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速報 - 日本災害情報学会

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速報 - 日本災害情報学会
■ 韓国視察調査(速報)
日本災害情報学会 第二次デジタル放送研究会
【行 程】
東京発着
月 日
3 月 13 日
曜
木
3 月 14 日
金
3 月 15 日
名古屋発着
月 日
3 月 13 日
3 月 14 日
3 月 15 日
3 月 16 日
宿舎
土
便
名
OZ アシアナ航空 OZ1015
発
東京 羽田空港 12:15
ソウル市内滞在
1) OMNITEL(午前)
2) KBS(午後)
OZ アシアナ航空 OZ1045 ソウル 金浦空港 15:55
着
ソウル 金浦空港 14:35
3) 市内視察(翌日午前)
東京 羽田空港 17:55
曜
便
名
発
木 OZ アシアナ航空 OZ121
名古屋 中部国際空港 12:00
ソウル市内滞在
金
1) OMNITEL(初日午前)
2) KBS(初日午後)
土
日 OZ アシアナ航空 OZ122
ソウル 仁川空港 09:15
ホテル三井(http://www.samjunghotel.co.kr/)
着
ソウル 仁川空港 14:00
3) 周辺視察(翌日)
名古屋 中部国際空港 11:00
【調査先】
韓国放送公社 KBS
OMNITEL 社
【参加者】
№
1
2
3
4
5
6
7
8
氏 名
藤吉 洋一郎
東方 幸雄
小田 貞夫
大西 勝也
中村 功
國崎 信江
天野 篤
水上 知之
所
属
大妻女子大学
NTT東日本
十文字学園女子大学
大妻女子大学
東洋大学
危機管理教育研究所
アジア航測
三重県
№
a
b
c
1
氏 名
佐藤 宏明
秋常 秀明
鎌田 泰祥
所
属
河川情報センター
〃
〃
1.はじめに
(藤吉洋一郎)
災害時の住民への災害情報や避難情報などの配信が、生命および財産の保護の観点から大
きく寄与すると期待されている。テレビでのヘリ映像など災害時に各メディアが伝える被災
映像はリアルタイムで災害を伝える情報として有用であるが、被災者が知りたい“わがまち”
の情報など、限られたエリアごとにそれぞれ異なった情報を配信するのはなかなか困難なこ
とである。そこでそれを補完する手段として、近年、携帯電話によるCBS(Cell Broadcast
Service)方式の情報提供が有望視されている。
CBS調査のために韓国を訪問することになったのは、日本ではなかなか進まない携帯電
話のCBS方式による情報提供が、韓国では日本より早く実用化されているのはなぜかを知
りたかったからである。とりわけ、CBSによって災害情報をいっせいに該当する地域に流
すということは、日本ではとりもなおさず、「それは“放送”ではないか」という放送事業者側
からの抵抗があるようだが、この部分を韓国ではどのように解決しているのかということも
知りたかった。日本国内ではCBSの導入にあたって、放送と通信のすみ分けが議論されて
おり、現在までのところ「緊急地震速報」や「緊急情報」
(警報等 J-ALERT 項目)の配信に
限定して実用化されるにとどまっている。
当研究会では先進的にCBSを実用化している韓国での現状調査に先立ち、NTTドコモ
と業務提携しているKTF社に調査への協力依頼を行った。当初はKTF社への視察を予定
していたが、当方の調査内容がCBS全体に関わる内容であったことから、その後CBSの
導入プロジェクトに参画したオムニテル社を訪問することとなった。KTFおよびオムニテ
ル両社からの事前の回答については、このあとの「2.事前のメールでのQ&A」の章に述
べる。
当研究会のコアメンバー有志8人は、2008 年3月 13 日~15 日の日程で、韓国のソウルを
訪問し、オムニテル社とKBS放送局、それにNHKソウル支局から携帯電話によるCBS
方式の利用状況やデジタル放送による災害情報の提供状況などについて聞き取り調査を行っ
た。8人が参加したのは短時間の調査であったため、できるだけ総力で報告をまとめること
としたためである。
詳細の報告は中村功によるこのあとの「3.聞き取り詳細」の章の報告に譲るが、極めて
端的にいうと、携帯電話によるCBS方式の災害情報の提供について、オムニテル社の説明
では「“災難情報”(災害だけでなく事故なども含むため韓国ではこういっている)を提供する
のは国の役目であり、そのために携帯電話の波を利用することができるように法律もできて
いる。」ということであった。そして、「オムニテル社が開発したシステムによって、全国
の自治体などが”災難情報“を入力すれば、それが防災消防庁への報告になるし、そのまま携帯
電話のCBS機能によって、該当する地域の国民に対する“災難情報”として伝達される仕組み
になっている。」ということであった。つまり、情報源は国や行政機関であり携帯電話会社
は電波を提供しているだけで、伝える情報の中味には一切関与・責任はない。」というのであ
る。極めて明確な説明であった。そういえば、出発前の事前の問い合わせで、KBSの担当
者にCBSについても聞きたいといったら、「CBSって何のこと?」といっていると、仲
2
介したNHKソウル支局からのメールにあったが、なるほどとうなずける両国の事情の違い
であった。
以下に、韓国訪問に先立ってのメールによるQ&Aの内容と、訪問先での調査の概要、参
加メンバーの所感を列挙するので参照されたい。短時間の調査を急遽まとめたため、報告者
により内容が重複したり、若干の食い違いがあるかもしれないが、お許し願いたい。
青瓦台(大統領府)前の記念写真スポットで視察団全員集合
2.事前のメールでのQ&A
(東方幸雄)
①情報配信の現状について
Q:CBSの仕組みを活用したサービスとしてどのようなものがあるのか?
A:KTFがサービスしているCBSは「チャネル型」と「地域基盤型」がある。
チャネルサービスはタクシー呼び出し、ニュース、スポーツ等情報を文字で提供するサ
ービスで月額有料サービスである。すなわちCBSインフラを使用しているが、有料加
入者のみに発送するビジネスモデルで、一般有料サービスと同じである。
Q:災害情報に関しては、平時および非常時でどのような内容の情報配信を行っているの
か?
A:「災難文字放送」と「迷子探し」が該当する。
②エリア配信時のコンテンツ責任機関について
Q:日本国内でも細かな情報配信に伴うコンテンツの責任機関が不明確となっているが、
韓国では情報配信の責任はどこが責務を負っているのか?
3
A:こちらは顧客に無料で提供される公益チャネルとして、国家機関である消防防災庁と
警察庁が発送主管になり、災難文字の場合、顧客の同意無しでは発送できないように
法律で規定している。
OMNITEL 社での聞き取り調査
3.聞き取り結果詳細(中村
功)
1) オムニテル社聞き取り
①「災難」(災害)文字サービス(Disaster Text Service)
Disaster alert service based on CBS
②オムニテル社について
CBS運用のためのプラットフォーム(ソフト)を作成し、各携帯電話事業者に提供し
ている。
③プラットフォーム全体のコンセプトとしては
CBSは第一報で、そこからリンクを張り、インターネットからコンテンツをダウンロ
ードしたり、DMB(ワンセグ)と融合させようとしている。CBSは情報量が少ないた
めメインではなく、トリガー。今後は、ワンセグ放送がメインとの考え。
4
④災難(災害)文字サービスの歴史
・ 1998 年 一般のCBSサービスが開始される
・ 2004 年 10 月 消防防災庁との間で災難文字サービスの開発協議が始まる
・ 2004 年 12 月 消防防災庁が一部地域でモデルサービスを開始
・ 2005 年 2 月 日本海沿岸までサービスを拡大
・ 2005 年 5 月 全国サービス開始
・ 2006 年 6 月 消防防災庁が発信施設をレンタルから独自のものに
⑤開始にあたり問題だったこと
1. 各事業者間の調整 このサービスに関心のある会社からはじめていった
2. 実効性 モデルサービス後 2005 年に大雨災害があったが、人的被害が 83.7%、物的損
失が 45.6%減少したといわれている。
(ただしこれがすべてCBSの効果であったかど
うかは不明とのこと)
3. 国民の共感 スマトラ島津波や韓国の山火事災害で、国民の防災への関心が高まった。
政府広報で国民に周知を行った
スパムメールと嫌がられるのではないかという心配
があったが理解された。
(4. 法整備 制度的な面での裏付け)
⑥災難文字サービスの発出過程
1. 発災・予警報
2. 消防防災庁・各自治体の状況室から情報を発信
3. 携帯電話基地局から
4. CBSサービスを使って
5. ユーザー端末へ
⑦発信方法
1. 消防防災庁のホームページにログイン画面があり、自治体担当者が ID、パスワード、
暗証番号を入力してログインする
2. 配信メニューの画面から発信内容を入力し送信する
3. 画面は選択式で次のような要素を入力する
・ 配信予約 or 即時配信(予約の場合は配信日時)
・ 配信地域グループを一覧表から選択
・ 情報ランクおよび種類の選択(大雨警報・大雨注意報・情報等)
・ 配信する通信事業者を選択(会社によって通信可能文字数が異なるので)
・ テキストの入力
4. 消防防災庁が入力された内容を確認、承認して配信する
5. 配信結果リストで配信を確認する
5
⑧運用実績
2007 年 1 月~12 月まで 合計 173 回発信
災難タイプとしては大雨が最も多い 77 件、45%
ランク別では 警報 69%、注意報 22%、予報 6%、情報 3%、解除
⑨扱う災害の種類
自然災害
地震、台風、大雨 等
人的災害
火災、爆発、交通事故、環境事故 等
社会的災害 交通等ライフラインの障害、伝染病 等
紛争
戦争、テロ、非常事態 等
⑩文例
■ 消防防災庁 ■
2007/12/30 16:41
[警報]○○道○○市○○地区
大雪の危険があります(20~30 ㎝)
注意してください
⑪CBSの活用全体
1. 一般サービス (利用料有償)
一般サービスについては利用者から利用料金を取り、事業者は収益を上げている。ニュ
ース、映画、マンガなど 20~30 チャンネルある。利用料金は月 900~1000 ウォン(100
円)程度。加入者は 3 社合計で約 100 万人おり、事業として成り立っている。
2. 公益サービス (無償)
公益サービスについては消防防災庁がソフトを購入し、サーバーを管理。通信事業者は
無料で通信を提供している。災害、迷子探し、緊急献血の呼びかけの 3 種類がある。
⑫迷子探しサービス
開始 2004 年 6 月(SKT)
、2004 年 10 月(KTF)
、2004 年(LGT)
情報量 180 byte(120)
(SKT)
、477 byte (433)(KTF)
、240 byte (190)
(LGT)
情報提供単位 トン(町)
頻度(月当たり) 13(SKT), 9(KTF), 9(LGT)
⑬利用者
・ 災難文字サービスの受信はデフォルトでオンになっているが、設定によってオフにする
ことができる
・ 政府(消防防災庁)との協約により、発売される携帯電話にCBSの機能を搭載するこ
とになっている
6
・ 現在 70~80%の端末が受信可能と思われる
・ 情報の発信(入力)側は自治体だが、現在約 300 の ID を発行している
⑭効果
2005 年の大雨被害軽減(前述)
。
カンヤンの山火事ではCBSによって 10 分で山火事を消したという情報がある
⑮サービスにあたって放送の反対はなかったか
なかった。CBSは放送ではなく、あくまで通信という認識。
IP(光ファイバー)を使ったテレビについては議論があった。政府の監督官庁が放送(放
送部会)と通信(情報通信部)に分かれていたが、現政権になって統一された。
⑯CBSで災害情報を流すようになった理由
災害情報は主に放送でやっていた。
携帯が普及し、SMSで提供することを考えたが問題があった。CBSは地域別に流せ
ること、リアルタイム(遅延がないこと)、コストが安いことなどで選択された。
⑰CBSの位置
・ CBSは 1993~94 年に開発された、比較的古い技術である。(英語版ウイキペディア
には 1997 年にパリで初めて発表された技術であるとある)
・ その後携帯への大容量通信で映像を流す技術ができたが、これには収益性がない。
・ さらにその後DMB(ワンセグ)ができた
・ 現在、CBSとインターネットとの接続は行っているが、今後はDMB(ワンセグ)と
の統合を考えている。
2) KBS聞き取り
①T-DMB(Terrestrial Digital Multimedia Broadcast)ワンセグ放送について
T-DMB自体は 2005 年から行っている。テレビ 2 チャンネルで、内容は地上放送とは
異なる独自編成である。T-DMBは可搬性、双方向性、マルチメディアとの連携などの
特徴を持っている。
②T-DMBによる「災難」(災害)放送について
現在はまだ放送は行っていない。標準化作業を行っているところである。専用端末もま
だない。
特徴は次のとおりである。
・ 内容は、音声、静止画、動画、データがある
・ 地域ごとに異なる内容が送れる
・ 警報が出ると自動起動をかける
7
・ 警報が出されたときに送られるデータ内容は、災害タイプ/優先度(警報・注意報・情報)
/発令日時/地域コード/地域数/リンク情報など
・ 受信機は 2 タイプある。ひとつは一般の端末で、T-DMBを見ているときにだけ、割
り込んで災害情報が流れるタイプ。もうひとつは防災職員用の端末で、放送を見ていな
くても、AC 電源に接続して、自動起動がかかるようになっているタイプである。
③災難(災害)放送における編集権について
注意報などの災難情報のソース(気象庁のデータ)は、消防防災庁からKBSにくる。
その他現場の映像などKBSが独自に作るものもある。避難関係の情報は消防防災庁に
データベースがあり、それにリンクを張るだけである。
④自動起動における電源問題について
自動起動は待機電力がかかっているが、技術開発によって克服されるのではないかと考
えている。一方で AC 電源に接続して使う専用端末も考えている。
⑤固定テレビのデータ放送について
・ 2004 年から T-Commerce(テレビを使った電子取引)の実験を開始
これは通信販売会社と組んで、テレビ画面から商品を購入できる仕組み
(T-Commerce は 2008 年 3 月から韓国SBS放送で開始されている)
・ 2007 年からデータ放送の本放送を開始
・ データ放送は普及率が低いことが課題である。韓国 1800 世帯のうち、普及は 100 万世
帯ほど。原因は韓国ではほとんどがCATV(アナログ)経由でテレビを受信している
ことがある。
⑥データ放送を使った災害放送について
・ 警報が出ると画面左上に赤色のトリガーが出て、データ放送を見るように促す。
・ するとウインドが開き、発令地域を示す地図、発令中の警報、警報の履歴、天気予報、
週間予報などのボタンが出て、選択するような構成になっている。
・ ワンセグと地上デジタルテレビのデータ放送は、同じデータベースを使う予定である。
災難文字放送画面
8
4.参加メンバーの所感
・天野 篤
1.はじめに
日本災害情報学会「第 2 次デジタル放送研究会」のコアメンバー8 名(団長:藤吉洋一郎
大妻女子大学教授)は、2008 年 3 月 14 日(金)
、韓国ソウル市にある、インターネットやモ
バイル情報通信に強い OMNITEL、公共放送機関であるKBS訪ね、放送と通信の融合先進
国韓国における最新の災害情報伝達方法について視察調査した。OMNITEL では携帯向け文
字放送であるCBS(Cell Broadcast Service)とその後継技術としてのDMB(Digital
Multimedia Broadcast)と呼ばれる移動体向け地上波放送、KBSでは地上デジタルテレビ
のデータ放送やDMBを用いた市民への災害(災難)情報伝達について聞いた。
2.全体像
韓国では、国の機関である「消防防災庁」が、国民への災害情報伝達の役割を主に担って
いる。韓国の公共放送であるKBSは、国が伝える「災難情報」を放送にのせて国民に流す
義務を負っていた。また、わが国同様、IT 化の進展に伴いインターネットなどを通じ、逐次、
緊急情報が公開されていた。そして、携帯電話、デジタル放送等の普及より、モバイル通信
など従来の放送番組以外の方法が、緊急時にも用いられつつある。
3.CBS
モバイル通信分野では、1998 年からSMSなどのメールによる情報 PUSH がはじまり、
2004 年にモデル事業としてのCBSの試験運用を経て、2005 年には輻輳の影響を受けない
CBSの本格運用が開始された。CBSは限られた字数のテキストを用いた枯れた技術で、
最少、基地局単位のエリア別一斉配信ができる仕様だが、韓国の災難情報は、ほかの一般情
報同様、さほど細分化された運用はなされていないという。また、最近のモバイル通信規格
では、マルチメディア同報サービスが可能な MBMS(Multimedia Broadcast and Multicast
Service)が登場している。
消防防災庁が 2006 年から導入しているCBSの配信ソース入力画面を見たが、国が統一的
に運営しているメリットのほか、自治体などの機関が素早く簡単に柔軟に使えるようによく
工夫されていた。つまり、末端で容易に正しく入力することができるサイトを用意し、24 時
間「災難情報」伝達を一元的に管理する組織が存在していることが大きいと感じた。
※CBS導入にあたっての 4 つのポイント
①キャリア事業者の協力
②有効性の実証 ③国民の共感(国民への広報) ④法整備
4.データ放送やT-DMB
CBSは一度に送れるデータが、Text のみ 128~512byte と限りがあるため、最低限の危
険を知らせるトリガーとしては重宝だが、詳しく細かい内容まで伝えることはできない。そ
れに対し、地上デジタルテレビ放送のデータ放送や、日本の「ワンセグ」
「デジタルラジオ」
9
に相当するT-DMB(Terrestrial DMB)であれば、映像を含むより多くの情報を伝達する
ことができる。
データ放送は、サッカーのワールドカップが開催された 2002 年にスタートし、2007 年か
ら本格化し、例えばT-コマースなどにも日常的に使われている。T-DMBは、2005 年頃か
ら開発が進められ、モバイル端末向け放送で、通信による双方向サービスが可能だという。
KBS局内には、従来どおり放送番組で流す、データ放送で流す、DMBで流すといった
それぞれの出口ごとに、複数の報道用調整卓が整えられていた。それらの元となる消防防災
庁や気象庁、警察等からのソース情報は、データベースで共有化されているという。
5.おわりに
視察を通じ印象的だったのは、国民への災害情報提供に「消防防災庁」が一元的に携わっ
ていて、放送、通信といった媒体側も、国の非常事態軽減の一翼を担うことが当然の役割の
ように認識している点だ。
訪韓前の調査のねらいのひとつとして、日本ではキャリアによるCBSサービス開始に際
し、市場における既得権の利害調整、法制度の縦割の障壁が抑制的に生じたのに対し、韓国
ではどのようにクリアーしたかを知りたいという点があったが、そのような問題の発生自体、
ほとんど感じられなかった。
日本でも、緊急地震速報の無償提供サービスがCBS機能の利用実現の突破口となったが、
迷子探し、ユニセフ募金、災難情報といった公益性の高い用途を前面に出して、試験的な導
入から始めたことも、功を奏した理由のひとつではないかと推察される。
KBS(韓国放送公社)講堂での聞き取り・局内設備の視察
10
・ 國崎信江
2008 年 3 月 13 日~15 日の日程で災害情報学会・デジタル放送研究会の「韓国視察団」に
同行した。日本ではNTTドコモが緊急地震速報や災害情報をエリアメールサービスで提供
している。今後の災害情報提供のあり方についてCBSを活用したエリアメールで既に情報
提供を行っている先進事例として韓国に行き、その実態を調査した。
●主な視察察先
・OMNITEL 社(CBSを使った災害情報文字放送などのコンテンツ開発している)
・KBS(韓国放送公社/日本で言うところのNHK)
1. 3/14(金)AM
OMNITEL 社
・災害情報サービスは国の検討会において議論があった。携帯の普及に伴いSNSを考え
ていたが、CBSの方が以下の点で優れていたので採用になった。
①リアルタイムで情報を提供できる
②地域別の細かい情報に対応できる
③コストが安価
・1998 年にCBSの一般向けサービスを開始し、災害情報は 2004 年から開始しているが、
これまでに一度もトラブルは起きていない。
・災害情報の内容は、災害の他に、迷子情報、緊急献血情報などもある。
・通信会社は一般サービスのユーザー登録料で利益を上げ、災害情報は社会貢献として無
償で提供している
・現在韓国にはCBSに対応している携帯電話の機種が 70%~80%ある。それ以外の機種
についても、政府がCBSに対応させるよう推進している。
・CBSは 10 年提供しており、これからは通信網を使って放送を流すDMB(デジタルマ
ルチメディアブロードキャスティング/日本のワンセグ放送やデジタルラジオ放送)が
今後の主流になると考えている。
●所感
・災害情報はデフォルトが ON になっていてもユーザーが OFF にしていた場合、情報が提
供されないことを知った。関心のないユーザーにとっては迷惑メールのように煩わしく
思うのかもしれないが、受信がユーザーの意識に委ねられ、有事の際に緊急時の情報が
届かないようでは不安も残る。
・災害情報はこの他、テレビ、ラジオはもちろんのこと、インターネットのポータルサイ
ト、館内放送、非常連絡網、メガホンなどがあるということだが、日本のように防災行
政無線はないとのことだった。自宅でテレビ、ラジオが OFF になっているとき、外を歩
いているときは情報を受け取れないことになるので、韓国ではCBSへの期待は大きい
と感じた。
・日本ではCBSは放送に近いという位置づけになっているため、放送会社はサービス提
11
供について様々な意見をもっている。その点韓国ではCBSは通信という位置づけにな
っている。ここが大きく異なる視点であり、日本でもこの視点は必要ではないか。
・CBSで送れる文字数が通信会社別に限られているため、情報を伝えきれない恐れがあ
る。伝えきれない場合にはインターネットにアクセスして詳しい情報を見るようになっ
ているようだが、すぐにつながるとも限らない。これまでにトラブルはないということ
だが、地震のように広域で大勢の人が被災するような事態が起きてないからかもしれな
い。日本では文字数の限界をどうするか、課題となりそうだ。
・韓国の災害情報では、自然災害と並列して迷子情報がある。私には思いもよらない情報
だった。迷子の情報について、情報をどこまでを載せるのかなど、日本では個人情報保
護法により、そこから大きな問題になりそうだ。迷子情報については、
「家族を探してい
ます。詳しくはこちらへ」の文字に個人のホームページにリンクさせている画面を見た
が、政府が個人の迷子・行方不明者探しに関与しているのはすごいと感じた。日本でも
このような情報があれば有り難く思う人もいるだろう。多くの人の目に触れれば見つか
る可能性も高くなる。
2. 3/14(金)PM
KBS社
災難放送とニュース放送について説明あり。
・災難放送の必要性については以下のように考えている。
①被害軽減
②効率的な伝達
③リアルタイムで情報提供
・災難放送の受信のしくみとしては、専用チャンネルは設定なしででも自動的に入ってく
る。パソコンのフォーマットに情報を入力して表示する。
・データ放送の全体像として、2002 年にデジタル放送を開始した。きっかけはサッカーワ
ールドカップ。そして 2007 年から本格放送を開始した。
・2004 年に T-Commerce(デジタルテレビ放送の双方向サービスを利用した電子商取引)
が開始され買い物ができるようになった。経営効果については未知数。
●所感
データ放送の利用者がまだ多くないというなかで、DMBによる災害情報の提供には、放
送体制や経費捻出をどうするかという大きな問題を抱えているようだ。日本のショップチャ
ンネルを利用して、データ放送を活性化させていく必要があると思う。
KBS(韓国放送公社)正面玄関にあった地デジのPR展示
12
・東方幸雄
(1)韓国でのCBSの現状
韓国ではCBSが政府主導で導入推進され、CBSで情報を配信するためのシステムを
消防防災庁が購入して運用している。警報・予報・注意報・解除・情報の災難文字サービ
スとして「公益サービス(無料)
」を、CBSを活用しサービス提供しており、携帯事業者
は迷子情報・緊急献血・募金・マンガの配信などコマーシャルベースの「一般サービス(有
料)
」をサービス提供している。
韓国ではCBSは 1998 年から導入され比較的古い技術とされており、今後その補完と
してDMB(Digital Multimedia Broadcast)
(日本のワンセグ放送)を併用することによ
り、さらに有効ではないかと考えられている。日本では韓国と逆の展開ステップであり、
携帯インターネット・ワンセグ放送、そして、さらにミクロな情報をエリア別に配信する
手段として携帯電話によるCBS導入の検討が進められている。わが国では i モードサー
ビスが 1999 年から開始され、携帯によるメール文化ができたことによりCBSの必要性
の認識が当時はなかったのかもしれない。
現在、韓国では政府と通信各社間で全ての端末にCBSの機能が標準装備されることを
協約化しており、約7~8割の携帯端末がCBSを受信できる環境となっている。また、
有料サービスの加入者が 100 万加入となっており一定のビジネスモデルができている。一
方、わが国では「緊急地震速報」
(無料)と行政が発出する避難勧告や避難指示などの「緊
急情報」
(有料)の配信に留まっており、行政とさらなる連携を図ることにより「被災情報」
「避難情報」「防犯情報」
「募金」などの安心・安全に繋がるサービスに展開できる。
わが国では放送と通信のすみ分けについて議論されているが、韓国では当初から「CB
Sは放送と異なる」と位置付けられ、その議論はなく比較的スムースに導入・展開できた
とのことである。CBSの導入・展開にあたっては行政主導で推進され、政府広報で国民
に周知するとともにスマトラ島大津波や韓国の山火事災害で国民の防災意識が高まったこ
とにより、国民の共感を得たことが大きく影響している。また、興味深い点は韓国では日
本とは逆に 1998 年に「一般サービス」が始めに導入され、その後 2004 年に「公益サービ
ス」が導入されている。
韓国国内にCBSを導入するにあたり、通信会社の協力・CBSの有効性の立証・国民
の共感・法的整備が重要であったという。わが国においてもCBSの役割と有用性を明確
化し、減災の観点から有効な手段であるCBSの活用や行政と一体となった推進が必要と
思う。
一方、韓国では携帯各社によりCBSで配信できる文字数が異なっており、行政側から
は文字数など内容により配信事業者を選択するしくみを採っている。利便性の観点から更
なる改善も感じられた。また、被災情報なども配信できるしくみとなっているが、韓国で
は避難所が開設されるような大規模な災害の発生は稀少であるとのことから、被災情報の
配信はなく「公益サービス」のうち、警報・予報情報で約9割を占めていた。
13
(2)配信情報のマネジメント
韓国ではCBSにより避難情報などを国民に配信する際、各自治体で発信された情報を
消防防災庁が 24 時間体制で受付・承認行為を行い、全ての緊急情報の責任ミッションを担
っていた。避難情報などの配信にあたっては、各自治体で担当者の役割が明確化され、被
災自治体を郡・国が共助するしくみにより、情報の収集・精査・投入が行われるという。
わが国においても、災害時の情報収集のしくみと大量な情報の選別・投入などの体制作
り、および発信情報の責任所在の明確化が重要である。
地デジのデータ放送画面(天気予報・気象注意報警報)
・水上知之
1
ソウル市内および周辺の状況
・ 韓国の携帯電話キャリア
韓国国内には3つの携帯電話キャリア、SKtelecom、KTF、LGtelecomがあり、それぞ
れ2209万、1378万、796万の加入者がいる。(SKtelecom、KTF 、については2008年1月
末現在、LGtelecomについては2008年4月5日現在いずれも朝鮮日報より)
・ 通信状況
携帯電話の利用で特筆すべき点は、地下空間および地下鉄車内における通信状況の良好さ
である。地下空間においては、ソウル駅地下街といった人通りの多い所のみならず、雑居ビ
ルの地下にもアンテナ(fig-1)が設置されている。DMBのギャップフィラーも地下街に設
置されている。また、走行中の地下鉄車内においても、音声通話やパケット通信だけでなく、
ChosunOnlineの受信も可能である。
14
・ 携帯電話の端末
携帯電話の端末は比較的小型のものが多く、インターネット接続やカメラ機能などは標準
で装備されている(fig-2)。また、駅構内など、「屋台」で販売もされていた。
fig-1 地下空間に設置されたアンテナ
fig-2 携帯電話端末(KTF)
・ 公共交通機関でのテレビ放送
空港間連絡鉄道やKTX(韓国版新幹線)車内においても常時テレビ番組の放送が行われ
ていた点は、文化の違いを感じた。(fig-3)
2
CBSの活用状況
韓国では、民間企業(OMNITEL)が開発したシステムを利用し、災害時等における住民
への情報配信にCBSを活用している。ヒアリングの結果、以下の特徴が見られた。
・ 消防防災庁が主体のシステムを構築
消防防災庁がシステム構築、運用保守の費用をまかなっており、自治体はASP的にそのサ
ービスの利用が可能である。全国300程度の自治体がCBSを利用した情報発信が可能である。
ただ、日本とは地方自治体の規模、単位が異なるため、300程度ですべての自治体が網羅され
る。ユーザー認証は、ID、パスワード以外にセキュリティーカードと呼ばれるものが必要と
なる。情報入力はwebで行い、一度の入力で3キャリア同時に情報提供可能。
CBSに情報をエントリーするためのシステムは、一般にCMS(コンテンツマネジメン
トシステム)と呼ばれるものに類似しており、blogに情報を書き込むような容易さであ
る。また、キャリアごと、もしくはキャリア同時に情報配信を行うことも可能である。(た
だし、送信可能バイト数が異なるため、最小のキャリアに合わせる必要がある)
15
・ CBSは放送なのか通信なのか
韓国においては、は明確に通信と位置づけられているとのこと。
3
日本でのCBSの利用
災害発生時に移動体機器への情報提供を行ううえで問題となるのが、通信回線の輻輳であ
り、それを回避する手段として放送波(特にワンセグ)の利用が期待されている。ただ、山
間部においてはすべてのエリアを放送の電波でカバーすることはコスト面で非常に困難であ
る。放送、通信といった垣根にこだわらず、輻輳を回避出来る通信手段によってあまねく情
報提供することが肝要である。
今回視察したシステムは、第一次デジタル放送研究会の提言にみられる「共有プラットフ
ォーム」との親和性も高いように思われ、ワンソース・マルチユースのユース側にCBSが
組み込めれば理想である。
Fig-3 KTX車内でのテレビ放送
・中村 功
(1) CBSについて
①CBSの位置づけ
わが国では目新しいCBSだが、韓国では 1998 年に開始されたサービスで、比較的古い
技術という認識であった。
98 年といえば、わが国の i モードのサービスが 99 年に開始され、
携帯インターネットサービスが始まる前のことである。サービスの歴史は、SMS→CB
S→携帯インターネット→動画配信→ワンセグという位置にある。このような歴史的背景
および、CBSが送れる情報量が少ないことから、CBSをトリガーとして携帯インター
ネットやワンゼクと組み合わせて使う発想があり、興味深いものであった。とくにCBS
で警戒エリアに警告を送り、より詳しい情報をワンセグで伝えるといったCBSとワンセ
グとの連動は、輻輳を招かないこともあり、災害時に有効ではないかと考えられる。
②行政(政府)の役割
韓国では消防防災庁が、CBS災難文字サービスにおいて大変重要な役割を担っていた。
16
すなわち政策面、オペレーション面、情報の収集と発信面において、消防防災庁が中心的
な役割を担っている。政策では消防防災庁は各社との協約によりCBSを全端末に装備す
るようにしたり、デフォルトでオンにしている。オペレーション面では防災庁がソフトや
サーバーを購入・管理し、各自治体からの入力に承認を与えることで配信をしている。そ
して情報収集面でも各自治体の情報をいったん防災庁に集めて各通信会社に渡すというこ
とから、
「要」となっているのである。
一方わが国では、通信事業者がCBSを推進しているというのが現状である。現在実施
されている緊急地震速報にしても、通信事業者は一般の事業者として、気象庁から有料で
情報の提供を受けている状態である。わが国でも国や県がCBSにもっと積極的にかかわ
ってはどうだろうか。たとえば総務省は国が発出する情報を積極的に集約配信したり、全
端末への標準装備化をすすめる。あるいは県は各自治体が使えるシステムを構築・管理し、
各自治体の出す避難勧告等を集約し、通信事業者への橋渡しをするべきではないだろうか。
③各通信事業者の足並み
災難文字サービスは公益サービスであるが、各通信会社の足並みがずれる中でも、その
ずれを容認したまま、政府が主導する形でサービスがおこなわれているところが興味深い。
すなわち事業者の中でも開始できるところから先行してサービスを行っているし、各社ご
とに送信できる文字数も異なっている。
わが国でも、事業者によってサービス開始時期や内容が異なっている。CBSは特定事
業者のサービスであるという認識ではなく、災害情報伝達という公共サービスの一環とし
て、行政は積極的にかかわるべきであろう。
(2) DMB(ワンセグ)災害放送について
自動起動の待機電力の限界から、AC 電源を用いた防災職員用の端末を考えているのは、
興味深かった。わが国では従来、自治会長宅などに同報無線の戸別受信機を配備していた
が、それに類似した利用法といえるかもしれない。端末価格が安ければ、移動体通信でも
固定的に使うというやり方もありかもしれない。
韓国といえば焼き肉…
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・
大西勝也
1.CBSについて
韓国訪問前のスケジュール表に、「KTFreetel&オムニテル」と「KBS」での会議が予
定されていた。KTF社はNTTドコモと業務提携しているということでしたが、CBS
(Cell Broadcast Service)が開始されて 10 年。KTF社がどのような経緯を経て、災害情
報の配信を行ってきたか、今回初めて説明を受けて理解できた。
韓国では、2006 年に国の防災機関として消防防災庁が災害情報の収集・発信の一本化を図
ったが、その基本概念として、次の 3 点を挙げていた。
①(これまで配信業務を請け負ってきた)通信会社の協力が得られるか。
②CBSの実効性が認められるか。
③(災害情報業務の集約化に)国民の共感が得られるか。
日本と違って地震の少ない韓国では、台風、大雨による洪水、大雪、雪崩、強風、乾燥、
山火事などの災害があるが、スマトラ島沖地震や津波、ヤンヤンでの山火事など国内外の災
害をみて国民の関心が高まったという。CBSのその後の活動状況を観ていると、
「正確で素
早い、地域の災害情報提供」を望むユーザーにどう対応するかでサービス内容もきめ細かく
変化している。
日本では新潟県中越地震以降、新潟県が中心になって自治体とのネットワークを生かし、
新形県が災害情報を集約して需要に応じて配信できるような体制作りを考えているが、韓国
の消防防災庁は国民のニーズによってできた機関として、モデルケースになるのではないかと思
われた。
2.韓国放送公社(KBS)の災害放送
最近の韓国の放送界では、2つのことが取り上げられている。一つは「韓国メディアの国
際発信力強化~急成長を続けるKBS WORLD TV~」(註 1)である。これは 2005 年以降
の韓流ブームの影響で、韓流コンテンツを豊富にもっていたことが有利な状況を作った。も
う一つは「韓国の放送評価制~放送の“質”を誰が、どう評価するのか~」
(註 2)である。2006
年に施行された韓国放送法では、政府から独立した機関として「放送委員会」を設置してい
る。そのなかに「放送評価委員会」を設けて「放送番組の内容(300 点)・編成(300 点)・
事業運営(300 点) 計 900 点満点」で総合的に評価するシステム(2004 年に開発、2006 年
から実施)がある。これは視聴者が直接参加して評価し、
「放送評価指数(KBS-Index=KI)」
が、視聴者の意向が反映されている。今後の研究課題では、災害放送について視聴者は災害
放送をどう評価し、
「KI」はどうかを知りたい。
こうした動きの中で、日本ではアナログ放送からデジタル放送への切り換えが 2011 年、韓
国では 2012 年といわれているが、進捗状況はどうか。そのなかで災害放送の位置付けはどう
なっているか、データ放送はどのように行われているか、同時に日本の「ワンセグ」にあた
る放送と携帯との関わりがどうか関心があった。
今回のKBS側の説明と視察グループの質疑応答をできるだけ細かく書き起こそうと試み
18
たのもそのためであるが、音声の録音状態が不十分で通訳者のことばが聞き取れない部分が
多々あった。しかし、質疑応答の中で、日本側の参加者が是非聞きたいという内容は書き起
こせたのではないかと思う。
「百聞は一見にしかず」といわれるが、KBSが今までより身近に感じられ、わが国との
違いの中で、様々な形の「災害放送」を考えることができた。KTF社・KBS社の韓国語版
資料が手に入るのであれば、ぜひ翻訳して、今後の資料として役立てたいものである。
参考文献:(註1)『放送研究と調査』(2007.9.1 放送文化研究所発行 9月号)
(註2)同上(2007.10.1 放送文化研究所発行 10月号)
KBS(韓国放送公社)講堂にて記念撮影
・小田貞夫
コンテンツ作成の過程と伝達効果がポイント
─韓国におけるCBS,DMBを使った災害情報提供の実態調査から─
災害情報学会・デジタル放送研究会の「韓国視察団」
(3/13~15)に同行した。視察先が携
帯電話のコンテンツ制作・配信事業者であるオムニテル社と、災害情報放送を行っている公
共放送KBSの 2 社に限られ、ブリーフィングもそれぞれ 2~3 時間にとどまったこと、用意
された資料がハングル表記だったことなどで、現況や問題点についての認識と理解が不十分
に終わったことは否めない。しかし、
「百聞は一見に如かず」
。韓国の災害情報の収集・伝達・
受容の過程の一端を知ることが出来たし、一知半解ながらも問題点らしきものも仄見えてき
た。以下は今回の視察での感想である。
19
■ CBSを介した災害情報配信の効用と限界
(1) 災害情報メディアとしてのCBSの効用
筆者は災害情報の伝達に関しては”4T”(適時・適切・的確・丁寧)が、情報内容に関して
は“CDDIP”(具体=concrete・詳細=detail・行動指示=direct・個別=individual・明快
=plain)であることが要諦だと説いてきた。これまで災害情報発信の基幹メディアであった
放送は、そのメディア特性によって”4T”と“CDDIP”を実践する格好の媒体であった。災
害時に人々が放送に頼る所以である。
しかし、放送は broadcast の名のとおり広域への情報発信が本来の機能である。有用な情
報の条件である”CDDIP”にはエリアを限定した狭域メディア(narrowcast)が必要にな
る。防災無線や広報車、個別の電話による呼び掛け、FMコミュニティ放送やCATVなど
がそれに該当する。ただ、これらのメディアによる情報の伝達は若干のリピートはあっても、
記録性を欠く一過性のものである。情報の受容に当って「地域の皆さん」よりも「地域のあ
なた」に呼び掛ける方が自分のこととして受け止められやすい。パーソナル・メディアである
電話は、
「あなた」に向けたメディアとして有効であろう。携帯電話は「いつでも、どこでで
も、わたし」が情報を受容できるうえ、テキストにせよ画像にせよ検索可能な記録性を持つ。
さらに送信地域を限定する(セル化)技術の実用化、つまりCBS(Cell Broadcast Service)
の登場は災害情報の伝達に新しいページを開くことになった。
CBSによる情報提供には次のような利点があると筆者は理解した。
① リアルタイムで個人宛に情報を伝達する
② 地域を限定した具体的で詳細、実効度の高い情報を提供できる
③ テキストではあるが記録性を持つ
韓国におけるCBSサービスは 1998 年に始まったが、これを使っての災害情報伝達の展開
について、オムニテル社の説明によれば次のような経過をたどった。
① 消防防災庁と移動通信会社 3 社との間で協議が始まり(04.10)、一部地域で情報提供
を開始(04.12)
② 内外での災害の続発(スマトラ島沖地震とインド洋津波=04.12
韓国の大雪=05.3
など)で国民の関心が高まる
③ 情報提供の区域を全国に拡大(05.5)
④ 移動体通信事業者 3 社(SKT KTF LGT)は災害情報のほかに迷子探しや献血
の呼び掛け、募金などの情報をCBSで配信
(2)CBSの問題点
オムニテル社の資料は、CBSによる災害情報提供に関する問題点として次の 3 点を挙げ
ている。
()内は筆者の推定に基づく補足である。
① 移動体通信会社の協力(が得られるか)
② 実効性の立証(が為されたか)
③ 国民の共感(があるか)
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②に関して、CBS開始前に比べて人命の被害が 83.7%、財産の被害が 45.6%それぞれ減
少という資料が提示された。出所を尋ねたところ防災庁の報告書からの引用ということであ
った。効果測定はきわめて重要である。調査法などデータの根拠を調べる必要がある。
CBSで配信する災害情報は、
① 台風・大雨・洪水・大雪などの自然災害
② 火災・爆発・倒壊・生物化学関係などの人的災害
③ エネルギー・交通・ライフライン関係のほかテロ・暴動・非常事態などの社会災害
に類別されている。CBSによる災害情報の発信実績を 2007 年1年間で見ると 173 件。災
害の種別では大雨が 77 件で半分近くを占める。
①については、情報内容はおおよそ見当がつくが②③としてはどんな内容の情報が配信さ
れるのか。自然災害と違って人々の受容時の緊張感や反応はまったく異種のものとなろう。
マニュアルのようなものがあれば是非知りたいところだ。
資料でCBSの画面の一部をサンプルとして見ただけで実際の画面を見ていないので推測
で言うしかないのだが、画面に表示できるテキストの容量には制限があるのではないか。“4
T”や“CDDIP”を満たすだけの情報が盛り込まれているのか。とくに提供できるのはテキ
ストだけで明快さを担保する画像情報がないことは、CBS配信の限界ではないか。
配信情報で注目したのは「迷子探し情報」である。
「迷子」という訳語が情報のカテゴリを
狭くしていると思った。韓国社会では日本以上に少子高齢化が進んでいるという(NHKソ
ウル支局出石支局長の話)
。日本では十数年前から認知症高齢者の彷徨が問題になっているが、
韓国でも「迷子探し」の対象は、こうしたケースが少なくないのではないか。これは社会的
リスクに関する情報。その配信例と発見保護の例など効果を知りたいところだ。
CBS受信機能を持つ機器の普及率は 70~80%との説明を受けた。実際の災害時にどんな
情報を流したのか─情報の内容や頻度、更新状況、文面など。その情報がどう受け取られたか
─災害への備えや避難などの行動を起こした者の割合など。日本では各種の調査が行われてい
るが、韓国ではそうした調査例はないのだろうか。
(今回はヒアリングが出来なかったが)消
防防災庁にせよ、オムニテルにせよ利害関係者だ。第三者の調査と分析があれば是非知りた
い。
■ デジタル放送の新しい展開─DMBの可能性
DMB(Digital Multimedia Broadcast)は地上波デジタル放送を携帯電話などの移動体端
末に配信する、日本のワンセグ放送に相当するサービスで、韓国では 2005 年 12 月に本放送
を開始。現在、KBS、MBC、SBCの放送3社と新規事業者3社の計6社が地上波放送
の再送信や独自のコンテンツを提供している。
災害情報伝達のパーソナル・メディアとしてはCBSが先行した。実用化の日程が早かった
上、地域別の情報をリアルタイムで提供でき、配信コストも低廉なことが理由であった。し
かし、CBSはすでに 10 年経過、次世代メディアはDMBだと消防防災庁は言っているとい
う。DMBのメディア特性をKBSの関係者は次の3点にあるとした。
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① 持ち運びが容易である
② 双方向性
③ 映像情報を配信できる
これは災害情報を提供するメディアとしての実効性を担保する格好の特性といえよう。K
BSによれば、災害情報の提供はDMB、データ放送、地上波放送のニュースの3つのチャ
ンネルを使っているという。CBSに比べてDMBの利点の最たるものは明快さを担保する
画像を提供できることであろう。
KBSでは 2002 年のワールドカップサッカーを契機にデータ放送を開始した。データ放送
についての説明で興味を引かれたのは、2004 年に始まった T-commerce である。詳しい説明
を聞けなかったが、デジタル放送の双方向性を利用した、E-commerce のテレビ版というこ
となのだろう。データ放送のコンテンツ制作体制とコスト負担を聞きたかったのだが、デー
タ放送の利用者は現在全国で 1800 万需要者(デジタル受信機所有者?)中 100 万にとどま
っているためデモンストレーション段階だという。
DMBによる災害情報の提供にしても、その制作体制とコストの捻出が課題となって行く
だろう。T-commerce が収益性を高めればコンテンツ作成のコストを賄えるようになるのでは
ないか。
■ コンテンツ作成の過程と問題点
CBSでもDMBでも、配信する災害情報の画面は消防防災庁から提供されるものだとい
う。オムニテル社で見たCBSの画面(ハングル表記でよく分からないが)の文言は、例え
ばより分かりやすくするために編集することは許されていないのかどうか。その辺の事情を
知りたい。災害地の自治体から来る情報は一旦防災庁に入り、そこの許可?を経てCBSに
提供されると聞いた。当然タイムラグが生じよう。
こうした点を含めて、消防防災庁に”4T“に即応できる業務執行の態勢が出来ているのかど
うか。また”CDDIP“を心得たスタッフがいるのかどうか。その点をさらに調査する必要が
あるのではないか。コンテンツの作成と提供の過程こそが、災害情報の効果的な伝達と受容
のカギを握ると考えるからである。
韓国最大の発行部数を持つ新聞「朝鮮日報」の日本語サイトで「災難情報、消防防災庁よ
りNHK頼みとは」という記事(05.9.8 入力)を見つけた。2005 年 3 月の福岡県西方沖地震
で日本の気象庁は4分後に地震・津波の詳しい情報を出したのに韓国気象庁は日本から情報
をもらっていながら注意報の発令に逡巡したこと。消防防災庁は前年までに 520 億ウォンを
投じて国家安全管理システム(NDMS)を構築、「30 分以内の住民避難」が実現したと大
言壮語していたが、この地震では防災庁状況室の要員が地震・津波に関するメッセージを入
力するのに 15 分もかかり、そのメッセージを 20 分以内に受信した地域は 234 自治体中 34
に過ぎないことなどを記事にしている。
その後防災庁の組織や業務執行態勢の改革・改善は行われているであろうが、この記事で
指摘されている問題点は解消したのかどうか。
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いうまでもないことだが、CBSであれ、DMBであれメディアが機能するかどうかはコ
ンテンツ次第である。今回の限られた視察・調査では肝心の災害情報の収集と制作というコ
ンテンツ作成過程についての調査にまで手が及ばなかった。加えて情報の受容についての実
態把握が皆無であった。今後の補充調査の課題であろう。
ソウル中心部を流れる「清渓川(チョンゲチョン)」都市河川再生を見学
・
藤吉洋一郎
韓国の放送局はデジタル放送をどのように利用しようとしているのか、とりわけデータ放
送の災害情報への利用について知りたかったが、この点については、あまり明快な答えは聞
くことができなかったような気がしている。
携帯端末で受信するという点では日本の1ゼグにあたる韓国のDMBシステムについて
は、電波の使用状況がテレビだけではなく、ラジオやデータ放送用の帯域をも持っている
ほか、帯域ごとにほかの事業者との間で貸し借りができるなど、日本とは大きく異なり、
こうした要素も韓国方式が広く世界で普及しそうになっている背景にあるのかと受け止め
た。
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世界の新放送・通信事情の中でどのように未来を選択したらいいかの視点を常に見失わな
いようにしないと、取り残されてしまうと感じた。放送と通信という対立軸の中でしかもの
を見ようとしない日本のとくに放送側の視点が大変気になるところである。
調査を終えて世界遺産「昌徳宮(チャンドックン)」教化門前で集合写真
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