導 く 方 法 を 学 習 さ せ る の か 」、 家 庭 や地域の教育力が低下していると言われる今、これらは青少年を取り巻く環境としての大 人の課題である。 「キレる」子どもは、家族構成や親等の養育態度など、家庭的環境が大きな要因となる であろう。しかし、子どもの生育環境は、性格形成の一部であってもそれがすべてではな い。子どもの成長過程は複雑なものであり、欲求不満の問題を解決する手段を幼児期の発 達過程の中でどれだけ学習したかが重要になる。つまり、子どもは、生育過程で保育所や 幼稚園のいわゆる社会環境で、多くの友だちとふれあい、人生の早い段階で遊びを通して 他者の感情、人間関係を作るためのルールを厳守することの大切さなど、多くのことを学 習するのである。 「児童生徒の心の健康と生活習慣に関する調査」 ( 文 部 科 学 省 2002 年 )で は 、 「急におこ ったり、泣いたり、うれしくなったりする」という自己評価の設問に対し、小学生の約 6 割 か ら 7 割 が 、「 よ く あ て は ま る 」、「 や や あ て は ま る 」 と 回 答 し て い る 。「 私 は い ら い ら し て い る 」 と い う 設 問 で は 、 小 学 生 の 3 割 弱 、 中 高 生 の 4 割 弱 が 「 よ く あ て は ま る 」、「 や や あてはまる」と回答している。 ま た 、「 突 発 性 攻 撃 的 行 動 及 び 衝 動 を 示 す 子 ど も の 発 達 過 程 に 関 す る 研 究 」( 国 立 教 育 政 策 研 究 所 2002 年)で は 、 「 キ レ る 」特 性 と し て「 家 庭 で の 不 適 切 な 養 育 態 度 」 「過度の統制」 「過保護」 「 過 干 渉 」な ど が 主 な 原 因 と し て あ げ ら れ て い る 。文 部 科 学 省 は こ の 報 告 を 受 け 、 各家庭において以下の取り組みを推奨している。 ① 基本的生活習慣の確立等をはじめ家庭におけるしつけや基本的マナーの育成などを 徹底するなど家庭教育の充実を図ること。 ② 子どもの変化を見過ごさないこと。特に自分の内的世界にこもりがちになったり、 凶器の収集、攻撃的・暴力的なゲームやビデオ、書物への著しいのめり込みなどの行 動を示したりしている時には十分注意し、不安な点がある場合には相談機関に相談す ること。 ③ フィルタリングソフトの活用や「家族の決まりごと」の作成等を通じて、有害情報 への接触の制限等を行うこと。 こ れ ら と 関 連 し 、 有 田 秀 穂 氏 は 、「 セ ロ ト ニ ン 欠 乏 脳 ∼ キ レ る 脳 ・ 鬱 の 脳 を き た え 直 す 」 ( 日 本 放 送 出 版 協 会 2004 年 10 月 ) の 中 で 、 近 年 の 生 活 環 境 の 変 化 と キ レ る 子 ど も の 増 加を豊かさとともに忍びよる負の因子として、次のように述べている。 一 体 な ぜ キ レ る 子 ど も が 増 え て き た の か 。 時 代 背 景 か ら 見 る と 、 1980 年 代 は 戦 後 復 興 、 高 度 経 済 成長下に育った世代が、すでに親になりつつある時期とも符合する。子を育てる親の側からすれば、 多少とも戦後の貧しさ、モノ不足を経験しているものの、いつしか経済的には安定し、マイホーム を持つなど生活水準は格段によくなった時代である。バブル経済も絶頂期。高学歴化は晩婚、少子 化にも拍車をかけることになり、生まれてきた子どもには、誕生とともに何不自由ない生活が約束 されていたわけである。戦後の焼け野原で育ったベビーブームの子どもたちとは明らかに違う豊か な生活環境。しかし、皮肉にもそこからキレる子どもが数多く育っていくようになるのであった。 本 調 査 で は 、男 子 の 19.0%、女 子 の 28.0%が「 親( 保 護 者 )や 家 族 の こ と で の 悩 ん だ( か な り 悩 ん だ + わ り と 悩 ん だ )」と 回 答 し て お り 、家 族 関 係 で ス ト レ ス を 感 じ て い る 者 の 割 合 は少ないと言える。 9 しかし、 「 家 族 の 中 で の 相 談 相 手 」で は 、男 子 48.0%、女 子 58.5%で あ り 、男 女 と も「 母 親」の割合が高い。 日常の子育てを母親だけが担っているのか、思春期の子どもにとって父親の存在が希薄 なのかは明白ではないが、いずれにせよ高校生と家族の間に関係性の希薄感は否めない。 また、少子化は教育にかける親の経済的負担を軽減した。AV機器やパソコン、携帯電 話といった通信端を個人が自在に使いこなせる環境がある。筆者は、自宅にテレビが 6 台 あ る と い う 大 学 生 の 話 を 聞 い て 仰 天 し た が 、そ れ が 特 別 な 家 庭 で な い と 学 生 か ら 諭 さ れ た 。 テレビゲーム、ビデオ、パソコンなど、それらが一人きりで楽しめる物であっても、家族 で共通の時間を楽しみたいものである。実際は孤独なのにもかかわらず、それを自覚する 心理的な苦痛がほとんどないのかもしれない。 3 青少年のマナーと規範意識 (1)地方自治体の現状・規範づくり 多 く の 自 治 体 が 青 少 年 健 全 育 成 、青 少 年 問 題 に 関 す る 意 識 調 査 を 実 施 し て い る 。ま た 、 ガイドラインや条例を策定している県・市もある。 ① 横浜市の場合 「 青 少 年 の 明 る い 未 来 の た め に STOP the 万 引 き 横 浜 モ デ ル 」 を 立 ち 上 げ て い る 。 こ れ は 2003 年( 平 成 15 年 7 月 )に 活 動 を 開 始 し て い る が 、従 前 か ら「 青 少 年 の 健 全 育成」を目的として活動している民間団体が企画し、行政が事業参加した。調査によ る状況把握、2 回のシンポジウム開催、標語募集、ポスター作成・配布、モデル地区 設置などである。具体的に「万引き」という課題に取り組んでいる自治体が少ない中 で、民間が企画した事業に行政が参加し、成果を上げている。 内 容 は 、「 万 引 き 」( = 初 発 型 犯 罪 ) を 減 ら す こ と が 、 青 少 年 の 非 行 防 止 に つ な が る との認識を共有することができたこと、構成団体がそれぞれ従前から行っていた活動 に「万引き防止」の要素を加えたため比較的無理のない形で活動を行えたこと、万引 きが単に非行の入り口であるだけでなく、青少年が抱える問題の現れ方の一つである という認識が共有され、万引きをした青少年に対する対処の仕方について深い検討を 行うことができたことなどが結果として述べられている。 さらに、2 回のシンポジウムでは、子どもと青少年育成団体を中心として意識啓発 ができたこと、子どもが自ら防止対策を考え意見を発表することができたことが収穫 であること、また、青森県・岩手県・宮城県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・長 野県・富山県・石川県・鳥取県・広島県・福岡県などでも青少年の万引き防止に向け た取り組みが始まっていること、少年非行の抑止に向けて「万引き防止」が一つの象 徴として作用したのではないかとの考察がなされている。 ② 奈良県の場合 「 奈 良 県 少 年 補 導 に 関 す る 条 例 」が 、2006 年( 平 成 18 年 3 月 24 日 )奈 良 県 議 会 で 成立し、同年 7 月から施行される。 そ の 上 程 過 程 の 3 月 10 日 に 、日 本 弁 護 士 連 合 会( 会 長 梶 谷 剛 氏 )は、会 長 声 明 と して以下のような重大な問題を含むとして提出している。 第一に、警察職員の権限を拡大し、子どもに対する監視を強化することが少年非行 の防止と少年の健全な育成につながるとの発想に根本的な誤りがある。 第二に、少年非行の背景には、子どもの悩みやストレスがある。特に、重大な非行 を起こした少年ほど成長過程でさまざまなハンディを背負い、自己肯定感を持てない 10 子 ど も が 多 い 。そ の よ う な 少 年 の 成 長 の 支 援 に は 、少 年 の 心 の 傷 を 受 け 止 め 、福 祉 的 、 教育的、医療的援助こそ重要であるとして、条例(案)の制定に反対している。そし て国・地方公共団体に対し、警察中心の非行防止施策ではなく、福祉、教育、医療に よる子どもの成長支援の強化及び非行防止と立ち直りを支援する地域の自主的活動を 援助する施策の拡充を求めている。 1990 年 の 国 連 犯 罪 防 止 会 議 が 採 択 し た 「 少 年 非 行 の 防 止 に 関 す る 国 連 ガ イ ド ラ イ ン 」( リ ヤ ド・ ガ イ ド ラ イ ン)に お い て も 、基 本 原 則 と し て「 少 年 非 行 の 防 止 が 成 功 す るためには、社会全体が幼児期から少年の人権を尊重及び伸長しながら、青年期の調 和 の と れ た 発 達 を 確 保 す る た め 努 力 す る 必 要 が あ る 」、「 幼 児 期 か ら の 青 年 の 福 祉 が 非 行防止計画の中心とされるべきである」と明記している。 ま た 、国 連 子 ど も の 権 利 委 員 会( C R C )は 、2004 年 1 月 、日 本 政 府 に 対 し 、 「問題 行動」を伴う子どもを犯罪者として取り扱わないようにすることを勧告している。 ③ 静岡県の場合 静 岡 県 教 育 委 員 会 青 少 年 課 「 青 少 年 ・ 保 護 者 の 規 範 意 識 に 関 す る 調 査 」( 平 成 12 年 度 、静 岡 県 内 の 中・高 校 生 1,260 人 を 対 象 )で は 、 「 規 範 」と は 、私 た ち の 生 活 の 中 で 、 役割、価値、判断基準または行為などの枠組みを表す言葉とし、一定の社会の中で承 認 さ れ た も の の 総 体 を「 道 徳 」や「 倫 理 」な ど と 呼 ん で お り 、 「 マ ナ ー 」や「 公 衆 道 徳 」 と呼ばれているものもある」としている。 さ ら に 、「 こ の よ う な 規 範 に 対 す る 意 識 の 形 成 に は モ デ ル が 必 要 で あ る 。 最 初 は 親 の 模倣から始まり、その後は本人の成長に伴って社会生活を送る中で様々な集団に所属 して、その中で新たな規範を獲得する」としている。特に家庭において、規範は親か ら子へ、子から孫へと受け継がれてきた。今後も、規範を引き継いでいくことが家庭 の重要な役割の一つである」としている。 し か し 、従 来 の 伝 統 的 規 範 だ け で は 生 き ら れ な い 社 会 の 現 実 が あ り 、新 し く 求 め ら れ る規範のための施策が必要となる。 (2)友だち関係と規範意識 本 調 査 で は 、「 友 だ ち の こ と で 悩 む 」 と 回 答 す る 女 子 が 46.0%で あ り 、「 家 族 以 外 の 相 談 相 手 」で は 、 「 友 だ ち 」と の 回 答 が 全 体の 87.9%で あ っ た よ う に 、高 校 生 は 身 近 な 友 だ ちとの関係を重視する傾向にある。 「学校は楽しいか」と「友だちとの悩み」のクロス集計においても、学校が楽しい理 由として、友だちとの関係に依存する状態である。それがやがて選択基準の移行につな がり、既存の規範に対する逸脱行動につながるのであろうか。日本的横並び意識がある 時、自己のアイデンティティが揺れていれば流れの方向へ流されるのだろう。青少年に とって良くも悪くも克服せざるを得ない課題になっていく。 (3)家族関係と規範意識 本 調 査 で は 、家 庭 と 規 範 意 識 と の 関 係 に お い て 、 「 親 や 家 族 と い る と き の 気 持 ち 」と「 性 に関する行動」と高い関係性が見られた。つまり、家族関係が安定している子どもは、 性に関する規範意識が見られる。現実にきょうだいが少なく、バーチャルな人間関係が 得意な子どもたちが、父性の復権という単純な対処や一方的強制、母親への子育てに対 する過度の期待はかえって問題を複雑にしてしまう可能性が高い。 家庭が規範意識形成のための一つの重要な場であるという認識のもとに、親、とりわ け父親が子どもと共に考え、共に行動する機会を少しでも多く持つ努力をすることが重 11 要である。理解と信頼感がないところに改善や向上の意識は生まれない。構造改革によ る格差社会といわれる中、このような家庭の努力を支え助ける様々な人と人の結びつき をいかに再構築するかが問題である。 4 青少年の就労と社会支援 ( 1 ) 平 成 17 年 「 青 少 年 の 就 労 に 関 す る 研 究 調 査 」 か ら 平 成 17 年「 青 少 年 の 就 労 に 関 す る 研 究 調 査 」 ( 内 閣 府 2005 年 )で は 、就 労 に 困 難 を 抱 え て い る 青 少 年 と そ の 親 に 対 す る 意 識 調 査 の 結 果 が 興 味 深 い 。こ の 調 査 は 、 「ニート」 (注) という言葉が広汎に認知された中、若者がきびしい雇用情勢の中で就労の不安定や親へ の依存の長期化など社会的自立の遅れが課題とされ、青少年の社会的自立の支援を中心 とした総合的な政策を推進するための基礎資料として発表された。 これによると、無業者の若者は、対人関係で自分の意見を人に説明したり、よく知ら ない人と自然に会話したりすることに対する苦手意識が高い。また、小学校時代以前か ら友だちが少なく、身近な人間関係を大切にしようとする意識が低いため、携帯やメー ル な ど へ の 依 存 度 も 低 く な っ て い る 。ま た 、親 が 仕 事 や 勉 強 、成 績 に つ い て「 う る さ い 」 という印象を持っている。 一方、無業者の親は、子離れが進まない傾向がある。また、就業を希望していない若 者の親は、子どもの一生に対する責任感が強い。しかし、家を出て独立してほしいと思 わない割合も高い。これらの親は、子どもに対する心配が尽きず、子どもにいつまでも 構い続けようとする傾向がうかがえる。小学生の頃、子どもに構ってやったという思い がある一方で、子どもの希望をできるだけ聞いたかどうか、また外で遊ばせたかどうか について自信がないという特徴がある。 格差社会がますます進み、それが社会規範にまで影響を与えようとしていると言われ ている昨今、無業者の若者たちをどのように社会が受け入れていくのか、また、そうい う青少年を生み出さない施策を緊急課題とし、家庭、学校、社会の責任としてそれぞれ の役割を検討し、早急に手を打たなければならない。 (注 ) ニ ー ト (NEET: Not in Employment, Education or Training) 「 職 に就 い て い な く、 学 校 機 関 に所 属 も し て い な く 、そ し て 就 労 に向 け た 具 体 的な 動 き を して い な い 」 の意 味 。 5 具体的施策への提言(本調査の自由記述から抜粋) 行政・関係機関、学校、家庭、地域社会に求められる支援のあり方について、高校生の 声を挙げることによって見えてくるものがあるのではないかと思い、以下に紹介する。 ( 1 )「 子 育 て ・ 家 庭 教 育 」、「 大 人 像 ・ 生 き 方 」 ○ 家庭 が 貧 乏 で も、 世 界 一 温 かい 家 庭 を 作 り た い 。 ○ 子ど も の こ と をよ く 理 解 し 、き ち ん と ア ド バ イ スで き る よ う な親 に な り た い。 ○ 優し い け れ ど 、時 に は 厳 し い親 父 に な り た い 。 スポ ー ツ 大 好 きの 大 人 に な る。 ○ 親に な っ た ら 、二 人 で 一 緒 に子 育 て や 家 事 を 分 担し 、 幸 せ に 暮ら し た い 。 ○ 子ど も に は 、い つ で も 自 分の 考 え を も てる 人 に なっ て ほ し い。そ う い う こと が 伝 え ら れる 親 に なり た い 。 ○ 自分 が マ ナ ー を守 ら な い の に、 子 ど も の 文 句 言 う大 人 に は な りた く な い 。 ○ 自分 の 意 思 を 持ち 楽 し く 生 きた い 。自分 の し た い こと は 周 り に 迷惑 を か け な い程 度 に で き る 限 り自 分 の 力 で 生き た い 。 12 ○ 分別 の あ る 大 人に な り た い 。ガ キ み た い な 大 人 には な り た く ない 。 ○ 当た り 前 の ル ール を 守 れ る 大人 に な り た い 。 ○ 心が 寛 大 で 仕 事に も 熱 心 に 取り 組 み た い 。 間 違 った こ と に は 屈し た く な い 。 ○ 他人 に 決 め ら れこ と を す る ので は な く、自 分 が 一 番い い と 思 う こと を 積 極 的 にや れ る 大 人 に な りた い 。 ○ 悔い が 残 ら な いよ う 常 に 努 力し て い き た い。仕 事 も頑 張 っ て 育 児や 家 事 も こ なし て い け る 大 人 にな り た い 。 高校生の生き生きとした言葉があふれている。 「 子 育 て・家 庭 教 育 」 「 大 人 像・生 き 方 」 はことに威勢がよい。大人への批判的な思いも持ちながら、自分の将来に明るい希望と 意欲を持っていることがうかがわれる。自分らしくしっかりと生きたいとの決意のよう なものさえ感じる。 ( 2 )「 進 学 ・ 就 職 」、「 進 路 ・ 勉 強 ・ 学 校 生 活 」 目 前 の 課 題 で あ る 「 進 学 ・ 就 職 」、「 進 路 ・ 勉 強 ・ 学 校 生 活 」 に な る と 少 し ト ー ン が 変 わる。 ○ 今はとりあえず目標の大学に入りたいと思っているので、学校の授業を大切にしている。 し か し、そ れ はそ の 先 に あ る 通過 点 に す ぎ ない と も 考え て い る。高 校 生 活 は 一生 に 一 回 な の で 、 精一 杯 悔 い の ない よ う に し てい る 。 ○ 勉強 ば か り し てい て も 、 人 生を 楽 し く 生 き る た めに 自 分 に と って 意 味 が な い。 ○ 大学 に 行 か な いと い い 仕 事 に就 け な い の だ ろ う か。 ○ しん ど い 。眠 い 。疲 れ た 。ダ ル い 。体 が重 い 。何 も し たく な い 。何 と な く やる 気 が で な い 。 ○ この 進 路 で い いの か わ か ら なく な る 。 ○ 毎日 が 勉 強 で 疲れ た 。 ○ 何で 勉 強 し な いと い け な い のか と 思 う 。 ○ 大学 で 勉 強 し たい こ と が 何 なの か わ か ら な い 。 将来 自 分 が 何 を し て い る の か と て も 不 安 。 ○ 本当 の 友 だ ち とは 何 な の か、と て も 疑 問に 思 っ てい る 。み んな 表 面 だ け 合わ せ て 、内心 は 何 を 思っ て い る の か分 か ら な い とこ ろ が あ る 。 ○ なぜ 、学校 は 面 倒 く さい 校 則 が 多 いの 。別に 化 粧 した っ て 髪 染 めた っ て い い ので は 。誰 に 迷 惑 をか け て い る わけ で も な し 。制 服 は あ っ て も い い とは 思 う け ど 、冬 の ス カ ー トっ て 寒 い。 ○ 学校 が つ ら い 。友 だ ち は 私 を 嫌っ て い る の で は ない か と 思 っ て、一 歩 引 い た 付き 合 い を す る 自 分が 嫌 い 。 一 人で い る の が 嫌な の に 、 友 だ ち の とこ ろ に も 行 きづ ら い 。 学 校が 嫌 だ 。 ○ 今の 生 活 は あ まり 好 き で は なく 、 我 慢 の 限 界 に 近づ い て い る 。 ○ 最近 、自 分 の性 格 が 嫌 で たま ら な い 、も っ と 積 極的 に 何 で も 取り 組 み た い のに 、な ぜ かぼ ん や りし て し ま う 。周 り ば か り 気に し て い る よ う な 気が す る 。 勉学や友人関係、校則などについて、理想は持ちながらもかなわぬ現実があり、友だ ちや他人からよく見られたいと思う気持ちと相反する現実がある。軋轢や矛盾の中で自 己の確立をしてほしいと願う。 ( 3 )「 親 ・ 家 族 」、「 社 会 ・ 大 人 」 大人への要求をもち論理的に展開できる者もいる。 ○ 親が 子 ど も の 夢や 意 思 を 無 視し て 、 自 分 の 考 え ばか り 押 し つ ける の は ど う かと 思 う 。 ○ 親っ て 何 で ( 子ど も が ) 選 べな い の だ ろ う 。 ○ 私の こ と を も っと 理 解 し て ほし い 。 頼 れ る 人 が でき れ ば い い な。 13 ○ 最近 の 大 人 、 もっ と マ ナ ー を守 っ て ほ し い 。 ○ 大人 か ら す れ ば高 校 生 は 子 ども で あ る と 思 う が、周 囲 を 見た り 理 解 し た りす る 部 分 に おい て は 、「 子 ど も 」 と 言 っ て し ま う よ り 少 し 前 進 し て い る と 思 う 。 大 人 だ か ら 子 ど も だ か ら と い う 分け 方 は 適 さ ない こ と を 理 解し て ほ し い 。 ○ 選挙 時 の パ ン フレ ッ ト な ど は子 ど も に は 渡 さ れ ない と 言 う こ とに も 疑 問 を 感じ る 。政 治 に 関 す る情 報 も 高 校 生に 流 し て ほ しい 。 6 課題と展望 高校生が自分自身の人生を生きるために、現在の親や周りの大人の環境は大変重要であ る。青少年の健全育成の現状をよりよい方向に改善するためには、次に挙げる取り組みが 重要となる。 (1)様々な集団への所属機会の提供 (2)青少年の多様な個性に応じた施策の推進 (3)乳幼児期の子どもを持った親への働きかけ (4)青少年健全育成のための新しい組織・システムづくり また、保護者や青少年教育関係者等、青少年の規範意識の形成に関わる人たちやその支 援者を対象に行う間接的な施策も重要であろう。 さらに、学校以外にも、自分の存在を認めてくれる居場所、生きる場所、多様な経験や 体験を積むことができる場で、自分の可能性を発揮できる場が必要である。 人的環境としては、青少年の様々な不安を乗り越えるため、自立する上でモデルなる年 長者との活動の場や、自分が何かの役に立ち他者への献身の喜びを体験できる機会をつく ることが必要である。例えば、地域の公民館活動の場などが考えられる。 今回の調査から個々の子どもの多様性をふまえ、家庭や学校、地域社会・諸機関が青少 年に対し、 「いつ」 「どのように関わりを持ち」 「 ど の よ う な 環 境 を 用 意 す べ き か 」な ど 、青 少 年 育 成 に つ い て 新 し い し く み を 構 築 す る こ と 、そ し て 、親 や 大 人 は 人 生 の モ デ ル と し て 、 自 ら の 生 き 方 や 社 会 規 範 を 青 少 年 に 示 す こ と が 重 要 で あ る と 考 え る 。そ の た め に は 、親 や 保 護者をはじめとする大人は、子どもたちと積極的に対話し、彼ら自らがルールを作って遂 行する機会を持たせ、その過程や結果を評価し、彼らの自尊感情を高める機会づくりが求 められる。そして、青少年が時代に応じた的確な規範意識を持ち、他人と共存するための ルールを身に付け、自分をかけがえのない存在と自覚し、誇りを持って生きることができ るよう、彼らを育成することが大人の責任である。 私たち大人は、次代を担う青少年を心身ともに健やかに、また、国際性豊かな人材とし て育てていきたいと願っている。しかし、今、青少年が健やかに育つ環境を提供している と言えるのだろうか。改めて問う必要があるのではないだろうか。 14 家庭のあり方が及ぼす高校生の意識 (親子関係、基本的生活習慣、社会規範意識、自尊感情) 兵庫県立嬉野台生涯教育センター 主任指導主事兼婦人・家庭課長 中村 和子 1 はじめに 青少年の社会的自立の遅れや社会規範意識の希薄さが言われて久しい。自立に向けた支 援や健全育成の必要性は言うまでもないが、何より青少年の育成を支援する場は家庭であ る。 今、中央教育審議会では「豊かな心を育む」ために「自尊感情を持って自分自身を大切 にする『自助』」や「前向きな見通し」「身近な人々との豊かな関わり」等の必要性が論 議されている。人が生涯を通して豊かに生きるためには、自分への信頼感や肯定感(自尊 感情)が必要である。こういった「自立」や「自尊感情」といった、青少年の育ちに家庭 や家族が第一義的に影響を及ぼすことは明らかである。 ここでは家庭や家族を切り口に、青少年の自立への意欲や社会規範意識、自尊感情に何 が関わっているのかを考える。 2 現状 (1)親子関係 家庭生活において、親や家族との関係がどう築けるかが子どもの心の安定、ひいては 自尊感情への影響が大きい。 ① 2割の子どもが不安定な家庭生活 本 調 査 で は 、 家 庭 に 居 て 落 ち 着 く 群 は 全 体 で 77.3% で あ り 、 ほ と ん ど の 子 ど も が 、 ほ ぼ 安 定 し た 家 庭 生 活 を 送 っ て い る こ と が 分 か る 。 性 別 で は 男 子 74.0% 、 女 子 82.5% で あ り、女子の方がより安定した気持ちで生活していると言える。しかし、逆に考えると、 約2割の子どもは家庭で安心して過ごしていないと言える。 ② 少ない父親との会話 本 調 査 で は 、 家 庭 で よ く 会 話 す る 相 手 は 、 母 親 53.0% 、 父 親 6.2% に な っ て い る 。 「 平 成 16 年 度 青 少 年 の 社 会 的 自 立 に 関 す る 意 識 調 査:内 閣 府 実 施 」( 以 後 、内 閣 府 調 査 ) で は 、 母 親 54.8% 、 父 親 32.3% で あ る こ と か ら 比 べ る と 、 姫 路 の 高 校 生 は 、 父 親 と 会話をあまりしていないと言える。 ◆ 家族と居る時「落ち着く群」と「落ち着かない群」では、青少年の意識はどのよう に違っているのだろうか ③ 家庭で「落ち着かない」者は低い規範意識や低い自己肯定感 「 落 ち 着 か な い 群 」は 社 会 規 範 意 識 の 全 項 目 で 規 範 意 識 が 低 く な っ て い る( グ ラ フ ① )。 10 ポ イ ン ト 以 上 の 差 が あ る も の は 、 「 染 髪 ・ ピ ア ス は 本 人 の 自 由 (12.6 ポ イ ン ト)」 「 飲 酒・喫 煙 の 容 認 (16.9 ポ イ ン ト)」「 深 夜 徘 徊 ・ゲ ー ム セ ン タ ー の 出 入 り の 容 認 (18.5 ポ イ ン ト )」 「 嘘 を つ い て の 外 泊 の 容 認(23.0 ポ イ ン ト )」 「 性 的 関 係 の 容 認(12.6 ポ イ ン ト )」 「 援 助 交 際 等 の 容 認 ( 16.1 ポ イ ン ト ) 」 に な っ て い る 。 また、「落ち着かない群」は、感情コントロールもできにくく、自己肯定感も低くな 15 っ て い る の が わ か る ( グ ラ フ ② ) 。 「 す ぐ イ ラ イ ラ す る 」 者 が 11.5 ポ イ ン ト 、 「 今 の 生 活 か ら 逃 げ 出 し た い 」 者 が 15.2 ポ イ ン ト 高 く な っ て い る 。 このように、家庭で落ち着けるかどうかで社会規範意識が違ってきていることが分か る。 家族と居ると落ち着く×自尊感情関連 (グラフ②) 家族と居ると落ち着く×社会的規範意識 (グラフ①) 28.6 40.1 ちょっとしたことでイライラして感情 をコントロールできなくなる 55.5 51.8 困っている人を見るとほっておけない 76 髪を染めたりピアスをしたりすることは 本人の自由である 88.6 41.5 49.2 いじめを見ても自分に関係がない場合は 関わらない方がよい 8.4 後で返せば自転車を無断で借りること ぐらい大したことでない 28.2 35.7 一人ぼっちのようで 不安になる 37.6 45.8 お年寄りや体が不自由な人に席を譲る かどうかは本人の自由である 57.3 54.9 何かを決める時に自分 で決められないで迷ってしまう 36.2 51.4 自分が嫌になり今の 生活から逃げ出したい 17.3 28.8 お酒を飲んだりタバコを吸ったりすること ぐらい大したことでない 45.7 0 31.5 深夜友だちとゲームセンターに出かける ことぐらい大したことでない 23.1 うそをついて外泊することぐらい 大したことでない 48.4 53.9 人生は楽しければよい 50 50 落ち着かない群 46.1 8.8 15.7 「ふっ」と万引きしたくなることが あっても仕方がない 61.9 好きな人と性的関係を持つこと があっても不思議でない 14 出会い系サイトにアクセスする ことぐらい大したことでない 0 家族と居ると落ち着く×生活態度関連 (グラフ③) 74.5 20.9 20.8 援助交際など性を売り物にする ことは本人の自由である 60.3 64.0 ふだん自分で起きている 36.9 50 落ち着く群 100 90.2 81.2 ふだん朝食を食べている 休日は家族と一緒に団ら んの時を過ごす 落ち着かない群 13.6 休日は家事や手伝いをす る 「落ち着く群」と「落ち着かない群」では 家庭の何が違うのだろうか ④ 100 落ち着く群 安心感を醸成する家族関係 「落ち着く群」は、「落ち着かない群」と比 べ、「休日は家族と一緒に団らんの時を過ごす こ と 」に つ いて 33.8 ポ イ ン ト 高 い。「 朝 食 の 摂 取」「休日の手伝い」についても高くなってい る(グラフ③)。 また、「困ったとき親は頼りになる」や「親 は自分を理解して受け止めてくれる」のポイン ト 差 は 、そ れ ぞ れ 47.0 ポ イ ン ト 、48.5 ポ イ ン ト 高く、大きな差がある(グラフ④)。つまり、 「悪いことをした時には叱られ、それでも親は 自分を理解し受け入れてくれている」と感じ、 16 47.4 30.8 27.0 0 50 100 落ち着く群 落ち着かない群 家族と居ると落ち着く×親との関係 (グラフ④) 72.3 63.7 悪いことをした時、親や 家族に叱られる 83.5 親は困っている時頼りになる と思う 36.5 76.7 親はどんな時でも理解して受 け入れてくれると思う 28.2 0 50 100 落ち着く群 落ち着かない群 「困った時、親は頼りになる」と思っている。 また、「落ち着く群」は、性別役割分担意識(男性は仕事、女性は家事育児をした 方がよい)を持つことが少ないと言える(グラフ⑤)。 さらに、家族との会話では、「落ち着く群」は、父親、母親ともよく話をしている と 言 え る( グ ラ フ ⑥)。祖 父 母 同 居 の 割 合 が そ れ ぞ れ の 群 で ほ ぼ 同 じ(「 落 ち 着 く 群 」: 祖 父 17.5% ・ 祖 母 30.2% 、 「 落 ち 着 か な い 群 」 : 祖 父 18.2% ・ 祖 母 30.6% ) と い う こ とを考えると、「落ち着かない群」は、父親、母親よりも「祖父母」とのコミュニケ ーションを選んでいる者が多いのがわかる(グラフ⑥)。 家族と居ると落ち着く×主に家族の誰と話をするか (グラフ⑥) 家族と居ると落ち着く群×性的役割分担意識 (グラフ⑤) 6.9 落ち着く群 23.9 落ち着く群 1.1 60.5 2.5 29.0 76.1 4.3 31.7 落ち着かない群 落ち着かない群 48.0 0% 50% 性的役割肯定群 ⑤ 26.8 26.8 10.5 52.0 100% 0% 父親 性的役割否定群 「叱られる」ことと親子関係 「叱られる」ことは、親子ともにスト レスの高まることであるが、関係を築く という意味でも大事なことである。しか し、本調査では、約 3 割の高校生は悪い ことをしても叱られないと答えている。 ◆「叱られる」ということは、子どもにどの ような影響があるのだろうか 50% 母親 祖父母 きょうだい その他 悪いことをしたら叱られる×社会規範意識 (グラフ⑦) 82.5 77.3 染髪・ピアスは本人の自由 関係のないいじめに 関わらない 48.1 40.4 自転車の無断借用は 大したことでない 12.4 9.0 飲酒・喫煙は大したこ とでない 叱られている者ほど、社会規範意識が 高 く な っ て い る( グ ラ フ ⑦ )。こ れ は「 叱 る」ということが、しつけとしてうまく 機能しているわけであり、当たり前のこ とかもしれない。また、子どもは「叱る 親 」を 疎 ま し く 思 っ て い る わ け で は な く 、 叱 ら れ て い る 者 ほ ど 、「 親 は 頼 り に な る 」 と思っている(グラフ⑧)。 100% 38.1 29.9 深夜徘徊など大した ことでない 30.7 うそをついての外泊など 大したことでない 45.8 36.8 23.5 万引きしたくなっても 仕方ない 12.6 9.7 好きな人との性的関係 は不思議でない 69.4 62.3 出会い系へのアクセス ぐらい大したことでない 17.0 14.2 29.6 21.5 援助交際など本人の自由 悪いことをした時叱られる×親は頼りになる(グラフ⑧) 0 50 100 悪いことをした時叱られない 親は頼りにならない 23.0 親は頼りになる 67.0 0% 悪いことをした時叱られる 50% 叱られない群 「叱れない親」が増えたことは、子育 ての現場では当たり前のように語られて いる。親は、叱ると子どもの気持ちが離 れると思いがちだ。しかし、案外子ども は、悪い時には叱ってくれる親を頼もし 77.0 100% 叱られる群 17 いと感じている。悪いことをしても叱ら れないことは、無視されていると感じるのかもしれない。叱り方はもちろん大事ではあ るが、まずは「悪いことは悪い」と言える親を子どもは望んでいるのである。 (2)「朝食を食べる」という基本的生活習慣 朝食は、身体の活動・維持・代謝を支える大切なエネルギー源であるとともに、1日 のスタートとしての心理的な意味でも大切にしたいことである。 朝 食 摂 取 に つ い て は 、 全 体 で は 「 食 べ て い る 群 ( い つ も 食 べ て い る+時 々 食 べ な い ) 」 が 86.6% で あ り 、 「 食 べ な い 群 ( 時 々 食 べ る+ほ と ん ど 食 べ な い )」が 11.6% 朝食×性別 (グラフ⑨) であった。 ほとんどの子どもが中身 5.3 71.8 14.8 6.3 1.8 全体 は別として朝食を食べているのがわか 7.1 男子 70.4 14.0 7.8 0.8 った。ここでも 1 割の子どもが朝食を 4.0 女子 74.9 16.3 4.4 0.4 食べていない状況がある。 0% 20% 40% 60% 80% 100% 「食べない群」を性別で見ると、男 いつも食べている 時々食べない 子 14.9% 、女 子 8.4% で あ り 、男 子 の 方 時々食べる ほとんど食べない が朝食を食べていない率が高かった。 その他・無回答 ◆朝食摂取は子どもたちにどんな影響を与えているのだろうか ① 朝食を「食べる群」は安定した親子関係や高い社会規範意識 朝食を「食べている群」は、「食べていない群」と比べると、「休日に家族で団らん を 過 ご す 」(8.5 ポ イ ン ト)、「 家 族 と 居 る と 落 ち 着 く 」(13.6 ポ イ ン ト )、「 親 は 頼 り に し て い る 」 ( 8.5 ポ イ ン ト ) 、 「 自 分 の こ と を 理 解 し 受 容 し て く れ て い る 」 ( 9.9 ポ イ ン ト ) 、 「 悪 い こ と を し た ら 叱 ら れ る 」 ( 13.1 ポ イ ン ト ) に つ い て 、 そ れ ぞ れ 高 く な っ ている(グラフ⑩)。 これらのことから、朝食を「食べてい 朝食×家族との関係 (グラフ⑩) る群」では、親子関係や社会規範意識に ついて「食べていない群」よりも良好で 休日家族と団らん 41.6 33.1 をしている あることがわかる。朝食を食べる基本的 家族といると心が な生活習慣が定着している家庭では、親 82.7 69.1 落ち着く 子がきちんと向き合う関係性が構築され 75.0 ているのである。親は食べていても、子 親は頼りになる 66.5 どもは食べないといった家庭では、子ど 親はどんな時でも理解 67.9 もに朝食の意義をうまく伝達できない関 58.0 して受け入れてくれる 係性しか結べていないのであろう。 悪いことをした時親や 家族に叱られる 71.7 58.6 0 50 100 朝食を食べる 朝食を食べない 18 安定した親子関係だけでなく、社会規範意識や感情の安定でもその関係は見られた。 「 う そ を つ い て の 外 泊 」( 21.3 ポ イ ン ト )、「 深 夜 徘 徊・ゲ ー ム セ ン タ ー の 出 入 り 」( 19.2 ポ イ ン ト ) 、 「 飲 酒 ・ 喫 煙 」 ( 17.9 ポ イ ン ト ) 、 「 性 的 関 係 」 ( 13.1 ポ イ ン ト ) の そ れ ぞれについて、朝食を「食べている群」の方が社会規範意識が高くなっている(グラフ ⑪)。 さらに、「いつも食べている」と「ほと 朝食×社会規範意識(グラフ⑪) んど食べていない」を性別で比べると、性 的 関 係 を 肯 定 す る 意 識 が 、女 子 で 24.3 ポ イ 77.8 染髪・ピアスは本人の自由 ントの差があった(グラフ⑫)。 85.8 関係のないいじめに 関わらない 42.8 44.4 自転車の無断借用は 大したことでない 9.0 17.3 33.3 うそをついての外泊など 大したことでない 25.0 万引きしたくなっても 仕方ない 8.4 52.5 46.3 19.3 好きな人との性的関係 は不思議でない 62.8 75.9 出会い系へのアクセス ぐらい大したことでない 14.7 19.8 0 ほとんど食べない いつも食べている ほとんど食べない いつも食べている 53.1 1.5 45.4 76.5 23.5 68.0 不思議ではない 50 22.6 0.0 77.4 0% 23.8 27.8 援助交際など本人の自由 女性 48.1 女性 深夜徘徊など大した ことでない 朝食を食べること×性的関係を持つこと (グラフ⑫) 男性 30.2 男性 飲酒・喫煙は大したこ とでない 1.5 35.5 50% 0.0 100% そう思わない 無回答 100 朝食を食べている 朝食を食べていない 同 様 に 「 飲 酒 ・ 喫 煙 」 に つ い て も 、 女 子 で 27.0 ポ イ ン ト の 差 が あ り 、 朝 食 を 食 べ る か どうかの影響がより明確に出てきた(グラフ⑬)。 また、自尊感情についても、朝食を「食べる群」の方が、よりポイントが高くなって いる(グラフ⑭)。 朝食を食べる×自尊感情関連 (グラフ⑭) 女性 ほとんど食べない 女性 いつも食べている 男性 ほとんど食べない 男性 朝食を食べる×飲酒・喫煙をする (グラフ⑬) いつも食べている 48.4 21.4 51.6 77.7 51.0 49.0 36.6 0% 大したことではない 62.1 50% そう思わない 0.0 感情コントロールが できない 0.9 ひとりぼっちのようで不安 0.0 30.1 36.4 28.6 33.3 38.6 45.1 今の生活から逃げ出したい 1.3 48.1 58 人生は今が楽しければよい 100% 0 無回答 50 朝食を食べている 食べていない 19 100 3 家庭が子どもの心の居場所になるために 本 調 査 に よ り 、子 ど も の 心 の 居 場 所 に な る 家 庭 と は ど の よ う な 家 庭 な の か が 見 え て き た 。 家族と居る時「落ち着く群」の家庭では、家族が一緒に過ごす時間を多く持っており、そ の 中 で 親 子 や 家 族 間 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン が 図 ら れ て い る 。親 子 や 家 族 で の「 時 間 の 共 有 」 「思いの共有」の中で受容感が高まり、いくら叱られても親は最後まで頼りになるといっ た親子関係がつくられている。しかも、それは性別にとらわれない「その子らしさ」を大 事にする意識がベースにある居心地の良い家庭なのである。 内閣府調査では、「親子の密接なコミュニケーションと、それらを介した親の理解、親 から子への伝達があることが重要な意味を持ち、社会的自立に親子関係が重要な鍵を握っ ていて、親の背中も中身も知らないことが社会的自立を困難にしている」(第5章 親の 子育てと子どもの自立:宮本)と分析している。 本調査で、姫路の高校生が極端に父親との会話が少ないことがわかった。この背景には 男性が仕事中心の生活をし、育児は母親の責任になっている姿がある。「父親の背中も中 身も知らない」ことは、子どもの育ちに男性モデル不在の弊害が予想される。それは男子 により影響が大きいと言える。仕事中心の生活は父親にとっても家庭での孤独を生み、辛 いはずである。また、「育児は女性」という固定的な性別役割分担意識は、男性の育児参 加を阻害する。 親 子 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン は 、小 さ な 頃 か ら の 長 期 に わ た る 積 み 重 ね が 必 要 で あ る 。「 叱 る」という、できれば親子が避けたいストレスも、親子関係を築くのに大切なファクター になっていた。いいとこ取りをせずに、全人格をかけて、小さなときから時間をかけて、 関係を築く努力が必要なのである。親がしっかりと子どもと向き合い、性別にとらわれず 「その子」を見つめるといったことを大事にしたい。 また朝食が摂れているかということも大きな要因であった。朝食は、ただ単に身体のエ ネルギー源だけではなく、子どもたちの精神面にまで影響を与えていることがわかる。朝 食を食べるという行為が、その家庭の基本的生活習慣や親子の関係性をはかる指標となっ ているのかもしれない。朝食を毎日きちんと食べるためには、夜何時に寝るのか、朝何時 に起きるのかといったことや、親子でその生活習慣を作っていこうとする思いが共有され る必要がある。朝食が用意され(それは親でも子どもでも良いが)、それを毎日食べると い っ た 、か つ て は 当 た り 前 で あ っ た こ と が、環 境 と し て 用 意 さ れ て い な い 子 ど も が 10 人 に 1人いることを私たちは重く受け止めたい。 4 おわりに(足元から見直す 4 つの視点) (1)休日など、親や家族と一緒に過ごす子どもは心が安定している。 ○ 親子(家族)の過ごし方を大切にしよう! (2)しっかり朝食を摂る子どもは、親子(家族)関係も良好である。 ○ 朝食は心と体のエネルギー。今一度、朝食の意義を話し合おう! (3)きちんと叱る親(家族)を子どもは頼りにしている。 ○ 「悪いことは悪い」とはっきり叱りましょう! (4)姫路の高校生は父親と会話していない。 ○ 子どもと向き合って、お互いが安心して話せる関係を作ろう! ○ 父親も子育てや家庭教育に参加しよう! 20 高校 生の 学校 と居 場所 (不登校、カリキ ュラム、居場 所、PTCA) 姫路市立 生涯学習大学 校 教 頭 吉田 善太郎 1 はじめに 高校を中途退学する高校生の数が一万人を超えている状況は相変わらず続いている。そ して人々もさして驚かなくなった。さらに今、新たに数万人の「不登校」が加わった。事 態は深刻であり、高校の存在自体が問われている。 しかし、現実には人々、とりわけ高校生の親たちはそれほど深刻に考えているわけでは な く 、「 自 分 の 子 だ け は 」 と い う 「 信 頼 感 」 の も と で 極 め て 「 他 人 事 」 で あ る 。 一方、教師の側も「高校は義務教育ではない」との原則論から自らの責任とは遠いとこ ろでこれを見つめている。そして、地域は、「今頃の高校生は・・・」「学校はきちんと 指導しているのか」といった批判的な視点で問題を等閑視している状況がうかがえる。 こ う し た 状 況 の 中 で 、高 校 生 た ち は 自 ら の 力 を 発 揮 で き ず に い る 。し か も「 情 報 化 社 会 」 の中で様々な刺激と闘いながら生活をしている。「世間」では、高校生たちが起こす諸問 題はすべて「個人的」なものであり、本人あるいは家庭に責任があると言う。まさに「自 己責任論」が我が物顔で行き交っている。しかし本当にそうなのであろうか。 本調査結果から高校生の実像に迫りながら今後の問題を明らかにしたい。 2 現状 (1)カリキュラム不適応 高 校 生 は 、一 日 の 生 活 時 間 の う ち 少 な く と も 3 分 の 1、部 活 動 を し て い れ ば 約 半 分 の 時 間を学校で過ごすことになる。彼らにとってその居場所が「楽しい」「楽しくない」と いうことは、今後の人生観や進路 選択等に大きな影響を与える。 学校は楽しい×在籍校への評価 ・成績の評価 (グラフ①) 本調査によると、「入学したか 5.4 った学校」に入学したにもかかわ 1.6 全体 27.5 52.8 12.8 ら ず 、1 割 以 上 が 「 楽 し く な い 」 2.9 入学したかった 31.7 54.9 10.3 0.2 と回答している(グラフ①)。 本来、「勉強は楽しくない」と 入学したくなかった 15.7 48.8 21.4 13.9 0.3 いう意見もあるが、自らの能力を 伸ばす、あるいは伸びていること 成績「上」 34.1 50.3 8.4 7.3 0.0 を実感している場合は「楽しい」 ものである。当然、友だちとの人 成績「中の上」 26.3 56.6 12.9 4.0 0.2 間関係においても同じである。し 成績「中の下」 27.1 55.2 15.0 0.0 かも、成績が「下位」のものほど 2.7 学校生活に対する否定的な評価が 0.7 成績「下」 26.9 47.8 12.7 11.9 多い(グラフ①)。これは、学校 が生徒の「期待」に適切に対応し 0% 20% 40% 60% 80% 100% ていない結果である。まさに「カ とても楽しい まあまあ楽しい リキュラム不適応」を起こしてい あまり楽しくない ぜんぜん楽しくない 無回答 るのである。 21 まず、学 校はこの現 実 を直 視しなければならない。そして、彼 らの生 活 を肯 定 的 にとらえ、それを 発 展 させる形 ・方 向 に思 考 を転 換 させ、彼 らに自 らの力 を目 覚 めさせるカリキュラム(学 習 プログラ ム)の提 供が求められている。 (2)生活としての「進路選択」 一方で、 「 15 の 春 を 泣 か さ な い 」の 言 葉 は 言 い 古 さ れ て い る が 、高 校 に 入 っ て も な お 次 なる進路の選択が待ちかまえている現実に呻吟せざるを得ない生徒たちの姿が浮かび上 がっている。 現在、「生きる力」の育成が叫ばれ、それに向けたカリキュラムの編成が行われてい る。しかし、現実にはそれを享受すべき生徒の側は、「生きる力」とは別の価値基準で 評価される「自分」があり、それによって「進路選択」をせざるを得ない立場を痛感さ せられている。 中播磨地域において、高校進学を前にした関係者は、「学校の数だけ格差がある」と まで言われる現実に直面し、躊躇しなければならない状況がある。 本調査によると、全員が「入学したかった学校」と答えた学校がある一方、約3割し か「入学したかった学校」と答えなかった学校もある。こうした現実は、学校間格差が 大きく現れた結果となっている。そのような高校生の現実は、成績の自己評価にも現れ ている。 高校生の「荒れ」や「キレル」現象は、「低い評価」への反抗となって現れると同時 に、自らも低い成績による低い評価にならざるを得ないという矛盾した関係性に「目覚 め」、常に成績によって評価されていることに対する不満の表れと言える。 高 校 生 は 、決 し て キ レ た く て キ レ テ い る わ け で は な い 。「 学 校 で 楽 し い こ と( 複 数 回 答 )」 は、「友だちとの関係」「部活・サークル活動」で占められており、「学校行事」でも わずかに 3 割、「授業」や「先生」は1割にも満たない(グラフ②)。困ったときの相 談相手においてもしかりである(グラフ③)。 学校で楽しいこと (グラフ②) 100% 86.6 友だち 50% 30.3 学校行事 25% 15.4 よ い成績 40% 60% 80% 3.2 無 回 答 20% 0.3 近 所 の 親 し い 人 0% 1.1 親 戚 の 親 し い 人 その他 0.8 悩 み 相 談 電 話 な ど 4.0 2.0 3.2 1.6 学 校 の 先 生 ︵小 ・中 学 校 を 含 む ︶ 先生 生徒会・委員会 そ の 他 授業 5.1 友 だ ち ︵先 輩 と 後 輩 を 含 む ︶ 0% 13.1 7.6 努力を 認められる 家族以外の相談相手(グラフ③) 75% 42.5 部活・サークル 87.9 100% つ ま る と こ ろ 、生 徒 た ち は 、自 ら の「 進 路 選 択 」も 一 定 の 生 活 (学 校 や 家 庭 を 中 心 と す る 社 会 的 生 活 )に 制 約 さ れ た 中 で の 選 択 で あ り 、自 ら の 希 望 と は 別 の と こ ろ で、生 活 と し ての「進路選択」を強いられているのである。 (3)主体の確立を このような生徒たちの現実は、本調査に見る大きな特徴の一つとしても現れている。 「家族以外の相談相手」を尋ねた部分で、先輩や後輩を含む「友だち」への回答が 9 割 近 く あ り 、 小 ・ 中 学 校 を 含 む 学 校 の 教 師 は 1. 6% し か な い ( グ ラ フ ③ ) 。 従前の「学校が楽しい」と回答した生徒も含め、大部分が「友だち」との関係の中で 22 「楽しさ」や「生き甲斐」を見出して 自分をほめてやりたい (グラフ④) いる。ここから見えてくるものは、教 師と生徒との距離である。 全体 3.8 13.3 48.7 32.2 2.0 ここ数年、「開かれた学校づくり」 男子 4.3 13.0 47.4 33.7 1.5 や「 特 色 あ る 学 校 づ く り 」が 標 榜 さ れ 、 「学校評議員制度」の導入や教科選択 女子 3.0 13.0 51.8 31.3 0.8 制の導入など、様々な形で学校改革が 行われてきた。しかし、先の「相談相 0% 20% 40% 60% 80% 100% 手」の結果を見る限り、「生徒不在」 よくある わりとある あまりない の改革でしかないのではないかと思わ ぜんぜんない 無回答 ざるを得ない。しかも「自尊感情」の 有り様を問うた回答では、「自分をほめてやりたい」と思う人は 2 割にも満たない(グラ フ ④ )。こ れ は 、他 者 か ら も 誉 め ら れ た 経 験 が ほ と ん ど な い に 等 し い の で は な い だ ろ う か 。 一日の生活の大部分を過ごす学校において、「主体」としての自分が完全にスポイルさ れてしまっている現実が明らかになっている。そういう意味では、開かれた学校づくりや 特色ある学校づくりという学校改革の中で、主体者である生徒たちがどれほど意識化され ているかということが重要になる。 (4)「居場所」の確認 子どもたちの「居場所」としての家庭は、圧倒的に母親への依存度が高い。 本調査では、家庭で「心が落ち着く」と答えた者のうち、家庭での話し相手が「母親」 が圧倒的に多いのである。第二次的には「父親」よりも「きょうだい」に傾いている(グ ラフ⑤)。 「居場所」は、特別に設けられた場所だけでなく、日常生活における生活空間の一部と して存在するものであり、狭義の意味で「安心できる場所」「自己を発揮できる場所」と して捉えることができる。その意味で家庭の果たす役割は大きい。しかし、家庭の役割を 強調しすぎると、子どもたちの「荒れ」や「キレル」現象が個人の責任に帰されてしまい かねない。 問題はそうした「私的」な空間だけにあるのではない。生徒たちがもっとも多くの時間 を費やする生活空間である「学校」でこそ彼らの「居場所」が創造されねばならない。今 では学校も安全な場所ではなくなりつつ あ る が 、し か し、学 校 こ そ「 安 全・安 心 」 家族といる時落ち着く×家族の中での話し相手 を確保できる場所として、社会的な「居 (グラフ⑤) 場所」としての役割を果たすべき場所な 2.4 のである。 4.5 全体 58.0 27.4 1.0 調査結果をくつがえす形での、心安ら 6.7 4.2 ぐ居場所としての「学校」、何でも相談 5.6 男性 48.1 30.3 11.2 0.6 できる相手としての「教師」の創造が求 められている。これは、物理的空間であ 女性 66.2 25.1 1.0 3.6 1.4 2.7 る「居場所」とは別の側面で、「誰と一 0% 20% 40% 60% 80% 100% 緒にいるか」というメンタルな部分、い 父親 母親 祖父母 わゆる「with」の側面が大切である きょうだい その他 無回答 ことを意味している。 23 3 課題と方向性 社会から自由な高校生は一人として存在しない。学校生活や家庭生活のどの側面を捉え ても「一定の社会的関係」に制約された高校生であり、一人間である。ならば、私たち大 人が高校生を取り巻く社会的関係を的確に把握し、社会の変化に対応した課題の発見に努 めるべきである。しかも個人としての高校生は存在し得ても高校生個人としては存在し得 ないのである。このような高校生と彼らの生活変化を的確に捉えること、そしてその背景 を社会の変化の中から明らかにし、高校生の将来について検討すべきである。 本調査で明らかになったことは、高校生の生活の一部を反映しただけのものであり、す べ て で は な い 。必 要 な の は、社 会 の 変 化 に 対 応 し た 高 校 生 の よ り 詳 細 な 生 活 の 把 握 で あ る 。 そ の 中 か ら 、 高 校 生 に と っ て の 「 表 現 の 自 由 」 と 「 夢 や 希 望 を 育 む 教 育 (自 己 実 現 ・ 進 路 ・ 職 業 指 導 )の 創 造 」、「 こ こ ろ 豊 か な 人 間 関 係 づ く り (友 だ ち 関 係・部 活 動・生 徒 指 導)」の 方向性を明らかにしなければならない。 4 具体的提言 以上、今回の高校生意識調査から明らかになった部分から検討を試み、高校生の「居場 所」としての学校やこれまでの具体的な「居場所」の設定を前提としながら、これからの 高校生たちにとって、「明るい未来」を提供するための具体的な提言をいくつか挙げる。 まず第一に、学校からの発信として、高校生の目覚めを促す柔軟でかつ積極的なカリキ ュラムの創造である。例えば、「総合的な学習の時間」を活用して、教師自らが自分の得 意とする分野で生徒たちに興味関心を抱かせ、自己の能力と重ね合わせながら自分たちの 未来について考える時間を共有することである。あるいは、教師と生徒の積極的な対話を 促 す た め の 時 間 (カ リ キ ュ ラ ム )や 学 校 間 を 行 き 交 う こ と の で き る カ リ キ ュ ラ ム の 創 造 も 必 要である。 第二に、高校生を取り巻いて様々な事件が起こる中で、原因を個別化してとらえられる 傾向にあるが、事実は逆である。問題の背景には必ず高校生たちの具体的な生活背景があ り、一定の社会的関係の中である種の必然性を持って起こっているのである。その意味で はますます社会化しているし、より社会的な問題として我々の前に現れている。それだけ にそれぞれの教師、保護者、子どもといった個別化された力より、学校、地域、保護者と いった「PTCA」という枠組みの中で子どもへの関わりを強化すべきである。 第三に、保護者は、本調査に見られる高校生の生活を現実のものとして受け止め、世代 の違いと社会の変化に目を向け、学校、教師、そして高校生たちの間にいる「ジョインタ ー」としての役割を自覚することである。また、地域とも繋がり、それぞれの地域に高校 生たちが活動できる場所として「チャンス&ステージ」を創造すべきである。 第四に、地域の大人は、保護者の役割とも関連し、コミュニティーの活性化によるクリ エイターとして大人の役割の自覚が重要である。地域として、高校生たちを受け入れる機 会と場の提供、さらには子どもたちがチャレンジする機会と場の創造を積極的に行うべき である。 最後に、トータルな地域教育ネットワークを形成し、世代間協力と提携の創造が求めら れている。高校生たちは「自分力」を信じることが大切である。しかし、同じ世代での相 談には限界がある。気分や感情などの同一性は求められても発展の契機にはなり得ない。 そのことを理解した上で、異世代との関わりを大切にし、積極的に地域と関わることが重 要である。世代間の交流は「対立点」を明確にするが、決して否定的な対立ではなく肯定 的な対立・意識化された対立は自らの発展の契機になるものである。 24 5 おわりに 以上、高校生を取り巻く現況とともに、学校、保護者、地域のあり方について検討を加 え、当面の取り組むべき課題として5つの具体的提言を行った。ただこれらがすべての解 決 策 に な る の で は な い 。激 し く 変 化 す る 社 会 の 中 で「 生 き る 力 」の 発 揮 を 促 す も の と し て 、 また、考えられる手段として機能しなければならないのである。 そして、何よりも高校生が自分たちの持っている能力の大きさに気づき、行動する自覚 と主体形成に目覚めるべきである。 同時に、こうした高校生たちを温かく迎えることのできる学校、保護者、地域の寄り添 いによって温もりのある地域が創造される必要がある。「行為は習慣となり、習慣は性格 を形成し、性格は運命を形づくる」の言葉どおり、日々のお互いの取り組みで「安全と安 心」のある「居場所」が確保され、温もりのある地域教育ネットワークが形成されるので ある。高校生たちの明るい未来は、大人にとっても明るい未来となるのである。自信と確 信を持って彼らと共に歩んで行きたい。 25 青少 年へ の地 域や 社会 の関 わり (地域環境、 自立、フ リーター、キャリ ア教育) OAA(野外活動協 会) 専務理事 1 清水 勲夫 はじめに 今日ほど青少年が育つ環境としての地域で、青少年が関係した深刻な問題が起きている ことはないだろう。誰も考えもしない不幸な事件や事故の被害者、時には加害者となるこ とが繰り返されている。こうした青少年に関する問題の深刻化の背景に、家庭や地域の教 育力の低下を指摘する声は大きい。確かに大きな要因であり、それは今日の社会が構造的 に生み出した経過的、結果的状況でもある。 一方で、その対応として、子どもたちを守るスクラムやパトロールが、彼らの自由な遊 びや空間を制約する環境を不本意にも作りかねないことは、誠に皮肉なことだとも考えら れる。子どもたちにとって自由な「道草」は、地域を知り、地域を独自に楽しむ有効な手 段であった。しかし、小さな空き地は駐車場に、そして遊び場はフェンスで囲まれた特定 の場所になっている。 青少年の成長に不安があるとすれば、それは未来社会の抱える不安そのものである。彼 らは今、地域や他人への関心や愛着、あるいは信頼感というものを十分に持って育ってい るのだろうか。また、ふだん暮らしている地域や世間を、実際の感覚や身体を通して正し く実感できているのだろうか。さらに、先入観を優先するあまりに、自分たちだけの閉鎖 的な世界に閉じこもってしまってはいないのだろうか。 実際生活における役割の体験や人との関わりは、自分を客観的に見つめ、多様な視点で 物事を捉え直す機会を与えてくれる。その可能性をより高めるために、親や身近な大人た ちの多様でタイムリーな支援や実際モデルの提供が欠かせない。 また、地域との関わりとは、地域の人との関わりを意味し、その関わりの中にある自分 を実感することに他ならない。親が地域をどう捉えどう関わっているかは、家庭における 生きた地域学習となっているはずである。 さらに、自らの個性や興味、関心を優先し、豊かさの中で育った彼らにとって、自らの 将来の進路決定は容易ではない。就職後、現場でその適性を改めて問われる場面が次々と や っ て く る 。今 後 、若 者 た ち の ニ ー ト 対 策 と し て も 、働 く 意 味 を 考 え さ せ 、人 生 の 中 で 仕 事 をとらえるといった「キャリア意識」を培う基本的な学習を積極的に推進していかなけれ ばならない。 2 現 状 (1)地域のくらし、地域への関心や期待 本 調 査 で は 高 校 生 の 82.0% が 、 住 ん で い る 地 域 に 親 し み や 愛 着 を 感 じ て い る と い う ( グ ラ フ ① )。概 し て 、青 少 年 の 多 く が 自 分 の 住 ん で い る 地 域 や 町 に 好 意 的 な 思 い を 持 っ ていることは、これまで他の調査によっても示されてきた。現代人は地域との関わり、 つながりをあまり必要としない生活を実際には行なっているが、青少年にとって身近な 地域はやはり大切な遊びやくらしの場としてかけがえのないものとなっている。こうし た思いが、地域の人との「あいさつ」行為となって示されているのであろうか。 26 地域での生活(グラフ①) 近所の人とのあいさつ(グラフ②) 3.3 全体 29.0 53.0 13.3 1.4 1.4 全体 32.2 40.2 18.6 7.6 0% 20% 40% とても好き あまり好きではない 無回答 60% 80% 100% 0% まあまあ好き ぜんぜん好きではない 20% 40% 60% よくしている あまりしていない 無回答 80% 100% わりとしている ぜんぜんしていない 本調査では、 「 あ い さ つ を し て い る( よ く し て い る + わ り と し て い る )」 と 答 え た 者 は 全 体 の 72.4% で あ る ( グ ラ フ ② )。 決 し て 少 な く はないが、地域への愛着や思いがすぐにあいさつや行為につながるには、ちょっと遠慮し ている様子もうかがわれる。気軽に親しく声をかけられたら、無言、無表情を決め込むこ とも容易ではないだろう。つまり、どんな形でも繰り返される結果、お互いが習慣的に身 につけていくものである。年齢が上がるとためらいがちにもなるようだが、そこを大人と しての器量で声を掛けてやる積極性やおおらかさがむしろ必要なのではないだろうか。 ま た 、祖 父 母 と の 同 居 者 に 、地 域 行 事 へ の 参 加 傾 向 が よ り 強 く 見 ら れ た( グ ラ フ ③ )。そ れが地域への関心や愛着、信頼へとさらにつながっていくことは大いに期待されるところ である。 「幼い頃からお世話になった人」 地域行事への参加(グラフ③) の存在も、祖父母との同居者にやや 全体 16.0 25.9 祖父母と同居 16.1 28.2 祖父母と同居せず 15.9 多く見られたことからも、地域を理 解し、顔見知りも多いと思われる祖 父母の存在が地域を知り、安心して 地域を整えることのできる素地を作 0% ってくれていると考えられる。こう の 出会い、またその関係性の中に自 ら 24.8 20% 21.7 38.7 32.8 40% よく参加 あまり参加していない 無回答 した地域に対する好意的関心や思い の 起 こ り 、そ し て 、そ の 持 続 は 人 と 34.7 60% 15.7 24.6 80% 1.7 1.3 1.9 100% わりと参加 ぜんぜん参加していない が存在する実感をより強く育てていくことにつながると考えられる。しかし、今日の よ うにご近所でも見知らぬ人は「要注意」といった捉え方や現実があることは、子ども た ちの成長にとっても我々にとっても非常に残念なことである。 こ う し た 状 況 の 一 方 で 、 本 調 査 で は 、 全 体 の 53.4% の 者 が 「 で き る ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 に は 参 加 し よ う と 思 う 」と 考 え( グ ラ フ ④ )、ま た 、29.3% の 者 は「 将 来 、ボ ラ ン テ ィ ア な ど 地 域 社 会 に 役 立 つ 活 動 を し て い る だ ろ う 」 と 答 え て い る ( グ ラ フ ⑤ )。 彼らは決して利己的で自尊心が低いわけではなく、不安や不満を抱えながらも、心の中 ではありたい自分を探しているのではないだろうか。素直に自分を表現することがきっと 苦手なのだろう。彼らにふさわしい出番や役割がもっと多様に家庭や地域に必要である。 そして、こうした彼らの思いや個性をとらえた対応が求められている。 27 ボランティア活動をすること (グラフ④) 全体 13.3 40.1 将来、ボランティアなどの活動をしているか (グラフ⑤) 33.5 11.7 全体 6.1 1.5 0% 0% 20% 40% 60% 80% 23.2 20% 51.3 40% 16.7 60% 80% 2.7 100% 100% すすんでしようと思う まあまあしようと思う あまりしようと思わない ぜんぜんしようとは思わない 無回答 きっとしている たぶんしている たぶんしていない していない 無回答 (2)将来のこと、仕事のこと 高 校 生 に と っ て 、 こ の 時 期 の 悩 み は 「 異 性 ・ 友 人 」 や 「 勉 強 ・ 成 績 」 よ り も 、「 進 学 ・ 就 職 な ど の 進 路 」 と な る こ と が 、 本 調 査 で 明 ら か と な っ て い る ( グ ラ フ ⑥ )。 そ し て 、 全 体 の 70% 以 上 が、明確にとまではいかな 高 校 生 の 悩 み (グ ラ フ ⑥ ) いものの「自分なりの夢や 目標」をもち、それに向か 3 3 .5 友だち 1 .7 6 4 .7 って頑張っている(グラフ 3 7 .0 異 性 ⑦ )。 1 .9 6 1 .1 1 .6 さらに、 「 努 力 す れ ば( 必 6 3 .1 勉強や成績 3 5 .3 ず+多分)それはかなう」 1 .5 と 、 全 体 の 65.0% の 者 が 考 7 3 .2 進 路 (進 学 や 就 職 ) えている。 0% し か し な が ら 、「 自 由 な 生 20% 悩んだ 活を送るためにフリーター 2 5 .3 40% 60% 80% 悩んでいない 100% 無回答 でいたい」という就職に前 向 き で な い 者 も 約 10% い る (グ ラ フ ⑨)。 将来(およそ10年後)に向けての夢や目標 (グラフ⑦) 努力すれば夢や目標はかなう(グラフ⑧) 0.9 1.4 13.9 全体 0% 23.6 20% 35.2 40% 60% 80% 32.4 全体 23.8 32.6 26.3 2.2 5.3 0% 100% はっきりとした夢や目標があり、がんばっている はっきりとした夢や目標があり、がんばろうとしている ぼんやりとした夢や目標がある 今は夢や目標が定まっていない その他 無回答 20% 40% 必ずかなえられると思う どちらとも言えない その他 28 60% 80% 2.4 100% 多分かなえられると思う 多分無理だと思う 無回答 し か も 、「 今 は 夢 や 目 標 が 定 ま っ て い な い 」 者 が こ れ に 多 く 含 ま れ て い る (グ ラ フ ⑩ )。 つ ま り 、「 フ リ ー タ ー を 目 指 す 」 と 言 う よ り 、「 目 指 す も の が な い の で フ リ ー タ ー を 選 ぶ」という実態がそこにうかがえる。自由なくらしや楽しみを得たいが、とりあえずお 金も必要。その手段としてのアルバイト感覚ということだろうか。 さ ら に 気 掛 か り な の は 、フ リ ー タ ー 志 望 者 に は 、 「 努 力 に よ る 夢 、目 標 の 達 成 」に は 否 定的な思いを持つ者が他の進路希望者より多く、それは男子より女子にその傾向が出て い る (グ ラ フ ⑪ )。 若 者 た ち の 多 く は 自 分 の 将 来 を 積 極 的 に 考 え 、 関 心 を 持 ち 、 そ れ な り の努力をしようとしているが、その反面、少数ながらも約1割の高校生がそうした状況 に は な っ て い な い ( グ ラ フ ⑨ )。 これらの現実にどのように取り組むかが課題となるであろう。自分の意識する課題や 目標もなく、将来に希望や夢をなかなか持てない者に、今後に向けた学習や教育が効果 をあげることはかなり困難なことだろう。 自由な生活を送りたいのでしばらくはフリーターでいたい (グラフ⑨) 0% 6.1 49.2 36.0 11.6 2.6 2.0 53.7 39.2 20% 46.0 40% 60% とても思う まあまあ思う ぜんぜん思わない 無回答 1.7 80% 100% あまり思わない 将来の夢や目標×フリーター (グラフ⑩) はっきりとした夢や目標に向かい頑張っている 男子 1.4 女子 37.4 10.7 1.0 88.3 はっきりとした夢や目標に向かい頑張ろうとしている 5.6 94.4 0.0 ぼんやりとした夢や目標がある 6.1 93.9 0.0 今は夢や目標が定まっていない 11.6 86.6 はっきりとした夢や目標に向かい頑張っている 6.0 女子 2.1 男子 8.8 1.8 94.0 0.0 はっきりとした夢や目標に向かい頑張ろうとしている 10.1 88.3 1.7 ぼんやりとした夢や目標がある 10.5 88.8 0.8 今は夢や目標が定まっていない 23.2 0% 思う 76.8 20% 40% 60% 思わない 0.0 80% 100% 無回答 将来の夢や目標はかなえられる×フリーター (グラフ⑪) 男子 2.0 必ずかなえられると思う 9.9 多分かなえられると思う 7.6 90.1 1.9 84.2 必ずかなえられると思う 10.4 88.7 多分かなえられると思う 10.9 88.3 15.7 多分無理だと思う 0.5 92.0 15.8 どちらとも言えない 0.0 91.9 どちらとも言えない 6.2 多分無理だと思う 女子 全体 20% 29 0.9 0.8 83.8 29.4 0% 0.0 思う 0.5 0.0 70.6 40% 60% 思わない 80% 無回答 100% また、 「 仕 事 に 就 く に は 、学 歴 よ り も 仕事につくには学歴より実力や人柄、やる気が大切 (グラフ⑪) 2.4 実力や人柄、やる気が大切である」と 全 体 の 85.7% が 答 え る よ う に 、既 に 学 歴には、そう大きな力があるとは実感 していない。もっと他の要素が重要だ と考えている。 全体 46.1 男子 51.8 女子 20% められているのか」 「やる気を伝えるに 2.4 2.6 10.0 1.7 45.5 40% とても思う あまり思わない 無回答 きることなのか」 「どのような人柄が求 9.5 33.9 41.8 0% し か し 、具 体 的 に 、 「実力とは何がで 39.6 60% 9.1 1.6 2.1 80% 100% まあまあ思う ぜんぜん思わない は何をすべきなのか」について、恐ら くはまだつかめていないのではないだろうか。それが実務や技能の資格ということだと すれば、その多くも既に第二の学歴となりつつあるのが昨今の状況である。 この課題は、 「 仕 事 は 適 性 」と い う こ と を 正 し く 、そ し て 具 体 的 に 理 解 す る こ と で は な いだろうか。仕事とは、自分を社会や人に向かって生かすことであり、自分に対する正 しい認識、自分を見つめる目がなければならないのである。やりたい仕事、就きたい仕 事がやっていける仕事になるには、それはどうしても欠かせない。その過程で先ほどの 「 実 力 」「 人 柄 」、 さ ら に は 「 や る 気 」 と は ど う い っ た も の な の か を 学 び 、 そ れ を 自 分 の ものとしていくことが大切である。もちろんそこには大人、先輩たちの支援が必要なこ とは言うまでもない。 3 課題と方向性 (1)明日への自立、家庭で、地域で 学 校 週 5日 制 の 実 施 は 、 高 校 生 の 暮 らし が 学 校 か ら 家庭 や 地 域 に シ フ ト し た こ とを 意 味 し た 。 で は 、 彼ら の 家 庭 や 地 域 の く ら し に変 化 は あ っ た だ ろう か 。 役 割 や 出 番 は 増 え ただ ろ う か 。 地 域 で は一 時 的 な 受 け 皿 事 業 や イ ベン ト も 行 わ れ た が、 そ の 後 は ど う だ ろ う 。 何よ り も 自 由 時 間 の 主体 者 、 当 事 者 と し て 彼 ら 自身 は 行 動 で き て いた だ ろ う か 。 結 局 、 サ ー ビス の 受 け 手 、 消 費 者に 固 定 さ れ た ま ま で は な かっ た だ ろ う か 。 自 分 を 生か す 、 自 分 が 求 め ら れ て い る場 や 機 会 が あ るこ と は 貴 重 な こ と で あ る 。や り た い こ と が 自 由 にで き る 生 活 は 大 切 だ が 、 それ が 生 き て い く こと の 全 て で は な い 。 自 力 で身 の 周 り を こ な し 、家 族 の 一 員 と し て も 求 め られ 、 喜 ば れ る 存 在と な る こ と は 、 そ れ 以 上 に意 味 の あ る こ と で ある 。 自 分 へ の 誇 り や 有 用 感、 自 由 と と も に 自己 責 任 の 大 切 さ 、 真 剣 さ 、そ し て そ の 面 白 さ の実 感 が 、 将 来 、 働 く 意 欲 を支 え る 基 盤 と な るの で あ る 。 若者たちの自立への支援とは、豊かな自主性を育てることである。そのためには、大 人たちには、熱意と根気、そして時間がかかることだろうが、彼らが負える責任は持た せてやらなければならない。それにも関わらず、自ら課題を乗り越え、何かをやり遂げ る体験が子どもたちの日常から失われつつある。あって当たり前、されて当然の暮らし が、結局、夢と現実のギャップを拡大し、なかなか仕事に就こうとしない若者を生み出 すことにつながってはいないだろうか。 キャリア開発の基本資質は、まず家庭生活にあると言わざるを得ない。豊かさの時代 はわずらわしさを避け、付き合いを敬遠する風潮が強くなった。そして、少子高齢社会 も背景に、地域における子どもたちと多様な人たちとのふれ合う機会を減少させた。 30 地域は、本来、その近隣性や祭りなどの行事や活動を通じ、子どもたちの成長過程に おいて多様な大人たちやその人格と出会える所であった。ボランティアという言葉が使 われる以前から、地域にはそうした人たちがたくさんいた。こうした地域活動やボラン ティア活動への興味や関心が実際の活動へつながるには、身近にその機会やモデルとな る 人 た ち が 必 要 で あ る 。子 ど も が 、 「 地 域 の 子 ど も 」と し て 成 長 す る に は 、大 人 た ち が 子 どもの成長に関心を持ち合える「地域の大人」として存在し、関わり合うことが大切で ある。 地域づくりとは、行事を単に多くやることではない。それを通して、どんなつながり や将来の街づくりを目指したいのかの思いを共有していくことである。三世代同居者は 地域への馴染みも強かったが、親や大人たちが祖父母の世代になった時、孫たちに伝え る地域はどうなっているだろうか。 (2)目指したい自分と仕事 楽しさ、自由、そして個性を大切にする現代は、時としてそれが快楽、身勝手、自己 中心性となりかねないこともある。そうした暮らしの価値観が、仕事や職場に適応して いく上で困難をきたす要因ともなっている。職場には責任、義務、拘束性が常にある。 仕事は生計を立てる上で必要なものだが、さらに自分の個性の発揮や自由な暮らしの ためという思いも強く、彼らなりの未来志向がそこにはある。現代人、特に若者たちは 自分らしさにこだわり、その自分探しに苦労しているという側面がある。選択肢が多様 にある時代、一体自分に何が向いているか。それを選びきれない苛立ちと不安は、大人 世代にはなかなか理解しにくいものかもしれない。しかし、本来、個性とは、他との違 いや抜き出た能力という大げさなものでなく、その人その人の自然な気づき方や考え方 の傾向や「クセ」のようなものではないか。それは、身近な出来事や他者を通して自分 を客観的に見つめ、問い直すという謙虚で真剣な自己理解によって少しずつ得られてい くものだろう。 興味や思い入れのある、そして自分で選んだ仕事に就いたとしても、実はそれだけで はやっていけないのが仕事である。 「 天 職 」が「 適 職 」と な る に は 、職 場 環 境 へ の 適 応 が 重要となる。正しい仕事の仕方を覚えることも大切だが、職場や同僚は、気持ちのよい あいさつとともに正しく仕事をやろうとする姿勢と意欲、そして未熟さをごまかさない 謙虚な仕事ぶりを求めている。それが周りの信頼を得ることにつながり、結果的に自分 の仕事環境を自分が作ることにつながる。自分の態度や行動が周りの行為や雰囲気を引 き出すことが分かれば、それは大きな自信となるだろう。 (3)未来を担う社会の一員として育てる 学校では、職種や業種についての進路指導や情報提供はそれなりに行ってはいる。し かし、職場適応への対策は決して十分ではない。もっと労働市場や現場の厳しさを認識 し、職場生活への対応に重点を置いた準備教育に力を注ぐべきではないだろうか。 職場体験学習は最近、中学や高校で取り組まれるようになった。学校でキャリア教育 が位置づけられることは貴重である。しかし、重要なことは、学校、事業所、そして家 庭にその意義やねらいが正しく理解され共有されることである。そして、生徒自身が目 的を理解し、主体的に取り組み、振り返り、成果や課題を自ら明らかにしていくプロセ 31 スが必要である。それには体験期間中だけでなく、学校教育全体を通してキャリア開発 学習の基礎を行うという大きな位置づけが必要だろう。しかも、単に形としての接遇や 作法をやるというのではなく実際的対人関係やコミュニケーション能力を高め、相互理 解を通じて人とつながるのだということが実感できる学習成果を期待して行う必要があ る。仕事は社会や人と向き合う場であること、人間関係はできるものでなく自ら作り育 てていくものであること、そして、その基本はお互いの心が開かれていること。そのた めにも、あいさつや声かけが現場では必要なことなどを具体的に学習するのである。こ のように、相手の理解、納得を意識した自己表現の学習は貴重なものとなるだろう。 希望するやりたい仕事に就く者もいるが、それらも含めて、就いた仕事を好きになる ための学習もまた求められるのではないのだろうか。職業社会に入る上で必要な資質や 基本的な能力を、一体どこでどう身につけるのかということがポイントである。 4 おわりに 家庭や地域における生活体験の大切さにもふれたが、実はそれは体験活動の量の重要性 以上に意識や社会的能力を備えた親や大人と関わり、協力して活動すること、そして役割 を担うこと、つまりその内容が大切だということである。そうした親や大人のモデルが身 近にあって、明日の自分が意識できる。今、青少年は、近所で一体何人から声をかけても らえるだろう。 職場体験には限らない。例えば幼稚園を訪問し、交流する中高生の活動がある。無邪気 で、柔らかく、温かく、元気な園児に皮膚感覚でふれる。弱い者との関わりは、受け入れ たり守ってあげたりしたいという思いを実感するのである。最初は遠慮がちながらも、自 分が好かれる経験が彼らの表情を変え、心を育てていく。園児たちも同様である。こうし た 体 験 の 機 会 、チ ャ レ ン ジ の 機 会 、も っ と い ろ ん な 人 と 関 わ り の 持 て る 機 会 や 場 が あ る と 、 彼らにとって地域、学校、社会はもっと気になる、またちょっと楽しい所になるだろう。 企業は、過去に長期雇用を前提として若者を大量に採用し、初歩段階からの教育計画を 立てて戦略的に育ててきた。しかし、長引く景気低迷と労働市場の変化等により、新規採 用を見送り、即戦力を求め、短期的なパートや契約社員を増やす動きを強めてきた。その 結果、単に高等教育を受けただけでは、若者たちは希望する仕事に就きにくい時代ともな った。それが結果的に職場が若者を持続的に受け入れ、育てるという意識の低下、その手 だての硬直化をもたらしたことは否めない。 職場とは、働き手が人間として大人として成長する場である。職場が、人を育てること に さ ら な る 熱 意 と 戦 略 を も た な け れ ば な ら な い 。そ し て 大 人 へ と 成 長 し て い く こ の 時 期 に 、 高等教育機関はこうした現実の厳しさにもっと目を向け、社会的自立に向けた教育や学習 の機会をもっと充実させていなければならないと考える。 7、5、3と並べられる数字がある。これは中・高・大卒者それぞれ卒後就職3年後の 転職率と言われる。転職そのものを否とはしないが、それまでの経験が生きる転職となら なければ単純に繰り返されかねない。不本意離退職は、無意識のうちにも徐々に自分を過 少評価し、仕事に馴染めない自分にチャレンジを求めなくなるだろう。これに加え、わが 国では退学者や中途退職の若者には、学校も含め公的な支援がとても弱く、新卒就職でな いと圧倒的に不利な社会となっている。新卒時にフリーターとなった者の多くがその後も 定職に就いていないと言われる要因でもあり、こうしたことにも配慮が欠かせない。 32 思春 期の 揺れ る心 のう ち (親子関係、自尊 感情、生き る力) 兵庫県子どもの人 権専門委員会 委員長 元姫路市立教育相 談センター所 長 吉田 八郎 1 はじめに 思春期の若者たちは、親からの自立と親への依存のはざまで激しく揺れ動いている。 本 調 査 で は 、「 早 く 大 人 に な っ て 自 分 の 力 で 生 き て み た い 」 と 思 っ て い る 高 校 生 は 、 全 体 の 60.2% で あ る( グ ラ フ ① )。そ の 反 面「 何 か を 決 め る 時 に 自 分 で 決 め ら れ な い で 迷 っ て し ま う 」と 思 っ て い る 者 も 全 体 の 55.4% で あ り 、と も に 過 半 数 を 超 え て い る( グ ラ フ ② )。ま た 、自 立 意 識 の 高 さ に 比 べ て 、 「 自 分 自 身 を ほ め て や り た い 」と い う 自 尊 感 情 は わ ず か 17.1% で あ り 、自 立 願 望 と 自 尊 感 情 の 落 差 、そ し て 親 へ の 依 存 意 識 が 自 己 決 定 力 を 阻 み 、迷 い を 生 む 一 つ の 要 因 と っ て い る ( グ ラ フ ③ )。 早く大人になって自分の力で生きてみたい(グラフ①) 全体 25.4 0% 34.8 20% よくある 40% わりとある 28.1 60% あまりない 9.8 80% ぜんぜんない 何かを決める時に自分で決められないで迷う(グラフ②) 1.9 全体 100% 0% 無回答 37.0 20% よくある わりとある 32.4 40% 60% あまりない 10.1 80% ぜんぜんない 2.1 100% 無回答 また、電子メディア・携帯電話の普及に 自分をほめてやりたい(グラフ③) より、向かい合って語り合う関係が薄れ、 3.8 全体 18.4 48.7 13.3 0% 20% よくある わりとある 40% 32.2 60% あまりない 80% ぜんぜんない 2.0 100% 無回答 「イツ」でも「ドコ」でも機器を通して話 し合える状況になってきた。相手の置かれ ている状況に関係なく一方的に話せたり、 メールを送ったりすることができるのであ る。その相手は圧倒的に友だちが多く、電 子メディアを通して自分の存在を知らせ、 相 手 の 存 在 を確 か め る 機 能 を 果 た し て いる 。 心 の う ち を 語 り 合 う と い う よ り 、相 手 と つ な が っ て い る 安 心 感 を 無 意 識 裏 に 求 め て い る の で は な い だ ろ う か 。だ か ら 、話 す 内 容 も「 今 ど こ ? 今 何 し て い る ? 今 自 分 は こ う し て い る ! 」 と い う 軽 い お し ゃ べ り が 大 部 分 を 占 め て い る 。こ れ ら は 、お し ゃ べ り を 通 し て 自 分 と 相 手 と の関係性を保つことが中心で、思春期の孤独感を埋めていると言える。 ま た 、メ ー ル な ど の 電 子 メ デ ィ ア を 使 う よ う に な り 、 「 自 分 自 身 の 人 間 関 係 に つ い て 、親 や 家 族 が 知 ら な い こ と が 増 え た 」 と 思 う 者 が 、 全 体 の 44.6% で あ る ( グ ラ フ ④ )。 一 方 、「 家 族 と の 結 び つ き が 強 く な っ た 」 は 、 全 体 の 17.2% で あ っ た ( グ ラ フ ④ )。 つ ま り、友だちとのおしゃべりは増えるが、電子メディア・携帯電話の普及は、親や家族の知 らないこと、つまり「子どもの世界」が増えたことを示している。電子メディアの普及は 家 族 間 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 希 薄 に し 、友 だ ち 間 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を よ り 促 し て い る 。 しかし、友だちとおしゃべりはできても、心のうちを語ることは少ない。まして親との希 薄なコミュニケーションの中で、心のうちを親に語ることができる者はどれほどいるのだ ろうか。 33 電 子 メデ ィア と 人 間 関 係 (グ ラ フ ④ ) 1 4 .7 思いを伝えやすい 1 2 .5 親 が 知 らないことが 増 えた 家 族 と 結 び つ き 強 くな っ た 3 6 .0 2 .8 0% 3 3 .8 3 2 .1 1 4 .4 3 5 .3 20% 40% 2 現状 (1)近くて遠い友だち・家族 ① 表層的な関係を保つメールコミュニケー ション 本調査では、メールを利用している高校生が 全 体 の 90% 近 く に の ぼ り 、携 帯 電 話 が 主 に 使 わ れ る と い う 結 果 を 得 た ( グ ラ フ ⑤ )。 また、 「 心 を ゆ る せ る 友 だ ち の 人 数 」は「 0∼ 4 人 」が 全 体 の 66.2% で あ り 、 「 メ ー ル の 相 手( 一 日 平 均 人 数 )」 の 「 1 人 ∼ 5 人 」( 80. 8% ) と 同 様 の 傾 向 が 見 ら れ る ( グ ラ フ ⑥ )。 つまり、日常的なメールは、仲のよい気心の 知れた心ゆるせる友だちであるが、比較的 少人数に限られているのではないかと推察で きる。 し か し 、 メ ー ル の 回 数 は 、 10 回 以 上 が 50% を 超 え 、60 回 以 上 と い う 者 も い る( グ ラ フ ⑦ )。 5 .3 1 4 .8 4 6 .8 とても思う ぜんぜん思わない 5 .2 1 0 .3 60% わ りと思 う 無回答 3 0 .8 5 .2 80% 100% あ まり思 わない メールの利用 (グラフ⑤) していない, 無回答, 4.4% 2.3% 施設や店, 0.2% パソコン, 4.1% 携帯電話, 88.4% メールの相手(一日平均)(グラフ⑥) 11人以上 6.0% 6∼10人 5.4% 無回答 4.9% 「こんなにも 明るく晴れた 天気でも み ん な 携 帯 う つ む き か げ ん 」( 注 1 ) いない 2.9% 1∼5人 80.8% 高校生の多くがこの歌のようにメールのた めにうつむきかげんなのである。うつむきか げんはメールを打つ姿だけなのだろうか。明 るく晴れた日ざしの中で、うつむく指先から の話は何なのか。 彼らは、友だちと向き合って直接話すより メールの方が思っている事を伝えやすいと言 う 者 が 50.7% に の ぼ る ( グ ラ フ ④ )。 真 面 目 な話もメールで気軽におしゃべりできるのが よ い の で あ る 。 「イ ツ」で も 「ド コ 」 で も 気 軽 におしゃべりできる簡便さが魅力なのであろ う。直接的に言いにくい心のうちも、言葉で 34 メール回数(一日平均) (グラフ⑦) 無回答 1.5% しない3.7 21回以上 31.4% 11∼20回 22.1% 1∼10回 37.4% なく絵文字に託すことで伝えられる。向き合って話すプレッシャーは、メールを通して 和らげているのである。正面から訴えるのでなく、真意を少しぼかすことで互いに傷つ く恐れを回避し、安心して話せるのである。 つ ま り 、メ ー ル は 、 「 つ な が っ て い る け ど 密 着 し な い 」お し ゃ べ り 機 能 が 大 事 な の で あ る 。( 注 2 ) 彼 ら は 仲 間 は ず れ に な る こ と を 極 端 に 恐 れ な が ら 、 親 密 に な り す ぎ る こ と も怖がっている。つかず離れずみんなに合わせながら「ホンネ」は打ち明けない、心の うちを語ることで相手を傷つけたくないし、自分も傷つけられたくないと言う。 メールは、現代高校生の表層的な人間関係を保つには欠かすことのできない通信手段 と言える。 ② 疎遠になった家族間コミュニケーション 本調査によると、メールは自分の思いを伝えやすくした。しかし、自分を隠した「親 の 知 ら な い こ と 」も 増 や し て い る( グ ラ フ ④ )。ま た 、メ ー ル は 友 だ ち と の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 促 進 し た が 、 逆 に 家 族 間 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 疎 遠 に し て い る ( グ ラ フ ④ )。 彼らはメールで友だちとのおしゃべりを楽しみ、多くの友だちとつながっている安心 を得ようとしている。そのため携帯使用料金も筆者の知る範囲だが、平均 5 千円から 1 万 円 、中 に は 3 万 円 を 超 え る 者 も い る 。当 然 小 遣 い で は 足 り な い 分 は ア ル バ イ ト に 励 み 、 学校と家族との距離が遠のく。それでなくとも義務教育を終えた安堵感からか、高校生 になった子どもの生活に対して親の問題意識はある意味で希薄になっている。高校生は もう大人と言った感覚で子どもの躾もゆるく半ば放任に近い。特に子どもと過ごす時間 の 少 な い 父 親 は 、事 が あ る と 、 「 子 ど も で は な い 。大 人 だ 」と 言 い な が ら 、親 の 価 値 観 を 無意識裏に押し付けてしまう。それでなくとも思春期の子どもは、親に心のうちを明か さないし語ることを拒む時期でもあるのに。 し か し 、自 立 願 望 の 裏 に あ る 親 へ の 依 存 心 と の 狭 間 で 揺 れ る 彼 ら に と っ て 、 「自分の心 を打ち明けたい」 「 分 か っ て 欲 し い 」と 言 う 気 持 ち も あ る 。そ の 気 持 ち を ど の よ う に く み 取って子どもに関わるかが親の課題である。 (2)自立意識の裏にあるもの 人生は今が楽しければよい (グラフ⑧) ① 今が楽しければそれでいい 自 立 願 望 が 60% を 越 え る 反 面 、自 立 を 望 17.4 31.1 36.8 13.2 1.5 全体 ま な い 高 校 生 が 37・ 9% い る ( グ ラ フ ① )。 0% 20% 40% 60% 80% 100% 3 人に 1 人以上の高校生が大人になるこ よくある わりとある あまりない とを望んでいないのは、 「大人になりたくな ぜんぜんない 無回答 い症候群」と呼ばれる若者が増えている表 れである。彼らは、大人にはなりたいが大 人としての責任が取れない自信のなさと、大人の生きる苦労への恐れを感じているので あろう。また、大人になって苦労するのは嫌。それなら親にべったり依存する生活でも よい。閉じこもり、ニート、パラサイトシングルと言われようと、今、自分が楽しけれ ばよいのではないだろうか。 ま た 、彼 ら の 50% 弱 が 今 の 楽 し み を 求 め 、50% は そ う 思 っ て い な い( グ ラ フ ⑧ )。こ の 比率をどう見るか。既成社会への入りにくさ、激しく変貌する社会への不安と現実の社 会へのシラケタ気分もあろう。将来に展望を持ちにくい社会では、自己実現も困難と感 じているのだろうか。 10 年 先 が 見 通 せ な い 時 代 だ か ら こ そ 、「4 人 に 1 人 」 は 模 索 中 で あ り ( グ ラ フ ⑨ )、 夢 や 目 標 を 持 っ て 努 力 す れ ば か な う と 思 う 者 は 65.0% で あ り 、31・6% の 生 徒 は「 多 分 無 理 」 35 も し く は 「 ど ち ら と も 言 え な い 」 と 思 っ て い る ( グ ラ フ ⑩ )。 現在社会が自立・自己実現が困難な時代かもしれないが、果敢に自己の未来に向かっ て挑戦する若者を育てなくてはならない。 将来(10年後)に向けての夢や目標 (グラフ⑨) 努力すれば夢や目標はかなう(グラフ⑩) 13.9 全体 0% 23.6 20% 23.8 1.4 35.2 40% 60% 80% 2.2 32.4 全体 32.6 (3)自尊感情の低さ ① 今の生活から逃げ出したい・・・ 日本の子どもと高校生の自信度のあ まりの低さに驚きを感じる。 河 地 和 子 氏 ( 注 3 ) に よ る 日 本・ス ウ ェ ー デ ン・ア メ リ カ・中 国 の 15 歳 を 対 象にしたグラフ⑫と高校生の自尊感情 である「自分をほめてやりたい」と比 べ て み る と 明 ら か で あ る ( グ ラ フ ⑪ )。 0% 20% 40% 13.3 48.7 32.2 2.0 男子4.3 13.0 47.4 33.7 1.5 女子 3.0 13.0 0% 51.8 20% よくある ぜんぜんない 40% わりとある 無回答 うな気がする 58.9 53.1 ③ 59.3 ばと思う 73.2 47.6 ④ 私 は人 並 みに、いろ 7.3 35.5 200.0 87.9 私は、自分がもう ちょっと自信があれ 70.9 250.0 85.3 いろなことをする能 力 があると思 う 88.8 44.0 150.0 ⑤ 22.2 83.2 100.0 50.0 58.6 77.9 私は自分に対して 積極的な評価をして 92.7 いると思う 40.0 85.1 78.2 41.0 ⑥ 61.8 全 体 と し て 、私 は 自 分に満足しているよ 0.0 日本 スウェーデン アメリカ ﹁強く思う﹂ ものがあまりないよ 80% あまりない ﹁そうは思う﹂と回答 つはずだと思う 60% ﹁全然思わない﹂ 時々、自分は役立 31.3 ﹁そうは思わない﹂と回答 ① 450.0 51.5 100% 全体 ② 私は自分を誇れる 300.0 80% 自分をほめてやりたい(グラフ⑪) 3.8 500.0 77.0 60% 必ずかなえられると思う 多分かなえられると思う どちらとも言えない 多分無理だと思う その他 無回答 各国の子どもたちの「自信度」比較 (各国別に積み上げている) (グラフ⑫) 350.0 0.9 5.3 2.4 100% はっきりとした夢や目標があり、がんばっている はっきりとした夢や目標があり、がんばろうとしている ぼんやりとした夢や目標がある 今は夢や目標が定まっていない その他 無回答 400.0 26.3 うな気がする 中国 36 0.8 100% 学校カウンセリング辞典によると、 「 自 分 自 身 を 大 切 に す る 感 情 を 自 尊 感 情 と 呼 ぶ 。自 尊感情は主に自分自身のかけがいのない価値を知ること。自分を大切にするということ を 意 味 し・・・・自 尊 感 情 の 低 い 者 の 特 徴 は 、自 分 の 能 力 を 必 要 以 上 に 低 く み た り 、自 分 は 周 り に 受 け 入 れ て も ら え な い も の だ と 信 じ 込 ん だ り す る 。」( 注 4 ) と 説 明 し て い る 。 では、なぜ日本の青少年はこれほど低いのであろうか。幼稚園はともかく、私立小学 校・中 学 校 へ の 激 烈 な 受 験 競 争 、そ し て 大 多 数 の 生 徒 は 15 歳 で 高 校 受 験 と い う 関 門 に ぶ つかる。競争社会の中で希望がかなうかどうか、進路の分岐点は一般的にいう学力で決 まることが多い。自分の思いや希望とは別の成績評価が大きく進路を左右するため、親 の学力へのこだわりと成績評価の壁が、自分の能力を必要以上に低くみせてしまうのだ ろう。そして、自信のなさが劣等感を生み、逃避感を呼び寄せるのである。 ま た 、 高 校 生 の 38.8% 、 つ ま り 「 3 人 に 1 人 強 」 の 割 合 で 「 逃 げ 出 し た い 」 と 思 っ て い る( グ ラ フ ⑬ )。そ れ に 対 し て 、 「 人 生 、今 が 楽 し け れ ば よ い と 思 う 」と す る 者 が 48・5% であり、高校生の約半数が現実逃避より現状の楽しみを求める刹那的な生き方を選択し て い る と 言 え る ( グ ラ フ ⑧ )。 し か し 、「 今 が 楽 し け れ ば 」 と い う 選 択 も 現 実 逃 避 の 表 れ かもしれない。 失敗を恥じることはない。失敗を恐れず現実に立ち向かう勇気とチャレンジ精神を、 今、青春を生きる高校生に持たせたい。 今の生活から逃げ出したい (グラフ⑬) 14.5 全体 0% 24.3 20% よくある ぜんぜんない 38.9 40% 60% わりとある 無回答 20.4 80% 1.9 100% あまりない 3 課題解決に向けて なすべきことは多くある。ここでは身近な家庭内の人間関係(親子の基本的信頼感の醸 成)を軸に、親の子どもへの関わり方について述べたい。 (1)家族の結びつきが人間関係を豊かにする 自立心の芽生えと親から離れる不安に、子どもの心は行きつ戻りつ、微妙に揺れてい る。その揺れの中で多くの悩みを抱えている。 本調査では、高校生の悩みや心配事はグラフ⑭のとおりであり、思春期特有のもの、 自分の将来を左右しかねない勉強や進路のことなど多種多様である。これらの悩みを彼 らは誰に相談し、どのように解決しようとしているのだろうか。 彼 ら の 相 談 す る 相 手 は 、 家 族 を 除 い て 圧 倒 的 に 友 だ ち (先 輩 と 後 輩 を 含 む )が 多 い 。 家 族 で は 「 父 親 」 の 相 談 す る 者 は 5.8% で あ り 、「 母 親 」 の 52・ 5% に 比 べ て 低 い 。 悩みの内容によっては家族に話したくないこともあろう。また、友だちでは解決しが た い こ と も あ ろ う 。し か し 、「 友 だ ち・ 異 性・ 性 格 や 容 姿」な ど は 、友 だ ち や 母 親 に も 相 談しやすいが、 「 成 績 や 進 路 」な ど 将 来 の こ と に つ い て は 、父 親 の ア ド バ イ ス が 必 要 で は ないだろうか。 思 春 期 の 子 ど も に と っ て 、 親 (特 に 父 親 )が 相 談 相 手 に な る こ と は 発 達 段 階 か ら 見 て 、 かなり困難であることを先ず知ることである。子どもが正直に「ホンネ」を言うのは学 童期前半までであり、成長につれて子どもは「ホンネ」を出さなくなる。うっかり「ホ ンネ」を言えば、叱られ、笑われ、説教され、子ども扱いされるのではないかと恐れて いる。つまり、自分が傷つくことを恐れているのである。思い出してみよう。親が気付 37 いていない何気ない一言で、心を傷つけられた体験を持つ人は多いと思う。それを振り 返れば、親は子どもにどう関わればよいか自ずと答えは出てくる。 それは、 「 子 ど も の 話 し を 謙 虚 に 受 け 止 め る 」こ と か ら 始 ま る 。ど ん な 自 己 主 張 、た と え我がままと思える事も、とりあえず「最後まで耳を傾け聴いてやる」ことであり、途 中 で「 さ え ぎ ら な い 」 「叱らない」 「笑わない」 「 説 教 し な い 」親 の 姿 を 見 せ る こ と で あ る 。 子どもの言葉を聞き入れるのではない。子どもの言葉を通して「子どもの心をしっかり 受け止めてやる」のである。無茶苦茶な話と子どもは分かっていて言うことがある。そ んな無茶苦茶な話を親はしっかり聞いてくれている。その安心が親子の基本的信頼感を 生むのである。聴いてもらえた安心感は親子の結びつきを強め、家庭内での人間関係を 温 か い も の に す る 。そ の 悩みや心配事 (グラフ⑭) 温かさを身に付けた子 ど も は 、外 の 社 会 で も 豊 親(保護者) 7.9 15.9 39.6 35.0 1.6 かな人間関係を築いて 友だち 9.7 23.8 40.3 24.4 1.7 い け る 。親 子 の 基 本 的 信 頼感の醸成が求められ 好きな異性 16.8 20.2 29.5 31.7 1.9 ているのである。 先生 5.2 9.6 39.2 44.2 1.7 問 題 な の は 、「 八 つ 当 た り し 、解 決 を あ き ら め 、 勉強や成績 23.2 39.9 23.7 11.6 1.6 なすすべもない」者が 進学や就職の進路 31.0 42.2 18.2 7.11.5 29.1% あ り 、「 自 分 で 解 決 す る 」と し た 21・4% 性格や容姿 16.6 31.8 35.6 14.3 1.9 よ り も 高 い( グ ラ フ ⑮ )。 0% 20% 40% 60% 80% 100% 「 八 つ 当 た り 」と い う かなり悩んだ わりと悩んだ (グラフ⑮) 悩みや心配事でのストレス解決法(対処法別) 反 社 会 的 な 対 処 と 、我 慢 あまり悩んでいない ぜんぜん悩んでいない 無回答 37.7 誰かに話して相談する と混乱の中で耐える非 人を頼らず自分だけで解決しよう 21.4 社会的な対処の仕方で 10.0 イライラして何かに八つ当たりする 自分を守ろうとしてい 10.4 がまんしてあきらめる る者への社会的援助を どうするか分からない 8.7 どうすべきかについて 9.2 その他 も重要な課題である。 2.6 無回答 0% 20% 40% ( 2 )親 の 関 わ り が 自 尊 感 情を高める 自尊感情の高い子どもは「目標を立て計画に従って行動することができ、他人を尊重 す る と 同 時 に 、 自 分 自 身 の 生 活 を 楽 し も う と す る 」 と あ る 。( 前 出 注 4 ) どの親もこのような子どもに育てたいと願っている。にもかかわらず、なぜ子どもの 自尊感情は低いのであろう。低いがゆえに自己にも否定的な子どもが唯一頼れる場所は 家庭である。家庭が子どもにとって心癒される母港になっているかどうかを見つめ直し たい。 親(大人)は、子ども同士をよく比較して評価してしまうことがある。しかし、子ど もにとっては、比べられることで存在感が高められるより、逆に存在感が希薄になって いく場面がいかに多いか思い当たるだろう。 多くの人に愛されている金子みすゞ氏の詩に「みんな違って、みんないい」と言う一 節 が あ る 。〔 私 と 小 鳥 と 鈴 と 〕( 注 5 ) 38 子 ど も は 比 べら れ る た め に生 れ て き た の で は ない 。 ま し て 親か ら 他 の 子 ども と 比 べ ら れ て「 こ う し な さい 、 こ う あ るべ き ・ ・ そ ん な こ とが で き な い から ダ メ だ 」 と言 わ れ た ら、 ど れ ほ ど 傷つ き ど ん な に悲 し い か を 知 ろ う 。あ の 子 に は あの 子 の い い 所が あ る 。 あな た に は あ なた の い い 所 があ る 。 親 に と っ て あな た は あ な たで い い 。 目の前にいる「あるがまま」の子どもの姿を受け止めることが大事なのである。違い をとがめるより、違いを認め合うことを子どもに育てるのである。そうして育てられた 子 ど も は 、み ん な と 違 う こ と を 恥 じ る こ と は な い 。ま た、違 う こ と で 劣 等 感 を 持 た な い 。 親だからこそ、皆の持たない自分の子どもの持つ「よさ」を掘り出してやることができ るのである。 子どもは、案外自分の「よさ」に気づいていない。隠れている自分の「よさ」を親が 気づき、親にほめられる時、子どもは「自分は自分でいい」と自分の存在に自信を持つ のである。自尊感情は親の子どもへの関わりが否定的であれば低くなり、肯定的であれ ば高くなる。 「 親 の 愛 情 に 満 足 し て い る 者 ほ ど 自 信 度 が 高 い 」と 河 地 和 子 氏 は 言 っ て い る ( 前 出 注 3 )。 つ ま り 、「 あ る が ま ま 」 の 子 ど も の 姿 に 寄 り 添 っ て い く 親 の 関 わ り が 自 尊 感 情 を 高 め 、 自他尊重の心を育てるのである。 (3) 親は子どもの心を癒す存在 「 ど ん な 時 に で も 、親( 保 護 者 )は 理 解 し て 受 け 入 れ て く れ る か 」と の 設 問 に 、 「受け 入 れ て も ら え な い( あ ま り + 全 然 )」と の 回 答 が 32・7% も あ る 。 「 3 人 に 1 人 」は 親 に 受 け入れてもらえないと感じているのである。同様に、小学生の頃はどうであったかとの 質 問 で も 、「 4 人 に 1 人 」 が 受 け 入 れ て も ら え な か っ た と 感 じ て い る ( グ ラ フ ⑯ )。 また、 「 親 は 頼 り に な る か 」の 設 問 で も 、「 頼 り に な ら な い( あ ま り + 全 然 )」と 感 じ て い る 者 が 25・ 7% で あ り 、「 4 人 に 1 人 」 い る と い う 事 実 を 知 ら な け れ ば な ら な い ( グ ラ フ ⑰ )。 さ ら に 、 親 と 一 緒 に い る と き の 気 持 ち も 、「 落 ち 着 か な い ( あ ま り + 全 然 )」 と 回 答 し た 者 が 18.4% で あ り 、「 5 人 に 1 人 」 が 家 に 居 場 所 が な い の で あ る ( グ ラ フ ⑱ )。 親(保護者)は理解して受け入れてくれるか (グラフ⑯) 今 全体 20.6 男 17.9 女 小学5、6年 中学2、3年 44.3 44.2 22.9 男 48.8 20.3 48.3 23.7 全体 男 26.3 0% 20% とても まあまあ 40% あまり 39 60% ぜんぜん 10 0.9 6.5 1.4 2.5 26.4 8.1 1.4 6.7 1.5 21.0 47.7 2.3 7.5 18.9 47.4 8.4 24.3 23.2 46.9 21.0 女 23.1 47.7 15.3 女 26.5 46 17.9 全体 24.3 17.4 80% その他・無回答 7.8 2.7 8.9 1.7 6.7 1.8 100% 親(保護者)は頼りになるか (グラフ⑰) 親や家族と一緒にいる時の気持ち(グラフ⑱) 28.1 全体 19.4 6.3 2.3 43.9 全体 男子 23.3 45.9 21.9 21.0 7.7 1.2 14.3 男子 32.7 女子 43.6 20% 40% 60% 27.3 80% まあまあ ぜんぜん その他・無回答 55.2 10.93.4 3.3 100% 0% とても 16.7 6.0 3.4 59.7 17.4 4.81.4 女子 0% 13.5 4.9 4.2 56.3 あまり 20% 40% とても落ち着く あまり落ち着かない その他・無回答 60% 80% 100% まあまあ落ち着く 全然落ち着かない 彼らにとって、家に居場所がなく親に受け入れてもらえない生活に、心の安定は得に くい。この数字を見て、我が家は大丈夫かと振り返る親がどれほどいるだろうか。 心 が 癒 さ れ る 親 や 家 庭 と は 、前 章 で 述 べ た よ う に 、 「 あ る が ま ま 」を 受 け 入 れ 、頼 り に な る 親 で あ る と 言 え る 。も ち ろ ん 親 と し て 100% 完 全 な 者 は い な い 。完 全 で は な い が 、自 分を温かく見守り続けてくれる親がいる。その親に寄せる信頼が子どもの心を癒すので ある。理屈ではない、父と母の子として「あなた」がいてくれる、それが「喜びであり 嬉しいのだ」と分からせるのである。 子育ては親育てと言う。親が自分を見ていてくれる、それがプレッシャーにならず、 励ましになる温かさを親は持つことである。完全な親でないからこそ、親が自らを育て る姿を子どもに見せたいのである。そんな親の存在を実感する時、子どもは心を癒され る の で あ る 。「 子 育 て 」 の 前 に 「 親 育 て 」 の 努 力 を 忘 れ て は な ら な い 。 4 おわりに(こんな親になりたい) (1)子どもが心のうちを語りたくなる親に た と え 我 が 子 で あ っ て も 、一 人 の 人 間 と し て の 心 を 十 分 に 理 解 す る こ と は 困 難 で あ る 。 しかし、分かることは困難であっても分かろうとする親の姿勢は十分に伝わる。親と し て 、「 手 伝 っ て や れ な い 」「 相 談 に も 乗 っ て や れ な い 」 そ れ で も 親 と し て 「 力 に な り た い 」、で き る こ と は 少 な い だ ろ う が「 精 一 杯 、あ な た の 味 方 に な り た い 」と い う 姿 を 見 せ たい。 ま た 、子 ど も が 親 に 語 り た く な る に は 、親 も 子 ど も に 心 の 内 を 語 り か け て い る か ど う か である。 「親は自分を信頼し相談する」 「 親 は 自 分 を 理 解 し よ う と し て い る 」、そ ん な 親 の 姿 を 見 て 、子 ど も は 、ふ っ と 自 分 の 心 の う ち を 語 り た く な る の で あ る 。 「話があるなら話 せ、聴いてやる」では心のうちは語れない。親の自分を見る目の「ぬくもり」を感じる 時、子どもは自らの心のうちを語り始めるのである。 (2)子どもをまるごと受け止められる親に 子どもをまるごと受け止められる親とは、子どもが親の生き方や親の生きる目標をま るごと受け止められる子どもになることである。親が生き生きと生きている姿を見て、 子どもは親のように生きたいという「生き方」を学ぶのである。 40 子どもの選択する道と親の生きる道とは大きく異なるかもしれない。しかし、親と子 どもが互いの生き方を認め合い、共有する楽しさを語り合える家庭、それが親子の絆を 強めるとともに、互いの生き方をしっかり認める自他尊重の心を育てるのである。 (3)子どもに生きる力を育てられる親に 筆者にかかわりのある生徒の話である。卒業を間近にしたその高校生と父の会話の一 部分である。 「 卒 業し た ら ど う する 」 「 就 職す る 」 「 そう か 働 く の か 。もう 18 だ 。家を 出 て 自 分 で生 き て い け 。 出 た ら 泣 き ご と 言 っ て 帰 っ て く る な 」「 う ん 、 そ う す る 。 で も 、 嫁 さ ん を も ら っ た 時 は帰 ら せ ろ よ 」 冷たい親と思うか、すごい親と思うか。この生徒は高校入学と同時に父の仕事を手伝 いながら、父の仕事への厳しさを見てきた。父は、まだ子どもである我が子にさえ仕事 へ の ご ま か し を 絶 対 に 許 さ な い 姿 を 見 せ て き た 。だ か ら こ そ 、子 ど も は 、 「働くならいい 加 減 な 気 持 ち は 許 さ な い ぞ 、一 人 で 生 き て 行 け 」と い う 父 の 生 き 様 が 分 か り 、 「 う ん 、そ うする」と答えたのである。父は何も言わないが、子どもの仕事振りを見ているから、 我 が 子 が 自 分 の 力 で 生 き て い く 力 が あ る と 信 じ て い る 。子 ど も は 父 の 信 頼 を 感 じ 、 「うん、 そうする」と答えられるのである。父は、ふだん誉めることより叱ることが多かった。 しかし、子どもの手伝い仕事を見ながら、仕事に妥協を許さない「生きる力」の厳しさ を身体で育ててきたのである。 普通の家庭ではでき難いことかもしれない。しかし、親の仕事を子どもに見せ、体験 させる機会を与えたい。そして、子どもに仕事と生活の厳しさを実感させたい。保護者 の 職 場 体 験 を 、高 校 生 の「 ト ラ イ や る・ウ イ ー ク 」と い う 形 で 実 現 さ せ た い も の で あ る 。 (参考文献) 注 1 ) 2006.1.14 朝日新聞 注2)月刊生徒指導 注3)河地和子 天声人語 2002.3 肇 学事出版 「自信力はどう育つか」 朝日新聞社 注4)学校カウンセリング辞典 注5)金子みすゞの生涯 新井 東洋大学現代学生百人一首入選作 1996.7 矢崎節夫 金子書房 1993.2.8 41 2003 JULA 出 版 局 生命 を大 切に する 性教 育へ 転換 (正しい性知識、性 行動・自己決 定 力、HIV/AI DS、カリキ ュラム) 姫路赤十字看護専 門学校 専任教師・看護師 松井 里美 1 はじめに 近 年 、 ビ デオ や 雑 誌 等 に 加 え 、 イ ン タ ーネ ッ ト や 携 帯 電話 ( P H S ) な ど の 高 度 情報 機 器 の 急 激 な 普 及 によ っ て 、 享 楽 的 な 性 情 報 が 青少 年 の 身 近 に も氾 濫 す る よ う に な り 、 青 少年 の 性 に つ い て の 意 識に も 大 き な 影 響 を 与 え て いる 。 こ の よ う な 社会 へ の 急 激 な 変 化 は 、 青 少年 の 性 行 為 の 低 年齢 化 、 性 感 染 症 や 人 工 妊 娠中 絶 の 増 加 な ど 深 刻な 問 題 が 増 え て い る 。 ま た 、8 割 以 上 の 高 校生 が 携 帯 電 話 ( P H S ) を持 つ よ う に な り、手 軽 に 出 会 い 系 サ イト に ア ク セ ス し、犯 罪 に 巻 き 込ま れ る と い っ た 事 件 も 後 を立 た な い 。 文 部 省 は 平 成 5 年 度 か ら 性 教 育 を カ リ キュ ラ ム に 入 れ、 「 学 校 に おけ る 性 に 関 す る 指 導 は、保 健 体 育 、 道 徳、 特 別 活 動 な ど を 中 心 に 学 校の 教 育 活 動 全 体を 通 じ て そ れ ら の 指 導 を 行う 」 と し て い る。し か し 、よ り 具 体 的、現 実 的 な 内 容 の 指 導 は、身 近 に い る 教 師 で は 難 し いよ う で あ る 。 兵 庫 県 教 育 委員 会 で は 、 「 高 校 生 に 対 す る 健 康 教 育 事 業」に お い て 、講 師 に 看護 学 校 教 員 な ど の 専 門 職 を あて 、 エ イ ズ ・ 喫 煙 ・ 薬 物 乱 用の 講 演 会 を 実 施し て い る 。 そ の 一 部 と し て、 筆 者 は エ イ ズ 防 止 教育 の 講 演 を 姫 路 市 内 3 校 で 行 っ た 。そ し て、講 演 後 の 生 徒 の ア ン ケ ート に 、コ ン ド ー ム の 使 い方 や H I V の 検 査 の 方 法 な ど具 体 的 な 方 法 を知 り た い な ど の 記 述 が 多 くあ っ た こ と が 、 学 校 の性 教 育 の あ り 方 を 考 え る 機会 と な っ た 。 本 稿 は 、性 教 育 の現 状 、必 要 性 、問 題 点 、展 望 な ど に つ いて 、 「 高 校 生 の 生 活意 識 調 査 報 告 書」 の 結 果 や 「 エイ ズ 防 止 教 育 」 の 講 演 の 体 験な ど か ら 、 看 護教 育 に 関 わ る 専 門 職 と し ての 考 察 を 報 告 す る も ので あ る 。 2 現状 本 調 査 で は、 「 好 き な 人と 性 的 関 係 を 持 つ こ と は 不 思 議 で はな い 」に つ い て 、思う( と て も 思 う + ま あ ま あ思 う ) と 回 答 し た 者 が 全 体 の 63.3% で あ り、「 性 を 売 り 物 にす る こ と は 本 人 の 自 由 で あ る 」に つ い て 、思 う( と て も思 う + ま あ ま あ 思 う )と 回 答 し た 者 は 全 体 の 24.0% で あ る ( グ ラ フ ① ・② )。 好きな人と性的関係を持つことが あっても不思議でない (グラフ①) 全体 24.9 男子 38.4 29.6 20.0 女子 0% 23.4 39.0 21.3 38.7 20% とても思う あまり思わない 無回答 40% 26.2 60% 援助交際など性を売り物にすることは 本人の自由である (グラフ②) 11.2 2.1 8.9 1.2 13.7 1.4 80% 全体 7.6 男子 10.1 16.4 18.6 女子 4.5 14.7 100% 0% まあまあ思う ぜんぜん思わない 42 26.7 47.3 30.2 39.7 23.7 20% 55.9 40% とても思う まあまあ思う ぜんぜん思わない 無回答 60% 2.0 1.4 1.1 80% あまり思わない 100% ま た 、兵 庫 県 が 高 校 生 を 対 象 に 調査 し た「 青 少 年 の 性 意 識 と性 行 動 に 関 す る 調 査 研 究 報告 書 」 〔2002 年 9 月 兵 庫県・家 庭 問 題 研 究 所〕で は 、高 校2 年 生 の 性 交 経 験 率 は 男 子 28.6%、女 子 34.8% で あ るこ と 、 ま た 彼 ら の 約 7 割 が 性の 情 報 を 友 だ ちか ら 得 て い る こ と 、 そ し て、 そ の 情 報 源 が ア ダ ルト ビ デ オ や 少 年 ・ 少 女 漫 画 、女 性 雑 誌 、 イ ンタ ー ネ ッ ト な ど で あ る こ とを 明 ら か に し た ( グ ラフ ③ ・ ④ ・ ⑤ )。 こ の よ う に 、青 少 年 の 性 行 為 の 低 年 齢 化と 性 行 為 を 安 易 に考 え て い る 傾 向 、 ま た 、 テレ ビ や 雑 誌 な ど か ら得 た 性 に 関 す る 誤 っ た 知 識 が青 少 年 の 間 で 蔓延 し て い る の で は な い か 。ま た 、 こ れ ら の 傾 向 から 新 た な 問 題 と し て 、 性 行 為感 染 症 や H I V感 染 者 の 増 加 を 来 た し て いる の で は な い か と 懸 念す る 。 性交の経験率 〔グラフ③) 32.0 全体 男子 性・セックスの情報を得る物 (複数回答可) 〔グラフ⑤) 28.5 少年少女マンガ 女子 34.8 0% 20% 40% 60% 80% 100% 16.7 アダルトグラ ビ ア誌 16.3 深夜のバラ エティ番組 18.9 テレビ ドラ マ 19.1 性・セックスの情報先(人)〔複数回答可〕 〔グラフ④) 13.2 69.6 15.7 性教育書 17.3 9.0 イ ン ターネット 0.6 4.1 その他 4.4 その他 7.5 女性誌 友だち 先輩 24.7 一般週刊誌 14.9 先生 医師等 アダルトビデオ 4.5 親 32.1 ヤン グコミック誌 23.1 特になし 23.8 特になし 0% 0% 20% 40% 60% 10% 20% 30% 40% 50% 80% 厚 生 労 働 省 エ イ ズ 動 向 委 員 会 の デ ー タ に よ る と ( 凝 固 因 子 製 剤 に よ る 感 染 例 を 除 い て )、 H I V 感 染 者 は平 成 14 年 末 で累 計 7,696 人 、 平 成 15 年 末 で 累 計 8,672 人 であ る 。 こ れ は 検 査 を 受 け た 者 で あり 、推 計 で は こ の 5 倍 に あ た る 約 5 万 人の 感 染 者・患 者が い る と 予 測 さ れ て お り 、 先 進 国 で 感 染者 が 増 加 し て い る の は 日 本だ け で あ る 。 我が国のHIV感染者届出数の年次推移 (グラフ⑥) (厚生労働省エイズ動向委員会) 1200 1000 女性 男性 800 600 400 200 0 元年 2 3 4 5 6 7 43 8 9 10 11 12 13 14 現 在、多 く の 高 校 で は、性 に 関 す る 教 育 を 保 健 体 育 の 授業 で 行 っ て い る 。その 内 容 は 性 行 動 、 家 族 計 画 、 性感 染 症 と そ の 予 防 な ど で あ るが 、 コ ン ド ー ムの 使 用 方 法 や ピ ル の 内 服 、H I V の 検 査 な ど 具 体的 な 方 法 は 伝 え ら れ て い な い。 や は り い つ も顔 を あ わ せ て い る 学 校 の 教師 で は 、 「 恥 ず か し い」 や 「 こ ん な こ と 聞 い た ら… 」 な ど 教 師 も 生徒 も 戸 惑 い が あ る と 考 え る。 3 課 題 と 方向 性 筆 者 は 、兵 庫 県教 育 委 員 会 の「 高 校 生 に 対 す る 健 康 教 育 事 業 」に お い て 、 「 エ イズ 防 止 」の 講 演 を 行 っ て いる 。 初 め て 講 演 を し た 学 校 では 、 筆 者 自 身 も具 体 的 な コ ン ド ー ム の 使 い方 を 講 演 す る の に 抵 抗が あ り 、 学 校 の 性 教 育 と 同 様に 「 性 感 染 症 の予 防 に は コ ン ド ー ム を 正 しく 使 い ま し ょ う 」 と しか 言 え な か っ た 。 し か し 、 講演 後 の 生 徒 の アン ケ ー ト で は 、 次 の よ う な感 想 が あ った。 ( 自 由 記 載 より ) ○ コ ン ド ーム の つ け 方 の 実 習 を し た かっ た 。 ○ オ ブ ラ ート に 包 ん だ よ う な 表 現 だ った 。 ○ H I V 検査 に つ い て 具 体 的 に 知 り たか っ た 。 ○ 保 健 の 授業 で 知 っ て い た 内 容 が 多 かっ た 。 ○ 性 感 染 症に つ い て 症 状 な ど 詳 し く 知り た か っ た 。 ○ 詳 し い 実例 を 知 り た か っ た 。 ○ 普 通 の 血液 検 査 で は H I V 感 染 は 分か ら な い の だ と 思っ て い た 。 そ こ で 、1 校 目 の ア ン ケ ー ト の 意見 を 参 考 に 、 2、 3 校 目 で は 陰 茎 模型 を 用 い て 、 コ ン ド ー ム の つ け 方 の スラ イ ド を 使 用 し て 講 演 し た。ま た 、H I V 検 査 の 方 法 や ど こ で行 っ て い る か な ど 、 で き る だ け 具体 的 な 内 容 と し た 。 コ ン ド ーム の つ け 方 の スラ イ ド が 始 ま る と 恥 ず か しそ う に し て い る 生 徒 もい た が 、 顔 を 上 げ て 非 常 に興 味 深 く 聞 い て いる 生 徒 が 多 か っ た 。 「 エ イ ズ 防 止」 の 講 演 で 、 生 徒 の 反 応 から 、 学 校 で の 性 教育 に 次 の よ う な 問 題 を 感 じた 。 ( 1 ) 高 校 生 は 、保健 体 育 な ど の 講 義 で 性 感 染 症 の 現 状、問 題 、予 防 対 策 や 妊 娠の 成 立 な ど の 知 識 は 持 っ てい る 。し か し 、具 体 的 な 方 法 は 知 ら ず 、性 感 染 症や 避 妊 の 方 法 を 知 り た が っ て い る こ と を実 感 し た 。 性 に 関 す る 話 題は 、「 恥 ず か し い こと 」「 オ ー プ ンに は 語 れ な い 」 「 寝 た 子 を 起こ す な 」と い う 風 潮 の 影 響 も あり 、学 校 で 教 師・生 徒と い う 関 係 で は 困 難 な の か も し れ ない 。 ( 2 ) 性 の 知 識 を 知ら な い 者 に 詳 し く 教 え る こ と で、か え っ て 性 行 為 を 薦 め て いる よ う に 感 じ る 大 人 も 多 いの で は な い か と 考 え る 。反 対 に 、生 徒 の 中 に は「学 校 で は 性 に 関 し て 基 本 を 事 務 的 に し か教 え て く れ な い の で 不 満 を感 じ て い る。何 の 役 に も 立 た な い」と い う 意 見 も あ り 、 学 校 教育 へ の 不 満 が あ る 。 以 上 の こ と から 、 高 校 生 が 性 に つ い て 学習 し 、 正 し い 性 に関 す る 知 識 や 情 報 を 持 て ば、 マ ス コ ミ や ち ま たに あ ふ れ る 間 違 っ た 性 情 報 に振 り 回 さ れ ず 、興 味 本 位 か ら の 性 行 動 、 ある い は 安 易 な 愛 情 表 現の 方 法 と し て の 性 行 動 を し ない で あ ろ う と 考え る 。 性 行 為 の 低 年 齢 化 に伴 い 、 高 校 生 の 「 性 に関 す る 正 し い 知 識 」 を 持 た せる 教 育 や 指 導 のあ り 方 を 早 急 に 見 直 さ な けれ ば な ら な い の で は ない か 。 現 在 の 性 教育 は 保 健 体 育 の 学 習 と し て 知識 の 伝 達 に と どま り 、 人 権 や 人 間 愛 に は ふれ て い な い 。 ま た 、 内容 に つ い て 、 生 徒 は 具 体 的 な講 義 を 期 待 し てい る に も 関 わ ら ず カ リ キ ュラ ム 通 り で 、 個 々 の 教師 の 裁 量 に 頼 っ て い る 現 状 があ る 。 青 年 期 にあ る 高 校 生 が 性 へ の 興 味 を持 つ こ と は 当 然 の 発 達段 階 で あ り 、 学 校 や 家 庭 で 正し い 性 の 知 識 を学 習 す る 機 会 が な け れ ば 、雑 誌 や ビ 44 デ オ な ど か ら情 報 を 得 る の も 仕 方 が な い 。ま た 恥 ず か し さな ど か ら 身 近 な 者 に は 性 のこ と を 聞 く こ と に 抵 抗も あ る 。 こ れ ら の 問 題を 解 決 す る た め に 、 ま ず 学校 で は 、 生 徒 の 性意 識 ・ 性 行 動 を 認 識 し 、 今ま で の 性 教 育 の あ り方 を 見 直 す こ と が 重 要 で あ る。 今 ま で の よ うな 知 識 の 伝 授 だ け の 講 義 では 、 性 行 動 の 低 年 齢 化や 性 感 染 症 の 問 題 は 解 決 し ない 。 具 体 的 な 避妊 や 感 染 予 防 の 方 法 を 伝 える こ と は も ち ろ ん だ が、生 徒 自 身 が 性行 動 に つ い て 考 え 、自 分 自 身 で 自 己 決 定 で き る教 育 が 大 切 で あ り 、 自 分 で 責 任 を持 っ て 性 行 動 を 選 択 し て 決断 で き る よ う な 性教 育 が 望 ま れ る 。 例 え ば 、 現 在、 筆 者 は 、 看 護 学 校 で 「 感染 症 を 持 つ 人 の 看護 」 と い う 講 義 を 担 当 し てい る 。 講 義 で は 性 感染 症 に つ い て 考 え る た め に、 「 私 を 抱 い て、そ し て キ ス し て 」と いう 映 画 を 学 生 に 視 聴 さ せ て いる 。こ の 映 画 は 、H I V に 感 染 し た 人 の 身 体 的な 苦 痛 、社 会 的 差 別 、恋 愛 や 結 婚 ・ 出 産 、 死 ま でを 分 か り や す く 表 現 さ れ て おり 、 映 画 を 通 して 学 生 自 身 が 性 に つ い て 考え る 機 会 と な っ て い る。 学 生 か ら は 、次 の よ う な 感 想 が 聞 か れ た。 ○ 一人一人がエイズや性病の知識を持ち、自分を守るためにも自覚を持った行動をしな い と い け な いと 思 っ た 。 ○ 何 事 に も自 覚 と 責 任 を 持 っ て 行 動 して い き た い 。 ○ 病 気 以 外に 偏 見 や 差 別 の 問 題 の ほ うが 辛 い と 思 っ た 。 ○ 本 当 に 相手 の こ と を 思 っ て い る な らコ ン ド ー ム を つ ける と 思 う 。 ○ エ イ ズ につ い て の 知 識 は あ っ た が 、H I V に 感 染 し た人 の 苦 痛 を 実 感 す る こ と がで き た。 映 画 の 視 聴 によ り 、 学 生 は 知 識 の 確 認 だけ で は な く 、 自 分自 身 が H I V 感 染 の 機 会 に出 会 っ た 時 、 す な わち セ ッ ク ス の 機 会 が あ る 時 にど の よ う に 行 動す る か 、 ま た 感 染 者 と 出 会っ た 時 、 ど の よ う に 関わ れ ば よ い の か を 彼 ら 自 身 で考 え る 機 会 と なっ た 。 こ の よ う に 、 性 や 命を 考 え る 機 会 を 持 つ こと は 、 若 者 た ち 自 身 が 責 任 を持 っ て 性 行 動 を選 択 し 、 決 断 で き る こ と につ な が る のである。 次 に 、 新 し い性 教 育 の 方 法 と し て 、 親 でも な い 、 教 師 で もな い 、 青 少 年 に と っ て 最 も身 近 な 同 世 代 の “ 仲間 ” と い う キ ー パ ー ソ ン が 行う ピ ア カ ウ ン セリ ン グ と い う 方 法 を 提 案 した い 。 こ れ は 、 性 に つい て 正 し く 学 ん だ 若 者 が 、 間違 っ た 知 識 を 持っ て い た り 煽 情 的 で 歪 め られ た マ ス コ ミ に よ る 性情 報 に 振 り 回 さ れ た り し て いる 仲 間 た ち に 正し い 情 報 を 提 供 し 、 性 や 生に 関 わ る 考 え や 性 行 動の 選 択 を 一 緒 に 考 え な が ら 、青 少 年 が 自 分 で自 己 決 定 で き る よ う サ ポ ート す る 活 動 で あ る 。 親や 教 師 が 行 う 教 育 と は 異 な り、 同 世 代 の 若 者同 士 が 気 軽 に 話 せ る 雰 囲 気の 中 で 、 性 の こ と を 真面 目 に 話 し 合 え る こ と に よ って 、 若 者 が 自 分の 性 に 関 す る 考 え が 深 ま り、 自 己 決 定 で き る 効 果的 な 性 教 育 の 方 法 で あ る と考 え ら れ て い る 。 以 上 の よ う な性 教 育 の 方 法 は 一 例 で あ る。 ま っ た く 新 し い試 み で は な く 、 現 在 行 な われ て い る 知 識 の 伝 達の 講 義 後 に 継 続 し た 教 育 を 行え ば よ い の で ある 。 筆 者 が 兵 庫 県 の 「 高 校生 に 対 す る 健 康 教 育 事業 」 の 一 環 と し て 行 っ て い るよ う な 講 演 も 、専 門 職 で あ る こ と か ら 、 より 具 体 的 な 話 が で き 、動 機 付 け と い う 点 で は 有 効 であ る 。 講 義 や 講演 の 後 、 映 画 や ビ デ オ を 見て デ ィ ス カ ッ シ ョ ン した り 、 ロ ー ル プ レ イ や デ ィ ベー ト な ど で 性 につ い て 考 え る 機 会 を 作 っ たり す る こ と か ら 始 め ても よ い の で は な い か 。 そ の ため に は 、 学 校 がま ず 生 徒 の 性 意 識 、 性 行 動や ニ ー ズ を 把 握 し、 「 人 間 に と って 性 と は 何 な の か」 「 な ぜ 性 教 育 な のか 」 「 性 教育 で 何 を 目 指 す の か 」を 討 議 し 、 目 標達 成 の た め 具 体 的 に ど ん な性 教 育 を し て い くの か を 考 え る べ き で あ る 。 45 4 おわりに 筆 者 が 「 高校 生 に 対 す る 健 康 教 育 事 業」 と し て エ イ ズ 防止 教 育 の 講 演 を 市 内 3 校 で 行っ た 際 に 、 担 当 教 師と の 話 し 合 い で 多 く の こ と を感 じ た 。 そ れ は、 社 会 で は 性 情 報 が 氾 濫 し、 性 行 為 の 低 年 齢 化 、性 感 染 症 や 人 工 妊 娠 中 絶 の 増加 な ど 深 刻 な 問題 が 増 え て い る に も か か わら ず 、 性 教 育 の 内 容 が数 十 年 前 、 す な わ ち 筆 者 が 高校 生 だ っ た こ ろと 何 も 変 わ っ て い な い と いう こ と で ある。 講 演 時 に 学 生に コ ン ド ー ム を 配 布 す る こと を 提 案 し た が 、教 師 の 理 解 を 得 ら れ な か った 。 ま た 、筆 者が 参 加 し た エ イ ズ フ ォ ー ラ ムで は 、 「 コ ン ド ー ム を子 ど も た ち に 持 た せ る こ とは 、性 行 動 を 進 め て いる こ と だ 」 と の 発 言 が 高 齢 の男 性 か ら あ っ た。 こ の 発 言 か ら 性 に 対 す る話 を オ ー プ ン に し、そ し て 具 体 的 に す る こ と は、ま だ ま だ 抵 抗 が 大 きい こ と を 実 感 し た。 「寝た子を起こ す な 」 と い う考 え は 変 わ っ て い な い の であ る 。 性 の 話 が オ ープ ン に 語 ら れ な い 現 状 の 中で 、 性 教 育 を ど うす べ き か と い う 話 し 合 い は難 し い か も し れ な い。 し か し 、 本 調 査 の 結 果 か ら、 今 ま で の 一 方的 な 性 教 育 で は 、 若 者 の 性と 生 が 危 機 的 状 況 に さら さ れ て い る 現 状 の 歯 止 め とは な ら な い こ とは 明 ら か で あ る 。 す な わ ち性 行 為 の 低 年 齢 化 、 性感 染 症 や 人 工 妊 娠 中 絶 の 増 加な ど が 依 然 と して 増 え 続 け る こ と に な り かね な い 。 教 師( 指 導 者 )と 高校 生 自 身 が 、彼 ら の 性 意 識 、性 行 動 や ニ ーズ を 把 握 し 、 「 人間 に と っ て 性 と は 何 な の か」「 な ぜ 性 教 育 なの か 」「 性 教 育で 何 を 目 指 す のか 」 を 討 議 し 、 目 標 達 成 のた め に 具 体 的 に ど の よう な 性 教 育 を し て い く の かを さ ら に 検 討 し 、実 施 し な け れ ば な ら な い と考 え る 。 46 Ⅲ 資料(高校生の生活意識調査報告: 平成 16 年度実施) 調査・研究の概要 データ分析 1 2 3 4 5 6 7 8 9 基本質問事項 日常生活 家庭生活 学校・地域生 活 人間関係 悩みや心配事 気持ちや考え 将来のこと 自由記述(高 校生のメッセ ージ・本 音) 単純集計結果 高校生の生活意 識アンケート (調査票 ) 47 調査・研究の概要 1 調 査・研 究 の背 景 少 子 ・高 齢 社 会 や核 家 族 化 の進 行 、加 えて急 激 な都 市 化 や高 度 情 報 化 など、青 少 年 を取 り巻 く環 境 は複 雑 ・多 様 化 している。このような社 会 の大 きな変 化 が青 少 年 の生 活 や意 識 にも影 響 を与 え、青 少 年 の人 格 形 成 をめぐる様々な問 題が顕 在 化 してきた。 実 際、若 者 たちの中には、「深 夜、コンビニ前にたむろする者」「不 本 意 入 学 で退 学 をする者」「定 職 をもたず フリーターを続 けている者 」、過 熱 化 する受 験 競 争 の中 で「夜 遅 くまで塾 に通 っている者 」など、社 会 の歪 みの 中で本 来 の自 分 自 身 を見つけ出 そうともがいている者も少 なくない。 特 に高 校 生 は、人 間 関 係 や行 動 範 囲 が急 激 に広 がり、子 どもから大 人へと生 活 意 識 や価 値 観 がめまぐるし く変 化 する成 長 過 程 に当 たり、生 活 に直 面 する現 状 として「対 人 関 係 」や「自 立 」への困 難 、「社 会 観 」の揺 ら ぎ、「進 路」への悩 みなど様 々な課 題 を抱 えている。彼 らは今 、どのようなことに悩 み、それをどのように解 決 しよ うとしているのであろうか。 今 まさに、直 面 する課 題 に自 ら立 ち向 かい、自 己 実 現 に向 けてこころ豊 かにたくましく生 きていこうとする青 少 年への理 解 と支 援が、大 人 自 身に求 められている。 2 調 査・研 究 の目 的 大 人 社 会 から切 り離 され、自 立 することが難 しくなっている高 校 生 に焦 点 を絞り、彼らの生 活 実 態 と併 せ、今 「何 を求 め」「何 を悩み」「何 を創 り出 そうとしているのか」などの内 面 について様々な角 度から調 査 し、高 校 生 の 実 像 と抱 えている問 題 点 をより多 面 的にとらえたい。 そして、次 代 を担 う若 者 たちが、自 らの夢 や目 標 を持 って自 己 実 現 を図 ることができる環 境 づくりに向 けて、 親(大 人 )と社 会 の役 割 と責 任 を浮 き彫 りにし、行 政 ・関 係 機 関 をはじめ家 庭・学 校 ・地 域 社 会 に求 められる支 援のあり方 を探り、姫 路 市の青 少 年 施 策 に反 映 させる。 3 調 査・研 究 テーマ 「青 少 年のパワーが躍 動する環 境 づくり」∼ 高 校 生 は今 ∼ 4 調 査・研 究 内 容 (1) 家 庭 生 活 とその意 識 ① 生 活 習 慣(基 本 的 生 活 習 慣・生 活 体 験・自 由 時 間 の利 用) ② 家 族 関 係(親 子 関 係・共 有 時 間・コミュニケーション) (2) 学 校・地 域 生 活 とその意 識 ① 学 校 生 活(満 足 度・楽 しいこと) ② 地 域 生 活(地 域 活 動・人 間 関 係) ③ 社 会 規 範(モラル・規 範 意 識) (3) 対人関係 ① 友だち(人 数 など) ② メール(生 活や行 動 の変 化 など) ③ 悩みや心 配 事(ストレス・相 談 相 手 など) 48 (4) 将 来への思 い ① 進路 ② 夢や目 標(職 業 観・人 生 観) ③ 将 来 像(大 人へのイメージ・人 生 観など) 5 実施主体 姫路市青少年問題協議会 (兵 庫 県 立 大 学 の研 究 機 関にアンケート作 成・データ分 析 を委 託) 6 調 査・研 究 の方 法 (1)調 査 時 期 平 成 16年9月 3日(金)∼9月 17日(金) (2)調 査 対 象 姫 路 市 内 の高 等 学 校 を抽 出し、2年 生を対 象 にアンケート調 査を実 施 。 ① 調 査 校・調 査 数・回 収 数 実 施 校 調査数 回収数 1 姫路市立姫路高等学校 116 112 2 姫路市立琴丘高等学校 119 114 3 姫路市立飾磨高等学校 120 112 4 兵庫県立姫路東高等学校 71 71 5 兵庫県立姫路西高等学校 79 71 6 兵庫県立姫路南高等学校 80 78 7 兵庫県立網干高等学校 81 79 8 兵庫県立姫路別所高等学校 78 71 9 兵庫県立姫路飾西高等学校 79 34 10 兵庫県立姫路工業高等学校 115 110 11 兵庫県立飾磨工業高等学校 118 117 12 兵庫県立姫路商業高等学校 119 108 13 学校法人賢明女子学院高等学校 80 80 14 学校法人東洋大学付属姫路高等学校 80 79 15 学校法人淳心学院高等学校 89 75 16 学校法人兵庫県播磨高等学校 84 84 1,508 1,395 合 計 ② 学 校 の協 力 を得て、当 該の学 級 全 員 を対 象 に教 室 内で実 施 。 (3)調 査 数 調 査 数:1,508 回 答 数:1,395 回 答 率:92.5% 但 し、質 問 28・29・30については、回 答 数 1,276(回 答 率 84.6%) 49 (4) 分 析 兵 庫 県 立 大 学 勝 木 研 究 室 (代 表 :勝 木 洋 子 助 教 授 )に調 査 票 の作 成 及 びデータの処 理 と分 析 を委 託 し た。 データ処 理は、集 計 ソフトウェア(SPSS 12.0 J for Windows)を使 用 した。 分 析 は、単 純 集 計 と併 せ、性 別 、家 族 構 成 や親 の就 労 など属 性 とのクロス集 計 及 び日 常 生 活 や人 間 関 係、進 路 や成 績 など高 校 生 の生 活に深 く関 連 する質 問 項 目 間 のクロス集 計 をもとに行 った。データは、有 意 差 検 定(カイ2乗 検 定)による危 険 率 5%までのものを使 用 した。 7 調 査・研 究 の組 織 氏 名 所 属・役 職 監 修・分 析 勝 木 洋 子(代 表) 兵庫県立大学環境人間学部助教授 分 高 田 一 宏 兵庫県立大学環境人間学部助教授 析 データ入 力 兵庫県立大学勝木研究室学生 50 デー タの 分析 分析にあたって 1 以下の記述で、グループ間(男子と女子など)に有意差があるかどうかを判断する 際 に 、危 険 率 5 % を 目 安 に し た 。こ れ は 、「 1 0 0 回 同 じ 調 査 を 実 施 し た と 仮 定 す る と 、少 な く とも95回は今回と同じような差が現れる可能性がある」時にグループ間に差があると見なし たという意味である。 また、グラフには、各質問の選択肢名を簡略化したり、表現を変えたりしている所がある。 2 選 択 肢 に 、「 か な り 」「 わ り と 」「 あ ま り 」「 ぜ ん ぜ ん 」 な ど の 程 度 を 答 え る 項 目 がある。例えば、データを分析する際、必要に応じて「かなり(とても)悩んだ」と「わりと ( ま あ ま あ ) 悩 ん だ 」 を 合 わ せ て 「 悩 ん だ 」 と し 、「 あ ま り 悩 ん で い な い 」 と「ぜんぜん悩んでいない」を合わせて「悩んでいない」として処理することがある。 以下、このような程度を回答する項目には※印をグラフタイトルに記した。 51 1 問1 基礎質問事項 性別 その他・ 無答, 2.7 男子, 46.7 女子, 50.6 問2 46.7% は 男 子 、50.6% は 女 子 、 残りは、 「 そ の 他 」と 無 回 答 で あ る 。 居住地〔市町名〕 その他・無答, 2.6 76.6% は 市 内 在 住 で あ り 、 20.8% は 市 外 在住である。 残りは不明・無回答である。 市外, 20.8 市内, 76.6 問3 きょうだい数〔本人を含む〕 4人以上, 8.0 1人, 6.4 2 人 き ょ う だ い が 47.3% で あ り 、3 人 き ょ う だ い が 37.4% で あ る 。1 人 き ょ う だ い と 4 人 き ょ う だ い 以 上 は 、そ れぞれ1割に満たない。 3人, 37.4 2人, 47.3 52 問4 同居家族(きょうだいを除く) 父 親 と の 同 居 率 は 87.6% 、母 親 と の 同 居 率 は 95.4% で あ る 。父 親・母 親 の 両 方 と 同 居 し て い る 者 は 86.0% となる。 ま た 、祖 父 と の 同 居 率 は 17.3% 、祖 母 と の 同 居 率 は 2 9.6% で あ る 。祖 父・ 祖 母 の い ず れ か ま た は 両 方 と 同 居 し て い る も の は 32.0% で あ る 。 同居家族 父親 87.6 母親 95.4 17.3 祖父 29.6 祖母 その他の家族 7.0 0% 問5 20% 40% 60% 80% 100% 親(保護者)の就労状況 共 働 き 家 庭 は 61.6% 、 父 親 だ け が 働 い て い る 家 庭 は 22.9% 、 母 親 だ け が 働 い て い る 家 庭 は 6.2% 、 両 親 と も 働 い て い な い 家 庭 は 0.9% で あ る 。 こ の 問 は 他 よ り 無 回 答 率 が や や 高 く 、 7.6% で あ っ た 。 親(保護者)の就労状況 その他, 0.8 両親無職, 0.9 無答, 7.6 母だけ, 6.2 父だけ, 22.9 共働き, 61.6 53 2 問6 日常生活 起床 「 ふ だ ん 、 起 き る 時 に ど の よ う に し て い る か 」 に つ い て 、 全 体 で 見 る と 、「 自 分 で 起 き る 」 が 34.3% と 最 も 高 い 。こ れ に 次 ぐ の は 、「 起 こ し て も ら う 時 が 多 い が 、時 々 は 自 分 で 起 き る 」と「 自 分 で 起 き る こ と が 多 い が 、時 々 は 起 こ し て も ら う 」で あ り 、そ れ ぞ れ 27.5% と 26.4% で あ る 。 「 起 こ し て も ら う 」は 10.0% で あ る 。 男女別では、あまり違いが見られない。 問 6「 起 床 」 と 問 5 「 親 ( 保 護 者 ) の 就 労 」 の ク ロ ス 分 析 問 6「 起 き る 時 、 ど の よ う に し て い る か 」 と 問 5「 保 護 者 の 就 労 」 と の 関 係 を 分 析 し た 。 「 共 働 き 家 庭 」や「 父 親 だ け が 働 い て い る 家 庭 」は 、「 母 親 だ け が 働 い て い る 家 庭 」や「 両 親 と も 働 い て い な い 家 庭 」 よ り も 、「 誰 か に 起 こ し て も ら う 」 傾 向 が 見 ら れ る 。 起床× 親(保護者)の就労 1.8 全体 34.3 26.4 共働き 33.1 28.6 父のみ就労 33.5 27.5 10.0 0.5 29.1 8.7 0.9 母のみ就労・両親無職 22.9 44.0 0% 20% 自分で起きる 起こしてもらう 28.8 25.0 40% 60% 時々起こしてもらう その他・無回答 54 13.8 22.0 80% 3.0 6.0 100% 時々自分で起きる