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『中国における私立大学の展開』

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『中国における私立大学の展開』
『中国における私立大学の展開』
私立大学、市場経済、中国政府、教育改革、問題点
発達・社会システム専攻
寧 銀環
序章
っており、国と社会に大きな役割を果たしているため、そ
第一章 私立学校の定義
れに関する研究も重要な意味を持っていると言える。だが、
第一節 私立学校の定義
従来の研究を見ると、私立学校に関する政策面のみに焦点
第二節 私立学校の特徴
を置いたもの、あるいは実践的な問題の対策やアドバイス
に限定された研究がほとんどであり、私立学校を国家の枠
第二章 私立学校に関する国家の政策
第一節
私立学校の現状
組みとの関連において、考察を行う研究が少ない。私立学
第二節
国家の政策の変遷
校の現状、問題点を明確にするためには、社会主義を原理
第三章 私立大学の実態
とする中国政府の政策方針が私立学校の経営方針とどのよ
第一節 私立大学の概要
うに共存し、あるいは対立しているのかを把握する必要が
第二節 北京海淀走読大学の特徴
ある。
以上の問題意識から、本研究では、中国の私立学校の
第四章 国家と私立大学の相互関係
第一節 国家の観点
歴史的経緯や特徴を明らかにするとともに、北京海淀走読
第二節 国家と私立大学との関係における諸問題
大学の管理・運営・設備・カリキュラムの決定・教師の配
置などの面に着目し、私立大学の運営と国家の教育政策と
終章
の相互関係や問題点を明らかにしていき、
最後に、政府が私立大学に対する観点を述べた上で、私立
大学との関係おける諸問題を明らかにする。
序章
中国の私立学校は古代から存在し、教育史に重要な役
割を果たしてきた。1949 年、中華人民共和国が成立した
後、私立学校は政府に吸収され、歴史の舞台から消えた。
第 1 章 では私立学校に関する定義や特徴を明らかにし
しかし、70 年代後半に始まった経済改革や市場経済の導
てきた。本研究は主として私立大学に焦点を当てるが、第
入に従い、中国政府は教育の改革にも力を入れるようにな
1章では私立学校全体を視野に入れて考察した。現在中国
った。1982年に公布された『中華人民共和国憲法』第
では私立学校に関する統一した見方や用語は見られない。
19 条では、
「国家は集団経済組織、国家企業事業組織、及
論者によって様々な使われ方がされている。例えば、私立
びその他の社会力量(社会の力)が法律に基づき、各種の
学校に対する用語は、
「私立学校」
、「社会力量弁学」
、「民
教育事業を行うことを奨励する」と明示している。これは
弁教育」など様々である。また、こうした学校を区別する
中国政府が初めて憲法の中で社会力量を国家教育事業の重
基準も様々である。まず、第1に、
「国所有」を基準とし、
要な一部分として認めたものである。それ以降、私立学校
国有企業、集団経済組織、社会組織など以外の社会団体、
(国家以外によって設立した学校)は社会全体の多くの注
学術団体、経済組織及び個人が設立した学校を民弁学校と
目を集め、全国に数多くの私立学校が現れ始めた。
称する。第2に、学校設立者が政府を基準とし、全ての非
政府組織が直接設立した学校を私立学校と称する。第3に、
しかし、私立学校は、まだ法律や政策、制度や管理など
の面で整備されておらず、国家の支援が十分でない上に、
学校設立者が政府機関を基準とし、政府機関以外の組織や
厳しい規制などが重い負担となるなど多くの問題を抱えて
個人が設立した学校を私立学校と称する。第4に、設立資
いる。近年における中国の経済改革のなかで再生した私立
金を基準とし、国立(公立)学校、民弁学校、私立学校と
学校がその教育的効果や利益を十分に機能させるためには、
区別し、国有資金(国財政資金、企業、事業資金)によっ
まだ多くの課題が残されている。
て設立した学校を公弁学校と称し、それ以外の学校を民弁
学校と称する。こうした様々な見方を踏まえて、筆者は中
私立学校はすでに中国の教育における重要な一部分とな
1
国の私立学校(私立大学)を考える上で最も重要な定義を
もう1つは、国の「高等教育学歴証書試験」に参加する私
次のように考えたい。それは学校の設立者(運営者)が政
立大学である。このような大学は高等教育独学試験委員会
府ではなく、個人や集団であるという点である。さらに、
と学校共同で卒業証書を授与する。3つ目は、
「高等教育
中国の歴史上、私立学校という用語が最も長く使われてい
独学試験」に参加する私立学校である。このような大学は、
ること、教育研究の中で、私立学校という用語が国際的に
高等独学試験委員会と学校共同で卒業証書を授与する。
また、北京海淀走読大学の実態調査によって明らかにな
も確立されているため、国立学校以外の学校に対しては私
ったことは学生の就職に対する深い配慮が見られるという
立学校(私立大学)という呼び方を用いた。
私立学校の制度的な特徴は、私立学校は独自な教育理念
ことであった。就職後に必要とされる技能を積極的に養成
や目標を設置することができる。また、学生の募集や人事
しようという努力であった。つまり現在の私立大学は市場
任免の面において自主権がある。さらに、私立大学の場合
との結びつきを強めようとしているということが言える。
は、社会の必要性によって専攻科目や授業科目を設置する
ことができる。
第 4 章 では以上のことを踏まえて、国の私立大学に対
する観点や、国と私立大学との関係を考察した。国は私立
第 2 章 では私立学校の歴史的経緯や現状及び政府の私
学校の政治的社会的地位を認めると同時に、私立学校は社
立学校に対する政策の変遷について考察した。中国の私立
会主義教育方針や政策を守らなければならない、営利追求
学校は古代から存在し、それは重要な役割を担ってきたに
を目的としてはいけないと強調した。国にとって私立大学
もかかわらず、1949 年、社会主義国の成立によって私立
は重要な役割を担っている。しかしながらあくまで私立学
学校は姿を消した。しかしその後、1978 年、経済発展や
校(私立大学)は国立学校を補完する役割しか与えられて
市場原理の導入や教育改革とともに私立学校は復活してき
いないということである。その補完の方向は、成人教育、
たのである。現在では今までの国の統制的に学校を設立ま
職業教育、就学前教育機関などの設立に限定され、高等教
たは運営する教育体制を崩す、といった教育改革が進めら
育については厳格に規制される。
れており、そこには現代化を目標にし、経済や社会の発展
現在の私立学校(私立大学)は依然として十分な社会的
に適合するように、優れた人材を養成しようという意図が
地位が得られていない。例えば学校財産権の問題や営利の
ある。こうした歴史的経緯から言えることは、表面上社会
問題、学位の問題、学費基準の問題や私立大学学生や教師
主義体制が維持されているが、実際は資本主義経済的市場
権益の問題、教師配置の不均衡、法的な基盤が整備されて
原理が大きく影響されているということである。
いないなどの問題が見られており、国立大学と比べた場合
制度的には十分に確立していない。私立大学の重要性にも
また、政府は私立学校に対して多くの奨励政策を打ち出
してきている。その政策とは、「発展の奨励」、「奨励支
かかわらず制度的な面が追いついていないように思われる。
持・管理の強化」
、
「積極的な奨励・大いなる支持・正確な
また、政府の政策がまだ施行されていないことも多く、私
指導・管理を強化」という3つの段階に分けることができ
立学校に対する支援は現時点では、経費の面というよりも
る。つまり、私立学校は現代において制度として確立して
政策の面で束縛されていることが問題ではないか。また、
いるのである。政府は、私立学校を社会主義教育の重要な
奨励と指導・管理政策の関係について言えば、政府は指導
一部であり、国の学校設立(運営)の補完であり、私立学校
と管理をより強調している。
及びその教師、学生は国立学校及びその教師、学生と同等
な法律的な地位を有し、私立学校の合法的な権益を維持し
終章
なければならないと明確に示した。
以上中国における私立大学のいちづけや役割について考
察した。今後はグローバル社会の到来とともに大きな変化
が起こるのではないかと思われる。私立学校(私立大学)
第 3 章 では、私立大学の現状を述べ、北京海淀走読大
は中国において今後も重要であり続けるだろう。
学を取り上げた。現在私立大学 1,200 校余りのうち、学位
授与資格をもつ私立大學は 73 である。私立大学は学位授
このような結果から、政府は教育を発展させるために私
与のあり方で区分すれば、主に3つの形がある。それは、
立大学の「補完」を必要とする一方、私立大学も政府の法
1つは、国の学位を授与できる資格をもつ私立大学である。
律や政策の指導・支援が必要であることを明らかにした。
2
ある意味では、政府が教育を発展させる過程は私立大学と
の関係を協調する過程でもある。従って、私立大学を秩序
正しく発展させるためには私立大学と政府が担当する部門
における共同の努力が必要である。
「政府は私立大学によ
り発展しやすい環境を作り、すなわち、設立の審査・運営
面における支援、社会における私立学校に対する意識の向
上・待遇の公平を積極的に行い、政府の権限を縮小し、私
立大学の自主権を拡大するような政策が望まれている。
」
以上のような問題の解決には、私立大学に関する専門的な
法律の策定が重要であろう。資料によれば、
「民弁教育促
進法」草案の起草がすでに準備され、2002 年、全国人民
代表大会第9回会議期間中に通過する見込みである。
果たして「民弁教育促進法」には先述した私立大学が期
待する内容が明確にされるのかが注目に値する。
参考文献
・呉中魁『私立学校比較研究―与国関係角度分析』北京師
範大学出版社、1999。
・胡衛『民弁教育的発展与規範』教育科学出版社、2000。
・篠原清昭「現代中国の教育投資―社会主義における『教
育の市場化』-」
『比較教育文化研究施設紀要』第 51 号、
九州大学附属比較教育文化研究部。
・王幡「中国私立大学卒業者の学歴認定に関する研究」
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