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超高速を狙う次世代移動無線技術 次世代移動無線技術 ~進化を続ける
高柳記念未来技術フォーラム,アルカディア市ヶ谷(私学会館),2005 年 5 月 13 日 超高速を 超高速を狙う次世代移動無線技術 ~進化を 進化を続ける携帯電話 ける携帯電話~ 携帯電話~ 安達 文幸 東北大学大学院工学研究科電気・通信工学専攻 E-mail: [email protected] URL: www.mobile.ecei.tohoku.ac.jp 1.まえがき 通信システムの究極の目標は,時と場所の壁を越えて 「いつでも,どこでも,誰とでも,どんな情報をも瞬時にやり 取りしたい」という私たちの願いを実現することである.こ の目標達成には無線技術が大きな役割を担っている.お よそ 25 年前に通信ネットワークに大きな変化が起こった. それは,移動しながら通信ができる携帯電話(当時は自 動車電話と呼ばれていた)の登場である.日本では,2005 年 3 月末の携帯電話と PHS の総数は 9147 万 3900 台 (TCA 統計データ)で,2005 年 4 月の日本の人口が 12768 万人(総務省統計局概算)であるから,人口の 72% もの人が移動無線サービスを利用するまでになった. 最近の固定通信ネットワークではインターネットが大変 なスピードで社会を変革し続けている.携帯電話の世界 でも会話に加えて,電子メール,ホームページ閲覧,銀行 振込から娯楽にいたる様々なオンラインサービスが提供さ れている.最近では,トラフィックの比重が,会話から電子 メール交換やインターネット接続へと移っている.今や, 携帯電話端末は,会話だけでなく個人かビジネス利用か を問わず,様々な形態の通信を扱うマルチメディア(多様 なデータレートで多様な形態の)情報通信端末になりつ つある. また,携 帯電話よ り高速の通信が できる無線 LAN も浸透しつつある. 日本では,高速データ通信サービス(インターネット接 続サービス)の効率的な提供を目標に開発された第 3 世 代携帯電話が 2001 年に登場した.無線アクセスには直 接拡散符号分割マルチアクセス(DS-CDMA)技術が採用 されている[1].第 3 世代システム(W-CDMA や cdma2000) の通信速度は当面,384kbps 程度である.ところが,インタ ーネット接続では,携帯端末への情報ダウンロード,すな わち下りリンク(ネットワーク→端末)利用がほとんどのトラ フィックを占める.そこで,下りリンクのパケット通信速度を 10Mbps 程度へ高速化する下りリンク高速パケットアクセス 技術の開発が進められている[2]. しかし,近いうちに,この程度の通信速度では足りなく なると予想されている[3].第 3 世代システムより格段に高 速なデータ通信サービスを提供する,いわゆる第 4 世代 システムは 2010 年頃に登場すると期待されている[4].最 近では,第 4 世代システムの実現を目指し,100Mbps~ 1Gbps もの通信速度を狙った超高速移動無線技術の研 究開発が活発に進められている.このような超高速無線 技術を,私たちはギガビット無線技術と呼んでいる.ギガ ビット無線技術は CDMA 無線アクセス技術を中心に, 様々な高度無線技術の組み合わせになると見られている. ギガビット無線技術の開発では日本は他国に先んじてい る.また,無線ネットワークも大きく変わる可能性がある. 以下では,次世代移動無線は何を目指しているか,ギ ガビット無線技術とはどんなものかについて概説する.次 世代システムは複数の無線システムが協調してユーザに 多様なサービスをシームレスに提供する複合システムに なると予想される.まず,複合システムの考え方について 述べる.無線技術の開発にあたっては電波伝搬機構の 理解が極めて重要であるので,まず広帯域電波伝搬機 構を簡単に説明した上で,ギガビット無線技術について 議論する. 2.進化す 進化する携帯電話 セルラシステムは無線技術の進歩やユーザの要望など の変化に伴って図 1 のように変遷してきた.表 1 は,移動 無線通信が第 1 世代から第 3 世代へどのように発展し, そしてどのように第 4 世代へ進化しようとしているかを示し ている.固定通信ネットワークではインターネットトラフィッ クが飛躍的に増加している.移動無線通信でも多様(デ ータレート,品質,通信タイプなど)なサービス提供への 期待が強くなっている.多くのユーザが,膨大な情報デー タを瞬時にネットワークから携帯端末にダウンロードしたい と思っている.このような背景から,第 3 世代や無線 LAN をはるかに凌ぐ超高速データ通信を可能とする無線技術 の開発に期待が寄せられている. 数年前までは 10~20Mbps 程度の通信速度が目標とさ れていたが[3],この程度の通信速度は,今では第 3.5 世 代の目標になっている[2].第 4 世代システムにおける無 線通信速度の目標は以下のようになろう. U ホットスポットや準静止環境:100M~1Gbps U 移動環境:~100Mbps 限られた周波数帯域幅で上記の目標を達成しようとす ると,~10bps/Hz もの周波数効率を達成する無線技術が 必要になる.そこで,ごく最近では,複数本の送受信アン テナを用いる Multi-input Multi-output (MIMO)システムが 大変注目を集めている[5].MIMO システムは,アンテナと 無線信号処理の融合技術であり,第 3 世代システムにお いても活躍する可能性が高いと見られている. 3.次世代システム 複数システム システムが 次世代システムは システムは複数 システムが協調する 協調する複合 する複合シス 複合シス テムになる テムになる? になる? 現在の通信サービスの中心は音声,電子メール交換, 1 あり,高品質な画像情報サービスや音楽サービスなど一 方向サービスに特徴がある.異なる発展の歴史を経てき たこのような無線システムがお互いに協調しあって,ユー ザの要望に応じて多様なサービスを提供するためのシー ムレスハンドオーバー技術の開発が必要である.複合シ ステムでは次世代インターネット技術が大きな役割を果す だろう. なお,無線 LAN では高速化とともに広域化が進められ ており,セルラシステムに近づきつつある.一方,セルラシ ステムは第 2 世代から第 3 世代に進化し,今では無線 LAN に迫る高速伝送技術を手に入れようとしている.この ような異なる無線システムがうまく連携する技術開発がこ れから大変重要になるだろう[6]. Multimedia Broadband ital g DigS95 o Mobile l a An PS I 136 IMT-2000 M S I A CS M TATT GSDC P N 1980 1990 2000 2010 Year 図1 セルラシステムの変遷 Celluar Wireless LAN 2G Digital 3G Digital 4G Up to 1 Giga bit/s FDMA TDMA, DSCDMA DS-CDMA OFDM, CDMA based access Major Services Voice Circuitswitched Voice Internet (text, images) Circuit-and packet -switched Broadband rich Internet Corenetwork Voice Internet (text only) Circuit-and packet switched Wireless Access Evolution Evolution Broadcasting Evolution Global wireless system inter-connected by internet technology 2G/3G Celluar Broadcasting 4G Celluar Wireless LAN (hot spot) 図 2 複合無線システム 4.広帯域電波伝搬 無線通信では,送信信号は多数の障害物(建造物な ど)で散乱(反射,回折)されるので遅延時間が異なる多 数の伝搬路(パス)が形成される.このような伝搬路は多 重伝搬路と呼ばれる.もし,パス間の遅延時間のひろがり が信号帯域幅の逆数以上になると,多重伝搬路の伝達 関数は信号帯域内でもはや一定とはならず複雑に変動 するようになる.このような多重伝搬路は周波数選択性多 重伝搬路と呼ばれ,受信信号スペクトルにひずみが発生 することになる.しかも,周波数伝達関数は受信点の移動 に伴って複雑に時間変動する. 図 3 は,搬送周波数が 2GHz で,遅延時間が互いに 150ns(距離差では 45m)だけ異なる 16 個のパスが存在す るときに,受信点の移動につれて周波数伝達関数がどの ように変化するかを示したものである.このように,移動し ながら送受信すると,受信信号は周波数領域および時間 領域で複雑に変動する 2 重選択性フェージングを受ける ことになる.どの周波数点で見てもほとんどの場合,レイリ ーフェージングになることが知られている. このような 2 重選択性フェージング環境下で 1Gbps に 近い超高速伝送をいかに実現するかが,極めて難しい技 術課題である.これが無線技術者を惹きつけている最大 の理由であると思う. 表1 セルラシステムの進化 1G Analog Future Present Broadband Era 4G ~1Gbps Narrowband Wideband Era Era 1G 2G 3G ~2.4kbps ~64kbps ~2Mbps Voice Service type ネットワークからのデータダウンロードなどであるが,これ からは動画像と音声を含む画像系の情報通信が盛んに なるだろう.画像は音声やテキストより圧倒的に大量の情 報を含んでいる.いつでもどこでもネットワークとつながっ ていて画像を見ながら会話ができる.これこそが究極の通 信サービスになるのではないかと思う.しかしながら,全て の人がこのような超高速通信サービスを望んでいるとも思 えない. 1Gbps に迫る超高速サービスを提供する無線システム の全国展開は,おそらく経済的理由から無理であろう.こ のような超高速通信サービスを提供できるのは,ホットス ポットと呼ばれる,家庭内,商店街,駅,空港,ホテルなど 多数の人が集まる,ごく狭い範囲に限られるだろう.つまり, いつでもどこでもネットワークに接続し,低速から超高速 に至る多様なサービスを受けたいという要求に応えること ができる経済的な1つのスーパーシステムを構築するの は不可能だということである.したがって,多様なサービス を,どのようにしてユーザの多様な希望にあわせて全国で 提供するかが重要な課題になる.新しいシステム概念が 必要になる所以である. Broadband IPbased 1つの可能性ある解決法は,各通信環境に最適化され た多数の無線システム(たとえば,2G/3G/4G セルラシステ ム,無線 LAN,放送など)を互いにシームレスに接続し, ユーザから見ればあたかも一つの無線システムに見える, そのような複合システムの構築であろう.複合システムの 概念は,図 2 に示すように個別システムの自由な発展を 許容し,それぞれの環境で最善のサービスを提供する. セルラシステムは均質な全国サービスが提供できる.無 線 LAN では極めて高速なデータサービスを提供できるも のの,ホットスポットなどの限定されたエリアでのみしかサ ービス提供できない.放送は全国均質サービスが可能で 2 MC-CDMA では DS-CDMA に比較して帯域幅が狭いの で周波数効率が高い. DS-CDMA 受信機では,各パスの遅延時間に同期した 逆拡散器を用意してそれらの出力を最大比合成する.こ れは Rake 受信と言われる.Rake 受信は多重伝搬路に整 合した整合フィルタであるから受信 SNR を最大にできるも のの,拡散符号系列が理想的な自己相関・相互相関特 性を持ち得ないことからパス間干渉(IPI)を発生させてしま う. Time-domain spreading c(t) 図 3 多重伝搬路の周波数伝達関数 Data 5.ギガビット CDMA 技術 Channel coding & interleaving Data modulation Chip shaping (a) Transmitter 移動無線通信では多数のユーザがお互いに干渉を避 けて基地局と通信する技術が必要で,これは無線アクセ ス技術と呼ばれる.ギガビット無線アクセスは第 4 世代シ ステムのコア技術である.無線アクセスには大きく分けて, 符号分割マルチアクセス(CDMA),時分割マルチアクセ ス(TDMA)と周波数分割マルチアクセス(FDMA)とがある. 第 3 世代システムの無線アクセスには DS-CDMA が採用 されているが,3 つのアクセス技術の中からどれを選択す るか,数年にわたって熱心に議論された.これと同じこと が再び起きるだろう. 現在のところ,マルチキャリア CDMA (MC-CDMA) [7, 8]が最有力候補と見られている[9].もう一つのアプローチ が考えられる.それは第 3 世代システムで採用されている DS-CDMA である.MC-CDMA も DS-CDMA も共にスペ クトル拡散技術を基にしている.MC-CDMA と DS-CDMA の違いは,前者は周波数領域拡散を,後者は時間領域 拡散を用いているということである.いずれの CDMA でも, 拡散率を可変にすることで,ユーザ毎の通信速度や同時 接続ユーザ数を自由に制御できる.拡散率 SF=1 の MC-CDMA は 5GHz 帯無線 LAN で採用されている OFDM に,SF=1 の DS-CDMA はいわゆるシングルキャリ ア(SC)になる. Bandwidth (1+ α )/T c fc Carrier frequency Frequency (b) Power spectru m Time-domain despreading * ξ L− 1 (t ) Recovered data c(t) −τL-1 ξ 0* (t ) ¦ Integrate & dump Data demodulation De-interleaving & channel decoding −τ0 Rake combining (c) Rake receiver 図4 DS-CDMA の送受信系 一方,MC-CDMA 受信機では,GI を取り除いたあと, Nc ポイント FFT により Nc 個のサブキャリア成分に分解し, 周波数領域等化(FDE)を行って周波数選択性フェージン グで歪んだ信号スペクトルを等化してから逆拡散する.各 サブキャリアの送信信号成分と等化後受信信号成分の平 均 2 乗誤差(MSE)を最小とする MMSE‐FDE が最良の伝 送特性を与える. 図 6 に,Rake 合成を用いる DS-CDMA と MMSE-FDE を用いる MC-CDMA との平均 BER 特性の比較を示す. データ変調は QPSK,拡散率 SF=16,コード多重数 C=16 である.伝搬路のパス数 L は 2 と 16 で,一様電力遅延プ ロファイルを仮定している.MC-CDMA は,FDE によりチ ャネルの周波数選択性を積極的に利用して周波数ダイ バーシチ効果を得ることができるので優れた BER 特性が 得られている.しかし,DS-CDMA では IPI の影響によっ て BER 特性がかなり劣化してし まう.MC-CDMA や OFDM などのマルチキャリア伝送が次世代技術として注 目されるようになったのは,このような理由からである [7], [8], [9]. 5.1 MC-CDMA と DS-CDMA DS-CDMA と MC-CDMA の送受信系の構成を,それ ぞれ図 4 および図 5 に示す.DS-CDMA と MC-CDMA は共に,データ変調シンボル系列をまず,拡散率 SF の拡 散 直 交 可 変 拡 散 率 符 号 (OVSF)[10] で 時 間 拡 散 し て DS-CDMA チップ系列に変換する.両者の違いはここか ら先の送信処理にある. DS-CDMA ではチップ系列をチップ整形フィルタで帯 域 制 限 し て 送 信 す る . 一 方 , MC-CDMA で は , DS-CDMA チップ系列をサブキャリア数 Nc と同じ数の並 列チップ系列に直並列変換して Nc ポイント逆高速フーリ エ変換(IFFT)を適用する.こうして,周波数拡散された MC-CDMA サ ン プ ル 系 列 ( Nc 個 ) を 得 る . 最 後 に , MC-CDMA サンプル系列の後部の Ng 個を,ブロック先頭 の ガ ー ド イ ン タ バ ル (GI) に コ ピ ー し て 送 信 す る . 3 が最近,明らかになってきた[11],[12],[13],[14].図 7 に示 すように,送信側では DS-CDMA チップ系列に GI を付加 する.この理由は,受信機側で FFT を用いるためである. 受信機では,FFT の後に FDE を行ってから IFFT により 時間領域信号に戻した上で逆拡散する[13].周波数領域 で逆拡散することもできる[15].Rake 受信では逆拡散の 過程で IPI が発生するから拡散率が小さいと BER 特性が 劣化してしまうが,FDE ではこのような問題がない. Conversion to freq.domain spread signal Time-domain spreading #0 c(t) Data Channel coding & interleaving Data modulation S/P +GI IFFT #Nc-1 (a) Transmitter Time-domain spreading fc Carrier frequency Data Data modulation modulation Data Frequency (a) Transmitter (b) Power spectru m Frequencydomain equalization Frequency-domain equalization c*(t) w(n,t) ¦ P/S Data demodulation w(N c-1,t) Removal Removal of of GI GI ・・・ #N c-1 ・・・ FFT Time-domain despreading w(0,t) Recovered data De-interleaving & channel decoding AWGN (c) R eceiver c*(t ) w(k,t) Integrate Integrate & & dump dump IFFT IFFT Time-domain despreading FFT #0 w(Nc-1, t) Data Data de-modulation de-modulation w(0,t) -GI c(t ) Insertion Insertion of GI GI of Bandwidth 1/T c Data 図 5 MC-CDMA の送受信系 (b) Receiver 図7 1.E+00 DS-CDMA with rake combining FDE を用いる DS-CDMA 1.E-01 16 MMSE Theoretical 1.E-02 Uniform delay profile N c =256 SF =16, C =16 L =2 1.E-03 MC-CDMA with MMSE equalization DS-CDMA MC-CDMA 1.E-02 L =2 Average BER Average BER 1.E-01 16 Uniform delay profile L =16 N c =256 SF =256 1.E-03 Simulation C =1 4 16 64 × × 256 1.E-04 1.E-04 0 5 10 15 20 25 30 256 64 C =1 4 1.E-05 0 Average received E b /N 0 (dB) 図6 16 5 10 15 20 Average received E b /N 0 (dB) Rake 合成を用いる DS-CDMA と MMSE-FDE を 用いる MC-CDMA の比較 図8 5.2 DS-CDMA への周波数領域等化(FDE)の適用 MMSE-FDE を用いる DS-CDMA と MC-CDMA の 比較 図 8 は , MMSE-FDE を 用 い る DS-CDMA と MC-CDMA の下りリンク BER 特性を,ユーザ多重数 C を パラメータとしてプロットしたものである.データ変調は QPSK,拡散率は SF=256 である.MMSE-FDE は Rake 合 MC-CDMA で用いられているような MMSE-FDE を DS-CDMA などのシングルキャリア伝送へ応用できること 4 成 よ り 優 れ た BER 特 性 を 実 現 で き る こ と が 分 か る . MMSE-FDE を用いれば,両アクセス技術がほとんど等価 であり,どちらを用いても同じ BER 特性が得られることに なる.MC-CDMA と DS-CDMA ともに第 4 世代システムの ギガビット無線アクセスとして有望と考えられる. と こ ろ で , MC-CDMA 信 号 の ピ ー ク 対 平 均 電 力 比 (PAPR)は DS-CDMA よりサブキャリア数 Nc 倍だけ大きい. 特にサブキャリア数が多い超高速伝送では PAPR が大き くなるから,上りリンクでは深刻になる.したがって, DS-CDMA は上りリンクに適していると言えよう. ットに誤りが検出されると,全く同一のパケットの再送を要 求する.こうして 2 つの受信パケットを同期合成すれば時 間ダイバーシチ効果が得られるから,CC 後のパケットの 受信品質が高くなる.これによりパケットが正しく受信され る確率を高くできる. CC の欠点は,再送時のチャネル状態が良好であるに もかかわらず,ターボ符号の冗長ビットを全て再送してし まう点にある.これを解決したのが,冗長ビットの一部のみ を順次再送する IR である.再送回数が増えるにしたがっ て符号化率が低下するから,ターボ符号の誤り訂正能力 が強くなる.MC-CDMA と OFDM における HARQ スルー プットが文献[18]で詳しく報告されている. 6.高速パ 高速パケットアクセス 次世代の超高速データは全て無線パケット伝送される ことになるだろう.パケット伝送では何らかの誤り制御が必 要である.DS-CDMA であれ MC-CDMA であれ,有望な 誤り制御はターボ符号化を組み合わせたハイブリッド自 動再送(HARQ)であろう[16],[17],[18].(最近では,低密 度パリティ検査符号(LDPC)が脚光を浴びつつある.) Previously received packet NAK + Packet received now ACK New packet Uniform delay profile L =16 SF =C =256 R =3/4 3 Receiver Same packet 64QAM Chase combining 3.5 Throughput [bps/Hz] Transmitter 4 2.5 16QAM 2 1.5 QPSK 1 Increased power DS-CDMA MC-CDMA OFDM 0.5 : Info Time : Parity 1 Turbo decoding and error detection : Parity 2 0 0 No error 5 15 20 25 30 35 40 Average received E s /N 0 [dB] (a) CC Transmitter 10 Receiver (a) CC Previously received packet NAK 4 + Additional redundancy Incremental redundancy Packet received now ACK 3.5 Uniform delay profile L =16 N c =256 SF =C =256 Increased redundancy New packet 3 Throughput [bps/Hz] Time Turbo decoding and error detection No error (b) IR 図9 Chase 合 成 (CC) と Incremental Redundancy 合 成 (IR). 2.5 R =3/4 2 R =1 1.5 16QAM 1 よく知られた HARQ に,Chase 合成(CC) [19]と冗長ビッ トを少しずつ再送する Incremental Redundancy 合成(IR) [20]とがある.図 9 は,CC と IR を用いる HARQ の動作の 違いを示している. ARQ では誤り検出が必要で,そのた めに巡回冗長符号 (CRC)が用いられる.図中の情報ビッ ト(Info)はその CRC 検査ビットを含んでいる.1 回目のパ ケット送信が失敗し,2 回目の送信でパケット送信に成功 した例を示している.CC を用いる HARQ では,受信パケ DS-CDMA MC-CDMA OFDM 0.5 0 0 5 10 15 20 25 30 35 40 Average received E s /N 0 [dB] (b)IR 図 10 OFDM, MC-CDMA と DS-CDMA のスループット 比較 5 いことが分かってきた.このことは,DS-CDMA でもセルラ システムとホットスポットシステムのいずれにも再構成でき ることを示している[21].SF=1 システムでは,ALOHA など のランダムアクセス,SC または OFDM を用いる TDMA, あるいは受信状態の良いユーザに無線チャネルを優先 的に割り当てるスケジューリングを行う SC または OFDM を 用いることができよう. MC-CDMA,OFDM と DS-CDMA のターボ符号化 HARQ スループット(bps/Hz)を図 10 に示す.図 10(a)は, GI 挿入損を考慮したときの R=¾ターボ符号化を用いる CC‐HARQ のスループットである.データ変調が QPSK で あるときには,MC-CDMA,OFDM と DS-CDMA ともにほ とんど同じスループットが得られているが,16QAM や 64QAM のような多値数の高いデータ変調時には OFDM のスループットが高い.これは,MC-CDMA と DS-CDMA では,拡散率を高くして多数のサブキャリアにわたって拡 散すると拡散符号間の直交性の崩れによる干渉の影響 が無視できなくなるからである.16QAM や 64QAM では 信号間距離が短いからこの干渉の影響を大きく受けてし まうのである. IR-HARQ のスループットを図 10(b)に示す.データ変 調は 16QAM である.初回の送信時の符号化率 R が R=¾ のとき,2 回目の送信時に追加の冗長ビットが全て送信さ れる.一方,初回の送信時に情報ビットのみ送信する R=1 のとき,2 回目と 3 回目の送信時に順次,冗長ビットが送 信される.初回の送信時には冗長ビットが送信されないか ら誤り訂正はできず,周波数ダイバーシチ効果に期待す るしかない.しかし,OFDM では拡散を用いていないので 周波数ダイバーシチ効果が得られない.したがって,高い Es/N0 領 域 で 優 れ た ス ル ー プ ッ ト が 得 ら れ る の は , MC-CDMA や DS-CDMA である. データ変調が 16QAM で初回の符号化率 R=3/4 のとき の CC と IR のスループットを見ると,低 Es/N0 領域で IR の 方が少し高いスループットが得られている.しかし,高 Es/N0 領域ではスループットに差はほとんど見られない. 8 . 無線マルチホップ 無線 マルチホップを マルチホップ を 用 いるバーチャル いる バーチャルセルラ バーチャル セルラネットワ セルラ ネットワ ーク(VCN) ーク 第 4 世代システムの周波数帯は恐らく 5GHz 以上にな るだろう.伝搬損失は搬送周波数のおよそ 2.6 乗に比例し て増加する[22]. したがって,無線リンクは干渉制限型で あるばかりか電力制限型にもなるので,送信電力の低減 のために,ギガビット無線アクセスではナノセルかピコセ ルシステムにせざるを得ないだろう.そうなると,伝搬環境 は送受信機周辺の散乱体集合の様相に大きく依存しセ ル毎にダイナミックに変化する.第 4 世代システムでは, 伝搬の統計的特性(すなわち平均特性)に基づいて設計 する従来のセルラシステムと違った設計法を採用しなけ ればならないだろう. 送信電力を低減する有望な方法の一つが,図 12 に示 すような無線マルチホップ技術である.近距離の中継局 を介したマルチホップ通信の総送信電力は,1 ホップで遠 距離の通信を行うよりも遥かに少ない.これを利用したの が図 13 のバーチャルセルラネットワーク(VCN)である [23],[24].VCN では,従来のセルラシステムの各セル内 に多数の無線ポートを分散配置している.各無線ポート は端末との送受信のほか周辺無線ポートからの信号を転 送する機能を有している.バーチャルセル内の一つの無 線ポートは中央無線ポートと呼ばれ,ネットワークとのゲー トウェイの役割を担っている.端末からの無線信号は近傍 の無線ポートで受信され,複数の無線ポートを次々と転 送されて中央無線ポートに到達し,ネットワークへと送ら れる. 7.柔軟な 柔軟なシステム展開 システム展開を 展開を可能とする 可能とする CDMA MC-CDMA または DS-CDMA を用いればセルラシステ ムと孤立セルシステムのいずれにも再構成できる柔軟な システムを構築できる.これを図 11 に示す. PN#1 Single-hop PN#6 PN#2 PN#0 PN#5 PN#3 SC or OFDM with scheduling BS Multi-hop 図 12 無線マルチホップ PN#4 (a) Cellular system (SF>1) (b) Isolated-cell system (SF=1) 図 11 セルラシステムと孤立セルシステム Network Network 拡散率 SF>1 とすれば第 3 世代と同じような同一周波数 の単一セル繰り返しを用いるセルラシステムに,SF=1 とす れば無線 LAN のようなホットスポットをカバーする孤立セ ルシステムになる.文献[9]で MC-CDMA についてこのよ うな提案がなされている. もはや,MC-CDMA と DS-CDMA に本質的な違いがな Network control station Distributed port Base station (b) VCN (a) Conventional CN 図 13 VCN 6 Central port に示す(数字はチャネル番号を表している).同じチャネ ルが繰り返して利用されていることが分かる. ところで,全ての無線ポートが送受信機能を持つ必要 はないだろう.端末の送信電力を低減することに重点を 置くなら,受信機能だけの無線ポートもセル内に分散配 置してもよい.自己組織的な経路探索機能を持たせれば, 必要に応じて無線ポートを配置し,必要がなくなれば撤 去することができる.このような VCN は,ある程度の伝送 遅延が許容される IP パケット伝送に適している. VCN はホットスポットエリアにおける超高速データサー ビス提供に適していよう.バーチャルセルはお互いにオー バラップするとは限らないから,第 2/3 世代システムと協調 したシステム運用をせざるを得ない.バーチャルセルは第 2/3 世代システムにオーバーレイすることになろう.こうす れば,第 2/3 世代システムの基地局を中央無線ポートと共 用できる.このような異なるシステムの協調運用のために は,VCN と第 2/3 世代システム間の移動管理,シームレス ハンドオーバーなどの技術開発が必要である.単一端末 が第 2/3 世代システムや第 4 世代システムと通信できるた めのソフトウエア無線技術の開発も必要になる. 各端末からの信号を中央無線ポートへと転送するマル チホップルートを構築しなければならない.他のバーチャ ルセルへ与える干渉を最小化し周波数利用効率を最大 化できるのは,ルート上の総送信電力を最小とする規範 に基づくルート構築である[23],[24].シングルホップシス テム(現セルラシステム)の送信電力で正規化した端末リ ンク(端末~最近接無線ポート間リンク)の送信電力を図 14 に示す.バーチャルセル内の無線ポート数 K を多くす るにつれて送信電力を飛躍的に低減できることが分か る. Normalized average transmit power 1 uplink MRC uplink SC downlink Multi TD downlink SSTD 0.1 0.01 9 . むすび M =2 α =3.5 σ =7(dB) 超高速移動無線技術の動向について述べた.これか らは,画像サービスが中心になる可能性がある.いつでも どこでも画像を見ながら会話することができれば,自分の 気持ちを相手にうまく伝えることができる.このためには現 世代よりも高速な無線技術の開発が必要になる.次世代 の無線システムは,多様なシステムをシームレスに接続し て,1Gbps に迫る多様なデータサービスを提供する複合 無線システムとなろう.魅力的で難しい技術的な挑戦は 超高速のギガビット無線技術の開発であろう. DS-CDMA を用いる第 3 世代システムで活躍している Rake 合成では太刀打ちできないほど,チャネルの周波数 選択性が強い.周波数選択性チャネルを如何にして克服 するか?周波数選択性を積極的に利用して,逆に伝送 特性をいっそう改善できると見られているのが周波数領域 等化(FDE)である.DS-CDMA と MC-CDMA のいずれの 無線アクセス技術もほとんど同じ伝送特性を実現できる. しかし,サブキャリア数が多い超高速 MC-CDMA 伝送で はピーク対平均電力比(PAPR)が大きくなってしまうから, 上りリンクに適しているのは DS-CDMA であると言えよう. ギガビット無線ネットワークでは送信電力が極端に大き くなる.このため,従来のようなセルラシステム構成ではな く,無線マルチホップを用いるバーチャルセルラネットワ ーク(VCN)のような新しい無線ネットワークを採用せざるを 得ないだろう. 本稿では,最近注目を集めている MIMO アンテナシス テムについては触れなかった.MIMO アンテナシステム には,周波数効率を飛躍的に高めて超高速伝送を実現 する空間多重,フェ-ジングの影響を抑圧するアンテナ ダイバーシチ,そして干渉を抑圧するアンテナアレーがあ る.特に MIMO 空間多重は次世代移動無線システムお けるきわめて重要な技術であるが,第 3 世代システムへ適 0.001 0 5 10 15 Number K of wireless ports per virtual cell 20 図 14 端末~最近接無線ポート間リンクの送信電力 8 4 0 5 12 3 11 11 3 3 9 12 12 6 6 1 111 1 5 5 5 0 8 11 0 4 4 3 Central Port Wireless Port 6 3 7 8 9 7 5 9 7 図 15 棲み分けアルゴリズムを用いたチャネル割り当て 次に,こうして構築されたルート上の無線ポート間リンク にチャネルを割り当てなければならない.多数のチャネル (周波数)を管理するのは現実的でない.そこで,自律分 散的なチャネル割り当てが望まれる.総送信電力最小規 範で構成されたマルチホップルートに,棲み分けアルゴリ ズム[25]を用いてチャネル割り当てを行った結果を図 15 7 “Cyclic-prefix CDMA with antenna diversity,” Proc. IEEE VTC’02-Spring, pp. 1002-1006, May 2002. [13] F. Adachi, T. Sao, and T. Itagaki, “Performance of multicode DS-CDMA using frequency domain equalization in a frequency-selective fading channel,” Electronics Letters, vol. 39, pp.239-241, Jan. 2003. [14] F. Adachi and K. Takeda, “Bit error rate analysis of DS-CDMA with joint frequency-domain equalization and antenna diversity combining,” IEICE Trans. Commun., vol.E87-B, no.10, pp.2991-3002, Oct. 2004. [15] F. Adachi and T. Itagaki, “Frequency-domain rake combining for antenna diversity reception of DS-CDMA signals,” IEICE Trans. Commun., vol. E86-B, no. 9, pp. 2781-2784, Sept. 2003. [16] D. N. Rowitch and L. B. Milstein, “Rate compatible punctured turbo (RCPT) codes in hybrid FEC/ARQ system,” Proc. Comm. Theory Mini-conference, IEEE GLOBECOM’97, pp. 55-59, Nov. 1997. [17] T. Ji and W. E. 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