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広画角ディスプレイ - 大阪大学 竹村研究室
4.5.3 広画角高精細ディスプレイ (1) 広画角ディスプレイ (a)人間の視野角 人間の視野角は水平約 200 度,垂直約 125 度(下 75 度,上 50 度)に達する 1) .しかし,視細胞の分布や 眼球の構造上,中心ほど分解能が高く注意も向けやすいという性質があるため,人間の視野は注視点を中心 とする幾つかのいびつな同心円状に分類される.情報受容能力に優れる有効視野は水平 30 度,垂直 20 度程 度に過ぎず,注視点が迅速に安定して見える安定注視野は水平に 60~90 度,垂直に 45 度~70 度程度であ る.また,映像に誘発される自己運動感覚(ベクション)は,臨場感の程度を判断する重要な指標であるが, その誘発は画角が水平 20 度程度から起こりはじめ,110 度程度で飽和するとされている 2).没入型プロジェ クション技術(IPT, Immersive Projection Technology)によるディスプレイでは,有効視野外の補助視野 にまで映像が及び周辺視が可能となる. (b)大型没入ディスプレイ ヘッドマウントディスプレイと異なり,据置型ディスプレイで広画角化を実現するには眼球を囲い込む映 像の立体角そのものを物理的に拡げる必要がある.現在ではそのような目的で開発された大型の没入ディス プレイが数多く稼動している.1992 年にイリノイ大で開発された CAVE は 3) ,正面と左右面に背面投影を, 下面に天井からの前面投影を行うものであり,ブース全体に没入感の高い空間を映し出せる.1997 年に東京 大学インテリジェント・モデリング・ラボラトリに設置された 5 面型の CABIN(2.5m 角)では 4) ,強化ガ ラスの床を用いて階下からの背面投影を行い,背後を除く 5 面化を実現した. 1999 年には,岐阜県テクノプラザに,究極の広画角ディスプレイとも言える完全 6 面型の COSMOS(3m 角) が世界で初めて導入された 5) (スウェーデン Kungl Tekniska Hogskolan の VR-CUBE と同時期).入り口とな る背面は利用者の入退室時にスライドする仕組みになっている(図 1 参照).5 面以下では見回し時に映像の フレームアウトが頻発し,結局「正面」を常に意識せざるを得ないのに対し,完全 6 面化されると映像空間 に 360 度囲まれるために物理世界の座標系を意識する必要がなくなり,没入感が飛躍的に向上する. ただし,CAVE のディスプレイ装置としての特性は必ずしも良い点ばかりではない.通常は 1 面 1 投影装 置なので単位立体角あたりの解像度が低い,面境界で映像が折れて見えないためには視点追従が必須である, 高輝度化すると面同士が互いにコントラストを下げてしまう,といった問題がある. 図 1 COSMOS の外観(ぎふ MVL リサーチセンター提供) 上下面の映像提示を割愛し,水平視野角 120~200 度程度を確保する簡易型周壁面ディスプレイは数多く 開発されており 6)7) ,高解像度化を目指したものも多いため次項で触れる.水平に広画角という点では,ソリ ッドレイが導入した労働省産業安全研究所の 8 面 360 度ディスプレイや奈良先端科学技術大学院大学の 6 面 330 度円筒型ディスプレイなどの例が挙げられる(ともに 1999 年設置). (c)小型没入ディスプレイ 5 面や 6 面の CAVE 型システムは 3 階建相当の広い空間を要するなど,一般に大型没入ディスプレイは非 常に大規模になる.そこで,コストや設置空間などの点で有利な小型没入ディスプレイがこの 1~2 年数多 く開発されている.Elumens の直径 1.6m の半球ドーム型ディスプレイ VisionDisplay 8) は,魚眼レンズを通 して液晶プロジェクタで前面投影するものであり,計算機のイメージワーピング機能で予め逆補正を掛けた 映像を映し出す.筑波大学岩田研究室の EnspheredVision 9) では直径 1.3m の球面スクリーンの中に人が入り, 頭部の上方に設置したミラー系に上から前面投影を行うことで,広画角映像を提示する.同研究室は 2000 年には,内径 56cm の球状スチロールを頭からかぶり,背負ったプロジェクタで映像提示するユニークな装 着型没入ディスプレイを提案している 10) .こうした小型の没入ディスプレイでは,広い画角全体に渡って映 像をシャープに提示することが困難であり,映像がシャープであっても観察距離が短いために臨場感を得に くい.この問題を打開するために,例えば 2000 年にモントリオール大学では,リング状の鏡面と放物ミラ ーを組合せて焦点距離を遠方に飛ばす 360 度パノラマディスプレイを提案している 11) . (2) 高精細ディスプレイ (a)人間の眼の分解能 人の目の最小分解能は視力 2.0 の場合視角にして約 0.5 分(1/120 度)であるので 12) ,この値が高精細デ ィスプレイの目指す画素密度の目安といえる.1 画素が視角 0.5 分で見えるための画素密度はスクリーンの 観察距離に反比例し,10cm で間近に見る場合 900ppi(pixel per inch)程度,デスクワークの 60cm の場合 150ppi 程度,200cm で離れてみる場合 45ppi 程度である. (b)高精細液晶ディスプレイ 標準的な CRT は 80~100ppi 程度で,これを超える画素密度の実現は難しい.一方,液晶ディスプレイは これを超える高密度化が進んでいる.1998 年から 2000 年に掛けて IBM や東芝,シャープ,NEC,サムス ンといった主要メーカから 200ppi を超える製品(4 型 VGA,6.4 型 XGA など)が発表され,現在は 300ppi レベルの開発に向かっている 13) .200ppi になると,もはやほとんどドットを視認できないレベルであり, 印刷に迫る画質といえる.一般に密度を上げると開口率が下がるため,アルミ配線などによる高密度配線技 術と高開口率技術が鍵となる.液晶にはアモルファスに比べて駆動回路の小型化に向く p-Si TFT を用いる ことが多い 14) .一方,高速応答液晶を色順次駆動する方式では一画素でフルカラーを表示可能なため画素密 度を容易に向上できる.ヒューネットはこの方式で 265ppi(1.5 型 1/4VGA)を達成している 15) . 高解像度化(多画素化)の流れでは,QXGA(2048×1536)や QSXGA(2560×2048,24~28 型)レベ ルの製品が次々に発表されている.また,BS デジタル放送の開始に合わせ,ハイビジョンに適した WUXGA (1920×1200)サイズのパネルも多く登場している.また,ノート PC についても高解像度化への要求が高 まっているが,XGA などとそれより大きな SXGA(1280×1024)ではアスペクト比が異なり筐体の設計変 更が必要となる.このため,アスペクト比が 4:3 である SXGA+(1450×1024)や QVGA(1280×960)の 13~15 型ディスプレイの開発も盛んになっている 16) . (c)大型高精細ディスプレイ 通信総研と日本ビクターは,単板モジュールによる 4000×1000 画素のプロジェクタを開発し 17) ,2001 年には同じく単板で 4000×2000 画素のものを開発している.しかし一般には,コストやスケーラビリティ の点から,複数のディスプレイを並べて高解像度化を行うのが普通である.広画角ディスプレイの項で触れ たバーチャルリアリティ用の多面ディスプレイでは,80~150 型スクリーンを横に 3~5 列,縦に1~2 段並 べることが多い 6) .一面の解像度は XGA もしくは SXGA が多いが,通常はこうした用途では隣り合う映像 を重複させてエッジブレンディングを行うため,それだけ利用できる解像度は 1 割ほど減少する. また,航空・鉄道などの交通状況の把握や水道・電気などの大規模インフラの監視など,多くの情報を同 時に扱う必要のある用途において,高いコントラストを特徴とする DLP プロジェクタを複数並べて大画面 を構成することが盛んになっている.特に大型のものとして,三菱電機が 2000 年に導入した NTT ドコモ北 海道オペレーションセンタのシステム 18)(図 2 参照,70 型 SXGA×6×3 面で 7680×3072 画素,横 8.3m× 縦 3.3m)や,2001 年に導入する愛知県警本部通信指令システム(50 型 XGA×16×3 面で 16384×2304 画 素,横 16.3m×縦 2.3m)がある. (清川 清) 図 2 DLP 多面プロジェクタの例(三菱電機提供) 参考文献 (1) 増田千尋,3 次元ディスプレイ,産業図書(1990)49 (2) 3 次元画像用語事典,新技術コミュニケーションズ(2000)124 (3) Carolina Cruz-Neira, Daniel J. Sandin, Thomas A. DeFanti:Surrounded-Screen Projection-Based Virtual Reality: The Design and Implementation of the CAVE, ACM SIGGRAPH 93(1993)135-142 (4) 廣瀬通孝,小木哲朗,石綿昌平,山田俊郎:没入型多面ディスプレイ(CABIN)の開発,日本バーチャ ルリアリティ学会第 2 回大会論文集(1997)137-140 (5) 山田俊郎,棚橋英樹,小木哲朗,廣瀬通孝:完全没入型 6 面ディスプレイ COSMOS の開発と空間ナビ ゲーションにおける効果,日本バーチャル学会論文誌「プロジェクション型没入ディスプレイ」特集号,4, 3 (1999)531-538 (6) http://www.solidray.co.jp/pages/his_set.html (7) http://www.sgi.co.jp/features/2000/mar/toppan/index.html (8) http://www.elumens.com/products/products.html (9) 橋本渉,岩田洋夫:凸面鏡を用いた球面没入型ディスプレイ:Ensphered Vision,日本バーチャル学会 論文誌「プロジェクション型没入ディスプレイ」特集号,4, 3(1999)479-486 (10) 続元宏,岩田洋夫:装着型没入ディスプレイ,日本バーチャルリアリティ学会第 5 回大会論文集(2000) 33-36 (11) Luc Courchesne:Panoscope 360°, ACM SIGGRAPH 2000, Conference Abstracts and Applications (2000)93 (12) 大越孝敬,三次元画像工学,朝倉書店(1991) (13) LCD/PDP International 2000(http://expo.nikkeibp.co.jp/lcd/2000/)の著者調査に基づく (14) 前田孝志:低温ポリシリコン TFT を用いた高精細液晶ディスプレイ,オプトロニクス 4 No.220(2000) (15) http://www.hunet.com/pdf/PFD.pdf (16) http://www.watch.impress.co.jp/pc/docs/article/20000412/edex.htm (17) 田中健二,鈴木建治,佐藤正人,荒川佳樹:高臨場感映像(WHD:Wide/Double HD)伝送システムの 開発,映像情報メディア学会技術報告,24, 72(2000)37-42 (18) http://www.cgc.co.jp/hitech/contribution/MITSUBISHI_NTT-dis.html