Comments
Description
Transcript
平成26年度 非エネルギー起源温暖化対策海外貢献事業
平成26年度 非エネルギー起源温暖化対策海外貢献事業(途上国 における適応分野の我が国企業の貢献可視化事業) 実現可能性調査事業採択案件報告書 平成 27 年 3 月 平成26年度非エネルギー起源温暖化対策海外貢献事業 (途上国における適応分野の我が国企業の貢献可視化事業) 実現可能性調査事業採択案件報告書 ― 掲載順 ― 1.会宝産業株式会社 「会宝リサイクル農機レンタルビジネス」 2.川崎地質株式会社 「タイ国における気候変動に伴う土砂災害の増加に対する防災・減災事業と大メコン圏諸 国への適用」 3.株式会社 PEAR カーボンオフセット・イニシアチブ 「モルディブ共和国における有機性廃棄物コンポスト化事業」 4.フロムファーイースト株式会社 「森の叡智プロジェクト」 5.株式会社ユーグレナ 「バングラデシュ国塩害地域での緑豆高品質栽培の事業化可能性調査」 平成 26 年度「途上国における適応対策への我が国企業の貢献可視化に向けた 実現可能性調査事業」最終報告書 コンソーシアム名または企業・団体名 会宝産業株式会社 事業名 会宝リサイクル農機レンタルビジネス 提出日 2 月 20 日 1. 本事業の目的 本事業はガーナでの農機具のリースを通じて、食糧自給率を上げ、現地で気候変動により生じている 食糧不足や経済力低下を抑制することを目的としている。 現在ガーナでは地球温暖化の影響で異常気象が発生し、干ばつが大きな課題となっている。この過 酷な環境で農業分野の安定を確立するには大規模でかつ効率良い栽培、収穫が求められる。そのために 農機を貧困層にも利用しやすい価格帯でリース(もしくは賃耕サービス)しコミュニティごとに生産性を 高め、農業事業者の生活水準を高める事を目指す。また、この地域では JICA の天水稲作のプロジェクト も実施されており将来的には本事業とのコラボレーションが生まれる可能性がある。 本事業においては、ガーナ国内で既に普及している農機の現状を把握するため、AMSeC、現地メンテナ ンス事業者、農業団体などを訪問する。調査項目としては、ガーナ農場事業者の農機定着率、価格受容 性、日本とタイで調達した農機の稼働確認、パーツの破損頻度、輸入ルートに関する情報収集を行う。 事前に把握しているガーナ共和国の実態としては、地球温暖化の影響から発生する異常気象の影響で GDP の 3 割以上を占める農業分野の安定性が乏しくなってきていることがあげられる。総人口約 26 百万 人の 6 割が農業に従事している現状がありながら農機の利用率が低く手作業で栽培、収穫を行っている ため、変動していく環境の影響に対応できていない。具体的には、全国土面積(2.385 万 ha)のうちに農 耕が可能な土地は約 57%の 784 万 ha にとどまり、更なる農耕地拡大の余地が残されている。ガーナの全 農業事業者の約 90%が 2ha 以下の農地で農業を営む小規模農民であり、これらの小規模農民が全農業生産 額の約 80%以上を生産していると言われている。これらの農民の多くが手作業の農業と天水に依存してお り、異常気象の影響で安定した降水が見込めない昨今では、トウモロコシやコメなどの主要作物は可能 収穫量の半分以下と非常に低い生産性に留まってしまっている。その結果、農業従業者が職を求め裕福 な南部に移住し、北部の一層の貧困化が進んでいる。 こうした状況を踏まえて、輸出する中古農機をガーナで販売・レンタルすることにより、幅広い客層 に経済的・社会的利益をもたらす事が期待されるとし本事業の提案に至った。 1 2. 課題 1, 気候変動適応分野に関するガーナ政府による課題認識と政策方針の概要 ガーナ政府の気候変動に対する意識は年々高まっており、UNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change)のもと、国家開発計画の一環として気候変動対策を重視する事を発表し ている。中でもガーナ政府が気候変動適応分野において認識している課題として、 「気温の上昇」、 「降雨 量の減少や変異」 、 「海面上昇」 、 「異常気象や自然災害」と言った4つの脆弱性が示唆されており、国家 レベルでの対応が検討されている。特にガーナの経済は農業、水資源、天然資源、エネルギー産業と言 った気候の変化に影響を受けやすい分野で構築されており、GDP の 3 割を占める農業分野への大々的な影 響が懸念されている。現状では頻発する洪水、干ばつ、普遍的な降水パターンによる作物の収穫量減少、 収穫時期の収縮、品質の劣化などの影響が目立ってきている。 これらの課題に対する政策としてガーナ政府は UNEP と連携し、NCCAS(National Climate Change Adaptation Strategy) を発表、下記の方針を掲げている。 環境に対するレジリエンスを高め、大衆の脆弱性を改善する。 国家レベルでの環境適応に関する重要性の認知を深める。 ガーナが直面している環境適応ニーズに対し政策を打ち出すため、経済的援助を引きつけるポジ ションへ押し上げる。 ガーナが直面する現状に関する国際的認知度を高める。 気候変動や、災害リスク減少に関する教育を国家開発の一環として取り入れる。 セクターごとの脆弱性を解決すべく、様々な分野からステークホルダーを招集する。 NCCAS では 2010 年から 2020 年までの 10 年間を期間として設定しており、政治家、公共分野、学界、 市民組織など様々な分野から人材を招聘している。本政策において設定された重点分野としては下記の 7 分野があげられる。 ① 情報伝達の技術、仕組みの改善、早期発信の仕組みの構築による、レジリエンスの向上。 ② 貧困層や脆弱性を伴う国民の生活状態の見直し。 ③ 国土の使用および管理改善による環境適応への国家耐久力の向上。 ④ 教育プログラムによる気候変動への調査力および認知力の向上。 ⑤ 環境開発および衛生管理政策の打ち出しによる気候変動への対応。 ⑥ 水源の確保および、水分配管理による生活レベル、生産レベルの向上。 ⑦ 農業の多様化による社会経済的観点から見る気候変動への適応。 これらの政策は、ガーナ MESTI(Ministry of Environment, Science, Technology and Innovation)下 で推進され、国家レベルはもちろんの事、地方レベルでも管理され、今後のガーナ発展のきっかけとな る事が期待されている。 こうしたガーナ国における気候変動適応分野に関する政策分析から、本事業はガーナ政府の NCCAS に おける重点分野②、⑥、⑦に合致した取り組みであるということができる。 2 2, 政策に関連するガーナ周辺における気候変動の実態 本章においては、農業に関連してガーナで実際に起きている気候変動の実態として、ガーナ政府、IPCC、 USAID によって報告されている「気温上昇」、 「洪水、干ばつの増加」、 「砂漠化」、 「河川の水量の変化」、 「土壌の劣化」 、 「害虫などの発生」について概要を記載する。 こうした気候変動の影響によって、ガーナの農業は大きな打撃を受けており、国民の生活にも大きな 影響を与えている。 ① 気温上昇 気温に関してはアフリカにおいて地域全域及び全季節にわたって地球全体の平均気温上昇よりも高い 気温上昇が観測されている。実際にガーナ、アシャンティ州の農家にてヒアリングを行った際にも年々 気温が上昇している実感を持っている事業者が多く存在した。具体的には、これらの事業者は気温上昇 によりドライシーズンの期間が延びたことにより、平均して 1 エーカーの土地に 435 本のカカオの木を 栽培している農家において毎年 5~15 本のカカオの木を失っているとのことである。 また、IPCC によって、最近 50 年間の気温の上昇傾向は過去 100 年の傾向の約 2 倍となっており、加速 的に気温が上昇していることが明らかとなっている。下図は 1906-2005 年の世界規模及び大陸規模の 10 年平均値上気温の変化(1901-1950 年の平均値が基準)とモデルシミュレーションの比較を示したもので ある。 (図1)黒線は観測結果(破線は観測面積が全体の 50%未満) 、赤帯は自然と人為の強制力による シミュレーション結果、青帯は自然の強制力のみによるシミュレーション結果を示している。グラフか ら読み取れるように世界平均同様にアフリカ地域についても気温が上昇傾向にある事、人為の強制力が 強く影響している事がわかっている。 (図1)地域別にみる気温上昇の推移 IPCC 第4 次評価報告書第1 作業部会報告書政策決定者向け要約 (2007) http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar4/ipcc_ar4_wg1_spm_Jpn_rev3.pdf 3 ② 洪水、干ばつの増加 気候変動により頻繁に発生する自然災害で代表的な例は洪水と干ばつである。USAID のレポートによれ ば、現にアッパーウエスト州の農業事業者は気候変動を認識している事が明らかになっており、不規則 な降雨パターン(農家の 90.7%が認識)と降雨量の減少(農家の 85.5%が認識)が洪水と干ばつの原因 にあげられている。この二つの災害がもたらすガーナに関しての影響の大部分は農業分野であり、貧困 層農業事業者による生産性の著しい低下が懸念されている。 下図はガーナにおける 10 年分(2003~2012 年)の降水量をグラフにしたもので、30 年の内に 10 州中 7 州で平均降水量が 10%前後減少しているのが確認できる(USAID, 2011)。 (図2)地域別にみる降水量の推移 USAID.Ghana climate change vulnerability and adaptation assessment.(2011). 干ばつによる影響は特に小規模農家への影響が大きく、MOFA(Ministry of Food & Agriculture:ガ ーナ国農業食糧省)のリサーチによれば、実際に天水型農業の生産量半減や、農業事業者における穀物 の純収入 90%減などの厳しい被害を受ける可能性が示唆されている(MOFA 2011)。 また、2011 年に起きたアクラ周辺の大洪水では、水源付近で栽培する米類の収穫量に大きな影響を与 えた。MOFA によれば 2010 年の米収穫量は 240t に対し、2011 年の収穫量は 109t まで落ち込んでいる(MOFA 2011)。 4 (図3)穀物の生産量 Evaluation of Four Special Initiatives of Ministry of Food and Agriculture, Government of Ghana (2011). 農民の主観的認識の広がりや実際の被害拡大が拡大しているにも拘らず、有効な適応策を理解・実施 している農民は限られており、適応に関する関連情報の提供や教育による効果的な普及戦略が急務とな っている。 ③ 砂漠化 減少する降水量によって連鎖的に引き起こされる影響として土地の砂漠化があげられる。下記は、ガ ーナ北部のサバンナ地帯における 1972 年から 2000 年に観測された森林地帯減少の推移と 2050 年までの 砂漠地帯拡大範囲予測である(図4) 。 (図4)サバンナ地帯における森林の減少 USAID.Ghana climate change vulnerability and adaptation assessment.(2011). 5 緑色で記された部分は森林地帯(1 ヘクタールに 25 本以上の木が確認できる)であり、1972 年当初はサ バンナ地帯の約半分を占めている。黄色のエリアは準森林地帯(1 ヘクタールに 6 本以上 25 本以下の木が 確認できる)であり、農業には適した開拓された土地である。赤色で記された地域は森林減少地域(1 ヘク タールに 5 本以下の木のみ確認できる)で木々が少なく乾燥が目立つ地域である。 分布の通り、2000 年の時点ですでに森林減少地域が拡大し、農業に適した地域は南部に限定されてし まっている。森林減少地域の拡大は深刻な砂漠化の原因となっている。実際にガーナの農村地帯では砂 漠化の影響で作物の質、収穫量が激減し、農業に適した土地を求めて事業者達が南の土地に移住する動 きを見せており、人口密度の増加や環境問題の引き金となっている。(USAID,2011) 2000 年時点においては、結果として、南部のセントラル州・アシャンティ州・イースタン州の人口密 度が高くなっている。他方で、こうした地域においても先述した通り、平均降雨量は減少しており、今 後森林減少が進む可能性が高く、それを見越した適応策が必要となっている。 (図 5)地域別に見るガーナの人口密度 USAID.Ghana climate change vulnerability and adaptation assessment.(2011). 6 ④ 河川の水量の変化 気候変動はガーナ国内の河川の水量へも悪影響を及ぼす事が予測されている。ガーナには白ヴォルタ 川(White Volta River)と Pra Basin があり、この二つの水源はガーナの人々の生活になくてはならない ものとなっている。 しかし、MOFA によれば、今後この二つの水源の水量は気候変動により減少すると予想されている(MOFA 2008)。気候変動の影響を加味したシナリオにおいては、2000 年時点の白ヴォルタ川の 1 年間の使用可能 水量は約 2,043 ㎥であるが、これが 2020 年までに 987 ㎥、2050 年までに 312 ㎥ に減少すると予想され ている。これは、気候変動が無い場合のシナリオの約 50%の水量となる。また、2000 年時点の Pra Basin の 1 年間の使用可能水量は約 1,160 ㎥であり 2020 年までに 529 ㎥、2050 年までに 165 ㎥に減少すると予 想されている。 (図6) これは、気候変動が無い場合のシナリオの約 54%の水量となる。これら二つの主要水源の水量の減少 は、農業領域においては灌漑用水の減少を意味しており、農業生産性を低下させる大きな要因になると 考えられる。 (図6)白ヴォルタ川とプラ川の利用可能水量予測 Assessment of vulnerability of river basins in Ghana (2008). ⑤ 土壌の劣化 不規則な降水や、砂漠化の影響は、作物が育つ土壌の劣化を引き起こし、それが更なる農業生産性の 低下につながっている。USAID”GHANA Climate Change Vulnerability and Adaptation Assesment”に よると、2011 年におけるガーナ国内の生産量(セディ換算:1セディ=0.66 ドル)第一位の作物として はトウモロコシ(約 412 百万セディ)、第二位にココア(約 361 百万セディ)があげられる。これらの二種 類の作物は国内生産の大部分を中小規模の農家が担っているが、年々増加する不規則な降水や砂漠化の 影響により土壌の養分が減少し作物の品質が劣化することで収穫した作物の商品価値が失われる状況に 至っている。また、地域によっては土壌劣化の影響により、生産量も不安定になっている。 (USAID,2011) 右図はガーナ政府が土壌劣化による作物の品質悪化の例として取り上げているガーナ北部の農家で収穫 されたトウモロコシの状態である。 (図7) 7 (図7)品質が劣化したトウモロコシ Ministry of Food and Agriculture (2014). ココアに関しても土地の劣化によりガーナ国内で栽培できる範囲の減少が見られている。下図はココ アの栽培に適した土地を表したもので、緑、黄緑色がココア栽培に適した土地の所在を表している。 (図 8)茶色や灰色で色付けされている地域はココアの生育に適しておらず、土壌劣化の影響が今後も拡大 していけば、ココア栽培に適した土地が減少し、結果としてガーナ全土におけるココアの生産量も更に 減少していくと考えられる。 (図 8)ガーナにおけるココア生産に適した土地の分布 USAID.Ghana climate change vulnerability and adaptation assessment (2011). 8 ⑥ 害虫などの発生 気温の上昇は、害虫などの発生を引き起こしている。下記はガーナ北部の農村で撮影されたトウモロ コシの写真であるが、害虫の被害により食物の品質が劣化しているのが分かる。 (図9)1990 年代以降、 この付近では見られなかった害虫の発生が増加している。これを受け政府は害虫駆除の為に農薬の使用 を促進し、結果として 10~15%の被害を抑える事ができている。他方で、使用する薬品は人体にも有害な 影響を与えるものも多く含まれており、食の安全性が疑問視されるようになってきている。 (図9)虫食いの被害にあったトウモロコシ Ministry of Food and Agriculture (2014). 3. 現地ヒアリングに基づく対象地(アシャンティ州)における課題 ガーナ現地でのヒアリング(アシャンティ州)により、本事業の対象地における適応ニーズについての 詳細が明らかになった。具体的には、MOFA などの政府組織を始め、現地の灌漑製品販売者、大規模農家 などに対して、気候変動に対する適応ニーズを確認した。その結果全ての訪問先で先述した様々な課題 に悪影響を受けていること、そして特に現状において農家が直面している課題の中で最も大きなものは 気温上昇からくる干ばつであることが分かった。また、調査によって、現地の農業事業者は 12~3 月ま での乾期の間は特に暑さと水源不足により農業活動を行う事が出来ていないことが分かった。このこと から、国の重点課題の中でも、対象地において最も優先順位が高い課題は灌漑用水の確保だということ が明らかとなった。 また、農業機械において、もっとも需要が高かったのは小型のポータブル灌漑ポンプなど、ドライシ ーズンへ適応できる環境づくりの助けになる製品であった。実際に農業事業者の中には灌漑用ポンプを すでに保持している者も確認できたが、干ばつの影響で、乾期になると水そのものへのアクセスが限ら れる実態があった。 上記の情報収集により、最重要視すべき現地の課題は農業の灌漑用水(水資源)であり、農業機械化の 促進においても、まず灌漑ポンプの普及が優先順位の高い課題だということが明らかとなった。国内に て実施した日本の大手農機メーカーとのディスカッションにおいても、灌漑設備の整備によって、農業 生産量を増やし、その後農機を用いて生産性を向上していくというステップを辿ることは、効果的な手 法の一つだということが確認できている。従って、本事業においても、初期段階では灌漑ポンプに焦点 を当てた普及策を推進していくこととする。 9 3. 課題解決の方向性 ① 農機リース事業 ガーナ全体の農業に関しての課題として、低い生産性があげられる。その主な原因は、多くの農業従事 者が農作業(草刈り、種まき、収穫、加工)に関するほぼすべての作業を手作業で行う事があげられる。そ のため、本事業において調査開始当初はこのような実態を改善すべく、トラクタのような日本製大型農機 をレンタルする事業の実現可能性を模索していた。しかし、現地調査によってガーナではすでにインド、 中国からの農機がシェアの大半を占めていることが分かった。これらの製品は価格が安いだけではなく、 部品が多く普及しているため、価格が高く現地では部品が手に入りにくい日本製よりも多くの人に利用さ れていることが分かった。 ガーナにおける農業機械化促進の政策としては、2007 年に MOFA のもと、農業機械化推進組織である AMSeC(Agricultural Mechanization Services Center)が発足されている。この AMSeC は民間企業を中心 に農機の金利無しハイヤーローン体制を用いた農機販売や農機のレンタルなどを行い、農業の機械化促進 を図っている。ハイヤーローンとはトラクタの価格の 20%を農家が支払い、残りの残額は AMSEC が無利子 の 4 年ローンで資金回収を行う仕組みで、貧困層にも利用しやすい金融支援を含めた取り組みである。 しかし、現地調査を通じて、AMSeC による農業機械化促進プロジェクトは思ったような成果を見せてい ない事が明らかとなった。その主な理由としては業務管理の分野の問題が大きく、特に料金回収の仕組み が不足していることがあげられる。ガーナでは輸出業者と小規模農業事業者などの間では報酬を作物で徴 収する事も行われているが、政府機関はそのようなシステムを導入してはいないため、今後その導入を含 めた対応策の検討が必要である。そのため、当初 AMSeC と連携した賃耕サービスの提供を事業の一つに考 えていたが、その推進が現時点では難しい状況にあることが明らかとなった。 上記、調査結果により、当初想定していた農機リース事業は、単独事業での展開が難しい状況にあるこ とが分かった。他方で、先述した通り現地調査では農業機械化における優先順位の高く、適応ニーズが高 い課題として、灌漑用ポンプの普及が抽出されている。こうした現地ニーズがより高い事業を初期段階で 推進し、事業推進体制が整った状況で、農機リース事業に進出することができれば、事業として成立され ることが容易になると考えられる。従って、本事業ではまず後述するモバイルポンプカー事業を展開する こととした。 ② モバイルポンプカー事業 ガーナ国内の多くの村は川を隔てて点在する事が多いので、洪水や干ばつの影響を受けやすく大型の耕運 機などだけでは適応対策としては不十分だと考えられる。実際に、前述した通りアシャンティ州における 現地調査では、現地政府、農業従事者において、水源の確保が最優先課題だと認識されていることが分か った。現地では、ドライシーズンの期間が延びることで、天水に頼った農業や河川の水を利用した農業に おける農業生産性の低下が起きている。現地では、この課題に対応するために、ドライシーズンの際に広 大な農地に水を流す手段を確立することを目的として、水源近くに井戸を掘る必要があると考えているこ とが分かった。特に、3 万円ほどの簡易的な灌漑ポンプを保有している小規模な農業事業者におけるニー ズが高い傾向にある。 (図10)灌漑ポンプを保有しているこれらの小規模農家は気候変動による干ばつ の影響を強く感じている。他方で、井戸を掘るには、農家一世帯では払えきれないほどの費用がかかるた め、実際には取り組めていないことも分かった。また、大規模な農場運営者に関しては、農場から水源ま 10 での距離が長い事から水をくみ上げるだけではなく、組み上げた水を簡易的に移動できる手段が必要だと 考えていることが明らかとなった。 (図 10) 灌漑用ポンプ 井戸に関しては、半永久的に利用できる理想的な深さは約 100m だが、現状としてほとんどの井戸は約 30m の深さしかない事がヒアリングから明らかになっている。ガーナの井戸建設には現地農業団体と契約 を交わした中国企業が関わっているが、本来 100m 掘るべきところをコストダウンのために実際には実際 には 30m しか掘らないという実態が散見される。そのため、結果として井戸がの水は年ほどで枯渇してし まうという状況に陥ってしまっている。 これらの状況を踏まえ、弊社で日本国内から買い入れる軽四のトラック(スバル/サンバー、ホンダ/ア クティなど)の荷台に貯水タンクを搭載した散水車であるモバイルポンプカーを作り上げ、井戸掘削と組 み合わせて提供する事業を行うこととした。(図 11) モバイルポンプカーに設置した灌漑ポンプが動力を車両に搭載されるエンジンに付随する発電機(ダイ ナモ)から確保するものとし、会宝産業がその技術を提供する。当社は 2010 年にガソリン軽 4 車輌を電 気自動車にコンバートする取り組みも行っており、これらのノウハウを最大限に生かし電力の確保を行う ものとする。 項目 詳細 大/中規模農場運営者 顧客候補 灌漑ポンプを有する農業従事者 名称 製品スペック 搭載機器 販売網 (現地パートナ ー候補) 価格 四輪駆動散水車 4 輪駆動、660cc ガソリンエンジン、灌漑用ポンプ、散水ホー ス、貯水タンク ・TESAJ VENTURES JOHN MANU 氏 ・PAG FARM APRAKU GYAU 氏 150,000 円/台 (図 11) 四輪駆動モバイルポンプカー案 11 当事業の展開方法として、まずはモバイルポンプカーで現地の優先課題である水の確保を行い、乾期で も農業が出来る環境を確立、作物収穫量を増やす事を実現する。その際には、モバイルポンプカーを用い た収穫物の輸送も合わせて行う事で収入向上を実現させる。その後、所得向上により余力を持ち更なる所 得向上を求める農家に対して、拡大した収穫可能期間により効率の良い機械化農業を普及させるため、農 機レンタルビジネスを合わせて展開していくこととする。 既にガーナにおいては、MOFA のプロジェクトとして、LK International が MOTORKING というブランド でモバイルポンプカーの普及を行っている。現地での評判は高く、多くの台数が農村地域において利用さ れているとのことだが、本事業の対象地であるアシャンティ州では、普及していない状況である。なお、 MOTORKING は、三輪タイプのシャーシを利用しており、農村地域における悪路には適さないという課題を 有している(図 12) 。他方で、弊社が提供するモバイルポンプカーは、日本独自の規格であり、日本をは じめ、米国等の農家の多くに使われ、悪路であっても走行が可能な軽四トラックをベースに開発している。 従って、農村地域においては、MOTORKING のような既存製品に対しても高い競争力を有していると考えら れる。 (図 12) LK International による MOTOR KING http://www.motorkingltd.com/ 12 4. 調査項目 当プロジェクトの調査項目については下記の項目に準ずるものとする。 1,マーケットリサーチ、農業ノウハウの提供、中古農機具/パーツの提供。 会宝産業は原則自社で全ての事業を実施するものとし、ガーナ現地へ出張、マーケット規模の情報収 集や現状の調査を行う。また、自社の農業部門より農業に関するノウハウもガーナ現地に提供する。更 に、日本国内での自社ネットワークを利用し中古農機、農機パーツを収集、提供する。 2, タイ規格の中古農機/パーツの提供。 会宝産業のタイ合弁会社である KAIHO THAILAND に協力を要請し、タイ国内から中古農機/パーツのア ウトソースを行う。 3, 中古農機具、パーツの輸入、現地施設の調達、MOFA/AMSeC とのパイプ作り。 会宝産業のガーナ合弁会社である KAIHO GHANA の協力の下、日本、タイから提供される農機/農機パー ツの輸入、保管を行う。また、ガーナの政府機関である MOFA/AMSeC とのコネクションを作り上げ、事業 の本稼働に備える。 4, 賃耕サービス実態についての情報提供マーケットリサーチ AMSeC の協力の下、会宝産業は、ガーナ現地でネットワークを活かし賃耕サービスの実態を調査する。 会宝産業のマーケットリサーチ補助を行う。 前述した通り、本調査項目を設計した段階では、トラクター等の農機を用いた農機リース事業を推進 することを想定していた。しかし、調査を進める中で、農機リース事業は現時点ではすぐに事業化する ことが難しいことが判明したため、モバイルポンプカー事業を優先して事業化するといった方針の変更 を実施した。調査結果の詳細は、 「6.調査結果(調査項目ごとに)」に記載する。 13 5. 調査結果(調査項目ごとに) 各調査の結果を下記に詳細を記す。 1,マーケットリサーチ、農業ノウハウの提供、中古農機具/パーツの提供。 ガーナ現地へ出張、マーケット規模の情報収集や気候変動に関する影響の実態調査、農業ノウハウの 提供可能性、中古農機/パーツの収集・提供に関する実現可能性に関する調査を行った。下記、現地調 査により、明らかとなった内容を記載する。 ①適応課題の実態と市場の状況 適応課題の実態と市場の状況を把握するため、ガーナ国アシャンティ州に弊社スタッフを派遣した。そ の後、農家にてホームステイを行いながら現地の農業実態、環境の変化により引き起こされた農業分野 での課題などの情報収集を行った。現状で農家が直面している課題の中で最も大きなものは気温上昇か らくる干ばつであった。具体的には、前述の通り、現地の農業事業者は 12~3 月までのドライシーズン の間、暑さと水源不足により農業活動をほとんど行う事が出来ていない実態が明らかとなった。現地で のヒアリングにより、事業の有望性という観点から、短期的には灌漑用ポンプマーケットが大きいとい うことが分かった。MOFA などの政府組織を始め、現地の灌漑製品販売者、大規模農家など全ての訪問先 で気候変動に対する第一課題は水源の確保だという回答を得ている。 気候変動という観点においても、農業における水不足が最優先課題だということが分かった。現地農 家ヒアリングによって、乾期である 11 月~2 月は川が干上がり農業関連の作業は何もできない事が分か り、前掲した MOFA の調査から現状では白ヴォルタ川周辺で暮らす多くの国民が水不足に苦しんでいると 推測される。20 エーカーの農地を有する大規模農家運営者によれば、ここ 1,2 年間の川の干上がりがひ どく、トウモロコシの収穫量が落ち込んだとのことである。先述した通り、ガーナの現状として、白ヴ ォルタ川の水温は年々上昇しており、2020 年までには上げ幅が 0.6 度に達すると予測されている。その 結果、川の水が蒸発しやすくなり、現在と比べ流量が約 22%減少すると予測されている。 なお、農業事業者の中には灌漑用ポンプをすでに保持している者も確認できた。多くの人がリョービ 製ポンプを使用しており、約 3 万円で購入したと言う事だった。しかし、干ばつの影響で、乾期になる と水源へのアクセスが限られているという実態も明らかになった。 ②現地における農機の活用実態 農機は中長期にはマーケットのニーズがあり、中国製・インド製の農機の普及は徐々に進んできてい る。他方で、日本の農機普及が進んでいない。理由としてガーナで使用されている中国・インド製の農 機は安価でパーツもソーシングしやすい事に比べ、日本製の農機は価格が高くパーツの調達が難しいと いうことがあげられる。その結果、現地では ODA で流入された日本製の農機具が修理されず故障したま ま放置されている現状がある。ガーナ政府機関の AMSEC(農業機械化サービスセンター)も農機の貸し出し サービスを行っていたが、貸出先からの資金の回収に難を見出し、思う様な成果はあげられていないと いう報告を得ている。 14 ③農業ノウハウの提供可能性 前述した通り、農家でのホームステイを通じて、現地では多くの農業従事者が農作業(草刈り、種ま き、収穫、加工)に関するほぼ全ての作業を手作業で行っていることが分かった。また多くの農家が天 水に頼った農業を行っており、灌漑に関する知識を有していないことが分かった。そのため、事業化の 初期段階においては、まず灌漑にすでに取り組んでいる農家を対象にその灌漑手法の効率化に関する指 導を行うとともに、次の段階として灌漑に取り組んでいない農家に対する指導を行っていくことが効果 的だということが分かった。 ④今後の方針 上記の理由から、まずは大/中規模農場運営者や既に灌漑ポンプを有する農業従事者に対する灌漑ポン プと井戸掘削の組み合わせ提供を行う事業から参入を目指し、順次その後の可能性を模索していくもの とする。 2, タイ規格の中古農機/パーツの提供。 会宝産業のタイ合弁会社である KAIHO THAILAND に協力を要請し、タイ国内で中古農機/パーツを確保 し、ガーナに輸出することに対する実現可能性調査を実施した。下記、タイでの現地調査により、明ら かとなった内容を記載する。 ①タイにおける中古農機の現状 タイでの現地調査により、現地での中古農機分野のマーケットは無い事が明らかになった。日本の農 機を取り扱う販売代理店へのヒアリング調査によって、タイでは農機の新品で購入した農機を修理しな がら動かなくなるまで使いきるのが一般的であり、質の良い中古の農機の転売などは行われていないこ とが分かった。そのため、タイから中古農機をガーナに輸出するためには、中古農機を回収している可 能性がある日本の農機メーカーのタイ拠点との連携が必要になることが分かった。 ②日本の農機メーカーによる東南アジアおよび、アフリカでの中古農機ビジネスの現状 農機メーカーへのヒアリングを行い、東南アジアおよび、アフリカでの中古農機ビジネスの現状と今 後の可能性に関して調査を行った。 日本の大手農機メーカーへのヒアリング結果は以下の通りである。 現在 JICA や ODA の案件で、年間約 100 台の新車耕運機をアフリカへ輸出しているが、中古の販売 は行っていない。 トラクタについては、インド、中国製が価格面で強く、新車で馬力当たり 20 千円~40 千円(日本 は 80~100 千円)の価格差があることから、価格だけの対抗は難しい状況である。 国内の中古農機市場は、新車買い替えに付随した、下取りを扱っており、基本的には新車の販売 拠点が売買することになるが、市場に流れた中古農機(主にトラクタ)が、海外に流通すること もある。 但し、近年の国内モデルは、電子機器が搭載されたものが主流となったので、海外に導入された 場合、今まで以上に部品供給やサービスが課題になると思われ、そうした観点から考えると現在 15 の体制で中古トラクタが販売できるのは、あと 5-10 年に限られると予測される。 一方でタイを始めとして海外に導入したトラクタが、下取りとして中古市場に出てくることも予 想され、それを上手く活用できれば価格面で有利に立つことができると考えられる。 特にタイにおいては、今後中古トラクタの調達元になる可能性を持っており、モデルや馬力帯が 限定されることから、調達やサービスの負荷を減らせると共に、部品の共用(中古からの部品取 り含め)を図れる。そのため今後、近隣国、またはアフリカ等の他地域へ導入することを前提に、 価格体系や仕組みについて、検討してみたいと考えている。 ③今後の方針 モバイルポンプカーのベースとなる軽四トラックは日本での調達を想定しているが、その後農機リー ス事業を展開する際には、ヒアリングに協力いただいた日本の大手農機メーカーと連携した上で、タイ からの中古農機の輸出を再度検討することとする。 3, 中古農機具、パーツの輸入、現地施設の調達、MOFA/AMSeC とのパイプ作り。 会宝産業のガーナ合弁会社である KAIHO GHANA の協力の下、日本、タイから提供される農機/農機パー ツの輸入、保管を行うために必要な情報を収集した。なお、これまでの調査からモバイルポンプカー事 業の推進を前提とした関係構築・体制構築のための調査を行った。具体的には、ガーナの政府機関であ る MOFA/AMSeC と本事業に関する協力関係を構築し、 事業の本稼働に備えるためのヒアリングを実施した。 結果として、MOFA/AMSeC 等の政府機関には、ヒアリングを通じて本事業への協力に関する合意を得るこ とができた。灌漑ポンプやトラックの保管場所、輸送方法に関しては、現在会宝ガーナと詳細を検討中 であるものの、現地ヒアリングを通じて MOFA のアシャンティ州クマシ市における District Director で あり、TESAJ VENTURES の CEO でもある JOHN MANU 氏が協力をしてくれることとなった。そのため、保管 場所、輸送方法に関して TESAJ VENTURES、もしくは MOFA を通じて確保していくこととした。JOHN MANU 氏は、MOFA の幹部としてガーナの環境の変化が農業に与える影響に危機感を抱いており、本事業を高く 評価してくれている。そのため、今後 JOHN MANU 氏を現地パートナー候補として事業化に向けた詳細の 検討を行っていくこととなった。 16 (図 13) ガーナ アシャンティ州 クマシ市 (出典)Google Map. なお、各ヒアリング先との意見交換を通じて、モバイルポンプカーのベースには会宝産業で日本国内 から仕入れる事の出来る中古の軽四トラックを使用し、灌漑ポンプにはリョービ製の物を使用すること とした。ポンプに関しては日本サイドでの中古、新品調達、もしくはガーナ現地調達の 3 手段を検討す る。前述した通り、実際に現地でヒアリングを行う中で、現地の農家で保有されている灌漑ポンプはリ ョービ製の物が多かいことが判明しており、価格は約 3 万円であることが分かっている。なお、井戸掘 削に関しては、ガーナ国環境・科学・技術省の下部組織である EPA(Environmental Protection Agency) が担当してくれることとなっており、35万円/箇所の価格で提供することが可能であることが分かっ ている。EAP はガーナ全土における地質の調査データを保有しているため、効率的な井戸の掘削を行うこ とができる。 4, 賃耕サービス実態についての情報提供マーケットリサーチ 現地ヒアリングを通じて、賃耕サービスの実態と課題を把握することで、今後モバイルポンプカ ー事業を推進する上での課題抽出を行った。ガーナでは MOFA の取り組みとして、2007 年に AMSeC(Agricultural Mechanization Services Center)を発足している。本政策は農業機械化の促進を目 的としたものであり、民間企業を中心に農機の金利無しハイヤーローン体制を用いた農機販売などを行 った実績がある。具体的には、トラクタの価格の 20%を農家が支払い残りの残額は無利子の 4 年ローンで 支払うなどの政策を行った。政策の効果としては、対象となった一部の農業従事者の中には平均農耕面 積を 2008 年から 2010 年の間で 5.3ha から 7.8ha に増加するなどの実績が上がっている。他方で、AMSeC 17 による政策は料金回収の仕組みが不足している現状があり、政策の影響範囲としては MOFA が当初想定し ていた程成果が上がらなかったことがヒアリングによる判明した。ガーナでは輸出業者と小規模農業事 業者などの間では報酬を作物で徴収する事が行われているが、政府機関はそのようなシステムを導入し てはいないため、農業機械化促進においては、こうした料金回収の仕組みを整備する必要がある。料金 回収の仕組みが不足している現状は、ガーナ農村部でのビジネス共通の課題であるため、本事業におい ても、事業化当初においては、比較的支払い能力が高い顧客から事業展開していき、その後栽培した作 物での料金回収の仕組みを構築する等、農村部でのビジネス基盤を整えて行く必要があることが分かっ た。 18 6. 指標(方法論)とベースラインデータ 当プロジェクトの指標には下記のインプット・アウトプット・アウトカムのフレームワークを活用する。 ① 事業展開(インプット) インプットでは当プロジェクトが適応課題にどのような手法や製品を持って取り組むのかを明確にし、 各適応策がいかに実施されるかの目安となる。当プロジェクトではモバイルポンプカーの導入がインプ ットにあたる。 ② 実施結果と成果(アウトプット) アウトプットは当プロジェクトが対象者にもたらす成果と結果であり、それがどのように最終的成果に 貢献したかの指標となる。当プロジェクトでは事業展開がもたらす効率的な農業手法、豊富な知識を得 た労働者などが考えられる。また、それに付随する成果として食糧生産の増加、質の高い作物があげら れる。 ③ 最終的成果(アウトカム) アウトカムは最終的に計測される目標であり、プロジェクトが生み出す対象国への貢献の値である。当 プロジェクトではガーナの食糧問題解決と生活水準の向上があげられ、前述した通りガーナ政府の方針 と合致したものとなっている。 当プロジェクトの評価方法は、下記の方法で進めるものとする。 インプット アウトプット アウトカム 評価方法 1, モバイルポン 1, ポンプ利用による現地 干ばつにより ヒアリング調査 プカーの導入 作物生産量の拡大 被害を受ける 2, モバイルポンプカーの 農業事業者の 2, 従業者のトレ 利用による耕作可能知 脆弱性の解決 ーニング の拡大量 による食糧問 3, 収穫可能時期の拡大 4, 従業者の所得向上 題解決と生活 水準の向上 図14:当事業の評価方法 19 7. 適応対策において今後見込める成果 当プロジェクトの想定する目標値を下図のとおり設定する。 インプット 初年度 2 年目 3 年目 4 年目 5 年目 モバイル ポンプカー 100 台 300 台 800 台 1,500 台 3,000 台 全国 全国 導入地域 アシャンティ州 クマシ市 テチマン テチマン市 周辺 図15:今後見込める成果 初年度はモバイルポンプカーを 100 台準備し、井戸堀工程とセットでアシャンティ州クマシ市にて導 入する。顧客候補は「既に灌漑ポンプを所有しているが、水源へのアクセスが限られている農業事業者」 と「井戸などの水源は確保しているが広大な農地に水を流す手段を持っていない大中農業経営者」とし、 よりニーズに近い製品の提供を目指す。 事業 2 年目には 300 台をテチマン市に導入し、その翌年には周辺の地域に 800 台、5 年目にはガーナ全 国に 3,000 台普及させる事を目標とする。 また、各アウトプットに関しての目標値は下記のとおりである。 アウトプット 目標値 ポンプ利用による現地作物 生産量の拡大 前年比 187% モバイルポンプカーの利用に よる耕作可能地の拡大量 前年比 150% 収穫可能時期の拡大 8 か月→10 カ月 従業者の所得向上 前年比 120% 図16:アウトプットの目標値 ① ポンプ利用による現地作物生産量の拡大 ポンプ散水車を導入する以前と導入後の作物生産量を測定し、何パーセントの増加が見込めたかを測 定する。目標値としては初年度で 187%の増加を目指す。 ② モバイルポンプカーの利用による耕作可能地の拡大量 ポンプ散水車を導入する以前と導入後の耕作可能農地の拡大を測定し、何パーセントの増加が見込め 20 たかを測定する。目標値としては初年度で 150%の増加を目指す。 ③ 収穫可能時期の拡大 ポンプ散水車を導入する以前と導入後の作物収穫可能時期の拡大を測定、何カ月分の増加が見込めた かを測定する。現在ガーナでは 12 月から 3 月までがドライシーズンにあたり、農業活動が全くでき ない農家が多く存在している。現状、8 か月の収穫可能時期を 10 カ月まで引きのばす事を目標とす る。 ④ 従業者の所得向上 ポンプ散水車を導入する以前と導入後の所得向上率を測定する。ドライシーズンには作物の販売価格 が上昇する事と、モバイルポンプカーは輸送手段としても有効活用できることから、前年比 120%の 増加を目標とする。 21 8. 今後の事業計画 今後の事業計画について「ビジネスモデル」と「顧客候補」を整理し、 「収支計画」と「事業化までの スケジュール」を策定した。 1, ビジネスモデル ビジネスモデルとしては、会宝産業が日本にて中古の軽四トラックや灌漑用ポンプを調達する。その 後、現地に MOFA の技術者と AMSeC の協力により、モバイルポンプカーの製造/組み立てを行う。その後、 TESAJ VENTURE を通じて MOFA、大中規模農業運営者、ポンプ所有農家に販売する。また、MOFA の農業ア ドバイザーであり、かつ大規模農業を保有・運営する PAG FARM の Managing Director は近隣のポンプ非 所有農家に対する灌漑サービスの提供を行うことで、適応課題への対応効果を高めることを目指す。 製造/組立 会宝産業 軽4トラック パーツ MOFA 技術者 AMSeC MOFA District Director of AGRI TESAJ VENTURE Mr. John Manu 現地パート ナー 顧客候補 中小規模農 ポンプ所有農家 ポンプカー の販売 大規模農 業運営者 ポンプカーを利用した 灌漑サービスの提供 顧客候補 ポンプ非所有農家 PAG FARM Mr. Apraku Gyau 図17:ビジネスモデル 2, 顧客候補 主要な顧客候補は、大/中規模農場経営者と灌漑ポンプを有する農業事業者とする。この顧客層は気候 変動の影響を深く感じており当プロジェクトのニーズに最も合致すると予測している。大/中規模農場経 営者に関しては 1 人あたり人件費込みで散水車を 1 台提供し、灌漑ポンプを有する農業事業者に関して は 15~20 人程に対し 1 台提供するものとする。なお、ポンプ非所有農家に対しては、モバイルポンプカ ーの直接販売は行わないが、大規模農業経営者を通じて灌漑サービスの提供を行うことを想定している。 ただし、収益性は期待できないため、事業計画からは灌漑サービスの売上/支出は除き、事業化当初に おいては大規模農業経営者が自ら推進する事業に対する支援を行うにとどめる。 提供する製品のスペックは、日本の軽四トラックをベースとしたシャーシに灌漑用ポンプ(リョービ製 を検討中)、散水ホース、貯水タンクを取付け移動式の散水車を製造する。トラックは会宝産業㈱が日本 国内のディーラー、オークション業者、個人などの供給先から収集する事とする。 実際に当社は毎日 40-50 台ほどの車輌を収集しており、その中には 2,3 台の軽四トラックが含まれて いる。軽四トラックは一般的に海外では需要がなく、自動車リサイクル業界ではスクラップ車輌として 扱われているため、買付ける際に他社との競争率が低く、必要に応じて軽四トラックの仕入れ台数を増 22 やす事も可能かと思われる。収集したトラックには会宝産業㈱が加工を施すが灌漑用ポンプ、散水ホー ス、貯水タンクは日本サイド、ガーナサイドどちらで収集するかは検討中である。 モバイルポンプカーの販売網は、環境/穀物保護製品の貿易を手掛ける TESAJ VENTURES の JOHN MANU 氏が MOFA の District Director としての人脈を活かして構築する予定である。また、末端の農業事業 者に提供するモバイルポンプカーを活用した灌漑サービスに関しては、MOFA アドバイザーであり、大規 模農園と肥料・種子の販売事業会社 PAG FARM を経営する Apraku Gyau 氏がサービス提供網の構築を行 う。 顧客候補 ニーズ 利益取得可能 提供製品 MOFA 気候変動対策 △ 灌漑ポンプ/ モバイルポンプカー 大中農場運営者 広大な農地での 灌漑設備 ○ モバイルポンプカー 灌漑ポンプを保有 する小規模農業従 事者 長期間活用でき る井戸 △ 井戸掘り(水源確保) モバイルポンプカー 灌漑ポンプを保有し ない小規模農業従 事者 灌漑サービス *乾期は農業を 行わない × 大規模農業従事者を 通じた灌漑サービス 図18:顧客候補 23 3, 収支計画表 5 カ年の収支計画については下記のものとする。 図19:収支計画 収支計画の要旨としては、製品販売価格は 150,000 円,原価は 105,000 円とし単純に計算すると 1 台あ たり 45,000 円の粗利が算出されるものとする。 その他に現地でのポンプカーの販売、組み立て、搬出、メンテナンスなどを考慮し作業員を雇う事と し、1 人当たり数台のモバイルポンプカーを担当する事とする。ガーナ現地でのヒアリングによれば、ガ ーナの公務員 1 人の平均年収が日本円で約 300,000 円と言う事から、同額を 1 人に対する人件費として 設定した。 加えて、その他の一般管理費として修繕にかかるパーツの購入費などとして 7,500 円をポンプカー1 台 24 あたりに確保、固定費として算出する。 ① 初年度 事業資金としては 25,000 千円を設定し、初期投資に利用する。初年度は 100 台ポンプカーを導入、 総売上は 15,000 千円(150 千円 x100 台)とする。原価合計は 10,500 千円(105 千円 x100 台)、固定費とし て人件費は 3,000 千円(300 千円 x10 人)と仮定し、管理費は 750 千円(7,500 円 x100 台)とする。単年度 利益は 750 千円を目標値とする。 ② 2 年度 2 年目は 200 台ポンプカーを追加導入(合計導入数 300 台)し、総売上は 30,000 千円(150 千円 x200 台) とする。原価合計は 21,000 千円(105 千円 x 追加分 200 台)、固定費として人件費は 4,500 千円(300 千円 x15 人)と仮定し、管理費は 2,250 千円(7,500 円 x300 台)とする。単年度利益は 2,250 千円を目標値とす る。 ③ 3 年度 3 年目は 500 台ポンプカーを追加導入(合計導入数 800 台)し、総売上は 75,000 千円(150 千円 x500 台) とする。原価合計は 52,500 千円(105 千円 x 追加分 500 台)、固定費として人件費は 9,000 千円(300 千円 x30 人)と仮定し、管理費は 6,000 千円(7,500 円 x800 台)とする。単年度利益は 7,500 千円を目標値とす る。 ④ 4 年度 4 年目は 700 台ポンプカーを追加導入(合計導入数 1500 台)し、総売上は 105,000 千円(150 千円 x700 台)とする。原価合計は 73,500 千円(105 千円 x 追加分 700 台)、固定費として人件費は 15,000 千円(300 千円 x50 人)と仮定し、管理費は 11,250 千円(7,500 円 x1,500 台)とする。単年度利益は 5,250 千円を目 標値とする。 ⑤ 5 年度 5 年目は 1,500 台ポンプカーを追加導入(合計導入数 3,000 台)し、総売上は 225,000 千円(150 千円 x1,500 台)とする。原価合計は 157,500 千円(105 千円 x 追加分 1,500 台)、固定費として人件費は 22,500 千円(300 千円 x 75 人)と仮定し、管理費は 22,500 千円(7,500 円 x3,000 台)とする。単年度利益は 22,500 千円を目標値とする。 25 4, 事業化までのスケジュール 事業化までのスケジュールに関しては下記の計画に基づいて行うものとする。 2015年 2016年 2017年 2018年 4月~ 7月~ 10月~ 1月~ 4月~ 7月~ 10月~ 1月~ 4月~ 7月~ 10月~ 1月~ 4月~ 7月~ 10月~ 6月 9月 12月 3月 6月 9月 12月 3月 6月 9月 12月 3月 6月 9月 12月 プロトタイプ開発 プレパイロット準 備 プレパイロット パイロット準備 パイロット 事業計画見直し 事業化 図20:事業化までのスケジュール 事業化の計画は①モバイルポンプカーのプロトタイプ開発、②プレパイロット準備、③プレパイロッ ト実装、④パイロット準備、⑤パイロット実装、⑥事業計画の見直し、⑦本事業化の 7 フェーズに分け てそれぞれ上記の表の時間軸に基づき進めるものとする。農業に関連する事業であるため、プレパイロ ット・パイロットの成果を検証するのにそれぞれ 1 年の期間が必要となる。そのため、事業化は 2018 年 下期に行うことを想定している。 なお、過去のアフリカでの事業立ち上げ経験から、アフリカでは事業計画通りに事業立ち上げが進む ことはまれであり、最悪の場合政府の政策変更リスクによって、事業化自体を見合わせなくてはいけな くなる可能性が出てくる。そのため、こうしたリスクを避けるために、本事業においては、今後並行し てカンボジアでのモバイルポンプカー事業の立ち上げ可能性についても検討を行っていくこととする。 カンボジアにおいては、JICA の支援を受けて、リネットジャパングループ株式会社(旧:ネットオフ株 式会社)が農業機械化の促進を目的とした農機リース事業を立ち上げており、現在事業の黒字化を目指 した事業展開を行っている。そのため、リネットジャパングループを通じたカンボジアでのモバイルポ ンプカーのプレパイロットの実施に関しても現在同様に検討を進めている状況である。なお、カンボジ アの NAPA においても重点施策の中に、 “Development and Improvement of Community Irrigation Systems” という灌漑の普及を目的とした施策が存在しており、本事業との親和性が高いと考えられる。 26 9. 対応すべき課題と対応策 今後の事業を進めていく上での課題は下記のとおりである。 ① 現地製造体制の確立。 散水車に使用する軽四トラックや灌漑ポンプはガーナへ輸入した後に現地で組み立てるものとしてい るが、その際の製造管理体制の構想がまだ確立されていない。日本サイドである程度組み立てやすい構 造にしておく必要があるが、それも含め現地スタッフへのトレーニング等が課題として残されている。 現地の状況として、自動車関連の修理や整備等を行う業者は多数あり、車輌の知識や、技術に関しては 一定のレベルまでは見込めると予測している。 解決策としては、会宝産業㈱が保有している国際リサイクル教育センター(IREC)へガーナ現地のパー トナー候補を招聘し、散水車組み立て研修の技術研修を実施するものとする。IREC では JICA の国別研修 事業で 2013 年 5 月 6 日~2013 年 7 月 26 日にかけて、22 人のナイジェリア人(主に、採用候補者、関連 政府関係者)を会宝産業の運営・管理する IREC に招聘して、技術研修を実施した実績もあり課題解決策 として貢献できると予測する。 ② 農業バリューチェーンの他の構成要素への対応。 当プロジェクトの施行後、実際に食物の収穫量が増加して、余剰分を販売に回せるようになったとし ても、食物を販売できるバリューチェーンが構築されていなければ、生産拡大の恩恵を受ける事は困難 になる。現に、ガーナの小規模農家の実態として、今まで余剰分に回せるほどの作物収穫量が見込めて いなかった事もあり販売手法は、一部の輸出業者と関わりのある農業事業者にしか確立されていない。 解決策としてはパートナー候補である、貿易事業を営む JOHN MANU 氏や外資、食品企業などの巻き込 みを図り、国内外への物流および販売ルートを確立していく。また、収穫後の食物の劣化を防ぐための 一次加工の手法についても検討していく。イギリスのビール会社である SAB ミラーはガーナへ参入し移 動式のキャッサバ加工トラックを導入している。誰もが手軽に無料でキャッサバを加工でき、支払いは 加工されたキャッサバで行うという WIN-WIN のビジネスモデルを作り上げている。こうした状況を踏ま え、日本企業も含めた外資の食品企業を顧客にし、安定的な収益を確保できれば、次の展開としている 農機リース事業の展開までに必要な期間も短縮することができると考えられる。 ③ 初期投資を行えない顧客層への対応。 ガーナでビジネスを行う最大の課題の一つとして、資金の回収があげられる。前述にもあったように AMSeC が導入した農業機械化推進プロジェクトは、貸出しや賃耕を行ったサービス利用料を現金で回収で きない現実が課題となり思うように成果があげられずにいる。実態として作物を現金の代わりに提供し、 物々交換のような形で成り立っているビジネスが多数ある事もヒアリングにより明らかになっている。 対応策としては、まずは大規模農園の領主などすでにある程度安定した収入を見込める顧客から提 供を始め、現金での回収を見込めるようにする。そして、その後の作物の販売ルートや品質チェックの 仕組みを含めた農業バリューチェーンを構築した後に、農業従事者への提供時には作物での支払い形式 を検討するものとする。 27 平成 26 年度「途上国における適応対策への我が国企業の貢献可視化に向けた 実現可能性調査事業」最終報告書 コンソーシアム名または企業・団体名 川崎地質株式会社 事業名 タイ国における気候変動に伴う土砂災害の増加に対する 防災・減災事業と大メコン圏諸国への適用 提出日 2015 年 2 月 20 日 1. 本事業の目的 (1)背景 日本と経済的な結びつきの強い大メコン圏地域においては、元来熱帯特有の気候(熱帯モンスーン) に起因した脆弱な地盤となっており、特に雨期には、国境付近の山岳地域を中心に地すべりや崩壊の多 発地帯となっている。近年では、気候変動に伴う全世界的な集中豪雨の増加により、洪水や土石流、斜 面における地すべりや崩壊などの自然災害が頻発している。平野部では、排水能力を超えた豪雨により 洪水や河川の氾濫を招き、山間部では、深層崩壊に代表される大規模な斜面災害が発生し、多くの住民 や財産に被害を与えている。また、山地部における土砂災害によってせき止められた地すべり、ダムの 決壊に伴う下流部での土石流災害や洪水災害なども大きな問題となっている。さらに、2011 年にタイ国 で発生した洪水被害では、サプライチェーンの寸断により日本のみならず世界経済にも大きな影響を及 ぼしており、災害に強い経済回廊の整備・構築に関しても我が社が有する防災・減災技術の展開は、日 本国企業の円滑な経済活動にとって極めて有用な技術と考えている。 平成 25 年度「途上国における適応対策への我が国企業の貢献可視化に向けた実現可能性調査事業」で は大メコン圏経済回廊整備・構築に向けた我が社の防災・減災技術の適用性について調査を行った。そ の中で、大メコン圏諸国においては、タイ国を除いて土砂災害危険箇所の事前把握、災害の未然防止、 減災など防災に対する知識や意識が乏しく、ほとんど対策がとられていないことがわかった。そのため、 本年度は対象地域をタイ国に絞り、防災・減災事業を大メコン圏全体に展開していくためのビジネスモ デル構築を行う。 (2)本事業の目的 平成 24 年度及び平成 25 年度の FS 調査で実施してきたベトナム国を中心としたその周辺地域での地 すべり調査、測量、設計におけるパイロット事業を通じた調査から、次のことを確認した。 川崎地質が保有する土砂災害全般におけるソフト・ハード面でのノウハウや技術、機器性 能は、地形や気候的でのニーズから大メコン圏諸国で有用。 大メコン圏においては防災・減災の意識や知識が低く、災害後の事後対応が主体。 防災・減災事業展開において、資金・人材・技術の全ての面で課題がある。 大メコン圏諸国でタイ国は防災・減災意識が高く、経済的発展も著しく、FS 調査の実施 が有用。 1 タイ国では、早期警戒システムが構築されているが、効率良く機能していない。 以上のことから、本年度の FS 調査においては、対象国をタイ国に絞り、早期警戒システムの精度を向 上し、ニーズに合ったシステム開発要件を明確化し、事業を展開していく際の体制を検討する。さらに、 タイ国での事業展開を成功事例として、防災・減災技術をパッケージ化し、大メコン圏への展開を目指 す。 2 2. 課題 (1)対象国における土砂災害の現状 前述の通り、タイ国及び大メコン圏周辺の近隣諸国では、元来熱帯特有の気候(熱帯モンスーン)に 起因した脆弱な地盤となっており、特に雨期には、国境付近の山岳地域を中心に地すべりや崩壊の多発 地帯となっている。こうした脆弱な地盤に加えて、山岳地における森林破壊や地球温暖化に伴う世界的 な気候変動の影響による降雨量の増加が、更なる自然災害の素因となっていると言える。 タイにおいては、2011 年 8 月から 12 月まで続いたチャオプラヤ川の大洪水が記憶に新しい。この大 洪水では、農地だけでなく、日系企業が多く入居する工場団地やバンコクなど都市部も含む広範囲に浸 水被害をもたらし、浸水被害面積 29,560 ㎢、死者 815 名、被害者総数 1360 万人という被害をもたらし た1。 (図 1:タイの洪水被害県マップ) 図 1: タイの洪水被害県マップ2 1 出典:JETRO「特集:タイ洪水復興に関する情報」http://www.jetro.go.jp/world/asia/th/flood/archive/#higaiken(2015 年 1 月閲覧) 3 タイの洪水被害の様子や、国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)のデータなどを見ると、 2011 年に起こったタイの大洪水における被害の多くは、4 支流(ピン川、ワン川、ヨム川、ナン川)が 合流するナコンサワンや、パサック川が合流するアユタヤで起きていることがわかる3。支流が合流する 地点での被害に加えて、亡くなった人の多くが、山間部の鉄砲水での被害者(3%)なのに対して、83% が溺死していることも、タイの洪水の特徴と言える4。 (2)大洪水から見えてきたタイ国における主な課題 こうしたタイにおける大洪水災害による被害が大きくなった原因として、大きく 2 つの点をあげるこ とができる5。 まず、第一に「管理体制」に関わる問題がある。管理体制に関しては、多くのメディアや市民の不満 もあがることになったタイ国政府の対応の遅さという結果をみると明らかである。この背景には、情報 収集する体制やインフラが整っていなかったことや、中長期での自然災害に対する予算編成がされてい なかったことなど、様々な背景が見える。 第二に、インフラ整備や地形の問題など「物理的環境」の問題があげられる。洪水を防止することに も役立っていた森林の伐採問題や、ダムや水路の確保、更に言えば都市計画などの問題にもつながる課 題である。 本調査では、タイ国が抱える大きな課題の 2 つのうち、特に 1 つ目に関して対応できると考えている 早期警戒システムの必要性、実現性、及び普及可能性について検討していく。 3 UNESCAP によると、ナコンサワンでは 62 人、アユタヤで 90 人の犠牲者が出ている。 (当時のデータベースを検索す るも web 検索として出てこなかったため、データは「2011 年タイ大洪水〜混乱した政府の防災情報と放送局の役割〜」 (NHK メディア研究所 田中孝宜)を参考。 https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2012_07/20120702.pdf) 4 参考: 「2011 年タイ大洪水〜混乱した政府の防災情報と放送局の役割〜」 (NHK メディア研究所 田中孝宜) 5 参考:Building National Resilience in the Context of Recovery from Thailand Flood 2011 , Ladawan Kumpa(Office of National Economic and Social Development Board, NESDB) 4 3. 課題解決の方向性 (1)3 つの既存プロジェクトをパッケージ化することによる課題解決の方向性 タイ国における大きな課題の 1 つである、 「管理体制」のためには、より正確な情報を、より迅速に、 適切な担当者に届けるということが大きな鍵となる。そのために、弊社でこれまで携わり開発してきた 3 つの技術及びプロジェクトを統合しながら、ビジネスモデルを検討することで、タイ国にあった早期警 戒システムを構築できるのではないかと考えている。 ①衛星データを活用した新たなビジネスソリューション構築(概念図:緑色部分) 「衛星画像を活用した資源・インフラプロジェクト開発支援システムの構築による新興国コンサルテ ィグビジネスの促進」 (宇宙航空研究機構第一衛星利用ミッション本部衛星利用促進センター;衛星デー タを活用した新たなビジネスソリューション構築のためのパイロットプロジェクト)で活用された衛星 によるハザードマップ作成の技術を適用する。 ②途上国で適用可能な早期警戒システム開発(概念図:黄色部分) 平成 26 年~27 年における弊社調査開発研究事業で行っている「途上国で適用可能な早期警戒システ ム開発」のプロジェクトで検討した GNSS(Global Navigation Satellite System:全地球航法衛星シス テム)を用いた安価かつ高精度な土砂災害早期警戒システムの活用を検討する。 以前行ったプロジェクトでは、既存の防災システムの展開と同時に、現地研究機関や企業と共に今後 の大メコン圏へ拡販可能な新たなシステムの構築を検討している。大メコン諸国において、ハード、ソ フトの開発、製造、販売、現地企業への技術供与、技術移転から得られるサービスフィーによるビジネ スをモデルとして、土砂災害における防災・減災技術サービスをパッケージ化することを検討した。こ のプロジェクトでは、GNSS を用いた安価かつ高精度な土砂災害早期警戒システムを開発することによ って、本 FS 調査をフォローし、途上国において,現地生産・販売・維持管理が容易な簡易土砂災害警戒 システムの機器開発を行い、ビジネスモデルの構築を行うことを目的とした。 すなわち、大メコン圏域において、川崎地質が有している既存の防災システムを適応可能なシステム としてリメイクし、大メコン圏へ拡販可能な新たなシステム構築を目指す。最大の技術的特徴は,新た な機器開発ではなく,既往の技術を用いたビジネスモデル構築にある。本調研業務では、これらの問題 点を踏まえた上で、途上国に継続的・持続的に運用可能な既往システムのハード、ソフト両面でのリメ イクを行う。 ③タイ国でのアライアンス企業の確保(概念図:赤色部分) 上記 2 つのプロジェクトから、タイ国で事業を行う際には技術を含めた開発について現地企業と提携 を行うことが非常に重要であるということがこれまでの調査でわかっている。そのため、弊社が保有す る技術及びサービスを、現地で展開していくために必要なアライアンス企業を探し、提携を結ぶ前段階 まで議論を進めることが重要である。 5 図 2: 途上国に適用可能な汎用土砂災害早期警戒システム概念図 H26 年 JAXA 業務 『衛星データを活用した新たな ビジネスソリューション構築のた めのパイロットプロジェクト』 タイの同業コンサルのス キル調査、アライアンス の可能性調査 土砂災害ハザードマップの作成 別途 JAXA 業務とリンク 土砂災害ハザードの 抽出・特定 予知・予測 H26 年 JAXA 業務 『DAICHI』衛星画像解析 ハザードの自動抽出技術 中日本航空・五大開発 AHP Method (階層分析法) ハザード優先順位 の決定 地質図等の入手 平成 25 年度「途上国における適応対策への我が国企業の貢献 可視化に向けた実現可能性調査事業」でニーズ調査を実施済み・ タイでの防災システムを再調査 クライアント(中央政府・地方政府・民間企業) 技術の提供 エンドユーザー(地域コミュニティ) サービスの提供 これらの企業のリサーチ、選定が今年度 「途上国における適応対策への我が国企 業の貢献可視化に向けた実現可能性調 査事業」の主な FS 調査項目 汎用早期警戒システム設計・開発 (日本側企業コンソーシアム) 現地アライアンス企業 ①センサー開発 (GPS,IT 傾斜計,土壌水分計) 土石流センサー ②通信システムの開発 (モバイル通信・Wi-Fi) 平成 26 年度「途上国における適応 対策への我が国企業の貢献可視化 に向けた実現可能性調査事業」 ビジネ スフィー ③データ解析 モジュールの開発 システムの販売 ④早期警戒通報システムの開発 (クラウド型) 川崎地質(株)自社研究開発 『途上国における汎用可能な簡易 土砂災害警戒システムの開発』 ハードの製造 システムの 維持管理・運営 ・タイでの防災クラウドはどの程度進んでいるのか? ・タイでの携帯電話の周波数は?法的制約は? ・タイでの広域アメダスはどうなっているのか? ・タイ政府と JAXA 連携による衛星防災システムでは? 6 (2)検討するビジネスモデルを実現するために解決すべき課題 ①アライアンス企業の確保 1) タイ国において機能面・価格面で適用可能なシステム開発(ハード・ソフト)及びセンサーを生 産するパートナー企業・アライアンス企業の確保 2) タイ国内におけるクライアントへの売り込み、販売拠点の確保 3) タイ国におけるシステムの運用、維持管理を行うパートナー企業、アライアンス企業の確保 (※防災・減災システムをパッケージとして運用できるだけの経験と実績のある企業の有無) ②技術移転の方法、ビジネスフィー(ロイヤリティ)の確保及びそのシステム構築 1) 計測結果のコンサルティング能力のサポート 2) 持続的な収益確保につながるサービス提供 (3)課題解決をするためのパイロット実施地域とその地域における技術的課題 既にタイ国政府機関 HAII(Hydro and Agro Informatics Institute)および DMR(Department of Mineral Resources)等で研究開発されているシステムを補い、広域で整備が可能なシステム構成を構築 する。 ①検証地区 検証地区は、HAII もしくは DMR のテストフィールド で行うこととする。具体的には、タイ北部のプレー県及 びウタラーディ県の地すべり、ダムサイト貯水地や地す べりなどの場所を想定している。また、実証実験は、 HAII との共同実験とする。 ※右図の赤丸で囲っている辺りが対象地域6 ② 実証実験における技術的な課題を整理 実証実験を実施するにあたって、検討しなくてはならな い技術的な課題は、主に以下 3 点である。 雨季の対策、気圧変動による機器への影響、精度 への影響 通信設備の問題 その他現地環境に対する適応条件など 6 地図は、JETRO タイの web 掲載の地図を利用の上、筆者が赤丸を追記。 http://www.ide.go.jp/Japanese/Research/Region/Asia/Thai/index.html 7 4. 調査項目 (1)早期警戒システムの現状調査 タイ国における土砂災害に対する防災・減災対策の中でも、早期警戒システムの現状について調査を 行う。特に、誰が(どの組織が)/何を(どのようなデータを収集し)/どうやって(どのようなシス テム、機器を使って) 、現在の早期警戒のシステムを構築しているのかについて、関連機関にヒアリング を行う。 (2)早期警戒システムの課題調査・分析 なぜ現状のシステムが機能しきれていないのか、関係ステークホルダーにヒアリングを行う。ヒアリ ングの結果を、ヒト/モノ/カネ/知識・情報に分類し、課題を分析した上で、関係各者のニーズがど こにあるのかを整理する。 広域的なシステム整備を行う上で、GNSS を活用する。なお、GNSS を用いる際に必要となるタイ国に おける基準位置の設定、通信インフラおよび電力事情について課題抽出を行い、対応策について検討す る。 (3)システム要件の明確化 上記(1)と(2)を受けて、タイでのシステム開発に必要な要件を整理、明確化する。 (4)システム開発の方向性検討・決定 要件定義を行った後、システム開発及びそれに必要なハード・ソフト面でのコンポーネントを誰に/ どのようなスペックでお願いをするのかを検討・決定する。 (5)システム実用にあたっての外部要件調査 システム実用にあたって、どのような外部要件が前提となるのか改めて整理し、今後実証実験を行う 際の検討項目の整理を行う。 (6)事業計画策定・関係者と協議 ビジネスモデルを具体化し、タイ国で今後実証やシステム開発を行う際に連携する関係者と方向性に ついて議論して事業実施体制を固め、事業計画を策定する。 8 5. 調査結果 (1)早期警戒システムの現状調査 ①広域的に整備された洪水災害や土砂災害など早期警戒システムのニーズ HAII、NIDA およびエスリタイランド等からのヒアリングにより、2011 年大規模洪水災害の時に、日 本政府支援のもと洪水に伴う防災・減災システムの構築が図られ、ONWF(Thailand's Office of National Water and Flood Management Policy)により開発・運用されたが、 「喉元過ぎれば熱さ忘れる」で持続 的・継続的に防災・減災情報をアップデートし、システムを運用していく政府機関への引き継ぎや予算 確保もされていないため、現在では機能していないことが判明した。 ②ONWF による携帯電話アプリを用いたタイ広域洪水早期警戒システム 土砂災害国においても早期警戒システムは行政機関や大学などで研究や開発が行われており、試験的 に適用されている事例はあるが、実用レベルに達していなかったり、広範囲に普及できていない問題が ある。活用についても、いまだに政府機関や研究機関に委ねられているのが現状であり、早期警戒シス テムの構築・運用がビジネスとして確立されていない。 早期警戒システムは、高度な行政機関において構築を行っており、高価なものである。したがって、 安価で広範囲に適用可能なシステムの開発と普及が課題である。今回の事業計画では、これらの機能を 満足させ、しかも安価で精度の高いシステム提供を目的とし、事業化を目指す。現在、我々が所有する 日本の技術を性能面で維持しつつ、低価格化することで、タイ国や大メコン圏地域に適用可能なシステ ム開発を進め、事業化を目指す。 タイ国では、現時点で雨量計、ひずみ計、傾斜計、間隙水圧計を用い、携帯電話を用いた地すべりな どの土砂災害に対する早期警戒システムは存在するが、それらを製品として広範囲に普及、運用可能な 経験や実績のある建設コンサルタントなどの組織が存在していない。だからと言って、日本の製品の及 び日本型システムを転用・流用させることは、価格面で大きな課題となっているため、性能面・精度面 を維持しつつ、大幅な低価格化を目指す取り組みが必要である。しかし、 「3.課題解決の方向性(1) 」 に示した現在実施しているプロジェクトにおいて新たに開発している GPS 機器と通信システムを用い ることにより、問題の解決に向けて技術的な面で目処がつきつつあり、本事業への適用・活用が可能と なる見込みである。 特に地すべりや土石流(及び洪水)などの土砂災害は、タイ国北部や南部の山岳地域や山間部地域に 多く発生しており、その地域は洪水災害が問題となっているバンコク近郊と異なり人口が少ない所が多 い。したがって、タイ国政府もその土砂災害への対策が後手に回り、対策への予算も少ない場合が多い。 ③各機関へのヒアリング結果 雨量については、HAII などの機関によって雨量計を使った監視が自動化されている。日本では一般的 に用いられている地盤伸縮計、パイプ歪計を用いた監視が行われているが、タイ国では日本のようなコ ンサルタントなど民間企業が介在していないということから、HAII などの国の機関が開発し、設置して 9 いる状況にある。以下 HAII、NIDA、DNP、セコムタイランドへのヒアリングおよび既存文献調査から わかった項目について記述する。 地すべりや土石流などの監視状況について。また、DNP(Department of National Park, Wildlife and Plant Conservation)が管理するプレー県での現地調査の結果。 地域代表者による目視によって、地域コミュニティへの監視が行われている。 1) NIDA、DNP 及びセコムタイランド 洪水などの予知・予測、監視日本政府支援のもと、ONWF より開発・運用されたが、持続的・ 継続的に防災・減災情報をアップデートし、システムを運用していく政府機関への引き継ぎも されず、予算確保もされていない。そのため現在では機能していない。ただし各中央行政機関 (HAII)などにより、雨量や河川水位などの監視は行われている。洪水の予知・予測は限定的 で、システマテックに行われていない。正確な情報提供がなされていない。 2011 年の洪水災害では、アユタヤやバンコク近郊の日系大規模工場の多くが被災したが、当 時正確でかつリアルタイムの情報提供がされなかった。これらの大規模工場のニーズとして正 確かつリアあるタイムでの情報提供、予知・予測への期待が大きい。 2) 在タイ日本大使館、エスリタイランド及び CDG グループへのヒアリング 電力供給公社などが保有するダム堤体の変状監視、貯水池地すべりの監視や、道路インフラに おける道路斜面構造物、橋梁構造物などの変状などの監視など、ダム・道路インフラにおける 維持管理が効率的に行われていない。また、ゼネコンなどによる施工中の安全管理や自動化施 工への応用が必要。 ヒアリングの結果から、タイ国の防災に関わる主なアクターのニーズや課題を、次のように整理した。 アクター (クライアント候補) ニーズ 課題 ■地すべり危険箇所や土石流危険 土砂災害は地方都市に多く、予 箇所の抽出(ハザードマッピング) 算処置が困難。都市部に波及す 行政機関(国・地方自治体) ■安価な早期警戒避難システムの る洪水災害と関連したシステム 構築。地域コミュニティに対する 構築が必要。 啓蒙、教育活動 電力供給公社(ダム管理) ■ダムの維持管理における堤体変 電力供給公社における現状につ 状の監視。ダムサイト内貯水地内 いてさらに調査が必要。現時点 地すべりの監視および動態観測 では目視、一般的な測量により 監視が行われているため、非効 率的で精度も低い。 10 その他民間企業 ■正確な洪水などの自然災害の予 前者の洪水予測に関してはタイ 知・予測に関するリアルタイム情 政府機関との連携が必要。後者 報の提供→特に自動車、家電製品 についてはゼネコンや建設重機 製造など日系大規模工場 メーカー、レンタル会社への売 ■道路などインフラ整備における り込みが必要。 自動化施工、盛土など沈下管理、 施工中の安全管理における動態観 測 ④各分野におけるサービスの資金源や現状 タイ国においては、既にいくつかの情報提供サービスが実施されている。それぞれのサービスが、どの ような資金源でどのような内容の情報を提供しているかについて、以下に整理した。 分野 資金源 内容 主な実施組織 住民向け 公的資金 被害想定区域に住宅が含まれる場合を想定し、防 国、自治体 サービス 災システムを地滑り地帯全域に設置し、情報提供 を行う。 公共インフラ向け 公的資金 サービス 幹線道路が被害地域となる場合を想定し、防災シ 道路事業者 ステムを道路に影響を及ぼす地域に設置し、情報 提供を行う。 工事事業者向け サービス 民間資金 道路工事や造成工事など土木工事の現場で災害 工事会社 が発生することを想定し、防災システムを工事が 影響する範囲に設置し、情報提供を行う。 (2)早期警戒システムの課題調査・分析 早期警戒システムの課題調査から、以下主に 3 つの知見が得られた。 早期警戒システムに用いる GNSS の精度管理として、位置の基準となる参照点(GPS 連続観測点: CORS(Continuously Operating Reference Stations))の整備は重要である。したがって CORS の整備状況調査を実施したが、26 地点しか整備されておらず、かつ複数の政府機関の管轄で整備し ていることから実用レベルではないことを把握した。ちなみに日本における整備状況としては国土 地理院が日本全国に約 1300 地点配置し、システマテックに運用されている。したがって、タイ国に おける GNSS を用いた早期警戒システムの運用にあたっては、設置する箇所別に GNSS 本体による 精度管理を実施し、ソフトウェアによる補正を行うことで高精度化を目指す。 衛星測位を利用した場合、精度低下の要因となりうる降雨、電離層遅延などの影響が懸念されてい るため、現地観測実験を行い、顕著な精度低下の影響がないことを確認した(2014 年 12 月 17 日及 び 18 日の現地観測実験により確認済) 。 11 (3)システム要件の明確化 システム要件の検討にあたり、次の要素を検討すべきことが明らかになった。詳細のシステム要件に関 しては、今後システム開発検討の中で、詰めていく予定である。 早期警戒システムは衛星測位システムを核として構築する。 本システムによる監視項目は、地すべりの挙動、土砂ダム湛水域の水位、土砂ダム下流側における 土石流監視とする。 システムの構成は、衛星測位システム(GPS+GLONASS) 、設置エリア内通信装置(Zig Bee)、 解析センターへの通信装置(Mobile WiFi)、解析センター(クラウドサーバー)、ユーザー端末(PC、 スマートフォン、タブレット端末)とする。 公共事業における利活用に応用する。 防災・減災面での活用だけではなく、インフラなど社会資本の維持管理、資産管理にも活用する。 建築・建設関連分野だけではなく、農業分野、娯楽ビジネスへも適用する。 日本国内への逆輸入を実施する。 (4)システム開発の方向性検討・決定 システム開発の総合的な検討は、当社と株式会社ジェノバ(日本国)が共同で担当する。現地へ設置 するハード開発および材料調達・生産までを、株式会社デジタルコンテンツタイランド(タイ国)が担 当する。 ユーザーへ警戒情報を提供するコンテンツは、日本側企業コンソーシアム企業五大開発株式会社(日 本国)が担当する。 (5)システム実用にあたっての外部要件調査 通信インフラの確保としてタイ国内最大手通信事業者(AIT 社)で通信エリアについて確認した結 果、タイ国全土で 2G 回線(通信速度 9.6kbps)がカバーされていることを把握した。ただし、エ リア図が無いため、実運用では設置フィールドにおける通信状況の確認が必要となる。 KDDI タイランドへのヒアリング結果より、本システムの運用にあたっては、現地通信事業者と連 携が必要不可欠である。したがって、KDDI タイランドが有する現地通信事業者とのコネクション の活用が重要となる。 (6)事業計画策定・関係者と協議 センサーの現地開発および生産を行う現地企業として「株式会社デジタルコンテンツ(タイランド) 」 社を選定した。同社は、タイ国内で自動車メーカー、通信会社、商社などのシステム開発および生 産業務を実施しており、多くの実績がある企業である。 クライアントへの営業・販売・運用については、タイ国建設関連企業、地形測量関連企業及び全国 展開する日系大手警備会社とビジネスモデルの構築について協議および調整を行っている。また、 全国展開する建設重機レンタル会社に、タイ国内の企業情報を収集するよう委託した。 ※詳細は、 「今後の事業計画」にも記載。 12 6. 指標(方法論)とベースラインデータ (1)評価指標 (2)インプット 画像解析による危険地形の抽出実施面積 現状値 国土面積の 0% 目標値 国土面積の 5% 災害警報システムの設置 現状値 国土面積の 0% 目標値 国土面積の 5% リスク評価を受けた地域の斜面対策工事数 現状値 今後の実施件数を評価対象とするため 0 件とする。 目標値 抽出危険地形箇所の 20% (3)アウトプット 危険斜面箇所の把握 現状値 事業実施により設定するため 0 箇所とする。 目標値 現状値確認後に設定 13 ハザードマップ提供数 現状値 今後の事業実施件数を評価対象とするため 0 箇所とする。 目標値 国土面積の 5%(6 か所程度) 災害警報システムのカバーする面積 現状値 国土面積の 0% 目標値 国土面積の 5% 災害警報システムのカバーする地域の居住者数 現状値 0人 目標値 事業実施地域の 80%をカバー 斜面対策工事実施済道路総延長 現状値 今後の実施件数を評価対象とする 目標値 工事実施地域の主要国道、省道の 20% リスク評価を受けた地域の居住者数 ベースラインデータ 0 人 目標値 事業完了年の人口の 3% リスク評価を受けた地域の斜面対策工事数 前述 リスク評価を受けた危険地域からの移転者数 現状値 0人 目標値 リスク評価を受けた危険地域の居住者の 60% 災害警報システムにおける避難者数 現状値 0人 目標値 警報システム範囲の被災可能性のある住民の 60% 道路の斜面災害による不通件数 現状値 リスク評価後の工事実施個所数 目標値 工事実施箇所数の 10% 斜面対策工事指針による工事実施者数 現状値 指針に基づく斜面防災工事従事者数 目標値 斜面防災工事従事者の 30% (4)上位アウトカム (下記数値は昨年度 FS 調査より抜粋。2004-2013 の平均値を 5 年分累計したもの) 被災による死亡者数 ベースラインデータ 1,330 人 目標値 931 人(ベースラインデータの 30%減) 被災による経済損失 ベースラインデータ 2,750 百万ドル 目標値 1,925 百万ドル(ベースラインデータの 30%減) 14 被災者数 ベースラインデータ 7.08 万人 目標値 4.96 万人(ベースラインデータの 30%減) 15 7. 適応対策において今後見込める成果 (1)今後見込める成果の概要 平成 24 年度及び 25 年度の「途上国における適応対策への我が国企業の貢献可視化に向けた実現可能 性調査事業」の中で実施したベトナム国ラオカイ省やラムドン省の地すべり調査、測量、設計における パイロット事業及び大メコン圏経済回廊地域での防災・減災調査を通じた実現可能性調査の成果を元に し、本公募事業では大メコン圏域において防災・減災技術に対する意識が最も高く、最も経済が成長し ているタイ国において、様々な既存の防災システムの展開と同時に、現地研究機関や企業と共に今後の 大メコン圏へ拡販可能な新たなシステム構築を目指す。 さらにタイ国での事業展開が成功することを前提として、近隣の大メコン諸国での役割分担を行い、 ハード、ソフトの開発、製造、販売、現地企業への技術供与、技術移転から得られるサービスフィーに よるビジネスをモデルとして、土砂災害における防災・減災技術サービスをパッケージ化する。このよ うな事業展開によって、我が国企業をはじめ日本国企業におけるビジネスチャンスが拡がることを期待 するものである。すなわち、大メコン圏全域に、気候変動によって多発する地すべりや崩壊、土石流な どの土砂災害に対する防災・減災事業によるソフト面、ハード面での弊社を含む日本企業による技術の 提供及び展開は、安全、安心な社会活動や経済活動に寄与するものであり、地域発展にも大いに貢献す るものと考えられる。 (2)本事業成果における連携のイメージ 16 (3)本事業において導入する早期警戒システムの一例(模式図) (4)事業の活用可能性 平成 24 年度及び 25 年度の 2 カ年に渡って実施した「途上国における適応対策への我が国企業の貢献 可視化に向けた実現可能性調査事業」を通して、ベトナムをはじめ大メコン圏諸国において防災・減災 へのニーズはますます高まっていくことがわかった。さらに、今後の経済発展によって大メコン圏諸国 が豊かになり、防災意識が高くなればなるほど、防災・減災に関わる弊社サービスの需要は大きくなる と考える。さらにハード、ソフトを組み合わせた事業展開を先駆けて行うことで、経済発展途上にある 大メコン圏諸国の発展に寄与する考えである。 その際、斜面災害に対する防災・減災事業によるソフト面、ハード面での我が社を始めとする日本企 業による技術の提供及び展開は、安全、安心な社会活動や経済活動に寄与し、地域発展にも大いに貢献 するものと考えている。管理者となる行政側においては、当該事業を通じた技術指針・基準の策定など の土砂災害対策に関わる法整備、土砂災害対策に関わる技術情報の取得やアセットマネージメントに基 づく社会ストックの維持管理、更新技術の向上など、土砂災害・自然災害の増加に備えた体制の整備が 可能となる。 また、土砂災害における防災・減災事業を契機として、広範な流域エリアでの対策が必要となる河川 分野や関連する自然災害分野への対策の展開など、事象を超えた災害への対応力向上が達成できる。そ して民間側においては、現地計測結果の閲覧や早期避難警戒システムによる退避行動など、災害に対す る行動のあり方を学び、防災への意識を芽生えさせる事が重要である。 さらに、タイ国やベトナム国を代表とする大メコン圏諸国の防災担当者が主体となり、大メコン圏諸 国外の東南アジアの国々に土砂災害に対する防災・減災事業を適用し拡大していくことも可能となる。 17 気候変動の影響と言われる暴風雨や集中豪雨が増加するタイ国、ベトナム国が東南アジアでの防災・減 災のリーダー的存在となることで、日本の技術が広く展開されることとなり、東南アジアで改良される 計測機器や発展する土砂災害対策関連のソフト・ハード技術が再び日本に輸入されることによって、日 本国内にもその技術を還元することが可能となり、技術の国内外での循環による相乗効果が期待される のである。 なお、本事業で実施しているシステム構築に関し、今後は具体的な販売体系の整備および利用事業者 との調整について進めて行く必要がある。民間事業者をターゲットとし、民間資金で収益を確保できる 仕組みとするため、初期投資を最小限におさえ、従量課金システムなどによって活用分野を広げること が可能と考えている。 (5)事業の波及効果 大メコン圏域の中では特に著しい経済発展を遂げるタイ国や、今後の経済発展が期待されるベトナム 国において、大メコン圏経済回廊などの各大規模プロジェクトにおける日本の技術の売り込みに際して、 これらのプロジェクトに関わる土砂災害など自然災害に対する防災・減災対策をパッケージ化すること で、ハード・ソフト一体となった日本の技術の売り込みが可能となり、その付加価値は非常に大きなも のと考えている。 すなわち、タイ国やベトナム国を含む大メコン圏諸国においては、土砂災害に関する知識や災害危険 箇所を定量的かつ効率的な予知・予測、災害の未然防止など、防災・減災に対する知識はまだ乏しく、 防災・減災に関する意識が低いのが現状である。地すべり発生等により膨大な金額を投じたインフラが 破壊され、再構築や路線変更を余儀なくされたり、人的被害をもたらしたりするケースが非常に多い。 したがって、本事業のインフラ整備全般にわたる波及効果は大きい。斜面災害による路線の被害を最小 化するための情報を事前に得ることができるようになるためである。また、インフラ整備のため地盤を 改変する際においても、斜面変動などの地盤の挙動に関する知識の向上によって、施行中あるいは施工 後の事故発生低減にも寄与するのである。 また、タイ国やベトナム国における本事業の波及効果として重要なことは、大メコン圏全体及び東南 アジア全体に期待されるグローバルな経済効果であり、自動車や電化製品などの日本企業の経済活動に おいて安全、安心で円滑な流通が可能になることで、さらに競争力を高めていくことにも寄与すると考 える。 本事業で構築しているシステムにより、現在整備が進められている大メコン圏経済回廊事業への波及 が期待できるほか、高性能かつ安価なシステムとして日本国内へ逆輸入し、日本における防災・減災事 業のみならず幅広い分野での利活用が期待できる。すなわち、本システムの中核部となる衛星測位シス テム部分の測位精度は高精度であり、土砂災害における早期警戒システムへの展開のみならず、土木分 野における施工管理、維持管理分野にも応用可能であり、また大規模農業など幅広い分野での利活用が 期待されるものである。 18 8. 今後の事業計画 (1)今後の事業化に向けたスケジュール ①2015 年 3 月中実施予定 タイ国中央行政機関との継続的な協議 タイ国アライアンス企業の決定(システム設置・維持管理、販売・パッケージ提供) ②具体的な早期警戒システムのパッケージ開発および事業開始のスケジュール 2015 年 2 月上旬 【基礎開発】 マルチ GNSS ボード作成 試作:1 台、 費用:100 万円 【1周波 GNSS 測位評価】 ・特徴把握、解析設定 費用:50万円 2 月中旬 【国内フィールド試験】 地すべり地区における実証(沖縄) ・解析設定、通信手法の確立 費用:50 万円(現地 3 回) 3 月下旬 【試作機製作】 ・基盤量産設計 ・マイコンプログラミング ・通信、IO、電源、ケース検討 試作:2 台 費用:100 万円 4 月中旬 【試作機評価】 ・性能評価 ・機能評価 ・その他 【閲覧・通信システム構築】 ・現地観測データを用いたシステム開発 ・データ通信システムの開発 費用:200 万円 4 月下旬 【製品化に向けたブラッシュアップ】 ・初期ロット:10 台 費用:200 万円 5 月上旬 【タイ北部実証実験】 ・雨季における地すべり箇所 の動態観測・早期警戒 費用:100万円 2015 年 12 月 【システム販売開始・パイロット事業開始】 タイ国・日本国同時販売・パッケージ提供開始 タイ国 HAII と連携 DNP 管轄フィールド提供 了承済み(Phrae 県) (2)事業対象 前述したスケジュールで、途上国向けに開発した GNSS を防災・減災事業向けに提供して行くが,初 期開発費用の回収およびシステムの更新・維持を継続的に行うために、タイ国だけではなくベトナム国 19 など大メコン圏諸国に広く営業活動を行い、同時に日本国内向けにリメイクし日本での販売も視野にお く。また,防災・減災関連事業だけではなく、幅広い用途・ニーズに対して営業活動を行っていく。ま ず上述した 2015 年 12 月以降の展開・販売目標を下記の通りに設定する。 防災関連(タイ国,ベトナム国他大メコン圏諸国の他日本国内含む) 地すべり監視、土砂ダム水位観測、土石流監視 年間:100 台・10 パッケージ インフラ管理 橋梁ひずみ監視、ダム堤体管理、堤防管理 年間:12 台・3 パッケージ 農業関連 農業機械のナビゲーション、圃場管理、精密農業 年間:12 台 土木工事関連 情報化施工、車両管理(想定) 年間:12 台 位置情報関連 一般測量、無人航空機(UAV) 、深浅測量 年間:12 台 その他 大学、研究機関 年間:30 台・3 パッケージ (3)関連許認可の取得 適用分野において優位となる許認可を日本国内で取得する。 技術開発関連:特許 国土交通省施工技術:新技術情報提供システム NETIS(New Technology Information System) 測量技術:国土地理院の測量基準への登録 (4)継続的なシステムおよびパッケージの開発・維持更新 持続性のある商品として事業化していくためには、ユーザーにとって魅力的な商品となるような継続 的な技術開発と、販売店のサポート体制を確立していく。 20 (5)ビジネス体制 企業コンソーシアム タイ市場 日系企業 事業計画・企画 ■トヨタ、ホンダ、パナソニック などの日系大規模工場 ■日系ゼネコン・コンサル ■建機メーカー・レンタル会社 ■大手警備会社 日系企 業に 営業 川崎地質(株) システム設計・開発(ハード) ジェノバ・中日本航空(株) タイ政府・タイ民間企業 デジタルコンテンツ タイランド社 ●タイ国中央行政HAIIなどと の連携(パイロット事業実施) ●電力供給公社(ダム) ●道路管理者 ●メルカトル社・エスリタイランド 社などCDGグループなどとの業 務提携(タイ国におけるシス テム運用:交渉中) タイ政府 や企業に 営業(提 携交渉) システム開発(ソフト) 五大開発(株) 収入 収益高 技術スキル 作業負担 一時的 少 低 PC 処理が中心 一時的 中 中 PC 処理が中心 一時的 多 高 技術者に依存 モニタリング事業 継続的 少 中 PC 処理が中心 情報配信事業 継続的 少 中 サーバ管理が中心 衛星画像処理事業 地図作成事業 解析処理事業 危険箇所抽出作業 対策検討事業 21 (6)GNSS を用いた早期警戒システム事業の想定される収益 22 9. 対応すべき課題と対応策 (1)事業化に向けた課題 今後一次販売店の選定を進めていく必要があるが、今回早期警戒システムとして採用する GNSS 関連 のソフトウェア開発や周辺デバイスとの連携など販売促進に向けた提案力のある企業を選定することが 重要である。また、タイ国をはじめ,大メコン圏諸国などの途上国への海外展開を視野に入れた事業計 画であり、今後大手商社との連携などを検討していく必要がある。 販売促進 安価な販売価格となるため、コンソーシアム企業、販売店にタイしてどのようなインセンティブを与 えるかのビジネスフィーモデルを構築する。 タイ国内における販売・運用拠点の確立及び、大メコン圏諸国への展開を考えるためには、次のこと を検討及び考慮して進めなくてはならない。 24 時間監視できる体制 災害は 24 時間体制での監視・対応が必要となる。 全国展開する警備会社等での活用を見込み、販売・運用拠点候補とする。 (※現状では全国展開できる警備会社の確保が現実的に困難なことが判明。タイ国に展開する日本の大 手警備会社を候補に考えたが、拠点数が少なくビジネスとしての成立が困難と判断した。今後さらにア ライアンス及びパートナー候補企業の選定を行っていく。) 公共事業他における利活用 道路、鉄道工事などを実施する際の土砂災害の監視及び低減を目的とする。 建設重機レンタル会社によるシステムのレンタルを販売拠点とする。 防災・減災面だけでなく、インフラ等社会資本の維持管理、資産管理へも活用する。 建築・建設関連分野だけではなく、農業分野、娯楽ビジネスへの適用、利活用について売り 込みを図り、本ビジネスの裾野を広げて行く。 大メコン圏他諸国への展開 低価格化の目処がつけば、大メコン圏諸国への適用も可能であると考える。 1/3~1/5に圧縮した価格を目指しており、現在日本国内で運用されている同等のシス テムに比べて価格面での競争力が大幅に向上される見込みである。我が社を含めて日本企業 が本システムを採用する NETI 可能性が高い。 関係機関へのアプローチ 本 FS 業務における早期警戒システムを用いたビジネスモデルを幅広い分野での適用事例、ビジネス モデル事例を構築し、クライアントとなるパブリックセクター、プライベートセクター両関係機関に対 して営業活動を継続的に行う。 特に、タイ国での機能面、価格面で適用可能なシステム開発、センサー生産を行うパートナーの選定 は重要であり、以下の内容を考慮しながらパートナーの選定を行う。 23 衛星測位センサーのコスト縮減(技術的課題) 安価な衛星測位センサーを選定する。 高価な 2 周波衛星測位センサーではなく、1 周波衛星測位センサーを採用することにより安 価に調達可能。 GPS 衛星(米国)と GLONASS 衛星(露国)または BEIDOU 衛星(中国)を受信するこ とにより、要求精度を確保できる。 現地生産の方策 現地企業によるシステム開発およびセンサー生産を行う。 タイ国内で、自動車メーカー、通信会社、商社等、開発・生産業務を実施している企業を選 定する。 通信インフラの確保 本システムのカギとなる通信インフラについて、現地通信事業者とのパイプを持つ KDDI タイラン ドとの連携により確保を目指す システムの現地における維持管理 早期警戒システム設計の設計・製作はタイ現地法人で行い、さらにシステム改良や新規開発も継続し てタイ現地法人で行うことを想定している。新しいボードの販売に伴う改良や顧客のニーズに合わせた 改良などを想定している。新規開発としては、新たな利活用用途への適用や異なるデバイスとの連携な どを想定している。さらに、システムの現場への設置、システムの継続的な維持管理ができるアライア ンス企業を決定し、継続して技術教育を行うことが重要である。 現地防災技術者、現地コンサルタントの育成 早期警戒システムのパッケージシステムを活用した新たなビジネスの創出 ・防災マップ作成事業など ・ダム施設の維持管理への応用 ・道路インフラなどの維持管理への応用 ・土木施工に伴う自動化施工、安全管理、盛土施工管理などへの応用 ・大規模農業における自動化施工への応用 (2)今後の技術的課題 タイ国政府による衛星測位システム CORS を整備することによりハザードマップとの位置情報の連携 が容易となる。CORS システム運用開始時に位置情報のスムーズな移行ができるよう検討を進めておく 必要がある。 また、今後技術移転を行う際には、その方法を決定し、ビジネスフィーを確保する必要がある。具体 的には、次の要素について検討しておく必要がある。 計測結果のコンサルティング能力をサポート 24 タイ国内では、政府機関が研究・開発上の建設コンサルタント的役割を担うケースが多く、 民間企業における経験や実績、ノウハウに乏しいため、日本企業による技術移転を行う必要 がある。 本システムからアウトプットされた結果を踏まえ、対策工の検討や避難指示等の技術移転を 行う。 持続的な収益確保につながるサービスの提供 警備会社、建設重機レンタル会社へ設置日数に応じた従量課金方式を採用する。 従量課金方式によりシステムのメンテナンス費用を捻出し、持続可能なシステム運用と収益 を確保する。 日本国内コンソーシアム企業、タイ国アライアンス企業、パートナー企業におけるビジネスフィーの仕 組みを構築する。 以 25 上 平成 26 年度「途上国における適応対策への我が国企業の貢献可視化に向けた 実現可能性調査事業」最終報告書 コンソーシアム名または企業・団体名 1 株式会社 PEAR カーボンオフセット・イニシアティブ 事業名 モルディブ共和国における有機性廃棄物コンポスト化事業 提出日 2 月 20 日 本事業の目的 (1) 上位の目的 モルディブ共和国(以下モルディブ)は、気候変動に対して脆弱な島嶼国の一つであり、気候 変動に起因する海面上昇対策として、我が国のコンポスト技術を導入することで、マレ市の民生 の有機性廃棄物をコンポスト化して減容し、海洋汚染の防止を行い、同時に、製造したコンポス トを嵩上げ、土地造成のコンポストとして活用することを目指す。 (2) 本事業の目的 ティラフシ島のコンポスト工場に、株式会社カワシマ(以下、カワシマ)のスクリュー型自動 攪拌装置「RA-X」(以下「RA-X」)を 3 基導入して有機性廃棄物を高温好気性発酵させて、コン ポストを製造し、埋設処理で排出しているメタンガスを抑制する。マレ島で発生する 114t/日の有 機性廃棄物と 36t/日の水分調整剤から、コンポストを 54t/日製造する。コンポストは、36t/日を水 分調整剤として利用し、18t/日を土壌改良剤として盛り土用に販売する。年間 6,500t/日の盛り土用 の土壌改良剤の製造を見込む。 事業化にあたっては、マレ市のゴミの分別収集が不可欠であり、本事業では、マレ市政府と協 力することで、マレ市のゴミの分別収集を進める計画であり、本調査でその方法を検討する。 今年度、本事業でプラント仕様を決定し、資金計画、採算性評価、廃棄物集荷計画、コンポス ト製造計画等を含む事業計画を作成してリスク評価を行ない、2015 年に事業に向けてマレ市政府 と交渉を開始することを目指す。 廃棄物処理に関しては、民間参加のほうがより効率的かつ効果的な公共サービスが提供できる とするモルディブ政府の方針に従い、本事業でも PPP(パブリック・プライベート・パートナー シップ:公民連携)を検討する。PPP の代表的な手法の一つである PFI(プライベイト・ファイナ ンス・イニシアティブ)での事業化を検討する。PFI の強みが最も活かされる DBO 方式を基本と し、マレ市政府(MCC)と日本コンソーシアムによって設立する現地合弁会社(SPC)がコンポ スト施設の建設と 20 年間の運営事業を一括して行う。 資金調達の方法として、CTIPFAN の活用を図る。CTI は、気候変動防止技術イニシアティブ (Climate Technology Initiative)の略で、COP1 において、国際エネルギー機関(IEA)/OECD 加盟国及 び欧州委員会によって設立された多国間による国際連携イニシアティブであり、2003 年に IEA の 実施協定に位置づけられた。CTI は、気候変動対策プロジェクトによる民間直接投融資の確保 1 を支援する CTI 民間資金調達支援ネットワーク(CTI PFAN)プログラムの活動を行っている。同 プログラムでは、気候変動の「緩和」を目指すプロジェクトだけではなく、 「適応」に関連したプ ロジェクトの支援をするための試みも始めている。経済産業省は、CTI の活動を支援しており、 本事業への CTI PFAN の活用を図りたいと考えている。 そこで、本調査では、 MCC が実質のプロジェクト事業者であることを想定し、MCC の下に設 立された SPC に対するプロジェクト・ファイナンス実施可否の検討を行う。有力な資金調達の選 択肢として、CTI PFAN の活用を図る。また、PEAR は、日本国内でクラウドソーシングを通じて 資金を調達したいと考えており、その調達について検討する。 2 課題 本事業活動の実施にあたっての課題は、以下の 4 点である。 1) 廃棄物の分別収集と処理 2) 事業実施のための市民負担 3) 関係機関との調整 4) コンポスト工場労働者の作業環境 1)廃棄物の分別収集と処理 マレ市のゴミは、有価物の一部はリサイクルされているが、産業部門と民生部門のゴミが分別 されることなく、大半はティラフシ島で投棄積み上げ (Open Dumps)式で、直接礁湖に投棄して野 焼きし、転圧して処理をしている。 下記に示すように、ゴミの分別収集を行い、夫々適切に処理することが課題である。 図1 廃棄物の分別収集と処理方法 2 2) 事業実施のための市民負担 現状は、ティラフシ島で投棄積み上げ式で、直接礁湖に投棄して野焼きし、転圧することで、 安いコストでゴミを処理をしている。 東京都では、ゴミは分別収集され、有機性廃棄物である生ゴミは可燃ゴミとして焼却処理され ている。ダイオキシンを始めとして、大気質、水質等の環境基準をクリアし、灰は、溶融してス ラグ化し、一部の灰は埋立処分されている。例えば、品川清掃工場の場合、平成 24 年度の決算で は、処理量は 160,702t、コストは 2,705,089 千円、内人件費が 579,459 千円、物件費が 2,125,629 千 円で、処理単価は 16,833 円/t、物件費が 13,227 円/t を占める。日本では、ゴミ処理費を含めた都 道府県や市区町村が行う公的サービスは、日本国民が支払った税金で行われている。モルディブ 国においても、日本と同様に、ゴミを適切に処理するコストを、マレ市民が負担するかが課題で ある。 3) 関係機関との調整 モルディブは、26 の環礁を、首都マレ市と 7 つの行政区に、行政区の下に 20 の環礁区(アトル (Atholhu))に分けている。行政区には知事、環礁区には環礁長 (Atholhu Veriyaa)、そして島にも Katheeb と呼ばれる長官がおり、それぞれ大統領により任命されている。 廃棄物を集荷するマレ市は、マレ島の4つの区(Division)とフルマーレ島(区)、ヴィリンギ リ島(区)の6つの区とフルレ島(国際空港)から構成される。有機性廃棄物を処理してコンポ スト化を行い、コンポストの一部を利用するティラフシ島は、北中部行政区のカーフ環礁区に属 する。 マレ市の廃棄物を処理しているのは、前政権により 2009 年 4 月に、マレ市の廃棄物管理課が行 っていたティラフシ島の開発と管理業務を引き継いだ、財務省所管の政府系会社である Thilafushi Corporation Limited(以下 TCL)である。マレ市政府と TCL の間には、資本関係も法的な関係も 無い。 本事業で、有機性廃棄物を港で荷下ろしをして運搬するのは TCL が行い、コンポスト工場用地 は TCL から借用し、TCL にコンポストの一部を販売する。また、同じくコンポストの販売先であ る Housing Development Corporation(以下 HDC)は、フルマーレ島で土地造成を行っており、フル マーレ島開発のために 2002 年に設立され、2005 年に Hulhumale’ Development Corporation Ltd とし て法人化され、2009 年に大統領令によって 100%の国営企業となった。 また、ゴミ行政に関係する省庁は住宅・環境省、環境・エネルギー省、外資に関しては経済開 発省の外国投資局であり、本事業を展開するためには、マレ市政府、これらの行政機関および政 府系企業との調整が必要となる。 4) コンポスト工場労働者の作業環境 コンポスト工場は、ゴミ処分場に隣接した新しい工業団地に建設予定である。写真 1 に示すよ うに廃棄物の野焼きによるばいじん、ダイオキシン等有害な汚染物質や、燃焼しなかった有機性 廃棄物からの腐敗した悪臭や、蚊やハエにより、既に居住中の主にバングラデシュからの出稼ぎ 労働者約 3 千人もあわせて健康被害が懸念される。有機性廃棄物を除く可燃性廃棄物の焼却発電 設備の建設等、総合的な廃棄物処理システムの構築が望まれる。 3 写真 1 野焼き現場とコンポスト工場 3 課題解決の方向性 1) 廃棄物の分別収集と処理 生ゴミについては、1) 管理型最終処分場での埋設処理、2)バイオガス化による発電、3)コンポ スト化、4)可燃ゴミとの混焼による発電の方式が考えられる。 1) 管理型最終処分場を礁湖に作ることは、コスト的に実現可能性がない。2)バイオガス化につ いては、投入量の内水分の 70%〜80%が消化液として排出され、その処理にコストがかさむ。4) 可燃ゴミとの混焼発電については、有機性廃棄物を含めた処理量が 720t/日で、設備投資額は、焼 却炉、発電機、環境対策設備費、補水用の造水設備、灰の溶融スラグ化設備、灰の遮断型最終処 分場建設まで考えると多大な設備費となる。NEDO のベトナムでの産業廃棄物発電実証事業費は、 処理能力 75t/日で 24 億円である。1資金調達、環境アセスメントを含め、稼働までに時間を要する。 環境対策上、800 度以上の高温で完全燃焼を行うため、助燃用の燃料が必要で、高水分の有機性廃 棄物を投入すれば、助燃用燃料費が増加し、発電収入増との比較検討も必要である。コンポスト プラントは、ゴミ発電所に比べて稼働までに時間を要しないこともあり、生ゴミについては分別 して、コンポスト化することが好ましいと考える。 2) 事業実施のための市民負担 モルディブの一人当たりの名目 GDP は南アジア最大で 6,666US$(2013 年) (世界銀行)であり、 2011 年に後発開発途上国(LDC)を卒業したことから、マレ市民が、ゴミに対して適正な処理費を 負担することは、当然の義務と考える。 家庭ゴミのコンポスト事業が実施されれば、追加的にマレ市民はその費用を負担することとな 1 http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100134.html 4 る。市民感情としては、負担をできるだけ少なくしたいとの思いがある。市民の負担と軽減する には、廃棄物処理にかかるコストを、事業で得られる収入で補填することが考えられる。コンポ スト事業化にあたっては、コンポストの販売収入で、ゴミ処理費の市民の負担を軽減したいと考 えている。コンポストの販売価格については、今後、コンポスト販売先の TCL と HDC との交渉 を進めていく必要がある。またコストで大きなウエイトを占めるのは TCL に支払う工場の借地料 であり、これについても交渉を進めていく必要がある。 3) 関係機関との調整 モルディブの持続的な発展のためには、総合的なゴミ政策と高潮対策が必要である。 工業化を進めるため、ティラフシ島で工業団地として開発を進めており、図 19 に示すように、 ゴミ埋立処分場の用地には限界がある。加えて、工業団地として企業誘致を行うにあたり、野焼 きの煤煙等による大気汚染、有機性廃棄物からのハエや悪臭問題の解決が喫緊の課題となってい る。 また、写真 2、写真 3 に示すように、ティラフシ島のゴミ捨て場は外洋に面しており、防波堤が 無く、気候変動の影響等により、例えば 2007 年 5 月のサイクロンによる 4.5 メートルクラスのよ うな高波がティラフシ島を襲えば、ゴミの山が海洋に流れ出し、深刻な海洋汚染を引き起こし、 生態系へ大きな影響を与えると考えられる。 写真 4 に示すように、2004 年 12 月 26 日に発生したスマトラ沖地震による津波においても、テ ィラフシ島のゴミがサンゴ礁に流れ込んだ。モルディブの名目 GDP は 2,299 百万米ドル(2013 年) (世界銀行)で、モルディブ経済は水産業と観光産業が名目 GDP の約 3 割を占め、基盤となって いるが、これらの産業への影響も甚大なものとなると考えられる。 写真 2 ゴミの山と外洋 1 5 写真 3 ゴミの山と外洋 2 1 出典:Federation water and sanitation delegate Selina Chan and Peter Robinson of the Canadian Red Cross inspect waste dumps on Thilafushi. (p12828) http://www.ifrc.org/ar/noticias/noticias/asia-pacific/maldives/maldives-tsunami-leaves-garbage-problems-for-atoll-nation/#sthash.DRCGnO rw.dpuf 写真 4 津波到来時のティラフシ島 モルディブは、地球温暖化による海面上昇により、国土の水没の危機を国際社会に訴えており、 わが国とも二国間クレジットの調印を行った。しかしながら、ティラフシ島では廃棄物を野焼き して二酸化炭素を大気中に排出、有機性廃棄物は埋設されて嫌気性発酵してメタンガスを大気中 に排出している。国際社会に温暖化問題を提議する以上、自国で行える温暖化対策は適切に行う 必要があると考える。今回の調査で環境・エネルギー省 EPA を訪問し、面談した Assistant Director Mr. Ahmed Murthaza は、二国間クレジット制度の担当者でもあり、温暖化防止の観点から、家庭 ゴミのコンポスト化に向けて協力を行っていくことした。 従って、今後、事業化を進めていくにあたっては、総合的なゴミ対策と気候変動対策の観点か ら、モルディブ政府、マレ市政府、TCL、HDC とコンセンサスを得るための取り組みが必要であ る。 6 4) コンポスト工場労働者の作業環境 問題解決のためには、総合的な廃棄物処理システムの構築が望まれるが、多大な時間と費用が 必要となる。生ゴミをコンポスト処理すれば、有機性廃棄物からの腐敗した悪臭や、蚊やハエに よる衛生問題の改善になる。コンポストプラントは、ゴミ発電所に比べて投資コストが小さく稼 働までに時間を要しないこともあり、先行してコンポストプラントの事業化進めることが望まし いと考える。 4 調査項目 実施項目1:気候変動の影響に関する調査 • 気候変動の影響による海面上昇の現状と見込み、海面上昇によるモルディブ国への影響に 関して、IPCC 第 5 次評価報告書、モルディブ国環境・エネルギー省、国際会議等でのレ ポート等を収集して、分析する。そして、モルディブの海面上昇の現状と課題、解決策と 軽減策に関する政策について、環境・エネルギー省等にヒアリング調査を行う。 • これらの調査結果を分析し、海面上昇に対する解決策と軽減策の検討を行って提案を行 う。 実施項目2:家庭ゴミの処理の現状と課題に関する調査 • マレ島のゴミ問題の現状、家庭ゴミの発生量と組成、家庭ゴミの収集・運搬方法とティラ フシ島でのゴミ処理に関して、新聞等のメディア情報、国際会議、環境・エネルギー省・ 住宅・環境省等のレポート、モルディブ国年鑑等を収集して分析し、環境エネルギー省、 住宅・環境省にヒアリング調査を行う。そして、マレ島、ティラフシ島の現地調査を行っ て、ゴミ収集・処理業者等へのヒアリング調査を行う。 • モルディブの固形廃棄物管理政策と法令・規則に関して、環境・エネルギー省、住宅・環 境省のレポー等を収集して分析・整理し、同省にヒアリング調査を行う。 • 家庭ゴミの分別収集とコンポスト化に関して、住宅・環境省の「Ari Atoll Solid Waste Management Project Maldives Climate Change Trust Fund」のレポート等の文献調査を行い、 環境エネルギー省、住宅・環境省に、ゴミ処理の現状と課題、ゴミ政策についてヒアリン グ調査を行う。また、Ari Atoll Solid Waste Management Project の分別収集状況、コンポス ト化状況の現地調査を行う。 • これらの調査結果を分析し、家庭ゴミの分別収集方法とモルディブ政府の政策との連携を 行って提案を行う。 実施項目3:コンポスト技術に関する調査 • 生ゴミのコンポスト化の技術的な課題に関して、マレ島のゴミ問題の現状、家庭ゴミの発 生量と組成等の調査結果を分析する。分析結果を基に、導入するコンポスト技術を選定し、 設備の仕様を決定する。 実施項目4:コンポスト工場 • コンポスト工場の処理能力、工場に導入する設備に関して、設備仕様をもとに家庭ゴミの 発生量と組成の分析を行ってコンポスト工場のレイアウトの設計を行う。工場建設可能用 7 地、電気等のインフラ、日本・スリランカからの設備搬入ルートに関して、ティラフシ島 の現地調査を行う。コンポスト工場の基礎工事・上屋や建設を行う建設会社の有無、能力 に関して、現地でヒアリング調査を行う。 • 以上の調査結果を基に設備費、建設費を試算し、加えてコンポスト設備の日本及びスリラ ンカからの輸送コスト、関税等のコストの調査を行って、初期投資額を試算する。 実施項目5:経済性評価に関する調査 • コンポストの販売先である盛り土のユーザーの特定、コンポスト販売量のポテンシャルと 販売価格に関して、現地調査と土地造成を行っているフルマーレ島の土地造成工事の調査 を行う。 • 廃棄物処理費に関して、環境・エネルギー省、ゴミ処理業者等にヒアリング調査を行う。 • 市中金融金利、税制、土地借用料、賃金、電気料金、コンポスト輸送費等の経済性を評価 する上で必用なデータに関して、JETRO 等の文献調査と現地ヒアリング調査を行う。 • 以上の調査結果を基に、経済性評価(IRR と投資回収年数)を行う。 実施項目6:リスク評価と環境十全性の評価に関する調査 • リスク評価と環境十全性の評価に関して、実施項目1から実施項目5までの調査結果を整 理、分析して、評価を行う。 実施項目7:EIA、許認可に関する調査 • 事業化にあたって必用とされる EIA(環境影響評価) 、許認可に関して、JETRO 等の文献 調査、環境・エネルギー省、ゴミ処理業者等にヒアリング調査を行う。 実施項目8:PPP 事業に関する調査 • PPP による事業化に関して、実施項目5から実施項目7までの調査結果を整理、分析し、 日本国内等のファンドへのヒアリング調査を行い、資金計画と事業計画を作成する。 実施項目9:普及可能性に関する調査 • 気候変動による海面上昇により脅威を受けており、加えてゴミ問題を抱えている島嶼国へ の普及可能性に関して、国際会議、国際研究機関等のレポートの文献調査を行い、実施項 目5、実施項目7の分析を行って、評価を行う。 実施項目 10:技術・製品を導入した場合の成果の評価手法の方法論を作成と評価 • 技術・製品を導入した場合の成果の評価手法の方法論を作成と評価に関して、JICA の環 境社会配慮ガイドライン、世界銀行の環境・社会配慮の取り組み~セーフガード政策、環 境省コベネフィット定量評価マニュアル等を参考にして、方法論を作成する。同方法論を 基に、本事業の評価を行う。 8 5 調査結果(調査項目ごとに) (1) 気候変動の影響に関する調査 ① モルディブの地形 モルディブは、インド洋に位置し、気候変動に対して脆弱な島嶼国の一つである。島嶼とは大 小さまざまな島のことで、モルディブはサンゴ礁の島である。サンゴ礁(Coral reef)は、造礁サ ンゴの群落によって作られた地形の一つである。造礁サンゴの繁殖に適している海は、25〜30℃ ほどの高水温、3〜4%ほどの高い塩分濃度、深くても水深 30m ほどの浅くてきれいな海域である。 普通、サンゴ礁の地形は、陸地とサンゴ礁が接した裾礁(Fringing Reef) 、陸地とサンゴ礁の間に 深さ数十 m の浅い海(礁湖:ラグーン)を持つ堡礁(Barrier Reef) 、サンゴ礁だけがリング状につなが った環礁(Atoll)の三つタイプに分類され、モルディブは、環礁である。 環礁の形成については、ダーウィンが唱えた沈降説によって説明されており、まず熱帯の火山 島の周囲に珊瑚礁が形成され、その後火山島が沈降することにより珊瑚礁のみが上方に成長、中 央の火山島が完全に海面下になると、楕円状の珊瑚礁のみが海面に残ると言われている。 裾礁は、海の真ん中にできた火山島をよりどころとしてサンゴが定着し、島の周りを取り囲む ようにしてサンゴ礁が成長していったもので、形成されたサンゴは外側へと広がっていく。堡礁 は、中央部の火山島が沈んでも、サンゴ礁だけはどんどん積み重なっていったもので、潮辺りの いい外洋側は成長が早いため、サンゴ礁は外へと広がる。こうしてサンゴ礁だけが残され、火山 島とサンゴ礁の間に礁湖(サンゴ礁や島嶼に囲まれた海)が形成される。環礁は、堡礁の状態か ら完全に島が沈んでしまうと、ドーナツ状のリーフがだけが残され、中央部は巨大な礁湖となり、 サンゴ礁上には、サンゴや有孔虫などのサンゴ礁に棲む生物の遺骸片の礁物破砕性の石灰質性流 送土砂を波が運んで堆積した島々(環礁島)が形成される。サンゴ礁のみで形成されているため、 ここ数千年間で堆積したもので地質学的にはごく新しく、州島の標高は低く、高いところでも数 メートルである。そして、規模が小さく、土壌が薄く、陸上生物相が限られており、地表水がない。 礁湖の水深は 50〜80m であるが、礁の外縁の海底は急崖となっており、海岸よりさほど遠くない ところで、図 5 に示すように水深 4,000〜6,000m の大洋底になっている。 出展:三菱商事環境・CSR レポート サンゴ礁保全プロジェクトに掲載された図を加工 図 2 サンゴ礁の形 9 図 3 モルディブの環礁 モルディブは、26 の環礁に 1,192 の島々があり、2012 年には、その内 188 の島が住民が住む住 民島で、105 の島がリゾート島である。海抜の最高が 2.4m、平均が 1.5m で陸地面積の 80%以上が 海抜 1 メートル以下という平坦な地形である。 出典 http://dtc.pima.edu/blc/183/13_183/13_183answers.html 図 4 環礁の構造 10 出典:Detailed Island Risk and Vulnerability Assessment 2013 Ministry of Energy and Environment 図 5 モルディブの周りの海深 ② 気候変動の影響 2013 年 9 月 27 日に国連の IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、地球温暖化に関する最 新の研究成果(第 5 次評価報告書 第 1 作業部会報告書)を発表した。その中で、図 6 に示すよう に、海面は、可能な限りの温暖化対策を前提としたシナリオ(RCP2.6)では、2100 年には 0.26〜 0.55m、緩和策を実施しない前提のシナリオ(RCP8.5)では 0.45〜0.82m 上昇すると予想している。 サンゴは生態系の基盤となり地形を形成するため、サンゴの衰退は、生態的なインパクト( 漁 業・観光資源の減少)と地形的なインパクト(砂浜や礁の減少)を与える。サンゴ礁が健康で、礁 から島、島から礁への流送土砂の通り道をふさぐ障害物がない場合、海面上昇が進んでも、時間 はかかるが、島が再生される。しかし、海水温が上昇すれば、褐虫藻がサンゴから抜け出し、結果 サンゴは死んで白化し、酸性化はサンゴの骨格形成阻害に影響を与える。 また、上述第 5 次評価報告書では、21 世紀を通して、世界全体で海洋は昇温し続けるであろう と予想している。また、海洋は排出された人為起源 CO2 の約 30%を吸収し、海洋の酸性化を引き 起こしている。海面における pH は、工業化以降、0.1 低下している。それ以上に影響を与えたの は、1998 年の世界的なエルニーニョ現象に伴う海水温の変化で、モルディブのサンゴに大きなダ メージを与えた。サンゴの衰退により、既に島の基盤と天然の防波堤の機能が失われつつある。 11 出典:図 IPCC AR5 WG1 政策決定者向け要約 Fig.SPM9、表 AR5 WG1 政策決定者向け要約 図 6 全球平均海面水位予測(1986 年-2005 年と比較して) 欧州委員会の資金提供による第 7 期フレームワーク・プログラム“IMPACT2℃プロジェクト” (2007 年〜2013 年)が第 282746 補助金合意に基づき行われた。プロジェクト IMPACT2C(温暖 化の 2℃の下で計画された影響を定量化)は、国際的に認識されている地球温暖化 2℃目標におけ る協調のもとで、水、エネルギー、インフラ、海岸、観光、森林、農業、生態系サービス、健康、 大気に対する気候変動の影響を評価する様々なモデルを活用した。気候変動に関するハイレベル の研究を行っている GCF(Global Climate Forum)2では、特にモルディブに焦点を当て、海面上昇 の影響を評価する DIVA モデルを用い、 島の立面図と人口変化を含む新しいデータが集められた上 で沿岸の変化の要因と圧力が適合オプションと共に評価されており、この活動の一環として、モ ルディブのフルマーレ島をモデルに Impact, vulnerability and adaptation in most vulnerable regions: Small Islands (the Maldives)が実施された。 3活動は、モルディブ環境・エネルギー省と、英国サウ サンプトン大学、ドイツ Global Climate Forum とともに、フルマーレ島にフォーカスし、海面上昇 の影響を評価しており、最大の海面上昇または大きな波浪による浸水の可能性とその時期、また、 海面上昇の時期について検討が行われた。調査結果は、以下の通りである。 潮流計(PSMSL, 2014)による相対的な海面上昇は、1990 年以降マレ島近郊で年間およそ 4mm となった。これは、長期の観測が必要ではあるが、世界的な平均より速い値である。グローバ ルには、海面上昇は加速することが予測されており、2100 年にはおよそ 1m の上昇となる (Church ほかによるハイエンドシナリオによる)。この傾向は、モルディブでも予想される。 2 3 http://www.globalclimateforum.org http://impact2c.hzg.de/030646/index_0030646.html.en 12 出典:IMPACT2℃プロジェクト 図 7 潮流計(PSMSL, 2014)による相対的な海面上昇 2013 年 6 月 29 と 30 日、 「地球温暖化防止とサンゴ礁保全に関する国際会議」が、14 カ国・地 域から延べ 700 名を超える参加者を得て、沖縄県の沖縄科学技術大学院大学にて開催された。石 原環境大臣のほか、パラオ共和国のコミッ財務大臣、パチャウリ IPCC 議長など、島嶼国における 地球温暖化対策やサンゴ礁保全などの幅広い専門家が出席し、知見の共有が行 わ れ 、地域固有の 観光資源でもあるサンゴ礁については、自然の防波堤として重要な防災・減災機能を提供してい るにも関わらず、海水温上昇による白化など温暖化の影響を大きく受け、その他の人為的要因と も相まって衰退の危機にさらされていることが改めて確認された。 マリヤム・シャキーラ(Dr. Mariyam Shakeela)前モルディブ環境・エネルギー大臣は、同会議 で「気候変動とサンゴ礁の保全 モルディブの場合」と題して講演しており、その要旨は下記の 通りである。 「モルディブの総面積は、85 万 9,000 km2 のうち陸地は 3%以下で、礁の面積は 2 万 1,000km2 で世界の礁面積の約 5%を占め、礁には 250 のサンゴ種が生息して、種の多様性という点で世界 で最も豊かな礁系のひとつである。 サンゴ礁が直面する脅威として、①気候変動による脅威、②海洋酸性化、③ダイナマイトを 利用する漁法、④熱帯魚の生け捕りを目的としたシアン漁法、⑤礁資源の濫用である。サンゴ 礁の持続可能な管理の一つとして、サンゴ採掘の禁止、海砂採取の規制を行っている。 サンゴ礁が直面する脅威は、①気候変動による脅威、②海洋酸性化、③ダイナマイトを利用 する漁法、④熱帯魚の生け捕りを目的としたシアン漁法、⑤礁資源の濫用である。サンゴ礁の 持続可能な管理の一つとして、サンゴ採掘の禁止、海砂採取の規制を行っている。 モルディブの脆弱性としては、気候変動と、気候変動に関連する海面上昇に最も弱い国のひ とつで、島々の地形が、陸地面積の 80%以上が海抜 1m 以下と海抜が低く低地ばかりで、有人 島の 80%以上が年間を通じて海岸浸食にさらされていること、経済の観光業への依存度が異常 に高く、輸入品への依存度が高いこと、人口が多数の小さな島に分散し、島々の間に長い距離 があり、離れている等である。 気候変動による影響については、IPCC が 2100 年までに海面が 59cm 上昇すると試算、気候 13 変動は重大な影響をもたらすと予測しており、①海面温度が上昇した結果、礁が劣化して、ダ イビングの場所に影響が生じ、②海岸浸食と浸水により観光業インフラにダメージが生じ、 ③海面温度が上昇して、サンゴ礁の白化による影響がもたらされ、④海面上昇と波の活発化が 海岸にもたらす変化により、製品価値が低下し、⑤サンゴ礁の劣化による観光業の価値の低下 が、経済に多大な損害をもたらし、⑥気候変動の傾向がこのまま続けば、世界は最も人気の高 いダイビングスポットを失うことになる。過去にはそれほど自然災害が起きていないが、気候 変動により、自然災害の頻度、強度、範囲が増すと予測されており、2004 年にインド洋を襲っ た津波は甚大な被害をもたらした。 すべての有人島とリゾート施設は災害に対して備える必 要があり MMS と NDMC(国家防災センター)が協力して、災害の準備、 軽減、対応強化 に取り 組んでいる。 」 また、6 月 29 日、この機会を捉え、石原伸晃前環境大臣とマリヤム・シャキーラ(前環境・ エネルギー大臣との間で、二国間クレジット制度に関する二国間文書の署名が行われた。 今回の調査で、2014 年 10 月 27 日に環境・エネルギー省を訪問し、トリク・イブラヒム大臣に 面談、モルディブの海面上昇の現状と課題、解決策と軽減策に関する政策については、明確な話 は無かった。 ③ 高波・高潮の脅威 本事業地域は、図 8 に示すようにマレ環礁に属し、外洋に接しているため、高波、高潮に大き な影響を受ける。 平均海抜が 1.5m のモルディブでは、海面上昇で、暴風あるいはサイクロンによる高波・高潮に よる被害が大きい。2007 年 5 月には 4.5m の高波が押し寄せ、各地で洪水被害が発生した。2012 年にはベンガル湾で発生したサイクロンが 10 月末から 11 月にかけて襲い、51 の島で洪水が発生、 深刻な洪水が発生した 28 の島のうち、 4 島では更に事態が深刻でありこのサイクロンにより 33,826 人が被災した。 図 8 事業対象地域 14 出典:WaveWatchIII http://polar.ncep.noaa.gov/waves/index2.shtml 図 9 2007 年 5 月の高波 現在のマレ島の面積は 1.8km2 であるが、元々1.08km2 と小さな島であり、人口増加とともに、十 分な消波構造物を建設せずに、1979 年から 1985 年までに、南部を中心に礁縁部まで内礁を 0.518km2 埋め立てた。埋め立てには、主に北部の港湾の浚渫土砂が使われた。 第 35 回海岸工学講演会論文集(1988)「モルディブにおける高潮災害の現地調査」宇田高明氏 の論文で、1987 年 4 月 10 日から 14 日までモルディブで発生した高潮で発生した浸水被害が調査 され、報告されている。論文で、 「高潮により浸水した地域は、全面積の 48%に達したが、浸水域 が 1979 年以前の原海外線と一致しており、約 360km3 埋め立て土砂が流失、サンゴ礁を急速に埋 め立てた部分の高潮に対する脆弱性が明らかになった。 」と報告している。 また、当時、マレ島の精度の高い潮位観測が行われていなかったため、宇田氏のチームが1ヶ 月間観測し、その結果として、「基本水準面(D.L.)が平均水面下 0.51m、図 9 の南岸の浸水痕跡 の3箇所で浸水痕跡調査した結果は最高痕跡は A 点で+1.73m、最低痕跡は B 点で+1. 60m と差 異が出てきており、その差は最高点が礁縁部に波浪減衰効果をもつ施設がなかったのに対して、 最低痕跡はサンゴ塊を掘削して積み上げた護岸堤があったことにより、波浪エネルギーが減衰し て浸水位が低くなったと考えられる。」と報告している。 15 出典:第 35 回海岸工学講演会論文集(1988)「モルディブにおける高潮災害の現地調査」 図 10 マレ島の埋め立て 出典:第 35 回海岸工学講演会論文集(1988)「モルディブにおける高潮災害の現地調査」 図 11 マレ島の浸水域 南岸は、外洋に面しており、そこを埋め立てたことによって、高潮の影響を受けた。次の項で 記載するが、その対策として、マレ島の南岸には海岸の沖合に、侵食防止のための堤防状の構造 物である離岸堤が設けられている。マレ島以外の島の、外洋側には離岸堤が無い。 ④ 高波・高潮への対策 マレ島では、1987 年および 1988 年の高潮・高波被害の後、島の周囲には護岸が設置された。護 岸の高さは、高潮時の高波浪の来襲方向を考慮して、東岸では平均海面上 2.16〜2.56m、南岸では 同 1.46〜3.36m、西岸では同 1.96〜2.36m である。また、南岸と北岸にある港の岸壁の高さは平均 海面上 1.16m であり、外洋に面した南岸には離岸堤も設置されている。 日本政府は無償資金協力を通じ、 1987 年以降 15 年間にわたり首都マレ島の護岸工事を支援した。 2004 年 12 月 26 日に発生したインドネシアのスマトラ島沖で発生した大地震による津波災害によ り、モルディブ国内も 82 名が死亡するなど大きな被害を受けたが、マレ島は護岸工事のおかげで 津波の被害を受けたが、死亡者も出ず、壊滅的被害を免れた。 16 出典:http://www.yachiyo-eng.co.jp/news/2005/01/003181.html 図 12 JICA マレ島南岸防波堤建設工事 写真 5 南岸離岸堤 大成建設技術センター報第 39 号(2006) 「インド洋大津波によるモルディブ国マレ島の浸水被 害に関する現地調査と数値シミュレーション」において、スマトラ島沖で発生した大地震による 津波災害に対して、護岸、離岸堤が持つ津波低減効果が検証されている。検証内容を、以下に紹 介する。 マレ島で、複雑に入り組んだ道 路 を 2 日 間 に わ た り 調 査 し た 結 果 、地盤高はほぼ M.S.L.+1.1m と一様であり、南側で浸水面積が広く、図 13 に示すように非浸水域は、ほぼ埋立 拡張前のマレ島形状と一致している。 図 14 の通り、 Case1 (護岸あり・離岸堤あり: 現況再現)、 Case2(護岸あり・離岸提なし)、 Case3(護 岸なし・離岸提なし)、Case4 (護岸あり・離岸堤あり: 満潮時)の 4 ケースで、離岸提と護岸が浸 水域の低減にどれだけ寄与したかシミュレーションしている。Case1 は、実測に比べやや浸水 域が大きいものの、計算による再現性は良好と判断される。Case3 では、標高の高い北側にわず かな非浸水域を残し、島のほとんどが浸 水した。もし、マレ島の護岸が脆弱な構造であった ら、Case3 に近い状況となっていた可能性が高い。 浸水域の低減化は、離岸提による流水断面の縮小や護岸天端によるかさ上げが越流流量を ピークカットしたことが主な原因と考えられる。高潮・高波対策として設置された護岸は、津 波による浸水深を低下させるとともに、陸上の流速を低減させる効果を発揮したと推定され 17 た。護岸による流速および水位の低減は、マレ島における人的・物的被害の軽減に大きく寄与 したものと考えられる。以上のように、護岸等の海岸保全施設は、津波の遡上をある程度低減 する機能を有している。特に、マレ島のように低平地に多くの人口が密集している地区におい ては、海岸保全施設は、高潮・高波、津波による被害の軽減に効果的である。しかし、インド 洋大津波が当日の満潮時に来襲したとした Case4 では、マレ島全土が浸水する結果となり、 現状の護岸でも津波の防御に限界があることが示された。 出展:大成建設技術センター報第 39 号(2006) 「インド洋大津波によるモルディブ国マレ島の浸水被害に関する現地調査と数値シミュレーション」 図 13 マレ島の津波による浸水地域 出典:大成建設技術センター報第 39 号(2006) 「インド洋大津波によるモルディブ国マレ島の浸水被害に関する現地調査と数値シミュレーション」 図 14 護岸、離岸堤が持つ津波低減効果 18 すでに有人島の 80%で海岸侵食が観察され、高潮・高波の脅威にさらされており、マレ市と住 民島の海面上昇、高波・高潮への対策として、護岸工事と嵩上げ、そして土地造成の実施が必要 である。現在モルディブでは対策として、護岸、防波堤、排水ポンプの組み合わせで対応してい る。もう一つの対応策は、海面上昇を考慮した埋め立てで、フルマーレ島では標高 2m で埋め立て られている。 埋め立てにあたっては、盛り土と同時に、高波・高潮の被害を最小限にくい止め、砂浜の浸食 を防ぐためにも、防波用に樹木を植えることが効果的と考える。護岸工事、かさ上げも現状では 水面から 2m の高さであり、想定以上、或いは満潮と重なった高潮・高潮が来れば浸水する。海岸 線の侵食も大きな問題となっている。浸水時に波の勢いを抑制して高潮・高波から住民を守る、 或いは海岸の侵食を防ぐため、植生が重要な役割を果たす。土壌は砂であり、植生を増やすには、 十分なコンポストが必要である。有機性廃棄物をコンポスト化すれば、土壌改良材として利用出 来、ゴミの減容化が出来るが、大量のゴミをコンポスト化する技術を有しない為にマレ島では、 分別収集もコンポスト化も行われていない。 上記の理由により、本事業においてカワシマのコンポスト技術を導入することで、マレ市の有 機性廃棄物をコンポスト化して減容し、海洋汚染の防止を行い、同時に、製造したコンポストを 海面上昇対策における土地造成の植栽用のコンポストとして活用することは、効果的な手法と考 える。 ⑤ 海面上昇への対策 マレ国際空港があるフルレ島の北北東に造成中の人工島「フルマーレ」の埋め立てが行われた。 フルレ島とフルマーレ島は、埋め立てて作った東海岸沿いの道路(コーズウエイ) で結ばれている。 フルマーレ島は、首都マーレの人口増加、住宅不足の回避手段として、1990 年代後期、礁湖の上 に平均海面高度より 2m 高く作られた 200ha の人工島である。現在の人口は 3 万人で、目標は 16 万人。スマトラ島沖で発生した大地震による津波災害で被災した住民達も住む。同島西岸側は礁 湖で、島から数百 m 沖合では水深 50m 程度まで深くなっており、礁の淵から礁湖側に向けて埋め 立てが行われた。東岸は白砂ビーチで外洋(インド洋)に面し、沖合は環礁外となるため 20km で 水深 2,000m に達する急勾配となっている。フルマーレ島造成にあたっては Farukolhufushi 島の礁 湖から 4 百万 m3 の石灰質性流送土砂を採取して埋め立てが行われ、建設コストは、3,200 万米ド ルであった。前述した 1987 年の高潮と 2007 年の高波でマレ島では大きな浸水が起きた一方、フ ルマーレ島では影響がなかったが、2004 年の津波では最高 2.43m の津波痕が確認されている。 4 また、HDC が 2014 年 11 月から第 2 期の 240ha の埋め立て工事を始め、まもなく礁湖から 7 百 万 m3 の石灰質性流送土砂を採取して北岸側から埋め立てが行われる。建設コストは、5,000 万 US$である。 4 「インド洋大津波によるモルディブ国マレ島の浸水被害に関する 現地調査と数値シミュレーション 」大成建設技術センター報 第 39 号(2006) 19 出典:hulhumalé.com http://hulhumalé.com 図 13 フルマーレ島の土地造成工事 出典:IMPACT2℃プロジェクト 図 14 フルマーレ島の土地造成の推移 東岸の白砂ビーチの造成は、埋め立てた砂の上にシートをかぶせ、サンゴのブロックを敷き詰 めて行われるが、一部海岸線において侵食が見受けられ、ブロックが剥ぎ取られたり、流された りしている。海岸線に沿って植えられた樹木まで、浸食した箇所もある。外洋に面していること もあり、動的な海水やサイクロンや暴風による高波来襲に曝されて、さらに侵食が進むことが懸 念される。植林の用土は、砂地にコンポストを混ぜる。海岸線の侵食を防ぐためには、海岸に沿 った、植生の果たす役割が大きい。また、2m を超える高波・高潮から住民を守るためにも、植林 により波の流速を抑えることが重要となる。現状、コンポストは海外からの輸入に頼っており、 コンポストの需要は大きいと言える。 20 図 15 フルマーレ島第1期埋め立て工事 写真 6 白砂ビーチの造成構造 写真 7 住民居住区 21 写真 8 東海岸の白砂ビーチ 写真 9 東岸の海岸侵食 写真 10 コンポストを使った植林 22 写真 11 コンポスト 北岸では、フルマーレ島造成の第 2 期工事がスタートしている。礁湖側の西岸は、コンクリー トの護岸となっている。 写真 12 北岸での第2期土地造成 写真 13 西岸のコンクリート護岸 23 (2) 家庭ゴミの処理の現状と課題に関する調査 モルディブ政府の国家固形廃棄物管理政策は、”National Solid Waste Management Policy for the Republic of Maldives”で報告されている。この中で、廃棄物管理インフラのあり方について方針を 出しており、それによると、 「人口 1,000 人以上の島では基本的には廃棄物管理センターを建設し、 可能な限りリユースおよびリサイクルを行うこととしている。そして、1,000 人未満の島において も、廃棄物の量を減らす方策を実施する。特にリサイクルに力を入れ、国全体でのリサイクル産 業の構築・発展を目指し、リサイクル出来ないものは、埋め立ての原料に使う。」としている。 2014 年のモルディブの人口は 341.2 千人、マレ市の人口は 133.0 千人 5で、約 1/3 の人口が集中 し、人口密度は 35,000 人/km²と世界一で、世界有数の超過密都市となっている。モルディブの人 口増加率は近年著しく上昇しており、政治的・経済的・社会的に全ての機能が集中している首都 マレには、教育、労働などのより良い環境を求めて、地方島からの移住者がますます増加する傾 向にあり、 住環境としては限界に達している。マレ市の 2014 年のモルディブ人は 133,019 人で 2006 年の 103,693 人から約 3 万人増加し、人口増加に伴いゴミの発生量は増加している 6。 出典:IMF - World Economic Outlook Databases 図 16 モルディブの人口推移と予測値 マレ島と周辺のリゾート島のゴミは、マレ島の西 6.5km に位置するティラフシ島で処理される。 2013 年のティラフシ島のゴミ処理量は 567,634t で、内 41%がマレ市でマレ島が 211,579t、ヴィリ ンギリ島が 4,263t、フルマーレ島はデータ無し、マレ国際空港が 16,632t、そしてリゾート島が 59% で 335,160t であった。マレ島の 211,579t の内、産業部門が 127,319t、民生部門が 84,260t である。 (表 1) 7 マレ島では産業部門からのゴミの発生量の増大が著しく、2013 年には民生部門と逆転した。 (図 17) 2011 年のマレ島のゴミの種類を見ると、生ゴミが 39,179t と全体の 30.9%を占めている。8(表 2) 5 Ministry of Finance & Treasury 2014 年 財務省 Population and Housing Census 2014 7 財務省 Statistical yearbook of maldives 2014 8 財務省 Statistical yearbook of maldives 2012 6 24 表1 ティラフシ島への各地区からの搬入量 出典:Statistical yearbook of maldives 2014 図 17 ティラフシ島へのマレ島の産業部門と民生部門ゴミ搬入量 表 2 マレ島のゴミの種類 25 マレ市のゴミは、産業部門と民生部門のゴミが分別されることなく、マレ島では市のトラック が回収して、一度ゴミ集積場に集められ、その後ティラフシ島行きのゴミ積み込み港に運送、ゴ ミ運搬船がティラフシ島に輸送している。ヴィリンギリ島では、ティラフシ島行きのゴミ積み込 み港に隣接したゴミ捨て場に、住民がゴミを捨て、そのままゴミ運搬船がティラフシ島に輸送し ている。現状、分別収集が行われていないことから、ゴミの分別収集を行い、夫々適切に処理す ることが課題である。 図 18 マレ島のゴミ集積場と積出港 公認のリサイクル業者はいないが、非公認のリサイクル業者がエンジンオイル、金属パイプ、 家具、家電等を引き取って、インド等に輸出している。 ゴミは市のトラックが回収して、ティラフシ島行きのゴミ積み込み港に運送、ゴミ運搬船がテ ィラフシ島に輸送している。市内にリサイクルとそれ以外の分別ゴミ箱が設置されているが、最 終的には、ゴミ回収時に一緒にされている。家庭ゴミも同様で、分別されることなく、ティラフ シ島に送られている。 野菜市場では、特に葉物につき輸送での傷みが激しいため、野菜市場や商店で、例えばキャベ ツであれば半分近くが廃棄されている。また、魚市場で内臓が海洋に廃棄されている。何れも、 良質のコンポスト原料となる。 マレ市のヴィリンギリ島では、ティラフシ島行きのゴミ積み込み港に隣接したゴミ捨て場に、 住民がゴミを捨てにきている。ここでも、ゴミの分別は行われていない。 多くの途上国では、ゴミが所構わず投げ捨てられている。分別収集の大前提は、ゴミの集荷シ ステムを作りあげ、市民が投げ捨てを行わないことである。多くの途上国と異なり、マレ島とヴ 26 ィリンギリ島の調査では、町の通りにゴミは散らかっていない。ゴミの分別はしていないが、各 家庭は、ゴミ集積場までゴミを持ってきて捨てて、集荷されている。従って、家庭で生ゴミだけ を分別し、ゴミ取集箱を設置してそこに投棄、市の収集車(船)が生ゴミだけを運搬すれば良い ので、他の途上国に比べて、少しはゴミの分別システムの構築は容易と考える。 写真 14 マレ市内の分別ゴミ収集箱 写真 15 ゴミのリサイクル業者 写真 16 ゴミ積み込み港 27 写真 17 ヴィリンギリ島のティラフシ島行きのゴミ運搬船と隣接したゴミ捨て場 写真 18 ティラフシ島でゴミ運搬船からゴミの荷下ろし 写真 19 ゴミ埋立て場でのゴミの荷下ろし 28 写真 20 ゴミ埋立て場でのゴミの野焼き ティラフシ島は、マレ市の廃棄物管理官のティラフシ島の開発と管理業務を引き継いだ政府系 会社である TCL が、工業基地として整備を進めており、新たな工業区の埋め立てが完了した。コ ンポスト工場は、新工業団地に建設する計画である。 図 19 ティラフシ島のゴミ処理場 29 ティラフシ島で、運搬された廃棄物は野焼きされて転圧処理されている。ゴミ処分場は、ティ ラフシ島の一区画で、処理する容量に限界があるため、一部のリサイクルできる廃棄物は手作業 で回収されているが、大半のゴミは野焼きして転圧されている。野焼きで、二酸化炭素とダイオ キシン等有害な汚染物質を大気中に放出しており、その煙は、工業団地と居住区を覆っている。 また、燃焼しなかった有機性廃棄物は、腐敗して悪臭や、蚊やハエを発生させている。同島では 既に、工業団地が稼働中で、主にバングラデシュからの出稼ぎ労働者が 3 千人も居住し、働いて いる。この様に、廃棄物処理場と工業団地の労働者、居住者は、汚染された大気質と不潔な住居 環境で生活することを余儀なくされており、彼らの健康被害が懸念される。 写真 21 野焼きの煙で覆われた工業団地 (3) コンポスト技術に関する調査 前述したように、2011 年のマレ島のゴミの種類を見ると、生ゴミが 31,724t と全体の 30.9%を占 めている。現地での生ゴミの発生状況を見ると、分別収集することで、コンポストの原料となる ことが確認できた。ただし、水分調整剤として利用できるのは、おが屑のみなので、製造するコ ンポストの一部を水分調整剤として利用することとした。 野菜市場の有機性廃棄物 商店の有機性廃棄物 写真 22 有機性廃棄物の廃棄状況 30 住宅・環境省は、EC の Trust Fund で南アリ環礁地域に 11 の IWMC (Island Waste Management Centre)を設立し、分別収集して家庭ゴミ (生ゴミ)のコンポスト事業を行っている。Ari Atoll Ukulhas 島のサイトを調査した。ゴミは、写真 23 の右写真に示すように篩の上に置かれて、分別され、有 機性廃棄物以外はその上で野焼きされる。多くの島民の主食は魚類で、野菜類等の摂取量が少な く、家庭からの生ゴミの排出量が少ない。また、左写真のように屋根がなく、スコールで濡れ、 好気性発酵しにくい方式である。水分調整剤の調達が大きな課題とのことであった。 コンポスト・センター ゴミの分別用篩 写真 23 Ukulhas 島の Waste Management Centre リゾート島の Kurumba Village を訪問し、同ホテルのゴミの分別、リサイクル、コンポスト製造 状況を調査した。ゴミは分別されて、リサイクルできるゴミは 100%リサイクルされその他は焼却 処理され、有機性廃棄物も焼却処理されている。コンポストは、オーガニックの宿泊客用の菜園 向けに製造しており、原料も大半を輸入していた。 コンポスト製造機 コンポスト原料 写真 24 Kurumba Village のコンポスト設備 31 (4) コンポスト工場 ① 基本計画 前述したように、2011 年のマレ島のゴミの種類を見ると、生ゴミが 31,724t なので、これをベー スに、リゾート島も加え年間 41,200t の生ゴミの供給が可能と考える。また、現状の需要は 2013/12/1 〜2014/11/30 のコンポストの輸入量が 9,376 t(Maldives Customs Service ヒアリングより)であっ たので、この一部をコンポスト工場の製品で代替する計画である。 従って、カワシマの独自技術である RA-X3 基と発酵槽 3 槽で構成されるコンポストプラントを 導入し、114t/日の有機性廃棄物と 36t/日の水分調整剤から、コンポストを 54t/日製造する。コンポ ストは、36t/日を水分調整剤として利用し、18t/日を土壌改良剤として盛り土用に販売する。年間 稼働日数は 360 日で、年間 41,200t の生ゴミを処理し、6,500t のコンポスト販売を見込む。6,500t の販売を見込む。 設備費は、カワシマがスリランカに設立予定のエンジニアリング会社から購入する。プラント 1基の価格は 5,000 万円、上屋と発酵槽1棟の建設費は、スリランカでの実績から 5,000 万円を見 込む。RA-X 設置費用は、スリランカのエンジニアリング会社のスタッフが行う計画で、1 基あた り 170 万円を見込む。RA-X を 3 基設置することか、総設備投資額は、3 億 510 万円を見込んでい る。 ② 導入する設備 名称 スクリュー型コンポストプラント スペック(仕様) 主な仕様は、下記の通りである。 • 処理能力:50 t/日・基 (家庭ゴミと農業廃棄物) • コンポスト製造能力:18 t/日/基 • 発 酵 槽:幅 12m×長さ 500m×深さ 1.8m=756m3 • 攪拌能力:約 300m3/h • 醗酵槽内での有機性廃棄物の発酵期間:約 40 日 • 主要な設置器材は、スクリュー型自動攪拌装置「RA-X」1 基に対して、廃棄物搬入・投 入用バケット1基、床下より空気を送り込む 2.2 kw ブロワー3 台、走行レールである。 32 写真 25 RA-X と醗酵槽 技術概要と特徴 ① 家庭ゴミの有機性廃棄物(生ゴミ)は水分が 80 重量%前後である。水分調整剤を添 加し、水分を 60 重量%〜70 重量%にして好気性発酵させる。コンポストプラントは、 生ゴミを原料に、製造したコンポストを水分調整剤とし、散布用バケットで発酵槽内 に運んで投棄して RA-X で撹拌し、同時に有効微生物「BX-1」 (好気性菌:ペジオコ ックス属細菌、酵母細胞、桿菌(バチラス属微生物)、連鎖球菌およびブドウ状菌を 含む微生物添加物)を手作業で散布することで有機性廃棄物を好気性発酵させて、コ ンポストにする。 ② 「RA-X」はスクリュー型攪拌機で、堆積物の中で上下に攪拌するため、原料圧縮が 無く、空気を十分含んだ状態で堆積でき、隅々まで空気が行き渡るため、コンポスト 化の主役である好気性菌を隅々まで繁殖させ、嫌気性菌の活動の場を与えない環境を 作り出して、高温好気性発酵を維持することが出来る。また、堆積上部のみが外気に 触れる特性上、温度低下が非常に少なく(攪拌前と後での温度差 5 度程度)高温維持 が可能で、コンポストの早期熟成ができる。そして、この熱によって、害虫、病原菌 は死滅させ、嫌気性醗酵による悪臭を抑制することが出来る。また、その温度で水分 を蒸散させることから排水(浸出水)が無く、固形物・汚水の同時処理が可能で、日 本では養豚場の糞尿を同時処理している。 コンポスト製造方法 有機性廃棄物を散布用バケットで発酵槽内に運び、カワシマが開発した「有機性廃棄物の処 理方法」(特許番号:5442325)で、コンポスト化する。有機性廃棄物の堆積物を「RA-X」で 攪拌して、上下方向で相等しい空間率で該空間率を 20~40%に形成するとともに、農業廃棄物 を水分調整剤とし、水分を 20~70 重量%に調整しつつ、 「BX-1」を手作業で 0.01~1.0 重量% 散布して、高温好気性発酵させて、コンポストにする。 33 図 20 スクリュー型自動攪拌装置「RA-X」による撹拌システム 左:RA-X による撹拌 右:バケットによる廃棄物投入 写真 26 「RA-X」運転状況 撹拌方法は下記の通りである。 • 1 日に 1 回撹拌する • スクリューを傾斜させて幅 12mの醗酵槽を横への移動 • そして約 50cm 縦に移動 1回攪拌して前進 50cm する所要時間は 130 秒 • 100m の醗酵槽を撹拌する稼働時間は、約 8h/日 • 醗酵槽内での有機性廃棄物の発酵期間は、約 40 日 ③ コンポスト工場用地 ティラフシ島のコンポスト工場用地は、新工業団地を予定している。用地借用についての交渉 は、これからである。工場の敷地として 150 x 120m = 18,000 ㎡を予定している。 34 図 21 コンポスト工場建設予定地 図 22 コンポスト工場レイアウト (5) 経済性評価に関する調査 事業は、マレ島で発生する 41,200t/年の有機性廃棄物を処理し、年間 6,500t の盛り土の土壌改良 35 剤用のコンポストの製造・販売を見込む。 コンポスト工場は、マレ島の西 6.5km に位置するティラフシ島に建設する。マレ島、ヴィリン ギリ島に加え、フルマーレ島、マレ国際空港の有機性廃棄物を処理する。リゾート島の有機性廃 棄物を処理することも検討する。 事業収入は、マレ市からのゴミ処理費とコンポストの販売収入である。 マレ市長シハブ氏によると、前政権下でティラフシ島のゴミ発電事業をインドの企業と契約を 締結したものの、諸事情により契約を破棄する交渉が現在進められているそうである。インド企 業からの提案は、発電容量 2.7MW の施設を 20 年契約の DBO(Design Build Operate)方式で運営 し、年間 16,000t-CO2e の排出量を削減するという内容である。新規設備投資は売電収入とゴミ処 理費用により回収するため、マレ市負担ゼロという条件だそうである。インド企業からの、ゴミ 処理費の提案は US$50〜60/t である。 そのほか、今回、TCL、HDC 等でヒアリングした主要なデータは下記の通りである。 • 市中金融金利 不動産 8-10%(最長 25 年、20%株主資本)、事業 13-14% • 土地借用費 US$ 0.88/m2 (MVR 1.5/ft2) • 賃金 単純労働者 $300/月 Maldives Customs Service へのヒアリングによれば、2013/12/1〜2014/11/30 のコンポストの輸入 量は 9,376.84 t、US$ 888,099.88 であったので、コンポストの平均価格 94.7US$/t(11,168 円/t)で 経済性評価を行った。 電気単価は、Maldives Energy Authority の HP に記載された, Thilafushi Band E を想定、 4.35MVR/kWh で経済性評価を行った。 現地ヒアリングでは、事業に対する市中金融金利は、13-14%であったので、プロジェクト 1RR のベンチマークを 13.5%として経済性評価を行った。 経済性評価の基礎データは、下記の通りである。2017 年に建設を開始して、2018 年に事業を開 始しを予定している。 表 5 経済性評価の基礎データ 出典/備考 為替レート 円/MVR 7.60 ネット情報 RA-X 設備費 千円 150,000 スリランカで製造 上屋、発酵槽 千円 150,000 スリランカ建設費を元に想定 RA-X 設置費 千円 敷地面積 平米 土地借用料 円/㎡/年 年間消費電力 kWh/年 電気代 MVR/kWh 4.35 Maldives Energy Authority HP, Thilafushi Band E 想定 有機性廃棄物収集量 t/日 114 計画値 コンポスト生産量 t/日 18 計画値 稼働日数 日/年 4,500 スリランカ・エンジニアリング会社スタッフが設置 18,000 図 22 を参照 1,276 TCL ヒアリング 254,259 カワシマ提供 365 計画値 36 労働者単価 円/年 432,000 PEAR 現地ヒアリング調査 雇用労働者数 人 ベンチマーク IRR % コンポスト販売単価 円/t 11,168 2013/12/1〜2014/11/30 輸入実績から算定 ゴミ処理単価 円/t 1, 420 ベンチマーク IRR 達成のために逆算 7 類似案件を参考に設定 13.5% 金融機関ヒアリング・税引前(5 年) 表 6 経済性評価 IRR(5 年)13.5%の時の営業利益は 33,686 千円である。ゴミ処理単価は、1,420 円/トンで、年 間 58,504 千円となった。マレ市の人口は 133,019 人なので、マレ市民は一人当たり年間 440 円の 負担となる。事業採算性は、ゴミ処理費、コンポスト販売価格、土地借用料に大きく影響される。 土地借用料が減免されたケースでは、ゴミ処理単価は 710 円/t で市民の負担は 220 円で、50%の負 担減となる。 コンポスト販売価格 11,168 円/t では、TCL と HDC の購入費は 72,592 千円である。 (6) リスク評価と環境十全性の評価に関する調査 海外において事業を行う場合、国内同様、さまざまなリスクが想定されるが、一般にはより大 きく複雑なものとなる。事業実施に伴うリスクは、おおかた、政治リスク、商業リスク、自然災 害リスクに分類できる。 37 表 3 事業に伴うリスク リスクの分類 代表的なリスク 政治リスク 制度変更リスク、収用リスク 自然災害リスク 地震、津波、火災、洪水、疫病など 商業リスク 資金調達、完工、操業、技術、原材料調達など 政治リスクは、政府機関の契約不履行や制度の急な変更などに伴って発生する。カントリーリ スクと呼ばれることもある。自然災害リスクは、地震、津波、台風、洪水などのいわゆる自然災 害のほかに、火災や疫病の流行などの現象も含まれる。商業リスクは、事業行為そのものに起因 して発生するものであり、資金調達や完工、原材料調達に伴うリスクなどが挙げられる。 このうち、政治リスクと自然災害リスクは、民間事業者にとってはコントロールが困難で、不 可抗力であることから、両者をしばしば不可抗力(的な)リスクと呼ぶ。 以上のリスクが発生すると、事業は直接間接に、少なからず影響を受けることとなるため、事 前にリスクを洗い出し、その対応策を検討しておくことが重要である。 ① 政治リスクとその対応 政治リスクは、政府や政府機関の行為や制度上の問題によって、表面化する。特に、インフラ に関係する事業は、現地政府の政策や規制との結びつきが強いため、政府の動きに注意を払って おく必要がある。また、当該国の治安等の不安定性は、為替にも影響を及ぼす。基本的に収入が 現地通貨である場合、プロジェクト自体が順調に操業されていても、為替差損により、マイナス の影響を被る場合がある。 政治リスクへの対応は、国内外の公的金融機関(NEXI 等)の保険や保証の活用、民間保険の手 配、現地政府機関による支援などを利用することである。ただし、これらの保険や保証も事象の 認定に条件がある場合や限界等もあり、万全ではないことに注意を要する。もう一つの手段とし て、これらのような不可抗力な事態が発生した場合に、事業からの撤退を行うことや、必要以上 の責任を負わないような条項を、各種契約に盛り込んでおくことが重要である。 政治リスクを測る一つの尺度として、グローバル金融機関や格付け機関の情報活用がある。例 えば、格付け機関であるスタンダード&プアーズ社やムーディーズ社のレーティング、ゴールド マンサックスの評価レポートなどである。ただし、モルディブについては、残念ながらこれらの 機関は評価を行っていない。 以上のことから、本事業実施では、政治リスクを完全に排除することはできない。したがって、 NEXI の貿易保険を活用しつつ、各種契約において、事業撤退・責任回避の条項を盛り込むことで、 リスク低減に努めることとする。 ② 自然災害リスクとその対応 自然災害リスクは、地震、津波、台風、洪水、火災、疫病などを原因とし、事業が影響を受け るリスクである。当然のことながら、これらの災害の発生を未然に防ぐことは困難であるため、 事後の被害を最小化することが重要となる。 38 具体的な対応策としては、民間の災害保険を活用することが多い。また、被害最小化のために、 災害時の避難訓練や対応をマニュアル化し、プロジェクト実施関係者で共有しておくことで対応 する。 ③ 商業リスクとその対応 商業リスクは、事業行為に起因し、事業実施に影響を及ぼすリスクである。具体的な項目とし て、スポンサー、資金調達、完工(EPC コントラクター)、燃料調達、オフテイカー、機器オペレ ーション/メンテナンスに関わるリスクが挙げられる。 • スポンサーリスク:スポンサーに起因する事由で事業実施に問題が発生するリスクであ る。実際に事業を行うのは、SPC となる事業会社であるが、スポンサーが事業会社に出資 し、必要に応じて、人的資源や土地機材の提供、操業の支援を行う。スポンサーは様々な 場面で事業に関与することになり、本事業ではスポンサーは現時点では未定であり、当該 分野の知識、知見、技術ノウハウを十分に保有していることが求められる。 • 資金調達リスク: 本事業は、CTI PFAN の活用を図りたいと考えている。同資金の活用に より、資金調達リスクは軽減される。 • 完工リスク:プロジェクトの機器・設備・施設等が、当初予定した期間・予算・性能で完成し ないリスクを指す。通常、工事を請け負う EPC コントラクターの能力、発注側である事 業会社やスポンサーの能力に起因して発生する。事業が予定した内容で完成しなければ、 追加の建設コストが必要となり、スポンサーに対する配当、レンダーに対する債務支払い の停滞等が起こり、事業全体の大幅な見直しを余儀なくされる場合もある。原材料供給者 やオフテイカーとの間では、ペナルティの支払いや契約解除となりうる事態も想定され る。このような事態を避けるために、建設工事を請け負う事業者には、十分な経験と知見 が求められる。後述するように、現在、スリランカ国でエンジニアリング会社の設立に向 けて、準備を始めたところである。同エンジニアリング会社が、施工全般を行なっていく こととなることから、JICA スリランカ国スクリュー型コンポストプラントによる有機性 廃棄物・農業廃棄物のリサイクル事業普及・実証事業で日本から、確実な技術移転を行う。 • 原材料調達リスク:事業実施に必要な原材料が、当初想定した量、価格、期限等に提供さ れないリスクである。特に、有機性廃棄物を活用するコンポストプロジェクトにおいては、 その安定的な調達が安定的な事業実施の要諦となる。したがって、長期間安定的に原材料 を確保するために、原材料提供者と事業会社との間で、長期原材料供給契約を締結するこ とが求められる。途上国では、契約を締結していても、原材料の需給が逼迫し、原材料が 高値で売れる状況になると、契約を反古にし他社へ提供してしまうケースも散見されるた め、注意を要する。 • 一方、本事業では、原材料である有機性廃棄物の提供者は、事業パートナーとなるマレ市 である。年々、廃棄物の量は増加しているため、量の減少リスクは小さい。他方、価格(本 事業の場合はゴミ処理費)については、マレ市は慢性的な財政不足であるため、できる限 り長期間高値で引き取れるように契約を締結する。 • オフテイカーリスク:事業会社の提供するサービスを、契約で定めた量、価格等で引き取 39 りが出来なくなるリスクである。原材料提供者がオフテイカーとなることによって、故意 に、サービスを引き取らない状況を作り出さないことが最も望ましい。つまりマレ市が原 材料提供者とサービス受領者を兼ねることによって、ナチュラルヘッジとなる。本事業の 場合には、TCL がコンポストのオフテイカーであるため、ナチュラルヘッジ原理が働か ないが、事業収入のコアは、廃棄物の処理費であり、コンポスト販売は副次的な位置づけ とすることで、リスク低減を行う。 • オペレーション/メンテナンスリスク:これは、事業会社の予算作成・管理といった経営 能力に起因する部分と、事業に導入された技術そのもの及びその技術に対する知識不足に 起因する部分、とに分けられる。後者を技術リスクと呼ぶこともある。前者については、 スポンサーが戦略的投資家の場合には、事業会社に役職員を派遣して、事業そのものに内 側から関与する。この場合、スポンサーが経営能力を持っているケースが多い。他方、ス ポンサーがいわゆる金融投資家などで、資金提供は可能でも操業能力に不安がある場合 は、経験と知見を有する外部のエキスパートに操業を委託することによって、リスクを低 減する。メンテナンスについては、導入された機器のメーカーとの保守契約に基づき、メ ーカーが請け負うことが多いが、その期間は様々である。保守費用との兼ね合いから、保 守期間を早々に切り上げ、事業会社自身で保守を行う場合も多い。 本事業では、オペレーションは、事業会社で行うことを想定している。設備を納品するカワシ マ社は、JICA 事業で、スリランカ国で本事業に導入するプラントの普及・実証事業をスター トさせた。さらに、導入されるコンポスト製造技術は、日本での導入実績があり、これまで故 障も無く、稼働している。また、複雑な装置類も少ないため、メンテナンスにかかる時間やコ ストも小さい。したがって、当該リスクは相対的に小さいと考えている。 (7) EIA、許認可に関する調査 モ ル デ ィ ブ に は 、 環 境 保 護 に 関 す る 法 律 と し て 、 ENVIRONMENT PROTECTION AND PRESERVATION ACT OF MALDIVES(Law No. 4/93)が制定されている。その第 5 条第1項には、 環境影響評価(EIA)に関する定めがあり、「環境への影響の可能性のある事業を開発する場合、 影響評価調査を実施し、計画人的資源環境省に提出すること」となっている。また同条第 2 項に は、 「計画人的資源環境省は、環境影響評価のための指針を策定し、前項に掲げられた評価を必要 とする事業を決定する」こととなっている。 コンポスト設備は、現状の環境問題を改善し、加えて排水が無く、大気汚染物質の発生も無い 設備であることから、EIA は取得できる見込みである。 一般に、モルディブで廃棄物管理プロジェクトを実施する場合には、EPA によって定められた Initial Environmental Evaluation Checklist を用いて、環境に与える影響を大まかながら事前にチェッ クすることとなっている。そのチェック項目を以下に示す。本事業は、上記の通り廃棄物を発生 せず、大気環境の汚染がなく、工場建設地は海砂による埋立地なので地下水、海外線、植物・植 生、礁生態システムに影響が無く、生態系上重要な生息地・保護区では無く、希少・絶滅危機種 は無く、住民も住んでいないため、チェックリストも問題がない。 40 表 4 Initial Environmental Evaluation Checklist 島名 GPS ロケーション エリア面積(東西、南北の長さ) 人口 廃棄物管理状況 固形廃棄物発生量 廃棄物の組成 現在の廃棄物処理・管理に関する状況 環境面での問題 地下水 当該島における地下水の状況とその利用に関する状況 海岸線 海岸線の状況 大気 大気への廃棄地点のリスト化 大気への排気拡散地点のリスト化 植物・植生 当該島における優勢植物種の状況 当該島海岸における優勢植物の状況 当該島に大きな樹木種があるかどうかの確認 礁生態システム 海岸線近辺の礁の一般的状況 生態系上重要な生息地 生態系上重要な(影響を受けやすい)生息地の存在(海草藻場、マングローブ、 湿地等) 希少・絶滅危機種 稀少または絶滅危機種の存在確認 保護区 当該島近隣に保護区があるかどうかの確認 当該島に文化的歴史的保護地域があるかどうかの確認 人口と世帯 人口 世帯数 空き家数 廃棄物管理を含む将来の土地計画があるかどうかの確認 経済活動 41 島の主たる収益活動(漁業、農業、観光等) 観光客の来訪の有無 上下水道 当該島における上下水の整備に関する状況 エネルギー・燃料供給 電力・燃料供給とその備蓄に関する状況 輸送 地域住民は、人々や商品を輸送するためのドーニーを保有しているかの確認 診療所 診療所の有無 学校 何学年まで教育可能かの確認 コミュニティグループ 当該島における他のコミュニティグループの存在確認 Environmental And Social Management Framework (ESAMF)は、モルディブが世界銀行主導の CCTF (Climate Change Trust Fund)からサポートを受けるにあたり、対象プロジェクトが世界銀行の環 境プロジェクト融資政策に準拠するようにするために整備されたフレームワークである。湿地と 環礁の環境管理を確実にすることが求められ、また、選定されたサイトで統合的な固形廃棄物シ ステムがセットアップされることを目的としている。同フレームワークでは、以下のデューデリ ジェンス原則を取り入れ、社会環境リスクの管理を行うこととしている。この原則は、プロジェ クト準備期間および実施期間に、適用され、具体的な内容は、以下の通りである。 原則 1:チェックと分類 • 社会環境面でのすべての物理的な影響がチェックされ、社会環境スクリーニング基準に従 って潜在的影響とリスクの大きさに基づき分類される。 原則 2:社会環境影響評価。 • モルディブ政府の規制に従い、関連する社会環境影響とリスクに対処するため、必要に応 じて、Initial Environemental Evalautions(IEEs)または Environmental and Social Impact Assessments が行われる。Assessment においては、提案されたプロジェクトの性質とスケ ールに応じた緩和と管理処置も提案される。 原則 3:適用されうる社会環境基準 • 社会環境影響評価は、モルディブ政府の方針と基準の他に、世界銀行運営方針と環境保健 安全(EHS)ガイドラインも参照される。さらに、社会環境問題に関連したモルディブの 法律、規則、許認可との整合も図られる。 原則 4:社会環境管理システム • すべての物理的活動に関し、Environmental and Social Management Plans(ESMPs)とモニ タリング指標は、発見事項や Assessment の結論に言及できるように、開発される。ESMPs は影響を管理するのに必要な緩和処置、補正行動とモニタリング案を実行するために、必 42 要な行動について記述し、優先順位をつける。これらの行動は、土木建設契約文書の一部 としてコストを見積もられ、反映される。 原則 5:協議と公開 • 影響を受けるコミュニティは、体系化され文化的に適切な方法において、協議会が開催さ れる。もし本活動または補助活動がコミュニティに対して負の影響を及ぼすと評価された 場合には、それらの活動が影響を受けたコミュニティの懸念を十分に取り入れたかどうか 立証する手段として、無料で、事前で、通知に基づいた協議を確実にしなければならない。 これを達成するために、フレームワークならびに他の全ての安全措置は、合理的な最小期 間の間、市民に対して利用可能とされる。負の社会環境影響がある場合には、Assessment の初期の段階で公開され、さらに随時公開されるものとする。 原則 6:苦情是正メカニズム • 協議、公開、コミュニティとの共立がプロジェクト実施期間中も継続することを確実にす るために、苦情是正メカニズムはマネジメントシステムの一つとして設立され、プロジェ クトまたは下位プロジェクトのリスクと悪影響を調整する。苦情是正メカニズムは、影響 を受けるコミュニティの中の個人、グループからの社会環境影響に対する懸念や苦情に配 慮される。 原則 7:モニタリングと報告 • 関連する責任機関により、モニタリング計画に基づいて、すべての ESMPs はモニターさ れる。Environmental and Social Coordinator は、モニタリング活動確実に行う責任を有し、 半年ごとにレポートを提出する。 原則 8:トレーニング • プロジェクト・スタッフ、土木工事に関わるスタッフ、社会環境影響を管理する他の者に 対するトレーニングは、ESMF の実施を確実に成功させるために必要である。必要な予算 がトレーニング計画を実行するために割り当てられる。 (8) PPP 事業に関する調査 2014 年マレ市長 10 月 27 日の環境エネルギー大臣との面談、29 日のマレ市長の面談では、モル ディブ政府の基本方針は、①すべてのゴミを対象、②すべての関連業務を民間に委託(収集、処 理、資源化)とのことである。EPA の Murthaza 氏によると、現政権には廃棄物管理の知見がまっ たくないため人材募集をしている状況だそうで、モルディブ政府側が PPP 事業を推進できるよう な体制を整えるのにも時間がかかりそうである。全てのゴミを対象とすれば、日本でのゴミ処理 方法をもとに、理想とするゴミ処理を方法を想定すれば、図 23 のとおりになると考えられ、PPP で事業化する場合も、全ての事業を包括的に行うことになり、非現実的であると考える。ここで は、コンポスト事業のみを対象として、検討を加える。 本事業では、PFI の強みが最も活かされる DBO 方式を基本とし、マレ市政府(以下 MCC)と日 本コンソーシアムによって設立する現地合弁会社(JV)がごみ処理施設の建設と 20 年間の運営事 業を一括して行う計画である。 PPP スキームで、モルディブの Tatva Global Renewable Energy Ltd をコアに、インド・ドイツ企 43 業からなるコンソーシアムと、マレ市、モルディブ政府の 3 者間契約が 2011 年 5 月に締結した。 IFC が、モルディブでの固形廃棄物管理プロジェクトの検討を行い、IFC’s Approach to Solid Waste で、その契約内容を紹介している。契約内容は、マレ島、ヴィリンギリ島、フルマーレ島、マレ 国際空港の 4 島のゴミ、日量 200t をごみを焼却処理を行う。プロジェクト期間は 20 年間で BOT 方式、投資額は 50 百万米ドルとなっている。プロジェクトの主要な収入は、廃棄物受け入れ時の 処理費と廃棄物の収集・輸送に関わる費用である。政府は、200 トン/日の廃棄物の供給を保証す る。また、2.7MW のガス化発電プラントを併設し、売電収入を見込んでいる。同モデルをベース に、事業化を検討する。尚、前述したように、マレ市長シハブ氏によると、インド・ドイツ企業 からなるコンソーシアムとの契約は、破棄する交渉が現在進められているそうである。 図 23 想定されるマレ市のゴミ事業 。 出典:IFC’s Approach to Solid Waste 図 23 IFC における廃棄物管理バリューチェーンのイメージ 44 出典:MOLDIVES WASTE MANAGEMENT PROJECT 図 24 モルディブにおける固形廃棄物管理プロジェクトの体制 本事業の総設備投資額は、表 5 に示すように 3 億 450 万円である。新生銀行、JBIC、IFC のいず れも、事業規模 20 億円以下ではプロジェクトファイナンス組成は無理という話であった。また、 クラウドバンクは、ゴミの処理費等収入が確定していない状況では、収益性が判断できないため、 現時点では検討が困難とのことであった。 そこで、本事業では、資金調達の一つとして、CTIPFAN の活用を図る。CTI は、気候変動防止 技術イニシアティブ(Climate Technology Initiative)の略で、COP1 において、国際エネルギー機関 (IEA)/OECD 加盟国及び欧州委員会によって設立された多国間による国際連携イニシアティブで あり、2003 年に IEA の 実施協定に位置づけられた。CTI は、気候変動対策プロジェクトによる 民間直接投融資の確保を支援する CTI 民間資金調達支援ネットワーク(CTI PFAN)プログラムの 活動を行っている。同プログラムでは、気候変動の「緩和」を目指すプロジェクトだけではなく、 「適応」に関連したプロジェクトの支援をするための試みも始めている。CTI PFAN はアジア、ラ テンアメリカ、アフリカ、独立国家共同体(CIS)・中央アジアに、開発者と投資家による地域ネッ トワークを構築している。CTI PFAN に参加している投資家は、これまでにアジアをはじめ多くの 国で、164 件以上の環境・エネルギープロジェクトに対して資金実行の実績があり、うち 38 件が 総額 4 億 3200 万 US$超の資金調達を完了させた。 経済産業省は、CTI の活動を支援しており CTI 加盟国の中小企業の気候変動防止技術を発展途 上国及び新興国へ移転促進を図るためのプログラム CTBN(CTI クリーン技術ビジネスネットワ ーク)を、平成 25 年度に実施した。公益財団法人国際環境技術移転センターが、経済産業省より 委託を受け、CTBN プログラム構築のためのパイロット事業(調査)をモンゴル国で実施した。 プロジェクトの実施にあたり、株式会社 PEAR カーボンオフセット・イニシアティブは、プロジ ェクト形成促進のためのサポート・コンサルタントとして参加し、ウランバートル市の大気汚染 45 改善と温暖化防止に貢献するバイオマスボイラ技術の普及に向けて、日本メーカー、モンゴル企 業、ウランバートル市 Authority of Partial Engineering Supply(市内の熱供給を担当する部局)との ビジネスマッチングを成功させた。 そこで、株式会社 PEAR カーボンオフセット・イニシアティブは、その実績を踏まえ、本事業 への CTI PFAN の活用を図りたいと考えている。 (9) 普及可能性に関する調査 島嶼国では、気候変動による海面上昇により脅威を受けており、加えてゴミ問題を抱えている。 例えば、マーシャル諸島など 特に国土の狭い島嶼国では、土地を拡張する目的で、沿岸域にごみ を埋め立てる人が多く、このため、マングローブなどの消失につなかがっている 9。 これらの島嶼国は、財政基盤が脆弱であり、ゴミの再資源化、減容化を行うための資金の余力 が、あまりない。 本事業を含め、島嶼国に、「RA-X」を導入していくためには、設備コストの削減が不可欠であ る。また、マレ市等の関係者が、実際に「RA-X」の稼働状況を視察し、その効果を理解する必要 がある。 「RA-X」の製造メーカーであるカワシマは、JICA スリランカ国スクリュー型コンポストプラン トによる有機性廃棄物・農業廃棄物のリサイクル事業普及・実証事業を 2015 年1月 23 日からス タートした。同事業では、2015 年 9 月から稼働させて、実証・普及活動を行う計画である。 スリランカとモルディブは、共に南アジア地域協力連合に加盟し、密接な関係にある。カワシ マは、JICA 事業をきっかけとしてスリランカ国及びアジア地域で RA-X の販売を行いたいと考え ている。コンポスト設備の納入先は、ゴミの集荷処理のサービスを行う地方政府であり、導入目 的は、家庭ゴミの再資源化による減容である。収入は、市民からのゴミ収集費であり、コンポス ト代金は副次的である。財政基盤が弱い途上国の地方政府にとって、日本製品を日本から直接購 入するには、高すぎて出来ない。スリランカ及びモルディブで販売を行う為には、コンポストプ ラントのコストダウンが不可欠である。JICA 実証・普及事業を期間中にパートナー企業を選定し、 エンジニアリング会社を設立する計画であり、2016 年中の会社設立を見込んでいる。そして、協 力会社を選定してスリランカ国での内製化を図り、RA-X の1セットを 5 千万円で販売する計画で ある。据付工事費も、日本からのスタッフ派遣ではなく、現地スタッフによる対応で、1 基の設置 費を 150 万円に抑える計画である。 エンジニアリング会社は、以下の構成を考えている 9 南太平洋島嶼国における CDM プロジェクト検討調査 概 要 版平成 14 年 2 月 パシフィックコンサルタンツ株式会社 46 図 25 スリランカ・コンポスト・エンジニアリング会社 (10) 技術・製品を導入した場合の成果の評価手法の方法論を作成と評価 次の項で記載。 6 指標(方法論)とベースラインデータ モルディブのマレ市(マレ島、ヴィリンギリ島)で有機性廃棄物の分別収集が行われて、ティ ラフシ島のコンポスト工場でコンポストを製造し、フルマーレ島・ティラフシ島の土地造成用に 使用する事業のベースラインとプロジェクトのシナリオは以下の通り。 現状 ティラフシ島の廃棄物処理 2018 年に見込まれる成果 野焼き・転圧処理 有機性廃棄物の一部がコンポスト処理 される フルマーレ島・ティラフシ島の 海外から輸入 マレ市の有機性廃棄物を原料としたコ コンポスト ンポストが製造される ティラフシ島の有機性廃棄物か 嫌気性発酵してメタンガ 高温好気性発酵してメタンガスの排気 らの温室効果ガス スを発生 量を削減 インプット・アウトプット・アウトカム・評価指標は以下の通りである。 インプット アウトプット アウトカム 評価指標 ティラフシ島での 野焼き・埋設量:2013 年 567, スクリュー型コンポス マレ市の有機性 埋設処理量が減少 634t トプラントの導入 廃棄物の分別収 する 出典:Statistical yearbook of maldives 2014 集が行われて、 コンポストが製造 2013/12/1〜2014/11/30 のコン コンポスト処理 されて、土地造成に される。 使用される。 ティラフシ島で嫌 47 ポスト輸入量:9,376.84 t Maldives Customs Service へのヒアリング 1,014,970tCO2e/10 年 (41,200t/年の生ゴミ分) 気性発酵して排出 するメタンガスが 減少する。 事業の効果は、コンポスト工場に投入される有機性廃棄物量と、コンポスト工場で製造し販売 されたコンポスト量によって評価する。 現在、マレ市の有機性廃棄物は分別収集されていない。分別収集した家庭数を把握するために は、分別収集システムを新たに構築する必要が有る。各ブロックごとの収集用ゴミバケットを有 機性廃棄物とその他廃棄物とに区分し、収集時に確認しながら収集し、運搬船も有機性廃棄物の み運搬する方法を考えている。 「RA-X」は、我が国で唯一 CDM として UNFCCC(気候変動に関する国際連合枠組条約)に登 録されているコンポスト技術である(Ref 4064 Co-composting of EFB and POME at PT. Sabut Mas Abadi in Kumai) 。従って、UNFCCC で承認された方法論に本技術が適合することが認められてい ることから、CDM の方法論に基づき、温室効果ガス削減効果を算出して定量化する。 尚、メタンガスの地球温暖化係数(GWP:Global Warming Potential) は、二酸化炭素の 25 倍で ある。従って、削減されるメタンガスの重量の 25 倍が二酸化炭素削減量であり、評価指数では二 酸化炭素量に換算して tCO2e で表記する。 7 適応対策において今後見込める成果 スクリュー型自動攪拌装置「RA-X」を 3 基導入し、マレ島で発生する 114t/日の有機性廃棄物と 36t/日 の水分調整剤から、コンポストを 54t/日製造する。コンポストは、36t/日を水分調整剤として利用し、 18t/日を土壌改良剤として盛り土用に販売する。年間 6,500t の製造を見込む。 現状 2018 年に見込まれる成果 ティラフシ島の廃棄物処理 567,634t/年 埋設量が 41,200t/年減少 フルマーレ島・ティラフシ 輸入量 9,376 t/年 輸入量が 6,500t/年減少 1,017,000t/10 年 CO2e 2,030t/10 年 CO2e (41,200t/年の生ゴミ分) (41,200t/年の生ゴミ分) 島のコンポスト ティラフシ島の有機性廃棄 物からの温室効果ガス 有機性廃棄物の投入量をモニタリングし、プロジェクトが実施されないケースでの投棄される 有機性廃棄物量と同量と見なして、計算で定量化する。事業実施前の有機性廃棄物からのメタン ガス発生量の計算は、下記の通りで、有機性廃棄物の投入量を入力し、IPCC のデフォルト値を用 いて有機性炭素量と分解率を求めて、温室効果ガス削減効果を算出する。 プロジェクトのコンポスト工場で使用する電力は、ディーゼル発電機で供給される。ディーゼ ル発電機からの CO2 排出量は、ディーゼル発電の排出係数(Table I.D.1, Apendix B of the simplified modalities and procedures for small-scale CDM project activities )で計算する。0.8tCO2/MWh で、電力 消費量が 254MWh/yr であることから、年間の CO2 排出量は 203t である。 48 表 5 有機性廃棄物からの温室効果ガス削減量計算表 8 今後の事業計画 本事業は、マレ市の有機性廃棄物をカワシマのコンポストプラントで、コンポストにして海砂 を浚渫して造成した土地の、植林の土壌改良材として利用を行うものである。 本事業の主たる収入は、マレ市からのゴミの処理費であり、副次的な収入はコンポストの販売 収入である。処理する有機性廃棄物は、マレ島で発生する 41,200t/年であり、マレ市政府からゴミ 処理費を徴収することとなる。 コンポストの年間販売量は、6,500t、比重は約 0.5 であることから、約 13,000m3 で、4ha の土地 を 33cm 覆土する量である。販売先は、ティラフシ島で工業団地の造成を行っている TCL とフル マーレ島の造成を行っている HDC である。 本事業では、PFI の強みが最も活かされる DBO 方式を基本とし、マレ市政府と日本コンソーシ アムによって設立する現地合弁会社(SPC)がコンポスト処理施設の建設と 20 年間の運営事業を 一括して行う計画である。ビジネスモデル図は図 26 の通りである。事業対象地域は、図 27 の通 りである。 今後、事業化にあたっては、ゴミ処理費、コンポスト販売価格、土地借用料について、マレ市 政府と HDC との交渉が必要となる。 2015 年 9 月から JICA の民間提案型普及・実証事業でカワシマのコンポストプラントをスリラ ンカで稼働させて、実証・普及活動を行う計画である。事業化にあたっては、マレ市政府等モル ディブ関係者に、同プラントを活用して見学を行い、導入に向けて協議開始したいと考えている。 49 図 26 事業実施体制 図 27 事業地域 50 9 対応すべき課題と対応策 本事業は、前述したように、マレ市のゴミ処理事業のうち、生ゴミのみを対象とするものであ る。今後、事業化を進めていくにあたっては、モルディブ政府、マレ市政府、TCL、HDC と、総 合的なゴミ対策と気候変動対策の観点から、それぞれの費用負担についてコンセンサスを得るこ とが必要となる。しかしながら、マレ市には、ゴミ処理に関する専門家がおらず、全体のイメー ジもつかめない状況にある。加えて、過去、ゴミ発電を検討した経緯から、安直にゴミ発電で全 てが解決するとのイメージを持っている。ゴミ発電を、大気汚染対策、灰処理対策を施すことな く、そのコストを負担することなく行えば、新たな公害発生装置となることの理解もまだないと 考える。今後、川崎市等、日本の廃棄物管理行政技術を途上国に広めていきたいと考えている市 町村とタイアップし、先ずは、総合的なマレ市のゴミ対策について話し合う場を作りたいと考え ている。 次に、コンポスト技術に対する理解がないことから、隣国スリランカでの RA-X の普及・実証 活動を活用して、技術の紹介を行いたいと考えている。 資金調達については、CTI PFAN を考えている。CTI PFAN では、その中核的な活動の一つとし て、クリーンエネルギー・ファイナンシング・フォーラム(コンペティション形式で、有望なク リーンエネルギープロジェクトを関心のある投資家に紹介するフォーラム)を実施している。過 去 13 回のフォーラム開催実績があり、24 件の有望なプロジェクトが、開発を前進させるための資 金を調達した。コンペティションにおいて選考されると、①ビジネスプランレベルアップのため のアドバイス、②資金調達実現への支援、が受けられる。最終的には、CTI PFAN ネットワークに 参画する投資家や金融機関等、クリーンプロジェクトに関心を持つ投融資元の紹介、プロジェク ト事業開発者とこれらの機関とのマッチングが促進され、事業の資金調達の実現が支援される。10 本事業においても、このスキームの活用を図りたいと考えている。コンポスト事業化にあたって は、ゴミ処理費の市民の負担、コンポスト販売価格では TCL と HDC の負担となる。土地造成で 利用することから、海砂浚渫との調整が必要である。土地借用料の免除については、TCL との調 整が必要となる。これらの交渉で、目鼻が立った段階で、クリーンエネルギー・ファイナンシン グ・フォーラムに本事業を提案したいと考えている。 10 (https://www.icett.or.jp/kouryuu/h26/documents/asia_success_stories_jp.pdf) 51 平成 26 年度「途上国における適応対策への我が国企業の貢献可視化に向けた 実現可能性調査事業」最終報告書 コンソーシアム名または企業・団体名 フロムファーイースト株式会社 事業名 森の叡智プロジェクト 提出日 2 月 20 日 1. 本事業の目的 本事業では、無添加のカラー剤・石鹸に関して、カンボジア農村部における原材料の生産から加 工、日本での販売まで垂直統合をした事業推進を目指す。それによって、カンボジアの農業生産性 の向上、農地・森林回復、原材料調達価格の引き下げによる製品利用者の拡大を行うことを本事業 の目的とする。 図表1:本事業のコンセプト 土壌改善剤 カンボジア農 業従事者 (原材料栽培) 種・肥料 農業指導 オーガニッ コンソーシアム 代金 日本市場の消 (原材料栽培支 援、製造) 無添加のカラー 費者 剤・石鹸の販売 ク原材料 原材料の栽培においては、アジアの中でも特に気候変動の脆弱 度が高いカンボジアのシェムリアップ近郊の農村部で行う。フロ ムファーイーストを中心として構成する当コンソーシアムは、カ ンボジア農業従事者にオーガニック原材料の栽培指導を行うと ともに、種・肥料、土壌改善剤を提供する。フロムファーイース トが販売している有機土壌改善剤は牡蠣殻と炭等によって製造 されているものであり、塩害や農薬・化学肥料で痛んだ土の回復 や野菜・植物の本来持つ生命力を引き出す働きを持っている。そ のため、この土壌改善剤を活用することで、洪水等によって農業 図表2:土壌改善剤 生産性が低くなった地域において、有機栽培を効率的に行うことができるようになる。カンボジア は、maplecroft 社の Climate Change Vulnerability Index 2014 において全世界で脆弱性が 8 番目 に高い国と評価されており、アジアではバングラデシュに次いで 2 番目に脆弱性が高く、東南アジ 1 アでは最も脆弱性が高い国である。 UNDP の「Climate Change Impacts and Vulnerability」においても、東南アジアにおいて、最も脆 弱性が高い国とされており、過去 40 年間の中で洪水や干ばつの頻度が急速に進み、被害が増えてき ている。そのため、本事業ではカン ボジアにおいて土壌改善剤を活用す ることで洪水や干ばつによって低下 した農業生産性を向上することを通 じて、カンボジアの農業従事者の所 得向上を実現する。なお、農業指導 に関しては、本コンソーシアムの IKTT(クメール伝統織物研究所)が 実施する。IKTT(クメール伝統織物 研究所)はカンボジアで森本氏が運 営している非営利法人である。森本 図表3:東南アジアにおける気候変動の脆弱性(UNDP) 氏は、シェムリアップの郊外に伝統の 森という村を作り、失われていく森や伝統織物技術の復興を行っている。既に 200 人以上が住む村 では有機自然栽培等が行われており、農業・伝統織物技術の指導体制が整っている。森本氏はその 功績を世界的に評価され、世界的な社会起業家におくられるロレックス賞を 2004 年に受賞してお り、2014 年には外務省より外務大臣表彰を受賞している。そのため、本事業においても、伝統の森 周辺地域から事業を開始し、活動エリアを拡大していくことを想定している。 オーガニック原材料としては、石鹸の原材料となるヤシ油、カラー剤の原材料となるライチ等の 栽培を予定しており、事業展開当初は原材料をコンソーシアム が購入し、日本国内で製造を行う予定である。そして、カンボ ジア現地で製造した製品の日本への輸入に対する手続き等を本 調査内で把握した上で、将来的にはカンボジアに工場を作り、 現地での雇用機会の増大につなげることを目指す。 なお、カラー剤の製造技術に関しては、日本の伝統芸術であ 図表4:ヘアカラー剤 る友禅職人であった森本氏がカンボジアの伝統織物技術の復興 の中で生み出した天然素材の色素定着技術を用いており、世界 唯一の技術である。また、石鹸に関しても、一般的な無添加石 鹸は原料に酸化防止剤、農薬等が持ち越された工業用原料(油 脂)が使用されているが本製品は、こうしたものを使用しない ノンキャリーオーバー製品であり、環境や人体に全く影響を及 ぼさない製品である。 図表5:無添加・ノンキャリーオーバー石鹸 2 販売に関しては、本調査において、現在フロムファーイーストが有している販売網での販売を行う か、独自の流通網を開拓するか、それを併用することのどれが最適かを検討する。本事業において は、気候変動の影響を受けるカンボジアの農業従事者の農業生産性拡大を目的にしているため、こ うした目的をより効率的に達成するため、販売においても「コーズリレッティドマーケティング」 の導入を検討している。具体的には、本事業において調達した原材料を活用した石鹸やカラー剤を 販売する際には、その価格の 1 割をカンボジアの農地・森林回復、カンボジアの農業従事者の農業 生産性拡大支援のための費用に回す。こうすることによって、事業が成長すればするほど、カンボ ジアでの気候変動上の課題に対する社会インパクトを高めていける仕組みを構築する。なお、本事 業を通じて現在よりも原材料調達にかかるコストを削減することができれば、製品価格を低下する とともに、収益の一部を現地の活動支援に回すことが両立できる。 3 2. 課題 カンボジアにおいては、この 40 年の 中で、洪水・干ばつの頻度が増大して いる。UNDP の「Climate Change Impacts and Vulnerability」によると、こうし た現象によって現地の人々に及ぼす影 響として、動物・人間の健康被害、農 業生産性の低下、農業用水の欠如があ げられている。本事業ではこのうちの 農業生産性の低下に重点を置くことと する。 カンボジアには、気候変動に対する計 図表6:カンボジアにおける気候変動による影響 (UNDP) 画として、カンボジア政府によって「 National Adaptation Programme of Action to Climate Change(NAPA)」が 2006 年に策定され、それを元にアクションプランが推進されている。NAPA によ ると、年間約 68 億円(3 年間で約 205 シェムリアップ 億円)の被害が生じており、農業にお いては調査対象地の 83%の農業従事者 が被害を受けているとされている。 NAPA においても、農業生産性の低下は 重要な課題だとされており、関連する 重 点 戦 略 と し て 「 Community Agro-Forestry in Deforested Watersheds(河川流域の森林伐採地域 におけるコミュニティ内アグロフォレ ストリーの推進)」※、「Promotion of Household Integrated Farming(家庭 図表7:カンボジアにおける洪水が頻繁におきる地域 レベルでの複合型農業※の推進)」が掲 (NAPA) げられ、推進されている。(※アグロフ ォレストリーとは樹木を植栽し、樹間で家畜・農作物を飼育・栽培する農林業を表す。また、複合 型農業とは、少なくとも 2 種類以上の農産物を同一農場で生産する農業を表す。) こうした活動は特に洪水が頻繁に起きる地域を重点的に推進されており、実際に本事業の対象地 であるシェムリアップにおいても、カンボジア環境省や農業・森林・漁業省による活動が推進され ている。本調査内でおこなったアンケート結果から、シェムリアップ近郊の農村地域において、実 際に洪水被害によって 4~6 割の農業収穫量が減少していることが分かった。また、この影響により、 平均年収も 15%程度減少しており、人によっては収入が無い状況に追い込まれていることが分かっ た。このようにカンボジアでは洪水被害が農業従事者の生活を著しく不安定なものにしている現状 が存在する。 4 3. 課題解決の方向性 農業生産性を持続的に向上させるためには、①安定的な生産量の確保、②作物の購買者の確保、 が必要となる。 ①に関しては、3つの観点から対応が必要となる。 まず一つ目は、森林を増やすことによって、農地に対する洪水の影響を減少させることである。 そのためには洪水の流れの上側に洪水によって流されない木々を植樹する。そうすることで洪水の 流れが弱くなり、作物が流される被害も軽減される。 2つ目は、IKTT 伝統の森で実践されているアグロフォレストリーの重要性を他農村で伝えること で、指導対象となる農業従事者の人数を増やしていくことである。アグロフォレストリーは、作物 を生産しつつ、同じ畑に木を植えて森を育てるという手法である。この手法を用いることで、木の 根が土壌流出を防ぐだけではなく、木を育てることで落ち葉による栄養の循環サイクルが生まれ、 結果として収穫量の増加につながる。カンボジア政府の NAPA においても、適応対策として推奨され ている手法である。 3つ目は当コンソーシアムで販売している(有)コズミックの土壌改良剤(忠海セラミックス/カ キ殻でつくった粉末)を用いて、収穫量を上げることである。この土壌改良剤は化学肥料ではなく、 天然成分であるため、収穫量向上を実現するだけではなく、連続して撒き続けても土壌・環境被害 が無く、土地を活性化させるため塩害も起きない。実際に、2014年度に土壌改良剤を開発した (有)コズミックによる水田に施用した場合の収量調査では、1株当たりの穂の数が 18%増加、1 株当たりの粒の数が 28%増加、1株当たりの粒重量が 40%増加、1反当たりのモミ重量が 20%増加、 1反当たりの玄米重量が 26%増加、1反当たりのくず米重量が 52%減少すると同時に、食塩水を用 いた生育実験により稲の耐塩性の向上が実証されている。(「コズミックウォーターのアクアポリン 透過性と生物学的効果」 、FOOD・STYLE21、2014 年 9 月号参照) ②に関してはフロムファーイーストのシャンプーや石鹸、バーム、オイル商品の原料として購入 し、日本での販売を行う。カンボジアで現地生産できる環境を整えることができればカンボジア国 内での販売も可能になる。本事業の対象地であるシェムリアップは、アンコールワット遺跡群を有 する世界的な観光地であるため、当初は観光客向けの販売を行うが、その後シェムリアップ市内、 プノンペン市内にある美容室への販売、美容室を通じた顧客への販売を行う。なお、既に美容室に 関しては、都市部にある日本人の美容師や日本に留学経験のある経営者が経営する美容室と提携可 能性に関して検討し始めている。こうして販売量が増えれば増えるほど、原材料の調達量が増え、 結果として農業生産性の持続的向上に寄与することができる。 5 4. 調査項目 1:カンボジアにおける気候変動の現状調査 ①気候変動に関する動向調査 カンボジアにおける気候変動の影響を公開情報や関連機関からのヒアリングにより明らかにする。 ②気候変動の影響に対する実態調査 対象地であるシェムリアップにて、洪水被害がどの程度農業従事者に影響を与えているのか、森林 が洪水被害をどの程度抑制しているのかをアンケート調査によって把握する。 2:現地での農業生産性向上の実現可能性調査 ①現時点で調達可能なオーガニック原材料の把握 既に現地にて栽培・自生している作物・植物の中から、オーガニック原材料として活用しうるもの を選定する。 ②栽培する農作物の選定 実際にオーガニック原材料を用いて、製造テストを行うことで、栽培する農作物を選定する。 ③農業指導方法の確立 選定した農作物に対して土壌改善剤を活用した場合の栽培方法の検討、現地農業従事者への指導を 行う。 ④農業資材の入手経路の確認 現地で農業資材の原材料が調達可能かどうかを調査する。 ④試験栽培を通じた土壌改善剤の効果測定 対象地であるシェムリアップにおいて、カンボジアでも土壌改善剤により収穫量が増え、生産性が 上がることを調査する。 3:農作物の日本への輸出手続き関連調査 ①輸出手続きの確認 輸出を行っている現地事業者へのヒアリングにより手続きを確認する。 ②現地で調達したオーガニック原材料を活用した輸出に関するパイロットテスト 輸出を行っている現地事業者を通じて、実際に輸出の手続きを始める。 4:農作物を活用した製造テスト 各製品の製造テストを行い、現地製造の実現可能性を把握し、販売計画を策定する。 5:販売手法・事業計画の検討 ①製品設計とコーズリレーティッドマーケティングを含めた販売手法の検討 製品のサイズや用途、価格等に関する各製品の詳細な製品設計と販売手法の検討を行う。 ②事業計画の検討 調査結果を元に今後 5 カ年の事業計画を策定する。 6 5. 調査結果(調査項目ごとに) 1:カンボジアにおける気候変動の現状調査 ① 気候変動に関する動向調査 世界銀行のデータベースである Climate Change Knowledge Portal によると、カンボジア は、1990年~2015年の間に、18度大きな洪水に見舞われている。1回の洪水で平 均71万人が被害を受けており、損害は約 7800 万ドルに達する。特に、川沿いの地域の洪水 被害は大きく、同期間の洪水により、累計約 1211 万人が被害を受け、損失は約 14 億ドルに 達する。また、元々カンボジアはアジア地域において森林豊かな国であり、その森林によっ て、被害が抑制されてきたが、近年では急速に森林が減少しており、年々洪水被害への脆弱 性が高まっている。 図表8:カンボジアにおける急速な森林減少 出所:Climate Change Knowledge Portal こうした状況の中で、河川流域にあるシェムリアップにおいても、洪水被害の影響は年々 拡大しているものの、ODA 等の適応対策が十分に推進されていない現状にある。JICA カンボ ジア事務所によると、シェムリアップは世界遺産であるアンコールワット遺跡群を有するが ために、遺跡保全に関係して、援助活動が制限されてしまう状況にある。アンコールワット 遺跡群に対する保全を中心的に推進している組織は、アンコール地域遺跡保護管理機構(ア プサラ機構)である。1992 年に世界文化遺産リストに登録する一つの条件として、ユネスコ はカンボジア政府に「文化遺産の管理組織」の設置を要求、これを受けて、カンボジア政府 は 1995 年、アプサラ機構が設立された。アプサラ機構には、シェムリアップ州の 5 つの区域 を管轄する権限が与えられ、関係省庁と連携して管理活動を実施している。遺跡の保全修復 をはじめ、地域の社会文化発展をめざした活動を展開している。アプサラ機構は、遺跡保全 のみならず、森林保全の観点から植樹活動に力を入れている。他方で、実際にはアプサラ機 構だけでは広範囲での植樹活動は推進できず、気候変動に関する専門性を有していないため に、適応対策という観点からの検討は行われていない。それにもかかわらず、シェムリアッ プにおけるデータを他組織に共有することに対しては非協力的であるため、洪水被害は増大 7 しているにも関わらず、先進国の援助機関や国際機関は対応ができずにいる。こういった観 点から、民間企業の事業収益を財源とする適応対策を推進する本事業の意義は特に大きいと 考えられる。 図表9:調査対象地域 ② 気候変動の影響に対する実態調査 シェムリアップでの洪水被害の実態を把握する ために、トンレサップ湖周辺農村へのアンケート調 査を行った。アンケートは 2014 年 10 月~2015 年 1 月に実施し、50 名を対象に行った。 アンケート対象のベースラインデータは、以下のと おりである。 図表10:ベースラインデータ 年間平均収入 1116 ドル(USD) 年間平均支出 742 ドル(USD) 農業収入の平均割合 29% ベースラインデータにおける年間の平均収入は 1116 ドルであるが、個別のデータを見ると 480 ドルから 2700 ドルとばらつきは大きい。また、全体収入における農業収入の割合に関し ても、平均では29%であるが、個別データでは 0~50%とばらつきが大きい状況である。 また、アンケートの結果によって、洪水被害のある年の収入は平均 15%減少することがわかっ た。約半数の農業従事者が米とバナナを生産しているが、洪水被害のある農村部では収穫量 が米で 42.6%、バナナで 50%に減少している。(図表 11,12,13)また、収入以外の被害とし ては下痢や財産の被害が多く、洪水が農村部の生活に大きく影響していることがわかった。 (図表 14) 図表11:栽培している農作物 米 バナナ トウモロコシ パパイヤ他 イモ 35% 46% 2% 17% 0% 図表12:洪水被害のあった年の被害状況 洪水被害時平均 単位(kg) 平均収穫量/年 米 502 214 42.6% バナナ 4 2 50% パパイヤ他 3 2 66.6% 収穫量/年 8 平均減少率 図表13:洪水被害による収入の変化 平均収入/年間 洪水の年 平均収入/年間 1116 ドル(USD) 948 ドル(USD) 図表14:農業以外で洪水後に困ったことはなにか? (人) 下痢 伝染病 財産流される 家屋が壊れる 37 9 28 5 さらに、アンケート対象者の中でも、米を栽培している人の内、洪水被害を受けている人 を抽出し、さらに「森林が多い地域で農業を営む人」と「森林によって被害が抑制されない 地域で農業を営む人」の被害状況を比較した。結果として、 「森林が多い地域で農業を営む人」 の平均収穫量は「森林によって被害が抑制されない地域で農業を営む人」よりも通常時にお いても平均収穫量が多いとともに、洪水被害も森林によって抑制され被害が少ない状況が明 らかとなった。 (図表15)そのため、アグロフォレストリーによる収穫量増加と洪水被害抑 制といった本事業の狙いは対象地において有効に機能しうるということが分かった。 図表15:森林の有無による米の収穫量と洪水被害状況の比較 平均収穫量/年 森林が多い地域で農業を営 む人(N=10) (kg) 洪水被害時平均 収穫量/年(kg) 平均減少率(%) 995 300 69.85% 800 170 78.75% 森林によって被害が抑制さ れない地域で農業を営む人 (N=8) 2:現地での農業生産性向上の実現可能性調査 ① 現時点で調達可能なオーガニック原材料の把握 日本市場で高付加価値を認識してもらえる原材料を、現地で安定的な調達を行うために は、その地域で少量ながら既に栽培、もしくは自生している原材料の必要がある。また、 あわせて、農村部で抽出作業でき、比較的希少価値があり、市場価格が高い作物を選定す る必要がある。こうした条件から原材料の候補としては、ココナッツ油・バナナから抽出 する炭酸カリウム・モリンガ油・綿の種油、アーモンドを選定した。なお、モリンガは、 インドの医学書アーユルヴェーダに「モリンガは特別な植物で、その使い道は実に多くあ る」との記されている枝、幹、葉、根、種、花のどれをとっても全てに健康的、環境的な 利用価値がある作物である。モリンガは 3 メートル弱の細めの木だが、種を植えてから 1 年以内に立派に育ち、気温が温かい地域であれば、どんな荒れた地でもたくましく育ち、 そこから多くの栄養素をもたらしてくれる植物である。 9 ② 栽培する農作物の選定 ココナッツ、モリンガ、綿に関して、現地にて油の抽出作業を行い、原材料としての活用 可能性を把握した。製造テストの内容は後述するが、結果として、ココナッツ油・モリンガ 油を原材料として活用することとした。これらの農作物を選定した理由としては、農村部で 抽出作業でき、比較的希少価値があり、生産することで経済的効果が期待でき、洪水抑制に もの繋がる樹木でもあるためである。なお、合わせて現地で既に栽培されている桑・綿を一 緒に栽培することで土壌改善剤の効果を把握しやすくするとともに、洪水抑制効果を高める こととした。また、ヘアカラー剤には、既に現地にて織物を染める際の材料に活用している アーモンドを選定することとした。 ③ 農業指導方法の確立 現地の農業従事者へ土壌改良剤の散布方法を指導し、実際に土壌改良剤の散布を行った。 具体的には、草を引き、苗(種)を植え、半径15cm で円を描くように土壌改善剤を散布し た。その後、雨により地中に成分が浸透するが、雨が少ない場合は水を散水することとした。 現存している植物には、枝先の真下を円を描くように土壌改善剤を散布することとした。 ④ 農業資材の入手経路の確認 土壌改善剤をカンボジアで製造するための主な原材料(土、貝殻)を現地調達することは 可能である。現在ベトナムにて 2016 年予定で土壌改善剤の製造を検討しており、それ以降は ベトナムから輸入することが可能になるので、カンボジアで国内製造するかベトナムから輸 入するか、効率的な選択を今後していく。 ⑤ 試験栽培を通じた土壌改善剤の効果測定 対象地であるシェムリアップにおいて、カンボジアでも土壌改善剤により収穫量が増え、 生産性が上がることを調査する。 試験地30平米と対照地30平米に桑、モリンガ、綿を同じように植え、試験地に 1kg の 土壌改善剤を苗の周辺に円を描くように散布。2014年12月5日に実施を行い、201 5年1月14日に生育を確認した。土壌改善剤は雨によって地中に浸透していくことで効果 を発揮するが、この期間、雨が少ないながらも試験地の方が生育状況が良いことがわかり、 土壌改善剤はカンボジアでも効果的だと判明した。 試験栽培の実施状況に関しては次頁以降に記載する。 10 ・2014 年 12 月 5 日 現地農業従事者に栽培方法を指導し、実際に現地に農業従事者による栽培を実施した。な お、土壌改良剤の効果を検証するために試験地と対象地を用意し、成長度合いの比較ができ るようにした。 図表16:現地農業従事者における栽培風景 図表17:試験地と対象地 ・2015 年1月 14 日(40日経過) 40 日経過した段階で、栽培状況の確認を行った。栽培し始めてから日数があまり経ってい ないこと、降水量が少ない時期であるため、土壌改善剤の効果は比較的少なく、遠目には変 化が分かりにくい状況である。他方で、近くで観察すると試験地では葉が上(太陽)を向き、 対照地の葉は下を向いているといった成長度合いの違いがわかり、土壌改善剤の効果が確認 できた。 11 図表18:試験地と対象地の状況 図表19:試験区と対象区の成長度合いの違い 3:農作物の日本への輸出手続き関連調査 ① 輸出手続きの確認 胡椒など農作物を日本への輸出をしている現地法人 CJBPS Co.,Ltd にヒアリングを行い、カ ンボジアから日本への輸出手続きの確認をした。結果として、アーモンド葉の粉末、ココナ ッツ油など、今回輸出を想定している物は日本へ輸出可能と判明したとともに、輸出業務に 関して協力をしてもらうこととなった。 ② 現地で調達したオーガニック原材料を活用した輸出に関するパイロットテスト 輸出経験が豊富な現地法人 CJBPS Co.,Ltd にて、既に輸出の手続きを開始した。 12 4:農作物を活用した製造テスト 製造テストは、 「油の抽出」 、 「シャンプーの製造」、 「ヘアカラーの製造」の 3 種類のテストを実施 した。 ① 油の抽出 現地で抽出可能な植物オイルを試験的に抽出した。まず、綿の種油を石臼で抽出してみた が、綿が油を吸い取りうまく抽出できないことが分かった。他方で、モリンガの種から油を 石臼で挽いてみるとうまく抽出できた。また、ココナッツから熱分離でココナッツ油を抽出 することに成功した。結果として、油の抽出はモリンガとココナッツに選択することになっ た。なお、ココナッツ油は、製品化に向け十分な量が現地で調達・抽出できることが分かっ たため、製品であるココナッツオイルは 2015 年度中にた製品に先行して販売を開始すること とした。 図表20:綿の種 図表21:綿の種を石臼で挽く 図表22:モリンガ油を石臼で抽出 13 図表23:ココナッツの実を削り、削ったものを搾り、最後に熱分離で油を抽出 ② シャンプーの製造 農村部にある自然の原料のみでシャンプーに関する製造テストを行った。まず、バナナの 灰を水に浸け、その上澄み液を製造、その後上澄み液を煮詰め、炭酸カリウムを抽出した。 あわせて、現地で調達した貝殻を粉砕し、火で炙り、煮詰めることで消石灰を製造した。最 後に、ココナッツ油と炭酸カリウムと消石灰を混ぜて、煮ることによりシャンプーの製造テ ストを行った。実験では、シャンプーは未完成であったが、国内の取引である製造業者と相 談した結果、煮る時間、放置時間などを細かく管理する等、現地の気温や湿度に合わせた管 理方法を確立することで、現地でのシャンプーの製造は実現可能であることが分かった。 図表24:バナナを灰にした上澄み液とそれを煮詰めて抽出した炭酸カリウム 14 図表25:貝殻を粉砕し消石灰を作成、その後ココナッツ油、炭酸カリウム、消石灰を煮る ③ ヘアカラー剤の製造 アーモンドの葉を煮て色素を抽出し、髪の毛に染色した。その結果、髪が染まることは判 明していたが、商品化に向けては、染色の時間や温度の調整方法を確立することが必要であ り、現在その手法確立のために継続的に製造テストを実施している。ヘアカラー剤に関して は、開発に時間がかかるため、他製品より販売開始時期を後ろ倒しにすることとした。 図表26:アーモンドの落ち葉を煮だし、染料をつくり、毛束を黒に染める 5:販売手法・事業計画の検討 ① 製品設計とコーズリレーティッドマーケティングを含めた販売手法の検討 本調査の結果に基づいて、現地で調達可能な原材料を元に製造する製品の内容量・使用原 材量、及び価格を設定した。今後販売していく製品の概要は、以下の通りである。 図表27:事業化時に販売する製品 内容量(g) 使用原料量(g) 税別価格(円) 用途 原材料 ココナッツオイル 400 400 2000 健康食・料理油 ココナッツ油 シャンプー 180 90 1800 髪の洗浄剤 ココナッツ油 石鹸 100 50 1000 全身洗浄剤 ココナッツ油 バーム 40 40 2750 肌の保湿 モリンガ油 ヘアカラー剤 100 80 2000 染毛剤 アーモンド葉 15 販売手法としては、既存の通販サイト「みんなでみらいを」での販売とみんなでみらい を卸先への販売を採用。また、原料の栽培や現地での製造をサイトで見せて購入者に知っ てもらうことや、商品の販売ごとに使用する植物の植樹を行う。サイト内でクラウドファ ンディングのコンテンツを加え、本件の商品製造する農村部の自立支援に対する投資対価 として商品をプレゼントする ② 事業計画の検討 上記調査結果に基づいて検討。検討結果は、8.今後の事業計画に後述する。 16 6. 指標(方法論)とベースラインデータ 本事業に関する事業評価手法は以下のとおりである。 図表28:事業評価手法 インプット アウトプット 訓練した農業従事者数 土壌改善剤を活用した農 評価指標 地の面積 土壌改善剤を活用した植 林地帯の面積 調達対象となる農作物量 面積当たりの収穫量 アウトカム 農業従事者の所得 持続的な農業が可能な 農地面積 アグロフォレストリー 植林面積 が可能な森林面積 なお、本事業評価手法は、カンボジア政府の「National Adaptation Programme of Action to Climate Change」の「Community Agro-Forestry in Deforested Watersheds」、「Promotion of Household Integrated Farming」に設定されている事業評価指標を元に作成したものであり、カンボジア国内 の政策にも合致する評価手法となっている。 また、この事業評価手法に関しては、農業生産性向上に関連する他の適応事業での活用が可能であ ると想定され、汎用性は高いと考えている。 ベースラインデータはアンケートにより収集しており、現状値は以下のとおりである。 図表29:ベースラインデータ インプット 訓練した農 業従事者数 アウトプット 調達対象と 0 量 評価指標 現在自生で 全て微量 0 農地の面積 植林地帯の 者の所得 (USD) 面積当たり 現在自生で 農 業 が 可 の収穫量 全て微量 通 常 時 1116 ドル 洪水年 948 ドル 能な農地 0 面積 アグロフ 土壌改善剤 を活用した 農業従事 持続的な 土壌改善剤 を活用した なる農作物 アウトカム ォレスト 0 植林面積 0 リーが可 能な森林 面積 面積 17 23h 7. 適応対策において今後見込める成果 本事業における目標値を以下に設定する。なお、目標値は全商品の販売が開始され、事業化が実 現する 2017 年度末を想定して設定した。 図表30:本事業における目標値 インプット アウトプット アウトカム 2000 ドル 訓練した農 業従事者数 調達対象と 1000 なる農作物 農 業 従 事 (USD) 1800kg 者の所得 量 洪 水 年 1900 ドル (USD) ココナッツ 土壌改善剤 評価指標 を活用した 面積当たり 100h の収穫量 農地の面積 油 500kg/h 持 続 的 な モリンガ油 農 業 が 可 100kg/h 能な農地 100h アーモンド 面積 葉 300kg/h アグロフ 土壌改善剤 を活用した 植林地帯の ォレスト 80h 植林面積 80h リーが可 40h 能な森林 面積 面積 目標設定に当たっては、まず「調達対象となる農作物」と「農業従事者の所得」の設定を行い、 それに基づいた指標の目標値を設定した。 「調達対象となる農作物」についてだが、後述する事業計 画の通り、2017 年には 1584kg の原材料が必要となる。そのため、余力を持たせるために 1 割程度 多く調達することとし、 「調達対象となる農作物」を 1800kg と設定した。また、 「農業従事者の所得」 は、本調査のアンケート結果の個別データを元に、収入が高く安定している人の年収として 2000 ド ルと設定した。また、それを元に、作物の買取価格を決定した。また、適応対策の観点から洪水時 でも年収は 5%しか減少しないようになるように目標値を設定した。これらの目標値を元に、他の項 目に関する目標設定を行った。 18 8. 今後の事業計画 ①販売計画と収支計画 今後は、2015 年中にココナッツオイル・シャンプー・石鹸・バームは現地で土壌改善剤を活用し て成長促進させた原材料を日本に輸出し、製造を行う。その上で、ココナッツオイルは販売を開始、 シャンプー・石鹸・バームはテスト販売を開始する。その後、2016 年にシャンプー・石鹸・バーム の販売を開始し、バームに使用するモリンガ油の一部は本事業を通じて種から育成した原材料を活 用し始める。また、2017 年にはヘアカラー剤の販売を開始、2018 年からはココナッツオイル・シャ ンプー・石鹸・バームを現地で製造する。 (図表31) ()する。ここ 図表31:製品別の事業化までの販売計画 シャンプー 石鹸 2015 2016 2017 2018~ テスト販売 販売 販売 現地製造開始 テスト販売 販売 販売 現地製造開始 テスト販売 販売 販売 現地製造開始 販売 販売 販売 現地製造開始 製造テスト 販売準備 販売開始 販売開始 バーム ココナッツオイル ヘアカラー剤 収支計画としては、2015 年度は赤字予想だが、2016 年度から黒字に転じ、2019 年には年間で 4500 万円程度の売り上げ、2000 万円程度の利益をあげられる見込みである。 (図表32) 図表32:収支計画 2015 2016 2017 2018 2019 平均単価(円) 1,887.5 1,887.5 1,910 1,910 1,910 平均原料量(g) 145 145 132 132 132 販売数(個) 1,000 6,000 12,000 18,000 24,000 原料量(kg) 145 870 1,584 2,376 3,168 売上(円) 1,887,500 11,325,000 22,920,000 34,380,000 45,840,000 原価(円) 145,000 870,000 1,584,000 2,376,000 3,168,000 販売管理費(円) 2,400,000 6,000,000 10,000,000 12,000,000 20,000,000 利益(円) -657,500 4,455,000 11,336,000 20,004,000 22,672,000 19 ②ビジネスモデル 事業化後のビジネスモデルは以下の3段階で発展・拡大させる計画である。 ステップ1:2015 年度は IKTT(伝統の森)に土壌改良剤を提供するとともに、(有)コズミックか ら農業指導を行い、モリンガやココナッツ、インディアンアーモンドの栽培を行う。IKTT で植物か ら抽出した原料(液や粉末)を日本でシャンプーや石鹸、ヘアカラー剤の原料として使用し、日本 国内へテスト販売を開始する。なお、ココナッツオイルに関しては販売を開始する。2016 年度以降 は同様のモデルにて、シャンプー・石鹸・バームの販売を開始する。 図表33:ビジネスモデルステップ1 ステップ2:2018 年以降は、IKTT 周辺の農村部で IKTT が農業指導・原料抽出・製造方法を指導し、 原材料は FFEI がそれを購入する。ステップ2では農村部でシャンプーや石鹸の製造まで行い、コス トダウンを図るとともに、近隣の農村内でも無償で使用してもらう。こうすることで合成界面活性 剤の垂れ流しによる環境の改善や、荒れ地への植林で洪水被害の抑制効果が高まる。また、日本市 場において、クラウドファンディングを活用したコーズリレーティングプログラムを開始し、カン ボジア生産の商品に関する新規顧客開拓を加速させるとともに、確保した財源を元に植林対象地の 拡大による適応対策効果の増大を図る。 20 図表34:ビジネスモデルステップ2 ステップ3:2019 年以降、農村部での各商品の製造が安定した後に、現地での販売を開始する。そ れによって、農業以外の安定した収入源を確立させる。こうした仕組みの確立により、環境保護と 持続的な発展を両立させる。また、シェムリアップ市内の観光客への販売、美容室への販売、プノ ンペンでの美容室への販売も展開する。この段階でカンボジアに FFEI による現地販売会社を設立す る。 図表35:ビジネスモデルステップ3 21 9. 対応すべき課題と対応策 対応すべき課題としては、 「農業指導の確立と管理」、 「モリンガ油の抽出機(圧搾機)の設備投資」 、 「カンボジアで製造した場合の化粧品認可手続き」、「植林地域の確保」の 4 つを想定している。な お、各課題の概要と対応策は以下のとおりである。 ①農業指導の確立と管理 (有)コズミックの指導のもと、IKTT の農業従事者を教育している。他方で、今後は IKTT を中 心に他農村部への指導と管理をするための体制を構築することが必要となってくる。その際には、 指導手法の標準化や指導教本・動画等のツール開発等の普及を加速する工夫を実施する必要がある。 ②モリンガ油の抽出機(圧搾機)の設備投資 モリンガは種から油を抽出できるが、一粒から抽出される油は少量であり、バーム製品化のため には大量の種から油を抽出する手法を確立させる必要がある。具体的には油の抽出機を導入する必 要がある。これをカンボジアで現地調達できるかどうか、現地調達した場合に必要な資金がいくら かを明らかにするとともに、今後の事業拡大に備えて、機械を用いず牛等の家畜を利用した抽出方 法を確立する必要がある。なお、当初は抽出機を FFEI が現地で購入し、農村にレンタルを行い、レ ンタル費に関しては、調達する作物で支払ってもらうモデルを試行する予定である。 ③カンボジアで製造した場合の化粧品認可手続き 原材料に関しては、現地販売の場合は特に難しい認可取得が必要でないことが明らかとなった。 他方で日本に輸出するにあたっての認可取得には、製造場所の設備投資が必要になる可能性もある ため、現在進めている必要要件の洗い出し終了後に、要件を満たすための製造場所の設置を行う予 定である。 ④植林地域の確保 現在、本コンソーシアムにカンボジアに有する土地内で植林を行っているが、今後対象地域を拡 大していく際には、既存適応策との連携が必要となってくる。具体的には、”Vegetation Planting for Flood and Windstorm Protection”、” Promotion of Household Integrated Farming”、 “Community Agro-forestry in Deforested Watersheds”との連携が必要となってくる。こうした取 り組みは、MAFF(農業・森林・漁業省)の管轄として推進されている。まずは本コンソーシアムが 有する土地内での事業実施による適応効果の創出し、その成果を MAFF に対してアピールすることで 協力を仰ぐことが必要になると考えられる。また、シェムリアップ近郊においては、先述したアプ サラ機構の協力が必要だと考えられるため、アプサラ機構へのアピールも併せて実施していくこと が必要だと考えられる。 22 平成 26 年度「途上国における適応対策への我が国企業の貢献可視化に向けた 実現可能性調査事業」最終報告書 コンソーシアム名または企業・団体名 株式会社ユーグレナ 事業名 バングラデシュ国塩害地域での緑豆高品質栽培の事業化可能性調査 提出日 2 月 20 日 1.本事業の目的 (1) 背景 栽培地域であるバングラデシュでは気候変動による影響は年々深刻化しています。南部沿岸地 方では海水面の上昇が進行する中で塩害の影響を受け続けています。この課題を解決する事は本 事業においても当地域における耕地面積の増加はもとより、栽培地域を複数地域確保でき気候変 動による影響リスクを分散できるものと考えます。 この問題解決は、バングラデシュ政府からも大きな期待を受けています。バングラデシュ政府商務 省から日本向け緑豆輸出許可(2012 年 7 月 30 日付)が下りた際に、農業省からバングラデシュ 農業発展のため南部地区塩害地域での栽培にも協力して欲しいとの依頼を受け、MOUを締結し ました。 本事業にとって、適応に関する当FS調査事業は非常に重要な位置づけとなっています。本事業 ではこれまでに塩害、洪水、サイクロン、浸食、干害、温暖化と様々な気候変動要素を持つバング ラデシュ全土で緑豆栽培に取り組んできました(合計 7 地区)。地域分散によって気候変動によるダ メージを回避できる可能性が増すからです。塩害地域も含め様々な地域で農業が行える環境を整 えることは、これからの気候変動に適応するためにも重要だと考えます。 国土面積の小さなバングラデシュでは、南部沿岸地域で収穫可能な農作物を栽培できるようにする ことは喫緊の課題であります。当地は海に近いため、従来から塩害の影響を受け続けてきました。 地球温暖化に伴い海水面の上昇が懸念される中、このリスクは益々上昇していくものと考えられま す。 この問題に対しバングラデシュ政府は、NAPA(国家適応行動計画)の中で、気候変動による農業 生産システムへの影響は早急に対策を要する事項と位置付けています。塩害がみられる沿岸地域 において、現地の農業研究所(Bangladesh Agricultural Research Institute)や農業研究評議会 (Bangladesh Agricultural Research Council)を中心とした作物適応調査や耐塩品種改良研究に 対して、総額で 1000 万ドルを投入し重点施策としています。しかし塩害耕地の広がりや現地での 作付体系をみても有効な対策がとられていないのが実情です。その中で、本事業は塩害地域にて 農業指導から緑豆の購入まで一貫して行うことで、農民の販売リスクを排除し安心して作付し栽培 1 に専念できるものと考えます。 この地において農作物の栽培可能性が実証できれば、同国における耕地面積の広がりは飛躍的 に増加することになります。これまでの実証栽培の実績を踏まえ、バングラデシュ政府から日本の農 業技術に対する期待が大なるものになっています。また、共同作業を進めてきたダッカ国立農業大 学(BSMRAU)からも引き続き本事業に取り組みたいとの意向を受けています。過去の経験や現 地のネットワークを活かし、有意義な調査事業ができるものと考えています。当地での栽培可能性 が実証できれば市場は限りなく拡大し、他国での応用も可能と考えられます。 ちなみに本事業は、当FS調査事業において過去 2 回、以下の取り組みを実施してまいりました。 (表1参照) ・2012 年度FS調査 : 「バングラデシュ国塩害地域での緑豆生産の事業化可能性調査」 →対応すべき課題と対応策の洗い出し ・2013 年度FS調査 : 「バングラデシュ国塩害地域での緑豆大量栽培の事業化可能性調査」 →前回をベースに各課題の対応実施項目を具体的に設定、解決策の 実証 2012 年度実 FS 調査 実施項目 塩害のメカニズム分析 2013 年度 FS 調査 結果 ①浸透圧上昇による根傷め ②濃度障害(生育障害) 塩害の原因分析 (圃場・水質調査) ①圃場内土壌と灌漑用水として利用し ている河川の水質は、塩①濃度レベ ルの相関関係がある ②地表面を 3cm 掘るだけで、塩害無し レベルまで低減 緑豆の発芽率と 塩分濃度の相関関係分 析 ①塩害弱度レベル(3.21dS/m)の発芽 率は 80%弱 ②塩害中度レベル(5.55dS/m)の発芽 率は悪影響顕著、50%以下 ③土壌塩分と発芽率は負の相関関係 (土壌塩分が緑豆発芽に与える影響 度合いは 96%以上) 圃場での除塩効果の検 証 課題(対応策) 塩害農地で農作物の作付率及び収穫 率を向上させるためには、①耕起②石 灰質資材(硫酸カルシウム)散布が有 効 ①塩害農地面積は拡大傾向 対応実施項目 ・除塩効果作業システムの構築 ①各地域の圃場塩害レベル 調査 ②農地選定 ③農民への塩害および除塩 の理解浸透 ・耐塩性品種の開発 ・現地大学でのラボラトリー技術 の確立 ①強塩害地区にて播種用種 子栽培および採種 ②強塩害地区・塩害地区にて 高収量株のみ採種 ③日本技術の導入により学術 的な緑豆品質判定を確立 ・大量生産における除塩効果作 業システムの構築 ①耕起・カルシウム施肥等の ガイドライン化 ・輪作による連作障害の対策 および米の収量増検証 ①連作障害の対策調査 ②輪作効果の検証調査 (米の収量増検証調査) (1973 年:83.3 万 ha→2009 年:105.6 万 ha) 塩害がもたらす影響調査 ②米の生育状況:非常に実入りが少な い(低収量で伝統的な稲品種を雨期 に栽培) ③乾期は作付されない休閑農地が多 い 表1 2012 年度FS調査と 2013 年度FS調査との比較 2 2.課題 昨年度の FS 事業にて塩害地域における緑豆生産の実現可能性調査を行い、対応すべき課題と 対応策を洗い出す事ができました。今回の FS 事業では前 FS 事業にて塩害の影響を受け、品質に 問題があったためその改善策が求められます。そこで各課題に対する実施項目を具体的に設定し、 解決策の実証に取り組む事とします。具体的には下記5項目の課題があげられます。(表2 参照) (1) 塩害向け栽培ガイドラインの見直し 前年度(2013 年度)に収穫した緑豆は、極端な少雨に起因する強度の塩害影響を受けたため、も やし商品化基準に満たない異常豆(しわ豆・未熟豆等)が多く散見しました。(写真1参照) 気候変動における影響は年により異なり、例えば少雨の年、大雨の年においても異なる課題が顕 在化してきます。そのため、もやし用品質を確保すべく栽培ガイドラインの継続的な見直しが必要と なります。 写真1 塩害により影響を受けた緑豆 (2) 耐塩性品種の開発 耐塩性品種開発の試験に関しては、前回ばらつきが大きく再現性と偏差を減らす事が重要となっ てきます。引き続き継続開発すると共に現地にある品種を使用した試験を行います。 (3) 大量生産における品質向上 前述のガイドラインを説明しましたが、農民集会を開きトレーニングを実施しましたが農民の中には 完全に理解しておらず作業を間違う農民がみられました。農民トレーニング方法の見直しと確認フォ ローが必要と思われます。また栽培管理が重要となる事から農業 IT の導入も課題となります。 (4) 輪作効果の継続調査 同じ圃場で同一作物を繰り返し栽培すると、肥料管理をしっかり行っていても地力が落ちていき、生 育が悪くなります。そうすると作物の品質劣化ならびに収量減少に繋がります。その様な環境下で は米作の間に他作物を栽培する輪作が必要となってきます。そこで緑豆を利用した輪作効果と、輪 3 作作物としての緑豆の他作物との違いを継続的に調査する必要があります。また生育過程におい ても確認が必要となります。(図1参照) 図1 輪作イメージ (5) 他作物の栽培可能性調査 緑豆のみを輪作していると連作障害の問題がでてくる可能性があるため、他作物の栽培可能性を 調査する事は長年輪作を続けていく上で重要となります。 4 2013 年度 FS 調査 対応策 2014 年度 FS 調査 実施項目(結果) 課題 対応項目 ・除塩効果作業システムの 構築 ①各地域の圃場塩害レベル 調査 ②農地選定 ③農民理解調査(アンケート 方式) ④農民トレーニング ・塩害向け栽培ガイドラインの 見直し ・耐塩性品種の開発 ・現地大学でのラボラトリー 技術の確立 ①塩分濃度別ポット試験栽培 ②塩害地区にて播種用種子 栽培 ③現地カビ細菌類、検査体制 試験 ・耐塩性品種の継続開発 ①継続試験 ②現地緑豆既存種別抵抗性調査 ・大量生産における除塩 効果作業システムの構築 ①耕起・カルシウム施肥等 のガイドライン化 ・大量生産における品質向上 ①灌漑の導入 ②全農民のトレーニング継続実施 ③農民理解アンケート及び指導 ④農業 IT「アグリノート]の活用 ・輪作効果の継続調査 ①圃場条件別調査 ②輪作実施、未実施圃場比較 ・他作物の栽培可能性調査 ①作物別試験栽培 ・輪作による連作障害の 対策および米の収量増 検証 ①除塩作業工程「代掻き」の実施 ②除塩作業工程「灌漑」の導入 ①連作障害の対策調査 ②輪作効果の検証調査 (米の 収量増検証調査) 表2 2013 年度FS調査と 2014 年度FS調査との比較 5 3.課題解決の方向性および調査項目 1.新たな塩害向け栽培ガイドラインの導入 (1)除塩作業工程「代掻き」(※)の実施 除塩効果を高めるため、播種前に圃場に水を引き入れた後、耕起を実施します。 ※代掻き=灌漑後に耕起を行うこと (2)除塩作業工程「灌漑」の導入 水源は電気伝導度(ds/m)の低い溜池の水に限定して、上記の代掻き開始時から栽培期間中も適 時実施します。 2.耐塩性品種の継続開発 (1)継続試験 耐塩性品種を狙った品種開発を継続して実施します。(ただし、最低複数年期間は必要) (2)現地緑豆既存種別抵抗性調査 BARI/BU/BINA 各種の圃場試験栽培を実施します。 3.大量生産における品質向上 (1)灌漑の導入 昨年度降雨量が少なく栽培期間中に塩類の集積化が進み、品質に悪影響を及ぼしまた。灌漑の導 入によりリスク回避を図ります。 (2)全農民のトレーニング継続実施 除塩作業の定着を図るためリーダーだけではなく直接エリア毎に農民全員にトレーニングを継続して 実施します。 (3)農民理解アンケート及び指導 上記(2)のトレーニングを後日、理解しているかを個別確認及びフォローします。 (4)「アグリノート」の活用による栽培管理 日本の農業 IT システム「アグリノート」を用い、圃場および施設関係を管理します。 4.輪作効果の継続調査 前回実施した調査に下記項目を加えることで、今後のデータベース充実化を図ります。 (1)圃場及び条件別調査 (2)輪作実施、未実施圃場比較 5.他作物の栽培可能性調査 (1)作物別試験栽培 塩害下での栽培可能性を拡げるため他作物の試験栽培を実施します。 他作物の栽培可能性が拡がると輪作を組みやすくなります。 候補作物:スイカ、カボチャ等 6 【時系列フロー】 平成 26 年度 9月 1 圃場及び条件別調査 2 緑豆栽培期間別、根粒菌調査 3 輪作実施、未実施圃場比較 4 農民理解アンケート及び指導 5 全農民のトレーニング継続実施 6 除塩作業工程「代掻き」・「灌漑」の実施・導入 7 現地緑豆在来種別抵抗性調査 8 耐塩性品種の継続試験 9 他作物の耐塩性調査・作物別試験栽培 10 10 月 事業評価 図2 時系列フロー 7 11 月 12 月 1月 2月 4.調査結果(調査項目ごとに) 1.新たな塩害向け栽培ガイドラインの導入 前年度 2013 年は極端な少雨により塩害の影響を強く受けました。結果、もやしの品質基準に 満たない緑豆が多く見受けられました。そこで塩害栽培向けガイドラインの見直しが必要となりま した。 (1)除塩作業試験区(灌漑、代掻きの試験) 昨年までの除塩作業ガイドラインは耕起、硫酸カルシウム施肥を行っていました。今年は耕起、硫酸 カルシウム施肥、灌漑、代掻きの最適な組み合わせを調べるために圃場試験しました。(図3参照) そこで米の収穫が終了した直後の 12 月に上記作業の複数の組み合わせた11試験区に計 3 種類 の緑豆を播種し除塩作業試験を行いました。圃場条件は試験結果の差が判別しやすいように塩害 レベルの高い圃場(ds/m 8 程度)で実施しました。(図3・4参照) ちなみに、土壌塩分濃度レベルの区分けには、電気伝導度(ds/m)が指標として用いられます。 塩害区分 塩害なし 電気伝導度(ds/m) <2 塩害あり 弱度 中度 強度 高強度 2~4 5~7 8~16 >16 【圃場試験区】 1、 Natural 2、 耕起 3、 硫酸カルシウム施肥 耕起 4、 灌漑 (1.1 dS/m) 5、 灌漑 (2.2 dS/m) 6、 耕起 灌漑 (1.1 dS/m) 7、 耕起 灌漑 (2.2 dS/m) 8、 硫酸カルシウム施肥 耕起 9、 硫酸カルシウム施肥 耕起 10、 硫酸カルシウム施肥 耕起 11、 硫酸カルシウム施肥 耕起 灌漑 灌漑 灌漑 灌漑 (1.1 (2.2 (1.1 (2.2 ※代掻きー灌漑後に耕起を行うこと 【播種種子】 1、 南部地域弊社、播種用種子 2、 塩害地域収穫種子 3、 地元既存ローカル品種 ショナムク 8 dS/m) dS/m) dS/m) 代掻き dS/m) 代掻き 図3 除塩試験圃場プロット 図4 除塩作業内容 9 (1)除塩作業結果 結果は下記図4中に記載した通りとなりました。計測不可の圃場は耕起していないために土がかた まりになり計測場所により値が著しく変化しました(写真2参照)。複数回計測しましたが傾向値が 読みとれないので計測不可としました。一番除塩効果があった条件は硫酸カルシウム施肥、耕起、 灌漑(ds/m1.1、河川ではなく池の水)、代掻きを実施した圃場でした。よって本方法を今回のガイド ラインに採用します。(図5参照) 代掻きの注意点としては圃場内に引き込む水の量と実施するタイミングです。水の量は土が浸る程 度にします。多い場合は粘土質の土壌が大きく固まってしまい播種に適さない状態となります。また 代掻きを実施するタイミングは播種日 1 週間前程度が妥当と考えます。代掻き直後は水分量が高く 前述の様に粘土質の土壌が種子を覆い、呼吸ができない状態となり発芽を妨げる事が確認されま した。 尚、発芽率および品種別の生育調査は低温の影響を受け信頼できるデータ取りはできませんでし た。但し現地ローカル品種を現地播種方法ブロードキャスト(ただばらまくだけの播種方法)では発芽 率が 0%でした。一方、ガイドライン播種方法(ラインソーイング、土下 3cm)では約 20%の発芽が 確認できました。 単位: dS/m 図5 除塩作業結果 (赤字数値が除塩後、ds/m 値) 写真2 土がかたまりになっている圃場 10 2.耐塩性品種の継続開発 耐塩性品種を狙った品種開発を継続して実施します。(ただし、最低複数年期間は必要) 播種の時期は 2 月・3 月であり、本調査内での実施はできません。そのため、本調査内では品種 開発に用いる品種の選定、試験スケジュールの策定、試験圃場の選定を行いました。 具体的には昨年、試験圃場にて収穫し、収量の良かった株の種子を本年2月・3月に播種します。 併せて品種別塩類抵抗性を試験圃場にて調査します。品種は BR-6、BINA-5、BU-4、現地ロー カル品種ショナムクを2月・3月に播種します。 3.大量生産における品質向上 本調査において見直しを行った塩害向け栽培ガイドラインを改めて見直し、代掻きの導入により 塩害化へのリスクを回避したいと思います。具体的には、ガイドラインを浸透させる為にフィールド スーパバイザーより農民リーダーだけではなく、全農民へ直接指導すると共にその後の確認フォロ ーを実施します。また、播種前に農民アンケートを実施し各問題および理解度のベースラインデー タを把握しました。 農民アンケート(写真3、4参照) 調査手法:調査票に基づく農民対面式直接ヒアリング 調査人数:74 名 調査地域:Hatbati Botiaghata Morrelganj 調査時期:2014 年 12 月 11 写真3 農民アンケート 写真4 農民アンケート実施風景 (1)自然災害調査 塩害エリアの農民に現在困っている災害についてヒアリング調査をしたところ、塩害が 74 人中 41 人(複数回答可)と最も多く答えました。これは彼らが長年塩害に対して苦しんでいる事を示す と同時に有効な解決策を見いだせていないと言えます。一方塩害レベルが低い年には一転して 大雨(37 人回答)に悩まされるという気候変動による被害の複雑さが読み取れます。塩害地域で はそれ以外にも干害・高温(31 人回答)など、多岐にわたる気候の影響を受けています。(図6参 照) 12 自然災害調査 N=74 7 低温 31 干害・高温 37 大雨 41 塩害 0 10 20 30 40 50 人 図6 塩害エリアでの現在困っている自然災害 (2)塩害地域の圃場での緑豆発芽率および収量 今回アンケート調査を実施した地域での今年の発芽率は 75.07%でした。バングラデシュの塩害地 域以外での契約農民の発芽率は約 95%です。これは塩害と播種時期の干ばつの影響かと思われ ます。発芽率を向上させるために前述1の塩害向けガイドラインの中の、代掻きを実施し塩害レベル を十分に下げると共に発芽に必要な適切な水分量を確保する事が重要と思われます。(図7参照) 緑豆発芽率(2014年)調査 n=74 100% 95% 90% 85% 80% 75% 70% 図7 塩害エリア圃場での緑豆発芽率(標準エリアとの比較) また、今回調査地域での同年の緑豆収量は少雨による塩害濃度の上昇により 0.27 トン/ha でし た。これは他地域の一般的な緑豆収量が約 1.0 トン/ha であるのと比較すると、顕著に低い数値と なります。(図8参照) 13 発芽率を向上させると共に少雨による塩害濃度の上昇に対応する栽培ガイドラインの改善し収量 アップを図ります 緑豆収量(2014年)調査 n=74 1.20 1.00 0.80 0.60 0.40 0.20 0.00 図8 塩害エリア圃場での緑豆収量(標準エリアとの比較) (3) 2015 年の栽培意欲調査 2015 年の栽培に関して参加意欲があるかを質問したところ、94.5%の農民が参加すると回答が ありました。さらに参加すると答えた農民に作付予定面積を質問したところ、前述の栽培結果にも 関わらず 69 人中25人が栽培面積を増やすとの回答をしています。(図9参照) [値] 25 増やす 同じ 減らす 37 図9 塩害エリア農民 2015 年 緑豆栽培意欲調査 14 次に参加する理由に関してヒアリング調査を実施しました。(図10参照)最も多かったのは「利益が よい」との回答でした。これは今まで約束通り農民から購入してきたという事が農民に浸透した結果 といえます。農民は売り先がある事によって安心して栽培する事ができます。またその他には「収量 がよい」や「栽培期間が短い(雨季前に収穫)」といったような緑豆の栽培可能性を感じている意見 もありました。また 1 割近くの農民が「土壌状態が良くなる」と答えています。これは既に緑豆を栽培 する事によって圃場状態が改善される事を実感している結果です。 2015年 緑豆栽培参加理由調査 2 新しい事に取り組みたい 5 栽培期間が短い(雨季前に収穫) 6 土壌状態が良くなる 7 家庭で保管し食べられる 10 収量がよい 40 利益がよい(購入してくれる) 0 10 20 30 40 50 図10 塩害エリアでの 2015 年緑豆栽培参加意欲調査 (4)農民の塩害知識および輪作理解調査 圃場に悪影響を与えている「塩害メカニズム」を理解しているか質問したところ、農民の認識率は 63.2%でした。農民トレーニング時には理解したと答えてもその後、栽培期に再確認したところ理解 していない場合も多くみられました。そのため個別指導や圃場にて確認フォローなどを通じて理解の 浸透を図ります。(図11参照) 塩害メカニズム理解度調査 36.8% 塩害メカニズムを知っている 63.2% 塩害メカニズムを知らない 図11 塩害エリア農民の塩害メカニズム理解調査 15 連作障害の対応策として輪作を実施することが効果的であることを認識している農民は 53.5%で した。(図12参照)今後、全農民に対し次項のトレーニングを実施すると共にその後の個別確認フォ ローを行います。栽培期間中に本施策を通じて各理解度を 75%まで引き上げたいと思います。 輪作効果の理解度調査 46.5% 輪作効果を知っている 53.5% 輪作効果を知らない 図12 塩害エリア農民の輪作効果理解調査 (5)農民トレーニングの実施 農民トレーニングではまず、塩害の原因となる水源について理解を図ります。その上で塩害が農作 物に与える影響、(根傷め・濃度障害)の講習会を実施します。その上で今回の塩害向け栽培ガイ ドラインの中の作業説明(耕起・硫酸カルシウム施肥・灌漑・代掻き)を行います。また全体での講 習説明会後の栽培期間中に農家ごとに事前確認および圃場での個別フォローを実施します。 (6)農業 IT 「アグリノート」の活用 現在バングラデシュでは私達のニーズを満たす農業管理ITシステムは存在しません。現地企業と共 同開発を進めてきましたが、以下 2 点の問題により実用化に至っていなません。 ①作業性が悪い(ローカル既存型システムのため、データ使用が重く実用レベルでない) ②農業知識が高くなくまた栽培管理の概念がないため、こちらが求めているソフトを造れない 具体的には栽培履歴を記録するという事は現地では行われていません。また条件別の収量比較も 実施しておりません。 今回、以上の問題より日本にて既に 2012 年より活用され実績のあるウォーターセル株式会社の 「アグリノート」を試験運用する事とします。 「アグリノート」は、航空写真の Google マップや Yahoo!地図に圃場と作業内容を関連付けて記 録します。シンプルな操作性で、わかりやすく直観的な入力を実現しています。また Android アプリ にも対応しているので、場所を選ばず作業現場での入力も可能です。アプリを活用してスマートフ ォンやタブレッドからの写真の撮影・投稿ができるので画像を使った生育記録の蓄積により、事例 データとしてノウハウの蓄積・確立にも力を発揮します。アグリノートでは簡単に記録をつけられ、 16 生産履歴は自動的に集約されるので、すぐに提出することができます。蓄積した記録データは、栽 培方法や品質・収量の向上に向けた議論や検証を可能にし、経営基盤の強化に繋がります。記 録データは複数個所のアグリノートクラウドサーバーに分散して保存するため、もしもの時にもデー タを失うことはありません。 図13 「アグリノート」概要図 「アグリノート」を活用するにあたり、まず現地ローカルエリアにてネットワークスピードの確認を行いま した。現地の既存インターネットモデムを使用し地図移動やページ移動、入力等問題なく作業できま した。作業記録の写真アップ(2MG 程度)は 30 秒から 1 分かかるのでダッカ等の都市部にてまとめ て行う事を検討します。 圃場登録は Google マップ上にて地点登録をしながら行います。(図13・14参照) しかし現地の農民は地図感覚がなく、農民集会に集まった全員が地図上の集会場所が判らない状 態でした。その理由として農村地区には目じるしとなる建物がほとんどない事と、Google 地図では 大きな道は識別できるが小さな道は木で覆われてしまうために判別できない事も理由と思われま す。また GPS 機能を使って圃場検索を実施しましたが毎回南西に数キロずれる傾向がありました。 複数の GPS で試験しましたが GPS の値はほぼ一定していたため、Google の地図プログラミングが 17 地方ではずれている可能性があります。尚、都市部ダッカでは同様の問題は起きませんでした。 但しこちらでメインロードから車と地図を照合させながら進む事で集会場所(現在いる場所)を特定 すると、各農民は自身の圃場場所は説明できます。圃場登録を地点登録すると GPS より圃場面積 を自動計測できるため、正確な圃場面積を把握する事ができます。事実 2 割程度の農民が申告面 積との差異が確認できました。 図14 「アグリノート」 圃場登録作業 9ページに記載した試験圃場プロット毎に作業内容の入力を行いました。 入力後は地図上に圃場フラグが示され、選択すると圃場条件が確認できます。(図15参照) 18 図15 圃場情報画面 今後播種後「アグリノート」を活用し 50 名のモデルファーマーの生育記録をつけ、収穫量との条件 別の比較等を行い塩害向けガイドラインに反映させていきます。 図16 「アグリノート」 生育記録画面 19 4.輪作効果の継続調査 (1)連作障害メカニズム分析(昨年度調査より) 同一圃場で同一作物を繰り返し栽培すると、肥培管理を例年通り行っても生育は次第に悪く なり、作物の品質劣化ならびに収量減少に繋がります。このような連作障害には、下記のよう な幾つかの原因が混在しています。その中で当地では今回は肥料養分の偏りと土壌中の塩基 バランスの悪化による塩害が原因と考えます。(表3参照) 連作障害の原因 肥料養分 土壌病害 (土壌病原菌:糸状菌・細菌) 土壌線虫 内容 連作によって作物特有の必須養分を限定的に使用するため、土壌中の特定の 肥料養分が不足してしまう。 連作によって特定の病原菌が作物に寄生する。その後、病原菌の土壌中密度 が徐々に増加して、ある一定以上になると作物自体に病気が発生する。 土壌病害と同様に、土壌中に病原菌ではなく線虫(ネコブ線虫など)の密度が高 まる場合がある。 特定の作物において根から有機酸などのアレロパシー物質を分泌する場合が アレロパシー物質 ある。アレロパシー物質は他作物の生育を著しく抑制するもので、濃度が高くな りすぎると自分自身の生育抑制を引き起こす可能性がある。 塩害 土壌粒子とナトリウム・マグネシウムなどが結合して、土壌中の濃度障害や塩 基バランスの悪化を招く。(詳細は前回FS調査で報告済) 表3 連作障害の原因 連作障害を回避するための対策としては、いくつかの方法が挙げられます。 その中で現地の農業インフラ環境下で可能であり、肥料養分と塩害への対策効果が期待され る対策として下記施策を実行します。(表4参照) 連作障害の対策 輪作 土壌改良 土壌消毒 内容 同一圃場で栽培する作物を周期的に変えることで土壌の物理性・化学性を改善 し、地力を維持する。 圃場の表層部の土と下層部の土をひっくり返して入れ替え、耕土を新しくする (天地返し)。その後、堆肥を施用する。 土壌病害や線虫の殺菌対策として、薬剤を全面散布して土壌と混和させる。あ るいは太陽熱を利用した日光殺菌を施す。 表4 連作障害の対策 20 (2)輪作効果メカニズム分析(昨年度調査より) 一定期間ごとに異なる品種の作物を周期的に栽培することで、土壌の地力維持を図り且つ連作 障害の症状を回避することが可能となります。特に、輪作サイクルとして生態的特性が異なり相 互に補完し合える作物を組み合わせることが有効です。 また、緑豆が属するマメ科植物に共生する根粒菌には、空気中の窒素ガスを取り込んで共生植 物および土壌に供給するという窒素固定化能力があります。植物の生育に欠かせない窒素を 取り込むという優れた能力は土壌の地力回復に役立つもので、生産性向上を図る上でも重要 なものです。(写真5、図17参照) 図17 マメ科植物根粒菌による窒素固定 写真5 根粒菌 (3)輪作効果の生育調査 昨年度、米の収量調査を実施しました。(表5参照) 調査の結果、同条件(同一品種の米を同時期に栽培した圃場で、前作(※)に緑豆と緑豆以外 の作物を同時栽培した圃場)に合致する所が少なくサンプル数が決して十分とは言えません が、輪作の組み合わせとして緑豆が麦・セサミ等他作物よりもボティアガタ地区で 122.7%、モ レルゴンジ地区に 149%の米収量増効果が見てとれます。 ※前作 本栽培前に栽培した作物 後作 本栽培後に栽培した作物 21 Yield of rice (g/square meter) Area Sample (A)In mungbean field Batiaghata Morelgonj (A)/(B) Rice variety (B)In other field Farmer1 605 514 117.7% Morishal Farmer2 620 570 108.8% Morishal Farmer3 900 600 150.0% Morishal Farmer4 738 650 113.5% Jotai balam Average 715.7 583.5 122.7% Farmer1 380 250 152.0% Bash pair Farmer2 410 275 149.1% Bash pair Farmer3 375 250 150.0% Munte shail Farmar4 400 275 145.5% Munte shail Average 391.2 262.5 149.0% :ボティアガタ地区平均値 :モレルゴンジ地区平均値 表5 前作が緑豆と他作物の圃場における米収量比較(前年度調査より) 上記結果を踏まえ、当該地域にてよく栽培されているセサミと緑豆を栽培した圃場調査を行い ました。調査内容はセサミおよび緑豆を栽培した後の米の生育を調査しました。調査圃場数は 緑豆圃場6、セサミ圃場5となります。各圃場にて平均的な稲、3つを選定し、草丈、穂の長さ、 穂の分岐数、1穂あたりの米粒数を調査しました。(写真 5.6 参照) 今回調査対象品種は当該地域にてよく栽培されている現地ローカル種 BRRI-23 としました。 結果は草丈が 6.6%、穂の長さ 3.4%、穂の分岐数 9.4%で前作に緑豆を栽培した圃場が上 回りました。特出すべきは実入りの多さ(1穂あたりの米の粒数)でした。昨年度のボティアガタ 地区のヒアリング終了調査結果とほぼ同じく 27.6%上回りました。今回の結果により昨年度の 収量結果との相関がとれました。また前述の農民アンケートにおいても 1 割弱の農民が「土壌 状態が良くなっている」と答えています。 22 表6 前作緑豆圃場とセサミ圃場の米生育調査 写真5 圃場での米生育状態 写真6 米生育調査 5.他作物の栽培可能性調査 (1)作物別試験栽培 塩害下での栽培可能性を拡げるため他作物の試験栽培を実施します。 他作物の栽培可能性が拡がると輪作を組みやすくなります。 播種作物は現地 DAE および農民と話し合った結果、他地域で栽培実績がありまた需要が高いため に現地市場での販売の見込みのあるスイカとします。現地栽培されている複数品種を 2 月に播種し 5 月に収穫予定です。 23 5.指標(方法論)とベースラインデータ 1、指標(方法論) (1)インプット・アウトプット・アウトカムのフレームワーク活用 インプットは前 FS 事業の実現可能性調査をベースとした課題に対する実証調査項目とします。 アウトプットは実証による効果、アウトカムは「バングラデシュ国の食糧事情改善を含む社会的課 題への貢献」とします。 この弊社の評価手法は、気候変動に起因する塩害に苦しむ他地域においても活用することによ って貢献することが可能であると考えます。なお、バングラデシュのNAPAにおいても、重点施策 である“Promoting adaptation to coastal crop agriculture to combat salinization.”に対する 指標が設定されており、以下の評価手法はその指標を踏まえた上で設定されています。 インプット アウトプット アウトカム 評価方法 (a)大量生産における品質向上 ・契約農民の確保 ・対象耕地面積の確保 ・塩害向け栽培マニュアルの見直し ・塩害地域での収穫量増加 ・塩害地域での農業技術のレベル向上 Ⅰ,Ⅱ Ⅲ、Ⅳ Ⅴ、Ⅵ Ⅶ ・塩害耕地での緑豆発芽率向上 ・塩害地域での収穫量増加 Ⅷ、Ⅸ ・後作の米の収穫量向上 ・食糧自給率の向上、連作障害の回避 Ⅹ ・輪作作物の選択肢の増加 ・食糧自給率の向上、連作障害の回避 Ⅺ ・除塩作業工程「代掻き」の実施 ・全農民のトレーニング実施 ・農民理解アンケート及び指導 ・契約農民の所得向上割合 (b)耐塩性品種の継続開発 ・テストベット試験 ・地元既存種別 抵抗性調査 (c)輪作効果の継続調査 ・緑豆、セサミ圃場調査 ・緑豆、セサミ圃場、後作の米生育 調査 (d)他作物の栽培可能性調査 ・他作物の耐塩性調査 ・試験栽培 表7 インプット・アウトプット・アウトカムのフレームワーク 24 (2)評価方法 上記インプット(a)~(d)の 4 項目に対するアウトプット評価、アウトカム評価をベースラインデータ と定量的に比較することで行います。今回の評価方法は、現地専門機関を交えて今後も引き続 き検討します。 (a)大量生産における除塩効果作業システムの構築 【評価手法:Ⅰ】 「契約農民の確保」=契約農民数/契約目標農民数 【評価手法:Ⅱ】 「対象耕地面積の確保」=契約耕地面積/契約目標耕地面積 【評価手法:Ⅲ】 「土壌塩分濃度の低減」=解決手法導入前の土壌の電気伝導度(dS/m)と導入後の 電気伝導度(dS/m)との比較 【評価手法:Ⅳ】 「除塩作業工程・代掻きの実施」=代掻き実施農民数/契約農民数 【評価手法:Ⅴ】 「農民トレーニングの実施」=農民トレーニング及び理解アンケート実施/契約農民数 【評価手法:Ⅵ】 「収穫量の向上」=前年度の収穫量(t/ha)と解決手法導入後の収穫量(t/ha)との比較 【評価手法:Ⅶ】 「契約農民の所得向上割合」=前年度の契約農民の年間所得と本年の契約農民の 所得との比較 (b)耐塩性品種の継続開発 【評価手法:Ⅷ】 「発芽率の向上」=一般品種の発芽率(%)と解決手法導入後の発芽率(%)との比較 【評価手法:Ⅸ】 「収穫量の向上」=一般品種の収穫量(t/ha)と解決手法導入後の収穫量(t/ha)との比較 (c)輪作効果の継続調査 【評価手法:Ⅹ】 「米の収穫量向上」=緑豆栽培後の米収穫量(t/ha)とセサミ栽培後の米収穫量(t/ha) との比較 (d)他作物の栽培可能性調査 【評価手法:Ⅺ】 「他作物の収穫量調査」=塩害地域でのスイカ収穫量(t/ha)と他地域でのスイカ収穫量 25 (t/ha)との比較 効果 評価項目 単位 有無※ データソース 契約農民の確保 契約農民数 人 × 契約農民(ヒアリング) 対象耕地面積の確保 契約耕地面積の確保 ha × 契約農民(ヒアリング) 土壌塩分濃度の低減 土壌の電気伝導度 ds/m △ 農地モニタリング 契約農民の所得向上割合 年間農民所得 BDT × 契約農民(ヒアリング) 収穫量向上 ヘクタールあたり収穫量の増加 ton/hector × 契約農民(ヒアリング、モニタリン グ) 緑豆発芽率向上 前年度実績との比較 % × 契約農民(ヒアリング、モニタリン グ) 後作の米の収穫量向上 緑豆圃場とセサミ圃場の米収量比較 ton/hector × 契約農民(ヒアリング、モニタリン グ) 他作物の栽培可能性 塩害地域と他地域のスイカ収量比較 ton/hector × 契約農民(ヒアリング、モニタリン グ) ※有無:公的データの有無(公的データが無いものは現地ヒアリング・ベースにてデータ取りを行う) 表8 評価区目・評価方法 26 6.適応対策において今後見込める成果 1、アウトプット 今回の FS 事業において想定する成果として、各アウトプットの具体的な 2015 年目標値は以下 の通りです。 ①、②は昨年の実績が著しかったため、昨年度の目標値を継承する事とします。③は昨年度の実 績がボティアガタ地区 122.7%とベースラインが上がっているため 110%とします。④は緑豆同様に 他地域の実績の 80%を目標値とします。 目標値(2014年) 2014年結果 (ベースライン) 目標値(2015年) ① 塩害地域での緑豆収穫量向上 収穫量 0.8t/ha 0.27t 0.8t/ha ② 塩害地域ので緑豆発芽率向上 発芽率 90% 75.1% 90% ③ 後作の米の収穫量向上 前年比 120% 122.7 110% ④ 他作物(スイカ)の可能性調査 - - 収穫量 13t/ha (他地域 16.3t) ⑤ 緑豆を輸出し、日本にてもやし試験栽培 - - もやし出庫倍率10倍 (カビ等、ない事) 効果 アウトプット 表9 アウトプット・目標値 (1)塩害地域での緑豆収穫量向上 昨年 12 月に実施した農民アンケート調査によると、収穫量は 0.27t/ha と低収量でした。少雨の 影響により塩害レベルが高くなり一昨年の多雨の条件下とは違う問題が発生しました。この少雨お よび多雨時の栽培経験を活かし播種時期の変更、代掻きの導入など栽培ガイドラインの見直しを 実施し、収穫量 0.8t/ha、約 40tを緑豆高品質栽培の実現可能性調査の目標値とします。 (2)塩害地域での緑豆発芽率向上 緑豆発芽率に関する同農民アンケート調査結果は、2014 年の実績として 75.07%でした。この 数値をベースラインデータとして、2015 年の発芽率目標値は 90%以上とします。 また当該地域における塩害向け栽培ガイドラインの見直しを実施した上で播種を行います。 試験圃場では昨年塩害地域で収穫した種子と他地域弊社播種用種子、現地他品種といった 数種類を試験します。これにより塩害地域に適した種子の絞り込みとリスク分散を行っていきま す。 (3)後作の米の収穫量向上 緑豆が輪作組み合わせとして、米の収量にどのような影響を与えているかを検証した結果、セサ ミよりも米の生育に好影響を与えることが確認されました。しかしまだ調査サンプル数も少なく、 他要因による影響も考えられるため地域・条件を増やし目標値を 110%とし継続調査を実施し ます。 27 (4)他作物の栽培可能性調査 塩害地域で緑豆以外の作物の栽培が可能であれば輪作作物の選択肢を増やす事ができます。 またその事により連作障害を回避できるだけでなく、複数作物を栽培する事により天候リスクを 分散する事にも繋がります。 (5)塩害地域での緑豆を輸出し、日本にてもやし試験栽培 塩害地域での緑豆を輸出し、まず日本の通関審査に合格するかを第一の確認事項とします。そ の上で日本のもやし生産会社と連携し、もやし培養時の品質に関して確認します。調査内容は 以下を予定します。 ①出庫倍率 ②カビ率 ③発芽率 ➃吸水率 ⑤粒度分布 2、アウトカム 本FS事業のアウトカムは、「バングラデシュ国の食糧事情改善を含む社会的課題解決への貢 献」です。塩害地域でも栽培可能な穀物を収穫できれば、飛躍的な収量の増加が期待できま す。これは同国にとって悲願とも言える農業課題であり、現地における食糧事情の改善に大きく 寄与できるものとなります。 緑豆は、主食である米の二毛作の間に栽培することが可能であるため、効率的な農地の利用が できます。すなわち、他の主要作物の栽培時期に重ならず弊害となりにくい穀物です。塩害地域 で緑豆の作付率や収穫率を向上させることが、ひいては同地域での農産物生産レベルの向上 に繋がります。また、緑豆の発芽率を向上させることが、収穫量の増加に繋がります。 さらに、緑豆栽培における輪作効果として、土壌改良に繋がる事が確認できれば安定的な米の 収穫量増加が期待できます。また他作物の栽培が可能であれば緑豆以外の輪作作物も選択出 来る様になり、連作障害に対して有効な手段となります。 最終的に、本FS事業において一定のノウハウが確立できれば、気候変動に起因する塩害に苦 しむ他国においても適応ビジネスを普遍的に活用して貢献することが可能であると考えます。 28 7.今後の事業計画 本 FS 事業のビジネスモデルおよび収支計画は以下の通りである。 1、 ビジネスモデル 図14 ユヌス・ソーシャルビジネス モデル 【ユーグレナ】 グラミンユーグレナに対して事業資金と農業技術を提供。もやしの原料となる緑豆をグラミンユー グレナから輸入し、その後もやし業者および商社に販売します。 ※グラミンユーグレナ(グラミンとの現地合弁会社) 【グラミン】 農民に対してマイクロクレジットを提供。グラミンユーグレナに対して農村・農民のネットワーク構 築面で支援します。 【グラミンユーグレナ】 両社からのサポートを受け、農村地区において高品質の緑豆を栽培するためのノウハウを農民に 直接指導。収穫した緑豆はグラミンユーグレナが市場価格より高値で農民から購入後、日本輸出 用として一定の諸経費を加えた価格でユーグレナに販売します。 この中の利益がユヌス・ソーシャルビジネスを実現するための原資となり、現地での教育・医療・栄 養改善等で使用される予定です。なお、日本輸出用以外は、農民からの購入原価に近い価格で 現地販売します。 29 2、グラミンユーグレナ(塩害地域)5 ヵ年収支計画 本事業で収穫された緑豆は、日本・バングラデシュ両国で消費されます。 3.5mm 以上かつ異常豆(虫食い・しわ・変色)でない緑豆を日本へ輸出します。日本へ輸出されな いものは、現地にて安価で販売されます。単位収量を上げると共に日本向けに見合う品質を確保 する事が収支計画に多大な影響を与えます。2015 年には単位収量 0.8t/ha、日本向け比率 35%を目標とします。その数値を 2019 年に単位収量 1.0t/ha、日本向け比率 55%まで上げてい く様、取り組んでいきます。今回 2 月~3 月に播種したものは 5 月に収穫され、脱穀、乾燥、選別作 業(ごみ取り)を経て 10 月頃の輸出を予定しています。その後、年内中に日本での通関業務後、も やし生産会社にて試験栽培し品質確認を行います。品質に問題ない事が確認できればもやし生産 会社へ販売したいと思います。 単位 栽培面積 ha 単位収量 全収穫量 2016年 2017年 2018年 2019年 50 100 300 500 1,000 t/ha 0.80 0.80 0.87 0.90 1.00 ton 40 80 260 450 1,000 0.35 0.40 0.45 0.50 0.55 2,960 6,496 23,192 41,850 96,600 14 32 117 225 550 1,400 3,520 14,040 27,000 66,000 26 48 143 225 450 日本輸出量比率 売上高計 2015年 千BDT 日本輸出量 ton 日本売上高 千BDT 現地販売量 ton 現地売上高 千BDT 1,560 2,976 9,152 14,850 30,600 売上原価 千BDT 2,986 6,076 20,176 35,451 80,090 売上総利益 千BDT (26) 420 3,016 6,399 16,510 販売管理費 千BDT 592 1,169 3,015 4,185 9,660 営業利益 千BDT 1 2,214 6,850 営業外利益 千BDT 0 0 経常利益 千BDT 2,214 6,850 ▲ 618 ▲ 749 0 0 ▲ 618 ▲ 749 0 1 (1BDT=1.56円 2015年1月28日時点) 表10 収支計画 30 8 .対応すべき課題と対応策 前FS事業にて塩害地域における緑豆生産の実現可能性調査を行い、対応すべき課題と対応 策の洗い出しは既に終了しています。また一定規模での大量栽培の実現可能性調査についても 行ってきました。その中で多雨および少雨、干害と様々な気候変動影響を受けてきました。これら の経験を踏まえ、塩害向け栽培ガイドラインを見直し今回のFS事業では、成果目標として挙げて いる『緑豆高品質栽培の確立』の実現にむけて、各課題に対する具体的な解決策の各調査を実 施してきました。 本年の実現可能性調査においては実際に当該地域において収穫した緑豆を日本に輸入します。 その上で商業化のために重要となる品質について試験栽培を実施します。もやし用に適する品 質を満たせば作付規模の拡大も可能になっていきます。 それぞれの解決策が全て実証できれば、塩害地域でのもやし用に適する高品質栽培の事業化の 可能性は大幅に高まることとなります。しかし気候変動の中、毎年目まぐるしく栽培自然環境が 変化するので、結果検証には継続性・反復性を要する項目もあります。 1、 塩害向け栽培ガイドラインの確立 年一回の栽培であるため、ノウハウの蓄積には時間を要します。また現地での気候変動は年 により異なり、様々なケーススタディが必要となります。 2、 耐塩性品種の開発 同様耐塩性品種の開発も年一回の栽培であるため、開発には早くても5年から10年を要す ると思われます。 3、 輪作効果の検証 様々な条件下での検証をする必要があります。そして現地の研究機関と連携し土壌分析等の 裏付け作業も必要となってきます。 上記に加え現地での政情不安が課題としてあります。野党バングラデシュ民族主義者党(BNP)等 が事実上ボイコットした形で行われた2014年1月5日の総選挙から一周年を迎えました。それに 合わせて同党率いる野党20党連合は、国内各地で、ハルタル(ゼネスト)や道路封鎖等の抗議活 動を実施しており、それらに伴う爆発事件や放火事件により多くの死傷者が発生しています。本調 査事業も1月より当影響を受け、現地地方地域への移動ができないため、調査が困難な状態とな っています。現地治安の改善に関しては、政府も重要課題と位置付けており、警察を始め軍や警察 等から構成される緊急行動部隊(RAB:Rapid Action Battalion)を全国に展開させています。 今後、日本大使館・JETRO 等からの情報をもとに安全に配慮しながら行動していきたいと思いま す。また Skype 等を活用しながら現地とのコミュニケーションを維持していきます。 このように各調査には継続性が不可欠となるため、塩害地域での本事業実現に向けて引き続き 以上の課題を踏まえた上で、本年度調査の調査項目に関して、引き続き 2015 年度においても、 次頁に記載したスケジュールにて調査を実施していきます。 31 ・塩害栽培ガイドラインの策定 1月中策定済みですが、5・6月の収穫終了後、見直しを行ったうえで、ガイドラインを活用した農民 へのトレーニングを実施します ・耐塩性品種の継続開発 本調査内では品種開発に用いる品種の選定、試験スケジュールの策定、試験圃場の選定を行いま した。今後 2 月・3 月播種、5 月・6 月収穫予定となっています。 ・輪作効果の継続調査 緑豆栽培後の後作の米の生育調査を 11 月・12 月に実施します。今回はセサミに限らず麦等の他 作物も調査予定です。緑豆の連作障害の可能性調査のため、緑豆を複数年栽培している圃場も 調査します。併せて裏付けのため土壌状態の分析も実施します。 ・他作物の可能性調査 他地域で栽培実績がありまた需要が高いために現地市場での販売の見込みのあるスイカを 2 月に 播種し 5 月に収穫予定しています。 ・塩害地域の緑豆を日本に輸出し、もやしに栽培し品質確認 5 月・6 月に収穫された緑豆はその後、農家での脱穀、選別工場での選別工程を経て、10 月頃の 輸出を予定しています。その後、年内中に日本での通関業務後、もやし生産会社にて試験栽培し 品質確認を行います。 32