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倉庫各社の14/3期決算の注目点 - 日本格付研究所

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倉庫各社の14/3期決算の注目点 - 日本格付研究所
14-D-0248
2014 年 6 月 27 日
倉庫各社の 14/3 期決算の注目点
JCR が格付している倉庫 7 社(三菱倉庫、三井倉庫、住友倉庫、澁澤倉庫、東陽倉庫、中央倉庫、安田倉
庫)の 14/3 期決算および 15/3 期見通しを踏まえ、株式会社日本格付研究所(JCR)の現状に関する認識と
格付上の注目点を整理した。
1. 業界動向
鉱工業出荷指数や日通総研が発表している荷動き指数などのマクロ指標を見ると、景気回復に伴い 13 年
半ば頃から物流事業環境は改善の兆しがみられた。しかし、14/3 期における倉庫各社の荷動きは、全般的に
は回復感に乏しい状況だったといえよう。これは、倉庫会社の入出庫が活発化するまでにタイムラグが生じ
ることや各社が取り扱っている貨物の種類、カバーしているエリア、取引先の状況などによって荷動きの状
況が異なることが要因とみられる。一方、15/3 期については、各社とも事業環境の改善を想定しており、倉
庫事業や港湾運送事業など物流各事業における取扱量の増加を見込んでいる。また、倉庫保管量については、
東日本大震災以降、ユーザーの在庫分散や在庫水準積み増しの動きにより、比較的高い水準を維持している。
倉庫 7 社の多くは、不動産賃貸事業も営んでいる。三鬼商事が公表している「最新オフィスビル市況」に
よれば、東京ビジネス地区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)のオフィス平均空室率は 14 年 5
月末時点で 6.52%と、緩やかながらも一貫して改善している。また、東京ビジネス地区の平均賃料は同時点
で 16,501 円/坪と、13 年 12 月を底に回復傾向が続いている。しかし、倉庫会社の賃貸物件は倉庫跡地を再
開発して建設されたものが大部分を占め、オフィスや商業地域の一等地から外れたエリアにある物件も多い。
そのため、倉庫会社の賃貸事業を取り巻く事業環境は依然として厳しく、賃料引き下げや退去による稼働率
低下も散見される。ただ、今後も景気回復が進めば、オフィスの需給バランスが改善され、賃料収入の低下
傾向にも歯止めが掛かるとみられる。
2. 決算動向
14/3 期連結業績は、7 社合計で営業収益が前期比 5.1%増、営業利益が同 2.6%減となった。物流事業は、
当初想定していたほど荷動きが改善しなかったものの、医薬品や文書保管など高付加価値品の保管残高が堅
調に伸びたこともあり、物流事業全体では増益を確保した。一方、不動産事業は、厳しい事業環境を背景に、
賃料低下や空室がみられたことに加え、物件の売却やリニューアル工事に伴う稼働率の低下などが生じたこ
とも有り、減益となった。
15/3 期は、7 社合計で営業収益が前期比 5.0%増、営業利益が同 5.5%増と増収増益を見込む。物流事業は、
荷動き回復による取扱量の増加、新設倉庫の稼働、コスト削減などが寄与する見通し。一方、不動産事業は、
セグメント別に計画を公表している 3 社(三菱倉庫、三井倉庫、住友倉庫)全てで、減益見通しとなってい
る。厳しい不動産市況が続く中で、賃料引き下げや退去などがあったことに加え、三井倉庫及び住友倉庫で
は、主力物件の大規模修繕やリニューアル工事に伴う賃料収入の一時的な落ち込みがあるほか、三菱倉庫で
は日本橋ダイヤビルディングの新規稼働に伴う初期費用の発生と減価償却費の増加が見込まれる。
財務面については、景気の先行き不透明感を背景に設備投資を抑制してきたこともあり、全体的としては
改善が進んでいる。ただ、三井倉庫では、物流事業の事業領域拡大と競争力の強化を目指して積極的な設備
投資や M&A を実施してきたため、13/3 期まで有利子負債が増加した。他の倉庫会社でも、足元で景況感が
改善してきたもあり、顧客ニーズに応じた倉庫建設、不動産施設の建設及びリニューアルなど、設備投資を
積極化する動きがみられる。各社のキャッシュフロー創出力を踏まえれば、財務内容が大きく悪化する懸念
は小さいとみられるが、今後の投資方針を引き続き注視していく必要がある。
1/3
http://www.jcr.co.jp
3. 格付上の注目点
倉庫新設や賃貸物件の再開発は長期回収型の投資となるが、過去の実績を見ても投資物件の収益は安定し
ている。物流事業は荷主の業務運営と密接に関わることから、長期的な取り引きにつながるケースが多いた
めである。また、倉庫の新設や不動産再開発は、多くの場合、所有地を利用して実施されるため、投資金額
も抑えられることから、投資回収が滞る懸念も小さい。そのため、キャッシュフローの変動は比較的小さく、
財務基盤が安定している。JCR では、こうした倉庫会社の収益及び財務の特性を格付に織り込んでいる。
しかし、顧客の物流コスト削減意識は高く、貨物の保管そのものに対する単価は低下傾向にある。ネット
ビジネスや物流アウトソーシングの拡大などで、倉庫会社に対するニーズも従来の保管中心のビジネスから
顧客のサプライチェーンの一端を担う形で、流通加工や在庫管理といった付加価値の高いサービスが求めら
れるようになっている。そのため、顧客ニーズに応じた施設とサービスの提供を行うことで、保管料や荷捌
料を確保していくことが重要になる。
倉庫各社では、海外拠点及び倉庫の新設、医薬品や文書保管など高付加価値品倉庫の建設、作業の効率化
や顧客満足度の向上を意図した IT 化、M&A によるウィークポイントの強化など、各社の状況と戦略に応じ
た対応を進めている。ただ、事業構造改革、大規模な設備投資、M&A などを積極化すれば、収益及び財務基
盤に影響を与えることも考えられる。さらに、従来の保管中心のストック型ビジネスから貨物を動かすこと
で収益を確保するフロー型ビジネスへ転換が進めば、景気変動による影響を受けやすくなるため、これまで
格付上の強みとなっていた収益安定性が損なわれる可能性もある。JCR では中長期的な視点での収益動向や
財務方針なども勘案しながら、格付判断に織り込んでいく。
(担当)水川 雅義・山口
(図表 1)セグメント別収益
(単位:百万円)
13/3 期
営業収益
三菱倉庫
(9301)
三井倉庫
(9302)
住友倉庫
(9303)
澁澤倉庫
(9304)
東陽倉庫
(9306)
中央倉庫
(9319)
安田倉庫
(9324)
合計
物流
孝彦
14/3 期
営業利益
営業収益
162,481
営業利益
6,816
15/3 期(会社計画)
営業収益
営業利益
155,322
5,572
不動産
38,749
11,107
37,484
9,702
37,000
8,700
連結
物流
不動産
連結
物流
不動産
連結
物流
不動産
連結
物流
不動産
連結
物流
不動産
連結
物流
不動産
連結
192,260
138,504
11,397
148,241
147,672
9,778
156,422
46,667
6,860
53,399
20,175
379
20,555
22,401
12,305
6,241
7,080
5,362
8,544
5,467
10,201
1,263
3,130
2,778
1,068
110
474
1,323
198,161
153,627
11,050
161,535
156,951
8,977
164,917
48,729
6,073
54,689
22,013
408
22,421
23,125
12,148
7,597
6,397
5,494
8,965
4,647
9,693
1,425
2,755
2,575
1,195
107
731
1,161
210,000
167,000
10,800
175,000
162,300
8,900
170,000
50,340
5,660
56,000
N.A.
N.A.
21,500
23,800
12,300
9,600
5,500
7,300
10,000
3,700
9,700
N.A.
N.A.
2,350
N.A.
N.A.
640
1,330
22,401
29,247
6,039
34,809
1,323
2,210
2,150
2,653
23,125
29,881
5,853
35,237
1,161
2,126
1,954
2,382
23,800
N.A.
N.A.
37,000
1,330
N.A.
N.A.
2,450
物流
不動産
連結
559,988
73,202
628,087
26,221
29,044
35,096
596,807
69,845
660,085
29,285
25,562
34,184
N.A.
N.A.
693,300
N.A.
N.A.
36,070
(出所:各社決算資料より JCR 作成)
※住友倉庫の物流事業には海運事業を含む
※三井倉庫は 15/3 期より新セグメントを適用するため、13/3 期及び 14/3 期の分類とは異なる
2/3
http://www.jcr.co.jp
174,800
8,000
(図表 2)財務データ
(単位:百万円、%)
10/3 期
三菱倉庫
有利子負債
自己資本比率
有利子負債
自己資本比率
有利子負債
自己資本比率
有利子負債
自己資本比率
有利子負債
自己資本比率
有利子負債
自己資本比率
有利子負債
自己資本比率
三井倉庫
住友倉庫
澁澤倉庫
東陽倉庫
中央倉庫
安田倉庫
11/3 期
49,604
59.9
96,545
28.9
70,322
46.6
37,270
35.3
10,878
47.9
4,962
79.3
27,390
45.4
51,919
58.2
109,199
26.8
68,979
47.4
34,849
36.0
9,723
49.1
4,597
80.1
27,415
46.0
12/3 期
54,182
59.3
120,609
25.4
77,208
46.6
37,470
37.6
11,590
46.5
4,234
81.8
24,774
49.2
13/3 期
58,892
60.2
134,004
23.5
68,492
50.7
37,945
38.4
14,661
43.4
3,716
81.6
24,924
52.2
14/3 期
72,162
59.2
110,071
28.4
79,253
50.9
37,497
38.6
12,447
42.3
3,956
81.7
25,005
54.5
(出所:各社決算資料より JCR 作成)
【参考】
発行体:三菱倉庫株式会社
長期発行体格付:AA
見通し:安定的
発行体:三井倉庫株式会社
長期発行体格付:A
見通し:安定的
発行体:株式会社住友倉庫
長期発行体格付:A+
見通し:安定的
発行体:澁澤倉庫株式会社
長期発行体格付:BBB+
見通し:安定的
発行体:東陽倉庫株式会社
長期発行体格付:BBB
見通し:安定的
発行体:株式会社中央倉庫
長期発行体格付:BBB+
見通し:安定的
発行体:安田倉庫株式会社
長期発行体格付:BBB+
見通し:安定的
■留意事項
本文書に記載された情報は、JCR が、発行体および正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、また
はその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、
的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、また
は当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCR は、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、
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3/3
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