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音楽 CD に超音波領域の音を付加する一つの試み
音楽 CD に超音波領域の音を付加する一つの試み 日大生産工(院) 1 はじめに ○齊藤 光秋 日大・理工 日大・理工 堀田 健治 日大生産工 日大生産工 山崎 憲 J・S・Bach の air である。以下の2つを呈示音とし 近年の音環境の悪化により我々はストレスを受 た。 け続けている。そのためストレスを低減させ、快適 ①音楽 CD+40kHz な音環境を確保する技術の開発は早急に行なわ ②音楽 CD+35kHz+40kHz なければならない課題である。 なお本実験では、自然界の音に含まれる超音 近年、波の音や渓流の音、葉が風にそよぐ音 等の自然界の音やある種の民族楽器音に含まれ る超音波領域の音が、人の脳波(α波)を活性化 1) させるという報告 がある。また渓流の音の可聴領 波領域の音の中心的な周波数が 35kHz∼40kHz 近傍であることから 35kHz と 40kHz を使用した。 図1・2に本実験で用いた呈示音の周波数特 性を示す。 域の音に、比較的広帯域な人工超音波(ピンクノ 8080 7070 リラックスさせるという報告2)がある。 これらの報告 60 5050 によれば、自然界の音や楽器音には一般に 音圧[dB] イズの超音波領域)を擬似的に付加した音が人を 70kHz以上にも及ぶ超音波領域の音が含まれる Audible sound 4040 3030 2020 1010 00 100 200 とされる。 これらを踏まえて筆者らは、超音波領域の音を Ultrasound 60 500 1k 2k 5k 10k 20k 50k 100k 周波数[Hz] 図 1.周波数特性 (音楽 CD+40kHz の場合) 含まない音楽CDに広帯域の人工超音波(ピンク ノイズの超音波領域)を付加した場合の生理的影 Working : Input : Input : FFT Analyze r2 3) 響について報告 した。 80 70 音を付加した場合のリラックス効果について検討 することを目的として、音楽CDに超音波領域の 純音を付加した場合の生理的影響を脳波(α波) と手掌部発汗量から検討を行なった。 音圧[dB] 本研究では可聴音に狭帯域の超音波領域の Audible sound Ultrasound 60 50 40 30 20 10 0 100 200 500 1k 2k 5k 10k 20k 50k 100k 周波数[Hz] 2 実験方法 図2.周波数特性 (音楽 CD+35kHz+40kHz の場合) 2.1 呈示音 音楽 CD の楽曲は無作為に選んだ。曲目は On the one trial which adds the ultrasound on the music CD By Mitsuaki SAITO, Kenji HOTTA and Ken YAMAZAKI 2.2 生理指標 影響を考慮し、被験者に閉眼を指示した。 音楽 CD に超音波領域の音を付加した場合の 手掌部発汗量の測定は、スキノス製ペアセンサ 生理に及ぼす影響を検討する指標として、脳波 差分方式 2ch デジタル発汗(SKD-2000)を使用し (α波)と手掌部発汗量の測定を行なった。 た。手掌部発汗量の測定位置は両手の、母指の α波は安静状態で増加するとされ、手掌部発 汗量はストレスが軽減すると減少するとされてい 第一関節より指先に近い部分で行なった。図 5 に 手掌部発汗量の測定位置を示す。 る。 発振器 CD プレーヤ パワーアンプ パワーアンプ トゥイータ スピーカ 〔超音波領域の音〕 〔可聴音〕 2.3 被験者 被験者は男性 9 名(18∼23 歳)である。あらかじ め被験者には脳波と手掌部発汗量を測定するこ とを説明した。なお実験前夜の睡眠を充分に取る こと等を事前に注意した。 2.4 実験環境 実験は安定した音環境で行なわれることが望 ましいため、無響室を使用した。 図3.再生装置の構成の例 2.5 再生装置の構成 可聴音は、CD プレーヤからパワーアンプを通 してスピーカから呈示した。超音波領域の音は、 発振器からの正弦波をパワーアンプに通してトゥ F p2 F p1 F7 A1 F3 C3 T3 Fz F4 F8 C4 Cz T4 A2 イータから呈示した。図 3 に再生装置の構成の例 を示す。 2.6 測定方法及び測定機器 T5 P3 O1 Pz P4 T6 O2 脳波の測定は、被験者に拘束感を感じさせな いために電極からの信号を離れた場所で受信・ 図4.国際標準 10-20 電極配置法 測定ができる日本光電製テレメトリシステム (WEE-6124)を使用した。また国際脳波学会が推 奨している国際標準 10-20 電極配置法に従い頭 皮上の 12 ヶ所(Fp1,Fp2,F7,F8,C3,C5,T5,T6,O1, O2,Fz,Pz)に電極を配置して脳全体の覚醒時の 脳波を記録した。図 4 に国際標準 10-20 電極配 置法を示す。実験中は瞼の開閉や光刺激による 図5.手掌部発汗の測定位置 2.7 実験手順 被験者には実験開始前に、当日の体調につ 30秒間 安静 180秒間 音の呈示 測定 いてのアンケート等を行なった。 測定は 30 秒間の無音の後 180 秒間音を呈示し た。10 分間の休憩を挟んだ後、同様に実験を繰 10分間 アンケート 休憩・休憩 り返した。音を呈示する順番はランダムとした。図 6 に測定の流れを示す。 実験終了 3 実験結果 図6.測定の流れ 3.1 結果1 音楽 CD に 40kHz の純音を付加した音が人間 400 300 図 7 に超音波領域の音の有無によるα波含有 量の時間変化を示す。また、図 8 に超音波領域 の音の有無によるα波含有量の時間平均した値 を示す。図より、音楽 CD のみの音の場合に比べ、 α波含有量[μV2] の生理に及ぼす影響を検討した。 音楽CD 音楽CD+40kHz 音呈示開始 200 100 0 -100 -200 -300 0 30 60 90 120 150 180 210 時間[sec] 音楽 CD に 40kHz の純音を付加した場合にα波 図7.α波含有量の変化 含有量が増加していることが認められた。 汗量の時間変化を示す。図より音楽 CD のみの 音の場合に比べ、音楽 CD に 40kHz の純音を付 加した音の場合に手掌部発汗量の減少が認めら α波含有量[μV2] 160 図 9 に超音波領域の音の有無による手掌部発 れた。 120 80 40 0 音楽CD 3.2 結果2 図8.α波含有量の平均値 音楽 CD に 35kHz と 40kHz の純音を付加した 音が人間の生理に及ぼす影響を検討した。 呈示中のα波含有量の時間変化を示す。また、 図 11 に超音波領域の音の有無によるα波含有 量を時間平均した値を示す。図より、音楽 CD の みの音の場合に比べ、音楽 CD に 35kHz と 40kHz の純音を付加した場合に増加していること 音楽CD 音楽CD+40kHz 0 音呈示開始 発汗量[mg/cm2] 図 10 に超音波領域の有無による音の呈示前と 音楽CD+40kHz -0.01 -0.02 -0.03 -0.04 -0.05 0 30 60 90 120 150 180 時間[sec] 図9.手掌部発汗量の変化 210 が認められた。 図 12 に超音波の音の有無による手掌部発汗 音楽CD 500 の場合と比べると、音楽 CD に 35kHz と 40kHz の 純音を付加した場合に手掌部発汗量が減少して いることが認められた。 4 おわりに α波含有量[μV2] 量の時間変化を示す。図より音楽 CD のみの音 300 200 100 0 -100 -200 本研究では超音波領域の音を含まない音楽 音楽CD+35kHz+40kHz 音呈示開始 400 0 30 90 60 120 150 CD に超音波領域の純音を付加した場合のリラッ 時間[sec] クス効果について、脳波(α波)と手掌部発汗量の 図 10.α波含有量の変化 180 210 測定から検討を行なった。 その結果、音楽 CD に 40kHz の純音を付加し 200 た場合はα波含有量に増加が見られ、手掌部発 純音を付加した場合もα波含有量に増加が見ら れ、手掌部発汗量が減少した。これらのことから 音楽 CD に超音波領域の純音を付加することでリ α波含有量[μV2] 汗量が減少した。音楽 CD に 35kHz と 40kHz の 160 ラックス効果を得られることが確認された。また、 120 80 40 0 音楽CD 音楽 CD に 40kHz の純音を付加した場合と 音楽CD+35kHz+40kHz 図 11.α波含有量の平均値 35kHz と 40kHz の純音を付加した場合のα波含 有量に差が認められた。このことから、今後は付 加する純音の数や周波数について検討する必要 音楽CD 音楽CD+35kHz+40kHz 0 がある。 -0.01 参考文献 1)仁科エミ,大橋力,河合徳枝,不波本義孝,当魔 昭子:「ガムラン音高周波成分の生理的影響につい て(ハイパーソニック・エフェクトに関する研究 その 1)」日本音響学会講演論文集、pp.395-396(1992) 2)伊藤隆道,山崎恵,堀田健治,山崎憲:「超音波 領域の音が人間に与える影響について」 日本大学 生産工学部第 37 回学術講演会、pp.123-1261 (2004) 3)齊藤光秋,山崎憲,堀田健治:「音楽 CD に人工 超音波を付加した音が人間の生理に及ぼす影響に 関する基礎的研究」日本音響学会講演論文集、 pp673-674(2006) 発汗量[mg/cm2] -0.02 -0.03 音呈示開始 -0.04 -0.05 -0.06 -0.07 0 30 60 90 120 150 時間[sec] 図 12.手掌部発汗量の変化 180 210