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東京都の内湾域における窒素汚染の実態

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東京都の内湾域における窒素汚染の実態
東京都の内湾域における窒素汚染の実態
The actual conditions of nitrogen pollution in the coastal sea area of Tokyo
風間 真理
1*
・安藤 晴夫
2
1*
2
Mari KAZAMA , Haruo ANDO
東京都環境局・ 東京都環境科学研究所
Tokyo Metropolitan Government Environment Division
2
Tokyo Metropolitan Research Institute for Environmental Protection
1
2
1
摘 要
人口密集地域を背景とする東京都の地先海域(東京都内湾)の窒素による水質汚濁
の実態をとりまとめた。海域の窒素濃度(全窒素)は、2000 年以降やや改善の兆しも
見えるが、依然として 1~2 mg/l の範囲で推移し、しばしば環境基準値(Ⅳ類型 1.0 mg/l)を超過する状態にある。この海域には窒素濃度が概ね 3~5 mg/l の河川水
に加えて、沿岸の下水処理場から海水より約 10 倍高濃度の処理水が 1 日に約 400 万 m
3
流入している。各種発生源対策により、都内における窒素の発生負荷量は過去 30 年
間で約 2 分の 1 の 78 トン/日に削減されたが、前述のように海域の窒素濃度には、
それに応じた低下傾向は認められない。その原因には、底泥からの溶出負荷や雨天時
流入負荷等の影響が考えられる。その結果、赤潮の発生状況は改善されず、夏期には
貧酸素水塊が慢性的に発生するため、底生生物の生息が困難な状況が続いている。
キーワード:水質、窒素汚染、底質、底生生物、東京湾
Key words:water quality, nitrogen pollution, sediment, benthos, Tokyo Bay
1.はじめに
東京都
東京湾は、流域面積 7,597 km 、背景人口 2,770
2)
2 1)
3 1)
万人 を有し、水域面積 1,380 km 、容積 621 km 、
3)
閉鎖度指標 1.78 の閉鎖性海域である(図 1)。湾内
は、
富津と観音崎を結ぶ線の南北で水域が区分され、
それぞれ東京内湾、東京外湾と呼ばれている。この
4)
東京内湾は、水域面積 1 ha 当たりの人口が 210 人
と世界有数の過密な湾である。東京湾でも特に人口
の多い東京都域からの流入がある都内湾は、東京内
湾の最奥部の西岸に位置し、概ね荒川と多摩川の延
2
長線で囲まれた面積約 100 km 、最大水深約 26 m
の海域である。
図 2 は、国内の代表的な閉鎖性水域である東京
湾、伊勢湾、大阪湾他の窒素濃度
(全域平均値)
の推
5)
移(環境省資料 より作成)で、各水域とも長期的な
低下傾向を示しており、特に東京湾でその傾向が顕
著である。しかし、2007 年の時点でも東京湾の濃
度は約 0.8 mg/l で、他の湾の 1998 年の値より約 2
倍も高いレベルにある。このように現在でも東京湾
は、国内でも有数の窒素濃度の高い海域である。こ
こでは、東京湾内でも特に人間活動の影響を強く受
ける都内湾の窒素に着目してその実態を報告する。
隅田川
荒川
江戸川
2 1)
幕張
千葉
東京都
内湾
多摩川
川崎
鶴見川
市原
横浜
東京内湾
本牧
神
奈
川
県
千葉県
金沢
富津
横須賀
N
観音崎
東京外湾
剱崎
金谷
洲崎
図 1 東京都内湾.
受付;2009 年 12 月 15 日,受理:2010 年 4 月 10 日
*
〒 163-8001 東京都新宿区西新宿 2-8-1,e-mail:[email protected]
2010 AIRIES
171
風間・安藤:東京都の内湾域における窒素汚染の実態
東京湾
伊勢湾
大阪湾
瀬戸内海
有明海
St. 5
St. 23
St.25
St.35
7
1.0
6
5
全窒素(mg/l)
全窒素(mg/l)
0.8
0.6
0.4
4
3
2
0.2
1
0
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
0
2007 年度
図 2 代表的湾における全窒素の濃度推移 .
5)
1980
1985
1990
1995
2005 年度
2000
図 3 都内湾における全窒素濃度の推移 .
7)
2.都内湾水域の窒素濃度の概要
St.5
St.6
St.8
St.11
St.22
St.23
St.25
St.35
6
2008 年度
172
全窒素(mg/l)
4
3
2
1
0
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3(月)
図 4 都内湾における全窒素濃度の月変化 .
7)
St.5
St.6
St.8
St.11
St.22
St.23
St.25
16
St.35
2008 年度
14
12
COD(mg/l)
2.1 窒素の水質環境基準
わが国では、1993 年に海域の環境基準に窒素、
りんが追加され、1995 年には水域別に類型が指定
された。環境基準値は、利水目的に応じたこの類型
により決められ、全窒素については、外湾に当たる
湾 口 部 は 0 . 3 0 m g /(
l 類 型 Ⅱ )、 内 湾 の 南 西 部 は
0.60 mg/l(類型Ⅲ)、北東部は 1.0 mg/l(類型Ⅳ)で
ある。各類型の利用目的の適応性は、水産生物の生
息条件等によって分けられており、都内湾がある東
京湾(ロ)
[東京湾全域は、千葉港及び東京湾(イ)~
(ホ)の計 6 水域に区分され、各水域は、利水目的に
応じた類型(Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ)に割り当てられる。]の水
域は類型Ⅳに指定され、生物生息環境保全の視点か
6)
らは、年間を通して底生生物が生息できる限度 と
定義されている。対象水域が窒素の環境基準を達成
しているか否かの評価は、その水域内のすべての評
価対象基準点の年平均値
(上層)
を平均した値で判断
する。すなわち、東京湾
(ロ)水域の場合には、都内
湾の環境基準点 8 地点(図 6 環境基準点参照)のう
ち、沖合の 3 地点(St.22、St.25、St.35)が窒素及び
りんを評価するための基準点となっており、これら
の地点と、同じ水域の千葉県 4 地点、神奈川県の 4
地点の計 11 地点の年平均値の平均値で達成状況が
評価される。2008 年度の場合には都内湾 3 地点の
年平均値はそれぞれ 1.22 mg/l、1.81 mg/l、0.92 mg/l
で、これに千葉県、神奈川県の年間平均値を加えた
全地点の平均値は 1.1 mg/l と計算され、環境基準
7)
は達成しなかった 。
2.2 都内湾水域の全窒素濃度の現状と推移
2.2.1 長期的変化
都内湾の 8 地点の環境基準点では、月 1 回の頻度
で全窒素および形態別窒素の採水分析が行われてい
る。図 3 に、隅田川河口域に位置する 4 地点上層
7)
の全窒素濃度の年平均値の推移を示す 。St.5 は最
も隅田川河口に近いため、河川水の影響を最も強く
受け、隅田川の水質変化に伴って 1980 年代半ばに
3.5 mg/l と最も濃度が高くなった後、次第に濃度が
低下し、現在は約 2 mg/l になっている。St.25、
5
10
8
6
4
2
0
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1
2
3(月)
図 5 都内湾における COD の月変化 .
7)
St.35 も類似の変動パターンで推移しているが、
2003 年度に両地点とも濃度が低下し、それ以降は、
St.25 では 2 mg/l を下回る濃度、最も沖合の St.35
ではその約 2 分の 1 の 1 mg/l 前後の値で横ばいの
状態が続いている。St.23 は、大規模下水処理場の
直近に位置し水深も浅いために下水処理水の影響が
顕著で、他の地点に比べて水質の変動が大きく、ま
た St.5 に比べてもさらに高濃度で推移し、2007 年
度には 4 mg/l 前後の値を示している。河川水中の
下水処理水の割合が高い隅田川河口域で、沖合の地
点ほど窒素濃度が低いことや、下水処理場近傍の地
点では非常に濃度が高いことから、都内湾の窒素は、
下水処理水に由来する寄与が非常に大きいと考えら
れる。
2.2.2 季節的変化
図 4、図 5 は、2008 年度の都内湾の各環境基準
点における全窒素濃度及び COD(Chemical Oxygen
地球環境 Vol.15 No.2 171-178
(2010)
Demand)の季節変化 を示している。このうち下水
処理水の影響を強く受ける St.23 は、他の地点に比
べて濃度レベルが高く、5 mg/l 以上にも達する。
また、月による変動も大きい。これに対してそれ以
外の地点では、夏季には、全体的に濃度が上昇する
傾向を示し、3 mg/l を超える地点も認められる。
その後、秋から冬には 1 ~ 2 mg/l まで濃度が低下
する。水質測定調査は降雨の影響を強く受けない日
に実施されている。したがって、夏季に濃度が上昇
傾向を示すのは、
陸域からの流入負荷の影響よりも、
植物プランクトンの増殖による二次汚濁の影響の方
が強いと考えられる。図 4 で、6 月の St.22 の全窒
素濃度が通常に比べて高い値を示している。
一般に、
赤潮発生は、無機態窒素が有機態窒素へと変化する
だけなので、全窒素濃度には影響しないと考えられ
るが、実際には、赤潮発生時にプランクトンは海面
付近に集積する場合が多く、実際に当日はヘテロシ
グマアカシオ(Heterosigma akashiwo)による赤潮の
発生が記録され、COD も高いことから、二次汚濁
が窒素濃度上昇の原因であることをよく示してい
る。
2.2.3 川や点源との水質濃度比較
図 6 に、都内湾海水(上層)、流入河川水(最下流
地点の河川水)、及び下水処理水(下水処理場からの
放流水)の窒素濃度(2008 年度平均値)
を示す。
海域の水質(上層)は沖合や処理場近辺を除いて
1.2 ~ 2.3 mg/l であり、流入河川河口部はそれより
やや濃度の高い 2.9 ~ 5.5 mg/l であるのに対し、直
7)
接海域に放流されている下水処理場排水は、11 ~
20 mg/l と 10 倍前後の高い水質で海に流入してい
る。水量でみても、例えば森ヶ崎水再生センターは
3
排水量が日量 120 万 m であるのに対し、多摩川の
3
低水流量が 126 万 m と同程度であるように、大都
市沿岸に立地する下水処理場の排水量は河川流量に
匹敵するものであり、処理場排水の環境濃度への影
響は大きい。
2.3 発生負荷量の推移
図 7 は、東京都内の COD、窒素、りんの発生負
9)
荷量の過去 30 年間の推移を示したものである 。
この間、すべての発生負荷量が大幅に削減されたこ
とが分かる。この窒素の負荷量についてみると、
1979 年には 1 日当たりの発生量が 147 トンであっ
たのが、25 年後の 2004 年には 78 トンと約 2 分の 1
に減少している。窒素負荷量の推移を他の項目と比
較すると、COD とりんは 1980 年代から明確な削減
傾向を示しているが、窒素の場合には、1980 年代
末まで削減率が低く、1990 年代になって負荷量削
減が進行したことを示している。このことは、都内
湾各地点における全窒素濃度の変動傾向、すなわち
1990 年以降に濃度が低下し始めたこととほぼ対応
している。また、りん負荷量の推移についても、
1980 年代の顕著な減少や、近年の横ばい状態が後
述する水質濃度
(図 9 参照)と対応している。
窒素及びりん負荷量削減が近年進まなくなった原
因としては、従来からの対策で可能な削減量にほぼ
到達したためと考えられる。したがって今後、水質
改善を一層進めていくためには、現在、他の海域に
比べて低いレベルにある下水の高度処理人口(東京
都 16.4%〔2008 年度末〕、大阪湾 37.2%、伊勢湾
10)
26.9%) の拡大や、雨天時に非常に負荷が大きいと
考えられる合流式下水道越流負荷量の削減などが必
要である。
2.4 赤潮と水質の関係
2.4.1 赤潮発生要因としての窒素
都内湾では、5 月から 9 月頃にかけて赤潮が頻発
している。この赤潮は栄養塩類が高いことが大きな
要因とされている。図 8 に、赤潮調査を開始した
1977 年から約 30 年間の都内湾における赤潮発生状
11)
況の推移 を示す。年間の発生回数は約 18 回、日
* 2009 年度は目標値
都内湾海水
発生負荷量(トン/日)
200
COD
全りん×10
150
100
50
0
図 6 下水処理水及び流入河川水と都内湾海水の窒素
8)
濃度 .
全窒素
1979
1984
1989
1994
1999
2004
2009(年度)
図 7 発生負荷量の推移(東京都分).
9)
173
風間・安藤:東京都の内湾域における窒素汚染の実態
発生日数(日/年)
発生日数
発生回数
120
30
100
25
80
20
60
15
40
10
20
5
0
1980
1985
1990
1995
2000
図 8 都内湾における赤潮発生状況
0
(年度)
2005
.
11)
3.0
T-N
(T-N/T-P)/10
2.5
T-P×10
N/P比
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
1980
1985
1990
1995
2000
2005(年度)
図 9 NP 比の経年変化.
2008 年度
3.0
(T-N/T-P)/10
2.5
T-N
T-P×10
N/P比
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
4
5
6
7
8
9
10 11 12
1
2
3(月)
図 10 NP 比の月変化.
3.0
上層
下層
2.5
全窒素(mg/l)
数は 90 日前後で、この間に明確な改善傾向は認め
られない。一方、季節変化については、4 月頃から
発生数が増加して 7 月頃ピークに達し、11 月には、
ほとんど発生しなくなる。赤潮発生のこうした季節
変化は、降雨による栄養塩の供給や日射量の季節変
化に関係していると考えられる。
2.4.2 窒素濃度とりん濃度
次に窒素濃度とりん濃度との関係を St.25 を例に
検討した。St.25 は、東京都内湾の中心部に位置し、
湾内の流況から都内の負荷量を最もよく反映してい
るとみられる地点である。
経年的には、窒素は図 9 に示したように 1990 年
前後がピークでその後やや低下するが、りんは漸減
しているため、NP 比は 15 前後で推移し、近年や
や低めで横ばいの状況である。健全な海域生態系の
指標であるレッドフィールド比(重量比で約 7)と比
べてかなり大きく、窒素が過剰な状況にある。バラ
ンスのよい栄養塩の削減を考えると、窒素の一層の
削減が望まれる。
季節変化について(図 10)、全窒素濃度は 8 月~
10 月に 10 mg/l 前後まで低下するが、その間に全
りんの濃度も低下するため、概ね NP 比は 15 前後
の値で推移している。しかし、近年 13 程度で推移
12)
している東京湾全域を纏めた結果 と比較すると都
内湾では窒素の比率が高めであることを示してい
る。
2.5 窒素の層別・形態別特徴 2.5.1 層別の濃度推移と濃度差
これまでは、上層の窒素濃度の推移について述べ
たが、次に、上層と下層(海底上 1 m で採水)の濃
度について検討する。図 11 は、St.25 の上層と下層
の全窒素濃度の経年変化である。上層の濃度は、概
ね 1.5 mg/l~2.0 mg/l の範囲で推移しているが、下
層はそれより変動が小さく、近年は 0.5 mg/l 程度
まで低下している。また、上層と下層の濃度比でみ
ると、30%~40%で経年的に推移している。
174
35
発生回数(回/年)
140
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005 (年度)
図 11 全窒素の上層・下層における推移.
地球環境 Vol.15 No.2 171-178
(2010)
3.0
DIN
ON
窒素 (mg/l)
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
1975
1980
1985
1990
1995
2005 (年度)
2000
図 12 形態別窒素の経年変化(St.25).
3.0
NH4-N
NO2-N
NO3-N
ON
2.5
窒素 (mg/l)
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
4
5
6
7
8
9
10 11 12
1
2
3(月)
図 13 形態別窒素の月変化(St.25).
(2008 年度)
2.5.2 形態別組成の推移と季節変化
全窒素(上層)を溶存態無機窒素(DIN:NO 3-N+
NO 2-N+NH 4-N)と有機態窒素(ON:T-N-DIN)に
分け、その長期的推移について St.25 を例に示した
(図 12)
。
経年的には、DIN が 1980 年頃から増加し 2000
年以降は、若干減少傾向を示している。これに対し
て、ON は、1980 年以前は濃度が約 1 mg/l で全窒
素の 2 分の 1 以上を占めていたが、その後は濃度が
約 0.5 mg/l まで低下し、DIN 濃度の上昇もあって、
全窒素中の割合も低下している。図 13 は、2008 年
度の St.25 における窒素の形態別組成の季節変化を
示したもので、この間、DIN の割合は 50%~88%、
平均 68%であり、濃度は 0.47 mg/l~ 2.19 mg/l、
平均 1.26 mg/l であった。DIN の内訳をみると、平
均組成は、NO3-N が 43%、NH4-N が 18%であった。
なお、6 月の NH4-N 濃度が低い原因は、調査数日前
に発生したヘテロシグマアカシオの影響によると考
えられる。
3.底層水質や底質・底生生物の応答
3.1 貧酸素水塊
東京湾では、毎年夏季になると底層付近に貧酸素
水塊が発生し、その状態が長期間続いて水生生物の
生息が困難な状況になるため、その解決が重要な課
題となっている。貧酸素水塊が発生する主な原因の
一つが、赤潮プランクトンの大増殖であり、それは
海水中に高濃度で存在する窒素・りんによって引き
起こされる。図 14 は 1986、1994、2002 年 9 月の
13)
底層 DO の平面分布を示したもの である。3 ヶ年
を比較すると、赤で示す DO が 2 mg/l 以下の水域
が、湾中央から湾奥部に広がる状況にはほとんど変
化がなく、今日まで改善傾向は認められない。図
15 は、東京湾全域の水質の長期的変化を 10 年間隔
13)
の平面分布図に表したもの で、赤潮による水質汚
濁を示す COD と赤潮発生原因である窒素・りん濃
度は、依然として湾奥部西岸寄りの水域で高く、特
に窒素・りんは、都内湾周辺で著しく高い状況が続
いている。
3.2 底質の窒素濃度の推移
東京湾では、海水中の窒素・りん濃度に、底質か
175
風間・安藤:東京都の内湾域における窒素汚染の実態
DO(mg/l)
図 14 DO の平面分布の長期的推移(9 月下層) .
13)
COD
(mg/l)
COD
(mg/l)
COD
(mg/l)
T-N
(mg/l)
T-N
(mg/l)
T-N
(mg/l)
T-P
(µg/l)
T-P
(µg/l)
T-P
(µg/l)
図 15 COD,T-N,T-P の平面分布の推移
全窒素(mg/g)
6
St.22
St.25
St.35
5
4
3
2
1
0
1985
1990
1995
2000
2005
図 16 底質における窒素濃度の推移 .
7)
176
(年度)
.
13)
らの溶出の影響が大きいことが指摘されている。溶
出濃度そのものの変化は追えないが、底質中の窒素
7)
濃度の 23 年間にわたる推移 を図 16 に示す。ここ
での底質はスミスマキンタイヤー採泥器で採取され
た表層 5 cm 程度の試料の分析結果である。
St.22、St.25、St.35 ともに 1990 年代には、やや
低下の傾向が認められるが、
近年は若干高くなって、
St.22 は 3~4 mg/g、St.25 は 2~3 mg/g、St.35 は
4 mg/g 前後で横ばいの状況にある。COD は 1985
年当初から低下し、最近の 4 年間はさらに低めの濃
地球環境 Vol.15 No.2 171-178
(2010)
mg/l
mg/l
mg/l
図 17 洪水時荒川河口における水質鉛直分布
(2002 年 10 月 3 日)
35
種類数
(/0.15 m2)
度で推移しているが、全りんや強熱減量は窒素と同
様の推移を示している。
海底に堆積したヘドロからは、底層水の貧酸素化
などにより、NH4-N や PO4-P が海水中に溶出して新
たな赤潮の発生原因になると考えられている。図
17 は、洪水時の荒川河口(St.1)から沖合(St.A:風
の塔)までの測線(図 6 の一点鎖線)について水質の
13)
鉛直分布を図にしたもの である。このとき河川か
ら流入した淡水が海面近くに薄く広がり、高塩分の
水とはほとんど混合していない。NOx-N も淡水と
同様な挙動を示し、主に河川水に由来することを示
唆している。一方 NH4-N, と PO4-P は、海面付近と
ともに海底近くでも濃度が高くなっている。このこ
とは、NH4-N や PO4-P が、陸域からの流入水だけで
なく、底泥からの溶出にも由来することを示してい
る。
.
14)
5月
30
9月
25
20
15
10
5
0
1985
1990
1995
2000
図 18 底生生物の出現状況の推移
2005 (年度)
.
11)
3.3 底生生物の出現状況
前述したように窒素・りんに関する環境基準の類
型Ⅳの適応性は、年間を通して底生生物が生息でき
る限度とされている。St.25 における底生生物の出
11)
現状況の推移 を図 18 に示す。前述のように、東
京湾で貧酸素化した水域が最も拡大する 9 月の都内
177
風間・安藤:東京都の内湾域における窒素汚染の実態
湾における底生生物出現種類数は、今日まで 5 種に
満たない状況が続き、回復の兆しがみられない。一
方、年により変動は大きいが、貧酸素化が起こりに
くい 5 月の種類数は、概ね 10 種以上で推移してい
るが、1990 年代に比べると近年はやや出現種類数
が減っている。
http://www.gesui.metro.tokyo.jp/gijyutou/fukyu/
m8nendata/20kubun.htm
9) 環境省 水・大気環境局水環境課閉鎖性海域対策室
(2006)化学的酸素要求量,窒素含有量及びりん含
有量に係る総量削減基本方針(東京湾).7 都県市首
脳会議に基づく東京湾富栄養化対策指導指針.
10)東京湾再生会議(2009)
「東京湾再生のための行動計
4.おわりに
画」第 2 回中間評価報告書
(案)
.
11)東京都環境局(2010)平成 20 年度東京湾調査報告
あまりに負荷の大きい東京湾であったため、
COD に加え、窒素・りんの削減も可能な限り実施
されてきたにもかかわらず、水質改善や生き物の復
活が遅々として進まない。負荷量の削減が表層水質
の改善に繫がる以前に底質の回復の遅れの問題があ
り、底生生物が年間を通して生息できる環境となっ
ていない。過去の堆積物も含めての対応に、今後も
弛まぬ努力が必要であろう。都内湾における環境水
質、底質、赤潮、水生生物などのデータを天候、発
生源などの情報と合わせて、今後とも総合的にみて
いく所存である。
謝
辞
貴重なる助言をくださった中村由行先生に感謝い
たします。
引用文献
1) 環境省(2003)水質総量規制の指定水域における湾
灘別水域環境基礎データ集.
2) 環境省 水・大気環境局
(2008)
平成 19 年度発生負荷
量等算定調査報告書.
3) 環境省(2000)環境基準類型の指定状況(平成 12 年
度).
4) 磯部雅彦(2009)東京湾シンポジウム(2009 年 11 月
7 日)資料.
5) 環境省 水・大気環境局
(2008)
平成 19 年度公共用水
域水質測定結果.
6) 環境庁(1971)
告示第 59 号.
7) 東京都環境局(2010)平成 20 年度公共用水域及び地
下水の水質測定結果.
8) 東京都下水道局 HP.
178
書.
12)東京湾岸自治体環境保全会議(2009)平成 19 年度東
京湾水質調査報告書.
13)安藤晴夫・柏木宣久・二宮勝幸・小倉久子・川井
利雄(2005)1980 年以降の東京湾の水質汚濁状況の
変遷について-公共用水域水質測定データによる
東京湾水質の長期変動解析.東京都環境科学研究
所年報,141-150.
14)安藤晴夫・川井利雄・牧秀明・木幡邦男・越川海
(2005)洪水時の流入汚濁による東京湾水質への影
響について.東京都環境科学研究所年報,252-256.
風間 真理
Mari KAZAMA
東京都環境局自然環境部水環境課にて
東京湾の調査(水質、赤潮、水生生物)
を
担当。水環境行政歴 32 年。学術博士。
技術士(環境部門)
。環境カウンセラー。
日本水環境学会身近な生活環境研究委員
会にて「生き物から水環境を見る」を推進。同時に、データ
の総合解析、有効利用を心がけている。『川と海』
(築地書館)
分担執筆。「生活排水実験」
「隅田川浄化の歴史」
「東京湾は今」
を市民講座などで数多く実演、解説している。お茶の水女子
大学理学部化学科卒。
安藤 晴夫
Haruo ANDO
東京都出身。1973 年東京都公害局に
入り、魚浮上事故や光化学被害発生等の
緊急時・事故時の初動調査に 4 年間従事
した後、東京都公害研究所(現・環境科
学研究所)に異動し、河川の自浄作用や
東京湾の水質汚濁、酸性雨の陸水影響、ヒートアイランド現
象等、多岐にわたる研究テーマに取り組む機会を得た。最近、
アジアや中南米等からの研修生に講義する機会が何回かあ
り、過去の地方自治体の公害対策事例が注目されていること
を再認識させられた。博士(海洋科学)
。
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