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2014年春号 [日本語](PDF:999KB)
NCGM 2014年 春 グローバルヘルス リサーチブリテン 国立国際医療研究センター 国際医療協力局 (NCGM) ネパールの病院における多剤耐性菌 本号の内容 ネパールにおけ る多剤耐性菌 P1 研究者紹介 P2 感染が子宮内胎児 死亡リスクを増大 P2 ラオスの全国規模 のB型肝炎感染率 P2 病原体の多剤耐性は、グローバルな保健問題として、 近年急速に重要性を増している。多剤耐性は、細菌、 真菌、ウイルス、寄生虫に対する薬剤治療の効果を、 低減する。先進国のみならず、開発途上国でも、院内 感染に占める多剤耐性菌の割合は増している。 染起因菌として、多剤耐性菌が広がっていること を示している。多剤耐性の広がりをモニターするた めのグローバルな協力に加え、ネパールの病院 の院内感染対策強化が早急に求められる。 発表論文と抄録リンク先: NCGM国際医療協力局の 論文リストは以下からご覧 いただけます: http://www.ncgm.go.jp/kyokuhp/research/results/index.html 緑のバーは感染症関係、赤 は母子保健関係、青は保健 システム強化関係、黄色は その他の論文抄録 (Pubmed)へのリンクを表示 します。 お問い合わせは、担当村上 まで。 muraka- [email protected] ハイライト 2013年6月、NCGMの小原らは、ネパールの首都カトマ ンズ市の17病院における院内感染対策の課題を、対 策強化を視野に報告した 1 。主要課題は、院内感染対 策委員会の不適切な運営、不十分なトレーニング機 会、必須機材の欠乏、細菌耐性の増大であった。 NCGMとネパール、トリブバン大学医学部は、共同で、 さらに同大学病院の臨床検体の多剤耐性を調査した。 2013年4月、多田らは、多剤耐性クレブシエラ菌がNDM -1、OXA-72などのカルバペネマーゼとArmA、 RmtC、 RmtFなどの16S リボゾーマルRNA メチラーゼ産生能を 併せ持つことを報告した 2 。2013年5月には、研究チー ムは、患者の気道から採取された多剤耐性大腸菌が、 新しいメタロβ ラクタマーゼであるNDM-8の産生能を持 つことを、世界で最初に報告した3 。 の院内感染は深刻な 問題で耐性菌が広 がっている。 感染と子宮内胎児仮 死が重なると、早期新 生児死亡リスクが増大 する。 ラオスのB型肝炎感染 率は、5-9歳で1.7%と 予想より低かった。 https://www.jstage.jst.go.jp/article/tmh/advpub/0/advpub_2013-03/_pdf 2. Tada T, Miyoshi-Akiyama T, Dahal RK, Mishra SK, Ohara H, Shimada K, Kirikae T, Pokhrel BM: Dissemination of multidrug-resistant Klebsiella pneumoniae clinical isolates with various combinations of carbapenemases (NDM-1 and OXA-72) and 16S rRNA methylases (ArmA, RmtC and RmtF) in Nepal. Int J Antimicrob Agents 2013, 42(4):372-374. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23978353 3. Tada T, Miyoshi-Akiyama T, Dahal RK, Sah MK, Ohara H, Kirikae T, Pokhrel BM: NDM-8 metallo-beta-lactamase in a multidrug-resistant Escherichia coli strain isolated in Nepal. Antimicrob Agents Chemother 2013, 57(5):2394-2396. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3632942/pdf/zac2394.pdf 世界中に広がっているとされる、NDM-1のようなカルバ ペネマーゼならびに16S リボゾーマルRNA メチラーゼ 産生能は、このような酵素産生遺伝子を持つ細菌が、 外部からカトマンズ市内にも伝搬していることを示唆し ていると思われる。一方、NDM-8産生能の発見は、オ ンサイトでの突然変異の可能性を示唆するものだ。 bla NDM-8 遺伝子は、blaNDM-1と比較すると、2つのアミノ酸 置換に対応する変異を起こしていた。 これらの所見は、カトマンズ市の第三次病院の院内感 ネパールの機関病院 1. Ohara H, Pokhrel BM, Dahal RK, Mishra SK, Kattel HP, Shrestha DL, Haneishi Y, Sherchand JB: Fact-finding survey of nosocomial Infection control in hospitals in Kathmandu, Nepal—A basis for improvement. Tropical Medicine and Health 2013; 41(3):113-119. ネパールの首都カトマンズ市、トリブバン大学病院の 微生物検査室 NCGM国際医療協力局の新規研究課題 国立国際医療研究センター(NCGM)は、2つの 総合病院、国際医療協力局、主に基礎研究を 実施する研究所と、国立看護大学校で構成さ れ て いま す。国 際 医療 協力 局(BIMC)は、日 本 の 政 府 開 発 援 助(ODA)や、世 界 保 健 機 関 (WHO)等の多国間国際機関を通じて、アジア やアフリカの発展途上国への技術支援を提供 しています。 BIMCは、平成26年度、以下のような新規の国 際 保 健 研 究 を 開 始 し ま す。1)ユ ニ バ ー サ ル・ヘル ス・カ バレッ ジ(アジ ア、アフリカ の対象国の医療保険制度をレビューし、日本 発のUHC支援を提言;2)HIV(抗レトロウイル ス治療の継続や財政など、ポスト2015年を見 越したHIV対策の課題;3)途上国の非感染症 (ベトナムの糖尿病有病率調査)。 国立国際医療研究センター 国際医療協力局 住所: 〒162-8655 東京都新宿区戸山1-21-1 電話:03-3202-7181, ファクス:03-3205-7860 ホームページ (日本語): http://www.ncgm.go.jp/kyokuhp/index.html 2014年 2ページ 春 研究者紹介 NCGMの小原博医師らのグループは、ネパール のトリブバン大学病院と協力し、同病院での耐性 菌の実態の研究を進めてきた(P1の特集参照)。 以下の短いインタビューでは、小原医師に研究に 至った経緯、研究所見の意義、ネパールでの研 究の苦労や魅力などを語ってもらった。 に貢献する活動が計画されています。 -これら研究成果のネパール国内での反響はいか がでしたか? 小原: ネパール国内で発表され、関心を集めてい ます。トリブバン大学の医学部長からも高く評価さ れています。 - どのような経緯で、ネパールで耐性菌の研究を実 施することになったのでしょうか? 小原: 1994-6年にJICAの長期専門家として、トリブ バン大学病院に派遣されました。プロジェクト後、政 情不安定期の影響もあり、ネパールと疎遠でした が、2008年ころから、院内感染の共同研究を、か つての現地パートナーと開始し、再交流が始まりま した。昔の仲間と再度ともに仕事でき、楽しいです。 -研究が示唆する、最も重要なメッセージは? 小原: やはり、ネパール国内の院内感染対策推進 の必要性だと思います。トリブバン大学とNCGMの 協力体制の中で、大学院生の受け入れなど、対策 -ネパールでの研究実施で苦労している点と、ネ パールの魅力を教えて下さい。 小原: 苦労する点は、まず遠いことですね。かつて は直行便もありましたが、内戦後、渡航する日本人 が減り、経由便でしか行けなくなりました。また、政 情がまだ不安定なため、地方出張の際、ストライキ などの影響で動けなくなってしまうことがあります。 ネパールの魅力はまず人柄がいいことです。ネパー ル語は日本語に文法が似ていて、親近感を感じま す。最近は短期の出張が多く、機会がありません が、ヒンドゥー教の祭りなども興味深いです。 小原博医師 感染症研究に関する合同会議 妊婦の感染が子宮内死亡リスクを増大させる 子宮内で胎児が暴露されるリスクは、死産だけで なく、世界で毎年推定約72万人の新生児死亡を 起こしているとされる。ほとんどの死亡は途上国 で起こっている。1999年から2015年までに乳幼児 死亡を1/3に削減するミレニアム開発目標の目標 4(小児保健)達成のため、このリスクへの取り組 みは、極めて重要である。 と、早期新生児死亡のリスクが有意に高かった (オッズ比1.28、95%信頼区間1.03-1.59)。新生児 死亡を、口頭での聞き取りによる死因分類(verbal autopsy)で検証した場合に絞って分析しても、前 期破水と周産期仮死の合併は、やはり高い早期 新生児死亡リスクと関連していた(オッズ比1.52, 1.15-2.02)。 岩本ら は、妊娠中の感染と周産期仮死の合 併 が、早期新生児死亡を増やすかどうかを検証した 1。バングラデシュとインドの農村地域の54地区の 8万2千の出生データのうち、周産期仮死の徴候 を示した単胎 3,890 例を対象にした(このうち20% は早期新生児死亡)。妊娠中の感染は、発熱、悪 臭を伴う分泌物、前期破水等を指標とした。 結果は、「ダブルヒット」仮説、つまり感染と周産 期仮死が重なった場合に、相乗的にリスクを増大 させるという仮説を、実証的に裏付けた。 交互作用効果を勘案したロジスティック回帰分析 の結果、前期破水と周産期 仮死の合併があ る 発表論文と抄録リンク先: 1. Iwamoto A, Seward N, Prost A, Ellis M, Copas A, Fottrell E, Azad K, Tripathy P, Costello A: Maternal infection and risk of intrapartum death: a population based observational study in South Asia. BMC Pregnancy Childbirth 2013, 13(1):245-2393-13-245. 妊婦に健康教育を提供する、インドの地 域保健ワーカー http://www.biomedcentral.com/content/pdf/1471-2393-13-245.pdf ラオスのB型肝炎感染率の全国推定調査 西太平洋地域の小児予防接種プログラムの目標 として、世界保健機関は、5歳以上の子供のB型肝 炎キャリア率(HBs抗原陽性率)を、2012年に2% 未満、2017年に1%未満にすることを設定した。 1.7-4.2%)であった。これらの結果は近隣国からの 報告、および、ラオスにおける先行研究よりもはる かに低い値であった。 また、母親のHBs抗原保有 は小児の感染を有意に増加させていた。 NCGMの蜂矢らは、ラオスの国家予防接種プログ ラムが、目標達成度をモニターする支援として、5 歳から9歳児と、15歳から45歳の母親における感 染率を推定するため、HBs抗原陽性率の全国有 病率調査を実施した 1。調査は、3段階層化抽出法 で調査対象者を標本抽出し、分析の際には標本 抽出デザインを考慮した重みづけを行った。 B型肝炎ワクチンの導入が、域内の他国に比べて 遅かったにもかかわらず、ラオスのHBs抗原陽性 率は高くなかった。 HBs抗原陽性率は、小児で1.7%(95%信頼区間 0.8-2.5%)であり、母親では2.9%(95%信頼区間 発表論文と抄録リンク先: Xeuatvongsa A, Komada K, Kitamura T, Vongphrachanh P, Pathammavong C, et al. Chronic Hepatitis B Prevalence among Children and Mothers: Results from a Nationwide, Population-Based Survey in Lao People’s Democratic Republic. PLoS ONE 2014; 9(2): e88829. www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0088829 ラオスにおけるB型肝炎感染率調査の 一場面