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イギリス滞在記―川辺から見た日常―

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イギリス滞在記―川辺から見た日常―
 関東のページ(2)
イギリス滞在記―川辺から見た日常―
化学系関東常盤会 橋根 孝弘(化工62年卒) 2012年のロンドンオリンピックでは、日本
気温でしかも湿度も低いため、汗でべったり
は史上最多の38個のメダルを獲得し、誰もが
ということにはならず心地よい走りを楽しめ
熱気と感動に酔いしれたことと思う。久しぶ
る。まずアパートを出るとすぐ巨大なショッ
りあるいは初めてメダルを獲得できた競技も
ピングセンターが川を挟んで立っており、そ
あり、楽しく観戦することができた。白熱し
の中を通り抜けていく。そこでは多数のレス
た競技の合間には、イギリスの風景や街並み
トランが川沿いの心地よいエリアを占領し、
が放映され、懐かしい思いがした。
その中には日本食レストランもあり、イギリ
私はロンドンから約40マイル(60km)西
ス人が不器用な手つきで箸を使ってラーメン
にあるレディングという町に約2年間住んで
を食べているのをよく見かける。皿に盛られ
いたことがある。レディングの北の方には
た日本風のカレーライスを箸で食べている人
大学で有名なオックスフォードが約25マイ
もよく見かけるが、決して日本ではカレーを
ル(40km)先にあり、これらの都市とはテ
箸で食べないと教えてやりたくなる。このレ
ムズ川で結ばれている。テムズ川はオックス
ストランはイギリスでは有名な日本食チェー
フォードからレディングの街中を通るケネッ
ン店で連日長蛇の列を作っているが、日本人
ト川と合流しロンドンの方へ続くが、このケ
が「日本食」と思って店に入ると期待外れで
ネット川のほとりにいくつか快適なアパート
ある。味についてはイギリス人向けにアレン
があり、その一角を借り生活していた。
ジされているので、少々不満というか疑問に
生活を始めたのは2009年の5月。あるプロ
思うかもしれない。どのような味かはご想像
ジェクトの仕事で急な赴任だったため、家族
にお任せする。
を日本に残し単身赴任の生活を始めた。一人
ショッピングセンターを抜けると川沿いに
暮らしというものは何もしないと一日が長く
アパート群が立ち並び、小さな子供を連れた
感じるものであり、さらに5月のイギリスは
夫婦や元気な子供たちが食べ残しの食パンを
夜9時過ぎても太陽が沈まないため、より一
袋に詰め、白鳥やカモに餌をやって楽しんで
層長く感じる。その長い一日をつぶすのに職
いる光景が見える。自分の気に入った白鳥め
場の仲間と毎晩乾杯っていうのは金銭的に継
がけてパンを投げ込む姿は日本でもよく見か
続できるものではないし、しかも太陽が頭の
けるが、一枚そのまま、あるいは袋から豪快
上にある時間から晩酌というのも妙な感じで
にそのままどさっと放るなんていうのもたま
ある。色々な時間の使い方はあると思うが、
に見かける。実はこの食パン、スーパーに行
もともと体を動かすことは好きだったし日本
くと割と安く買える。私がよく買っていたの
でもやっていたので、日頃はジョギングをし
が、一袋1ポンド(120円程度)のもので中
てその長い夕刻を過ごすことにしていた。
身は日本の店頭で売っているものの倍くらい
ジョギングのコースはアパートの前を通っ
入っている。さすがイギリスのパンなんて感
ているケネット川からテムズ川に続く川沿
心していたが、食べてみると食感はパサパサ
い。イギリスはサマーシーズンでも20℃位の
で高級感がない。もっと高いものも買ってみ
- 40
話のひろば
たが残念ながらみな同じだった。
にゲートを開けて待っていてくれる。このド
少しネガティブな食の話を2つ続けてし
アを開けて待ってくれるという行為はイギリ
まったが、私のジョギングはもう少し続く。
スのどこにいっても見られる習慣で感心する。
アパート群から続く小道は、テムズ川との合
このゲートを抜けると川の方では水門があり、
流に差しかかると大きな芝生の広場に変わ
船を通過させようとする船の持ち主が、必死
る。そこでは、ミニサッカーを楽しむ若者や
で水門を操作しているのをよく見かける。川
犬の散歩をしている家族、川ではボートの練
幅の広いところは機械式の水門が取り付けら
習をしている子供たちなど、楽しそうに遊ん
れているが、ここでは水門の横の柱に取り付
でいる人々が目に入る。犬は鎖に繋がれてな
けられたホイールを手で回す手動式だ。その
く、思いっきり走り回ったり、ボールを追い
ナローボートと呼ばれる船の中には食事や寝
かけたり、川に飛び込んだりと、狭いところ
泊りができる設備が整っており、夕食時間に
で飼われている日本の犬に比べると天国のよ
なると停泊し、川辺でバーベキューを食べた
うな生活をしている。犬のすぐ横を走っても
り、ボートの中でワインを飲みながら談笑し
かみつくなんてことはなく、また吠えられる
たりしている姿を目にする。また実際にこの
こともない。楽しそうに私に並走するのはよ
ボートを自分の住処としている人が結構いる
くいるが、飼い主のいうことはよく聞くので
らしく、郵便物もどこか決まった停泊所に届
呼ぶとすぐに飼い主のもとに戻る。イギリス
くそうだ。
の犬は賢いのか、しつけがいいのか分からな
このような様子を観察しながら、小一時
いが、飼い主の指示には忠実である。
間の時を過ごしていたことが思い出される。
この先からテムズ川沿いになり、テムズフッ
ちょっとした川辺の日常の光景であるが、そ
トパスと呼ばれる小道を通る。この小道は
の中からでも日本との違いを楽しむことがで
2、3人が横に並んで歩ける程度の幅しかな
きた。この体験は観光旅行などでなかなか味
いが、もっと先に行くと一般道路と兼用して
わえない貴重なものであった。
いるところや牛が放牧されている広大な草む
最後に付け加えておくが、ウインターシー
らを通っているところなどがあり、実はこの
ズンになると川の周りの小道は湿気を帯び、
フットパスはテムズ川に沿ってずっと続いて
沼のようになって歩くこともできなくなるの
いるらしい。ところどころにゲートがあり走
で、渡英の機会がある方はご注意を。
るには面倒であるが、先を走ってい
るランナーや通行人が後続人のため
アパートから見た風景
テムズフットパス
- 41
セントアンドリュースの
ゴルフ場
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