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瞬時電圧低下保護装置「DipHunter」
富士時報 Vol.75 No.8 2002 瞬時電圧低下保護装置「DipHunter」 田中 伸央(たなか のぶひさ) 國中 孝文(くになか たかふみ) 内藤 英臣(ないとう ひでおみ) まえがき 瞬 低 落雷による瞬時電圧低下(瞬低)などの電源障害は負荷 瞬低は,電力系統を構成する送電線などに落雷などで故 機器へ影響を与え,その程度(瞬低時間,電圧低下度)に 障が発生した場合,故障点を検出し遮断器で故障点を電力 より,負荷機器の誤動作や動作不能を引き起こす。その結 系統から切り離すまでの間,電圧が低下する現象(図2) 果,貴重な情報資産の喪失や生産ラインの操業停止など甚 である。 大な損失を被ることがある。こういった被害を回避するた 図3は近年の国内における年間の停電発生状況を示して め,UPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装 おり,瞬低継続時間:200 ms および電圧低下度:50 %ま 置)を導入して電源の安定化を図っているユーザーは多い。 一方,小容量の UPS(ミニ UPS)に搭載されている 図1 「DipHunter」の外観 バッテリーは約3年ごとの寿命による交換を必要としてお り,特に多数のミニ UPS を導入しているユーザーは,そ の保守が大きな負担となっている。経済的な面もあるし, バッテリーの交換作業の労力や寿命管理が必要となるから である。今回,富士電機ではメンテナンスフリー瞬低保護 装置として「DipHunter」 ( 図1 )を開発した。蓄電装置 としてバッテリーを使用せずコンデンサを採用することに より,バッテリーの定期交換を不要とし,その他すべての 部品寿命を8年以上とすることで,メンテナンスフリー化 を実現した。以下にその概要を述べる。 (2 ) 図2 瞬低発生メカニズム 雷 わっ! 雷だ!! ②せん絡 ⑤瞬低の 影響発生 ⑥故障検出 ①落雷 変電所 ③故障電流 故障だ! 回路を 切り離せ!! ⑦故障 除去 ④瞬低 発生 保護リレー 遮断器 発電所 変圧器 田中 伸央 國中 孝文 内藤 英臣 UPS の製品開発,設計に従事。 UPS の開発,量産試験,検査に UPS の商品企画に従事。現在, 現在,神戸工場制御設計部。 従事。現在,神戸工場品質保証部。 機器・制御カンパニー電源・機器 事業部電源技術部。 481(43) 富士時報 瞬時電圧低下保護装置「DipHunter」 Vol.75 No.8 2002 でに,どちらも発生回数の 80 %以上が集中している。 特 徴 一方,図4は各機器の瞬低耐量を示しており,ほとんど の機器が瞬低に対し,十分な耐量を持っていないことが分 かる。 今回開発した瞬低保護装置「DipHunter」は,下記の特 また,近年,半導体製造装置にも瞬低耐量が求められる 徴を備えている。 ようになってきており,この規格として SEMI F47 規格 (図5)が示されているが,半導体製造装置に内蔵される 機器すべてがこの規格をクリアできるようになっていると 3.1 SEMI F47 規格クリア 半導体製造装置などの安全規格である SEMI スタン ダードの F47(半導体プロセス装置電圧サグイミュニティ は限らず,瞬低保護装置や UPS が必要とされる。 のための仕様)は,半導体製造装置に対する瞬低耐量を要 (2 ) 図3 年間の停電発生状況 求した規格である。 「DipHunter」はこの規格値(0.05 ∼ 1.00 秒の範囲)お 回数(回/年) 10 8 〈97〉 100 (80) 87 88 90 82 (84) (84) (84) 〈78〉 〈98〉 〈98〉 〈98〉 (71) 61 T =12回/年 6 4 よびこの規格の推奨値(0.05 秒未満,1.00 秒以上の範囲) までもクリア(図5)している。 半導体製造装置側で SEMI F47 規格を満足できない場 (%) 12 50 合でも,この装置を電源側に設置することで,この規格の 要求レベルを十分満足することができる。 200 ms 〈1〉 2 (0) 7 0 3.2 メンテナンスフリー 一般的に UPS は瞬低だけでなく長時間の停電もその保 6 12 18 24 30 36以上 瞬低継続時間(×10 ms) 護対象となっている反面,バッテリーを使用することから, 0 3 6 9 12 15 18以上 瞬低継続時間(サイクル:50 Hz系) バッテリーのメンテナンスが必要である。 そこで,この装置は圧倒的に頻度の多い瞬低に保護対象 (a)瞬低継続時間別回数 を限定し,コンデンサの蓄積エネルギーでバックアップを 96 100 〈80〉 88 (100) (77) 10 〈100〉 76 (92) 〈54〉 〈95〉 8 (54) 54 行う方式を採用した。 6 T =12回/年 50 これにより,UPS のように煩わしいバッテリーの定期 的な交換作業が不要で,8 年間(周囲温度 25 ℃の環境下 にて)のメンテナンスフリーを実現し,ユーザーにとって (%) 回数(回/年) 12 大きな負担であるメンテナンス費用やバッテリーの廃棄費 4 用などのランニングコストが不要となる。 また,バッテリーを使用していないので,鉛などの有害 2 物質もなく,環境にも優しい。 0 20 40 60 80 100 注〈 〉:多雷地域での値 電圧低下度(%) ( ):少雷地域での値 (b)電圧低下度別回数 3.3 優れた出力電源品質 主回路部分は常時インバータ給電方式を採用しているた め,この装置の出力は商用電源側で発生した電圧変動や (2 ) 図4 機器の瞬低耐量 図5 SEMI F47 規格および「DipHunter」瞬低耐量 パワーエレクトロニクス 応用可変速モータ 高圧放電ランプ 不足電圧 継電器 0 ワープロ パソコン 電磁開閉器 ベッドサイドモニタ (医用電気機器) 50 凡例 影響なし 0.2秒 影響あり 〈注〉この特性は実測の一例であり,メーカーの保証値 ではない。機種・負荷状況によって特性は異なる。 100 0.01 0.05 0.1 0.2 0.5 1 2 瞬低継続時間(s) 0.5 5 10 (サイクル:50 Hz 系)参考 482(44) SEMI F47 10 推奨値 10 50 100 入力電圧低下度(%) 電圧低下度(%) 0 0.5 20 30 2 40 50 10 0.2 0.02 0.45 0.3 60 0.24 70 0.21 80 0.19 90 0.19 0.18 100 0.01 出力100 V(−8%) SEMI F47規格範囲 (0.05∼1.00秒) 10 0.1 1 バックアップ可能時間(s) 〔条件〕 瞬停耐量カーブ(出力電圧−8%にて停止) ※抵抗負荷700 W時 100 富士時報 瞬時電圧低下保護装置「DipHunter」 Vol.75 No.8 2002 サージ,ノイズの影響を受けず,常に安定した出力電圧を を可能としている。 。 負荷機器へ供給することが可能である(図6) また,整流器負荷(ピーク値の高いひずんだ電流)に対 しても瞬時電圧制御機能により,ひずみのない,きれいな 。 正弦波電圧を出力する(図7) 3.5 海外安全規格対応 海外の安全規格である UL1778 を取得,および CE マー キングにも適合した設計としている(2002 年 7 月取得済 み) 。これにより,海外向け機器への搭載も容易に行える。 3.4 系統に優しい電源 この装置の入力部は高力率制御コンバータで構成され, 3.6 小型・軽量 入力電流を力率1の正弦波電流(図8)となるようにコン コンデンサバックアップ方式の採用により,現行の富士 トロールしているため,高調波電流と所要入力容量の低減 電機製ミニ UPS J シリーズに対して体積はそのままで, 質量は約 35 %の軽量化を達成し,縦置き・横置きも可能 ( 図9 )で,FA 機器や半導体製造装置などの産業用機械 図6 商用電源変動に対する出力電圧 商用電源の変動 定電圧・定周波無停電 図9 縦置きおよび横置き「DipHunter」の外観 電圧 変動 周波数 変動 Dip Hunter 定電圧 定周波 無停電 負荷 機器 波形 ひずみ 高周波 ノイズ 瞬時 停電 図7 整流器負荷時の出力電圧波形 表1 「DipHunter」の主な仕様 項 目 仕 様 給電方式 常時インバータ給電 電圧: 50 V/div 定格容量 1 kVA/0.7 kW 相 数 単相 2 線 電 圧 100 V±2 % 周 波 数 50 または 60 Hz 備 考 瞬低補償時は −8% 交流出力 電流: 20 A/div 時間: 2 ms/div 図8 定格負荷時の入力電流電圧波形 交流入力 電圧: 50 V/div 電流: 10 A/div 時間: 2 ms/div そ の 他 電圧波形 正弦波 過負荷保護 10 A(実効値)/ 30 A(ピーク値) UPS 内部にて 自動切換 相 数 単相 2 線 電 圧 100 V±15 % 周 波 数 50 または 60 Hz±5 % 容 量 1 kVA 以下 力 率 0.97 以上 入出力定格時 瞬低耐量 130 ms 以上 (コンデンサ初期時) 110 ms 以上 (コンデンサ寿命時) 周温 25 ℃, 700 W 負荷時 瞬低繰返し 耐量 5 秒間隔で約 130 ms の 瞬低繰返し(負荷 700 W) 周囲温度 0∼40 ℃ 相対湿度 30∼90 %(結露なきこと) 冷却方式 強制風冷 外形寸法 W128×D365×H214 (mm) 質 量 9 kg 483(45) 富士時報 瞬時電圧低下保護装置「DipHunter」 Vol.75 No.8 2002 図10 「DipHunter」の主回路構成 高力率 コンバータ 交流入力プラグ 交流出力コンセント PWM インバータ + バイパスリレー R S + E EMIフィルタ への搭載も容易にできるデザインになっている。 また,19 インチラックへの搭載も可能で,19 インチ ラックマウント用アタッチメントも用意している。 瞬低時の記憶内容は次の4種類である。 (1) 瞬低が発生した回数 (2 ) バックアップ補償時間を超える瞬低が発生した回数 (3) 瞬低継続時間 仕 様 (4 ) バックアップ継続時間 メモリに記憶された内容は,装置とパソコンとをシリア 表1に主な仕様を示す。 ルケーブルで接続することにより,パソコンの画面上で確 バッテリー方式の UPS では,電源環境の悪い場所で, 認することができ,不具合解析の手助けとなる。 瞬時の電圧低下にもバッテリーによるバックアップ動作が あらかじめ専用の通信ソフトウェアをパソコンにインス 頻繁に働き,バッテリーを消耗して装置が停止してしまう トールしておく必要があるが,このソフトウェア(UPS 恐れがあり,注意が必要である。 TALK)は特定のホームページからダウンロードが可能で しかし,この装置の回路方式では,コンデンサへの充電 ある。 は直ちに行えることから,電源環境の悪い場所でも,頻繁 な瞬低に対応が可能である。 あとがき その尺度として,この装置には瞬低繰返し耐量を設けて おり,5 秒間隔で約 130 ms の瞬低(100 %→ 0 %)繰返し にも対応可能な仕様となっている。 本稿では,瞬低保護装置「DipHunter」についての概要 を紹介した。 図10に回路構成を示す。常時はインバータ給電で,装置 この装置は,従来の UPS ではどうしても超えられな 異常時には商用給電に切り換えるバイパス回路を有し,信 かったメンテナンスフリーというハードルをクリアした製 頼性をアップさせている。 品である。これにより,保守の煩わしさから UPS の採用 を見合わせていたユーザーに対しても推奨でき,半導体製 瞬低発生記憶機能 造装置や FA 機器・システムへの適用が加速していくこと が見込まれる。 「DipHunter」は,きわめて短い時間(数十 ms オー 今後もさらなる情報化の進展に伴い,社会の電気への依 ダー)の瞬低に対して負荷機器を保護するが,数十 ms 存が一層高まっていくことが予想され,この瞬低保護装置 オーダーのバックアップでは,この装置が実際に動作した や UPS の必要性が高まることは必至である。社会の要求 かどうかを判断することは非常に困難である。 に応えるためにもさらなる高信頼化・高品質化とともに, 例えば,短い入力電圧低下が発生したときに,この装置 の出力が停止した場合,この装置の許容バックアップ時間 顧客のさまざまなニーズに合わせた製品の開発に尽力する 所存である。 を超えた瞬低があったのか,この装置に異常があって出力 が停止したのかが判断できず,この装置の有用性が明確に ならないことが危惧(きぐ)される。 このようなトラブルを防ぐことを目的に,この装置は CPU(制御回路)で入力電源電圧を観測し,瞬低時はそ の観測内容をメモリに記憶し,必要なときに読み出せる機 能を設けている。 484(46) 参考文献 (1) 松尾浩之ほか.新型ミニ UPS「NetpowerProtect シリー ズ」 .富士時報.vol.74,no.7,2001,p.427- 430. (2 ) 電気共同研究会.瞬時電圧低下対策.電気共同研究. vol.46,no.3,1990. (3) SEMI STANDARD.SEMI F47- 0200,2000. *本誌に記載されている会社名および製品名は,それぞれの会社が所有する 商標または登録商標である場合があります。